以下、本発明の一方向回転阻止機構を備えた無段変速機の実施形態を説明する。本実施形態の無段変速機は、四節リンク機構型の無段変速機であり、変速比i(i=入力軸の回転速度/出力軸の回転速度)を無限大(∞)にして出力軸の回転速度を「0」にできる変速機、いわゆるIVT(Infinity Variable Transmission)の一種である。
まず、図1及び図2を参照して、本実施形態の無段変速機の構成について説明する。
本実施形態の無段変速機1は、入力軸2と、出力軸3と、6つの回転半径調節機構4とを備える。
入力軸2は、中空の部材であり、内燃機関であるエンジンや電動機等の駆動源からの回転駆動力を受けることで入力軸2の回転中心軸線P1を中心に回転する。
出力軸3は、入力軸2に平行に配置され、図外のデファレンシャルギヤやプロペラシャフト等を介して車両の駆動輪等の駆動部に回転動力を伝達させる。
回転半径調節機構4の各々は、入力軸2の回転中心軸線P1を中心として回転するように設けられ、カム部としてのカムディスク5と、回転部としての回転ディスク6と、ピニオンシャフト7とを有する。
カムディスク5は、円盤形状であり、入力軸2の回転中心軸線P1から偏心して入力軸2と一体的に回転するように入力軸2に2個1組で設けられている。各1組のカムディスク5は、それぞれ位相を60°異なるように設定され、6組のカムディスク5で入力軸2の周方向を一回りするように配置されている。
回転ディスク6は、その中心から偏心した位置に受入孔6aが設けられた円盤形状であり、その受入孔6aを介して、1組のカムディスク5に対して1つずつ、回転自在に外嵌している。
回転ディスク6の受入孔6aは、その中心が、入力軸2の回転中心軸線P1からカムディスク5の中心P2(受入孔6aの中心)までの距離Raとカムディスク5の中心P2から回転ディスク6の中心P3までの距離Rbとが同一となるように形成されている。また、回転ディスク6の受入孔6aには、1組のカムディスク5の間となる位置に、内歯6bが設けられている。
ピニオンシャフト7は、中空の入力軸2内に、入力軸2と同心に配置され、入力軸2に対して相対回転自在になっている。また、ピニオンシャフト7の外周には、外歯7aが設けられている。さらに、ピニオンシャフト7には、差動機構8が接続されている。
ところで、入力軸2には、1組のカムディスク5の間において、カムディスク5の偏心方向に対向する個所に内周面と外周面とを連通させる切欠孔2aが形成されている。その入力軸2の切欠孔2aを介して、ピニオンシャフト7の外周に設けられた外歯7aは、回転ディスク6の受入孔6aの内周に設けられた内歯6bと噛合している。
差動機構8は、遊星歯車機構として構成され、サンギヤ9と、入力軸2に連結された第1リングギヤ10と、ピニオンシャフト7に連結された第2リングギヤ11と、サンギヤ9及び第1リングギヤ10と噛合する大径部12aと、第2リングギヤ11と噛合する小径部12bとからなる段付きピニオン12を自転及び公転自在に軸支するキャリア13とを有している。また、差動機構8のサンギヤ9は、ピニオンシャフト7用の電動機からなる調節用駆動源14の回転軸14aに連結されている。
そのため、調節用駆動源14の回転速度を入力軸2の回転速度と同一にした場合、サンギヤ9と第1リングギヤ10とが同一速度で回転することとなり、サンギヤ9、第1リングギヤ10、第2リングギヤ11及びキャリア13の4つの要素が相対回転不能なロック状態となって、第2リングギヤ11と連結するピニオンシャフト7が入力軸2と同一速度で回転する。
調節用駆動源14の回転速度を入力軸2の回転速度よりも遅くした場合、サンギヤ9の回転数をNs、第1リングギヤ10の回転数をNR1、サンギヤ9と第1リングギヤ10
のギヤ比(第1リングギヤ10の歯数/サンギヤ9の歯数)をjとすると、キャリア13の回転数が(j・NR1+Ns)/(j+1)となる。また、サンギヤ9と第2リングギヤ11のギヤ比((第2リングギヤ11の歯数/サンギヤ9の歯数)×(段付きピニオン12の大径部12aの歯数/小径部12bの歯数))をkとすると、第2リングギヤ11の回転数が{j(k+1)NR1+(k−j)Ns}/{k(j+1)}となる。
