以下に、本発明に係るブレーキ制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
[実施例]
本発明に係るブレーキ制御装置の実施例を図1から図5に基づいて説明する。
本実施例のブレーキ制御装置は、自車両の制動システムに対しての制御を行うものであり、その制御に係る演算処理を実施する電子制御装置(以下、「ブレーキECU」という。)1を備える(図1)。
そのブレーキECU1には、後述する制動システムの液圧調整部(ブレーキアクチュエータ)40が接続されている。また、このブレーキECU1には、車輪速度を検出する車輪速センサ91**が車輪**毎に接続されており、それぞれの車輪**の車輪速度の検出信号が送られる。このブレーキECU1においては、その車輪速度に基づいて自車両の車速を演算する。
その「**」は、それぞれの車輪に対応する添え字であり、「fr」、「rl」、「rr」又は「fl」の何れかを示している。「fr」、「rl」、「rr」、「fl」は、それぞれに右前輪、左後輪、右後輪、左前輪を表している。
また、このブレーキECU1には、ヨーレートセンサ92とステアリングセンサ93とが接続されている。ヨーレートセンサ92は、自車両のヨーレートを検出し、その検出信号をブレーキECU1に送る。ステアリングセンサ93は、運転者の操舵操作に応じたステアリングホイール(図示略)の操舵角を検出し、その検出信号をブレーキECU1に送る。ブレーキECU1においては、そのヨーレートセンサ92とステアリングセンサ93の検出信号に基づいて、自車両の旋回状態(旋回姿勢)を判断することができる。
また、このブレーキECU1には、自車両の運転支援制御に係る演算処理を実施する電子制御装置(以下、「運転支援ECU」という。)94が接続されている。その運転支援ECU94には、運転支援内容に応じた自車両の制動システムに対する制御形態を演算する運転支援制御部が設けられている。例えば、その運転支援制御部は、自車両の衝突を回避するための運転支援制御(例えば後述するブレーキアシスト制御やプリクラッシュブレーキ制御)に係る演算処理を行う。また、この運転支援制御部は、自車両が衝突してしまったときの運転支援制御(例えば自車両の停止制御や操縦安定性の向上制御)に係る演算処理を行う。よって、この運転支援ECU94には、自車両の衝突の可能性を検出するために周辺監視装置95が接続されている。その周辺監視装置95は、自車両の周辺に存在する障害物(不動産などの静的なものもあれば、他車両などの動的なものもある)を検出するものであり、例えば、ミリ波レーダセンサ、ステレオカメラなどの撮像装置等のことである。この周辺監視装置95は、例えば、自車両の前部や側部等に配置する。自車両の後方を監視する場合には、自車両の後部に周辺監視装置95を配置してもよい。
また、このブレーキECU1には、ブレーキコントロールパワーサプライ96が接続されている。そのブレーキコントロールパワーサプライ96とは、二次電池の電圧低下時にブレーキ制御の補助電源として利用されるものである。
最初に、ここで例示する制動システムの構成について図2に基づき説明する。この制動システムは、機関(内燃機関等のエンジン)を動力源とする車両に搭載されるシステムの一例である。
この制動システムは、いわゆるディスクブレーキ装置であり、マスタシリンダ圧又は調圧後のブレーキ液圧に応じた制動力を夫々の車輪**に対して個別に付与することができる。この制動システムには、運転者のブレーキペダル10の操作量(以下、「ブレーキ操作量」という。)に応じたブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)を発生させる液圧発生部20と、ブレーキ液圧に応じた制動力を発生させる車輪**毎の制動力発生部30**と、その液圧発生部20のブレーキ液圧をそのまま又は車輪**毎に調圧して夫々の制動力発生部30**に供給する液圧調整部40と、が設けられている。そのブレーキ操作量(ペダル踏み込み量やペダル踏力等)は、ペダルセンサ11で検出され、その検出信号がブレーキECU1に送られる。
液圧発生部20は、ブレーキブースタ(制動倍力装置)21とマスタシリンダ22とリザーバタンク23とを備える。マスタシリンダ22は、ペダル踏力(運転者のペダル踏力とブレーキブースタ21のアシスト力の和)に応じたマスタシリンダ圧を内部の2つの液圧室に発生させる。それぞれの液圧室には、第1液圧通路24Aと第2液圧通路24Bとを個別に連通させている。このため、その第1液圧通路24Aと第2液圧通路24Bには、マスタシリンダ圧が供給される。この例示の第1液圧通路24Aには、マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサ26が接続されている。そのマスタシリンダ圧センサ26の出力信号は、ブレーキECU1に送られる。尚、マスタシリンダ圧センサ26は、第2液圧通路24Bに接続してもよい。
第1液圧通路24Aと第2液圧通路24Bは、液圧調整部40に接続されており、この液圧調整部40に対してマスタシリンダ圧を供給する。液圧調整部40は、いわゆるブレーキアクチュエータであり、マスタシリンダ圧又は調圧後のブレーキ液圧を供給対象の制動力発生部30**に液圧通路31**を介して供給する。その液圧通路31**上には、車輪**毎に液圧センサ32**を設けている。その液圧センサ32**は、制動力発生部30**に供給されるブレーキ液圧を検出し、その検出信号をブレーキECU1に送る。
液圧調整部40は、その動作がブレーキECU1の制動制御部によって制御される。この液圧調整部40は、右前輪及び左後輪に対してブレーキ液圧を伝える第1液圧回路と、左前輪及び右後輪に対してブレーキ液圧を伝える第2液圧回路と、を備えたいわゆるX配管のものとして例示する。この液圧調整部40においては、第1液圧通路24Aを第1液圧回路に接続し、第2液圧通路24Bを第2液圧回路に接続する。
具体的に、この液圧調整部40は、2つのマスタカット弁41A,41Bを備える。マスタカット弁41Aは、第1液圧回路におけるブレーキ液の流量調整装置として作用するものであり、第1液圧通路24Aが接続される。また、マスタカット弁41Bは、第2液圧回路におけるブレーキ液の流量調整装置として作用するものであり、第2液圧通路24Bが接続される。このマスタカット弁41A,41Bは、いわゆる常開式の流量調整用の電磁弁であって、制動制御部の制御によって弁開度を変えることができる。それぞれのマスタカット弁41A,41Bは、通電量に応じた弁開度の制御によって、後述する加圧ポンプ73A,73Bから吐出されたブレーキ液圧を調節し、マスタシリンダ22側へと開放する。
この液圧調整部40においては、第1液圧通路24Aがマスタカット弁41Aを介して液圧通路42Aに接続される一方、第2液圧通路24Bがマスタカット弁41Bを介して液圧通路42Bに接続される。液圧通路42Aには、右前輪の液圧通路31frと左後輪の液圧通路31rlとが接続される。また、液圧通路42Bには、左前輪の液圧通路31flと右後輪の液圧通路31rrとが接続される。
その各液圧通路31**上には、車輪**毎に保持弁51**を備える。その保持弁51**は、いわゆる常開式の電磁弁であって、制動制御部の制御によって弁開度を変えることができる。開弁時の保持弁51**は、液圧通路42A,42Bから対象の液圧通路31**に送られてきたブレーキ液を下流側に流す。尚、下流の方向とは、制動力発生時のブレーキ液の流動方向(つまり、制動力発生部30**へと向かう方向)のことを指す。よって、上流の方向とは、制動力発生時のブレーキ液の流動方向とは逆向きのことを指す。
また、その各液圧通路31**における保持弁51**の下流側には、車輪**毎に減圧弁52**が接続されている。その減圧弁52**は、いわゆる常閉式の電磁弁であって、制動制御部の制御によって弁開度を変えることができる。保持弁51**を通過したブレーキ液は、閉弁時の減圧弁52**を通過しないので、制動力発生部30**に送られる。各減圧弁52**には、車輪**毎に液圧通路53**が更に接続されている。開弁時の減圧弁52**は、保持弁51**を通過したブレーキ液を液圧通路53**に流すことができる。第1液圧回路の液圧通路53fr,53rlは、液圧通路54Aに接続されている。その液圧通路54Aは、後述する加圧部70の補助リザーバ71Aに接続されている。一方、第2液圧回路の液圧通路53fl,53rrは、液圧通路54Bに接続されている。その液圧通路54Bは、加圧部70の補助リザーバ71Bに接続されている。
第1液圧通路24Aと液圧通路42Aとの間には、マスタカット弁41Aと並列に逆止弁61が配置されている。その逆止弁61は、第1液圧通路24A側から液圧通路42A側へのブレーキ液の流れのみを許容するものである。これと同じように、第2液圧通路24Bと液圧通路42Bとの間には、マスタカット弁41Bと並列に逆止弁62が配置されている。その逆止弁62は、第2液圧通路24B側から液圧通路42B側へのブレーキ液の流れのみを許容するものである。
