本発明は、塗装金属板の製造方法に関する。前述のように、従来、塗装金属板の表面に、メチルシリケートやエチルシリケート等のオルガノシリケートまたはその縮合物を含む組成物を塗布し、雨筋汚れを防止することが試みられている。オルガノシリケートやその縮合物は、金属板表面に塗布されると表面に移動する。そして、組成物の硬化膜の表面で、オルガノシリケートやその縮合物が加水分解され、塗膜表面にシラノール基やシロキサン結合が生じることで、塗膜表面が親水化し、耐雨筋汚れ性が発現すると考えられる。しかしながら、オルガノシリケートやその縮合物の塗膜表面への移動性と、塗膜表面での加水分解性は相反し、これらを同時に満たすことは困難である。したがって、オルガノシリケートまたはその縮合物を含む組成物を金属板表面に塗布し、塗膜を形成しただけでは、塗膜表面に十分に親水化することが難しく、塗装金属板に高い耐雨筋汚れ性が要求される場合には、その性能が不十分であった。
また、金属板表面に形成された塗膜にコロナ放電処理を行い、塗装金属板表面の親水性を高めることも行われている。しかしながら、コロナ放電処理では、均一に塗膜表面を親水化することができず、当該方法によっても、雨筋汚れを十分に抑制可能な塗装金属板が得られなかった。さらに、プラズマ処理では、その処理に時間がかかり、大掛かりな装置が必要である、等の課題もあった。
これに対し、本発明の塗装金属板の製造方法では、特定の割合でエトキシ基を有するオルガノシリケートの縮合物(以下、「オルガノシリケート縮合物」とも称する)を含む組成物を塗布し、硬化させて塗膜を形成する。上記オルガノシリケート縮合物は、特定の割合でエトキシ基を含むため、加水分解性され難く、組成物中の水分の影響を受け難い。つまり、組成物中でも非常に安定である。また、上記オルガノシリケート縮合物はエトキシ基を一定量含むため、組成物中の樹脂等と相容し難い。したがって、金属板表面に組成物を塗布すると、十分な量のオルガノシリケート縮合物が表面に移動する。
そして、本発明の塗装金属板の製造方法では、上記塗膜の形成後、フレーム処理を行う。フレーム処理によれば、塗膜表面に存在するオルガノシリケート縮合物を効率良く、かつムラなく加水分解することが可能である。したがって、本発明の方法によれば、塗膜表面に十分な量のシラノール基やシロキサン結合をムラなく生じさせることができ、塗膜表面の親水性を均一に高くすることができる。なお、フレーム処理によれば、大掛かりな処理装置を必要とすることなく、短時間で効率よく塗膜表面を処理することができる、との利点もある。
以上のことから、本発明の方法によれば、雨筋汚れ等が生じ難い塗装金属板が得られる。このような塗装金属板は、各種建築物の外装建材等に適用可能である。以下、本発明の塗装金属板の製造方法の各工程について説明する。
(塗膜の形成工程)
本工程では、金属板に、オルガノシリケートの縮合物を含む組成物を塗布し、これを硬化させて塗膜を得る。金属板の表面に組成物を塗布する方法は特に制限されず、公知の方法から適宜選択することが可能である。組成物の塗布方法の例には、ロールコート法や、カーテンフロー法、スピンコート法、エアースプレー法、エアーレススプレー法および浸漬引き上げ法が含まれる。これらの中でも、ロールコート法が効率よく、所望の厚みを有する塗膜を得やすいとの観点から好ましい。
また、組成物の硬化方法は、組成物中の樹脂の種類等に応じて適宜選択され、例えば加熱による焼き付け等とすることができる。焼付け処理時の温度は、組成物中の樹脂等の分解を防止し、かつ均質な塗膜を得るとの観点から、120〜300℃であることが好ましく、150〜280℃であることがより好ましく、180〜260℃であることがさらに好ましい。焼付け処理時間は特に制限されず、上記と同様の観点から、3〜90秒であることが好ましく、10〜70秒であることがより好ましく、20〜60秒であることがさらに好ましい。
また、組成物の焼き付け時には、短時間で組成物を硬化させるため、板面風速が0.9m/s以上となるように風を吹き付けることが好ましい。
また、金属板上に形成する塗膜の厚みは、塗装金属板の用途等に応じて適宜選択されるが、通常3〜30μmの範囲内である。当該厚みは、焼付け塗膜の比重、およびサンドブラスト等による塗膜除去前後の塗装金属板の重量差から重量法によって求められる値である。塗膜が薄すぎる場合、塗膜の耐久性および隠蔽性が不十分となることがある。一方、塗膜が厚すぎる場合、製造コストが増大するとともに、焼付け時にワキが発生しやすくなることがある。
ここで、組成物を塗布する金属板は、一般的に建築板として使用されている金属板を使用することができる。このような金属板の例には、溶融Zn−55%Al合金めっき鋼板等のめっき鋼板;普通鋼板やステンレス鋼板等の鋼板;アルミニウム板;銅板等が含まれる。金属板には、本発明の効果を阻害しない範囲で、その表面に化成処理皮膜や下塗り塗膜等が形成されていてもよい。さらに、当該金属板は、本発明の効果を損なわない範囲で、エンボス加工や絞り成形加工等の凹凸加工がなされていてもよい。
金属板の厚みは特に制限されず、塗装金属板の用途に応じて適宜選択される。例えば、塗装金属板を金属サイディング材に使用する場合には、金属板の厚みは0.15〜0.5mmとすることができる。
一方、塗膜を形成するための組成物は、オルガノシリケートの縮合物を少なくとも含んでいればよいが、オルガノシリケート縮合物の他に、樹脂や硬化剤、無機粒子、有機粒子、着色顔料、脱水剤、溶媒等を含む組成物とすることができる。
ここで、本明細書における「オルガノシリケート」とは、下記一般式(1)で表される化合物とする。
Si−(OR)4 (1)
上記一般式(1)において、Rはそれぞれ独立に、炭素数1〜10の炭化水素基を表し、複数のRは同一であってもよく、異なっていてもよい。
