以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係わる超音波診断装置について詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係わる超音波診断装置の概略構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態に係わる超音波診断装置10は、超音波探触子300から被検体に超音波ビームを送信して、被検体によって反射された超音波ビーム(超音波エコー)を受信し、超音波エコーの検出信号から超音波画像を作成し表示する。
制御部は100は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び入出力ポート等を備えたコンピュータで構成されており、操作入力部200からの操作入力に応じて超音波診断装置10の各ブロックの制御を行う。
操作入力部200は、オペレータからの操作入力を受け付ける入力デバイスであり、操作卓202とポインティングデバイス204とを含んでいる。操作卓202は、文字情報(例えば、患者情報)等の入力を行うためのキーボードや、振幅画像(Bモード画像)を単独で表示するモードと局所音速値の判定結果を表示するモードなどの各種表示モードを切り替えるための表示モード切り替えボタン、ライブモードとフリーズモードとの切り替えを指示するためのフリーズボタン、シネメモリ再生を指示するためのシネメモリ再生ボタンと、超音波画像の解析・計測を指示するための解析・計測ボタン等を含んでいる。ポインティングデバイス204は、表示部104の画面上における領域を指定するためのデバイスであり、例えば、トラックボール又はマウス等を適用することができる。なお、ポインティングデバイス204としては、タッチパネルを適用するようにしてもよい。
格納部102は、制御部00が超音波診断装置10の各ブロックを制御するための各種制御プログラムが格納される。格納部102は、例えば、ハードディスクや半導体メモリを適用することができる。
表示部104は、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイや液晶ディスプ
レイ等の各種表示デバイスを適用することができ、超音波画像(動画及び静止画)の表示や各種設定画面等を表示する。
超音波探触子300は、被検体に当接させて用いるプローブであり、1次元又は2次元のトランスデューサアレイを構成する複数の超音波トランスデューサ302を備えている。超音波トランスデューサ302には送受信部400が接続されている。
送受信部400は、送信回路402、受信回路404、及びA/D変換器406を備えており、超音波トレランスデューサ302は、送受信部400の送信回路402から印加される駆動信号に基づいて超音波ビームを被検体に送信すると共に、被検体から反射される超音波エコーを受信回路404が受信して検出信号をA/D変換器406によってデジタル信号に変換して出力する。
超音波トランスデューサ302は、圧電性を有する材料(圧電体)の両端に電極が形成されて構成された振動子を含んでいる。このような振動子を構成する圧電体としては、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛:Pb(lead) zirconate titanate)のような圧電セラミック、PVDF(ポリフッ化ビニリデン:polyvinylidene difluoride)のような高分子圧電素子を用いることができる。上記振動子の電極に電気信号を送って電圧を印加すると圧電体が伸縮し、この圧電体の伸縮により各振動子において超音波が発生する。例えば、振動子の電極にパルス状の電気信号を送るとパルス状の超音波が発生し、また振動子の電極に連続波の電気信号を送ると連続波の超音波が発生する。そして、各振動子において発生した超音波が合成されて超音波ビームが形成される。また、各振動子により超音波が受信されると、各振動子の圧電体が伸縮して電気信号を発生する。各振動子において発生した電気信号は、超音波の検出信号として受信回路40に出力される。
なお、本実施形態では、送信周波数が変更可能な超音波探触子300が用いられる。例えば、複合型圧電素子を使用した広帯域幅の周波数特性を持つ超音波トランスデューサを適用して、1つの超音波トランスデューサで周波数帯域及び中心周波数の異なる複数種類の超音波を発生させるものを適用するようにしてもよいし、周波数特性が異なる超音波トランスデューサを複数種類備えて、切り替えて使用するものを適用するようにしてもよい。
送受信回路400のA/D変換器406から出力されたデジタル信号は、再生部600及び画像信号生成部500に出力される。
画像信号生成部500は、信号処理部502、DSC504、画像処理部506、画像メモリ508、及びD/A変換器510を備えている。なお、それぞれの機能の詳細は後述する。
次に、ライブモード時における超音波診断処理について説明する。ライブモードは、被検体に超音波探触子300を当接させて超音波の送受信を行うことによって得られた超音波画像(動画)の表示や解析・計測を行うモードである。
超音波探触子300が被検体に当接されて、操作入力部200を操作して操作開始指示を行うことにより超音波診断が開始されると、制御部100は、送受信部400に制御信号を出力して、超音波ビームの被検体への送信、及び被検体からの超音波エコーの受信を開始させる。制御部100は、超音波トランスデューサ302毎に超音波ビームの送信方向と超音波エコーの受信方向とを設定する。
さらに、制御部100は、超音波ビームの送信方向に応じて送信遅延パターンを選択すると共に、超音波エコーの受信方向に応じて受信遅延パターンを選択する。ここで、送信遅延パターンとは、複数の超音波トランスデューサ302から送信される超音波によって所望の方向に超音波ビームを形成するために駆動信号に与えられる遅延時間のパターンデータであり、受信遅延パターンとは、複数の超音波トランスデューサ302によって受信される遅延時間のパターンデータである。上記送信遅延パターン及び受信遅延パターンは予め格納部102に格納されている。制御部100は、格納部102に格納されているものの中から送信遅延パターン及び受信遅延パターンを選択し、選択した送信遅延パターン及び受信遅延パターンに従って、送受信部400に制御信号を出力して超音波の送受信制御を行う。
送信回路402は、制御部100からの制御信号に応じて駆動信号を生成して、該駆動信号を超音波トランスデューサ302に印加する。このとき、送信回路402は、制御部100によって選択された送信遅延パターンに基づいて、各超音波トランスデューサ302に印加する駆動信号を遅延させる。ここで、送信回路402は、複数の超音波トランスデューサ302から送信される超音波が超音波ビームを形成するように、各超音波トランスデューサ302に駆動信号を印加するタイミングを調整する(遅延させる)送信フォーカスを実行する。なお、複数の超音波トランスデューサ302から一度に送信される超音波が被検体の撮像領域全体に届くように、駆動信号を印加するタイミングを調節するようにしもてよい。
受信回路404は、各超音波トランスデューサ302から出力される超音波検出信号を受信して増幅する。上記のように、各超音波トランスデューサ302と被検体内の超音波反射源との間の距離がそれぞれ異なるため、各超音波トランスデューサ302に反射波が到達する時間が異なる。受信回路404は遅延回路を備えており、制御部100によって選択された受信遅延パターンに基づいて設定される音速(以下、仮定音速という)又は音速の分布に従って、反射波の到達時刻の差(遅延時間)に相当する分、各検出信号を遅延させる。次に、受信回路404は、遅延時間を与えた検出信号を整合加算することにより受信フォーカス処理を行う。超音波反射源XROIと異なる位置に別の超音波反射源がある場合には、別の超音波反射源からの超音波検出信号は到達時間が異なるので、上記受信回路404の加算回路で加算することにより、別の超音波反射源からの超音波検出信号の位相が打ち消し合う。これにより、超音波反射源XROIからの受信信号が最も大きくなり、フォーカスが合う。上記受信フォーカス処理によって、超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号(以下、RF信号という)が形成される。
A/D変換器406は、受信回路404から出力されるアナログのRF信号をデジタルRF信号(以下、RFデータという)に変換する。ここで、RFデータは、受信波(搬送波)の位相情報を含んでいる。A/D変換器406から出力されるRFデータは、信号処理部502とシネメモリ602にそれぞれ入力される。
シネメモリ602は、A/D変換器406から入力されるRFデータを順次格納する。また、シネメモリ602は、制御部100から入力されるフレームレートに関する情報(例えば、超音波の反射位置の深度、走査線の密度、視野幅を示すパラメータ)を上記RFデータに関連付けて格納する。