また、第1液圧回路においては、液圧通路42Aと液圧通路31frとの間に逆止弁63が保持弁51frと並列に配置され、液圧通路42Aと液圧通路31rlとの間に逆止弁64が保持弁51rlと並列に配置されている。その逆止弁63,64は、制動力発生部30fr,30rl側からマスタカット弁41A側へのブレーキ液の流れのみを許容するものである。一方、第2液圧回路においては、液圧通路42Bと液圧通路31rrとの間に逆止弁65が保持弁51rrと並列に配置され、液圧通路42Bと液圧通路31flとの間に逆止弁66が保持弁51flと並列に配置されている。その逆止弁65,66は、制動力発生部30rr,30fl側からマスタカット弁41B側へのブレーキ液の流れのみを許容するものである。
この液圧調整部40には、ブレーキ液を加圧する加圧部70が設けられている。
加圧部70は、補助リザーバ71A,71Bを備える。第1液圧回路の補助リザーバ71Aには、減圧弁52fr,52rlが開弁状態のときに、液圧通路54Aを介してブレーキ液が送られる。これと同じように、第2液圧回路の補助リザーバ71Bには、減圧弁52fl,52rrが開弁状態のときに、液圧通路54Bを介してブレーキ液が送られる。
第1液圧回路において、液圧通路54Aと補助リザーバ71Aは、ポンプ通路72Aの一端に接続されている。そのポンプ通路72Aは、他端が液圧通路42Aに接続されている。加圧部70は、このポンプ通路72A上に加圧ポンプ73Aを備える。その加圧ポンプ73Aは、液圧通路54Aや補助リザーバ71Aのブレーキ液を吸入し、液圧通路42Aに向けて吐出する。この加圧ポンプ73Aは、ポンプモータ(電動機)74の駆動力を利用して動作させる。制動制御部は、ポンプモータ74を駆動して、加圧ポンプ73Aで加圧されたブレーキ液を液圧通路42A(つまり保持弁51fr,51rlの上流)に送る。ポンプ通路72A上には、加圧ポンプ73Aから吐出されたブレーキ液が加圧ポンプ73Aに戻らないように逆止弁75Aを設けている。また、このポンプ通路72A上には、加圧ポンプ73Aに吸入されるブレーキ液が逆流しないように逆止弁76Aを設けている。
ここで、ポンプ通路72Aにおける加圧ポンプ73Aの吸入側(液圧通路54A及び補助リザーバ71Aと逆止弁76Aとの間)には、第1吸入通路43Aの一端を接続している。そして、その第1吸入通路43Aは、他端を吸入弁44Aに接続している。その吸入弁44Aは、いわゆる常閉式の電磁弁であって、制動制御部の制御によって弁開度を変えることができる。この吸入弁44Aは、第2吸入通路45Aを介して第1液圧通路24Aに接続している。制動制御部は、吸入弁44Aを開弁させることで、第1及び第2の吸入通路43A,45Aを介してマスタシリンダ圧を加圧ポンプ73Aの吸入側に供給することができる。よって、加圧ポンプ73Aには、そのマスタシリンダ圧を加圧させることもできる。ポンプ通路72Aには、そのマスタシリンダ圧が液圧通路54Aや補助リザーバ71Aに供給されないように逆止弁77Aを設けている。
一方、この加圧部70は、第2液圧回路においても、第1液圧回路と同様に、一端が液圧通路54Bと補助リザーバ71Bとに接続され、かつ、他端が液圧通路42Bに接続されたポンプ通路72Bと、このポンプ通路72B上の加圧ポンプ73Bと、を備える。その加圧ポンプ73Bは、第1液圧回路の加圧ポンプ73Aと同じポンプモータ74で動作する。また、この第2液圧回路は、第1液圧回路と同様に、加圧ポンプ73Bから吐出されたブレーキ液が加圧ポンプ73Bに戻らないように設けた逆止弁75Bと、加圧ポンプ73Bに吸入されるブレーキ液が逆流しないように設けた逆止弁76Bと、を備える。
更に、この第2液圧回路は、第1液圧回路と同様に、一端がポンプ通路72Bにおける加圧ポンプ73Bの吸入側(液圧通路54B及び補助リザーバ71Bと逆止弁76Bとの間)に接続された第1吸入通路43Bと、この第1吸入通路43Bの他端が接続された吸入弁(常閉式の電磁弁)44Bと、一端が吸入弁44Bに接続され、かつ、他端が第2液圧通路24Bに接続された第2吸入通路45Bと、を備える。このため、ポンプ通路72Bには、第1吸入通路43Bからのマスタシリンダ圧が液圧通路54Bや補助リザーバ71Bに供給されないように逆止弁77Bを設けている。
この加圧部70においては、制動制御部がポンプモータ74を駆動することで、加圧ポンプ73Bで加圧されたブレーキ液が液圧通路42B(つまり保持弁51fl,51rrの上流)に送られる。その際には、液圧通路54Bや補助リザーバ71Bのブレーキ液が加圧ポンプ73Bに吸入され、制動制御部が吸入弁44Bを開弁させた場合、第1及び第2の吸入通路43B,45Bを介してマスタシリンダ圧が加圧ポンプ73Bの吸入側に供給される。尚、ポンプモータ74を駆動制御するに際して、制動制御部は、吸入弁44A,44Bを励磁状態にしてもよく(つまり通電して開弁状態にしてもよく)、非励磁状態にしてもよい(通電させずに閉弁状態にしてもよい)。
次に、この制動システムに対して制動制御部が実施する制御について説明を行う。
制動制御部は、制御対象車輪の制動力発生部30**への供給液圧を増圧させる場合(増圧モードの場合)、その制御対象車輪に対応するマスタカット弁41A(41B)と保持弁51**とを非励磁状態とし(つまり通電させずに開弁状態とし)、かつ、その制御対象車輪に対応する減圧弁52**も非励磁状態とし(つまり通電させずに閉弁状態とし)、かつ、ポンプモータ74を駆動制御する。これにより、この制動システムにおいては、2つの加圧ポンプ73A,73Bに吸入されたブレーキ液が加圧され、その加圧ブレーキ液圧が全ての保持弁51**の上流に供給される。このため、制御対象車輪の制動力発生部30**には、その加圧ブレーキ液圧が保持弁51**を介して供給される。
また、この制動制御部は、制御対象車輪の制動力発生部30**への供給液圧を減圧させる場合(減圧モードの場合)、その制御対象車輪に対応するマスタカット弁41A(41B)と保持弁51**とを励磁状態とし(通電して閉弁状態とし)、かつ、その制御対象車輪に対応する減圧弁52**も励磁状態とする(通電して開弁状態とする)。その際、制動制御部は、増圧モードの制御対象車輪が存在していなければ、ポンプモータ74を駆動制御せず、増圧モードの制御対象車輪が存在していれば、ポンプモータ74を駆動制御する。減圧モードの制御対象車輪のブレーキ液は、この制御対象車輪に対応する補助リザーバ71A(71B)に送られるが、増圧モードの制御対象車輪が同じ液圧回路内に存在している場合、この制御対象車輪に対応する加圧ポンプ73A(73B)に吸入される。余剰分のブレーキ液が存在する場合、制動制御部は、この制御対象車輪に対応する吸入弁44A(44B)を励磁状態にし(通電して開弁状態にし)、液圧通路43A(43B)を介してリザーバタンク23に余剰分のブレーキ液を送ってもよい。
制動制御部は、その増圧モード又は減圧モードで制御対象車輪の制動力発生部30**のブレーキ液圧が所定のブレーキ液圧になった場合、その制御対象車輪に対応するマスタカット弁41A(41B)と保持弁51**を励磁状態に制御し(通電して閉弁状態に制御し)、かつ、その制御対象車輪に対応する減圧弁52**を非励磁状態に制御する(通電させずに閉弁状態に制御する)。この保持モードにおいては、その所定のブレーキ液圧で制御対象車輪の制動力発生部30**のブレーキ液圧が保持される。
更に、この制動システムは、ブレーキアシスト制御とプリクラッシュブレーキ制御を実施することができる。ブレーキアシスト制御とは、運転者のブレーキ操作に応じたブレーキ液圧よりも高圧のブレーキ液圧を各車輪**に供給する制御のことである。プリクラッシュブレーキ制御とは、自車両の衝突の可能性がある場合に、高圧のブレーキ液圧を各車輪**に供給する制御のことである。その何れの制御においても、制動制御部は、マスタカット弁41A,41Bを励磁状態とし(通電して閉弁状態とし)、かつ、全ての車輪**の保持弁51**を非励磁状態とし(通電させずに開弁状態とし)、かつ、全ての車輪**の減圧弁52**を非励磁状態とし(通電させずに閉弁状態とし)、かつ、ポンプモータ74を駆動制御する。
つまり、この制動システムにおいては、自車両の衝突の可能性がある場合、加圧部70の加圧ブレーキ液圧が当該加圧部70から全ての車輪**の制動力発生部30**までの間の液圧経路(液圧通路等)に作用している。このため、このままでは、その各車輪**の液圧経路の内の何れかが衝突に伴い損傷した場合に、その損傷箇所からブレーキ液が漏れていたとしても、この損傷の発生した液圧経路に加圧ブレーキ液圧が作用し続けることになるので、この損傷の発生した液圧経路で検出されるブレーキ液圧が緩やかに低下していく。更に、制動制御部は、そのブレーキ液圧の低下を検出した場合、このブレーキ液圧を要求値に戻すべく、加圧ブレーキ液圧を上昇させる。このため、損傷の発生した液圧経路では、より緩やかにブレーキ液圧が低下していくことになる。
