以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る渡り線相対位置管理装置が設けられた鉄道車両を示す図である。渡り線相対位置管理装置は、鉄道車両10に設置され、鉄道車両10の進行方向と略直交する平面内において架線を含む領域を測定して測定データを生成する測定手段を含んでいる。測定手段としては、例えば、少なくとも1つのレーザー測域センサーが用いられ、さらに複数のラインカメラが用いられても良い。
以下においては、一例として、2つのレーザー測域センサー11及び12と、2つのラインカメラ13及び14とが用いられる場合について説明する。これらは、図1に示すように電気検測車等の鉄道車両10の屋根上に配置されても良いし、あるいは、軌陸車若しくは保守用車の作業台に配置されても良い。また、渡り線相対位置管理装置は、照明装置15と、変位センサー(又は、加速度センサー)16とを含んでも良い。
さらに、渡り線相対位置管理装置は、関心領域設定部21と、データ処理部22と、処理メモリー23と、架線抽出部24と、架線位置算出部25と、制御部26と、格納部27と、表示部28とを含んでいる。これらは、図1に示すように鉄道車両10内に配置されても良いし、あるいは、鉄道車両10外に配置されても良い。後者の場合には、例えば、データ測定時において、レーザー測域センサー11及び12、ラインカメラ13及び14、及び、変位センサー16から出力されるデータが、外付けハードディスク等の着脱可能な記録媒体に一旦記録される。また、データ測定後において、着脱可能な記録媒体に記録されたデータが、関心領域設定部21、データ処理部22、及び、架線位置算出部25に供給される。
ここで、関心領域設定部21と、データ処理部22と、架線抽出部24〜制御部26との内の少なくとも1つを、CPU(中央演算装置)を含むPC(パーソナルコンピューター)と、CPUに各種の処理を行わせるためのソフトウェア(プログラム)とによって構成しても良い。ソフトウェアは、格納部27の記録媒体に記録される。記録媒体としては、ハードディスク、フレキシブルディスク、MO、MT、CD−ROM、DVD−ROM、又は、USBメモリー等の不揮発性メモリー等を用いることができる。
鉄道車両の上方には、鉄道車両の進行方向と略平行に、トロリー線や吊架線等の架線が配設されている。また、渡り線装置においては、本線のトロリー線の近くに渡り線のトロリー線が配設されている。渡り線のトロリー線は、渡り線装置において、本線のトロリー線よりも高い位置に配設されている。
図1に示すように、鉄道車両10が渡り線を走行している場合には、鉄道車両10の中心軸上方に渡り線のトロリー線が存在する。一方、鉄道車両が本線を走行している場合には、鉄道車両の中心軸上方に本線のトロリー線が存在することになる。以下においては、鉄道車両の中心軸上方に存在するトロリー線を第1のトロリー線と呼び、第1のトロリー線と所定の関係にあるトロリー線を第2のトロリー線と呼ぶ。
レーザー測域センサー11及び12は、鉄道車両10の進行方向(Z軸方向)及び高さ方向(Y軸方向)と略直交する枕木方向(X軸方向)に延びる第1の直線上に第1の間隔で配置されている。レーザー測域センサー11は、鉄道車両10の進行方向と略直交する平面(図1におけるXY平面)における第1の範囲内の投射角度にレーザー光線を投射して、第1のトロリー線等の架線を含む領域を走査する。また、レーザー測域センサー12は、鉄道車両10の進行方向と略直交する平面における第2の範囲内の投射角度にレーザー光線を投射して、第1のトロリー線等の架線を含む領域を走査する。
それにより、レーザー測域センサー11及び12の各々は、第1のトロリー線等の架線を含む領域を測定して、架線が存在する方向を表す角度データ、及び、架線までの距離を表す距離データを生成する。図1に示すように、第2のトロリー線が第1のトロリー線の近くに位置する場合には、第2のトロリー線の位置も測定される。
例えば、レーザー測域センサー11及び12の各々は、レーザーダイオードを用いてパルス状のレーザー光線を生成し、回転ミラー(ポリゴンミラー等)を介して周囲の空間にレーザー光線を投射することにより、架線を幅方向に走査する。また、レーザー測域センサー11及び12の各々は、フォトダイオード等を用いて架線からの反射光を検出する。
