JP5869217B2 - チャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法 - Google Patents

チャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、チャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法、特に、茶抽出液又は茶抽出乾燥残分の水溶液を対象とする処理方法の改良に係る。
チャフロサイド(chafuroside)は、天然に微量にしか存在せず、故に近年になって初めてウーロン茶から単離され、構造決定された天然化合物である(特許文献1)。それらは次に示す構造式を有し、フラボン誘導体の一種であるフラボンC配糖体に分類され、各々、チャフロサイドA、チャフロサイドBと命名されている。
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チャフロサイドの効果作用としては、上記単離構造決定時の指標として用いられた抗アレルギー作用、あるいは発癌抑制作用(特許文献2)などが知られている。また、チャフロサイドが単離されたウーロン茶は、近年、日本においてもごく一般的な飲み物となってきていることから、チャフロサイドの更なる効果作用の解明、及び市場への供給が待たれるが、ウーロン茶中における含有量が少なく、その精製も面倒なため、その量の確保が大きな問題となっている。
その解決法として、ハーブなどに含まれるイソビテキシンおよびビテキシンを原料として、1、1’−アゾビスN、N’−ジメチルホルムアミド、トリ−n−ブチルホスフィンを用いた合成法(特許文献3)、あるいは、非プロトン性溶媒中で、ルイス酸触媒の存在下で、ベンゼン環に糖類を結合させる第1段階、非プロトン性溶媒中で、糖とベンゼン環の結合化合物をアゾジカルボン酸アミド等と反応させる第2段階を経る合成法(特許文献4)が報告されている。
一方、茶類は、その製造工程中の発酵度合いにより主に緑茶に代表される不発酵茶、ウーロン茶に代表される半発酵茶、紅茶に代表される完全発酵茶の3種類に大別され、世界中で幅広く飲用されている。緑茶の代表的効能としては、発ガン抑制、抗酸化、抗菌(抗ウイルス)、覚
醒、血圧・血糖値降下、消臭、虫歯予防が知られている。ウーロン茶の作用としては、抗酸化作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用、α−グルコシダーゼ( a l p h a - g l u c o s i d a s e )阻害作用、グルコシルトランスフェラーゼ( g l u c o s y l t r a n s f e r a s e )阻害作用等が知られている。
しかしながら、茶葉中のチャフロサイドの茶葉抽出物(Oolong tea active compound:OTAC)としての含有量は、HPLC分析法によれば、ウーロン茶で一番高く24.8μg/g(茶葉)であり、緑茶で80ng/g(茶葉)、焙じ茶で2.4μg/g(茶葉)、紅茶で80ng/g(茶葉)程度であることが開示されている(特許文献2)。あるいは、特許文献5には、チャフロサイドAとBは茶間に大きな差が認められ、緑茶及び紅茶中の含量は茶葉1グラム当たり数10ngで、銘柄間の差はほとんどなく、焙じ茶とウーロン茶ではバラツキはあるが含量は茶葉1グラム当たり数μgで、焙じ茶では銘柄間には有意な差はなく、ウーロン茶では大きな差があった旨が記載されている(同段落番号0083)。
このように、我々の日常生活において継続摂取することによる、各種の疾病、習慣病に対する予防・治療効果が、「お茶」に含まれるチャフロサイドに期待されているにも拘らず、茶葉中のチャフロサイド含量はきわめて低いという問題がある。
そこで、茶葉中のチャフロサイド含量を高めようとする試みがなされている。すなわち、特許文献2には、「焙じ茶は、緑茶を180℃以上の高温で処理したものであるが、同一茶葉を熱処理することによって、OTAC(チャフロサイドA)の含量が数倍増加するという結果が得られた。」との実施例1が開示されており、含有量が低い緑茶等の茶葉についても熱処理(例えば、180℃以上の高温処理)を施すことにより、効率的にOTAC(チャフロサイドA)を取得することが可能である旨が記載されている(同段落番号0031)。しかしながら、その増加量は高々5倍に過ぎない(同段落番号0050)。特許文献5には、製茶葉中でチャフロサイドAとBは加熱によって生成し、その至適温度は茶葉では160〜180℃の範囲であること、温度が高すぎると分解すること、160℃、約40分間の加熱でその生成量は極大となることが開示されている(同段落番号0091)。具体的には、加熱処理前のチャフロサイドA及びBの含量、50ng/g茶葉及び39ng/g茶葉(同段落番号0081の表2)が、最大で160℃、80分間の加熱で約180倍(8.872μg/g茶葉)、210倍(7.995μg/g茶葉)に増加している(同段落番号0090の表4)。また、特許文献6には、茶葉を115〜125℃で100〜350分間、あるいは125〜150℃で10〜240分間加熱処理する方法が開示されている(同請求項5)。そして、最も加熱時間が少ないのは、150℃での10分間の加熱処理であり、その際にチャフロサイドは286倍(18μg/g茶葉)に増えている(同実施例3)。
特開2004−035474号公報 特開2006−342103号公報 特開2005−289888号公報 特開2005−314260号公報 WO2010/076879号公報 特開2009−131161号公報
しかしながら、上記の熱処理後の茶葉中のチャフロサイド含量の定量は、熱処理した茶葉に対し、50%メタノール水溶液(特許文献5)、あるいは40〜60wt%メタノール水溶液(特許文献6)を用いて抽出した抽出液中を用いて行われている。当然、お茶飲料製造時の通常の水(好ましくは熱水)抽出により得られる数値より高めの数値となっていることが予測され、実際のお茶飲料でどの程度の含量になるのかは不明である。また、茶葉は嵩高い素材であるため、茶葉を同時に大量に加熱処理することは加熱釜のサイズからして難しく、さらには、大量の茶葉に均等に熱をかけるには技術的な困難さが予想される。そして何よりも、上記のように、高温かつ長時間の熱処理を行った場合、茶葉自体の品質(茶の香り、風味、色味など)が低下するという欠点がある。したがって、このような熱処理を行った茶葉を実用に付し、最終的に飲料等として供する場合には少なからぬ問題が生じる。また、実製造の面でも、このように150℃以上の加熱のためには、通常の加圧水蒸気による加熱に代わる設備が必要となり、経済的にも実用性に欠ける。
本発明においては、上記のように、茶葉を高温加熱処理することに伴う欠点を改善し、お茶飲料の品質(茶の香り、風味、色味など)を損なうことなく、比較的低温で短時間の加熱処理によって、チャフロサイド類高含有のお茶飲料の製造方法を提供することを目的とするものである
上記事情に鑑み、茶葉、茶葉の粉末、または茶渋を高温で長時間加熱して、チャフロサイド類高含有な茶葉、茶葉の粉末、または茶渋を得る方法ではなく、酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物の存在下、茶葉、茶葉の粉末、または茶渋から得られた水(好ましくは熱湯)抽出液を、pH5〜10.6の範囲において、100〜150℃で加熱処理することにより、お茶の品質を維持しつつ、チャフロサイド類高含有茶水溶液を製造する方法を明らかにし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、茶葉又は茶渋、若しくは茶葉又は茶渋の粉末から得られた茶抽出液又は茶抽出乾燥残分から、チャフロサイド類高含有茶水溶液を製造する方法で、前記製造方法が、以下の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする製造方法である。
(1)下記の加熱工程に先立ついずれかの過程で、酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物を添加する工程、
(2)前記工程(1)において、下記加熱工程に付す水溶液のpHを5〜10.6に調整する工程、および
(3)前記工程(2)を経て得られるpH調整済茶抽出水溶液を、100〜150℃で加熱処理し、チャフロサイド類高含有茶水溶液を得る工程。
本発明にかかるチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法は、チャフロサイド類が、チャフロサイドA及び/又はチャフロサイドBであることを特徴とするチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法である。