ここで、ブレーキECU1には、ブレーキ液圧の低下に伴う液圧経路の異常を検出する異常検出部が設けられている。その異常検出部は、例えば、ブレーキ液圧が閾値としての所定圧以下となった場合に、該当する液圧経路に異常が生じているとの検出を行う。その所定圧は、要求ブレーキ液圧(要求制動力)に応じて変化させる。よって、加圧ブレーキ液圧によってブレーキ液圧が緩やかに低下している場合には、そのブレーキ液圧が所定圧以下になるまで時間を要するので、この所定要件が成立するまで、そのブレーキ液圧の低下が損傷等の液圧経路の異常に起因するものであるのか否かを異常検出部が判別できない。つまり、この場合には、損傷している液圧経路が存在しているにも拘わらず、この液圧経路の異常が検出されるまでに時間を要してしまう。
また、この制動システムには、その損傷の発生している車輪**の液圧経路と同一系統の液圧回路に別の車輪**の液圧経路も存在しており、加圧ブレーキ液圧を作用させている状況下において、双方の車輪**の液圧経路が連通状態にある。このため、この別の車輪**の液圧経路においては、損傷が発生していなくても、同一系統の他方の液圧経路における損傷箇所からのブレーキ液の漏れに伴い、ブレーキ液圧が低下してしまう可能性がある。よって、この液圧経路が正常な車輪**では、損傷の発生している液圧経路の異常が検出されるまでの間、ブレーキ液圧が低下し続けるので、制動力が要求値に対して減少し続けることになる。
そこで、この制動システムは、加圧部70による加圧ブレーキ液圧が液圧経路に作用している場合に、可能な限り早期に液圧経路の異常が異常検出部で検出されるように構成する。
具体的に、制動制御部には、自車両の衝突の可能性が検出されて、加圧部70による加圧ブレーキ液圧が液圧経路に供給されている場合(例えばプリクラッシュブレーキ制御が実施されている場合)、その衝突の可能性が検出されている状態で、かつ、自車両の衝突の前に(より好ましくは自車両の衝突の直前に)、その液圧経路に供給されるブレーキ液圧の加圧量を0まで減少させる。本実施例では、液圧経路に供給されるブレーキ液圧の加圧量を減少させるために、制動制御部に駆動中のポンプモータ74を制御させる。このブレーキ液圧の加圧量を減少させるためポンプモータ74の制御(加圧部70の制御)は、例えばアクセル操作等のような運転者のプリクラッシュブレーキ制御の解除要求無しに実行する。ここで、加圧量を0にするとは、駆動中のポンプモータ74を停止させることである。よって、本実施例の制動制御部は、自車両の衝突の可能性が検出されて、加圧部70による加圧ブレーキ液圧が液圧経路に供給されている場合、その衝突の可能性が検出されている状態で、かつ、自車両の衝突の前に、ポンプモータ74を停止させることで、加圧部70から液圧経路に供給されるブレーキ液圧の加圧量を0にする。ところで、自車両の衝突の可能性が検出されている状態で、かつ、自車両の衝突の前とは、自車両の衝突の可能性が検出され、かつ、その衝突の回避が不可能であると検出された状態のことをいう。よって、この制動制御部は、自車両の衝突の可能性が検出されて、加圧部70による加圧ブレーキ液圧が液圧経路に供給されている場合、衝突の回避が不可能になったことを検出したときに、液圧経路に供給されるブレーキ液圧の加圧量を0まで減少させる。
加圧部70によるブレーキ液圧の加圧量を0にした直後(ポンプモータ74を停止させた直後)は、この加圧部70から各保持弁51**の上流までの液圧経路(ポンプ通路72A,72B)に異常が無ければ、ポンプモータ74を停止させる前まで供給されていた加圧ブレーキ液圧が全ての保持弁51**の上流に作用している。その際には、開弁状態の保持弁51**の下流の液圧経路(液圧通路31**)に異常が無ければ、この液圧経路にもポンプモータ74の停止前の加圧ブレーキ液圧が作用している。
ここで、その後、加圧量0の状態のままで自車両が衝突しても、加圧部70よりも下流の液圧経路に損傷が発生しなかった場合、液圧センサ32**では、ポンプモータ74を停止させる前まで供給されていた加圧ブレーキ液圧と略同等の値が検出される。このため、異常検出部は、加圧部70よりも下流の液圧経路に異常が無いと判断することになる。このときの制動システムにおいては、加圧部70を停止させる前から例えばプリクラッシュブレーキ制御を実施していた場合、加圧部70を停止させた後も、その下流の液圧経路に停止前の加圧ブレーキ液圧が略残っているので(図3の上図)、その継続中のプリクラッシュブレーキ制御における要求制動力を略維持することができる。
その図3は、それぞれの車輪**の制動力発生部30**に作用しているブレーキ液圧P**の時間経過に伴う状態を表したものである。この図3では、時間t1までがブレーキアシスト制御の実施中である。また、図3では、時間t1で衝突の回避が不可能と判定されてプリクラッシュブレーキ制御が開始され、時間t2でブレーキ液圧がプリクラッシュブレーキ制御の要求ブレーキ液圧Preqまで上昇する。また、この図3においては、時間t3で加圧部70を停止させる。図3の上図では、加圧部70の下流の液圧経路に異常が無いので、この液圧経路に要求ブレーキ液圧Preqが作用し続けている。
一方、加圧量0の状態のままで自車両が衝突し、加圧部70よりも下流の液圧経路に損傷が発生してブレーキ液が漏れている場合、その損傷箇所と連通している液圧センサ32**では、ポンプモータ74の停止前まで供給されていた加圧ブレーキ液圧(つまり要求ブレーキ液圧Preq)よりも低いブレーキ液圧が検出される。ここで、ある液圧センサ32**で検出されるブレーキ液圧がポンプモータ74の停止前の加圧ブレーキ液圧よりも低下している場合、異常が発生していると考えられる液圧経路は、その液圧センサ32**と連通状態の液圧通路31**の可能性もあれば、この液圧通路31**と開弁状態の保持弁51**を介して連通しているポンプ通路72A(72B)の可能性もある。
このような加圧部70の停止中にブレーキ液の漏れが発生している状況下では、この加圧部70から新たなブレーキ液が供給されないので、図3の中図に示す加圧部70を停止させなかったときと比較して、所定圧Pth(異常検出部が用いる閾値)にまで低下したブレーキ液圧が液圧センサ32flによって時間「t6−t5」の分だけ早い段階で検出される(図3の下図)。このため、異常検出部は、加圧部70を停止させなかったときと比較して、液圧経路に異常が発生していることの検出と、異常の発生している液圧経路の特定と、を早期に行うことができる。このときの制動システムにおいては、加圧部70を停止させる前から例えばプリクラッシュブレーキ制御を実施していた場合、加圧部70を停止させた後も、その下流の正常な液圧経路に停止前の加圧ブレーキ液圧が略残っているので、その継続中のプリクラッシュブレーキ制御における要求制動力を略維持することができる。尚、図3の各図では、全ての車輪**において、保持弁51**が開弁状態にあり、減圧弁52**が閉弁状態にある。
図3の中図と下図は、衝突によって左前輪の液圧経路(液圧通路31fl)のみからブレーキ液が漏れるようになった状態を表している。この左前輪と同一系統の第2液圧回路に存在する右後輪の液圧経路(液圧通路31rr)は、左前輪の液圧経路(液圧通路31fl)と連通状態になっている。このため、この右後輪の液圧経路(液圧通路31rr)については、左前輪程ではないが、ブレーキ液圧が低下していく。図3の時間t4は、衝突に伴いブレーキ液が漏れ始めたときである。時間t5,t6は、左前輪のブレーキ液圧Pflが所定圧Pthまで低下したときであり、かつ、異常検出部が液圧通路31flの異常を検出したときである。この時間t5,t6は、更に、その左前輪の保持弁51flと減圧弁52flとを閉弁状態にする制御の開始時点であり、かつ、右後輪のブレーキ液圧Prrを要求ブレーキ液圧Preqまで上昇させるための加圧部70の再起動開始時でもある。
以下、本実施例のブレーキ制御装置の演算処理動作について図4のフローチャートに基づき説明する。この例示は、自車両の衝突前に加圧部70を停止させる場合である。
運転支援ECU94は、自車両が衝突する可能性があるのか否かを判定する(ステップST1)。
この判定は、衝突回避制御等における周知の判定形態を利用して行う。例えば、運転支援ECU94には、自車両の衝突の可能性を判定する衝突可能性判定部が設けられている。その衝突可能性判定部は、周辺監視装置95の検出情報を利用して、自車両との間隔が縮まるであろうと予測される障害物の有無を判定する。そして、そのような障害物が検出された場合、衝突可能性判定部は、自車両と障害物との間隔の変化、自車両と障害物との相対速度の変化等に基づいて、その障害物に自車両が衝突する可能性があるのか否かを判定する。運転支援ECU94は、衝突の可能性が無ければ、この演算処理を一旦終わらせる。