したがって、調節用駆動源14の回転速度を入力軸2の回転速度よりも遅くした場合であって、カムディスク5が固定された入力軸2の回転速度とピニオンシャフト7の回転速度とが同一である場合には、回転ディスク6はカムディスク5とともに一体に回転する。一方で、入力軸2の回転速度とピニオンシャフト7の回転速度とに差がある場合には、回転ディスク6はカムディスク5の中心P2を中心にカムディスク5の周縁を回転する。
図2に示すように、回転ディスク6は、カムディスク5に対して、P1からP2までの距離RaとP2からP3までの距離Rbとが同一となるように偏心されている。そのため、回転ディスク6の中心P3を入力軸2の回転中心軸線P1と同一線上に位置させて、入力軸2の回転中心軸線P1と回転ディスク6の中心P3との距離、すなわち、偏心量R1を「0」にすることもできる。
回転半径調節機構4、具体的には回転半径調節機構4の回転ディスク6の周縁には、コネクティングロッド15が回転自在に外嵌している。
コネクティングロッド15は、一方の端部に大径の大径環状部15aを有し、他方の端部に大径環状部15aの径よりも小径の小径環状部15bを有している。コネクティングロッド15の大径環状部15aは、ボールベアリングからなるコンロッド軸受16を介して、回転ディスク6に外嵌している。
出力軸3には、一方向回転阻止機構としての一方向クラッチ17を介して、揺動リンク18が軸支されている。
一方向クラッチ17は、出力軸3を中心として一方側に回転しようとする場合に出力軸3に対して揺動リンク18を固定し、他方側に回転しようとする場合に出力軸3に対して揺動リンク18を空転させる。
揺動リンク18は、揺動端部18aを有し、その揺動端部18aに対し、その突片18bの貫通孔18cに連結ピン19を挿入することによって、コネクティングロッド15の小径環状部15bと連結されている。
次に、図1〜図5を参照して、本実施形態の無段変速機のてこクランク機構について説明する。
図2に示すように、本実施形態の無段変速機1では、回転半径調節機構4と、コネクティングロッド15と、揺動リンク18とで、てこクランク機構20(四節リンク機構)が構成されている。
このてこクランク機構20によって、入力軸2の回転運動は、揺動リンク18の揺動運動に変換される。本実施形態の無段変速機1は、図1に示すように、合計6個のてこクランク機構20を備えている。
このてこクランク機構20では、回転半径調節機構4の偏心量R1が「0」でない場合に、入力軸2とピニオンシャフト7を同一速度で回転させると、各コネクティングロッド
15が、60度ずつ位相を変えながら、入力軸2と出力軸3との間で出力軸3側に押したり、入力軸2側に引いたりを交互に繰り返して、揺動リンク18を揺動させる。
そして、揺動リンク18と出力軸3との間には一方向クラッチ17が設けられているので、揺動リンク18が押された場合又は引かれた場合のいずれか一方の場合には、揺動リンク18が固定されて出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達されて出力軸3が回転し、他方の場合には、揺動リンク18が空回りして出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達されない。6つの回転半径調節機構4は、それぞれ60度ずつ位相を変えて配置されているので、出力軸3は6つの回転半径調節機構4で順に回転させられる。
また、本実施形態の無段変速機1では、図3に示すように、偏心量R1を変えることによって、回転半径調節機構4の回転半径を調節自在としている。
図3(a)は、偏心量R1を「最大」とした状態を示し、入力軸2の回転中心軸線P1とカムディスク5の中心P2と回転ディスク6の中心P3とが一直線に並ぶように、ピニオンシャフト7と回転ディスク6とが位置する。この場合の変速比iは最小となる。図3(b)は、偏心量R1を図3(a)よりも小さい「中」とした状態を示し、図3(c)は、偏心量R1を図3(b)よりも更に小さい「小」とした状態を示している。変速比iは、図3(b)では図3(a)の変速比iよりも大きい「中」となり、図3(c)では図3(b)の変速比iよりも大きい「大」とした状態を示している。図3(d)は、偏心量R1を「0」とした状態を示し、入力軸2の回転中心軸線P1と、回転ディスク6の中心P3とが同心に位置する。この場合の変速比iは無限大(∞)となる。
