ところで、上記従来の各制御装置においては、車両の全輪(4輪)にインホイールモータを設けておき、各車輪(すなわち、駆動輪)の駆動力や制動力を個別に(独立して)制御することにより、サスペンション機構によって発生するサスペンション反力を利用して車体(バネ上)に発生する挙動を制御するようになっている。しかしながら、車両に要求される性能や許容される製造コストによっては、例えば、左右前輪又は左右後輪の2輪のみにインホイールモータが設けられる車両のように、必ずしも、4輪にインホイールモータが設けられるわけではない。このため、このような全輪(4輪)にインホイールモータを備えていない車両に対しては、上記従来の各制御装置を適用して、車体の挙動制御を実行することができない。又、一般に、インホイールモータ方式の車両においては、モータ駆動により発生するサスペンション反力の車両上下方向成分(鉛直方向成分)が大きく、車体(車両)の挙動変化を生じ易いと言われている。従って、特に、全輪(4輪)にインホイールモータが設けられない車両においては、車体(車両)の挙動変化を効果的に制御する必要がある。
又、車両の全輪(4輪)にインホイールモータを備えた車両において、今、この車両が旋回状態にあり、車体にロール挙動が発生した状況を想定してみる。このロール挙動が発生した状況では、例えば、上記特許文献2に示された従来の制御装置によれば、車両の旋回内側輪(前後輪)と旋回外側輪(前後輪)の駆動力又は制動力を個別に(独立して)制御することにより、左右方向にて上下逆向きの上下力を車体に作用させることができ、ロール挙動を他の挙動から独立して制御することが可能である。
ところが、車体に発生する上下方向の挙動であるピッチ挙動とバウンシング挙動(ヒーブ挙動)は、ともに上下方向の振動を伴う挙動であって連成するため、互いに独立して制御することが難しい。このことを具体的に示すと、一般に、車両のサスペンション機構は、乗り心地や制動姿勢等の観点から前輪側と後輪側とで特性(例えば、サスペンション機構における瞬間回転中心位置等)が異なるように設けられており、車輪側にて発生しサスペンション機構を介して車体に作用する(伝達する)上下力の大きさが異なる場合がある。このため、例えば、上記特許文献1,3に示された従来の制御装置のように一方の挙動(ヒーブ挙動又はピッチ挙動)を制御すると、上述したサスペンション機構の特性の違い起因して車体に作用する上下力の大きさが前輪側と後輪側とで異なる(不均一となる)ため、他方の挙動(ピッチ挙動又はヒーブ挙動)に影響を与えてその発生を促進してしまう可能性がある。その結果、車体に対して意図しないピッチ挙動又はヒーブ挙動が生じてしまう。
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的の一つは、車両の車体に発生した挙動に応じて、車両の車輪で発生させる駆動力又は制動力と車体に作用させる上下力とを統合して制御する車両挙動制御装置を提供することにある。
係る目的を達成するための本発明による車両挙動制御装置は、動力発生機構と、サスペンション機構と、制御手段とを備える。
前記動力発生機構は、車両の前輪及び後輪の少なくとも一方に独立して駆動力又は制動力を発生させる。前記サスペンション機構は、車両のバネ下に配置された前記前輪及び後輪をそれぞれ車両のバネ上に配置された車体に連結する。前記制御手段は、前記車体に発生した挙動に応じて少なくとも前記動力発生機構によって前記前輪及び後輪の少なくとも一方に発生させる駆動力又は制動力を制御する。
本発明による車両挙動制御装置の特徴の一つは、前記前輪及び後輪をそれぞれ前記車体に連結する前記サスペンション機構のうちの少なくとも一つは、車両の上下方向にて上下力を発生する上下力発生手段を有していて前記車体に対して前記上下力を能動的に付与するものであり、前記制御手段が、操作状態検出手段と、運動状態検出手段と、入力手段と、車体挙動制御値演算手段と、駆動力及び上下力演算手段と、出力手段とを備えることにある。この場合、前記動力発生機構が車両の車輪に組み付けられる電動機を有していれば、前記制御手段は、更に、トルク演算手段を備えることができる。
前記操作状態検出手段は、運転者による車両を走行させるための操作状態を検出する。ここで、検出する操作状態としては、操舵ハンドルに対する運転者の操作量や、アクセルペダルに対する運転者による操作量、ブレーキペダルに対する運転者による操作量等を挙げることができる。前記運動状態検出手段は、車両走行時における前記車体に発生した運動状態を検出する。ここで、検出する運動状態としては、バネ上に配置される車体の上下方向における上下加速度や、車体の左右方向における横加速度、車体(車両)の車速、或いは、車体に発生したピッチレート、車体に発生したロールレート、車体(車両)に発生したヨーレート等を挙げることができる。
前記入力手段は、少なくとも前記操作状態検出手段によって検出された前記操作状態及び前記運動状態検出手段によって検出された前記運動状態を入力する。ここで、上述した操作状態及び運動状態の他に、サスペンション機構のストローク量や、車両の車輪を含むバネ下の上下方向における上下加速度等を入力することができる。
前記車体挙動制御値演算手段は、前記入力手段によって入力された前記操作状態及び前記運動状態に基づいて、車両を走行させるための目標前後駆動力を演算するとともに、前記車体の挙動を制御するための複数の目標運動状態量を演算する。ここで、車体の挙動を制御するための複数の目標運動状態量としては、車体に発生したロール挙動を制御する目標ロールモーメント、車体に発生したピッチ挙動を制御する目標ピッチモーメント、車体(車両)に発生したヨー挙動を制御する目標ヨーモーメント、車体に発生した上下振動を伴うヒーブ挙動を制御する目標ヒーブ力を挙げることができる。
