以下、本発明を、例えば刺繍縫製可能なミシンに適用した一実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るミシン1の全体の外観を、正面(ユーザ側)から見た様子を示している。図1において、ミシン1は、左右方向に延びるミシンベッド2と、ミシンベッド2の右端部から上方に延びる脚柱部3と、脚柱部3の上端から左方に延びるアーム部4とを一体的に有して構成されている。アーム部4の先端部が、ミシン頭部5とされている。なお、ミシン1を操作するユーザ側を前方とし、その反対方向を後方とする。
アーム部4の上部には、図示はしないが、上糸T(図8参照)の供給源となる糸駒を収容する糸駒収容部と、糸駒収容部を開閉可能に覆うカバー4aとが設けられている。また、アーム部4の前面側には、複数個のキースイッチ6が設けられている。詳しい説明は省略するが、キースイッチ6には、縫製作業の起動と停止を指令する起動・停止キー、返し縫いキー、針上下キー、糸切りキー、押え足上下キー、スピード調整つまみ等が含まれている。脚柱部3の前面には、大型で縦長形状をなしフルカラー表示が可能な液晶ディスプレイ7が設けられている。液晶ディスプレイ7の表面には、タッチパネル8(図3参照)が設けられている。
液晶ディスプレイ7には、図示はしないが、直線縫いやジグザグ縫い等の各種の実用模様を選択する画面、各種の刺繍模様を選択する画面、各種機能を実行させるための機能選択画面、各種のメッセージ等が表示される。タッチパネル8は、透明電極からなる複数のタッチキーを有する。ユーザがタッチキーを押圧操作することで、所望の実用模様又は刺繍模様の選択、各種機能の実行の指示、又は後述する糸通し機構による、縫針の目孔に対する上糸の糸通し動作の実行の指示が可能である。
アーム部4内には、ミシンモータ9(図3にのみ図示)により回転駆動される図示しない主軸が設けられている。そして、図1、図2に示すように、ミシン頭部5には、針棒10が設けられている。針棒10の下端部には、縫針11が着脱可能に装着されている。図4(b)に示すように、針棒10は、針棒台13に設けられた上下2箇所の支持部13aにより、上下動可能に支持されている。針棒台13は、取付板12に固定されている。取付板12は、図示しないミシン機枠に固定されている。図4に示すように、針棒10には、上下2箇所の支持部13aの中間部において、針棒抱き14が固定されている。針棒抱き14は、図示しない針棒駆動機構に連結されている。針棒駆動機構は、主軸の回転により駆動される。
主軸の回転により針棒駆動機構が駆動されると、針棒抱き14を介して針棒10が所定のストロークで上下駆動される。ここで、縫製動作(ミシンモータ9)の停止時には、針棒10は、図1に示す所定の上昇位置(針上位置)に停止される。また、図4(b)に示すように、前記針棒抱き14のやや上方には、位置決め部材16が針棒10に固定されている。位置決め部材16には、後方に突出する突出片16aが形成されている。また、図2に示すように、針棒10の下端部には、針棒糸案内17が設けられている。
また、ミシン頭部5には、図示しない加工布を押えるための押え足18が設けられている。押え足18は、針棒10の右側に位置する。詳しい図示及び説明は省略するが、押え足18は、加工布を押える下降位置と、加工布から上方に離間した上昇位置との間で上下動可能に設けられている。押え足18は、図示しない押え駆動機構により上下駆動される。尚、詳しく図示はしないが、ミシン頭部5には、針棒10の上下動に同期して天秤を上下動させる天秤駆動機構、上糸Tの張力を調整する糸調子機構等も設けられている。
