本発明の積層体は、平均残存水酸基量Xが15〜50モル%であるポリビニルアセタール(A)と可塑剤(Ap)を含むA層と、平均残存水酸基量Yが10〜45モル%であるポリビニルアセタール(B)と可塑剤(Bp)を含むB層とを備える。
まず、本発明で使用するポリビニルアセタールについて説明する。
本発明で使用するポリビニルアセタール(A)の平均残存水酸基量Xは15〜50モル%である。平均残存水酸基量Xは、17〜40モル%が好ましく、18〜35モル%がより好ましく、26〜30モル%がさらに好ましい。平均残存水酸基量Xが15モル%未満であると、得られる積層体の力学強度やガラスとの接着性が低下することがあり、また50モル%を超えると、可塑剤(Ap)との相溶性が著しく低下することがある。
ポリビニルアセタール(A)の平均アセタール化度は限定されないが、通常45〜82モル%が好ましく、60〜80モル%がより好ましく、68〜76モル%がさらに好ましく、69〜73モル%が特に好ましい。平均アセタール化度が45モル%未満であると、可塑剤(Ap)との相溶性が著しく低下することがあり、また82モル%を超えると、得られる積層体の力学強度が低下することがある。
ポリビニルアセタール(A)の平均残存ビニルエステル基量は特に限定されないが、通常0.01〜15モル%が好ましく、0.01〜10モル%がより好ましく、0.01〜5モル%がさらに好ましい。平均残存ビニルエステル基量が0.01モル%未満のものは工業的に安価に生産することが困難であり、また15モル%を超えると、得られる積層体を長期間使用するとビニルエステル基が加水分解することに起因して積層体が着色しやすくなる。
本発明で使用するポリビニルアセタール(B)の平均残存水酸基量Yは10〜45モル%である。平均残存水酸基量Yは、13〜33モル%が好ましく、15〜30モル%がより好ましく、16〜25モル%がさらに好ましい。平均残存水酸基量Yが10モル%未満であると力学強度やガラスとの接着性が著しく低下することがあり、また45モル%を超えると可塑剤(Bp)との相溶性が低下することがある。
ポリビニルアセタール(B)の平均アセタール化度は限定されないが、通常50〜84モル%が好ましく、65〜82モル%がより好ましく、68〜80モル%がさらに好ましく、70〜78モル%が特に好ましい。平均アセタール化度が50モル%未満であると可塑剤(Bp)との相溶性が低下することがあり、また84モル%を超えると、得られる積層体の力学強度が低下することがある。
ポリビニルアセタール(B)の平均残存ビニルエステル基量は特に限定されないが、通常0.01〜25モル%が好ましく、3〜16モル%がより好ましく、3〜15モル%がさらに好ましく、4〜13モル%が特に好ましい。平均残存ビニルエステル基量が0.01モル%未満のものは工業的に安価に生産することが困難であり、また可塑剤(Bp)との相溶性が低下することがある。また25モル%を超えると、得られる積層体を長期間使用するとビニルエステル基が加水分解することに起因して積層体が着色しやすくなる。
ポリビニルアセタール(A)の平均残存水酸基量Xは、ポリビニルアセタール(B)の平均残存水酸基量Yと同じかまたはYよりも大きい。平均残存水酸基量Xは、平均残存水酸基量Yよりも3〜20モル%大きいことがより好ましく、5〜15モル%大きいことが特に好ましい。このような平均残存水酸基量の関係を満たすと、含水率の高い積層体を低温および低湿度の雰囲気で急激に乾燥させても積層体中で水や可塑剤がポリビニルアセタールと相分離しにくく、また水や可塑剤の層間へのブリードが起こりにくく好適であり、また積層体を遮音性合わせガラス用中間膜として使用する場合に遮音性能発現の観点から好適である。
本発明で使用するポリビニルアセタール(A)及びポリビニルアセタール(B)は、ポリビニルアルコールを原料として製造される。ポリビニルアルコールは公知の手法によって得ることができる。すなわち、ビニルエステル化合物を重合し、得られた重合体をけん化することによって得ることができる。ビニルエステル化合物を重合する方法としては、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法など、公知の方法を適用できる。これらの重合方法で用いられる重合開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤などを適宜使用できる。けん化反応は、公知のアルカリ触媒または酸触媒を用いて、重合体のビニルエステル基を加アルコール分解又は加水分解させることで行われる。中でも、メタノールを溶剤として用い、苛性ソーダ(NaOH)を触媒として用いるけん化反応が簡便であり最も好ましい。
ビニルエステル化合物としては、例えばギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニルなど公知のカルボン酸ビニルエステルが挙げられるが、酢酸ビニルが好ましい。
また、ポリビニルアルコールは本発明の主旨に反しない限り、ビニルエステル化合物と、ビニルエステル化合物と共重合可能な単量体とを共重合させた共重合体をけん化させて得られる変性ポリビニルアルコールを使用することもできる。ビニルエステル化合物と共重合可能な単量体は、通常ビニルエステル化合物に対して10モル%未満の割合で用いられる。