前記駆動力及び上下力演算手段は、前記車体挙動制御値演算手段によって演算された前記目標前後駆動力及び前記複数の目標運動状態量を実現するように、前記動力発生機構が前記前輪及び後輪の少なくとも一方に発生させる駆動力又は制動力と、前記サスペンション機構の有する前記上下力発生手段が前記車体に付与する上下力とを演算する。この場合、車両における車輪及び前記サスペンション機構の配置に基づき、前記車体挙動制御値演算手段によって演算された前記目標前後駆動力及び前記複数の目標運動状態量を実現するように幾何学的に決定される配分を用いて、前記動力発生機構による駆動力又は制動力を演算するとともに前記サスペンション機構の有する前記上下力発生手段が前記車体に付与する上下力を演算することができる。
前記トルク演算手段は、前記駆動力及び上下力演算手段によって演算された前記駆動力又は前記制動力に対応して前記電動機が発生するトルクを演算して前記出力手段に出力する。
前記出力手段は、前記駆動力及び上下力演算手段によって演算された前記駆動力又は制動力を表す信号を前記動力発生機構に出力するとともに前記上下力を表す信号を前記サスペンション機構の有する前記上下力発生手段に出力する。ここで、前記出力手段は、前記トルク演算手段によって演算されたトルクを表す信号を前記電動機に出力するとともに前記駆動力及び上下力演算手段によって演算された前記上下力を表す信号を前記サスペンション機構の有する前記上下力発生手段に出力することができる。これにより、動力発生機構(電動機)とサスペンション機構の有する上下力発生手段とを統合して制御することが可能となり、車両を適切に走行させることができるとともに、車体におけるロール挙動、ピッチ挙動、ヒーブ挙動、ヨー挙動等を同時に制御することができる。
又、本発明による車両挙動制御装置の他の特徴の一つは、具体的に、前記動力発生機構が車両の左右前輪及び左右後輪のうちの一方である駆動輪にそれぞれ設けられ、前記上下力発生手段を有する前記サスペンション機構が前記左右前輪及び前記左右後輪のうちの他方である従動輪にそれぞれ設けられており、前記車体挙動制御値演算手段が、車両を走行させるための前記目標前後駆動力を演算するとともに、前記複数の目標運動状態量として、前記目標ロールモーメント、前記目標ピッチモーメント及び前記目標ヨーモーメント、又は、前記目標ロールモーメント、前記目標ヨーモーメント及び前記目標ヒーブ力を演算し、前記駆動力及び上下力演算手段が、前記車体挙動制御値演算手段によって演算された前記目標前後駆動力を実現するとともに、前記目標ロールモーメント、前記目標ピッチモーメント及び前記目標ヨーモーメント、又は、前記目標ロールモーメント、前記目標ヨーモーメント及び前記目標ヒーブ力を実現するように、前記動力発生機構が前記駆動輪に発生させる駆動力又は制動力と、前記サスペンション機構の有する前記上下力発生手段が前記車体に付与する上下力とを演算することにもある。
これによれば、車両における左右前輪又は左右後輪の2輪にのみ動力発生機構(電動機)が設けられている状況であっても、駆動輪(2輪)に設けられている動力発生機構と従動輪(2輪)に設けられているサスペンション機構の有する上下力発生手段とを統合して制御することによって、車両を適切に走行させることができるとともに、車体におけるロール挙動、ピッチ挙動及びヨー挙動、又は、ロール挙動、ヒーブ挙動及びヨー挙動を同時に制御することができる。
a.第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る車両挙動制御装置が搭載される車両Veの構成を概略的に示している。
車両Veは、左右前輪11,12及び左右後輪13,14を備えている。左右前輪11,12は、互いに又はそれぞれ独立してサスペンション機構15,16を介して車両Veのバネ上としての車体Boに支持されている。又、左右後輪13,14は、互いに又はそれぞれ独立してサスペンション機構17,18を介して車両Veの車体Boに支持されている。
そして、この第1実施形態においては、左右前輪11,12側におけるサスペンション機構15,16又は左右後輪13,14側におけるサスペンション機構17,18のいずれか一方側のサスペンション機構が、車両Veの上下方向にて上下力を発生する上下力発生手段を有していて、上下力制御可能なサスペンション、所謂、アクティブサスペンションとして構成される。尚、以下の説明においては、後述するように従動輪となる左右前輪11,12におけるサスペンション機構15,16がアクティブサスペンションであり、駆動輪となる左右後輪13,14におけるサスペンション機構17,18がショックアブソーバを有する通常のサスペンションである場合を例示して説明する。従って、左右前輪11,12が駆動輪である場合にはサスペンション機構15,16が通常のサスペンションとなり、左右後輪13,14が従動輪である場合にはサスペンション機構17,18がアクティブサスペンションとなる。
