以下、本発明に係る成膜装置について、本発明を具体化した第1実施形態及び第2実施形態に基づき図面を参照しつつ詳細に説明する。先ず、第1実施形態に係る成膜装置1の概略構成について図1及び図2に基づいて説明する。
図1は、第1実施形態の成膜装置1の全体構成を示す概略図である。図1に示すように、本実施形態に係る成膜装置1は、処理容器2、真空ポンプ3、ガス供給部5、及び制御部6等から構成されている。処理容器2は、ステンレス等の金属製であって、気密構造の処理容器である。真空ポンプ3は、後述する圧力調整バルブ7を介して処理容器2の内部を真空排気可能なポンプである。処理容器2の内部には、石英等の誘電体からなるマイクロ波供給口22が設けられる。
ガス供給部5は、処理容器2の内部に成膜用の原料ガスと不活性ガスとを供給する。具体的には、He、Ne、Ar、Kr、またはXeなどの不活性ガスとCH4、C2H2、又はTMS(テトラメチルシラン)等の原料ガスとが供給される。本実施形態では、成膜用には、CH4、およびTMSの原料ガスが用いられる。
ガス供給部5から供給される原料ガスおよび不活性ガスの流量と、圧力とは、後述する制御部6により制御されてもよいし、作業者により制御されてもよい。原料ガスは、アルキン、アルケン、アルカン、芳香族化合物などのCH結合を有する化合物、または炭素が含まれる化合物が含まれるガスであればよい。H2が原料ガスに含まれてもよい。
処理容器2には、マイクロ波供給口22の中央に同軸導波管21の中心導体が延長されている。処理容器2の内部には、棒状の表面に導電性を有する被加工材料8が設けられる。被加工材料8は、ステンレス等で形成された導電性を有する保持具9により保持される。被加工材料8は、保持具9により、同軸導波管21の中心導体の延長線上に保持される。マイクロ波供給口22において、同軸導波管21の中心導体と保持具9との間には、真空を保持するために、石英等の誘電体が配置される。被加工材料8の材質は、表面が導電性を有していれば、特に限定されるものではないが、本実施形態では焼戻し鋼である。ここで焼戻し鋼とは、JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材)、G4401(炭素工具鋼鋼材)、G44−4(合金工具用鋼材)、又はマルエージング鋼材などの材料である。被加工材料8は、焼戻し鋼以外にも、セラミック、または樹脂に導電性の材料がコーティングされているものでもよい。
マイクロ波供給口22の上端面を除く外周面、つまり、マイクロ波導入面22Aを除く外周面は、ステンレス等の金属で形成された側面導体23で被覆されている。側面導体23は、処理容器2の内側面にネジ止め等によって固定され、電気的に処理容器2に接続されている。
処理容器2の内部には、保持された被加工材料8に対してDLC成膜処理を行うためのプラズマが発生される。このプラズマは、マイクロ波パルス制御部11、マイクロ波発振器12、マイクロ波電源13(図2参照)、負電圧電源15、及び負電圧パルス発生部16により発生される。本実施形態では、特開2004−47207号公報に開示された方法(以下、「MVP法(Microwave sheath−Voltage combination Plasma法)」という。)により表面波励起プラズマが発生される。以降の記載では、MVP法を説明する。
マイクロ波パルス制御部11は、制御部6の指示に従い、パルス信号を発振する。発振したパルス信号は、マイクロ波発振器12へ送信される。マイクロ波発振器12は、マイクロ波パルス制御部11からのパルス信号に従って、マイクロ波パルスを発生する。マイクロ波電源13は、制御部6の指示に従い、指示された出力で2.45GHzのマイクロ波を発振するマイクロ波発振器12へ電力を供給する。マイクロ波発振器12は、2.45GHzのマイクロ波を、マイクロ波パルス制御部11からのパルス信号に従って、パルス状にして後述するアイソレータ17に供給する。なお、マイクロ波は2.45GHzに限らず、0.3GHz〜50GHzのパルス周波数であればよい。
マイクロ波は、マイクロ波発振器12からアイソレータ17、チューナ18、導波管19、導波管19から図示されない同軸導波管変換器を介して突設された同軸導波管21を経由しマイクロ波供給口22のマイクロ波導入面22Aから、処理容器2内に供給される。アイソレータ17は、マイクロ波の反射波がマイクロ波発振器12へ戻ることを防ぐものである。チューナ18は、マイクロ波の反射波が最小になるようにチューナ18前後のインピーダンスを整合するものである。
成膜装置1は、負電圧電源15と、負電圧パルス発生部16と、負電圧電極25とを備える。負電圧電源15は、制御部6と接続される。負電圧電源15は、制御部6の指示に従い、負電圧パルス発生部16に負のバイアス電圧を供給する。負電圧パルス発生部16は、負電圧電源15から供給された負のバイアス電圧を、パルス状の負のバイアス電圧にするパルス化を行う。このパルス化の処理は、負電圧パルス発生部16が制御部6の指示に従い、負のバイアス電圧のパルスの大きさ、周期、及び、デューティ比を制御する処理である。負電圧電極25は、被加工材料8または保持具9と電気的に接続される。負電圧電極25により、パルス状の負のバイアス電圧が、被加工材料8に印加される。被加工材料8が、金属基材の場合、またはセラミック、または樹脂に導電性の材料がコーティングされた場合であっても、被加工材料8の少なくとも処理表面の全域にパルス状の負のバイアス電圧が印加される。また、保持具9の表面全域にも被加工材料8を介してパルス状の負のバイアス電圧が印加される。
被加工材料8は、負電圧電極25により負のバイアス電圧が印加されると、帯電する。被加工材料8が帯電することにより、マイクロ波導入面22Aからマイクロ波が供給されて生成されたシース層が、包囲空間20内において、被加工材料8の周囲に拡大される。マイクロ波は、被加工材料8の周囲に拡大されたシース層により、保持具9及び被加工材料8の処理表面に伝搬される。パルス状のマイクロ波が供給され、およびパルス状の負のバイアス電圧が同一時間に印加されることにより、図1に示すように、表面波励起プラズマ28が発生される。
[表面波励起プラズマの詳細な説明]
通常、表面波励起プラズマを発生させる場合、まず、ある程度以上の電子(イオン)密度におけるプラズマと、これに接する誘電体との界面に沿ってマイクロ波が供給される。供給されたマイクロ波は、この界面に電磁波のエネルギが集中した状態で表面波として伝播される。その結果、界面に接するプラズマは高エネルギ密度の表面波によって励起され、さらに増幅される。これにより高密度プラズマが生成されて維持される。ただし、この誘電体を導電性材料に換えた場合、導電性材料は表面波の導波路としては機能せず、好ましい表面波の伝播及びプラズマ励起を生ずることはできない。
一方、プラズマに接する物体の表面近傍には、本質的に単一極性の荷電粒子層、いわゆるシース層が形成される。物体が、負のバイアス電圧を加えた導電性を有する被加工材料8の場合、シース層とは電子密度が低い層、すなわち、正極性であって、マイクロ波のパルス周波数帯においてはほぼ比誘電率ε≒1の層である。このため、印加する負のバイアス電圧の絶対値を例えば−100Vの絶対値より大きくすることによりシース層のシース厚さを厚くできる。すなわちシース層が拡大する。このシース層が、プラズマとプラズマに接する物体との界面に表面波を伝播させる誘電体として作用する。
従って、被加工材料8を保持する保持具9の一端に近接して配置されたマイクロ波供給口22からマイクロ波が供給され、かつ被加工材料8及び保持具9に負のバイアス電圧が印加されると、マイクロ波はシース層とプラズマとの界面に沿って表面波として伝搬する。この結果、被加工材料8及び保持具9の表面に沿って表面波に基づく高密度励起プラズマが発生する。この高密度励起プラズマが、図1に破線で示す表面波励起プラズマ28である。
