以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
図1は、車両用操舵装置10の一例を概略的に示す全体図である。車両用操舵装置10は、運転者が操作するステアリングホイール11を含むステアリングコラム12を備える。ステアリングコラム12は、ステアリングホイール11の回転軸となるステアリングシャフト14を回転可能に支持する。ステアリングシャフト14は、ゴムカップリング13等を介して中間シャフト(インターミディエイトシャフト)16に接続される。中間シャフト16はピニオンシャフト(出力軸)に接続され、ステアリングギアボックス31内でピニオンシャフトのピニオン17がステアリングラック(ラックバー)18に噛合される。ステアリングラック18の両端には、それぞれタイロッド19の一端が接続されると共に各タイロッド19の他端にはナックルアーム等(図示せず)を介して転舵輪(図示せず)が接続されている。また、中間シャフト16又はステアリングシャフト14には、ステアリングホイール11の操舵角に応じた信号を発生する舵角センサ26や、ステアリングシャフト14に付与される操舵トルクに応じた信号を発生するトルクセンサ15が設けられる。尚、トルクセンサ15は、例えば、トーションバーで結合された中間シャフト16(入力軸)とピニオンシャフト(出力軸)にそれぞれ設けられ、これらの軸の回転角度差に基づいてトルクを検出する計2個のレゾルバセンサから構成されてもよい。
尚、図1に示す車両用操舵装置10の構成はあくまで一例であり、車両用操舵装置10の構成自体は、後述の電動パワーステアリング装置20を備える限り、任意であってよい。
車両用操舵装置10は、電動パワーステアリング装置20を備える。電動パワーステアリング装置20は、操舵補助用のアクチュエータ22(以下、「アシストモータ22」という)を備える。アシストモータ22は、例えば3相ブラシレスモータで構成されてよい。アシストモータ22は、ステアリングギアボックス31内にステアリングラック18と同軸に設けられてよい。例えば、アシストモータ22は、ボールねじナットを介してステアリングラック18に噛合されてよい。アシストモータ22は、その駆動力によりステアリングラック18の移動を助勢する。即ち、アシストモータ22の作動時、ロータの回転によりボールねじナットが回転し、これにより、ステアリングラック18を軸方向移動に移動(助勢)させる。電動パワーステアリング装置20の機械的な構成自体は、アシストモータ22の配置場所を含め、任意であってよい。例えば、アシストモータ22は、ステアリングシャフト(ピニオンシャフト等)に噛合されてもよいし、油圧装置を介して助成力を伝達してもよい。電動パワーステアリング装置20のアシストモータ22は、後述のECU80により制御される。アシストモータ22の制御態様については、後述する。
図2は、ECU80の主要な入出力の一例を示す図である。車両用操舵装置10は、以下で説明する各種制御を行うECU80を備える。ECU80は、マイクロコンピュータによって構成されており、例えば、CPU、制御プログラムを格納するROM、演算結果等を格納する読書き可能なRAM、タイマ、カウンタ、入力インターフェイス、及び出力インターフェイス等を有する。
ECU80は、操舵システムを統括する単一のECUにより実現されてもよいし、2つ以上のECUにより協動して実現されてもよい。ECU80には、以下で説明する各種制御を実現するための情報ないしデータが入力される。例えば、ECU80には、トルクセンサ15、回転角センサ24、舵角センサ26、車速センサ(図示せず)等から各種のセンサ値が所定周期毎に入力されてよい。また、ECU80には、後述するU−V、V−W及びW−U通電経路のそれぞれに流れる電流を検出する電流センサが接続又は内蔵される。また、ECU80には、制御対象としてアシストモータ22が接続されている。
ECU80は、トルクセンサ15や回転角センサ24等の出力信号に基づいて、アシストモータ22で発生させるべきアシストトルク(アシスト力)に関する目標値を決定する。アシストトルクに関する目標値は、電流や電圧等を含む任意の物理量であってよく、例えば、アシストモータ22に印加するアシストモータ電流値(モータ駆動デューティ)であってよい。アシストトルクに関する目標値は、任意の態様で決定されてもよい。例えば、アシストトルクに関する目標値は、運転者による操舵トルクの増加に応じてアシストトルクが大きくなるように決定され、車速が大きい場合は小さい場合よりアシストトルクが小さくように決定されてもよい。また、アシストモータ22に印加されるアシストモータ電流値は、アシストモータ22(ロータ)の回転角度を検出する回転角センサ24の出力信号に基づいてフィードバック制御されてよい。
図3は、電動パワーステアリング装置20に係る電力供給系の主要部の一例を示す図である。