また、図4は、本実施形態の回転半径調節機構4の回転半径、すなわち、偏心量R1の変化と、揺動リンク18の揺動運動の揺動角の関係を示す模式図である。
図4(a)は偏心量R1が図3(a)の「最大」である場合(変速比iが最小である場合)、図4(b)は偏心量R1が図3(b)の「中」である場合(変速比iが中である場合)、図4(c)は偏心量R1が図3(c)の「小」である場合(変速比iが大である場合)の、回転半径調節機構4の回転運動に対する揺動リンク18の揺動範囲θ2を示している。
この図4から明らかなように、偏心量R1が小さくなるにつれ、揺動リンク18の揺動範囲θ2が狭くなり、偏心量R1が「0」になった場合には、揺動リンク18は揺動しなくなる。
また、図5は、無段変速機1の回転半径調節機構4の回転角度θを横軸、揺動リンク18の角速度ωを縦軸として、回転半径調節機構4の偏心量R1の変化に伴う角速度ωの変化の関係を示す図である。
この図5から明らかなように、偏心量R1が大きい(変速比iが小さい)ほど揺動リンク18の角速度ωが大きくなることが分かる。
また、図6は、60度ずつ位相を異ならせた6つの回転半径調節機構4を回転させた場合(入力軸2とピニオンシャフト7とを同一速度で回転させた場合)の回転半径調節機構4の回転角度θ1に対する、各揺動リンク18の角速度ωを示す図である。
この図6から明らかなように、出力軸3は、6つのてこクランク機構20によってスムーズに回転される。
次に、図7〜図9を参照して、本実施形態の無段変速機1が備えている一方向クラッチ17の形状を詳細に説明する。ただし、図7及び図8では、付勢部材を構成する後述のバネ17fは図示を省略している。また、図8では、後述の保持器17aの図示を省略している。
図7及び図8に示すように、一方向回転阻止機構としての一方向クラッチ17は、内側部材である出力軸3と、保持器17aと、これらが挿入される外側部材である環状部18dとを備える。環状部18dは、揺動リンク18の内周部分を構成する。環状部18dは、その内周面が、出力軸3の外周面に対向して相対回転し得るように配置される。
保持器17aは、出力軸3の外周面に固定されている一対の環状部17bと、その環状部17bの間に設けられた複数の柱部17cとを有している。また、保持器17aには、一対の環状部17bの一部と隣接する2つの柱部17cとで複数の保持室が形成されている。各保持室には、外側部材である揺動リンク18の環状部18dの回転に連動して転動する転動体であるローラ17eが、出力軸3の外周面上に形成されている複数のカム面3a上に1つずつ配置されている。
隣接する2つの柱部17cの一方には、柱部17cの他方に向かってローラ17eを押し付けるように付勢するバネ17fが取り付けられている。
図9に示すように、カム面3aの一部として、出力軸3の外周面の周方向(X方向)に対して傾斜している傾斜面31が設けられる。各傾斜面31とこれに対向する環状部18dの内周面との間に、径方向の間隔が周方向について漸減する間隔漸減空間21が形成される。バネ17fや、上述の保持器17aは、ローラ17eを、各間隔漸減空間21に対し、その径方向の間隔が漸減する方向に付勢する付勢部材として機能する。
また、カム面3aにおける傾斜面31と反対側の部分は、傾斜面31と逆向きに傾斜して盛り上がった凸部32となっている。凸部32により、カム面3aの傾斜面31と反対側からローラ17eが逸脱することが阻止される。
このようにして構成された一方向クラッチ17は、揺動リンク18が出力軸3を中心として一方側に回転しようとするときに、間隔漸減空間21において、傾斜面31と環状部18dの内周面との間にローラ17eを噛み込むことによって、出力軸3に対して揺動リンク18を固定し、他方側に回転しようとするときに、この噛み込みが解除されて、出力軸3に対して揺動リンクを空転させる一方向回転阻止機構として作動する。
ところで、車両が縁石に乗り上げる等により大きな外乱トルクが出力軸3に加えられる場合がある。この場合、この外乱トルクと駆動源からのトルクとが加算され、駆動源の定格トルクを超える過大なトルクが一方向クラッチ17に入力される場合がある。このときの様子を、1つの一方向クラッチ17について、図10に示す。
