以下、本発明に係る成膜装置について具体化した一実施形態に基づき図面を参照しつつ詳細に説明する。先ず、本実施形態に係る成膜装置1の概略構成について図1に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る成膜装置1は、処理容器2、真空ポンプ3、ガス供給部5、及び制御部6等から構成されている。処理容器2は、ステンレス等の金属製であって、気密構造の処理容器である。真空ポンプ3は、圧力調整バルブ7を介して処理容器2の内部を真空排気可能なポンプである。処理容器2の内部には、成膜対象である導電性を有する被加工材料8が、ステンレス等で形成された導電性を有する治具9により保持されている。
被加工材料8の材質は、導電性を有していれば、特に限定されるものではないが、本実施形態では低温焼戻し鋼である。ここで低温焼戻し鋼とは、JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材)、G4401(炭素工具鋼鋼材)、G44−4(合金工具用鋼材)、又はマルエージング鋼材などの材料である。被加工材料8は、低温焼戻し鋼以外にも、セラミック、または樹脂に導電性の材料がコーティングされているものでもよい。
ガス供給部5は、処理容器2の内部に成膜用の原料ガスと不活性ガスとを供給する。具体的には、He、Ne、Ar、Kr、またはXeなどの不活性ガスとCH4、C2H2、又はTMS(テトラメチルシラン)等の原料ガスとが供給される。本実施形態では、CH4、C2H2のうちのいずれか1種類、及びTMSの原料ガスにより被加工材料8がDLC成膜処理されるとして説明する。
また、ガス供給部5から供給される原料ガス、および不活性ガスの流量、および圧力が制御部6を介して制御されてもよいし、作業者により制御されてもよい。また、原料ガスは、アルキン、アルケン、アルカン、芳香族化合物などのCH結合を有する化合物、または炭素が含まれる化合物が含まれるガスであればよい。また、H2が原料ガスに含まれてもよい。
処理容器2の内部に保持された被加工材料8に対してDLC成膜処理を行うためのプラズマが発生される。このプラズマは、マイクロ波パルス制御部11、マイクロ波発振器12、マイクロ波電源13、負電圧電源15、及び負電圧パルス発生部16により発生される。本実施形態では、特開2004−47207号公報に開示された方法(以下「MVP法(Microwave−sheath Voltage Combination Plasma法)」という。)により表面波励起プラズマが発生されるとして説明する。以降の記載では、MVP法を説明する。
マイクロ波パルス制御部11は制御部6の指示に従い、パルス信号を発振し、この発振したパルス信号をマイクロ波発振器12へ供給する。マイクロ波発振器12は、マイクロ波パルス制御部11からのパルス信号に従って、マイクロ波パルスを発生する。マイクロ波電源13は、制御部6の指示に従い、指示された出力で2.45GHzのマイクロ波を発振するマイクロ波発振器12へ電力を供給する。つまり、マイクロ波発振器12は、2.45GHzのマイクロ波をマイクロ波パルス制御部11からのパルス信号に従って、パルス状のマイクロ波パルスで供給する。
そして、パルス状のマイクロ波パルスは、マイクロ波発振器12からアイソレータ17、チューナー18、導波管19、導波管19から図示されない同軸導波管変換器を介して突設された同軸導波管21、及び石英などのマイクロ波を透過する誘電体等からなるマイクロ波導入口22を経由し、治具9及び被加工材料8の処理表面に供給される。アイソレータ17は、マイクロ波の反射波がマイクロ波発振器12へ戻ることを防ぐものである。チューナー18は、反射エネルギー検出部で検出した導波管19内を反射してくるマイクロ波の位相と大きさに基づいてマイクロ波の反射波が最小になるようにチューナー18前後のインピーダンスを整合するものである。
マイクロ波導入口22の上端面を除く外周面は、つまり、マイクロ波導入面22Aを除く外周面は、ステンレス等の金属で形成された側面電極23で被覆されている。側面電極23は、処理容器2の内側面にネジ止め等によって固定され、電気的に処理容器2に接続されている。側面電極23は、少なくとも1のネジなどの取付部材で取り付けられればよい。マイクロ波導入口22の中央には同軸導波管21の中心導体が延長されている。治具9も中心導体の延長上にあり、マイクロ波導入口22内では中心導体となる。従って、マイクロ波導入口22の中心導体と側面電極23とで同軸導波管として機能する。
このため、マイクロ波導入口22に供給されたマイクロ波パルスによって、マイクロ波導入口22の治具9が設けられたマイクロ波導入面22A付近にプラズマが生成される。マイクロ波導入口22の中心導体は真空を保持するため、途中で分断されているが、誘電体とのろう付け等で真空が保持されれば、貫通していてもよい。被加工材料8は、例えば棒状であり、マイクロ波導入口22の中心導体の延長線上に保持される。
被加工材料8は、被加工材料8を保持する治具9からマイクロ波導入口22に対して処理容器2の内側に向かって突出するように配置されている。治具9は、マイクロ波導入面22Aから処理容器2の内側に向かって突出する基部9Aと、基部9Aの突出側先端部から処理容器2の内側に向かって突出するテーパー部9Bとから形成されている。テーパー部9Bは、収束部の一例として機能する。また、治具9は、マイクロ波導入口22のマイクロ波導入面22Aの中央部に着脱可能に取り付けられている。
基部9Aは、マイクロ波導入面22Aから表面波として伝搬するマイクロ波の進行方向に対して垂直な断面形状が一定、つまり、マイクロ波の進行方向に対して垂直な面における周囲長が被加工材料8の周囲長の約2.5倍以上で、所定高さ、例えば、約30mm〜50mmの高さの略円柱状に形成されている。例えば、基部9Aは、外径25mmで高さ40mmの円柱状に形成され、被加工材料8は、外径10mmの略棒状に形成されている。
