図1(a)は、本発明の一実施形態に係る液体吐出ヘッド2を含む記録装置である(カラーインクジェット)プリンタ1の概略の側面図であり、図1(b)は、概略の平面図である。プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pを搬送ローラ80aから搬送ローラ80bへと搬送することにより、印刷用紙Pを液体吐出ヘッド2に対して相対的に移動させる。制御部88は、画像や文字のデータに基づいて、液体吐出ヘッド2を制御して、記録媒体Pに向けて液体を吐出させ、印刷用紙Pに液滴を着弾させて、印刷用紙Pに印刷などの記録を行なう。
本実施形態では、液体吐出ヘッド2はプリンタ1に対して固定されており、プリンタ1はいわゆるラインプリンタとなっている。本発明の記録装置の他の実施形態としては、液体吐出ヘッド2を、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に往復させるなどして移動させる動作と、印刷用紙Pの搬送を交互に行なう、いわゆるシリアルプリンタが挙げられる。
プリンタ1には、印刷用紙Pとほぼ平行するように平板状の(ヘッド搭載)フレーム70が固定されている。フレーム70には図示しない20個の孔が設けられており、20個の液体吐出ヘッド2がそれぞれの孔の部分に搭載されていて、液体吐出ヘッド2の、液体を吐出する部位が印刷用紙Pに面するようになっている。液体吐出ヘッド2と印刷用紙Pとの間の距離は、例えば0.5〜20mm程度とされる。5つの液体吐出ヘッド2は、1つのヘッド群72を構成しており、プリンタ1は、4つのヘッド群72を有している。
液体吐出ヘッド2は、図1(a)の手前から奥へ向かう方向、図1(b)の上下方向に細長い長尺形状を有している。この長い方向を長手方向と呼ぶことがある。1つのヘッド群72内において、3つの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に沿って並んでおり、他の2つの液体吐出ヘッド2は搬送方向に沿ってずれた位置で、3つ液体吐出ヘッド2の間にそれぞれ一つずつ並んでいる。液体吐出ヘッド2は、各液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲が、印刷用紙Pの幅方向に(印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向に)繋がるように、あるいは端が重複するように配置されており、印刷用紙Pの幅方向に隙間のない印刷が可能になっている。
4つのヘッド群72は、記録用紙Pの搬送方向に沿って配置されている。各液体吐出ヘッド2には、図示しない液体タンクから液体(インク)が供給される。1つのヘッド群72に属する液体吐出ヘッド2には、同じ色のインクが供給されるようになっており、4つのヘッド群で4色のインクが印刷できる。各ヘッド群72から吐出されるインクの色は、例えば、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。このようなインクを、制御部88で制御して印刷すれば、カラー画像が印刷できる。
プリンタ1に搭載される液体吐出ヘッド2の個数は、単色で、1つの液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲を印刷するのなら1つでもよい。ヘッドの群72に含まれる液体吐出ヘッド2の個数や、ヘッド群72の個数は、印刷する対象や印刷条件により適宜変更できる。例えば、さらに多色の印刷をするためにヘッドの群72の個数を増やしてもよい。また、同色で印刷するヘッド群72を複数配置して、搬送方向に交互に印刷することで、印刷速度(搬送速度)を速くすることができる。また、同色で印刷するヘッド群72を複数準備して、搬送方向と交差する方向にずらして配置して、印刷用紙Pの幅方向の解像度を高くしてもよい。
さらに、色の付いたインクを印刷する以外に、印刷用紙Pの表面処理をするために、コーティング剤などの液体を印刷してもよい。
プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pに印刷を行なう。印刷用紙Pは、給紙ローラ80aに巻き取られた状態になっており、2つのガイドローラ82aの間を通った後、フレーム70に搭載されている液体吐出ヘッド2の下側を通り、その後2つの搬送ローラ82bの間を通り、最終的に回収ローラ80bに回収される。印刷する際には、搬送ローラ82bを回転させることで印刷用紙Pは、一定速度で搬送され、液体吐出ヘッド2によって印刷される。回収ローラ80bは、搬送ローラ82bから送り出された印刷用紙Pを巻き取る。搬送速度は、例えば、50m/分とされる。各ローラは、制御部88によって制御されてもよいし、人によって手動で操作されてもよい。
記録媒体は、印刷用紙P以外に、布などでもよい。また、プリンタ1を、印刷用紙Pの代わりに搬送ベルトを搬送する形態にし、記録媒体は、ロール状のもの以外に、搬送ベルト上に置かれた、枚葉紙や裁断された布、木材、タイルなどにしてもよい。さらに、液体吐出ヘッド2から導電性の粒子を含む液体を吐出するようにして、電子機器の配線パターンなどを印刷してもよい。またさらに、液体吐出ヘッド2から反応容器などに向けて所定量の液体の化学薬剤や化学薬剤を含んだ液体を吐出させて、反応させるなどして、化学薬品を作製してもよい。
また、プリンタ1に、位置センサ、速度センサ、温度センサなどを取り付け、制御部88が、各センサからの情報から分かるプリンタ1各部の状態に応じて、プリンタ1の各部を制御してもよい。特に、液体吐出ヘッド2から吐出される液体の吐出特性(吐出量や吐出速度など)が外部の影響を受けるようであれば、液体吐出ヘッド2の温度や液体タンクの液体の温度、液体タンクの液体が液体吐出ヘッド2に加えている圧力に応じて、液体吐出ヘッド2において液体を吐出させる駆動信号を変えるようにしてもよい。