図10(a)及び(b)の各グラフの横軸は時間、縦軸は角速度である。グラフ曲線22は、揺動リンク18についての角速度の時間変化を示しており、グラフ曲線23は、出力軸3についての角速度の時間変化を示している。また、図10では、上述の出力軸3に伝達されるトルクの大きさに対応して出力軸3に生じる捩れに対応するトーション角(捩れ角)が斜線部24の面積で示されている。
通常の走行時には、図10(a)に示すように、トーション角は小さいが、大きな外乱トルクが出力軸3に加えられると、図10(b)に示すように、グラフ曲線23で示される出力軸3の角速度が低下するので、斜線部24の面積で示されるトーション角が極めて
大きくなる。
そうすると、過大なトルクが一方向クラッチ17に付加され、ローラ17eが傾斜面31(図9参照)の端部まで変位して大きな衝撃力を与えたり、ローラ17eが傾斜面31の端部により過大な力で弾き返されるポップアウトが生じたりする恐れがある。そこで、本実施形態では、かかる事態を未然に回避して一方向クラッチ17の損傷を防止するために、傾斜面31について、次のような構成を採用している。
図11は、間隔漸減空間21における傾斜面31の断面形状を、横軸を出力軸3の外周に沿った位置Xとし、縦軸を該外周に垂直な方向(径方向)の位置Yとして示す。
図11に示すように、傾斜面31は、間隔漸減空間21によって噛み込まれたローラ17eについての噛み込み方向(Xの増加方向)とは逆方向への戻し動作が生じない第1ストラット角を有する第1部分31aと、第1部分31aの該噛み込み方向側にX1を境界として隣接し、該戻し動作が生じる第2ストラット角を有する第2部分31bと、第2部分31bの該噛み込み方向側にX2を境界として隣接し、ローラ17eの該噛み込み方向への移動を阻止する第3部分31cとを備える。
ここで、戻し動作とは、間隔漸減空間21によって噛み込まれたローラ17eが、傾斜面31と、これに対向する環状部18dの内周面とによって、噛み込み方向と逆方向の噛み込まれていない位置に戻される動作を意味する。ストラット角については、図12を用いて後述する。
第2部分31bは、駆動源の出力が定格トルクを超えたとき、第2部分31bによりローラ17eの戻し動作が生じるように、第1部分31aの噛み込み方向側に隣接して形成される。なお、傾斜面31におけるローラ17eの噛み込み位置は、駆動源から一方向クラッチ17に入力されるトルクが増大するに従い、噛み込み方向(Xの増加方向)へ変位する。
図12は、上記のストラット角を示す。図12に示すように、環状部18dの内周面18eの周方向に沿った断面で考えると、傾斜面31の第1部分31aとローラ17eとが接する接点C1と、環状部18dの内周面18eとローラ17eとが接する接点C2とを結ぶ直線Lとして、ストラットが定義される。また、ローラ17eの中心点Oと接点C1又はC2とを結ぶ直線と、ストラットを示す直線Lとが成す角αとして、ストラット角が定義される。
ローラ17eの戻し動作を生じさせずに安定してトルクを伝達させるためには、ローラ17eに加わる摩擦力Fと戻し動作を生じさせる力Pとの関係が、F≧Pであることを要する。また、第1部分31aとローラ17eとの間の静止摩擦係数をμとし、ローラ17eが第1部分31aから垂直方向に受ける力をN、ストラット方向に受ける力をQとすれば、F=μN=μQcosα、P=Qsinαであるから、F≧Pを満たすためには、tanα≦μであることを要する。
そして、例えば上記の力Qによるヘルツ面圧が4000[MPa]以下である場合には、0.08≦μ≦0.10であるから、α≦4.5[°]が戻し動作を発生させないための必要条件となる。戻し動作は、α>4.5[°]の場合に発生する。したがって、この場合、上述の戻し動作が生じない第1ストラット角は、4.5[°]以下であり、戻し動作が生じる第2ストラット角は、4.5[°]を超える値となる。
なお、図12では、第1部分31a及び内周面18eとそれぞれ接点C1及びC2で接
するローラ17eに加え、第1部分31a及び内周面18eとそれぞれ接点C1’及びC2’で接するローラ17eが示されている。前者は、後者よりもストラット角αの値が大きいので、後者よりも戻し動作が生じやすい状態にある。
図13は、一方向クラッチ17について、図10の斜線部24の面積で示されるトーション角βの変化に対するストラット角αの変化の特性を示す。図13におけるα1は、ローラ17eの戻し動作を発生させないための必要条件を満たすストラット角αの最大値、例えば上述の4.5[°]である。
