半導体のエッチングなどのプラズマ処理を行う場合には、図8に示すように、商用周波数の交流入力を高周波出力に変換する高周波電源装置1を設けて、高周波電源装置1の出力を、インピーダンス整合器2を通してプラズマ処理装置(負荷)3に供給している。
高周波電源装置1は、例えば図9に示したように、可変直流電源11と、可変直流電源11の出力を電源として動作するスイッチングアンプからなるパワーアンプ12と、高周波電力の基本周波数を有する高周波信号を発生する高周波発振部13と、高周波信号を増幅してパワーアンプ12から高周波電力を出力させるべく、高周波発振部13が出力する高周波信号によりパワーアンプ12を駆動するドライバ14と、パワーアンプ12の出力から高調波成分を除去するローパスフィルタ15と、ローパスフィルタを通過した高周波電力を負荷に向けて出力する高周波電力出力端子1aと、高周波電力出力端子1aを通して負荷に供給される進行波と、負荷から戻ってくる反射波とを検出して、進行波電力検出信号Pf及び反射電力検出信号Prを出力するパワー検出器16と、進行波電力検出信号Pf及び反射電力検出信号Prと、進行波電力設定信号PSと、反射電力保護レベル設定信号Pr−Sとを入力として可変直流電源11を制御する制御部17とにより構成される。
可変直流電源11は例えば、商用周波数の交流入力を整流する整流回路と、この整流回路の直流出力を交流出力に変換するインバータと、このインバータの出力を整流して平滑する整流平滑回路とからなっていて、インバータの交流出力をPWM制御することにより、レベルが調整された直流電力を出力する。
パワーアンプ12を構成するスイッチングアンプは、例えば可変直流電源11の出力が直流入力端子に印加されたフルブリッジ型のインバータにより構成される。ドライバ14は、高周波発振部13が出力する高周波信号に応じてスイッチングアンプを構成するインバータの各アームのスイッチ素子の制御端子に駆動信号を与えて、高周波信号に応じてインバータのスイッチ素子をオンオフさせることにより、高周波発振部13が出力する高周波信号の周波数を基本周波数とした高周波電力をパワーアンプ12から出力させる。この場合、高周波電力のレベルは、可変直流電源11の出力を制御することにより制御される。
制御部17は、進行波電力設定信号PSと進行波電力検出信号Pfとを比較して、パワー検出器16が出力する進行波電力検出信号Pfを進行波電力設定信号PSに等しくするようにパワーアンプの出力を制御する定常時出力制御を行うとともに、反射電力検出信号Prと反射電力保護レベル設定信号Pr−Sとを比較して、反射電力検出信号Prが保護レベル設定信号Pr−Sを超えたとき(反射電力が保護レベルを超えたとき)に、パワーアンプ12の出力を抑制して、反射電力検出信号Prを保護レベル設定信号Pr−Sに等しくするようにパワーアンプの出力を制御する保護制御を行う。制御部17はまた、ドライバ14の出力のon/offや、ドライバ14の出力の振幅の調整等を行う。この種の高周波電源装置は例えば特許文献1に示されている。
上記の例では、直流電力を高周波電力に変換するパワーアンプ12としてスイッチングアンプを用いているが、特許文献2に示されているように、直流電源の出力を電源として、高周波発振部の出力を電力増幅するリニアアンプによりパワーアンプを構成する場合もある。図10は、リニアアンプからなるパワーアンプを用いた高周波電源装置1の構成例を示している。この高周波電源装置1は、一定の直流電圧を出力する直流電源21と、直流電源21の出力を電源として動作するリニアアンプからなるパワーアンプ22と、高周波出力の基本周波数を有する高周波信号を発生する高周波発振部23と、高周波発振部23が出力する高周波信号を増幅してパワーアンプ22に入力するプリアンプ24と、パワーアンプ22の出力から高調波成分を除去するローパスフィルタ25と、ローパスフィルタを通過した高周波電力を負荷に向けて出力する高周波電力出力端子1aと、高周波電力出力端子1aを通して負荷に供給される進行波電力と負荷側から高周波電力出力端子1aに戻ってくる反射電力とを検出して進行波電力検出信号Pf及び反射電力検出信号Prを出力するパワー検出器26と、進行波電力検出信号Pf及び反射電力検出信号Prと、進行波電力設定信号PSと、反射電力保護レベル設定信号Pr−Sとを入力としてプリアンプ24を制御するとともに、直流電源部21の出力電圧を一定に保つように制御する制御部27とにより構成されている。制御部27は、パワー検出器26が出力する進行波電力検出信号Pfを進行波電力設定信号PSに等しくするようにパワーアンプの出力を制御する定常時出力制御と、反射電力検出信号Prが保護レベル設定信号Pr−Sを超えたときに、パワーアンプ22の出力を抑制して、反射電力検出信号Prを保護レベル設定信号Pr−Sに等しくするようにパワーアンプを制御する保護制御とを行う。図10に示された制御部27はまた、直流電源21の出力のon/offや、直流電源21の出力レベルの調整等を行う。
図9及び図10に示された高周波電源装置は、パワーアンプがスイッチングアンプにより構成されるか、リニアアンプにより構成されるかの違いがあるだけで、それぞれの主要部の構成はほぼ同じである。この種の高周波電源装置に用いられる制御部17,27は例えば図11に示すように構成されている。
図11に示された制御部は、反射電力が保護レベル以下の定常時に進行波電力を設定レベルに保つようにパワーアンプ12又は22を制御する定常時出力制御手段31と、反射電力が設定された保護レベルを超えた時に反射電力を保護レベルに保つようにパワーアンプ12又は22を制御する反射電力保護手段32と、直流電源から出力される直流電流、直流電圧、負荷に供給される高周波電流、パワーアンプで生じる損失等の他の因子が保護レベルを超えたときに当該他の因子を保護レベルに保つようにパワーアンプを制御する他の因子保護手段33とにより構成されている。