運転支援ECU94は、自車両の衝突の可能性がある場合、その旨を運転者に通知する(ステップST2)。
例えば、運転支援ECU94には、車室内の乗員に向けて情報を伝える通知制御部が設けられている。その通知制御部は、自車両の衝突の可能性がある旨を視覚情報や聴覚情報として通知する。例えば、通知制御部は、その旨を伝える文字やマーク等を車室内の表示部(図示略)に表示させる。また、通知制御部は、その旨を伝える音声や警告音を車室内のスピーカ(図示略)から出力させる。
衝突可能性判定部は、自車両の衝突の可能性が高いのか否かを判定する(ステップST3)。この判定は、自車両と障害物との間隔の変化、自車両と障害物との相対速度の変化等に基づいて行えばよい。運転支援ECU94は、衝突の可能性が低ければ、この演算処理を一旦終わらせる。
ここで、衝突の可能性があることを認識した運転者は、即座にブレーキ操作を行うものと考えられるが、例えば、その認識が遅れたなどの理由によって、ブレーキ操作が行われていない場合もある。このため、運転支援ECU94の運転支援制御部は、衝突の可能性が高い場合、運転者によってブレーキ操作が実施されているのか否かを判定する(ステップST4)。この判定は、ペダルセンサ11が検出したブレーキ操作量に基づき行う。尚、この判定は、ストップランプスイッチ(図示略)のオン信号を利用してもよい。
運転支援制御部は、運転者がブレーキ操作を実施していなければ、下記のステップST6に進む。これに対して、運転者がブレーキ操作を実施している場合、運転支援制御部は、ブレーキアシスト制御を実施させる(ステップST5)。
この例示では、運転支援制御部がブレーキアシスト制御の実施指令をブレーキECU1に送り、これを受信したブレーキECU1の制動制御部が液圧調整部40を制御して、ブレーキアシスト制御を実施する。その制動制御部は、マスタカット弁41A,41Bを両方とも閉弁させ、かつ、ポンプモータ74を駆動して加圧部70による加圧ブレーキ液圧を全ての車輪**の保持弁51**の上流に供給する。その際、制動制御部は、加圧ブレーキ液圧を増圧させながらマスタシリンダ圧からのすり替えを行う。尚、このときには、全ての車輪**の保持弁51**が開弁状態であり、かつ、全ての車輪**の減圧弁52**が閉弁状態である。
衝突可能性判定部は、自車両の衝突を回避できないのか否かを判定する(ステップST6)。この判定は、現状の自車両の走行姿勢(進行方向)のままで衝突を回避できないのか否かを判断するものであり、自車両と障害物との間隔の変化、自車両と障害物との相対速度の変化等に基づいて行えばよい。運転支援ECU94は、現状のままで衝突を回避できると判定した場合、この演算処理を一旦終わらせる。
現状のままで衝突を回避できないと判定した場合、運転支援制御部は、その衝突に備えてプリクラッシュブレーキ制御を実施させる(ステップST7)。
この例示では、運転支援制御部がプリクラッシュブレーキ制御の実施指令をブレーキECU1に送り、これを受信したブレーキECU1の制動制御部が液圧調整部40を制御して、プリクラッシュブレーキ制御を実施する。制動制御部は、ブレーキアシスト制御の実行中であれば、ポンプモータ74の出力トルクを増加させて、加圧部70による加圧ブレーキ液圧を要求ブレーキ液圧Preqまで増圧させる。一方、制動制御部は、ブレーキアシスト制御が実施されていなければ、マスタカット弁41A,41Bを両方とも閉弁させ、かつ、ポンプモータ74を駆動して、加圧部70による加圧ブレーキ液圧をプリクラッシュブレーキ制御の要求ブレーキ液圧Preqまで増圧させる。先に説明した図3は、前者を表している。
衝突可能性判定部は、このプリクラッシュブレーキ制御を開始した後、自車両の衝突までの予測時間Ttcが所定時間Tth11以下になっているのか否かを判定する(ステップST8)。
衝突までの予測時間Ttcは、自車両と障害物との間隔、及び、自車両と障害物との相対速度に基づいて求めることができる。ここで、この衝突までの予測時間Ttcは、車両の進行方向が現状のまま変わらないものとして演算されたものである。このため、衝突までの予測時間Ttcが長い場合には、運転者の操舵操作や運転支援ECU94による車輪**の転舵制御などによって自車両の進行方向を変えることで、衝突を回避できる可能性もある。よって、この例示では、この点を考慮して所定時間Tth11を決める。つまり、所定時間Tth11とは、加圧部70を停止させるべきか否かを判定するための閾値であり、自車両の進行方向の変更によって衝突を回避できるだけの時間が残っているのか否かに基づき決める。
ここで、その所定時間Tth11は、自車両と障害物との間隔、自車両と障害物との相対速度、自車両の運転者による操舵角(車輪**の転舵角)等に応じて変更してもよい。例えば、自車両と障害物との間隔が狭いほど、進行方向の変更によって衝突を回避できる可能性が低くなるので、ここでは、その間隔が狭いほど長い所定時間Tth11を設定することで、下記の異常検出制御に進ませる確率を上げればよい。また、自車両と障害物との相対速度(自車両が障害物に近づいていく際のもの)が大きいほど、進行方向の変更によって衝突を回避できる可能性が低くなるので、ここでは、その相対速度が大きいほど長い所定時間Tth11を設定することで、下記の異常検出制御に進ませる確率を上げればよい。また、車両は、操舵角(転舵角)が大きいほど、ニュートラルステアのときよりも車速が低下する。このため、操舵角(転舵角)が小さいほど、進行方向の変更によって衝突を回避できる可能性が低くなるので、ここでは、操舵角(転舵角)が小さいほど長い所定時間Tth11を設定することで、下記の異常検出制御に進ませる確率を上げればよい。
運転支援ECU94は、衝突までの予測時間Ttcが所定時間Tth11よりも長い場合、衝突を回避できる可能性があるので、この演算処理を一旦終わらせる。一方、衝突までの予測時間Ttcが所定時間Tth11以下の場合、衝突を回避できる可能性がないので、運転支援ECU94は、ブレーキECU1に演算処理を渡す。
そのブレーキECU1は、衝突に伴い液圧経路が損傷したときに備えて、液圧経路の異常を検出するための異常検出制御を実施する(ステップST9)。この異常検出制御について図5のフローチャートに基づき説明する。
制動制御部は、駆動中のポンプモータ74を停止させることで、加圧部70を停止させる(ステップST9A)。つまり、制動制御部は、加圧部70の停止制御に伴うブレーキ液圧の加圧量の減少制御について、自車両の衝突の可能性が検出され、かつ、その衝突の回避が不可能であると検出されたときに開始する。ここで、制動制御部は、ポンプモータ74を即座に停止させてもよいが、ポンプモータ74の出力トルクを線形的に又は非線形的に減少させながら最終的に0にして、このポンプモータ74を停止させてもよい。
異常検出部は、加圧部70の停止後、運転支援ECU94の衝突判定部が自車両の衝突を検出した場合(ステップST9B)、衝突してからの経過時間Tlapを計算し、この経過時間Tlapが所定時間Tth12以下になっているのか否かを判定する(ステップST9C)。衝突判定部は、例えば、加速度センサによって検出された車両の加速度が所定の閾値を超えた場合に、自車両の衝突を検出する。また、この衝突判定部は、エアバッグセンサ(図示略)の出力信号に基づいて自車両の衝突を検出してもよい。
異常検出部は、このステップST9C以降の演算処理を車輪**毎に実施する。ここで、この異常検出部には、ステップST9C以降の演算処理を全ての車輪**に対して実施し終えたとしても、ステップST9Cで否定判定(Tlap>Tth12)になるまで、再びステップST9C以降の演算処理を車輪**毎に繰り返させることが望ましい。ステップST9Cで否定判定されるまでは、ブレーキ液圧P**が所定圧Pthまで低下していない可能性があるからである。
所定時間Tth12とは、衝突後における加圧部70よりも下流の液圧経路の状態を判断するための閾値であり、加圧部70を停止させた状態でのブレーキ液圧の低下速度等に基づいて決める。例えば、衝突してからの経過時間Tlapがある時間を過ぎても異常検出部が異常を検出しない場合には、その加圧部70の下流の液圧経路に異常が発生していないと判断してもよい。その異常が無いと判断できる経過時間Tlapは、ブレーキ液圧が所定圧Pthに低下するまでの時間であり、ブレーキ液圧の低下速度等に依存する。このため、ここでは、その所定圧Pthまでの低下時間を所定時間Tth12とする。
異常検出部は、衝突してからの経過時間Tlapが所定時間Tth12以下の場合、ある車輪**の液圧センサ32**で検出されたブレーキ液圧P**が所定圧Pth以下になっているのか否かを判定する(ステップST9D)。
異常検出部は、そのブレーキ液圧P**が所定圧Pth以下の場合、この車輪**に関わる加圧部70よりも下流の液圧経路に異常が有ると判断する(ステップST9E)。これに対して、異常検出部は、そのブレーキ液圧P**が所定圧Pthよりも高い場合、この車輪**に関わる加圧部70よりも下流の液圧経路に異常が無いと判断する(ステップST9F)。
