図1は、本発明が適用されるハイブリッド型作業機械の一例であるハイブリッド式ショベルを示す側面図である。
ハイブリッド式ショベルの下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載される。上部旋回体3には、ブーム4が取り付けられる。ブーム4の先端には、アーム5が取り付けられ、アーム5の先端にはバケット6が取り付けられる。掘削アタッチメントを構成するブーム4、アーム5及びバケット6は、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9によりそれぞれ油圧駆動される。上部旋回体3には、キャビン10が設けられ、且つエンジン等の動力源が搭載される。
図2は、図1に示すハイブリッド式ショベルの駆動系の構成例を示すブロック図である。図2において、機械的動力系は二重線、高圧油圧ラインは実線(太線)、パイロットラインは破線、電気駆動・制御系は実線(細線)でそれぞれ示される。
機械式駆動部としてのエンジン11と、アシスト駆動部としての電動発電機12は、変速機13の2つの入力軸にそれぞれ接続される。変速機13の出力軸には、油圧ポンプとしてメインポンプ14及びパイロットポンプ15が接続される。メインポンプ14には、高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続される。メインポンプ14は斜板式可変容量型油圧ポンプであり、斜板の角度(傾転角)を制御することでピストンのストローク長を調整し、吐出流量を制御することができる。
コントロールバルブ17は、ハイブリッド式ショベルにおける油圧系の制御を行う制御装置である。下部走行体1用の油圧モータ1A(右用)及び1B(左用)、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、並びにバケットシリンダ9は、高圧油圧ラインを介してコントロールバルブ17に接続される。以下では、油圧モータ1A(右用)及び1B(左用)、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、並びにバケットシリンダ9を総称して「油圧アクチュエータ」とする。
電動発電機12には、インバータ18を介して、蓄電器を含む蓄電系120が接続される。電動発電機12とインバータ18とで電動発電系が構成される。また、パイロットポンプ15には、パイロットライン25を介して操作装置26が接続される。操作装置26は、旋回操作レバー26A、油圧アクチュエータ操作レバー26B、油圧アクチュエータ操作ペダル26Cを含む。旋回操作レバー26A、油圧アクチュエータ操作レバー26B、及び油圧アクチュエータ操作ペダル26Cは、油圧ライン27及び28を介して、コントロールバルブ17及び圧力センサ29にそれぞれ接続される。圧力センサ29は、電気系の駆動制御を行うコントローラ30に接続される。
また、図2に示すハイブリッド式ショベルは旋回機構を電動にしたもので、旋回機構2を駆動するために旋回用電動機21が設けられる。電動作業要素としての旋回用電動機21は、インバータ20を介して蓄電系120に接続される。旋回用電動機21の回転軸21Aには、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回変速機24が接続される。インバータ20、旋回用電動機21、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回変速機24で負荷駆動系が構成される。
コントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)、内部メモリ等を含む演算処理装置で構成され、電動発電機12の運転制御(電動(アシスト)運転又は発電運転の切り替え)、及び、旋回用電動機21の運転制御(力行運転又は回生運転の切り替え)を行う。また、コントローラ30は、昇降圧制御部としての昇降圧コンバータを駆動制御することによる蓄電器(キャパシタ)の充放電制御を行う。
具体的には、コントローラ30は、蓄電器(キャパシタ)の充電状態、電動発電機12の運転状態(電動(アシスト)運転又は発電運転)、及び、旋回用電動機21の運転状態(力行運転又は回生運転)に基づいて、昇降圧コンバータの昇圧動作と降圧動作の切り替え制御を行い、これにより蓄電器(キャパシタ)の充放電制御を行う。