定常時(反射電力が設定された保護レベル以下の時)には、定常時出力制御手段31のみが動作する。ここで、保護レベルとは、パワーアンプを破損することなく動作させることができる反射電力の最大レベル以下に設定されたレベルであり、パワーアンプは、反射電力がこの保護レベル以下であれば破損することなく動作することができる。
定常時出力制御手段31は、進行波電力設定信号PSと進行波電力検出信号Pfとを比較して、両者の値を等しくするように制御信号P-CNTを制御対象(可変直流電源11又はプリアンプ24)に与える。制御対象(可変直流電源11又はプリアンプ24)は、制御信号P-CNTに応じてその出力を変化させて、進行波電力設定信号PSを進行波電力検出信号Pfに等しくするように、高周波電源装置の高周波出力を調整する。
負荷のインピーダンスが急変して、インピーダンス整合器2により高周波電源装置と負荷との間のインピーダンスの整合をとることができなくなり、負荷側から高周波電源装置側に戻ってくる反射電力が設定された保護レベルより大きくなった場合に、反射電力保護手段32が動作する。
反射電力保護手段32は、反射電力検出信号Prと反射電力保護レベル設定信号Pr-Sとを比較していて、反射電力検出信号Prのレベルが反射電力保護レベル設定信号Pr-Sのレベルよりも大きくなったときに、両者の値を等しくするように、制御信号P-Pr(LMT)を定常時出力制御手段31に与える。このとき定常時出力制御手段31は、制御信号P-Pr(LMT)に応じて制御信号P-CNTを変化させて、反射電力検出信号Prを反射電力保護レベル設定信号Pr-Sに等しくするように、高周波電源装置の高周波出力を調整(制限)する。
また直流電源から出力される直流電流、直流電圧、負荷に供給される高周波電流、高周波電源装置で生じる損失等の他の因子が保護レベルを超えたときに他の因子保護手段33が動作する。他の因子保護手段33は、各他の因子のレベルを検出する他の因子検出信号Other-Dを、各他の因子に対して設定された保護レベルを与える他の因子保護レベル設定信号と比較していて、各他の因子検出信号のレベルが設定された他の因子保護レベル設定信号のレベルを超えたときに、当該他の因子を保護レベルに等しくするように制御信号P-other(LMT)を定常時出力制御手段31に与える。このとき定常時出力制御手段31は、制御信号P-other(LMT)に応じて制御信号P-CNTを変化させて、各他の因子検出信号other-Dを他の因子保護レベル設定信号other-Sに等しくするように、高周波電源装置の高周波出力を調整(制限)する。
なお図11においては、他の因子保護手段33を一つのブロックとして表しているが、この保護手段は、保護の対象とする他の因子毎に設けられる。他の因子として保護の対象とする「損失」は、次の式から求められる。
損失=(直流電圧×直流電流+反射電力Pr)−進行波電力Pf …(1)
高周波電源装置の出力インピーダンスとインピーダンスの整合がとれていない負荷(不整合負荷)に、高周波電源装置から高周波電力を供給する場合のパワーアンプの動作は、パワーアンプから負荷側を見たインピーダンス(負荷側インピーダンス)によって異なる。反射電力の大きさが同じであっても(反射係数の大きさが同じでも)、その位相が相違すれば、パワーアンプ(スイッチングアンプ又はリニアアンプ)の動作が異なり、MOSFET等のアンプの構成部品で生じる損失や、構成部品にかかる電圧や、構成部品を流れる電流が異なってくる。特にパワーアンプとしてスイッチングアンプを用いる場合にその傾向が大きく、負荷が短絡に近い状態になった場合や、負荷インピーダンスが容量性である場合には、インピーダンスの不整合がない場合や、負荷インピーダンスが誘導性である場合に比べて、損失が大幅に増加する。
そのため、従来の高周波電源装置では、反射電力保護レベル設定信号Pr−Sを予想しうる最悪の負荷条件を想定して決定している。その結果、負荷インピーダンスの位相によっては、高周波電源装置の構成部品の使用状態に余裕があるにもかかわらず高周波出力が抑制されて、負荷に供給される高周波電力が不足する状態になることがあった。特に負荷がプラズマ負荷である場合、プロセス処理中にプラズマが不安定な状態になってそのインピーダンスが不安定になることがあり、プラズマ負荷のインピーダンスが不安定な状態で高周波電源装置の出力が抑制されると、プラズマが更に不安定になって、場合によってはプラズマが消滅することもあった。
また通常、プラズマ発生用高周波電源装置とプラズマ負荷との間には、図8に示されているように自動でインピーダンスの整合を図るインピーダンス整合器2が設置されているため、インピーダンスの整合がとれていない状態で高周波電源装置が動作するのは、プラズマが発生してからインピーダンス整合器2が整合動作を行うまでの数100msec〜数sec の期間と、プロセス処理装置内で異常放電が生じる等、負荷の状態が急変した時とであった。しかしながら、最近の半導体処理装置では、周波数が異なる高周波電力を重畳して負荷(プロセスチャンバ)に供給したり、パルス変調された高周波電力を負荷に供給したりする複雑なプロセスが行われるため、インピーダンス整合器2がインピーダンスの整合を完全にとることができず、高周波電源装置を、負荷とのインピーダンスの整合がとれていない状態で(不整合状態で)動作させることが多くなっている。従って、最近では、反射耐量が大きく、負荷との間のインピーダンスの整合がとれていない状態でも、十分な高周波電力を出力することができる高周波電源装置が必要とされるようになっている。
また高周波電源装置の制御系(制御部)は、制御の応答を早くし、制御ゲインを高く設定すると、パワーアンプから負荷側を見たインピーダンスが容量性になった場合や、短絡状態になった場合に、制御が不安定になる傾向がある。制御の応答性やゲインを落とせば、パワーアンプから負荷側を見たインピーダンスが容量性、誘導性、短絡及び開放の何れの場合にも制御動作を安定に行わせることが可能であるが、制御の応答性やゲインを落とすと、感度のよい制御を行うことができなくなるだけでなく、出力値を目標値に速やかに収束させることができなくなるため、制御性が悪くなるのを避けられない。負荷の変動範囲を、整合負荷から誘導性負荷の範囲に狭めることができれば、応答性やゲインを落とさずに制御の安定化を図ることができるが、プラズマ負荷のように不安定になることがある負荷に高周波電力を供給する場合に、負荷の変動範囲を、整合負荷から誘導性負荷の範囲に狭めることは困難である。
