次に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明による変速装置である自動変速機25を含む動力伝達装置20を示す概略構成図である。同図に示す動力伝達装置20は、前輪駆動車両に搭載される図示しないエンジンのクランクシャフトに接続されると共にエンジンからの動力を図示しない左右の駆動輪(前輪)に伝達可能なものである。図示するように、動力伝達装置20は、例えばアルミニウム合金製のトランスミッションケース22や、当該トランスミッションケース22の内部に収容される発進装置(流体伝動装置)23、オイルポンプ24、自動変速機25、ギヤ機構(ギヤ列)40、デファレンシャルギヤ(差動機構)50、トランスミッションケース22に取り付けられる油圧制御装置60等を含む。
動力伝達装置20に含まれる発進装置23は、エンジンのクランクシャフトに接続される入力側のポンプインペラ23pや、自動変速機25の入力軸(入力部材)26に接続される出力側のタービンランナ23t、ポンプインペラ23pおよびタービンランナ23tの内側に配置されてタービンランナ23tからポンプインペラ23pへの作動油の流れを整流するステータ23s、ステータ23sの回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ23o、ロックアップクラッチ23c、ダンパ機構23d等を有するトルクコンバータとして構成される。ただし、発進装置23は、ステータ23sを有さない流体継手として構成されてもよい。
オイルポンプ24は、ポンプボディとポンプカバーとを含むポンプアッセンブリ、ハブを介して発進装置23のポンプインペラ23pに接続された外歯ギヤ、当該外歯ギヤに噛合する内歯ギヤ等を有するギヤポンプとして構成されている。オイルポンプ24は、エンジンからの動力により駆動され、図示しないオイルパンに貯留されている作動油(ATF)を吸引して発進装置23や自動変速機25により要求される油圧を生成する油圧制御装置60へと圧送する。
自動変速機25は、8段変速式の変速機として構成されており、図1に示すように、入力軸26に加えて、ダブルピニオン式の第1遊星歯車機構30、ラビニヨ式の第2遊星歯車機構35、入力側から出力側までの動力伝達経路を変更するための4つのクラッチC1,C2,C3およびC4、2つのブレーキB1およびB2、並びにワンウェイクラッチF1を含む。
自動変速機25の第1遊星歯車機構30は、外歯歯車であるサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置される内歯歯車であるリングギヤ32と、互いに噛合すると共に一方がサンギヤ31に、他方がリングギヤ32に噛合する2つのピニオンギヤ33a,33bの組を自転自在(回転自在)かつ公転自在に複数保持するプラネタリキャリヤ34とを有する。図示するように、第1遊星歯車機構30のサンギヤ31は、トランスミッションケース22に固定されており、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34は、入力軸26に一体回転可能に連結されている。第1遊星歯車機構30は、いわゆる減速ギヤとして構成されており、入力要素であるプラネタリキャリヤ34に伝達された動力を減速して出力要素であるリングギヤ32から出力する。
自動変速機25の第2遊星歯車機構35は、外歯歯車である第1サンギヤ36aおよび第2サンギヤ36bと、第1および第2サンギヤ36a,36bと同心円上に配置される内歯歯車であるリングギヤ37と、第1サンギヤ36aに噛合する複数のショートピニオンギヤ38aと、第2サンギヤ36bおよび複数のショートピニオンギヤ38aに噛合すると共にリングギヤ37に噛合する複数のロングピニオンギヤ38bと、複数のショートピニオンギヤ38aおよび複数のロングピニオンギヤ38bを自転自在(回転自在)かつ公転自在に保持するプラネタリキャリヤ39とを有する。第2遊星歯車機構35のリングギヤ37は、自動変速機25の出力部材として機能し、入力軸26からリングギヤ37に伝達された動力は、ギヤ機構40、デファレンシャルギヤ50およびドライブシャフト51を介して左右の駆動輪に伝達される。また、プラネタリキャリヤ39は、ワンウェイクラッチF1を介してトランスミッションケース22により支持され、当該プラネタリキャリヤ39の回転方向は、ワンウェイクラッチF1により一方向に制限される。
クラッチC1は、ピストン、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と第2遊星歯車機構35の第1サンギヤ36aとを互いに接続すると共に両者の接続を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチ(摩擦係合要素)である。クラッチC2は、ピストン、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、入力軸26と第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ39とを互いに接続すると共に両者の接続を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。
クラッチC3は、ピストン、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを互いに接続すると共に両者の接続を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。クラッチC4は、ピストン、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを互いに接続すると共に両者の接続を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。
ブレーキB1は、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bをトランスミッションケース22に回転不能に固定すると共に第2サンギヤ36bのトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる多板摩擦式油圧ブレーキである。ブレーキB2は、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ39をトランスミッションケース22に回転不能に固定すると共にプラネタリキャリヤ39のトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる多板摩擦式油圧ブレーキである。