図3に示すように、アシストモータ22には、第1インバータ71及び第2インバータ72が並列に接続される。尚、第1インバータ71及び第2インバータ72は、それぞれ、第1系統の駆動回路及び第2系統の駆動回路の一例である。第1インバータ71及び第2インバータ72は、それぞれ、電源電圧(+B)に接続される。尚、電源電圧は、車載バッテリやオルタネータ等であってよい。
第1インバータ71は、6個のスイッチング素子S1乃至S6で構成される3相ブリッジ回路を含んでよい。スイッチング素子S1乃至S6は、トランジスタ等の任意のスイッチング素子であってよい。第1インバータ71に印加される直流電流は、3相ブリッジ回路により3相交流電力に変換される。第1インバータ71のスイッチング素子S1乃至S6は、マイコン81及び第1プリドライバIC82により制御される。具体的には、マイコン81は、アシストトルクに関する目標値を決定し、第1プリドライバIC82は、その目標値に対応するスイッチングパターンをスイッチング素子S1乃至S6に印加する。
同様に、第2インバータ72は、6個のスイッチング素子S7乃至S12で構成される3相ブリッジ回路を含んでよい。スイッチング素子S7乃至S12は、トランジスタ等の任意のスイッチング素子であってよい。第2インバータ72に印加される直流電流は、3相ブリッジ回路により3相交流電力に変換される。第2インバータ72のスイッチング素子S7乃至S12は、マイコン81及び第2プリドライバIC83により制御される。具体的には、マイコン81は、アシストトルクに関する目標値を決定し、第2プリドライバIC83は、その目標値に対応するスイッチングパターンをスイッチング素子S7乃至S12に印加する。
尚、図3に示す例では、第1インバータ71、第2インバータ72、マイコン81、第1プリドライバIC82、第2プリドライバIC83及び電源回路84は、ECU80の構成要素である。但し、ECU80は、その他の構成要素を含んでもよいし、一部が外部に設けられてもよい。例えば、第1インバータ71及び第2インバータ72は、ECU80の外部に設けられてもよい。更に、ECU80は、アシストモータ22と一体的にモジュール化されるものであってもよい。
第1インバータ71と電源電圧の間には、第1スイッチ73が設けられる。第1スイッチ73は、図3に示すように、リレー式のスイッチ(機械的なスイッチ)であってもよく、或いは、トランジスタ等のような半導体のスイッチング素子であってもよい。
同様に、第2インバータ72と電源電圧の間には、第2スイッチ74が設けられる。第2スイッチ74は、図3に示すように、リレー式のスイッチ(機械的なスイッチ)であってもよく、或いは、トランジスタ等のような半導体のスイッチング素子であってもよい。第1スイッチ73及び第2スイッチ74は、第1インバータ71及び第2インバータ7に対応して、電源電圧に並列に接続される。
尚、第1インバータ71及び第2インバータ72と電源電圧の間には、任意的な構成としてDC−DCコンバータ90が接続されてもよい。DC−DCコンバータ90は、電源電圧を昇圧して、第1インバータ71及び第2インバータ72側に出力する。DC−DCコンバータ90は、任意の構成であってよく、例えば同期整流型の非絶縁型DC/DCコンバータであってよい。
図3に示す構成によれば、第1インバータ71及び第2インバータ72がアシストモータ22に並列に接続されているので、第1インバータ71及び第2インバータ72のうちのいずれか一方を作動させるだけで、アシストモータ22を作動させることができる。
第1インバータ71を作動させる場合、マイコン81は、上述の如くアシストモータ22で発生させるべきアシストトルクに関する目標値を決定すると、第1スイッチ73をオンとし且つ第2スイッチ74をオフとすると共に、第1プリドライバIC82を介して、目標値に対応するスイッチングパターンをスイッチング素子S1乃至S6に印加する。かかるスイッチングパターンがスイッチング素子S1乃至S6に印加されると、スイッチング素子S1乃至S6がスイッチングパターンに従ってオン/オフし、U−V、V−W及びW−Uの各通電状態が順次切り替わる。
例えば、スイッチング素子S1及びS5がオンし、他のスイッチング素子がオフすると、上アームのスイッチング素子S1からアシストモータ22のU相のモータ巻線、V相のモータ巻線を通り、下アームのスイッチング素子S5を通って流れる通電が実現される。尚、以下では、この通電経路を、「U−V通電経路」と称する。U−V通電経路における異常は、このU−V通電経路を構成する電線の断線やスイッチング素子S1、S5の故障等が要因となる。