本発明にかかるチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法は、前記工程(1)で用いられる酸、塩基、及び塩が、食品添加物用の酸、塩基、及び塩であることを特徴とするチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法である。
本発明にかかるチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法は、前記茶抽出液又はその希釈水溶液、若しくは茶抽出乾燥残分又はその水溶液に対し、前記工程(1)で用いられる酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物を添加し、pH調整済茶抽出水溶液を得ることを特徴とするチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法である。
本発明にかかるチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法は、前記工程(1)で用いられる酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物を添加した水溶液を用いて、茶葉又は茶渋、若しくは茶葉又は茶渋の粉末を抽出し、pH調整済茶抽出水溶液を得ることを特徴とするチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法である。
本発明にかかるチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法は、前記pH調整済茶抽出水溶液中における、前記工程(1)で用いられる酸、塩基、塩のいずれかの濃度、若しくはそれらの混合物の合計濃度が0.625〜100ミリモルであり、前記pH調整済茶抽出水溶液は、茶葉又は茶渋、若しくは茶葉又は茶渋の粉末5gに対し、水を1Lの割合で用いて調製されたものであることを特徴とするチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法である。
本発明にかかるチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法は、前記工程(2)におけるpHが5〜7であることを特徴とするチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法である。
本発明にかかるチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法は、前記工程(3)における加熱処理が、加熱時間15秒〜8分であることを特徴とするチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法である。
本発明にかかるチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法は、前記工程(3)における加熱処理が、マイクロウェーブ若しくは熱交換器を用いた加熱処理であることを特徴とするチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法である。
本発明にかかるチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法は、前記工程(2)におけるpHが6〜8、かつ、前記工程(3)における加熱処理が、加熱温度130〜150℃、加熱時間15秒〜2分であることを特徴とするチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法である。
本発明にかかるチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法は、前記工程(2)におけるpHが塩基性の場合に、前記工程(3)の加熱処理の後に得られたチャフロサイド類高含有茶水溶液のpHを、食品添加物用の酸を用いて、5〜7に調整することを特徴とするチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法である。
さらには、本発明は、本発明にかかるチャフロサイド類高含有茶水溶液を含む飲料若しくは食品である。
本発明のチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法は、高圧水蒸気に代表される簡易な加熱方法により、比較的低い温度で、かつ数分以内の加熱時間で、効率よくチャフロサイド類の含有量を増加させることが出来る方法であり、チャフロサイド類高含有茶水溶液を提供することができる。
本発明のチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法は、抗酸化作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用、発癌抑制作用を有することが知られているチャフロサイド類を極めて高い割合で含有するチャフロサイド類高含有茶水溶液を提供することができる。
本発明のチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法は、お茶の品質(茶の香り、風味、色味など)を維持しつつ、チャフロサイド類高含有茶水溶液を製造することが出来る方法で、お茶飲料として高い品質を有するチャフロサイド類高含有な茶水溶液を提供することができる。
本発明のチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法で製造されたチャフロサイド類高含有茶水溶液は、チャフロサイド類の含有量が極めて高い割合で含有されているので、チャフロサイド類に基づく、健康を維持するための種々の効果(予防的な効果)を有する食品、とりわけ飲料製品を提供することが出来、特定保健用食品、特殊栄養食品、栄養補助食品としての飲料、あるいはその他の栄養飲料、健康飲料、健康茶として利用することができる。
さらに、本発明のチャフロサイド類高含有茶渋の製造方法では、茶葉の主に芽の部分などの比較的もろい部分から出る粉茶、あるいはこれが固まったもので、茶の品質を低下させ、また細菌の汚染源になるとされている茶渋を有効に利用することができる。
以下に、本発明の実施の形態について詳述する。
本発明においては、茶葉又は茶葉粉末に用いる茶葉としては、例えば、緑茶用茶葉、焙じ茶用茶葉、紅茶用茶葉、ウーロン茶などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ツバキ科の植物チャ(学術名Camellia sinensis)の芽及び葉を原料とする茶であれば原料茶葉として限定なく用いることができる。加工方法により、不発酵茶、半発酵茶、発酵茶に大別することができる。不発酵茶としては、Camellia属、例えば、C.var.sinensis(やぶきた種を含む)、C.var.assamica及びそれらの雑種から選択される茶から製茶された、茎茶、棒茶、芽茶、番茶、碾茶、釜入り茶等の緑茶が例示される。半発酵茶としては、総称してウーロン茶と呼ばれる鉄観音、色種、黄金桂、水仙、武威水仙、武夷岩茶、鳳凰水仙、白葉、蜜蘭香、芝蘭香、四季春、宋種等が例示される。発酵茶としては、紅茶と呼ばれるダージリン、ウバ、キーマン、カラベニ、インド等が例示される。
上記の茶葉は、複数種適度な割合でブレンドして用いてもよい。また、茶渋としては、緑茶の製造工程において、茶葉の主に芽の部分などの比較的もろい部分から出る粉茶あるいはこれが固まったものを使用することができる。勿論、使用される茶葉は、生茶葉でも乾燥茶葉でもよく、また、これら茶葉又は茶渋の粉砕方法は特に制限されない。
各茶葉は概ね次のようにして製される。緑茶は、新鮮若葉を蒸した後、すぐ冷やし、80℃位で加熱しながら水を飛ばしながら手で巻き込むように乾燥し、製茶される。紅茶は、約8時間かけて若葉を撓らせ、その水分を抜き、その後手でもみ数時間酸化発酵させてから、90℃位の熱風で、短時間で乾燥しつつ製茶される。ウーロン茶は、成熟した葉を2〜3時間日光浴で撓らせ、室内で竹かごの上で揺すらせつつ中程度の発酵を施し、次いで160〜260℃の熱風により短時間で酵素を殺し、最終的に90℃位で乾燥しつつ製茶される。焙じ茶は、緑茶を160〜200℃で短時間焙煎させ製される。