また、ワンウェイクラッチF1は、第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ39に連結(固定)されるインナーレースや、アウターレース、複数のスプラグ、複数のスプリング(板バネ)、保持器等を含み、インナーレースに対してアウターレースが一方向に回転した際に各スプラグを介してトルクを伝達すると共に、インナーレースに対してアウターレースが他方向に回転した際に両者を相対回転させるものである。ただし、ワンウェイクラッチF1は、ローラ式といったようなスプラグ式以外の構成を有するものであってもよい。
これらのクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2は、上記油圧制御装置60による作動油の給排を受けて動作する。図2に自動変速機25の各変速段とクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2、並びにワンウェイクラッチF1の作動状態との関係を表した作動表を示す。自動変速機25は、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2を図2の作動表に示す状態とすることで前進1〜8速の変速段と後進1速および2速の変速段とを提供する。なお、ブレーキB1を除くクラッチC1〜C4、およびブレーキB2の少なくとも何れかは、ドグクラッチといった噛み合い係合要素とされてもよい。
ギヤ機構40は、自動変速機25の第2遊星歯車機構35のリングギヤ37に連結されるカウンタドライブギヤ41と、自動変速機25の入力軸26と平行に延在するカウンタシャフト42に固定されると共にカウンタドライブギヤ41に噛合するカウンタドリブンギヤ43と、当該カウンタドリブンギヤ43から軸方向に離間するようにカウンタシャフト42に一体に成形(あるいは固定)されたドライブピニオンギヤ(ファイナルドライブギヤ)44と、ドライブピニオンギヤ44に噛合すると共にデファレンシャルギヤ50に連結されるデフリングギヤ(ファイナルドリブンギヤ)45とを有する。
図3は、動力伝達装置20の自動変速機25を示す要部拡大断面図である。同図は、自動変速機25に含まれるクラッチC3およびC4の周辺の構成を示すものである。図示するように、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを締結するクラッチC3(第2クラッチ)は、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを締結するクラッチC4(第1クラッチ)の周囲に配置される。
クラッチC3は、クラッチハブ(第2クラッチハブ)3と、内周部がクラッチハブ3に嵌合される複数の摩擦プレート(第2摩擦係合プレート)304fと、クラッチドラム(第2クラッチドラム)300と、外周部がクラッチドラム300に嵌合される複数のセパレータプレート(第2摩擦係合プレート)304sと、摩擦プレート304fとセパレータプレート304sとを押圧して摩擦係合させるピストン(第2ピストン)305とを含む。クラッチハブ3は、動力入力部材としての第1遊星歯車機構30のリングギヤ32に一体化(連結)され、当該リングギヤ32と一体に回転する。クラッチドラム300は、動力出力部材(動力の伝達対象)としての第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bに連結され、当該第2サンギヤ36bと一体に回転する。クラッチハブ3に嵌合される摩擦プレート304fは、両面に摩擦材が貼着された環状部材であり、クラッチドラム300に嵌合されるセパレータプレート304sは、両面が平滑に形成された環状部材である。
図3および図4に示すように、クラッチC3のクラッチドラム300は、当該クラッチドラム300(自動変速機25)の軸方向に延在すると共に図示しない連結部材を介して第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bに連結される略円筒状の外筒部301(第2外筒部)と、外筒部301の基端部(図3および図4における右端)から内方に延出された略円環状の環状壁部(第2環状壁部)302と、環状壁部302の内周部から外筒部301の内側に位置するように当該外筒部301と同方向(同軸)に延出されてクラッチドラム300の軸方向に延在する略円筒状の内筒部303(第2内筒部)とを含む。外筒部301、環状壁部302および内筒部303は、例えばアルミニウム合金等を鋳造することにより一体に成形され、環状壁部302は、外筒部301の基端部と内筒部303の基端部との間で径方向に延在する。このように構成されるクラッチドラム300では、外側の外筒部301と内側の内筒部303とがそれぞれリブとして機能することから、その強度を良好に向上させることができる。
クラッチドラム300の外筒部301の内周面には、各セパレータプレート304sの外周部に形成された凹凸部と係合可能なスプライン301sが形成されている。外筒部301のスプライン301sには、クラッチハブ3に嵌合された複数の摩擦プレート304fと交互に並ぶように複数のセパレータプレート304sが嵌合される。また、外筒部301のスプライン301sには、最も第1および第2遊星歯車機構30,35側(図3における左側)に配置される摩擦プレート304fと当接可能となるようにバッキングプレートが嵌合される。当該バッキングプレートは、外筒部301に装着されたスナップリングにより軸方向に支持される。
内筒部303は、外筒部301よりも短尺に形成されており、それぞれクラッチドラム300の軸心を中心軸とする円柱面状の外周面および凹円柱面状の内周面303iを有する。そして、ピストン305は、内筒部303の外周面と当該内筒部303を囲む外筒部301の内周面とにより軸方向に移動自在に支持される。本実施形態において、最もエンジン側(図3における右側)に位置するセパレータプレート304sと当接するピストン305の押圧部の外周部には、外筒部301のスプライン301sと係合可能な凹凸部が形成されており、ピストン305は、スプライン301sによって回り止めされる。