本発明で使用するポリビニルアセタールの原料となるポリビニルアルコールの粘度平均重合度は特に限定されず、用途に応じて適宜選択できるが、通常150〜3000が好ましく、200〜2500がより好ましく、1000〜2000がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの粘度平均重合度が150より低いと得られる積層体の力学強度が不足する傾向があり、3000より高いと得られる積層体の取り扱い性が悪くなることがある。
本発明で使用するポリビニルアセタールは公知の方法で製造できる。例えば、次のような反応条件下で沈殿法により製造できる。まず濃度3〜40質量%のポリビニルアルコール水溶液を80〜100℃の温度範囲で保持した後、10〜60分かけて徐々に冷却する。温度が−10〜30℃まで低下したところで、アルデヒドおよび酸触媒を添加し、温度を一定に保ちながら30〜300分間アセタール化反応を行う。その際、アセタール化度が一定水準に達したポリビニルアセタールが析出する。その後、反応液を30〜300分かけて30〜80℃の温度まで昇温し、その温度を10〜500分保持する。次に反応溶液に塩基性の化合物を添加することで酸触媒を中和して水洗し、乾燥することにより、ポリビニルアセタールが得られる。
アセタール化反応に用いる酸触媒としては特に限定されず、酢酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸または硝酸、硫酸、塩酸などの無機酸のいずれも使用可能であり、特に塩酸、硫酸、硝酸が好ましい。
アセタール化反応に用いるアルデヒドは特に限定されないが、炭素数1〜8のアルデヒドでアセタール化することが好ましい。中でも炭素数4〜6のアルデヒドを用いることが好ましく、n−ブチルアルデヒドを用いることが特に好ましい。本発明においては、アルデヒドを2種類以上併用して得られるポリビニルアセタールを使用することもできる。
次に、本発明で使用する可塑剤(Ap)について説明する。
本発明の積層体を構成するA層が含有する可塑剤(Ap)は、m価アルコール(Aa)1分子(mは2〜4の自然数を表す)と炭素数8〜20の一価カルボン酸(Ac)m分子とのエステル化反応で得られる化学構造を有するエステル化合物(Ae1)と、前記m価アルコール(Aa)1分子と前記一価カルボン酸(Ac)1〜(m−1)分子とのエステル化反応で得られる化学構造を有するエステル化合物(Ae2)とを含む。
m価アルコール(Aa)は、m個の水酸基を有する多価アルコールであれば限定されないが、特に炭素数が3〜30、好ましくは炭素数3〜10、より好ましくは炭素数3〜6の化合物であることが、本発明で使用する可塑剤(Ap)とポリビニルアセタール(A)との相溶性、可塑剤(Ap)のポリビニルアセタール(A)への可塑化効果の観点から好ましい。m価アルコール(Aa)は、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、炭素数8〜30のエチレングリコールオリゴマー、プロピレングリコール、プロピレングリコールのオリゴマーであって炭素数が6〜30の化合物、グリセリン、ジグリセリンなどが挙げられるが、これらに限定されない。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、炭素数8〜30のエチレングリコールオリゴマー、グリセリンが、本発明で使用する可塑剤(Ap)とポリビニルアセタール(A)との相溶性が特に優れ、可塑剤(Ap)のポリビニルアセタール(A)への可塑化効果が特に優れる観点から好ましく、トリエチレングリコール、炭素数8〜30のエチレングリコールオリゴマー、グリセリンがより好ましい。
炭素数8〜20の一価カルボン酸としては、例えばオクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、ヘキサデカン酸、2−メチルヘプタン酸、2−エチルヘプタン酸、2,2−ジメチルヘキサン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸などが挙げられる。中でも、炭素数8〜16、より好ましくは炭素数8〜12、特に好ましくは炭素数8〜10の一価カルボン酸が、得られる可塑剤(Ap)のポリビニルアセタール(A)との相溶性及び可塑化効果に優れる点で好ましい。また、炭素数12〜20、好ましくは炭素数16〜20の一価カルボン酸が、得られる可塑剤(Ap)が特に高沸点であり、さらに積層体が水と接触した場合でも水で抽出されにくい観点から好ましい。
本発明におけるエステル化合物(Ae1)は、m価アルコール(Aa)1分子と炭素数8〜20の一価カルボン酸(Ac)m分子とのエステル化反応で得られる化学構造を有するエステル化合物である。mは2〜4の自然数であり、好ましくは2〜3の自然数である。mが2未満の場合には、後述する本発明の積層体における必須成分であるエステル化合物(Ae2)に該当する化合物(1〜(m−1)分子)が積層体に含まれないことになるので、不適当である。mが4を超えると、可塑剤(Ap)のポリビニルアセタール(A)との相溶性、ポリビニルアセタール(A)への可塑化効果が低下することがあり、好ましくない。