このような被加工材料8の表面の近傍での表面波励起による高密度プラズマの電子密度は1011〜1012cm―3に達する。このMVP法を用いたプラズマCVDによりDLC成膜処理される場合は、通常のプラズマCVDによりDLC成膜処理される場合よりも1桁から2桁高い成膜速度3〜30(ナノm/秒)が得られるので高速成膜が可能である。
このMVP法では、金属基材である被加工材料8及び保持具9の表面近傍に高密度励起プラズマを発生させるので、被加工材料8及び保持具9の表面温度が焼き戻し温度以上、例えば、約250℃〜約300℃に上昇する。但し、高速成膜が可能であるため、成膜時間は通常のプラズマCVDの成膜時間の1/10〜1/100となる。即ち、成膜時間を数十秒〜数分に短縮できるので、被加工材料8の表面温度が焼き戻し温度を超えても、被加工材料8の軟化を抑制することができる。このような成膜時間が短い高速成膜において、成膜中における被加工材料8の表面温度は、後述する放射温度計29を用いて低誤差で測定することが重要となる。
なお、負電圧電源15、および負電圧パルス発生部16が、本発明の負電圧印加部の一例である。マイクロ波パルス制御部11、マイクロ波発振器12、マイクロ波電源13、アイソレータ17、チューナ18、導波管19、及び同軸導波管21が本発明のマイクロ波供給部の一例である。尚、成膜装置1は負電圧電源15、および負電圧パルス発生部16を備えたが、更に正電圧電源、および正電圧パルス発生部を備えてもよいし、負電圧パルス発生部16の代わりに、パルス状の負のバイアス電圧でなく、連続する負のバイアス電圧を印加する負電圧発生部を備えてもよい。
成膜装置1には、処理容器2の側壁に設けられた石英窓27の外側近傍の位置に、放射温度計29が配置されている。放射温度計29は、被加工材料8の処理表面のうち、被加工材料8の上端部から下端部までの、図1に示す範囲H1の処理表面の任意の位置の表面温度を連続的に測定する。尚、放射温度計29は、マイクロ波供給口22から突出する保持具9の表面温度を測定し、被加工材料8の処理表面の表面温度を推定してもよい。放射温度計29は、制御部6に電気的に接続される。また、液晶ディスプレイ(LCD)30が制御部6に電気的に接続される。また、不図示のブザー等が制御部6に電気的に接続される。放射温度計29が、本発明の検出部の一例である。
放射温度計29は、被加工材料8の処理表面からの測定波長帯の中心波長λの赤外線を受信し、受信された赤外線の強度Vを算出する。放射温度計29は、算出した赤外線の強度Vと、予め記憶している温度計設定放射率ε1とから被加工材料8の処理表面の表面温度として算出して出力する。放射温度計29は、算出した出力温度を所定時間毎に、例えば、0.1秒毎に、制御部6へ出力する。
図2は、成膜装置1の電気的構成の概略を示す概略ブロック図である。図2に示すように、制御部6には、圧力調整バルブ7、大気開放バルブ10、真空計26、放射温度計29、液晶ディスプレイ(LCD)30、負電圧電源15、負電圧パルス発生部16、マイクロ波パルス制御部11、ガス供給部5、及びマイクロ波電源13が電気的に接続されている。
制御部6は、負電圧電源15とマイクロ波電源13に制御信号を出力してマイクロ波パルスの印加電力とパルス状の負電圧の印加電圧を制御する。制御部6は、負電圧パルス発生部16及びマイクロ波パルス制御部11に制御信号を出力することによって、パルス状の負のバイアス電圧の印加タイミング、供給電圧、デューティ比、及びマイクロ波発振器12から発生されるマイクロ波パルスの供給タイミング、デューティ比、及び供給電力を制御する。
制御部6は、ガス供給部5に流量制御信号を出力して原料ガス及び不活性ガスの供給を制御する。制御部6は、処理容器2に取り付けられた真空計26から入力される処理容器2内の圧力を表す圧力信号に基づいて、制御信号を圧力調整バルブ7に出力する。この制御信号が入力された圧力調整バルブ7は、この制御信号に含まれる圧力信号に基づいて、バルブ開度を調節することにより、処理容器2内の圧力を制御する。
制御部6は、全開、全閉の制御信号を大気開放バルブ10に出力する。全開の制御信号が入力された大気開放バルブ10は、バルブ開度を全開にする。全閉の制御信号が入力された大気開放バルブ10は、バルブ開度を全閉にする。大気開放バルブ10が全開になった場合には、処理容器2は、大気開放バルブ10を介して、内部の圧力が外気圧と同じになる。
制御部6は、CPU31、RAM32、ROM33、ハードディスクドライブ(以下、「HDD」という。)34、全成膜処理の経過時間を計測するタイマ35、イオンクリーニング、DLC膜の成膜処理の終了を判定する終了判定用タイマ36等を備えるコンピュータから構成される。CPU31は、RAM32等の揮発性記憶装置に種々の情報を一時記憶し、後述により説明する成膜処理プログラムを実行して、成膜装置1の全体の制御を行う。
ROM33とHDD34は、不揮発性記憶装置であり、成膜装置1により行われる成膜処理の成膜条件、およびCPU31が実行する成膜処理プログラムを記憶する。具体的には、ROM33とHDD34は、図4に示すDLC成膜条件を示すデータと、後述する図6に処理手順をフローチャートにより示す成膜処理プログラムとを記憶する。なお、成膜条件を示すデータおよび成膜処理プログラムは、図示しないドライバによりCD−ROM、またはDVD−ROMなどの記憶媒体から読み込まれてもよいし、図示しないインターネット等のネットワークからダウンロードされてもよい。
図4は、第1実施形態における成膜装置1により実行されるDLC成膜条件の一例を示すDLC成膜条件テーブルである。DLC成膜条件テーブルには、例えば、図4に示すように、「ガス流量(sccm)」として、不活性ガスArは「50sccm」、水素H2は「50sccm」、メタンCH4は「100sccm」、TMSは「20sccm」が記憶され、「圧力(Pa)」として「50Pa」、「負のDCバイアス電圧(V)」として「−250V」、「負のバイアス電圧パルスデューティ比(%)」として「90%」が記憶されている。
図5は、図4のDLC成膜条件テーブルの成膜条件に従って成膜が行われるときの単位膜厚当たりの昇温率の一例を示すグラフである。図4に示すDLC成膜条件テーブル41及び図5に示す被膜の単位膜厚当たりの昇温率のグラフにおいて、「マイクロ波パルスデューティ比(%)」と「昇温率(℃/μm)」とが相互に対応する。例えば、成膜条件としてマイクロ波のデューティ比を50%にした場合には、昇温率は68(℃/μm)となる。また、成膜条件としてマイクロ波パルスのデューティ比を40%にした場合には、昇温率は63(℃/μm)となる。かかるマイクロ波パルスデューティ比(%)及び「昇温率(℃/μm)」は、例えば、成膜開始時までに処理容器2内の系の温度が上がり過ぎないように、マイクロ波パルスのデューティ比(%)は50%程度に設定され、この時の昇温率は68℃/μmとなる。
CPU31が、成膜処理プログラムに従って、イオンクリーニング、および成膜処理または後述する成膜加工処理において、マイクロ波の供給と負のバイアス電圧の印加を実行するとき、パルス状のマイクロ波を、マイクロ波供給口22から供給し、パルス状の負のバイアス電圧を負電圧電極25から被加工材料28へ印加する。このとき、CPU31が制御するマイクロ波パルスの供給タイミングと、パルス状の負のバイアス電圧の印加タイミングの一例について図3に基づいて説明する。図3に示すように、マイクロ波パルス38の周期は、T3(秒)である。マイクロ波パルス38の1パルス毎の供給時間は、T2(秒)である。従って、マイクロ波パルス38の周期に対するマイクロ波パルス38の1パルス毎の供給時間の比率であるデューティ比は、T2/T3である。