テーパー部9Bは、マイクロ波の進行方向に対して垂直な面における周囲長が被加工材料8側に向かう方向において、連続的に短くなるようにテーパー状に形成され、突出側先端部の周囲長は、被加工材料8の周囲長とほぼ同じ長さになるように形成されている。また、テーパー部9Bは、基部9Aの突出側先端部から処理容器2の内側に向かって所定高さ、例えば、約20mm〜30mmの高さ突出している。例えば、テーパー部9Bは、基部9A側端部の外径が約25mmで、被加工材料8側端部の外径が10mmの略円錐台状に形成され、被加工材料8は、外径10mmの略棒状に形成されている。
治具9は、テーパー部9Bの突出側先端部中央に立設された断面円形の細い軸部9Cが、被加工材料8の下端面の中央部に形成された断面円形の凹部8B内に嵌入されることにより、被加工材料8を保持するように構成されている。また、被加工材料8の治具9に対して反対側の部分は、マイクロ波導入口22に対して処理容器2内に向かって突出するように配置されている。また、被加工材料8の治具9に対して反対側の部分の先端部8Aには、負のバイアス電圧パルスを印加するための負電圧電極25が電気的に接続されている。
負電圧電源15は、制御部6の指示に従い、負電圧パルス発生部16に負のバイアス電圧を供給する。負電圧パルス発生部16は、負電圧電源15から供給された負のバイアス電圧をパルス化する。このパルス化の処理は、負電圧パルス発生部16が制御部6の指示に従い、負のバイアス電圧パルスの大きさ、周期、及び、デューティ比を制御する処理である。このデューティ比に従うパルス状の負のバイアス電圧である負のバイアス電圧パルスが、処理容器2の内部に保持された被加工材料8に負電圧電極25を介して印加される。
即ち、被加工材料8が、金属基材の場合、またはセラミック、または樹脂に導電性の金属材料がコーティングされた場合であっても、被加工材料8の少なくとも処理表面全域に負のバイアス電圧パルスが印加される。また、治具9が、ステンレス等の金属基材の場合、またはセラミック、または樹脂に導電性の金属材料がコーティングされた場合であっても、治具9の表面全域にも被加工材料8を介して負のバイアス電圧パルスが印加される。
そして、発生されたマイクロ波パルス、および負のバイアス電圧パルスの少なくとも一部が同一時間に印加されるように制御されることにより、図1に示すように、表面波励起プラズマ26が発生される。マイクロ波は2.45GHzに限らず、0.3GHz〜50GHzの周波数であればよい。負電圧電源15、および負電圧パルス発生部16が本発明の負電圧印加部の一例である。
マイクロ波パルス制御部11、マイクロ波発振器12、マイクロ波電源13、アイソレータ17、チューナー18、及び導波管19が本発明のマイクロ波供給部の一例である。尚、成膜装置1は負電圧電源15、および負電圧パルス発生部16を備えたが、正電圧電源、および正電圧パルス発生部を備えてもよいし、負電圧パルス発生部16の代わりに、パルス状の負のバイアス電圧でなく、連続する負のバイアス電圧を印加する負電圧発生部を備えてもよい。
図1に示す制御部6は、不図示のCPU、RAM、ROM、ハードディスクドライブ(以下、「HDD」という。)、タイマ等を備え、コンピュータから構成され、成膜装置1の全体の制御を行う。制御部6のROMとHDDは、不揮発性記憶装置であり、マイクロ波パルスと負のバイアス電圧パルスの印加タイミングを示す情報等を記憶している。
制御部6は、負電圧電源15とマイクロ波電源13に制御信号を出力してマイクロ波パルスの印加電力と負電圧パルスの印加電圧を制御する。制御部6は、負電圧パルス発生部16及びマイクロ波パルス制御部11に制御信号を出力することによって、パルス状の負のバイアス電圧パルスの印加タイミング、供給電圧、及びマイクロ波発振器12から発生されるマイクロ波パルスの供給タイミング、及び供給電力を制御する。
また、制御部6は、ガス供給部5に流量制御信号を出力して原料ガス及び不活性ガスの供給を制御する。制御部6は、処理容器2に取り付けられた真空計27から入力される処理容器2内の圧力を表す圧力信号に基づいて、制御信号を圧力調整バルブ7に出力して、処理容器2内の圧力を制御する。
[表面波励起プラズマの説明]
通常、表面波励起プラズマを発生させる場合、ある程度以上の電子(イオン)密度におけるプラズマと、これに接する誘電体との界面に沿ってマイクロ波が供給される。供給されたマイクロ波は、この界面に電磁波のエネルギーが集中した状態で表面波として伝播される。その結果、界面に接するプラズマは高エネルギー密度の表面波によって励起され、さらに増幅される。これにより高密度プラズマが生成されて維持される。ただし、この誘電体を導電性材料に換えた場合、導電性材料は表面波の導波路としては機能せず、好ましい表面波の伝播及びプラズマ励起を生ずることはできない。
一方、プラズマに接する物体の表面近傍には、本質的に単一極性の荷電粒子層、いわゆるシース層が形成される。物体が、負のバイアス電圧を加えた導電性を有する被加工材料8の場合、シース層とは電子密度が低い層、すなわち、正極性であって、マイクロ波の周波数帯においてはほぼ比誘電率ε≒1の層である。このため、印加する負のバイアス電圧の絶対値を例えば−100Vの絶対値より大きくすることによりシース層のシース厚さを厚くできる。すなわちシース層が拡大する。このシース層が、プラズマとプラズマに接する物体との界面に表面波を伝播させる誘電体として作用する。
従って、被加工材料8を保持する治具9の基部9Aの一端が配置されたマイクロ波導入口22からマイクロ波が供給され、かつ被加工材料8及び治具9に負のバイアス電圧が印加されると、マイクロ波はシース層とプラズマとの界面に沿って表面波として伝搬する。この結果、被加工材料8及び治具9の表面に沿って表面波に基づく高密度励起プラズマが発生する。この高密度励起プラズマが、上述した表面波励起プラズマ26である。
