JP5995232B2 - 麹菌細胞株の効率的融合方法 - Google Patents

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本発明は、アスペルギルス・オリゼ等のアスペルギルス属細胞株の融合効率を高める方法、及び、アスペルギルス属細胞株の融合過程を簡便に解析する方法等に関する。
麹菌(アスペルギルス属菌)の一種であるアスペルギルス・オリゼAspergillus oryzae (A. oryzae)は我が国の伝統的な醸造製品である日本酒、味噌、醤油などの製造に古来1000年以上にわたって利用されている糸状菌であり、日本の「国菌」ともいわれている微生物である (Kitamoto, 2002)。また、世界保健機関 (WHO) および国際食糧農業機関 (FAO) によりA. oryzaeは安全性の高い菌として認められており (Barbesgaard et al., 1992)、食品・化成品・医療品向けの酵素剤および代謝化合物が国際的に広く流通している。また、優れたタンパク質分泌能力と安全性、さらには真核生物に共通する翻訳後修飾機構を有するA. oryzaeは、有用なタンパク質を大量生産するための宿主として使用されている(Ito et al., 2007; Nakajima et al., 2006; Tsuchiya et al., 1992, 1994)。
A. oryzaeの遺伝子操作技術としては、1987年に形質転換系が開発され (Gomi et al., 1987)、今日までに、栄養要求性、薬剤耐性を利用した様々な選択マーカーが開発されてきた (Gomi et al., 1987; Kubodera et al., 2000; Mattern et al., 1987; Yamada et al., 1997)。金によりA. oryzaeの4重栄養要求性宿主・ベクター系も構築され、最大5種類の遺伝子を同時に導入もしくは破壊することが可能となっている(Jin et al., 2004b)。近年、非相同組換え修復に関与するligD遺伝子やku70遺伝子の破壊により、高頻度で相同組換えが可能な宿主株が作出され、遺伝子破壊株が容易に作製できるようになった (Takahashi et al., 2006; Escano et al., 2009; Mizutani et al., 2008; Maruyama and Kitamoto, 2008)。さらに、pyrGマーカーのリサイクリング技術による遺伝子の多重破壊も可能となった (Maruyama and Kitamoto, 2008)。マーカーリサイクリング技術により、プロテアーゼ遺伝子多重破壊株を作製し、異種タンパク質の生産量の向上に成功している (Yoon et al., 2009, 2011)。
A. oryzaeは有性世代が見つかっておらず、不完全菌 (Deuteromycete)として分類される。そして交配を行うことができず、複数の株の優良な表現型を備えた株の育種を効率的に行うことが困難である。また交配を用いた古典遺伝学を適用することが難しく、遺伝学的研究が遅れていた。
しかしながら、近年ではゲノム解読の完了に伴いA. oryzaeも有性生殖をおこなう可能性が示されてきている (Machida et al., 2005; Galagan et al., 2005)。一方で、A. oryzaeにおいてRIP (Repeat-induced point mutation)が報告されている (Montiel et al., 2006)。RIPは、有性生殖時にゲノム上の異なる部位にある相同配列内においてC:GからT:Aへの塩基置換が生じる現象であり、他の糸状菌で有性世代の見つかっている菌株でも同様にRIPが報告されている (Braumann et al., 2008)。このことは、A. oryzaeが過去に有性生殖を行っていた可能性を示唆するものである。
一方で、他のアスペルギルス属では有性世代が見つかっている。例えば、A. fumigatusや、A. oryzaeと非常に近縁であると考えられているA. flavusなどでは、それぞれ成熟した閉子嚢殻 (cleistothecium)もしくは菌核 (sclerotium)と呼ばれる構造体内部に子嚢胞子が存在することを確認している。ここで、菌核(sclerotium)は菌糸が融合を繰り返して密接した厚膜の小粒塊であり有性世代の構造である子嚢殻と似ている(Geiser, 2009; Dyer, 2007)。
これまでに有性世代が発見されているアスペルギルス属でA. oryzaeの祖先であるとされるA. flavusはA. oryzaeに比べ菌核の形成能が高いことが知られている(Murakami et al.,1971)。A. flavusが何らかの過程でその病原性などを家畜化の過程で失いA. oryzaeへと分化していったのではないかと近年では考えられており(Chang et al., 2010; 一島, 2003)、おそらくそうした進化の過程で菌核形成能も同様に失われていったのではないだろうかと予想される。一方でA. flavusの有性世代の発見は、子嚢胞子が成熟した菌核内に確認されたことにより明らかとなったが (Chang et al., 2010;Horn et al., 2009a)、A. oryzaeでも有性世代の発見は同様に菌核内に形成される子嚢胞子の確認によると考えられる。A. oryzaeはヘテロタリックな有性生殖を行う可能性が考えられており (Wada et al., 2012)、異なる接合型株の菌糸間の菌核形成後、その菌核内部で有性生殖が完了し、最終的に子嚢胞子が形成すると予想される。
従って、菌核形成の促進のための培養条件・因子の探索は重要な課題であると考えられており、培地成分の炭素/窒素比やアミノ酸組成などの条件が菌核形成に大きく影響することがこれまでに知られている他(McAlpin and Wicklow, 2005; Agnihotri, 1968)、植物病原菌(菌核病菌Sclerotinia sclerotiorum, 灰色かび病菌Botrytis cinereaなど)において分子レベルでの菌核の形成機構について研究が進められてきている。さらに、菌核組織内に特異的に発現するSsp1を、これらの植物病原菌と、Sclerotinia sclerotiorumなどから系統的に遠く離れたAspergillus属において菌核を形成するA. oryzaeとA. flavusが共有することも最新の研究で明らかになってきている (Amselem et al., 2011)。
更に、Jinらはアスペルギルス属において高く保存されているbasic-helix-loop-helix型の新規転写因子SclR(Sclerotium regulator)をA. oryzaeで初めて同定しているが (Jin et al., 2009)、本転写因子SclRがA. oryzaeにおいて菌糸の形態制御にかかわっている可能性が示唆されていた(Jin et al., 2011)。さらに、SclR過剰発現は野生型株に比べ絡まりあった菌糸の形成促進によって、菌核の形成が促進されることもあわせて報告された (Jin et al., 2011)。