また、パルス状の負のバイアス電圧39の周期は、マイクロ波パルス38の周期と同じ周期で、T3(秒)である。パルス状の負のバイアス電圧39の印加時間は、(T4−T1)(秒)である。このとき、パルス状の負のバイアス電圧39の周期に対するパルス状の負のバイアス電圧39の1パルス毎の印加時間の比率であるデューティ比は、(T4−T1)/T3である。
そして、パルス状の負のバイアス電圧39の印加タイミングは、マイクロ波パルス38の供給開始タイミングよりもT1(秒)だけ遅延するように設定されている。遅延時間T1(秒)を示す情報は、制御部6のROM33又はHDD34に記憶されている。各時間T2、T3、T4(秒)を示す情報は、制御部6のROM33又はHDD34に格納される各DLC成膜条件テーブル41に記憶されているデータからCPU31により算出される。前記した負のバイアス電圧の印加時間は、マイクロ波パルス38が供給される時間と同等、又はマイクロ波パルス38の1周期の整数倍であることが望ましい。
[成膜処理]
次に、上記のように構成された成膜装置1のCPU31が実行する処理であって、被加工材料8の処理表面にDLC膜を成膜する成膜処理の処理手順について、図4および図6を用いて説明する。図6は、CPU31により実行される成膜処理プログラムの処理手順を説明するフローチャートである。この成膜処理では、先ず、保持具9に保持された被加工材料8が処理容器2の内部に作業者によりセットされる。
その後、CPU31は、自動的に、若しくは、作業者による成膜開始指示が、不図示の操作部に設けられた操作ボタンを介して制御部6に入力されたことを検知することにより「成膜処理」を開始する。
図6に示すように、先ず、ステップ(以下、Sと略記する)11において、CPU31は、ROM33とHDD34から、図4に示すDLC成膜条件テーブル41に示す成膜条件を読み出しRAM32に記憶する。S11では、CPU31は、成膜条件などの所定のパラメータをROM33又はHDD34から読み出して、RAM32に記憶する。所定のパラメータは、後述するイオンクリーニングパラメータ、ガス流量値等のパラメータである。これらのパラメータは、予めROM33又はHDD34に記憶された成膜条件に基づき、自動で設定されてもよい。成膜条件は、S11において、作業者が不図示の操作部を介して、各データを制御部6に入力し、CPU31が入力された各データをRAM32に記憶するようにしてもよい。
続いて、S12において、真空ポンプ3を起動させ、処理容器2の空気を排気する。CPU31は、真空計26から入力される圧力信号に基づいて、処理容器2の内部が、所定の真空度(例えば、1.0Pa未満である。)に達するまで、真空ポンプ3を作動させる。この所定の真空度は、予めROM33又はHDD34に記憶されている。処理容器2の内部が、所定の真空度に達すると、CPU31は、S14の処理を実行する。
処理容器2の内部が、所定の真空度(例えば、1.0Pa未満である。)に達すると、S14において、CPU31は、不活性ガスArの供給を開始する。詳細には、イオンクリーニングパラメータである不活性ガスArのガス流量値(例えば、ガス流量50sccmである。)をRAM32から読み出し、ガス供給部5に対して読み出されたガス流量値で処理容器2内へ不活性ガスArの供給をするように指示する供給信号を出力する。その後、CPU31は、圧力調整バルブ7を介して処理容器2内の原料ガス及び不活性ガスを一定流量で排気するように設定し、処理容器2の内部が所定圧力になるように調整する。CPU31は、真空計26から入力される圧力信号に基づいて、処理容器2の内部の圧力が測定される。処理容器2の内部が、所定の圧力に達したとき、CPU31は、S16の処理を実行する。
S16において、CPU31は、RAM32に記憶されたイオンクリーニングパラメータに基づいてイオンクリーニングを開始する。このイオンクリーニングパラメータには、マイクロ波の出力電力(例えば、800Wである。)、負のバイアス電圧パルスの印加電圧(例えば、−200Vである。)が含まれている。イオンクリーニングは、アーキング発生頻度が所定の頻度未満となるまで実行される。所定の頻度は、ROM33又はHDD34に予め記憶されている。CPU31は、負のバイアス電圧の印加タイミングを負電圧電源15に送信する。CPU31は、マイクロ波の出力電力と、マイクロ波の出力電力の印加タイミングとをマイクロ波電源13に送信する。イオンクリーニングが行われ、アーキング発生頻度が所定の頻度未満となったとき、CPU31は、S18を実行する。または、イオンクリーニングパラメータとしてイオンクリーニング時間が設定されている場合には、CPU31は、イオンクリーニング開始からタイマ35で計測した時間がイオンクリーニング時間を経過したと判断したとき、S18を実行してもよい。
ここで、S16における具体的な処理を説明する。S16では、具体的には、CPU31は、負のバイアス電圧の印加電圧を負電圧電源15に送信する。CPU31は、マイクロ波の出力電力をマイクロ波電源13に送信する。CPU31は、S11で取得した負のバイアス電圧の周期T3(秒)、1パルス毎の印加時間(T4−T1)(秒)、及び、マイクロ波の供給開始タイミングからの遅延時間T1(秒)に基づいて、負のバイアス電圧の印加開始タイミングを示すオン信号及び印加停止タイミングを示すオフ信号を示すパルス信号を、負電圧パルス発生部16に送信する。CPU31は、S11で取得したパルス状のマイクロ波の周期T3(秒)、1パルス毎の供給時間T2(秒)に基づいて、マイクロ波の供給開始タイミングを示すオン信号及び供給停止タイミングを示すオフ信号を示すパルス信号をマイクロ波パルス制御部11に送信する。
この結果、負電圧電源15は、受信した印加電圧に従い、負電圧パルス発生部16に負の印加電圧を供給する。負電圧パルス発生部16は、供給された負の印加電圧を、周期T3(秒)毎に受信した負のバイアス電圧のパルス信号に示される印加タイミングで、マイクロ波の供給開始からT1(秒)遅延して、負電圧電極25により被加工材料8に(T4−T1)秒間、印加させる。
また、マイクロ波電源13は、受信したマイクロ波の出力電力に従い、マイクロ波発振器12に電力を供給する。マイクロ波パルス制御部11は、供給されたマイクロ波の出力電力で、受信したマイクロ波のパルス信号に示される供給タイミングに従い、周期T3(秒)毎に、供給時間T2(秒)間のパルス信号をマイクロ波発振器12に送信する。マイクロ波発振器12は、周期T3(秒)毎に、受信したパルス信号に従う供給時間T2(秒)のマイクロ波を、供給された電力に応じた2.45GHzのマイクロ波電力で、アイソレータ17、チューナ18、導波管19、同軸導波管21及びマイクロ波供給口22を介して保持具9及び被加工材料8に向け供給する。
これにより、これら負のバイアス電圧により被加工材料8の表面に沿うシース層が、マイクロ波の伝搬する伝搬方向に対して直交する方向に拡大され、シース層内を伝搬するマイクロ波により不活性ガスArのプラズマが発生する。この発生された不活性ガスArのプラズマにより、被加工材料8の表面がイオンクリーニングされる。イオンクリーニングが行われると、被加工材料8の表面温度が上昇する。
S18において、先ず、CPU31は、マイクロ波パルス制御部11にマイクロ波発振器12に送信しているパルス信号を停止するように指示する停止信号を送信する。これにより、マイクロ波発振器12は、パルス信号を受信しないため、マイクロ波パルス38の出力を停止する。また、CPU31は、負電圧パルス発生部16に負のバイアス電圧の印加を停止するように指示する停止信号を送信する。これにより、負電圧パルス発生部16は、被加工材料8への負のバイアス電圧の印加を停止する。