このような被加工材料8の表面の近傍での表面波励起による高密度プラズマの電子密度は1017〜1018m―3に達する。このMVP法を用いたプラズマCVDによりDLC成膜処理される場合は、通常の負のバイアス電圧エネルギーのプラズマCVDによりDLC成膜処理される場合よりも1桁から2桁高い成膜速度3〜30(ナノm/秒)が得られる。この結果、MVP法によるプラズマCVDの成膜時間は通常のプラズマCVDの成膜時間の1/10〜1/100となる。
ここで、図1に示す成膜装置1において、治具9の基部9Aの周囲長、つまり、基部9Aの半径を変化させた場合における、被加工材料8の周囲と治具9の基部9Aの周囲に生成される各プラズマ電子密度の解析結果について図2及び図3に基づいて説明する。尚、処理容器2内の圧力は50Pa、負のバイアス電圧は−600V、被加工材料8は外径10mmの円柱状の棒状部材、治具9の基部9Aは、マイクロ波導入面22Aからの軸方向高さ40mmの円柱状、治具9のテーパー部9Bは、軸方向高さ20mmでマイクロ波導入面22Aに対して反対側端部の外径を10mmとして、解析した。
先ず、基部9Aが、半径12.5mm、つまり、周囲長25πmmの円柱状の場合における、治具9及び被加工材料8の周囲に生成されるプラズマ電子密度の解析結果の一例について図2に基づいて説明する。図2に示すように、基部9Aのマイクロ波導入面22Aに対して反対側端部からマイクロ波導入面22A側へ約5mmの位置、つまり、図2中縦軸「10mm」におけるマイクロ波の進行方向(矢印29方向である。)に対して垂直な面31Aにおけるプラズマ電子密度の最大値は、約4.2×1018m−3であった。
そして、治具9のテーパー部9Bの基部9A側端部の位置、つまり、図2中縦軸「15mm」におけるマイクロ波の進行方向に対して垂直な面31Bにおけるプラズマ電子密度の最大値は、約4.4×1018m−3であった。また、テーパー部9Bの被加工材料8側端部の位置、つまり、図2中縦軸「35mm」におけるマイクロ波の進行方向に対して垂直な面31Cにおけるプラズマ電子密度の最大値は、約6.3×1018m−3であった。
従って、テーパー部9Bの周囲のプラズマ電子密度は、基部9A側から被加工材料8側へ連続的に増加している。続いて、被加工材料8のテーパー部9B側端部からマイクロ波進行方向約5mmの位置、つまり、図2中縦軸「40mm」におけるマイクロ波の進行方向に対して垂直な面31Dにおけるプラズマ電子密度の最大値は、約6.6×1018m−3であった。
次に、治具9の基部9Aの半径を被加工材料8の半径5mmから徐々に大きくした場合、つまり、基部9Aの周囲長を10πmmから徐々に大きくした場合における、基部9A及び被加工材料8の周囲に生成されるプラズマ電子密度のそれぞれの最大値の解析結果の一例について図3に基づいて説明する。
尚、被加工材料8は、半径5mm、つまり、外径10mmに固定して解析した。また、テーパー部9Bの被加工材料8側端部も、半径5mm、つまり、外径10mmに固定して解析した。また、基部9Aのマイクロ波導入面22Aに対して反対側端部からマイクロ波導入面22A側へ約5mmの位置におけるマイクロ波の進行方向に対して垂直な面31A(図2参照)におけるプラズマ電子密度の最大値M1を解析した。また、被加工材料8のテーパー部9B側端部からマイクロ波進行方向約5mmの位置におけるマイクロ波の進行方向に対して垂直な面31D(図2参照)におけるプラズマ電子密度の最大値M2を解析した。
図3に示すように、被加工材料8の周囲に生成されるプラズマ電子密度の最大値M2は、基部9Aの各半径5mm〜12.5mmに対して約6.6×1018m−3でほぼ一定値であった。また、基部9Aの周囲に生成されるプラズマ電子密度の最大値M1は、基部9Aの半径が約6mm、つまり、周囲長が12πmmのとき、約6.6×1018m−3で、被加工材料8の周囲に生成されるプラズマ電子密度の最大値M2とほぼ同じであった。そして、基部9Aの周囲に生成されるプラズマ電子密度の最大値M1は、基部9Aの各半径6mm〜12.5mmに対して、周囲長が12πmmから25πmmに増加するに従って、約6.6×1018m−3から約4.0×1018m−3まで直線的に減少している。
従って、図3に示すように、基部9Aの半径を被加工材料8の半径よりも1mm以上長くすることによって、基部9Aの周囲に生成されるプラズマ電子密度を被加工材料8の周囲に生成されるプラズマ電子密度よりも低くすることができる。つまり、基部9Aのマイクロ波の進行方向に対して垂直な面における周囲長を被加工材料8のマイクロ波の進行方向に対して垂直な面における周囲長よりも2πmm以上長くすることによって、基部9Aの周囲に生成されるプラズマ電子密度よりも被加工材料8の周囲に生成されるプラズマ電子密度の方が高くなる。
また、図2に示すように、テーパー部9Bのマイクロ波導入面22Aから遠いところにおけるマイクロ波の進行方向に対して垂直な面におけるプラズマ電子密度の最大値は、テーパー部9Bのマイクロ波導入面22Aに近いところにおけるマイクロ波の進行方向に対して垂直な面におけるプラズマ電子密度の最大値よりも大きくなっている。つまり、基部9Aの表面を進行した表面波として伝搬するマイクロ波が、テーパー部9Bで収束されて被加工材料8の表面に達している。これにより、テーパー部9Bの周囲のプラズマ電子密度は、基部9A側から被加工材料8側へ連続的に増加している。
また、図2及び図3に示すように、基部9Aの半径が6mm以上の場合には、テーパー部9Bのマイクロ波導入面22Aから遠いところにおいて、周囲に生成されるプラズマ電子密度は、テーパー部9Bのマイクロ波導入面22Aに近いところのプラズマ電子密度よりも大きくなっている。つまり、基部9Aの半径を被加工材料8の半径よりも1mm以上長くすることによって、基部9A側から被加工材料8側への伝搬時の減衰による表面波のエネルギー密度の低下よりも、テーパー部9Bによる表面波収束による表面波エネルギー密度の上昇の方が大きくなっている。