原料茶葉または茶渋から茶抽出液を調製する方法としては、上記原料茶葉、茶渋またはそれらの粉末を一般的な方法で抽出すればよい。例えば、抽出釜に茶葉を仕込んだ後に所定量の水あるいは水−アルコール混液で一定時間浸漬させ、次いで、茶殻及び不溶物を濾過もしくは遠心分離によって除去して抽出液を得る方法や、抽出槽に茶葉を充填した後に一定流量の水を送液して所定量の抽出液を得る方法などが挙げられる。抽出に使用する水としては、特に制限は無く、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水道水、イオン交換水、蒸留水、純水、超純水、ナチュラルウォーター、ナチュラルミネラルウォーター、脱気水、アスコルビン酸溶解水などを挙げることができる。さらには、茶葉等の抽出段階において最初から前記工程(1)、(2)を実施する形態として、pH調整水(酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物を含む)を用いて茶抽出液を調整しても良い。アルコールとしては、炭素数が1〜3のメタノール、エタノール、プロパノールが挙げられる。抽出に使用する溶媒の量は、原料茶葉、茶渋またはそれらの粉末が十分に浸る量であれば特に限定されることはなく、抽出目的に応じて溶媒量を決定すればよいが、通常、使用する原料茶葉、茶渋またはそれらの粉末の質量に対して5倍量以上が好ましく、より好ましくは10〜2000倍量である。抽出時の溶媒温度は、抽出できる温度であれば特に限定されないが、通常4〜95℃程度であり、好ましくは30〜90℃である。抽出時間についても特に限定されないが、通常1分〜12時間程度であり、好ましくは5分〜6時間である。
次いで、抽出時に上記pH調整水を用いていない場合には、得られた茶抽出液をそのまま前記工程(1)に供してもよいし、チャフロサイド類の最終濃度を調整するために、茶抽出液を必要に応じて上記の水で希釈した後に前記工程(1)に進んでも良い。あるいは前記茶抽出液を減圧下、好ましくは10〜500mmHgの減圧下、適切な温度、すなわち、通常は用いた溶媒の沸点より10〜30℃高い温度において濃縮・乾固させ、実質的に溶媒を除去した茶抽出乾燥残分を得ることができる。さらには、前記茶抽出乾燥残分を、液液分配、カラムクロマトグラフィーに付し、チャフロサイド類の前駆体(イソビテキシン−2”−サルフェイト、ビテキシン−2”−サルフェイト)の濃縮混合物を得ることもできる。このような茶抽出乾燥残分あるいは前駆体濃縮混合物を用いて前記工程(1)〜(3)の処理を行うことにより、チャフロサイド類の濃度を所望の濃度に設定したチャフロサイド類高含有茶水溶液を調製することができる。
前記工程(1)は、前述のように、茶葉等からの抽出段階でpH調整水(酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物を含む)を用いて行っても良いし、通常の水(蒸留水、イオン交換水等)で抽出して得られた茶抽出液に対して、あるいは、茶抽出乾燥残分等を水に再溶解して得られる水溶液に対して、酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物を添加する形で実施されてもよい。
前記工程(1)で使用される酸、塩基、塩としては、特に制限は無く、目的に応じて適宜選択することが出来るが、以下に挙げる食品添加物として認可されている酸、塩基、塩が好ましい。水酸化ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、ピロリン酸二水素ナトリウム、ピロリン酸四カリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸、リン酸一水素カルシウム、リン酸三カリウム、リン酸三カルシウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、アジピン酸、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム、L−アスパラギン酸ナトリウム、安息香酸、安息香酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸カルシウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、クエン酸三ナトリウム、グルコン酸、グルコン酸カルシウム、コハク酸、コハク酸二ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、蓚酸、L−酒石酸、L−酒石酸水素カリウム、L−酒石酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、パントテン酸カルシウム、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、プロピオン酸、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、DL−リンゴ酸、DL−リンゴ酸ナトリウム、グリシン、L−グルタミン酸ナトリウム。
前記工程(1)で使用される酸、塩基、塩は、それらの混合物として用いてもよく、その組み合わせに特に制限は無い。目的に応じて適宜選択することが出来るが、前記工程(3)で加熱処理をすることから、緩衝液を用いるのが好ましい。緩衝液としては、例えば、クエン酸緩衝液(pH3.0〜6.2)、酢酸緩衝液(pH3.6〜5.6)、クエン酸−リン酸緩衝液(pH2.6〜7.0)、リン酸緩衝液(pH5.8〜8.0)、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH8.6〜10.6)あるいは炭酸−重炭酸緩衝液(pH9.2〜10.6)などを挙げることが出来る。
前記工程(1)で使用される酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物は、茶葉5g/1000mlの茶抽出液相当に対し、その濃度が0.625ミリモル以上になるように調整され、例えば、0.625〜1000ミリモル、好ましくは0.625〜500ミリモル、さらに好ましくは0.625〜100ミリモルとなるように添加される、あるいは、酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物がそのような濃度となるように調製された水溶液で茶葉を抽出する。0.625ミリモル未満の添加量では変換反応が進行し難い。また、10ミリモルより濃い濃度では塩味を感じるが10ミリモル以下ではわずかに塩味を感じるだけであり、5ミリモル以下ではほとんど塩味を感じない。したがって、10ミリモル以下の濃度で加熱した水溶液は、希釈することなくそのまま飲料の用に供することも可能である。
前記工程(2)においては、前記工程(3)の加熱処理に供する水溶液のpHを、5〜10.6の範囲で所望のpHに調整し、pH調整済茶水溶液を得る。概して、前記工程(3)の加熱処理においては、pH値が高くなるとチャフロサイド類の生成速度が上がり、短時間でチャフロサイド類の含有濃度を上げることが出来るが、加熱装置や加熱処理量、あるいはどのような飲料を目的とするのか等の要件に応じてpHを設定すればよい。pH5よりも強い酸性条件では、前記工程(3)の加熱処理を行っても、十分なチャフロサイド類の生成が認められない。一方、pH10.6よりも強い塩基性条件においては、チャフロサイド類の生成は十分認められるが、比較的低い加熱温度においてもチャフロサイド類の分解が起こりやすくなり、また、その強い塩基性故に扱いに困難さが生じ、かつ、最終的に茶飲料とするに際し多量の酸を用いて中和する必要が生じることから好ましくない。
前記茶抽出乾燥残分を用いて前記pH調整済茶水溶液を得る場合には、茶抽出乾燥残分を所望の濃度の水溶液とした後に前記の酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物でpH調整してもよく、あるいは茶抽出乾燥残分を直接、酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物に溶解して所望濃度のpH調整済茶水溶液としてもよい。
本工程(1)及び(2)を行わない場合、すなわち、酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物を用いることなく、又は用いたとしても所定のpH範囲に収まるようにpH調整を行うことなく、次の加熱工程(3)に付した場合には、本発明の目的とするチャフロサイド類高含有茶水溶液を得ることは難しい。
前記工程(3)における加熱方法は特に限定されない。例えば、加圧水蒸気を用いた加熱釜(反応釜)、あるいは熱交換装置(プレート式熱交換器、スパイラル式熱交換器等)等による単純加熱であっても、マイクロウェーブを用いた加熱であっても良い。装置への投資額、大量処理を考慮すれば、好ましくは熱交換装置であって、加熱時間を短くするためにできるだけ熱交換表面積が広いものが好ましい。前記熱交換装置においては、前記pH調整済茶水溶液の流量を制御することによって加熱時間を一定に保ちながら連続的な熱処理が可能となる。また、マイクロウェーブを用いる場合には、その照射条件は特に制限されないが、例えば、2450±30MHzのマイクロ波を、好ましくは30W以上、さらに好ましくは100〜400Wの出力で照射するのが好ましい。