本発明の目的は、反射耐量が大きく、負荷との間のインピーダンスの整合がとれていない状態でも、高周波出力を過度に抑制することなく、装置の性能限界に近い高周波出力を得ることができる高周波電源装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、高周波出力を過度に抑制することなく、装置の性能限界に近い高周波出力を得ることができるだけでなく、制御系の応答性を早くし、制御ゲインを高く設定することができるようにした高周波電源装置を提供することにある。
本発明は、高周波信号を増幅して高周波電力を出力するパワーアンプと、パワーアンプの出力から高調波成分を除去するローパスフィルタと、ローパスフィルタを通過した高周波電力を負荷に向けて出力する高周波電力出力端子と、高周波電力出力端子を通して負荷に供給される進行波電力と負荷側から高周波電力出力端子に戻ってくる反射電力とを検出するパワー検出器と、パワー検出器により検出される進行波電力及び反射電力に応じてパワーアンプの出力を制御する制御部とを備えた高周波電源装置を対象とする。
本発明においては、パワーアンプの出力端と高周波電力出力端子との間に設けられて、パワーアンプの出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相を高周波電力出力端子から負荷側を見たインピーダンスの位相に対してほぼ180度回転させる特性を有する第1の回路構成と、パワーアンプの出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相と高周波電力出力端子から負荷側を見たインピーダンスの位相とをほぼ同じにする特性を有する第2の回路構成とをとり得るように構成された位相変換部と、位相変換部の回路構成を第1の回路構成と第2の回路構成とに切り換えるスイッチ回路と、パワー検出器により検出された進行波電力と反射電力とから、高周波電力出力端子の位置での反射係数Γの大きさと位相角θとを演算する反射係数演算部と、高周波電力出力端子から負荷側を見たインピーダンスの状態を反射係数演算部により演算された反射係数から判定して、パワーアンプの出力端から負荷側を見たインピーダンスを常に誘導性とするようにスイッチ回路を制御するスイッチ制御部とが設けられる。
なお本明細書及び特許請求の範囲において、パワーアンプの出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相を高周波電力出力端子から負荷側を見たインピーダンスの位相に対して「ほぼ180度」回転させるとし、パワーアンプの出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相と高周波電力出力端子から負荷側を見たインピーダンスの位相とを「ほぼ同じにする」としているのは、実際の回路では、配線やキャパシタ及びインダクタが有する抵抗分や浮遊インダクタンス、浮遊容量を零にすることができず、パワーアンプの出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相と高周波電力出力端子から負荷側を見たインピーダンスの位相との差が、理屈の上では180度又は0度となる場合でも、実際にはその通りにならないことがあるからである。
上記のように構成すると、パワーアンプの出力端から負荷側を見たインピーダンスが常に誘導性に見えるようにすることができる。このように構成しておくと、パワーアンプで生じる損失の低減を図ることができるため、反射電力の保護レベル(許容する反射電力の最大値)を、予想し得る最悪の負荷条件を想定して設定する必要がなくなり、高周波出力を必要以上に抑制する必要がなくなる。そのため、不整合負荷に高周波電力を供給する場合でも、反射耐量を大きくして、高周波出力を過度に抑制することなく、装置の性能限界に近い高周波出力を得ることができる。
また上記のようにパワーアンプの出力端から負荷側を見たインピーダンスが常に誘導性に見えるようにしておくと、制御系の応答性を早くしたり、制御ゲインを高くしても安定な制御動作を行わせることができるため、制御部に、従来より応答性がよく、しかも安定な制御動作を行わせることができる。
上記スイッチ制御部は、高周波電力出力端子から負荷側を見たインピーダンスが誘導性、容量性、短絡状態及び開放状態のいずれであるかを反射係数から判定して、インピーダンスが容量性であるか又は短絡状態であるときに位相変換部の回路構成を第1の回路構成とし、インピーダンスが誘導性であるか開放状態であるときには位相変換部の回路構成を第2の回路構成とするようにスイッチ回路を制御するものであることが好ましい。
本発明の好ましい態様では、上記ローパスフィルタが、入力端から負荷側を見たインピーダンスの位相を出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相に対してほぼ180度回転させる特性を有するλ/4形ローパスフィルタ(λは前記パワーアンプから出力される高周波電圧の波長)を複数個構成し得る回路構成を有していて、ローパスフィルタが位相変換部を兼ねている。この場合、スイッチ回路は、縦続接続された奇数個のλ/4形ローパスフィルタを有効にする回路構成を第1の回路構成とし、縦続接続された偶数個のλ/4形ローパスフィルタを有効にする回路構成を第2の回路構成として、ローパスフィルタの回路構成を切り換えるように構成される。