昇降圧コンバータの昇圧動作と降圧動作との切り替え制御は、DCバスに設けられたDCバス電圧検出部によって検出されるDCバス電圧値、蓄電器電圧検出部によって検出される蓄電器電圧値、及び、蓄電器電流検出部によって検出される蓄電器電流値に基づいて行われる。
さらに、蓄電器電圧検出部によって検出される蓄電器電圧値に基づいて、蓄電器(キャパシタ)のSOC(State Of Charge)が算出される。また、上述では蓄電器の一例としてキャパシタを示したが、キャパシタの代わりに、リチウムイオン電池等の充放電可能な二次電池、又は、電力の授受が可能なその他の形態の電源を蓄電器として用いてもよい。
図3は蓄電系120の構成を示すブロック図である。蓄電系120は、蓄電器としてのキャパシタ19、昇降圧コンバータ100、及び、DCバス110を含む。DCバス110は、キャパシタ19、電動発電機12、及び、旋回用電動機21の間での電力の授受を制御する。キャパシタ19には、キャパシタ電圧値を検出するためのキャパシタ電圧検出部112と、キャパシタ電流値を検出するためのキャパシタ電流検出部113とが設けられる。キャパシタ電圧検出部112によって検出されるキャパシタ電圧値、及び、キャパシタ電流検出部113によって検出されるキャパシタ電流値は、コントローラ30に供給される。
昇降圧コンバータ100は、電動発電機12及び旋回用電動機21の運転状態に応じて、DCバス電圧値が一定の範囲内に収まるように昇圧動作と降圧動作とを切り替える制御を行う。DCバス110は、インバータ18、20と昇降圧コンバータ100との間に配設されており、キャパシタ19、電動発電機12及び旋回用電動機21の間で電力の授受を行う。
以上のような構成において、アシストモータである電動発電機12が発電した電力、及び、旋回用電動機21が回生運転して生成した回生電力は、インバータ18、20を介して蓄電系120のDCバス110に供給され、昇降圧コンバータ100を介してキャパシタ19に供給される。
ここで、コントローラ30の詳細について説明する。電動旋回制御装置としてのコントローラ30は、駆動制御部32、旋回駆動制御部40、及び主制御部60を含む。駆動制御部32、旋回駆動制御部40、及び主制御部60のそれぞれは、例えば、コントローラ30のCPUが内部メモリに格納される駆動制御用のプログラムを実行することによって実現される機能要素である。
駆動制御部32は、電動発電機12の運転制御(電動(アシスト)運転又は発電運転の切り替え)を行う。また、駆動制御部32は、昇降圧制御部としての昇降圧コンバータ100を駆動制御することによるキャパシタ19の充放電制御を行う。
旋回駆動制御部40は、インバータ20を介して旋回用電動機21の駆動制御を行う。
図4は、旋回駆動制御部40の構成を示す制御ブロック図であり、旋回駆動制御部40は、速度指令変換部31と、旋回用電動機21を駆動するための駆動指令を生成する駆動指令生成部50とを含む。
速度指令変換部31は、圧力センサ29から入力される信号を速度指令に変換する演算処理部である。これにより、旋回操作レバー26Aの操作内容は、旋回用電動機21を回転駆動させるための速度指令(rad/s)に変換される。この速度指令は、駆動制御部32及び駆動指令生成部50に入力される。
具体的には、速度指令変換部31は、速度指令生成部35及びスルーレート制限部36を含む。
速度指令生成部35は、旋回操作レバー26Aの操作内容から目標速度指令を生成する機能要素である。本実施例では、速度指令生成部35は、旋回操作レバー26Aの操作方向に応じて旋回方向を表す符号(正負)を決定し、且つ、旋回操作レバー26Aの操作量に応じて目標速度指令の大きさ(絶対値)を決定する。そして、速度指令生成部35は、決定した目標速度指令をスルーレート制限部36に対して出力する。
スルーレート制限部36は、速度指令生成部35から受けた入力信号としての目標速度指令に基づいて出力信号としての速度指令を生成する機能要素である。本実施例では、スルーレート制限部36は、新たな目標速度指令を受けた時点から所定のスルーレートで出力信号としての速度指令を目標速度指令に達するまで変化させながら、制御周期毎に速度指令を出力する。なお、スルーレートは、速度指令に関する最大応答速度であり、例えば、速度指令値ゼロから所定の速度指令の値(以下、「速度指令値」とする。)に達するまでに要する時間(制御周期の数)でその所定の速度指令の値を除した値である。具体的には、速度指令値V(rad/s)に達するまでに10回の制御周期を要するのであれば、スルーレートは、1制御周期当たりV/10(rad/s)である。