次に、負のバイアス電圧を一定にした場合における被加工材料8の周囲に生成されるプラズマ電子密度が治具9の基部9Aの周囲に生成されるプラズマ電子密度よりも高くなる処理容器2内の圧力と基部9Aの最小半径との解析結果の一例について図4に基づいて説明する。この基部9Aの最小半径、つまり、最小周囲長は、基部9A及び被加工材料8の周囲に生成されるプラズマ電子密度のそれぞれの最大値M1、M2がほぼ同じになるときの基部9Aの半径である。
尚、被加工材料8は外径10mmの円柱状の棒状部材、治具9の基部9Aは、マイクロ波導入面22Aからの軸方向高さ40mmの円柱状、治具9のテーパー部9Bは、軸方向高さ20mmでマイクロ波導入面22Aに対して反対側端部の外径を10mmとして、解析した。また、基部9Aのマイクロ波導入面22Aに対して反対側端部からマイクロ波導入面22A側へ約5mmの位置におけるマイクロ波の進行方向に対して垂直な面31A(図2参照)におけるプラズマ電子密度の最大値M1を解析した。また、被加工材料8のテーパー部9B側端部からマイクロ波進行方向約5mmの位置におけるマイクロ波の進行方向に対して垂直な面31D(図2参照)におけるプラズマ電子密度の最大値M2を解析した。
図4に示すように、負のバイアス電圧が−600Vの場合は、処理容器2内の圧力が30Paのとき、基部9Aの最小半径は約7.4mmであり、処理容器2内の圧力が40Paのとき、基部9Aの最小半径は約6.4mmであり、処理容器2内の圧力が50Paのとき、基部9Aの最小半径は約5.8mmである。また、負のバイアス電圧が−400Vの場合は、処理容器2内の圧力が30Paのとき、基部9Aの最小半径は約11.0mmであり、処理容器2内の圧力が40Paのとき、基部9Aの最小半径は約9.1mmであり、処理容器2内の圧力が50Paのとき、基部9Aの最小半径は約8.2mmである。
従って、処理容器2内の圧力が高くなる程、且つ、負のバイアス電圧の絶対値が大きくなる程、被加工材料8の周囲に生成されるプラズマ電子密度が治具9の基部9Aの周囲に生成されるプラズマ電子密度よりも高くなるときの基部9Aの最小半径、つまり、最小周囲長は、被加工材料8の周囲長に近づくように短くすることができると考えられる。
また、基部9Aの半径が、基部9Aの最小半径よりも小さく、且つ、被加工材料8の半径よりも大きい場合には、テーパー部9Bにおいて表面波として伝搬するマイクロ波の収束される割合が低くなると考えられる。そのため、テーパー部9Bのマイクロ波導入面22Aから遠いところのプラズマ電子密度が、テーパー部9Bのマイクロ波導入面22Aに近いところにおけるプラズマ電子密度よりも大きくならないと考えられる。
一方、基部9Aの半径が、基部9Aの最小半径よりも大きい場合には、テーパー部9Bにおいて表面波として伝搬するマイクロ波の収束される割合が大きくなると考えられる。そのため、テーパー部9Bのマイクロ波導入面22Aから遠いところのプラズマ電子密度が、テーパー部9Bのマイクロ波導入面22Aに近いところにおけるプラズマ電子密度よりも高くなると考えられる。
次に、被加工材料8の周囲に生成されるプラズマ電子密度が治具9の基部9Aの周囲に生成されるプラズマ電子密度よりも高くなる処理容器2内の圧力と負のバイアス電圧との解析結果の一例について図5に基づいて説明する。つまり、処理容器2内の各圧力に対して、基部9A及び被加工材料8の周囲に生成されるプラズマ電子密度のそれぞれの最大値がほぼ同じになるときの負のバイアス電圧を解析した。
尚、被加工材料8は外径10mmの円柱状の棒状部材、治具9の基部9Aは、外径25mmでマイクロ波導入面22Aからの軸方向高さ40mmの円柱状、治具9のテーパー部9Bは、軸方向高さ20mmでマイクロ波導入面22Aに対して反対側端部の外径を10mmとして、解析した。また、基部9Aのマイクロ波導入面22Aに対して反対側端部からマイクロ波導入面22A側へ約5mmの位置におけるマイクロ波の進行方向に対して垂直な面31A(図2参照)におけるプラズマ電子密度の最大値を解析した。また、被加工材料8のテーパー部9B側端部からマイクロ波進行方向約5mmの位置におけるマイクロ波の進行方向に対して垂直な面31D(図2参照)におけるプラズマ電子密度の最大値を解析した。
図5に示すように、処理容器2内の圧力が30Paの場合、負のバイアス電圧が約−350Vのとき、基部9A及び被加工材料8の周囲に生成されるプラズマ電子密度のそれぞれの最大値がほぼ同じになった。また、処理容器2内の圧力が40Paの場合、負のバイアス電圧が約−310Vのとき、基部9A及び被加工材料8の周囲に生成されるプラズマ電子密度のそれぞれの最大値がほぼ同じになった。
また、処理容器2内の圧力が50Paの場合、負のバイアス電圧が約−270Vのとき、基部9A及び被加工材料8の周囲に生成されるプラズマ電子密度のそれぞれの最大値がほぼ同じになった。また、処理容器2内の圧力が75Paの場合、負のバイアス電圧が約−210Vのとき、基部9A及び被加工材料8の周囲に生成されるプラズマ電子密度のそれぞれの最大値がほぼ同じになると考えられる。
また、図5に示す曲線よりも上の領域では、テーパー部9Bのマイクロ波導入面22Aから遠いところのプラズマ電子密度が、テーパー部9Bのマイクロ波導入面22Aに近いところにおけるプラズマ電子密度よりも高くなると考えられる。また、図5に示す曲線よりも下の領域では、テーパー部9Bのマイクロ波導入面22Aから遠いところのプラズマ電子密度は、テーパー部9Bのマイクロ波導入面22Aに近いところにおけるプラズマ電子密度よりも大きくならないと考えられる。
従って、処理容器2内の圧力範囲を30Pa〜80Paに設定して成膜処理をする場合には、負のバイアス電圧を−200V以下の低い電圧にする必要があると考えられる。望ましくは、−350Vより低い電圧が望ましい。また、この場合には、被加工材料8は外径10mmで、基部9Aは外径25mmであるため、基部9Aのマイクロ波の進行方向に対して垂直な面における周囲長を被加工材料8のマイクロ波の進行方向に対して垂直な面における周囲長の2.5倍以上に設定するのが望ましいと考えられる。これにより、基部9Aの周囲に生成されるプラズマ電子密度よりも被加工材料8の周囲に生成されるプラズマ電子密度の方が大きくなると考えられる。
