先ず、本発明に係る車両用駆動装置の一実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。
本発明に係る車両用駆動装置は、例えば、図1に示すような駆動システムの車両に用いられる。
図1に示す車両3は、内燃機関4と電動機5とが直列に接続された第2駆動装置としての駆動装置6(以下、前輪駆動装置と呼ぶ。)を車両前部に有するハイブリッド車両であり、この前輪駆動装置6の動力がトランスミッション7を介して前輪Wfに伝達される一方で、この前輪駆動装置6と別に車両後部に設けられた第1駆動装置としての駆動装置1(以下、後輪駆動装置と呼ぶ。)の動力が後輪Wr(RWr、LWr)に伝達されるようになっている。前輪駆動装置6の電動機5と後輪Wr側の後輪駆動装置1の第1及び第2電動機2A、2Bとは、バッテリ9に接続され、バッテリ9からの電力供給と、バッテリ9へのエネルギー回生が可能となっている。符号8は、車両全体の各種制御をするための制御装置である。
図2は、後輪駆動装置1の全体の縦断面図を示すものであり、同図において、10A、10Bは、車両3の後輪Wr側の左右の車軸であり、車幅方向に同軸上に配置されている。後輪駆動装置1の減速機ケース11は全体が略円筒状に形成され、その内部には、車軸駆動用の第1及び第2電動機2A、2Bと、この第1及び第2電動機2A、2Bの駆動回転を減速する第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bと、が車軸10A、10Bと同軸上に配置されている。第1電動機2Aは左後輪LWrを駆動する左電動機として機能し、第2電動機2Bは右後輪RWrを駆動する右電動機として機能し、第1電動機2A及び第1遊星歯車式減速機12Aと第2電動機2B及び第2遊星歯車式減速機12Bとは、減速機ケース11内で車幅方向に左右対称に配置されている。後輪Wrには、左後輪LWr、右後輪RWrの回転数を検出する車輪速センサ13A、13Bが設けられていると共に、左後輪LWr、右後輪RWrに所定以上の加速スリップ又は減速スリップ(以後、単に「スリップ」と呼ぶことがある。)が発生したことを取得可能なスリップ取得装置80が設けられている。
減速機ケース11の左右両端側内部には、それぞれ第1及び第2電動機2A、2Bのステータ14A、14Bが固定され、このステータ14A、14Bの内周側に環状のロータ15A、15Bが回転可能に配置されている。ロータ15A、15Bの内周部には車軸10A、10Bの外周を囲繞する円筒軸16A、16Bが結合され、この円筒軸16A、16Bが車軸10A、10Bと同軸で相対回転可能となるように減速機ケース11の端部壁17A、17Bと中間壁18A、18Bとに軸受19A、19Bを介して支持されている。また、円筒軸16A、16Bの一端側の外周であって減速機ケース11の端部壁17A、17Bには、ロータ15A、15Bの回転数を第1及び第2電動機2A、2Bの制御コントローラ(図示せず)にフィードバックするためのレゾルバ20A、20Bが設けられている。
また、第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bは、サンギヤ21A、21Bと、このサンギヤ21に噛合される複数のプラネタリギヤ22A、22Bと、これらのプラネタリギヤ22A、22Bを支持するプラネタリキャリア23A、23Bと、プラネタリギヤ22A、22Bの外周側に噛合されるリングギヤ24A、24Bと、を備え、サンギヤ21A、21Bから第1及び第2電動機2A、2Bの駆動力が入力され、プラネタリキャリア23A、23Bを通して車軸10A、10Bに出力されるようになっている。
サンギヤ21A、21Bは円筒軸16A、16Bに一体に形成されている。また、プラネタリギヤ22A、22Bは、例えば図3に示すように、サンギヤ21A、21Bに直接噛合される大径の第1ピニオン26A、26Bと、この第1ピニオン26A、26Bよりも小径の第2ピニオン27A、27Bを有する2連ピニオンであり、これらの第1ピニオン26A、26Bと第2ピニオン27A、27Bとが同軸にかつ軸方向にオフセットした状態で一体に形成されている。このプラネタリギヤ22A、22Bはプラネタリキャリア23A、23Bに支持され、プラネタリキャリア23A、23Bは、軸方向内側端部が径方向内側に伸びて車軸10A、10Bにスプライン嵌合され一体回転可能に支持されるとともに、軸受33A、33Bを介して中間壁18A、18Bに支持されている。
なお、中間壁18A、18Bは第1及び第2電動機2A、2Bを収容する電動機収容空間と第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bを収容する減速機空間とを隔て、外径側から内径側に互いの軸方向間隔が広がるように屈曲して構成されている。そして、中間壁18A、18Bの内径側、且つ、第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12B側にはプラネタリキャリア23A、23Bを支持する軸受33A、33Bが配置されるとともに中間壁18A、18Bの外径側、且つ、第1及び第2電動機2A、2B側にはステータ14A、14B用のバスリング41A、41Bが配置されている(図2参照)。
リングギヤ24A、24Bは、その内周面が小径の第2ピニオン27A、27Bに噛合されるギヤ部28A、28Bと、ギヤ部28A、28Bより小径で減速機ケース11の中間位置で互いに対向配置される小径部29A、29Bと、ギヤ部28A、28Bの軸方向内側端部と小径部29A、29Bの軸方向外側端部を径方向に連結する連結部30A、30Bと、を備えて構成されている。この実施形態の場合、リングギヤ24A、24Bの最大半径は、第1ピニオン26A、26Bの車軸10A、10Bの中心からの最大距離よりも小さくなるように設定されている。小径部29A、29Bは、それぞれ後述する一方向クラッチ50のインナーレース51とスプライン嵌合し、リングギヤ24A、24Bは一方向クラッチ50のインナーレース51と一体回転するように構成されている。
また、さらに詳細には、ピストン37A、37Bは、軸方向前後に第1ピストン壁63A、63Bと第2ピストン壁64A、64Bを有し、これらのピストン壁63A、63B,64A、64Bが円筒状の内周壁65A、65Bによって連結されている。したがって、第1ピストン壁63A、63Bと第2ピストン壁64A、64Bの間には径方向外側に開口する環状空間が形成されているが、この環状空間は、シリンダ室38A、38Bの外壁内周面に固定された仕切部材66A、66Bによって軸方向左右に仕切られている。減速機ケース11の左右分割壁39と第2ピストン壁64A、64Bの間は高圧オイルが直接導入される第1作動室S1とされ、仕切部材66A、66Bと第1ピストン壁63A、63Bの間は、内周壁65A、65Bに形成された貫通孔を通して第1作動室S1と導通する第2作動室S2とされている。第2ピストン壁64A、64Bと仕切部材66A、66Bの間は大気圧に導通している。
この油圧ブレーキ60A、60Bでは、第1作動室S1と第2作動室S2に不図示の油圧回路からオイルが導入され、第1ピストン壁63A、63Bと第2ピストン壁64A、64Bに作用するオイルの圧力によって固定プレート35A、35Bと回転プレート36A、36Bを相互に押し付けが可能である。したがって、軸方向左右の第1,第2ピストン壁63A、63B,64A、64Bによって大きな受圧面積を稼ぐことができるため、ピストン37A、37Bの径方向の面積を抑えたまま固定プレート35A、35Bと回転プレート36A、36Bに対する大きな押し付け力を得ることができる。
この油圧ブレーキ60A、60Bの場合、固定プレート35A、35Bが減速機ケース11から伸びる外径側支持部34に支持される一方で、回転プレート36A、36Bがリングギヤ24A、24Bに支持されているため、両プレート35A、35B,36A、36Bがピストン37A、37Bによって押し付けられると、両プレート35A、35B,36A、36B間の摩擦締結によってリングギヤ24A、24Bに制動力が作用し固定(ロック)され、その状態からピストン37A、37Bによる締結が解放されると、リングギヤ24A、24Bの自由な回転が許容される。
即ち、油圧ブレーキ60A、60Bは、締結時にリングギヤ24A、24Bをロックして、第1及び第2電動機2A、2Bと後輪Wrとの動力伝達経路を動力伝達可能な接続状態とし、解放時にリングギヤ24A、24Bの回転を許容し動力伝達経路を動力伝達不能な遮断状態とする。
また、軸方向で対向するリングギヤ24A、24Bの連結部30A、30B間にも空間部が確保され、その空間部内に、リングギヤ24A、24Bに対し一方向の動力のみを伝達し他方向の動力を遮断する一方向クラッチ50が配置されている。一方向クラッチ50は、インナーレース51とアウターレース52との間に多数のスプラグ53を介在させたものであって、そのインナーレース51がスプライン嵌合によりリングギヤ24A、24Bの小径部29A、29Bと一体回転するように構成されている。またアウターレース52は、内径側支持部40により位置決めされるとともに、回り止めされている。一方向クラッチ50は、車両3が第1及び第2電動機2A、2Bの動力で前進する際に係合してリングギヤ24A、24Bの回転をロックするように構成されている。より具体的に説明すると、一方向クラッチ50は、第1及び第2電動機2A、2B側の順方向(車両3を前進させる際の回転方向)のトルクが後輪Wr側に入力されるときに係合し動力伝達可能な状態となるとともに第1及び第2電動機2A、2B側の逆方向のトルクが後輪Wr側に入力されるときに非係合で動力伝達不能な状態となり、後輪Wr側の順方向のトルクが第1及び第2電動機2A、2B側に入力されるときに非係合で動力伝達不能な状態となるとともに後輪Wr側の逆方向のトルクが第1及び第2電動機2A、2B側に入力されるときに係合し動力伝達可能な状態となる。言い換えると、一方向クラッチ50は、非係合時に第1及び第2電動機2A、2Bの逆方向のトルクによるリングギヤ24A、24Bの一方向の回転を許容し、係合時に第1及び第2電動機2A、2Bの順方向のトルクによるリングギヤ24A、24Bの逆方向の回転を規制している。なお、逆方向のトルクとは、逆方向の回転を増加させる方向のトルク、又は、順方向の回転を減少させる方向のトルクをさす。