レーザー測域センサー11及び12の各々から投射されるレーザー光線の投射方向は、角度エンコーダーを用いて、一定の角度ステップで変更される。架線が存在する方向は、反射光が検出された時の角度エンコーダーの出力信号に基づいて求められ、架線が存在する方向を表す角度データが生成される。また、架線までの距離は、パルス状のレーザー光線を投射してから反射光を検出するまでの時間に基づいて求められ、架線までの距離を表す距離データが生成される。
このように、2つのレーザー測域センサー11及び12を用いる場合には、複数のトロリー線が一方のレーザー測域センサーから見て重なって配設されている場合においても、それらのトロリー線を分離して測定することが可能である。ただし、レーザー測域センサー11及び12による測定結果は、一般に、測定距離が1mである場合に10mm程度の誤差を含んでいる。従って、ラインカメラ13及び14を用いてトロリー線の正確な位置を計測しても良い。
ラインカメラ13及び14は、第1の直線と略平行な第2の直線上に、第2の間隔で配置されている。第2の直線は、第1の直線と同一でも良い。ラインカメラ13及び14は、第1のトロリー線等の架線を含む領域を撮像して、1次元の画像を表す第1の画像データ及び第2の画像データをそれぞれ生成する。図1に示すように、第2のトロリー線が第1のトロリー線の近くに位置する場合には、第2のトロリー線も撮像される。
照明装置15は、第1及び第2の直線に略平行な第3の直線に沿って設置されている。第3の直線は、第1又は第2の直線と同一でも良い。照明装置15は、夜間等において、ラインカメラ13及び14が撮像する空間を照明する。夜間、又は、地下区間やトンネル区間において、照明装置15を用いてトロリー線を照明する場合には、トロリー線が背景よりも明るく照らし出されるので、トロリー線が撮像された画素において画像データの輝度値が大きくなる。
一方、昼間において、晴天の場合には、トロリー線が背景よりも暗く写し出されるので、トロリー線が撮像された画素において画像データの輝度値が小さくなる。従って、画像データの輝度値に基づいて、トロリー線を抽出することが可能となる。
例えば、ラインカメラ13及び14の各々は、第2の直線に沿って配置された複数の画素を有するラインセンサーと、ラインセンサーの前面に取り付けられ、周囲の空間からの光をラインセンサーの複数の画素に集光するレンズとを含んでいる。このレンズは、鉄道車両10の進行方向と略直交する平面(図1におけるXY平面)内における撮像角度を、ラインセンサーにおける画素の位置に1:1で対応させることができる。従って、ラインセンサーにおける画素の位置から、ラインカメラ13又は14におけるトロリー線の撮像角度を求めることが可能となる。
関心領域設定部21は、レーザー測域センサー11及び12の各々によって生成される角度データ及び距離データに基づいて、鉄道車両10の進行方向と略直交する平面内において、測定された架線の位置を含む関心領域を設定する。複数の架線が測定されたときには、関心領域設定部21は、それらの架線の位置を含む複数の関心領域を設定しても良い。図1に示すように、第2のトロリー線が第1のトロリー線の近くに位置する場合には、第1のトロリー線の位置を含む関心領域、及び、第2のトロリー線の位置を含む関心領域も設定される。
また、関心領域設定部21は、1次元の画像における関心領域の位置情報を算出する。例えば、関心領域設定部21は、レーザー測域センサー11によって生成される角度データ及び距離データに基づいて、ラインカメラ13から関心領域を見たときの第1の角度範囲を、関心領域の位置情報として算出する。また、関心領域設定部21は、レーザー測域センサー12によって生成される角度データ及び距離データに基づいて、ラインカメラ14から関心領域を見たときの第2の角度範囲を、関心領域の位置情報として算出する。
ここで、関心領域設定部21は、レーザー測域センサー11又は12によって生成される角度データ及び距離データによって表される架線の位置及び太さと、レーザー測域センサー11又は12の測定誤差とを考慮して、関心領域を設定しても良い。例えば、レーザー測域センサーから1m離れた位置に半径6mmの架線が測定され、レーザー測域センサーから1m離れた位置における測定誤差が10mmである場合には、角度データ及び距離データによって表される架線の中心位置から半径16mm内の領域が関心領域として設定される。さらに、関心領域設定部21は、その値に、余裕係数(例えば、1.2〜1.5)を掛けて関心領域を設定しても良い。