λ/4形のローパスフィルタは、その入力端から負荷側を見たインピーダンスの位相をその出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相に対してほぼ180度回転させる特性を有するため、入力端と出力端との間でインピーダンスの位相をほぼ180度回転させる位相変換要素として用いることができる。ローパスフィルタにおいて、縦続接続された奇数個のλ/4形ローパスフィルタを有効にすると、その入力端から負荷側を見たインピーダンスの位相をその出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相に対してほぼ180度回転させることができ、縦続接続された偶数個のλ/4形ローパスフィルタを有効にすると、その入力端から負荷側を見たインピーダンスの位相をその出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相とほぼ同じにすることができる。このように、高周波電源装置の必須の構成要素であるローパスフィルタを位相変換部として兼用するようにすると、装置の構成の簡素化を図ることができる。
上記のようにローパスフィルタを位相変換部として兼用する場合、ローパスフィルタの回路構成は、2段のλ/4形のπ形ローパスフィルタを構成し得る回路構成とすることができる。この場合、ローパスフィルタの回路構成を切り換えるスイッチ回路は、2段のπ形ローパスフィルタを構成している要素の一部を切り離すことにより1段のλ/4形のT形ローパスフィルタのみを有効にした回路構成を第1の回路構成とし、2段のπ形ローパスフィルタを有効にした回路構成を第2の回路構成として、ローパスフィルタの回路構成を切り換えるように構成する。
また上記のようにローパスフィルタを2段のλ/4形のπ形ローパスフィルタにより構成する場合、スイッチ回路は、2段のπ形ローパスフィルタの一方のみを有効にした回路構成を第1の回路構成とし、2段のπ形ローパスフィルタの双方を有効にした回路構成を第2の回路構成としてローパスフィルタの回路構成を切り換えるように構成してもよい。
上記のようにローパスフィルタを位相変換部として兼用する場合、ローパスフィルタは2段のλ/4形のT形ローパスフィルタを構成し得る回路構成を有していてもよい。この場合、スイッチ回路は、2段のT形ローパスフィルタの一方のみを有効にした回路構成を第1の回路構成とし、2段のT形ローパスフィルタの双方を有効にした回路構成を第2の回路構成としてローパスフィルタの回路構成を切り換えるように構成する。
上記位相変換部は、パワーアンプから出力される高周波電圧の波長の1/4の長さを有する複数の線路(1/4波長線路)により構成することもできる。
位相変換部の回路構成を切り換えるスイッチ回路は、真空スイッチにより構成するか、又はピンダイオードスイッチにより構成することが好ましい。
以上のように、本発明によれば、パワーアンプの出力端から負荷側を見たインピーダンスが常に誘導性に見えるようにしたので、パワーアンプで生じる損失の低減を図ることができる。従って、本発明によれば、反射電力の保護レベルを、予想し得る最悪の負荷条件を想定して設定する必要がなくなり、高周波出力を必要以上に抑制する必要がなくなるため、不整合負荷に高周波電力を供給する場合でも、反射耐量を大きくして、高周波出力を過度に抑制することなく、装置の性能限界に近い高周波出力を得ることができる。また本発明によれば、パワーアンプの出力端から負荷側を見たインピーダンスが常に誘導性に見えるようにするので、制御系の応答性を早くしたり、制御ゲインを高くしても安定な制御動作を行わせることができる。そのため、制御部に、従来より応答性がよく、しかも安定な制御動作を行わせることができる。
特に請求項3ないし6に記載された発明によれば、高周波電源装置の必須の構成要素であるローパスフィルタを位相変換部として利用するようにしたので、装置の構成の簡素化を図ることができる。
以下図面を参照して本発明に係る高周波電源装置の実施形態を説明する。図1は本発明に係る高周波電源装置の一実施形態を示したものである。同図において11はDC−DCコンバータなどからなっていて、大きさを調整し得る形で直流電力を出力する可変直流電源、12は可変直流電源11を電源として動作するパワーアンプ、13は負荷に供給する高周波電力の基本周波数を有する高周波信号を発生する高周波発振部、14はパワーアンプ12から高周波電力を出力させるべく、高周波発振部13が出力する高周波信号に応じてパワーアンプ12を駆動するドライバである。
本実施形態で用いるパワーアンプ12は、ブリッジの各アームがスイッチ素子と帰還ダイオードとの並列回路により構成されて、可変直流電源11の出力が直流入力端子に印加されたフルブリッジ型のインバータにより構成されたスイッチングアンプからなっていて、高周波発振部13の出力でドライバ14を介してブリッジの各アームのスイッチ素子が駆動されることにより、高周波発振部13が出力する高周波信号を増幅して高周波電力を出力する。
図1において、15はパワーアンプ12の出力から高調波成分を除去して高周波電力出力端子1aに供給するローパスフィルタ、16は方向性結合器からなっていて、ローパスフィルタ15を通過した高周波電力から負荷に供給される進行波と負荷側から戻ってくる反射波とを検出して、進行波電圧検出信号Vf及び進行波電力検出信号Pfと、反射電圧検出信号Vr及び反射電力検出信号Prとを出力するパワー検出器である。また17は、パワー検出器16が出力する進行波電力検出信号Pf及び反射電力検出信号Prと、進行波電力設定信号PSと、反射電力保護レベル設定信号Pr−Sとを入力として可変直流電源11及びドライバ14を制御する制御部である。