エステル化合物(Ae1)の分子量は特に限定されないが、400〜1200であることが好ましく、400〜800であることがより好ましく、400〜600であることがさらに好ましい。分子量が400未満であると、長期使用時にエステル化合物(Ae1)が揮発しやすくなることがあり、分子量が1200を超えると、得られる可塑剤(Ap)の、ポリビニルアセタール(A)との相溶性やポリビニルアセタール(A)への可塑化効果が低下することがあり、好ましくない。
上記エステル化合物(Ae1)は、具体的には、例えば、トリエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジステアレート、トリエチレングリコールジオレアート、グリセリントリ(2−エチルヘキサン酸)エステル、グリセリントリ(ステアリン酸)エステル等が挙げられるが、これらに限定されない。これらのエステル化合物(Ae1)は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
本発明におけるエステル化合物(Ae2)は、m価アルコール(Aa)1分子と炭素数8〜20の一価カルボン酸(Ac)1〜(m−1)分子とのエステル化反応で得られる化学構造を有するエステル化合物である。すなわち、エステル化合物(Ae2)は、エステル化合物(Ae1)を構成するのに用いられるものと同じ、m価アルコール(Aa)と炭素数8〜20の一価カルボン酸(Ac)とから選択されるアルコールとカルボン酸とのエステル化反応により得られる、少なくとも1つの水酸基を有する化合物である。上記特定の化学構造を有するエステル化合物(Ae2)を用いることで、本発明の効果が奏される。
エステル化合物(Ae2)の分子量は特に限定されないが、250〜800であることが好ましく、250〜600であることがより好ましく、250〜450であることがさらに好ましい。分子量が250未満であると、長期使用時にエステル化合物(Ae2)が揮発しやすくなることがあり、分子量が800を超えると、可塑剤(Ap)のポリビニルアセタール(A)との相溶性や、ポリビニルアセタール(A)への可塑化効果が低下することがあり、好ましくない。
本発明におけるエステル化合物(Ae2)を具体的に例示すると、トリエチレングリコールモノ2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコールモノ2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールモノステアレート、トリエチレングリコールモノオレアート、グリセリンジ(2−エチルヘキサン酸)エステル、グリセリンモノ(2−エチルヘキサン酸)エステル、グリセリンジ(ステアリン酸)エステル、グリセリンモノ(ステアリン酸)エステルなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらのエステル化合物(Ae2)は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
本発明におけるA層には、エステル化合物(Ae1)とエステル化合物(Ae2)からなる可塑剤(Ap)を含む。可塑剤(Ap)におけるエステル化合物(Ae1)とエステル化合物(Ae2)との含有割合は特に限定されないが、質量比でエステル化合物(Ae1)/エステル化合物(Ae2)=20/80〜99.9/0.1であることが好ましく、30/70〜99.7/0.3であることがより好ましく、50/50〜99.5/0.5であることがさらに好ましく、80/20〜99.5/0.5であることが特に好ましい。エステル化合物(Ae1)/エステル化合物(Ae2)の質量比が20/80より小さいと、本発明の積層体を長期間使用した場合に、エステル化合物(Ae2)の揮発や水による抽出が問題になることがあり、エステル化合物(Ae1)/エステル化合物(Ae2)の質量比が99.9/0.1より大きいと、含水率の高い積層体を低温および低湿度の雰囲気で急激に乾燥させた場合に積層体中で水や可塑剤がポリビニルアセタールと相分離したり、また水や可塑剤の層間へのブリードが発生したりすることがあり好ましくない。
可塑剤(Ap)の水酸基価HV(Ap)は特に限定されないが、1〜100mgKOH/gであることが好ましく、1〜80mgKOH/gであることがより好ましく、1〜60mgKOH/gであることがさらに好ましい。HV(Ap)が1mgKOH/g未満であると、含水率の高い積層体を低温および低湿度の雰囲気で急激に乾燥させた場合に積層体中で水や可塑剤がポリビニルアセタールと相分離したり、また水や可塑剤の層間へのブリードが発生したりすることがあり好ましくなく、100mgKOH/gを超えると、積層体が吸水しやすくなり、また、本発明の積層体を長期間使用した場合に、可塑剤(Ap)に含まれる成分の水による抽出が問題になることがあり好ましくない。なお可塑剤(Ap)の水酸基価HV(Ap)および可塑剤(Bp)の水酸基価HV(Bp)は、JIS K1557に従って測定される。
本発明の積層体を構成するA層における可塑剤(Ap)の含有量は特に限定されないが、ポリビニルアセタール(A)100質量部に対して通常20〜70質量部が好ましく、25〜60質量部がより好ましく、30〜50質量部がさらに好ましい。可塑剤(Ap)の含有量がポリビニルアセタール(A)100質量部に対して20質量部より少ないと、得られる積層体の柔軟性が不十分となる傾向となり、合わせガラス用中間膜としての衝撃吸収性が問題になる場合がある。また70質量部より多いと、得られる積層体の力学強度が不十分となる傾向となる。