異常検出部は、そのステップST9E又はステップST9Fの判断の結果に基づいて、その車輪**の液圧経路の状態情報(異常の有無)を更新する(ステップST9G)。例えば、異常検出部は、その状態情報をブレーキECU1の一時記憶部等に記憶させる。
異常検出部は、このステップST9C以降の演算処理を全ての車輪**に対して実施することで、加圧部70よりも下流の液圧経路における異常の有無を把握する。この異常検出部は、全ての車輪**の液圧通路31**に異常が無いと判断した場合、ポンプ通路72A,72Bについても異常が無いと判断する。一方、異常検出部は、第1液圧回路の車輪**の液圧通路31**に異常が有ると判断した場合、その車輪**の液圧通路31**のみ又は当該車輪**の液圧通路31**とポンプ通路72Aの双方又はポンプ通路72Aのみに異常が発生していると判断する。第2液圧回路についても同様である。
液圧経路の異常の有無を明らかにした後、制動制御部は、異常の無い液圧通路31**のブレーキ液圧を利用して、自車両の操縦安定性の向上制御(操安制御)を実施する(ステップST10)。その際、制動制御部は、加圧部70を再起動させ、異常の無い液圧通路31**に加圧ブレーキ液圧を供給する。また、制動制御部は、異常の無い液圧通路31**の車輪**に対する要求制動力に応じて、保持弁51**や減圧弁52**を制御する。
以上示したように、本実施例のブレーキ制御装置は、加圧部70による加圧ブレーキ液圧が液圧経路に供給されている場合に、自車両の衝突の可能性が検出されている状態で、かつ、自車両の衝突の前に(自車両の衝突の可能性が検出され、かつ、自車両の衝突の回避が不可能であると検出されたときに)、駆動中のポンプモータ74の出力トルクを0に減少させることで、加圧部70から液圧経路に供給されるブレーキ液圧の加圧量を0まで減少させる。このため、このブレーキ制御装置は、加圧ブレーキ液圧を供給し続けたときよりも、損傷の発生している液圧経路のブレーキ液圧を早く低下させることができるので、この液圧経路の異常を異常検出部が早期に検出することができる。
更に、このブレーキ制御装置は、異常が生じている液圧経路を早期に特定することもできる。そして、これにより、このブレーキ制御装置は、その異常が生じている車輪の液圧経路と同一系統の他方の車輪の液圧経路についても特定することができる。前述したように、その他方の車輪の液圧経路においては、この液圧経路でブレーキ液の漏れが発生していなくても、ブレーキ液圧が低下していく。よって、このブレーキ制御装置は、この他方の車輪の液圧経路が正常な場合、例えば加圧部70を再起動して加圧ブレーキ液圧を上昇させることで、この正常な車輪の液圧経路のブレーキ液圧を要求値にまで早い段階で戻すことができる。
ここで、そのような加圧部70の再起動を行う場合には、図3でも説明したように、異常が検出された液圧通路31**に繋がっている保持弁51**と減圧弁52**を閉弁させることが望ましい。その保持弁51**を閉じた場合には、この保持弁51**よりも下流の液圧通路31**に新たなブレーキ液が供給されないので、更なるブレーキ液の漏れを抑えることができる。また、この保持弁51**を閉じた場合には、開弁状態のままの場合と比較して、要求制動力に応じた加圧部70によるブレーキ液圧の加圧量を少量に抑えることができる。よって、その際には、ポンプモータ74の出力トルクを小さく抑えることが可能なので、このポンプモータ74の駆動に要する電力消費量を低減でき、例えば、抑えられた電力を補器等の他の電気機器の駆動に使うことができる。
また更に、このブレーキ制御装置は、加圧部70を停止させない場合と比較して、異常が生じている液圧経路のブレーキ液圧の早期低下を促すことになり、そのブレーキ液圧の変動(低下の傾き)が大きいので、ブレーキ液の漏れの速度や残存ブレーキ液圧の予測を行いやすい。このため、このブレーキ制御装置は、前述した操安制御の制御性を向上させることができる。
[変形例1]
ところで、実施例のブレーキ制御装置では、加圧部70による加圧ブレーキ液圧が液圧経路に供給されている場合、自車両の衝突の可能性が検出されている状態で、かつ、自車両の衝突の前に(自車両の衝突の可能性が検出され、かつ、自車両の衝突の回避が不可能であると検出されたときに)、駆動中のポンプモータ74を停止させることで、その加圧部70から液圧経路に供給されるブレーキ液圧の加圧量を0まで減少させる。この加圧量の減少制御を自車両の衝突の前に実施する理由の1つは、衝突が回避できないと判断されている点である。しかしながら、実施例でも説明したように、自車両は、その進行方向を変えることで、衝突を回避できる可能性がある。また、衝突の相手が走行中の車両のような動的物体の場合には、その動的物体の動き次第で衝突を回避できる可能性がある。これらの可能性を考慮に入れた場合、自車両が衝突する前に加圧部70を停止させると、衝突が回避できたときには、その制御が実施の必要の無かったものとなる。
そこで、本変形例のブレーキ制御装置においては、加圧部70による加圧ブレーキ液圧が液圧経路に供給されている場合、自車両の衝突が検出されたならば(つまり自車両の衝突が検出された後に)、駆動中のポンプモータ74を停止させることで、その加圧部70から液圧経路に供給されるによるブレーキ液圧の加圧量を0まで減少させる。より好ましくは、加圧部70による加圧ブレーキ液圧が液圧経路に供給されている場合、自車両の衝突が検出されたときに、駆動中のポンプモータ74を停止させる。
本変形例のブレーキ制御装置は、図4のフローチャートに示す演算処理を行う。その演算処理については、ステップST9の演算処理の具体的な内容が異なるのみで、本変形例でも実施例と同等のものとして行われるので、ここでの説明を省略する。
そのステップST9の演算処理の具体的な内容については、図6のフローチャートに示す。この図6のフローチャートに示す演算処理については、ステップST9C以降の演算処理が実施例のステップST9C以降の演算処理と同じである。よって、ここでは、そのステップST9C以降の説明についても省略する。
つまり、本変形例の制動制御部は、衝突までの予測時間Ttcが所定時間Tth11以下の場合、衝突判定部によって自車両の衝突が検出されたのか否かを判定する(ステップST19A)。ブレーキECU1は、自車両の衝突が検出されていない場合、この演算処理を一旦終わらせる。一方、制動制御部は、自車両の衝突が検出された場合、駆動中のポンプモータ74を停止させることで、加圧部70を停止させる(ステップST19B)。即ち、制動制御部は、加圧部70の停止制御に伴うブレーキ液圧の加圧量の減少制御について、自車両の衝突が検出されたときに開始する。そのポンプモータ74については、実施例でも説明したように、即座に停止させてもよく、出力トルクを線形的に又は非線形的に減少させながら最終的に停止させてもよい。
異常検出部は、その後、ステップST9C以降の演算処理を車輪**毎に実施する。本変形例においても、この異常検出部には、ステップST9C以降の演算処理を全ての車輪**に対して実施し終えたとしても、ステップST9Cで否定判定(Tlap>Tth12)になるまで、再びステップST9C以降の演算処理を車輪**毎に繰り返させることが望ましい。
本変形例のブレーキ制御装置は、このように加圧部70の停止時期を実施例に対して変えたとしても、その実施例のブレーキ制御装置と同等の効果を得ることができる。更に、このブレーキ制御装置は、自車両の衝突が結果的に回避できた場合に、無用な加圧部70の停止制御を実施する必要が無い。また、このブレーキ制御装置は、自車両の衝突が結果的に回避できた場合に、加圧部70の停止に伴う例えばプリクラッシュブレーキ制御の要求制動力に対する制動力の低下を回避できる。
ここで、本変形例の制動制御部には、このように自車両の衝突の後にブレーキ液圧の加圧量の減少制御を行った場合、異常検出部の検出結果に応じて、異常の検出されていない液圧経路のブレーキ液圧を加圧部70の再起動によって加圧させ、その液圧経路と繋がる制動力発生部30**に当該加圧ブレーキ液圧に応じた制動力を発生させてもよい。つまり、この制動制御部は、自車両の衝突の後にブレーキ液圧の加圧量の減少制御を行った場合、異常の検出されていない液圧経路と繋がる車輪に対して、加圧部70の再起動に伴う加圧ブレーキ液圧に応じた制動力を発生させる衝突後制動力制御(いわゆるポストクラッシュブレーキ制御)を実施する。以下の例示においても、自車両の衝突の後にブレーキ液圧の加圧量の減少制御を行った場合、その後、このようなポストクラッシュブレーキ制御を実施してよい。
[変形例2]