上記のように、A. oryzaeでも菌核内で異なる接合型株の間で菌糸融合が繰り返され、それぞれの接合型株由来の核が同一細胞内に存在すれば、菌核内で核融合・減数***を経て子嚢胞子が形成されるのではないかと期待されるが、A. oryzaeでの有性生殖に関して菌核形成や菌糸融合に対する知見、及び、菌核形成と菌糸融合との関連性に関する知見は非常に乏しい。
Jin FJ, Takahashi T, Matsushima K, Hara S, Shinohara Y, Maruyama J, Kitamoto K, & Koyama Y (2011) SclR, a basic helix-loop-helix transcription factor, regulates hyphal morphology and promotes sclerotial formation in Aspergillus oryzae. Eukaryot Cell 10: 945-955 Wada R, Maruyama J, Yamaguchi H, Yamamoto N, Wagu Y, Paoletti M, Archer DB, Dyer PS, & Kitamoto K (2012) Presence and Functionality of Mating-Type Genes in the Supposedly Asexual Filamentous Fungus Aspergillus oryzae. Appl Environ Microbiol in press
このようにヘテロタリックな種であるA. oryzaeにおいて有性生殖が開始されるためには、異なる接合型遺伝子を持つ株の細胞どうしが融合した後、同一細胞内に異なる株由来の核が存在する異核共存体(ヘテロカリオン)を形成し、その後さらに異なる接合型株由来の核が融合することが必須であると考えられ(Dyer, 2007)、有性生殖実験を行う際、有性生殖の完了を判別する手法が必要となってくる。更に、このような細胞株の融合効率を高めることが出来れば、基礎研究及び実用面で大きな貢献が期待できる。
本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意研究の結果、これまでA. oryzaeにおいてほとんど観察・研究が行われてきていない細胞融合やヘテロカリオン形成に際して、菌糸融合実験や有性生殖実験を行う2株のうち一方の株にはウリジン/ウラシル要求性を付与し、かつ核を赤色蛍光で可視化し (H2B-mDsRed, ΔpyrG)、もう一方の株にはアデニン要求性を付与し、かつ核を緑色蛍光で可視化(H2B-EGFP, ΔadeB)することによって、細胞融合やヘテロカリオン形成を表現型に基づき、且つ、視覚的に容易に観察・同定できることを見出した。
更に、A. oryzaeにおける有性生殖の誘導を試みるため、A. flavusやA. oryzaeが有性生殖を行う場合に必須のプロセスであると考えられている菌核形成促進因子SclRを過剰発現させることによって上記株の作製過程で行い、菌糸(細胞)融合能が増大することが初めて確認された。
本発明は、以上の新たな知見に基づき成されたものである。
即ち、本発明は以下の態様を含むものである。
[態様1]2種類のアスペルギルス属細胞株(菌糸)の融合において、融合する該細胞株の少なくとも一方において菌核形成促進因子SclRの発現を増加させることにより、アスペルギルス属細胞株の融合効率を増加させる方法。
[態様2]アスペルギルス属細胞株がアスペルギルス・オリゼである、態様1の方法。
[態様3]プロモーター制御下に連結されたsclR遺伝子を含むプラスミドベクターでアスペルギルス属細胞株を形質転換することによって、該細胞株における菌核形成促進因子SclRの発現を増加させる、態様1又は2の方法。
[態様4]菌核内又は菌核の形成過程でアスペルギルス属細胞株(菌糸)の融合が行われる、態様1〜3のいずれかの方法。
[態様5]MEA培地を用い25℃・暗所・通気条件下でのアスペルギルス属細胞株の対峙培養においてアスペルギルス属細胞株(菌糸)の融合を行なわせる、態様1〜4のいずれかに記載の方法。
[態様6]更に、融合する2つのアスペルギルス属細胞株(菌糸)が夫々別の表現型により互いに識別可能な形質転換体であり、融合した細胞においては該表現型が相補されること、及び/又は、融合した細胞が2つの表現型を有することを基準として、融合細胞を同定する、態様1〜5のいずれかの方法。
[態様7]表現型が形質転換マーカー及び/又は標識物質の発現に基づくものである、態様6の方法。
[態様8]形質転換マーカーに基づく表現型が栄養要求性である、態様7の方法。
[態様9]融合した細胞においては該表現型が相補されることを、寒天CD最少培地における培養によって確認する、態様8の方法。
[態様10]標識物質が蛍光タンパク質である、態様7の方法。
[態様11]融合した細胞が2つの標識物質を有することを蛍光顕微鏡による核の観察によって確認する、態様10の方法。
[態様12]2種類のアスペルギルス属細胞株(菌糸)の融合において、融合する2つのアスペルギルス属細胞株が夫々別の表現型により互いに識別可能な形質転換体であり、融合した細胞においては該表現型が相補されること、及び/又は、融合した細胞が2つの表現型を有することを基準として融合細胞を同定する方法。
[態様13]以下の(a)、(b)、(c)、(d)又は(e)のDNAを含み、宿主であるアスペルギルス属細胞株への形質導入又は形質転換によって、該細胞株の融合効率を増加させる機能を有する組換えベクター:
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、アスペルギルス属細胞株の融合効率を増加させる機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(c)(a)の塩基配列からなるDNAと90%以上の配列相同性を示す塩基配列からなるDNAであって、アスペルギルス属細胞株の融合効率を増加させる機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、又は
(e)(d)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、アスペルギルス属細胞株の融合効率を増加させる機能を有するタンパク質をコードするDNA。
[態様14]態様13記載の組換えベクターにより形質導入又は形質転換され、親株と比較して融合効率が増加されていることを特徴とするアスペルギルス属細胞株。
SclRの発現が増加した2種類の麹菌細胞株どうし、又は、どちらか一方でSclRの発現が増加した株を含む2種類の麹菌細胞株の組み合わせによる対峙培養において、境界線特異的に形成される菌核数が有意に上昇することが確認された。更に、菌核内の麹菌細胞株の栄養要求性の相補および蛍光顕微鏡による核の観察の結果から、異なる株の表現型が同一の株に現れたことから、境界線上に形成された菌核内もしくは菌核の形成過程で菌糸が融合したことが示された。