β1は、駆動源が定格トルクを出力するときのトーション角βの値である。β2は、外乱トルクが加えられて、過大なトルクが一方向クラッチ17に入力され、ローラ17eが第3部分31cに達することにより、一方向クラッチ17に破損が生じるときのトーション角βの値である。
トーション角βがβ1以下である場合、ストラット角αは、α1より若干小さい値であり、一定である。トーション角βがβ1以下である範囲は、傾斜面31の第1部分31aに対応する。図11において、第1部分31a部分の曲線は、ストラット角αが一定となるように、僅かに上方に膨らんでいる。
この場合、間隔漸減空間21において噛み込まれるローラ17eの傾斜面31との接触位置は、第1部分31a上に存在するが、その位置は、駆動源から入力されるトルクが大きい程、間隔漸減空間21の間隔が狭くなる方向、すなわち噛み込み方向に変位する。そして、駆動源が定格トルクを出力するとき、トーション角βはβ1となり、ローラ17eは、傾斜面31の第1部分31aから第2部分31bへ移行する部分に位置する。
トーション角βがβ1以下である場合には、ローラ17eの戻し動作が生じないので、駆動源からのトルクは、一方向クラッチ17を経て、支障なく伝達される。傾斜面31における第1部分31aから第2部分31bへの移行は、ストラット角αが連続的に変化するように行われる。このため、過大なトルクの入力により、ローラ17eが第1部分31aから第2部分31b上の位置に変位するときでも、衝撃が生じることはない。
トーション角βがβ1を上回り、かつβ2未満である場合、ローラ17eは、傾斜面31の第2部分31b(図11参照)に接触する。この場合、ストラット角αは、α1を上回り、トーション角βの増大とともに増大する。このため、このトーション角βの範囲においてローラ17eの戻し動作が生じる。したがって、ローラ17eが傾斜面31の第3部分31c(図11参照)に至ることはない。
図14は、一方向クラッチ17について、図10の斜線部24で示されるトーション角βの変化に対する一方向クラッチ17に入力されるトルクτの変化特性を示す。図14において、β1及びβ2は、図13の場合と同様に、それぞれ駆動源が定格トルクを出力するときのトーション角βの値及び一方向クラッチ17の破損が生じるトーション角βの値である。τ1は、一方向クラッチ17を破損させるトルクτの値である。
図14に示すように、トーション角βがβ1以下の場合には、トルクτは、トーション角βにほぼ比例して増大する。トーション角βがβ1を上回り、かつβ2未満の場合には、トルクτは、トーション角βの変化に対し、より大きな増加率で増加する。ただし、上述のように、トーション角βがβ2に至る前にローラ17eの戻し動作が生じるので、トーション角βがβ2に至ることはない。したがって、トルクτが、一方向クラッチ17を破損させる大きな値τ1を超えることもない。
図15〜図17は、図11、図13及び図14で示される本実施形態の一方向クラッチ17に対する比較例として、従来の一方向クラッチについての傾斜面の断面形状、トーション角βの変化に対するストラット角αの変化特性、及びトーション角βの変化に対する入力トルクτの変化特性をそれぞれ示す。
図15及び図16に示すように、従来の一方向クラッチの間隔漸減空間の傾斜面は、ストラット角αが、戻し動作を発生させないための必要条件を満たす値の範囲の最大値α1以下である部分32aと、部分32aの噛み込み方向(Xの正方向)側にX3を境界として隣接し、ローラ17eの移動を阻止する部分32bとで構成される。
図16及び図17におけるβ3は、過大なトルクが一方向クラッチに入力され、ローラ17eが、その移動を阻止する部分32bに達して、一方向クラッチの破損が生じるトーション角βの値である。図17におけるτ1は、一方向クラッチに破損が生じる入力トルクτの値である。
この場合、過大なトルクの入力がないときには、ストラット角αが戻し動作を発生させないための必要条件を満たす最大値α1以下であるため、戻し動作は生じない。そして、過大なトルクの入力があった場合には、戻し動作が生じることなく、トーション角βがβ3に達し、傾斜面の部分32bによりローラ17eの移動が阻止される。これにより、直ちにトルクτがτ1を超えるので、一方向クラッチが破損することになる。