また、スイッチング素子S2及びS6がオンし、他のスイッチング素子がオフすると、上アームのスイッチング素子S2からアシストモータ22のV相のモータ巻線、W相のモータ巻線を通り、下アームのスイッチング素子S6を通って流れる通電が実現される。尚、以下では、この通電経路を、「V−W通電経路」と称する。V−W通電経路における異常は、このV−W通電経路を構成する電線の断線やスイッチング素子S2、S6の故障等が要因となる。
また、スイッチング素子S3及びS4がオンし、他のスイッチング素子がオフすると、上アームのスイッチング素子S3からアシストモータ22のW相のモータ巻線、U相のモータ巻線を通り、下アームのスイッチング素子S4を通って流れる通電が実現される。尚、以下では、この通電経路を、「W−U通電経路」と称する。W−U通電経路における異常は、このW−U通電経路を構成する電線の断線やスイッチング素子S3、S4の故障等が要因となる。
U−V通電経路、U−V通電経路及びW−U通電経路を介した通電は、周期的に順次切り替わる態様で実現され、これにより、アシストモータ22の回転トルクが発生される。
第2インバータ72を作動させる場合、マイコン81は、上述の如くアシストモータ22で発生させるべきアシストトルクに関する目標値を決定すると、第1スイッチ73をオフとし且つ第2スイッチ74をオンとすると共に、第2プリドライバIC83を介して、目標値に対応するスイッチングパターンをスイッチング素子S7乃至S12に印加する。かかるスイッチングパターンがスイッチング素子S7乃至S12に印加されると、スイッチング素子S7乃至S12がスイッチングパターンに従ってオン/オフし、U−V、V−W及びW−Uの各通電状態が順次切り替わる。
同様に、例えば、スイッチング素子S7及びS11がオンし、他のスイッチング素子がオフすると、上アームのスイッチング素子S7からアシストモータ22のU相のモータ巻線、V相のモータ巻線を通り、下アームのスイッチング素子S11を通って流れる通電が実現される。尚、以下では、この通電経路を、「U−V通電経路」と称する。U−V通電経路における異常は、このU−V通電経路を構成する電線の断線やスイッチング素子S7、S11の故障等が要因となる。
また、スイッチング素子S8及びS12がオンし、他のスイッチング素子がオフすると、上アームのスイッチング素子S8からアシストモータ22のV相のモータ巻線、W相のモータ巻線を通り、下アームのスイッチング素子S12を通って流れる通電が実現される。尚、以下では、この通電経路を、「V−W通電経路」と称する。V−W通電経路における異常は、このV−W通電経路を構成する電線の断線やスイッチング素子S8、S12の故障等が要因となる。
また、スイッチング素子S9及びS10がオンし、他のスイッチング素子がオフすると、上アームのスイッチング素子S9からアシストモータ22のW相のモータ巻線、U相のモータ巻線を通り、下アームのスイッチング素子S10を通って流れる通電が実現される。尚、以下では、この通電経路を、「W−U通電経路」と称する。W−U通電経路における異常は、このW−U通電経路を構成する電線の断線やスイッチング素子S9、S10の故障等が要因となる。
U−V通電経路、U−V通電経路及びW−U通電経路を介した通電は、周期的に順次切り替わる態様で実現され、これにより、アシストモータ22の回転トルクが発生される。
また、図3に示す構成によれば、第1インバータ71及び第2インバータ72は、双方が同時に作動することも可能である。この場合、マイコン81は、第1スイッチ73をオンとし且つ第2スイッチ74をオンとすると共に、アシストトルクに関する目標値を決定し、その目標値を所定比率で分配した分配目標値を、第1プリドライバIC82及び第2プリドライバIC83に与える。例えば、第1インバータ71及び第2インバータ72を1:9の比率で作動させる場合、目標値の10%に対応するスイッチングパターンをスイッチング素子S1乃至S6に印加すると共に、目標値の90%に対応するスイッチングパターンをスイッチング素子S7乃至S12に印加する。この際、第1インバータ71に係るU−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路を流れる電流は、第2インバータ72に係るU−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路を流れる電流に、それぞれ重畳されることになる。これにより、結果として、目標値の100%が実現されるような通電が実行されることになる。
尚、第1インバータ71及び第2インバータ72は、好ましくは、同一の定格であり、単独でアシストトルクの最大値(設計で意図される最大値)を発生させることができる能力を備える。即ち、第1インバータ71及び第2インバータ72は、いずれも、単独の作動時に、アシストトルクの最大値を発生させることができる。尚、アシストトルクの最大値は、アシストトルクに関する目標値の取りうる最大値に対応する。以下では、第1インバータ71及び第2インバータ72が同一の定格であり、単独でアシストトルクの最大値を発生させることができる能力を備えることを前提として、説明を続ける。