サスペンション機構15,16は、図1に概略的に示すように、サスペンションスプリング15a,16aと、上下力発生手段としてのアクチュエータ15b、16bとを備えている。サスペンションスプリング15a,16aは、路面から左右前輪11,12を介して車体Boに伝達される振動を吸収するものであり、例えば、金属製のコイルスプリングや空気スプリング等が採用される。アクチュエータ15b,16bは、その詳細な図示を省略するが、駆動源である電動モータと、この電動モータの回転運動を直線運動に変換するボールネジとボールナットからなるボールネジ機構とを有するものである。これにより、アクチュエータ15b,16bは、電動モータがボールネジ機構を構成するボールネジを回転させると、ボールネジに螺着されたボールネジナットによってボールネジが軸方向に移動することにより、伸縮する。従って、アクチュエータ15b,16bを備えたサスペンション機構15,16においては、アクチュエータ15b,16bが伸縮することにより、車体Boに上下力を入力することができる。尚、アクチュエータ15b,16bについては、上述したように電気的に作動が制御されて車体Boに上下力を入力するものに限定されるものではなく、例えば、油圧により作動して車体Boに上下力を入力するもの等、いかなるものであってもよい。
サスペンション機構17,18、詳しくは、上記アクティブサスペンションとして構成されない側のサスペンション機構17,18は、図1に概略的に示すように、通常のショックアブソーバを備えた周知のサスペンションであり、例えば、ストラット型サスペンションや、ウィッシュボーン型サスペンション等の公知のサスペンションを採用することができる。尚、本発明においては、周知のサスペンションの構造に関しては直接関連するものではないため、その説明を省略する。
この第1本実施形態においては、図1に示すように、駆動輪である左右後輪13,14のホイール内部に電動機19,20が組み込まれていて、例えば、図示を省略する減速機等を介して左右後輪13,14に動力伝達可能に連結される。すなわち、電動機19,20は、所謂、インホイールモータ19,20であり、左右後輪13,14とともに車両Veのバネ下に配置されている。そして、各インホイールモータ19,20の回転をそれぞれ独立して制御することにより、左右後輪13,14に発生させる駆動力又は制動力をそれぞれ独立して制御することができるようになっている。尚、以下の説明において、駆動輪として左右前輪11,12に電動機を設ける場合には、電動機21,22(インホイールモータ21,22)が設けられるものとする。
これらの各インホイールモータ19,20(及び後述する各インホイールモータ21,22)は、例えば、交流同期モータにより構成されていて、インバータ23を介して、バッテリやキャパシタ等の蓄電装置24の直流電力が交流電力に変換され、その交流電力が各インホイールモータ19,20(及び後述する各インホイールモータ21,22)に供給されることにより駆動(すなわち力行)されて、左右後輪13,14(及び後述する左右前輪11,12)に駆動トルクが付与される。又、各インホイールモータ19,20(及び後述する各インホイールモータ21,22)は、左右後輪13,14(及び後述する左右前輪11,12)の回転エネルギーを利用して回生制御することも可能である。すなわち、各インホイールモータ19,20(及び後述する各インホイールモータ21,22)の回生・発電時には、左右後輪13,14(及び後述する左右前輪11,12)の回転(運動)エネルギーが各インホイールモータ19,20(及び後述する各インホイールモータ21,22)によって電気エネルギーに変換され、その際に生じる電力がインバータ23を介して蓄電装置24に蓄電される。このとき、左右後輪13,14(及び後述する左右前輪11,12)には、回生・発電力に基づく制動トルクが付与される。従って、各インホイールモータ19,20(及び後述する各インホイールモータ21,22)、インバータ23及び蓄電装置24は本発明の動力発生機構を構成する。
又、各車輪11〜14には、それぞれ、ブレーキ機構25,26,27,28が設けられている。各ブレーキ機構25〜28は、例えば、ディスクブレーキやドラムブレーキ等の公知の制動装置である。そして、これらのブレーキ機構25〜28は、例えば、図示を省略するマスタシリンダから圧送される油圧により、各車輪11〜14に制動力を生じさせるブレーキキャリパのピストンやブレーキシュー(共に図示省略)等を作動させるブレーキアクチュエータ29に接続されている。
サスペンション機構15,16のアクチュエータ15b,16b、インバータ23及びブレーキアクチュエータ29は、サスペンション機構15,16(より詳しくは、アクチュエータ15b,16b)の上下力、各インホイールモータ19〜22の回転状態、及び、ブレーキ機構25〜28の動作状態等を制御する電子制御ユニット30にそれぞれ接続されている。従って、電子制御ユニット30は本発明の制御手段を構成する。
電子制御ユニット30は、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするものであり、各種プログラムを実行するものである。このため、電子制御ユニット30には、運転者による車両Veを走行させるための操作状態を検出する操作状態検出手段としての操作状態検出センサ31と、走行している車両Veの車体Bo(バネ上)に発生した運動状態を検出する運動状態検出手段としての運動状態検出センサ32、走行している車両Veに作用する外乱を検出する外乱検出センサ33を含む各種センサからの各信号及びインバータ23からの信号が入力されるようになっている。