図18は、無段変速機1を制御する制御部により行われる処理の一部を示すフローチャートである。この処理は、所定の間隔で繰り返し行われる。処理を開始すると、制御部は、まず、車速から算出される加速度の大きさ(車速の差)aが、所定値ΔV以上であるか否かを判定する(ステップS1)。所定値ΔV以上でないと判定した場合には、ローラ17eの戻し動作が生じる状況ではないので、そのまま図18の処理を終了する。
所定値ΔV以上であると判定した場合には、出力軸3の回転に所定の急減速が生じたか否かを判定する(ステップS2)。急減速を生じなかったと判定した場合には、ローラ17eの戻し動作が生じる状況ではないので、そのまま図18の処理を終了する。
急減速を生じたと判定した場合には、過大なトルクが一方向クラッチ17に入力され、上述の傾斜面31の第2部分31bによるローラ17eの戻し動作が生じる状況であるため、上述の回転半径調節機構4の偏心量R1を小さくして無段変速機1の変速比iを大きくし、低速(Low)側へシフトするする制御を行う。その後、図18の処理を終了する。
この低速側へシフトするする制御が適切に行われることにより、過大なトルクの入力が解消されるので、ローラ17eは戻し動作が生じない傾斜面31の第1部分31aに噛み込まれるようになる。これにより、一方向クラッチ17は、駆動源からのトルクの伝達を支障なく行える状態に復帰する。
以上のように、本実施形態によれば、縁石に乗り上げた場合のように、出力軸3に大きな外乱トルクが付与されるような状況においても、一方向クラッチ17の損傷が生じるようなトルクτ1が一方向クラッチ17に入力される前にローラ17eの戻し動作が生じるので、一方向クラッチ17に損傷が生じるのを回避することができる。また、戻し動作が生じている間に、無段変速機1を低速側へシフトすることにより、一方向クラッチ17の機能を直ちに回復させることができる。
しかし、傾斜面31が内側部材である出力軸3に対してすべて同じ位置及び形状を有すると、すべてのローラ17eについて同時に戻し動作が生じるおそれがある。同時に戻し動作が生じると、一方向クラッチ17における伝達トルクが急激に減少し、車両の挙動を大きく乱すことになる。
また、一方向クラッチ17は、てこクランク機構20と組み合わせて用いているので、てこクランク機構20の揺動リンク18の揺動により発生する慣性力を主な要因として、揺動リンク18の環状部18dは、出力軸3に対して所定の方向に軸振れを生じる。
これにより、戻し動作が生じる場合に、戻し動作の生じるタイミングが、軸振れ方向の一方の側に位置するローラ17eと逆側に位置するローラ17eとで異なるため、環状部18dの特定の部位に負荷が集中する傾向がある。
図19は、このことを簡略化して示す。すなわち、図19(a)では、傾斜面31が出力軸3に対してすべて同じ位置及び形状を有し、かつ揺動リンク18の環状部18dが出力軸3に対して軸振れを生じないと仮定した場合に各ローラ17eが噛み込み開始位置に位置するときの様子が示されている。
この場合には、すべての傾斜面31が同一形状を有し、かつ環状部18dから等距離にあるため、すべてのローラ17eについて、噛み込みが設計上の位置から同時に開始され、同時に戻し動作が生じる。このため、一方向クラッチ17における伝達トルクが急激に減少し、車両の挙動を大きく乱すことになる。
一方、図19(b)では、傾斜面31が出力軸3に対してすべて同じ位置及び形状を有し、かつ環状部18dに軸振れが生じる実際の場合に各ローラ17eが噛み込み開始位置に位置するときの様子が示されている。
この場合、環状部18dの軸振れにより環状部18dからの距離が遠くなる矢印Y1側の傾斜面31のローラ17eについては、設計上の位置よりも傾斜面31を駆け上った位置から噛み込みが開始される。すなわち、環状部18dからの距離が遠くなる傾斜面31のローラ17eほど、より小さいトーション角τで戻し動作を生じる。
また、環状部18dの軸振れにより環状部18dからの距離が近くなる矢印Y2側の傾斜面31のローラ17eについては、設計上の位置よりも傾斜面31を下った位置から噛み込みが開始される。すなわち、環状部18dからの距離が近くなる傾斜面31のローラ17eほど、より大きいトーション角τで戻し動作を生じる。
