以下、車両の減速制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明は例示である。
(車両の駆動システム)
図1は、実施形態に係る車両の駆動システム9の構成を示している。駆動システム9は、車輪91に駆動力を伝達可能なエンジン10と、車輪91に駆動力を伝達可能なモータ/ジェネレータ92とを備えている。この駆動システム9は、エンジン10及びモータ/ジェネレータ92を含む、いわゆるハイブリッドシステムであり、車両は、走行状態に応じて、モータ/ジェネレータ92により駆動しエンジン10を停止させるモータ走行モードと、エンジン10により駆動しモータ/ジェネレータ92を停止させるエンジン走行モードと、モータ/ジェネレータ92とエンジン10との双方を駆動する併用走行モードと、を切り換えながら走行する。
エンジン10の出力軸は、クラッチ93及びモータ/ジェネレータ92を介して、自動変速機94に接続している。自動変速機94は、詳細な図示は省略するが、その内部に、遊星歯車機構と、遊星歯車機構に含まれる各回転要素の回転を選択的に規制する、複数のクラッチ要素及びブレーキ要素とを含んで構成されている。自動変速機94の内部には、エンジン10及びモータ/ジェネレータ92と車輪91との間でトルクを伝達する状態と、トルクの伝達を遮断した状態とに切り替わるクラッチ941が設けられている。このクラッチ941は、車両の停止状態で、エンジン10がモータ/ジェネレータ92を駆動する際に、車輪91側へのトルクの伝達を遮断する際に用いられる。
この自動変速機94には、パーキングレンジ(Pレンジ)、リバースレンジ(Rレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)、ドライブレンジ(Dレンジ)及びブレーキレンジ(Bレンジ)の5つのレンジが設定されている。この内、Bレンジは、シフトダウンを行うレンジであり、Bレンジを選択したときには、現在の変速段に対して一段低速の変速段になる。運転者は、シフトレバーを、DレンジとBレンジとの間で相互に移行する操作が可能であり、BレンジからDレンジに移行し、所定時間以内に再びBレンジに移行したときには、自動変速機94は、さらにもう一段低速の変速段になる。従って、BレンジとDレンジとの間の移行を繰り返すことによって、自動変速機94の変速段を、一段ずつシフトダウンすることが可能である。尚、Bレンジの機能としては、前記とは異なり、Bレンジを選択したときに、現在の変速段に対して一段低速の変速段になった後、車両の減速と共に順次シフトダウンを行うようにしてもよい。このBレンジが、減速時に選択されたときには変速段をシフトダウンさせる特定レンジに対応する。尚、Bレンジを設ける代わりに、又は、Bレンジに加えて、マニュアルレンジ(Mレンジ)を設けてもよい。Mレンジは、運転者が任意の変速段を選択可能にするレンジであり、このMレンジもまた、減速時に選択されたときには変速段をシフトダウンさせる特定レンジに対応し得る。
運転者が選択したレンジは、シフトポジションセンサ981により検出される。シフトポジションセンサ981は、検出信号を、後述するTCM98に出力する。
自動変速機94は、駆動力を左右に配分する差動装置95を介して、車輪91に連結される。尚、図1の例では、左右一方の車輪91のみを図示している。
エンジン10の詳細は後述するが、図1に示すように、エンジン10には、統合型のスタータ/ジェネレータが、クランク軸に対しベルトを介して連結されている(つまり、Belt Integrated Starter Generator:BISG101を備えている)。エンジン10は、車両の走行中に、BISG101による始動が行われる。
モータ/ジェネレータ92は、例えば3相の交流同期モータであって、バッテリ96及びインバータ97を介して供給された駆動電流により駆動して、車輪91に動力を伝達する状態(つまり、力行運転状態)と、エンジン10によって駆動されることで発電する状態(つまり、発電運転状態)とを切り換え可能に構成されている。ここで、前記のモータ走行モードには、モータ/ジェネレータ92の駆動力によって走行している状態、モータ/ジェネレータ92を回生させながら走行している状態、モータ/ジェネレータ92が何ら作動せずに惰性で走行している状態、の少なくとも3つの状態を含む。