信号処理部502は、上記RFデータに対して、STC(Sensitivity Time gain Control)によって、超音波の反射位置の深度に応じて距離による減衰の補正をした後、包絡線検波処理を施し、Bモード画像データ(超音波エコーの振幅を点の明るさ(輝度)によって表した画像データ)を生成する。
信号処理部502によって生成されたBモード画像データは、通常のテレビジョン信号の走査方式と異なる走査方式によって得られたものである。このため、DSC(Digital Scan Converter)504は、Bモード画像データを通常の画像データ(例えば、テレビジョン信号の走査方式(NTSC方式)の画像データ)に変換(ラスター変換)する。画像処理部506は、DSC504から入力される画像データに、各種の必要な画像処理(例えば、階調処理)を施す。
画像メモリ508は、画像処理部506から入力された画像データを格納する。D/A変換器510は、画像メモリ508から読み出された画像データをアナログの画像信号に変換して表示部104に出力する。これにより、超音波探触子300によって撮影された超音波画像(動画)が表示部104に表示される。
なお、本実施形態では、受信回路404において受信フォーカス処理が施された検出信号をRF信号としたが、受信フォーカス処理が施されていない検出信号をRF信号としてもよい。この場合、複数の超音波トランスデューサ302から出力される複数の超音波検出信号が、受信回路404において増幅され、増幅された検出信号、すなわち、RF信号が、A/D変換器406においてA/D変換されることによってRFデータが生成される。そして、上記RFデータは、信号処理部502に供給されるとともに、シネメモリ602に格納される。受信フォーカス処理は、信号処理部502においてデジタル的に行われる。
次に、シネメモリ再生モードについて説明する。シネメモリ再生モードは、シネメモリ602に格納されているRFデータに基づいて超音波診断画像の表示や解析・計測を行うモードである。
操作卓202のシネメモリ再生ボタンが押下されると、制御部100は、超音波診断装置10の動作モードをシネメモリ再生モードに切り替える。シネメモリ再生モード時には、制御部100は、オペレータからの操作入力により指定されたRFデータの再生をシネメモリ再生部604に指示する。シネメモリ再生部604は、制御部100からの指令に基づいて、シネメモリ602からRFデータを読み出して、画像信号生成部500の信号処理部502に送信する。シネメモリ602から送信されたRFデータは、信号処理部502、DSC504及び画像処理部506において所定の処理(ライブモード時と同様の処理)が施されて画像データに変換された後、画像メモリ508及びD/A変換器510を経て表示部104に出力される。これにより、シネメモリ602に格納されたRFデータに基づく超音波画像(動画又は静止画)が表示部104に表示される。
ライブモード又はシネメモリ再生モード時において、超音波画像(動画)が表示されているときに操作卓202のフリーズボタンが押下されると、フリーズボタン押下時に表示されている超音波画像が表示部104に静止画表示される。これにより、オペレータは、着目領域(ROI:Region of Interest)の静止画を表示させて観察することができる。
操作卓202の計測ボタンが押下されると、オペレータからの操作入力により指定された解析・計測が行われる。データ解析計測部106は、各動作モード時に計測ボタンが押下された場合に、A/D変換器406又はシネメモリ602から、画像処理が施される前のRFデータを取得し、当該RFデータを用いてオペレータ指定の解析・計測(例えば、組織部の歪み解析(硬さ診断)、血流の計測、組織部の動き計測、又はIMT(内膜中膜複合体厚:Intima-Media Thickness)値計測)を行う。また、データ解析計測部106は、音速あるいは減衰のバラツキを表す指標を算出する処理を行う。データ解析計測部106による解析・計測結果は、画像信号生成部500のDSC504に出力される。DSC504は、データ解析計測部106により解析・計測結果を超音波画像の画像データに挿入して表示部104に出力する。これにより、超音波画像と解析・計測結果とが表示部104に表示される。なお、データ解析計測部106は、図1では制御部100と別の構成として示すが、以下では、制御部100の機能の一部であるのものとして説明する。
また、表示モード切り替えボタンが押下されると、Bモード画像を単独で表示するモード、Bモード画像に音速・減衰バラツキの判定結果を重畳して表示するモード(例えば、音速・減衰バラツキに応じて色分け又は輝度を変化させる表示、又は音速・減衰バラツキが等しい点を線で結ぶ表示)、Bモード画像と音速・減衰バラツキの判定結果の画像を並べて表示するモードの間で表示モードが切り替わる。これにより、オペレータは、音速・減衰バラツキの判定結果を観察することで、例えば、病変を発見することができる。
ところで、蜂屋弘之「生体組織の音響特性と超音波断層画像の特徴」(Medical Imaging Technology vol.21 No.2 March 2003)によれば、肝臓が肝硬変になり、肝硬変が進行すると壊死した組織同士が結合し、修復するために周辺組織が線維化して結節を形成して、肝小葉が再生結節に置き換えられる。例えば、図12に散乱体配置の例を示す。図12(a)は正常肝を示したものであり、各々の肝小葉構造は、1.0〜1.5mm程度でランダムな大きさを持っているが、図12(b)に示すように中度の肝硬変になると複数の肝小葉構造が破壊され、線維組織が生じ、結節径が3〜4mmに成長し、さらに病変が進行し図12(c)に示すように重度の肝硬変になると、結節径が最大で7mm程度まで成長する。そして、結節の内部の音速、減衰及び散乱は正常な肝臓より低く、線維部は逆に正常な肝臓より高くなるというミクロな音速構造変化があることが報告されている。しかし、これに対して、赤松興一「音速計測によるtissue characterization」(臨床医 vol.12 no.11 1986)によれば、正常肝と肝硬変のマクロ音速値に有意な差は無いことが報告されている。従って、従来より提案されてきたマクロ的な音速や減衰の計測方法では、上記のようなミクロな音速・減衰の構造変化を捉えられない可能性があるという問題がある。
そこで、本実施形態における超音波診断装置10は、上記問題を考慮して、着目領域を設定し、着目領域の音速バラツキまたは減衰バラツキを計測し、組織性状の診断を行う。詳しくは後述するが、本実施形態では、送信フォーカスを掛けて擬似的な点反射を形成し、その各素子受信データから、一定音速で近似した受信時刻からの時刻差を求め、そのバラツキから音速バラツキを計測し、また、一定減衰で近似した振幅のバラツキ、周波数のバラツキから減衰(散乱、吸収)バラツキを計測するものである。そして計測したバラツキを組織性状の診断に役立てようとするものである。
図2に、音速バラツキ・減衰バラツキを計測する処理を模式的に示す。
図2(a)は、一定音速で近似した受信時刻からのバラツキを求めて音速バラツキを計測することを表している。また図2(b)は、一定の減衰で近似した振幅のバラツキから減衰バラツキを計測することを表している。さらに図2(c)は、一定の減衰で近似した中心周波数のバラツキから減衰バラツキを計測することを表したものである。
ここで、何れの場合も、送信フォーカスを掛けて擬似的な点反射を形成し、各素子受信データから、音速バラツキ・減衰バラツキを計測するようにしている。
すなわち、図2(a)に示すように、被検体内の着目領域ROIの格子点Xからの擬似的な点反射を考える。このとき図2(a)に示すように肝硬変が進み結節が形成されていると、超音波の進行方向により音速や減衰にバラツキが生じる。
図2(a)は、各素子において実際に計測された波面(受信時刻)を実線で表し、また被検体の媒質を音速一定と仮定して近似した波面を破線で表し、各方位位置における音速バラツキに起因した受信時刻のバラツキを示したものである。
また図2(b)は、各素子において実際に計測された対数圧縮後の振幅を実線で表し、被検体の媒質を減衰一定と仮定して近似した対数圧縮後の振幅を破線で表し、各方位位置における減衰(吸収及び散乱)バラツキに起因した対数圧縮後の振幅のバラツキを示したものである。
さらに、図2(c)は、各素子において実際に計測された中心周波数を実線で表し、被検体の媒質を減衰一定と仮定して近似した中心周波数を破線で表し、各方位位置における減衰(吸収及び散乱)バラツキに起因した中心周波数のバラツキを示したものである。
このように、送信フォーカスを掛けて形成した擬似的な点反射の受信波の受信時刻、振幅、中心周波数は、一定音速・一定減衰を仮定した受信時刻、振幅、中心周波数からバラツキを有している。これは、異なる音速や減衰を有する媒質の混合割合が各方位位置に対応する経路で異なるためである。異なる音速や減衰を有する媒質の混合割合が各経路で異なる場合、擬似的な点反射から各素子の伝播過程において受信信号の時刻・振幅・周波数のバラツキを生ずると共に、擬似的な点反射を形成する時の周囲干渉によっても生ずる。具体的には、音速・減衰(散乱を含む)が各経路で異なる事によって送信焦点が一点に集中しないため周囲散乱の干渉を受けてしまい、その結果として受信信号の時刻・振幅・周波数のバラツキを生ずる事となる。そして経路による混合割合の変化が大きい程、受信時刻、振幅及び中心周波数の方位位置バラツキが大きくなる事、また経路による混合割合の変化の空間周波数が大きい程、受信時刻、振幅及び中心周波数の方位位置バラツキの空間周波数も大きくなる事が図2から容易に分かる。