したがって、戻し動作が生じる場合における環状部18dへの負荷が、環状部18dの矢印Y2側に集中する傾向がある。そこで、この負荷の集中を解消できる一方向クラッチを、次に示す。
図20は、無段変速機1に適用できる一方向クラッチの別の例を示す。この一方向クラッチ33は、上述の一方向クラッチ17における傾斜面31に代えて、各ローラ17eの戻し動作を異なるタイミングで生じさせる傾斜面34を備える。傾斜面34は、上述の傾斜面31の場合と同様に、同様の機能を有する第1部分31a、第2部分31b及び第3部分31cを備える。
一方向クラッチ33では、各傾斜面34におけるローラ17eの戻し動作が、例えば、図20において各傾斜面34の近傍に表示した番号により示される順番で生じるように、傾斜面34が構成される。すなわち、各傾斜面34において、順番付けされた順序により異なるタイミングで戻し動作が生じる。
図21は、図20で示したような戻し動作を生じさせる順番を各傾斜面34に付する手順の一例を示す。すなわち、まず、ステップS1において、「n」に「1」を設定し、これを任意の傾斜面34の順番とする。次に、ステップS2において、次に順番を付すべき傾斜面34を選定する。
この選定に際しては、まだ順番付けされておらず、かつ連続して並んでいる数が最も多い傾斜面34のグループ、又は該グループが複数あるときはそのうちの1つのグループに属する傾斜面34のうちの真ん中に位置する傾斜面34が選定される。真ん中に位置する傾斜面34が2つある場合には、そのうちの一方の傾斜面34が選定される。あるいは、順番付けされていない傾斜面34が上記グループを形成しておらず、単独のもののみである場合には、そのうちの1つの傾斜面34が選定される。
このとき、選定候補が複数ある場合には、例えば、最後に選定された傾斜面34、さらにはその1つ前に選定された傾斜面34から極力離れた傾斜面34が選定される。要するに、傾斜面34の順番が、時間的及び位置的に極力偏ることなく分散して順次順番付けされるように選定される。
次に、ステップS3において、nに1を加算(インクリメント)する。そして、ステップS4において、選定された傾斜面34の順番を「n」に設定する。次に、ステップS5において、「n」が傾斜面34の数に達したか否かを判定する。達していないと判定した場合には、ステップS2に戻る。達したと判定した場合には、順番付けを終了する。これにより、図20に示すような順番付けを行うことができる。
この順番付けのとおりに戻し動作を生じさせることは、傾斜面34における第1部分31aから第2部分31bに移行する部分の斜度や、出力軸3の回転中心から傾斜面34までの距離を、傾斜面34毎に変化させることにより実現することができる。すなわち、この斜度が大きいほど、また、この距離が大きいほど、より早いタイミング、すなわちより小さいトーション角τで戻し動作が生じることを利用して傾斜面34が形成される。換言すれば、各傾斜面34でのストラット角α(図12参照)が、各タイミングにおいて異なるように傾斜面34が形成される。なお、ストラット角αは、各タイミングにおいて傾斜面34の1つ毎に限らず複数個毎に異なるようにしてもよい。
ただし、上述のように、上述の軸振れによっても戻し動作が生じるタイミングが変化するので、これを考慮して各傾斜面34を形成する必要がある。
図22(a)は、このようにして戻し動作が生じる順番付けに従って各傾斜面34が形成された一方向クラッチ33におけるトーション角βに対する各傾斜面34でのストラット角αの変化を示す。図22(a)中のグラフ曲線Gn(n=1、2、・・・、14)により、それぞれ上述の順番が「n」(n=1、2、・・・、14)である傾斜面34のローラ17eにおけるストラット角αの変化が示されている。
図22(a)に示すように、各タイミングにおける各傾斜面34でのストラット角αは異なる。すなわち、各傾斜面34で転動体17eの戻し動作が生じるまで各傾斜面34におけるストラット角αが異なる値をとりつつ変化する。そして、トーション角βの値が定格出力に対応するβ1以下である場合には、各傾斜面34では、各傾斜面34に対応するストラット角αでローラ17eの噛み込みが行われる。なお、この場合の各傾斜面34に対応するストラット角αの値は、上述の戻し動作を発生させない必要条件を満たす最大ストラット角α1以下の値である。
