本発明に係るイムノアッセイ分析方法は、分析チップに励起光を照射し、分析チップに配置された被検出物質を標識する蛍光物質の励起によって発生する蛍光の光量を受光センサーにより検出することで、被検出物質の量を測定する。上記イムノアッセイ分析方法の例には、表面プラズモン共鳴蛍光分析(SPFS)法が含まれる。以下、本発明の実施の一形態として、SPFS法による実施形態を説明する。まず、本発明の一実施形態に係る表面プラズモン共鳴蛍光分析装置(以下「SPFS装置」とも言う)を説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係るSPFS装置100の構成を示す模式図である。SPFS装置100は、誘電体プリズム上の金属膜に対して励起光を表面プラズモン共鳴が生じる角度で入射することで、金属膜表面上に局在場光(一般に「増強されたエバネッセント波」または「増強電場」とも呼ばれる)を発生させることができる。この局在場光により金属膜上に配置された被検出物質を標識する蛍光物質が選択的に励起され、蛍光物質から放出された蛍光の光量を検出することで、被検出物質の濃度または量を検出する。
SPFS装置100は、図1に示されるように、励起光学系ユニット110、受光光学系ユニット120、送液ユニット130および制御部160から構成される。SPFS装置100は、被検出物質の測定では、不図示のチップホルダーに分析チップ10を装着した状態で使用される。そこで、分析チップ10について先に説明し、その後にSPFS装置100の各構成要素について説明する。
分析チップ10は、図1に示されるように、入射面21、成膜面22および出射面23を有するプリズム20と、成膜面22に形成された金属膜30と、成膜面22または金属膜30上に配置された流路蓋40とを有する。通常、分析チップ10は、分析のたびに交換される。分析チップ10は、好ましくは、各片の長さが数mm〜数cmである構造物であるが、「チップ」の範疇に含まれないより小型の構造物またはより大型の構造物であってもよい。
プリズム20は、励起光αに対して透明な誘電体からなる。プリズム20は、入射面21、成膜面22および出射面23を有する。入射面21は、励起光学系ユニット110からの励起光αをプリズム20の内部に入射させる。成膜面22の上には、金属膜30が形成される。プリズム20の内部に入射した励起光αは、金属膜30で反射する。より具体的にはプリズム20と金属膜30との界面(成膜面22)で反射する。出射面23は、金属膜30で反射した励起光αをプリズム20の外部に出射させる。
プリズム20の形状は、特に限定されない。本実施の形態では、プリズム20の形状は、台形を底面とする柱体である。台形の一方の底辺に対応する面が成膜面22であり、一方の脚に対応する面が入射面21であり、他方の脚に対応する面が出射面23である。底面となる台形は、等脚台形であることが好ましい。これにより、入射面21と出射面23とが対称になり、励起光αのS波成分がプリズム20内に滞留しにくくなる。
入射面21は、励起光αが励起光学系ユニット110に戻らないように形成される。励起光αが励起光源であるレーザーダイオードに戻ると、レーザーダイオードの励起状態が乱れてしまい、励起光αの波長や出力が変動してしまうからである。そこで、理想的な増強角を中心とする走査範囲において、励起光αが入射面21に垂直に入射しないように、入射面21の角度が設定される。たとえば、入射面21と成膜面22との角度および成膜面22と出射面23との角度は、いずれも約80°である。
なお、分析チップ10の設計により共鳴角(およびその極近傍にある増強角)が凡そ決まる。設計要素は、プリズム屈折率、金属の屈折率、金属の膜厚、金属の消衰係数、励起波長などである。金属膜に固定された被検出物質の量に応じて共鳴角および増強角がシフトするが、その量は数度未満である。
プリズム20は、複屈折特性を少なからず有する。プリズム20の材料の例には、樹脂およびガラスが含まれる。プリズム20の材料は、好ましくは、屈折率が1.4〜1.6であり、かつ複屈折が小さい樹脂である。
金属膜30は、プリズム20の成膜面22上に形成されている。これにより、成膜面22に全反射条件で入射した励起光αの光子と、金属膜30中の自由電子との間で相互作用、すなわち表面プラズモン共鳴が生じ、金属膜30の表面上に局在場光を生じさせることができる。
金属膜30の素材は、表面プラズモン共鳴を生じさせる金属であれば特に限定されない。金属膜30の素材の例には、金、銀、銅、アルミ、これらの合金が含まれる。本実施の形態では、金属膜30は、金薄膜である。金属膜30の形成方法は、特に限定されない。金属膜30の形成方法の例には、スパッタリング、蒸着、メッキが含まれる。金属膜30の厚みは、特に限定されないが、30〜70nmの範囲内が好ましい。
また、図1では図示しないが、金属膜30のプリズム20と対向しない面(金属膜30の表面)には、被検出物質を捕捉するための捕捉体が固定されていてもよい。捕捉体を固定することで、被検出物質を選択的に検出することが可能となる。本実施の形態では、金属膜30上の所定の領域に、捕捉体が均一に固定されている。捕捉体の種類は、被検出物質を捕捉することができれば特に限定されない。たとえば、捕捉体は、被検出物質に特異的な抗体またはその断片である。
流路蓋40は、金属膜30のプリズム20と対向しない面上に、流路を挟んで配置されている。金属膜30がプリズム20の成膜面22の一部にのみ形成されている場合は、流路蓋40は、流路を挟んで成膜面22上に配置されていてもよい。流路蓋40は、金属膜30(およびプリズム20)と共に、液体が流れる流路を形成する。当該液体の例には、被検出物質の溶液である試料液および薬液が含まれ、薬液の例には、蛍光物質の溶液および洗浄液が含まれる。捕捉体は、不図示の流路内に露出している。流路の両端は、流路蓋40の上面に形成された不図示の注入口および排出口とそれぞれ接続されている。流路内へ液体が注入されると、流路内において、当該液体は捕捉体に接触する。
流路蓋40は、金属膜30上から放出された光(プラズモン散乱光および蛍光)に対して透明な材料からなる。流路蓋40の材料の例には、樹脂が含まれる。流路蓋40は、これらの光を受光光学系ユニット120に導くことができればよい。たとえば、少なくとも、被検出物質を標識した蛍光物質からの蛍光を外部に取り出す面が光学的に透明であれば、流路蓋40の一部は、不透明な材料で形成されていてもよい。流路蓋40は、例えば、両面テープや接着剤などによる接着や、レーザー溶着、超音波溶着、クランプ部材を用いた圧着などにより金属膜30またはプリズム20に接合されている。