また、本明細書でいう「オルガノシリケートの縮合物」とは、上記オルガノシリケートが直鎖状または分岐鎖状に重縮合した構造を有する重合体をいう。つまり、オルガノシリケート縮合物は、−Si−O−で表されるシロキサン結合からなる骨格と、当該シロキサン結合のSiに結合した−OR(Rは上記一般式(1)におけるRと同様である)で表されるアルコキシ基を構造中に含む。なお、「オルガノシリケートの縮合物」には、オルガノシリケートを加水分解・重縮合して得られる重合体だけでなく、当該重合体の合成後、アルコキシ基の一部または全部を、所望の炭素数を有するアルコキシ基(例えばエトキシ基)に置換した重合体等も含む。
ここで、オルガノシリケート縮合物中のアルコキシ基の総数に対するエトキシ基の数の割合は、50%以上であり、70%以上であることが好ましい。上記割合が50%以上であると、オルガノシリケート縮合物と後述の樹脂等との相溶性が十分に低くなる。また、上記割合が50%以上であると、オルガノシリケート縮合物が、組成物中の水分によって加水分解され難くなる。なお、オルガノシリケート縮合物が組成物中の水分によって、加水分解され難くなることで、組成物の増粘が生じ難くなり、組成物の保存安定性が高まるとの利点もある。なお、上記エトキシ基の割合は、1H−NMRまたは13C−NMRで測定されるシグナルの積分値から特定される。
また、オルガノシリケート縮合物が含むアルコキシ基以外のアルコキシ基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、芳香環を有していてもよい。ただし、アルコキシ基中の炭素数が多くなると、フレーム処理によって加水分解され難くなる傾向がある。そこで、アルコキシ基の炭素数は少ないことが好ましい。
オルガノシリケート縮合物が含む、エトキシ基以外のアルコキシ基の例には、メトキシ基、n−プロピルオキシ基、iso−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、iso−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、iso−ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、iso−ヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基、フェニルオキシ基、トルイルオキシ基、キシリルオキシ基、ナフチルオキシ基等が含まれる。これらの中でもメトキシ基が特に好ましい。
ここで、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」とも称する)で測定されるオルガノシリケート縮合物の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、700以上3000未満であることが好ましく、より好ましくは1000〜2000である。重量平均分子量が700未満であると、組成物の硬化時にオルガノシリケート縮合物が蒸発しやすく、塗膜表面のオルガノシリケート縮合物の量が少なくなったり、蒸発したオルガノシリケート縮合物の硬化物(シリカ)が、装置内に付着しやすくなる。また上述のように、組成物の焼き付け時に、板面風速が0.9m/s以上となるように風を吹き付けると特に、組成物中のオルガノシリケートが非常に蒸発しやすくなり、焼き付けのためのオーブン内が、シリカによって汚染されやすくなる。一方で、重量平均分子量が3000以上であると、オルガノシリケート縮合物どうしが縮合した際の粘度が高くなる。つまり、組成物中の少量の水分によって、組成物の粘度が上昇しやすくなる。
ここで、オルガノシリケート縮合物は、エトキシ基を含むオルガノシリケートを加水分解重縮合して調製したものであってもよく、市販品であってもよい。また、オルガノシリケート縮合物は、メチルシリケート縮合物のメトキシ基の一部を、エトキシ基で置換したもの(以下、「エトキシ部分置換メチルシリケート縮合物」とも称する)であってもよい。エトキシ部分置換メチルシリケート縮合物は、エタノールとメチルシリケート縮合物とを、トリエチルアミン等の触媒存在下で反応させることにより、調製することができる。このときの反応時間によって、エトキシ基の割合を所望の範囲に調整することができる。
上記オルガノシリケート縮合物(エチルシリケート縮合物)の市販品の例には、シリケート40(多摩化学工業株式会社製)、エチルシリケート48(コルコート株式会社製)等が含まれる。また、エトキシ部分置換メチルシリケート縮合物を調製するためのメチルシリケート縮合物の市販品の例には、メチルシリケート53A(コルコート株式会社製)、メチルシリケートMS57、およびメチルシリケートMS56(いずれも三菱化学株式会社製)等が含まれる。
組成物は、その固形分100質量部に対して、オルガノシリケート縮合物を2質量部以上含むことが好ましく、3〜7質量部含むことがより好ましい。組成物が、オルガノシリケート縮合物を上記範囲含むことで、塗膜表面の親水性を十分に高めることが可能となり、雨筋汚れが生じ難くなる。
一方、樹脂は、組成物を塗布して得られる塗膜のバインダとなる成分である。当該樹脂の例には、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アミノ−ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アミノ−アクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂等の高分子化合物が含まれる。これらの中でも、汚れ付着性が低いことから、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アミノ−ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アミノ−アクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂が好ましく、特に耐候性が高いことから、ポリエステル樹脂またはアクリル樹脂であることが好ましい。
ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸および多価アルコールを重縮合させた公知の樹脂とすることができる。多価カルボン酸の例には、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸及びこれらの無水物;2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類及びこれらの無水物;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸類及びこれらの無水物;γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類;トリメリット酸、トリメジン酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸類;等が含まれる。ポリエステル樹脂は、上記多価カルボン酸由来の構造を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
多価アルコールの例には、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−ドデカンジオール、1,2−オクタデカンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAアルキレンオキシド付加物、ビスフェノールSアルキレンオキシド付加物等のグリコール類;トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール類等が含まれる。ポリエステル樹脂は、上記多価アルコール由来の構造を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
上記樹脂が、ポリエステル樹脂である場合、GPCで測定される数平均分子量(ポリスチレン換算)は、2,000〜8,000であることが好ましい。数平均分子量が2,000より小さくなると塗装金属板の加工性が低下することがあり、塗膜ワレが発生しやすくなることがある。また、数平均分子量が8,000より大きくなると、得られる塗膜の架橋密度が低くなる。そのため、塗膜の耐候性が低下することがある。加工性と耐候性のバランスから数平均分子量は3,000〜6,000であることが特に好ましい。
一方、アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルをモノマー成分として含む樹脂であればよく、(メタ)アクリル酸エステルと共に、他のモノマー成分を一部に含んでいてもよい。本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリルおよび/またはメタクリルをいう。アクリル樹脂を構成するモノマー成分の例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−、i−、またはt−ブチル、(メタ)アクリル酸へキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロへキシル等の炭素数1〜18のエステル基を有する(メタ)アクリルエステルまたは(メタ)アクリルシクロアルキルエステル;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の炭素数2〜8のヒドロキシアルキルエステル基を有する(メタ)アクリルヒドロキシエステル;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN−置換(メタ)アクリルアミド系モノマー;スチレン、ビニルトルエン、2−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン等の芳香族ビニルモノマー;(メタ)アクリル酸;グリシジル(メタ)アクリレート等が含まれる。アクリル樹脂は、これらのモノマー成分を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
上記樹脂がアクリル樹脂である場合、GPCで測定される数平均分子量(ポリスチレン換算)は特に制限されないが、塗膜硬度、耐候性に優れた塗膜を得る観点から、1,000〜200,000であることが好ましく、5,000〜100,000であることがより好ましく、10,000〜50,000であることがさらに好ましい。
組成物中における樹脂の量は、塗装金属板の用途や、樹脂の種類に応じて適宜選択される。得られる塗膜の強度等の観点から、組成物は、その固形分100質量部に対して、上記樹脂を25〜60質量部含むことが好ましく、30〜50質量部含むことがより好ましい。
一方、組成物が含む硬化剤は、塗膜の性状や物性(例えば塗膜表面硬度や耐久性)等を調整するための成分であり、硬化剤の一例として、上記樹脂を架橋可能な化合物が挙げられる。硬化剤は、樹脂の種類に応じて適宜選択される。例えば、上記樹脂がポリエステル樹脂である場合、硬化剤は、メラミン系硬化剤であることが好ましい。メラミン系硬化剤の例には、メチロールメラミンメチルエーテル等のメチル化メラミン系樹脂硬化剤;メチロールメラミンブチルエーテル等のn−ブチル化メラミン系樹脂硬化剤;メチルとn−ブチルとの混合エーテル化メラミン樹脂硬化剤等が含まれる。