制御部17は、進行波電力設定信号PSと進行波電力検出信号Pfとを比較して、パワー検出器16が出力する進行波電力検出信号Pfを進行波電力設定信号PSに等しくするようにパワーアンプの出力を制御する定常時出力制御を行うとともに、反射電力検出信号Prと反射電力保護レベル設定信号Pr−Sとを比較して、反射電力検出信号Prが保護レベル設定信号Pr−Sを超えたとき(反射電力が保護レベルを超えたとき)に、パワーアンプ12の出力を抑制して、反射電力検出信号Prを保護レベル設定信号Pr−Sに等しくするようにパワーアンプの出力を制御する保護制御を行う。制御部17はまた、ドライバ14の出力のon/offや、ドライバ14の出力の振幅の調整等を行う。制御部17は、図11に示した例と同様に、反射電力が保護レベル以下の定常時に進行波電力を設定レベルに保つようにパワーアンプ12を制御する定常時出力制御手段31と、反射電力が設定された保護レベルを超えた時に反射電力を保護レベルに保つようにパワーアンプ12を制御する反射電力保護手段32と、直流電源から出力される直流電流、直流電圧、負荷に供給される高周波電流、パワーアンプで生じる損失等の他の因子が保護レベルを超えたときに当該他の因子を保護レベルに保つようにパワーアンプ12を制御する他の因子保護手段33とにより構成されている。
本実施形態においては、パワーアンプ12の出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相を高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスの位相に対してほぼ180度回転させる特性を有する第1の回路構成と、パワーアンプ12の出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相と高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスの位相とをほぼ同じにする特性を有する第2の回路構成とをとり得るように構成された位相変換部をパワーアンプ12の出力端と高周波電力出力端子1aとの間に設けるとともに、位相変換部の回路構成を第1の回路構成と第2の回路構成とに切り換えるスイッチ回路18を設けて、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスの状態に応じてスイッチ回路18を制御することにより、パワーアンプ12の出力端から負荷側を見たインピーダンスが常に誘導性に見えるようにする。
本実施形態においては、ローパスフィルタ15が位相変換部を兼ねていて、スイッチ回路18によりローパスフィルタの回路構成を第1の回路構成と第2の回路構成とに切り換えてその電気長を変化させることにより、パワーアンプ12の出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相を高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスの位相に対してほぼ180度回転させた状態と、パワーアンプ12の出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相を、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスの位相にほぼ同じにした状態とを切り換えるようになっている。
そのため、本実施形態においては、ローパスフィルタ15が、λ/4形ローパスフィルタ(λはパワーアンプから出力される高周波電圧の波長)を複数個構成し得る回路構成を有していて、縦続接続された奇数個のλ/4形ローパスフィルタを有効にする第1の回路構成と、縦続接続された偶数個のλ/4形ローパスフィルタを有効にする第2の回路構成とをとり得るように構成され、ローパスフィルタ15の回路構成を第1の回路構成と第2の回路構成とに切り換えるようにスイッチ回路18が構成されている。
λ/4形のローパスフィルタは、入力端から負荷側を見たインピーダンスの位相を、出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相に対してほぼ180度回転させた特性を有するフィルタであり、奇数個のλ/4形ローパスフィルタを縦続接続した回路を構成すると(第1の回路構成とすると)、入力端から負荷側を見たインピーダンスの位相を出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相に対してほぼ180度回転させる特性を有するローパスフィルタを構成することができる。また偶数個のλ/4形ローパスフィルタを縦続接続した回路を構成すると(第2の回路構成とすると)、入力端から負荷側を見たインピーダンスの位相が出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相にほぼ同じになる特性を有するローパスフィルタを構成することができる。λ/4形ローパスフィルタを縦続接続する段数を多くすればする程、高調波の減衰量を大きくすることができる。
本実施形態では、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスの状態を判定するために、パワー検出器16が出力する進行波電圧検出信号Vfと反射電圧検出信号Vrとを反射係数演算部(Γ/θ演算部)19に入力して、高周波電力出力端子1aの位置での反射係数Γの大きさと位相角θとを演算し、反射係数演算部19により演算された反射係数Γから、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスが、誘導性、容量性、短絡状態及び開放状態のいずれであるかを判定する。反射係数Γは、進行波電圧検出信号Vfと反射電圧検出信号Vrとにより下記の式(2)により求めることができる。
Γ=Vr/Vf=(|Vr|/|Vf|)∠θ…(2)
反射係数演算部19は、位相角θがプラスであるときに、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスが誘導性であると判定し、位相角θがマイナスであるときに、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスが容量性であると判定する。
本実施形態ではまた、パワーアンプ12の出力端から負荷側を見たインピーダンスを常に誘導性とするように、反射係数演算部19により演算された反射係数Γから判定された負荷側インピーダンス(高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンス)の状態に応じてスイッチ回路18を制御するスイッチ制御部20が設けられている。