ここで、操作状態検出センサ31は、例えば、図示を省略する操舵ハンドルに対する運転者の操作量(操舵角)を検出する操舵角センサや、図示を省略するアクセルペダルに対する運転者による操作量(踏み込み量や、角度、圧力等)を検出するアクセルセンサ、図示を省略するブレーキペダルに対する運転者による操作量(踏み込み量や、角度、圧力等)を検出するブレーキセンサ等から構成される。又、運動状態検出センサ32は、例えば車体Bo(バネ上)の上下方向における上下加速度を検出するバネ上上下加速度センサや、車体Boの左右方向における横加速度を検出する横加速度センサ、車体Bo(車両Ve)の車速を検出する車速センサ、或いは、車体Bo(車両Ve)に発生したピッチレートを検出するピッチレートセンサ、車体Bo(車両Ve)に発生したロールレートを検出するロールレートセンサ、車両Veに発生したヨーレートを検出するヨーレートセンサ等から構成される。更に、外乱検出センサ33は、例えば、各サスペンション機構15〜18のストローク量を検出するストロークセンサや、各車輪11〜14を含む車両Veのバネ下の上下方向における上下加速度を検出するバネ下上下加速度センサ等から構成される。
このように、電子制御ユニット30に対して上記各センサ31〜33及びインバータ23が接続されて各信号が入力されることにより、電子制御ユニット30は車両Veの走行状態及び車体Boの挙動を把握して制御することができる。
具体的に車両Veの走行状態の制御から説明すると、電子制御ユニット30は、操作状態検出センサ31から入力される信号に基づいて、例えば、運転者がアクセルペダルを操作しているときには、この操作に伴うアクセル操作量に応じた要求駆動力、すなわち、車両Veを走行させるために各インホイールモータ19,20によって駆動輪である左右後輪13,14が発生すべき駆動力を演算することができる。又、電子制御ユニット30は、操作状態検出センサ31から入力される信号に基づいて、例えば、運転者がブレーキペダルを操作しているときには、この操作に伴うブレーキ操作量に応じた要求制動力、すなわち、車両Veを減速させるために各インホイールモータ19,20及びブレーキ機構25〜28が協調して各車輪11〜14が発生すべき制動力を演算することができる。そして、電子制御ユニット30は、インバータ23から入力される信号、具体的には、力行制御時に各インホイールモータ19,20に供給される電力量や電流値を表す信号や、回生制御時に各インホイールモータ19,20から回生される電力量や電流値を表す信号に基づいて、要求駆動力に対応する出力トルク(モータトルク)を各インホイールモータ19,20に発生させ、要求制動力に対応する出力トルク(モータトルク)を各インホイールモータ19,20に発生させる。
これにより、電子制御ユニット30は、インバータ23を介して各インホイールモータ19,20の回転をそれぞれ力行制御又は回生制御する信号やブレーキアクチュエータ29を介して各ブレーキ機構25〜28の動作をそれぞれ制御する信号を出力することができる。従って、電子制御ユニット30は、少なくとも、操作状態検出センサ31から入力される信号に基づいて車両Veに要求される要求駆動力及び要求制動力を求め、その要求駆動力及び要求制動力を発生させるように各インホイールモータ19,20の力行・回生状態、及び、ブレーキアクチュエータ29すなわちブレーキ機構25〜28の動作をそれぞれ制御する信号を出力することにより、車両Veの走行状態を制御することができる。尚、左右前輪11,12が駆動輪であり、インホイールモータ21,22が設けられる場合も、電子制御ユニット30はインバータ23を介して上述したインホイールモータ19,20を全く同様に制御する。
一方で、電子制御ユニット30は、操作状態検出センサ31、運動状態検出センサ32及び外乱検出センサ33から入力される信号に基づいて、車体Bo(車両Ve)の挙動を制御することができる。以下、この車体Boの挙動制御を詳細に説明する。
電子制御ユニット30は、車体Bo(車両Ve)の挙動を制御するとき、各サスペンション機構15,16の各アクチュエータ15b,16bのそれぞれが発生する上下力、及び、各インホイールモータ19,20のそれぞれが発生する駆動力(又は制動力)を統合して制御する。そして、この統合制御により、この第1実施形態においては、電子制御ユニット30は、車両Veを走行させるとともに車体Bo(車両Ve)に発生した挙動としてのロール挙動、ピッチ挙動及びヨー挙動を制御する。このため、電子制御ユニット30は、図2に示すように、入力手段としての入力部41、車体挙動制御値演算手段としての車体挙動制御指令値演算部42、駆動力及び上下力演算手段としての駆動力及び上下力演算部43、トルク演算手段としてのモータトルク指令値演算部44及び出力手段としての出力部45を備えている。
入力部41においては、操作状態検出センサ31、運動状態検出センサ32及び外乱検出センサ33のそれぞれから信号を入力する。そして、入力部41は、操作状態検出センサ31から入力した信号に基づいて、例えば、運転者による操舵ハンドルの操舵角や、アクセルペダルの操作に伴うアクセル操作量、ブレーキペダルの操作に伴うブレーキ操作量等を取得する。又、入力部41は、運動状態検出センサ32から入力した信号に基づいて、例えば、車体Bo(車両Ve)の車速や、車体Boにおけるロールレート、ピッチレート及び車体Bo(車両Ve)におけるヨーレート等を取得する。更に、入力部41は、外乱検出センサ33から入力した信号に基づいて、例えば、車両Veが走行している路面の凹凸の大きさや車両Veに対する横風の影響の大きさ等を取得する。このように、各種検出値を取得すると、入力部41は、取得した各種検出値を車体挙動制御指令値演算部42に出力する。
