以下、本発明のゴム補強用のリグニン誘導体、リグニン樹脂組成物およびゴム組成物について好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明のゴム補強用のリグニン誘導体は、硫黄を0.05質量%以上含むものであり、ゴムと混合されることにより、ゴム組成物を調製し得るものである。
以下、本発明のゴム補強用のリグニン誘導体について説明する。
<ゴム補強用のリグニン誘導体>
まず、ゴム補強用のリグニン誘導体について説明する。リグニンは、セルロースおよびヘミセルロースとともに、植物体の骨格を形成する主要成分であり、かつ、自然界に最も豊富に存在する物質の1つである。
ゴム補強用のリグニン誘導体は、フェノール誘導体を単位構造とする化合物である。この単位構造は、化学的および生物学的に安定な炭素−炭素結合や炭素−酸素−炭素結合を有するため、化学的な劣化や生物的分解を受け難い。このため、ゴム補強用のリグニン誘導体は、ゴム組成物に添加されるための樹脂原料として有用とされる。
なお、本明細書では、バイオマスに含まれる高分子量のリグニンのことを単に「リグニン」といい、このリグニンから誘導される相対的に低分子量のリグニンのことを「リグニン誘導体」という。また、本発明におけるバイオマスとは、リグニンを含有する植物または植物の加工品であり、植物としては、例えば、ブナ、白樺、ナラのような広葉樹、杉、松、桧のような針葉樹、竹、稲わらのようなイネ科植物、椰子殻等が挙げられる。
ゴム補強用のリグニン誘導体の具体例としては、下記式(1)で表わされるグアイアシルプロパン構造、下記式(2)で表わされるシリンギルプロパン構造、下記式(3)で表わされる4−ヒドロキシフェニルプロパン構造等が挙げられる。なお、針葉樹類からは主にグアイアシルプロパン構造が、広葉樹類からは主にグアイアシルプロパン構造およびシリンギルプロパン構造が、草本類からは主にグアイアシルプロパン構造、シリンギルプロパン構造および4−ヒドロキシフェニルプロパン構造がそれぞれ抽出される。
なお、ゴム補強用のリグニン誘導体は、上記基本構造の他、リグニン誘導体に官能基を導入したもの(リグニン二次誘導体)であってもよい。
リグニン二次誘導体が有する官能基としては、特に限定されないが、例えば2個以上の同じ官能基が互いに反応し得るもの、または他の官能基と反応し得るものが好適である。具体的には、エポキシ基、メチロール基の他、炭素−炭素不飽和結合を有するビニル基、エチニル基、マレイミド基、シアネート基、イソシアネート基等が挙げられる。このうち、メチロール基を導入した(メチロール化した)リグニン誘導体が好ましく用いられる。このようなリグニン二次誘導体は、メチロール基同士の自己縮合反応により自己架橋が生じるとともに、下記架橋剤中のアルコキシメチル基や水酸基に対してより架橋するものとなる。その結果、特に均質で剛直な骨格を有し、耐溶剤性に優れた硬化物が得られる。
ここで、本発明に係るゴム補強用のリグニン誘導体は、硫黄を0.05質量%以上含むものである。このようなゴム補強用のリグニン誘導体は、ゴムと混合されることにより、ゴム組成物に対して優れた弾性率および引張特性を付与することができる。
すなわち、ゴム製品を製造するのに用いられるゴム組成物は、原料ゴムの他に、様々な目的の添加剤を含んでいる。これらの添加剤の1つとして、補強剤がある。補強剤を添加することにより、ゴム組成物に硬さ、引張強さ、耐摩耗性等を付与することができる。したがって、本発明に係るゴム補強用のリグニン誘導体をゴムと混合することで、このようなゴム特性に優れたゴム組成物を調製することができる。
一方、ゴム組成物に含まれる添加剤の1つとして、加硫剤がある。加硫剤は硫黄を含んでおり、ゴム組成物に加硫剤が添加されると、ゴム分子同士を硫黄で繋ぐことができる。これにより、ゴム組成物にゴム弾性を付与することができる。
本発明に係るゴム補強用のリグニン誘導体は、上述したように一定の割合で硫黄を含んでいる。また、ゴム補強用のリグニン誘導体に含まれる硫黄は、その少なくとも一部がリグニン誘導体の分子中に含まれている。このため、かかるゴム補強用のリグニン誘導体は、補強剤としての機能を有するとともに、加硫剤としての機能も併せ持つものとなる。このため、本発明に係るゴム補強用のリグニン誘導体を用いることにより、その硫黄含有率によっては、ゴム補強用のリグニン誘導体とゴムとを混合したとき、ゴム組成物中において硫黄をより均一に分散させる、架橋密度が向上する等の現象を起こすことができると考えられる。それによってゴム組成物の均質性が高まるためか、架橋密度が向上するためか、詳細な理由は明らかではないが、硬化後のゴムのヒステリシスロス性を低くしたり、引張特性をより高めたりすることができる。
なお、ゴム補強用のリグニン誘導体に含まれる硫黄の含有率が前記下限値を下回ると、低ヒステリシスロス性を向上させたり、引張特性を向上させることが難しくなるおそれがある。
このような硫黄の含有率は、既知の手法で測定され、特に限定されないものの、例えば、各種燃焼方式と滴定法を組み合わせた方法、また各種燃焼方式とイオンクロマトグラフィー法を組み合わせた方法、ICP発光分析法等によって測定することができる。
また、本発明に係るゴム補強用のリグニン誘導体は、硫黄を0.1〜10質量%含むものが好ましく用いられ、0.2〜5質量%含むものがより好ましく用いられる。硫黄の含有率を前記範囲内に設定することで、ゴム組成物のヒステリシスロス性を低くするとともに、引張特性を十分に高めることができる。
なお、硫黄の含有率が前記上限値を上回ると、リグニン誘導体の分子量によっては、ゴム組成物の成形性や加硫特性が悪化するおそれがある。
また、硫黄がリグニン誘導体の分子中に含まれるとき、その含有状態としては、例えばスルフィド結合やジスルフィド結合等が挙げられる。これらの結合は、ゴム組成物の混練等において比較的容易に切断され、これにより、硫黄とゴム分子との再結合を生じさせることができる。このため、これらの結合を含むゴム補強用のリグニン誘導体は、前述したように、均質なゴム組成物を製造可能であるとともに、硫黄とゴム分子との結合のためか、低ヒステリシスロス性を効率よく発現させることに寄与すると考えられる。
なお、硫黄の含有状態は、スルフィド結合やジスルフィド結合に限定されるものではなく、それ以外の形態、例えば、スルホン酸基、チオール基、チオエステル結合等、また無機物として含有であってもよい。
ゴム補強用のリグニン誘導体におけるこのような特性基や結合の有無は、既知の手法で測定され、特に限定されないものの、例えば、核磁気共鳴法(NMR)、X線光電子分光法(ESCA)等により評価可能である。