このように本実施形態の後輪駆動装置1では、第1及び第2電動機2A、2Bと後輪Wrとの動力伝達経路上に一方向クラッチ50と油圧ブレーキ60A、60Bとが並列に設けられている。なお、油圧ブレーキ60A、60Bは2つ設ける必要はなく、一方にのみ油圧ブレーキを設け、他方の空間をブリーザ室として用いてもよい。
ここで、制御装置8(図1参照)は、車両全体の各種制御をするための制御装置であり、制御装置8には車輪速センサ13A、13Bから取得される左右後輪LWr、RWrの回転数、レゾルバ20A、20Bから取得される第1及び第2電動機2A、2Bの回転数、操舵角、アクセルペダル開度AP、シフトポジション、バッテリ9における充電状態SOC、油温などが入力される一方、制御装置8からは、内燃機関4を制御する信号、第1及び第2電動機2A、2Bを制御する信号などが出力される。
図4は、各車両状態における前輪駆動装置6と後輪駆動装置1との関係を第1及び第2電動機2A、2Bの作動状態とあわせて記載したものである。図中、フロントユニットは前輪駆動装置6、リアユニットは後輪駆動装置1、リアモータは第1及び第2電動機2A、2B、OWCは一方向クラッチ50、BRKは油圧ブレーキ60A、60Bを表わす。また、図5〜図10は後輪駆動装置1の各状態における速度共線図を表わし、LMOTは第1電動機2A、RMOTは第2電動機2B、左側のS、Cはそれぞれ第1電動機2Aに連結された第1遊星歯車式減速機12Aのサンギヤ21A、車軸10Aに連結されたプラネタリキャリア23A、プラネタリギヤ22A、右側のS、Cはそれぞれ第2電動機2Bに連結された第2遊星歯車式減速機12Bのサンギヤ21B、車軸10Bに連結されたプラネタリキャリア23B、プラネタリギヤ22B、Rはリングギヤ24A、24B、BRKは油圧ブレーキ60A、60B、OWCは一方向クラッチ50を表わす。以下の説明において第1及び第2電動機2A、2Bによる車両前進時のサンギヤ21A、21Bの回転方向を順方向とする。また、図中、停車中の状態から上方が順方向の回転、下方が逆方向の回転であり、矢印は、上向きが順方向のトルクを表し、下向きが逆方向のトルクを表す。
停車中は、前輪駆動装置6も後輪駆動装置1も駆動していない。従って、図5に示すように、後輪駆動装置1の第1及び第2電動機2A、2Bは停止しており、車軸10A、10Bも停止しているため、いずれの要素にもトルクは作用していない。このとき、油圧ブレーキ60A、60Bは解放(OFF)している。また、一方向クラッチ50は、第1及び第2電動機2A、2Bが非駆動のため係合していない(OFF)。
そして、キーポジションをONにした後、EV発進、EVクルーズなどモータ効率のよい前進低車速時は、後輪駆動装置1による後輪駆動となる。図6に示すように、第1及び第2電動機2A、2Bが順方向に回転するように力行駆動すると、サンギヤ21A、21Bには順方向のトルクが付加される。このとき、前述したように一方向クラッチ50が係合しリングギヤ24A、24Bがロックされる。これによりプラネタリキャリア23A、23Bは順方向に回転し前進走行がなされる。なお、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bからの走行抵抗が逆方向に作用している。このように車両3の発進時には、キーポジションをONにして第1及び第2電動機2A、2Bのトルクをあげることで、一方向クラッチ50が機械的に係合してリングギヤ24A、24Bがロックされる。
このとき、油圧ブレーキ60A、60Bは弱締結状態に制御される。なお、弱締結とは、動力伝達可能であるが、油圧ブレーキ60A、60Bの締結状態の締結力に対し弱い締結力で締結している状態をいう。第1及び第2電動機2A、2Bの順方向のトルクが後輪Wr側に入力されるときには一方向クラッチ50が係合状態となり、一方向クラッチ50のみで動力伝達可能であるが、一方向クラッチ50と並列に設けられた油圧ブレーキ60A、60Bも弱締結状態とし第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とを接続状態としておくことで、第1及び第2電動機2A、2B側からの順方向のトルクの入力が一時的に低下して一方向クラッチ50が非係合状態となった場合にも、第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とで動力伝達不能になることを抑制できる。また、後述する減速回生への移行時に第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とを接続状態とするための回転数制御が不要となる。一方向クラッチ50が係合状態のときの油圧ブレーキ60A、60Bの締結力を一方向クラッチ50が非係合状態のときの油圧ブレーキ60A、60Bの締結力よりも弱くすることにより、油圧ブレーキ60A、60Bの締結のための消費エネルギーが低減される。
前進低車速走行から車速があがりエンジン効率のよい前進中車速走行に至ると、後輪駆動装置1による後輪駆動から前輪駆動装置6による前輪駆動となる。図7に示すように、第1及び第2電動機2A、2Bの力行駆動が停止すると、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bから前進走行しようとする順方向のトルクが作用するので、前述したように一方向クラッチ50が非係合状態となる。このときも、油圧ブレーキ60A、60Bは弱締結状態に制御される。
図6又は図7の状態から第1及び第2電動機2A、2Bを回生駆動しようすると、図8に示すように、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bから前進走行を続けようとする順方向のトルクが作用するので、前述したように一方向クラッチ50が非係合状態となる。このとき、油圧ブレーキ60A、60Bは締結状態(ON)に制御される。従って、リングギヤ24A、24Bが固定されるとともに第1及び第2電動機2A、2Bには逆方向の回生制動トルクが作用し、第1及び第2電動機2A、2Bで減速回生がなされる。このように、後輪Wr側の順方向のトルクが第1及び第2電動機2A、2B側に入力されるときには一方向クラッチ50は非係合状態となり、一方向クラッチ50のみで動力伝達不能であるが、一方向クラッチ50と並列に設けられた油圧ブレーキ60A、60Bを締結させ、第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とを接続状態としておくことで動力伝達可能な状態に保つことができ、この状態で第1及び第2電動機2A、2Bを回生駆動状態に制御することにより、車両3のエネルギーを回生することができる。
続いて加速時には、前輪駆動装置6と後輪駆動装置1の四輪駆動となり、後輪駆動装置1は、図6に示す前進低車速時と同じ状態となる。
前進高車速時には、前輪駆動装置6による前輪駆動となるが、典型的には第1及び第2電動機2A、2Bを停止させる。
図9に示すように、第1及び第2電動機2A、2Bが力行駆動を停止すると、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bから前進走行しようとする順方向のトルクが作用するので、前述したように一方向クラッチ50が非係合状態となる。このとき、サンギヤ21A、21Bには、サンギヤ21A、21B及び第1及び第2電動機2A、2Bの回転損失が抵抗として入力され、リングギヤ24A、24Bにはリングギヤ24A、24Bの回転損失が発生する。
このとき油圧ブレーキ60A、60Bは解放状態(OFF)に制御される。従って、第1及び第2電動機2A、2Bの連れ回りが防止され、前輪駆動装置6による高車速時に第1及び第2電動機2A、2Bが過回転となるのが防止される。
後進時には、図10に示すように、第1及び第2電動機2A、2Bを逆力行駆動すると、サンギヤ21A、21Bには逆方向のトルクが付加される。このとき、前述したように一方向クラッチ50が非係合状態となる。
このとき油圧ブレーキ60A、60Bは締結状態に制御される。従って、リングギヤ24A、24Bが固定されて、プラネタリキャリア23A、23Bは逆方向に回転し後進走行がなされる。なお、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bからの走行抵抗が順方向に作用している。このように、第1及び第2電動機2A、2B側の逆方向のトルクが後輪Wr側に入力されるときには一方向クラッチ50は非係合状態となり、一方向クラッチ50のみで動力伝達不能であるが、一方向クラッチ50と並列に設けられた油圧ブレーキ60A、60Bを締結させ、第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とを接続状態としておくことで動力伝達可能に保つことができ、第1及び第2電動機2A、2Bのトルクによって車両3を後進させることができる。
このように後輪駆動装置1は、車両の走行状態、言い換えると、第1及び第2電動機2A、2Bの回転方向が順方向か逆方向か、及び第1及び第2電動機2A、2B側と車輪Wr側のいずれから動力が入力されるかに応じて、油圧ブレーキ60A、60Bの締結・解放が制御され、さらに油圧ブレーキ60A、60Bの締結時であっても締結力が調整される。