組成物中における硬化剤の量は、塗装金属板の用途や、樹脂の種類に応じて適宜選択される。組成物は、上記樹脂100質量部に対して、上記硬化剤を5〜20質量部含むことが好ましく、7〜15質量部含むことがより好ましい。硬化剤の量が上記範囲であると、得られる塗膜の硬化性が良好になる。
組成物は、無機粒子や有機粒子を含んでもよい。組成物がこれらを含むと、得られる塗膜の表面粗さ等が調整されやすくなる。ここで、無機粒子または有機粒子の平均粒子径は4〜80μmであることが好ましく、10〜60μmであることがより好ましい。無機粒子や有機粒子の平均粒子径は、コールターカウンター法で測定される値である。なお、無機粒子や有機粒子の形状は特に制限されないが、得られる塗膜の表面状態を調整しやすいとの観点から、略球状であることが好ましい。
無機粒子の例には、シリカ、硫酸バリウム、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、ガラスビーズ、ガラスフレークが含まれる。また、有機粒子の例には、アクリル樹脂やポリアクリロ二トリル樹脂からなる樹脂ビーズが含まれる。これらの樹脂ビーズは、公知の方法を用いて製造したものであってもよく、市販品であってもよい。市販のアクリル樹脂ビーズの例には、東洋紡株式会社製の「タフチック AR650S(平均粒径18μm)」、「タフチック AR650M(平均粒径30μm)」、「タフチック AR650MX(平均粒径40μm)」、「タフチック AR650MZ(平均粒径60μm)」、「タフチック AR650ML(平均粒径80μm)」が含まれる。また、市販のポリアクリロニトリル樹脂ビーズの例には、東洋紡株式会社製の「タフチック A−20(平均粒径24μm)」、「タフチック YK−30(平均粒径33μm)」、「タフチック YK−50(平均粒径50μm)」および「タフチック YK−80(平均粒径80μm)」等が含まれる。
組成物中における無機粒子および/または有機粒子の量は、所望の塗膜の表面状態等に応じて適宜選択される。通常、組成物の固形分100質量部に対する無機粒子および/または有機粒子の合計量は、1〜40質量部とすることができる。
またさらに、組成物は、必要に応じて着色顔料を含んでいてもよい。着色顔料の平均粒子径は、例えば0.2〜2.0μmとすることができる。このような着色顔料の例には、酸化チタン、酸化鉄、黄色酸化鉄、フタロシアニンブルー、カーボンブラック、コバルトブルー等が含まれる。なお、組成物が着色顔料を含む場合、その量は、組成物の固形分100質量部に対して、20〜60質量部であることが好ましく、30〜55質量部であることがより好ましい。
組成物は、さらに脱水剤を含んでいてもよい。上記無機粒子や着色顔料等は、大気中の水分を吸湿しやすく、組成物が水分を含みやすい。組成物が水分を含むと、オルガノシリケート縮合物が組成物内で反応し、組成物の増粘等が生じやすくなる。そこで、脱水剤によって、組成物の増粘等を抑制することが好ましい。
脱水剤は、組成物中の水と反応して、オルガノシリケート縮合物と反応し難い成分を生成する化合物であれば特に制限されない。脱水剤の例には、オルト酢酸トリメチル、オルトギ酸トリエチル等が含まれるが、特に、オルト酢酸トリメチルが好ましい。脱水剤が反応して生成する酸のpHが過度に高いと、オルガノシリケート縮合物が反応して、組成物が増粘することがある。これに対し、オルト酢酸トリメチルと水とが反応して生じる酢酸は、オルガノシリケート縮合物に影響を及ぼし難い。なお、脱水剤やその反応物は通常溶媒等と共に蒸発し、塗膜には残留しない。
組成物は、脱水剤を組成物の固形分100質量部に対して2〜25質量部含むことが好ましく、5〜15質量部含むことが好ましい。
また、組成物は、必要に応じて有機溶剤等の溶媒を含んでもよい。溶媒が有機溶剤である場合、当該有機溶剤は、上記オルガノシリケート縮合物や樹脂、硬化剤、無機粒子や有機粒子、脱水剤等を十分に溶解、または分散させることが可能なものであれば特に制限されない。有機溶剤の例には、トルエン、キシレン、Solvesso(登録商標)100(商品名、エクソンモービル社製)、Solvesso(登録商標)150(商品名、エクソンモービル社製)、Solvesso(登録商標)200(商品名、エクソンモービル社製)等の炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;メタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテルアルコール系溶剤;等が含まれる。組成物は、これらを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。これらの中でも、樹脂との相溶性等の観点から、好ましくはキシレン、Solvesso(登録商標)100、Solvesso(登録商標)150、シクロヘキサノン、n−ブチルアルコールである。
組成物の調製方法は特に制限されない。例えば、公知の塗料と同様の方法により、上記材料を混合し、攪拌もしくは分散することで、調製することができる。なお、オルガノシリケート縮合物は、他の成分と予め混合してもよい。また、オルガノシリケート縮合物以外の材料を予め混合しておき、オルガノシリケート縮合物を後から混合してもよい。
(フレーム処理工程)
本工程では、前述のオルガノシリケート縮合物を含む組成物の塗膜に、フレーム処理を行う。前述のオルガノシリケート縮合物を含む塗膜をフレーム処理することで、塗膜表面のオルガノシリケート縮合物を加水分解し、塗膜表面にシラノール基やシロキサン結合を生じさせることができる。また、フレーム処理によれば、塗膜表面全体をムラなく親水化できる。したがって、前述のように、塗膜表面の親水性を十分に高めることができる。
フレーム処理は、塗膜を形成した金属板を、ベルトコンベア等の搬送機に載置し、一定方向に移動させながら、フレーム処理用バーナーで塗膜に火炎を放射する方法等とすることができる。