従って、格子点Xからの反射波受信時刻、振幅、中心周波数の一定音速・一定減衰を仮
定した受信時刻、振幅、中心周波数からのバラツキの大きさや空間周波数から、着目領域内における、異なる音速及び減衰を有する媒質の混合割合のバラツキの大きさや空間周波数に関する情報を取得することが可能となる。
これにより、音速または減衰のバラツキを判定することにより、これを組織性状の診断に用いることが可能となる。なお、ここでは肝硬変の例を用いて説明したが、本発明は、肝硬変に限定する事無く適用できることは明らかである。
以下、音速バラツキ又は減衰バラツキを表す指標(バラツキ指標)を求める処理について説明する。
まず音速バラツキの求め方について説明する。
簡単のために、超音波がある音源からある素子に伝播するとき、ある経路において2種類の媒質が存在するとする。この様子を模式的に図3に示す。
実際には、媒質1と媒質2が図3に示すように、明確に分かれて存在しているのではなく、その経路上に複雑に混ざり合って存在している。図3は、媒質1と媒質2をそれぞれ一方に寄せ集めて、その混合割合がはっきりわかるように表示したものである。
図3において、Lは、音源から素子までの経路の全長(経路長)、ρ1及びρ2は、伝播経路によらない媒質1及び媒質2の平均的な混合割合、Δρは、経路に依存する上記混合割合の変化分を表す。
今、図3に示す経路において、媒質1と媒質2の混合割合が、平均的な混合割合ρ1:ρ2からΔρだけずれて、(ρ1+Δρ):(ρ2−Δρ)となっていたとすると、経路の全長Lのうち、媒質1が存在するのは長さにしてL*(ρ1+Δρ)、媒質2が存在するのは長さにしてL*(ρ2−Δρ)となる。
媒質1における超音波の音速をv1、媒質2における超音波の音速をv2とすると、図3の音源から発した超音波を素子が受信する受信時刻tは、次の式で与えられる。
t=L*(ρ1+Δρ)/v1+L*(ρ2−Δρ)/v2 =L*(1/v1)*ρ1+L*(1/v2)*ρ2 +L*Δρ*((1/v1)−(1/v2)) このうち、経路に依存しない(経路バラツキを含まない)受信時刻 L*(1/v1)*ρ1+L*(1/v2)*ρ2 を引けば、経路に依存した受信時刻の変化分が、 L*Δρ*((1/v1)−(1/v2)) で与えられることがわかる。
これを経路の全長(経路長)Lで割れば、経路長Lに依存しない指標として次の式(1)が得られる。
Δρ*((1/v1)−(1/v2)) ・・・・・・(1)
しかし、経路によって経路長Lにおける混合割合の変化分Δρは異なるため、上記式(1)で表される指標は、経路によって異なる。
そこで、全ての経路についての式(1)の値の標準偏差をとれば経路にもよらないバラツキ指標を得ることができる。
組織の病変化によって混合割合の変化分Δρがより大きくバラつくか、またはv1とv2の差がより大きくなるために、上記式(1)によるバラツキ指標は、バラツキの程度を良好に表す指標となる。
なお、ここでは2種類の媒質のみで考えたが、2種類以上の媒質がある場合、2種類以上の指標(1)は、各異なる媒質間の混合割合の変化分Δρ1、Δρ2、・・・の和となり、そのバラツキ程度は、やはり病変化の程度を良好に表す指標となる。
なお、上記の方法において、受信時刻、経路バラツキを含まない受信時刻及び経路長が未知である。
このうち、受信時刻(素子の受信時刻)は公知の位相収差解析の手法(例えば、特開平6−105841号公報参照)を用いて求めることができる。超音波探触子の各素子の受信信号に対して、一定の信号を参照信号として、これらの位相差を検出し、隣接する各素子の位相差検出結果を比較しその差をDとする。また一方、横軸に超音波探触子の素子番号をとり、縦軸に各素子の受信信号と参照信号Sとの位相差をプロットしたグラフにおいて、正から負への不連続点(すなわち、上記差Dが−180°より小のとき)においては360°を加算し、負から正への不連続点(すなわち、上記差Dが180°より大のとき)においては360°を減算して、不連続曲線を連続曲線とする。これにより広範囲の位相収差を精度よく検出することができる。
また、経路バラツキを含まない受信時刻は、経路長Lと1/ 平均音速 =((1/v1)*ρ1+(1/v2)*ρ2)に分離することができる。
次に、経路長Lと平均音速の求め方を説明する。
図4に示すように、多種類の異なる音速媒質(混合媒質)からなる対象中に、素子面から距離Lの深さに音源を想定する。
まず図4に示す音源から発せられた超音波の各素子受信信号から、音源までの媒質が均一と仮定して求められる音速(平均音速)及び深さを求める。
図4に示すように、音源の直下から距離Xの位置の素子における受信時刻T(X)は、以下の式で与えることができる。
T(X)=√(L2+X2)*((1/v1)*ρ1+(1/v2)*ρ2+(1/v3) *ρ3+・・・) ・・・・・・(2)
ここで、記号√(A)は、Aの平方根を表し、ρn、vnは媒質nの混合割合及び音速を表す。またここでは混合割合の変化分Δρは含まないとする。
ρnは、伝播経路によらず一定と見做せるので、上記式(2)から均一仮定の平均音速及び深さは以下の式(3)のように一意に求められることがわかる。
1 / 平均音速=((1/v1)*ρ1+(1/v2)*ρ2+(1/v3)*ρ3+・・・) 深さ=L ・・・・・・(3)
上記式(3)の平均音速は、前述した平均音速であり、また各経路長は、深さLと素子位置Xから求めることができる。
つまり、各素子受信時刻をトータルで見ることによって、平均音速及び各経路長を求めることができる。各経路による混合割合の変化分Δρが含まれているとしても、各素子信号をトータルで見れば影響が少ないと考えられる。
平均音速及び深さを求めるために公知の画像解析の手法(例えば、特開2007−7045号公報参照)を用いることができる。これは、平均音速(及び深さ)を仮定し、音源の画像のシャープネスやコントラストが最大となる値を求めるという方法である。
またこの他に、各素子受信時刻を位相収差解析で求めた後、最小二乗法フィッティングで平均の受信時刻を求め、それに相当する平均音速(及び深さ)を求めるという方法でもよい。
なお、ここでは簡単のために、音源からの伝播のみを想定したが、実際には送信フォーカスによって擬似的な点反射を形成するプロセスになる。この場合、上記式(2)に送信伝播時間を加えるだけでよい。
以下、不均一層がある場合のバラツキ指標の求め方について説明する。
ここでは、図5に示すように、各素子の前に混合媒質とは異なる別媒質が存在する場合のバラツキ指標を求める。具体的には、各経路長と受信時刻の変化分を別媒質の影響を除いて求める。
まず、各経路長の求め方としては、図5に示すように、混合媒質と別媒質との境界付近が下面となるように局所領域を設定し、この局所領域下面上に複数の格子点を設定する。この領域での平均音速を求めれば、局所領域における音源の深さL’が求まり、これよりここから距離X’だけ離れた各格子までの各経路長が求まる。
ここで、局所領域における平均音速(局所音速)を求めるには、以下のように、特開2010−99452号公報に記載の技術など様々な方法がある。
例えば、図5の音源を着目点として、まず着目点と局所領域下面上の各格子における環境音速を求める。ここで、環境音速値とは、画像のコントラスト、シャープネスが最も高くなる音速値であり、上述した画像解析手法により求める事ができる。次に着目点の環境音速値に基づいて着目点を反射点としたときの仮想的な受信波WXの波形を算出する。そして、局所領域における仮定音速の初期値を設定し、仮定音速を1ステップ変更し、局所領域下面上の各格子点における受信波を環境音速から算出し、その受信波を仮定音速によって決まる遅延で仮想的に合成した仮想合成受信波WSUMを算出する。
次に、仮想受信波WXと仮想合成受信波WSUMの誤差を算出する。仮想受信波WXと仮想合成受信波WSUMの誤差は、互いの相互相関をとる方法、仮想受信波WXに仮想合成受信波WSUMから得られる遅延を掛けて位相整合加算する方法、または逆に、仮想合成受信波WSUMに仮想受信波WXから得られる遅延を掛けて位相整合加算する方法等によって算出される。
ここで、仮想受信波WXから遅延を得るには、着目点を反射点として、着目点における環境音速値で伝播した超音波が各素子に到着する時刻を遅延とすればよい。また、仮想合成受信波WSUMから遅延を得るには、隣り合う素子間での合成受信波の位相差から等位相線を抽出し、その等位相線を遅延とするか、または単に各素子の合成受信波の最大(ピーク)位置の位相差を遅延としてもよい。また、各素子からの合成受信波の相互相関ピーク位置を遅延としてもよい。位相整合加算時の誤差は、整合加算後の波形のpeak to peakとする方法、又は包絡線検波した後の振幅の最大値とする方法などによって求められる。
次に、全ての仮定音速の値での演算が終了したら、局所領域における局所音速値が判定される。すなわち、仮想受信波WXと仮想合成受信波WSUMとの差が最小になる仮定音速の値を局所領域における局所音速値と判定する。