次に、本発明の一実施形態の液体吐出ヘッド2について説明する。図2(a)は、図1に示された液体吐出ヘッド2の要部であるヘッド本体2aを示す平面図である。図2(b)は、ヘッド本体2aから第2流路部材6を除いた状態の平面図である。図3および図4は、図2(b)の拡大平面図である。図5(a)は、図4のV−V線に沿った縦断面図であり、図5(b)は、ヘッド本体2の、第1共通供給流路20の開口20a付近における、第1共通供給流路20に沿った部分縦断面図である。図6(a)は、図5(a)の要部の拡大縦断面図であり、図6(b)は、図6(a)の平面図である。
各図は、図面を分かり易くするために次のように描いている。図2〜4、および図6(b)では、他のものの下方にあって破線で描くべき流路などを実線で描いている。図2(a)では、第1流路部材4内の流路については、ほとんど省略し、加圧室10の配置のみを示している。図4では、後述の第1および第2オーバーラップ領域の幅が0(ゼロ)であるかのように描いている。
液体吐出ヘッド2は、ヘッド本体2a以外に、金属製の筐体や、ドライバIC、配線基板などを含んでいてもよい。また、ヘッド本体2aは、支持部材である第1流路部材4と、第1流路部材4に液体を供給する第2流路部材6と、加圧部である変位素子50が作り込まれている圧電アクチュエータ基板40とを含んでいる。ヘッド本体2aは、一方方向に長い平板形状を有しており、その方向を長手方向と言うことがある。
ヘッド本体2aを構成する第1流路部材4は、平板状の形状を有しており、その厚さは0.5〜2mm程度である。第1流路部材4の第1の主面である加圧室面4−1には、加圧室10が平面方向に多数並んで配置されている。第1流路部材4の第2の主面である吐出孔面4−2には、液体が吐出される吐出孔8が平面方向に多数並んで配置されている。吐出孔8は加圧室10と繋がっている。
第1流路部材4には、複数の第1共通供給流路(以下で第1供給流路と言うことがある)20および複数の第1共通回収流路(以下で第1回収流路と言うことがある)24が、第1方向に沿って伸びるように配置されている。また、第1供給流路20と第1回収流路24とは、第1方向と交差する方向である第2方向に交互に並んでいる。
第1供給流路20の両側に沿って加圧室10が並んでおり、片側1列ずつ、合計2列の加圧室列11Aを構成している。第1供給流路20とその両側に並んでいる加圧室10とは、個別供給流路12を介して繋がっている。
第1回収流路24の両側に沿って加圧室10が並んでおり、片側1列ずつ、合計2列の加圧室列11Aを構成している。第1回収流路22とその両側に並んでいる加圧室10とは、個別回収流路である個別回収流路14を介して繋がっている。
以上のような構成により、第1流路部材4においては、第1供給流路20に供給された液体は、第1供給流路20に沿って並んでいる加圧室10に流れ込み、一部の液体は吐出孔8から吐出され、他の一部の液体は、加圧室10に対して、第1供給流路20と反対側に位置している第1回収流路24に流れ込み、第1流路部材4から外部に排出される。
第1供給流路20の両側に第1回収流路24が、第1回収流路24の両側に第1供給流路20が配置されていることにより、1つの加圧室列11Aに対して、1つの第1供給流路20および1つの第1回収流路24が繋がっており、別の加圧室列11Aに対して、別の第1供給流路20および別の第1回収流路24が繋がっている場合と比較して、第1供給流路20および第1回収流路24の数を約半分位にできるので好ましい。第1供給流路20および第1回収流路24の数が少なくて済む分、加圧室10の数を増やして高解像度化したり、第1供給流路20や第1回収流路24を太くして、吐出孔8からの吐出特性の差を小さくしたり、ヘッド本体2aの平面方向の大きさを小さくすることができる。
第1供給流路20に繋がっている個別供給流路12の第1供給流路20側の部分に加わる圧力は、圧力損失の影響で、第1供給流路20内の個別供給流路12の位置により変わる。第1回収流路24に繋がっている個別回収流路14側の部分に加わる圧力は、圧力損失の影響で、第1回収流路24内の個別回収流路14の位置により変わる。第1供給流路20の外部への開口20aを第1方向の一方の端部に配置し、第1回収流路24の外部への開口24aを第1方向の他方の端部に配置すれば、各個別供給流路12および各個別回収流路14の配置による圧力の差が打ち消されるように作用し、各吐出孔8に加わる圧力の差を小さくできる。なお、第1供給流路20の開口20a、および第1回収流路24の開口24aはともに、加圧室面4−1に開口している。
吐出しない状態では、吐出孔8には液体のメニスカスが保持されている。吐出孔8において液体の圧力が負圧(液体を第1流路部材4に引き込もうとする状態)になっていることで、液体の表面張力とつり合ってメニスカスが保持できる。正圧が大きくなれば、液体はあふれ出し、負圧が大きくなれば、液体が第1流路部材4内に引き込まれてしまい、液体が吐出可能な状態を維持できない。そのため、第1供給流路20から第1回収流路24に液体を流した際における、吐出孔8での液体の圧力の差が大きくなり過ぎないようにする必要がある。
加圧室10は、加圧室面4−1に面して配置されており、変位素子50からの圧力を受ける加圧室本体10aと、加圧室本体10aの下から吐出孔面4−2に開口している吐出孔8に繋がる部分流路であるディセンダ10bとを含んだ中空の領域である。加圧室本体10aは、直円柱形状であり、平面形状は円形状である。平面形状が円形状であることにより変位素子50が同じ力で変形させた場合の変位量、および変位により生じる加圧室10の体積変化を大きくできる。ディセンダ10bは、直径が加圧室本体10aより小さい直円柱形状であり、平面形状は円形状である。また、ディセンダ10bは、加圧室面4−1から見たときに、加圧室本体10a内に納まる位置に配置されている。ディセンダ10bは、吐出孔8側に向かって断面積の小さくなる円錐形状や台形円錐形状でもよい。ディセンダ10bの平面形状が加圧室本体10aより小さくなっているので、その分、第1供給流路20および第1回収流路24の幅を大きくでき、上述の圧力損失の差を小さくできる。