データ処理部22は、ラインカメラ13及び14によってそれぞれ生成される第1及び第2の画像データの各々に対して、関心領域設定部21によって設定された関心領域外の画像をマスキングする画像処理を施す。例えば、データ処理部22は、関心領域外の画像を表す画像データの値を「0」又は「1」に置き換えても良いし、関心領域の画像のみを切り出しても良い。
関心領域設定部21が、第1及び第2の画像データの各々について複数の関心領域を設定した場合には、データ処理部22は、それらの関心領域から順次選択された1つの関心領域外の画像をマスキングする画像処理を施しても良い。それにより、複数の関心領域に対応する複数の画像を表す第1の画像データ、及び、複数の関心領域に対応する複数の画像を表す第2の画像データが得られる。
例えば、関心領域設定部21が、関心領域の位置情報として、ラインカメラ13から関心領域を見たときの第1の角度範囲を算出した場合には、データ処理部22は、第1の画像データに対して、ラインカメラ13から関心領域を見たときの第1の角度範囲外の画像をマスキングする画像処理を施す。
同様に、関心領域設定部21が、関心領域の位置情報として、ラインカメラ14から関心領域を見たときの第2の角度範囲を算出した場合には、データ処理部22は、第2の画像データに対して、ラインカメラ14から関心領域を見たときの第2の角度範囲外の画像をマスキングする画像処理を施す。
鉄道車両10が走行している際に、ラインカメラ13及び14が、トロリー線等の架線を含む領域を順次撮像して第1及び第2の画像データをそれぞれ生成し、データ処理部22が、生成された第1及び第2の画像データに画像処理を順次施す。データ処理部22は、画像処理が順次施された第1及び第2の画像データを処理メモリー23に蓄積する。
第1の画像データを所定のライン数分(例えば、1000ライン分)結合することによって、1フレームの2次元画像が生成される。また、第2の画像データを所定のライン数分(例えば、1000ライン分)結合することによって、1フレームの2次元画像が生成される。それにより、2次元の画像を各々が表す第1及び第2の画像データが得られる。
関心領域設定部21が第1及び第2の画像データの各々について複数の関心領域を設定し、データ処理部22がそれらの関心領域から順次選択された1つの関心領域外の画像をマスキングする画像処理を施した場合には、複数の関心領域に対応する複数の2次元画像を各々が表す第1及び第2の画像データが得られることになる。
図2は、データ処理部による画像処理前後の画像を比較して示す模式図である。図2(A)は、画像処理前の画像を示しており、図2(B)は、画像処理後の画像を示している。図2においては、1つのラインカメラによって所定の期間に亘って撮像された1フレームの2次元画像が示されている。
図2において、縦軸は、ラインカメラから見た架線の角度θを表しており、横軸は、鉄道車両が一定速度で走行する場合に時間軸に対応するZ軸である。画像データを処理メモリー等に取り込む時間間隔は、鉄道車両の走行速度に応じて制御しても良い。あるいは、画像データを一定の時間間隔で処理メモリー等に取り込むと共に、鉄道車両の走行速度を処理メモリー等に記録しておき、後で時間軸をZ軸に変換しても良い。
図2(A)に示すように、画像処理前の画像においては、3本の架線を構成する3本の線条L1〜L3が映り込んでいる。一方、図2(B)に示すように、画像処理後の画像においては、関心領域の画像を切り出すことにより、計測対象外の線条L2及びL3がマスキングされて、計測対象の線条L1のみが映し出されている。
再び図1を参照すると、架線抽出部24は、処理メモリー23に蓄積されて2次元の画像を表す第1及び第2の画像データの各々に対して架線抽出処理を施す。例えば、架線抽出部24は、処理メモリー23に蓄積された第1及び第2の画像データの各々によって表される2次元の画像から、輝度値や角度等に関する所定の条件を満たす領域を検出することにより、架線を抽出する。
架線抽出処理は、架線のエッジ検出や、架線のパターンマッチング等によって行うことができる。以下においては、架線のエッジを検出する場合について説明する。架線抽出部24は、処理メモリー23に蓄積されて2次元の画像を表す第1及び第2の画像データの各々に対してエッジ検出処理を施し、検出された複数のエッジの内から所定の条件を満たすエッジを抽出する。エッジ検出処理は、例えば、ゾーベル(Sobel)フィルターを用いたコンボリューション(畳み込み)操作により、エッジの強度と方向を求めることによって行われる。