車体挙動制御指令値演算部42においては、入力部41から入力した前記各種検出値を用いて、車両Veを走行させるための制御指令値として目標前後駆動力Fxを演算する。又、車体挙動制御指令値演算部42は、車体Bo(車両Ve)に発生した挙動を制御するための制御指令値すなわち複数の目標運動状態量として、図3に示すように、車両Veの重心Cgを通る前後方向軸(ロール軸)回りの目標ロールモーメントMx、車両Veの重心Cgを通る左右方向軸(ピッチ軸)回りの目標ピッチモーメントMy及び車両Veの重心Cgを通る鉛直方向軸(ヨー軸)回りの目標ヨーモーメントMzを演算する。尚、目標前後駆動力Fx、目標ロールモーメントMx、目標ピッチモーメントMy及び目標ヨーモーメントMzの演算については、公知の演算手法を採用することができるため、その詳細な説明を省略するが、以下に簡単に説明しておく。
まず、各インホイールモータ19,20が発生し車両Veを走行させるための目標前後駆動力Fxについては、車体挙動制御指令値演算部42が、例えば、入力部41から入力したアクセル操作量、ブレーキ操作量及び車速等の各検出値を用いて、これらの各検出値と予め定めた所定の関係にある目標前後駆動力Fxを演算する。車体Boに発生したロール挙動を制御するための目標ロールモーメントMxについては、車体挙動制御指令値演算部42が、例えば、入力部41から入力した操舵角、車速、ロールレート、路面の凹凸の大きさ及び横風の影響の大きさ等の各検出値を用いて、これらの各検出値と予め定めた所定の関係にある目標ロールモーメントMxを演算する。車体Boに発生したピッチ挙動を制御するための目標ピッチモーメントMyについては、車体挙動制御指令値演算部42が、例えば、入力部41から入力したアクセル操作量、ブレーキ操作量、車速及び路面の凹凸の大きさ等の各検出値を用いて、これらの各検出値と予め定めた所定の関係にある目標ピッチモーメントMyを演算する。車体Bo(車両Ve)に発生したヨー挙動を制御するための目標ヨーモーメントMzについては、車体挙動制御指令値演算部42が、例えば、入力部41から入力した操舵角、車速、ヨーレート及び横風の影響の大きさ等の各検出値を用いて、これらの各検出値と予め定めた所定の関係にある目標ヨーモーメントMzを演算する。
このように、目標前後駆動力Fx、目標ロールモーメントMx、目標ピッチモーメントMy及び目標ヨーモーメントMzを演算すると、車体挙動制御指令値演算部42は、演算した目標前後駆動力Fx、目標ロールモーメントMx、目標ピッチモーメントMy及び目標ヨーモーメントMzを表す各指令値を駆動力及び上下力演算部43に出力する。
駆動力及び上下力演算部43においては、車体挙動制御指令値演算部42から出力された指令値によって表される目標前後駆動力Fxを左右後輪13,14に配分して発生させる各駆動力を演算する。又、駆動力及び上下力演算部43においては、車体挙動制御指令値演算部42から出力された各指令値によって表される目標ロールモーメントMx、目標ピッチモーメントMy及び目標ヨーモーメントMzを車両Veの重心Cg位置にて発生させるために左右前輪11,12におけるサスペンション機構15,16(より詳しくは、アクチュエータ15b,16b)に配分して発生させる各上下力及び左右後輪13,14に配分して発生させる各駆動力を演算する。すなわち、駆動力及び上下力演算部43は、目標前後駆動力Fx、目標ロールモーメントMx、目標ピッチモーメントMy及び目標ヨーモーメントMzを用いた下記式1に従って、図3に概略的に示すように、左前輪11におけるサスペンション機構15のアクチュエータ15bが発生する左前上下力Fzfl、右前輪12におけるサスペンション機構16のアクチュエータ16bが発生する右前上下力Fzfr、左後輪13におけるインホイールモータ19が発生する左後駆動力Fxrl及び右後輪14におけるインホイールモータ20が発生する右後駆動力Fxrrを演算する。
ここで、前記式1について、図1及び図4を用いて具体的に説明する。今、図4に概略的に示すように、車両Veの各車輪11〜14及びサスペンション機構15〜18の幾何学的な配置として、ホイールベースLに対して車両Veに重心Cgと左右前輪11,12の車軸との間の距離をLf、車両Veの重心Cgと左右後輪13,14の車軸との間の距離をLrとし、又、図1に示したように、左右前輪11,12のトレッド幅をtf、左右後輪13,14のトレッド幅をtrとする。又、このような幾何学的な配置を有する車両Veにおいて、この第1実施形態においては、駆動輪である左右後輪13,14におけるサスペンション機構17,18の瞬間回転中心Crと左右後輪13,14の接地点とを結ぶ線と水平線との間の角度をθr(以下、瞬間回転角θrと称呼する。)とする。
この場合、従動輪である左右前輪11,12と駆動輪である左右後輪13,14との間に前後方向における駆動力差ΔF、すなわち、駆動輪である左右後輪13,14にて左後駆動力Fxrl及び右後駆動力Fxrrが発生した場合、左右後輪13,14におけるサスペンション機構17,18においては、図4に示すように、発生した駆動力差ΔFの分力すなわちサスペンション機構17,18の反力として上下方向(鉛直方向)に作用する上下力(=ΔF×tanθr)を発生させることができる。尚、図4においては、駆動輪である左右後輪13,14が駆動力を発生して駆動力差ΔFを生じさせる状況を示すが、左右後輪13,14が制動力を発生して駆動力差ΔFを生じさせる状況が存在することは言うまでもない。一方、左右前輪11,12におけるサスペンション機構15,16においては、図4に示すように、アクチュエータ15b,16bがそれぞれ車両Veの上下方向(鉛直方向)に作用する上下力(=左前上下力Fzfl及び右前上下力Fzfr)を発生させることができる。