また、ピストン305と内筒部303の外周面との間およびピストン305と外筒部301の内周面との間には、シール部材が配置され、クラッチドラム300の環状壁部302とピストン305の背面との間には、クラッチC3を係合させるための作動油(係合油圧)が供給される係合油室(第2係合油室)306が画成される。すなわち、クラッチC3では、クラッチドラム300(環状壁部302)とピストン305とにより係合油室306が画成される。更に、内筒部303には、図3および図4に示すように、それぞれ係合油室306と連通する複数(本実施形態では、4個)の油孔(貫通孔)303xが周方向に間隔をおいて形成されている。
クラッチC4は、クラッチハブ(第1クラッチハブ)4と、内周部がクラッチハブ4に嵌合される複数の摩擦プレート(第1摩擦係合プレート)404fと、クラッチドラム(第1クラッチドラム)400と、外周部がクラッチドラム400に嵌合される複数のセパレータプレート(第1摩擦係合プレート)404sと、摩擦プレート404fとセパレータプレート404sとを押圧して摩擦係合させるピストン(第1ピストン)405とを有する。クラッチハブ4は、動力入力部材としての第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34に一体化(連結)され、当該プラネタリキャリヤ34と一体に回転する。クラッチドラム400は、動力出力部材(動力の伝達対象)としての第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bに連結され、当該第2サンギヤ36bと一体に回転する。クラッチハブ4に嵌合される摩擦プレート404fは、両面に摩擦材が貼着された環状部材であり、クラッチドラム400に嵌合されるセパレータプレート404sは、両面が平滑に形成された環状部材である。
図3および図4に示すように、クラッチC4のクラッチドラム400は、当該クラッチドラム400(自動変速機25)の軸方向に延在する略円筒状の外筒部401(第1外筒部)と、外筒部401の一端から内方に延出された略円環状の環状壁部(第1環状壁部)402と、環状壁部402の内周部から外筒部401の内側に位置するように当該外筒部401と同方向(同軸)に延出されてクラッチドラム400の軸方向に延在する略円筒状の内筒部403(第1内筒部または内筒部)とを含む。外筒部401、環状壁部402および内筒部403は、例えばアルミニウム合金等を鋳造することにより一体に成形され、環状壁部402は、外筒部401の基端部と内筒部403の基端部との間で径方向内側に延在する。
クラッチドラム400の内筒部403内には、鋼材(鉄)により円筒状に形成されたスリーブ500が当該クラッチドラム400と一体に回転するように例えば圧入等によりきつく嵌合(一体化)される。更に、スリーブ500内には、クラッチC3およびC4を収容するトランスミッションケース22に固定(一体化)されて当該トランスミッションケース22の一部を構成する例えばアルミニウム合金製の環状のフロントサポート(前側支持部)22fの筒状部220が嵌挿される。また、内筒部403の遊端部と筒状部220との間には、ブッシュ92(図3参照)が介設される。これにより、クラッチドラム400すなわち内筒部403は、スリーブ500等を介して、フロントサポート22fすなわちトランスミッションケース22により回転自在に支持される。なお、フロントサポート22fの筒状部220には、ワンウェイクラッチ23oを介して発進装置23(トルクコンバータ)のステータ23sに連結されたステータシャフト230が回転不能に連結(固定)される。
クラッチドラム400の外筒部401の内周面には、各セパレータプレート404sの外周部に形成された凹凸部と係合可能なスプライン401sが形成されている。外筒部401のスプライン401sには、クラッチハブ4に嵌合された複数の摩擦プレート404fと交互に並ぶように複数のセパレータプレート404sが嵌合される。また、外筒部401のスプライン401sには、最も第1および第2遊星歯車機構30,35側(図3における左側)に配置される摩擦プレート404fと当接可能となるようにバッキングプレートが嵌合される。当該バッキングプレートは、外筒部401に装着されたスナップリングにより軸方向に支持される。
クラッチドラム400の環状壁部402は、外筒部401の基端部から径方向内側(内筒部403側)に延出された環状の外側壁部402aと、内筒部403から径方向外側に延出された環状の内側壁部402bと、外側壁部402aの内周部と内側壁部402bの外周部との間で軸方向に延在する縮径部402nとを含む。内側壁部402bは、外側壁部402aに対して外筒部401から離間する方向にオフセットされて当該外側壁部402aよりもエンジン側(クラッチドラム400の遊端部と反対側すなわち図3および図4における右側)に位置する。また、縮径部402nは、外側壁部402aに対して外筒部401の反対側に位置し、外筒部401の外周面よりも縮径された外周面402oを有する。縮径部402nの外周面402oは、クラッチドラム400の軸心を中心軸とする円柱面状に形成され、外周面402oの曲率半径は、内筒部303の内周面303iの曲率半径よりも極僅かに小さく定められる。
更に、クラッチドラム400の環状壁部402(内側壁部402b)は、外筒部401と内筒部403との径方向における間でピストン405に向けて(図3および図4における左側に向けて)延びるように形成された中間筒状部420と、縮径部402nの外周面402oと中間筒状部420との径方向における間で当該中間筒状部420を包囲すると共に内側壁部402bの内表面から外側(図3および図4における右側)に向けて窪むように形成された環状凹部402cとを含む。また、クラッチドラム400の内筒部403は、外筒部401よりも長尺に形成されており、当該内筒部403の外周面によりピストン405が軸方向に移動自在に支持される。
クラッチC4のピストン405は、内筒部403の外周面により移動自在に支持される受圧部405aと、当該受圧部405aの外周部から延出されて最もエンジン側(図3および図4における右側)に位置するセパレータプレート404sと当接する押圧部405bと、受圧部405aの外周部から押圧部405bとは反対側に延出された円筒状の延出部405cと、延出部405cの内周面よりも径方向外側で当該延出部405cとは反対側に延びる凹円柱面405dとを有する。押圧部405bの外周部には、クラッチドラム400の外筒部401のスプライン401sと係合可能な凹凸部が形成されている。これにより、ピストン405は、スプライン401sによって回り止めされる。また、ピストン405の延出部405cは、クラッチドラム400の環状壁部402に形成された環状凹部402cに挿入(嵌合)され、延出部405cの内周面は、環状凹部402cを画成する中間筒状部420の外周面(円柱面)421に摺接する。