実施例又は変形例1のブレーキ制御装置では、加圧部70から液圧経路に供給されるブレーキ液圧の加圧量を0まで減少させている。このように加圧部70を停止させる理由は、異常検出部による異常の有無の早期判定を実現できると共に、加圧部70の停止前と略同等の制動力(例えばプリクラッシュブレーキ制御における要求制動力)を停止後も維持できるからである。しかしながら、例えば、プリクラッシュブレーキ制御においては、出力可能な最大の要求制動力を制御開始時から出力させる制御形態もあるが、衝突するまでは最大値よりも低く抑えた要求制動力とし、衝突後にその最大値まで増加させる制御形態も考えられる。更に、加圧部70を停止させている場合と動作させている場合とでは、動作させている場合の方が停止させている場合よりも、加圧部70による加圧ブレーキ液圧の出力応答性が良い。
そこで、本変形例のブレーキ制御装置においては、加圧部70による加圧ブレーキ液圧が液圧経路に供給されている場合、自車両の衝突の可能性が検出されている状態で、かつ、自車両の衝突の前に(自車両の衝突の可能性が検出され、かつ、自車両の衝突の回避が不可能であると検出されたときに)、又は、自車両の衝突が検出されたならば(より好ましくは自車両の衝突が検出されたときに)、駆動中のポンプモータ74の出力トルクを減少させることで、加圧部70から液圧経路に供給されるブレーキ液圧の加圧量を減少させる。これにより、本変形例のブレーキ制御装置は、異常検出部による異常の有無の早期判定を実現できると共に、その異常の有無に拘わらず、要求制動力が増減した際に、ポンプモータ74の出力トルクの調整によって、その増減後の要求制動力を応答性良く出力させることができる。
ここで、そのブレーキ液圧の加圧量の減少度合い(加圧ブレーキ液圧の低下量)は、例えば、自車両の停止までの距離が短いほど大きくすればよい。自車両が停止するまでの距離が長い場合とは、自車両の車速が高い場合であり、自車両を停止させるために大きな制動力が必要とされるからである。一方、自車両が停止するまでの距離が短い場合とは、自車両の車速が低い場合であり、ある程度自車両を停止させるため制動力が小さくなっても、停止までの距離に大きな差が生じないからである。
尚、本変形例のブレーキ制御装置は、異常検出部による異常の有無の早期判定の実現に重きを置くのであれば、実施例又は変形例1と同じように、加圧部70によるブレーキ液圧の加圧量を0まで減少させればよい。つまり、本変形例のブレーキ制御装置は、加圧部70による加圧ブレーキ液圧が液圧経路に供給されている場合、自車両の衝突の可能性が検出されている状態で、かつ、自車両の衝突の前に(自車両の衝突の可能性が検出され、かつ、自車両の衝突の回避が不可能であると検出されたときに)、又は、自車両の衝突が検出されたならば(より好ましくは自車両の衝突が検出されたときに)、加圧部70から液圧経路に供給されるブレーキ液圧の加圧量を減少させる又は0にするものとなる。
[変形例3]
実施例や変形例1及び2のブレーキ制御装置では、加圧部70による加圧ブレーキ液圧が液圧経路に供給されている場合、自車両の衝突の可能性が検出されている状態で、かつ、自車両の衝突の前に、又は、自車両の衝突が検出されたならば、駆動中のポンプモータ74の出力トルクを減少させる又は0にすることで、衝突に伴い異常の発生した液圧経路のブレーキ液圧の早期の低下を促している。これに対して、本変形例のブレーキ制御装置は、加圧部70による加圧ブレーキ液圧が液圧経路に供給されている場合、自車両の衝突の可能性が検出されている状態で、かつ、自車両の衝突の前に(自車両の衝突の可能性が検出され、かつ、自車両の衝突の回避が不可能であると検出されたときに)、又は、自車両の衝突が検出されたならば(より好ましくは自車両の衝突が検出されたときに)、加圧部70と各車輪**の制動力発生部30**との間に介在させた弁機構を閉弁側へと制御することで、その弁機構よりも下流の液圧経路に供給されるブレーキ液圧の加圧量を減少させ、衝突に伴い異常の発生した液圧経路のブレーキ液圧の早期低下を促す。ここでは、その弁機構の開弁量を減少させることで、この弁機構よりも下流の液圧経路に供給されるブレーキ液圧の加圧量を減少させる、又は、その弁機構を閉弁させることで、この弁機構よりも下流の液圧経路へのブレーキ液の供給を断ち、この弁機構よりも下流の液圧経路に供給されるブレーキ液圧の加圧量を0にする。
この例示の制動システムでは、加圧部70と各車輪**の制動力発生部30**との間に、各車輪**の保持弁51**と減圧弁52**が弁機構として介在している。このため、この制動システムでは、全ての車輪**の保持弁51**と減圧弁52**を閉弁側に制御する又は閉弁させることで、この弁機構よりも下流の液圧経路に供給されるブレーキ液圧の加圧量を減少させる又は0にする。ここでは、全ての車輪**の保持弁51**と減圧弁52**を閉弁させ、前述した保持モードに移行させることで、その保持弁51**よりも下流の液圧通路31**へのブレーキ液の供給を断つ一方、この液圧通路31**からのブレーキ液の流出(損傷によるブレーキ液の漏れは除く)を抑える。
本変形例のブレーキ制御装置の演算処理について図4、図7及び図8のフローチャートに基づき説明する。尚、図4のフローチャートに示す演算処理については、ステップST9の演算処理の具体的な内容が異なるのみで、本変形例でも前述した実施例等と同等のものとして行われるので、ここでの説明を省略する。
図7と図8のフローチャートでは、加圧部70と各車輪**の制動力発生部30**との間に介在させた弁機構(全ての車輪**の保持弁51**と減圧弁52**)の閉弁時機が異なる。図7のフローチャートは、自車両の衝突の前に(自車両の衝突の可能性が検出され、かつ、自車両の衝突の回避が不可能であると検出されたときに)閉弁させるものである。一方、図8のフローチャートは、自車両の衝突が検出されたときに閉弁させるものである。この図7及び図8のフローチャートに示す演算処理については、ステップST9C以降の演算処理が前述した実施例等のステップST9C以降の演算処理と同じである。よって、ここでは、そのステップST9C以降の説明についても省略する。
自車両の衝突の前に閉弁させる場合(図7のフローチャート)について説明する。
制動制御部は、衝突までの予測時間Ttcが所定時間Tth11以下の場合、全ての車輪**の保持弁51**と減圧弁52**を閉弁させる(ステップST29A)。
ここで、この例示では、プリクラッシュブレーキ制御が実施されているので、マスタカット弁41A,41Bが閉弁させられている。また、プリクラッシュブレーキ制御の実施中には、吸入弁44A,44Bも閉弁させられている。このため、全ての車輪**の保持弁51**が閉弁させられた場合には、加圧部70で加圧されたブレーキ液圧の行き場がなくなる。よって、吸入弁44A,44Bを開弁して加圧部70で加圧されたブレーキ液圧を逃がすことも考えられるが、これは、電力消費量の増大を招くだけで、無駄なものとなる。そこで、制動制御部は、加圧部70と各車輪**の制動力発生部30**との間に介在させた弁機構(全ての車輪**の保持弁51**と減圧弁52**)を閉弁させるに際して、駆動中のポンプモータ74を停止させることによって、加圧部70を停止させる。
異常検出部は、この状態で自車両の衝突が検出された場合(ステップST29B)、ステップST9C以降の演算処理を車輪**毎に実施する。
一方、自車両の衝突が検出されたときに閉弁させる場合(図8のフローチャート)、制動制御部は、衝突までの予測時間Ttcが所定時間Tth11以下であると判定され、その後、衝突判定部によって自車両の衝突が検出されると(ステップST39A)、全ての車輪**の保持弁51**と減圧弁52**を閉弁させる(ステップST39B)。その閉弁を行うに際しては、図7の例示と同じように、駆動中のポンプモータ74を停止させることによって、加圧部70を停止させる。異常検出部は、その閉弁後、ステップST9C以降の演算処理を車輪**毎に実施する。
本変形例においても、異常検出部には、ステップST9C以降の演算処理を全ての車輪**に対して実施し終えたとしても、ステップST9Cで否定判定(Tlap>Tth12)になるまで、再びステップST9C以降の演算処理を車輪**毎に繰り返させることが望ましい。
ここで、図7及び図8の何れの例示においても、異常検出部は、ステップST9C以降の演算処理を全ての車輪**に対して実施することで、加圧部70よりも下流の液圧経路における異常の有無を把握することができる。しかしながら、この異常検出部は、ポンプ通路72A,72Bのブレーキ液圧が判らないので、このポンプ通路72A,72Bの異常の有無を判断できない。このため、本変形例では、そのポンプ通路72A,72Bにそれぞれ液圧センサを設け、このポンプ通路72A,72Bの衝突後のブレーキ液圧の変化を観ることで、このポンプ通路72A,72Bの異常の有無が判断できるようにしてもよい。