そして、ミシン頭部5には、糸通し機構20と、糸払い機構21とが設けられている。糸通し機構20は、図8に示すように、前記糸駒からの上糸Tを、前記縫針11の目孔11aに自動で通すためのものである。糸通し機構20は、針棒10の後側に位置する。また、糸払い機構21は、縫製動作後の上糸Tを、前記ミシンベッド2(加工布)の上面側に引出すように糸払いするものである。糸通し機構20及び糸払い機構21の詳細については後述する。
一方、縫針11及び押え足18の下方で前記ミシンベッド2の上面には、針板(図示略)が設けられている。針板には、縫針11が挿通する針孔が形成されている。針板の下方のミシンベッド2内には、図示はしないが、回転釜や、糸切り機構等が設けられている。回転釜は、下糸ボビンを収容し縫針11と協働して縫目を形成する。糸切り機構は、縫製動作終了後、加工布につながっている上糸T及び下糸を、針板の下面側で切断する。糸切り機構は、周知の機構であるので図示しないが、固定刃、移動刃、及び糸切りモータ22(図3参照)等を備える。糸切り機構は、糸切りモータ22により駆動される。この場合、糸切り機構による糸切り動作は、刺繍縫製動作後に自動で実行される、或いはユーザによるキースイッチ6(糸切りキー)の操作により実行される。
更に、詳しく図示はしないが、ミシンベッド2には、刺繍枠移動機構23(図3参照)が設けられている。刺繍枠移動機構23は、加工布を保持した刺繍枠を移動させる機構である。刺繍枠移動機構23は、周知の機構であり詳しい説明は省略するが、X方向モータ及びY方向モータ等を備え、X方向モータ及びY方向モータにより駆動される。後述するミシン1の制御装置50は、刺繍データに基づいて、X方向モータ及びY方向モータを夫々駆動制御し、加工布を保持した刺繍枠を、ミシンベッド2上の水平面において、左右方向(X方向)及び前後方向(Y方向)に移動させる。
図3は、本実施形態のミシン1の制御系の構成を示している。ミシン1は、制御装置50を備えている。詳しく図示はしないが、制御装置50は、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータを主体に構成されている。ROMには、種々の刺繍模様の刺繍データ、縫製制御プログラム等が記憶されている。制御装置50には、キースイッチ6及びタッチパネル8が夫々接続され、キースイッチ6及びタッチパネル8からの操作信号が入力される。また、制御装置50は、液晶ディスプレイ7が接続され、液晶ディスプレイ7の表示を制御する。また、制御装置50には、駆動回路59、60、61、62が夫々接続されている。駆動回路59、60、61、62には、ミシンモータ9、刺繍枠移動機構23のX方向モータ及びY方向モータ、糸切りモータ22、糸通し・糸払いモータ24が夫々接続されている。制御装置50は、前記各モータの駆動を夫々制御する。
さて、前記糸通し機構20及び糸払い機構21について、図2、図4〜図8を参照しながら説明する。本実施形態では、糸通し機構20及び糸払い機構21は、共通の駆動源であるアクチュエータにより駆動される。アクチュエータは、具体的には、糸通し・糸払いモータ24である。ここで、図4は、糸通し機構20及び糸払い機構21のいずれも動作していない待機状態(後述のフック作動機構部の準備位置)を示している。図5は、糸通し機構20が動作した糸通し状態(後述のフック作動機構部の糸通し位置)を示している。また、図6は、糸払い機構21のワイパの動作状態(糸払い動作の途中位置)を示し、図7は、糸払い機構21のワイパが作用位置まで搖動した動作完了状態を示している。
図2、図4(b)に示すように、糸通し機構20は、前記針棒10の後側に位置して設けられた第1,第2の糸通し軸26,27と、第1,第2の糸通し軸26,27の下端部に設けられたフック作動機構部28と、第1の糸通し軸26を回動させるための回動機構(図示略)とを備えている。前記フック作動機構部28は、前記第1の糸通し軸26の下端部に設けられた糸通しフック29(図8参照)及び糸案内部材30、前記第2の糸通し軸27の下端部に位置して設けられた糸保持部31等から構成される。