また、被検体の音速が不均一で、各格子の受信時刻(受信波)が環境音速で近似しきれない場合でも局所音速を計測可能とする方法として以下のようなものがある。
例えば、予め着目領域内の着目点と、局所領域下面上の各格子点における受信時刻(受信波)を求め、着目領域における仮定音速によって決まる遅延で各格子受信波を重ね合わせて合成受信波を合成し、それと着目領域の受信波を比較することによって局所音速を判定する方法がある。
あるいは、予め着目領域内の着目点と、局所領域下面上の各格子点における受信時刻(受信波)を求めた後、着目領域における仮定音速によって決まる、着目点から各格子点までの超音波の伝播時間と、各格子受信時刻との和をとったもののうち、ある素子について、最小となる和をその素子の合成受信時刻とし、各素子について、着目点受信波の受信時刻と合成受信時刻とを比較して局所音速を判定するようにしても良い。
なお、ここで着目点及び局所領域下面上の各格子点における受信時刻は、上述した画像解析の手法及び位相収差解析の手法を用いて求めることができる。
また局所音速を求める他の方法として、例えば、上と同様に、局所領域下面上の各格子点の受信時刻(受信波)を画像解析及び位相収差解析の手法によって求めた後、着目領域における仮定音速によって決まる遅延で各格子受信波を重ね合わせて合成受信波を合成し、それから生成した遅延に基づいて画像を生成し、その画像を解析し、例えばシャープネスが最大となる条件から局所音速を判定するようにしても良い。
または、各格子点の受信時刻(受信波)を求めた後、着目領域における仮定音速によって着目点から各格子点までの超音波の伝播時間と、各格子受信時刻との和をとったもののうち、ある素子について、最小となる和をその素子の遅延とし、その遅延に基づいて画像を生成し、その画像を解析して、例えばシャープネスが最大となる条件から局所音速を判定するようにしても良い。
またあるいは、上記と同様に、局所領域下面上の各格子点の受信時刻(受信波)を画像解析及び位相収差解析の手法によって求め、それを遅延として、上記局所領域下面上の各格子点を仮想素子と見做して各仮想素子の受信信号として、各遅延で整合加算した信号を設定し、各仮想素子の受信信号から着目領域の仮定音速に基づいて画像生成し、その画像を解析し、例えばシャープネスが最大となる条件から局所音速を判定するようにしても良い。
なお、上記各格子点および局所領域下面の取りかたは、特に平面に限定されるものではなく、着目点より素子側(手前側)の任意の曲面として設定する事ができる。例えば、組織や病変の境界面上に設定してもよい。
次に、各素子受信時刻の変化分の求め方としては、各素子で受信した信号の受信時刻の内、平均音速によって決まる受信時刻からの変化分を求め、それに低周波カット処理を施すことによって、別媒質による変化分を取り除き、各素子位置を局所領域下面上の各格子位置に変換する。各素子位置から局所領域下面上の各格子位置への変換は、局所領域における局所音速及び各格子点における環境音速又は各素子受信時刻から、着目点から各格子を経て各素子に至る超音波伝播経路が求まるため、この伝播経路に沿って各素子位置から逆方向に伝播する事により可能である。
このようにして求めた変化分を、各経路長で割ることによって、上記式(1)で与えられる指標を得て、それの標準偏差をバラツキ指標とすることができる。
次に、減衰バラツキの求め方について説明する。
受信信号の受信時刻の代わりに振幅または中心周波数を利用することによって、音速と同様の手法によって以下のように減衰バラツキを求めることができる。
減衰には、音波が広がることによる拡散減衰、音波が媒質に吸収されて熱に変換されることによる吸収減衰、及び生体組織の散乱による散乱減衰の3つがあるが、これのうち、吸収・散乱減衰は、exp(-αx)で与えられる。ここで、αは減衰係数、xは伝播距離を表す。
そして、「超音波便覧」(丸善、1999)によれば、生体組織においては、MHz帯の周波数範囲では減衰係数αが近似的に周波数に比例すると仮定することができる。この周波数に比例する減衰によって、ガウシアンパルスの中心周波数は、伝播距離に比例してシフトすることとなる。これを利用して、中心周波数シフトから減衰を求めることができる。
次に、減衰のバラツキ指標についても音速の場合と同様に考える。
音源からの各経路の対数圧縮後の振幅A(x)及び中心周波数F(x)は、以下の式(4)で与えられる。
A(x)=A(0)−L*(α1*ρ1+α2*ρ2)−L*Δρ*(α1−α2) F(x)=F(0)−L*(β1*ρ1+β2*ρ2)−L*Δρ*(β1−β2) ・・・・・・(4)
ただし、振幅に関しては、拡散、送信フォーカス、非線形特性、指向性などの影響を無視している。ここで、αは、周波数に依存する項を含む減衰係数、βは、αとパルス波(ガウシアンパルスを仮定)の帯域によって決まる定数である。
上記式(4)のうち、経路バラツキを含まない振幅及び中心周波数は次の式(5)で与えられる。
A(x)=A(0)−L*(α1*ρ1+α2*ρ2) F(x)=F(0)−L*(β1*ρ1+β2*ρ2) ・・・・・・(5)
上記式(4)から式(5)を引き、求めた振幅の変化分L*Δρ*(α1−α2)または中心周波数の変化分L*Δρ*(β1−β2)を経路長Lで割れば、次の式(6)が得られる。
Δρ*(α1−α2)、またはΔρ*(β1−β2) ・・・・・・(6)
これにより経路長に依存しない指標が得られる。
なお、ここで経路長Lは、例えば上記式(3)によって平均音速から求める。また変化分を得るために経路によらない振幅または中心周波数が必要であるが、それは各素子受信信号の振幅または中心周波数に対してフィッティングして求める。またこのとき、式(3)で求めた音源の深さに基づいて平均αまたはβを仮定してフィッティングしてもよい。
また、送信経路も考慮する場合は、式(4)に対して、次式 −(送信経路長)*(α1*ρ1+α2*ρ2) を加えればよいだけである。
また一方、不均一層がある場合のバラツキ指標の求め方は、図5の局所領域における各経路長と、局所領域下面上の各格子の振幅または中心周波数の平均減衰からの上記式(6)で表される変化分を求めるようにすればよい。各経路長は、局所領域の平均音速を求めるとともに求めることができる。
以上、音速バラツキ及び減衰バラツキの求め方の例を示したが、その求め方には様々なバリエーションがある。
図6及び図7に、バラツキ指標(音速バラツキ、減衰バラツキ)の求め方を各ステップに分けてまとめて示す。図6は別媒質がない場合であり、図7は別媒質がある場合を示している。
まず、別媒質がない場合のバラツキ指標の求め方について図6のフローチャートを参照して説明する。
ステップS100において各経路長を導出する。これは、着目点(音源)の深さを導出できれば、着目点と各素子を結ぶ各経路長を導出することができる。
着目点の深さの導出方法としては、例えば、受信時刻から求める方法、振幅から求める方法、及び中心周波数を利用する方法などの方法がある。
受信時刻から求める方法としては、例えば、着目点までの平均音速及び深さを、公知の画像解析手法を用いて求めることができる。具体的には、着目点の画像のシャープネスやコントラストの特性が最大となる値として求めることができる。
また、振幅から求める方法としては、例えば、各素子受信信号の振幅を取得し、それに上記式(5)に着目点までの平均減衰及び深さを仮定して求まる振幅をフィッティングして誤差が最小となる値を採用する方法が考えられる。しかし、振幅は減衰のみでなく、拡散や送信フォーカス、非線形特性などの影響を受けるため、上記式(5)の適用は困難である。これに対して、例えば特公平3−24868号公報に開示された2周波数の振幅比を利用する方法を用いて、2周波数の対数圧縮後の振幅の差が減衰係数に比例することから求めることができる。
また、中心周波数を利用する方法としては、例えば、各素子受信信号の中心周波数を取得し、式(5)に対して、着目点までの平均減衰及び深さを仮定して求まる中心周波数をフィッティングして誤差が最小となる値を採用する方法が考えられる。このとき、送信時の中心周波数がわかった方が精度高くフィッティングすることができる。
次に、ステップS110において、各素子受信時刻・振幅・中心周波数を導出する。
なお、受信時刻を求める方法としては、前述したように、公知の位相収差解析の手法を用いて求めることができる。または予め着目点の画像解析によって平均音速とともに求まる「経路バラツキを含まない受信時刻」を起点として位相収差解析を行ってもよい。
また、振幅を求める方法としては、各素子受信信号に包絡線検波を実施して振幅情報に変換した後に、上に述べた受信時刻における値を取得する方法がある。ここで「経路バラツキを含まない受信時刻」を基点に所定範囲でのピーク値を取得するようにしてもよい。
また、中心周波数を求める方法としては、各素子受信信号から上で述べた受信時刻を基点とした所定範囲を取得し、周波数変換後に、∫f*P(f)df/∫P(f)dfの式によって重心を求める方法がある。なお、上記式において、fは周波数であり、P(f)はfにおけるスペクトル密度である。 また、中心周波数は、スペクトル密度のピークとなる周波数でもよいし、半値幅の中心でもよい。または、検波処理を実施して得られた位相の深さ方向の傾きから求めるようにしてもよい。