図11は、車両が停車中の状態からEV発進→EV加速→ENG加速→減速回生→中速ENGクルーズ→ENG+EV加速→高速ENGクルーズ→減速回生→停車→後進→停車に至る際の電動オイルポンプ70(EOP)と、一方向クラッチ50(OWC)、油圧ブレーキ60A、60B(BRK)のタイミングチャートである。
先ず、キーポジションをONにしてシフトがPレンジからDレンジに変更され、アクセルペダルが踏まれるまでは、一方向クラッチ50は非係合(OFF)、油圧ブレーキ60A、60Bは解放(OFF)状態を維持する。そこから、アクセルペダルが踏まれると後輪駆動(RWD)で後輪駆動装置1によるEV発進、EV加速がなされる。このとき、一方向クラッチ50が係合(ON)し、油圧ブレーキ60A、60Bは弱締結状態となる。そして、車速が低車速域から中車速域に至って後輪駆動から前輪駆動になると内燃機関4によるENG走行(FWD)がなされる。このとき、一方向クラッチ50が非係合(OFF)となり、油圧ブレーキ60A、60Bはそのままの状態(弱締結状態)を維持する。そして、ブレーキが踏まれるなど減速回生時には、一方向クラッチ50が非係合(OFF)のまま、油圧ブレーキ60A、60Bが締結(ON)する。内燃機関4による中速クルーズ中は、上述のENG走行と同様の状態となる。続いて、さらにアクセルペダルが踏まれて前輪駆動から四輪駆動(AWD)になると、再び一方向クラッチ50が係合(ON)する。そして、車速が中車速域から高車速域に至ると、再び内燃機関4によるENG走行(FWD)がなされる。このとき、一方向クラッチ50が非係合(OFF)となり、油圧ブレーキ60A、60Bが解放(OFF)され、第1及び第2電動機2A、2Bを停止する。そして、減速回生時には、上述した減速回生時と同様の状態となる。そして、車両が停止すると、一方向クラッチ50は非係合(OFF)、油圧ブレーキ60A、60Bは解放(OFF)状態となる。
続いて、後進走行時には、一方向クラッチ50は非係合(OFF)のまま、油圧ブレーキ60A、60Bが締結(ON)する。そして、車両が停止すると、一方向クラッチ50は非係合(OFF)、油圧ブレーキ60A、60Bは解放(OFF)状態となる。
<モータトラクションコントロール制御>
このように、制御装置8は、各車両状態に合わせて前輪駆動装置6及び後輪駆動装置1を制御しているが、特に後輪駆動装置1に対しては、後輪Wrの車輪回転数又は第1及び第2電動機2A、2Bのモータ回転数に基づいてモータトラクションコントロール制御を行うモータトラクションコントロールシステム(M−TCS)を有する電動機制御装置として機能し、その際に、第1及び第2電動機2A、2Bが発生するトルクを制御し、後輪LWr、RWrの回転状態を制御する。
(力行時のモータトラクションコントロール制御)
例えば、図12に示すように、力行駆動される第1、第2電動機2A、2Bによって後輪LWr、RWrが駆動されている場合のモータトラクションコントロール制御において、スリップ取得装置80は、車輪速センサ13A、13Bが取得した左右の車輪回転数LR、RRと車輪目標回転数(不図示)に基づいて求められた左右輪LWr、RWrの上限スリップ判断閾値回転数LVmax、RVmaxとを比較し、(a)で示すように左右の車輪回転数LR、RRが共に上限スリップ判断閾値回転数LVmax、RVmax以下の場合には(LR≦LVmax、且つRR≦RVmax)、後輪LWr、RWrに加速スリップが発生していないと判断し、制御装置8はドライバ要求トルクL_REQ、R_REQを満たすように第1及び第2電動機2A、2Bに指令モータトルク(力行駆動トルク)L_CMD、R_CMDを出力させる(L_CMD=L_REQ、R_CMD=R_REQ)。ここで、ドライバ要求トルクL_REQ、R_REQは略同一の正の値である(L_REQ=R_REQ>0)。
また、スリップ取得装置80が、(b)で示すように車輪回転数LR、RRが上限スリップ判断閾値回転数LVmax、RVmaxより大きくなったことを取得した場合には(LR>LVmax、又はRR>RVmax)、後輪Wr(LWr、RWr)に所定以上の加速スリップ(超過スリップ)が発生したと判断する。この際に、制御装置8は、加速スリップが発生した左車輪LWr及び/又は右後輪RWrに接続される第1電動機2A及び/又は第2電動機2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを、上限スリップ判断閾値回転数LVmax、RVmaxと車輪回転数LR、RRとの差である加速スリップ量LR−LVmax、RR−RVmaxに基づいて決定される第1変化量Δ1だけ変化させる(L_CMD=L_REQ+Δ1、R_CMD=R_REQ+Δ1)。ここで、第1変化量Δ1は負の数に設定され(Δ1<0)、指令モータトルクL_CMD、R_CMDは第1変化量Δ1の絶対値分だけ減少する。すなわち、指令モータトルクL_CMD、R_CMDの絶対値は、第1変化量Δ1の絶対値分だけ減少する。
そして、スリップ取得装置80が、(c)で示すように車輪回転数LR、RRが上限スリップ判断閾値回転数LVmax、RVmax以下になったことを再び取得した場合には(LR≦LVmax、且つRR≦RVmax)、後輪LWr、RWrの加速スリップが収まったと判断し、制御装置8はドライバ要求トルクL_REQ、R_REQを満たすように第1及び第2電動機2A、2Bに指令モータトルクL_CMD、R_CMDを出力させる(L_CMD=L_REQ、R_CMD=R_REQ)。
ここで、モータトラクションコントロール制御のフローについて、力行駆動される第1電動機2Aによって左後輪LWrが駆動されている場合を例に、図13を参照しながら説明する。先ず、車輪速センサ13Aによって左後輪回転数LRを取得し(S1)、続いて、車輪目標回転数(不図示)に基づいて上限スリップ判断閾値回転数LVmaxを算出する(S2)。そして、スリップ取得装置80は、左後輪回転数LRと上限スリップ判断閾値回転数LVmaxとを比較して、左後輪LWrに加速スリップが発生していないかを判断する(S3)。その結果、左後輪回転数LRが上限スリップ判断閾値回転数LVmax以下であれば(LR≦LVmax)、加速スリップが発生していない、若しくは許容できる範囲の加速スリップであると判断し、処理を終了する。一方、左後輪回転数LRが上限スリップ判断閾値回転数LVmaxよりも大きければ(LR>LVmax)、許容できない所定以上の加速スリップが発生したと判断し、左後輪LWrに接続される第1電動機2Aの減少させるべき指令モータトルク量(第1変化量Δ1)を、加速スリップ量LR−LVmaxに基づいて算出する(S4)。そして、第1電動機2Aの指令モータトルクL_CMDを上述の第1変化量Δ1(<0)だけ変化させ、すなわち、第1電動機2Aの指令モータトルクL_CMDの絶対値を第1変化量Δ1の絶対値分だけ減少させる(S5)。これにより、左後輪LWrの加速スリップ状態を早急に解消し、消費エネルギーを抑制するとともに車両3の不安定な状態を解消することができる。
(回生時のモータトラクションコントロール制御)
ここまで、力行駆動される第1、第2電動機2A、2Bによって後輪LWr、RWrが駆動されている場合のモータトラクションコントロール制御を説明したが、回生駆動される第1、第2電動機2A、2Bによって後輪LWr、RWrが制動されている場合も、モータトラクションコントロール制御することが可能である。なお、第1、第2電動機2A、2Bが回生駆動されている場合のモータトラクションコントロール制御は、上述した第1、第2電動機2A、2Bが力行駆動されている場合のモータトラクションコントロール制御(図12参照。)と実質的に同等であるので、ここでは図示を省略する。
第1及び第2電動機2A、2Bが共に回生駆動されている場合のモータトラクションコントロール制御において、スリップ取得装置80は、左右の車輪回転数LR、RRと、車輪目標回転数に基づいて求められた左右輪LWr、RWrの下限スリップ判断閾値回転数LVmin、RVminと、を比較し、左右の車輪回転数LR、RRが共に下限スリップ判断閾値回転数LVmin、RVmin以上の場合には(LR≧LVmin、且つRR≧RVmin)、後輪LWr、RWrに減速スリップが発生していないと判断し、制御装置8はドライバ要求トルクL_REQ、R_REQを満たすように第1及び第2電動機2A、2Bに指令モータトルク(回生駆動トルク)L_CMD、R_CMDを出力させる(L_CMD=L_REQ、R_CMD=R_REQ)。ここで、ドライバ要求トルクL_REQ、R_REQは略同一の負の値である(L_REQ=R_REQ<0)。
一方、後輪回転数LR、RRが下限スリップ判断閾値回転数LVmin、RVminより小さくなったことを取得した場合には(LR<LVmin、又はRR<RVmin)、後輪Wr(LWr、RWr)に所定以上の減速スリップが発生したと判断する。この際に、制御装置8は、減速スリップが発生した左後輪LWr及び/又は右後輪RWrに接続される第1電動機2A及び/又は第2電動機2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを、下限スリップ判断閾値回転数LVmin、RVminと車輪回転数LR、RRとの差である減速スリップ量に基づいて決定される第1変化量Δ1´だけ変化させる(L_CMD=L_REQ+Δ1´、R_CMD=R_REQ+Δ1´)。ここで、第1変化量Δ1´は正の数に設定され(Δ1´>0)、指令モータトルクL_CMD、R_CMDは第1変化量Δ1´の絶対値分だけ増加する。すなわち、指令モータトルクL_CMD、R_CMDの絶対値は、第1変化量Δ1´の絶対値分だけ減少する。