なお、スルーレート制限部36は、出力信号としての速度指令値が目標速度指令値に達した後は、目標速度指令が変更されない限り、すなわち、旋回操作レバー26Aの操作内容が変更されない限り、その目標速度指令値に等しい速度指令値を出力する。また、スルーレート制限部36は、直近に出力した速度指令値に応じてスルーレートを変更してもよい。
このようにして、速度指令変換部31は、入力信号としての目標速度指令に対する出力信号としての速度指令の増減幅を制限する。そして、速度指令変換部31は、旋回操作レバー26Aの操作内容に応じた速度指令を制御周期毎に駆動指令生成部50に対して出力する。その結果、レバー操作量に対応する旋回速度に到達するまでの時間が長くなる。つまり、一連の旋回加速動作における加速度を小さくできる。
駆動指令生成部50は、速度指令変換部31が出力する速度指令に基づき駆動指令を生成する。そして、駆動指令生成部50は、生成した駆動指令をインバータ20に対して出力する。また、インバータ20は、駆動指令生成部50が出力する駆動指令の値(以下、「駆動指令値」とする。)に基づくPWM制御信号により旋回用電動機21を交流駆動する。
なお、旋回駆動制御部40は、旋回操作レバー26Aの操作量に応じて旋回用電動機21を駆動制御する際に、力行運転と回生運転の切り替え制御を行うと共に、インバータ20を介してキャパシタ19の充放電制御を行う。
駆動指令生成部50は、減算器51、PI(Proportional Integral)制御部52、トルク制限部53、及び旋回動作検出部58を含む。
減算器51は、速度指令変換部31から速度指令値を受け、その速度指令値(rad/s)から、旋回動作検出部58によって検出される旋回用電動機21の回転速度(rad/s)を減算して速度偏差を出力する。この速度偏差は、後述するトルク電流指令生成部としてのPI制御部52において、旋回用電動機21の回転速度を速度指令値に近づけるためのPI制御に用いられる。
PI制御部52は、減算器51から入力される速度偏差に基づき、旋回用電動機21の回転速度を速度指令値に近づけるように(すなわち、この速度偏差を小さくするように)PI制御を行い、そのために必要なトルク電流指令を制御周期毎に演算・生成する。生成されたトルク電流指令は、トルク制限部53に入力される。
トルク制限部53は、トルク電流指令によって生じるトルク(絶対値)が旋回用電動機21の許容最大トルク値以下となるようにトルク電流指令の値(以下、「トルク電流指令値」とする。)を制限する。このトルク電流指令値の制限は、上部旋回体3の左方向及び右方向の双方向の回転に対して行われる。
また、トルク制限部53は、トルク電流指令によって生じるトルク(絶対値)が旋回用電動機21の許容最大トルク値以下の場合であっても、一回の制御周期におけるトルク電流指令値の増減幅が所定幅以上であれば、その増減幅を所定幅に制限し、トルク電流指令値が急激に増減するのを防止してもよい。
このように、トルク制限部53は、増減幅にローパスフィルタを適用することによって、すなわち、所定幅未満の増減幅をそのまま採用し、所定幅以上の増減幅をその所定幅に制限することによって、トルク電流指令値が急激に増減するのを防止できる。
また、トルク制限部53は、旋回操作レバー26Aの操作量に応じてトルク電流指令値を制限してもよい。この制限処理は、旋回操作レバー26Aの操作量の増加に伴ってトルク電流指令値の許容値(絶対値)が緩やかに増加する制限特性に基づいて行われる。このようなトルク電流指令値の制限は、PI制御部52によって演算されるトルク電流指令値が急激に増加すると制御性が悪化するため、これを抑制するために行われる。なお、このトルク電流指令値の制限は、上部旋回体3の左方向及び右方向の双方向の回転に対して行われる。また、制限特性を表すデータは、主制御部60の内部メモリに格納されており、主制御部60のCPUによって読み出され、トルク制限部53に入力される。
旋回動作検出部58は、レゾルバ22によって検出される旋回用電動機21の回転位置の変化(すなわち上部旋回体3の旋回位置)を検出する。また、旋回動作検出部58は、回転位置の時間的な変化から旋回用電動機21の回転速度を微分演算によって導出する。導出された回転速度を表すデータは、減算器51に入力される。