また、本発明に係るゴム補強用のリグニン誘導体は、有機溶媒に可溶なものが好ましく、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析により測定されたポリスチレン換算の数平均分子量が300〜5000であるものが好ましく、300〜3000であるものがより好ましい。このような数平均分子量のリグニン誘導体は、例えば樹脂との混合に供されたとき、樹脂との反応性に優れるものとなり、また、樹脂との混合により樹脂組成物を調製したときには、ゴム補強特性に優れた樹脂組成物が得られる。
なお、有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノールのようなアルコール類、フェノール、クレゾールのようなフェノール類、メチルエチルケトン、アセトンのようなケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンのような環状エーテル類、アセトニトリルのようなニトリル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドンのようなアミド類、塩化メチレン、クロロホルムのようなハロゲン化アルキル類等が挙げられる。
ここで、上記ゲル浸透クロマトグラフィー分析によって分子量を測定する手順の一例について説明する。
まず、ゴム補強用のリグニン誘導体を溶媒に溶解し、測定サンプルを調製する。このときに用いられる溶媒は、リグニン誘導体を溶解し得るものであれば、特に限定されるものではないが、ゲル浸透クロマトグラフィーの測定精度の観点から、テトラヒドロフランが好ましい。
次に、GPCシステム「HLC−8320GPC(東ソー製)」に、スチレン系ポリマー充填剤を充填した有機系汎用カラムである「TSKgelGMHXL(東ソー製)」、および「G2000HXL(東ソー製)」を直列に接続する。
このGPCシステムに、前記の測定サンプルを200μL注入し、40℃において、溶離液のテトラヒドロフランを1.0mL/minで展開し、示差屈折率(RI)および紫外吸光度(UV)を利用して保持時間を測定する。一方、別に作製しておいた標準ポリスチレンの保持時間と分子量の関係を示した検量線から、前記のゴム補強用のリグニン誘導体の数平均分子量を算出することができる。
検量線を作成するために使用する標準ポリスチレンの分子量としては、特に限定されるものではないが、例えば、数平均分子量が427,000、190,000、96,400、37,900、18,100、10,200、5,970、2,630、1,050および500の標準ポリスチレン(東ソー製)のものを用いることができる。
また、本発明に係るゴム補強用のリグニン誘導体の軟化点は、200℃以下であるのが好ましく、80〜160℃であるのがより好ましい。軟化点が前記上限値を上回ると、リグニン誘導体と混合されるゴムの組成によっては、ゴム補強用のリグニン誘導体の熱溶融性および流動性が低下し、ゴム中への分散不良によるゴム補強特性の悪化やゴム組成物の成形性が低下するおそれがある。一方、軟化点が前記下限値を下回ると、ゴム補強用のリグニン誘導体の熱溶融性および流動性が高くなり過ぎて、室温でのブロッキングにより固まってしまい、保存性の悪化するおそれがある。
なお、軟化点を測定する方法は、JIS K 2207に準じて、環球式軟化点試験機(メルテック(株)製ASP−MG2型)を用いた。
また、本発明に係るゴム補強用のリグニン誘導体は、カルボキシル基を有していてもよい。前記カルボキシル基を有する場合は、下記に記載する架橋剤と架橋することがあり、架橋点が増加することにより架橋密度を向上させることができるため、耐溶剤性に優れる。また、架橋剤の触媒として作用することもあり、リグニン誘導体に対する架橋剤の架橋反応を促進させることができ、耐溶剤性や硬化速度に優れる。
なお、上述したリグニン誘導体中がカルボキシル基を有する場合は、そのカルボキシル基は、13C−NMR分析に供されたとき、172〜174ppmのピークの吸収の有無によって確認することができる。
また、本発明に係るゴム補強用のリグニン誘導体は、その90質量%以上が有機溶媒に可溶であるのが好ましい。このようなリグニン誘導体は、一様に低分子量化が図られたものとなるため、ゴムと混合されてゴム組成物を調製する際、リグニン誘導体の分散性を高めることができる。このため、均質なゴム組成物を調製することができる。また、フェノール系樹脂との樹脂組成物の均一性が高まり、優れたゴム補強特性が得られる。
なお、このときの有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン類が挙げられる。
<ゴム補強用のリグニン誘導体の製造方法>
次に、前述したゴム補強用のリグニン誘導体の製造方法について説明する。
ゴム補強用のリグニン誘導体は、硫黄を0.05質量%以上含むものであれば、その製造方法は特に限定されない。
以下では、一例として、硫黄を含む薬剤を用いたバイオマス蒸解プロセスによって、ゴム補強用のリグニン誘導体を製造する方法について説明する。
バイオマス蒸解プロセスには、いくつかの種類が知られており、例えば、クラフト蒸解プロセス、アルカリ蒸解プロセス、サルファイト蒸解プロセス等が多く用いられている。このうち、バイオマスの蒸解に用いる薬剤として、構成元素に硫黄を含む薬剤を用いるプロセスであるクラフト蒸解プロセスやサルファイト蒸解プロセスは、本発明のゴム補強用のリグニン誘導体を効率よく製造するためのプロセスとして有用である。その理由として、紙パルプ産業においては、チップと呼ばれる木材の小片からパルプを製造する際に、構成元素に硫黄を含む薬剤を使用するクラフト蒸解プロセスが多用されており、そのプロセスにおいて副生する黒液には、リグニンまたはその分解物が多く含まれているからである。すなわち、リグニン誘導体の製造用にプラントを建設しなくても、紙パルプ産業の副生成物としてリグニン誘導体を製造することができるため、製造コストの低コスト化が容易であるとともに、安定的に入手することが可能になる。
また、この黒液は、従来、燃料として利活用されることが多かったが、より付加価値の高いゴム補強用のリグニン誘導体の製造に向けられることは、バイオマスの高付加価値化という観点から意義が深い。したがって、サルファイト蒸解プロセスや、特にクラフト蒸解プロセスによれば、パルプを製造しつつ、ゴム補強用のリグニン誘導体を効率よく製造することができる。