エンジン10とモータ/ジェネレータ92との間に介設されているクラッチ93は、モータ走行モード時を含む、エンジン10を停止しているときに遮断される。これにより、車両の走行に連動してエンジン10が引き摺られながら従動回転する引き摺り現象が回避される。
この駆動システム9はまた、車輪91に設けられたブレーキ機構104に対して、ブレーキペダルの踏み込みによるブレーキ圧とは独立して、ブレーキ圧を供給可能なアクチュエータ103を備えている。アクチュエータ103がブレーキ圧をブレーキ機構104に供給することにより、車輪91に制動力が付与される。このようなブレーキシステムは、いわゆるヒルホルダ機能を実現することを可能にする。
PCM(Powertrain Control Module)100は、この駆動システム9においては、エンジン10、BISG101、クラッチ93、及びインバータ97をそれぞれ制御する。TCM(Transmission Control Module)98は、自動変速機94を制御する。PCM100及びTCM98によって、前述したように、モータ走行モード、エンジン走行モード、併用走行モードを切り換える。BCM(Brake Control Module)102は、ブレーキのアクチュエータ103を制御する。PCM100、TCM98及びBCM102は、例えば、車載ネットワーク(Controller Area Network:CAN)によって互いに接続されている。
(エンジンの構成)
図2は、エンジンの構成を示すブロック図である。このエンジンシステム1は、車両に搭載されると共に、軽油を主成分とした燃料が供給されるディーゼルエンジンのシステムである。
エンジン10は、図1では1つのみ示すが、複数のシリンダ11を有している。各シリンダ11には、図示を省略するクランク軸に連結されたピストン12が嵌挿していると共に、シリンダ11内に燃料を噴射するインジェクタ21が設けられている。
インジェクタ21は、シリンダ11の中心軸上に配設されている。インジェクタ21の先端には、図示は省略するが、複数の噴射孔が周方向に所定の間隔を空けて配設されており、インジェクタ21は、各噴射孔を通じて、シリンダ11内に放射状に燃料を噴射する。
エンジン10には、シリンダ11毎に吸気ポート及び排気ポートが形成されていると共に、これら吸気ポート及び排気ポートに、ポートを開閉する吸気弁15及び排気弁16が配設されている。吸気弁15及び排気弁16を駆動する動弁系には、少なくとも吸気弁15の開弁時期及び排気弁16の開弁時期を変更可能な動弁機構22が設けられている。
各シリンダ11の吸気ポートは、図1において明示されない吸気マニホールドを介して吸気通路30に連通している。また、各シリンダ11の排気ポートは、同様に明示されない排気マニホールドを介して排気通路40に連通している。
吸気通路30には、ターボ過給システム6の大型コンプレッサ611及び小型コンプレッサ621と、該コンプレッサ611,621により圧縮された空気を冷却するインタークーラ31と、各シリンダ11への吸入空気量を調節する吸気シャッター弁32とが、上流から下流に向かって順に配設されている。
排気通路40には、ターボ過給システムの小型タービン622及び大型タービン612と、排気ガス中の有害成分を浄化する酸化触媒及び排気ガス中の粒子状物質を捕捉するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)を含む排気浄化装置41と、排気シャッター弁42とが、上流から下流に向かって順に配設されている。
吸気通路30における小型コンプレッサ621の下流側部分(より正確には、吸気シャッター弁32の下流側部分)と、排気通路40における小型タービン622の上流側部分とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するための高圧EGR通路510によって接続されている。高圧EGR通路510は、主通路511と、主通路511に対して並列に設けられたクーラバイパス通路512とを含んで構成されている。主通路511には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するための高圧EGR弁513及び排気ガスを冷却するためのEGRクーラ514が配設され、クーラバイパス通路512には、このクーラバイパス通路512を流通する排気ガスの流量を調整するためのクーラバイパス弁515が配設されている。これら高圧EGR通路510、高圧EGR弁513及びクーラバイパス弁515、並びにEGRクーラ514を含んで、高圧EGRシステム51が構成される。