この後更に、S18において、CPU31は、ROM33又はHDD34から原料ガス及び不活性ガスを供給するそれぞれのガス流量値を読み出し、ガス供給部5に流量制御指示として送信するガス供給部5は、流量制御指示に従い、原料ガス及び不活性ガスを処理容器2の内部に供給する。尚、原料ガス及び不活性ガスを供給するそれぞれのガス流量値は、予めROM33又はHDD34に記憶されている。例えば、不活性ガスArは50sccmである。H2は50sccm、CH4は100sccmである。TMSは、20sccmである。
S18において、CPU31は、原料ガス及び不活性ガスを供給した後、圧力調整バルブ7を介して処理容器2内の原料ガス及び不活性ガスを一定流量で排気するように設定し、処理容器2の内部が所定圧力になるように調整する。続いて、CPU31は、真空計26から入力される圧力信号に基づいて、処理容器2の内部が、所定の圧力に達したとき、S200において、成膜加工処理が行われる。
S200では、成膜加工処理が行われる。S200では、CPU31は、負のバイアス電圧の印加電圧を負電圧電源15に送信する。CPU31は、マイクロ波の出力電力をマイクロ波電源13に送信する。CPU31は、RAM32に成膜条件として記憶されている負のバイアス電圧の1パルスの周期T3(秒)、1パルス毎の印加時間(T4−T1)(秒)、及び、マイクロ波の供給開始タイミングからの遅延時間T1(秒)に基づいて、負のバイアス電圧のパルス信号を、負電圧パルス発生部16に送信する。CPU31は、RAM32に成膜条件として記憶されているパルス状のマイクロ波の周期T3(秒)、1パルス毎の供給時間T2(秒)に基づいて、マイクロ波のパルス信号をマイクロ波パルス制御部11に送信する。S18において、処理容器2内に、原料ガス及び不活性ガスが供給された状態において、S200において、マイクロ波が供給され、被加工材料18に負電圧が印加されると、被加工材料18の表面に成膜が行われる。
図8は、S200が実行されて被加工材料18に成膜が行われる場合に、S200が行われるときの温度である成膜開始温度と、供給されるマイクロ波の1パルス毎の時間とに応じて、被加工材料18の表面1mm2あたりに発生する欠陥数を示す対応表である。
図9は、図8の成膜開始温度に応じて、マイクロ波の1パルス毎の時間を横軸に設定し、表面欠陥数を縦軸に設定して、マイクロ波の1パルス毎の時間に応じて発生する表面欠陥数を示したグラフである。
図8は、成膜開始温度に、160℃、200℃、300℃、400℃を設定し、被加工材料8に供給されるパルス状のマイクロ波の1パルス当たりの供給時間に、2μ秒、10μ秒、25μ秒、50μ秒、100μ秒、160μ秒、200μ秒、500μ秒、1000μ秒(1m秒)を設定して、それぞれの組み合わせを成膜条件として、被加工材料18へ成膜が行われたときのDLC膜に発生する1mm2当たりの表面欠陥数を示した。
尚、表面欠陥の計測は、DLC膜の撮影を行い、表面欠陥は周囲よりも濃く撮影されることを利用して、明るさを示す濃度閾値により2値化処理を行ったDLC膜の表面画像に対して画像処理範囲を1×1mm2に設定する。そして、設定した画像処理範囲内において濃く撮像された部分が内接する外接円の直径が10μm以上である部分を一つの表面欠陥と判断する閾値として抽出し計測した。問題があるDLC膜であると判断する表面欠陥数の閾値は、成膜開始温度が400℃であり、且つマイクロ波の1パルス当たりの供給時間が1000μ秒の条件である従来の成膜条件で製膜されたDLC膜の1×1mm2の単位面積当たりの表面欠陥数である18個とする。1×1mm2の単位面積当たりで計測される表面欠陥数が従来以下の場合、被加工部材18の表面は問題がないと判断し、一方、表面欠陥数が前記表面欠陥数の閾値より多い場合は、被加工部材18の表面は問題があると判断する。表面欠陥数が多い場合は、表面欠陥が起点となり膜の剥離に結びつく虞があるため問題である。
図8及び図9に示すように、成膜開始温度の条件ごとに、マイクロ波の1パルス当たりの供給時間に応じて、DLC膜に異なる表面欠陥数の表面欠陥が発生した。
成膜開始温度が160℃の条件で製膜されたDLC膜では、マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が2μ秒のとき、表面欠陥は計測されなかった。マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が10μ秒のとき、1個の表面欠陥が計測された。マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が50μ秒のとき、1個の表面欠陥が計測された。マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が100μ秒のとき、10個の表面欠陥が計測された。マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が160μ秒のとき、178個の表面欠陥が計測された。マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が200μ秒のとき、351個の表面欠陥が計測された。
成膜開始温度が200℃の条件で製膜されたDLC膜では、マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が25μ秒のとき、表面欠陥は計測されなかった。マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が50μ秒のとき、1個の表面欠陥が計測された。マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が100μ秒のとき、10個の表面欠陥が計測された。マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が160μ秒のとき、55個の表面欠陥が計測された。マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が200μ秒のとき、108個の表面欠陥が計測された。マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が500μ秒のとき、424個の表面欠陥が計測された。マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が1000μ秒のとき、1000個以上の表面欠陥が計測された。
成膜開始温度が300℃の条件で製膜されたDLC膜では、マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が50μ秒のとき、1個の表面欠陥が計測された。マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が100μ秒のとき、7個の表面欠陥が計測された。マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が200μ秒のとき、26個の表面欠陥が計測された。
成膜開始温度が400℃の条件で製膜されたDLC膜では、マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が50μ秒のとき、表面欠陥は計測されなかった。マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が100μ秒のとき、5個の表面欠陥が計測された。マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が500μ秒のとき、10個の表面欠陥が計測された。従来の成膜条件であるマイクロ波の1パルス当たりの供給時間が1000μ秒のとき、18個の表面欠陥が計測された。