さらには、クラフト蒸解プロセスにより得られたゴム補強用のリグニン誘導体が、特に有用である。クラフト蒸解プロセスによれば、リグニン誘導体の分子中に硫黄を入り込ませることができるが、入り込んだ硫黄は、例えば、前述したようなスルフィド結合やジスルフィド結合等として含まれることとなる。したがって、このような硫黄を含むリグニン誘導体は、ゴムの補強剤としての機能を有するとともに、加硫剤としての機能も併せ持つものとなる。また、リグニン誘導体中の硫黄は、ゴム組成物の混練等においてゴム分子と結合し、ゴム弾性を効率よく発現させる。その結果、ゴム組成物中において硫黄をより均一に分散させることができ、硬化後のゴム組成物の低ヒステリシスロス性、または引張特性が良好で、かつ均質なゴム組成物を得ることができる。
硫黄を含む薬剤(クラフト蒸解液)としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムのようなアルカリと、硫化ナトリウム、硫酸ナトリウムのような硫黄含有化合物とを含む溶液(水溶液等)が挙げられる。また、クラフト蒸解液に添加される添加剤としては、例えば、キノン系蒸解助剤、酸素系、過酸化水素系、ポリサルファイド系、水素化ホウ酸塩系の各種還元剤、キレート剤等が挙げられる。
また、クラフト蒸解液の活性アルカリ(対チップ質量)は5〜30%、硫化度は15〜40%、チップ質量に対する液比は1〜5L/kgであるのが好ましい。
また、クラフト蒸解プロセスにおける処理温度は140〜180℃であり、処理時間10〜400分間であるのが好ましい。
また、上述したようなバイオマス蒸解プロセスにより製造されたリグニン誘導体に対し、必要に応じて精製処理、改質処理、溶媒抽出処理等の各種追加処理を施すようにしてもよい。
例えば、精製処理を施すことにより、バイオマス蒸解プロセスにより製造されたリグニン誘導体を精製することができる。この精製処理は、例えば、バイオマス蒸解プロセスにより得られる黒液(蒸解プロセスにおいて溶解パルプを生成した後の副生成物)を酸性化する工程と、酸性化後の処理物を脱水する工程と、を有する。このような精製処理を経ることにより、黒液に含まれるリグニン誘導体を、高い純度に精製するとともに、固体の状態で回収することができる。このため、固体状態のリグニン誘導体を得ることができる。こうして回収された固体状態のリグニン誘導体は、ゴム補強用のリグニン誘導体、すなわち補強剤としての機能を有するリグニン誘導体として利用可能なものとなる。
また、純度の高いリグニン誘導体は、ゴム組成物を均質に補強し、かつ均質なゴム弾性および優れた引張特性を与え得る点でも有用である。
酸性化する工程では、黒液を酸性化し得る任意の方法、例えば、ギ酸、酢酸のような有機酸や塩酸、硝酸、硫酸のような無機酸を添加する方法、二酸化硫黄、二酸化炭素のようなガスを導入する方法等が用いられる。このうち、酸性化後のリグニン誘導体のゴム補強特性が良好になるという観点から、二酸化炭素を導入する方法が好ましく用いられる。
処理物を脱水する工程では、処理物中の水分を除去し得る任意の方法、例えば、遠心分離装置、フィルタープレス装置、バンドフィルター、回転フィルター、ドラムフィルター、沈殿タンク等の各種装置を用いた方法が用いられる。なお、本明細書における脱水とは、処理物中に含まれた水のみでなく、水以外の液体も含めて除去することをいう。
また、この精製処理は、例えば、特表2008−516100号公報に記載されている方法に基づいて行うことができる。
一方、改質処理としては、例えば、バイオマス蒸解プロセスにより製造されたリグニン誘導体に対して官能基を導入する処理が挙げられる。例えば、導入する官能基を含む化合物をリグニン誘導体に接触させる処理等が挙げられる。
また、溶媒抽出は、バイオマス蒸解プロセスにより製造されたリグニン誘導体を、リグニン誘導体を溶解可能な溶媒に対して溶解させ、その後、主に溶媒可溶分を取り出す処理である。溶媒可溶分を取り出す処理としては、例えば溶媒溶解後の固体残渣を濾過して可溶分を濃縮、乾燥すること等が挙げられるこのような溶媒抽出処理を経たリグニン誘導体は、低分子量で熱溶融性に優れるためゴムに混ざり易く、ゴム補強特性を向上させることができる。また、分子量や物性が均一なものになるため、均質なゴム組成物を調製可能であるという点で有用である。
<リグニン樹脂組成物>
次に、本発明のリグニン樹脂組成物について説明する。
本発明のリグニン樹脂組成物は、ゴム補強用のリグニン誘導体と、樹脂と、を含む。このようなリグニン樹脂組成物は、原料ゴムと混合されることにより、ゴム弾性率とヒステリシスロス性とのバランスが良好なゴム組成物を調製し得るものである。
(樹脂)
ゴム補強用のリグニン誘導体と混合される樹脂は、特に限定されないが、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、フラン系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂等が挙げられる。このうち、フェノール系樹脂が好ましく用いられる。フェノール系樹脂とゴム補強用のリグニン誘導体とを混合することにより、フェノール系樹脂とリグニン誘導体とが架橋するため、ゴム組成物として用いたときにゴム補強特性をより向上させることができる。
リグニン樹脂組成物における樹脂の添加量は、ゴム補強用のリグニン誘導体100質量部に対し、樹脂が10質量部以上1000質量部以下であるのが好ましく、20質量部以上500質量部以下であるのがより好ましい。このような割合で樹脂を添加することにより、フェノール系樹脂とリグニン誘導体とをより過不足なく架橋させることができる。
また、フェノール系樹脂としては、例えば、フェノール類、または、フェノール類と変性化合物とをアルデヒド類とともに反応させたもの、が挙げられる。このうち、フェノール類としては、例えば、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール類、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール類、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール類、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等の長鎖アルキルフェノール類等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
一方、変性化合物としては、例えば、2つ以上の水酸基を分子内に有するカテコール、ピロガロール、ビスフェノールF、ビスフェノールAのような芳香族構造を有する化合物、水酸基を有するナフトールのような多環芳香族構造を有する化合物、メラミン、テルペン類、フルフラールのようなフラン樹脂、桐油、亜麻仁油、カシューオイル、トール油のような植物由来成分等が挙げられる。なお、カシューオイル等はフェノール構造を有するために、フェノール系樹脂にはカシュー樹脂も含まれる。