複数ある加圧室10は、第1方向に沿った複数の加圧室列11Aを構成しているととも
に、第1方向と交差する方向である第2方向に沿った複数の加圧室行11Bを構成している。各吐出孔8は、対応する加圧室10の中心に位置している。複数ある吐出孔8も、加圧室1と同様に、第1方向に沿った複数の吐出孔列9Aを構成しているとともに、第2方向に沿った複数の吐出孔行9Bを構成している。
本実施形態では、第1供給流路20は50本、第2供給流路24は51本であり、加圧室列11Aおよび吐出孔列9Aは100列ある。1つの加圧室列11Aには、16個の加圧室10が含まれており、1つの吐出孔列9Aには、16個の吐出孔8が含まれている。つまり、加圧室行11Bは、16行あり、吐出孔行9Bは、16行ある。
なお、隣り合う加圧室列11Aにおいて、加圧室10を第1方向にずらして千鳥状に配置すれば、隣り合う加圧室列11Aに属する加圧室10の距離を大きくできるので好ましい。その場合、加圧室行11Bは、32行あり、吐出孔行9Bは、32行になる。
第1方向と第2方向(ヘッド本体2aの長手方向)とが成す角度は直角からずれている。このため、第1方向に沿って配置されている吐出孔列9Aに属する吐出孔8同士は、その直角からのずれの分、第2方向にずれて配置される。そして、吐出孔列9Aが第2方向に並んで配置されるので、異なる吐出孔列9Aに属する吐出孔8は、その分、第2方向にずれて配置される。これらが合わさって、第1流路部材4の吐出孔8は、第2方向に一定間隔で並んで配置されており、これにより、吐出した液体により形成される画素で所定の範囲を埋めるように印刷ができる。
図3において、吐出孔8を第2方向と直交する方向に投影すると、仮想直線Rの範囲に32個の吐出孔8が投影され、仮想直線R内で各吐出孔8は360dpiの間隔に並ぶ。これにより、仮想直線Rに直交する方向に印刷用紙Pを搬送して印刷すれば、360dpiの解像度で印刷できる。仮想直線R内に投影される吐出孔8は、1列の吐出孔列9Aに属する吐出孔8すべて(16個)と、その吐出孔列9Aの両隣に位置する2つの吐出孔列9Aに属する吐出孔8半分(8個)ずつである。各吐出孔行9Bでは、吐出孔8は、22.5dpiの間隔で並んでいる。
1つの吐出孔列9Aに属する吐出孔8の配置は、第1方向に沿って完全に一直線上に配置すれば、上述のように所定範囲を埋め尽くすように印刷が可能である。ただし、そのように配置した場合に、プリンタ1に液体吐出ヘッド2を設置する際に生じる第2方向と搬送方向とのずれにより、印刷精度に与える影響が大きくなる。そのため、上述の一直線上の吐出孔8の配置から、隣り合う吐出孔列9Aの間で、吐出孔8を入れ替えて配置するのが好ましい。本実施形態では、吐出孔8を4個の組にして入れ替えている。そのため、1つの吐出孔列9Aにおいて、第1方向の一端側から4つの吐出孔8が、一直線上に配置されており、続く8個の吐出孔8が先の4つの吐出孔8が並んでいる直線とはずれた別の一直線上に配置されており、続く4個の吐出孔8が先の8つの吐出孔8が並んでいる直線とはずれた別の一直線上に配置されている。
第1供給流路20および第1回収流路24は、吐出孔8が直線上に並んでいる範囲では、直線になっており、直線がずれる吐出孔8の間で平行にずれている。このずれる箇所が、第1供給流路20および第1回収流路24において、少ないので流路抵抗が小さくなっている。また、この平行にずれる部分は、加圧室10と重ならない位置に配置されているので、加圧室10毎に吐出特性の変動を小さくできる。
第2方向の両端に位置する加圧室列11Bに属する加圧室10は、ダミー加圧室である。ダミー加圧室に対する、第2方向の端側には第1供給流路20もしくは第1回収流路24が設けられる。配置される流路は、ダミー加圧室に対して第2方向の中央側に配置され
ているのが第1回収流路24であれば、第1供給流路20となり、ダミー加圧室に対して第2方向の中央側に配置されているのが第1供給流路20であれば、第1回収流路24となる。ダミー加圧室も、通常の加圧室10と同様に、個別供給流路12を介して第1供給流路20と繋がっており、個別回収流路14を介して第1回収流路24と繋がっている。
第2方向の端に位置する共通流路(第1共通供給流路20および第1共通回収流路24のどちらであっても)は、供給もしくは回収する加圧室列11Aが1列になり、そのためその1列の加圧室列11Aに属する加圧室10からの吐出の吐出特性が、他の加圧室10からの吐出特性に対して変動するおそれがある。そこでその加圧室列11Aに属する加圧室10は、印刷に使わないダミー加圧室とする。ダミー加圧室は、基本的な形状は通常の加圧室10と同じであり、吐出孔面4−2側に吐出孔8を配置しなくてもよいし、してもよい。
上述のように、第2方向の両端に位置する加圧室列11Aに属する加圧室10をダミー加圧室とすれば、第2方向の両端から2番に位置する加圧室列11Aに属する加圧室10に液体を供給する第1供給流路20が他の通常の第1供給流路20と同様に、2列の加圧室列11Aに液体を供給するものになり、第2方向の両端から2番に位置する加圧室列11Aに属する加圧室10の液体を回収する第1回収流路24が他の通常の第1回収流路24と同様に、2列の加圧室列11Aの液体を回収するものになるので、吐出特性の差が生じ難くなる。
第2方向の端から2番目に位置する吐出孔列9Aに属する吐出孔8のうち、第2方向の端に近い8個の吐出孔8は、第2方向の関する間隔が360dpiとなっていないので、その位置には吐出孔8を設けず、対応する位置にある加圧室10をダミー加圧室としてもよい。
第2流路部材6は、第1流路部材4の加圧室面4−1に接合されており、第1供給流路に液体を供給する第2共通供給流路(以下で、第2供給流路と言うことがある)22と、第1回収流路の液体を回収する第2共通回収流路(以下で、第2回収流路と言うことがある)26とを有している。第2流路部材6の厚さは、第1流路部材4よりも厚く、5〜30mm低程度である。