ここで、フレーム処理量は、30〜1000kJ/m2であることが好ましく、100〜600kJ/m2であることがより好ましい。なお、本明細書における「フレーム処理量」とは、LPガス等の燃焼ガスの供給量を基準として計算される塗装金属板の単位面積当たりの熱量である。当該フレーム処理量は、フレーム処理用バーナーのバーナーヘッドと塗膜表面との距離、塗膜の搬送速度等によって調整できる。フレーム処理量が30kJ/m2未満では、処理にムラが生じることがあり、塗膜表面を一様に親水化することが難しい。一方、フレーム処理量が1000kJ/m2を超えると、塗膜が酸化して黄変することがある。
以下、本発明のフレーム処理に使用可能なフレーム処理用バーナーの一例を説明するが、フレーム処理方法は当該方法に限定されない。
フレーム処理用バーナーは、燃焼性ガスを供給するためのガス供給管と、当該ガス供給管から供給された燃焼性ガスを燃焼させるバーナーヘッドと、これらを支えるための支持部材と、を有する。図1に、フレーム処理用バーナーのバーナーヘッドの模式図を示す。図1Aはバーナーヘッドの側面図であり、図1Bは、当該バーナーヘッドの正面図であり、図1Cは、当該バーナーヘッドの底面図である。なお、便宜上、図1Aおよび図1Bでは炎口22bに該当する部分を太線で強調して記載しているが、実際、炎口22bは側面および正面から視認されない。
バーナーヘッド22は、ガス供給管23と接続された略四角柱状の筐体22aと、当該筐体の底面に配置された炎口22bとを有し、ガス供給管23から供給された燃焼性ガスを炎口22bで燃焼させる。
バーナーヘッド22の筐体22a内部の構造は、一般的なフレーム処理用バーナーと同様の構造とすることができ、例えばガス供給管23から供給された燃焼性ガスを炎口22bに流動させるための流路等が形成されていてもよい。また、正面視したときの筐体22aの幅は、フレーム処理する塗膜の幅に合わせて適宜選択される。また、側面視したときの筐体22aの幅は、炎口22bの塗膜の搬送方向の幅(図1AにおいてLで表される幅)等に合わせて適宜選択される。
一方、炎口22bは、筐体22aの底面に設けられた貫通孔である。炎口22bの形状は特に制限されないが、矩形状や丸穴形状とすることができる。ただし、フレーム処理を塗膜の幅方向に均一に行うとの観点から、矩形状であることが特に好ましい。また、炎口22bの塗膜の搬送方向に垂直方向の幅(図1BにおいてWで表される幅)は、フレーム処理する塗膜の幅と同等もしくは大きければよく、例えば40〜50cm程度とすることができる。一方、炎口22bの塗膜の搬送方向の幅(図1AにおいてLで表される幅)は、燃焼性ガスの吐出安定性等に応じて適宜設定することができ、例えば1〜8mm程度とすることができる。
ガス供給管23は、一方がバーナーヘッド22と接続され、他方がガス混合部(図示せず)と接続されたガスの流路である。ガス混合部は、燃焼ガスボンベ等の燃焼ガス供給源(図示せず)と、空気ボンベ、酸素ボンベ、コンプレッサーエアー、ブロアーによるエアー等の助燃ガス供給源(図示せず)と接続されており、燃焼ガスと助燃ガスとを予め混合するための部材である。なお、ガス混合部からガス供給管23に供給される燃焼性ガス(燃焼ガスと助燃ガスとの混合ガス)中の酸素の濃度は一定であることが好ましく、ガス混合部は、必要に応じてガス供給管23に酸素を供給するための酸素供給器を具備していることが好ましい。
上記燃焼ガスの例には、水素、液化石油ガス(LPG)、液化天然ガス(LNG)、アセチレンガス、プロパンガス、およびブタン等が含まれる。これらの中でも所望の火炎を形成しやすいとの観点から、LPG又はLNGが好ましく、特にLPGが好ましい。一方、上記助燃ガスの例には、空気または酸素が含まれ、取扱性等の面から、空気であることが好ましい。
ガス供給管23を介してバーナーヘッド22に供給される燃焼性ガス中の燃焼ガスと助燃ガスとの混合比は、燃焼ガス及び助燃ガスの種類に応じて適宜設定することができる。例えば、燃焼ガスがLPG、助燃ガスが空気である場合、LPGの体積1に対して、空気の体積を24〜27とすることが好ましく、25〜26とすることがより好ましく、25〜25.5とすることがさらに好ましい。また、燃焼ガスがLNG、助燃ガスが空気である場合、LNGの体積1に対して、空気の体積を9.5〜11とすることが好ましく、9.8〜10.5とすることがより好ましく、10〜10.2とすることがさらに好ましい。
当該フレーム処理用バーナーでは、塗膜を移動させながら、塗膜のフレーム処理を行う。このとき、バーナーヘッド22の炎口22bから、塗膜に向けて燃焼性ガスを吐出しつつ、当該燃焼性ガスを燃焼させることで、上記フレーム処理を行うことができる。バーナーヘッド22と塗膜との距離は、前述のように、フレーム処理量に応じて適宜選択されるが、通常10〜120mm程度とすることができ、25〜100mmとすることが好ましく、30〜90mmとすることがより好ましい。バーナーヘッドと塗膜との距離が近すぎる場合には、金属板の反り等によって、塗膜とバーナーヘッドとが接触してしまうことがある。一方、バーナーヘッドと塗膜との距離が遠すぎる場合には、フレーム処理に多大なエネルギーが必要となる。なお、フレーム処理時には、フレーム処理用バーナーから塗膜表面に対して垂直に火炎を放射してもよいが、塗膜表面に対して一定の角度を成すように、フレーム処理用バーナーから塗膜表面に対して火炎を放射してもよい。
また、塗膜の移動速度は、前述のフレーム処理量に応じて適宜選択されるが、通常5〜70m/分であることが好ましく、10〜50m/分であることがより好ましく、20〜40m/分であることがさらに好ましい。塗膜を5m/分以上の速度で移動させることにより、効率的にフレーム処理を行うことができる。一方で、塗膜の移動速度が速すぎる場合には、塗膜の移動によって気流が生じやすく、フレーム処理を十分に行うことができないことがある。