ここで、モータトラクションコントロール制御のフローについて、回生駆動される第1電動機2Aによって左後輪LWrが制動されている場合を例に、図14を参照しながら説明する。先ず、車輪速センサ13Aによって左後輪回転数LRを取得し(S1´)、続いて、車輪目標回転数(不図示)に基づいて下限スリップ判断閾値回転数LVminを算出する(S2´)。そして、スリップ取得装置80は、左後輪回転数LRと下限スリップ判断閾値回転数LVminとを比較して、左後輪LWrに減速スリップが発生していないかを判断する(S3´)。その結果、左後輪回転数LRが下限スリップ判断閾値回転数LVmin以上であれば(LR≧LVmin)、減速スリップが発生していない、若しくは許容できる範囲の減速スリップであると判断し、処理を終了する。一方、左後輪回転数LRが下限スリップ判断閾値回転数LVminよりも小さければ(LR<LVmin)、許容できない所定以上の減速スリップ(超過スリップ)が発生したと判断し、左後輪LWrに接続される第1電動機2Aの減少させるべき指令モータトルク量(第1変化量Δ1´)を、減速スリップ量LVmin−LRに基づいて算出する(S4´)。そして、第1電動機2Aの指令モータトルクL_CMDを上述の第1変化量Δ1´(>0)だけ変化させ、すなわち、第1電動機2Aの指令モータトルクL_CMDの絶対値を第1変化量Δ1´の絶対値分だけ減少させる(S5´)。これにより、左後輪LWrの減速スリップ状態を早急に解消し、消費エネルギーを抑制するとともに車両3の不安定な状態を解消することができる。
<左右トルク移行制御>
このように、モータトラクションコントロール制御によって、所定以上の加速スリップ(減速スリップ)が発生した左後輪LWr及び/又は右後輪RWrに接続される第1電動機2A及び/又は第2電動機2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDの絶対値が、ドライバ要求トルクL_REQ、R_REQから第1変化量Δ1(Δ1´)の絶対値分だけ減少してしまうので、このままでは十分な後輪駆動力(後輪制動力)を路面に伝達することが困難となってしまう虞がある。
そこで、本発明の後輪駆動装置1においては、左後輪LWr又は右後輪RWrの何れか一方の車輪に所定以上のスリップである超過スリップが発生した場合、制御装置8は、当該超過スリップが発生した一方の車輪と接続される第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを第1変化量Δ1(Δ1´)だけ変化させると共に、超過スリップが発生していない他方の車輪と接続される第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを、第1変化量Δ1(Δ1´)と符号が反対であり、且つ絶対値が略同一である第2変化量Δ2(Δ2´)だけ変化させるように制御する左右トルク移行制御を行う。
(力行時の左右トルク移行制御)
より具体的に、図15で示すように、車両3の左側の路面摩擦が低μであり、車両の右側の路面摩擦が高μであるスプリットμ路上において、力行駆動される第1、第2電動機2A、2Bによって後輪LWr、RWrが駆動されている際に、左後輪LWrに所定以上の加速スリップが発生した場合の左右トルク移行制御について説明する。なお、左後輪LWrに所定以上の加速スリップが発生する前には、第1及び第2電動機2A、2Bは、ドライバ要求トルクL_REQ、R_REQを満たすように指令モータトルク(力行駆動トルク)L_CMD、R_CMDを出力しているものとする(L_CMD=L_REQ、R_CMD=R_REQ、L_REQ=R_REQ>0)。
先ず、図15及び図16において(1)で示すように、制御装置8はモータトラクションコントロール制御によって、加速スリップが発生した左後輪LWrに接続される第1電動機2Aの指令モータトルクL_CMDを、ドライバ要求トルクL_REQから第1変化量Δ1だけ変化させる(L_CMD=L_REQ+Δ1、Δ1<0)。すなわち、指令モータトルクL_CMDの絶対値を、第1変化量Δ1の絶対値分だけ減少させる。
そして、(2)で示すように、制御装置8は左右トルク移行制御によって、加速スリップが発生していない右後輪RWrと接続される第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDを、第1変化量Δ1と符号が反対で、且つ絶対値が略同一の第2変化量Δ2だけ変化させるように制御する(R_CMD=R_REQ+Δ2=R_REQ−Δ1、Δ1<0<Δ2、Δ1=−Δ2)。すなわち、指令モータトルクR_CMDの絶対値を、第2変化量Δ2の絶対値分だけ増加させる。
ここで、モータトラクションコントロール制御及び左右トルク移行制御後の、第1及び第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDの合計値は、(L_REQ+Δ1)+(R_REQ−Δ1)=L_REQ+R_REQとなり、モータトラクションコントロール制御及び左右トルク移行制御前(加速スリップ前)の指令モータトルクL_CMD、R_CMDの合計値と変化がない。すなわち、左後輪LWrの駆動トルクの低下を、右後輪RWrの駆動トルクの増加によって補うことができ、スプリットμ路上等においてもドライバ要求に応じた十分な駆動トルクを路面に伝達することが可能となる。
なお、指令モータトルクL_CMD、R_CMDの左右の差は、モータトラクションコントロール制御及び左右トルク移行制御前(スリップ前)がL_REQ−R_REQ=0であるのに対し、モータトラクションコントロール制御及び左右トルク移行制御後には(L_REQ+Δ1)−(R_REQ−Δ1)=2Δ1となって大きくなるので、車両3には反時計周りのヨーモーメントFが発生する。しかしながら、当該ヨーモーメントFは、ドライバのステアリング操作によって十分許容できるものであるので、特段問題とはならない。
(回生時の左右トルク移行制御)
次に、図17で示すように、車両3の左側の路面摩擦が低μであり、車両の右側の路面摩擦が高μであるスプリットμ路上において、回生駆動される第1、第2電動機2A、2Bによって後輪LWr、RWrが制動されている際に、左後輪LWrに所定以上の減速スリップが発生した場合の左右トルク移行制御について説明する。なお、左後輪LWrに所定以上の減速スリップが発生する前には、第1及び第2電動機2A、2Bは、ドライバ要求トルクL_REQ、R_REQを満たすように指令モータトルク(回生駆動トルク)L_CMD、R_CMDを出力しているものとする(L_CMD=L_REQ、R_CMD=R_REQ、L_REQ=R_REQ<0)。
先ず、図17及び図18において(1)で示すように、制御装置8はモータトラクションコントロール制御によって、減速スリップが発生した左後輪LWrに接続される第1電動機2Aの指令モータトルクL_CMDを、ドライバ要求トルクL_REQから第1変化量Δ1´だけ変化させる(L_CMD=L_REQ+Δ1´、Δ1´>0)。すなわち、指令モータトルクL_CMDの絶対値を、第1変化量Δ1の絶対値分だけ減少させる。
そして、(2)で示すように、制御装置8は左右トルク移行制御によって、減速スリップが発生していない右後輪RWrと接続される第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDを、第1変化量Δ1´と符号が反対で、且つ絶対値が略同一の第2変化量Δ2´だけ変化させるように制御する(R_CMD=R_REQ+Δ2´=R_REQ−Δ1´、Δ2´<0<Δ1´、Δ1´=−Δ2´)。すなわち、指令モータトルクR_CMDの絶対値を、第2変化量Δ1´の絶対値分だけ増加させる。
ここで、モータトラクションコントロール制御及び左右トルク移行制御後の、第1及び第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDの合計値は、(L_REQ+Δ1´)+(R_REQ−Δ1´)=L_REQ+R_REQとなり、モータトラクションコントロール制御及び左右トルク移行制御前(減速スリップ前)の指令モータトルクL_CMD、R_CMDの合計値と変化がない。すなわち、左後輪LWrの制動トルクの低下を、右後輪RWrの制動トルクの増加によって補うことができ、スプリットμ路上等においてもドライバ要求に応じた十分な制動トルクを路面に伝達することが可能となる。
なお、指令モータトルクL_CMD、R_CMDの左右の差は、モータトラクションコントロール制御及び左右トルク移行制御前(減速スリップ前)がL_REQ−R_REQ=0であるのに対し、モータトラクションコントロール制御及び左右トルク移行制御後には(L_REQ+Δ1´)−(R_REQ−Δ1´)=2Δ1´となって大きくなるので、車両3には時計周りのヨーモーメントF´が発生する。しかしながら、当該ヨーモーメントF´は、ドライバのステアリング操作によって十分許容できるものであるので、特段問題とはならない。
ここで、左右トルク移行制御のフローについて、図19を用いて説明する。先ず、モータトラクションコントロール制御が介入しているかを判断し(S11)、介入していない場合は左右トルク移行制御を実行せず(S12)、左右トルク移行制御の回数Nを0として(S13)、フローの先頭に戻る。
一方、S11でモータトラクションコントロール制御が介入している場合は、左右トルク移行制御が初回か否か、すなわちN=1であるか否かを判断する(S14)。そして、N=1である場合には、左右後輪LWr、RWrに接続される第1及び第2電動機2A、2Bにモータトラクションコントロール制御が同時に介入しているか判断し(S15)、同時介入している場合には左右トルク移行制御を実行せず(S12)、左右トルク移行制御の回数Nを0として(S13)、フローの先頭に戻る。