また、吸気通路30における大型コンプレッサ611の上流側部分と、排気通路40における大型タービン612の下流側部分(より正確には、排気浄化装置41と排気シャッター弁42との間)とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するための低圧EGR通路520によって接続されている。この低圧EGR通路520には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するための低圧EGR弁521及び排気ガスを冷却するためのEGRクーラ522が介設されている。
排気シャッター弁42は、排気通路40において低圧EGR通路520の接続部よりも下流側に配設されている。排気シャッター弁42は、その開度を調整することが可能な流量調整弁であり、排気シャッター弁42を閉じ側にすることによって、通過する流量が低減して、低圧EGR通路520の排気通路40側の圧力を、吸気通路30側の圧力に対して相対的に高めることが可能になる。低圧EGR通路520と低圧EGR弁521とEGRクーラ522と排気シャッター弁42とを含んで、低圧EGRシステム52が構成される。尚、低圧EGRシステム52は、省略することも可能である。
ターボ過給システム6は、大型ターボ過給機と小型ターボ過給機とを含む2ステージターボ過給機によって構成されている。大型ターボ過給機は、相対的に大型のものであり、小型ターボ過給機は、相対的に小型のものである。
大型ターボ過給機は、吸気通路30に配設された大型コンプレッサ611と、排気通路40に配設された大型タービン612とを有し、大型コンプレッサ611と大型タービン612とは、図1では図示を省略するが、互いに連結されている。
小型ターボ過給機は、吸気通路30に配設された小型コンプレッサ621と、排気通路40に配設された小型タービン622とを有し、小型コンプレッサ621と小型タービン622とは、図1では図示を省略するが、互いに連結されている。小型コンプレッサ621は、吸気通路30における大型コンプレッサ611の下流側に配設されている。一方、小型タービン622は、排気通路40における大型タービン612の上流側に配設されている。すなわち、吸気通路30においては、上流側から順に大型コンプレッサ611と小型コンプレッサ621とが直列に配設され、排気通路40においては、上流側から順に小型タービン622と大型タービン612とが直列に配設されている。これら大型及び小型タービン612,622が排気ガス流により回転し、それによって、大型及び小型コンプレッサ611,621がそれぞれ作動する。
尚、図1に図示しないが、吸気通路30には、小型コンプレッサ621をバイパスする吸気バイパス通路が接続され、この吸気バイパス通路には、そこを流れるガス量を調整するためのバイパスバルブが配設されている。一方、排気通路40には、小型タービン622をバイパスする小型排気バイパス通路と、大型タービン612をバイパスする大型排気バイパス通路とが接続されており、小型排気バイパス通路には、そこを流れるガス量を調整するためのレギュレートバルブが配設され、大型排気バイパス通路には、そこを流れるガス量を調整するためのウエストゲートバルブが配設されている。
また、ターボ過給システム6は、2ステージターボ過給機に限らず、これに代えて、一つのタービン及び一つのコンプレッサを有するシングルターボ過給機によってターボ過給システム6を構成することも可能である。また、シングルターボ過給機及び2ステージターボ過給機に拘わらず、ターボ過給機は、可変ベーン付きのVGTとしてもよい。
PCM100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている。
PCM100には、エンジン10の回転数を検出するエンジン回転数センサ71、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ72、エンジン10の冷却水温を検出する水温センサ73の各センサが接続されている。