NPlD-HR1 (H2B-mDsRed)の構築の概略を示す。 NPlD-HG1 (H2B-EGFP) の構築の概略を示す。 菌核形成促進因子SclR過剰発現株の作製の概略を示す. 菌核形成促進因子SclR過剰発現株に対するコントロール株の作製の概略を示す。 形質転換体におけるウリジン/ウラシル要求性からアデニン要求性への変換の過程を示す。 CD最少培地を用いた栄養要求性の変換の確認の結果を示す。 栄養要求性が変換された株の染色体構造を示す。 栄養要求性が変換された株の系統図を示す。 菌核形成促進因子SclR過剰発現株とコントロール株における菌核の形成を示す。 菌核形成促進因子SclR過剰発現株とコントロール株との増殖の比較を示す。 栄養要求性の異なる株の境界線上での菌核形成を示す。 境界線特異的な菌核形成における菌核数を示す。 CD最少培地での境界線特異的に形成された菌核内での栄養要求性の相補を示す。 境界線特異的な菌糸融合を行ったと考えられる菌核数を示す。 栄養要求性の異なる株の境界線特異的に形成された菌核のうちウリジン/ウラシルとアデニンを含まない寒天CD最少培地で生育を示した菌糸を蛍光顕微鏡で観察した結果を示す。
本発明は、2種類のアスペルギルス属細胞株(菌糸)の融合において、融合する該細胞株の少なくとも一方において菌核形成促進因子SclRの発現を増加させることにより、アスペルギルス属細胞株の融合効率を増加させる方法に関するものである。
菌核形成促進因子SclRは既に公知であり、sclR遺伝子の塩基配列(配列番号1)もAspergillus oryzaeゲノムデータベース等に開示されているので、当業者であれば、それらからSclRに関する情報を容易に入手することが出来る。
アスペルギルス属はおよそ250種の菌からなるが (Samson and Varga, 2010)、産業的に有用であるもの、逆にヒトや植物に対し病原性を有するものが多く含まれる。真菌類の生活環では一般に、有性胞子を形成する生活環と無性胞子を形成する生活環が見られるが、アスペルギルス属においてはその64%で有性生活環が見られず、無性生活環のみで生育している (Dyer et al., 2012)。有性生活環とは、単相核で過ごしていた個体が、核融合・減数***によって遺伝的に新たな個体を生じる過程のことをいう。これに対し、無性生殖とは体細胞***のみによって遺伝的に同一な個体を生じる過程のことを指す。
真菌類の分類は、有性生殖によってできる構造体(子実体、fruiting body)の形態をもとに行われているため、無性生活環のみが知られ有性生活環の見つかっていない菌は不完全菌として分類される。アスペルギルス属においては、A. nidulans、A. fumigatus、A. flavus、A. parasiticus、A. nomiusなどで有性生活環が見つかっているが、A. oryzaeを含め他のアスペルギルス属の大半が、分生子→菌糸→分生子を繰り返す無性生活環のみが知られており、不完全菌類として分類されている。
従って、本発明の方法に対象となるアスペルギルス属細胞株としては、アスペルギルス・オリゼのような、不完全菌として分類される菌株が好ましい。
本発明方法において、細胞株における菌核形成促進因子SclRの発現を増加させる手段に特に制限はなく、当業者に公知の任意の方法で実施することが出来る。例えば、適当な構成的プロモーター又は誘導プロモーターの制御下で発現されるように該プロモーターに連結されたsclR遺伝子を含むプラスミドベクターで予めアスペルギルス属細胞株を形質転換することによって、該形質転換体においてSclRの発現を増加させることが可能である。
菌核は子嚢菌門および担子菌門に属する一部の糸状菌で観察され、無性的に形成される耐久性の休眠構造である(Willets and Bullock, 1992; Erentala et al., 2008)。菌糸が分岐・融合・接着を繰り返して密集し、メラニン沈着とともに硬壁化して形成される。直径は1〜3 mm程度であるが、直径3.5 cmを超えるものもある(Bolton et al., 2006)。外側から、メラニンに富む厚い着色細胞よりなる皮質rind、織り重なった菌糸よりなる髄質medullaとからなり、環境や栄養条件が良好であれば発芽する。
本発明方法においては、このような菌核内又は菌核の形成過程でアスペルギルス属細胞株(菌糸)の融合が行われることが好ましい。
本発明方法においては、適当な条件下で2種類のアスペルギルス属細胞株(菌糸)を培養することによって、これら細胞株を融合させることができる。このような培養条件は、用いる細胞株の種類等に応じて当業者が適宜選択することが出来る。例えば、本明細書の実施例に記載されているように、MEA培地等の当業者に公知の培地を用い25℃〜30℃の温度で、暗所及び通気条件下で行うことが好ましい。又、培養方法としては、固体培地を用いる対峙培養及び液体培養等の当業者に公知の適当な方法を用いることが出来る。
本発明方法においては、更に、融合する2つのアスペルギルス属細胞株(菌糸)が夫々別の表現型により互いに識別可能な形質転換体であることが好ましい。こうすることによって、融合した細胞においては該表現型が相補されること、及び/又は、2つの表現型を有することを基準として、融合した2つのアスペルギルス属細胞株(菌糸)、即ち、これらの細胞株による異核共存体(ヘテロカリオン)の形成、及び/又は、その後の核の融合を簡便・容易に同定することが可能となる。従って、本発明は、2種類のアスペルギルス属細胞株(菌糸)の融合において、融合する2つのアスペルギルス属細胞株が夫々別の表現型により互いに識別可能な形質転換体であり、融合した細胞においては該表現型が相補されること、及び/又は、融合した細胞が2つの表現型を有することを基準として融合細胞を同定する方法にも関する。
このような表現型は、例えば、当業者に公知の任意の薬剤耐性マーカー及び栄養要求性マーカーを含めた多くの形質転換マーカーに基づく薬剤耐性及び栄養要求性、並びに、当業者に公知の任意の蛍光タンパク質等の標識物質の発現に基づくものである。例えば、栄養要求性マーカーの例として、アルギニン生合成経路に関わるargB遺伝子、ピリミジン生合成経路に関わるpyrG遺伝子、並びに、アデニン生合成経路に関わるadeA遺伝子及びadeB遺伝子等を挙げることができる。
本発明方法で用いる形質転換体は、本明細書の実施例に記載されているように、別の異なる2種類のこのような表現型を有していることが好ましい。
より具体的には、例えば、融合した2つのアスペルギルス属細胞株においては表現型(栄養要求性)が相補されることは寒天CD最少培地における培養において融合した細胞のみが生育できることを利用して確認することが出来る。
又、表現型が蛍光タンパク質であるような場合には、当業者に公知の標準的な方法に従がう蛍光顕微鏡による核の観察によって、2つのアスペルギルス属細胞株(菌糸)が融合したことを容易に確認することが可能である。
更に、本発明は、以下の(a)、(b)、(c)、(d)又は(e)のDNAを含み、宿主であるアスペルギルス属細胞株への形質導入又は形質転換によって、該細胞株の融合効率を増加させる機能を有する組換えベクターに関する:
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、アスペルギルス属細胞株の融合効率を増加させる機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(c)(a)の塩基配列からなるDNAと90%以上の配列相同性を示す塩基配列からなるDNAであって、アスペルギルス属細胞株の融合効率を増加させる機能を有するタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、又は