スイッチ制御部20は、高周波電力出力端子1aよりも負荷側のインピーダンスが容量性であるか又は短絡状態であるときに位相変換部(ローパスフィルタ)の回路構成を第1の回路構成とし、高周波電力出力端子1aよりも負荷側のインピーダンスが誘導性であるか開放状態であるときには位相変換部の回路構成を第2の回路構成とするように、スイッチ回路18を制御することにより、パワーアンプ12の出力端から負荷側を見たインピーダンスを常に誘導性とするようにローパスフィルタ15の回路構成を切り換える。
図2を参照すると、上記ローパスフィルタ15とスイッチ回路18の回路構成の一例が示されている。図2に示されたローパスフィルタ15は、キャパシタC1〜C4と、インダクタL1〜L2とをローパスフィルタを構成するリアクタンス要素として備えていて、インダクタL1及びL2とキャパシタC4とによりλ/4形のT形ローパスフィルタを構成した状態(第1の回路構成)と、キャパシタC1、インダクタL1及びキャパシタC4からなる第1のλ/4形のπ形ローパスフィルタF1と、キャパシタC2、インダクタL2及びキャパシタC3からなる第2のλ/4形のπ形ローパスフィルタF2とを縦列接続した2段構成のフィルタ回路を構成した状態(第2の回路構成)とをとり得るようになっている。
図示のスイッチ回路18は、キャパシタC1及びC2をそれぞれオンオフする(フィルタの構成要素として有効にしたり無効にしたりする)スイッチSW1及びSW2と、キャパシタC3をオンオフするスイッチSW3とからなっていて、スイッチSW1〜SW3のすべてをオフ状態にしたときに、ローパスフィルタ15を、インダクタL1及びL2とキャパシタC4とからなるλ/4形のT形ローパスフィルタを構成した第1の回路状態とし、スイッチSW1〜SW3をすべてオン状態にしたときに、ローパスフィルタ15を、第1のλ/4形のπ形ローパスフィルタF1と第2のλ/4形のπ形ローパスフィルタF2とが縦続された第2の回路構成とするようになっている。
スイッチ制御部20は、反射係数演算部19により演算された反射係数から、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスが容量性であるか又は短絡状態であると判定したときに、スイッチSW1〜SW3をオフ状態にすることにより、インダクタL1及びL2とキャパシタC4のみをローパスフィルタの構成要素として有効にして、ローパスフィルタ15をλ/4形のT形ローパスフィルタとして機能させ(ローパスフィルタ15の回路構成を第1の回路構成とし)、反射係数演算部19により演算された反射係数から、反射係数演算部19により演算された反射係数から、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスが誘導性であるか又は開放状態であると判定したときに、スイッチSW1〜SW3をオン状態にすることにより、ローパスフィルタ15をλ/4形のπ形ローパスフィルタF1及びF2を縦列接続した2段構成のローパスフィルタとして機能させる(ローパスフィルタ15の回路構成を第2の回路構成とする)。
スイッチ回路18を構成するスイッチSW1ないしSW3は、真空スイッチやピンダイオードにより構成することが好ましい。
スイッチSW1ないしSW3をそれぞれピンダイオードD1ないしD3により構成する場合に、スイッチSW1ないしSW3に対してそれぞれ設けるスイッチ制御回路20の構成例を図3に示した。図3に示されたスイッチ制御部20は、エミッタが抵抗R11を通して接地されるとともにコレクタベース間に抵抗R12が接続され、コレクタに電源Baから直流電圧−Vaが印加されたPNPトランジスタQ11と、コレクタが抵抗R13を通してトランジスタQ11のベースに接続されるとともにベースが抵抗R14を通して反射係数演算部19の出力端子に接続され、電源Bbからエミッタに直流電圧Vbが印加されたPNPトランジスタQ12と、トランジスタQ11のベースエミッタ間にアノードをベース側に向けて接続されたダイオードD11と、トランジスタQ11のエミッタと接地間に接続されたキャパシタC11と、トランジスタQ11のエミッタに一端が接続されたインダクタL11とからなっていて、インダクタL11の他端がピンダイオードD3のアノードに接続されている。図3においては、スイッチSW3に対して設けられたスイッチ制御回路20の構成のみが具体的に示されているが、他のスイッチSW1及びSW2に対して設けられるスイッチ制御回路20も同様に構成されており、反射係数演算部19から各スイッチ制御回路20のトランジスタQ12のベースに抵抗R14を通して電圧信号が与えられている。またスイッチSW1及びSW2に対してそれぞれ設けられたスイッチ制御回路20のインダクタL11の他端がそれぞれスイッチSW1及びSW2を構成するピンダイオードD1及びD2のアノードに接続されている。
この例では、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスが容量性又は短絡状態であるときに、反射係数演算部19が、その出力端子の電位をHレベル(ハイレベル)にして、スイッチSW1ないしSW3に対してそれぞれ設けられたスイッチ制御回路20のトランジスタQ12をオフ状態にし、トランジスタQ11をオン状態にしている。このとき、スイッチSW1ないしSW3に対してそれぞれ設けられたスイッチ制御回路20のインダクタL11とトランジスタQ11とを通して、電源BaからピンダイオードD1ないしD3に逆バイアス電圧が印加されるため、ピンダイオードD1ないしD3がオフ状態になり、キャパシタC1ないしC3を無効にする。これにより、ローパスフィルタ15は第1の回路状態(インダクタL1及びL2とキャパシタC4とにより1段のλ/4形T形ローパスフィルタを構成した状態)になって、パワーアンプ12から負荷側を見たインピーダンスの位相角を高周波出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスの位相角に対して180度異ならせ、パワーアンプ12から負荷側を見たインピーダンスを誘導性とする。