前記第1の糸通し軸26は、針棒10のすぐ後側を上下方向に延び、針棒台13に上下動及び回動可能に支持されている。前記第2の糸通し軸27は、該第1の糸通し軸26のすぐ後側に位置して針棒台13に上下動可能に支持されている。第2の糸通し軸27は、第1の糸通し軸26よりも長い。第2の糸通し軸27の上端部は、前記取付板12の上端近傍まで延びている。第2の糸通し軸27は、図示しない圧縮コイルばねのばね力によって、針棒台13に対し常に上方(図4に示す最上位置)に向けて付勢されている。また、第1及び第2の糸通し軸26及び27は、下端部に設けられたフック作動機構部28を介して連結しており、一体的に上下動する。
図4(b)等に示すように、前記第1の糸通し軸26の上端部寄り部位であり、第2の糸通し軸27の中間部には、第1,第2の糸通し軸26、27に跨るように、糸通しスライダ32が上下動可能に設けられている。詳しく図示はしないが、糸通しスライダ32には、前記第1の糸通し軸26を回動させるためのカム溝が形成されている。第1の糸通し軸26の上部には、位置決めピン33が固定されている。詳しく図示しないが、位置決めピン33の両端部は、第1の糸通し軸26の長手方向と直交する方向に延びるように突出している。位置決めピン33の一方の端部である第1端部は、前記カム溝と係合する。位置決めピン33と、カム溝とにより、回動機構が構成されている。また、第1の糸通し軸26には、位置決めピン33の下方に位置して、ばね受けピン34が設けられている。このばね受けピン34と、前記糸通しスライダ32との間に、図示しない圧縮コイルばねが設けられている。なお、糸通しスライダ32及びカム溝の詳細は、特開2009−165737号公報に記載の構成と同様であるので、当該公報を参照されたい。
糸通しスライダ32に対して下方への押下げ力が作用していない状態では、図4に示すように、圧縮コイルばねのばね力によって、糸通しスライダ32及び第1,第2の糸通し軸26,27が、取付板12に対して最上位置(フック作動機構部28の準備位置)に位置している。この準備位置では、第1,第2の糸通し軸26,27の下端に設けられるフック作動機構部28(糸通しフック29及び糸案内部材30等)が、針棒10の下端部近傍に位置されている。フック作動機構部28が、準備位置にある状態で、ユーザによる上糸Tの糸掛け操作(糸通しの準備操作)が行われる。
そして、前記第2の糸通し軸27の上部(糸通しスライダ32の上部)には、移動部材としてのラック部材35が上下動可能に支持されている。ラック部材35は、第2の糸通し軸27に上下動可能に支持される支持板36と、支持板36の後面側に固定されたラック37とからなる。ラック37の歯部は、右方を向いている。前記支持板36は、縦長の平板部36aと、平板部36aの上下端の夫々から前方に延びるように直角に折曲げられた折曲部36b,36cとを有する形状をなす。上下の折曲部36b,36cには、夫々挿通孔(図示せず)が形成されている。更に、図4(b)に示すように、前記支持板36の平板部36aの上方には、前方に延びる係止片38が一体に設けられている。係止片38は、後述する糸払い機構21を動作させるために設けられる。
ラック部材35は、前記支持板36の折曲部36b,36cの各挿通孔に、前記第2の糸通し軸27が通されることにより該第2の糸通し軸27に対し上下方向に移動可能に支持されている。このとき、支持板36の下側の折曲部36cが、前記糸通しスライダ32の上部に位置している。ラック部材35を下方へ移動させると、折曲部36cが糸通しスライダ32の上端部に当接して下方に押圧し、糸通しスライダ32を下降させる。ラック部材35は、ミシン頭部5内に設けられた駆動機構39により駆動されて、所定の範囲を上下方向に移動する。駆動機構39の詳細は後述する。