このうち、フェノール系樹脂は、カシュー変性フェノール樹脂、トール変性フェノール樹脂、アルキル変性フェノール樹脂およびカシュー樹脂のうちの少なくとも1種を含むものであるのが好ましい。このようなフェノール系樹脂は、原料ゴムとの相溶性に優れていることから、原料ゴムと混合したとき均一に分散し、均質なゴム組成物を調製することができると考えられる。すなわち、均質でかつゴム弾性率が大きいゴム組成物を得ることができる。
なお、カシュー変性フェノール樹脂としては、例えば、側鎖に不飽和二重結合を有するカルダノールやカルドールを含む天然物であるカシューオイルを用い、これをフェノール類およびアルデヒド類とともに縮合または付加反応させて得られるものが挙げられる。また、カシュー変性フェノール樹脂には、ノボラック型とレゾール型があり、いずれも用いられるが、コスト面等を考慮するとノボラック型が好ましく用いられる。
また、トール変性フェノール樹脂は、トール油により変性したフェノール樹脂である。トール油が有する不飽和脂肪酸の二重結合がフェノール樹脂のフェノール環等と結合した形態や、フェノール樹脂中にトール油が分散混合した形態、あるいは、これらが混合した形態になっていると考えられる。
また、アルキル変性フェノール樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、または、ノニルフェノール、オクチルフェノール、ドデシルフェノールのようなアルキル基を有するフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られるものが挙げられる。
また、カシュー樹脂としては、例えば、側鎖に不飽和二重結合を有するカルダノールやカルドールを含む天然物であるカシューオイルが挙げられる。
なお、フェノール類と変性化合物とを反応させる際には、触媒として、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、亜リン酸のような無機酸類、蓚酸、ジエチル硫酸、パラトルエンスルホン酸、有機ホスホン酸のような有機酸類、酢酸亜鉛のような金属塩類等を、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
このようなフェノール系樹脂の分子量は、特に限定されないが、数平均分子量で400〜5000程度であるのが好ましく、500〜3000程度であるのがより好ましい。フェノール系樹脂の数平均分子量を前記範囲内に設定することで、フェノール系樹脂の取り扱い性が良好になる。なお、フェノール系樹脂の平均分子量が前記下限値を下回ると、フェノール系樹脂の組成によっては、フェノール系樹脂が高粘度な粘凋の物質になったり、固体化しても環境によって固結し易くなったりするおそれがある。一方、フェノール系樹脂の平均分子量が前記上限値を上回ると、フェノール系樹脂の組成によっては、フェノール系樹脂が溶媒に溶解し難くなったり、配合物との相溶性が低下したりするおそれがある。
なお、フェノール系樹脂の数平均分子量は、前述したリグニン誘導体と同様の方法を用いて測定することができる。
このような樹脂とゴム補強用のリグニン誘導体とを用いて得られるリグニン樹脂組成物の形態は、特に限定されないが、例えば、粉末状、粒状、ペレット状、ワニス状等が挙げられる。なお、原料ゴムと混合する際の取り扱い性の観点から、リグニン樹脂組成物の形態は、粒状またはペレット状であるのが好ましい。
また、本発明のゴム組成物は、この他に、後述するような充填剤や架橋剤、その他の成分を含んでいてもよい。
また、リグニン樹脂組成物中の固形分濃度は、特に制限されないが、一例として60〜98質量%程度とされ、好ましくは70〜95質量%程度とされる。
<リグニン樹脂組成物の製造方法>
次に、前述したリグニン樹脂組成物の製造方法について説明する。
リグニン樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、混練機に上述した原料を投入し、混練する方法が挙げられる。なお、必要に応じて、任意の原料を予備混合した後、混練するようにしてもよい。また、上述した原料を混練する順序は、特に限定されず、全ての原料を同時に混練してもよく、任意の順序で順次混練するようにしてもよい。
混練機としては、例えば、ミキサー、ニーダー、ロール等が挙げられる。
また、混練するときには、必要に応じて、加熱してもよいし、有機溶媒を用いるようにしてもよい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、キノリン、シクロペンタノン、m−クレゾール、クロロホルム等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。
(原料ゴム)
原料ゴムとしては、例えば、各種天然ゴム、各種合成ゴム等が挙げられる。具体的には、天然ゴム(NR)、改質天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。特に、耐外傷性、耐摩耗性、耐疲労特性および耐屈曲亀裂成長性等の特性に優れることから、天然ゴム(NR)、改質天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびブタジエンゴム(BR)のうちから選択される1種以上のゴムが好ましく用いられ、さらに、入手のし易さの点で、天然ゴムおよびブタジエンゴム(BR)のうちの少なくとも1種がより好ましく用いられる。
スチレンブタジエンゴム(SBR)およびブタジエンゴム(BR)を配合する場合、SBRおよびBRの含有率は、ゴム組成物中でそれぞれ50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。SBRおよびBRの含有率が前記上限値以下である場合、ゴム組成物中の石油資源比率を低く抑え、環境への負荷をより小さくすることができる。
また、本発明のゴム組成物は、アルコキシル基、アルコキシシリル基、エポキシ基、グリシジル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、およびシラノール基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含む官能基含有天然ゴム(改質天然ゴム)、ならびに、官能基含有ジエン系ゴムのうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。天然ゴムおよびジエン系ゴムがこれらの官能基を含む場合、これらの原料ゴムが充填剤の表面と反応または相互作用することにより、ゴム組成物中の充填剤の分散性が良好になる。