前記工程(3)における加熱温度は、100〜150℃、好ましくは120〜150℃、更に好ましくは、120〜140℃である。この温度範囲において所定時間加熱することにより、前記pH調整済茶水溶液中のチャフロサイド類の濃度を飛躍的に高めることができる。これより高温で加熱すると、チャフロサイド類の熱分解が加速的に進行し始め、また、茶飲料としての品質に問題が生じ始める。また、これより低い温度では十分な量のチャフロサイド類が生成され難い。
チャフロサイド類の熱分解を抑え、茶飲料としての品質を損なわないためには、加熱時間も重要である。上記の加熱温度における加熱時間は、加熱処理時の水溶液のpHに依存するが、15秒〜16分間で、これより短い時間では十分な量のチャフロサイド類の生成は認められず、これより長い時間ではチャフロサイド類の分解が進行する。したがって、好ましくは100〜130℃においては1〜16分間、130〜150℃においては15秒〜4分間、更に好ましくは15秒〜2分間である。
このようにして調製されるチャフロサイド類高含有茶水溶液を茶飲料として用いる場合、所定の容器に詰められる。容器詰飲料は、例えば、金属缶のような容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては適用されるべき法規(日本にあっては食品衛生法)に定められた殺菌条件下で製造できる。一方、近年需要が急速に伸びているPETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器などで高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却した後に容器に充填する等の方法が採用できる。また無菌下で、充填された容器に別の成分を配合して充填してもよい。さらに、塩基性下あるいは酸性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを中性に戻すことや、塩基性下あるいは中性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを酸性に戻すなどの操作も可能である。したがって、前記工程(3)における加熱条件のうち、130〜150℃、15秒〜2分間加熱という条件は、上記の殺菌を兼ねることができる条件であり、最終製品製造工程の短縮、経費削減に繋がる大きなメリットを有するもので、産業上の有用価値はきわめて高い。
本発明の飲料には、飲食品を調製する際に用いられる一般的な添加物、例えば、甘味料、着色料、保存料、酸化防止剤、発色剤、乳化剤、香料、酸味料、苦渋味抑制剤、ビタミン、各種エステル類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、調味料、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、pH調整剤、品質安定剤等を単独で又は併用して配合することができる。具体的には、砂糖、ブドウ糖、果糖、異性化液糖、フラクトオリゴ糖、アスパルテーム、ソルビトール、ステビアなどの甘味料;赤キャベツ色素、ぶどう果皮色素、エルダベリー色素、カラメル、クチナシ色素、コーン色素、サフラン色素、カロチンなどの着色料;ペクチン分解物、安息香酸、ソルビン酸、パラオキシ安息香酸エステル類、ソルビン酸カリウムなどの保存料;アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、繊維素グリコール酸カルシウム、繊維素グリコール酸ナトリウムなどの糊料;L−アスコルビン酸、トコフェロール、エリソルビン酸、ルチンなどの酸化防止剤;硫酸第一鉄、亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの発色剤;レシチン、スフィンゴ脂質、植物性ステロール、大豆サポニン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステルカゼインナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどの乳化剤、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどの乳化安定剤;レモン油、ユーカリ油、はっか油、バニラ抽出物、オレンジ油、ガーリック油、アセト酢酸エチル、アニスアルデヒド、エチルバニリン、ケイ皮酸、酢酸シトロネリル、シトラール、バニリン、酪酸ブチル、エステル類などの香料などがある。
本発明の飲料に使用される酸味料としては、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、アスコルビン酸及びそれらの塩から選ばれる1種以上が含有されるが、多塩基酸の場合、無水物の形態であってもよい。当然のことながら、これらの酸味料は前記工程(1)における添加用の酸又は塩として用いてもよい。これら酸の中では、クエン酸、リン酸、アスコルビン酸が最適な酸味を得るのに好ましい。これらの酸味料は、本発明の飲料中に合計0.01〜1.0質量%、更に0.1〜0.4質量%、特に0.1〜0.3質量%含有されるのが好ましい。
本発明の飲料は、pH(25℃)が2〜9であることが好ましく、風味及び外観の観点から、3〜7、更には4〜7であることが好ましい。したがって、塩基性側のpHで前記工程(3)の加熱処理を行った場合には、これらの酸味料を用いて、本発明の飲料のpHを酸性側に調整すればよい。
また、本発明の飲料は、特定保健用食品、特殊栄養食品、栄養補助食品としての機能性飲料、あるいはその他の栄養飲料、健康飲料、健康茶として提供することも可能である。ここで、特定保健用食品は、特定の保健の目的が期待できることを表示できる食品をいう。また、特殊栄養食品は、1日あたりの摂取目安量に含まれる栄養成分量が、国が定めた上・下限値の規格基準に適合している場合その栄養成分の機能の表示ができる食品である。
本発明におけるチャフロサイド類とは、少なくとも前記の化1で表されるチャフロイドA及びBを意味する。
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
本発明におけるチャフロサイド類の定量は、前記特許文献6記載のHPLC−MS/MS分析法で行い、HPLC−MS/MS分析には、商品名「Agilent 1100」及び「API 2000」(Applied Bio社製)を併用した。HPLC用のカラムとしては、インタクト株式会社製のC18カラムを用い、特定の溶媒を用いる「Cadenza CD−C18のHPLC−MS/MS分析法」で行った。
チャフロサイドAとB、及びイソビテキシン2”−サルフェイトとビテキシン2”−サルフェイト(各々、チャフロサイドAとBの前駆体)の検量線の作成は次のようにして行った。すなわち、予め合成したチャフロサイドAとB、及びチャフロサイドAとBの前駆体から、それぞれ5.0ng/ml、50ng/ml、500ng/ml及び5000ng/mlの標準溶液を調製した。HPLC分析においては、これらの各標準溶液10μlを使用し、カラムには商品名「Cadenza CD−C18」(3×150mm)を用い、溶出展開はHO−CHCNの混合溶媒を用いて20分かけて15〜50%とするグラジエント法を使用した。得られたクロマトグラムの各化合物のピーク面積より検量線を作成した。該検量線をもとに、実施例における各サンプル中の上記化合物の定量分析を行った。
本実施例においては、茶葉として以下の品種を使用した。
緑茶; カラベニ、めいりょく
焙じ茶;カラベニ、めいりょく
ウーロン茶;水仙、武威水仙、鳳凰水仙、白葉、蜜蘭香、宋種
紅茶;カラベニ、インド
本実施例においては、市販の各茶葉を粉砕器(イワタニミルサー、岩谷産業株式会社)で粉砕し、各25gに蒸留水1000mlを加え、80℃で30分間抽出した。その茶抽出液に含まれるチャフロサイドAの前駆体(イソビテキシン−2”−サルフェイト)とチャフロサイドAの含有量を測定した。その結果を表1に示す(単位:ng/ml)。表1から、茶葉品種カラベニについては、緑茶、紅茶、釜炒り茶間で、各成分含量に大きな差がないことが明らかである。また、総じてウーロン茶で各成分含量が高いことが判る。以下の各実施例においては、特記しない限り、これらの抽出液を必要に応じて蒸留水で希釈し、所定の濃度、所定のpHに調整して用いた。例えば、クエン酸−リン酸緩衝液を用いて、チャフロサイドA前駆体濃度が650ng/mlであるpH6.6の試験溶液を調整する場合の典型例は次のようである:茶抽出液を蒸留水で希釈し、チャフロサイドA前駆体濃度が1300ng/mlである水溶液を作る。一方で、0.1Mクエン酸水溶液13.6mlと、0.2Mリン酸水素二ナトリウム水溶液36.4mlを混合する(合計50ml)。この混合液に、チャフロサイドA前駆体濃度が1300ng/mlである前記の水溶液50mlを加えて混合することにより、チャフロサイドA前駆体濃度が650ng/mlであるpH6.6の試験溶液を得ることが出来る。通常、pHは6.6から外れることはないが、もしも少し外れた値となったら、0.1Mクエン酸水溶液または0.2Mリン酸水素二ナトリウム水溶液を少量ずつ添加し、pHを6.6に合わせる。