図4に示す待機状態、即ち、糸通し機構20及び糸払い機構21のいずれも動作していない通常時には、ラック部材35は、所定の中立位置に位置する。この中立位置では、支持板36の下側の折曲部36cが、前記糸通しスライダ32の上端部に当接しており、糸通しスライダ32及び第1,第2の糸通し軸26,27が、取付板12に対して最上位置(フック作動機構部28の準備位置)に位置している。
上記したフック作動機構部28の準備位置から、駆動機構39によりラック部材35が下降すると、圧縮コイルばねのばね力に抗して、糸通しスライダ32が下方に押圧され、第1,第2の糸通し軸26,27及びフック作動機構部28が下降する。図5に示すように、第1の糸通し軸26に設けられた位置決めピン33の第2端部(第1端部とは反対側の端部)が、針棒10に設けられた位置決め部材16の突出片16aに当接するまで降下すると、この位置にて第1の糸通し軸26の下降が規制される。この位置が、フック作動機構部28の糸通し動作位置とされる。糸通し動作位置においては、図8に示すように、前記糸通しフック29の高さ位置が縫針11の目孔11aの高さと一致し、糸通し動作が可能となる。
位置決めピン33の第2端部が突出片16aに当接して第1の糸通し軸26の下降が規制された後、ラック部材35が更に降下すると、糸通しスライダ32が、圧縮コイルばねのばね力に抗して、第1,第2の糸通し軸26,27に対して更に下降する。これにより、糸通しスライダ32のカム溝内を、第1の糸通し軸26の位置決めピン33の第1端部が斜め方向に相対的に上昇する。これより第1の糸通し軸26ひいては糸通しフック29が上面から見て時計回り方向(図8で矢印A方向)に回動され、糸通し動作が行われる。
また、この後、ラック部材35が上昇して、糸通しスライダ32に対する押下げ力が解除される。すると、圧縮コイルばねのばね力により、糸通しスライダ32が第1,第2の糸通し軸26,27に対して上昇する。この際、糸通しスライダ32のカム溝内を、第1の糸通し軸26の位置決めピン33の第1端部が相対的に下降する。これより、第1の糸通し軸26ひいては糸通しフック29等が戻り方向(図8で矢印B方向)に回動される。その後、ラック部材35が更に上昇して中立位置に戻ることにより、糸通しスライダ32が前記所定距離だけ上昇され、第1,第2の糸通し軸26,27やフック作動機構部28は、図4に示す準備位置に戻される。
詳しい説明は省略するが、前記フック作動機構部28に設けられる糸通しフック29は、図8に示すように、先端に、上糸Tを引掛けるための下向きのフック部29aを有している。フック部29aは、前記縫針11の目孔11aに対し挿通可能である。そして、第1の糸通し軸26の下端部には、糸通しフック29の両側に位置するガイド部材40,40や、糸保持ワイヤ41も設けられている。詳しく図示はしないが、第1の糸通し軸26の下端部に設けられた糸案内部材30は、糸通し動作時(第1の糸通し軸26の回動時)に、図8(a)に示すように、縫針11の目孔11aの前方において上糸Tを水平状態に保持する。
また、詳しい図示及び説明は省略するが、第2の糸通し軸27の下端部に設けられた糸保持部31は、ガイド板、糸保持皿、糸保持皿をガイド板に対し圧接させるコイルばね等を備えている。糸保持部31は、上糸Tの先端部分を保持するためのものである。ユーザが準備操作において、上糸Tの途中部を、糸保持部27のガイド板と糸保持皿との間に差込む(奥まで入り込む)ように通すことにより、上糸Tは糸保持部27に保持される。尚、図示はしないが、前記ミシン頭部5の左側面には、糸切断部材が設けられている。糸切断部材は、糸掛け経路を通した後の上糸Tの先端部を適切な長さに切断するためのものである。