図3は、ゾーベルフィルターの係数行列(オペレーター)の例を示す図である。ゾーベルフィルターは、空間1次微分を計算して輪郭を検出するために用いられるフィルターである。架線抽出部24は、ある注目画素を中心とした上下左右の9つの画素の値に対して、図3(A)に示すような水平エッジ検出用の係数行列を乗算し、乗算結果を合計することにより、水平エッジ検出値Ixを得る。
また、架線抽出部24は、ある注目画素を中心とした上下左右の9つの画素の値に対して、図3(B)に示すような垂直エッジ検出用の係数行列を乗算し、乗算結果を合計することにより、垂直エッジ検出値Iyを得る。エッジの強度I及び角度αは、次式を用いて求められる。
I=(Ix2+Iy2)1/2
α=tan−1(Iy/Ix)
架線抽出部24は、エッジ検出処理によって検出された複数のエッジの内から、強度Iが閾値以上で、角度αが所定の範囲内にあるエッジを架線のエッジとして抽出し、エッジの位置を表すエッジ座標を求める。エッジの一部が欠けている場合に、架線抽出部24は、欠けている部分をその前後のエッジの延長線で補ってエッジ座標を求めても良い。
実際には、架線がある太さを有しているので、1つの架線について2つのエッジが抽出されるが、架線の座標として、それらのエッジの内の一方の座標を用いても良いし、それらのエッジの平均座標を求めても良い。架線の座標は、例えば、各々のZ座標について、ラインカメラ13から見た架線の角度θ1と、ラインカメラ14から見た架線の角度θ2とを含んでいる。
また、架線抽出部24は、架線の座標を架線位置算出部25に出力する。架線位置算出部25は、第1及び第2の画像データによって表される2種類の画像から架線抽出部24によって抽出された架線の座標に基づいて、鉄道車両10に対する架線の3次元位置を算出する。
図4は、架線の位置を算出する原理を説明するための図である。図4には、XY平面において、ラインカメラ13及び14と、架線の位置P(x,y)とが示されている。架線位置算出部25は、ラインカメラ13から見た架線の角度θ1、及び、ラインカメラ14から見た架線の角度θ2に基づいて、鉄道車両10に対する架線の位置P(x,y)を求める。
図4に示すように、ラインカメラ13とラインカメラ14との間の距離をd(既知)とし、ラインカメラ13と架線との間の距離をr1、ラインカメラ14と架線との間の距離をr2とすると、次式が成立する。
r1sinθ1+r2sinθ2=d
r1cosθ1=r2cosθ2
これらの式より、距離r1を求めることができる。
r1=d/{sinθ1+(cosθ1/cosθ2)sinθ2}
従って、x及びyは、以下のようにして算出される。
x=r1sinθ1+x0
y=r1cosθ1+y0
さらに、図1に示す架線位置算出部25は、鉄道車両10が走行している軌道(レール)の中心と、鉄道車両10の基準位置(例えば、XY座標の原点)との位置関係に基づいて、軌道の中心に対する架線の2次元位置を算出する。架線位置算出部25は、以上のような計算を、複数のZ座標について順次行うことにより、軌道の中心を基準として、軌道に沿って延在する架線の3次元位置を算出する。2つのレーザー測域センサー11及び12を用いる場合には、架線の位置を算出する際の計算精度を向上させることができる。
あるいは、ラインカメラを用いない場合には、データ処理部22は、レーザー測域センサー11又は12によって生成される角度データ及び距離データを処理して、順次処理された角度データ及び距離データを処理メモリー23に蓄積する。例えば、架線抽出部24は、処理メモリー23に蓄積された測定データによって表される角度や距離等に基づいて、角度や距離等に関する所定の条件を満たす領域を検出することにより架線を抽出する。
このように、データ処理部22は、レーザー測域センサー又はラインカメラ等の測定手段によって生成される測定データ(角度データ及び距離データ、又は、画像データ)を処理して、順次処理された測定データを処理メモリー23に蓄積する。架線抽出部24は、処理メモリー23に蓄積された測定データに基づいて、所定の条件を満たす架線を抽出する。架線位置算出部25は、架線抽出部24によって抽出された架線の座標に基づいて、鉄道車両10に対する架線の3次元位置を算出する。