このように、分析チップ10は、プリズム20、プリズム20の一面上に配置された金属膜30、および金属膜30の表面が露出する流路、を含む。上記のように構成される分析チップ10には、流路内に蛍光物質が供給される。そして、金属膜上に供給され、蛍光物質で標識された被検出物質を有する分析チップは、チップホルダーに所定の姿勢で設置保持される。本実施の形態では、蛍光物質による被検出物質の標識と並行して、受光センサー127の検出レンジを調整する。当該検出レンジの調整については、後に詳述する。
励起光学系ユニット110は、励起光αをプリズム20の流路に向けて出射するための構成と、金属膜30への励起光αの入射角度を走査するための構成とを含む。励起光学系ユニット110は、例えば、光源ユニット111、角度調整機構112および光源制御部113によって構成される。ここで、「励起光」とは、被検出物質を標識する蛍光物質を直接または間接的に励起させる光である。「励起光」は、蛍光物質を直接励起させる光であれば、被検出物質に直接照射され、蛍光物質を間接的に励起させる光であれば、分析チップにおける、蛍光物質の励起を発生させる場所に照射される。たとえば、励起光αは、金属膜30の表面上に局在場光を生じさせる光であり、この局在場光により蛍光物質を間接的に励起させる光である。励起光αは、プリズムを介して金属膜30に、表面プラズモン共鳴が生じる角度で照射される。
光源ユニット111は、コリメートされ、かつ波長および光量が一定の励起光αを、金属膜30表面における照射スポットの形状が略円形となるように出射する。光源ユニット111は、例えば、励起光の光源、ビーム整形光学系、APC機構および温度調整機構(いずれも不図示)を有する。励起光αの光源は、例えば、レーザーダイオード(以下「LD」とも言う)である。
上記LDは、チップホルダーに保持された分析チップ10の入射面21に向けて励起光α(シングルモードレーザー光)を出射する。より具体的には、光源ユニット111は、分析チップ10の金属膜30に対して励起光αが表面プラズモン共鳴を生じる角度で、金属膜30に対するP波のみを入射面21に向けて出射する。
光源ユニット111は、分析チップの上記流路における上記被検出物質が固定された部分(以下、「被検出物質固定部」とも言う)に向けて励起光αを照射するための光源を含む。励起光αは、前述したように、被検出物質を標識する蛍光物質を励起させるのであれば、上記流路中の上記被検出物質固定部以外の分析チップの一部分に照射されてもよい。本実施の形態では、当該光源は、プリズム20と金属膜30との界面に励起光αを照射する。当該光源の種類は、励起光αを出射可能であれば特に限定されず、LDでなくてもよい。光源の例には、発光ダイオード、水銀灯、その他のレーザー光源が含まれる。光源から出射される光がビームでない場合は、光源から出射される光は、レンズや鏡、スリットなどによりビームに変換される。また、光源から出射される光が単色光でない場合は、光源から出射される光は、回折格子などにより単色光に変換される。さらに、光源から出射される光が直線偏光でない場合は、光源から出射される光は、偏光子などにより直線偏光の光に変換される。
光源ユニット111における上記ビーム整形光学系は、例えば、コリメーター、バンドパスフィルター、直線偏光フィルター、半波長板、スリットおよびズーム手段によって構成される。ビーム整形光学系は、上記の構成要素の全てによって構成されていてもよいし、一部によって構成されていてもよい。コリメーターは、LDから出射された励起光αをコリメートする。LDの出射光は、射出状態で既に形状が扁平であり、且つ偏光方向が概ね一方に偏っている。コリメート化しても、該LDは、全反射条件(浅い角度)で照射される位置において照射面が円形になるように、短軸側から入射するように保持されている。
バンドパスフィルターは、光源ユニット111からの励起光αを中心波長のみの狭帯域光にする。光源ユニット111からの励起光αは、若干の波長分布幅を有しているためである。直線偏光フィルターは、光源ユニット111からの励起光αを完全な直線偏光の光にする。半波長板は、金属膜30にP波成分が入射するように励起光αの偏光方向を調整する。スリットおよびズーム手段は、金属膜30表面における照射スポットの形状が所定サイズの円形となるように、励起光αのビーム径や輪郭形状などを調整する。
光源ユニット111における上記APC機構は、コリメートされた後の励起光αから分岐させた光の光量を不図示のフォトダイオードなどで検出し、励起光αの光量が一定になるように、回帰回路で投入エネルギーを制御することで、出力を一定に制御している。
光源ユニット111における上記温度調整機構は、例えば、ヒーターやペルチェ素子などである。LDの出射光の波長およびエネルギーは、温度によって変動する。このため、温度調整機構でLDの温度を一定に保つことにより、当該波長を一定に制御する。
角度調整機構112は、金属膜30(プリズム20と金属膜30との界面(成膜面22))への励起光αの入射角度を走査して調整する。角度調整機構112は、プリズム20を介して金属膜30(成膜面22)の所定の位置に所定の入射角で励起光αを照射するために、励起光αの光軸とチップホルダーとを相対的に回転させる。
たとえば、角度調整機構112は、光源ユニット111を励起光αの光軸と直交する軸(図1の紙面に対して垂直な軸)を中心として回動させる。このとき、入射角度を走査しても金属膜30(成膜面22)上での励起光αの入射位置がほとんど移動しないように、回転軸の位置を設定する。
入射光軸と直交する軸を回転軸として光源ユニット111を回転(1軸回転)して励起光αの入射角度を走査することで、プリズム20に、入射角を変えて励起光αを照射する。当該入射角度の走査のための回転を行っても、分析チップ10の金属膜30(成膜面22)上での励起光αの入射位置がほとんどずれないように、上記回転軸の位置を設定する。回転中心の位置を、入射角の走査範囲の両端における2つの励起光αの光軸の交点近傍(成膜面22上の励起光αの入射位置と入射面21との間)に設定することで、励起光αの入射位置のズレを極小化することができる。