第2流路部材6は、第1流路部材4の加圧室面4−1の圧電アクチュエータ基板40が接続されていない領域で接合されている。より具体的には、圧電アクチュエータ基板40を囲むように接合されている。このようにすることで、圧電アクチュエータ基板40に、吐出した液体の一部がミストとなって付着するのを抑制できる。また、第1流路部材4を外周で固定することになるので、第1流路部材4が変位素子50の駆動にともなって振動し、共振などが生じるのを抑制できる。
また、第2流路部材6には、貫通孔6cが上下に貫通している。貫通孔6cは、圧電アクチュエータ基板40を駆動する駆動信号を伝達するFPC(Flexible Printed Circuit)などの配線部材が通される。なお、貫通孔6cの第1流路部材4側は、短手方向の幅が広くなっている拡幅部6caとなっており、圧電アクチュエータ基板40から短手方向の両側に伸びる配線部材は、拡幅部6caで曲げられて上方に向かい、貫通孔6を抜ける。なお、拡幅部6caに広がる部分の凸部は、配線部材を傷つけるおそれがあるので、R形状にしておくのが好ましい。
第2供給流路22を、第1流路部材4とは別の、第1流路部材4より厚い第2流路部材6に配置することで、第2供給流路22の断面積を大きくすることができ、それにより第2供給流路22と第1供給流路20とが繋がっている位置の差による圧力損失の差を小さ
くできる。第2供給流路22の流路抵抗(より正確には第2供給流路22のうちで、第1供給流路20と繋がっている範囲の流路抵抗)は、第1供給流路20の1/100以下にするのが好ましい。
第2回収流路26を、第1流路部材4とは別の、第1流路部材4より厚い第2流路部材6に配置することで、第2回収流路26の断面積を大きくすることができ、それにより第2回収流路26と第1回収流路24とが繋がっている位置の差による圧力損失の差を小さくできる。第2回収流路26の流路抵抗(より正確には第2回収流路26のうちで、第1回収流路22と繋がっている範囲の流路抵抗)は、第1回収流路24の1/100以下にするのが好ましい。
第2供給流路22を第2流路部材6の短手方向の一方の端に配置し、第2回収流路26を第2流路部材6の短手方向の他方の端に配置し、それぞれの流路を該1流路部材4側に向かわせて、それぞれ第1供給流路20および第1回収流路24と繋げる構造にする。このようにすることで、第2供給流路22および第2回収流路26の断面積を大きく(つまり流路抵抗を小さく)できるともに、第2流路部材6で、第1流路部材4の外周を固定して剛性を高くし、さらに、配線部材の通る貫通孔6cを設けることができる。
第2流路部材6は、第2流路部材のプレート6aと6bとが積層されて構成されている。プレート6bの上面には、第2供給流路22のうち第2方向に伸びている流路抵抗の低い部分である第2供給流路本体22aとなる溝と、第2回収流路26のうち第2方向に伸びている流路抵抗の低い部分である第2供給流路本体26aとなる溝が配置されている。
第2供給流路本体22aとなる溝から、下方(第1流路部材4の方向)に向かって複数の供給接続流路22bが伸びており、加圧室面4−1上に開口している第1供給流路の開口20aに繋がっている。各供給接続流路22bの間は仕切り6baで区切られている(つまり、供給接続流路22bの第1供給流路20側は分岐している)。これにより、第2流路部材6と第1流路部材4との接続の剛性を高くできる。さらに、第2方向において、仕切り6baの長さは、給接続流路22bの長さより長くなっていることで、第2流路部材6と第1流路部材4との接続の剛性をより高くできる。
第2回収流路本体26aとなる溝から、下方(第1流路部材4の方向)に向かって複数の回収接続流路26bが伸びており、加圧室面4−1上に開口している第1回収流路の開口24aに繋がっている。各回収接続流路26bの間は仕切り6bbで区切られている(つまり、回収接続流路26bの第1回収流路24側は分岐している)。これにより、第2流路部材6と第1流路部材4との接続の剛性を高くできる。さらに、第2方向において、仕切り6bbの長さは、回収続流路26bの長さより長くなっていることで、第2流路部材6と第1流路部材4との接続の剛性をより高くできる。
プレート6aには、第2供給流路22の第2の方向の両端それぞれに開口22c、22dが設けられている。プレート6aには、第2回収流路26の第2の方向の両端それぞれに開口26c、26dが設けられている。液体の入っていない液体吐出ヘッド2に液体を供給するとき、第2供給流路22内の液体が外部に排出され易いように、一方の開口(例えば開口22c)から液体を供給し、第1流路部材4に液体を供給するとともに、空気および溢れた液体を他の開口(例えば22d)から排出することで、第1流路部材4に気体が入り込み難くできる。第2回収流路26についても同様に、一方の開口(例えば開口26c)から、他方の開口(例えば開口26d)から排出するようにすればよい。
印刷をする際には、液体の供給および回収にはいくつかの方法がある。一つは、第2供給流路22に供給した液体のすべてが、第1流路部材4に入り、さらに第2回収流路26
入って外部に排出される。この際、第2回収流路26へは外部から液体は供給されない。この場合さらに、2つの開口22c、22dから液体を供給し、2つの開口26c、26dから回収する方法と、開口22c、22dのどちらか一方から液体を供給し、他方は閉じておき、開口26c、26dのどちらか一方から液体を回収し、他方は閉じておく方法があり、さらに、この2つの組み合わせを逆にした方法がある。圧力損失による圧力の差を小さくするには、2つの開口から供給し、2つの開口から回収するのが好ましいが、液体を給排するチューブの接続は圧力の制御が煩雑になる。1つの開口から供給し、1つの開口から回収すると、接続や圧力の制御が簡単になる。その場合、供給と回収は、第2方向に関して反対側の位置にある開口を組にして行なえば、圧力損失の影響が相殺するようになるので好ましい。具体的には、開口22cから供給し開口26dから回収する、あるいは開口22dから供給し開口26cから回収するようにすればよい。