変位センサー16は、鉄道車両10のローリングや上下動等による変位を観測して、軌道に対する鉄道車両10の変位を表す変位データを出力する。架線位置算出部25は、変位センサー16から出力される変位データに基づいて、架線の位置の座標を補正しても良い。変位センサーの替りに加速度センサーを用いる場合には、架線位置算出部25は、加速度センサーから出力される加速度データに基づいて変位を求め、架線の位置の座標を補正しても良い。
制御部26は、架線位置算出部25によって算出された架線の3次元位置に基づいて、第1のトロリー線を識別する。例えば、複数の関心領域において複数の架線が抽出された場合に、制御部26は、鉄道車両10が走行している軌道の中心を基準として、X軸方向において軌道の中心付近に位置し、かつ、Y軸方向において軌道から所定の範囲内の高さを有する架線が、第1のトロリー線であると判定する。
また、制御部26は、複数の関心領域において複数の架線が抽出された場合に、架線位置算出部25によって算出された架線の3次元位置に基づいて、第1のトロリー線と所定の関係にある第2のトロリー線が存在するか否かを判定する。例えば、制御部26は、鉄道車両10が走行している軌道に対してY軸方向において所定の範囲内の高さを有し、第1のトロリー線と平面視で交差する架線が、第2のトロリー線であると判定する。
さらに、制御部26は、第2のトロリー線が存在すると判定した場合に、第1及び第2のトロリー線の内のいずれが本線のトロリー線でいずれが渡り線のトロリー線であるかを判定する。例えば、制御部26は、第1及び第2のトロリー線の内で、交差位置において高い方のトロリー線が渡り線のトロリー線であり、交差位置において低い方のトロリー線が本線のトロリー線であると判定する。あるいは、走行線路及び地点の情報に対応して、第2のトロリー線が本線であるか渡り線であるかに関する情報を予めデータベースに格納しておき、制御部26が、その情報を参照して判定を行うようにしても良い。
図5は、パンタグラフと渡り線及び本線のトロリー線との位置関係を示す図である。図5においては、鉄道車両が渡り線を矢印の方向に向けて走行する場合が示されている。図5(A)は、パンタグラフ及び2本のトロリー線を鉄道車両の上方から見た平面図であり、図5(B)〜図5(D)は、図5(A)に示す各位置におけるパンタグラフ及び2本のトロリー線を鉄道車両の前方から見た正面断面図である。
図5に示すように、パンタグラフの集電舟体の中央部上側には、トロリー線と主に接触して集電を行う摺り板が設けられている。また、集電舟体の両端部には、トロリー線が集電舟体の下側に入り込まないようにするために斜め下方に向けられたホーンが設けられている。
図5(A)に示すように、渡り線のトロリー線と本線のトロリー線とは、位置Pにおいて平面視で交差している。位置Pにおいては、鉄道車両のパンタグラフが通過する際の2本のトロリー線相互の高低差を制限するために、本線のトロリー線に交差金具(垂直移動止金具)が取り付けられている。また、本線のトロリー線と渡り線のトロリー線とを電気的に接続する接続金具が設けられている。
図6は、交差金具の例を示す図である。図6(A)は、交差金具の側面図であり、図6(B)は、交差金具の正面図である。渡り線のトロリー線は、本線のトロリー線と交差金具との間に配設される。従って、図5(A)に示す位置P付近においては、渡り線のトロリー線が、本線のトロリー線よりも上側に位置している。
なお、渡り線装置において、渡り線のトロリー線と本線のトロリー線とが平面視で交差しない場合もある。そのような場合には、渡り線のトロリー線が、本線のトロリー線に近付いてから、また離れて行く。従って、トロリー線に交差金具は取り付けられないが、本線のトロリー線と渡り線のトロリー線とを電気的に接続する接続金具は設けられる。
図5(B)に示す位置においては、パンタグラフの摺り板が渡り線のトロリー線に接触しており、本線のトロリー線は、パンタグラフから離れた位置にある。図5(C)に示す位置においては、パンタグラフの摺り板が渡り線のトロリー線に接触すると共に、パンタグラフのホーンが渡り線のトロリー線に接触している。図5(D)に示す位置においては、パンタグラフの摺り板が本線のトロリー線に接触しており、渡り線のトロリー線は、本線のトロリー線の上方に位置している。
ここで、図5(C)に示す位置においては、渡り線を走行する鉄道車両のパンタグラフが、交差する本線のトロリー線に斜めから接触するので、両者の位置関係によっては、本線のトロリー線がパンタグラフのホーンの下側に入り込む割り込み現象を起こし、パンタグラフや電車線金具を破損してしまう恐れがある。