次に本発明における可塑剤(Bp)について説明する。
可塑剤(Bp)は、n価アルコール(Ba)1分子(nは2〜4の自然数を表す)と炭素数8〜20の一価カルボン酸(Bc)n分子とのエステル化反応で得られる化学構造を有するエステル化合物(Be1)と、上記n価アルコール(Ba)1分子と炭素数8〜20の一価カルボン酸(Bc)1〜(n−1)分子とのエステル化反応で得られる化学構造を有するエステル化合物(Be2)を含む。
n価アルコール(Ba)は、n個の水酸基を有する多価アルコールであれば限定されないが、特に炭素数が3〜30、好ましくは炭素数3〜10、より好ましくは炭素数3〜6の化合物であることが、得られる可塑剤(Bp)とポリビニルアセタール(B)との相溶性、可塑剤(Bp)のポリビニルアセタール(B)への可塑化効果の観点から好ましい。n価アルコール(Ba)は、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、炭素数8〜30のエチレングリコールオリゴマー、プロピレングリコール、プロピレングリコールのオリゴマーであって炭素数が6〜30の化合物、グリセリン、ジグリセリンなどが挙げられるが、これらに限定されない。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、炭素数8〜30のエチレングリコールオリゴマー、グリセリンが、本発明で使用する可塑剤(Bp)とポリビニルアセタール(B)との相溶性が特に優れ、可塑剤(Bp)のポリビニルアセタール(B)への可塑化効果が特に優れる観点から好ましく、トリエチレングリコール、炭素数8〜30のエチレングリコールオリゴマー、グリセリンがより好ましい。
炭素数8〜20の一価カルボン酸としては、例えばオクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、ヘキサデカン酸、2−メチルヘプタン酸、2−エチルヘプタン酸、2,2−ジメチルヘキサン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸などが挙げられる。中でも炭素数8〜16、より好ましくは炭素数8〜12、特に好ましくは炭素数8〜10の一価カルボン酸が、可塑剤(Bp)のポリビニルアセタール(B)との相溶性及び可塑化効果に特に優れる点で好ましい。また炭素数12〜20、好ましくは16〜20の一価カルボン酸が、可塑剤(Bp)が特に高沸点であり、さらに積層体が水と接触した場合でも水で特に抽出されにくい観点から好ましい。
エステル化合物(Be1)は、n価アルコール(Ba)1分子と炭素数8〜20の一価カルボン酸(Bc)n分子とのエステル化反応で得られる化学構造を有する化合物である。ここでnは2〜4の自然数であり、好ましくは2〜3の自然数である。nが2未満である場合には、後述する本発明の積層体で必須成分であるエステル化合物(Be2)に該当する化合物が積層体に含まれないことになるので、不適当である。nが4を超えると、可塑剤(Bp)のポリビニルアセタール(B)との相溶性や、ポリビニルアセタール(B)への可塑化効果が低下することがあり、好ましくない。
上記エステル化合物(Be1)の分子量は特に限定されないが、400〜1200であることが好ましく、400〜800であることがより好ましく、400〜600であることがさらに好ましい。分子量が400未満であると、長期使用時にエステル化合物(Be1)が揮発しやすくなることがあり、分子量が1200を超えると、可塑剤(Bp)のポリビニルアセタール(B)との相溶性や、ポリビニルアセタール(B)への可塑化効果が低下することがあり、好ましくない。
本発明におけるエステル化合物(Be1)を具体的に例示すると、トリエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジステアレート、トリエチレングリコールジオレアート、グリセリントリ(2−エチルヘキサン酸)エステル、グリセリントリ(ステアリン酸)エステルなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらのエステル化合物(Be1)は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
本発明におけるエステル化合物(Be2)は、n価アルコール(Ba)1分子と、炭素数8〜20の一価カルボン酸(Bc)1〜(n−1)分子とのエステル化反応で得られる化学構造を有する化合物である。すなわちエステル化合物(Be2)は、エステル化合物(Be1)を構成するのに用いられるものと同じ、n価アルコール(Ba)と炭素数8〜20の一価カルボン酸(Bc)とから選択されるアルコールとカルボン酸とのエステル化反応により得られる、少なくとも1つの水酸基を有する化合物である。本発明においてはこのような特定の化学構造を有するエステル化合物(Be2)を使用することで、本発明の目的を好適に達成することができる。
上記エステル化合物(Be2)の分子量は特に限定されないが、250〜800であることが好ましく、250〜600であることがより好ましく、250〜450であることがさらに好ましい。分子量が250未満であると、長期使用時にエステル化合物(Be2)が揮発しやすくなることがあり、分子量が800を超えると、可塑剤(Bp)のポリビニルアセタール(B)との相溶性や、ポリビニルアセタール(B)への可塑化効果が低下することがあり、好ましくない。