一方、S15で左右後輪LWr、RWrに接続される第1及び第2電動機2A、2Bにモータトラクションコントロール制御が同時介入していない場合には、左後輪LWrに接続される第1電動機2Aにモータトラクションコントロール制御が介入しているかを判断し(S16)、介入している場合にはS17に移行する。そしてS17で、第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDを、第2変化量Δ2(回生駆動される第1、第2電動機2A、2Bによって後輪LWr、RWrが制動されている場合、Δ2´)だけ変化させるように制御する(R_CMD←R_CMD+Δ2、又はR_CMD←R_CMD+Δ2´)。このとき、左後輪LWrに接続される第1電動機2Aの指令モータトルクL_CMDは、既にモータトラクションコントロール制御によって第1変化量Δ1(Δ1´)だけ変化しているので、ここでは変化させる指令は出さない(L_CMD←L_CMD)。次いで、S18で左右トルク移行制御の回数Nをn+1として、フローの先頭に戻る。
また、S16で、左後輪LWrに接続される第1電動機2Aにモータトラクションコントロール制御が介入していない場合、すなわち右後輪RWrに接続される第2電動機2Bにモータトラクションコントロール制御が介入している場合は、S21に移行する。そして、左後輪LWrに接続される第1電動機2Aの指令モータトルクL_CMDを、第2変化量Δ2(Δ2´)だけ変化させるように制御する(L_CMD←L_CMD+Δ2、又はL_CMD←L_CMD+Δ2´)。このとき、右後輪RWrに接続される第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDは、既にモータトラクションコントロール制御によって第1変化量Δ1(Δ1´)だけ変化しているので、ここでは変化させる指令は出さない(R_CMD←R_CMD)。次いで、S22で左右トルク移行制御の回数Nをn+1として、フローの先頭に戻る。
また、S14で左右トルク移行制御が初回でない場合には(N≠1)、S19に移行し、初回(N=1)に左後輪LWrに接続される第1電動機2Aにモータトラクションコントロール制御が介入したかを判断する。そして、第1電動機2Aにモータトラクションコントロール制御が介入していない場合には、S20で右後輪RWrに接続される第2電動機2Bにモータトラクションコントロール制御が介入中であるか判断し、介入中である場合には、S21及びS22で上述の制御を行う。一方、S20で右後輪RWrに接続される第2電動機2Bにモータトラクションコントロール制御が介入中でない場合には、左右トルク移行制御を実行せず(S23)、左右トルク移行制御の回数Nを0として(S24)、フローの先頭に戻る。
また、S19で初回(N=1)に左後輪LWrに接続される第1電動機2Aにモータトラクションコントロール制御が介入した場合には、S25で左後輪LWrに接続される第1電動機2Aにモータトラクションコントロール制御が介入中であるかを判断し、介入中でない場合は、S23及びS24で上述の制御を行う。一方、S25で左後輪LWrに接続される第1電動機2Aにモータトラクションコントロール制御が介入中である場合には、S26で、右後輪RWrに接続される第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDを、第2変化量Δ2(Δ2´)だけ変化させるように制御する(R_CMD←R_CMD+Δ2、又はR_CMD←R_CMD+Δ2´)。このとき、左後輪LWrに接続される第1電動機2Aの指令モータトルクL_CMDは、既にモータトラクションコントロール制御によって第1変化量Δ1(Δ1´)だけ変化しているので、ここでは変化させる指令は出さない(L_CMD←L_CMD)。次いで、S27で左右トルク移行制御の回数Nをn+1として、フローの先頭に戻る。
<前後トルク移行制御>
(第1実施形態)
以上説明したように、左右トルク移行制御においては、超過スリップが発生していない他方の車輪と接続される第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを第2変化量Δ2(Δ2´)の絶対値分だけ増加させるように制御するので、他方の車輪にも超過スリップが発生してしまう場合があり、十分な後輪駆動力(後輪制動力)を路面に伝達できなくなる虞がある。
そこで、本発明の第1実施形態に係る制御装置8は、左右トルク移行制御において、超過スリップが発生していない他方の車輪に接続される第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを第2変化量Δ2(Δ2´)だけ変化させるときに、スリップ取得手段80が他方の車輪に超過スリップが発生したことを取得した場合に、他方の車輪に接続される第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを第2変化量Δ2(Δ2´)だけ変化させたトルクから第3変化量Δ3だけ変化させるとともに、前輪駆動装置6のトルクを第3変化量Δ3と符号が反対の第4変化量Δ4だけ変化させる前後トルク移行制御を行う。
より具体的に、図20を用いて、力行駆動される第1、第2電動機2A、2Bによって、後輪LWr、RWrが駆動されている際に、左後輪LWrに所定以上の加速スリップ発生した場合の左右トルク移行制御及び前後トルク移行制御について説明する。図20中、ENGは内燃機関4、MOTは電動機5、BATTはバッテリ9、L−MOT及びR−MOTはそれぞれ第1及び第2電動機2A、2B、LWf及びRWfはそれぞれ左右前輪、LWr及びRWrはそれぞれ左右後輪を表している。また、図20中、各駆動源が発生するトルクや、左右前輪LWf、RWf及び左右後輪LWr、RWrに分配されるトルク等を、説明のために簡略化及び数値化して表している。後述する図23〜25、27、28においても同様である。
先ず、図20(a)及び図21の(I)に示すように、左後輪LWrに所定以上の加速スリップが発生する前(左右トルク移行制御前)には、第1及び第2電動機2A、2Bは、ドライバ要求トルクL_REQ=3、R_REQ=3を満たすように指令モータトルク(力行駆動トルク)L_CMD、R_CMDを出力している(L_CMD=L_REQ=3、R_CMD=R_REQ=3)。このとき、第1及び第2電動機2A、2Bに接続されたバッテリ9からは、トルク「7」分だけ電力供給がされ、第1及び第2電動機2A、2Bにおいてそれぞれ「0.5」ずつトルクの損失がある。すなわち、第1及び第2電動機2A、2Bにおけるトルクの効率は「−0.5」である。ここで、第1及び第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDの和(以下、「後輪左右和」とも呼ぶ)は6であり、指令モータトルクL_CMD、R_CMDの差は(以下、「後輪左右差」とも呼ぶ)は「0」であり、後輪駆動装置1及び前輪駆動装置6のトルクの総駆動力(以下、「車両総トルク」とも呼ぶ)は「6」である。
左後輪LWrに加速スリップが発生した場合は、図20(b)及び図21の(II)に示すように、制御装置8により上述した左右トルク移行制御が実行されることによって、左後輪LWrに接続される第1電動機2Aの指令モータトルクL_CMDを、ドライバ要求トルクL_REQ=3から第1変化量Δ1=−1だけ変化させる(L_CMD=L_REQ+Δ1=2)とともに、加速スリップが発生していない右後輪RWrと接続される第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDを、第1変化量Δ1と符号が反対で、且つ絶対値が略同一の第2変化量Δ2=−Δ1=1だけ変化させるように制御する(R_CMD=R_REQ+Δ2=4)。このとき、後輪左右和及び車両総トルクは左右トルク移行制御前と変化がないが、後輪左右差が「−2」となるので車両3にはヨーモーメントが発生する。
そして、第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDが第2変化量Δ2だけ増加した結果、右後輪RWrにも加速スリップが発生した場合、図20(c)及び図21の(III)に示すように、制御装置8は前後トルク移行制御を実行し、右後輪RWrに接続される第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDを、第2変化量Δ2と符号が反対で、且つ絶対値が第2変化量Δ2の絶対値の2倍である第3変化量Δ3=−2×Δ2=−2だけ変化させて、右後輪RWrのスリップを収束させる(R_CMD=R_REQ+Δ2+Δ3=2)。このとき、バッテリ9からはトルク「5」分だけ電力供給がされている。さらに、制御装置8は、前輪駆動装置6の内燃機関4のトルクを、第3変化量Δ3と符号が反対で、且つ絶対値が略同一の第4変化量Δ4=−Δ3=2だけ変化させて、左右前輪LWf、RWfにトルクを「1」ずつ分配する。
前後トルク移行制御の結果、後輪左右和が「4」となって第3変化量Δ3=−2の絶対値分だけ後輪駆動装置1の合計トルクは減少するが、前輪駆動装置6の合計トルク(左右前輪LWf、RWfに分配されるトルクの和。以下、「前輪左右和」とも呼ぶ。)を第4変化量Δ4=2だけ増加させることによって後輪駆動装置1のトルクの低下を補い、車両総トルクを「6」に維持することができる。また、後輪左右差が「0」となるので後輪駆動装置1に起因するヨーモーメントは発生せず、左右前輪LWf、RWfに分配されるトルクの差(以下、「前輪左右差」と呼ぶ)も「0」であるので前輪駆動装置6に起因するヨーモーメントは発生しない。すなわち、車両3全体としてもヨーモーメントが発生せず、左右トルク移行制御前のヨーモーメントに戻すことが可能となる。