なお、上記において、振幅または中心周波数を求める際に、求められる素子の受信信号を中心に所定開口で該当する受信時刻の信号を整合加算すればノイズや干渉を減らして求めることができる。
続いて、ステップS120において、各経路の経路バラツキを含まない受信時刻・振幅・中心周波数を導出する。
なお、受信時刻を求めるには、前述したステップS100で平均音速が求まっていれば求めることができる。または、ステップS110で求めた各素子受信信号に誤差が最小となる曲線をフィッティングしてもよい。このとき、ステップS100で着目点と各素子を結ぶ経路長が求まっているため、平均音速を仮定して受信時刻を計算し、誤差が最小となる平均音速(受信時刻)を求めてもよい。
また、振幅を求めるには、ステップS110で求めた各素子受信信号の振幅に誤差最小となる曲線をフィッティングして求める。このとき、ステップS100で着目点と各素子を結ぶ経路長が求まっているため、式(5)の平均減衰を仮定して振幅計算し、誤差が最小となる平均減衰(振幅)を求めるようにしてもよい。
さらに、中心周波数を求めるには、ステップS100で平均減衰が求まっているならば、同時に各素子中心周波数は求まっている。またはステップS110で求めた各素子受信信号の中心周波数に誤差最小となる曲線をフィッティングしてもよい。このとき、ステップS100で各経路長が求まっているため、平均減衰を仮定して中心周波数を計算し、誤差が最小となる平均減衰(中心周波数)を求めてもよい。このとき、送信時の中心周波数がわかっていれば精度良くフィッティングすることができる。
次に、ステップS130において、各経路の受信時刻・振幅・中心周波数の変化分を導出する。これは、ステップS110で求めた受信時刻・振幅・中心周波数からステップS120で求めた値を引けば求めることができる。
次に、ステップS140において、変化分を経路長で割って指標を導出し、それからバラツキ指標を導出する。ここで、各経路の指標の標準偏差や最大値をバラツキ指標としてよい。
続いて、別媒質がある場合の着目領域におけるバラツキ指標の求め方について図7のフローチャートを参照して説明する。
図7のフローチャートは前述した図6のフローチャートと略同じであり、各着目点のバラツキ指標計算方法において、「各経路」が「局所領域における各経路」となり、また「各素子受信時刻・振幅・中心周波数」が「局所領域下面上における値」となっている点が異なる。
まず、ステップS200において、局所領域における各経路長を導出する(擬似的な点反射の深さを導出する)。これには、例えば図5に示すように、各着目点(音源)を上面上、別媒質との境界付近を下面となるように局所領域を設定し、局所領域内の各経路長を求める。そのためにまず局所領域内の着目点の深さを求める。その方法としては、局所領域内の平均音速とともに求める方法が好適に用いられる。局所領域内の平均音速(局所音速)を求める方法は前述したように様々な方法がある。
次に、ステップS210において、各素子受信時刻・振幅・中心周波数の局所領域下面上における値を導出する。
局所領域の局所受信時刻を求める方法としては、まず局所領域下面上の各格子の受信時刻(または平均音速)を公知の画像解析及び位相収差解析の手法を用いて求め、それを遅延とする。また、着目点の受信時刻(受信波)を画像解析及び位相収差解析によって求める。そして、各格子を仮想素子と見做して各仮想素子の受信信号として、各遅延で着目点の受信波を整合加算した信号を設定する。そして、各仮想素子の受信信号の位相収差解析を実施することによって着目点の局所受信時刻を求める。または、各格子を仮想素子と見做して、各仮想素子の局所受信時刻として着目点の各素子受信時刻から遅延を引いた時刻のうち最も遅い時刻を採用する。
または、局所領域下面上の各格子の受信波を皆同じと見做し、代表する受信波を定め、着目点の受信波に対して、局所領域下面上各格子を代表する受信波による逆畳込み(デコンボルーション)を施す事によって着目点の局所受信時刻を求める。逆畳込み処理は、各素子受信信号に対して、またはその周波数空間上で実施する事ができる。
または、着目点の受信時刻(受信波)と、局所領域下面上の各格子の受信時刻(受信波)及び着目点から各格子への伝播時間(局所受信時刻)から求まる着目点の受信時刻(受信波)との誤差が最小となる様に、局所受信時刻を探索しても良い。最小値探索アルゴリズには種々のものがあるが、例えば準ニュートン法を用いても良い。
中心周波数を求める方法としては、予め局所領域の局所受信時刻または平均音速、及び局所領域下面上の各格子の受信時刻または平均音速を求める。それから、着目点→各格子→各素子という伝播パスを求める。また、送信時の中心周波数を既知とする。
局所領域下面上の各格子→各素子の中心周波数シフト量を以下の手順で求める。
まず、各格子の各素子受信信号から中心周波数を求める(このとき、求める素子の受信信号を中心に所定開口で、該当する受信時刻の信号を整合加算すれば、ノイズや干渉を減らして求めることができる)。ある格子に関して、以下の式で表される値が片道の中心周波数シフトである。
(中心周波数[真中の素子の受信信号]−中心周波数[送信時])/2
この値を、(中心周波数[各素子の受信信号]−中心周波数[送信時])から引いた値が、格子→各素子の伝播パスの減衰による中心周波数シフト量を表している。
送信時の中心周波数が未知だとしても、格子→各素子の全パスで均一減衰を仮定すれば、減衰係数を求め、シフト量を求められる(しかし送信時の中心周波数既知の方が精度は良い)。
着目点の各素子中心周波数から各格子→各素子の中心周波数シフト量を引き、各格子における中心周波数を求める。
一方、振幅を求める方法としては、予め各格子→各素子の減衰を中心周波数シフト量から求めておき、また各格子→各素子の伝播パスを求めておく。各素子の振幅から各格子→各素子の減衰を補正し、各格子の振幅を求める。
次に、ステップS220において、局所領域の経路バラツキを含まない受信時刻・振幅・中心周波数を導出する。
受信時刻を求める方法としては、ステップS200で求めた局所領域の平均音速と経路長から求められる。または、ステップS210で求めた各格子の受信時刻に誤差が最小となる曲線をフィッティングして求めてもよい。このとき、ステップS200で着目点と各格子を結ぶ経路長が求まっているため、平均音速を仮定して受信時刻を計算し、誤差が最小となる平均音速(受信時刻)を求めてもよい。
振幅を求める方法としては、ステップS210で求めた各格子の振幅に誤差最小となる曲線をフィッティングして求めることができる。このとき、ステップS200で着目点と各格子を結ぶ経路長が求まっているため、式(5)の平均減衰を仮定して振幅を計算し、誤差が最小となる平均音速(振幅)を求めてもよい。
中心周波数を求める方法としては、ステップS210で求めた各格子の中心周波数に誤差最小となる曲線をフィッティングする。このとき、ステップS200で各経路長が求まっているため、平均減衰を仮定して中心周波数を計算し誤差最小となる平均減衰(中心周波数)を求めてもよい。
以下、ステップS230、S240における処理は、前述した別媒質の無い場合の図6のステップS130、S140における処理と同様であるので説明を省略する。
なお、別媒質がある場合に設定する局所領域の下面は、必ずしも図5のように境界付近になくともよいし、平面でなく曲面でも良い。また、局所領域下面上の各格子の受信時刻・振幅・中心周波数を求めるために、局所領域だけでなく、局所領域下面にも送信焦点を設定する。
また、各素子で受信した信号の受信時刻・振幅・中心周波数に対して、低周波カット処理を施すことによって別媒質による変化分を取り除き、各格子→各素子の伝播パスに沿って各素子位置を各格子位置に変換することで、各格子の受信時刻・振幅・中心周波数の変化分を求める方法もある。
また、別媒質の補正をすることや経路長で規格化することなどは必ずしも必要なことではない。なお、深さと素子の開口の比は一定であることが望ましい。
規格化する場合、規格化する量としては経路長の他に深さ、また深さに近い量として、真中素子(または格子)の受信時刻・周波数シフト量などがある。これらによる規格化は、着目点(着目領域)の深さ(別媒質がある場合は、別媒質を除いた深さ)を一定にしてバラツキを評価する場合には必要ではない。
また、前述した式(3)などから、音速・減衰は深さと分離したΔρのみに依存した量であることがわかるので、音速・減衰を指標としてもよい(この場合、深さと開口の比も関係ないと思われる)。
そのバラツキ指標としては以下のようなものがある。すなわち、各音速・減衰の近似曲線との差分の絶対値・2乗の平均値が最小の所定比となる音速・減衰範囲がある。また、計測された受信時刻・振幅・中心周波数に接する両側の音速・減衰範囲がある。またその他、音速の場合、整合加算した画像のフォーカス指標が最大の所定比となる音速範囲や、開口を小開口に分割し、各小開口で求めた音速・減衰の標準偏差などもある。