本発明におけるエステル化合物(Be2)を具体的に例示すると、トリエチレングリコールモノ2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコールモノ2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールモノステアレート、トリエチレングリコールモノオレアート、グリセリンジ(2−エチルヘキサン酸)エステル、グリセリンモノ(2−エチルヘキサン酸)エステル、グリセリンジ(ステアリン酸)エステル、グリセリンモノ(ステアリン酸)エステルなどが、挙げられるがこれらに限定されない。これらのエステル化合物(Be2)は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
本発明の積層体におけるB層には、エステル化合物(Be1)とエステル化合物(Be2)からなる可塑剤(Bp)を含む。可塑剤(Bp)におけるエステル化合物(Be1)とエステル化合物(Be2)との含有割合は特に限定されないが、質量比でエステル化合物(Be1)/エステル化合物(Be2)=30/70〜100/0であることが好ましく、50/50〜100/0であることがより好ましく、80/20〜100/0であることがさらに好ましく、85/15〜100/0であることが特に好ましい。エステル化合物(Be1)/エステル化合物(Be2)の質量比が30/70より小さいと、本発明の積層体を長期間使用した場合に、エステル化合物(Be2)の揮発や水による抽出が問題になることがあり好ましくない。なおエステル化合物(Be1)/エステル化合物(Be2)の質量比が100/0であるとは、可塑剤(Bp)がエステル化合物(Be1)からなり、かつ、エステル化合物(Be2)を含んでいないことを意味する。
可塑剤(Bp)の水酸基価HV(Bp)は特に限定されないが、0〜80mgKOH/gであることが好ましく、0〜60mgKOH/gであることがより好ましく、1〜40mgKOH/gであることがさらに好ましい。HV(Bp)が80mgKOH/gを超えると、積層体が吸水しやすくなり、また本発明の積層体を長期間使用した場合に、可塑剤(Bp)に含まれる成分の水による抽出が問題になることがあり好ましくない。
本発明の積層体を構成するB層における可塑剤(Bp)の含有量は特に限定されないが、ポリビニルアセタール(B)100質量部に対して通常30〜80質量部が好ましく、33〜75質量部がより好ましく、40〜70質量部がさらに好ましい。可塑剤(Bp)の含有量がポリビニルアセタール(B)100質量部に対して30質量部より少ないと、得られる積層体を遮音性合わせガラス用中間膜に使用する場合に所望の遮音性を発現できない場合がある。また80質量部より多いと、得られる積層体の力学強度が不十分となる傾向となる。
本発明において、A層における可塑剤(Ap)の含有量とB層における可塑剤(Bp)の含有量との関係に厳密な意味での限定はないが、A層におけるポリビニルアセタール(A)100質量部に対する可塑剤(Ap)の含有量がB層におけるポリビニルアセタール(B)100質量部に対する可塑剤(Bp)の含有量より少ないことが好ましい。本発明の積層体を用いた合わせガラスにおいて遮音性を発現できる観点から、ポリビニルアセタール(A)100質量部に対する可塑剤(Ap)の含有量が、ポリビニルアセタール(B)100質量部に対する可塑剤(Bp)の含有量より5〜60質量部少ないことが好ましく、10〜40質量部少ないことがより好ましい。
本発明の積層体において、水酸基価HV(Ap)と水酸基価HV(Bp)とは、HV(Ap)>HV(Bp)の関係を満たす。好ましくはHV(Ap)>HV(Bp)+1であり、より好ましくはHV(Ap)>HV(Bp)+3であり、さらに好ましくはHV(Ap)>HV(Bp)+5であり、特に好ましくはHV(Ap)>HV(Bp)+10であり、最適にはHV(Ap)>HV(Bp)+15である。HV(Ap)とHV(Bp)がHV(Ap)>HV(Bp)の関係を満たさない場合、含水率の高い積層体を低温かつ低湿度の雰囲気で急激に乾燥させた場合に積層体中で水や可塑剤がポリビニルアセタールと相分離して不透明になったり、また積層体の層間に水や可塑剤がブリードして層間剥離や透明性低下を引き起こしたりする。
本発明における可塑剤(Ap)と可塑剤(Bp)とは、上述の規定を満たしている限り、それらをどのような組み合わせで使用してもよい。本発明の積層体を長期間使用した場合に特性の経時変化を起こりにくいものとし、また原料となる化合物の種類を最小限にし、該化合物の入手費用や保管費用を最小限する観点からは、可塑剤(Ap)に含まれる化合物と可塑剤(Bp)に含まれる化合物とが、できるだけ類似の化学構造を有するものであることが好ましく、同一の化合物であることがさらに好ましい。従って本発明においては、m価アルコール(Aa)とn価アルコール(Ba)とは同一の化合物であることが好ましく、また可塑剤(Ap)に用いられる一価カルボン酸(Ac)と可塑剤(Bp)に用いられる一価カルボン酸(Bc)とは同一の化合物であることが好ましい。またエステル化合物(Ae1)とエステル化合物(Be1)が同一の化合物であることがさらに好ましく、エステル化合物(Ae2)とエステル化合物(Be2)が同一の化合物であることがさらに好ましい。