吸気通路30上には、吸気通路30を流れる新気の流量(及び温度)を検出するエアフローセンサ74が配設されており、エアフローセンサ74は、検出した流量及び外気温度をPCM100に出力する(図2の破線の矢印参照)。
また、吸気通路30、排気通路40、高圧EGR通路510及び低圧EGR通路520における所定の箇所には、温度を検出する温度センサ、圧力を検出する圧力センサが配設されている。各センサは、PCM100に接続されており、その検出値をPCM100に出力する(図2の破線の矢印参照)。
ここで、温度センサとしては、吸気通路30において、インタークーラ31の下流におけるガス温度を検出するセンサ81、吸気マニホールド内のガス温度を検出するセンサ82、高圧EGR通路510内におけるガス温度を検出するセンサ83、を含んでいる。また、圧力センサとしては、吸気マニホールド内の圧力を検出するセンサ(つまり、吸気圧センサ)84を含んでいる。さらに、排気浄化装置41の下流側には、排気ガスの酸素濃度を検出するO2センサ85が配設されており、O2センサ85もまた、その検出値をPCM100に出力する。
そして、PCM100は、前述した各センサ等からの信号に基づいて、エンジン10の運転状態を判断し、少なくとも、インジェクタ21、動弁機構22、吸気シャッター弁32、排気シャッター弁42、高圧EGR弁513、クーラバイパス弁515、及び、低圧EGR弁521を制御する。
(減速燃料カット制御)
次に、図3に示すフローチャートを参照しながら、PCM100が実行する減速時の燃料カット制御について説明する。PCM100は、車両の減速時に、インジェクタ21を含む燃料供給システムによるエンジン10への燃料供給をカットする燃料カット制御手段、燃料カットの開始から所定時間は、高圧EGRシステム51による排気ガスの還流を行うと共に、所定時間の経過後に、排気ガスの還流を中止する減速時EGR制御手段、及び、燃料カットの最中に、自動変速機94がBレンジにあるときには、排気ガスの還流を中止する際に生じ得る制動力の変動を抑制する変動抑制手段をそれぞれ構成する。
図3のフローにおいて、スタート後のステップS31では、PCM100は、減速燃料カット制御に係る、アクセル開度Accと、エンジン回転数Neとを少なくとも読み込み、続くステップS32で、減速燃料カット制御を行うか否かを判定する。減速燃料カット制御は、例えばアクセル開度が所定開度以下(つまり、アクセル開度が、ほぼゼロ)でかつ、エンジン回転数Neが所定回転数以上のときに行う。このように、アクセル開度が全閉でないときも、燃料カット制御が行われる。これは、燃費の向上に有利である。ステップS32で、減速燃料カット制御を行わないと判定したときには、フローはステップS31に戻る。一方、減速燃料カット制御を行うと判定したときには、減速燃料カットを開始して(つまり、インジェクタ21を通じた燃料の供給を中止して)、フローは、ステップS32からステップS33に移行する。
ステップS33では、自動変速機94のレンジがBレンジであるか否かを判定する。この判定は、減速燃料カットを開始した後に、自動変速機94のレンジが、DレンジからBレンジに切り換わったこと、及び、減速燃料カットを開始する前から、自動変速機94のレンジがBレンジであったこと、の両方を含む。ステップS33の判定がYESのときには、後述する減速時EGR制御を行わずに、ステップS314に移行をする。つまり、高圧EGRシステム51を通じた排気ガスの還流を行わない。ステップS33の判定がNOのときには、フローはステップS34に移行をする。
ステップS34では、アクセル開度が全閉であるか否かを判定し、全閉であるとき(YESのとき)にはステップS35に移行する一方、全閉でないとき(NOのとき)にはステップS39に移行する。
ステップS35では、アクセル開度が全閉であることに対応して、高圧EGR弁513を全開にすると共に、続くステップS36で、吸気シャッター弁32を全閉かつ、排気シャッター弁42を全閉にする。尚、高圧EGR弁513を全開にする代わりに、クーラバイパス弁515を全開にしてもよいし、高圧EGR弁513及びクーラバイパス弁515を共に、全開にしてもよい。こうして、高圧EGRシステム51によって、できるだけ大量の排気ガスを吸気側に還流することで、排気浄化装置41側に排気ガスが流れることを防止し、低温の排気ガスにより排気浄化装置41を冷却することを抑制する。