そして、ピストン405の受圧部405aと内筒部403の外周面との間には、DリングあるいはOリングといったシール部材が配置され、ピストン405の延出部405cの内周面と中間筒状部420の外周面421との間には、DリングあるいはOリングといったシール部材90が配置される。これにより、クラッチドラム400の環状壁部402(内側壁部402b)とピストン405の受圧部405aの背面との間かつ延出部405cの外周面よりも径方向内側には、クラッチC4を係合させるための作動油(係合油圧)が供給される係合油室(第1係合油室)406が画成される。すなわち、自動変速機25では、クラッチドラム400(環状壁部402)とピストン405とによりクラッチC3の係合油室306よりも径方向内側に係合油室406が画成される。
更に、クラッチドラム400の内筒部403は、ピストン405よりも第1および第2遊星歯車機構30,35側(図3および図4における左側)に位置するようにキャンセルプレート407を一体回転するように支持する。キャンセルプレート407の内周部は、内筒部403に装着されたスナップリングにより軸方向に支持される。また、キャンセルプレート407の外周部には、リップシール(シール部材)91が装着され、当該シール部材91は、ピストン405に形成された凹円柱面405dに摺接する。これにより、キャンセルプレート407は、係合油室406内で発生する遠心油圧をキャンセルするための遠心油圧キャンセル室(第1遠心油圧キャンセル室)408をピストン405と共に画成する。更に、ピストン405とキャンセルプレート407との間には、複数のリターンスプリング409が配置される。
クラッチC4の周囲に配置されるクラッチC3のクラッチドラム300は、外筒部401の少なくとも一部を囲むようにクラッチC4のクラッチドラム400の外周面に固定される。すなわち、クラッチドラム300の内筒部303は、その先端がクラッチドラム400(環状壁部402)の外側壁部402aの背面と当接するようにクラッチドラム400の縮径部402nに嵌合され、内筒部303の内周面303iは、縮径部402nの外周面402oに電子ビーム溶接やレーザー溶接といった溶接により接合される。これにより、クラッチドラム300および400は、同軸に一体化され、クラッチC3およびC4により共用される1体のドラム部材を構成する。また、クラッチドラム300の内筒部303は、当該1体のドラム部材における内筒部を構成する。更に、クラッチドラム300の環状壁部302と、クラッチドラム400の環状壁部402の内側壁部402bとは、ピストン305と共に係合油室306を画成し、かつピストン405と共に係合油室406を画成する上記1体のドラム部材における環状壁部を構成する。
また、自動変速機25では、クラッチC4のクラッチドラム400(外筒部401)に環状のキャンセル室画成部410が一体成形されている。キャンセル室画成部410は、クラッチドラム300およびピストン305と共に外側のクラッチC3の係合油室306内で発生する遠心油圧をキャンセルするための遠心油圧キャンセル室308を画成する。本実施形態において、キャンセル室画成部410は、図3および図4に示すように、外筒部401から外方すなわち環状凹部402cよりも径方向外側にクラッチドラム300の外筒部301の内周面に向けて延出される。
更に、キャンセル室画成部410の外周面は、クラッチC3のピストン305の内周面と摺接し、キャンセル室画成部410とピストン305の内周面との間には、DリングあるいはOリングといったシール部材が配置される。これにより、キャンセル室画成部410および外側壁部402aの背面(図3および図4における右側の面)とピストン305との間に遠心油圧キャンセル室308が画成される。更に、キャンセル室画成部410の背面とピストン305との間には、複数のリターンスプリング309が配置される。本実施形態では、キャンセル室画成部410の背面に、ピストン305に向けて突出して対応するリターンスプリング309の一端と係合する複数の突起が等間隔に形成されている。
このように、外筒部401、環状壁部402および内筒部403を含むクラッチC4のクラッチドラム400にクラッチC3用のキャンセル室画成部410を一体に成形することにより、クラッチC3およびC4の部品点数や組立工数を低減化すると共に、クラッチドラム400における各部の精度、すなわち外筒部401、環状壁部402、内筒部403およびキャンセル室画成部410の位置精度を容易に向上させることができる。なお、クラッチドラム400にキャンセル室画成部410が一体成形されることから、ピストン405やリターンスプリング409、シール部材等は、クラッチドラム400(縮径部402n)の外周面402oにクラッチドラム300を溶接する前に、クラッチドラム300内に予め組み付けられる。
また、外筒部401、環状壁部402、内筒部403およびキャンセル室画成部410を一体に成形することで、外筒部401および内筒部403をリブとして機能させると共にキャンセル室画成部410の肉厚を確保してクラッチドラム400の強度を良好に確保することが可能となる。これにより、クラッチドラム400をアルミニウム合金等の軽量な素材により構成して軽量化することができる。更に、本実施形態において、キャンセル室画成部410は、クラッチドラム400の外側壁部402aよりも第1および第2遊星歯車機構30,35側(図4における左側)に位置するように当該外側壁部402aから外筒部401の軸方向にオフセットされる。このように、キャンセル室画成部410を外側壁部402aから外筒部401の軸方向にオフセットすることで、外筒部401の基端部周辺での応力集中を抑制してクラッチドラム400の強度をより向上させることが可能となる。ただし、クラッチドラム400にキャンセル室画成部410を一体成形する代わりに、別体のキャンセル室画成部材をクラッチドラム400に溶接あるいは締結してもよい。
引き続き、図3から図5を参照しながら、クラッチC3の係合油室306および遠心油圧キャンセル室308並びにクラッチC4の係合油室406および遠心油圧キャンセル室408に作動油を供給するための油路構造について説明する。なお、図5は、クラッチドラム400の軸心側から内筒部403の内表面をみた状態を示す模式図であり、同図における破線は、スリーブ500の要素を示し、同図における二点鎖線は、フロントサポート22fの要素を示す。