給排の他の方法は、第2供給流路22の一方の開口(例えば22c)から液体を供給し、他方の開口(例えば22d)から回収し、第2回収流路26の一方の開口(例えば26d)から液体を供給し、他方の開口(例えば26c)から回収する。それぞれの給排の圧力を調節して、第2供給流路22の圧力が、第2回収流路26の圧力より高くなるようにすれば、第1流路部材4に液体が流れるようになる。このようにすると、各吐出孔8のメニスカスに加わる圧力の差は一番小さくなる。
上述の2つの方法を組み合わせて、第2供給流路22に対して給排を行なって、第2回収流路26からは回収だけにしてもよい。逆に、第2供給流路22に対しては供給だけを行ない、第2回収流路26には給排を行なってもよい。
またさらに、以上で説明した供給と回収の関係を逆にしてもよい。例えば、第2回収流路26の2つの開口26c、26dの両方から液体を供給し、第2回収流路22の2つの開口22c、22dの両方から液体を回収してもよい。
第2供給流路22および第2回収流路26には、ダンパを設けて、液体の吐出量の変動に対して液体の供給、あるいは排出が安定するようにしてもよい。また、第2供給流路22および第2回収流路26内に、フィルタを設けることにより、異物や気泡が、第1流路部材4に入り込み難くしてもよい。
第1流路部材4の上面である加圧室面4−1には、変位素子50を含む圧電アクチュエータ基板40が接合されており、各変位素子50が加圧室10上に位置するように配置されている。圧電アクチュエータ基板40は、加圧室10によって形成された加圧室群とほぼ同一の形状の領域を占有している。また、各加圧室10の開口は、流路部材4の加圧室面4−1に圧電アクチュエータ基板40が接合されることで閉塞される。圧電アクチュエータ基板40は、ヘッド本体2aと同じ方向に長い長方形状である。また、圧電アクチュエータ基板40には、各変位素子50に信号を供給するためのFPCなどの信号伝達部が接続されている。第2流路部材6には、中央で、上下に貫通している貫通孔6cがあり、信号伝達部は貫通孔6cを通って制御部88と電気的に繋がれる。信号伝達部は、圧電アクチュエータ基板40の一方の長辺の端から他方の長辺の端に向かうように短手方向に伸びる形状にし、信号伝達部に配置される配線が短手方向に沿って伸び、長手方向に並ぶようにすれば、配線間の距離をとりやすくなり、好ましい。
圧電アクチュエータ基板40の上面である第1主面40−1における各加圧室10に対向する位置には第1個別電極44がそれぞれ配置されている。また、圧電アクチュエータ基板40の下面である第2主面40−2における各加圧室10に対向する位置には第2個別電極45がそれぞれ配置されている。これらの電極については後で詳述する。
流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート4a、供給プレート4b、マニホールドプレート4c〜e、回収プレート4fおよびノズルプレート4gである。これらのプレートには多数の孔や溝が形成されている。孔や溝は、例えば、各プレートを金属で作製し、エッチングで形成できる。各プレートの厚さは10〜300μm程度であることにより、形成する孔の形成精度を高くできる。マニホールドプレート4c〜eは、同じ形状をしており、1枚のプレートで構成してもよいが、孔を精度よく形成するため、3枚のプレートで構成している。各プレートは、これらの孔が互いに連通してマニホールド5などの流路を構成するように、位置合わせして積層されている。
平板状の流路部材4の加圧室面4−1には、加圧室本体10aが開口しており、圧電アクチュエータ基板40が接合されている。また、加圧室面4−1には、第1供給流路20に液体を供給する開口20a、および第1回収流路24から液体を回収する開口24aが開口している。流路部材4の、加圧室面4−1と反対側の面である吐出孔面4−2には吐出孔8が開口している。
液体を吐出する構造としては、加圧室10と吐出孔8とがある。加圧室10は、変位素子50に面している加圧室本体10aと、加圧室本体10aより断面積が小さいディセンダ10bから成っている。加圧室本体10aは、キャビティプレート4aに形成されており、ディセンダ10bは、プレート4b〜fに形成された孔が重ねられ、さらにノズルプレート4gで(吐出孔8以外の部分を)塞がれて成っている。
加圧室本体10aには、個別供給流路12が繋がっており、個別供給流路12は、第1供給流路20に繋がっている。個別供給流路12は供給プレート4bを貫通する円形状の孔であり、液体は上下方向に流れる。第1供給流路20はプレート4c〜hに形成された孔が重ねられ、さらに上側を供給プレート4bで、下側をノズルプレート4gで塞がれて成っている。
ディセンダ10bには、個別回収流路14が繋がっており、個別回収流路14は、第1回収流路24に繋がっている。個別回収流路14は回収プレート4fを貫通している貫通溝であり、液体は溝に沿って流れる。第1回収流路24はプレート4c〜hに形成された孔が重ねられ、さらに上側を供給プレート4bで、下側をノズルプレート4gで塞がれて成っている。
液体の流れについて、まとめると、第2供給流路22に供給された液体は、第1供給流路20および個別供給流路12を順に通って加圧室10に入り、一部の液体は吐出孔8から吐出される。吐出されなかった液体は、個別回収流路14を通って、第1回収流路24に入った後、第2回収流路に入り、ヘッド本体2の外部に排出される。
圧電アクチュエータ基板40は、圧電体である2枚の圧電セラミック層40a、40bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層40a、40bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。すなわち、圧電アクチュエータ基板40の圧電セラミック層40aの上面から圧電セラミック層40bの下面までの厚さは40μm程度である。圧電セラミック層40aと圧電セラミック層40bの厚さの比は、3:7〜7:3、好ましく4:6〜6:4にされる。圧電セラミック層40a、40bのいずれの層も複数の加圧室10を跨ぐように延在している。これらの圧電セラミック層40a、40bは、例えば、強誘電性を有する、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系、NaNbO3系、BaTiO3系、(BiNa)NbO3系、BiNaNb5O15系などのセラミックス材料からなる。