励起光αの入射角度のうち、上記走査によりプラズモン散乱光の光量が最大となる角度が増強角度である。増強角度またはその近傍の角度に励起光αの入射角度を設定することで、大きな強度の蛍光を測定することが可能となる。なお、分析チップに付随のプリズムの材質、形状、金属膜厚、流路内の流体の屈折率などにより基本の励起光入射条件が決まるが、流路内の蛍光物質の材質や量、プリズム側の誤差などにより若干条件のゆらぎが発生する。このため、測定毎に最適な増強角度を求めることが好ましい。増強角度は、例えば、小数点第一位まで求められる。
光源制御部113は、光源ユニット111を構成する前述した各種機器を作動させ、制御し、光源ユニット111の出射光の出射を制御する。光源制御部113は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
受光光学系ユニット120には、金属膜30(成膜面22)への励起光αの照射によって生じたプラズモン散乱光や蛍光などの光が入射する。受光光学系ユニット120は、例えば、受光ユニット121、位置切り替え機構122およびセンサー制御部123によって構成される。
受光ユニット121は、分析チップ10の金属膜(成膜面22)の法線方向に配置される。受光ユニット121は、例えば、第一レンズ124、光学フィルター125、第二レンズ126および受光センサー127によって構成される。
第一レンズ124は、例えば、集光レンズであり、金属膜30上から出射される光を集光する。第二レンズ126は、例えば、結像レンズであり、第一レンズ124で集光された上記光を受光センサー127の受光面に再結像させる。両レンズの間には、光軸に沿って光が略平行に進む光路が形成される。光学フィルター125は、両レンズの間に配置されている。
光学フィルター125は、蛍光成分のみを受光センサー127に導き、高いS/N比で当該蛍光成分を検出するために、励起光成分(プラズモン散乱光)を除去する。光学フィルター125の例には、励起光反射フィルター、短波長カットフィルターおよびバンドパスフィルターが含まれる。光学フィルター125は、例えば、所定の光成分を反射することで除去する多層膜からなるフィルターであるが、所定の光成分を一般的には吸収することで除去する色ガラスフィルターであってもよい。
受光センサー127は、微少量の被検出物質からの微弱な蛍光を検出することが可能な、高い感度を有する。受光センサー127は、上記蛍光の光量を検出するための受光センサーである。受光センサー127は、例えば、ヘッドオンタイプの光電子増倍管(PMT)である。
位置切り替え機構122は、光学フィルター125の位置を、受光ユニット121における光路中の位置または当該光路から外れた位置に切り替える。位置切り替え機構122は、例えば、回転駆動部と、光学フィルター125を有するターンテーブルやラックアンドピニオンなどの、回転運動によって光学フィルター125を上記光路に対して進出させ、当該光路から後退させる公知の機構とによって構成される。
センサー制御部123は、受光センサー127による光量の検出や、受光センサー127の検出レンジの管理、変更、などを制御する。センサー制御部123は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
なお、受光ユニット121は、励起光αが金属膜30の裏面に入射したときに金属膜30の表面側に発生する光が受光センサー127の受光面に入射したときの入射領域を、上記受光面よりも小さくするように、構成されている。
送液ユニット130は、分析チップ10に試料液または薬液を供給する。送液ユニット130は、例えば、薬液チップ131、シリンジポンプ132および送液ポンプ駆動機構133によって構成される。
薬液チップ131は、試料液および薬液を収容する容器である。薬液チップ131は、通常、試料液および薬液の種類に応じて複数配置される。
シリンジポンプ132は、シリンジ134と、シリンジ134内を往復動作可能なプランジャー135とによって構成される。プランジャー135の往復運動によって、試料液または薬液の吸引および排出が定量的に行われる。
シリンジ134が交換可能であると、シリンジ134の洗浄が不要となる。このため、不純物の混入などの影響を抑える観点から好ましい。シリンジ134が交換可能に構成されていないと、シリンジ134内を洗浄する構成をさらに有することにより、シリンジ134を交換せずに使用することが可能となる。このため、シリンジ134の消費を抑制する観点から好ましい。
送液ポンプ駆動機構133は、例えば、プランジャー135の駆動装置と、シリンジポンプ132の移動装置とによって構成される。
プランジャー135の駆動装置は、プランジャー135を往復運動させるための装置であり、例えば、ステッピングモーターを含む。ステッピングモーターを含む当該駆動装置は、シリンジポンプ132の送液量や送液速度を一定に管理し、分析チップ10の残液量を一定に管理する観点から好ましい。
シリンジポンプ132の移動装置は、例えば、シリンジポンプ132を、シリンジ134の軸方向(例えば垂直方向)と、当該軸方向を横断する方向(例えば水平方向)との二方向に自在に動かす装置である。シリンジポンプ132の移動装置は、例えば、ロボットアーム、2軸ステージまたは上下動自在なターンテーブルによって構成される。
送液ユニット130は、シリンジ134の先端の位置を検出する装置をさらに有することが、シリンジ134と分析チップ10との相対的な高さを一定に調整し、分析チップ10内での残液量を一定に管理する観点から好ましい。
送液ユニット130は、薬液チップ131より各種の薬液などの液体を吸引し、分析チップ10まで移動し、当該薬液を分析チップ10に供給する。この際、プランジャー135を、分析チップ10に対して進出、後退する方向、例えば上下方向、に動かすことで、分析チップ10中の流路内を液体が往復し、当該流路内の液体が攪拌される。上記の操作を行う観点から、分析チップ10における、分析チップ10に供給されるべき液体が収容される液挿入部は、多層フィルムで保護されており、シリンジ134が当該液体の供給のために当該多層フィルムを貫通した時に、上記液挿入部を密閉するように、分析チップ10およびシリンジ134が構成されていることが好ましい。