また高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスが誘導性又は開放状態であるときには、反射係数演算部19が、その出力端子の電位をLレベル(接地電位)にして、スイッチSW1ないしSW3に対してそれぞれ設けられたスイッチ制御回路20のトランジスタQ12をオン状態にし、トランジスタQ11をオフ状態にする。このときスイッチSW1ないしSW3に対してそれぞれ設けられたスイッチ制御回路20の電源BbからトランジスタQ12と抵抗R13とダイオードD11とインクタL11とを通してピンダイオードD1ないしD3に順方向電圧が印加されるため、ピンダイオードD1〜D3がオン状態になる。このとき、ローパスフィルタ15は、第2の回路状態(キャパシタC1ないしC4とインダクタL1及びL2とにより2段のλ/4形π形ローパスフィルタを構成した状態)になるため、パワーアンプ12から負荷側を見たインピーダンスの位相角が高周波出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスの位相角とほぼ同じになり、パワーアンプ12から負荷側を見たインピーダンスが誘導性となる。
上記の実施形態では、2段のλ/4形π形ローパスフィルタを構成し得るようにローパスフィルタ15を構成しておいて、1段のλ/4形T形ローパスフィルタを構成する状態(第1の回路状態)と、2段のλ/4形π形ローパスフィルタを構成する状態(第2の回路状態)とに切り換えることができるようにスイッチ回路18を構成したが、図4に示したように、2段のλ/4形π形ローパスフィルタF1及びF2を構成し得るようにローパスフィルタ15を構成しておいて、1段のλ/4形π形ローパスフィルタF1のみを有効にする状態(第1の回路状態)と、縦続された2段のλ/4形π形ローパスフィルタF1及びF2を有効にする状態(第2の回路状態)とを切り換えるようにスイッチ回路18を構成することもできる。図4に示した例では、パワーアンプ12の出力端子とフィルタF1との間に挿入されたスイッチSW1と、フィルタF1とF2との間をオンオフするように設けられたスイッチSW2と、パワーアンプ12の出力端子とフィルタF3との間に挿入されたスイッチSW3とによりスイッチ回路15が構成されている。
図4に示した例では、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスが容量性又は短絡状態であるときに、スイッチ制御部20がスイッチSW1をオン状態にし、スイッチSW2及びSW3をオフ状態にする。このとき、1段のλ/4形π形ローパスフィルタF1のみが有効になる(ローパスフィルタ15が第1の回路状態になる)ため、パワーアンプ12から負荷側を見たインピーダンスの位相角が高周波出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスの位相角に対して180度異なる状態になり、パワーアンプ12から負荷側を見たインピーダンスが誘導性となる。
また高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスが誘導性又は開放状態であるときには、スイッチ制御部20がスイッチSW1をオフ状態にし、スイッチSW2及びSW3をオン状態にする。このとき、縦続接続された2段のλ/4形π形ローパスフィルタF1及びF2が有効になる(ローパスフィルタ15が第2の回路状態になる)ため、パワーアンプ12から負荷側を見たインピーダンスの位相角が高周波出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスの位相角とほぼ同じになり、パワーアンプ12から負荷側を見たインピーダンスも誘導性となる。
上記の各実施形態では、ローパスフィルタ15が、2段のλ/4形π形ローパスフィルタF1及びF2を構成し得る回路構成を有しているが、ローパスフィルタ15は、図5に示したように、インダクタL1,L2とキャパシタC1とからなるλ/4形T形ローパスフィルタF1′と、インダクタL3,L4とキャパシタC2とからなるλ/4形T形ローパスフィルタF2′とを構成し得るようになっていてもよい。この場合も、スイッチ回路18を図4に示した例と同様に構成することにより、ローパスフィルタ15の回路構成を、ローパスフィルタF1′のみを有効にする状態と、縦続接続された2段のローパスフィルタF1′及びF2′を有効にする状態とに切り換えることができる。
上記の各実施形態では、ローパスフィルタ15に、入力端から負荷側を見たインピーダンスの位相を出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相に対してほぼ180度回転させる特性を有するλ/4形ローパスフィルタを2個構成し得る回路構成を持たせたが、ローパスフィルタに、3個以上のλ/4形ローパスフィルタを構成し得る回路構成を持たせて、縦続接続された奇数個のλ/4形ローパスフィルタを有効にする回路構成を第1の回路構成とし、縦続接続された偶数個のλ/4形ローパスフィルタを有効にする回路構成を第2の回路構成として、ローパスフィルタの回路構成を第1の回路構成と第2の回路構成とに切り換えるようにスイッチ回路18を構成するようにしてもよい。この場合スイッチ制御部20は、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスが誘導性、容量性、短絡状態及び開放状態のいずれであるかを反射係数演算部19により演算された反射係数から判定して、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスが容量性であるか又は短絡状態であるときにローパスフィルタ(位相変換部)の回路構成を第1の回路構成とし、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスが誘導性であるか開放状態であるときにはローパスフィルタの回路構成を第2の回路構成とするようにスイッチ回路を制御する。