なお、上述した官能基は、原料ゴムの0.001〜80モル%の割合で含まれているのが好ましく、0.01〜50モル%の割合で含まれているのがより好ましく、0.02〜25モル%の割合で含まれているのがさらに好ましい。官能基の含有量が前記範囲内であれば、充填剤の表面と反応または相互作用する効果がより良好に得られるとともに、未加硫ゴム(加硫剤を含まないゴム組成物)の製造時の粘度上昇が抑えられ、加工性が良好となる。
原料ゴムに上述した官能基を含ませる方法としては、例えば、炭化水素溶媒中で有機リチウム開始剤を用いて重合されたスチレン−ブタジエン共重合体の重合末端に官能基を導入する方法や、天然ゴムあるいはジエン系ゴムをクロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法等の方法によりエポキシ化する方法等が挙げられる。
本発明のゴム組成物では、天然ゴム、改質天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびブタジエンゴム(BR)のうちの少なくとも1種が原料ゴムの50〜100質量%を占めるように、ゴム成分の配合が設定されているのが好ましい。ゴム成分の配合が前記範囲内に設定されると、ゴム弾性率(貯蔵弾性率E’)を高めることができ、かつ、ヒステリシスロス性(60℃付近の損失正接tanδ)を低減させることができる。これにより、例えば良好な操縦安定性と転がり抵抗の低減とを両立し得るタイヤ用のゴム組成物を得ることができる。
なお、環境負荷を低減させるという観点からは、天然ゴムや改質天然ゴムの割合を高めることが望ましいが、これらにスチレンブタジエンゴム(SBR)やブタジエンゴム(BR)等の他のゴム成分を添加することにより、ゴム組成物の耐摩耗性や耐屈曲亀裂成長性をより高めることができるので、このような観点に基づいてゴム成分を選択すればよい。
原料ゴムの添加量は、特に限定されないが、ゴム補強用のリグニン誘導体と樹脂の合計100質量部に対して、100質量部以上10000質量部以下であるのが好ましく、200質量部以上5000質量部以下であるのがより好ましく、300質量部以上2000質量部以下であるのがさらに好ましい。原料ゴムの添加量を前記範囲内に設定することで、ゴム組成物の補強効果を十分に確保しつつ、ゴム組成物の硬度が高くなり過ぎて伸びが小さくなるのを抑制することができる。
(充填剤)
また、本発明のゴム組成物は、上述した成分の他に、充填剤を含んでいてもよい。
充填剤としては、樹脂組成物やゴム組成物において通常用いられるものを採用できる。具体的には、カーボンブラック、シリカ、アルミナおよびセルロースファイバーよりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられ、特にシリカおよびカーボンブラックから選択される少なくとも1種が好ましく用いられる。これらの充填剤を用いることにより、ゴム弾性率(貯蔵弾性率E’)を高めるとともに、ヒステリシスロス性(60℃付近の損失正接tanδ)を低減させることができる。
充填剤の含有量は、原料ゴム100質量部に対して、10〜150質量部であるのが好ましい。充填剤の含有量を前記下限値以上に設定することで、ゴム組成物のゴム弾性率を高めることができる。一方、充填剤の含有量を前記上限値以下に設定することで、ゴム弾性率が過度に上昇するのを抑制し、ゴム組成物の調製時の加工性を高めるとともに、ゴム組成物中の充填剤の分散性が悪化することによる耐摩耗性や破断伸び等の低下を抑制することができる。また、ゴム組成物のヒステリシスロス性の増大を抑制することができる。
特に充填剤としてシリカが配合される場合、原料ゴム100質量部に対して、シリカを3〜150質量部の割合で配合するとともに、シランカップリング剤を、シリカの含有量の1〜20質量%の割合で配合するのが好ましい。ゴム組成物において、原料ゴム100質量部に対するシリカの含有量を前記下限値以上に設定することで、ゴム組成物のゴム弾性率を高めることができる。一方、原料ゴム100質量部に対するシリカの含有量を前記上限値以下に設定することで、ゴム弾性率が過度に上昇するのを抑制しつつ、ゴム組成物の調製時の加工性を高めるとともに、ゴム組成物中の充填剤の分散性が悪化することによる耐摩耗性や破断伸び等の低下を抑制することができる。また、ゴム組成物のヒステリシスロス性の増大を抑制することができる。
なお、シリカの含有量は、原料ゴム100質量部に対して5〜100質量部の割合であるのがより好ましく、10〜80質量部の割合であるのがさらに好ましい。
シリカとしては、従来ゴム補強用として慣用されているものが使用可能であり、例えば、乾式法シリカ、湿式法シリカ、コロイダルシリカ等が挙げられる。特に、窒素吸着比表面積(N2SA)が20〜600m2/gであるものが好ましく用いられ、40〜500m2/gであるものがより好ましく用いられ、50〜450m2/gであるものがさらに好ましく用いられる。シリカのN2SAが前記下限値以上である場合、ゴム組成物に対する補強効果が大きくなる。一方、シリカのN2SAが前記上限値以下である場合、ゴム組成物中でのシリカの分散性が良好になり、例えば低ヒステリシスロス性に優れたゴム組成物を得ることができる。
また、充填剤は、上述したものに限定されない。充填剤の構成材料としては、例えば、タルク、焼成クレー、未焼成クレー、マイカ、ガラスのようなケイ酸塩、酸化チタン、アルミナのような酸化物、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトのような炭酸塩、酸化亜鉛、酸化マグネシウムのような酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムのような水酸化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウムのような硫酸塩または亜硫酸塩、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウムのようなホウ酸塩、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素のような窒化物等が挙げられる。そして、充填剤には、これらの材料で構成された粉末や粒子、繊維片等が用いられる。
この他、炭素繊維のような無機充填剤、木粉、パルプ粉砕粉、布粉砕粉、熱硬化性樹脂硬化物粉、アラミド繊維、タルクのような有機充填剤等も、本発明のリグニン樹脂組成物に含まれる充填剤として利用可能である。
(架橋剤)
また、本発明のゴム組成物は、上述した成分の他に、架橋剤を含んでいてもよい。
架橋剤としては、原料ゴムおよびゴム補強用のリグニン誘導体のいずれか一方または双方と架橋し得るものであれば、特に限定されないが、下記式(4)で表される化合物を含むものが好ましく用いられる。