このようにして、駆動指令生成部50は、速度指令変換部31から入力される速度指令に基づき、旋回用電動機21を駆動するためのモータ電流を出力するインバータ20に対する駆動指令を生成する。
その結果、旋回用電動機21は、モータ電流に応じたトルクを発生させ、上部旋回体3を所望の位置まで旋回させる。なお、上部旋回体3は、旋回用電動機21が発生させるトルクと、上部旋回体3に対する外力との合計トルクによって旋回される。典型的には、上部旋回体3は、旋回用電動機21が発生させるトルクから、上部旋回体3に対する外力を差し引いた正味トルクによって旋回される。なお、上部旋回体3に対する外力は、上部旋回体3の旋回を助長する力(旋回促進力)となり得る場合もあるが、ここでは、上部旋回体3に対する外力が上部旋回体3の旋回を阻止しようとする力(旋回抗力)である場合について説明する。
すなわち、旋回用電動機21が発生させるトルクが一定であれば、旋回抗力が大きいほど正味トルクは小さくなり、上部旋回体3の旋回加速度は小さくなる。その結果、上部旋回体3の実旋回速度が上昇しにくく、速度指令値と実旋回速度との間の差(速度偏差)が大きくなる。
なお、上部旋回体3に対する外力は、例えば、上部旋回体3の自重及び姿勢による力を含む。具体的には、ショベルが傾斜面に位置する場合に上部旋回体3を傾斜面の下方に旋回させようとする力(操作方向によっては旋回抗力とも旋回促進力ともなり得る力)、上部旋回体3の旋回を阻止しようとする力(旋回抗力としての慣性力)を含む。また、上部旋回体3に対する外力は、旋回中の上部旋回体3と接触する物体による力(旋回抗力としての旋回反力)を含む。具体的には、引きずり旋回の際にバケット6の側方(旋回方向)にある土砂による旋回負荷を含む。
また、上部旋回体3の実旋回速度は、図4に示すように、正味トルクを上部旋回体3の慣性モーメントJで除することによって得られる加速度を積分した値である。そのため、慣性モーメントJが大きいほど上部旋回体3の旋回加速度は小さくなる。その結果、上部旋回体3の実旋回速度が上昇しにくく、速度指令値と実旋回速度との間の差(速度偏差)が大きくなる。なお、慣性モーメントJは、ショベルの姿勢、掘削アタッチメントの姿勢、バケット6内にある土砂の重量等に応じて変化する。
速度偏差が大きくなるとPI制御部52が出力するトルク電流指令値も大きくなる。そのため、トルク電流指令値は、トルク制限部53によって許容最大トルク値で制限され易くなる。トルク電流指令値が制限されると、すなわち、正味トルクが制限されると、コントローラ30は、実旋回速度が振動(上下動)した場合に、その振動を抑制するトルクを生成できない場合がある。その結果、コントローラ30は、上部旋回体3の旋回速度を安定的に制御することができない。
また、速度指令値は、引きずり旋回中に実旋回速度が速度指令値に追従できていない場合であっても、レバー操作量に対応して増加し続ける。そのため、速度偏差及びトルク電流指令値は共に増大し、トルク電流指令値は、トルク制限部53によって許容最大トルク値で制限され易くなる。このとき、旋回負荷となっていた土砂等が無くなり上部旋回体3に対する外力が急減すると、上部旋回体3に作用する正味トルクが急増する。その結果、コントローラ30は、上部旋回体3の旋回速度を急増させ、掘削アタッチメントを旋回方向に飛び出させてしまうおそれがある。
そこで、コントローラ30は、以下に説明する処理を用いて、上述のような状況に対処する。
主制御部60は、駆動指令生成部50の制御処理に必要な周辺処理を行う機能要素であり、トルク判定部61及び速度指令増減制御部62を含む。
トルク判定部61は、旋回用電動機21によるトルク(以下、「旋回トルク」とする。)が所定トルクより大きいか否かを判定する機能要素である。本実施例では、トルク判定部61は、駆動指令生成部50が出力する駆動指令値に基づいて、旋回トルクの絶対値が所定トルクより大きいか否かを判定する。具体的には、トルク判定部61は、駆動指令値の絶対値が所定の許容最大値以上の場合に、旋回用電動機21によるトルクの絶対値が所定トルクより大きいと判定する。なお、所定トルクは、例えば、旋回用電動機21の許容最大トルク値(絶対値)、又はその許容最大トルク値より僅かに小さい値(絶対値)を意味する。