このように、成膜開始温度が300℃以下であるとき、マイクロ波の1パルス当たりの供給時間を100μ秒以下に制御することが望ましい。被加工材料8の処理表面温度が300℃以下の比較的低い温度である場合、マイクロ波の1パルス当たりの供給時間を100μ秒以下に制御することにより、単位面積(1mm2)当たりのDLC膜の表面欠陥数を前記表面欠陥数の閾値以下にすることができる。これに対して、成膜開始温度が300℃以下であるとき、マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が100μ秒より長いと、DLC膜の表面欠陥数は前記表面欠陥数の閾値より多くなり、表面欠陥を起点として膜の剥離が発生する虞がある。
また、成膜開始温度が300℃より高い高温度域では、マイクロ波の1パルス当たりの供給時間は、100μ秒以下に限らない。成膜開始温度が300℃より高いときは、マイクロ波の1パルス当たりの供給時間が100μ秒より長い場合であっても、単位面積(1mm2)当たりのDLC膜の表面欠陥数を前記表面欠陥数の閾値以下にすることが可能である。
[第1実施形態の成膜処理]
そこで、第1実施形態の成膜装置1では、図6に示す成膜処理プログラムにおいて、S200の成膜加工処理に代えて、成膜開始温度に応じて、マイクロ波の供給時間を異ならせる制御を行う第1成膜加工処理を実行する。図7は、成膜加工処理の一例である第1成膜加工処理の処理手順を示すフローチャートである。なお、成膜加工処理が実行されるとき、成膜装置1には、被加工材料8の処理表面温度である成膜開始温度が300℃以下の場合に選択されるマイクロ波の1パルス当たりの供給時間(PWS)及び成膜開始温度が300℃より高い場合に選択されるマイクロ波の1パルス当たりの供給時間(PWL)が、成膜条件としてRAM32に記憶される。例えば、供給時間(PWS)としては、100μ秒、供給時間(PWL)としては500μ秒が記憶される。
図6に示す成膜処理のS18において、処理容器2の内部が、所定の圧力に達したとき、CPU31は、図7に示す第1成膜加工処理のS20を実行する。CPU31は、S20では、において、放射温度計29により連続的に算出されて出力された被加工材料8の処理表面の表面温度T0を取得する。
続くS21において、昇温率K(℃/μm)と目標膜厚t(μm)との積(K×t)が、被加工材料8、保持具9等の物性値に基づいて、被加工材料を構成する基材及び被膜の耐熱温度等で定められる限界温度TLからS20で取得した被加工材料8の処理表面温度T0との差分ΔT(TL−T0)よりも小さいかどうか判定される。
即ち、K×t≦ΔTが成立するかどうか判定される。尚、昇温率K、目標膜厚t、限界温度TLは、S11で予め設定されRAM32に記憶されている。成膜の進行に伴って被加工材料8の表面温度が上昇し続けることから、成膜開始温度が高い場合には目標膜厚tに到達する前に被加工材料を構成する基材及び被膜の耐熱温度等で決定される処理限界温度を超えてしまうことが考えられる。処理限界温度は、例えば、被加工材料および保持具の軟化温度である。第1実施形態で行う成膜方法であるMVP法においては、温度が上昇しやすいため、第1成膜加工処理が実行されるとき、後述する成膜が行われる前に、S21において、限界温度TLが判断されることが望ましい。
S21にて、K×tの値が、ΔTよりも大きい場合(S21:NO)には、被加工材料8の処理表面温度が高すぎてΔTが小さいことから、被加工材料8の処理表面温度T0が低下するまで待機される。
これに対して、K×tの値が、ΔTよりも小さい場合(S21:YES)には、被加工材料8の処理表面温度が十分低下したことから、S22に移行する。
S22では。被加工材料8の処理表面温度T0が300℃以下であるかどうか判定される。300℃は、限界温度TLよりも低い温度であり、且つ、限界温度TLに達するにはまだ余裕がある温度である。
被加工材料8の処理表面温度T0が300℃以下である場合(S22:YES)には、マイクロ波の1パルス当たりの供給時間(PWS)である100μ秒(パルス周波数2.5kHz、デューティ比25%)が選択され、S25に移行する。一方、被加工材料8の処理表面温度T0が300℃より高い場合(S22:NO)、例えば処理表面温度T0が400℃の場合には、マイクロ波の1パルス当たりの供給時間(PWL)である500μ秒(パルス周波数1.0kHz、デューティ比50%)が選択され、S25に移行する。
尚、マイクロ波の1パルス当たりの供給時間PWは、パルス状マイクロ波のパルス周波数及びデューティ比の双方又はいずれか一方を変更することにより変更することができるが、いずれか一方を変更する方が簡素であり望ましい。デューティ比を高く設定し、成膜速度を速くしたい場合は、パルス周波数を電源仕様の上限に設定することにより、供給時間PWを、より短く設定することが可能である。
但し、数kHz程度の電源を使用する場合には、供給時間PWを100μ秒以下にするためにデューティ比の上限が制限される。
因みに、パルス周波数が高パルスで出力が可能なマイクロ波電源が設けられている場合には、初期成膜条件取得時のマイクロ波のパルス周波数を数十kHzの高パルス(例えば10kHz)にすれば、デューティ比の如何に拘わらず供給時間PWを100μ秒以下とすることは可能である。
S25において、CPU31は、「負のバイアス電圧(V)」の印加電圧値をRAM32から読み出し、負電圧電源15に送信する。CPU31は、「マイクロ波出力(kW)」の供給電力値をRAM32から読み出し、マイクロ波電源13に送信する。CPU31は、「負のバイアス電圧パルスデューティ比(%)」、負のバイアス電圧の1パルスの周期T3(秒)に示されるオン信号およびオフ信号を示すパルス信号、及び、マイクロ波の供給開始タイミングからの遅延時間T1(秒)をRAM32から読み出し、負電圧パルス発生部16に送信する。CPU31は、「マイクロ波パルスデューティ比(%)」、マイクロ波の1パルスの周期T3(秒)に示されるオン信号およびオフ信号を示すパルス信号をRAM32から読み出し、マイクロ波パルス制御部11に送信する。
この結果、負電圧電源15は、受信した印加電圧に従い、負電圧パルス発生部16に負の印加電圧を供給する。負電圧パルス発生部16は、供給された負の印加電圧で、CPU31から受信したパルス信号に従って周期T3(秒)毎に、マイクロ波の供給開始からT1(秒)遅延して、受信した「負のバイアス電圧パルスデューティ比(%)」の負のバイアス電圧を、負電圧電極25を介して被加工材料8に(T4−T1)秒間、印加する。
また、マイクロ波電源13は、受信したマイクロ波の出力電力に従い、マイクロ波発振器12に電力を供給する。マイクロ波パルス制御部11は、受信した「マイクロ波パルスデューティ比(%)」に従い、CPU31から受信したパルス信号に示される周期T3(秒)毎に、供給時間T2(秒)間のパルス信号をマイクロ波発振器12に送信する。マイクロ波発振器12は、パルス信号の周期T3(秒)毎に、受信したパルス信号に従う供給時間T2(秒)のマイクロ波パルス38を、供給された電力に応じた2.45GHzのマイクロ波電力で、アイソレータ17、チューナ18、導波管19、同軸導波管21及びマイクロ波供給口22を介して保持具9及び被加工材料8に向け供給する。