従って、これら車体Boに入力される上下力を車両Veの重心Cg回りに作用させて挙動を制御する場合、幾何学的に決定される車両Veの各車輪11〜14及びサスペンション機構15〜18の配置、車両Veの重心Cg回りにおける力やモーメントの釣り合いを考慮した前記式1に従うことにより、サスペンション機構15,16が発生する左前上下力Fzfl及び右前上下力Fzfrと、インホイールモータ19,20が設けられた駆動輪である左右後輪13,14が発生する左後駆動力Fxrl及び右後駆動力Fxrrとを決定することができる。
そして、前記式1に従って決定される左前上下力Fzfl、右前上下力Fzfr、左後駆動力Fxrl及び右後駆動力Fxrrをそれぞれ発生させることにより、車体Boに対して車両Veの重心Cg回りに前記演算された目標ロールモーメントMx、目標ピッチモーメントMy及び目標ヨーモーメントMzを発生させることができる。従って、前記式1に基づいて左前輪11における左前上下力Fzfl、右前輪12における右前上下力Fzfr、左後輪13における左後駆動力Fxrl及び右後輪14における右後駆動力Fxrrを演算することにより、前記演算された目標ロールモーメントMx、目標ピッチモーメントMy及び目標ヨーモーメントMzを同時に重心Cg回りに発生させて車体Bo(車両Ve)の挙動を制御することができる。このように、前記式1に従って左前上下力Fzfl、右前上下力Fzfr、左後駆動力Fxrl及び右後駆動力Fxrrを演算すると、駆動力及び上下力演算部43は、左前上下力Fzfl及び右前上下力Fzfrを出力部45に出力する一方で、左後駆動力Fxrl及び右後駆動力Fxrrをモータトルク指令値演算部44に出力する。
再び、図2に戻り、モータトルク指令値演算部44においては、駆動力及び上下力演算部43によって演算された左後駆動力Fxrl及び右後駆動力Fxrrに対応して各インホイールモータ19,20が発生すべきモータトルクを演算する。すなわち、モータトルク指令値演算部44は、図4に示すように、駆動力及び上下力演算部43から供給された左後駆動力Fxrlに対して左後輪13のタイヤ半径R(又は図示しない減速機のギア比)を乗算し、インホイールモータ19が発生するモータトルクTrlを演算する。又、同様にして、モータトルク指令値演算部44は、駆動力及び上下力演算部43から供給された右後駆動力Fxrrに対して右後輪14のタイヤ半径R(又は図示しない減速機のギア比)を乗算し、インホイールモータ20が発生するモータトルクTrrを演算する。そして、モータトルク指令値演算部44は、演算したモータトルクTrl及びモータトルクTrrを出力部45に出力する。
出力部45においては、駆動力及び上下力演算部43によって演算された左前上下力Fzfl及び右前上下力Fzfrと、モータトルク指令値演算部44によって演算されたモータトルクTrl及びモータトルクTrrを取得する。そして、出力部45は、左前上下力Fzfl及び右前上下力Fzfrに対応する駆動信号を図示省略の駆動回路を介してサスペンション機構15,16のアクチュエータ15b,16bに出力し、モータトルクTrl及びモータトルクTrrに対応する駆動信号をインバータ23に出力する。これにより、サスペンション機構15,16のアクチュエータ15b,16bとインホイールモータ19,20とは統合制御され、左前輪11におけるサスペンション機構15のアクチュエータ15bは左前上下力Fzflを発生して車体Boに入力し、右前輪12におけるサスペンション機構16のアクチュエータ16bは左前上下力Fzfrを発生して車体Boに入力する。又、インバータ23は、インホイールモータ19にモータトルクTrlを発生させるとともに、インホイールモータ20にモータトルクTrrを発生させる。これにより、左後輪13が左後駆動力Fxrlを発生することによってサスペンション機構17は反力としての上下力(=Fxrl×tanθr)を車体Boに入力し、右後輪14が右後駆動力Fxrrを発生することによってサスペンション機構18は反力としての上下力(=Fxrr×tanθr)を車体Boに入力する。
その結果、車両Veを運転者による操作状態に応じて適切に走行させることができるとともに、車体Bo(車両Ve)における挙動、すなわち、ロール挙動、ピッチ挙動及びヨー挙動を同時に制御することができる。
以上の説明からも理解できるように、上記第1実施形態によれば、車両Veにおける駆動輪である左右後輪13,14の2輪にのみインホイールモータ19,20が設けられている状況であっても、インホイールモータ19,20と従動輪である左右前輪11,12に設けられたサスペンション機構15,16の有するアクチュエータ15b,16bとを統合して制御することによって、車両Veを適切に走行させることができるとともに、車体Boにおけるロール挙動、ピッチ挙動及びヨー挙動を同時に制御することができる。
b.第1実施形態の変形例
上記第1実施形態においては、ロール挙動、ピッチ挙動及びヨー挙動が車両Ve(車体Bo)に発生する制御対象挙動であるとして実施した。この場合、ピッチ挙動は、車両Veの左右方向に延在するピッチ軸回りに、車体Boの前部側(左右前輪11,12側)と後部側(左右後輪13,14側)とがそれぞれ逆位相的に上下振動することによって発生する挙動である。ここで、車体Boに発生する上下振動を伴う挙動として、図3に示すように、車両Veの重心Cg位置が上下方向に振動する、すなわち、車体Boの前部側(左右前輪11,12側)と後部側(左右後輪13,14側)とが同位相的に上下振動するヒーブ挙動が存在する。従って、上記第1実施形態のように構成した車両Veにおいては、ピッチ挙動に代えて、上下方向の振動という意味では同種のヒーブ挙動をロール挙動及びヨー挙動と同時に制御することが可能である。以下、この第1実施形態の変形例を詳細に説明するが、上記第1実施形態と同一部分に同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