上記の操作により、当該液体の濃度の均一化や、分析チップ10の所定位置への被検出物質の固定化反応の促進などが行われる。反応後の液体は、再びシリンジポンプ132で吸引され、薬液チップ131などに排出される。上記の動作の繰り返しにより、各種薬液による反応、洗浄などを実施し、分析チップ10の所定位置に、被検出物質が配置され、当該被検出物質が蛍光物質によって標識される。
制御部160は、角度調整機構112、光源制御部113、位置切り替え機構122、センサー制御部123および送液ポンプ駆動機構133を駆動させ、制御する。制御部160は、受光センサー127の検出レンジの設定を始め、種々の操作を実行させ、制御する。制御部160は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
本実施の形態において、SPFS装置100は、プリズム20の一面上に配置された金属膜30に対して、プリズム20を介して励起光αを照射し、金属膜30上に捕捉された被検出物質を標識する蛍光物質を選択的に励起させ、蛍光物質から放出された蛍光を検出して被検出物質の量を測定する。また、本実施の形態において、SPFS装置100は、当該測定前の洗浄操作が終了する前に、受光センサー127の検出レンジの判定と、受光センサー127の検出レンジの適切な範囲への切り替えとを完了する。SPFS装置100におけるシーケンス制御の一例に基づき、SPFS装置100によるSPFS方法の実施を説明する。
まず、制御部160は、図2に示されるように、チップホルダーに保持された分析チップ10に対し、以下の操作を行う。
分析チップ10の流路内には、保湿剤が塗布されている場合がある。たとえば、分析チップ10の金属膜30上に、被検出物質を捕捉する固相膜が配置されている場合では、当該固相膜での当該被検出物質を捕捉する基質特異性が長期間の固定の間に低下しないよう、通常、当該固相膜に保湿剤が塗布される。当該固相膜は、例えば、前述した捕捉体を含む膜である。当該固相膜が金属膜30に配置されている場合、制御部160は、送液ユニット130に、分析チップ10の流路内の保湿剤を洗浄させる(ステップ201)。当該洗浄により、分析チップ10における被検出物質を捕捉する高い基質特異性が回復する。
次いで、制御部160は、送液ユニット130に、試料液を薬液チップ131から分析チップ10の流路内に供給させる(ステップ202)。それにより、免疫反応(1次反応)によって、上記流路中(金属膜30の表面の固相膜)に被検出物質が捕捉される。次いで、制御部160は、送液ユニット130に、余剰な試料液を上記流路から除去させ、pH緩衝液などの適当な洗浄液で上記流路を洗浄させる(ステップ203)。
次いで、制御部160は、励起光反射フィルターなどの光学フィルター125が受光ユニット121に配置されている場合には、位置切り替え機構122に、光学フィルター125を受光ユニット121における光路から退避させる(ステップ204)。
さらに、制御部160は、励起光学系ユニット110と受光光学系ユニット120を協働させて、増強角を測定させ(ステップ205)、励起光学系ユニット110に、増強角が得られる位置および向きに光源ユニット111を配置させる(ステップ206)。次いで、制御部160は、受光光学系ユニット120に、受光ユニット121における光路中に光学フィルター125を配置させる(ステップ207)。受光光学系ユニット120中に減光フィルターを配置している場合には、制御部160は、必要に応じて、減光フィルターを上記光路中から退避させる。
そして、制御部160は、光学フィルター125が介在するときに受光センサー127で検出された光量の受光センサー127の出力値(光学ブランク値)を記録する(ステップ208)。
次いで、制御部160は、送液ユニット130に、蛍光物質を含む薬液を薬液チップ131から分析チップ10の流路内に供給させ、抗原標識化反応(2次反応)によって、当該流路中に固定された上記被検出物質に上記蛍光物質を結合させる(ステップ209)。
こうして上記被検出物質が蛍光物質で標識化され、被検出物質の量に応じた光量の蛍光が得られる。標識化反応後、余剰な蛍光物質は、被検出物質の量に関わりなく発光し、ノイズとなる。よって、制御部160は、送液ユニット130に、上記流路中の余剰な蛍光物質を除去させ、当該流路を洗浄させる。制御部160は、当該洗浄と並行して、受光センサー127の検出レンジを判定し、設定する。洗浄操作と判定、設定操作の並行する二つの操作をそれぞれ説明する。
[洗浄操作]
制御部160は、図3に示されるように、送液ユニット130に、洗浄操作を複数回、例えば三回、に分けて実施させる。制御部160は、送液ユニット130に、流路中の上記薬液を吸引、除去させ、洗浄液を上記流路に供給させ、上記流路から吸引、除去させる一回目の洗浄を行わせる(ステップ210)。次いで、制御部160は、送液ユニット130に、洗浄液を上記流路に供給させ、上記流路から吸引、除去させる二回目の洗浄を行わせる。さらに、制御部160は、送液ユニット130に、二回目の洗浄と同じ操作による三回目の洗浄を行わせる(ステップ211)。
[判定、設定操作]
制御部160は、上記の洗浄操作を実施させる一方で、図4に示されるように、受光センサー127の検出レンジを調整する。たとえば、制御部160は、二回目の洗浄における洗浄液の供給後(洗浄中)に、励起光学系ユニット110に、上記増強角で励起光αを分析チップ10に入射させ、受光光学系ユニット120に、蛍光の光量を検出させる(ステップ411)。当該検出後、制御部160は、分析チップ10の二回目の洗浄における洗浄液の吸引、除去が行われ、次いで三回目の洗浄が行われる。
制御部160は、分析チップ10の洗浄を行う一方で、ステップ411における光量の検出によって得られた出力値と、受光センサー127の現在の検出レンジとを比較し、例えば、当該出力値の桁数に応じて予め設定されている検出レンジから最適な検出レンジを選択する(ステップ412)。次いで、制御部160は、受光光学系ユニット120に、必要に応じて受光センサー127の制御電圧を変更させ、受光センサー127の検出レンジを、選択された最適な検出レンジに切り替える(ステップ413)。検出レンジが切り替えられた受光センサー127の感度は、遅くとも三回目の洗浄の終了前には安定する。