トーション角βの値がβ1を超える場合には、トーション角βの増加とともに、各傾斜面34における噛み込み位置の変化に伴ってストラット角αが増大してゆく。そして、各傾斜面34におけるストラット角αが、上述のα1より大きいある値α2をほぼ超えるときに、その傾斜面34におけるローラ17eの戻し動作が生じる。
この各傾斜面34において生じる戻し動作は、各傾斜面34に付された順番で生じる。すなわち、トーション角βの値が増大し、b1、・・・、b14の値に順次到達する毎に、それぞれ順番1、・・・、14の傾斜面34において戻し動作が生じる。
図22(b)は、トーション角βの値が定格出力に対応するβ1を超えて各ローラ17eの戻し動作が生じるときの一方向クラッチ33において伝達されるトルクτの変化を示す。
図22(b)中のグラフ曲線Ln(n=1)は、すべての傾斜面34が、上述の順番が「n」(n=1)である傾斜面34で構成されていると仮定した場合に、一方向クラッチ33において伝達されるトルクτの変化を示している。ただし、この変化は、トーション角βが増大しても、戻し動作が生じず、クラッチ17の破損も生じないと仮定して示されている。
他のグラフ曲線Ln(n=2、・・・、14)も、これと同様に、すべての傾斜面34が、順番が「n」(n=2、・・・、14)である傾斜面34で構成されていると仮定した場合に、一方向クラッチ33において伝達されるトルクτの変化を示している。
一方向クラッチ33において伝達されるトルクτの値は、ローラ17eの戻し動作が生じない範囲では、グラフ曲線Lで示されるように、グラフ曲線L1で示されるトルクτの値と、グラフ曲線L14で示されるトルクτの値の中間の値となる。
そして、ローラ17eの戻し動作が生じる場合には、トーション角βが、定格出力に対応するβ1を超えて、b1、・・・、b14に達する毎に、それぞれ順番1、・・・、14の傾斜面34において戻し動作が生じる。このため、一方向クラッチ33において伝達されるトルクτは、戻し動作が生じる毎に、1つのローラ17eにより伝達されるトルク分が減少するので、グラフ曲線Lのように、減少してゆく。
そして、トーション角βの値が、b14に達すると、順番14の最後の傾斜面34において戻し動作が生じ、伝達されるトルクτは、ゼロとなる。
このように、一方向クラッチ33によれば、各傾斜面34でのストラット角αが、各タイミングにおいて異なるように傾斜面34を形成したので、各傾斜面34におけるローラ17eの戻し動作が、各ローラ17eについて異なるタイミングで生じる。このため、伝達されるトルクτは、急激にではなく、一定の時間をかけてゼロとなる。したがって、車両の挙動が大きく乱れたり、環状部18dの特定の部位に負荷が集中したりするのを防止することができる。
また、各傾斜面34における戻し動作が、時間的及び空間的に分散して生じるように各傾斜面34を形成したので、環状部18dの特定の部位に負荷が集中するのを、極めて効果的に防止することができる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態では、本発明の一
方向回転阻止機構を、無段変速機1の一方向クラッチ17として用いた場合を説明したが、無段変速機以外の装置に用いてもよい。
また、上記実施形態では、傾斜面31を内側部材である出力軸3の外周面に形成した。しかし、外側部材である揺動リンク18の環状部18dの内周面に形成してもよい。さらに、出力軸3の外周面と揺動リンク18の環状部18dの内周面の両方に形成してもよい。
また、上記実施形態では、内側部材と出力軸3とを一体の部材とし、外側部材と揺動リンク18の環状部18dとを一体の部材としている。しかし、内側部材と出力軸3とを別個の部材としてもよいし、外側部材と揺動リンク18の環状部18dとを別個の部材としてもよい。
また、上記実施形態では、付勢部材としてバネ17fを用いたが、バネ以外の付勢部材を用いてもよい。
さらに、上記実施形態では、円環形状の一対の環状部17bとその間に設けられた柱部17cとで、複数の保持室をもつ保持器17aを構成している。しかし、保持室はそのように構成されるものに限られない。例えば、内側部材の外周面に凹部を形成し、その凹部を保持室として、内側部材と保持器とを一体にしてもよい。