(e)(d)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、アスペルギルス属細胞株の融合効率を増加させる機能を有する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
又、本発明は、上記の組換えベクターにより形質導入又は形質転換され、親株と比較して融合効率が増加されていることを特徴とするアスペルギルス属細胞株にも関する。
本発明における「配列番号1で表される塩基配列からなるDNA」は菌核形成促進因子SclRをコードしており、アミノ酸をコードする領域のみから成る塩基配列(すなわち、エクソン部分のみが結合された塩基配列)からなるcDNAも含まれる。このようなcDNAは、当業者に公知の任意の方法によって、本明細書に開示の塩基配列情報に基づき調製した適当なプライマーを用いて、麹菌のmRNAを鋳型としたPCR等により取得することが可能である。また、本発明のDNAは当業者に公知の任意の方法によって化学合成することも可能である。
さらに、本発明のDNAには、上記DNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、及び上記DNAと約90%以上、好ましくは約95%以上である配列相同性を示す塩基配列からなるDNAであって、アスペルギルス属細胞株の融合効率を増加させる機能を有するタンパク質をコードするDNAが含まれる。
ここで、ハイブリダイゼーションは、例えば、Molecular cloninng third.ed.(Cold Spring Harbor Lab.Press,2001)、又は、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al.,1987)に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
本明細書において、「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、温度60℃〜68℃において、ナトリウム濃度15-900mM、好ましくは15-600mM、さらに好ましくは15-150mM、pH6-8であるような条件を挙げることができる。
従って、配列番号1で表される塩基配列を含むDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、該DNAの全塩基配列との相同性の程度が、全体の平均で、約90%以上、好ましくは約95%以上である塩基配列を含有するDNA等を挙げることができる。
本発明のタンパク質は、配列番号1で表される塩基配列からなるDNAにコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質に加えて、このようなアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列(上記アミノ酸配列と配列相同性を有するアミノ酸配列)からなり、アスペルギルス属細胞株の融合効率を増加させる機能を有するタンパク質も含まれる。
2つの塩基配列又はアミノ酸配列における配列相同性を決定するために、配列は比較に最適な状態に前処理される。例えば、一方の配列にギャップを入れることにより、他方の配列とのアラインメントの最適化を行う。その後、各部位におけるアミノ酸残基又は塩基が比較される。第一の配列におけるある部位に、第二の配列の相当する部位と同じアミノ酸残基又は塩基が存在する場合、それらの配列は、その部位において同一である。2つの配列における配列相同性は、配列間での同一である部位数の全部位(全アミノ酸又は全塩基)数に対する百分率で示される。
上記の原理に従い、2つの塩基配列又はアミノ酸配列における配列相同性は、例えば、Karlin及びAltschulのアルゴリズム(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264-2268、1990及びProc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5877、1993)により決定される。このようなアルゴリズムを用いたBLASTプログラムやFASTAプログラムは、主に与えられた配列に対し、高い配列相同性を示す配列をデータベース中から検索するために用いられる。これらは、例えば、米国National Center for Biotechnology Informationのインターネット上のウェブサイトにおいて利用可能である。
上記のような塩基配列の配列相同性又はコードするアミノ酸配列の配列相同性を示すようなDNAは、上記のようにハイブリダイゼーションを指標に得ることもでき、ゲノム塩基配列解析等によって得られた機能未知のDNA群又は公共データベースの中から、当業者が通常用いている方法により、例えば、前述のBLASTソフトウェアを用いた検索により発見することも容易である。さらに、本発明遺伝子は種々の公知の変異導入方法によって得ることもできる。
本発明の組換えベクターは、当業者に公知の適当な遺伝子工学的な手段を用いて、上記のDNAを適当なベクター内に連結することにより調製することができる。ベクターとしては、形質導入又は形質転換する宿主微生物のゲノム上の適当な位置に上記のDNAが挿入され、その緒果、親株と比較して、アスペルギルス属細胞株の融合効率を増加させることができるものであれば、その構造及び種類等に特に制限はない。例えば、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス、染色体組み込み型、又は人工染色体等のベクターを用いることかできる。
上記ベクターには、形質転換された細胞を選択することを可能にするために、AosCのような当業者に公知の任意のマーカー遺伝子が含まれていてもよい。また、組換えベクターは、宿主細胞中で本発明の遺伝子を発現することのできるプロモーター及びその他の制御配列(例えば、エンハンサー配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列等)、さらに、目的とするDNAを挿入するためのマルチクローニングを含むことが望ましい。これらの組換えベクターに含まれる各要素は当業者に公知のものを適宜使用することが出来る。
形質導入又は形質転換は、公知の適当な方法で行うことができる。例えば、プロトプラスト化した後ポリエチレングリコール及び塩化カルシウムを用いる方法(Mol.Gen.Genet.,218,99-104(1989))を用いることかできる。特に、実施例に記載されているような、Gatewayテクノロジーを使用することが好ましい。
本発明の組換えベクターを形質導入又は形質転換されたアスペルギルス属細胞株は、菌核形成促進因子SclRの発現量が増大し、その結果、親株と比較してアスペルギルス属細胞株の融合効率が20%以上、好ましくは、2〜3倍になるような機能を意味する。尚、細胞株の融合効率は本明細書の実施例に示されるような方法で測定・評価することができる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。尚、本明細書に特に記載のない場合には、各種条件・手段・手法等は当該技術分野における技術的常識に従って当業者が適宜設定し実施することが可能である。