三回目の洗浄の終了後、直ちに、制御部160は、励起光学系ユニット110に、分析チップ10に向けて励起光αを出射させるとともに、受光光学系ユニット120に、蛍光の光量を検出させる(ステップ212)。当該蛍光の光量は、上記の判定、設定操作によって選択され、切り替えられた最適な検出レンジの受光センサー127によって検出される。
蛍光の測定において、プリズム20へ導かれた励起光αは、入射面21からプリズム20内に入射し、金属膜30を照射する。すると、表面プラズモン共鳴により金属膜30の表面上に発生したプラズモン散乱光および蛍光が、受光ユニット121へ出射する。
プラズモン散乱光は、光学フィルター125により反射または吸収され、蛍光は、受光センサー127に入射する。受光センサー127における当該蛍光の光量に係る出力値(蛍光シグナル)(S)は、受光センサー127から出力され、制御部160またはセンサー制御部123に記憶され、蛍光シグナル(S)から、ステップ208で測定された光学ブランク値(oB)を引いた差が算出され、被検出物質の量に相関する蛍光強度(ΔS)が求められる(下記式参照)。そして、被検出物質の量が求められる。上記の計算は、制御部160が行ってもよいし、センサー制御部123で行われてもよい。
ΔS=S−oB
以上に説明したように、SPFS装置100は、SPFS方法を実施する。
SPFS装置100は、高い定量性で被検出物質の量を迅速に測定することができる。これは、被検出物質の標識化後の流路の洗浄中に受光センサー127の検出レンジの最適化が完了するためである。以下、流路の洗浄と検出レンジの最適化についてさらに説明する。なお、以下の説明において、三回の洗浄操作のそれぞれにおいて、流路中の液体の95%が除去されるものとする。
標識化後の流路には、標識化で余った蛍光物質の全てが残存している。この残存している蛍光物質の流路中の量を「100%」とすると、一回目の洗浄(ステップ210)中の流路中の蛍光物質の量は、100×0.05より「5%」となる。二回目の洗浄中の流路中の蛍光物質の量は、100×0.05×0.05より「0.25%」となり、三回目の洗浄中の流路中の蛍光物質の量は、100×0.05×0.05×0.05より「0.0125%」となる(図3)。
SPFS方法では、金属膜30の表面上の蛍光物質を選択的に励起させる。このため、基本的には、金属膜30の表面に捕捉された被検出物質と結合した蛍光物質が優先的に励起される。とはいえ、流路内に存在する蛍光物質も多少は励起される。したがって、蛍光物質の流路内の濃度が高ければ、流路中の蛍光物質は、測定値に影響を及ぼす。
このため、流路の洗浄中に蛍光の光量を検出しても、得られる出力値は、被検出物質の測定値としては正確ではない。しかしながら、流路がある程度洗浄されていれば、当該流路の蛍光の光量による出力値から、本測定(被検出物質の測定)の蛍光の光量のオーダー(桁数)程度であれば、十分正確に判定することが可能である。たとえば、本測定における蛍光物質の量が、5pg〜50ng程度であり、受光センサー127の設定されている複数の検出レンジのそれぞれは、蛍光物質の濃度に換算して2〜3桁の範囲であるとする。
一回目の洗浄中の流路には、蛍光物質の量は、「5%」もある。したがって、一回目の洗浄中の流路中の蛍光物質の量は、本測定における蛍光物質の量に比べて大きすぎる。このため、一回目の洗浄中に流路の蛍光の光量を検出しても、得られる出力値は、本測定で検出されるべき蛍光の光量による出力値よりも大きすぎる。よって、当該本測定用の受光センサー127の検出レンジの判定の材料としては適切ではない。しかしながら、二回目の洗浄中の流路における蛍光物質の量は「0.25%」である。また、三回目の洗浄中の流路における蛍光物質の量は「0.0125%」である。このように流路中の蛍光物質の量は、洗浄回数に応じて指数的に低下する。よって、二回目の洗浄中、より好ましくは3回目の洗浄中に、流路の蛍光の光量を検出すると、流路内に残存する蛍光物質の影響が十分に小さいので、本測定の測定レンジの判定材料として適した受光センサー127の出力値が得られる。
検出レンジの最適化は、前述したように、光学フィルターの移動や受光センサーの制御電圧の安定などのための所定の待機時間を要する。しかしながら、当該待機時間は、概ね10秒前後であり、予め予測することが可能である。したがって、三回目の洗浄で流路から液体の吸引、除去するのに必要な排液時間が、上記待機時間よりも短い場合には、前述したように、二回目の洗浄中に、検出レンジの判定のための流路の光の光量の検出が行われる。三回目の洗浄における上記排液時間が上記待機時間よりも長い場合には、三回目の洗浄中に、検出レンジの判定のための光照射を行うことができる。なお、受光センサー127の検出レンジの切り替えを要さない場合には、当該検出レンジの切り替えは省略され、その後の待機時間は不要である。
以上の説明から明らかなように、SPFS装置100は、被検出物質の蛍光標識後の上記流路の洗浄中に受光センサー127の最適な検出レンジを選択し、前記流路の洗浄が完了するまでに選択された最適な検出レンジへの切り替えを完了する。このため、SPFS装置100では、上記流路の洗浄後、直ちに、最適な検出レンジで本測定における蛍光の光量を検出することが可能である。よって、SPFS装置100は、受光センサー127の検出レンジを最適な検出レンジに切り替えても、当該切り替えに伴う操作時間の超過を生じずに、イムノアッセイ分析を行うことが可能となる。その結果、SPFS装置100は、被検出物質と蛍光物質との解離の影響を低減することができ、被検出物質の量の多少に関わらずに迅速かつ高い定量性で被検出物質の量を検出することができる。
また、SPFS装置100は、受光センサー127の検出レンジを判定する際に、二回目の洗浄中の流路の蛍光の光量に基づいて、受光センサー127の最適な検出レンジを選択する。よって、受光センサー127の検出レンジを高い精度で最適化することが可能である。
また、SPFS装置100は、洗浄中の上記流路の蛍光の光量に基づいて受光センサー127の検出レンジを判定している。当該蛍光は、本測定の際に測定される光と同種の光である。よって、当該検出レンジの判定の精度をより高めることが可能である。