図3および図4に示すように、自動変速機25では、クラッチドラム300の内筒部303の周囲に画成されるクラッチC3の係合油室306や遠心油圧キャンセル室308に作動油を給排可能とするために、クラッチドラム400の内側壁部402bに複数(上記油孔303xと同数、本実施形態では、4本)の係合油室用油路402xと、複数(本実施形態では、4本)のキャンセル室用油路402yとが形成されている。複数の係合油室用油路402xは、径方向かつ放射状に延在し、それぞれクラッチドラム300の内筒部303の対応する油孔303xと連通する。また、複数のキャンセル室用油路402yは、複数の係合油室用油路402xと軸方向からみて重ならないように交互に径方向かつ放射状に延在し、それぞれクラッチドラム400に形成された複数の凹部402r(図3および図4参照)の対応する一つと連通する。凹部402rは、クラッチドラム400の外側壁部402aの背面と縮径部402nの外周面402oとにわたって略L字状に延びると共に遠心油圧キャンセル室308と連通するように形成されている。
このように、係合油室用油路402xとキャンセル室用油路402yとをクラッチドラム400の内側壁部402b内の概ね同一平面上に形成することで、クラッチドラム400ひいてはクラッチC3,C4の軸長の増加を抑制することができる。更に、係合油室用油路402xとキャンセル室用油路402yとを軸方向からみて交互に形成することにより、環状の係合油室306や遠心油圧キャンセル室308に対して概ね均等に作動油を供給することが可能となる。
また、図4および図5に示すように、クラッチドラム400の内筒部403には、それぞれクラッチC4の係合油室406と連通する複数(本実施形態では、8個)のC4係合油室用油孔403xと、それぞれクラッチC4の遠心油圧キャンセル室408と連通する複数(本実施形態では、4個)のC4キャンセル室用油孔403yとが形成されている。複数のC4係合油室用油孔403xは、周方向に間隔をおいて並ぶと共に2個ずつ近接して対をなすように内筒部403に形成されている。複数のC4キャンセル室用油孔403yは、C4係合油室用油孔403xよりもクラッチドラム400の環状壁部402(内側壁部402b)から離間すると共に、周方向に間隔をおいて(等間隔に)並ぶように内筒部403に形成されている。
更に、内筒部403の内周面には、それぞれ係合油室用油路402xと連通する複数(本実施形態では、4個)のC3係合油室用凹部(第2係合油室用凹部)403aと、それぞれC4係合油室用油孔403xと連通する複数(本実施形態では、8個)のC4係合油室用凹部(第1係合油室用凹部)403bとが形成されている。すなわち、本実施形態において、C4係合油室用凹部403bの数は、C4係合油室用油孔403xと同数であり、C3係合油室用凹部403aの数よりも多い。加えて、内筒部403の内周面には、それぞれキャンセル室用油路402yと連通する複数(本実施形態では、4個)のC3キャンセル室用凹部(第2キャンセル室用凹部)403cと、それぞれC4キャンセル室用油孔403yと連通する複数(本実施形態では、4個)のC4キャンセル室用凹部(第1キャンセル室用凹部)403dとが形成されている。
図4および図5からわかるように、複数のC3係合油室用凹部403aは、クラッチドラム300および400の径方向からみてクラッチドラム400の環状壁部402(内側壁部402b)と重なると共に、周方向に間隔をおいて(等間隔に)並ぶように内筒部403の内周面に形成される。また、複数のC4係合油室用凹部403bは、C3係合油室用凹部403aよりもクラッチドラム400の環状壁部402(内側壁部402b)から離間すると共に周方向に間隔をおいて(等間隔に)並ぶように内筒部403の内周面に形成される。すなわち、C4係合油室用凹部403bは、環状壁部402よりも内筒部403の遊端部側に形成される。更に、複数のC4係合油室用凹部403bは、C4係合油室用油孔403xと同様に、2個ずつ近接して対をなすように形成される。
また、各C3キャンセル室用凹部403cは、図5に示すように、C4キャンセル室用凹部403dよりも環状壁部402に近接すると共に、互いに対をなす2個のC4係合油室用凹部403bとC4キャンセル室用凹部403dとの周方向における間に形成される。更に、各C3係合油室用凹部403aは、互いに対をなす2個のC4係合油室用凹部403bよりも環状壁部402に近接すると共に、当該2個のC4係合油室用凹部403bの一方と内筒部403の軸方向に並ぶように内筒部403に形成される。本実施形態において、各C3係合油室用凹部403aは、図5に示すように、互いに対をなす2個のC4係合油室用凹部403bのうち、内筒部403の周方向においてC3キャンセル室用凹部403cから離間した一方と軸方向に並ぶ。そして、当該一方のC4係合油室用凹部403bの中心軸と、それに並ぶC3係合油室用凹部403aの中心軸とは、同軸に延在する。加えて、各C3係合油室用凹部403aは、図4に示すように、各C4係合油室用凹部403bよりも深く形成される。
一方、クラッチドラム400を回転自在に支持するフロントサポート22fの筒状部220の外周面には、図3および図5に示すように、何れも環状の凹部(溝)であるC3係合油圧供給油路(第2係合油圧供給油路)223、C4係合油圧供給油路(第1合油圧供給油路)224およびキャンセル室用供給油路(キャンセル油供給油路)234が形成されている。C3係合油圧供給油路223は、フロントサポート22fの筒状部220により支持された内筒部403のC3係合油室用凹部403aの内側に位置するように当該筒状部220の基端側(図3における右端側)に形成される。また、C3係合油圧供給油路223は、フロントサポート22fに形成された複数の径方向油路221の対応する何れか、複数の軸方向油路222に対応する何れか、および複数の油孔225の対応する何れかを介して油圧制御装置60に接続される。
C4係合油圧供給油路224は、フロントサポート22fの筒状部220により支持された内筒部403のC4係合油室用凹部403bの内側に位置するように当該筒状部220の遊端側(図3における左端側)に形成される。また、C4係合油圧供給油路224は、フロントサポート22fに形成された複数の径方向油路221の対応する何れか、複数の軸方向油路222に対応する何れか、および複数の油孔225の対応する何れかを介して油圧制御装置60に接続される。キャンセル室用供給油路234は、フロントサポート22fの筒状部220の軸方向におけるC3係合油圧供給油路223とC4係合油圧供給油路224との間に位置するように当該筒状部220に形成される。また、キャンセル室用供給油路234は、フロントサポート22fに形成された複数の径方向油路221の対応する何れか、複数の軸方向油路222に対応する何れか、および複数の油孔225の対応する何れかを介して油圧制御装置60(ドレン油路)に接続される。