核ヒストンH2B-mDsRedおよびH2B-EGFP融合タンパク質発現株による核の可視化
核の可視化のため、核ヒストンH2Bに赤色蛍光タンパク質mDsRedおよび緑色蛍光タンパク質EGFPをそれぞれ融合させた融合タンパク質を恒常的に発現するよう2つのプラスミドを設計した(pgHHDRS, pgHHGS; 図1A, 図2A)。形質転換用の選択マーカーにはA. oryzae由来のsC遺伝子 (以降AosCと記述)を用いた。
A. oryzae NSPlD1株(Maruyama and Kitamoto, 2008)にはpgHHDRSとpgHHGS両方のプラスミドをそれぞれ形質転換によりAosC遺伝子座にシングルコピーで挿入した (図1B, 図2B)。サザン解析にて、これらのプラスミドのAosC遺伝子座へのシングルコピーでの挿入を確認し、蛍光顕微鏡にてそれぞれの蛍光タンパク質による核の可視化を確認した(図1C, 図2C)。核が赤色蛍光タンパク質と緑色蛍光タンパク質で可視化された株をそれぞれNPlD-HR1 (H2B-mDsRed)、NPlD-HG1 (H2B-EGFP)と命名した。
菌核形成促進因子SclR過剰発現株とコントロール株の作製
核の可視化によって得られたNPlD-HR1(H2B-mDsRed)およびNPlD-HG1(H2B-EGFP)の2種類の株のniaD遺伝子座に、amyBプロモーター下でSclRを過剰発現するためのプラスミド(pamy215;図3A)を挿入し、それぞれの株に対しSclRの過剰発現を試みた。形質転換の後、図3Bに示したコンストラクトによるサザン解析にてniaD遺伝子座にSclR過剰発現プラスミドがシングルコピーで挿入された株の取得を確認した。親株NPlD-HR1およびNPlD-HG1の2株に対し、取得したSclR過剰発現株をそれぞれPlD-HR1-sR (H2B-mDsRed, SclR OE)、PlD-HG1-sR (H2B-EGFP, SclR OE)と命名した。
同様に核の可視化によって得られたNPlD-HR1およびNPlD-HG1の2種類の株のniaD遺伝子座に、amyBプロモーターのみを持つプラスミド(pUNA;図4A; Yamada et al., 1999)を挿入した、SclRの過剰発現に対するコントロール株の作製を試みた。形質転換の後、図4Bに示したコンストラクトによるサザン解析にてniaD遺伝子座にpUNAプラスミドがシングルコピーで挿入された株の取得を確認した。親株NPlD-HR1、およびNPlD-HG1の2株に対し、取得したコントロール株をそれぞれPlD-HR1-c (H2B-mDsRed, Ctrl)、PlD-HG1-c (H2B-EGFP, Ctrl)と命名した。
栄養要求性の変換
ウリジン/ウラシル要求性からアデニン要求性への変換
A. oryzaeではこれまでに薬剤耐性マーカーや栄養要求性マーカーを含めた多くの形質転換マーカー、およびそれらを有するベクター系が開発されてきている。栄養要求性も前述のアルギニン生合成経路に関わるargB遺伝子やピリミジン生合成経路に関わるpyrG遺伝子、そのほかにもアデニン生合成経路に関わるadeA遺伝子やadeB遺伝子が栄養要求性マーカーとして開発されている (Jin et al., 2004a, 2004b; Kubodera et al., 2000)。これらの栄養要求性マーカー遺伝子のうち、adeA遺伝子は、NSPlD1株においては本来の第6染色体上のadeA遺伝子座と第3染色体上のargB遺伝子座にはUV照射による変異が導入されたadeA-遺伝子が存在し、正常に機能しているadeA遺伝子は最終的に第7染色体上のpyrG遺伝子座に存在している。煩雑化を防ぐためにも上項目のargB遺伝子以外に栄養要求性を付与できる遺伝子としてadeB遺伝子を用い、ΔpyrGでウリジン/ウラシル要求性株の第1染色体adeB遺伝子座に存在するadeB遺伝子をpyrG遺伝子により置換することで、ΔadeBでアデニン要求性に変換することにした。
上記で作製したPlD-HG1-sR株 (H2B-EGFP, SclR OE, ΔpyrG)とコントロール株であるPlD-HG1-c株 (H2B-EGFP, Ctrl, ΔpyrG)の第1染色体上にあるadeB遺伝子を、図5Aに示したadeB遺伝子の上流1.0 kb、下流1.0 kb およびpyrG遺伝子を含むDNA断片を用いてpyrG遺伝子により置換することでウリジン/ウラシル要求性をアデニン要求性へ変換した株を作製した。サザン解析により目的の遺伝子置換を確認し (図5B)、さらにCD最少培地を用いて栄養要求性の変換を確認した (図6)。取得したアデニン要求性の株をそれぞれAblD-HG1-sR (H2B-EGFP, SclR OE, ΔadeB)、AblD-HG1-c (H2B-EGFP, Ctrl, ΔadeB)と命名した。
adeB遺伝子の上流1.0 kbおよび下流1.0 kbはそれぞれ前後の遺伝子(AO090009000332およびAO090009000334)のORFの一部を含む。そのため、adeB遺伝子のpyrG遺伝子での置換により取得した株に意図しない変異が入る可能性も考えられる。そこでAblD-HG1-sR、AblD-HG1-cの染色体DNA上のadeB遺伝子上流・下流それぞれ1.0 kbの領域における変異の有無をシーケンスにより確認した。その結果、形質転換による上記領域への変異は確認されなかった。図7と図8には上記で作製した株の染色体構造と、系統図を示した。
SclR過剰発現株の菌核形成における培地条件の最適化
amyBプロモーター下でのSclR過剰発現をおこなった株の菌核形成に適した培地条件を検討した。他のアスペルギルス属でA. parasiticusや、A. oryzaeと近縁であるA. flavusでは有性生殖の誘導にMCA (Mixed Cereal Agar; 幼児の離乳食用のシリアルを水に溶かし寒天を加えたもの)培地を用いて異なる接合型どうしで対峙培養を行うことで有性世代の発見に至っている (O’Gorman et al., 2009; Horn et al., 2009a, 2009b; 実験材料及び方法)。一方でJinらは菌核形成促進因子SclRの同定およびその機能解析にマルツエキスを含むMEA (Malt Extract Agar)培地を用いている。そこで、これらの培地にPD培地を加えたMCA培地、MEA培地およびPD培地の3つの培地にSclR過剰発現株とコントロール株それぞれの分生子懸濁液を植菌し暗所・通気条件で培養した。この際、それぞれの寒天培地に植菌する分生子数を103個/5μlとしたが、これは植菌する分生子数が多すぎると菌核形成数が減少するというA. flavusやA. parasiticusで報告されている実験結果に基づいている (Brown et al., 2008, 2009)。2週間ほど培養したところ、成熟した黒色の菌核の形成数はMEA培地で最も多く、PD培地でも多少の菌核は形成される傾向を示した (図9)。これはマルツエキスに含まれるマルトースによりamyBプロモーター下のSclRの発現が強力に誘導されたためだと考えられる。また30℃と25℃のそれぞれの温度で暗所・通気条件での菌核形成を比較したところ、PD培地とMCA培地では変化はあまり見られなかったが、MEA培地においては25℃での培養では分生子形成が抑えられ菌核の形成数の上昇が観察された。また同様の条件で20℃以下ではどの培地でも菌核はほとんど形成されなかった。