[式(4)中のZは、メラミン残基、尿素残基、グリコリル残基、イミダゾリジノン残基および芳香環残基のうちのいずれか1種である。また、mは2〜14の整数を表す。また、Rは独立して炭素数1〜4のアルキル基または水素原子である。ただし、−CH
2ORは、メラミン残基の窒素原子、尿素残基の1級アミノ基の窒素原子、グリコリル残基の2級アミノ基の窒素原子、イミダゾリジノン残基の2級アミノ基の窒素原子および芳香環残基の芳香環の炭素原子のいずれかに直接結合している。]
このような化合物を含むゴム組成物は、硬化後の機械的特性に優れるとともに、硬化物の耐久性および外観の向上に寄与する。これは、架橋剤中に含まれる上記式(4)で表される化合物が、多官能性の架橋点を形成し得るため、ゴム補強用のリグニン誘導体を高密度かつ均一に架橋し、均質で剛直な骨格を形成するからである。剛直な骨格によって硬化物の機械的特性および耐久性(耐煮沸性等)が向上するとともに、膨れや亀裂等の発生が抑制されるため硬化物の外観も向上することとなる。
また、−CH2ORは、前述したようにメラミン残基の窒素原子、尿素残基の1級アミノ基の窒素原子、グリコリル残基の2級アミノ基の窒素原子、イミダゾリジノン残基の2級アミノ基の窒素原子および芳香環残基の芳香環の炭素原子のうちのいずれかに直接結合しているが、同一の窒素原子または炭素原子に2つ以上の「−CH2OR」が結合している場合、そのうちの少なくとも1つの「−CH2OR」が含む「R」はアルキル基であるのが好ましい。これにより、リグニン誘導体(A)を確実に架橋させることができる。
なお、本明細書においてメラミン残基とは、下記式(A)で表されるメラミン骨格を有する基のことをいう。
また、本明細書において尿素残基とは、下記式(B)で表される尿素骨格を有する基のことをいう。
また、本明細書においてグリコリル残基とは、下記式(C)で表されるグリコリル骨格を有する基のことをいう。
また、本明細書においてイミダゾリジノン残基とは、下記式(D)で表されるイミダゾリジノン骨格を有する基のことをいう。
また、本明細書において芳香環残基とは、芳香環(ベンゼン環)を有する基のことをいう。
また、上記式(4)で表される化合物としては、特に、下記式(5)〜(8)のうちのいずれかで表される化合物が好ましく用いられる。これらは、ゴム補強用のリグニン誘導体中のフェノール骨格に含まれる芳香環上の架橋反応点に対して反応し、リグニン誘導体を確実に架橋するとともに、官能基同士の自己縮合反応により自己架橋を生じる。その結果、特に均質で剛直な骨格を有し、機械的特性、耐久性および外観に優れた硬化物が得られる。
[式(5)中、XはCH
2ORまたは水素原子であり、Rは独立して炭素数1〜4のアルキル基または水素原子である。また、nは1〜3の整数を表す。]
[式(6)中、Rは独立して炭素数1〜4のアルキル基または水素原子である。]
[式(7)中、Rは独立して炭素数1〜4のアルキル基または水素原子である。]
[式(8)中、Rは独立して炭素数1〜4のアルキル基または水素原子である。]
また、上記式(5)で表される化合物としては、特に、下記式(9)または下記式(10)で表される化合物が好ましく用いられる。これらは、リグニン誘導体中のフェノール骨格に含まれる芳香環上の架橋反応点に対して反応しリグニン誘導体を特に確実に架橋するとともに、官能基同士の自己縮合反応により自己架橋を生じる。その結果、とりわけ均質で剛直な骨格を有し、機械的特性、耐久性および外観に優れた硬化物が得られる。
また、上記架橋剤は、上記式(4)で表される化合物に代えて、またはこの化合物とともに、ヘミサメチレンテトラミン、キヌクリジンおよびピジンのうちの少なくとも1種の化合物を含むものであってもよい。このような架橋剤を含む硬化物は、機械的強度に優れるとともに、耐久性および外観の高いものとなる。これは、ヘキサメチレンテトラミン、キヌクリジンおよびピジンがゴム補強用のリグニン誘導体を高密度かつ均一に架橋し、均質で剛直な骨格を形成するからである。
また、架橋剤には、上記化合物以外の架橋剤成分が含まれていてもよい。上記化合物以外の架橋剤成分としては、例えば、オルソクレゾールノボラックエポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ化グリセリン、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油のようなエポキシ樹脂、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネートのようなイソシアネート化合物、リグニン誘導体の芳香環に対し親電子置換反応して架橋し得る化合物として、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラールのようなアルデヒド類、ポリオキシメチレンのようなアルデヒド源、レゾール型フェノール樹脂等の通常のフェノール樹脂で公知の架橋剤、リグニン誘導体の芳香環に対し親電子置換反応して架橋し得る化合物等を挙げることができる。そして、架橋剤中におけるこれらの架橋剤成分の含有率は、架橋反応前において80質量%以上であるのが好ましい。
なお、架橋剤の添加量は、特に限定されないが、ゴム補強用のリグニン誘導体100質量部に対して、5〜120質量部であるのが好ましく、10〜100質量部であるのがより好ましい。
(その他の成分)
また、本発明のゴム組成物は、上述した成分の他に、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、例えば、軟化剤、粘着付与剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、老化防止剤、硫黄その他の加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、過酸化物、酸化亜鉛、ステアリン酸等が挙げられる。
加硫剤としては、例えば、有機過酸化物または硫黄系加硫剤を使用できる。
このうち、有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシプロピル)ベンゼン等が挙げられる。
一方、硫黄系加硫剤としては、例えば、硫黄、モルホリンジスルフィド等が挙げられる。これらの中では特に硫黄が好ましく用いられる。
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系の各種加硫促進剤等が挙げられ、これらのうち少なくとも1種を含むものが用いられる。
老化防止剤としては、例えば、アミン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩、ワックス等が適宜選択されて用いられる。