ここで、前後トルク移行制御のフローについて、図22を用いて説明する。先ず、左右トルク移行制御が実行中か否かを判断し(S31)、実行中でない場合は前後トルク移行制御を行わず、フローを終了する。一方、左右トルク移行制御が実行中である場合は、超過スリップが発生していない他方の車輪に接続される第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを第2変化量Δ2(Δ2´)だけ変化させたときに、他方の車輪に超過スリップが発生したかを判断する(S32)。
その結果、他方の車輪に超過スリップが発生していない場合には、前後トルク移行制御を終了する。一方、他方の車輪に超過スリップが発生している場合には、上記他方の車輪に接続される第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを第3変化量Δ3だけ変化させることによって、後輪駆動装置1の合計トルク(後輪左右和)を低減し、他方の車輪のスリップを解消する(S33)。
そして、前輪駆動装置6の合計トルク(前輪左右和)を、第3変化量Δ3と符号が反対の第4変化量Δ4だけ変化させることによって増加させ、後輪駆動装置1のトルクの低下を補い、車両総トルクを維持する(S34)。
次に、前輪駆動装置6の合計トルク(前輪左右和)を増加させた結果、左前輪LWf又は右前輪RWfに超過スリップが発生していないかを判断し(S35)、超過スリップが発生していない場合には前後トルク移行制御を終了する。一方、左前輪LWf又は右前輪RWfに超過スリップが発生している場合には、前輪駆動装置6の合計トルク(前輪左右和)を低減することにより、すなわち車両総トルクを低減することにより(S36)、前輪両輪LWf、RWfのスリップを解消し、前後トルク移行制御を終了する。
以上説明したように、本実施形態の車両用駆動装置によれば、左後輪LWr又は右後輪RWrの何れか一方の車輪に超過スリップが発生したときに、超過スリップが発生した車輪に接続される第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを第1変化量Δ1(Δ1´)の絶対値分だけ減少させることによって、当該スリップを低減しつつ、スリップ車輪と左右反対側の車輪(他方の車輪)に接続される第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを第2変化量Δ2の絶対値分だけ増加させて、一方の車輪のトルクの低下を補うことが可能となる。したがって、スプリットμ路上等においてもドライバ要求に応じた十分なトルクを路面に伝達できるので、走行性能を維持することが可能となる。
また、他方の車輪に接続される第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを第2変化量Δ2(Δ2´)の絶対値分だけ増加させた際に、他方の車輪にも超過スリップが発生したときには、他方の車輪に接続される第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを第3変化量Δ3の絶対値分だけ減少させることによって、当該スリップを低減しつつ、前輪駆動装置6のトルク(前輪左右和)を第4変化量Δ4の絶対値分だけ増加させて、後輪駆動装置1のトルク(後輪左右和)の低下を補い、車両総トルクを維持することが可能となる。
また、前後トルク移行制御よりも左右トルク移行制御を先に(優先的に)実行することで、後輪駆動装置1の総トルクを維持する時間をより長くすることが可能であり、後輪駆動装置1及び前輪駆動装置6のトルクバランスをより長く維持することが可能となる。
また、制御装置8は、第1変化量Δ1と第2変化量Δ2(Δ2´)との絶対値を略同一とし、第1変化量Δ3と第4変化量Δ4との絶対値を略同一とするので、左右トルク移行制御時に後輪駆動装置1が発生する総トルク(後輪左右和)を略同一に維持可能であり、前後トルク移行制御時に車両総トルクを略同一に維持することが可能となる。
また、制御装置8は、第3変化量Δ3の絶対値を第2変化量Δ2(Δ2´)の絶対値の2倍とするので、左右トルク移行制御時に発生するヨーモーメントを、前後トルク移行制御時に消滅させ、左右トルク移行制御前のヨーモーメントに戻すことが可能となる。
なお、左右トルク移行制御時に発生するヨーモーメントを、前後トルク移行制御時に低減するためには、第3変化量Δ3は、少なくとも第2変化量Δ2(Δ2´)と符号が反対であればよく(Δ3×Δ2<0、又はΔ3×Δ2´<0)、より好ましくは絶対値が第2変化量Δ2(Δ2´)の絶対値よりも大きければよく(Δ3<−Δ2、又はΔ3>−Δ2´)、さらに好ましくは上述の実施形態のように絶対値が第2変化量Δ2(Δ2´)の2倍であることが望ましい(Δ3=−2×Δ2、又はΔ3=−2×Δ2´)
(変形例1−1)
上述の実施形態においては、前輪駆動装置6は、内燃機関4と電動機5とが直列に接続されることによって構成されていたが、図23に示すように、後輪駆動装置1と同様に2つの電動機(図23中、L−MOT及びR−MOTで表されている)を有する構成としてもよい。このように構成した場合、前輪駆動装置6の2つの電動機は、後輪駆動装置1の第1及び第2電動機2A、2Bと同様に、バッテリ9に接続され、バッテリ9からの電力供給と、バッテリ9へのエネルギー回生が可能とされる。
本変形例においても、力行駆動される第1、第2電動機2A、2Bによって、後輪LWr、RWrが駆動されている際に、左後輪LWrに所定以上の加速スリップ発生した場合は(図23(a)参照)、上述の実施形態と同様に左右トルク移行制御が実行される(図23(b)参照)。
そして、第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDが第2変化量Δ2=1だけ増加した結果、右後輪RWrにも加速スリップが発生した場合、図23(c)に示すように、制御装置8は前後トルク移行制御を実行し、右後輪RWrに接続される第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDを、第2変化量Δ2と符号が反対で、且つ絶対値が第2変化量Δ2の2倍である第3変化量Δ3=−2×Δ2=−2だけ変化させて、右後輪RWrのスリップを収束させる(R_CMD=R_REQ+Δ2+Δ3=2)。さらに、制御装置8は、前輪駆動装置6の2つの電動機の指令モータトルクの合計値を、第3変化量Δ3と符号が反対で、且つ絶対値が略同一の第4変化量Δ4=−Δ3=2だけ変化させて、2つの電動機に指令モータトルクを「1」ずつ出力させる。このとき、前輪駆動装置6の2つの電動機、及び後輪駆動装置1の第1、第2電動機2A、2Bと、においてそれぞれ「0.5」ずつトルクの損失があるので、バッテリ9からはトルク「8」分だけ電力供給がされる。
そして、前後トルク移行制御の結果、後輪左右和が「4」となって第3変化量Δ3=−2の絶対値分だけ後輪駆動装置1の合計トルクは減少するが、前輪駆動装置6の合計トルク(前輪左右和)を第4変化量Δ4=2だけ増加させることによって後輪駆動装置1のトルクの低下を補い、車両総トルクを「6」に維持することができる。また、後輪左右差が「0」となるので後輪駆動装置1に起因するヨーモーメントは発生せず、前輪左右差も「0」であるので前輪駆動装置6に起因するヨーモーメントは発生しない。すなわち、車両3全体としてもヨーモーメントが発生せず、左右トルク移行制御前のヨーモーメントに戻すことが可能となる。このように、本変形例によっても、上述の実施形態と同様の効果を奏することが可能である。
なお、本変形例の場合も、上述の前後トルク移行制御のフロー(図22参照)に従って制御が行われるが、S35において左前輪LWf又は右前輪RWrの何れか一方の前輪に超過スリップが発生した場合に、S36で前輪駆動装置6の合計トルク(前輪左右和)を低減せず、上述の左右トルク移行制御と同様の方法を適用して、一方の前輪に接続される電動機の指令モータトルクを減少させ、超過スリップが発生していない他方の前輪に接続される電動機の指令モータトルクを増加させるようにしてもよい。このように制御することによって、前輪駆動装置6の合計トルク(前輪左右和)を維持し、車両総トルクを維持することが可能である。
(変形例1−2)
また、前輪駆動装置6は、図24に示すように、内燃機関4を有さず、電動機5によって構成されてもよい。本変形例においても、力行駆動される第1、第2電動機2A、2Bによって、後輪LWr、RWrが駆動されている際に、左後輪LWrに所定以上の加速スリップ発生した場合は(図24(a)参照)、上述の実施形態と同様に左右トルク移行制御が実行される(図24(b)参照)。
そして、第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDが第2変化量Δ2=1だけ増加した結果、右後輪RWrにも加速スリップが発生した場合、図24(c)に示すように、制御装置8は前後トルク移行制御を実行し、右後輪RWrに接続される第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDを、第2変化量Δ2と符号が反対で、且つ絶対値が第2変化量Δ2の2倍である第3変化量Δ3=−2×Δ2=−2だけ変化させて、右後輪RWrのスリップを収束させる(R_CMD=R_REQ+Δ2+Δ3=2)。さらに、制御装置8は、前輪駆動装置6の電動機5の指令モータトルクを、第3変化量Δ3と符号が反対で、且つ絶対値が略同一の第4変化量Δ4=−Δ3=2だけ変化させて、左右前輪LWf、RWfにトルクを「1」ずつ分配する。このとき、前輪駆動装置6の電動機5には、バッテリ9からトルク「3」分だけ電力供給されて、電動機5においてトルク「1」分だけ損失が生じる。また、第1及び第2電動機2A、2Bにおいてもそれぞれ「0.5」ずつトルクの損失があるので、バッテリ9は電動機5、第1及び第2電動機2A、2Bに対してトルク「8」分だけ電力供給がされる。