これを回避するために、例えば、パンタグラフの幅が1880mmである場合に、渡り線の軌道中心から本線が900mm離れた位置Q(図5(A))において、渡り線のトロリー線が本線のトロリー線よりも所定の範囲内の高さだけ高くなるように保全管理されている。所定の範囲は、在来線の場合に0mm〜30mmであり、新幹線の場合に40mm〜70mmである。
従来は、専用のゲージ棒を用いた手作業による測定によって、位置Qにおける2本のトロリー線の高低差が管理されていた。割り込み現象は、渡り線を走行する鉄道車両のパンタグラフのホーン先端と本線のトロリー線との位置関係によって生じるので、渡り線の軌道中心から本線が900mm離れた位置Qにおける2本のトロリー線の高低差を管理することによって防止することができる。
しかしながら、本線を走行する鉄道車両のパンタグラフが渡り線のトロリー線を摺動する現象は、位置Q以外においても起こり得る。鉄道車両が本線を高速で走行する際にパンタグラフが渡り線のトロリー線を摺動すると、パンタグラフに異常な衝撃が発生したり、渡り線のトロリー線に異常な摩耗が発生したりすることによる設備事故が発生する可能性がある。そのような設備事故の可能性は、渡り線の軌道中心から本線が900mm離れた位置Qのみにおける2本のトロリー線の高低差を管理する従来の管理手法によっては、完全には把握することができない。
そこで、図1に示す制御部26は、少なくとも第2のトロリー線の位置に基づいて監視範囲を設定して、監視範囲内における渡り線のトロリー線の高さと本線のトロリー線の高さとの差が所定の範囲内であるか否かを判定する。所定の範囲は、在来線の場合に、0mmよりも大きく30mm以下の範囲としても良く、新幹線の場合に、40mm以上かつ70mm以下の範囲としても良い。
このように、監視範囲内における渡り線のトロリー線と本線のトロリー線との相対位置を連続的に測定して管理することにより、鉄道車両が渡り線を走行する際に本線のトロリー線がパンタグラフのホーンの下側に入り込む割り込み現象の可能性の有無を把握するのみならず、鉄道車両が本線を走行する際にパンタグラフが渡り線のトロリー線を摺動する可能性の有無を把握することができる。
その結果、本線を高速で走行する鉄道車両のパンタグラフに異常な衝撃が発生したり、渡り線のトロリー線に異常な摩耗が発生したりすることによる設備事故の発生を未然に防止することが可能となる。さらに、電気検測車等による自動測定方法を用いることにより、従来の手作業による測定と比較して、作業の大幅な効率化や省力化を実現することができる。
例えば、制御部26は、鉄道車両が走行している軌道において、軌道と直角に測って軌道の中心から平面視で所定の距離以内に第2のトロリー線が位置する範囲を監視範囲として設定する。なお、「平面視」とは、軌道中心及びトロリー線をXZ平面に投影して見ることであり、軌道中心及びトロリー線のX座標及びZ座標に基づいて距離が算出される。その後、制御部26は、監視範囲内において軌道と略直交する複数の面内における渡り線のトロリー線の高さと本線のトロリー線の高さとの差が所定の範囲内であるか否かを判定する。
ここで、所定の距離は、パンタグラフの幅の半分以上であることが望ましく、パンタグラフの幅が1880mmである場合に、所定の距離を900mm〜1200mm(パンタグラフの幅の約1/2〜約2/3)としても良い。それにより、鉄道車両が渡り線を走行する際に本線のトロリー線がパンタグラフのホーンの下側に入り込む割り込み現象を防止することができる。また、鉄道車両が本線を走行する際にパンタグラフが渡り線のトロリー線を摺動する現象が発生する可能性を把握することができる。
また、電気検測車等の鉄道車両が渡り線を走行しているときに、本線を走行する鉄道車両のための安全管理を行うことも可能である。その場合には、本線の軌道中心の位置を計測することを省略して、X座標及びZ座標について本線の軌道中心の位置が本線のトロリー線の位置で近似される。同様に、電気検測車等の鉄道車両が本線を走行しているときに、渡り線を走行する鉄道車両のための安全管理を行うことも可能である。その場合には、渡り線の軌道中心の位置を計測することができないので、X座標及びZ座標について渡り線の軌道中心の位置が渡り線のトロリー線の位置で近似される。
例えば、制御部26は、第2のトロリー線において、第2のトロリー線と直角に測って第2のトロリー線から平面視で所定の距離以内に第1のトロリー線が位置する範囲を監視範囲として設定する。その後、制御部26は、監視範囲内において第2のトロリー線と略直交する複数の面内における渡り線のトロリー線の高さと本線のトロリー線の高さとの差が所定の範囲内であるか否かを判定する。