この変形例においても、車両Veは、左右後輪13,14側にのみインホイールモータ19,20が設けられ、左右前輪11,12側のサスペンション機構15,16にのみアクチュエータ15b,16bが設けられる。すなわち、車両Veにおいては、左右後輪13,14が駆動輪であり、従動輪である左右前輪11,12側のサスペンション機構15,16がアクティブサスペンションである。そして、この変形例における電子制御ユニット30も、上記第1実施形態と同様に、図2に示したように、入力部41、車体挙動制御指令値演算部42、駆動力及び上下力演算部43、モータトルク指令値演算部44及び出力部45を備えている。ただし、この変形例においては、車体挙動制御指令値演算部42が、車両Veを走行させるための目標前後駆動力Fx、ロール挙動を制御するための目標ロールモーメントMx及びヨー挙動を制御するための目標ヨーモーメントMzを演算することに加えて、車両Veの重心Cg位置における上下振動、言い換えれば、車体Bo(バネ上)に発生した上下振動を伴うヒーブ挙動を制御(抑制)するための目標ヒーブ力Fzを演算する点で若干異なる。
この変形例における車体挙動制御指令値演算部42は、例えば、入力部41から入力した車体Boに発生した上下加速度と車体Boの質量とを用いて上下振動を抑制する目標ヒーブ力Fzを演算する。そして、この変形例における車体挙動制御指令値演算部42は、目標前後駆動力Fx、目標ロールモーメントMx、目標ヨーモーメントMz及び目標ヒーブ力Fzを演算すると、これら目標前後駆動力Fx、目標ロールモーメントMx、目標ヨーモーメントMz及び目標ヒーブ力Fzを表す各指令値を駆動力及び上下力演算部43に出力する。
この変形例における駆動力及び上下力演算部43は、上記第1実施形態と同様に、車体挙動制御指令値演算部42から出力された指令値によって表される目標前後駆動力Fxを左右後輪13,14に配分して発生させる各駆動力を演算する。一方、この変形例における駆動力及び上下力演算部43は、車体挙動制御指令値演算部42から出力された各指令値によって表される目標ロールモーメントMx、目標ヨーモーメントMz及び目標ヒーブ力Fzを車両Veの重心Cg位置にて発生させるために左右前輪11,12におけるサスペンション機構15,16(より詳しくは、アクチュエータ15b,16b)に配分して発生させる各上下力及び左右後輪13,14に配分して発生させる各駆動力を演算する。すなわち、この変形例における駆動力及び上下力演算部43は、目標前後駆動力Fx、目標ロールモーメントMx、目標ヨーモーメントMz及び目標ヒーブ力Fzを用いた下記式2に従って、左前輪11におけるサスペンション機構15のアクチュエータ15bが発生する左前上下力Fzfl、右前輪12におけるサスペンション機構16のアクチュエータ16bが発生する右前上下力Fzfr、左後輪13におけるインホイールモータ19が発生する左後駆動力Fxrl及び右後輪14におけるインホイールモータ20が発生する右後駆動力Fxrrを演算する。
この変形例においては、前記式2に従って決定される左前上下力Fzfl、右前上下力Fzfr、左後駆動力Fxrl及び右後駆動力Fxrrをそれぞれ発生させることにより、車体Boに対して車両Veの重心Cg回りに前記演算された目標ロールモーメントMx、目標ヨーモーメントMz及び目標ヒーブ力Fzを同時に発生させて車体Bo(車両Ve)の挙動を制御することができる。そして、このように、前記式2に従って演算された左前上下力Fzfl及び右前上下力Fzfrは、上記第1実施形態と同様に、出力部45に出力され、左後駆動力Fxrl及び右後駆動力Fxrrは、上記第1実施形態と同様にして、モータトルク演算部44によって各インホイールモータ19,20が発生すべきモータトルクTrl, Trrに変換演算されて出力部45に出力される。
出力部45は、上記第1実施形態と同様に、左前上下力Fzfl及び右前上下力Fzfrに対応する駆動信号を図示省略の駆動回路を介してサスペンション機構15,16のアクチュエータ15b,16bに出力し、モータトルクTrl及びモータトルクTrrに対応する駆動信号をインバータ23に出力する。これにより、左前輪11におけるサスペンション機構15のアクチュエータ15bは左前上下力Fzflを発生して車体Boに入力し、右前輪12におけるサスペンション機構16のアクチュエータ16bは左前上下力Fzfrを発生して車体Boに入力する。一方、インバータ23は、インホイールモータ19にモータトルクTrlを発生させるとともに、インホイールモータ20にモータトルクTrrを発生させる。これにより、左後輪13が左後駆動力Fxrlを発生することによってサスペンション機構17は反力としての上下力(=Fxrl×tanθr)を車体Boに入力し、右後輪14が右後駆動力Fxrrを発生することによってサスペンション機構18は反力としての上下力(=Fxrr×tanθr)を車体Boに入力する。
その結果、この変形例においては、車両Veを運転者による操作状態に応じて適切に走行させることができるとともに、車体Bo(車両Ve)における挙動、すなわち、ロール挙動、ヒーブ挙動及びヨー挙動を同時に制御することができる。
c.第2実施形態