或いは、トルク判定部61は、インバータ20から旋回用電動機21に供給されるモータ電流の値(以下、「モータ電流値」とする。)を検出するモータ電流検出部(図示せず。)の出力に基づいて、旋回トルクが所定トルクより大きいか否かを判定してもよい。具体的には、トルク判定部61は、モータ電流値の絶対値が所定の許容最大値以上の場合に、旋回トルクの絶対値が所定トルクより大きいと判定してもよい。
或いは、トルク判定部61は、PI制御部52が出力するトルク電流指令値に基づいて、旋回トルクが所定トルクより大きいか否かを判定してもよい。具体的には、トルク判定部61は、トルク電流指令値の絶対値が所定の許容最大値以上の場合に、旋回トルクの絶対値が所定トルクより大きいと判定してもよい。
速度指令増減制御部62は、速度指令変換部31が出力する速度指令の増減を制御する機能要素である。本実施例では、速度指令増減制御部62は、トルク判定部61の判定結果に基づいて前記速度指令の最大増減幅を切り替える。具体的には、速度指令増減制御部62は、スルーレート制限部36に対して制御信号を出力してスルーレートを切り換える。
より具体的には、速度指令増減制御部62は、トルク判定部61により旋回トルクが所定トルクより大きいと判定された場合に、スルーレートを小さい値に切り換えて一回の制御周期における速度指令の最大増減幅を小さくする。
例えば、速度指令増減制御部62は、旋回トルクが所定トルクより大きいと判定された場合に、スルーレートの値をゼロ又はゼロ近傍に切り換えて速度指令の増減を禁止或いは制限する。
また、速度指令増減制御部62は、旋回トルクが所定トルクより大きいと判定された場合に、速度指令の増減を禁止してもよい。この場合、速度指令増減制御部62は、スルーレート制限部36に対して制御信号を出力して現在の速度指令を継続的に出力させる。
スルーレート制限部36は、トルク判定部61からの制御信号に応じて、スルーレートを切り換え或いは動的に調整する。或いは、スルーレート制限部36は、トルク判定部61からの制御信号に応じて出力信号としての速度指令の値を固定し、同じ速度指令値を継続的に出力する。
次に、図5を参照しながら、コントローラ30が速度指令の増減を制御する処理(以下、「速度指令増減制御処理」とする。)について説明する。なお、図5は、速度指令増減制御処理の流れを示すフローチャートであり、コントローラ30は、所定の制御周期で繰り返しこの速度指令増減制御処理を実行する。
最初に、コントローラ30の主制御部60におけるトルク判定部61は、旋回トルクが所定トルクより大きいか否かを判定する(ステップS1)。本実施例では、トルク判定部61は、駆動指令生成部50が生成する駆動指令値が所定の許容最大値以上の場合に、旋回用電動機21によるトルクの絶対値が所定トルクより大きいと判定する。なお、トルク判定部61は、PI制御部52が出力するトルク電流指令値、又は、モータ電流検出部が出力するモータ電流値に基づいて旋回トルクが所定トルクより大きいか否かを判定してもよい。
トルク判定部61により旋回トルクが所定トルクより大きいと判定された場合(ステップS1のYES)、コントローラ30の主制御部60における速度指令増減制御部62は、速度指令の増減を制限する(ステップS2)。本実施例では、速度指令増減制御部62は、コントローラ30の速度指令変換部31におけるスルーレート制限部36に対して、速度指令の増減を制限するための制御信号を出力する。そして、速度指令増減制御部62は、スルーレート制限部36で用いられるスルーレートをトルク制限時スルーレートに切り換える。トルク制限時スルーレートは、旋回トルクが所定トルク以下であると判定された場合に採用される通常時スルーレートより小さい値である。その結果、コントローラ30は、速度指令変換部31が駆動指令生成部50に対して出力する速度指令値の一回の制御周期における最大増減幅を小さくする。例えば、コントローラ30は、速度指令値の一回の制御周期における最大増減幅をゼロ又はゼロ近傍にする。或いは、速度指令増減制御部62は、スルーレートを切り換える代わりに、スルーレート制限部36が出力する速度指令値を現在値に固定してもよい。
一方、トルク判定部61により旋回トルクが所定トルク以下であると判定された場合(ステップS1のNO)、速度指令増減制御部62は、速度指令の増減に対する制限を解除する(ステップS3)。本実施例では、速度指令増減制御部62は、スルーレート制限部36に対して、速度指令の増減に対する制限を解除するための制御信号を出力する。そして、速度指令増減制御部62は、スルーレート制限部36で用いられるスルーレートを通常時スルーレートに切り換える。その結果、コントローラ30は、速度指令変換部31が駆動指令生成部50に対して出力する速度指令値の一回の制御周期における最大増減幅が制限されている場合には、その最大増減幅を制限前の状態に戻す。或いは、速度指令増減制御部62は、スルーレート制限部36が出力する速度指令値が固定されている場合には、その固定を解除する。