圧電アクチュエータ基板40は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極42およびAu系などの金属材料からなる第1個別電極44、第2個別電極45を有している。共通電極42の厚さは2μm程度であり、第1個別電極44、第2個別電極45の厚さは、1μm程度である。
第1個別電極44は、圧電アクチュエータ基板40の上面である第1主面40−1に配置されている。第1個別電極44は、平面形状が加圧室本体10aより一回り小さく、加圧室本体10aとほぼ相似な形状を有している第1個別電極本体44aと、第1個別電極本体44aから引き出されている第1引出電極44bとを含んでいる。第1引出電極44bの一端の、加圧室10と対向する領域外に引き出された部分には、接続電極46が形成されている。接続電極46は例えばガラスフリットを含む銀−パラジウムからなり、厚さが15μm程度で凸状に形成されている。また、接続電極46は、信号伝達部60に設けられた電極と電気的に接合されている。
第2個別電極45は、圧電アクチュエータ基板40の下面である第2主面40−2に配置されている。第2個別電極45は、平面形状が環状である第2個別電極本体45aと、第2個別電極本体45aから引き出されている第2引出電極45bとを含んでいる。第2個別電極本体45aは、第1個別電極本体44aを囲んで配置されている。必ずしも完全に囲んでいる必要はなく、第1個別電極本体44aの面積重心から見て、75%以上が囲まれていればよい。90%以上が囲まれているのがより好ましく、完全に囲まれているのが特に好ましい。なお、図6(b)では、第2個別引出電極45bと第1引出電極44bとは、重なって同じ位置に示されている。
第1引出電極44bと、第2引出電極45bとは、圧電セラミック層40a、40bを貫通している貫通導体48で電気的に接続されている。なお、共通電極42は、貫通導体48が貫通する部分には形成されていない。
また、圧電アクチュエータ基板40の上面には、共通電極用表面電極(不図示)が形成されている。共通電極用表面電極と共通電極42とは、圧電セラミック層40aに配置された、図示しない貫通導体を通じて、電気的に接続されている。
詳細は後述するが、第1個別電極44および第2個別電極45には、制御部88から信号伝達部を通じて駆動信号が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。
共通電極42は、圧電セラミック層40aと圧電セラミック層40bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極42は、圧電アクチュエータ基板40に対向する領域内のすべての加圧室10を覆うように延在している。共通電極42は、圧電セラミック層40a上に第1個別電極からなる電極群を避ける位置に形成されている共通電極用表面電極に、圧電セラミック層40aを貫通して形成されたビアホールを介して繋がっていて、接地され、グランド電位に保持されている。共通電極用表面電極は、多数の第1個別電極と同様に、制御部88と直接あるいは間接的に接続されている。
圧電セラミック層40aの第1個別電極本体44aと共通電極42とに挟まれている部分は、厚さ方向に分極されており、第1個別電極本体44aに電圧を印加すると変形する。対向して配置されている第1個別電極本体44aおよび共通電極42と、それらに挟まれている圧電セラミック層40aとを第1圧電部Aと呼ぶ。
圧電セラミック層40bの第2個別電極本体45aと共通電極42とに挟まれている部
分は、厚さ方向に分極されており、第2個別電極本体45aに電圧を印加すると変形する。対向して配置されている第2個別電極本体45aおよび共通電極42と、それらに挟まれている圧電セラミック層40bを第2圧電部Bと呼ぶ。
第2圧電部Bの分極方向を第1圧電部Aの分極方向と逆にしておき(図6(a)中の矢印は分極方向を表す)、第1個別電極本体44aおよび第2個別電極本体45aに同じ電圧を加える。分極方向と同じ方向に電界を加えれば、第1圧電部Aと第2圧電部Bとは圧電効果により歪む活性部として働き、平面方向に縮む。変位素子50のその他の部分の圧電セラミック層40a、40bは、第1個別電極本体44aおよび第2個別電極本体45aに電圧を加えても直接電界が生じない非活性部であり、自発的に変形はせず、活性部の変形を規制しようとする。この結果、変位素子50は加圧室10側に変位する。
なお、第2圧電部Bの分極方向と第1圧電部Aの分極方向とを同じ向きにしておき、第1個別電極本体44aと第2個別電極本体45aとに逆の電圧を加えてもよい。ただし、加える電圧を1種類にした方が、制御が簡単になるので、分極方向は逆にするのが好ましい。
第2個別電極45毎に電圧を加えるかどうかを変えられるようにするには、例えば、圧電アクチュエータ基板40と流路部材4とを接着する接着剤で、絶縁すればよい。また、駆動毎に、すべての第2個別電極本体45aに同じ電圧を加え、すなわちすべての第2圧電部Bを圧電変形させ、吐出させる変位素子50の第1圧電部Aにのみ電圧を加えて圧電変形するようにしてもよい。その際、駆動信号は、第2圧電部Bの変形だけでは吐出が起こらず、第2圧電部Bと第1圧電部Aとが両方変形した際に、吐出するようにしたものを用いる。このようにすれば、第2個別電極本体45aに加える電圧の制御が簡単にできる。
本実施形態では、第1圧電部Aおよび第2圧電部Bは、2層の電極層とそれらに挟まれた1層の圧電体層(圧電セラミック層)から成っているが、それぞれ、複数の電極層と複数の圧電体層とが交互に積層されて成っていてもよい。
続いて、液体の吐出動作について、説明する。制御部88からの制御でドライバICなどを介して、第1個別電極44および第2個別電極45に供給される駆動信号により、変位素子50が駆動(変位)させられる。本実施形態では、様々な駆動信号で液体を吐出させることができるが、ここでは、いわゆる引き打ち駆動方法について説明する。