これにより、これら負のバイアス電圧により被加工材料8の表面に沿うシース層が、マイクロ波の伝搬する伝搬方向に対して直交する方向に、つまり、図1の横方向に拡大され、シース層内を伝搬するマイクロ波により不活性ガスArのプラズマが発生する。マイクロ波の伝搬方向は、マイクロ波供給口22付近では、マイクロ波導入面22Aに垂直な方向であるが、マイクロ波は被加工材料8の表面に沿って生成されたシース層にそって伝搬するため、マイクロ波の伝搬方向は、被加工材料8の延びる方向に沿う。
また、マイクロ波電源13は、受信したマイクロ波の出力電力に従い、マイクロ波発振器12に電力を供給する。マイクロ波パルス制御部11は、受信した「マイクロ波パルスデューティ比(%)」に従い、周期T3(秒)毎に、供給時間T2(秒)間のパルス信号をマイクロ波発振器12に送信する。マイクロ波発振器12は、周期T3(秒)毎に、受信したパルス信号に従う供給時間T2(秒)のマイクロ波パルス38を、供給された電力に応じた2.45GHzのマイクロ波電力で、アイソレータ17、チューナ18、導波管19、同軸導波管21及びマイクロ波供給口22を介して保持具9及び被加工材料8に向け供給する。
これにより、これら負のバイアス電圧により被加工材料8の表面に沿うシース層が、図1の横方向に拡大され、シース層内を伝搬するマイクロ波により不活性ガスAr及び原料ガスのプラズマが発生する。そして、被加工材料8の処理表面に、DLC膜の成膜が開始される。CPU31は、DLC膜の成膜が開始されると、終了判定用タイマ36の計測時間を「0」にリセットした後、DLC膜の成膜時間のカウントを開始して、S26の処理に移行する。
S26において、CPU31は、S11でRAM32に記憶した「成膜時間(sec)」、例えば、15secを読み出し、終了判定用タイマ36の計測時間が、DLC膜の成膜時間に達したか否かを判定する判定処理を実行する。つまり、CPU31は、DLC膜の成膜を終了するか否かを判定する判定処理を実行する。
そして、終了判定用タイマ36の計測時間が「成膜時間(sec)」に達していないと判定した場合には(S26:NO)、CPU31は、終了判定用タイマ36の計測時間が「成膜時間(sec)」に達するまで待機する。
一方、終了判定用タイマ36の計測時間が「成膜時間(sec)」に達したと判定した場合には(S26:YES)、CPU31は、S27において、マイクロ波パルス制御部11にマイクロ波発振器12に送信しているパルス信号を停止するように指示する停止信号を送信する。これにより、マイクロ波発振器12は、マイクロ波の出力を停止する。また、CPU31は、負電圧パルス発生部16に負のバイアス電圧の印加を停止するように指示する停止信号を送信する。これにより、負電圧パルス発生部16は、被加工材料8への負のバイアス電圧の印加を停止する。
更に、CPU31は、S28において、ガス供給部5へ不活性ガスAr及び原料ガスの供給を停止するように指示する停止信号を出力する。その後、CPU31は、圧力調整バルブ7へ排気を全開にするように指示する排気信号を送信する。圧力調整バルブ7は、全開となり処理容器2内に残留している原料ガス及び不活性ガスを真空ポンプ3ですみやかに排気する。その後、CPU31は、圧力調整バルブ7を全閉するように指示する。更に、CPU31は、圧力調整バルブ7が全閉になった後、大気開放バルブ10を全開するように指示する制御信号を送信する。大気開放バルブ10は、全開となり、処理容器2は、内部の圧力が外気圧と同じになる。
そして、CPU31は、真空ポンプ3を停止した後、真空計26からの信号に基づいて、処理容器2の内部の圧力が外気圧と同じになった場合には、液晶ディスプレイ(LCD)30に成膜終了である旨を表示し、成膜処理を終了する。これにより、作業者又は自動搬送機によってDLC膜が成膜された被加工材料8が取り出される。
第1実施形態においては、パルス周波数2500Hz(周期T3=1/2500秒)のマイクロ波38が使用され、マイクロ波38の1パルス毎の供給時間T2は、被加工材料8の処理表面温度が300℃以下の場合(S22:YES)、例えば、100μ秒に設定される。また、被加工材料8の処理表面温度が300℃より高い場合(S22:NO)、マイクロ波の1パルス毎の供給時間T2は、例えば、200μ秒に設定される。また、このとき、供給時間T2は、100μ秒のほか、160μ秒、200μ秒、500μ秒、1000μ秒など、設定可能であると予め定められた複数の時間候補から選択されてもよい。供給時間T2は、マイクロ波パルス38の周期よりも短い時間に設定される。従って、供給時間T2を、500μ秒、1000μ秒とする設定は、パルス周波数が、500Hzに設定されている場合において、選択が可能である。
また、第1実施形態において使用されるマイクロ波では、連続するマイクロ波のパルス間の供給停止時間(T3−T2)が、1μ秒以上に設定される。ここで、一般に成膜装置は、特に、マイクロ波の立ち上がり直後は、マイクロ波のパルス出力が不安定な時間が発生し、その後パルス出力は安定されるものである。かかる立ち上がり時のパルス出力の不安定期は一般に1μ秒程度である。よって、連続するマイクロ波のパルス間の供給停止時間は、1μ秒以上であることが望ましい。これにより、パルス状のマイクロ波の発生が断続的になり、膜の表面欠陥の発生を抑制して膜の品質を向上することができる。
また、図6、図7に示す成膜フローチャートを勘案すると、S22で検出される被加工材料の処理表面温度である成膜開始温度が160℃、200℃、300℃の場合は、成膜開始温度が300℃以下であるので、S22においてYESと判定されてS23にて選択されるマイクロ波の1パルス当たりの供給時間(PWS)が、それぞれ2μ秒、10μ秒、25μ秒、50μ秒、100μ秒のいずれかに設定されたマイクロ波をS25で被加工材料8に供給して成膜を行う。また、成膜開始温度が400℃の場合には、成膜開始温度が300℃より高いので、S22においてNOと判定されてS24にて選択されるマイクロ波の1パルス当たりの供給時間(PWL)が、例えば500μ秒に設定されたマイクロ波をS25で被加工材料8に供給して成膜を行う。
以上説明した通り第1実施形態に係る成膜装置1では、制御部6のCPU31により、被加工材料8が処理表面温度300℃以下の状態においては、被加工材料8の処理表面に沿って供給されるパルス状のマイクロ波の1パルス当たりの供給時間が100μ秒以下となるように制御される。このとき、成膜開始温度を低く設定した場合においても、パルス状のマイクロ波の1パルス当たりの供給時間が100μ秒以下であるため、膜における欠陥成長を抑制することができる。また、成膜過程において膜の欠陥成長が進行してしまう前に、100μ秒以下の間隔で、成膜エネルギ源としてのマイクロ波の供給が中断されることとなるので、膜の欠陥成長を抑制して膜の品質を向上することができる。よって、膜の品質を向上することが可能となる。また、成膜過程において膜の欠陥成長が進行してしまう前に、成膜エネルギ源であるマイクロ波の供給が100μ秒以下で中断されることとなるので、膜の欠陥成長を抑制して膜の品質を向上することができる。
また、制御部6のCPU31により、パルス状のマイクロ波の1パルス当たりの供給時間が2μ秒以上となるように制御される。一般に成膜装置においてはマイクロ波が立ち上がる際に立ち上がり直後では、一般に1μ秒程度のパルス出力の不安定期が発生するため、パルス状のマイクロ波の1パルス当たりの供給時間を2μ秒以上とすることにより、マイクロ波の立ち上がり時におけるパルス出力の不安定期を排除することができる。これにより、膜の欠陥成長を抑制して膜品質の向上を図ることができる。