この場合、ユーザは、糸通し機構20を動作させるに先立ち、次のような糸通しの準備操作を行う。即ち、フック作動機構部28が準備位置に位置されている状態において、ユーザは、糸駒から引出した上糸Tを、糸掛け径路である糸調子機構、天秤、及び針棒10の針棒糸案内17を順次通した後、フック作動機構部28の糸案内部材30に引掛けて保持させ、さらに糸保持部31のガイド板と糸保持皿との間を通すようにする。その後、糸切断部材により上糸Tの先端を切断し除去する。これにて、上糸Tは、必要な糸掛け経路に沿って順に掛けられた状態で糸保持部31にて保持される、このように、糸通しの準備が完了する。
そして、この状態から、ユーザのタッチパネル8の操作により糸通し動作の実行が指示されると、制御装置50は、糸通し・糸払いモータ24を制御して駆動機構39を駆動させ、ラック部材35を下降させる。ラック部材35が降下すると、上記のようにフック作動機構部28が糸通し動作位置まで下降し、第1の糸通し軸26が回動する。これにより、図8(a)に示すように、糸通しフック29が矢印A方向に移動して縫針11の目孔11aを通り、目孔11aの前方で糸案内部材30により、ぴんと水平に張った状態に保持された上糸Tをフック部29aにより引掛ける。その後、ラック部材35が上昇すると、第1の糸通し軸26が戻る方向に回動されて、図8(b)に示すように、糸通しフック29が矢印B方向に移動して上糸Tが糸通しフック29と共に目孔11aを通される。
ここで、前記駆動機構39について説明する。図2、図4〜図7に示すように、前記ミシン頭部5内には、前記第2の糸通し軸27のやや後方に位置してモータ取付板42が固定されている。モータ取付板42の後面側に、アクチュエータとしての糸通し・糸払いモータ24が取付けられている。糸通し・糸払いモータ24は、具体的には、パルスモータである。糸通し・糸払いモータ24の出力軸は、モータ取付板42の前面に突出ている。糸通し・糸払いモータ24の出力軸の先端には、駆動ギヤ43が固定されている。
図4(a)等に示すように、モータ取付板42の前面には、駆動ギヤ43の下方に位置して第1の軸44が固定されている。第1の軸44には、径大な第1のギヤ45及び径小な第2のギヤ46が一体的に形成された中間ギヤ部材63が回転可能に支持される。径大な第1のギヤ45は、前記駆動ギヤ43に噛合っている。また、モータ取付板42の前面には、第1の軸44の更に下方に位置して第2の軸47が固定されている。第2の軸47には、径大な第3のギヤ48及び径小な第4ギヤ49が一体的に形成された従動ギヤ部材64が回転可能に支持される。径大な第3のギヤ48は、前記第2のギヤ46に噛合っている。第4ギヤ49は、前記ラック37に噛合っている。このように、駆動機構39は、糸通し・糸払いモータ24、駆動ギヤ43、中間ギヤ部材63、従動ギヤ部材64により構成される。
糸通し・糸払いモータ24の回転は、駆動ギヤ43から、中間ギヤ部材63、従動ギヤ部材64に順に伝達される。従動ギヤ部材64の第4ギヤ49の回転により、前記ラック37即ちラック部材35が上下に移動する。このとき、糸通し・糸払いモータ24の出力軸(駆動ギヤ43)が時計回り方向に回転すると、ラック部材35が上方に移動する。一方、糸通し・糸払いモータ24の出力軸(駆動ギヤ43)が反時計回り方向に回転すると、ラック部材35が下方に移動する。
糸通し・糸払いモータ24は、制御装置50により回転方向及び回転量が制御され、ラック部材35を、図4に示す中立位置から、下方及び上方の所定の範囲について移動させる。ラック部材35の移動範囲は、中立位置から下方の第1範囲(図5参照)と、中立位置から上方の第2範囲(図6、図7参照)とを含んでいる。このとき、ラック部材35が、第1範囲を移動することにより、上記したように糸通し機構20を動作させる。また、ラック部材35が、第2範囲を移動することにより、次に述べる糸払い機構21を動作させる。別の言い方をすれば、ラック部材35は、糸通し・糸払いモータ24の所定方向、即ち反時計回り方向の回転により第1範囲を往動し、糸通し・糸払いモータ24の所定方向とは逆方向、即ち時計回り方向の回転により第2範囲を往動する。