なお、上記では、筐体22aに一つのみ炎口22bを有するバーナーヘッド22を示したが、バーナーヘッド22の構造は、上記構造に限定されない。例えば、図2に示すように、バーナーヘッド22は、炎口22bと平行に補助炎口22cを有していてもよい。図2Aはバーナーヘッドの側面図であり、図2Bは、当該バーナーヘッドの底面図である。なお、便宜上、図2Aでは炎口22bや補助炎口22cに該当する部分を太線で強調して記載しているが、実際、炎口22bや補助炎口22cは側面から視認されない。ここで、炎口22bと補助炎口22cとの間隔は、2mm以上であることが好ましく、例えば2mm〜7mmとすることができる。このとき、筐体22aは、補助炎口22cから非常に微量の燃焼性ガスが通過するような構造を有する。補助炎口22cから吐出される燃焼性ガスの量は、炎口22bから吐出される燃焼性ガスの5%以下であることが好ましく3%以下であることが好ましい。補助炎口22cで生じる火炎は、塗膜の表面処理に殆ど影響を及ぼさないが、補助炎口22cを有することで、炎口22bから吐出される燃焼性ガスの直進性が増し、揺らぎが少ない火炎が形成される。
また、本工程では、上述のフレーム処理前に、塗膜表面を40℃以上に加熱する予熱処理を行ってもよい。熱伝導率が高い金属板(例えば、熱伝導率が10W/mK以上の金属板)表面に形成された塗膜に、火炎を照射すると、燃焼性ガスの燃焼によって生じた水蒸気が冷やされて水となり、一時的に塗膜の表面に溜まる。そして、当該水がフレーム処理時のエネルギーを吸収して水蒸気となることで、フレーム処理が阻害されることがある。これに対し、塗膜表面(金属板)を予め加熱しておくことで、火炎照射時の水の発生を抑えることができる。
塗膜を予熱する手段は特に限定されず、一般に乾燥炉と呼ばれる加熱装置を使用することができる。例えば、バッチ式の乾燥炉(「金庫炉」とも称する。)を使用することができ、その具体例には、株式会社いすゞ製作所製低温恒温器(型式 ミニカタリーナ MRLV−11)、株式会社東上熱学製自動排出型乾燥器(型式 ATO−101)、および株式会社東上熱学製簡易防爆仕様乾燥器(型式 TNAT−1000)等が含まれる。
以上のように、本発明の塗装金属板の製造方法によれば、塗膜表面に十分な量のシラノール基やシロキサン結合をムラなく生じさせることができ、塗膜表面の親水性を均一に高めることができる。また、フレーム処理によって塗膜の表面処理を行うことから、大掛かりな処理装置を必要とすることなく、短時間で効率よく塗膜表面を処理することができる。したがって、本発明によれば、各種建築物の外装建材等に適用可能な、雨筋汚れ等が生じ難い塗装金属板を効率よく製造することができる。
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されない。
以下の方法により、塗装金属板を作製し、それぞれについて、雨筋汚れ防止性を評価した。
1.金属板の準備
板厚0.27mm、A4サイズ、片面当りめっき付着量90g/m2の溶融Zn−55%Al合金めっき鋼板を金属板として準備し、表面をアルカリ脱脂した。その後、当該表面に、塗布型クロメート処理液(日本ペイント株式会社製 NRC300NS)を、Crの付着量が50mg/m2となるように塗布した。さらに、エポキシ樹脂系プライマー塗料(日本ファインコーティングス株式会社製 700P)を、乾燥膜厚が5μmとなるようにロールコーターで塗布した。続いて、基材の最高到達板温215℃となるように焼き付け、プライマー塗膜を形成しためっき鋼板(以下、単に「めっき鋼板」とも称する)を得た。
2.塗膜の形成
2−1.材料の準備
オルガノシリケート縮合物は、それぞれ以下の市販品、もしくはその変性物を使用した。
[メチルシリケート縮合物]
・メチルシリケート53A(コルコート株式会社製、テトラメトキシシランの縮合物) 重量平均分子量(Mw):840、数平均分子量(Mn):610
・メチルシリケートMS57(三菱化学株式会社製、テトラメトキシシランの縮合物) 重量平均分子量(Mw):1400、数平均分子量(Mn):810
・メチルシリケート51(コルコート株式会社製、テトラメトキシシランの縮合物)重量平均分子量(Mw):590、数平均分子量(Mn):470
[エチルシリケート縮合物]
・エチルシリケート40(コルコート株式会社製、テトラエトキシシランの縮合物)重量平均分子量(Mw):650、数平均分子量(Mn):430
・シリケート40(多摩化学工業株式会社製、テトラエトキシシランの縮合物) 重量平均分子量(Mw):930、数平均分子量(Mn):500
・エチルシリケート48(コルコート株式会社製、テトラエトキシシランの縮合物) 重量平均分子量(Mw):1300、数平均分子量(Mn):850
[エトキシ部分置換メチルシリケート縮合物]
・エトキシ部分置換メチルシリケート縮合物は、以下に示す方法で、メチルシリケートとエタノールとを反応させることにより、合成した。当該エトキシ部分置換メチルシリケート縮合物中のアルコキシ基の総数に対する、エトキシ基の数の割合は、1H−NMRおよび13C−NMRのシグナル値(積分値)から算出した。1H−NMR測定には、日本電子株式会社製のEX400型を用い、13C−NMR測定には、日本電子株式会社製のAL400型を用いた。
・エトキシ部分置換メチルシリケート縮合物の合成