[成膜中の異常放電回数の測定]
次に、上記のように構成された成膜装置1において、実施例1乃至実施例8、比較例1についてDLC膜の成膜中における異常放電回数を測定した実験結果の一例について図6乃至図15に基づいて説明する。尚、以下の説明において上記図1乃至図5の本実施形態に係る成膜装置1の構成等と同一符号は、本実施形態に係る成膜装置1の構成等と同一あるいは相当部分を示すものである。また、本発明は、これらの実施例1乃至実施例8により何ら制限されるものではない。
図6に示す評価結果テーブル33は、実施例1乃至実施例8、比較例1のそれぞれについて測定した実験結果の一例を示し、「収束部」、「包囲壁」、「包囲壁の高さ」、「基部中心導体の直径」、「DLC成膜時異常放電回数」から構成されている。「収束部」の「テーパー部」は、治具9の基部9Aと被加工材料8との間に収束部としてテーパー部9Bが設けられている旨を表している。また、「収束部」の「階段状部」は、治具9の基部9Aと被加工材料8との間に収束部として図14に示す階段状部9Eが設けられている旨を表している。また、「収束部」の「無し」は、治具9の基部9Aと被加工材料8との間に収束部が設けられていない旨を表している。
「包囲壁」の「有り」と「無し」は、側面電極23のマイクロ波導入面22Aの外周に接触する部分から、側面電極23の全周に渡って処理容器2内へ所定高さで突出された筒状の包囲壁が設けられているか否かを表している。「包囲壁の高さ」は、包囲壁のマイクロ波導入面22Aからの高さを表している。「基部中心導体の直径」は、基部9Aのマイクロ波導入面22A側端面に設けられた中心導体35等の直径を表している。「DLC成膜時異常放電回数」は、下記成膜条件でDLC成膜を行った際の成膜時間50秒の間に発生した異常放電回数の一例を表している。
次に、実施例1乃至実施例8、比較例1の成膜処理及び成膜条件について説明する。制御部6は、不活性ガスとしてAr、原料ガスとしてCH4、およびTMSを処理容器2にそれぞれ50sccm、200sccm、40sccmで供給した。すなわち、処理容器2には、290sccmのガスが供給された。制御部6は、圧力調整バルブ7へ処理容器2の圧力を80Paに制御するように指示した。
続いて、制御部6は、マイクロ波電源13にマイクロ波供給電力値を指示し、マイクロ波パルス制御部11にマイクロ波パルス31のオン信号、及びオフ信号を所定周期で送信する。具体的には、2.45GHzのマイクロ波については、電力が2kW電力、マイクロ波パルスのパルス周期が1ミリ秒、マイクロ波パルスの印加時間が0.5ミリ秒に設定された。
同時に、制御部6は、負電圧電源15に負のバイアス電圧値を指示する。また、制御部6は、負電圧パルス発生部16に負のバイアス電圧パルスのオン信号、及びオフ信号を所定周期で送信する。具体的には、負のバイアス電圧パルスについては、電圧が−600V、パルス周期が1ミリ秒、負のバイアス電圧パルスの印加時間が0.5ミリ秒に設定された。マイクロ波パルスの供給と負のバイアス電圧パルスの印加のタイミングは8マイクロ秒だけマイクロ波パルスが先行するように設定された。そして、制御部6は、マイクロ波パルスと負のバイアス電圧パルスを印加して、成膜時間を50秒に設定して成膜した。
(実施例1)
先ず、実施例1について図6及び図7に基づいて説明する。図6及び図7に示すように、実施例1は、本実施形態に係る成膜装置1の構成と同じ構成である。また、治具9の基部9Aは、外径25mmで高さ40mmの円柱状に形成され、マイクロ波導入面22A側端面の中央には、基部9Aの中心導体35が、同軸導波管21の中心導体36に対して同軸上に、中心導体36と同一径でマイクロ波導入口22側へ突出されている。また、被加工材料8は、外径10mmの略円柱状に形成されている。
そして、治具9のテーパー部9Bは、マイクロ波の進行方向に対して垂直な面における周囲長が被加工材料8側に向かう方向において、連続的に短くなるようにテーパー状に形成され、突出側先端部の周囲長は、被加工材料8の周囲長とほぼ同じ長さになるように形成されている。また、テーパー部9Bは、基部9Aの突出側先端部から処理容器2の内側に向かって約20mmの高さで突出している。このように構成された実施例1では、評価結果テーブル33に示すように、DLC成膜時の異常放電回数は、「12回」であった。
(実施例2)
次に、実施例2について図6及び図8に基づいて説明する。図6及び図8に示すように、実施例2は、実施例1とほぼ同じ構成である。但し、側面電極23は、マイクロ波導入面22Aの外周に接触する部分から、側面電極23の全周に渡って処理容器2内へ約30mmの高さで突出された筒状の包囲壁23Aが形成されている。包囲壁23Aは、治具9の基部9Aの約3/4の部分を内側に囲むようにマイクロ波導入面22Aの全周に渡って形成されている。即ち、包囲壁23Aは、ステンレス等の金属で形成されている。
従って、包囲壁23Aの処理容器2内側の先端部38Aは、治具9の基部9Aの上端部よりも低くなるように形成されている。また、包囲壁23Aの内周面から基部9Aの外周面までの距離は、2mm以下になるように形成されている。従って、包囲壁23Aは、マイクロ波導入面22A側が閉塞され、且つ、処理容器2内側が開放された略円筒状に形成され、基部9Aを囲む包囲空間37Aを内側に形成している。このように構成された実施例2では、評価結果テーブル33に示すように、DLC成膜時の異常放電回数は、「12回」であった。
ここで、包囲壁23Aの内周面と基部9Aの外周面との間に形成された包囲空間37Aは、シース層のシース厚さ方向の幅が狭く、且つ、マイクロ波が伝搬する伝搬方向へ高くなるように形成される。これにより、包囲空間37A内へ供給された原料ガスにより治具9の基部9Aへの成膜が行われた後に、プラズマ化された不活性ガスで満たされた包囲空間37A内への更なる原料ガスの供給を低減することができ、マイクロ波導入面22Aへの膜成分の付着量を低減することができる。