Figure 0005869217
チャフロサイドA及びBの前駆体の濃縮混合物の調製を次のようにして行った。すなわち、茶葉(1Kg、品種:鳳凰水仙)を蒸留水(5000ml)に浸漬し、80℃で30分間攪拌した。不溶物を濾去した後、水抽出液体積の約半量のn−BuOHを加え、液液分配を行った。この操作を2回行い、得られた水画分を、希塩酸を用いてpH4.0とした後にSepabeas
SP825(mitsubishi chemical)カラムクロマトグラフィーに付し、水、20%MeOH、50%MeOH、100%MeOHで順次溶出した。次いで、チャフロサイドA及びBの前駆体を含む50%MeOH溶出部(160g)をCHCl−MeOH−HO(60:40:8)を展開溶媒とするSiOカラムクロマトグラフィーに付し、チャフロサイドA及びBの前駆体の濃縮混合物(22g)を得た。本濃縮混合物中の両前駆体の混合割合は、チャフロサイドA前駆体:B前駆体=1:1.1であった。
Neat状態での反応には茶葉より次のようにして調製した物質を用いた。すなわち、茶葉をミルサー(岩谷産業株式会社製)で粉砕後、粉砕物1g/溶媒100mlの割合になるように水または50%メタノールを加え、80℃で30分間、攪拌下抽出した。次いで、上記チャフロサイドA及びBの前駆体の濃縮混合物を添加し、チャフロサイドA及びBの前駆体の高含有茶水溶液、及びチャフロサイドA及びBの前駆体高含有50%メタノールを作成した。チャフロサイドA及びBの前駆体高含有50%メタノール溶液を濃縮乾固し、neat反応用物質とした。
本実施例における加熱処理には、加熱装置付き油浴(Nissin社製NWB−120N)、マイクロウェーブ加熱装置(Biotage社製Initiator8)、あるいはプレート型熱交換器(日阪製作所製)を使用した。
官能評価
各実施例おける加熱前後の各種茶水溶液の官能試験をパネラー5名により行った。評価は次の基準に基づき、5名による平均を出した。
香り:前記工程(3)を経ていない非加熱溶液との比較で、
○:香りの変化をほとんど感じない。
△:香りの変化をやや感じる。
×:香りの変化を明らかに感じる。
色味:前記工程(3)を経ていない非加熱溶液との外観比較で、
○:濁度及び/又は色味の変化をほとんど感じない。
△:濁度及び/又は色味の変化をやや感じる。
×:濁度及び/又は色味の変化を明らかに感じる。
実施例1
前記方法により水仙の茶葉を用いて調製した茶抽出液を、チャフロサイドA前駆体の濃度が所定濃度となるように蒸留水で希釈した。そのpHは5.2であった。本抽出液の一部を、蒸留水と酢酸緩衝液を用い、チャフロサイドA前駆体の濃度が所定濃度でかつそのpHが5.2となるように調整した。本pH調整済茶水溶液を、マイクロウェーブ加熱装置を用いて、100℃から180℃の各温度(10℃刻み)で、2分間加熱した(実施例1)。比較例として、pHを調整すること無く、チャフロサイドA前駆体の濃度のみ調整した水溶液を実施例1と同一条件で加熱した(比較例1)。また、前記の方法によって得られた水仙エキスneat物質をneat状のまま、油浴で4分間加熱した(比較例2)。得られた各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、各成分を定量した。結果を表2に記す。
Figure 0005869217
なお、表中上段記載の「前A」、「A」は、それぞれイソビテキシン−2”−サルフェイト、チャフロサイドAを表す。また、表中に示される各化合物の定量値の単位は、ng/mlである。
実施例1においては、外部からの酸、塩基、あるいは塩の添加によるチャフロサイド前駆体からチャフロサイドへの変換効率に与える影響を調べた。実施例1においては、未調整の場合と同じpHに調整する必要があったため酢酸緩衝液を用いた。表2から明らかなように、加熱処理に付す茶抽出液に、外部から酸と塩を加えて加熱処理した実施例1においては、温度依存的にチャフロサイドA前駆体量が減少し、代わりにチャフロサイドAの量が増加している。170℃以上の温度では、両化合物とも分解が起こり始めるが、チャフロサイドAの含量は170℃で最大値404ng/mlを示し、これ以上の温度においては分解が顕著になっている(180℃における両化合物の合計量は362ng/mlであり、非加熱時の約半分量になっている)。外部から酸と塩を加えていない比較例1においては、実施例1と比較して、20〜30℃高い温度が必要とされる。そのような高温では、分解も同時に進行するため、最大値は180℃における172ng/mlにすぎない。比較例2は油浴を用いていることと加熱時間が4分と長いことから、実施例1との単純比較は出来ないが、例えば、150〜170℃でのチャフロサイドAの生成量を比較すると、外部から酸と塩を加えていない比較例2では、実施例1の約半分量しか生成していない。この結果から、外部から酸と塩とを加えることにより、チャフロサイドA前駆体からチャフロサイドAへの変換反応が促進され、未添加では反応が進行しないような低い温度、具体的には150℃以下でも変換が起こることが明らかになった。
実施例2〜3
武威水仙、あるいはカラベニ緑茶の茶葉について、蒸留水と炭酸水素ナトリウム水溶液を用い、チャフロサイドA前駆体の濃度が所定濃度でかつそのpHが7.3あるいは8.0となるように調整した。炭酸水素ナトリウム水溶液未添加の溶液を比較として用いた。各々の水溶液はプレート式熱交換器を用い、130℃、1分間、または170℃、2分間加熱処理した。得られた各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、各成分を定量した。結果を表3に記す。
Figure 0005869217
なお、表中上段記載の「前A」、「前B」、「A」、「B」は、それぞれイソビテキシン−2”−サルフェイト、ビテキシン−2”−サルフェイト、チャフロサイドA、チャフロサイドBを表す。また、表中に示される各化合物の定量値の単位は、ng/mlである。以下の各表4〜15においても略号、単位は同じである。
実施例2〜3においては、外部からの酸、塩基、あるいは塩が、実施例1のような緩衝液でない場合でも、チャフロサイド前駆体からチャフロサイドへの変換が上手く進行するのか否かを調べた。表3の結果から明らかなように、武威水仙の熱水抽出液を、炭酸水素ナトリウム水溶液を用いてpH7.3に調整後、130℃で1分間加熱することにより、チャフロサイドA及びチャフロサイドBの含有量が、それぞれ約8倍、約5倍に増えた。このときの茶溶液の香り、色味に変化は認められなかった。一方、炭酸水素ナトリウム水溶液を添加することなくpH未調整のまま、130℃で1分間加熱しても、事実上チャフロサイドA及びチャフロサイドBは生成しなかった。また、チャフロサイドA、チャフロサイドBの生成を促すため、さらに高温の170℃で加熱した場合には、チャフロサイドA、チャフロサイドBは幾分ながら生成するものの、高温加熱による分解が高い割合で起こることが判った。さらには、香り、色味という茶飲料の品質面で幾分かの劣化が起こることが確認された。同様のことが、カラベニ緑茶(実施例3)においても認められた。なお、品種カラベニについては、釜炒り茶と紅茶についても検討を加えたが、実施例3の緑茶の場合と同様の結果が得られた(データ省略)。以上の結果から、外部から添加する酸、塩基または塩は、実施例1のように緩衝液として作用する組合せである必要はないこと、並びに、170℃の高温においては、相当量の分解が進行すると共に、茶飲料としての品質に問題が生じることが明らかとなった。
実施例4〜11
武威水仙、カラベニ緑茶、白葉、水仙、宋種の5種の茶葉について、実施例2〜3と同様に、蒸留水と炭酸水素ナトリウム水溶液を用い、チャフロサイドA前駆体の濃度が所定濃度でかつそのpHが6.5〜8.0となるように調整した。各水溶液はプレート式熱交換器を用いて加熱処理した。武威水仙の水溶液は、133℃、1分間及び1.75分間、カラベニ緑茶の水溶液は135℃、1分間及び1.75分間、白葉、宋種の水溶液は、133℃、1分間、水仙の水溶液は140℃、1分間の加熱処理を各々行った。得られた各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、各成分を定量した。結果を表4に記す。