あらかじめ第1個別電極44および第2個別電極45を共通電極42より高い電位(以下高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に第1個別電極44および第2個別電極45を共通電極42と一旦同じ電位(以下低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、第1個別電極44および第2個別電極45が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層40a、40bが元の(平らな)形状に戻り(始め)、加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。これにより、加圧室10内の液体に負圧が与えられる。そうすると、加圧室10内の液体が固有振動周期で振動し始める。具体的には、最初、加圧室10の体積が増加し始め、負圧は徐々に小さくなっていく。次いで加圧室10の体積は最大になり、圧力はほぼゼロとなる。次いで加圧室10の体積は減少し始め、圧力は高くなっていく。その後、圧力がほぼ最大になるタイミングで、第1個別電極44および第2個別電極45を高電位にする。そうすると最初に加えた振動と、次に加えた振動とが重なり、より大きい圧力が液体に加わる。この圧力がディセンダ内を伝搬し、吐出孔8から液体を吐出させる。
つまり、高電位を基準として、一定期間低電位とするパルスの駆動信号を第1個別電極
44および第2個別電極45に供給することで、液滴を吐出できる。このパルス幅は、加圧室10の液体の固有振動周期の半分の時間であるAL(Acoustic Length)とすると、
原理的には、液体の吐出速度および吐出量を最大にできる。加圧室10の液体の固有振動周期は、液体の物性、加圧室10の形状の影響が大きいが、それ以外に、圧電アクチュエータ基板40の物性や、加圧室10に繋がっている流路の特性からの影響も受ける。
なお、パルス幅は、吐出される液滴を1つにまとめるようにするなど、他に考慮する要因もあるため、実際は、0.5AL〜1.5AL程度の値にされる。また、パルス幅は、ALから外れた値にすることで、吐出量を少なくすることができるため、吐出量を少なくするためにALから外れた値にされる。
本実施形態では、圧電アクチュエータ基板40を平面視したとき、第1圧電部Aと第2圧電部Bとが重なっている第1オーバーラップ領域、および第2圧電部Bと加圧室10となる開口の外周を構成している支持板開口縁部Cとが重なっている第2オーバーラップ領域が存在することにより変位量が大きくなっている。
まず、変位素子50の基本的な構成について説明する。変位素子50は、支持部材(流路部材)4の開口(加圧室)10に面しており、開口10の外周を構成している開口縁部Cで、変位素子50の外側の位置を規制されている。第1圧電部Aは、電圧が加わると平面方向に収縮し、第1圧電部Aが積層されている圧電セラミック層40bよりも平面方向の大きさが小さくなるので、開口10側に凸形状に湾曲する。第2圧電部Bは、電圧が加わると平面方向に収縮し、第2圧電部Bが積層されている圧電セラミック層40aよりも平面方向の大きさが小さくなるので、開口10とは反対側に凸形状になる。第2圧電部Bの外側は、開口縁部Cで位置が規制されているため、第2圧電部Bの内側は、第1圧電部Aを開口10側に押し出すように湾曲する。これら第1圧電部Aと第2圧電部Bとの湾曲が合わさって、変位素子50が変位する。
開口10の平面形状は、任意であるが、基本的には凹んだところのない凸形状にされる。具体的に、円形状、楕円形状、凸多角形状などである。変位量を大きくするためには、円形状に近い形状であるのが好ましく、変位量に関して言えば、円形状が最適である。
第1圧電部Aは、開口10のほぼ中心に位置し(開口10の面積重心が第1圧電部A内にある)、第1圧電部Aの面積は、開口10の面積に対して、50%〜70%であれば、変位量を大きくできる。面積比は、特に55%〜65%であるのが好ましい。
続いて、第1オーバーラップ領域について説明する。第1オーバーラップ領域は、第1圧電部Aの外周部において、第1圧電部Aと第2圧電部Bとが重なっている領域である。なお、第1引出電極45bと共通電極42とが重なっている部分は、第1圧電部Aには含まれず、第1オーバーラップ領域にも含まれない。
第1オーバーラップ領域は、第1圧電部Aを囲むように配置されている。必ずしも完全に囲んでいる必要はなく、第1個別電極本体44aの面積重心から見て、75%以上が囲まれていればよい。90%以上が囲まれているのがより好ましく、完全に囲まれているのが特に好ましい。また、第1オーバーラップ領域は、設計上離れて配置されていた第1圧電部Aと第1圧電部Bとがずれて重なったものではなく、重なるように設計されたものである。
第1オーバーラップ領域が存在すると、変位量は大きくなる。これは、次のような理由によると考えられる。第1オーバーラップ領域は、第1圧電部Aを囲んでいる環状の領域なので、第1オーバーラップ領域が平面方向に収縮すると、環の直径を小さくするように
力が働く。これは第1圧電部Aを外側から圧縮し、第1圧電部Aの平面方向の大きさを小さくする。そうすると第1圧電部Aの湾曲は大きくなり、より開口10側に変位することになる。
ただし、第1オーバーラップ領域の面積が大きくなり過ぎると、変位量は逆に小さくなってしまう。理由は、第1オーバーラップ領域の面積が大きくなることで、その分変位素子50の開口10の直径方向の長さが短くなるように働くので、その影響の方が大きくなるからではないかと考えられる。そのため、第1オーバーラップ領域の(平均の)幅W1[μm]は、第1圧電部Aの面積と同じ面積の円の直径の6%以下にする。
図7は、図6(a)、(b)に示した変位素子50についてシミュレーションを行なった結果から得られた第1オーバーラップ領域の幅W1と体積変位量(変位素子50の変位により変わる加圧室10の体積)との関係のグラフである。