ここで、包囲壁23Aの内周面から基部9Aの外周面までの距離は2mm以下、望ましくは1mm以下である。また、マイクロ波導入面22Aから包囲壁23Aの先端部38Aまでの高さは、30mm以上になるように形成されるのが望ましい。これによりマイクロ波導入面22Aへの膜成分の付着による汚れを大幅に抑制することができ生産性が向上する。包囲壁23Aの内周面から基部9Aの外周面までの距離が3mm以上となるとマイクロ波導入面22Aの汚れの抑制効果が小さくなり、頻繁にマイクロ波導入面22Aの清掃が必要となる。
(実施例3)
次に、実施例3について図6及び図9に基づいて説明する。図6及び図9に示すように、実施例3は、実施例2とほぼ同じ構成である。但し、側面電極23は、マイクロ波導入面22Aの外周に接触する部分から、側面電極23の全周に渡って処理容器2内へ約40mmの高さで突出された筒状の包囲壁23Bが形成されている。包囲壁23Bは、治具9の基部9Aを内側に囲むようにマイクロ波導入面22Aの全周に渡って形成されている。即ち、包囲壁23Bは、ステンレス等の金属で形成されている。
従って、包囲壁23Bの処理容器2内側の先端部38Bは、治具9の基部9Aの上端部とほぼ同一高さになるように形成されている。また、包囲壁23Bの内周面から基部9Aの外周面までの距離は、2mm以下になるように形成されている。従って、包囲壁23Bは、マイクロ波導入面22A側が閉塞され、且つ、処理容器2内側が開放された略円筒状に形成され、基部9Aを囲む包囲空間37Bを内側に形成している。このように構成された実施例3では、評価結果テーブル33に示すように、DLC成膜時の異常放電回数は、「90回」であった。
(実施例4)
次に、実施例4について図6及び図10に基づいて説明する。図6及び図10に示すように、実施例4は、実施例2とほぼ同じ構成である。但し、側面電極23は、マイクロ波導入面22Aの外周に接触する部分から、側面電極23の全周に渡って処理容器2内へ約50mmの高さで突出された筒状の包囲壁23Cが形成されている。包囲壁23Cは、治具9の基部9A及びテーパー部9Bの一部を内側に囲むようにマイクロ波導入面22Aの全周に渡って形成されている。即ち、包囲壁23Cは、ステンレス等の金属で形成されている。
また、包囲壁23Cの処理容器2内側の先端部38Cは、治具9のテーパー部9Bの軸方向略中央部とほぼ同一高さになるように形成されている。また、包囲壁23Cの内周面から基部9Aの外周面までの距離は、2mm以下になるように形成されている。従って、包囲壁23Cは、マイクロ波導入面22A側が閉塞され、且つ、処理容器2内側が開放された略円筒状に形成され、基部9A及びテーパー部9Bの一部を囲む包囲空間37Cを内側に形成している。このように構成された実施例4では、評価結果テーブル33に示すように、DLC成膜時の異常放電回数は、「1820回」であった。
(実施例5)
次に、実施例5について図6及び図11に基づいて説明する。図6及び図11に示すように、実施例5は、実施例2とほぼ同じ構成である。但し、治具9の基部9Aのマイクロ波導入面22A側端面の中央には、中心導体35の直径よりも大きい直径、つまり、同軸導波管21の中心導体36の直径よりも大きい直径の中心導体39が突出されている。従って、中心導体39は、同軸導波管21の中心導体36に対して同軸上に、マイクロ波導入口22側へ突出されている。このように構成された実施例5では、評価結果テーブル33に示すように、DLC成膜時の異常放電回数は、「15回」であった。
(実施例6)
次に、実施例6について図6及び図12に基づいて説明する。図6及び図12に示すように、実施例6は、実施例2とほぼ同じ構成である。但し、治具9の基部9Aのマイクロ波導入面22A側端部は、実施例2に係る中心導体35の軸方向長さにほぼ等しい長さだけ、マイクロ波導入面22Aから軸方向に基部9Aと同一外径で突出され、中心導体41を形成している。従って、中心導体41は、同軸導波管21の中心導体36に対して同軸上に、基部9Aと同一外径でマイクロ波導入口22側へ突出されている。このように構成された実施例6では、評価結果テーブル33に示すように、DLC成膜時の異常放電回数は、「16回」であった。
(実施例7)
次に、実施例7について図6及び図13に基づいて説明する。図6及び図13に示すように、実施例7は、実施例2とほぼ同じ構成である。但し、マイクロ波導入面22Aの中央に立設された断面円形の細い、例えば、直径5mmの軸部22Bが、治具9の基部9Aのマイクロ波導入面22A側端面の中央に形成された断面円形の凹部9D内に嵌入され、治具9がマイクロ波導入面22Aの中央に保持されている。
従って、軸部22Bは、石英などのマイクロ波を透過する誘電体等からなる。また、同軸導波管21の中心導体42は、軸部22Bに対して同軸上に、マイクロ波導入面22Aの中央の近傍位置まで突出されている。このように構成された実施例7では、評価結果テーブル33に示すように、DLC成膜時の異常放電回数は、「2回」であった。
(実施例8)
次に、実施例8について図6及び図14に基づいて説明する。図6及び図14に示すように、実施例8は、実施例2とほぼ同じ構成である。但し、治具9のテーパー部9Bに替えて、基部9Aの突出側先端部から処理容器2の内側に向かって階段状部9Eが形成されている。この階段状部9Eは、マイクロ波の進行方向に対して垂直な面における周囲長が被加工材料8側に向かう方向において、段階的に短くなるように階段状に形成されている。
この階段状部9Eは、基部9Aの突出側先端部から同軸に突出する略円板状の段差部45と段差部46とから構成されている。段差部45は、基部9Aの突出側先端部から処理容器2の内側に向かって高さ10mmで外径20mmの略円板状に突出する。また、段差部46は、段差部45の突出側先端部から処理容器2の内側に向かって高さ10mmで外径15mmの略円板状に突出する。また、軸部9Cは、段差部46の突出側先端部中央に立設され、被加工材料8の下端面の中央部に形成された断面円形の凹部8B内に嵌入されることにより、被加工材料8を保持するように構成されている。