Figure 0005869217
実施例4〜11においては、実施例2〜3と同様に炭酸水素ナトリウム水溶液を用い、異なる品種における効果、並びに、加熱時間の効果、pHの影響について調べた。表4の結果から明らかなように、茶葉の熱水抽出液を、炭酸水素ナトリウム水溶液を用いてpH7.5〜8.2に調整後、133〜140℃で1分間加熱することにより、チャフロサイドA及びチャフロサイドBの含量が大きく増加した。実施例2〜3の場合と同様、緩衝液を使用する必要がないことが他の品種においても実証された。実施例4及び5から、加熱時間を長くすることにより、時間に比例してチャフロサイドA及びBが増加することが明らかとなった。また、この程度の加熱温度においては、2分間弱の加熱ではほとんど分解は起こらなかった。水溶液のpHの影響に関しては、実施例6と7の比較、実施例8と9の比較、及び実施例10と11の比較から明らかなように、白葉、水仙、宋種のいずれにおいても、塩基性が高い方がチャフロサイドA及びチャフロサイドBの増加率は高かった。全般を通じて、品種が異なるので熱水抽出物中の成分およびその含量が異なり、よって単純な比較はできないが、pHの上昇に伴い変換率が改善されていることが判る。また、加熱温度133℃と140℃の結果を比較するに、加熱温度が高い方がチャフロサイドA及びチャフロサイドBの増加率は高かった。ちなみに、水仙の茶抽出液pH8.0、140℃、1分間では、チャフロサイドA含量は12.6倍に、チャフロサイドB含量は8.8倍に増加した。さらに、炭酸水素ナトリウム水溶液を用いた場合の変換は、塩基性条件に限定されているわけではなく、pH6.5の弱酸性、あるいは、pH7.0の中性に調整した場合でも、すなわち添加された炭酸水素ナトリウムの量が少量である場合においても、チャフロサイド類への変換が進行することを確認した(実施例10、11)。加熱後のこれらの茶水溶液の香り、色味に変化は認められなかった。なお、品種カラベニについては、釜炒り茶と紅茶についても検討を加えたが、実施例5の緑茶の場合と同様の結果が得られた(データ省略)。
実施例12〜13
蜜蘭香の茶葉について、蒸留水と酢酸緩衝液若しくはクエン酸−リン酸緩衝液を用い、チャフロサイドA前駆体の濃度が所定濃度でかつそのpHが5.8となるように調整した。各水溶液はマイクロウェーブ加熱装置を用いて、100℃から180℃の各温度(10℃刻み)で、2分間加熱した。得られた各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、各成分を定量した。結果を表5に記す。
Figure 0005869217
実施例12と13は、添加物の種類のみ変えて行った実験であり、同じpHにおいて添加物が異なる場合に、チャフロサイド前駆体からチャフロサイドへの変換効率に影響がでるか否かについて調べたものである。加熱時間を一定(2分間)にして加熱温度の影響についても併せて検討した。表5から明らかなように、いずれの緩衝液を用いた場合においても、110℃くらいからチャフロサイドAの生成が見られるようになり、加熱温度が高くなるにしたがって生成量が増加している。また、いずれにおいても160〜170℃以上では両化合物の分解が起き始め、また、品質の劣化も起こってくる。すなわち、添加物の種類がチャフロサイドAの生成量、生成速度に及ぼす影響は少ないものと考えられる。同じpHでも、クエン酸−リン酸緩衝液を用いた場合の方が、分解や劣化が10℃ほど低い温度で起こり始めるが、その原因は定かでない。
実施例14〜19
蜜蘭香の茶葉について、蒸留水と各種緩衝液を用い、チャフロサイドA前駆体の濃度が所定濃度でかつそのpHが4.4〜7.8となるように調整した。各水溶液はマイクロウェーブ加熱装置を用いて、100℃から180℃の各温度(10℃刻み)で、2分間加熱した。得られた各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、各成分を定量した。結果を表6に記す。
Figure 0005869217
Figure 0005869217
実施例14〜19においては、添加する緩衝液の種類を変え、チャフロサイド前駆体からチャフロサイドへの変換に及ぼすpHの影響について調べた。加熱時間を一定(2分間)にして加熱温度の影響についても併せて検討した。すなわち、前記表5の結果から、添加物の種類による影響は少ないことから、本実施例においては、異なる緩衝液を用いて、そのpHを4.4から7.8の範囲で振ってみた。表6の結果から明らかなように、pH4.4における反応は極めて穏やかで、加熱温度を160℃以上にすることによって初めてわずかなチャフロサイドAの生成が見られた。一方、pH5.0以上においては、そのpH値の上昇に伴い、チャフロサイドA及びBの生成量も増加することがわかる。例えば、加熱温度130℃におけるチャフロサイドAの増加量は次のように変化している。32ng/ml(pH5.0)→33ng/ml(pH5.8)→270ng/ml(pH6.6)→289ng/ml(pH7.0)→339ng/ml(pH7.8)。すなわち、pHが上昇するに伴い、より低い温度でチャフロサイド類の最大含有量を得られるようになる。例えば、pH7.0の中性では、140〜150℃で最大含有量を示した。一方では、pHの上昇に伴い、チャフロサイド前駆体及びチャフロサイド類の分解もより低い温度で起こるようになる。また、pH6.6以上においては、加熱温度100℃でも反応がある程度進行することを示しており、このことは加熱時間を長くすれば100℃でも十分なチャフロサイド類の含有量を得ることが出来ることを示唆している。なお、チャフロサイドA前駆体のチャフロサイドAへの変換に比べ、チャフロサイドB前駆体のチャフロサイドBへの変換の方が、概して約10℃ほど高めの温度を必要としていることが判る。
実施例20〜27
鳳凰水仙の茶葉について、蒸留水とグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液あるいは炭酸−重炭酸緩衝液を用い、チャフロサイドA前駆体の濃度が所定濃度でかつそのpHが7.5〜10.6となるように調整した。各水溶液はマイクロウェーブ加熱装置を用いて、80℃から160℃もしくは170℃の各温度(10℃刻み)で、2分間加熱した。得られた各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、各成分を定量した。結果を表7に記す。
Figure 0005869217
実施例20〜27においては、2種類の緩衝液を用い、塩基性側でのチャフロサイド前駆体からチャフロサイドへの変換に及ぼす影響について調べた。加熱時間を一定(2分間)にして加熱温度の影響についても併せて検討した。表7の結果から明らかなように、pHの上昇に伴い、より低い温度でチャフロサイド類の最大含有量を得られるようになり、また、チャフロサイド前駆体及びチャフロサイド類の分解もより低い温度で起こるようになった。このことは、先の表6の結果と同じである。一方で、弱塩基性(pH9以下)では、炭酸−重炭酸緩衝液を用いた方がチャフロサイドの収率が良いが、pH9以上では逆にグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液を用いた方が収率は良く、pH10.2では140℃、2分の加熱でチャフロサイドA濃度478ng/mlという、一連の実施例中で最高含量を得ることが出来た。また、炭酸−重炭酸緩衝液を用いた場合には、130〜150℃という温度においても化合物の分解が起こっている。また、いずれのpHにおいても、90℃以下の温度においてはチャフロサイドの生成効率は悪く、80℃以下では事実上変換が起こらないことが明らかとなった。
実施例28〜34
鳳凰水仙の茶葉について、蒸留水と各種緩衝液を用い、チャフロサイドA前駆体の濃度が所定濃度でかつそのpHが4.0〜10.1となるように調整した。各水溶液は油浴を用いて、90℃から180℃の各温度(10℃刻み)で、2分間加熱した。得られた各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、各成分を定量した。結果を表8に記す。
Figure 0005869217