シミュレーションでは、支持部材4は、ヤング率200GPa、厚さ50μm、開口10の直径1mmとし、圧電セラミック層40a、40bは、ヤング率80GPa、それぞれの厚さは22μm、圧電アチュエータ基板40の厚さ(圧電セラミック層40aの上面から圧電セラミック層40bの下面まで)45μm(すなわち共通電極42の厚さ1μm)、第1圧電部Aの直径775μm(これにより第1圧電部Aの面積は、開口10の面積の60%となっている)として、第1オーバーラップ領域の幅W1[μm]を変えている。ここでは後述の第2オーバーラップ領域は存在しない(W2=0μm)である。ただし、シミュレーションでは、第1引出電極44bおよび第2引出電極がない状態で行なった。グラフでは、第1オーバーラップ領域が存在しない場合、便宜上、第1圧電部Aと第2圧電部Bとの間の距離の分、W1が負であるとしている。
W1が大きくなると体積変位量が大きくなっており、グラフから、W1が0μmであるときの体積変位量に対して、0μm<W1≦50μmの範囲で体積変位量が大きくなっている。これは第1圧電部Aの直径との比で表せば、0%より大きく、6.4%以下である。体積変位量をW1=20μm付近で最大になり、第1圧電部Aの直径との比で表したときの第1オーバーラップ領域の幅は、1%〜5%がより好ましく、2%〜4%が特に好ましいる。
体積変位量を大きくできるW1の範囲については、厚さ方向、平面方向に大きさが変わっても、相互に影響を及ぼしあう割合は変わらないので、第1圧電部Aの直径との比で表せば、対象となるものの形状、大きさによらず、上述範囲となると考えられる。このことは、シミュレーションでも確認された。
続いて、第2オーバーラップ領域について説明する。第2オーバーラップ領域は、第2圧電部Bの外周部において、第2圧電部Bと支持板開口縁部Cとが重なっている領域である。
第2オーバーラップ領域は、第2圧電部Bを囲むように配置されている。必ずしも完全に囲んでいる必要はなく、第2個別電極本体45aの面積重心から見て、75%以上が囲まれていればよい。90%以上が囲まれているのがより好ましく、完全に囲まれているのが特に好ましい。また、第2オーバーラップ領域は、設計上離れて配置されていた第2圧電部Bと支持板開口縁部Cとがずれて重なったものではなく、重なるように設計されたものである。
第2オーバーラップ領域が存在すると、変位量は大きくなる。これは、次のような理由ではないかと考えられる。第2オーバーラップ領域では、第2圧電部Bが平面方向に収縮
することで、支持板開口縁部Cの上で、圧電アクチュエータ基板40が開口10の側に折れ曲がるように変形し、開口10上の圧電アクチュエータ基板40全体を開口10側に押し込むように変形させるので、これにより、変位量が大きくなる。また、第1オーバーラップ領域で説明したのと同様に、環状の第2オーバーラップ領域の直径が小さくなることにより生じる効果も加わっている可能性もある。第2オーバーラップ領域の幅が大きくなった場合、第1オーバーラップ領域の場合と異なり、第2オーバーラップ領域がない場合より変位量が小さくなることはない。これは、第2オーバーラップ領域が支持部材4と接合されている部分の上の領域であり、第2オーバーラップ領域の第2圧電部Bの幅が大きくなって、開口10上の圧電アクチュエータ基板40を引き延ばすように(その結果変位量を少なくなるように)働こうとしても、支持部材4によりその動きが規制されるので、支持板開口縁部Cの上で、圧電アクチュエータ基板40を屈曲させる影響の方が大きい状態を維持するのではないかと考えられる。
図8(a)、(b)は、第1オーバーラップ領域を評価したのと同様に、第2オーバーラップ領域の幅W2[μm]と体積変位量との関係をシミュレーションで評価した結果である。第1オーバーラップ領域の評価と異なるパラメータは次の通りである。第1オーバーラップ領域は存在しない(W1=0μm)。図8(a)のグラフでは、開口10の直径は、0.5mm、1mm、2mmの3種類とし、第1圧電部Aの直径は、それぞれ開口10の面積の60%となるようにした。図8(b)のグラフでは、圧電アクチュエータ基板の厚さ、30μm、45μm、90μmとした。また、各モデルで体積変位量が大きく異なるので、グラフには、それぞれの体積変位量の最大値で割って規格化したものをプロットした。
図8(a)から、体積変位量のピークは、W2が50〜100μmの範囲内であり、開口の10の大きさにあまり影響を受けないことが分かる。また、W2が300μm以上になると体積変位量はほぼ一定になることが分かる。このときの体積変位量は、第2オーバーラップ領域がない、すなわちW2=0μmの場合の体積変位量よりも大きく、第2オーバーラップ領域が大きい場合でも、体積変位量を大きくする効果があることが分かる。
図8(b)から、体積変位量のピークとなるW2の値は、圧電アクチュエータ基板40の厚さが厚くなっていくにしたがって大きくなっている。圧電アクチュエータ基板40の厚さが厚くなっていくほど、支持板開口縁部Cの上で圧電アクチュエータ基板40を開口10の側に折れ曲げるのに力が必要なため、体積変位量のピークとなるW2の値は、圧電アクチュエータ基板40の厚さにほぼ比例するのではないかと考えられる。
以上の結果から、まずW2を圧電アクチュエータ基板40の厚さ以上にすることで、変位量をより大きくできる。より具体的には、W2=0μmである場合に対するW2の変位量が最大になる値である場合の変位量の向上を100%とすると、上述の範囲では40%以上の向上となる。さらにW2が、圧電アクチュエータ基板40の厚さの4倍以下であれば、W2の値が大きくて、変位量が一定なる領域よりも大きな変位量とすることができる。
そして、第1オーバーラップ領域、第2オーバーラップ領域の両方が存在すると、変位量をより大きくできる。なお、第1オーバーラップ領域、第2オーバーラップ領域のいずれについても、圧電体として一般的なものを用い、支持部材4として一般的な金属を用いれば、上述と同様の傾向になると考えられる。