このように構成された実施例8では、評価結果テーブル33に示すように、DLC成膜時の異常放電回数は、「8回」であった。ここで、評価結果テーブル33に示すように、実施例8におけるDLC成膜時の異常放電回数が、実施例2におけるDLC成膜時の異常放電回数よりも少ないのは、各段差部45、46の周囲に形成されたシース層が不連続な形状になるためである。そのため、シース層内を表面波として伝搬するマイクロ波がシース層の不連続な部分で反射され、階段状部9Eの周囲に生成されるプラズマ電子密度が、テーパー部9Bの周囲に生成されるプラズマ電子密度よりも減少するためであると考えられる。即ち、階段状部9Eは、段差の数が多い方が周囲に形成されたシース層の不連続な部分が多くなるため、少なくとも2段差を有するように構成されるのが望ましい。
(比較例1)
次に、比較例1について図6及び図15に基づいて説明する。図6及び図15に示すように、比較例1は、治具9に替えて、外径10mmで高さ60mmの円柱状に形成された治具48が、マイクロ波導入面22Aから処理容器2の内側に向かって突出されている。また、治具48のマイクロ波導入面22A側端部は、実施例1に係る中心導体35の軸方向長さにほぼ等しい長さだけ、マイクロ波導入面22Aから軸方向に同一外径で突出され、中心導体49を形成している。従って、中心導体49は、同軸導波管21の中心導体36に対して同軸上に、治具48と同一外径でマイクロ波導入口22側へ突出されている。
また、治具48は、突出側先端部中央に立設された断面円形の細い軸部9Cが、被加工材料8の下端面の中央部に形成された断面円形の凹部8B内に嵌入されることにより、被加工材料8を保持するように構成されている。そして、側面電極23は、マイクロ波導入面22Aの外周に接触する部分から、側面電極23の全周に渡って処理容器2内へ約60mmの高さで突出された筒状の包囲壁23Dが形成されている。包囲壁23Dは、ステンレス等の金属で形成されている。
従って、包囲壁23Dの処理容器2内側の先端部38Dは、治具48の上端部とほぼ同一高さになるように形成されている。また、包囲壁23Dの内周面から治具48の外周面までの距離は、2mm以下になるように形成されている。従って、包囲壁23Dは、マイクロ波導入面22A側が閉塞され、且つ、処理容器2内側が開放された略円筒状に形成され、治具48を囲む包囲空間37Dを内側に形成している。このように構成された比較例1では、評価結果テーブル33に示すように、DLC成膜時の異常放電回数は、「8100回」であった。
以上詳細に説明した通り、本実施形態に係る成膜装置1では、治具9の基部9Aの表面波の伝搬方向に対して垂直な面における周囲長が、被加工材料8の表面波の伝搬方向に対して垂直な面における周囲長よりも長くなるように形成されている。基部9Aの周囲長は、被加工材料8の周囲長の2.5倍以上が望ましい。また、基部9Aの処理容器2内側の突出端部には、表面波の伝搬方向に対して垂直な面における周囲長が、表面波の伝搬方向において連続的に短くなるテーパー状に形成されたテーパー部9B、又は、周囲長が表面波の伝搬方向において段階的に短くなる階段状部9Eが、設けられている。
これにより、基部9Aの表面波の伝搬方向に対して垂直な面を通り抜ける表面波の電力密度を低下させることができる。従って、基部9Aの周囲に生成されるプラズマ電子密度も低下し、大きな電力のマイクロ波を表面波として伝搬させても異常放電を抑制することができる。また、テーパー部9B又は階段状部9Eは、被加工材料8側端部の周囲長が基部9A側端部の周囲長よりも短いため、表面波の伝搬方向に対して垂直な面を通り抜ける表面波の電力密度は、表面波の伝搬方向において収束されて増加する。
従って、被加工材料8の処理表面を伝搬する表面波の電力密度は、テーパー部9B又は階段状部9Eのマイクロ波導入面22A側端部を伝搬する表面波の電力密度よりも高くなるため、被加工材料8の処理表面の周囲に生成されるプラズマ電子密度を高くすることができ、高速成膜が可能となる。また、テーパー部9Bは、表面波の伝搬方向に対して垂直な面における周囲長が、表面波の伝搬方向において連続的に短くなるテーパー状に形成されているため、シース層を伝搬する表面波の反射を小さくして、被加工材料8の処理表面の周囲に生成されるプラズマ電子密度を高くすることが可能となる。また、階段状部9Eは、表面波の伝搬方向に対して垂直な面における周囲長が、段階的に短くなるように形成されているため、容易に作製することが可能となる。
また、マイクロ波導入口22のマイクロ波導入面22Aを囲み、マイクロ波導入面22Aよりもマイクロ波が伝搬する伝搬方向へ突出する各包囲壁23A、23Bを設けることによって、マイクロ波導入面22Aへの膜成分の付着量を低減させることができる。また、各包囲壁23A、23Bの先端部38A、38Bは、基部9Aのマイクロ波導入面22Aに対して反対側の端部よりも低い高さ、若しくは、同じ高さに形成されるのが好ましい。これにより、各包囲壁23A、23Bを設けても、基部9Aの周囲に生成されるプラズマ電子密度を低下させることができ、各包囲壁23A、23Bの先端部38A、38Bにおける異常放電を抑制することが可能となる。
尚、本発明は前記実施形態に限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。例えば、以下のようにしてもよい。また、以下の説明において、上記図1乃至図15に示す前記実施形態に係る成膜装置1の構成等と同一符号は、前記実施形態に係る成膜装置1の構成等と同一あるいは相当部分を示すものである。
[他の第1実施形態]