メチルシリケートMS56(三菱化学株式会社製 重量平均分子量1,100、テトラメトキシシランの縮合物)100g(80mmol)に、エタノールに14.72g(320mmol)およびトリエチルアミン0.211g(2mmol)を加えた。系中でメタノールの生成状況を観察しながら、80℃で0.5〜1時間、100℃で1〜2時間、120℃で1〜3時間窒素気流中で加熱攪拌した。メタノールは100℃昇温後に流出しはじめた。エトキシ基の置換率は流出するメタノールの量から予測した。反応終了後に放冷し、一夜放置後、約670Pa、50〜55℃で3時間濃縮し、さらに、133Pa以下で5時間濃縮した。これにより、エトキシ部分置換メチルシリケート縮合物中のアルコキシ基の総数に対するエトキシ基の数の割合がそれぞれ表1および表2に示す値(20%、21%、46%、47%、53%、54%、73%、74%)である、エトキシ部分置換メチルシリケート縮合物を得た。
2−2.ポリエステル樹脂系の塗膜の形成(比較例1〜19、実施例1〜9)
数平均分子量5,000、ガラス転移温度30℃、水酸基価28mgKOH/gの高分子ポリエステル樹脂(DIC株式会社製)と、メトキシ基90モル%のメチル化メラミン樹脂(三井サイテック製 サイメル303)とを混合し、ベースとなるポリエステル樹脂/メラミン塗料を得た。ポリエステル樹脂とメチル化メラミン樹脂との配合比は70/30とした。
上記ポリエステル樹脂/メラミン塗料に、平均粒径5.5μmの疎水性シリカ(富士シリシア株式会社製 サイシリア456)を、組成物の総固形分量に対して1〜4質量%添加した。疎水性シリカの添加量は、得られる塗膜の60°鏡面光沢度が30となるように調整した。また同時に、着色顔料として、平均粒径0.28μmの酸化チタン(テイカ株式会社製 JR−603)を、組成物の総固形分量に対して39質量%添加した。
その後、触媒として、ドデシルベンゼンスルフォン酸を、上記ポリエステル樹脂/メラミン塗料の固形分量に対して1質量%加えた。さらに、ジメチルアミノエタノールを加えた。なお、ジメチルアミノエタノールの添加量は、ドデシルベンゼンスルフォン酸の酸当量に対してアミン当量が1.25倍となる量とした。
さらに、表1および表2に示すオルガノシリケート縮合物を、組成物の総固形分量に対して5質量%となるように添加した。また、表1および表2に示す脱水剤(オルト酢酸トリメチルまたはオルトギ酸トリエチル)を、組成物の総固形分量に対して5質量%となるように添加した。
得られた組成物中の水分量を、カールフィシャー法により測定したところ、0.46wt%であった。
上記組成物を、乾燥膜厚が18μmとなるように上述のめっき鋼板にロールコーターで塗布し、最高到達板温225℃、板面風速0.9m/sで45秒間焼き付けた。なお、組成物中の水分の、オルガノシリケート縮合物の加水分解への影響が反映されるように、オルガノシリケート縮合物を添加してから24時間後に組成物を塗布した。
2−3.アクリル樹脂系の塗膜の形成(比較例20〜29、実施例10〜15)
アクリル樹脂(株式会社日本触媒製 アロセット5534−SB60)37.85質量部(固形分量)、平均粒径0.28μmの酸化チタン顔料(テイカ株式会社製 JR−603)37.85質量部、シクロヘキサノン10質量部、およびブタノール25質量部を混合し、ビーズミルで混練した。その後、硬化剤として、メラミン樹脂(DIC株式会社製 スーパーベッカミンL−155−70)15.06質量部(固形分量)を加え、ベースとなるアクリル樹脂塗料を調製した。
このアクリル樹脂塗料に平均粒径5.5μmの疎水性シリカ(富士シリシア株式会社 サイシリア456)を、組成物の総固形分量に対して1〜4質量%添加した。疎水性シリカの添加量は、得られる塗膜の60°鏡面光沢度が30となるように調整した。
さらに、表1および表2に示すオルガノシリケート縮合物を、組成物の総固形分量に対して5質量%となるように添加した。また、表1および表2に示す脱水剤(オルト酢酸トリメチルまたはオルトギ酸トリエチル)を、組成物の総固形分量に対して5質量%添加した。得られた組成物中の水分量を、カールフィシャー法により測定したところ、0.41wt%であった。
上記組成物を、乾燥膜厚が18μmとなるように上述のめっき鋼板にロールコーターで塗布し、最高到達板温225℃、板面風速0.9m/sで45秒間焼き付けた。なお、組成物中の水分の、オルガノシリケート縮合物の加水分解への影響が反映されるように、オルガノシリケート縮合物を添加してから24時間後に組成物を塗布した。
3.表面処理
3−1.フレーム処理(実施例1〜15、および比較例7〜11、18、19、23、24、28、および29)
上述の塗膜を形成しためっき鋼板を、株式会社東上熱学製 自動排出型乾燥器(型式 ATO−101)を用いて、設定温度80℃、風速2.0m/sの条件で、5分間熱処理した。
上記塗膜を形成しためっき鋼板を搬送機に載せて、塗膜にフレーム処理を行った。フレーム処理用バーナーには、Flynn Burner社(米国)製のF−3000を使用した。また、燃焼性ガスには、LPガス(燃焼ガス)と、クリーンドライエアーとを、ガスミキサーで混合した混合ガス(LPガス:クリーンドライエアー(体積比)=1:25)を使用した。また、各ガスの流量は、バーナーの炎口の1cm2に対してLPガス(燃焼ガス)が1.67L/分、クリーンドライエアーが41.75L/分となるように調整した。なお、塗膜の搬送方向のバーナーヘッドの炎口の長さ(図1AにおいてLで表される長さ)は4mmとした。一方、バーナーヘッドの炎口の搬送方向と垂直方向の長さ(図1AにおいてWで表される長さ)は、450mmとした。さらに、バーナーヘッドの炎口と塗膜表面との距離は、50mmとした。さらに、塗膜の搬送速度を30m/分および15m/分で、フレーム処理した。その際のフレーム処理量212kJ/m2〜424kJ/m2であった。各実施例および比較例におけるフレーム処理量を、下記の表1および表2に示す。
3−2.コロナ放電処理(比較例3〜6、14〜17、21、22、26、および27)
上述の塗膜を形成しためっき鋼板の塗膜表面をコロナ放電処理した。コロナ放電処理には、春日電機株式会社製の下記の仕様のコロナ放電処理装置を使用した。