以上の結果から、菌核形成を促進させ有性生殖を誘導し、さらにA. oryzaeの菌糸融合能におけるSclRの効果を評価するため、MEA培地を用い25℃・暗所・通気での培養条件を用いることとした。
SclR過剰発現株を用いた表現型解析
アスペルギルス属ではA. flavusなどで分生子形成と菌核形成の間には負の相関があることが示唆されている (Brown et al., 2008, 2009)。ΔpyrG (ウリジン/ウラシル要求性)の株において、SclR過剰発現株とコントロール株の間で分生子形成量を比較したところ、PD培地ではコントロール株がSclR過剰発現株に比べ約7倍の分生子を形成した。また、SclR過剰発現株のほうがコロニーの形成速度が低下していた。コロニー形成速度の低下はCD培地でより顕著であった。炭素源にグルコースを用いたCD最少培地では生育初期(30℃、3日培養)の段階でコントロール株に比べSclR過剰発現株の生育が若干低下し、炭素源にマルトースを用いたCD最少培地では同様の生育初期の段階でコントロール株に比べSclR過剰発現株の生育が顕著に低下していることが観察された (図10)。またΔadeB (アデニン要求性)の株においても同様の結果が得られたが、ΔpyrGのSclR過剰発現株にくらべΔadeBのSclR過剰発現株が形成する菌核数は若干減少しており、また白色の菌核から黒色の菌核に成熟しないものが多かった。アデニン生合成の経路を途中で阻害することでアデニン要求性を付与しているが、このアデニン生合成経路が菌核の色の変化などに影響を及ぼしている可能性が考えられた。
栄養要求性の異なる株の境界線上での菌核形成におけるSclR過剰発現の効果
境界線特異的な菌核の形成
上記で作製したSclR過剰発現株とコントロール株のうち、ΔpyrGでウリジン/ウラシル要求性を持ち核が赤色蛍光で可視化されている株、ΔadeBでアデニン要求性を持ち核が緑色蛍光で可視化されている細胞株を用いた。MEA培地に異なる栄養要求性を持つ株どうし、且つSclR過剰発現株どうしとコントロール株どうしが向き合うように25℃暗所・通気条件で対峙培養した (図11A)。培養7日ほどでそれぞれの株はコロニー内に黒色もしくは白色の菌核を形成し始める。そして培養14日ほどで異なる栄養要求性を持つ株の境界線特異的な菌核の形成が観察された (図11B、赤線内)。境界線上に形成された菌核はコロニー内部に形成された菌核に比べ形成が観察され始めた時期が遅く、またサイズも若干大きいものが多く観察された。またコロニー内部に形成された菌核は培養初期およそ7日で黒色に成熟したのに対し、1ヶ月以上の長期培養を行っても、境界線上に特異的に形成された菌核は白色のままであった。
境界線特異的な菌核形成におけるSclR過剰発現の効果
図11BではSclR過剰発現株どうしの境界線と、コントロール株どうしの境界線に形成される菌核数に違いが観察された (図11B, 赤線内)。よって次に図12に示した株の組み合わせで境界線特異的に形成される菌核数を比較した。その結果、コントロール株どうしの組み合わせに比べ、過剰発現株どうしかもしくはどちらか一方が過剰発現株を含む組み合わせでは境界線特異的に形成される菌核数が有意に上昇した (図12)。
境界線特異的に形成された菌核内での栄養要求性の相補
CD最少培地での栄養要求性の相補の確認
それぞれの株のコロニー内に形成される菌核とは異なり、異なる栄養要求性を持つ株の境界線特異的に形成された菌核はそれぞれの株の菌糸どうしが密接に絡み合い形成されている。その菌核内部では異なる栄養要求性を持つ株の菌糸どうしの一部が融合していることも予想される。もし仮にこれらの菌核内で菌糸・細胞が融合して異なる栄養要求性を持つ株の菌糸間でヘテロカリオンが形成されれば、栄養要求性が相補される可能性が予測される。そこで、過剰発現株どうし・コントロール株どうしそれぞれの境界線特異的に形成された菌核をウリジン/ウラシルとアデニンを含まない寒天CD最少培地にシフトしたところ、シフトした菌核を中心にコロニー・菌糸成長が認められた (図13)。また各株のコロニー内部からシフトした菌核は菌糸成長を示さなかった (図13)。このことから、境界線上に形成された菌核内もしくは菌核形成の過程で菌糸が融合していることが示唆された。しかし、過剰発現株どうしとコントロール株どうしで、それぞれの境界線で形成された菌核のうち培地シフト後に菌糸成長を示す菌核の数に差が観察された (図13)。
そこで、境界線特異的に形成された菌核を1つのプレートあたり8個ランダムに選び、ウリジン/ウラシルとアデニンを含まない寒天CD最少培地にシフトした。そして置換した8個の菌核のうちいくつが栄養要求性の相補により菌糸成長が可能となったかを指標に、菌糸融合効率の評価を行った。その結果、菌核内部もしくは菌核の形成過程で菌糸融合を行ったと考えられる菌核数は、コントロール株 x コントロール株の組み合わせに比べ、他の組み合わせでは20%ほど有意に効率が上昇することが示唆された (図14)。
蛍光顕微鏡による核の観察
作製したSclR過剰発現株とコントロール株のうち、ΔpyrGでウリジン/ウラシル要求性を持ち核が赤色蛍光で可視化されている株、ΔadeBでアデニン要求性を持ち核が緑色蛍光で可視化されている株を用いている。前項では、栄養要求性の相補が確認されたことで、異なる栄養要求性を持つ株の境界線上に形成された菌核内部もしくは菌核の形成過程で菌糸融合が行われたことが示唆された。接合型の組み合わせ、およびSclR過剰発現株とコントロール株のそれぞれの組み合わせで、栄養要求性の異なる株の境界線特異的に形成された菌核のうち、図13でウリジン/ウラシルとアデニンを含まない寒天CD最少培地で生育を示した菌糸を蛍光顕微鏡で観察した。その結果、大多数の菌糸においては、1つの菌糸中の核の色が赤色及び緑色両方の蛍光で観察された (図15)。
使用菌株、培地および形質転換
[使用菌株]
大腸菌 Escherichia coli
大腸菌組換えプラスミドの取得にはE. coli DH5α(supE44 ΔlacU169(Ф80 lacZ ΔM15)hsdR17 recA1 endA1 gyrA96 thi-1 relA1) を用いた。
麹菌Aspergillus oryzae
本研究で使用したA. oryzae菌株一覧を表1に示した。形質転換のための親株としてはNSPlD1株(niaD- sC- adeA- ΔargB::adeA- ΔligD::argB ΔpyrG::adeA) (Maruyama and Kitamoto, 2008)を用いた。
[使用培地]
[E. coli DH5α用]
LB培地: 1% Bacto tryptone、0.5% Yeast Extract、0.5% NaCl(プレート用寒天培地には2.0% Agarを含む。また必要に応じてkanamycinあるいはampicillinを終濃度50 mg/mlとなるように添加した。)