(A)例えば、図16に示すように、治具9に替えて、治具51を設けてもよい。治具51は、治具9とほぼ同じ構成であるが、基部9A及びテーパー部9Bの外周面から周方向等間隔で4個の平面視1/4円形の溝部52が半径方向内側に窪むように形成されている。また、直径方向に相対向する一対の溝部52間の径方向の間隔は、被加工材料8の直径とほぼ同じ寸法に形成されている。従って、治具51の表面波として伝搬するマイクロ波の進行方向に対して垂直な断面形状は、略十字状に形成されている。
これにより、治具51の基部9A及びテーパー部9Bの、マイクロ波の進行方向に対して垂直な面における周囲長は、略十字状に形成された断面形状の外周長となるため、治具9の断面円形の基部9Aの外周長よりも容易に長くすることができる。その結果、治具51の基部9A及びテーパー部9Bの周囲に生成されるプラズマ電子密度を更に低下させ、大きな電力のマイクロ波を表面波として伝搬させても異常放電を効果的に抑制することができる。
また、テーパー部9Bの被加工材料8側端部の周囲長は、基部9A側端部よりも短いため、テーパー部9Bにおいて、表面波の伝搬方向に対して垂直な面を通り抜ける表面波の電力密度は、表面波の伝搬方向において収束されて増加する。これにより、被加工材料8の処理表面を伝搬する表面波の電力密度は、テーパー部9Bのマイクロ波導入面22A側端部を伝搬する表面波の電力密度よりも高くなるため、被加工材料8の処理表面の周囲に生成されるプラズマ電子密度を高くすることができ、高速成膜が可能となる。
[他の第2実施形態]
(B)また、例えば、図17に示すように、治具9に替えて、治具55を設けてもよい。治具55は、治具9とほぼ同じ構成であるが、基部9Aのマイクロ波導入面22Aに対して反対側の端部には、処理容器2の内側に向かって突出する2つのテーパー部56が形成されている。各テーパー部56は、基部9A側端部の直径が基部9Aの半径の長さにほぼ等しくなるように形成され、処理容器2の内側に向かって所定高さ、例えば、約20mm〜30mmの高さ突出している。
また、各テーパー部56は、マイクロ波の進行方向に対して垂直な面における周囲長が被加工材料57側に向かう方向において、連続的に短くなるようにテーパー状に形成され、突出側先端部の周囲長は、被加工材料57の周囲長とほぼ同じ長さになるように形成されている。例えば、基部9Aは、長さ40mmで外径25mmの円柱状に形成されている。各テーパー部56は、基部9A側端部の外径が約12.5mmで、被加工材料57側端部の外径が5mmの略円錐台状に形成されている。また、各被加工材料57は、外径5mmの略棒状に形成されている。そして、各被加工材料57に負電圧電極25を介してパルス状の負のバイアス電圧が印加される。
これにより、複数の細い被加工材料57を同時にDLC成膜することが可能となり、生産性の向上を図ることができる。また、治具55の基部9A及び各テーパー部56の、マイクロ波の進行方向に対して垂直な面における周囲長を容易に長くすることができる。その結果、治具55の基部9A及び各テーパー部56の周囲に生成されるプラズマ電子密度を低下させ、大きな電力のマイクロ波を表面波として伝搬させても異常放電を効果的に抑制することが可能となる。
[他の第3実施形態]
(C)また、例えば、図18に示すように、前記実施例4に係る包囲壁23Cに替えて、包囲壁23Eを設けてもよい。包囲壁23Eは、包囲壁23Cとほぼ同じ構成であるが、テーパー部9Bの基部9A側端部に対向する部分から上側の部分が、テーパー部9Bの外周面までの距離が約2mm以下となるように連続的に先細りになるように形成されている。また、包囲壁23Eの先端部38Eは、治具9のテーパー部9Bの軸方向略中央部とほぼ同一高さになるように形成されている。
従って、包囲壁23Eは、マイクロ波導入面22A側が閉塞され、且つ、処理容器2内側が開放された略円筒状に形成され、基部9A及びテーパー部9Bの外周面を約2mm以下の距離の隙間で囲む先細りの包囲空間37Eを内側に形成している。これにより、包囲空間37E内へ供給された原料ガスにより基部9A及びテーパー部9Bへの成膜が行われた後に、プラズマ化された不活性ガスで満たされた包囲空間37E内への更なる原料ガスの供給を確実に低減することができ、マイクロ波導入面22Aへの膜成分の付着量を効果的に低減することができる。
[他の第4実施形態]
(D)また、例えば、図19に示すように、負電圧電極25に替えて、負電圧印加端子部材の一例として機能する負電圧電極61を設けてもよい。負電圧電極61は、治具9の基部9Aの外周面に電気的に接続され、負電圧印加線62を介して負のバイアス電圧パルスを治具9及び被加工材料8に印加する。この負電圧印加線62は、負電圧パルス発生部16に電気的に接続されている。
尚、基部9Aの周囲に生成されるプラズマ電子密度は、テーパー部9Bの周囲に生成されるプラズマ電子密度よりも低いため、負電圧電極61は、基部9Aの外周面に電気的に接続されるのが好ましい。また、表面波として伝搬するマイクロ波が収束するテーパー部9Bに負電圧電極61を取り付けた場合には、負電圧電極61に沿って表面波として伝搬するマイクロ波が多くなる。このため、負電圧電極61は、表面波として伝搬するマイクロ波が収束していない基部9Aの外周面に電気的に接続されるのが望ましい。
また、負電圧印加線62には、負電圧電極61を介して表面波として伝搬するマイクロ波を反射する表面波反射部材63が取り付けられている。表面波反射部材63は、負電圧電極61から離れた位置で負電圧印加線62に取り付けられている。表面波反射部材63は、負電圧印加線62とは石英等の誘電体64で絶縁された浮遊電位のステンレス等の金属から形成されている。
これにより、表面波反射部材63が負電圧印加線62に取り付けられているため、表面波反射部材63を介して負電圧印加線62に沿って表面波として伝搬するマイクロ波を負電圧電極61側へ反射することができ、マイクロ波が負電圧印加線62に沿って伝搬することを抑止することができる。また、成膜装置1の奏する効果に加えて、負電圧電極61を治具9の基部9Aの外周面に電気的に接続することによって、治具9と接触しない被加工材料8の先端部8Aを含む領域をDLC成膜することができる。