実施例28〜34においては、熱源として油浴を用いた場合の、チャフロサイド前駆体からチャフロサイドへの変換効率に及ぼす影響について調べたものである。試験水溶液のpHは4〜10.1の範囲で、加熱時間をマイクロウェーブ加熱の場合と同じ2分間にして加熱温度の影響についても併せて検討した。表6との比較において、マイクロウェーブ加熱においてはpH5.0においても十分なチャフロサイドの生成が認められたが(実施例15)、油浴の場合には、pH値が高くなると変換効率が促進されることが明らかであるにも拘らず、pH5.2においては加熱温度150℃以上においても事実上変換は起こらなかった(実施例29)。さらには、表6、表7記載の結果と比較するに、実施例17(pH6.6)と実施例30(pH6.5)、実施例18(pH7.0)と実施例31(pH7.3)、実施例19(pH7.8)と実施例32(pH8.0)、実施例25(pH9.6)と実施例33(pH9.4)、及び実施例26(pH10.0)と実施例34(pH10.1)の比較において、若干pH値は異なるが同じ緩衝液を用いているにも拘らず、加熱源として油浴を用いた場合には、変換収率がいずれも悪いことは明らかである。これらの結果から、油浴加熱はマイクロウェーブ加熱と比較して、熱の伝わり方が遅く、また均一に熱が伝わり難いためか、熱効率が悪いことが判った。さらには、表3、4の熱交換器を用いた加熱結果と比較するに、品種、添加物の種類は異なるものの、同様のことが言える。例えば、いずれもpHが8.0である実施例5の135℃、1.75分(218ng/ml)、あるいは、実施例9の140℃、1分(201ng/ml)の結果と、実施例32の140℃、2分(191ng/ml)の結果を比較すればこのことは明白である。以上の結果から、加熱時間を短縮し、熱分解率を下げるためには、効率の良い加熱が必要であり、試験した範囲では、油浴よりも熱交換器あるいはマイクロウェーブによる加熱が好ましいことが判った。
実施例35
鳳凰水仙由来のチャフロサイドA及びBの前駆体の濃縮混合物(混合比1:1.1)を用い、試験溶液中の両前駆体の濃度が2倍公比となるように調整した。添加物としてクエン酸/リン酸水素二ナトリウムを用い、各pHを7.0とし、マイクロウェーブで、130℃、2分間加熱した。得られた各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、各成分を定量した。結果を表9に記す。
Figure 0005869217
これまでの実施例においては、チャフロサイドA前駆体濃度が約650ng/mlとなるように調整した水溶液を用いて加熱処理を行ってきたが、実施例35においては、チャフロサイドA及びB前駆体の濃縮混合物を用い、さらに濃度をあげた場合に、変換効率に影響が生じるか否かについて検討した。検討した両前駆体の合計最高濃度は40.32μg/mlで、これまでの約30倍の濃度に相当する。表9から明らかなように、2倍公比で濃度を高めて行っても、それに比例してチャフロサイド濃度が上昇し、変換効率が減じることは全く無いことが明らかになった。すなわち、数10μg/ml程度の濃度であれば全く変換効率に影響せず、さらには数1000μg/mlでも大きな問題は生じないであろうことが推測される。また、逆に、前駆体濃度が約半分量の希薄溶液でも影響は無かった。
実施例36〜38
蜜蘭香の茶葉について、エキスneatの状態(比較例3)、pH未調整の水溶液(pH5.4)(比較例4)、及び酢酸/酢酸ナトリウムを用いてpHを5.0または5.8に調整した水溶液を、それぞれ油浴若しくはマイクロウェーブを用いて、130℃で1分から16分間加熱した。得られた各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、各成分を定量した。結果を表10に記す。
Figure 0005869217
比較例3〜4、及び実施例36〜38においては、pH5.5付近におけるチャフロサイド前駆体からチャフロサイドへの変換が、加熱時間の影響をどの程度受けるのかを調べた。外部からの酸、塩基、あるいは塩を添加していない比較例3のneat状態での反応においては、16分間加熱を継続しても、分解を含め、事実上何の変化も起こらなかった。比較例4の、酸、塩基、あるいは塩無添加水溶液においても、やはりわずかなチャフロサイドの生成が認められたのみである。これらの結果は、表2の比較例1、2の結果と同じであり、加熱時間を延ばしても、酸、塩基、あるいは塩が存在しない条件下では、チャフロサイド前駆体からチャフロサイドへの変換が極めて起こりにくいことを示している。一方、酢酸/酢酸ナトリウムを添加した実施例36〜38においては、これまでの結果を支持する結果がでており、pH5.0においても、マイクロウェーブを用いて長時間加熱すれば十分量の変換結果が得られ、かつこのpH、温度では分解もほとんど起こらない。実施例37と38の比較結果は、表8の結果と同じで、マイクロウェーブの方が油浴よりも2〜2.5倍変換効率が良いことを示している。また、両実施例の条件で8分間加熱した場合には熱源に拘らず分解はほとんど起きないが、16分間加熱した場合には、単純重量換算で、約7%、約20%の分解が起こっており、マイクロウェーブの方が、分解が起こりやすいことが判る。
実施例39〜44
蜜蘭香の茶葉について、酢酸/酢酸ナトリウムを用いてpH5.8に調整した水溶液、クエン酸/リン酸水素二ナトリウムを用いてpH6.6に調整した水溶液を、各々、油浴を用いて、110〜130℃の温度で1分から16分間加熱した。得られた各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、各成分を定量した。結果を表11に記す。
Figure 0005869217
実施例39〜44においては、飲料として好ましい弱酸性pH領域において、比較的低温(110〜130℃)で加熱した場合の、チャフロサイド生成に及ぼす加熱時間の影響を調べたものである。表11の結果から明らかなように、飲料として適した弱酸性pH領域において、油浴を用いた110℃加熱でも、時間をかければ十分な変換が起きることが確認できた。これまでの結果の追認ではあるが、pHや加熱温度が高いほど変換収率は良かった。実施例44における、pH6.6、130℃、16分加熱条件でチャフロサイドの最高濃度(変換収率66%)が得られているが、同時に、チャフロサイド前駆体及びチャフロサイドの合計量としての重量換算で、約30%の分解が起こっている。
実施例45〜67
蜜蘭香の茶葉について、各種緩衝液を用いてpH5.0〜7.8に調整した水溶液を、マイクロウェーブを用いて、110〜130℃の温度で1分から16分間、若しくは、150℃において1分以内の加熱を行った。併せて、白葉の茶葉から調整したpH8.4の水溶液についても同様に加熱処理した。得られた各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、各成分を定量した。結果を表12に記す。
Figure 0005869217
Figure 0005869217
Figure 0005869217
実施例45〜56の弱酸性条件においては、130℃、16分間加熱でも大きな分解は起きず、いずれの温度においても、概ね16分間加熱でチャフロサイドの最大含有量を得ている。勿論、110℃でも、時間をかければ十分な変換が起こることが確認でき、油浴を用いた表11の結果と比較すれば、マイククロウエーブの使用により、変換生成量が大幅に増加することが判る。実施例57〜59の中性条件においては、110〜120℃では、分解が8分くらいから起こり始めているものの、16分間加熱でチャフロサイドの生成量が最大となった。130℃では4分過ぎから分解が起こり始め、16分では約40%が分解し、チャフロサイドの最大生成量は8分間加熱で達成されている。実施例60〜67の弱塩基性条件においては、これまでのデータからも明らかなように、変換速度が大きくなり、それに付随して分解もさらに起こりやすくなっている。pH7.8においては、120〜130℃、4〜8分加熱でほぼ最大のチャフロサイドの生成が起こっている(実施例61、62)。さらに驚くべきことに、150℃においては、1分以内の加熱時間、更に言えば15〜30秒という短時間の加熱処理によっても十分量の変換が起こることが明らかになった(実施例63、67)。これらの事実は、中性若しくは弱塩基性条件において、加熱温度130〜150℃、加熱時間15秒〜2分間でチャフロサイド類高含有茶水溶液を製造することができることを示している。
実施例68〜76
蜜蘭香の茶葉について、3種の緩衝液を用いて弱酸性(pH6.2)、中性(pH7.0)、弱塩基性(pH7.8)に調整した水溶液を、マイクロウェーブを用いて、130〜150℃の温度で15秒から8分間の加熱を行った。得られた各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、各成分を定量した。結果を表13に記す。
Figure 0005869217