SOC培地: 2% Tryptone、0.5% Yeast Extract、10 mM NaCl、2.5 mM KCl、10 mM MgCl2、10 mM MgSO4、20 mM Glucose(混合後、フィルター滅菌した)
[A. oryzae用]
各株の栄養要求性にあわせて以下のものをそれぞれの培地に添加した。
ウリジン/ウラシル要求性;0.5% uridine + 0.2% uracil
アデニン要求性;0.01% adenyl sulfate
DPY培地:2% Dextrin、1% Polypeptone、0.5% Yeast Extract、0.5% KH2PO4、0.05% MgSO4・7H2O(pH 5.5)
CD培地:0.3% NaNO3、0.2% KCl、0.1% KH2PO4、0.05% MgSO4・7H2O、0.002% FeSO4・7H2O、2% Glucose or Maltose(pH 5.5)
M培地:0.2% NH4Cl、0.1% (NH4)2SO4、0.05% KCl、0.05% NaCl、0.1% KH2PO4、0.05% MgSO4・7H2O、0.002% FeSO4・7H2O、2% Glucose(pH 5.5)
M + Met培地:0.2% NH4Cl、0.1% (NH4)2SO4、0.05% KCl、0.05% NaCl、0.1% KH2PO4、0.05% MgSO4・7H2O、0.002% FeSO4・7H2O、2% Glucose、0.15% methionie(pH 5.5)
PD培地:日水製薬社の『真菌用 ポテトデキストロース寒天培地 「ニッスイ」』を使用法に従って作製した(組成:39.0 g中、ポテト浸出液末4.0 g・Glucose 20.0 g・Agar 15.0 g)。
MCA培地
5% Gerber mixed grain cereal (Gerber Products Co., Freemont, Michigan)、2.0% Agar
MEA培地
8.0% Malt Extract (オリエンタル酵母工業(株) バイオ事業部の微生物用培地、培地用 マルツエキス)、2.0% Agar、0.002% CuSO4、0.00004% Na2B4O7・10H2O、0.00087% FePO4、0.00095% MnSO4、0.0008% Na2MoO4、0.008% ZnSO4 (pH 6.0)
[遺伝子操作]
[プラスミドの作製]
本研究で使用したプライマーは表2、プラスミドは表3に示した。これらのプラスミドのうち、pgHHDRS、pgHHGS、pgABpGはMultiSite Gateway(商標)cloning system を用いて作製した。
pgHHDRS
核を赤色蛍光で標識するためのプラスミドpgHHDRSは、5' entry clone (pg5'PH)、center entry clone (pgH2B) 、3' entry clone (pg3'DRM-CF)と形質転換用選択マーカーとしてAosCマーカーを含むdestination vector (pgDSO)を混合してLR反応を行い、作製した。
pgHHGS
核を緑色蛍光で標識するためのプラスミドはpgHHGSは、5' entry clone (pg5'PH)、center entry clone (pgH2B) 、3' entry clone (pg3'E)と形質転換用選択マーカーとしてAosCマーカーを含むdestination vector (pgDSO)を混合してLR反応を行い、作製した。
pgABpG
adeB遺伝子上流1.0 kbをプライマーattB4-5aB-FとattB1-5aB-Rで、adeB遺伝子下流1.0 kbをプライマーattB2-3aB-FとattB3-3aB-Rでそれぞれ増幅し、adeB遺伝子上流のDNA断片の増幅産物を5' entry vector (pDONR P4-P1R)にBP反応により挿入することで5' entry clone (pg5’AB4)、adeB遺伝子下流のDNA断片の増幅産物を3' entry vector (pDONR P2R-P3)にBP反応により挿入することで3' entry clone (pg3’AB4)を作製した。さらに5' entry clone (pg5'AB4)、3' entry clone (pg3'AB4)、center entry clone (pgEpG)とdestination vector (pDEST R4-R3)を混合してLR反応を行った。以上によってadeB遺伝子破壊用プラスミドpgABpGを作製した。pgABpGを鋳型とし、プライマーattB4-5aB-FとattB3-3aB-Rを用いてPCRでadeB遺伝子破壊のための遺伝子断片を増幅した。
[PCR条件]
各遺伝子のクローニングには、ポリメラーゼとしてPrimeSTAR (TaKaRa)を用いた。テンプレートとしてA. oryzae RIB40株の染色体DNAを用いた。また、A. oryzaeのコロニーPCRにはKOD FX Neo (TOYOBO)を用いた。反応液の組成は全て添付の説明書に従った。
Prime STAR温度条件
98℃ 2 min、{98℃ 10 sec、(アニーリング温度)15 sec、72℃ 1 kb/min;30 cycle}、4℃
KOD FX Neo温度条件
94℃ 5 min、{98℃ 10 sec、(アニーリング温度)30 sec、68℃ 2 kb/min;45 cycle}、4℃
テンプレートには、20 μlスケールあたり50 μl TEに白金耳懸濁した溶液2 μlを用いた。
[プラスミドDNAの調製]
大腸菌プラスミドDNAの調製は、アルカリSDS法もしくはPromega社のキット (Cat. No. A1222) を用いて行った。
[DNAシークエンス]
ファスマック社による受注シークエンスを行った。
[大腸菌の形質転換]
MultiSite Gateway(商標)systemを用いた場合の形質転換は、以下の方法を用いた。その他の形質転換についてはHanahanの方法 (Hanahan, 1983)に従った。
MultiSite Gatewayシステムで作製するプラスミド取得のための形質転換
100 μlのコンピテントセルに5 μlの酵素反応 (BP反応およびLR反応)液を加えて混合し、氷上で30分間放置後、42℃で1分間インキュベートして素早く氷上へ移す。
SOC培地250 μlを加えて37℃で1時間振盪培養した後、LB 選択培地 (LB + kanamycinあるいはampicillin)に塗布。37℃、一晩の培養によりコロニーを得る。
[A. oryzae形質転換法]
プロトプラストPEG法
親株を100 mlのDPY液体培地を用いて30℃で18〜20時間振盪培養し、ミラクロス (CALBIOCHEM)を用いて菌体を回収する。
回収した菌体を滅菌水で洗浄後、10 ml TF Solution 1 (1% Yatalase (TaKaRa), 0.6 M (NH4)2SO4, 50mM Maleate buffer (pH 5.5))により30℃で3時間処理してプロトプラスト化する。
ミラクロスを用いてプロトプラストを回収して10 ml TF Solution 2 (1.2 M Sorbitol, 50 mM CaCl2, 35 mM NaCl, 10 mM Tris-HCl (pH 7.5))を加え、遠心して沈殿を回収する。同様の操作でプロトプラストをさらに2回洗い、1.0-5.0×107個/ mlとなるようにTF Solution 2 に懸濁する。