尚、上述した実施例では、アシストモータ22の各相のモータ巻線は、一系統であり、同一相の巻線に対して第1インバータ71及び第2インバータ72が並列接続されているものとする。但し、モータ巻線も二系統であってもよい。この場合、第1系統の各相のモータ巻線に対して第1インバータ71が接続され、第2系統の各相のモータ巻線に対して第2インバータ72が接続される態様で、アシストモータ22に対して第1インバータ71及び第2インバータ72が並列接続されればよい。アシストモータ22の各相のモータ巻線が一系統である場合、第1インバータ71に係るU−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路は、第2インバータ72に係るU−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路のそれぞれに対して、共通の経路部分(モータ巻線とそれに接続される分岐までの部分)を有する。他方、アシストモータ22の各相のモータ巻線が二系統である場合、第1インバータ71に係るU−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路は、第2インバータ72に係るU−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路のそれぞれに対して、完全に独立である。尚、モータ巻線が二系統である場合は、6つの電流センサがそれぞれ合計6つの通電経路用に設けられてよい。他方、モータ巻線が一系統である場合は、同様に6つの電流センサが設けられてもよいし、2つのU−V通電経路に対して共通の1つ、2つのV−W通電経路に対して共通の1つ、2つのW−U通電経路に対して共通の1つの合計3つの電流センサが設けられてもよい。合計3つの電流センサの場合、例えば2つのU−V通電経路に異常が検出された場合であっても、いずれのU−V通電経路に異常があるかを特定できない場合(例えば、2つのU−V通電経路の双方に通電を行っている場合)がある。しかしながら、後述の如くいずれかを特定する必要がないので、このことは問題とならない(尚、いずれかを特定したい場合は、一方のみに一時的に通電を行って、その際の電流値を見ればよい)。
図4は、マイコン81により実行される主要処理の一例を示すフローチャートである。図4に示す処理ルーチンは、例えば、アシストトルクに関する目標値が0より大きい間(即ちアシストトルクを発生させている間)、所定周期毎に繰り返し実行されてよい。尚、ここでは、一例として、異常がない状況下では、第1インバータ71及び第2インバータ72のうちの第1インバータ71が作動されるものとする(第2インバータ72は非作動状態とされるものとする)。
ステップ400では、第1インバータ71に係るU−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路のいずれかに異常があるか否かを判定する。この異常判定は、第1インバータ71の作動中、所定周期毎に繰り返し実行される。異常判定は、U−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路毎の異常を検出できる態様で実行される。この判定方法は、多種多様であるが、例えばU−V通電経路の異常については、U−V通電経路に流れるべき電流値(目標値に対応する電流値)と実際の検出値との乖離に基づいて判定されてもよい。この場合、乖離が所定基準より大きい場合に、U−V通電経路に異常があると判定することとしてよい。或いは、U−V通電経路に流れるべき電流値がゼロよりも有意に大きいのに対して、実際の検出値がゼロで固定されている場合(通電不能となっている場合)に、U−V通電経路に異常があると判定することとしてよい。同様に、V−W通電経路の異常については、V−W通電経路に流れるべき電流値(目標値に対応する電流値)と実際の検出値との乖離等に基づいて判定されてもよい。第1インバータ71に係るU−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路のいずれかに異常が検出された場合には、ステップ402に進む。第1インバータ71に係るU−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路のいずれにも異常が検出されない場合は、ステップ400に戻り、次の処理周期で再度、異常判定が実行される。