また、送信経路の超音波伝播時間・振幅変化・中心周波数シフトのバラツキも含めると平均音速と平均減衰自体が着目点の位置によってバラつくと考えられる。従って、各着目点の平均音速・平均減衰の着目領域でのバラツキの標準偏差をバラツキ指標としてもよい。
次に、空間周波数に基づくバラツキ指標について説明する。
以上説明したバラツキ指標は、受信時刻・振幅・中心周波数のバラツキの大きさに基づく指標であるが、バラつく空間周波数も変化すると考えられる。具体的には、図2に示す受信時刻・振幅及び中心周波数の変化分の方位位置に対する周波数が変化すると考えられるため、これに基づくバラツキ指標としてもよい。
受信時刻・振幅及び中心周波数の変化分は、別媒質のない場合は図6のフローチャートで、また別媒質のある場合は図7のフローチャートで得られる。
このとき、受信時刻・振幅・中心周波数の変化分の大きさは着目点の深さとともに増すが、各方位位置に対する変化分の大きさが均一に増す分には、周波数に影響しないため補正の必要はない。ただし、各経路によって変化分の増し方に微妙に差があるため、変化分を各経路長で規格化することによって補正してもよい。つまり、図6または図7のフローチャートによって得られる変化分または経路長で規格化した変化分のどちらを指標として用いてもよい。
ここで、着目点の深さが一定でなくとも、方位方向に対する変化分の周波数を深さや経路長などによって補正する必要はない。ただし、一定の開口での評価が望ましい。
以上から得られた指標の方位位置に対する周波数分布の中心周波数または帯域またはそれらに基づく変数をバラツキ指標として求める。
例えば、肝硬変の場合、均一で小さい肝小葉が不均一で大きな結節に置き換えられることによって、中心周波数が低周波側に移動し、または帯域が広がると考えられるため、本バラツキ指標によって硬変程度を診断することができると考えられる。
中心周波数は、∫f*P(f)df/∫P(f)dfによって求められる。ここでfは周波数、P(f)は周波数fの振幅を表す。中心周波数として、他に振幅が最大の周波数としてもよいし、振幅が最大の所定比となる帯域の中心周波数としてもよいし、P(f)の積分値が半値となる周波数としてもよい。
帯域は、∫(f−f0)2*P(f)df/∫P(f)df=∫f2*P(f)df/∫P(f)df−f0 2の平方根をとることによって求められる。ここで、f0は中心周波数を表す。これは分散のままでもよい。また、帯域として他に中心周波数の振幅や最大振幅の所定比となる帯域としてもよいし、中心周波数や振幅最大の周波数を中心としたP(f)の積分値が全積分値の所定比となる帯域としてもよい。
中心周波数と帯域の他に、周波数分布の歪みをバラツキ指標として求めてもよい。これは周波数分布の3次モーメント∫(f−f)3*P(f)df/∫P(f)dfから求められる。
以上、バラツキ指標を受信時刻・振幅・中心周波数の変化分や経路長規格化変化分を指標として求める方法について説明したが、変化分でなく、受信時刻・振幅・中心周波数を直接指標としてもよい。この場合、周波数分布の極低周波に「経路バラツキを含まない受信時刻・振幅・中心周波数」の成分が含まれるため、バラツキ指標を算出する時に、極低周波成分を除けばよい。
また、平均音速・平均減衰の着目点位置によるバラツキの空間周波数に基づいてバラツキ指標を求めてもよい。この場合、着目領域内の平均音速・平均減衰の2次元周波数分布を求め、その中心周波数・帯域・歪みから求められる。
本実施形態では、上述のようにしてバラツキ指標を求めることができるが、バラツキ指標は、ミクロ構造のスケールと波長(周波数)との関係によって、構造の不均一さが信号のバラツキに及ぼす影響が変わると考えられる。例えば、構造と比べて波長が十分長ければ(周波数が十分低ければ)構造の不均一さが信号のバラツキに及ぼす影響は殆ど無く、逆に波長が構造のスケールと同程度であれば構造の不均一さが多大な影響を及ぼすと考えられる。具体的には、脂肪肝の場合には、脂肪滴サイズが100μm程度のため周波数7MHz程度で脂肪沈着による不均一さを捉えられると考えられる。
そこで、本実施形態では、バラツキ指標を計測して組織性状の診断を行う際には、組織性状の診断に適した予め定めた送信周波数の超音波を送信する。具体的には、本実施形態では、Bモード用の送信周波数と、組織性状診断用の送信周波数を異なる周波数に変更するようになっている。なお、Bモード用の送信周波数は、予め定めた周波数とし、組織性状診断用の送信周波数は、注目部位(注目臓器や病変)の深さ及び大きさに応じて予め定めた周波数とする。
図8は、本発明の第1実施形態に係わる超音波診断装置10の送信周波数を変更可能とした送信回路の一例を示す図である。
本実施形態では、図8に示すように、送信回路402に送信周波数変更部401及びタイミングコントローラ403を有している。
タイミングコントローラ403は、制御部100の制御によって駆動パルスを発生させるための信号を送信周波数変更部401へ出力する。
送信周波数変更部401は、制御部100の指示に応じた周波数のパルスを発生して超音波トランスデューサ302へ出力することにより、制御部100の指示に従った周波数の超音波が超音波トランスデューサ302から発生される。なお、送信周波数変更部401による送信周波数の変更方法としては、例えば、特開2006−255014号に記載の技術などを適用することができる。具体的には、複合型圧電素子を使用した広帯域幅の周波数特性を持つ超音波トランスデューサ302を使用し、通過する周波数帯域が異なる複数種類のバンドパスフィルタを超音波トランスデューサ302に接続して、選択的にバンドパスフィルタを切り替えて駆動パルスを印加することにより、周波数帯域幅及び中心周波数の異なる超音波を発生することができる。或いは、複数種類の周波数特性のトランスデューサ302を設けて選択的に使用するようにしてもよい。
続いて、上述のように構成された本発明の第1実施形態に係わる超音波診断装置10の作用について説明する。
図9は、本発明の第1実施形態に係わる超音波診断装置10の制御部100で行われる音速バラツキまたは減衰バラツキを表すバラツキ指標を求める全体の処理の流れの一例を表すフローチャートである。
まず、ステップS300において、Bモード画像を表示する。すなわち、オペレータによる操作卓202の表示モード切り替えボタンの操作に応じて、Bモード画像を表示部104に表示する。なお、Bモード画像を表示する際には、Bモード用の送信周波数となるように送信回路402の送信周波数変更部401を制御して超音波信号を超音波探触子300によって受信する。
次にステップS302において、着目領域を設定する。着目領域の設定は、例えば、オペレータの操作卓202やポインティングディバイス204の操作に応じた領域を着目領域として設定する。
続いて、ステップS304において、組織性状診断用送信周波数に設定する。組織性状診断用の送信周波数は、例えば、Bモード画像用とは異なる組織性状を診断するために適した周波数を予め定めておき、制御部100が送信周波数変更部401を制御することにより、送信周波数を変更する。
次に、ステップS306において、制御部100の指示に従って送信回路402が超音波トランスデューサを制御することにより、着目領域内の各ラインに沿って所定数の送信焦点を設定し、該当する送信フォーカスを実施し、各素子を介して受信回路404によって受信する。受信回路404によって受信したRF信号はA/D変換器406によってデジタルRF信号に変換される。
このとき、各着目点に対応する送信フォーカスを選択するために、事前に各送信フォーカスの有効域を以下のようにして判定するようにしても良い。
すなわち、まず送信フォーカスNo(n)を設定し、所定の指定ラインNoに対して指定ライン幅を加算/減算してラインNo(m)とし、焦点No(n)及びラインNo(m)の各素子受信信号を読み込む。次に設定音速No(k)を設定して、送信フォーカスNo(n)のラインNo(m)の受信信号に設定音速No(k)の受信フォーカスを実施し、指標または画像を保存しておく。この処理を設定音速Noを変えて繰り返し行い、所定の設定音速について処理が終了したら、ラインNoを変更し、新たなラインNoに対してまた上記のように設定音速No(k)を変えて送信フォーカスを実施する。
次に、各設定音速の全ラインの指標または画像から各深さの環境音速(平均音速)を求め、環境音速の深さ方向の標準偏差を算出し、最小点を実際の焦点深さと判定し、送信フォーカスNo(n)の有効域を求める。そして、送信フォーカスNoを変更して、次の送信フォーカスNoに対する有効域を上と同様にして求める。
なお、各着目点に対応して送信フォーカスを実施するようにしても良い。
次に、ステップS308において、データ解析計測部106ではRF信号における着目領域内に、所定数(i0)の着目点を設定する。着目点は一つ、すなわち所定数i0は1でもよい。そして、以下の処理を行うことにより、i0個の各着目点に対して、その着目点における音速バラツキまたは減衰バラツキを表すバラツキ指標を求める。
まず、ステップS310において、データ解析計測部106ではRF信号における着目領域内の所定数(i0)の着目点のうち、着目点の番号を示すiを1(i=1)とする。