次に、前記糸払い機構21について説明する。糸払い機構21は、針棒10の上昇位置(針上位置)において、上糸Tを払うワイパ25と、ワイパ25を移動させるための伝達機構65とを備えている。ワイパ25は、軸部材51と第1レバー53とからなる。ワイパ25は、後方から前方に向けて移動、この場合揺動して、軸部材51が縫針11及び押え足18の下方を通過するように構成されている。軸部材51は、図7(a)に示すように、水平左右方向に延び、先端部(左端部)近傍には、上糸Tに接触する部位である径小部51aが形成されている。軸部材51の基端部(右端部)は、第1レバー53の先端部に固定されている。第1レバー53の基端部は、図4〜図7に示すように、後述する枢支軸52に揺動可能に支持されている。
図2、図4(b)等に示すように、前記針棒台13の下端部には、針棒10よりも前方に位置して水平左右方向に長い枢支軸52が固定されている。枢支軸52は、第1レバー53の基端部を揺動可能に支持、即ちワイパ25を揺動可能に支持する。よって、ワイパ25は、枢支軸52を中心として、待機位置(図2、図4〜図5参照)と、作用位置(図7参照)との間で揺動可能に構成される。ここで、ワイパ25の軸部材51は、待機位置では、縫針11の後方上部に位置しており、作用位置では、縫針11の前方まで移動(揺動)した位置にある。
前記枢支軸52の左端部には、第2レバー54の基端部が回動(揺動)可能に支持されている。第2レバー54の先端は、前方に延びている。第2レバー54の先端部左側面には、係合ピン66が固定されている。前記第1レバー53の基端部と、第2レバー54の基端部は、左右方向に延びる連結部55によって連結されている。よって、第1レバー53と第2レバー54とは、一体的に揺動する。
一方、図2、図4(b)に示すように、前記取付板12の上端側部分には、前記第2の糸通し軸27よりも前方に位置して、上下に長い楕円形の長穴12aが形成されている。長穴12a内には、作動ピン56が上下にスライド移動可能に支持されている。作動ピン56は、取付板12の右面側において、前記ラック部材35の係止片38のすぐ上部に位置している。
図2に示すように、取付板12の左面側において、連桿57が設けられている。連杆57の上端部の右側面には、前記作動ピン56が固定されている。連杆57の下端部には貫通孔(図示略)が形成されている。連杆57の貫通孔は、前記第2レバー54の係合ピン66と回転可能に連結している。更に、連桿57の上部と取付板12との間には、コイルばね58が設けられている。コイルばね58のばね力により、連杆57は常に下方に付勢されている。これにより、作動ピン56が常に下方(長穴12a内の最下部)に付勢されると共に、第2レバー54を介して、ワイパ25が待機位置に位置するよう付勢される。上記した第2レバー54、連桿57等からワイパ25を移動させるための伝達機構65が構成されている。
通常時の状態では、図2、図4、図5に示すように、作動ピン56が長穴12a内の最下部に位置し、ワイパ25が待機位置に位置している。ここで、前記駆動機構39の糸通し・糸払いモータ24の出力軸が時計回り方向に回転すると、前記中間ギヤ部材63及び従動ギヤ部材64を介して、ラック部材35が第2範囲を上昇する。これより、図6に示すように、前記係止片38が、作動ピン56をばね力に抗して上方に押上げる。これにより、連杆57が上昇し、これに伴い第2レバー54の先端も上方に回動する。第2レバー54の回動に伴って、図2、図6に矢印Cで示すように、第1レバー53即ちワイパ25が回動し、作用位置に向けて揺動する。