ステップ402では、第1異常時通電制御が実行される。第1異常時通電制御では、第2インバータ72が作動開始される。また、第1インバータ71については、異常が検出されたにも拘らず、作動が部分的に継続される。即ち、第1インバータ71については、U−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路のうちの異常でない通電経路を用いて、通電が継続される。
図4に示す処理によれば、第1インバータ71の作動時に異常が検出された場合に、第2インバータ72を作動させることによって、異常時におけるアシスト能力の低下を低減することが可能となる。また、第1インバータ71の作動時に異常が検出された場合に、第1インバータ71に係るU−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路のうちの使用可能な通電経路を使用して通電を継続することによって、第2インバータ72の作動負荷を低減することが可能となり、異常時における第2インバータ72への熱集中を防止することができる。即ち、第1インバータ71の作動時に異常が検出された場合に第1インバータ71を完全に停止させて第2インバータ72を作動させる比較例では、その後、第2インバータ72への熱集中が問題となるが、図4に示す処理によれば、第1インバータ71の作動時に異常が検出された場合にも第1インバータ71の作動を部分的に継続するので、必要なアシスト能力を実現するための第2インバータ72の作動負荷が低減され、第2インバータ72への熱集中を防止することができる。また、第1インバータ71の作動時に異常が検出された場合に第1インバータ71を完全に停止させて第2インバータ72を作動させる比較例では、第1インバータ71の停止時から第2インバータ72の作動までの通電の遅れに伴って一時的なアシストトルクの低下が生じうるが、図4に示す処理によれば、第1インバータ71の作動を可能な範囲で継続するので、かかる一時的なアシストトルクの低下を低減することができる。
図5は、上述の図4のステップ402で実行されてよい第1異常時通電制御の一例を示す表図である。ここでは、第1インバータ71に係るU−V通電経路のみに異常が検出され、V−W通電経路及びW−U通電経路に異常が検出されない場合を、一例として想定する。この場合、図5に示すように、第1インバータ71に係るU−V通電経路に対する通電は停止される(通電不能である)。他方、第1インバータ71に係るV−W通電経路及びW−U通電経路に対して、それぞれ50%の通電が実行される。ここで、50%の通電とは、アシストトルクに関する目標値の50%が実現されるように第1インバータ71が作動されるときの通電状態(スイッチングパターン)に対応する。
また、第2インバータ72については、U−V通電経路に対して、100%の通電が実行される。同様に、100%の通電とは、アシストトルクに関する目標値の100%が実現されるように第2インバータ72が作動されるときの通電状態に対応する。第2インバータ72に係るV−W通電経路及びW−U通電経路に対して、それぞれ50%の通電が実行される。同様に、50%の通電とは、アシストトルクに関する目標値の50%が実現されるように第2インバータ72が作動されるときの通電状態に対応する。
尚、図5に示す例では、第1インバータ71及び第2インバータ72の双方でV−W通電経路(W−U通電経路についても同じ)に対して50%の通電がそれぞれ実行されるが、この際の通電は同期されてよい。即ち、第1インバータ71及び第2インバータ72に印加されるスイッチングパターンのV−W通電経路に係る部分は実質的に同じであってよい(%が同じであり、定格が同じである場合)。即ち、スイッチング素子S2及びS6は、スイッチング素子S8及びS12とそれぞれ同期し、スイッチング素子S3及びS4は、スイッチング素子S9及びS10とそれぞれ同期して動作してよい。
図5に示す例によれば、U−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路の各通電経路に関して、第1インバータ71及び第2インバータ72の同時作動により、合計100%の通電が実現される。これにより、異常検出後においても、異常前と同様の態様でアシストトルクを発生させることができる。即ち、第1インバータ71の作動時に異常が発生した場合であっても、異常前におけるアシスト能力を維持することができる。
尚、図5に示す例では、U−V通電経路のみに異常が検出された場合を想定しているが、V−W通電経路のみに異常が検出された場合や、W−U通電経路のみに異常が検出された場合についても実質的に同様である。