なお、SPFS装置100では、上記蛍光以外の光の検出結果に基づいて、上記検出レンジを判定することが可能である。たとえば、増強角の測定(ステップ205)で測定された増強角と、被検出物質を固定する前の分析チップ10の既知の増強角の値(基準増強角)とを比較して、測定された増強角のシフト量を求める。当該シフト量は、金属膜30の表面に固定されている前記被検出物質の量を間接的に反映している。このため、当該シフト量から被検出物質の量が推定可能である。よって、制御部160は、上記の増強角の測定値と上記基準増強角との比較から求められる増強角のシフト値、予め求められている被検出物質の存在量と当該シフト値との関係、および、予め求められている被検出物質の存在量と検出される蛍光の光量との関係、の三者から、本測定における受光センサー127の最適な検出レンジを決定することが可能である。
また、本発明では、上記増強角ではなく、共鳴角の測定値に基づいて受光センサー127の検出レンジを判定することも可能である。共鳴角を測定可能なSPFS装置を図5に示す。SPFS装置500は、図5に示されるように、フォトダイオード527をさらに有する以外は、前述したSPFS装置100と同じに構成されている。フォトダイオード527は、光源ユニット111から出射された励起光αが、分析チップ10で、例えば、金属膜30の面のうち、流路における上記被検出物質固定部とは反対側の面(金属膜30の裏面)で全反射した全反射光を受光するための第二の受光センサーである。励起光αは、分析チップ10における、流路における上記被検出物質固定部に局在場光を発生させる位置に照射され、この時、励起光αの成分のうち、局在場光の発生に寄与しない光の成分は、全反射する。フォトダイオード527は、例えば、全反射光の光軸と直交する軸(図5の紙面に対して垂直な軸)を中心として、分析チップ10に対して相対的に回動するように、配置されている。
共鳴角の測定は、図6に示されるように、例えば、ステップ205における増強角の測定からステップ211における流路の三回目の洗浄までの操作と並行される。制御部160は、増強角の測定時における光源ユニット111からの入射光の入射角度を走査させながら、金属膜30の裏面で全反射した全反射光の光量をフォトダイオード527に検出させ、共鳴角を測定させる(ステップ611)。共鳴角は、フォトダイオード527で検出される全反射光の光量が最も小さいときの上記入射光の入射角度である。
そして、制御部160は、測定された当該共鳴角と、被検出物質を固定する前の分析チップ10の既知の共鳴角の値(基準共鳴角)とを比較して、測定された共鳴角のシフト量を求める。当該シフト量も、前記被検出物質の量を間接的に反映している。このため、当該シフト量から、金属膜30の表面に固定されている被検出物質の量が推定可能である。よって、制御部160は、上記の共鳴角の測定値と上記基準共鳴角との比較から求められる共鳴角のシフト値、予め求められている被検出物質の存在量と当該シフト値との関係、および、予め求められている被検出物質の存在量と検出される蛍光の光量との関係、の三者から、受光センサー127の本測定における最適な検出レンジを決定し(ステップ612)、受光センサー127の検出レンジを当該最適な検出レンジに設定する(ステップ613)。
なお、上記の基準増強角および基準共鳴角には、例えば、分析チップ10の製造時に測定された分析チップ10に固有の値を利用することが可能である。しかしながら、当該基準増強角および基準共鳴角は、被検出物質を固定する前の分析チップ10から測定された値であってもよい。また、被検出物質の量と増強角または共鳴角のシフト値との相関や、被検出物質の量と蛍光の光量との相関などは、たとえば予め作成された検量線から求めることが可能である。さらに、受光センサー127の検出レンジの設定は、洗浄中の分析チップ10の流路の蛍光、増強角のシフト値、および共鳴角のシフト値のいずれか一つに基づいて行うことが可能であるが、これらの二以上または全てに基づいて行うことも可能である。
また、SPFS装置100、500では、受光センサー127の制御電圧を変更することにより、受光センサー127の検出レンジを設定している。しかしながら、受光センサー127の検出レンジの設定方法は、他の方法であってもよい。たとえば、受光センサー127の検出レンジは、受光ユニット121の光路中に対して、光学フィルター125としてNDフィルターを進出、後退させることによって、変更させることが可能である。NDフィルターによる当該検出レンジの変更は、上記制御電圧の変更と並行してもよい。
なお、前述した受光センサー127の検出レンジの調整は、SPFS装置100、500以外のイムノアッセイ分析装置にも適用可能である。たとえば、イムノアッセイ分析装置700は、図7に示されるように、光源ユニット711および受光ユニット727を有する。光源ユニット711から分析チップ70に入射した励起光は、分析チップ70の流路における上記被検出物質固定部に照射され、分析チップ70の流路に固定されている蛍光標識された被検出物質の蛍光物質を励起させる。励起によって発生する蛍光は、受光センサー727に入射し、検出される。このようなイムノアッセイ分析装置700にも、上記蛍光による受光センサー727の検出レンジの調整を適用することが可能である。
また、被検出物質の固定化、蛍光物質による被検出物質の蛍光標識、流路の洗浄、および、上記被検出物質固定部の光量の検出、の各操作は、前述した順序に限定されず、本発明の効果が得られる範囲において、様々な順序で行うことが可能である。
たとえば、上記蛍光物質とともに上記被検出物質を上記分析チップの流路に供給して、上記蛍光物質で標識化された上記被検出物質を上記流路中に固定化する第一固定化工程の後に、上記流路中の余剰な上記蛍光物質を除去するよう上記流路を洗浄する蛍光物質洗浄工程を行うことが可能である。この場合には、上記第一固定化工程後より上記蛍光物質洗浄工程が行われているまでの間に、上記分析チップに向けて上記励起光を照射し、第一放出光の光量または第一全反射光の光量を検出する第一光量検出工程を行うことができる。当該第一放出光は、上記励起光の照射により上記分析チップから放出される光であり、例えば上記蛍光や上記プラズモン散乱光などである。上記第一全反射光は、上記励起光の照射により上記分析チップで反射された光である。