そして、ステップS312において、i番目の着目点に対応する送信フォーカスの各素子受信データを選択し、該当データからi番目の着目点の音速バラツキまたは減衰バラツキを表すバラツキ指標を算出する。なお、バラツキ指標の求め方としては、別媒質の無い場合には、上述した図6のフローチャートに示す方法によって求められる。別媒質のある場合には、上述した図7のフローチャートに示す方法によって求められる。この時、着目領域とは別に、局所領域を設定し、また局所領域下面上の各格子点に対応する送信フォーカスの各素子受信データも使用する。
次に、ステップS314において、データ解析計測部106では、着目点の番号iを1インクリメントして(iに1を加え)、次のステップS316で、iが設定された着目点の個数(所定数i0)を超えたか否か判断する。その結果まだiがi0を超えていない場合には、ステップS312に戻り、上記着目点iの音速バラツキまたは減衰バラツキを表すバラツキ指標を求める処理を繰り返す。一方、iがi0を超えたと判断された場合には、次のステップS318に移行する。
ステップS318では、データ解析計測部106が各着目点iのバラツキ指標の総和をとり、それを着目領域におけるバラツキ指標として表示部104に表示する。
なお、本実施形態では、着目領域のバラツキ指標を各着目点のバラツキ指標の総和としているが、総和の代わりに、各着目点の指標を全て揃えた後に、その標準偏差をとって着目領域のバラツキ指標とするようにしてもよい。
続いて、ステップS320では、Bモード用送信周波数に戻す。すなわち、制御部100が送信周波数変更部401を制御することにより、送信周波数を予め定めたBモード用の送信周波数に変更して一連の組織性状診断するためのバラツキ指標を求める処理を終了する。
以上、受信時刻・振幅・中心周波数の変化に基く種々の音速・減衰バラツキ指標、また平均音速・平均減衰の着目点位置による変化に基く種々のバラツキ指標を説明したが、本発明は以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において他の種々のバラツキ指標を用いてもよいのはもちろんである。例えば、着目領域における各着目点の受信時刻・振幅・中心周波数に基く指標を全て揃えた後にそのヒストグラム形状特徴量として歪度や尖度などをバラツキ指標としても良いし、各着目点について指標を平均化した後に、その着目領域における分布の標準偏差やヒストグラム形状特徴量、または同時生起行列などによるテクスチャ特徴量、例えば一様性、コントラスト、相関、エントロピーなどをバラツキ指標としても良い。
また、平均音速・平均減衰の着目領域における分布からも同様にヒストグラム特徴量やテクスチャ特徴量などをバラツキ指標とする事ができる。また、これらの特徴量を単独でバラツキ指標とするのではなく複数の特徴量から、例えば重回帰式を用いてバラツキ指標を求めても良い。
このようにして音速あるいは減衰のバラツキを表す指標(バラツキ指標)を算出することにより、これを用いて組織性状の診断を行うことが可能となる。
例えば、具体的な病変とこれに対する音速あるいは減衰のバラツキのデータを大量に蓄積し、これに基づいてバラツキ指標の値と組織性状の状態との対応を統計的に求め、組織性状の診断を行うためのバラツキ指標の閾値を予め設定しておく。そして、実際の診断においては、上で述べたような方法でバラツキ指標を求め、これを予め設定された閾値と比較することにより、組織性状の診断を行う。これにより、組織性状の診断が容易となる。
さらに、組織性状の診断を行う際に、組織性状の診断に適した周波数に変更して行うので、ミクロ構造の不均一さを高精度に計測することが可能となる。例えば、脂肪肝の場合には、上述したように脂肪滴サイズが100μm程度であるため、送信周波数を7MHz程度に変更することにより、脂肪沈着による不均一さを周波数を変更しない場合に比べて高精度に捉えることができる。
(第2実施形態)
第1実施形態では、各素子信号の時間や、振幅、周波数等のバラツキに基づいて組織のミクロな音速・減衰不均一を計測するようにしたが、第2実施形態では、各素子信号に基づいて音速または減衰を求め、その空間的な変化に基づいて組織のミクロな音速・減衰不均一を計測するようにしたものであり、構成は第1実施形態の超音波診断装置10と同一であり、制御部100で行われる処理が相違するので、相違する処理について以下では説明する。
図10は、本発明の第2実施形態に係わる超音波診断装置の制御部で行われる音速または減衰のバラツキ指標を求める処理の流れの一例を表すフローチャートである。なお、図10では、第1実施形態と同一処理については同一符号を付して簡単に説明する。
まず、ステップS300において、Bモード画像を表示し、次にステップS302において、着目領域を設定する。なお、Bモード画像を表示する際には、Bモード用の送信周波数となるように送信回路402の送信周波数変更部401を制御して超音波信号を超音波探触子300によって受信する。
続いて、ステップS304において、組織性状診断用送信周波数に設定する。組織性状診断用の送信周波数は、上述したように、例えば、Bモード画像用とは異なる組織性状を診断するために適した周波数を予め定めておき、制御部100が送信周波数変更部401を制御することにより、送信周波数を変更する。
次に、ステップS306において、制御部100の指示に従って送信回路402が超音波トランスデューサを制御することにより、着目領域内の各ラインに沿って所定数の送信焦点を設定し、該当する送信フォーカスを実施し、各素子を介して受信回路404によって受信する。受信回路404によって受信したRF信号はA/D変換器406によってデジタルRF信号に変換される。
続いて、ステップS308において、データ解析計測部106ではRF信号における着目領域内に、所定数(i0)の着目点を設定する。着目点は一つ、すなわち所定数i0は1でもよい。そして、以下の処理を行うことにより、i0個の各着目点に対して、その着目点における音速バラツキまたは減衰バラツキを表すバラツキ指標を求める。
まず、ステップS310において、データ解析計測部106ではRF信号における着目領域内の所定数(i0)の着目点のうち、着目点の番号を示すiを1(i=1)とする。
そして、ステップS311において、i番目の着目点に対応する送信フォーカスの各素子受信データを選択し、該データからi番目の着目点の音速または減衰を求める。なお、音速または減衰の求め方は、特に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような公知の方法で求めることができる。
例えば、着目点の音速として環境音速(平均音速)を用いた場合の音速の求め方として、音速を着目領域の画像のシャープネスやコントラストなどの特性が最大となるような値として求める画像解析の手法(例えば、特開2007−7045号公報等参照)が知られている。
ここで、遅延時間設定のために想定される音速を設定音速と言い、超音波強度の方位方向に関する強度分布をビームプロファイルと言う。そして、受信回路で整相加算したエコー信号から設定音速が相違する複数のビームプロファイルを生成し、生成した複数のビームプロファイルを同一画面に重ねて表示し、設定音速が相違する複数のビームプロファイルの中の最小ビーム幅に対応するビームプロファイルの設定音速を生体音速として推定する。
あるいは、設定音速によるビーム幅の変化を表すグラフを生成して、その変化を高次曲線で近似した近似曲線の極小値を抽出し、その極小値に対応する設定音速を環境音速として推定するようにしても良い。
または、着目点の音速とは着目点の局所音速でも良い。この局所音速を求める方法にも様々なものがある。一例としては、第1実施形態のバラツキ指標の求め方で説明した局所領域における平均音速(局所音速)の求め方(例えば、特開2010−99452号公報等の技術)を用いることができる。
また、着目点の減衰の求め方としては、例えば、次のように、整合加算前の各素子受信信号を用いて減衰を求める方法が考えられる。
例えば、送信フォーカスを掛けて擬似的な点反射を形成し、その各素子受信データを用いて、真中素子又は真中素子を含む開口で整合加算した後の受信信号の中心周波数の深さ方向の変化から単位伝播時間当たりの減衰係数の分布を求めることができる。あるいは、各素子受信信号の中心周波数は、送信波の中心周波数が、上記擬似的な点反射の深さと各素子位置によって決まる伝播距離での減衰によって決まる量だけ、低周波側にシフトした値である事から、各素子受信信号の中心周波数から送信波の中心周波数、点反射の深さ及び減衰係数の3未知数、または、上記擬似的な点反射の音速を求める際に、同時に深さも求まり、また送信波の中心周波数も既知として、減衰係数を求めるようにしてもよい。
上記減衰係数の分布を求めるには、まず着目領域を設定し、その着目領域内の各ラインに沿って所定数の送信焦点を設定し、該当する送信フォーカスを実施して、各素子で受信する。次に、着目領域内において方位位置及び深さ位置に関して所定数の着目点を設定し、各着目点に対する送信フォーカスの各素子受信信号を選択し、その内から、真中素子の着目点の深さに相当する信号の中心周波数を求め、これを深さ位置方向に関して繰り返し行い、その各着目点の中心周波数を深さ方向に差分をとり、その結果を減衰係数として格納し、これを各方位位置に関して繰り返し行うことによって単位伝播時間当たりの減衰係数の分布が求められる。または、各着目点に対する送信フォーカスの各素子受信信号を選択し、送信波の中心周波数、着目点の深さ及び減衰係数の内、未知数を振って各素子受信信号の中心周波数に最も良く整合する減衰係数を着目点における減衰係数として格納し、これを各方位位置に関して繰り返し行うことによって減衰係数の分布を求める事ができる。