更に、制御部6のCPU31により、パルス状のマイクロ波の1パルス当たりの供給時間が50μ秒以下となるように制御される。成膜過程において膜の欠陥成長が進行してしまう前に成膜エネルギ源としてのマイクロ波の供給が50μ秒以下で中断されることとなるので、更に膜の欠陥成長を効率的に抑制して膜の品質を向上することができる。
また、被加工材料8の表面温度を検出する放射温度計29を備え、放射温度計29を介して検出される被加工材料8の表面温度が300℃以下の状態では、制御部6のCPU31により、1パルスあたり100μ秒のマイクロ波を供給するように制御されて成膜が開始される。成膜開始温度が300℃以下の比較的低い温度である場合には膜の表面欠陥が発生し易くなるが、パルス状のマイクロ波の1パルス当たりの供給時間が100μ秒以下となるように制御することにより、表面欠陥を抑制して膜の品質を向上することができる。
更に、制御部6のCPU31により、パルス状のマイクロ波の1パルス当たりの供給停止時間を1μ秒以上に設定してマイクロ波が供給されるので、パルス状のマイクロ波によるプラズマの発生が断続的になり、これにより膜の表面欠陥の発生を抑制して膜の品質を向上することができる。
また、制御部6のCPU31により、パルス状のマイクロ波の供給と負のバイアス電圧の印加とが同期する制御がされるので、パルス状のマイクロ波が供給されている時間中、マイクロ波の供給に同期して負電圧印加部15、16から印加されるバイアス電圧が印加される。この結果、被加工材料8を覆うプラズマの発生が断続的となり、これにより膜の表面欠陥の発生を抑制して膜の品質を向上することができる。
[第2実施形態の成膜処理]
次に、第2実施形態に係る成膜装置について説明する。ここに、第2実施形態に係る成膜装置は、基本的に前記した第1実施形態に係る成膜装置1と同一の構成を有しており、成膜処理プログラムの一部において相違するだけである。従って、以下の説明においては、第1実施形態の成膜装置1において実行される成膜処理プログラムとは異なり、第2実施形態の成膜装置で実行される特有の成膜加工処理に主眼を置いて説明することとし、同一の構成要素については同一の符号を付して説明する。
第2実施形態に係る成膜装置1において実行される成膜処理プログラムは、図6に示すS200の成膜処理に代えて、図10のフローチャートに示されている第2成膜加工処理が実行されるプログラムである。第2実施形態の成膜装置1において実行される成膜処理プログラムは、第1実施形態の成膜装置1で実行されるフローチャートにおけるS11乃至S19(図6参照)と同一である。従って、S11乃至S19の処理については、説明を書略する。
図10において、S40にて、CPU31を介して放射温度計29により連続的に算出されて出力された被加工材料8の処理表面の表面温度が取得された後、続くS41において、昇温率K(℃/μm)と目標膜厚tとの積(K×t)が、被加工材料8、保持具9等の物性値に基づいて、被加工材料を構成する基材及び被膜の耐熱温度等で定められる限界温度TLからS40で取得した被加工材料8の処理表面温度T0との差分ΔT(TL−T0)よりも小さいかどうか判定される。即ち、K×t≦ΔTが成立するかどうか判定される。尚、昇温率K、目標膜厚t、限界温度TLは、S31で予め設定されRAM32に記憶されている。
S41にて、K×tの値が、ΔTよりも大きい場合(S41:NO)には、被加工材料8の処理表面温度が高すぎてΔTが小さいことから、被加工材料8の処理表面温度が低下するまで、ステップ40の表面温度の取得が繰り返される。これに対して、K×tの値が、ΔTよりも小さい場合(S41:YES)には、被加工材料8の処理表面温度が十分低下したことから、S42に移行する。
S42では、直前のS40において取得された被加工材料8の処理表面温度T0が300℃以下であるかどうか判定される。300℃は、前記限界温度TLよりも低い温度であり、限界温度TLに達するにはまだ余裕がある温度である。
被加工材料8の処理表面温度T0が300℃以下である場合(S42:YES)には、S43にてマイクロ波の1パルス当たりの供給時間(PWS)として、100μ秒が選択される。例えば、100μ秒(パルス周波数2.5kHz、デューティ比25%)が選択された後、S44に移行する。
S44において、CPU31は、「負のバイアス電圧(V)」の印加電圧値をRAM32から読み出し、負電圧電源15に送信する。CPU31は、「マイクロ波出力(kW)」の供給電力値をRAM32から読み出し、マイクロ波電源13に送信する。CPU31は、「負のバイアス電圧パルスデューティ比(%)」、負のバイアス電圧の周期T3(秒)、及び、マイクロ波の1パルスの供給開始タイミングからの遅延時間T1(秒)をRAM32から読み出し、負電圧パルス発生部16に送信する。CPU31は、「マイクロ波パルスデューティ比(%)」、マイクロ波の1パルスの周期T3(秒)をRAM32から読み出し、マイクロ波パルス制御部11に送信する。
この結果、負電圧電源15は、受信した印加電圧に従い、負電圧パルス発生部16に負の印加電圧を供給する。負電圧パルス発生部16は、供給された負の印加電圧で、周期T3(秒)毎に、マイクロ波パルスの供給開始からT1(秒)遅延して、受信した「負のバイアス電圧パルスデューティ比(%)」の負のバイアス電圧を、負電圧電極25を介して被加工材料8に(T4−T1)秒間、印加する。
また、マイクロ波電源13は、受信したマイクロ波の出力電力に従い、マイクロ波発振器12に電力を供給する。マイクロ波パルス制御部11は、受信した「マイクロ波パルスデューティ比(%)」に従い、周期T3(秒)毎に、供給時間T2(秒)間のパルス信号をマイクロ波発振器12に送信する。マイクロ波発振器12は、周期T3(秒)毎に、受信したパルス信号に従う供給時間T2(秒)(S43で選択された供給時間)のマイクロ波パルス38を、供給された電力に応じた2.45GHzのマイクロ波電力で、アイソレータ17、チューナ18、導波管19、同軸導波管21及びマイクロ波供給口22を介して保持具9及び被加工材料8に向け供給する。
これにより、負のバイアス電圧により被加工材料8の表面に沿うシース層が、マイクロ波の伝搬する伝搬方向に対して直交する方向、つまり、図1の横方向に拡大され、シース層内を伝搬するマイクロ波により不活性ガスArのプラズマが発生する。マイクロ波の伝搬方向は、マイクロ波供給口22付近では、マイクロ波導入面22Aに垂直な方向である。マイクロ波供給口22から供給されたマイクロ波は、被加工材料8の表面に沿って生成されたシース層にそって伝搬するため、伝搬方向は、被加工材料8の表面に沿う方向である。
この結果、負のバイアス電圧により被加工材料8の表面に沿うシース層が、図1の横方向に拡大され、シース層内を伝搬するマイクロ波により不活性ガスAr及び原料ガスのプラズマが発生する。そして、被加工材料8の処理表面にDLC膜の成膜が開始される。CPU31は、DLC膜の成膜が開始されると、終了判定用タイマ36の計測時間を「0」にリセットした後、DLC膜の成膜時間のカウントを開始して、S45の処理に移行する。
これに対して、S42において、被加工材料8の処理表面温度T0が300℃より高いと判定された場合(S42:NO)には、S46にてマイクロ波の1パルス当たりの供給時間として、500μ秒が選択される。例えば、500μ秒(パルス周波数1.0kHz、デューティ比50%)が選択された後S47に移行する。
S47においては、前記S44におけると同様、CPU31は、「負のバイアス電圧(V)」の印加電圧値をRAM32から読み出し、負電圧電源15に送信する。CPU31は、「マイクロ波出力(kW)」の供給電力値をRAM32から読み出し、マイクロ波電源13に送信する。CPU31は、「負のバイアス電圧パルスデューティ比(%)」、負のバイアス電圧1パルスの周期T3(秒)、及び、マイクロ波の供給開始タイミングからの遅延時間T1(秒)をRAM32から読み出し、負電圧パルス発生部16に送信する。CPU31は、「マイクロ波パルスデューティ比(%)」、マイクロ波パルス38の周期T3(秒)をRAM32から読み出し、マイクロ波パルス制御部11に送信する。