更に、クラッチドラム400の内筒部403内に嵌合されるスリーブ500は、図5に示すように、複数(本実施形態では、4個)のC3係合油供給孔(第2油孔)503と、複数(本実施形態では、8個)のC4係合油供給孔(第1油孔)504と、複数(本実施形態では、4個)のC3キャンセル油供給孔(第4油孔)534cと、複数(本実施形態では、4個)のC4キャンセル油供給孔(第3油孔)534dとを有する。
C3係合油供給孔503は、内側のC3係合油圧供給油路223と外側のC3係合油室用凹部403aとを連通させるようにスリーブ500に形成される。C4係合油供給孔504は、内側のC4係合油圧供給油路224と外側のC4係合油室用凹部403bとを連通させるようにスリーブ500に形成される。C3キャンセル油供給孔534cは、内側のキャンセル室用供給油路234と外側のC3キャンセル室用凹部403cとを連通させるようにスリーブ500に形成される。C4キャンセル油供給孔534dは、内側のキャンセル室用供給油路234と外側のC4キャンセル室用凹部403dとを連通させるようにスリーブ500に形成される。本実施形態において、それぞれ複数のC3キャンセル油供給孔534cおよびC4キャンセル油供給孔534dは、図5に示すように、スリーブ500の軸方向におけるC3係合油供給孔503とC4係合油供給孔504との間で周方向に一列に並ぶようにスリーブ500に配設される。
そして、筒状部220とスリーブ500との間には、図3に示すように、筒状部220の軸方向におけるC3係合油圧供給油路223、C4係合油圧供給油路224およびキャンセル室用供給油路234の両側に位置するように複数(本実施形態では、4個)のシール部材(シールリング)95が配置される。すなわち、複数のシール部材95は、筒状部220の軸方向におけるC3係合油供給孔503の両側およびC4係合油供給孔504の両側に位置するように配設される。各シール部材95は、スリーブ500の内周面と摺接し、C3係合油圧供給油路223、C4係合油圧供給油路224およびキャンセル室用供給油路234からの作動油の漏洩を規制する。
これにより、クラッチC3を係合させるための作動油(係合油圧)は、油圧制御装置60から、フロントサポート22fの油路221、222等、筒状部220のC3係合油圧供給油路223、スリーブ500のC3係合油供給孔503、内筒部403のC3係合油室用凹部403a、内側壁部402bの係合油室用油路402x、およびクラッチドラム300の内筒部303の油孔303xを介してクラッチC3の係合油室306に供給される。また、クラッチC4を係合させるための作動油(係合油圧)は、油圧制御装置60から、フロントサポート22fの油路221、222等、筒状部220のC4係合油圧供給油路224、スリーブ500のC4係合油供給孔504、内筒部403のC4係合油室用凹部403bおよびC4係合油室用油孔403xを介してクラッチC4の係合油室406に供給される。
更に、クラッチC3の遠心油圧キャンセル室308には、フロントサポート22fの油路221、222等、筒状部220のキャンセル室用供給油路234、スリーブ500のC3キャンセル油供給孔534c、内筒部403のC3キャンセル室用凹部403c、内側壁部402bのキャンセル室用油路402y、および凹部402rを介して油圧制御装置60からの作動油(キャンセル油すなわちドレン油)が供給される。また、クラッチC4の遠心油圧キャンセル室408には、フロントサポート22fの油路221、222等、筒状部220のキャンセル室用供給油路234、スリーブ500のC4キャンセル油供給孔534d、内筒部403のC4キャンセル室用凹部403d、およびC4キャンセル室用油孔403yを介して油圧制御装置60からの作動油(キャンセル油すなわちドレン油)が供給される。
上述のように構成される自動変速機25では、外側のクラッチC3に対応したC3係合油室用凹部403aがクラッチドラム400の環状壁部402(内側壁部402b)に近接するように形成されることから、当該C3係合油室用凹部403aを深くすることができる。従って、C3係合油室用凹部403aにおける通油抵抗を増加させることなく、内筒部403(クラッチドラム400)の周方向におけるC3係合油室用凹部403aの幅を細くすることが可能となる。更に、内側のクラッチC4に対応したC4係合油室用凹部403bの数をC3係合油室用凹部403aの数よりも多くすることで、各C4係合油室用凹部403bの周方向における幅を細くすることができる。
これにより、クラッチドラム400の内筒部403にスリーブを圧入によりきつく嵌合した際に、C3係合油室用凹部403aおよびC4係合油室用凹部403bへのスリーブ500の入り込みを抑制し、内筒部403に嵌合(圧入)されて複数のシール部材95と摺接するスリーブ500の内周面を真円状に維持することが可能となる。従って、自動変速機25では、内筒部403に嵌合されたスリーブ500に対して、内周面を真円状にするための切削加工を施す必要がなくなる。この結果、クラッチドラム300と共に1体のドラム部材を構成するクラッチドラム400の内筒部403に嵌合されるスリーブ500の変形を抑制し、自動変速機25の製造コストを低減化することができる。更に、スリーブ500の内周面が真円状に維持されることで、C3係合油圧供給油路223、C4係合油圧供給油路224およびキャンセル室用供給油路234からの作動油の漏洩を極めて良好に規制することが可能となる。
また、自動変速機25では、複数のC4係合油室用凹部403bが、内筒部403の周方向に間隔をおいて並ぶと共に2個ずつ近接して対をなすように当該内筒部403に配設される。そして、C3係合油室用凹部403aは、互いに対をなす2個のC4係合油室用凹部403bの一方と内筒部403の軸方向に並ぶように当該内筒部403に形成される。これにより、互いに対をなす2個のC4係合油室用凹部403bの一方と、C3係合油室用凹部403aとを同一の工具により連続して形成することが可能となるので、加工コストの増加を抑制することが可能となる。
更に、自動変速機25において、C3キャンセル室用凹部403cは、C4キャンセル室用凹部403dよりもクラッチドラム400の環状壁部402(内側壁部402b)に近接すると共に、互いに対をなす2個のC4係合油室用凹部403bとC4キャンセル室用凹部403dとの周方向における間に形成される。また、C3係合油室用凹部403aは、互いに対をなす2個のC4係合油室用凹部403bのうち、周方向においてC3キャンセル室用凹部403cから離間した一方と軸方向に並ぶように内筒部403に形成される。これにより、クラッチC3に対応したC3係合油室用凹部403aとC3キャンセル室用凹部403cとの間におけるシール性を良好に確保し、両者間で作動油が行き来してしまうのをより良好に抑制することが可能となる。