上述のような処理の流れにより、コントローラ30は、旋回トルクが大きくなった場合に一回の制御周期における速度指令の増減を小さくし、速度偏差が大きくなるのを防止できる。その結果、コントローラ30は、トルク電流指令値が許容最大トルク値で制限され続ける状態を解消し、実旋回速度の振動を抑制するトルクを生成できるようにすることで、上部旋回体3の旋回速度をより安定的に制御できる。また、コントローラ30は、引きずり旋回の際に旋回負荷が消失して上部旋回体3に対する外力が急減する場合であっても、上部旋回体3に作用する正味トルクの急増を抑えることができる。その結果、コントローラ30は、上部旋回体3の旋回速度の急増、掘削アタッチメントの旋回方向への飛び出し等を防止できる。
なお、上述の処理では、コントローラ30は、旋回トルクが所定トルクより大きいか否かで速度指令の増減を制限するか否かを決定する。しかしながら、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、コントローラ30は、速度指令の増減を制限する際に用いる所定トルクの値と、速度指令の増減の制限を解除する際に用いる所定トルクの値とを異ならせてもよい。
次に、図6を参照しながら、慣性モーメントが大きい状態にある上部旋回体3を旋回させる際の各種物理量(旋回操作レバー26Aの操作量(F6A参照。)、速度指令(F6B参照。)、トルク電流指令(F6C参照。)、及び実旋回速度(F6D参照。))の時間的推移について説明する。なお、図6の実線で表される推移は、速度指令増減制御処理を実行する場合の推移を示し、図6の破線で表される推移は、速度指令増減制御処理を実行しない場合の推移を示す。また、上部旋回体3の慣性モーメントは、掘削アタッチメントの旋回半径が大きいほど大きく、バケット内にある土砂の重量が大きいほど大きい。
時刻t1において、旋回操作レバー26Aがフルレバー操作されて旋回動作が開始されると、速度指令変換部31が出力する速度指令は、F6Bの実線で示すように、通常時スルーレートで増加し始める。しかしながら、実旋回速度は、上部旋回体3の慣性モーメントが大きいため、F6Dの実線で示すように、増加する速度指令に追従できない。その結果、減算器51が出力する速度偏差が急増し、PI制御部52が生成するトルク電流指令値は、F6Cの実線で示すように正(+)方向に急増する。
その後、時刻t2において、F6Cの実線で示すようにトルク電流指令値が正(+)方向の許容最大トルク値TAに達すると、速度指令増減制御処理を実行している場合には、コントローラ30は、トルク判定部61により旋回トルクが所定トルクより大きいと判定する。そして、コントローラ30は、速度指令増減制御部62により速度指令の増加を禁止する。その結果、F6Cの実線で示すようにトルク電流指令値が許容最大トルク値TAで制限されている場合には、速度指令は、F6Bの実線で示すようにその時点の値のままで推移する。速度指令の増加が禁止されると、時間経過と共に実旋回速度が増加するため速度偏差が減少し、トルク電流指令値も減少する。そして、F6Cの実線で示すようにトルク電流指令値が許容最大トルク値TA未満となりトルク制限部53による制限を受けない状態になると、速度指令は、F6Bの実線で示すように、レバー操作量に対応した速度指令に到達するまでの増加を再開させる。
これにより、コントローラ30は、F6Dの実線で示すように、実旋回速度を速度指令に対応して滑らかに増加させることができる。
なお、速度指令増減制御処理を実行していない場合には、コントローラ30は、速度指令の増加を禁止しない。その結果、F6Cの破線で示すようにトルク電流指令値が許容最大トルク値TAで制限されている場合であっても、速度指令は、F6Bの破線で示すように増加し続ける。そのため、時間経過と共に実旋回速度が増加したとしても速度偏差は減少せず、トルク電流指令値も減少せずにトルク制限部53による制限を受け続ける。
この場合、コントローラ30は、F6Dの破線で示すように、実旋回速度を速度指令に対応して滑らかに増加させることができない。実旋回速度が振動(上下動)しても、旋回トルクが既に制限を受けており、その振動を抑制するトルクを発生させることができないためである。