本発明のゴム組成物は、さらに、ステアリン酸、酸化亜鉛といったような、通常ゴム工業にて使用される配合剤を適宜配合することができる。
また、ゴム組成物中の固形分濃度は、特に制限されないが、一例として60〜98質量%程度とされ、好ましくは70〜95質量%程度とされる。
このようなゴム組成物は、従来のゴム組成物のあらゆる用途に適用可能であり、具体的には、タイヤ、ベルト、ゴムクローラー、防振ゴム、靴等の用途に適用可能である。
<ゴム組成物の製造方法>
次に、前述したゴム組成物の製造方法について説明する。
ゴム組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、原料ゴムと、ゴム補強用のリグニン誘導体と、その他の原料と、を混練する工程を含む。なお、必要に応じて、任意の原料を予備混合した後、混練するようにしてもよい。また、上述した原料を混練する順序は、特に限定されず、全ての原料を同時に混練してもよく、任意の順序で順次混練するようにしてもよい。
混練機としては、例えば、ミキサー、ニーダー、ロール等が挙げられる。
また、混練するときには、必要に応じて、有機溶媒を用いるようにしてもよい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、キノリン、シクロペンタノン、m−クレゾール、クロロホルム等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。
ここで、ゴム組成物の製造方法の一例を工程ごとに説明する。
まず、(1)ゴム補強用のリグニン誘導体と樹脂とを混合し、混合樹脂を得る。
次に、(2)原料ゴムと、混合樹脂と、任意成分(加硫剤および加硫促進剤を除く。)とを、密閉式混練機により混練して、加硫系を含有していないゴム組成物(未加硫のゴム組成物)を得る。このとき、混練条件(混練温度、混練時間等)は混練機に応じて適宜設定される。
次に、(3)上記(2)により得られたゴム組成物に対し、必要に応じて、オープンロール等のロール類を含む前記混練機を用いて加硫剤および加硫促進剤を添加し、再度混練して、加硫系を含有するゴム組成物を得る。
<ゴム組成物の硬化方法>
次に、ゴム組成物の硬化物を得る工程について説明する。
ゴム組成物の硬化物は、ゴム組成物を成形し、硬化させることによって得ることができる。成形方法は、用途によって異なるため、特に限定されるものではないが、金型を用いて成形する場合は、作製したゴム組成物を、油圧プレスを備えた金型を用いて成形する方法である。これにより、目的の形状に成形されたゴム組成物の硬化物を得る。
また、本発明のゴム組成物は、一例としてタイヤ用のゴム組成物として使用することが可能である。例えば、本発明のゴム組成物をタイヤのキャップトレッド用ゴム組成物として用いる場合は、通常の方法により製造される。すなわち、未加硫のゴム組成物をタイヤのトレッド部の形状に押出し加工した後、タイヤ成形機により通常の方法で貼り合わせて未加硫タイヤを成形する。次いで、未加硫タイヤを加硫機中で加熱・加圧してタイヤを得ることができる。
成形温度は、100〜280℃程度であるのが好ましく、120〜250℃程度であるのがより好ましく、130〜230℃程度であるのがさらに好ましい。なお、成形温度が前記上限値を上回ると、ゴムが劣化するおそれがあり、一方、成形温度が前記下限値を下回ると、十分な成形ができないおそれがある。
以上、本発明のゴム補強用のリグニン誘導体、リグニン樹脂組成物およびゴム組成物について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、リグニン樹脂組成物およびゴム組成物には、それぞれ任意の成分が添加されていてもよい。
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.ゴム組成物の製造
以下、実施例および比較例において用いた各種原料について列挙する。
天然ゴム :東知製RSS3
硬化剤 :ヘキサメチレンテトラミン
カーボンブラック :三菱化学社製、HAF
シリカ :エボニック社製、Ultrasil VN3(BET比表面積:175m2/g)
シランカップリング剤 :エボニック社製、Si−69
酸化亜鉛 :堺化学工業社製
ステアリン酸 :日油社製ビーズステアリン酸YR
硫黄 :細井化学工業社製、微粉硫黄
加硫促進剤 :大内新興化学工業社製、MSA−G
フェノール樹脂 :住友ベークライト社製、PR−50731
カシュー変性ノボラック型フェノール樹脂 :住友ベークライト社製、PR−12686
トール変性ノボラック型フェノール樹脂 :住友ベークライト社製、PR−13349
(実施例1)
(1)クラフト蒸解プロセス
スギのチップ300g(絶乾量)に対し、蒸解液を添加し、オートクレーブにおいて温度170℃、圧力0.8MPaで80分間、蒸解した。なお、蒸解液は、水の含有率が94.3質量%、水酸化ナトリウムの含有率が4.3質量%、硫化ナトリウムの含有率が1.4質量%となるように調製されたアルカリ溶液である。また、この蒸解液の活性アルカリ(対チップ質量)は18%、硫化度25%、液比3L/kgであった。この蒸解により、クラフトパルプ(KP)を得るとともに、リグニン誘導体を含む黒液を得た。
(2)精製プロセス
次に、80℃において、得られた黒液(pH13〜13.5)を二酸化炭素でpH9に調整した。調整後の黒液をフィルタープレスで脱水し、固形分約30%のケーキを得た。得られたケーキに2倍量の水を加えて再懸濁し、硫酸でpH5に調整した。調整後の懸濁液を80℃に調整し、フィルタープレスで脱水した後、ケーキの2倍量の80℃の水で洗浄を行い、固形分約70%のリグニンケーキを得た。これにより、ゴム補強用のリグニン誘導体を得た。
ここで、得られたゴム補強用のリグニン誘導体について、フラスコ燃焼ー滴定法により硫黄の含有率を測定した。測定結果を表1に示す。
また、得られたゴム補強用のリグニン誘導体について、数平均分子量および軟化点を測定した。測定結果を表1に示す。
(3)ゴム組成物の作製
次に、ゴム補強用のリグニン誘導体50質量部と、カシュー変性フェノール樹脂50質量部とを、あらかじめ130℃の熱板において溶融混合し、粉砕して混合樹脂を得た。
次いで、得られた混合樹脂100質量部と、天然ゴム化合物500質量部と、カーボンブラック350質量部と、樹脂架橋剤としてヘキサメチレンテトラミン10質量部と、加硫剤として硫黄15質量部と、加硫促進剤としてMSA−G7.5質量部と、加硫促進助剤として酸化亜鉛25質量部と、離型剤としてステアリン酸10質量部とを、バンバリーミキサーにおいて100℃で混練し、ゴム組成物を得た。