続くステップS37では、タイマTをT1に設定する。このタイマは、減速燃料カットの開始から、排気ガスの還流を継続する時間に係り、T1は、相対的に長い時間に相当する。つまり、アクセル開度が全閉であるときには、排気ガスの還流を比較的長時間、継続する。T1は、具体的には、10秒である。前述の通り、吸気シャッター弁32及び排気シャッター弁42をそれぞれ全閉にしかつ、高圧EGR弁513を全開にしてできるだけ大量の排気ガスを吸気側に還流していることで、排気ガスの温度低下は緩やかになる。従って、排気ガスの還流を長時間、継続することで、排気浄化装置41の温度低下の抑制も可能になる。尚、T1は10秒に限定されず、適宜設定することが可能である。
ステップS38では、タイマTのカウントが、設定した時間T1を超えたか否かを判定し、超えていないとき(NOのとき)には、ステップS32に戻る一方、時間T1を超えたとき(YESのとき)には、ステップS313に進む。
これに対し、アクセル開度が全閉でないとして移行をしたステップS39では、高圧EGR弁513を部分閉(つまり、全開と全閉との間の中間開度)にする。前述したように、高圧EGR弁513の代わりに、クーラバイパス弁515を部分閉としてもよいし、高圧EGR弁513及びクーラバイパス弁515の両方を部分閉にしてもよい。続くステップS310で、吸気シャッター弁32を部分閉にかつ、排気シャッター弁42を全開にする。こうして、アクセル開度が全閉であるときと比較して、排気ガスの還流量を減らし、その分、エンジン10のシリンダ11内に導入する新気量を増やす。アクセル開度が全閉でないときには、運転者はアクセルの踏み込みを直ぐに開始する場合もあり、その場合に、前述したように、できるだけ大量の排気ガスを還流させかつ、新気量を減らしていたのでは、そのアクセルの踏み込みに対し、応答性良く、新気の導入を開始することができなくなる虞があるためである。すなわち、アクセル開度が全閉でないときには、吸気シャッター弁32を全閉とせずに、中間開度に設定しかつ、高圧EGR弁513も中間開度に設定しておくことで、加速応答性が向上する。
そうして、ステップS311では、タイマTをT2に設定する。T2は、ステップS37で設定をしたT1よりも短い時間である。つまり、アクセル開度が全閉でないときには、排気ガスの還流を相対的に短時間で終了する。T2は、具体的には、5秒である。但し、T2は5秒に限らず、適宜設定することが可能である。前述の通り、吸気シャッター弁32を部分開にしかつ、高圧EGR弁513を部分開にしていることで、排気ガスの還流量が減っており、排気ガスの温度は相対的に早く低下してしまう。排気ガスの温度が低下してしまうと、排気ガスの還流を、それ以上に継続をする必要性が乏しくなる。そこで、アクセル開度が全閉でないときには、排気ガスの還流を相対的に短時間で終了する。
ステップS312では、タイマTのカウントが、設定した時間T2を超えたか否かを判定し、超えていないとき(NOのとき)には、ステップS32に戻る一方、時間T2を超えたとき(YESのとき)には、ステップS313に進む。
ステップS313では、設定した時間が経過したことから、タイマをリセットし、続くステップS314で、排気ガスの還流を終了する。具体的には、高圧EGR弁513を全閉にした上で、減速燃料カット制御に係るEGR制御を終了する。
このように、減速燃料カット制御においては、その制御開始から所定時間の間は、排気ガスの還流を継続することで、排気浄化装置41の温度低下が抑制される。これによって触媒の活性化が維持され、エンジン10に対する燃料供給を再開して燃焼が開始したときに、排気エミッション性能が低下してしまうことを防止する。
また、排気ガスの還流を継続している最中にアクセルペダルの踏み込みが行われたときには、燃料カット制御が中止されて、エンジン10の運転状態に対応したEGR制御を行うことになるが、排気ガスの還流を継続していることで、EGR制御の応答性が良好になる。
そうして、減速燃料カットの開始後、排気ガスの還流を所定時間だけ継続した後に、排気ガスの還流を終了する。自動変速機94のレンジがDレンジであるときには、EGR制御を終了することに起因して、減速燃料カットの最中に、エンジンブレーキによる制動力が増加するようになる。