本発明の積層体は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、接着性改良剤、その他添加剤をさらに含有していても良い。
本発明の積層体が含有していてもよい酸化防止剤の種類に特に限定はない。例えば、公知のフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などを使用できる。中でもフェノール系酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤は単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。酸化防止剤を含有させる場合、その量は特に限定されないが、積層体の質量に対して通常0.0001〜5質量%が好ましく、0.001〜1質量%がより好ましい。0.0001質量%より少ないと酸化防止剤としての十分な効果が得られないことがあり、また5質量%より多くしても格段の効果は望めない。
本発明の積層体が含有していてもよい紫外線吸収剤の種類に特に限定はない。例えば、公知のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シュウ酸アニリド系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤などを使用できる。紫外線吸収剤は単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。紫外線吸収剤を含有させる場合、その量は特に限定されないが、積層体の質量に対して通常0.0001〜5質量%が好ましく、0.001〜1質量%がより好ましい。0.0001質量%より少ないと紫外線吸収剤としての十分な効果が得られないことがあり、また5質量%より多くしても格段の効果は望めない。
本発明の積層体は合わせガラス用中間膜として特に好適に使用される。その場合、ガラスと接着する層には接着性調整剤が添加されていることが好ましい。接着性調整剤としては、例えば酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ヘキサン酸、2−エチルブタン酸、2−エチルヘキサン酸などの有機酸のナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩などが用いられ、これらは2種類以上が添加されていてもよい。なお本発明の積層体を合わせガラス用中間膜として使用する場合にガラスと接しない層がある場合には、当該層には接着性調整剤を添加しないか、添加量を低減することが、積層体が吸水した際の白化を抑制する観点から好ましい。
特に、ガラスと接着する層がA層である場合、A層に酢酸マグネシウム、酢酸マグネシウム4水和物、ブタン酸マグネシウム、2−エチルブタン酸マグネシウム、2−エチルヘキサン酸マグネシウムなどのマグネシウム塩が添加されていることが好ましい。接着性調整剤の添加量は、合わせガラスの耐貫通性及び合わせガラス破損時のガラス破片飛散防止性の観点から、ポリビニルアセタール(A)100質量部に対して0.001〜0.1質量部が好ましく、0.005〜0.08質量部がより好ましく、0.01〜0.06質量部がさらに好ましく、0.03〜0.055質量部が特に好ましい。マグネシウム塩はカリウム塩やナトリウム塩に比べて水を吸収しにくく、従ってA層に接着力調整剤としてマグネシウム塩が添加されていると、含水率の高い積層体を低温かつ低湿度の雰囲気で急激に乾燥させた場合でも、積層体中で水や可塑剤がポリビニルアセタールと相分離しにくく、また積層体の層間に水や可塑剤がブリードしにくくなる。
本発明の積層体を製造する方法は特に限定されず、従来公知の方法を適用できる。例えばA層を構成する成分、B層を構成する成分をそれぞれ押出機で溶融混練した後、引き続き多層製膜機で共押出する方法;溶融混練後に熱プレスまたはキャストなどで個別に作製したA層およびB層を重ねて、必要に応じて熱プレス等により接着して積層する方法などが挙げられる。
本発明の積層体の含水率に特に限定はないが、含水率が高すぎると積層体から可塑剤がブリードすることがあるため、通常0.01〜0.9質量%が好ましく、0.2〜0.8質量%がより好ましく、0.2〜0.7質量%がさらに好ましい。
本発明の積層体におけるA層およびB層の厚さに特に限定はない。A層の厚さは通常0.05〜1.2mmが好ましく、0.07〜1mmがより好ましく、0.1〜0.7mmがさらに好ましい。0.05mmよりも薄いと本発明の積層体の力学強度が低下する傾向となり、1.2mmよりも厚いと本発明の積層体の柔軟性が不十分となる傾向となり、合わせガラス用中間膜としての使用において、得られる合わせガラスの安全性が低下する場合がある。
B層の厚さは通常0.01〜1mmが好ましく、0.02〜0.8mmがより好ましく、0.05〜0.5mmがさらに好ましい。0.01mmよりも薄いと本発明の積層体を中間膜とする合わせガラスの遮音性能が低下することがあり、1mmよりも厚くしても本発明の積層体の力学強度がそれ以上向上しない傾向にある。
また、A層の厚さとB層の厚さの比は特に限定されないが、力学強度や遮音性発現の観点から0.05〜4が好ましく、0.07〜2がより好ましく、0.1〜0.8がさらに好ましい。