また、ピストン405は、延出部405cの内周面よりも径方向外側で当該延出部405cとは反対側に延びると共にクラッチC4のキャンセルプレート407の外周部に装着されたシール部材91と摺接する凹円柱面405dを有する。これにより、図4に示すように、クラッチC4の遠心油圧キャンセル室408のチャンバ径(外径)を係合油室406のチャンバ径(外径)よりも大きくすることができる。したがって、遠心油圧キャンセル室408における遠心油圧のキャンセル性能を良好に確保してリターンスプリング409の剛性(ばね定数)を低下させることが可能となる。この結果、クラッチC4の係合に際して係合油室406に供給されるべき油圧(クラッチC4の係合油圧)を低下させて、自動変速機25が搭載される車両の燃費をより向上させることができる。
このように、自動変速機25では、クラッチC4の遠心油圧キャンセル室408における遠心油圧のキャンセル性能を充分に高く確保することが可能となる。従って、クラッチC4では、図4に示すように、キャンセルプレート407の内周部に少なくとも1つの油孔407hを形成して、遠心油圧キャンセル室408における遠心油圧のゼロ基点B0を油孔407hの最外周点まで径方向外側にずらすことができる。これにより、キャンセルプレート407の油孔407hから遠心油圧キャンセル室408に流入した作動油(キャンセル油)の一部を流出させて第1遊星歯車機構30のサンギヤ31とピニオンギヤ33aとの噛合部や、ピニオンギヤ33bとピニオンギヤ33aとの噛合部、ピニオンギヤ33bとリングギヤ32との噛合部等の潤滑に供することが可能となる。
更に、自動変速機25では、クラッチドラム300と共にドラム部材を構成するクラッチドラム400の内筒部403の内周面に、キャンセル室用油路402yおよびキャンセル室用供給油路234に連通するC3キャンセル室用凹部403cと、C4キャンセル室用油孔403yおよびキャンセル室用供給油路234とに連通するC4キャンセル室用凹部403dとが周方向に間隔をおいて形成される。これにより、クラッチC3の遠心油圧キャンセル室308における遠心油圧のゼロ基点を変えることなく、クラッチC4の遠心油圧キャンセル室408における遠心油圧のゼロ基点B0を上述のように径方向外側に移動させることができる。従って、自動変速機25では、遠心油圧キャンセル室308および408の双方における遠心油圧のキャンセル性能を良好に確保することが可能となる。
すなわち、クラッチドラム400の内筒部403の内周面に、キャンセル室用油路402yに作動油を供給するC3キャンセル室用凹部403cと、C4キャンセル室用油孔403yに作動油を供給するC4キャンセル室用凹部403dとを独立に設けることで、遠心油圧キャンセル室308および408で遠心油圧のゼロ基点を独立に設定することが可能となる。この結果、自動変速機25では、内側のクラッチC4の遠心油圧キャンセル室408におけるキャンセル性能と、外側のクラッチC3の遠心油圧キャンセル室308におけるキャンセル性能との調整の自由度を向上させることができる。
加えて、自動変速機25では、スリーブ500のC3キャンセル油供給孔534cおよびC4キャンセル油供給孔534dに対して、フロントサポート22fの筒状部220に形成された共通(単一)のキャンセル室用供給油路234から作動油(キャンセル油)を供給することができる。従って、クラッチドラム400の内筒部403すなわちクラッチC3およびC4の軸長の増加を抑制することが可能となる。また、上記実施形態において、それぞれ複数のC3キャンセル油供給孔534cおよびC4キャンセル油供給孔534dは、図5に示すように、スリーブ500の軸方向におけるC3係合油供給孔503とC4係合油供給孔504との間で周方向に並ぶように当該スリーブ500に配設される。これにより、クラッチC3,C4の軸長をより短縮化することができる。ただし、C3キャンセル油供給孔534cおよびC4キャンセル油供給孔534dは、軸方向に多少ズラして配設されてもよい。
以上説明したように、本発明による変速装置は、第1ピストンおよび第1係合油室を有する第1クラッチと、第2ピストンおよび第2係合油室を有すると共に前記第1クラッチの周囲に配置される第2クラッチとを含む変速装置において、前記第1ピストンを支持する内筒部と、前記第1ピストンと共に前記第1係合油室を画成し、かつ前記第2ピストンと共に前記第1係合油室よりも径方向外側に前記第2係合油室を画成するように前記内筒部から延出された環状壁部とを有するドラム部材と、前記ドラム部材の前記内筒部に嵌合される円筒状のスリーブとを備え、前記ドラム部材は、それぞれ前記第1係合油室と連通するように前記内筒部に形成された複数の係合油室用油孔と、それぞれ前記第2係合油室と連通するように前記環状壁部に形成された複数の係合油室用油路と、それぞれ前記係合油室用油孔に連通するように前記内筒部の内周面に形成された複数の第1係合油室用凹部と、それぞれ前記係合油室用油路に連通するように前記内筒部の内周面に形成された複数の第2係合油室用凹部とを有し、前記スリーブは、前記第1係合油室用凹部と前記スリーブの内側に設けられる第1係合油圧供給油路とを連通させる第1油孔と、前記第2係合油室用凹部と前記スリーブの内側に設けられる第2係合油圧供給油路とを連通させる第2油孔とを有し、前記第2係合油室用凹部は、前記第1係合油室用凹部よりも前記環状壁部に近接するように該第1係合油室用凹部よりも深く形成され、第1係合油室用凹部の数は、前記第2係合油室用凹部の数よりも多いことを特徴とする。
この変速装置では、第1および第2クラッチにより共用されるドラム部材の内筒部に、それぞれ第1クラッチの第1係合油室と連通するように複数の係合油室用油孔が形成される。また、ドラム部材の環状壁部には、それぞれ第2係合油室と連通するように複数の係合油室用油路が形成される。更に、内筒部の内周面には、それぞれ係合油室用油孔に連通する複数の第1係合油室用凹部と、それぞれ係合油室用油路に連通する複数の第2係合油室用凹部とが形成される。また、ドラム部材の内筒部に嵌合されるスリーブは、第1係合油室用凹部と当該スリーブの内側に設けられる第1係合油圧供給油路とを連通させる第1油孔と、第2係合油室用凹部と当該スリーブの内側に設けられる第2係合油圧供給油路とを連通させる第2油孔とを有する。そして、第2係合油室用凹部は、第1係合油室用凹部よりも環状壁部に近接するように当該第1係合油室用凹部よりも深く形成され、第1係合油室用凹部の数は、第2係合油室用凹部の数よりも多い。