これに対し、減速燃料カットの開始後、排気ガスの還流を継続している最中に、自動変速機のレンジがDレンジからBレンジに切り換わったときには、図3に示すフローにおいてステップS33からステップS314に移行することになるから、排気ガスの還流が直ちに中止される。これにより、DレンジからBレンジに切り換わったときに、エンジンブレーキによる制動力が増加するようになるが、DレンジからBレンジに切り換わって自動変速機94のシフトダウンが行われることによっても制動力が変動するため、運転者に違和感を与えることが防止される。
また、減速燃料カットの開始前に、自動変速機94のレンジがBレンジにあるときも、ステップS33からステップS314に移行することになるから、この場合は、燃料カットの開始後に、排気ガスの還流が継続されない。従って、燃料カットの制御の途中で、排気ガスの還流を中止することに伴うエンジンブレーキによる制動力の増加が生じない。Bレンジを選択しているときには、運転者にエンジンブレーキによって比較的強い制動力を要求しており、運転者はエンジンブレーキによる制動力の変動に敏感になっていると推定されるが、運転者の操作に依らずにエンジンブレーキによる制動力が増加してしまうことがないため、運転者に違和感を与えることが防止される。
図4は、図3とは構成の異なる制御のフローを示している。この図4のフローと、図3のフローとの相違は、自動変速機94がBレンジであるときに、排気ガスの還流を中止する(又は、減速燃料カットの開始時に排気ガスの還流を行わない)のではなく、減速燃料カットの制御中に、高圧EGR弁513の開度をそのまま維持する点である。図4のフローのステップS41〜ステップS414は、図3のフローのステップS31〜ステップS314と対応する。
図4のフローのステップS43では、自動変速機94のレンジがBレンジであるか否かを判定する。この判定は、前述の通り、減速燃料カットの開始後に、自動変速機94のレンジがDレンジからBレンジに切り換わったこと、及び、減速燃料カットの開始前に、自動変速機94のレンジがBレンジであったこと、の両方を含む。ステップS43の判定がYESのときには、ステップS415に移行する。ステップS415では、高圧EGR弁513の開度を維持する。すなわち、減速燃料カットの開始後に、自動変速機94のレンジがDレンジからBレンジに切り換わったときには、そのBレンジに切り換わったときの高圧EGR弁513の開度を維持する。また、減速燃料カットの開始前に、自動変速機94のレンジがBレンジであったときには、減速燃料カットを開始するときの高圧EGR弁513の開度を維持する。尚、ステップS415では、高圧EGR弁513の開度を維持することに限らず、EGRガス量が変化せずに一定で維持されるように、高圧EGR弁513及び/又はクーラバイパス弁515の開度を適宜調整してもよい。
ステップS415の後、フローは終了する。従って、このフローに係る制御では、自動変速機94のレンジがBレンジのとき(Bレンジに切り換わったことを含む)には、ステップS414に移行しないので、減速燃料カット中に排気ガスの還流を継続し、その途中で排気ガスの還流を終了することがない。このため、エンジンブレーキによる制動力の変動も生じない。その結果、Bレンジを選択した運転者に、違和感を与えることが防止される。
尚、自動変速機94のレンジがDレンジであるときには、前述の通り、減速燃料カットの途中で、継続していた排気ガスの還流を終了することになる(図4のステップS44〜S414参照)。
図5は、図3及び図4とは異なる構成の制御フローを示している。先ずスタート後のステップS51では、PCM100は、アクセル開度Accとエンジン回転数Neとを少なくとも読み込み、続くステップS52で、減速燃料カット制御を行うか否かを判定する。減速燃料カット制御を行わないと判定したときには、フローはステップS51に戻る。一方、減速燃料カット制御を行うと判定したときには、減速燃料カットを開始して、フローは、ステップS52からステップS53に移行する。
ステップS53では、アクセル開度が全閉であるか否かを判定し、全閉であるとき(YESのとき)にはステップS54に移行する一方、全閉でないとき(NOのとき)にはステップS510に移行する。
ステップS54では、アクセル開度が全閉であることに対応して、高圧EGR弁513を全開にする。尚、ステップS54において、高圧EGR弁513に代えて、又は、高圧EGR弁513に加えて、クーラバイパス弁515の開度調整を行ってもよい。続くステップS55で、吸気シャッター弁32を全閉かつ、排気シャッター弁42を全閉にする。