また、図5に示す例では、数値が例示されているが、かかる数値は適切に変更されてもよい。例えば、第1インバータ71に係るV−W通電経路及びW−U通電経路に対して、それぞれ100%の通電が実行され、第2インバータ72に係るU−V通電経路に対して、100%の通電が実行されてもよい。この場合も、U−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路の各通電経路に関して合計100%の通電が実現される。また、U−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路の各通電経路に関して合計が100%になる必要は必ずしもなく、100%より大きくなってもよいし、小さくなってもよい。
また、図5に示す例では、U−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路のうちの1つの通電経路(U−V通電経路)に異常が検出された場合を想定しているが、2つの通電経路に異常が同時に検出された場合も同様に適用可能である。例えば、第1インバータ71に係るU−V通電経路及びV−W通電経路に異常が同時に検出された場合、第1インバータ71に係るW−U通電経路に対して、50%の通電が実行され、第2インバータ72に係るU−V通電経路及びV−W通電経路に対して、それぞれ100%の通電が実行され、第2インバータ72に係るW−U通電経路に対して、50%の通電が実行されてもよい。その他の2つの通電経路の組合せについても同様である。また、例えば、第1インバータ71に係るU−V通電経路及びV−W通電経路に異常が同時に検出された場合、第1インバータ71に係るW−U通電経路に対して、100%の通電が実行され、第2インバータ72に係るU−V通電経路及びV−W通電経路に対して、それぞれ100%の通電が実行されてもよい。同様に、U−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路の各通電経路に関して合計が100%になる必要は必ずしもなく、100%より大きくなってもよいし、小さくなってもよい。
図6は、上述の図4のステップ402で実行される第1異常時通電制御中においてマイコン81により実行される主要処理の一例を示すフローチャートである。
ステップ600では、第1異常時通電制御中に使用されるU−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路のいずれかに異常があるか否かを判定する。この異常判定は、第1異常時通電制御中、所定周期毎に繰り返し実行される。例えば、図5に示す例では、第1インバータ71に係るV−W通電経路及びW−U通電経路、第2インバータ72に係るU−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路の各通電経路のいずれかに異常があるか否かを判定する。異常判定方法は、上述の如く、各通電経路に流れるべき電流値(目標値に対応する電流値)と実際の検出値との乖離に基づいて判定されてもよい。尚、双方のインバータにより通電される通電経路(図5に示す例では、V−W通電経路及びW−U通電経路)については、第1インバータ71に係る通電経路の異常であるか第2インバータ72に係る通電経路の異常であるかを特定できなくてもよい。この場合、かかる通電経路に対しては、以下で説明する第2異常時通電制御により、第1インバータ71及び第2インバータ72において100%の通電が実行されればよい。このとき、異常な方の通電経路は100%とならず0%(通電が完全に不能な場合)となるので、結果として合計が100%となるためである。
ステップ600において第1異常時通電制御中に使用されるU−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路のいずれかに異常が検出された場合には、ステップ602に進み、いずれにも異常が検出されない場合には、ステップ600に戻り、次の処理周期で再度、異常判定が実行される。
ステップ602では、第2異常時通電制御が実行される。第2異常時通電制御では、第2インバータ72及び第1インバータ71について、U−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路のうちの異常でない通電経路を用いて、通電が継続される。これにより、異常時におけるアシスト能力の低下を低減することを可能としつつ、異常時における発熱の分散化を適切に図ることが可能となる。
図6に示す処理によれば、第1インバータ71の作動時に異常が検出された後、更に、第2インバータ72の作動時に異常が検出された場合(即ち2重異常の場合)でも、U−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路のうちの異常でない通電経路を用いて通電を継続することで、2重異常時におけるアシスト能力の低下を低減することが可能となる。また、2重異常時に第1インバータ71及び第2インバータ72のいずれか一方への熱集中を防止することができる。