あるいは、上記被検出物質を上記分析チップの上記流路中に固定化する第二固定化工程の後に上記流路を洗浄する第一洗浄工程を行い、その後上記蛍光物質を上記流路に供給して上記流路中に固定化された上記被検出物質を上記蛍光物質で標識化する標識化工程を行い、その後上記流路中の余剰な上記蛍光物質を除去するよう上記流路を洗浄する第二洗浄工程を行うことが可能である。この場合には、上記第二固定化工程後より上記標識化工程の前までの間に、上記分析チップに向けて上記励起光を照射し、第二放出光の光量または第二全反射光の光量を検出する第二光量検出工程を行うことができる。当該第二放出光は、上記励起光の照射により上記分析チップから放出される光であり、例えば上記プラズモン散乱光である。上記第二全反射光は、上記励起光の照射により上記分析チップで反射された光である。
または、上記被検出物質を上記分析チップの上記流路中に固定化する第二固定化工程の後に上記流路を洗浄する第一洗浄工程を行い、その後上記蛍光物質を上記流路に供給して上記流路中に固定化された上記被検出物質を上記蛍光物質で標識化する標識化工程を行い、その後上記流路中の余剰な上記蛍光物質を除去するよう上記流路を洗浄する第二洗浄工程を行うことが可能である。この場合には、上記標識化工程後より上記第二洗浄工程が行われているまでの間に、上記分析チップに向けて上記励起光を照射し、第三放出光の光量または第三全反射光の光量を検出する第三光量検出工程を行うことができる。当該第三放出光は、上記励起光の照射により上記分析チップから放出される光であり、例えば上記蛍光や上記プラズモン散乱光などである。上記第三全反射光は、上記励起光の照射により上記分析チップで反射された光である。
そして、上記被検出物質の量を測定するための上記蛍光物質からの上記蛍光を検出するために上記分析チップに向けて上記励起光を照射する前に、上記第一光量検出工程、上記第二光量検出工程および上記第三光量検出工程の少なくともいずれかにより検出された光量に基づいて、上記受光センサーの複数の検出レンジの中から一つの上記検出レンジを選択して、選択された上記検出レンジへの切り替えを行う。その後、上記被検出物質の量を測定するために、上記検出レンジが切り替えられた上記受光センサーにより上記蛍光物質からの上記蛍光を検出する。
前述の実施の形態の説明から明らかなように、本実施の形態では、蛍光物質で被検出物質が標識された後の分析チップの流路が洗浄されている間に、分析チップにおける上記流路における上記被検出物質固定部(本実施の形態ではプリズム20の成膜面22)に向けて励起光を照射し、または、被検出物質が固定され、上記流路が洗浄される前に、上記被検出物質固定部に向けて励起光を照射する。そして、励起光の照射により流路から発生する光の光量を、第一の受光センサー(受光センサー127)によって検出し、または、励起光の照射による分析チップでの全反射光の光量を、第二の受光センサー(フォトダイオード527)によって検出する。そして、第一の受光センサーまたは第二の受光センサーによって検出された上記光または全反射光の光量に基づいて、上記蛍光の光量を検出するときの上記第一の受光センサーの最適な検出レンジを選択し、遅くとも上記流路の洗浄が完了するまでに、上記第一の受光センサーの検出レンジの、上記最適な検出レンジへの切り替えを完了する。このように、本実施の形では、被検出物質の蛍光標識化後の流路の洗浄が完了する前に、受光センサーの広いダイナミックレンジからの検出レンジの最適化が完了する。
たとえば、本実施の形態では、
(A)上記蛍光物質とともに上記被検出物質を上記分析チップの流路に供給して、上記蛍光物質で標識化された上記被検出物質を上記流路中に固定化する第一固定化工程の後に、上記流路中の余剰な上記蛍光物質を除去するよう上記流路を洗浄する蛍光物質洗浄工程を行う際には、上記第一固定化工程後より上記蛍光物質洗浄工程が行われているまでの間に、上記分析チップに向けて上記励起光を照射し、上記励起光の照射により上記分析チップから放出される第一放出光の光量または上記励起光の照射により上記分析チップで反射された第一全反射光の光量を検出する第一光量検出工程を行い、あるいは、
(B1)上記被検出物質を上記分析チップの上記流路中に固定化する第二固定化工程の後に上記流路を洗浄する第一洗浄工程を行い、その後上記蛍光物質を上記流路に供給して上記流路中に固定化された上記被検出物質を上記蛍光物質で標識化する標識化工程を行い、その後上記流路中の余剰な上記蛍光物質を除去するよう上記流路を洗浄する第二洗浄工程を行う際には、上記第二固定化工程後より上記標識化工程の前までの間に、上記分析チップに向けて上記励起光を照射し、上記励起光の照射により上記分析チップから放出される第二放出光の光量または上記励起光の照射により上記分析チップで反射された第二全反射光の光量を検出する第二光量検出工程を行い、
(B2)または、上記標識化工程後より上記第二洗浄工程が行われているまでの間に、上記分析チップに向けて上記励起光を照射し、上記励起光の照射により上記分析チップから放出される第三放出光の光量または上記励起光の照射により上記分析チップで反射された第三全反射光の光量を検出する第三光量検出工程を行い、
(C)上記被検出物質の量を測定するための上記蛍光物質からの上記蛍光を検出するために上記分析チップに向けて上記励起光を照射する前に、上記第一光量検出工程、上記第二光量検出工程および上記第三光量検出工程の少なくともいずれかにより検出された光量に基づいて、上記受光センサーの複数の検出レンジの中から一つの上記検出レンジを選択して、選択された上記検出レンジへの切り替えを行い、
(D)その後、上記被検出物質の量を測定するために、上記検出レンジが切り替えられた上記受光センサーにより上記蛍光物質からの上記蛍光を検出する。
このため、本実施の形態では、洗浄終了後、即座に被検出物質に係る蛍光の光量の検出が可能となる。よって、被検出物質からの蛍光物質の解離の当該測定における影響が低減される。その結果、迅速に、かつ高い定量性で、被検出物質を測定することが可能である。
また、上記第一の受光センサーの制御電圧を変更することによって、上記第一の受光センサーの検出レンジを、上記最適な検出レンジへ切り替えることは、コストの観点からより効果的である。すなわち、上記ダイナミックレンジを電気的に変更可能であることから、NDフィルターなどの物理的手段の設置や操作などに比べ、SPFS装置を小型化することが可能であり、また安価に作製することが可能である。