このように、外側の第2クラッチに対応した第2係合油室用凹部をドラム部材の環状壁部に近接させることで、当該第2係合油室用凹部を深くすることができる。従って、第2係合油室用凹部における通油抵抗を増加させることなく、内筒部(ドラム部材)の周方向における第2係合油室用凹部の幅を細くすることが可能となる。更に、内側の第1クラッチに対応した第1係合油室用凹部の数を第2係合油室用凹部の数よりも多くすることで、各第1係合油室用凹部の周方向における幅を細くすることができる。これにより、ドラム部材の内筒部にスリーブをきつく嵌合した際に、第1および第2係合油室凹部内へのスリーブの入り込みを抑制し、内筒部に嵌合されたスリーブの内周面を真円状に維持することが可能となる。従って、この変速装置では、内筒部に嵌合されたスリーブに対して、内周面を真円状にするための切削加工を施す必要がなくなる。この結果、第1および第2クラッチにより共用されるドラム部材の内筒部に嵌合されるスリーブの変形を抑制し、変速装置の製造コストを低減化することができる。
また、前記第1係合油室用凹部は、前記環状壁部よりも前記内筒部の遊端部側に形成されてもよく、前記第2係合油室用凹部は、前記ドラム部材の径方向からみて前記環状壁部と重なるように形成されてもよい。
更に、前記複数の第1係合油室用凹部は、前記内筒部の周方向に間隔をおいて並ぶと共に2個ずつ近接して対をなすように前記内筒部に配設されてもよく、前記第2係合油室用凹部は、互いに対をなす2個の前記第1係合油室用凹部の一方と前記内筒部の軸方向に並ぶように前記内筒部に形成されてもよい。これにより、互いに対をなす2個の第1係合油室用凹部の一方と、第2係合油室用凹部とを連続して形成することが可能となるので、加工コストの増加を抑制することが可能となる。
また、前記変速装置は、前記第1係合油室内で発生する遠心油圧をキャンセルするための第1遠心油圧キャンセル室を前記第1ピストンと共に画成するように前記内筒部により支持されるキャンセル室画成部材を更に備えてもよく、前記ドラム部材は、前記第2係合油室内で発生する遠心油圧をキャンセルするための第2遠心油圧キャンセル室を前記第1遠心油圧キャンセル室よりも径方向外側に前記第2ピストンと共に画成するキャンセル室画成部と、それぞれ前記第1遠心油圧キャンセル室と連通するように前記内筒部に形成された複数のキャンセル室用油孔と、それぞれ前記第2遠心油圧キャンセル室と連通するように前記環状壁部に形成された複数のキャンセル室用油路と、それぞれ前記キャンセル室用油孔に連通するように前記内筒部の内周面に形成された複数の第1キャンセル室用凹部と、それぞれ前記キャンセル室用油路に連通するように前記内筒部の内周面に形成された複数の第22キャンセル室用凹部とを有してもよく、前記スリーブは、前記第1キャンセル室用凹部と前記スリーブの内側に設けられるキャンセル油供給油路とを連通させる第3油孔と、前記第2キャンセル室用凹部と前記キャンセル油供給油路とを連通させる第4油孔を有してもよく、前記第2キャンセル室用凹部は、前記第1キャンセル室用凹部よりも前記環状壁部に近接すると共に、互いに対をなす2個の前記第1係合油室用凹部と前記第1キャンセル室用凹部との前記周方向における間に形成されてもよく、前記第2係合油室用凹部は、互いに対をなす2個の前記第1係合油室用凹部のうち、前記周方向において前記第2キャンセル室用凹部から離間した一方と前記軸方向に並ぶように前記内筒部に形成されてもよい。これにより、第2クラッチに対応した第2係合油室用凹部と第2キャンセル室用凹部との間におけるシール性を良好に確保し、両者間で作動油が行き来してしまうのをより良好に抑制することが可能となる。加えて、この変速装置では、スリーブの第3および第4油孔に対して、共通のキャンセル油供給油路からキャンセル油を供給することができるので、クラッチドラムの内筒部すなわち第1および第2クラッチの軸長の増加を抑制することが可能となる。
また、前記変速装置は、前記第1および第2クラッチを収容するケースを更に備えてもよく、前記ケースには、前記スリーブ内に挿入される筒状部が一体化されてもよく、前記第1係合油圧供給油路、前記第2係合油圧供給油路、および前記キャンセル油供給油路は、前記筒状部に形成されてもよく、前記第3油孔と第4油孔は、前記スリーブの軸方向における前記第1油孔と前記第2油孔との間で該スリーブの周方向に並ぶように設けられてもよく、前記筒状部と前記スリーブとの間には、該筒状部の軸方向における前記第1油孔の両側および前記第2油孔の両側に位置するように複数のシール部材が配置されてもよい。すなわち、この変速装置においても、内筒部に嵌合されたスリーブの内周面を真円状に維持することができるので、複数のシール部材により筒状部とスリーブとの隙間を封止して、第1係合油圧供給油路、第2係合油圧供給油路およびキャンセル油供給油路からの油の漏洩を極めて良好に規制することが可能となる。加えて、第3および第4油孔をスリーブの軸方向における第1油孔と第2油孔との間で当該スリーブの周方向に並ぶように設けることで、第1および第2クラッチの軸長をより短縮化することが可能となる。
更に、前記ドラム部材は、前記第1ピストンと共に前記第1係合油室を画成する第1クラッチドラムと、前記第1クラッチドラムに接合されて前記第2ピストンと共に前記第1係合油室よりも径方向外側に前記第2係合油室を画成する第2クラッチドラムとを含んでもよく、前記第1クラッチドラムは、前記内筒部と、前記内筒部の外側で軸方向に延在すると共に第1摩擦係合プレートの外周部が嵌合される第1外筒部と、前記内筒部と前記第1外筒部との間で径方向に延在するように前記内筒部および前記第1外筒部と一体に成形された第1環状壁部とを有してもよく、前記第2クラッチドラムは、前記第2ピストンを支持する第2内筒部と、前記第2内筒部の外側で軸方向に延在すると共に第2摩擦係合プレートの外周部が嵌合される第2外筒部と、前記第2内筒部と前記第2外筒部との間で径方向に延在するように前記第2内筒部および前記第2外筒部と一体に成形された第2環状壁部とを有してもよい。
そして、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記発明を実施するための形態は、あくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。