そして、前後トルク移行制御の結果、後輪左右和が「4」となって第3変化量Δ3=−2の絶対値分だけ後輪駆動装置1の合計トルクは減少するが、前輪駆動装置6の合計トルク(前輪左右和)を第4変化量Δ4=2だけ増加させることによって後輪駆動装置1のトルクの低下を補い、車両総トルクを「6」に維持することができる。また、後輪左右差が「0」となるので後輪駆動装置1に起因するヨーモーメントは発生せず、前輪左右差も「0」であるので前輪駆動装置6に起因するヨーモーメントは発生しない。すなわち、車両3全体としてもヨーモーメントが発生せず、左右トルク移行制御前のヨーモーメントに戻すことが可能となる。このように、本変形例によっても、上述の実施形態と同様の効果を奏することが可能である。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る車両用駆動装置について図25及び図26を用いて説明する。本実施形態の車両用駆動装置は、第1実施形態の変形例1−1に係る車両用駆動装置(図23参照)と基本的構成を同一とし、制御装置8が、前後トルク移行制御において第3変化量Δ3の絶対値を第2変化量Δ2(Δ2´)の絶対値と略同一とする(Δ3=−Δ2、又はΔ3=−Δ2´)点で相違する。
より具体的に、力行駆動される第1、第2電動機2A、2Bによって、後輪LWr、RWrが駆動されている際に、左後輪LWrに所定以上の加速スリップ発生した場合は(図25(a)及び図26の(I)参照)、上述の第1実施形態と同様に左右トルク移行制御が実行される(図25(b)及び図26の(II)参照)。
そして、第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDが第2変化量Δ2=1だけ増加した結果、右後輪RWrにも加速スリップが発生した場合、図25(c)及び図26の(III)に示すように、制御装置8は前後トルク移行制御を実行し、右後輪RWrに接続される第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDを、第2変化量Δ2と符号が反対で、且つ絶対値が第2変化量Δ2の絶対値と略同一である第3変化量Δ3=−Δ2=−1だけ変化させて、右後輪RWrのスリップを収束させる(R_CMD=R_REQ+Δ2+Δ3=R_REQ=3)。ここで、第3変化量Δ3の絶対値を第2変化量Δ2の絶対値と略同一としたのは、左右トルク移行制御によって右後輪RWrに接続される第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDを第2変化量Δ2だけ増加させる前には、右後輪RWrにはスリップが発生しておらず、必要最小限の変化量で右後輪RWrのスリップを解消することが可能だからである。
次に、制御装置8は、前輪駆動装置6の2つの電動機の指令モータトルクの合計値を、第3変化量Δ3と符号が反対で、且つ絶対値が略同一の第4変化量Δ4=−Δ3=1だけ変化させて、2つの電動機に指令モータトルクを「0.5」ずつ出力させる。このとき、前輪駆動装置6の2つの電動機及び後輪駆動装置1の第1、第2電動機2A、2Bにおいてそれぞれ「0.5」ずつトルクの損失があるので、バッテリ9からトルク「8」分だけ電力供給がされる。
そして、前後トルク移行制御の結果、後輪左右和が「5」となって第3変化量Δ3=−1の絶対値分だけ後輪駆動装置1の合計トルクは減少するが、前輪駆動装置6の合計トルク(前輪左右和)を第4変化量Δ4=1だけ増加させることによって後輪駆動装置1のトルクの低下を補い、車両総トルクを「6」に維持することができる。
ここで、本実施形態の場合、前輪左右差は「0」であるので前輪駆動装置6に起因するヨーモーメントは発生しないが、後輪左右差が「−1」となるので後輪駆動装置1に起因するヨーモーメントが発生する。したがって、車両3全体としてもヨーモーメントが発生するが、前後トルク移行制御前に車両3全体に発生するヨーモーメントよりは低減されるので、走行性能を維持することが可能である。
なお、本実施形態の前輪駆動装置6は、第1実施形態(図20参照)のように内燃機関4と電動機5とが直列に接続されることによって構成されてもよく、第1実施形態の変形例1−2(図24参照)のように内燃機関4を有さず、電動機5によって構成されてもよいことは言うまでもない。
(変形例2−1)
また、第2実施形態に係る車両用駆動装置のように、前輪駆動装置6が2つの電動機から構成される場合は、図27に示すように、前後トルク移行制御において、前輪駆動装置6の右側の電動機のみに指令モータトルクを「1」出力させて、右前輪RWrのみ駆動するようにしてもよい。このとき、前輪駆動装置6の右側の電動機には、バッテリ9からトルク「1.5」分だけ電力供給されて、当該電動機においてトルク「0.5」分だけ損失が生じる。また、第1及び第2電動機2A、2Bにおいてもそれぞれ「0.5」ずつトルクの損失があるので、バッテリ9は前輪駆動装置6の右側の電動機、第1及び第2電動機2A、2Bに対してトルク「7.5」分だけ電力供給する。
そして、前後トルク移行制御の結果、後輪左右和が「5」となって第3変化量Δ3=−1の絶対値分だけ後輪駆動装置1の合計トルクは減少するが、前輪駆動装置6の合計トルク(前輪左右和)を第4変化量Δ4=1だけ増加させることによって後輪駆動装置1のトルクの低下を補い、車両総トルクを「6」に維持することができる。
さらに、左右トルク移行制御前に超過スリップが生じたのは左後輪LWrであるから、車両3の左側が低μであり、右側が高μであるスプリットμ路上を走行している可能性が高いので、本変形例のように、右前輪RWrのみ駆動するように構成することによって、より多くの駆動トルクを路面に伝達することが可能である。
なお、本実施形態の場合、前輪左右差は「−1」となるので前輪駆動装置6に起因するヨーモーメントは発生し、後輪左右差が「−1」となるので後輪駆動装置1に起因するヨーモーメントも発生する。したがって、車両3全体としてもヨーモーメントが発生するが、ドライバのステアリング操作によって十分許容できるものであるので、特段問題とはならない。
(変形例2−2)
また、図28に示すように、前後トルク移行制御において、前輪駆動装置6の左側の電動機のみに指令モータトルクを「1」出力させて、左前輪LWrのみ駆動するようにしてもよい。このとき、前輪駆動装置6の左側の電動機には、バッテリ9からトルク「1.5」分だけ電力供給されて、当該電動機においてトルク「0.5」分だけ損失が生じる。また、第1及び第2電動機2A、2Bにおいてもそれぞれ「0.5」ずつトルクの損失があるので、バッテリ9は前輪駆動装置6の右側の電動機、第1及び第2電動機2A、2Bに対してトルク「7.5」分だけ電力供給する。
前後トルク移行制御の結果、後輪左右和が「5」となって第3変化量Δ3=−1の絶対値分だけ後輪駆動装置1の合計トルクは減少するが、前輪駆動装置6の合計トルク(前輪左右和)を第4変化量Δ4=1だけ増加させることによって後輪駆動装置1のトルクの低下を補い、車両総トルクを「6」に維持することができる。また、後輪左右差が「−1」となり、前輪左右差が「1」となるので、車両3全体としてヨーモーメントが発生せず、左右トルク移行制御前のヨーモーメントに戻すことが可能となる。
(第3実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る車両用駆動装置について図29を用いて説明する。本実施形態の車両用駆動装置は、第1及び第2実施形態の車両用駆動装置と基本的構成を同一とし、左右トルク移行制御時に、超過スリップが発生していない他方の車輪に接続される第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを第2変化量Δ2だけ変化させるとき、他方の車輪に接続される第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDの上限値(第1又は第2電動機2A、2Bの体格上限)を超える場合又は該上限値を超えると予想される場合に、上限値を超えないように第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを第2変化量Δ2(Δ2´)だけ変化させたトルクから第3変化量Δ3だけ変化させるようにした点で相違する。
より具体的に、図29を用いて、力行駆動される第1、第2電動機2A、2Bによって、後輪LWr、RWrが駆動されている際に、左後輪LWrに所定以上の加速スリップ発生した場合の左右トルク移行制御及び前後トルク移行制御について説明する。
先ず、図29の(I)に示すように、左後輪LWrに所定以上の加速スリップが発生する前(左右トルク移行制御前)には、第1及び第2電動機2A、2Bは、ドライバ要求トルクL_REQ=3.5、R_REQ=3.5を満たすように指令モータトルク(力行駆動トルク)L_CMD、R_CMDを出力している(L_CMD=L_REQ=3.5、R_CMD=R_REQ=3.5)。
左後輪LWrに加速スリップが発生した場合は、図29の(II)に示すように、制御装置8により上述した左右トルク移行制御が実行されることによって、左後輪LWrに接続される第1電動機2Aの指令モータトルクL_CMDを、ドライバ要求トルクL_REQ=3.5から第1変化量Δ1=−1だけ変化させる(L_CMD=L_REQ+Δ1=2.5)とともに、加速スリップが発生していない右後輪RWrと接続される第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDを、第1変化量Δ1と符号が反対で、且つ絶対値が略同一の第2変化量Δ2=−Δ1=1だけ変化させるように制御する。