ステップS56では、自動変速機94のレンジがBレンジであるか否かを判定する。この判定は、減速燃料カットを開始した後に、自動変速機94のレンジが、DレンジからBレンジに切り換わったこと、及び、減速燃料カットを開始する前から、自動変速機94のレンジがBレンジであったこと、の両方を含む。ステップS56の判定がNOのとき(つまり、Dレンジであるとき)には、後述するステップS57に進むことなく、ステップS58に移行する。一方、ステップS56の判定がYESのとき(つまり、Bレンジであるとき)には、ステップS57に進む。
ステップS57では、排気ガスの還流を終了した際に、エンジンブレーキによって制動力が増大する分に相当する制動力を、車両に対して付与する。具体的には、前記ブレーキのアクチュエータ103が、ブレーキペダルの操作とは独立して、ブレーキ機構104に油圧を供給することによって、所定の制動力を付与するようにしてもよいし、又は、モータ/ジェネレータ92が発電運転をすることによって、所定の制動力に相当する回生制動力を、車輪91に対して付与してもよい。
そうして、続くステップS58で、タイマTをT1に設定し、ステップS59では、タイマTのカウントが、設定した時間T1を超えたか否かを判定し、超えていないとき(NOのとき)には、ステップS52に戻る一方、時間T1を超えたとき(YESのとき)には、ステップS516に進む。
これに対し、アクセル開度が全閉でないとして移行をしたステップS510では、高圧EGR弁513を部分閉にする。ステップS510でも、高圧EGR弁513に代えて、又は、高圧EGR弁513に加えて、クーラバイパス弁515の開度調整を行ってもよい。続くステップS511で、吸気シャッター弁32を部分閉にかつ、排気シャッター弁42を全開にする。
そして、ステップS512では、ステップS56と同様に、自動変速機94のレンジがBレンジであるか否かを判定し、Bレンジでないときには、ステップS513に移行せずにステップS514に移行する一方、Bレンジであるときには、ステップS513に移行する。ステップS513では、ステップS57と同様に、排気ガスの還流を終了した際に、エンジンブレーキによって制動力が増大する分に相当する制動力を、ブレーキ機構104又はモータ/ジェネレータ92によって、車両に対し付与する。
そうして、ステップS514では、タイマTをT2(<T1)に設定し、ステップS515で、タイマTのカウントが、設定した時間T2を超えたか否かを判定する。超えていないとき(NOのとき)には、ステップS52に戻る一方、時間T2を超えたとき(YESのとき)には、ステップS516に進む。
ステップS516では、設定した時間が経過したことから、タイマをリセットし、続くステップS517で、排気ガスの還流を終了する。具体的には、高圧EGR弁513を全閉にした上で、減速燃料カット制御に係るEGR制御を終了する。そして、ステップS518で、ステップS57又はステップS513で付与していた制動力の付与を終了する。これにより、排気ガスの還流を終了することに伴い、エンジンブレーキによる制動力が増大することと、予め付与していた制動力の付与を終了することにより制動力が低下することとが相殺して、車両にかかる制動力が変動してしまうことが回避される。尚、制動力の付与をしていないときは、そのままである。
図6の上図に例示するように、時刻Taで減速燃料カットが開始され、それに伴い、高圧EGR弁513の開度を全開にしたとする。これにより、図6の下図に実線で示すように、エンジンブレーキによる制動力は、所定量だけ低下したとする。減速燃料カットの開始後、エンジン回転数が低下することに伴い、エンジンブレーキによる制動力は次第に低下する。
減速燃料カットの開始後、所定時間が経過した時刻Tbにおいて、高圧EGR弁513の開度を全閉にして排気ガスの還流を終了する。それに伴い、図6の下図に実線で示すように、エンジンブレーキによる制動力は増大する。
図5に示す制御フローでは、減速燃料カットを開始しかつ、排気ガスの還流を継続しているときには、所定量の制動力を付与する。これは、図6の下図において一点鎖線で示すように、エンジンブレーキによって車両に付与される制動力以上の制動力を付与することに相当する。そうして、時刻Tbにおいて排気ガスの還流の終了と共に、制動力の付与も終了すれば、図6の下図において、一点鎖線と実線とが段差が無くつながるようになる。つまり、制動力の変動が防止される。