本発明の積層体は、積層体の最外層の少なくとも1層がA層であることが好ましい。かかる積層体の例としては、A層/B層/A層、A層/B層/A層/B層/A層などの最外層がともにA層である積層体、A層/B層、A層/B層/A層/B層などの最外層の1層がA層である積層体が挙げられる。特に、本発明の積層体を合わせガラス用中間膜として使用する場合には、最外層がともにA層であると、積層体とガラスとの接着性を適切に調節できる点から好ましい。
本発明の積層体を合わせガラス用中間膜として使用する場合、積層体の厚さに特に限定はないが、通常0.2〜2mmが好ましく、0.25〜1.8mmがより好ましく、0.3〜1.5mmがさらに好ましい。積層体の厚さが0.2mmよりも薄いと力学強度が不十分になる傾向となり、2mmよりも厚いと柔軟性が不十分となる傾向となる。
本発明の積層体を合わせガラス用中間膜として使用する場合のガラス材質は特に限定されず、フロート板ガラス、熱強化ガラス、化学強化ガラスなどの無機ガラス;ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートなどの有機ガラスなどの従来公知のガラスを使用できる。これらは無色もしくは有色、または透明もしくは非透明のいずれでもよく、また2種以上を併用してもよい。ガラスの厚さに特に限定はないが、通常20mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましい。
本発明の積層体を合わせガラス用中間膜として使用する場合、積層体の最表面の形状は特に限定されないが、合わせガラスを製造する際の取り扱い性(例えばラミネートにおける泡抜け性)を考慮すると、積層体の最表面にメルトフラクチャーやエンボスなどの公知の方法で凹凸構造を形成したものが好ましい。
本発明の積層体を合わせガラス用中間膜として用いて合わせガラスを製造する方法は特に限定されず、例えば真空ラミネーター装置やバキュームバッグを用いた減圧工程を経る方法;ニップロールで仮接着した後にオートクレーブで処理する方法などの従来公知の方法が挙げられる。
真空ラミネーター装置を用いる場合の作製条件の一例を示すと、1×10−6〜3×10−2MPaの減圧下、100〜200℃の温度で、好ましくは130〜160℃の温度でガラスと合わせガラス用中間膜がラミネートされる。バキュームバッグを用いる方法は、例えば、欧州特許第1235683号明細書に記載されている。例えば、約2×10−2MPaの圧力下、130〜145℃でラミネートされる。
ニップロールで仮接着した後にオートクレーブで処理する方法において、ニップロールの運転条件の一例は、ガラスと積層体を赤外線ヒーターなどで30〜70℃に加熱した後、ロールで挟んで脱気し、さらに50〜120℃に加熱した後、ロールで圧着して仮接着させる。オートクレーブで処理する工程は、例えば1.0〜1.5MPaの圧力下、130〜145℃の温度で30分〜200分実施される。
以下、実施例等により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されない。
(PVB−1の調製)
還流冷却器、温度計、イカリ型攪拌翼を備えた3L(リットル)のガラス製容器に、イオン交換水2000g、ポリビニルアルコール(PVA−1)(粘度平均重合度1700、けん化度99モル%)200gを仕込み(PVA濃度9.1%)、内容物を95℃に昇温して完全に溶解させた。次に、120rpmで攪拌下、7℃まで約30分かけて徐々に冷却した後、ブチルアルデヒド113gと35%の塩酸70gを添加し、ブチラール化反応を30分間行った。その後、60分かけて60℃まで昇温し、60℃にて120分間保持した後、直ちに冷水浴で冷却した。ポリビニルアセタール樹脂をイオン交換水で洗浄した後、水酸化ナトリウム水溶液で残存する酸触媒を中和し、さらにイオン交換水で洗浄し、脱水し、乾燥してポリビニルブチラール(PVB−1)を得た。得られたPVB−1をJIS K6728−1977(以下、JIS K6728と表わす)にしたがって測定したところ、表1に示すとおり、平均アセタール化度は68モル%、平均残存ビニルエステル基量は1モル%、平均残存水酸基量は31モル%であった。
(PVB−2の調製)
PVB−1の調製において、ブチルアルデヒド使用量を118gに変更した以外は同様にして反応を行い、PVB−2を得た。得られたPVB−2をJIS K6728にしたがって測定したところ、表1に示すとおり、平均アセタール化度は71モル%、平均残存ビニルエステル基量は1モル%、平均残存水酸基量は28モル%であった。
(PVB−3の調製)
PVB−1の調製において、PVA−1をPVA−2(粘度平均重合度1700、けん化度92モル%)200gに、また、ブチルアルデヒド使用量を120gに変更し、さらに5℃でブチラール化反応を実施した後、68℃まで70分かけて昇温し、68℃で110分反応を行った以外は同様にして、PVB−3を得た。得られたPVB−3をJIS K6728にしたがって測定したところ、表1に示すとおり、平均アセタール化度は74モル%、平均残存ビニルエステル基量は7モル%、平均残存水酸基量は19モル%であった。
(PVB−4の調製)