図7に示すように、前記係止片38の上昇に伴って作動ピン56が長穴12a内の最上位置まで移動すると、ワイパ25が作用位置まで揺動する。その後、糸通し・糸払いモータ24の出力軸が反時計回り方向に回動することで、前記中間ギヤ部材63及び従動ギヤ部材64を介して、ラック部材35が第2範囲内を下降する。これより、作動ピン56が下降して、連杆57及び第2レバー54を介して、ワイパ25が矢印Cとは反対方向に移動する。そして、ワイパ25が元の待機位置に戻される。このようなワイパ25の糸払い動作によって、縫製動作後の縫針11から繋がっている上糸Tが、ミシンベッド2(加工布)の上面側に引出される。
次に、ミシン1の縫製動作、糸切り動作、及び糸払い動作の関係を説明する。前記制御装置50は、刺繍データに基づいて、ミシンモータ9、刺繍枠移動機構23等を駆動制御し、加工布に対する刺繍模様の縫製動作を自動的に実行する。また、制御装置50は、加工布に対する刺繍模様の縫製動作が完了すると、針棒10(及び押え足18)を上昇位置に停止させた状態で、糸切りモータ22を駆動して、ミシンベッド2内における糸切り動作を実行させる。
制御装置50は、糸切り動作の実行後、糸払い機構21による糸払い動作を実行させる。糸払い動作では、上記のように、駆動機構39により、ラック部材35を中立位置から第2範囲を上昇及び下降させて中立位置に戻すことが行われる。更に、制御装置50は、ユーザのタッチパネル8の操作により、糸通し動作の実行が指示されると、上記したように、糸通し機構20による糸通し動作を実行させる。糸通し動作では、上記のように、駆動機構39により、ラック部材35を中立位置から第1範囲を下降及び上昇させて中立位置に戻すことが行われる。
次に、以上のように構成された本実施形態のミシン1の作用・効果について述べる。本実施形態では、糸通し機構20及び糸払い機構21を駆動する共通の駆動源となるアクチュエータとして糸通し・糸払いモータ24を採用する。そして、1つの糸通し・糸払いモータ24を含む駆動機構39により、糸通し機構20及び糸払い機構21の双方を駆動することができる。これにより、糸通し機構20及び糸払い機構21の夫々に駆動源を別々に設ける場合に比べて、全体としての構成の簡単化を図ることができる。更には、コストダウンや、省スペース化を図ることができるという優れた効果も得ることができる。
特に本実施形態では、駆動機構39に所謂ラック&ピニオン機構を採用し、ラック部材35の移動範囲として、糸通し機構20を動作させる第1範囲と、この第1の範囲とは異なる範囲であって糸払い機構21を駆動する第2範囲とを有する構成にした。即ち、ラック部材35が、糸通し・糸払いモータ24の反時計方向の回転により第1範囲を移動し、糸通し・糸払いモータ24の時計方向の回転により第2範囲を移動する構成とした。これにより、駆動機構39の構成を比較的簡単にすることができると共に、糸通し・糸払いモータ24の制御が容易になるといった利点を得ることができる。
更に本実施形態では、糸払い機構21として、ワイパ25を、所定の待機位置と糸払いを行う作用位置との間で揺動可能に支持すると共に、ラック部材35の移動をワイパ25に伝達するために、第2レバー54及び連桿57から伝達機構65を構成した。これにより、糸払い機構21を比較的簡単な構成で済ませることができ、且つ糸払い動作を確実に行うことができる。
尚、上記実施形態では、糸通し機構20及び糸払い機構21を駆動する駆動機構として、ラック&ピニオン機構を採用したが、それ以外にも、様々な機構を採用することが可能である。例えばモータにより駆動されるボールねじ機構を採用して、移動部材を往復移動させる構成としても良い。その他、本発明は上記し且つ図面に示した実施形態に限定されるものではなく、例えば糸通し機構20や糸払い機構21の具体的な構成、ミシンの全体構成としても様々な変更が可能である等、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得るものである。