(仕様)
・電極セラミック電極
・電極長さ 430mm
・出力 310W
また、塗膜のコロナ放電処理回数は、いずれも1回とした。コロナ放電処理量は、処理速度によって調整した。具体的には、4.8m/分または2.8m/分で処理することにより、コロナ放電処理量150W・分/m2または250W・分/m2とした。
[評価]
各実施例および比較例で得られた塗装金属板について、以下の方法で、耐雨筋汚れ性の評価、および塗膜表面のSi原子濃度測定、およびオルガノシリケート縮合物の蒸発量の評価を行った。結果を表1および表2に示す。
(1)耐雨筋汚れ性の評価
耐雨筋汚れ性は、以下のように評価した。
まず、垂直暴露台に実施例、比較例、および参考例で作製した塗装金属板をそれぞれ取り付けた。さらに、当該塗装金属板の上部に、地面に対して角度20°となるように、波板を取り付けた。このとき、雨水が塗装金属板表面を筋状に流れるように、波板を設置した。この状態で、屋外暴露試験を2ヶ月間行い、汚れの付着状態を観察した。耐雨筋汚れ性の評価は、暴露前後の塗装金属板の明度差(ΔL)で、以下のように評価した。
×:ΔLが2以上の場合(汚れが目立つ)
△:ΔLが1以上2未満の場合(雨筋汚れは目立たないが視認できる)
〇:ΔLが1未満の場合(雨筋汚れがほとんど視認できない)
(2)塗膜表面のSi原子濃度測定
塗装金属板を10%塩酸水溶液に60秒浸漬して塗膜表面のシリケートを加水分解した後にSi原子濃度を測定した。塗膜表面のSi原子濃度は、X線電子分光法(以下、「XPS」とも称する)で測定した。
XPS分析装置 : KRATOS社製AXIS−NOVA
X線源 : 単色化AlKα(1486.6eV)
分析領域 : 300×700μm
分析室真空度 : 1.0×10−7Pa
(3)オルガノシリケート縮合物の蒸発量
厚さ0.5mmのアルミ板(JIS A5052)の表面に膜厚が18μmになるように、各実施例および比較例と同様に塗膜を形成した。そして、塗膜を形成した塗装アルミ板を10cm×10cm角に切り出し、フッ化水素酸、塩酸、硝酸の混合酸溶液に溶かし、さらにマイクロ波を照射して加熱分解した。その後、超純水で定容して検液を調製した。当該検液中のSiを、島津製作所製 ICPE−9820型ICP−AES分析装置を用いて、定量分析した。
一方、オルガノシリケート縮合物を添加しなかった以外は、実施例および比較例と同様に組成物を調製し、当該組成物を用いて各実施例および比較例と同様に塗膜を形成した。そして、上記と同様に検液中のSiを定量分析した。
これらを比較し、各実施例および比較例で作製した塗装金属板の塗膜中のオルガノシリケート縮合物由来のSi量を求めた。また、オルガノシリケート縮合物が全く蒸発しなかったと仮定した場合の塗膜中のSi量を計算で求めた。そして、オルガノシリケート縮合物が全く蒸発しなかった場合Si量と、実施例または比較例で作製した塗膜中のSi量との比から、塗膜形成時のオルガノシリケートまたはその縮合物の蒸発量を以下の基準で評価した。
×:オルガノシリケート縮合物の蒸発量が70%以上
△:オルガノシリケート縮合物の蒸発量が40%以上70%未満
〇:オルガノシリケート縮合物の蒸発量が30%以上40%未満
◎:オルガノシリケート縮合物の蒸発量が30%未満
なお、△、○、◎を合格とした。
上記表1および表2に示されるように、メチルシリケート縮合物を組成物に用いた場合(比較例1〜11、および20〜24)、オルガノシリケート縮合物の蒸発性評価が良好、つまり塗膜中にオルガノシリケート縮合物が十分に存在していたとしても、塗膜表面のSi原子濃度が低く、十分な雨筋汚れ防止性が得られなかった。メチルシリケート縮合物は、ポリエステル樹脂やアクリル樹脂との相溶性が高く、メチルシリケート縮合物が組成物中の水分によって加水分解されて高分子化したことから、メチルシリケート縮合物が塗膜表面側に移動し難かったと考えられる。
これに対し、エチルシリケート縮合物やエトキシ基の含有率が50%以上であるエトキシ部分置換メチルシリケート縮合物を組成物に用いた場合(実施例1〜15、比較例12〜17、25〜27)、シリケートの添加から24時間後に塗膜を形成したとしても、塗膜表面のSi原子濃度が高くなった。エチルシリケート縮合物や上記置換率のエトキシ部分置換メチルシリケート縮合物は、メチルシリケート縮合物と比較してポリエステル樹脂やアクリル樹脂との相溶性が低く、組成物中で安定である。そのため、エチルシリケート縮合物が、塗膜表面側に移動しやすかったと考えられる。ただし、エトキシ部分メチルシリケート縮合物において、エトキシの含有率が50%未満である場合には、上記効果が得られ難く、十分にSi原子濃度が高まらなかった(比較例18、19、28、および29)。
一方で、塗膜の表面のSi原子濃度が高くても、塗膜の表面処理を行わなかった場合や、塗膜にコロナ放電処理を行った場合には、塗膜表面の親水性が十分に高まらず、耐雨筋汚れ性の評価が低かった(比較例14〜17、26、および27)。エチルシリケート縮合物や、エトキシ部分置換メチルシリケート縮合物のエトキシ基は加水分解され難い。したがって、表面処理を行わなかった場合には、十分に親水性が高まらなかったと考えられる。またさらに、コロナ放電処理では、放電ムラが生じ、塗膜表面のオルガノシリケート縮合物が不均一に加水分解されるため、十分な雨筋汚れ防止性能が得られなかったと考えられる。これに対し、フレーム処理を行った場合には、塗膜表面の親水性が十分に高まり、耐雨筋汚れ性が良好となった(実施例1〜15)。
また、脱水剤がオルト酢酸トリメチルである(例えば実施例6および7)と、脱水剤がオルトギ酸トリエチルである場合(実施例4および5)と比較して、塗膜表面のSi原子濃度が高くなった。脱水剤によって、組成物中に含まれる水分が十分に脱水されることで、組成物中での加水分解が生じ難かったと考えられる。