PVB−3の調製において、PVA−2をPVA−3(粘度平均重合度1700、けん化度89モル%)200gに、また、ブチルアルデヒド使用量を117gに変更し、さらに5℃でブチラール化反応を実施した後、65℃まで70分かけて昇温し、65℃で140分反応を行った以外は同様にして、PVB−4を得た。得られたPVB−4をJIS K6728にしたがって測定したところ、表1に示すとおり、平均アセタール化度は75モル%、平均残存ビニルエステル基量は9モル%、平均残存水酸基量は16モル%であった。
(実施例1)
(積層体の作製)
100質量部のPVB−1、および、39質量部のグリセリントリ(2−エチルヘキサン酸)エステル85質量%とグリセリンジ(2−エチルヘキサン酸)エステル15質量%とからなる可塑剤(Ap)を、ラボプラストミルで150℃、8分間混練した。得られた混練物を厚さ0.38mmの型枠で150℃、50kg/cm2の条件で30分間プレスして厚さ0.38mmのシートAを得た。一方、100質量部のPVB−3、および、60質量部のグリセリントリ(2−エチルヘキサン酸)エステル95質量%とグリセリンジ(2−エチルヘキサン酸)エステル5質量%とかならなる可塑剤(Bp)を、ラボプラストミルで150℃、8分間混練した。得られた混練物を厚さ0.14mmの型枠で160℃、50kg/cm2の条件で30分間プレスして厚さ0.15mmのシートBを得た。シートA及びシートBを、シートA/シートB/シートAの順に重ね、厚さ0.9mmの型枠で135℃、10kg/cm2の条件でプレスして、A層(0.38mm)/B層(0.14mm)/A層(0.38mm)からなる積層体−1を得た。
(高含水率積層体の調湿)
上記で得られた積層体−1を恒温恒湿器内で、35℃、80%RHの雰囲気で12時間調湿した。調湿した積層体−1をさらに下記(a)、(b)、(c)のそれぞれの条件で調湿を行い、以下の3段階の基準で調湿時間を評価したところ「12時間」であった。
(条件)
条件(a):23℃、28%RHで12時間処理。
条件(b):29℃、55%RHで12時間処理後、続いて23℃、28%RHで12時間処理。
条件(c):32℃、68%RHで12時間処理後、続いて29℃、55%RHで12時間処理し、さらに続いて26℃、40%RHで12時間処理し、最後に続いて23℃、28%RHで12時間処理。
(基準)
「12時間」:条件(a)で積層体が白濁および層間剥離を起こさず、含水率が0.7%以下になっているもの。
「24時間」:条件(a)では白濁や層間剥離が生じてしまうが、条件(b)で積層体が白濁および層間剥離を起こさず、含水率が0.7%以下になっているもの。
「48時間」:条件(a)及び条件(b)のいずれでも白濁や層間剥離が生じてしまうが、条件(c)で積層体が白濁または層間剥離を起こさず、含水率が0.7%以下になっているもの。
上記基準の「12時間」は、急激に乾燥させても、積層体中で水や可塑剤がポリビニルアセタールと相分離しにくく、また水や可塑剤の層間へのブリードが起こりにくいことを示す。また、「24時間」、「48時間」となるにつれて、より緩やかな乾燥が必要になることを示す。
(高含水率時の耐可塑剤ブリード試験)
上記で得られた積層体−1を23℃、28%RHで5日間乾燥した後、35℃、80%RHでの雰囲気で処理した。積層体−1の処理を開始してから12時間後、24時間後、48時間後に目視で確認し、12時間後に可塑剤ブリードが無く、24時間後に可塑剤ブリードが発生しているものを「12時間」、24時間後に可塑剤ブリードが無く、48時間後に可塑剤ブリードが発生しているものを「24時間」、48時間後にも可塑剤ブリードが無いものを「48時間」として評価したところ、「48時間」であった。
(合わせガラスの作製)
30cm×30cmの積層体−1を23℃、28%RHの雰囲気下で5日間保管して調湿後、速やかに2枚のフロートガラス(30cm×30cm×2.2mm)で挟み、これを115℃に加熱後、ニップロールを用いて仮接着した。得られた仮接着体をオートクレーブに入れて135℃、1.2MPaの条件で60分間処理して合わせガラス−1を得た。
(合わせガラスの熱水ボイル試験)
合わせガラス−1を40℃の熱水で12時間処理した後、23℃、28%RHの雰囲気下で108時間処理した(この処理を1サイクルとする)。当該処理を10回繰り返した後、合わせガラスの各端部から、積層体に含まれる成分抽出による欠点(ガラスと合わせガラス用中間膜の剥がれ、中間膜の層間の剥がれ)の発生の有無を目視により確認し、「無し」、「若干有」、「有」の3段階で評価したところ、「無し」であった。
(実施例2〜27、比較例1〜10)
表2、表3および表5に示すようにA層およびB層の組成を変更した以外は実施例1と同様にして積層体及び合わせガラスを作製し、同様に評価した。結果を表4または表6に示す。
実施例および比較例で示されるように、本発明の積層体は、高温かつ高湿度で含水率が高くなった後に、低温かつ低湿度の雰囲気で急激に乾燥させた場合でも、積層体中で水や可塑剤がポリビニルアセタールと相分離しにくく、また積層体の層間に水や可塑剤のブリードを起こさない。
本発明の積層体が、そのような特性を示す理由は不明だが、A層における可塑剤(Ap)の水酸基価HV(Ap)が、B層における可塑剤(Bp)の水酸基価HV(Bp)より大きいことに起因して、好適には最外層が共にA層である積層体の含水率が高くなっている場合に、A層からの水の揮発に伴ってB層からA層へ水分が移行する結果、相分離やブリードが発生する前にB層の含水率も低下するためと考えられる。