図9の下図は、図7の演算処理を行ったときの図であり、それぞれの車輪**の制動力発生部30**に作用しているブレーキ液圧P**の時間経過に伴う状態を表したものである。本図は、衝突によって左前輪の液圧経路(液圧通路31fl)のみからブレーキ液が漏れるようになった状態を表している。尚、図9の上図と中図は、それぞれに図3の上図と中図と同じものである。
図9では、時間t1で衝突の回避が不可能と判定されてプリクラッシュブレーキ制御が開始され、時間t2でブレーキ液圧がプリクラッシュブレーキ制御の要求ブレーキ液圧Preqまで上昇する。また、この図9においては、時間t3で全ての車輪**の保持弁51**と減圧弁52**を閉弁させる。時間t4は、衝突に伴いブレーキ液が漏れ始めたときである。時間t5,t6は、左前輪のブレーキ液圧Pflが所定圧Pthまで低下したときであり、かつ、異常検出部が液圧通路31flの異常を検出したときである。この時間t5,t6は、更に、その左前輪の保持弁51flと減圧弁52flとを閉弁状態にする制御の開始時点である。
全ての車輪**の保持弁51**と減圧弁52**を閉弁させている状態では、左前輪の液圧通路31flに新たなブレーキ液が供給されないので、図9の中図に示す全ての車輪**の保持弁51**と減圧弁52**を閉弁させなかったときと比較して、所定圧Pthにまで低下したブレーキ液圧が時間「t6−t5」の分だけ早い段階で検出される。このため、異常検出部は、全ての車輪**の保持弁51**と減圧弁52**を閉弁させなかったときと比較して、液圧経路に異常が発生していることの検出と、異常の発生している液圧経路の特定と、を早期に行うことができる。
また、左前輪の液圧通路31flと右後輪の液圧通路31rrとの間は、同一系統の第2液圧回路に存在している。しかしながら、ここでは、そのそれぞれの車輪の保持弁51fl,51rrと減圧弁52fl,52rrを閉弁させているので、その間が遮断されている。このため、本変形例のブレーキ制御装置では、このことも左前輪の液圧通路31flのブレーキ液圧の低下を促す要因となり、液圧経路の異常の早期検出と異常の発生している液圧経路の早期特定に繋がる。更に、その閉弁によって、衝突に伴い左前輪の液圧通路31flからブレーキ液が漏れ始めたとしても、右後輪の液圧通路31rrが正常であれば、この液圧通路31rrのブレーキ液圧Prrは、液圧通路31flのブレーキ液の漏れに伴って低下しない。よって、本変形例のブレーキ制御装置では、全ての車輪**の液圧通路31**に対する異常の有無を異常検出部が判断した後で、実施例等のような右後輪のブレーキ液圧Prrの低下を補填するための制御が不要になる。
このように、本変形例のブレーキ制御装置は、液圧経路の異常の早期検出と異常の発生している液圧経路の早期特定とを行うことができる。また、このブレーキ制御装置は、異常の発生している液圧通路31**と異常の発生していない液圧通路31**とが同一系等の液圧回路で混在している場合でも、加圧部70を停止させるだけの実施例等と比べて、加圧部70と各車輪**の制動力発生部30**との間に介在させた弁機構(全ての車輪**の保持弁51**と減圧弁52**)の閉弁側への制御によって、正常な液圧通路31**のブレーキ液圧が低下しない。このため、このブレーキ制御装置では、そのブレーキ液圧の低下を補填する必要が無いので、ポンプモータ74の駆動等に伴う電力消費量の増加を抑えることができる。
更に、加圧部70と各車輪**の制動力発生部30**との間に介在させた弁機構(全ての車輪**の保持弁51**と減圧弁52**)を閉弁させた直後は、この閉弁が行われる前の加圧ブレーキ液圧がそれぞれの車輪**の液圧通路31**に残っている。このため、その後も、ブレーキ液の漏れの無い正常な液圧通路31**においては、その加圧ブレーキ液圧が略維持される。よって、ここでは、その閉弁制御を行った後も、継続中のプリクラッシュブレーキ制御における要求制動力を略維持することができる。
また更に、このブレーキ制御装置は、加圧部70と各車輪**の制動力発生部30**との間に介在させた弁機構(全ての車輪**の保持弁51**と減圧弁52**)を閉弁側へと制御させない場合と比較して、異常が生じている液圧経路のブレーキ液圧の早期低下を促すことになり、そのブレーキ液圧の変動(低下の傾き)が大きいので、ブレーキ液の漏れの速度や残存ブレーキ液圧の予測を行いやすい。このため、このブレーキ制御装置は、操安制御の制御性を向上させることができる。
[変形例4]
前述した実施例や変形例1−3のブレーキ制御装置は、機関が動力源となる車両に搭載される図2の制動システムを制御対象にしたものとして説明したが、機関と回転機(モータ等)とを動力源とするハイブリッド車両の制動システムを制御対象にすることもできる。
本変形例の制動システムは、図2の制動システムと同じように、ディスクブレーキ装置であり、マスタシリンダ圧又は調圧後のブレーキ液圧に応じた制動力を夫々の車輪**に対して個別に付与することができる。この制動システムには、図2の制動システムと同じように、液圧発生部120と車輪**毎の制動力発生部130**と液圧調整部140とが設けられている(図10)。
液圧発生部120は、マスタシリンダ122とリザーバタンク123とを備える。そのマスタシリンダ122は、一方の液圧室に第1液圧通路124Aを連通させ、他方の液圧室に第2液圧通路124Bを連通させている。また、リザーバタンク123は、第3液圧通路124Cが接続されている。
第2液圧通路124B上には、ストロークシミュレータ装置125が設けられている。ストロークシミュレータ装置125は、ストロークシミュレータとシミュレータ制御弁とを備える。シミュレータ制御弁は、いわゆる常閉式の電磁弁であって、ブレーキECU1の制動制御部の制御によって弁開度を変えることができる。そのブレーキECU1は、ソレノイドに所定の電流値の電流を印加することでシミュレータ制御弁を開弁させ、第2液圧通路124Bからストロークシミュレータにブレーキ液を送る。
また、第1液圧通路124Aと第2液圧通路124Bとには、それぞれにマスタシリンダ圧センサ126A,126Bが接続されている。マスタシリンダ圧センサ126Bは、第2液圧通路124B上でストロークシミュレータ装置125よりも下流に配置される。そのマスタシリンダ圧センサ126A,126Bの出力信号は、ブレーキECU1に送られる。
液圧調整部140は、制動制御部に制御されるブレーキアクチュエータであり、マスタシリンダ圧又は調圧後のブレーキ液圧を供給対象の制動力発生部130**に液圧通路131**を介して供給する。その液圧通路131**上には、車輪**毎に液圧センサ132**を設けている。その液圧センサ132**は、制動力発生部130**に供給されるブレーキ液圧を検出し、その検出信号をブレーキECU1に送る。
この液圧調整部140には、2つの切替弁141A,141Bが設けられている。その切替弁141A,141Bは、いわゆる常開式の電磁弁であって、制動制御部の制御によって弁開度を変えることができる。切替弁141Aは、第1液圧通路124Aと右前輪の液圧通路131frとを接続し、これらの間を開弁時に連通させる。切替弁141Bは、第2液圧通路124Bと左前輪の液圧通路131flとを接続し、これらの間を開弁時に連通させる。
各車輪**は、それぞれに保持弁151**と減圧弁152**を備える。全ての保持弁151**と前輪の減圧弁152fl,152frは、いわゆる常閉式の電磁弁であって、制動制御部の制御によって弁開度を変えることができる。一方、後輪の減圧弁152rl,152rrは、いわゆる常開式の電磁弁であって、制動制御部の制御によって弁開度を変えることができる。
全ての保持弁151**の上流側には、液圧通路153が接続されている。また、全ての減圧弁152**の下流側には、液圧通路154が接続されている。その液圧通路154は、第3液圧通路124Cに接続される。
前輪の保持弁151fl,151frの下流側には、それぞれに液圧通路155fl,155frの一端が接続されている。その液圧通路155fl,155frの他端は、それぞれに前輪の減圧弁152fl,152frの上流側に接続されている。一方、この液圧通路155fl,155frは、それぞれに液圧通路156fl,156frを介して液圧通路131fl,131frに接続されている。
一方、後輪の保持弁151rl,151rrの下流側には、それぞれに液圧通路131rl,131rrが接続されている。そして、後輪においては、その液圧通路131rl,131rrと減圧弁152rl,152rrの上流側とがそれぞれに液圧通路157rl,157rrを介して接続されている。
この液圧調整部140には、制動制御部の制御によってブレーキ液を加圧し、その加圧ブレーキ液圧を液圧通路153(つまり保持弁151**の上流側)に供給する加圧部170が設けられている。