(実施例2)
カシュー変性フェノール樹脂の添加を省略するとともに、ゴム補強用のリグニン誘導体を100質量部にした以外は、実施例1と同様にしてゴム組成物を得た。
(実施例3)
スギのチップに代えて、ユーカリのチップを用いるとともに、カシュー変性フェノール樹脂に代えて、トール変性フェノール樹脂を添加するようにした以外は、実施例1と同様にしてゴム組成物を得た。
(実施例4)
トール変性フェノール樹脂に代えて、ノボラック型フェノール樹脂を添加するようにした以外は、実施例3と同様にしてゴム組成物を得た。
(実施例5)
スギのチップに代えて、ユーカリのチップを用いるようにした以外は、実施例1と同様にしてゴム組成物を得た。
(実施例6)
ゴム補強用のリグニン誘導体の添加量とカシュー変性フェノール樹脂の添加量をそれぞれ表1に示すように変更した以外は、実施例5と同様にしてゴム組成物を得た。
(実施例7)
ゴム補強用のリグニン誘導体の添加量とカシュー変性フェノール樹脂の添加量をそれぞれ表1に示すように変更した以外は、実施例5と同様にしてゴム組成物を得た。
(実施例8)
カシュー変性フェノール樹脂の添加を省略するとともに、ゴム補強用のリグニン誘導体を100質量部にした以外は、実施例5と同様にしてゴム組成物を得た。
(実施例9)
充填剤として、さらにシリカを添加するとともに、カーボンブラックの添加量を表1に示すように変更した以外は、実施例5と同様にしてゴム組成物を得た。
(実施例10)
ゴム補強用のリグニン誘導体の作製において精製プロセスを省略し、黒液から直接抽出されたゴム補強用のリグニン誘導体を用いるようにした以外は、実施例5と同様にしてゴム組成物を得た。
(実施例11)
ヘキサメチレンテトラミンを使用しなかった以外は、実施例8と同様にしてゴム組成物を得た。
(比較例1)
(1)バイオマス分解プロセス
スギのチップ300g(絶乾量)と純水1600gとを、容量2.4Lの回転型オートクレーブに導入した。そして、内容物を回転数300rpmで撹拌しながら、処理温度300℃、処理圧力9MPaで180分間処理してスギのチップを分解した。
次いで、分解物を濾過し、純水で洗浄することにより、水不溶部を分離した。この水不溶部をアセトンに浸漬し、その後、濾過し、アセトン可溶部を回収した。
次いで、アセトン可溶部からアセトンを留去し、リグニン誘導体を得た。
(2)精製プロセス
次に、実施例1と同様にして、(1)で得られたリグニン誘導体を精製した。
(3)ゴム組成物の作製
次に、実施例6と同様にして、ゴム組成物を得た。
(比較例2)
カシュー変性フェノール樹脂の添加を省略するとともに、リグニン誘導体を100質量部にした以外は、比較例1と同様にしてゴム組成物を得た。
(比較例3)
ゴム補強用のリグニン誘導体の添加、カシュー変性フェノール樹脂の添加および樹脂架橋剤の添加をそれぞれ省略した以外は、比較例1と同様にしてゴム組成物を得た。
(比較例4)
ゴム補強用のリグニン誘導体の添加およびカシュー変性フェノール樹脂の添加をそれぞれ省略するとともに、ノボラック型フェノール樹脂を100質量部添加した以外は、比較例1と同様にしてゴム組成物を得た。
(比較例5)
ゴム補強用のリグニン誘導体の添加を省略するとともに、カシュー変性フェノール樹脂を100質量部添加した以外は、比較例1と同様にしてゴム組成物を得た。
2.ゴム組成物の評価
まず、各実施例および各比較例で得られたゴム組成物を、油圧プレスにより160℃で20分間加硫して、厚さ2mmの加硫ゴムシートを作製した。
2.1 切断時引張応力および切断時引張伸びの測定
次に、ゴムシートについて、JIS K 6251に規定の方法に準拠して、東洋精機社製ストログラフを用いて切断時引張応力および切断時引張伸びを測定した。なお、測定時の引張速度は50mm/分とした。また、試験片の形状はダンベル型、つかみ具間距離は60mm、幅は5mm、測定温度は25℃であった。
次いで、比較例3で得られたゴムシートについての測定結果を100としたときの各実施例および各比較例で得られたゴムシートについての測定結果の相対値を求めた。算出結果を表1に示す。
2.2 貯蔵弾性率E’および損失正接tanδの測定
次に、ゴムシートについて、TAインスツルメント社製動的粘弾性測定装置を用い、動的の条件下で、30℃における貯蔵弾性率E’および60℃における損失正接tanδの逆数を測定した。
なお、試験片の長さを22mm、幅を10mm、昇温速度を5℃/分、歪みを2%、測定周波数を1Hzとした。
次いで、比較例3で得られたゴムシートについての測定結果を100としたときの各実施例および各比較例で得られたゴムシートについての測定結果の相対値を求めた。算出結果を表1に示す。
なお、損失正接tanδの逆数の値が大きいということは、粘弾性特性の損失正接tanδが小さいことを意味し、ひいては繰り返し変形で発生する熱エネルギーを抑えられること、すなわちヒステリシスロス性が小さいことを意味するので、例えば各実施例および各比較例で得られたゴム組成物をタイヤ用ゴム組成物に適用した場合、転がり抵抗の小さいタイヤを得ることができる。
表1から明らかなように、各実施例で得られたゴム組成物の硬化物は、各比較例で得られたゴム組成物の硬化物に比べて、硬度の目安である貯蔵弾性率E’が大きい。また、各実施例で得られたゴム組成物の硬化物は、比較例4、5で得られたゴム組成物の硬化物に比べて、切断時引張応力および切断時引張伸びが大きい。よって、本発明によれば、優れた弾性率および引張特性を有するゴム組成物を実現し得ることが明らかとなった。
また、リグニン誘導体とともに樹脂を添加することによって、樹脂を添加しない場合に比べて、60℃における損失正接tanδの逆数を大きくすることができ、ゴム組成物の硬化物のヒステリシスロス性を小さくし得ることが認められた。
したがって、本発明によれば、60℃におけるtanδの逆数に関連するヒステリシスロス性が小さく、かつ、30℃における貯蔵弾性率E’に関連するゴム弾性率が大きいゴム組成物、すなわち、ゴム弾性率とヒステリシスロス性とのバランスが良好なゴム組成物を実現し得ることが明らかとなった。
よって、本発明に係るゴム補強用のリグニン誘導体は、補強剤として機能し得ることが明らかとなった。
なお、表1には記載していないものの、バイオマス蒸解プロセスに用いる蒸解液の硫化度を変更し、これによりリグニン誘導体の硫黄含有率を0.1質量%、1質量%、3質量%、5質量%に変更した場合についても、上述したゴム組成物の評価を行った。
その結果、このような場合でも、各比較例で得られたゴム組成物に比べて、貯蔵弾性率E’が大きく、切断時引張応力が大きいことが認められた。なお、このような傾向は、硫黄含有率が1〜3質量%であるときに特に顕著であった。