旋回動作を停止させる場合についても同様である。具体的には、時刻t3において、旋回操作レバー26Aのフルレバー操作が中止されて旋回動作が停止されると、速度指令変換部31が出力する速度指令は、F6Bの実線で示すように、通常時スルーレートで減少し始める。しかしながら、実旋回速度は、上部旋回体3の慣性モーメントが大きいため、F6Dの実線で示すように、減少する速度指令に追従できない。その結果、減算器51が出力する速度偏差が急増し、PI制御部52が生成するトルク電流指令値は、F6Cの実線で示すように負(−)方向に急増する。
その後、時刻t4において、F6Cの実線で示すようにトルク電流指令値が負(−)方向の許容最大トルク値TBに達すると、速度指令増減制御処理を実行している場合には、コントローラ30は、トルク判定部61により旋回トルク(絶対値)が所定トルクより大きいと判定する。そして、コントローラ30は、速度指令増減制御部62により速度指令の減少を禁止する。その結果、F6Cの実線で示すようにトルク電流指令値(絶対値)が許容最大トルク値TB(絶対値)以下となりトルク制限部53による制限を受けている場合には、速度指令は、F6Bの実線で示すようにその時点の値のままで推移する。速度指令の減少が禁止されると、時間経過と共に実旋回速度が減少するため速度偏差が減少し、トルク電流指令値も減少する。そして、F6Cの実線で示すようにトルク電流指令値(絶対値)が負(−)方向の許容最大トルク値TB(絶対値)未満となり、トルク制限部53による制限を受けない状態になると、速度指令は、F6Bの実線で示すように値ゼロまでの減少を再開させる。
これにより、コントローラ30は、F6Dの実線で示すように、実旋回速度を値ゼロまで滑らかに減少させることができる。
なお、速度指令増減制御処理を実行していない場合には、コントローラ30は、速度指令の減少を禁止しない。その結果、F6Cの破線で示すようにトルク電流指令値(絶対値)が許容最大トルク値TB(絶対値)で制限されている場合であっても、速度指令は、F6Bの破線で示すように減少し続ける。そのため、時間経過と共に実旋回速度が減少したとしても速度偏差は減少せず、トルク電流指令値も減少せずにトルク制限部53による制限を受け続ける。
この場合、コントローラ30は、F6Dの破線で示すように、実旋回速度を値ゼロまで滑らかに減少させることができない。実旋回速度が振動(上下動)しても、旋回トルクが既に制限を受けており、その振動を抑制するトルクを発生させることができないためである。
また、図6は、慣性モーメントが大きい状態にある上部旋回体3を旋回させる際の各種物理量の時間的推移を説明するが、図6に関する旋回加速時の説明は、傾斜面に位置するショベルが傾斜面の上方に向かって旋回する場合にも適用され得る。この場合、平坦面に位置するショベルが旋回する場合よりも、上部旋回体3を旋回させるために必要なトルクが大きくなるためである。また、図6に関する旋回減速時の説明は、傾斜面に位置するショベルが傾斜面の下方に向かって旋回する場合にも適用され得る。この場合、平坦面に位置するショベルが旋回する場合よりも、上部旋回体3の旋回を停止させるために必要なトルクが大きくなるためである。
次に、図7を参照しながら、引きずり旋回の際の各種物理量(旋回操作レバー26Aの操作量(F7A参照。)、速度指令(F7B参照。)、トルク電流指令(F7C参照。)、及び実旋回速度(F7D参照。))の時間的推移について説明する。なお、図7の実線で表される推移は、速度指令増減制御処理を実行する場合の推移を示し、図7の破線で表される推移は、速度指令増減制御処理を実行しない場合の推移を示す。
時刻t11において、旋回操作レバー26Aがフルレバー操作されて旋回動作が開始されると、速度指令変換部31が出力する速度指令は、F7Bの実線で示すように、通常時スルーレートで増加し始める。しかしながら、実旋回速度は、旋回方向に存在する土砂等の旋回負荷のため、F7Dの実線で示すように、増加する速度指令に追従できない。その結果、減算器51が出力する速度偏差が急増し、PI制御部52が生成するトルク電流指令値は、F7Cの実線で示すように正(+)方向に急増する。