その加圧部170は、ポンプモータ171とアキュムレータ172とを備える。ポンプモータ171には、第3液圧通路124Cが接続されており、リザーバタンク123又は液圧通路154からのブレーキ液が吸入される。このポンプモータ171は、吸入したブレーキ液を加圧し、液圧通路173を介してアキュムレータ172に送る。その液圧通路173には、アキュムレータ172のブレーキ液をポンプモータ171へと逆流させないように逆止弁174が設けられている。
アキュムレータ172の加圧ブレーキ液圧(アキュムレータ圧)は、液圧通路175を介して液圧通路153(保持弁151**の上流側)に供給される。その液圧通路175には、アキュムレータ圧センサ176を設けている。そのアキュムレータ圧センサ176は、液圧通路153(保持弁151**の上流側)に供給されるアキュムレータ圧を検出し、その検出信号をブレーキECU1に送る。
液圧通路175におけるアキュムレータ172とアキュムレータ圧センサ176との間には、液圧通路177が接続されている。その液圧通路177は、更に液圧通路154に接続されている。この液圧通路177には、液圧通路175から液圧通路154にのみブレーキ液を流すことのできる逆止弁178が設けられている。
この制動システムに対して制動制御部が実施する制御について説明を行う。
制動制御部は、増圧モードの制御対象車輪が存在する場合、その制御対象車輪の保持弁151**を開弁状態とし、かつ、その制御対象車輪の減圧弁152**を閉弁状態とし、かつ、ポンプモータ171を駆動制御する。また、制動制御部は、減圧モードの制御対象車輪が存在する場合、その制御対象車輪の保持弁151**を閉弁状態とし、かつ、その制御対象車輪の減圧弁152**を開弁状態とする。また、制動制御部は、保持モードの制御対象車輪が存在する場合、その制御対象車輪の保持弁151**と減圧弁152**を閉弁状態とする。
また、制動制御部は、ブレーキアシスト制御やプリクラッシュブレーキ制御を実施する際に、切替弁141A,141Bを閉弁状態とし、かつ、全ての車輪**の保持弁151**を開弁状態とし、かつ、全ての車輪**の減圧弁152**を閉弁状態とし、かつ、ポンプモータ171を駆動制御する。
また、本変形例のブレーキ制御装置は、加圧部170による加圧ブレーキ液圧(アキュムレータ圧)が液圧経路に供給されている場合、自車両の衝突の可能性が検出されている状態で、かつ、自車両の衝突の前に(自車両の衝突の可能性が検出され、かつ、自車両の衝突の回避が不可能であると検出されたときに)、又は、自車両の衝突が検出されたならば(より好ましくは自車両の衝突が検出されたときに)、駆動中のポンプモータ171の出力トルクを減少させる又は0にすることで、加圧部170から液圧経路に供給されるブレーキ液圧の加圧量を減少させ又は0にし、衝突に伴い異常の発生した液圧経路のブレーキ液圧の早期低下を促す。これにより、このブレーキ制御装置は、実施例や変形例1及び2のブレーキ制御装置と同様の効果を得ることができる。
また、本変形例のブレーキ制御装置は、加圧部170による加圧ブレーキ液圧(アキュムレータ圧)が液圧経路に供給されている場合、自車両の衝突の可能性が検出されている状態で、かつ、自車両の衝突の前に(自車両の衝突の可能性が検出され、かつ、自車両の衝突の回避が不可能であると検出されたときに)、又は、自車両の衝突が検出されたならば(より好ましくは自車両の衝突が検出されたときに)、加圧部170と各車輪**の制動力発生部130**との間に介在させた弁機構(全ての車輪**の保持弁51**と減圧弁152**)を閉弁側へと制御する又は閉弁させることで、この弁機構よりも下流の液圧経路に供給されるブレーキ液圧の加圧量を減少させ又は0にし、衝突に伴い異常の発生した液圧経路のブレーキ液圧の早期低下を促すこともできる。その閉弁制御の際には、駆動中のポンプモータ171を停止させることが望ましい。これにより、このブレーキ制御装置は、変形例3のブレーキ制御装置と同様の効果を得ることができる。尚、ここでは、全ての車輪**の減圧弁152**についても保持弁151**と共に閉弁してもよい。
ここで、本変形例の制動システムは、入力部210と加圧部270とに大別される図11に示す構成の一例を表したものである。
入力部210とは、図10の例に当て嵌めるならば、ブレーキペダル10に繋がれたマスタシリンダ122等を含む液圧回路の構成のことである。マスタシリンダ圧を加圧ブレーキ液圧に切り替えて制動力発生部230**に伝達する場合には、ストロークシミュレータ装置が搭載されるので、このストロークシミュレータ装置も入力部210に含まれる。この入力部210から各車輪**の制動力発生部230**への液圧経路において、分岐の上流側又は下流側には、弁機構(電磁弁や機械弁等)が配置される。その弁機構とは、図10の例に当て嵌めるならば、切替弁141A,141B、保持弁151**や減圧弁152**のことである。
加圧部270とは、図10の例に当て嵌めるならば、加圧部170を含む液圧回路の構成のことである。この加圧部270から各車輪**の制動力発生部230**への液圧経路において、分岐の上流側又は下流側には、弁機構(電磁弁や機械弁等)が配置される。その弁機構とは、図10の例に当て嵌めるならば、保持弁151**や減圧弁152**のことである。
図11に示す制動システムにおける入力部210と加圧部270は、図12に示す入力部210に関する各種例示の内の1つと図13又は図14に示す加圧部270に関する各種例示の内の1つとの組み合わせで構成される。図12は、入力部210と制動力発生部230**との間の液圧経路について例示したものである。図13及び図14は、加圧部270と制動力発生部230**との間の液圧経路について例示したものである。
図12の(1)は、入力部210からの液圧経路を前輪の制動力発生部230fl,230frと後輪の制動力発生部230rl,230rrとに分岐させたものである。(2)は、入力部210からの液圧経路を左前輪及び右後輪の制動力発生部230fl,230rrと右前輪及び左後輪の制動力発生部230fr,230rlとに分岐させたものである。(3)は、入力部210からの液圧経路を前輪の制動力発生部230fl,230frと全車輪の制動力発生部230**とに分岐させたものである。(4)は、入力部210からの液圧経路を前輪及び左後輪の制動力発生部230fl,230fr,230rlと前輪及び右後輪の制動力発生部230fl,230fr,230rrとに分岐させたものである。(5)は、いわゆるブレーキバイワイヤ式のものであり、全車輪の制動力発生部230**への液圧経路を2系統有するものである。(6)は、入力部210からの液圧経路を全車輪の制動力発生部230**に分岐させたものである。
図13の(1)は、加圧部270からの液圧経路を前輪の制動力発生部230fl,230frと後輪の制動力発生部230rl,230rrとに分岐させたものである。(2)は、加圧部270からの液圧経路を左前輪及び右後輪の制動力発生部230fl,230rrと右前輪及び左後輪の制動力発生部230fr,230rlとに分岐させたものである。(3)は、加圧部270からの液圧経路を全車輪の制動力発生部230**に分岐させたものである。(4)は、加圧部270からの液圧経路を前輪の制動力発生部230fl,230frと左後輪の制動力発生部230rlと右後輪の制動力発生部230rrとに分岐させたものである。(5)は、加圧部270からの液圧経路を左前輪の制動力発生部230flと右前輪の制動力発生部230frと後輪の制動力発生部230rl,230rrとに分岐させたものである。
図14は、加圧部270として第1加圧部270Aと第2加圧部270Bとを設けたものである。(1)は、第1加圧部270Aから前輪の制動力発生部230fl,230frへの液圧経路と、第2加圧部270Bから後輪の制動力発生部230rl,230rrへの液圧経路と、を有するものである。(2)は、第1加圧部270Aから右前輪及び左後輪の制動力発生部230fr,230rlへの液圧経路と、第2加圧部270Bから左前輪及び右後輪の制動力発生部230fl,230rrへの液圧経路と、を有するものである。(3)は、第1加圧部270Aから右前輪の制動力発生部230fr及び右後輪の制動力発生部230rrへの液圧経路と、第2加圧部270Bから左前輪の制動力発生部230fl及び左後輪の制動力発生部230rlへの液圧経路と、を有するものである。(4)は、第1加圧部270Aから前輪の制動力発生部230fl,230frへの液圧経路と、第2加圧部270Bから左後輪の制動力発生部230rlへの液圧経路と、第2加圧部270Bから右後輪の制動力発生部230rrへの液圧経路と、を有するものである。(5)は、第1加圧部270Aから左前輪の制動力発生部230flへの液圧経路と、第1加圧部270Aから右前輪の制動力発生部230frへの液圧経路と、第2加圧部270Bから後輪の制動力発生部230rl,230rrへの液圧経路と、を有するものである。
この図11に示す各種組み合わせの制動システムにおいても、本変形例のブレーキ制御装置は、先に説明したものと同様の制御を行うことで、同様の効果を得ることができる。