図7は、上述の図6のステップ602で実行されてよい第2異常時通電制御の一例を示す表図である。ここでは、第1インバータ71に係るU−V通電経路に異常が検出され、その後、第1異常時通電制御中に、第2インバータ72に係るV−W通電経路に異常が検出された場合を、一例として想定する。即ち、図6のステップ600において、第2インバータ72に係るV−W通電経路に異常が検出された場合を想定する。
この場合、図7に示すように、第1インバータ71に係るU−V通電経路に対する通電は停止状態のままである(通電不能である)。他方、第1インバータ71に係るV−W通電経路に対して、100%の通電が実行される。ここで、100%の通電とは、アシストトルクに関する目標値の100%が実現されるように第1インバータ71が作動されるときの通電状態に対応する。第1インバータ71に係るW−U通電経路に対して、50%の通電が維持される。
また、第2インバータ72については、U−V通電経路に対して、100%の通電が維持される。第2インバータ72に係るV−W通電経路に対しては、通電は停止される(通電不能である)。第2インバータ72に係るW−U通電経路に対して、50%の通電が維持される。
図7に示す例によれば、U−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路の各通電経路に関して、第1インバータ71及び第2インバータ72の同時作動により、合計100%の通電が実現される。これにより、2重異常検出後においても、正常時と同様の態様でアシストトルクを発生させることができる。即ち、第1インバータ71に続き第2インバータ71に異常が発生した場合であっても、異常前におけるアシスト能力を維持することができる。
尚、図7に示す例では、第2インバータ72について、V−W通電経路に異常が検出された場合を想定しているが、W−U通電経路に異常が検出された場合についても実質的に同様である。但し、第2インバータ72について、U−V通電経路に異常が検出された場合には、第1インバータ71及び第2インバータ72共にU−V通電経路による通電が不能となるので、アシスト能力の低下が生じる。
また、図7に示す例では、数値が例示されているが、かかる数値は適切に変更されてもよい。例えば、第1インバータ71に係るW−U通電経路に対して、100%の通電が実行され、第2インバータ72に係るW−U通電経路に対して通電が停止されてもよいし、逆に、第1インバータ71に係るW−U通電経路に対して通電が停止され、第2インバータ72に係るW−U通電経路に対して100%の通電が実行されてもよい。この場合も、U−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路の各通電経路に関して合計100%の通電が実現される。また、U−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路の各通電経路に関して合計が100%になる必要は必ずしもなく、100%より大きくなってもよいし、小さくなってもよい。
また、図7に示す例では、第2インバータ72に係るU−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路のうちの1つの通電経路(U−V通電経路)に異常が検出された場合を想定しているが、2つの通電経路に異常が同時に検出された場合も同様に適用可能である。例えば、第2インバータ71に係るV−W通電経路及びW−U通電経路に異常が同時に検出された場合、第1インバータ71に係るV−W通電経路に対して、100%の通電が実行され、第1インバータ71に係るW−U通電経路に対して、100%の通電が実行されてもよい。
また、図7に示す例では、第2インバータ72に係るU−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路のいずれかに異常が検出された場合を想定しているが、第1インバータ71に係る他の通電経路に異常が新たに検出された場合についても同様に適用可能である。例えば、図5に示す通電状態による第1異常時通電制御中に、第1インバータ71に係るV−W通電経路に異常が新たに検出された場合、第1インバータ71に係るW−U通電経路に対して、50%の通電が維持され、第2インバータ72に係るU−V通電経路及びV−W通電経路に対して、それぞれ100%の通電が実行され、第2インバータ72に係るW−U通電経路に対して、50%の通電が維持されてもよい。その他の2つの通電経路の組合せについても同様である。また、例えば、第1インバータ71に係るV−W通電経路に異常が新たに検出された場合、第1インバータ71に係るW−U通電経路に対して、100%の通電が実行され、第2インバータ72に係るU−V通電経路及びV−W通電経路に対して、それぞれ100%の通電が実行されてもよい。同様に、U−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路の各通電経路に関して合計が100%になる必要は必ずしもなく、100%より大きくなってもよいし、小さくなってもよい。