上記の実施形態では、スイッチングアンプからなるパワーアンプ12を用いたが、図6に示したように、直流電源21の出力を電源として動作するリニアアンプからなるパワーアンプ22を用いて、高周波発振部13が出力する高周波信号をプリアンプ24を通してパワーアンプ22に入力する構成をとる場合にも、本発明を適用することができるのはもちろんである。
図6に示した例では、パワーアンプ22の出力がローパスフィルタ25とパワー検出器26とを通して高周波電力出力端子1aから出力される。パワー検出器26は進行波電圧検出信号Vf及び反射電圧検出信号Vrを出力するように構成されていて、進行波電圧検出信号Vf及び反射電圧検出信号Vrが反射係数演算部29に入力され、反射係数演算部29の出力がスイッチ制御部30に与えられている。スイッチ制御部30は、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスが誘導性、容量性、短絡状態及び開放状態のいずれであるかを演算された反射係数から判定して、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスが容量性であるか又は短絡状態であるときにローパスフィルタ(位相変換部)25の回路構成を第1の回路構成とし、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスが誘導性であるか開放状態であるときにはローパスフィルタ(位相変換部)25の回路構成を第2の回路構成とするように、ローパスフィルタ25の回路構成を切換えるスイッチ回路28を制御する。制御部27は、パワー検出器26が出力する進行波電力検出信号Pfを進行波電力設定信号PSに等しくするようにパワーアンプの出力を制御する定常時出力制御と、反射電力検出信号Prが保護レベル設定信号Pr−Sを超えたときに、パワーアンプ22の出力を抑制して、反射電力検出信号Prを保護レベル設定信号Pr−Sに等しくするようにパワーアンプを制御する保護制御とを行う。制御部27はまた、直流電源21の出力のon/offや、直流電源21の出力レベルの調整等を行う。
上記の各実施形態では、ローパスフィルタを位相変換部として利用するようにしたが、ローパスフィルタとは別に位相変換部を設けることもできる。例えば図7に示すように、ローパスフィルタ15とパワー検出器16との間に、ローパスフィルタ15の出力端子に一端が接続された第1の1/4波長線路41と、第1の1/4波長線路41の他端に一端が接続された第2の1/4波長線路42とを設けて、第1の1/4波長線路41の他端及び第2の1/4波長線路42の他端をスイッチ回路18を介してパワー検出器16の入力端子に選択的に接続する構成としてもよい。1/4波長線路は、パワーアンプが出力する高周波電圧の波長の1/4の長さを有する線路(例えば、同軸ケーブル)で、一端から他端側を見たインピーダンスの位相を、他端から負荷側を見たインピーダンスの位相に対してほぼ180度回転させる特性を有しているので、入力端から負荷側を見たインピーダンスの位相を出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相に対してほぼ180度回転させる特性を有する位相変換要素として用いることができる。
図7に示したスイッチ制御部20は、反射係数演算部19により演算された反射係数から、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスが容量性であるか又は短絡状態であるかを判定して、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスが容量性であるか又は短絡状態であると判定した時に、第1の1/4波長線路41の他端をパワー検出器16の入力端に接続することにより、パワーアンプ14の出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相を、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスの位相に対して180度回転させて、パワーアンプ14の出力端から負荷側を見たインピーダンスを誘導性とする。また演算された反射係数から、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスが誘導性であるか又は開放状態であると判定した時には、第2の1/4波長線路42の他端をスイッチ回路18を通してパワー検出器16の入力端に接続することにより、パワーアンプ14の出力端から負荷側を見たインピーダンスの位相を、高周波電力出力端子1aから負荷側を見たインピーダンスの位相とほぼ同じにして、パワーアンプ14の出力端から負荷側を見たインピーダンスを誘導性とする。
図1に示した実施形態では、パワーアンプ12を構成するスイッチングアンプがフルブリッジ形のインバータからなっているとしたが、パワーアンプ12を構成するスイッチングアンプは、ハーフブリッジ形のインバータや、D級動作を行うプッシュプル増幅回路等により構成することもできる。
半導体製造用のプラズマプロセスでは、高周波電源装置1とインピーダンス整合器2との間を接続する同軸ケーブルの長さを最適化することによりプロセスの安定化を図る場合がある。しかしながら、すべてのプロセスで最適なケーブル長を選定することは困難であるし、ケーブル長が長くなる場合には、ケーブルで生じる損失やケーブルを配置するスペースも問題になる。ケーブル長を変更することは、電気長を変更することに他ならないため、高周波電源装置内に複数の位相変換要素(λ/4形ローパスフィルタや1/4波長線路)を設けて、高周波電力を通過させる位相変換要素の数を切り換えるようにしておくと、高周波電源装置1とインピーダンス整合器2との間を接続する同軸ケーブルを変更することなく、プロセスの安定化を図ることができる。