このとき、第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDの上限値(第1又は第2電動機2A、2Bの体格上限)が「4」である場合、第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDを第2変化量Δ2だけ変化させるように制御すると、R_CMD=R_REQ+Δ2=4.5となり、上限値を超えた値となってしまう。そこで、制御装置8は、図29の(III)に示すように、第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDの上限値を超えた値を、上限値と等しくなるように、すなわち「4」となるように、第3変化量Δ3=−0.5だけ変化させる(R_CMD=R_REQ+Δ2+Δ3=4)。このように制御することによって、左後輪LWrのスリップを解消しつつ、右車輪RWrに接続される第2電動機2Bを保護可能である
そして、制御装置8は、前輪駆動装置6トルクを、第3変化量Δ3と符号が反対で、且つ絶対値が略同一の第4変化量Δ4=−Δ3=0.5だけ変化させることにより、後輪駆動装置1のトルクの低下を補い、車両総トルクを維持する。
なお、本実施形態では第3変化量Δ3=−0.5として、第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDの上限値を超えた値を、上限値と等しくなるように変化させるとしたが(R_CMD=R_REQ+Δ2+Δ3=4)、特にこの構成に限定されず、Δ3<−0.5として、第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDの上限値を超えた値を、上限値よりも小さくなるように変化させても構わない(R_CMD=R_REQ+Δ2+Δ3<4)。また、左右トルク移行制御において第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDを第2変化量Δ2だけ変化させると、第2電動機2Bの指令モータトルクR_CMDの上限値を超えた値(R_CMD=4.5)になると事前に予測される場合に、上限値を超えないように上述の第3変化量Δ3だけ変化させても構わない。
ここで、本実施形態の前後トルク移行制御のフローについて、図30を用いて説明する。先ず、左右トルク移行制御が実行中か否かを判断し(S41)、実行中でない場合は前後トルク移行制御を行わず、フローを終了する。一方、左右トルク移行制御が実行中である場合は、超過スリップが発生していない他方の車輪に接続される第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを第2変化量Δ2(Δ2´)だけ変化させたときに、第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDの上限値(第1又は第2電動機2A、2Bの体格上限)を超えたか否か、又は上限値を超えると予想されるか否かを判断する(S42)。
その結果、第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを第2変化量Δ2(Δ2´)だけ変化させたときに、上限値を超えない場合、又は上限値を超えないと予測される場合は、前後トルク移行制御を終了する。一方、第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを第2変化量Δ2(Δ2´)だけ変化させたときに、上限値を超えた場合、又は上限値を超えると予測される場合は、第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを第3変化量Δ3だけ変化させることによって、後輪駆動装置1の合計トルク(後輪左右和)を低減し、第1又は第2電動機2A、2Bを保護する(S43)。
そして、前輪駆動装置6の合計トルク(前輪左右和)を、第3変化量Δ3と符号が反対の第4変化量Δ4だけ変化させることによって増加させ、後輪駆動装置1のトルクの低下を補い、車両総トルクを維持する(S44)。
次に、前輪駆動装置6の合計トルク(前輪左右和)を増加させた結果、左前輪LWf又は右前輪RWfに超過スリップが発生していないかを判断し(S45)、超過スリップが発生していない場合には前後トルク移行制御を終了する。一方、左前輪LWf又は右前輪RWfに超過スリップが発生している場合には、前輪駆動装置6の合計トルクを低減することにより、すなわち車両総トルクを低減することにより(S46)、前輪両輪LWf、RWfのスリップを解消し、前後トルク移行制御を終了する。
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、上述した第1及び第2実施形態では、左右トルク移行制御の実行があった場合にのみ、前後トルク移行制御の実行するように構成されており、すなわち、前後トルク移行制御に対し、左右トルク移行制御を優先的に実行するように構成されている。しかしながら、左右トルク移行制御前に、スリップ取得手段80が左後輪LWr及び右後輪RWrに同時に超過スリップが発生したことを取得した場合には、左右トルク移行制御によっては左後輪LWr及び右後輪RWrのスリップを解消することができないので、左右トルク移行制御を禁止し、前後トルク移行制御のみを実行するようにすることによって、左後輪LWr及び右後輪RWrのスリップを早期に解消する。この場合、前後トルク移行制御においては、左後輪LWr及び右後輪RWrに接続される第1及び第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを共に低減し、後輪駆動装置1のトルク(後輪左右和)の低減分だけ前輪駆動装置6のトルク(前輪左右和)を増加させて、車両総トルクを維持する。
また、上述した各実施形態では、第1及び第2電動機2A、2Bを有する駆動装置1(第1駆動装置)を後輪駆動用とし、駆動装置6(第2駆動装置)を前輪駆動用としていたが、逆に、駆動装置1(第1駆動装置)を前輪駆動用とし、駆動装置6(第2駆動装置)を後輪駆動用としてもよい。
また、上述の各実施形態ではスリップが発生した車輪に接続される第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを第1変化量Δ1(Δ1´)だけ変化させ、スリップ車輪と左右反対側の車輪(他方の車輪)に接続される第1又は第2電動機2A、2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを、第1変化量Δ1と符号が反対で、且つ絶対値が略同一の第2変化量Δ2(Δ2´)だけ変化させるようにした(Δ1=−Δ2、又はΔ1´=−Δ2´)。しかしながら、第1変化量Δ1(Δ1´)及び第2変化量Δ2(Δ2´)は必ずしも絶対値が略同一である必要はなく、少なくとも符号が反対であればよい(Δ1×Δ2<0、又はΔ1´×Δ2´<0)。
また、上述の各実施形態では、前後トルク移行制御において、前輪駆動装置6のトルクを第3変化量Δ3と符号で、且つ絶対値が略同一が第4変化量Δ4(=−Δ3)だけ変化させるとしたが、第3変化量Δ3及び第4変化量Δ4は必ずしも絶対値が略同一である必要はなく、少なくとも符号が反対であればよい(Δ3×Δ4<0)
また、上述したモータトラクションコントロール制御は、レゾルバ20A、20Bが取得した第1及び第2電動機2A、2Bのモータ回転数と、モータ目標回転数に基づいて求められた第1及び第2電動機2A、2Bの上限スリップ判断閾値回転数と、を比較することにより行ってもよい。例えば、力行駆動される第1、第2電動機2A、2Bによって後輪LWr、RWrが駆動されている場合、制御装置8は、第1及び第2電動機2A、2Bのモータ回転数が上限スリップ判断閾値回転数以下の場合に、ドライバ要求トルクL_REQ、R_REQを満たすように第1及び第2電動機2A、2Bに指令モータトルクL_CMD、R_CMDを出力するようにさせ、第2電動機2A、2Bの回転数が上限スリップ判断閾値回転数を超えた場合に、後輪LWr、RWrに所定以上の加速スリップが発生したと判断する。そして、制御装置8は、加速スリップが発生した左車輪LWr及び/又は右後輪RWrに接続される第1電動機2A及び/又は第2電動機2Bの指令モータトルクL_CMD、R_CMDを、上限スリップ判断閾値回転数とモータ回転数との差である加速スリップ量に基づいて決定される第1変化量だけ変化させ、加速スリップを抑制する。
また、リングギヤ24A、24Bにそれぞれ油圧ブレーキ60A、60Bを設ける必要はなく、連結されたリングギヤ24A、24Bに1つの油圧ブレーキと1つの一方向クラッチが設けられていればよい。また、動力伝達手段として、油圧ブレーキと一方向クラッチのいずれか一方が設けられていればよい。
また、断接手段として油圧ブレーキを例示したが、これに限らず機械式、電磁式等任意に選択できる。
また、左車輪駆動装置及び右輪駆動装置には、電動機と車輪との間に遊星歯車式減速機を配置したが、遊星歯車式減速機の代わりに任意の変速機を用いることができ、また、電動機と車輪との動力伝達経路上に電動機と車輪との動力伝達を断接可能な動力伝達手段が設けられている限り、変速機を省略することもできる。
また、駆動源として電動機を例示したが、エンジン等、他の駆動源を用いてもよい。
また、上記実施形態では、第1回転状態量検出手段としてのレゾルバ20A、20Bを第1及び第2電動機2A、2Bにそれぞれ設けたが、第1回転状態量検出手段は第1及び第2電動機2A、2Bと車輪Wrとの動力伝達経路上で動力伝達手段よりも第1及び第2電動機2A、2B側に配置されていればよい。
同様に、上記実施形態では、第2回転状態量検出手段としての車輪速センサ13A、13Bを左後輪LWr、右後輪RWrにそれぞれ設けたが、第2回転状態量検出手段は第1及び第2電動機2A、2Bと車輪Wrとの動力伝達経路上で動力伝達手段よりも車輪Wr側に配置されていればよい。