また、同様に、第2異常時通電制御中において、第2異常時通電制御中に使用されるU−V通電経路、V−W通電経路及びW−U通電経路の異常の有無を継続的に監視し、いずれかに新たに異常が検出された場合に、第3異常時通電制御を実行することとしてもよい。例えば、図7に示す通電状態による第2異常時通電制御中に、更に、第1インバータ71に係るW−U通電経路及び第2インバータ72に係るW−U通電経路のいずれかに異常が検出された場合、異常が検出されない方のW−U通電経路に対して100%の通電が実行されてよい。同様に、この場合、異常が検出されない方のW−U通電経路に対する通電は、100%より大きくなってもよいし、小さくなってもよい。
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、上述した実施例では、第1インバータ71の作動時に異常が検出された場合に、非作動状態の第2インバータ72が作動開始するものであるが、逆であってもよい。即ち、第1インバータ71と第2インバータ72とを読み替えて実現してもよい。
また、上述した実施例において、異常が検出されない状況下においても、第1インバータ71と第2インバータ72は、所定の切換条件に基づいて作動が切り換えられてもよい。例えば、第1インバータ71と第2インバータ72は、操舵方向(左回転又は右回転)に応じて切り換えられてもよい。この場合、作動中のインバータに対して図4の処理が実行されればよい。
また、上述した実施例において、異常が検出されない状況下において、第1インバータ71と第2インバータ72とが同時に作動していてもよい。この場合、作動中の全ての通電経路を監視対象として図4の処理が実行されればよい。例えば、第1インバータ71と第2インバータ72とが同時に作動しているときに、第1インバータ71に係るU−V通電経路に異常が検出された場合に、図5に示す通電態様を実現してもよい。
また、上述した実施例では、第1インバータ71及び第2インバータ72が同一の定格であることを前提としたが、第1インバータ71及び第2インバータ72は、必ずしも同一の定格である必要はない。例えば、第2インバータ72が第1インバータ71の系統の異常時のみに作動される構成の場合、第2インバータ72は、第1インバータ71よりも定格が低いものであってもよい。但し、この場合、第1インバータ71の異常時に上述の第1異常時通電制御を行うと、異常前よりもアシスト能力が低下しうる点で不利な構成となる。
また、上述した実施例では、第1スイッチ73及び第2スイッチ74により第1インバータ71及び第2インバータ72と電源電圧との接続/遮断状態を形成しているが、第1スイッチ73及び第2スイッチ74を省略してもよい。この場合、第1インバータ71及び第2インバータ72へ印加されるスイッチングパターンにより同様の状態を形成してもよい。例えば、第1インバータ71と電源電圧との遮断状態は、第1インバータ71が作動しないようなスイッチングパターンを第1インバータ71に印加することで実現されてもよい。
また、上述した実施例では、第1インバータ71及び第2インバータ72のそれぞれに対応して第1プリドライバIC82及び第2プリドライバIC83が設けられているが、共用のプリドライバIC(単一のプリドライバIC)で置換されてもよい。尚、この場合、第1インバータ71と第2インバータ72とを同時に作動させる場合、異なる態様で作動させることができないが、図5等に示すような異常時通電制御は可能である。即ち、図5等に示した%であれば実現できる。例えば、図5の例では、U−V通電経路に対しては、第1インバータ71が通電停止であり、第2インバータ72が100%であるが、U−V通電経路について第1インバータ71に100%に対応するスイッチングパターンを印加しても、第1インバータ71に係るU−V通電経路については異常により通電がゼロ(通電停止)になるためである。
また、上述した実施例では、アシストモータ22は、3相であったが、相数は任意である。また、アシストモータ22の巻線構成についても任意であり、例えばデルタ結線やスター結線であってよい。また、アシストモータ22は、交流モータである必要もなく、例えば直流ブラシレスモータであってもよい。要するに、アシストモータ22は、2系統の駆動回路を備え、各駆動回路により、1系統につき2つ以上の通電経路を順次切り換えて通電を行う構成であればよい。
また、上述した実施例では、2系統であったが、3系統以上であってもよい。
また、上述した実施例では、異常とは、完全に通電不能な状態を指しているが、部分的に通電不能な状態(即ち目標値に対応する通電が不能な状態)を含んでもよい。