以上において、渡り線装置が設置された位置を表す渡り線位置情報を格納部27に予め格納しておき、制御部26が、格納部27に格納されている渡り線位置情報に基づいて安全管理を行っても良い。例えば、制御部26は、渡り線位置情報によって表される渡り線装置の設置位置から所定の距離以内の領域において第2のトロリー線が存在するか否かを判定し、第2のトロリー線が存在する場合に監視範囲を設定する。
制御部26は、監視範囲内における渡り線のトロリー線の高さと本線のトロリー線の高さとの差が所定の範囲外であると判定した場合に、画像又は音声によって警告を発するように表示部28を制御する。例えば、制御部26は、監視範囲内において軌道と略直交するいずれかの面内における渡り線のトロリー線の高さと本線のトロリー線の高さとの差が所定の範囲外である場合に、警告を発するように表示部28を制御する。あるいは、制御部26は、監視範囲内において第2のトロリー線と略直交するいずれかの面内における渡り線のトロリー線の高さと本線のトロリー線の高さとの差が所定の範囲外である場合に、警告を発するように表示部28を制御する。
次に、本実施形態に係る渡り線相対位置管理装置において用いられる渡り線相対位置管理方法について、図1及び図7を参照しながら説明する。図7は、本発明の一実施形態に係る渡り線相対位置管理方法を示すフローチャートである。なお、互いに独立な処理については、それらを並列に行っても良い。
図7に示すステップS1において、関心領域設定部21が、レーザー測域センサー11及び12の各々によって生成される角度データ及び距離データに基づいて、測定された架線の位置を含む関心領域を設定する。
ステップS2において、データ処理部22が、ラインカメラ13及び14によってそれぞれ生成される第1及び第2の画像データの各々に対して、関心領域外の画像をマスキングする画像処理を施し、順次処理された第1及び第2の画像データを処理メモリー23に蓄積する。
ステップS3において、架線抽出部24が、処理メモリー23に蓄積された第1及び第2の画像データの各々によって表される2次元の画像から所定の条件を満たす架線を抽出する。
ステップS4において、架線位置算出部25が、処理メモリー23に蓄積された第1及び第2の画像データによって表される2種類の画像から架線抽出部24によって抽出された架線の座標に基づいて、架線の3次元位置を算出する。
ステップS5において、制御部26が、架線位置算出部25によって算出された架線の3次元位置に基づいて、第1のトロリー線を識別すると共に、第1のトロリー線と所定の関係にある第2のトロリー線が存在する場合に、第1及び第2のトロリー線の内のいずれが本線のトロリー線でいずれが渡り線のトロリー線であるかを判定する。
ステップS6において、制御部26が、少なくとも第2のトロリー線の位置に基づいて監視範囲を設定して、監視範囲内における渡り線のトロリー線の高さと本線のトロリー線の高さとの差が所定の範囲内であるか否かを判定する。
監視範囲内における渡り線のトロリー線の高さと本線のトロリー線の高さとの差が所定の範囲外である場合には、処理がステップS7に移行する。ステップS7において、制御部26が、画像又は音声によって警告を発するように表示部28を制御する。一方、監視範囲内における渡り線のトロリー線の高さと本線のトロリー線の高さとの差が所定の範囲内である場合には、次のフレームの画像データの処理が行われる。
以上の実施形態においては、2つのレーザー測域センサーと2つのラインカメラとを用いる場合について説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではなく、少なくとも1つのレーザー測域センサーを用いれば良い。また、3つ以上のレーザー測域センサー又は3つ以上のラインカメラを用いても良い。
また、レーザー測域センサーに限らず、TOF(time of flight)カメラ等の3次元計測が可能な装置を用いても良いし(本願においては、レーザー測域センサーやTOFカメラ等を総称して「3次元計測装置」という)、ラインカメラの替りにエリアカメラ等を用いても良い。このように、当該技術分野において通常の知識を有する者によって、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。