また、本実施の形態は、特にSPFS方法に好適である。SPFS方法では、分析チップは、プリズム、上記プリズムの一面上に配置された金属膜、および上記金属膜の表面が露出する上記流路、を含む。そして、表面プラズモン共鳴を発生させる入射角度で上記プリズムを介して上記金属膜の裏面に上記励起光が照射され、上記励起光の照射により上記金属膜の表面上に発生した局在場光により、上記蛍光物質が励起され、上記励起によって発生した上記蛍光の光量が上記第一の受光センサーで検出される。
また、上記蛍光物質で上記被検出物質が標識された後、上記流路内の過剰な蛍光物質が洗浄除去されている間に、上記被検出物質固定部に向けて上記励起光を照射し、上記流路から発生する上記光(例えば、上記第一放出光、上記第二放出光または上記第三放出光など)の光量を上記第一の受光センサーによって検出することは、蛍光の光量による出力値からより直接的に検出レンジを判定し、受光センサーの検出レンジをより適切に判定、設定する観点からより効果的である。
また、上記被検出物質が固定されている上記金属膜に対する上記励起光の入射角を変化させながら、上記プリズムを介して上記金属膜に励起光を照射するとともに、上記金属膜上に発生する上記光(例えば、上記第一放出光、上記第二放出光または上記第三放出光など)の光量を上記第一の受光センサーによって検出することによって増強角が測定され、上記分析チップの基準増強角に対する上記測定された増強角のシフト量が求められ、上記シフト量から推定される上記被検出物質の量に基づいて、上記被検出物質を標識した上記蛍光物質からの蛍光の光量を検出するときの上記第一の受光センサーの最適な検出レンジが選択される場合では、蛍光物質で標識される前の被検出物質に励起光が照射される。このため、検出レンジの判定に伴う蛍光の減衰を抑制する観点からより効果的である。
また、上記被検出物質が固定されている上記金属膜に対する上記励起光の入射角を変化させながら、上記プリズムを介して上記金属膜に励起光を照射するとともに、上記金属膜おける上記全反射光(例えば、上記第一全反射光、上記第二全反射光または上記第三全反射光など)の光量を上記第二の受光センサーによって検出して共鳴角が測定され、上記分析チップの基準共鳴角に対する上記測定された共鳴角のシフト量が求められ、上記シフト量から推定される上記被検出物質の量に基づいて、上記被検出物質を標識した上記蛍光物質からの蛍光の光量を検出するときの上記第一の受光センサーの最適な検出レンジが選択される場合でも、蛍光物質で標識される前の被検出物質に励起光が照射される。このため、検出レンジの判定に伴う蛍光の減衰を抑制する観点からより効果的である。また、共鳴角は、増強角に比べて、金属膜に固定された被検出物質の量の検出性が高い。よって、上記の増強角に比べて、より高い精度で、上記受光センサーの検出レンジを判定する観点から、より効果的である。
また、上記基準増強角または上記基準共鳴角は、上記分析チップの製造時に測定された値である場合では、上記の判定に際して、シフト前における受光センサーの出力値の検出が不要となる。よって、受光センサーの検出レンジの判定および設定の簡易化や高速化などの観点から、より効果的である。
前述したように、上記イムノアッセイ分析装置は、上記被検出物質が固定された部分に向けて励起光を照射するための光源と、上記流路で発生する上記蛍光の光量を検出するための第一の受光センサーと、少なくとも上記蛍光の光量を検出するときの上記第一の受光センサーの検出レンジを設定する制御部と、を有し、以下の(A)または(B)を満たす。
(A)上記制御部は、上記蛍光物質で上記被検出物質が標識された後に上記流路が洗浄されている間または上記洗浄前に上記被検出物質が固定された部分に向けて上記励起光を照射することにより上記流路から放出される放出光の、上記第一の受光センサーによって検出された光量から、上記蛍光の光量を検出するときの上記第一の受光センサーの一つの検出レンジを複数の検出レンジの中から選択し、遅くとも上記流路の洗浄が完了するまでに、上記第一の受光センサーの検出レンジの、一つの上記検出レンジへの切り替えを完了させる。
(B)上記光源から上記被検出物質が固定された部分に向けての上記励起光の照射により発生する上記分析チップでの全反射光の光量を検出するための第二の受光センサーをさらに有し、上記制御部は、上記被検出物質が固定されている、上記流路が上記洗浄される前または上記洗浄されている間に上記被検出物質が固定された部分に向けて上記励起光を照射することにより発生する上記全反射光の、上記第二の受光センサーによって検出された光量から、上記蛍光の光量を検出するときの上記第一の受光センサーの一つの検出レンジを複数の検出レンジの中から選択し、遅くとも上記流路の洗浄が完了するまでに、上記第一の受光センサーの検出レンジの、一つの上記検出レンジへの切り替えを完了させる。
よって、当該イムノアッセイ分析装置によれば、上記洗浄操作の完了前に、受光センサーの広いダイナミックレンジから選択される検出レンジの最適化が完了する。このため、洗浄終了後、即座に蛍光の光量の検出が可能となる。よって、捕捉された被検出物質からの蛍光物質の解離の当該測定における影響が低減される。その結果、迅速に、かつ高い定量性で、被検出物質を測定することが可能である。
なお、被検出物質の量の推定のために共鳴角を測定するための励起光の照射は、前述したように、蛍光標識される前の、被検出物質が固定された流路に向けて行うことが好ましいが、蛍光標識後の洗浄中の流路に向けて行うことも可能である。すなわち、共鳴角による被検出物質の量の推定と第一の受光センサーの検出レンジの最適化とは、流路の蛍光標識後の洗浄中に行うことも可能である。
また、SPFS装置100、500では、分析チップ10の上記照射位置で、分析チップ10の洗浄、分析チップ10への薬液などの供給、および分析チップ10への励起光αの照射などの各種工程が行われる。よって、SPFS装置100、500は、薬液などの供給位置および上記照射位置のそれぞれに搬送ステージで分析チップ10を搬送するSPFS装置に比べて、前述した洗浄から判定、設定までの操作に要する時間を短縮することが可能である。一方で、SPFS装置100、500は、本発明の効果が得られる範囲において、上記の搬送ステージを有していてもよい。この場合、上記の時間短縮効果は小さくなるが、搬送ステージで分析チップを照射位置から退避させることで、受光光学系ユニットと送液系ユニットの物理的な干渉を回避することが可能となり、設計の自由度が増す効果がSPFS装置100、500にさらにもたらされる。