本実施例は、表12の結果を受け、比較的高温(130〜150℃)であれば、弱酸性〜中性領域においても加熱時間数分以内でチャフロサイドの生成が十分に得られるか否かについて検討したものである。弱塩基性条件(pH7.8)においては十分な生成が見られるであろうことは表12から推定できることであるが、実施例74〜76の結果から、チャフロサイドの生成は、130℃では4分、140℃では1分、150℃であれば30秒で最大量に達することが追認できた。この最大値が得られる条件においては、分解(前A+Aの合計量の減少から算出)もいくらか起こり始め、その程度は10〜20%程度であった。また、弱酸性条件(pH6.2)では、チャフロサイドの生成量が最大になるのは、130℃、140℃では8分以上(変換収率はそれぞれ77%、87%)、150℃でも2分(変換収率は91%)を要することが判った。これまでの結果を支持する結果であり、酸性条件下ではやはり反応速度が遅い。これらの加熱時間においては、分解が10%以下の程度で起こっている(実施例68〜70)。一方、中性条件(実施例71〜73)では、チャフロサイドの生成は、130℃では8分(変換収率94%)、140℃では2分、150℃であれば1分(いずれも変換収率は約100%)で最大量に達した。中性条件での分解率は低く、最大値が得られる条件における分解はほとんど認められなかった。総じて、pH6〜8の水溶液で、加熱温度130〜150℃、加熱時間15秒〜2分の条件で加熱処理を行うことが好ましく、更には、pH7の中性水溶液で140℃、2分、または150℃、1分の加熱を行うのが好ましいと考えられた。しかしながら、加熱条件については特に限定される必要は無く、設備条件、目的に応じて適宜選択する余地が十分にある。
実施例77
鳳凰水仙の茶葉5gを、pH6.4のクエン酸緩衝液を用いてクエン酸/クエン酸ナトリウムの合計濃度が0.625〜50mMとなるように調整した水溶液各1Lを用い、各々常法により抽出した。得られた各抽出液を、プレート式熱交換器を用いて、140℃で1分間加熱した。各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、各成分を定量した。結果を表14に記す。
Figure 0005869217
本実施例は、前記工程(1)で添加される酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物の試験水溶液中における濃度の範囲を検証するために行ったものである。通常の緩衝液を用いた場合、最終濃度50ミリモルとなることが多いが(緩衝液の種類によって変化し、おおよそ50〜100ミリモル濃度となる)、表14の結果から明らかなように、添加物50ミリモルの存在下、140℃、1分の加熱により、非加熱の場合と比較し、チャフロサイドAとBがそれぞれ約12倍、約10倍の量に増加した。さらに、添加物の濃度を10ミリモル、5ミリモルと下げていってもチャフロサイド類の増加量が極度に低下することは無く、2.5ミリモルにまで下げても約4.5倍の増加量を示した。ちなみに、5ミリモルでのチャフロサイドAとBの変換収率(生成モル数/原料モル数)は、それぞれ53%、19%であった。更に低い濃度0.625ミリモル濃度においても、十分な変換が起こっており、チャフロサイドAとBの変換収率は約15%、約6%であった。140℃、1分の加熱でこれだけの変換収率が得られるということは、更に加熱時間を延ばせば、収率として90%以上を達成することも十分可能と思われる。
実施例78
鳳凰水仙の茶葉5gを、pH7.0のクエン酸−リン酸緩衝液を用いてクエン酸/リン酸水素二ナトリウムの合計濃度が10mMとなるように調整した水溶液1Lを用い、常法により抽出した。得られた抽出液を、プレート式熱交換器を用いて、100〜130℃で1分間の加熱を行った。110℃については2分間、4分間の加熱も行った。各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、各成分を定量した。結果を表15に記す。
Figure 0005869217
本実施例は、100〜130℃という低めの加熱温度において、プレート式熱交換器を用いた場合でも変換反応が進行することを検証するために行ったものである。表15の結果から明らかなように、反応温度を上げる、あるいは、反応時間を長くすることによってチャフロサイド類の変換収率は向上した。100℃、1分間の加熱でも、チャフロサイドAとBの変換収率は約4%、約1%であった。110℃において、反応時間を1分、2分、4分と長くすることによって、例えばチャフロサイドAの収率は約9%→約14%→約19%と高くなる。このことから、100℃においても反応時間を更に長くすれば、分解がほとんど起こらないだけに、十分な変換収率が得られることが期待できる。
以上の実施例においては、水仙、武威水仙、鳳凰水仙、白葉、蜜蘭香、カラベニ、宋種という7種の品種の結果を開示したのみであるが、茶葉の種類・品種に拘らず、外部から添加した酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物の存在下、茶抽出液を、pH5〜10.6の液性で、100〜150℃で加熱処理することにより、チャフロサイド類高含有茶水溶液を製造することができることが明らかになった。
本発明のチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法により、お茶の品質(茶の香り、風味、色味など)を損なうことなく、抗酸化作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用、発癌抑制作用を有することが知られているチャフロサイド類を極めて高い割合で含有するチャフロサイド類高含有茶水溶液を提供することができる。
したがって、本方法で製造されたチャフロサイド類高含有茶水溶液は、健康を維持するための種々の効果(予防的な効果)を有する飲料製品として、特定保健用食品、特殊栄養食品、栄養補助食品としての飲料、あるいはその他の栄養飲料、健康飲料、健康茶として利用することができる。

Claims (6)

  1. 茶葉又は茶渋、若しくは茶葉又は茶渋の粉末から得られた茶抽出液又は茶抽出乾燥残分から、チャフロサイドA及び/又はチャフロサイドBからなるチャフロサイド類高含有茶水溶液を製造する方法で、前記製造方法が、以下の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする製造方法。
    (1)下記の加熱工程に先立ついずれかの過程で、酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物を添加する工程、
    (2)前記工程(1)において、下記加熱工程に付す水溶液のpHを5〜7に調整する工程、および
    (3)前記工程(2)を経て得られるpH調整済茶抽出水溶液を、130〜150℃で15秒〜4分間、加熱処理し、チャフロサイド類高含有茶水溶液を得る工程。
  2. 請求項1に記載の製造方法において、前記工程(1)で用いられる酸、塩基、及び塩が、食品添加物用の酸、塩基、及び塩であることを特徴とするチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法。
  3. 請求項1又は2に記載の製造方法において、前記茶抽出液又はその希釈水溶液、若しくは茶抽出乾燥残分又はその水溶液に対し、前記工程(1)で用いられる酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物を添加し、pH調整済茶抽出水溶液を得ることを特徴とするチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法。
  4. 請求項1又は2に記載の製造方法において、前記工程(1)で用いられる酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物を添加した水溶液を用いて、茶葉又は茶渋、若しくは茶葉又は茶渋の粉末を抽出し、pH調整済茶抽出水溶液を得ることを特徴とするチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法。
  5. 請求項1〜のいずれかに記載の製造方法において、前記pH調整済茶抽出水溶液中における、前記工程(1)で用いられる酸、塩基、塩のいずれかの濃度、若しくはそれらの混合物の合計濃度が0.625〜100ミリモルであり、前記pH調整済茶抽出水溶液は、茶葉又は茶渋、若しくは茶葉又は茶渋の粉末5gに対し、水を1Lの割合で用いて調製されたものであることを特徴とするチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法。
  6. 請求項1〜のいずれかに記載の製造方法において、前記工程(3)における加熱処理が、マイクロウェーブ若しくは熱交換器を用いた加熱処理であることを特徴とするチャフロサイド類高含有茶水溶液の製造方法。
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