その後、時刻t12において、F7Cの実線で示すようにトルク電流指令値が正(+)方向の許容最大トルク値TAに達すると、速度指令増減制御処理を実行している場合には、コントローラ30は、トルク判定部61により旋回トルクが所定トルクより大きいと判定する。そして、コントローラ30は、速度指令増減制御部62により速度指令の増加を禁止する。その結果、F7Cの実線で示すようにトルク電流指令値が許容最大トルク値TAで制限されている場合には、速度指令は、F7Bの実線で示すようにその時点の値のままで推移する。速度指令の増加が禁止されると、実旋回速度が増加しない場合であっても速度偏差が増加しない。
その後、時刻t13において、旋回負荷が消失し、F7Cの実線で示すようにトルク電流指令値が許容最大トルク値TA未満となり、トルク制限部53による制限を受けない状態になると、速度指令は、F7Bの実線で示すように、レバー操作量に対応した速度指令に到達するまでの増加を再開させる。なお、速度指令は、時刻t12において増加が禁止されていたため、実旋回速度より僅かに高いレベルに留まっており、速度偏差も小さい。
そのため、コントローラ30は、F7Dの実線で示すように、実旋回速度を比較的緩やかに増加させることができる。すなわち、コントローラ30は、上部旋回体3の旋回速度の急増、及び、掘削アタッチメントの旋回方向への飛び出しを防止できる。
なお、速度指令増減制御処理を実行していない場合には、コントローラ30は、速度指令の増加を禁止しない。そのため、F7Cの破線で示すようにトルク電流指令値が許容最大トルク値TAで制限されている場合であっても、速度指令は、F7Bの破線で示すように増加し続ける。その結果、速度指令は、時刻t13において既にレバー操作量に対応した速度指令値に達しており、実旋回速度よりも顕著に高いレベルにあり、速度偏差は大きい。
そのため、コントローラ30は、F7Dの破線で示すように、実旋回速度を比較的急激に増加させる。すなわち、コントローラ30は、上部旋回体3の旋回速度の急増、及び、掘削アタッチメントの旋回方向への飛び出しを防止できない。
以上の構成により、電動旋回制御装置としてのコントローラ30は、旋回トルクが所定トルクを上回り続ける状態(例えば、トルク電流指令値が許容最大トルク値で制限され続ける状態)を回避すべく速度指令の増減を制御する。そのため、コントローラ30は、慣性モーメントが大きい状態にある上部旋回体3を旋回させる場合であっても、実旋回速度の振動を抑制し、上部旋回体3の旋回速度をより安定的に制御できる。
また、コントローラ30は、速度偏差が過度に大きくなるのを回避すべく速度指令の増減を制御する。そのため、コントローラ30は、引きずり旋回中に旋回負荷が消失して上部旋回体3に対する外力が急減する場合であっても、上部旋回体3の旋回速度の急増、及び、掘削アタッチメントの旋回方向への飛び出しを防止できる。
また、コントローラ30は、駆動指令値、トルク電流指令値、又はモータ電流値に基づいて旋回トルクが所定トルクより大きいか否かを判定する。そのため、コントローラ30は、ショベルの傾斜を検出する傾斜センサ、掘削アタッチメントの姿勢を検出する角度センサ等を利用することなく、また、引きずり旋回が行われているか否かを判断することなく、上述の効果を実現できる。しかしながら、本発明は、傾斜センサ、角度センサ等の利用、及び、引きずり旋回が行われているか否かの判定の実行を排除するものではない。例えば、コントローラ30は、傾斜センサ、角度センサ等の出力に基づいて速度指令の増減を制御してもよい。また、コントローラ30は、引きずり旋回が行われていることを判断した上で、速度指令の増減を制御してもよい。
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、上述の実施例は、バケット6を備えたハイブリッド式ショベルに適用された場合を対象としているが、リフティングマグネット、ブレーカ、フォーク等を備えたハイブリッド式作業機械に適用されてもよい。
また、上述の実施例において、駆動指令生成部50は、トルク制限部53が出力するトルク電流指令をそのまま駆動指令として出力する。しかしながら、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、駆動指令生成部50は、トルク制限部53が出力するトルク電流指令と、インバータ20が現に出力するモータ電流の値に対応するトルク電流指令との偏差を小さくするようにPI制御を行った上で駆動指令を出力してもよい。この場合、コントローラ30は、モータ電流をトルク電流指令に換算する変換部を備える。