この結果、負電圧電源15は、受信した印加電圧に従い、負電圧パルス発生部16に負の印加電圧を供給する。負電圧パルス発生部16は、供給された負の印加電圧で、周期T3(秒)毎に、マイクロ波の供給開始からT1(秒)遅延して、受信した「負のバイアス電圧パルスデューティ比(%)」の負のバイアス電圧を、負電圧電極25を介して被加工材料8に(T4−T1)秒間、印加する。
また、マイクロ波電源13は、受信したマイクロ波の出力電力に従い、マイクロ波発振器12に電力を供給する。マイクロ波パルス制御部11は、受信した「マイクロ波パルスデューティ比(%)」に従い、周期T3(秒)毎に、供給時間T2(秒)間のパルス信号をマイクロ波発振器12に送信する。マイクロ波発振器12は、周期T3(秒)毎に、受信したパルス信号に従う供給時間T2(秒)(S46で選択された供給時間)のマイクロ波パルス38を、供給された電力に応じた2.45GHzのマイクロ波電力で、アイソレータ17、チューナ18、導波管19、同軸導波管21及びマイクロ波供給口22を介して保持具9及び被加工材料8に向け供給する。
これにより、これら負のバイアス電圧により被加工材料8の表面に沿うシース層が、マイクロ波が伝搬する伝搬方向に対して直交する方向、つまり、図1の横方向に拡大され、シース層内を伝搬するマイクロ波により不活性ガスArのプラズマが発生する。マイクロ波の伝搬方向は、マイクロ波供給口22付近では、マイクロ波導入面22Aに垂直な方向であるが、マイクロ波は被加工材料8の表面に沿って生成されたシース層にそって伝搬するため、マイクロ波の伝搬方向は、被加工材料8の延びる方向に沿う。
この結果、これら負のバイアス電圧により被加工材料8の表面に沿うシース層が、図1の横方向に拡大され、シース層内を伝搬するマイクロ波により不活性ガスAr及び原料ガスのプラズマが発生する。そして、被加工材料8の処理表面に、DLC膜の成膜が開始される。CPU31は、DLC膜の成膜が開始されると、終了判定用タイマ36の計測時間を「0」にリセットした後、DLC膜の成膜時間のカウントを開始して、S45の処理に移行する。
S45においては、被加工材料の温度が再度取得され、取得された被加工材料8の処理表面温度T0が、TCよりも大きいかどうか判定される。ここに、TCは、マイクロ波の供給時間を100μ秒より長くした場合において、膜の表面欠陥を抑制可能な温度閾値である。例えば図8を参照して説明したように、被加工材料8の処理表面温度が400℃である場合には、マイクロ波の供給時間を100μ秒より長くしても500μ秒までは表面欠陥数を10個程度に抑制することができることから、第2実施形態においてTCは例えば400℃に設定される。
被加工材料8の表面温度T0が、閾値TCよりも低い場合(S45:YES)には、S48にて、CPU31は、S31でRAM32に記憶した「成膜時間(sec)」、例えば、15secを読み出し、終了判定用タイマ36の計測時間が、DLC膜の成膜時間に達したか否かを判定する判定処理を実行する。つまり、CPU31は、DLC膜の成膜を終了するか否かを判定する判定処理を実行する。
そして、終了判定用タイマ36の計測時間が「成膜時間(sec)」に達していないと判定した場合には(S48:NO)、CPU31は、終了判定用タイマ36の計測時間が「成膜時間(sec)」に達するまで待機する。
一方、終了判定用タイマ36の計測時間が「成膜時間(sec)」に達したと判定した場合には(S48:YES)、S53に移行する。
これに対して、S45において、被加工材料8の表面温度T0が、閾値TCよりも高い場合(S45:NO)には、S49にて目標昇温率K1を取得する。ここに、目標昇温率K1は、(TL−T1)/(t−t1)を演算することにより取得される。尚、TLは限界温度、T1はS45の処理の実行時点で測定された被加工材料8の処理表面温度、tは目標膜厚、t1はS45の処理実行時点で成膜速度と経過時間から演算取得された膜厚である。
S50において、図4のDLC成膜条件テーブル41及び図5のグラフを参照して、取得されたK1に相当するマイクロ波のデューティ比が取得される。例えば、K1の値が68℃/μmである場合には、かかるK1の値に対応するマイクロ波のデューティ比として50%が取得される。そして、S51においては、それまで使用していたマイクロ波のデューティ比が、S50で取得されたマイクロ波のデューティ比に変更される。
この後、S52において、S48におけると同様にして、CPU31はDLC膜の成膜が終了したかどうか判定する。まだDLC膜の成膜が終了していない場合(S52:NO)には、CPU31は、終了判定用タイマ36の計測時間が「成膜時間(sec)」に達するまで待機する。
一方、終了判定用タイマ36の計測時間が「成膜時間(sec)」に達したと判定した場合には(S52:YES)、S53に移行する。S53では、CPU31は、マイクロ波パルス制御部11にマイクロ波発振器12に送信しているパルス信号を停止するように指示する停止信号を送信する。これにより、マイクロ波発振器12は、マイクロ波の出力を停止する。また、CPU31は、負電圧パルス発生部16に負のバイアス電圧の印加を停止するように指示する停止信号を送信する。これにより、負電圧パルス発生部16は、被加工材料8への負のバイアス電圧の印加を停止する。
更に、CPU31は、S54において、ガス供給部5へ不活性ガスAr及び原料ガスの供給を停止するように指示する停止信号を出力する。これにより成膜処理が終了する。その後、CPU31は、圧力調整バルブ7へ排気を全開にするように指示する排気信号を送信する。圧力調整バルブ7は、全開となり処理容器2内に残留している原料ガス及び不活性ガスを真空ポンプ3ですみやかに排気する。その後、CPU31は、圧力調整バルブ7を全閉するように指示する。更に、CPU31は、圧力調整バルブ7が全閉になった後、大気開放バルブ10を全開するように指示する制御信号を送信する。大気開放バルブ10は、全開となり、処理容器2は、内部の圧力が外気圧と同じになる。
そして、CPU31は、真空ポンプ3を停止した後、真空計26からの信号に基づいて、処理容器2の内部の圧力が外気圧と同じになった場合には、液晶ディスプレイ(LCD)30に成膜終了である旨を表示し、成膜処理を終了する。これにより、作業者又は自動搬送機によってDLC膜が成膜された被加工材料8が取り出される。
第2実施形態に係る成膜装置1では、DLC膜の成膜開始前のS42において、被加工材料8の処理表面温度T0が300℃以下であるかどうか判定し、T0が300℃以下の場合にはマイクロ波の1パルス当たりの供給時間を100μ秒以下に設定するとともに、TLが300℃より高い場合にはマイクロ波の1パルス当たりの供給時間を100μ秒より長い時間に設定する点は、第1実施形態の成膜装置1と同様であるが、更に成膜途中におけるS45において被加工材料8の処理表面温度T0が閾値TCよりも大きいかどうかを判定し、処理表面温度T0が閾値TC以上である場合には、目標昇温率K1を取得するとともに、マイクロ波のデューティ比を目標昇温率K1に対応するデューティ比に変更して成膜を実行している。
前記のよう成膜制御を実行する第2実施形態に係る成膜装置1では、DLC膜の膜厚を更に精度良く目標の膜厚に成膜することができる。
尚、本発明は、前記第1実施形態及び第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。