図7は、図5とは異なる構成の制御フローを示している。先ずスタート後のステップS71では、PCM100は、アクセル開度Accとエンジン回転数Neとを少なくとも読み込み、続くステップS72で、減速燃料カット制御を行うか否かを判定する。減速燃料カット制御を行わないと判定したときには、フローはステップS71に戻る。一方、減速燃料カット制御を行うと判定したときには、減速燃料カットを開始して、フローは、ステップS72からステップS73に移行する。
ステップS73では、アクセル開度が全閉であるか否かを判定し、全閉であるとき(YESのとき)にはステップS74に移行する一方、全閉でないとき(NOのとき)にはステップS78に移行する。
ステップS74では、アクセル開度が全閉であることに対応して、高圧EGR弁513を全開にする(尚、前述のように、クーラバイパス弁515の開度を制御してもよい)と共に、続くステップS75で、吸気シャッター弁32を全閉かつ、排気シャッター弁42を全閉にする。
ステップS76で、タイマTをT1に設定し、ステップS77では、タイマTのカウントが、設定した時間T1を超えたか否かを判定する。超えていないとき(NOのとき)には、ステップS72に戻る一方、時間T1を超えたとき(YESのとき)には、ステップS712に進む。
これに対し、アクセル開度が全閉でないとして移行をしたステップS78では、高圧EGR弁513を部分閉にする(尚、前述のように、クーラバイパス弁515の開度を調整してもよい)と共に、続くステップS79で、吸気シャッター弁32を部分閉にかつ、排気シャッター弁42を全開にする。
そうして、ステップS710では、タイマTをT2に設定し、ステップS711で、タイマTのカウントが、設定した時間T2を超えたか否かを判定する。超えていないとき(NOのとき)には、ステップS72に戻る一方、時間T2を超えたとき(YESのとき)には、ステップS712に進む。
ステップS712では、設定した時間が経過したことから、タイマをリセットし、続くステップS713で、排気ガスの還流を終了する。そして、ステップS714で、自動変速機94がBレンジであるか否かを判定する。これは、減速燃料カットを開始した後、排気ガスの還流を継続している最中に、レンジがDレンジからBレンジに切り換わったこと、及び、減速燃料カットを開始する前から、自動変速機のレンジがBレンジであったことの両方を含む。自動変速機94のレンジがBレンジでないとき(つまり、NOのとき)には、ステップS715に移行することなく、フローを終了する。従って、自動変速機94のレンジがDレンジであるときには、排気ガスの還流が終了したときに、エンジンブレーキによる制動力の変動が生じ得る。
これに対し、自動変速機94のレンジがBレンジであるとき(つまり、YESのとき)には、ステップS715に移行をして、モータ/ジェネレータ92を力行運転することで、エンジンブレーキによる制動力の変動分に対応する駆動力を車輪91に付与し、制動力の変動を無くす。これにより、運転者に違和感を与えることが防止される。
すなわち、図8に例示するように、時刻Taで減速燃料カットを開始し、それに伴い高圧EGR弁513を全開にしたとする(図8の上図参照)。その状態で、所定時間が経過して、時刻Tbにおいて排気ガスの還流を終了するときに、図8の下図に実線で示すように、エンジンブレーキによる制動力が増大するところ、図7の制御フローでは、図8の下図に一点鎖線で示すように、モータ/ジェネレータ92を力行運転することにより、増大した制動力を相殺する。こうして、Bレンジを選択したときには、制動力の変動が抑制されるから、運転者に違和感を与えることが防止される。
尚、前記の構成では、ここに開示する技術をハイブリッド車両に適用しているが、ここに開示する車両の減速制御装置は、エンジンのみを搭載した車両に対しても適用可能である。この場合、少なくとも図3及び図4に示す制御フローに従って減速制御が可能である。
また、BCM102及びアクチュエータ103を含むブレーキシステムを省略することも可能である。この場合、図3、図4、図5及び図7に示す制御フローに従って減速制御が可能である。
さらに、ここに開示する技術が適用可能なエンジンシステム1は、ディーゼルエンジンに限らず、火花点火式エンジンとすることも可能である。