また、上記各素子受信信号の中心周波数から局所的な減衰係数を求めるには、まず着目領域を設定し、その着目領域内の各ラインに沿って所定数の送信焦点を設定し、該当する送信フォーカスを実施して、各素子で受信する。次に、着目領域内において方位位置及び深さ位置に関して所定数の着目点を設定し、着目点を上面の中心に設置した局所領域を設定し、また局所領域下面に複数の格子点を設定し着目点から各格子を経由して各素子に至る伝播経路を求める。ここで各伝播経路は局所領域の局所音速を求める際に求める事ができる。次に、着目点に対応する送信フォーカスの各素子受信信号の中心周波数を各格子から各素子への経路に沿って逆シフトすることによって、局所領域下面の各格子点における中心周波数を求める。ここで各格子から各素子への経路に沿うシフト量は、別途各格子に該当する送信フォーカスを実施して得られた各素子受信信号から求める事ができる。一方、既に局所領域における着目点直下の格子⇒着目点⇒各格子の伝播経路長が局所音速を求める際に求まっている事から、局所領域内での減衰係数が一定であると仮定すると、着目点直下の格子における中心周波数と減衰係数から、伝播した後の各格子点における中心周波数を求める事ができる。そして着目点直下の格子における中心周波数は、別途、着目点直下の格子に該当する送信フォーカスを実施して得られた各素子受信信号から求める事ができる。従って、減衰係数を仮定して求めた各格子点における中心周波数と、着目点の各素子受信信号の中心周波数逆シフトにより求めた各格子点における中心周波数との誤差を求め、この誤差が最小となる減衰係数を真値として求める事ができる。着目点直下の格子における中心周波数が未知の場合でも、着目点直下の格子における中心周波数と減衰係数の2未知数を振って得られる各格子点における中心周波数と、中心周波数逆シフトにより求めた各格子点における中心周波数とが最も良く整合する場合の減衰係数を採用すれば良い。
以上のようにして、着目点iに対応する各素子受信データ、及び局所領域を設定する場合には、その下面上に設定する各格子点に対応する各素子受信データを用いて着目点iの音速あるいは減衰を求める。なお、局所領域下面及び各格子点の設定の仕方は、特に限定されるものではなく着目点の下側に任意の曲面上に設定することができる。例えば、組織や病変の境界上に設定してもよい。
次に、ステップS314において、データ解析計測部106では、着目点の番号iを1インクリメントして(iに1を加え)、次のステップS316で、iが設定された着目点の個数(所定数i0)を超えたか否か判断する。その結果まだiがi0を超えていない場合には、ステップS312に戻り、上記着目点iの音速バラツキまたは減衰バラツキを表すバラツキ指標を求める処理を繰り返す。一方、iがi0を超えたと判断された場合には、次のステップS317に移行する。
ステップS317では、データ解析計測部106が各着目点iの音速または減衰の着目領域における変化からバラツキ指標を求めて表示部104に表示して、続いて、ステップS320では、Bモード用送信周波数に戻す。すなわち、制御部100が送信周波数変更部401を制御することにより、送信周波数を予め定めたBモード用の送信周波数に変更して一連の組織性状診断するためのバラツキ指標を求める処理を終了する。
なお、バラツキ指標としては、着目領域内の音速あるいは減衰のバラツキの大きさに基づく指標、例えば標準偏差を用いることができる。または、各着目点の音速または減衰の着目領域における変化の空間周波数に基づく指標、例えば音速・減衰の2次元周波数分布を求め、その中心周波数・帯域・歪みから求めてもよい。
或いは、その他、バラツキ指標として不均一性を評価可能な種々の指標が考えられる。例えば、着目領域における音速・減衰分布またはその空間周波数分布のヒストグラム形状特徴量として歪度や尖度などをバラツキ指標としても良いし、同時生起行列などによるテクスチャ特徴量、例えば一様性、コントラスト、相関、エントロピーなどをバラツキ指標としても良い。また、これらの特徴量を単独でバラツキ指標とするのではなく複数の特徴量から、例えば重回帰式を用いてバラツキ指標を求めても良い。
このようにして音速あるいは減衰のバラツキを表す指標(バラツキ指標)を算出することにより、これを用いて組織性状の診断を行うことが可能となる。
さらに、組織性状の診断を行う際に、第1実施形態と同様に、組織性状の診断に適した周波数に変更して行うので、ミクロ構造の不均一さを高精度に計測することが可能となる。
なお、上記の第1実施形態及び第2実施形態では、Bモードと組織性状診断とで異なる送信周波数とするようにしたが、これに限るものではなく、受信周波数を変更するようにしてもよい。例えば、以下に第1実施形態に対して受信周波数を変更する場合の例を説明する。なお、以下では、第1実施形態に対して受信周波数を変更する場合について説明するが、第2実施形態に対して受信周波数を変更するようにしてもよい。
受信周波数の変更方法としては、広帯域周波数の超音波トランスデューサ302によって広帯域周波数の超音波を送信して、受信回路404に受信周波数変更部を設けて受信周波数変更部によって受信周波数を変更する。受信周波数変更部は、例えば、バンドパスフィルタ等のフィルタを用いることにより、受信周波数を変更することができる。すなわち、受信回路404に受信周波数変更部として複数種類のバンドパスフィルタ(例えば、Bモード用の予め定めた周波数を通過するバンドパスフィルタや、注目部位(注目臓器や病変)の深さ及び大きさに応じて予め定めた周波数を通過するバンドパスフィルタ等)を設けて、制御部100の制御によって使用するバンドパスフィルタを変更することにより、広帯域周波数の超音波信号から所望の周波数の信号を得ることができる。
図11は、受信周波数を変更可能とした超音波診断装置の制御部100で行われる音速バラツキまたは減衰バラツキを表すバラツキ指標を求める全体の処理の流れの一例を表すフローチャートである。なお、図11では、第1実施形態と同一処理については同一符号を付して簡単に説明する。
すなわち、まず、ステップS300において、Bモード画像を表示し、次にステップS302において、着目領域を設定する。なお、Bモード画像を表示する際には、Bモード用の受信周波数となるように受信回路404を制御して超音波信号を超音波探触子300によって受信する。
次に、ステップS306において、制御部100の指示に従って送信回路402が超音波トランスデューサを制御することにより、着目領域内の各ラインに沿って所定数の送信焦点を設定し、該当する送信フォーカスを実施し、各素子を介して受信回路404によって受信する。
続いて、ステップS307において、各素子受信信号にバンドパスフィルタを掛ける。すなわち、制御部100が受信回路404を制御して、組織性状診断用の周波数の受信信号とするためにバンドパスフィルタを選択して、受信信号を組織性状診断用の周波数にする。そして、受信回路404によって受信したRF信号はA/D変換器406によってデジタルRF信号に変換される。
次に、ステップS308において、データ解析計測部106ではRF信号における着目領域内に、所定数(i0)の着目点を設定して、ステップS310において、データ解析計測部106がRF信号における着目領域内の所定数(i0)の着目点のうち、着目点の番号を示すiを1(i=1)とする。
そして、ステップS312において、i番目の着目点に対応する送信フォーカスの各素子受信データを選択し、該当データからi番目の着目点の音速バラツキまたは減衰バラツキを表すバラツキ指標を算出する。
次に、ステップS314において、データ解析計測部106では、着目点の番号iを1インクリメントして(iに1を加え)、次のステップS316で、iが設定された着目点の個数(所定数i0)を超えたか否か判断する。その結果まだiがi0を超えていない場合には、ステップS312に戻り、上記着目点iの音速バラツキまたは減衰バラツキを表すバラツキ指標を求める処理を繰り返す。一方、iがi0を超えたと判断された場合には、次のステップS318に移行する。
そして、ステップS318では、データ解析計測部106が各着目点iのバラツキ指標の総和をとり、それを着目領域におけるバラツキ指標として表示部104に表示して、一連の組織性状診断するためのバラツキ指標を求める処理を終了する。
このように受信周波数を変更するようにしても第1実施形態と同様に、ミクロ構造の不均一さを高精度に計測することが可能となる。
以上、本発明に係る超音波診断装置及び超音波診断装置の制御方法について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
なお、上記の実施の形態における制御部100が行う処理は、プログラムとして各種記憶媒体に記憶して流通するようにしてもよい。