200 μlのプロトプラスト懸濁液に1-5 μg/10μlの形質転換用DNAを10μl加えて、氷中に30分間静置する。
250、250、850 μlと3回に分けてTF Solution 3 (60% PEG4000, 50 mM CaCl2, 10 mM Tris-HCl (pH 7.5))を加え、室温で20分間静置する。
5 mlのTF Solution 2を加えて遠心後、ペレットを500μlのTF Solution 2 に再懸濁し、懸濁液をあらかじめ45℃で保温しておいたTop agar (1.2 M Sorbitol, 0.8% Agar入り選択培地)と混和して下層培地 (1.2 M Sorbitol, 1.5% Agar入り選択培地)に重層する。30℃で3-7日間培養して形質転換体を取得し、選択培地で1〜3回程度植え継ぐことにより、形質を安定させる。
[サザンブロッティング解析]
回収した形質転換体の染色体DNA 25 μgを一晩で制限酵素処理した後、0.8%アガロースゲルで電気泳動を行った。その後の操作は、ECL direct nucleic acid labeling and detection systems (Healthcare Bioscience)及びPositively charged Nylon transfer membrane Hybond-N+ (Healthcare Bioscience)を用いて、説明書に従って行った。また、バンドの検出には、ルミノイメージアナライザーLAS-1000plus (Fujiflim)を用いた。トランスファーは一晩、メンブレンの乾熱固定は100℃で 2時間、プレハイブリダイゼーション1時間そしてハイブリダイゼーション 8時間もしくは一晩で行った。
[菌糸融合実験]
寒天培地での対峙培養
MEA培地上に4 cmの間隔で異なる接合型株の分生子を103 個/5 μlずつ植菌した。10日から14日25℃・暗所・通気条件で培養した後、異なる栄養要求性を持つ株の境界線上に形成された菌核を、ウリジン/ウラシル・アデニンを含まないCD最少培地に滅菌したピンセットで菌核をシフトし、その後の生育を見た。シフト後、約3-5日30℃で培養して菌糸成長を示した株の菌糸を、蛍光顕微鏡を用いて核の色を赤・緑色の波長で観察した。
[顕微鏡観察法]
[使用機器]
共焦点レーザー顕微鏡によるEGFP蛍光、mDsRed蛍光の観察においては、対物レンズNeofluor 40x、100x (Olympus)と共焦点スキャナシステムCSU22 (Yokogawa)を装備したIX71N倒立型顕微鏡 (Olympus)を用いた。解析ソフトウェアはAndor iQ (Andor Technology PLC)を使用した。また、蛍光像を取得する際にはAndor iXon cooled digital charge-coupled-device camera (Andor Technology PLC)を用いた。
[培養方法]
ガラスベースディッシュ (IWAKI Glass-base dish)をUV照射により15分以上滅菌した後、培地100 μlを滴下し、分生子あるいは菌糸を植菌した。その後、パラフィルムでガラスベースディッシュを密閉し、静置培養を行った。
アスペルギルス属細胞株の中で、アスペルギルス・オリゼのような不完全菌として分類される菌株に関して、有性生殖が確認された場合には、本発明方法を利用することによって、細胞株の融合効率を高めたり、融合の確認を容易にすることが可能となる。従って、本発明は、アスペルギルス・オリゼのようなアスペルギルス属細胞において、複数の株の優良な表現型を備えた株の育種を効率的に行う技術の開発に大いに資するものである。
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Claims (9)

  1. 2種類のアスペルギルス・オリゼ細胞株(菌糸)を対峙培養し、境界線上に特異的に形成される菌核内又は該菌核の形成過程における該2種類のアスペルギルス・オリゼ細胞株の融合によって、同一細胞内に異なる細胞株由来の核が存在する異核共存体(ヘテロカリオン)である融合菌糸を作製する方法であって、
    該2種類のアスペルギルス・オリゼ細胞株が夫々別の表現型により互いに識別可能な形質転換体であり、且つ、該2種類のアスペルギルス・オリゼ細胞株の少なくとも一方において菌核形成促進因子SclRの発現を増加させることにより、該2種類のアスペルギルス・オリゼ細胞株の融合効率を増加させることを特徴とする、前記方法。
  2. プロモーター制御下に連結された以下の(a)、(b)、(c)、(d)又は(e)のDNA:
    (a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
    (b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、アスペルギルス・オリゼ細胞株の融合効率を増加させる機能を有するタンパク質をコードするDNA、
    (c)(a)の塩基配列からなるDNAと90%以上の配列相同性を示す塩基配列からなるDNAであって、アスペルギルス・オリゼ細胞株の融合効率を増加させる機能を有するタンパク質をコードするDNA、
    (d)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、又は
    (e)(d)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、アスペルギルス・オリゼ細胞株の融合効率を増加させる機能を有するタンパク質をコードするDNA、
    を含むプラスミドベクターでアスペルギルス・オリゼ細胞株を形質転換することによって、該細胞株における菌核形成促進因子SclRの発現を増加させる、請求項1に記載の方法。
  3. MEA培地を用い25℃・暗所・通気条件下での対峙培養においてアスペルギルス・オリゼ細胞株(菌糸)の融合を行なわせる、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 更に、融合した細胞においては該表現型が相補されること、及び/又は、融合した細胞が2つの表現型を有することを基準として、融合細胞におけるヘテロカリオンの形成を同定することを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. 表現型が形質転換マーカー及び/又は標識物質の発現に基づくものである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  6. 形質転換マーカーに基づく表現型が栄養要求性である、請求項5に記載の方法。
  7. 融合した細胞において該表現型が相補されることを寒天CD最少培地における培養によって確認する、請求項6に記載の方法。
  8. 標識物質が蛍光タンパク質である、請求項5に記載の方法。
  9. 融合した細胞が2つの標識物質を有することを蛍光顕微鏡による核の観察によって確認する、請求項8に記載の方法。
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