上記第1実施形態及びその変形例においては、車両Veの各車輪11〜14について、左右後輪13,14側にのみインホイールモータ19,20を設けるようにし、又、左右前輪11,12側におけるサスペンション機構15,16がアクチュエータ15b,16bを有するアクティブサスペンションであるとして実施した。そして、上記第1実施形態においては車体Bo(車両Ve)の制御対象挙動がロール挙動、ピッチ挙動及びヨー挙動であるとし、又、変形例においては制御対象挙動がロール挙動、ヒーブ挙動及びヨー挙動であるとして、これら3つの挙動を同時に抑制するようにサスペンション機構15,16のアクチュエータ15b,16b及びインホイールモータ19,20を統合制御するように実施した。
ところで、上述したように、ピッチ挙動とヒーブ挙動とは、ともに車体Boにおける上下振動を伴う挙動であるため、例えば、左右前輪11,12側のサスペンション機構15,16における特性と左右後輪13,14側のサスペンション機構17,18における特性とが異なることに起因して互いに連成し、ピッチ挙動及びヒーブ挙動のうちの一方(例えば、ピッチ挙動)を制御すると他方(例えば、ヒーブ挙動)が発生し易くなる。従って、これらピッチ挙動とヒーブ挙動とは、同時にかつ独立して制御されることが望ましい。すなわち、車体Bo(車両Ve)の制御対象挙動として、ロール挙動、ピッチ挙動、ヒーブ挙動及びヨー挙動の4つの挙動を同時に独立して制御することが望ましく、この場合には、各車輪11〜14にインホイールモータ19〜22を設けるとともに、サスペンション機構15〜18のうちの少なくとも一つのサスペンション機構をアクティブサスペンションとすることで良好に制御することが可能となる。以下、この第2実施形態を詳細に説明するが、上記第1実施形態と同一部分に同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
この第2実施形態における車両Veは、図5に示すように、左右後輪13,14にインホイールモータ19,20が設けられることに加えて、左右前輪11,12にインホイールモータ21,22が設けられている。すなわち、この第2実施形態においては、各車輪11〜14が駆動輪となる。又、この第2実施形態においては、必要最小限の構成として、左前輪11におけるサスペンション機構15のみがアクチュエータ15bを備えたアクティブサスペンションとして構成されている。その他の構成については、図5に示すように、サスペンション機構16が通常のショックアブソーバを備えた周知のサスペンションとされること以外、上記第1実施形態と全く同一である。尚、この第2実施形態においては、サスペンション機構15がアクティブサスペンションであるとして実施するが、他のサスペンション機構16、サスペンション機構17又はサスペンション機構18のいずれかがアクティブサスペンションであるとして実施可能であることは言うまでもない。又、この第2実施形態においては、サスペンション機構15のみがアクティブサスペンションであるとして実施するが、サスペンション機構15〜18のうちの複数のサスペンション機構がアクティブサスペンションであるとして実施することも可能である。
そして、この第2実施形態においては、電子制御ユニット30は、各車輪11〜14に設けられたインホイールモータ19〜22のそれぞれが発生する駆動力(又は制動力)と、サスペンション機構15のアクチュエータ15bが発生する上下力とを統合して制御することにより、車両Veを走行させるとともに車体Bo(バネ上)に発生した挙動としてのロール挙動、ピッチ挙動、ヒーブ挙動及びヨー挙動を同時に制御する。このため、この第2実施形態における電子制御ユニット30も、図6に示すように、入力部41、車体挙動制御指令値演算部42、駆動力及び上下力演算部43、トルク演算手段としてのモータトルク指令値演算部44及び出力部45を備えている。
ただし、この第2実施形態においては、車体挙動制御指令値演算部42が、車両Veを走行させるための目標前後駆動力Fx、ロール挙動を制御するための目標ロールモーメントMx、ピッチ挙動を制御するための目標ピッチモーメントMy、ヨー挙動を制御するための目標ヨーモーメントMz及びヒーブ挙動を制御するための目標ヒーブ力Fzを演算する点で若干異なる。又、この第2実施形態においては、図6に示すように、出力部45が、各車輪11〜14に設けられたインホイールモータ19〜22のそれぞれに後述するモータトルクTfl,Tfr,Trl,Trrを出力するとともに、サスペンション機構15のアクチュエータ15bに左前上下力Fzflに対応する駆動信号を出力する点で若干異なる。
車体挙動制御指令値演算部42は、この第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様にして、目標前後駆動力Fx、目標ロールモーメントMx、目標ピッチモーメントMy及び目標ヨーモーメントMzを演算する。又、車体挙動制御指令値演算部42は、この第2実施形態においても、上記第1実施形態の変形例と同様に、目標ヒーブ力Fzを演算する。
そして、この第2実施形態においては、目標前後駆動力Fx、目標ロールモーメントMx、目標ピッチモーメントMy、目標ヨーモーメントMz及び目標ヒーブ力Fzを演算すると、車体挙動制御指令値演算部42は、演算した目標前後駆動力Fx、目標ロールモーメントMx、目標ピッチモーメントMy、目標ヨーモーメントMz及び目標ヒーブ力Fzを表す各指令値を駆動力及び上下力演算部43に出力する。
この第2実施形態における駆動力及び上下力演算部43は、車体挙動制御指令値演算部42から出力された指令値によって表される目標前後駆動力Fxを各車輪11〜14に配分して発生させる各駆動力を演算する。又、この第2実施形態における駆動力及び上下力演算部43は、車体挙動制御指令値演算部42から出力された各指令値によって表される目標ロールモーメントMx、目標ピッチモーメントMy、目標ヨーモーメントMz及び目標ヒーブ力Fzを車両Veの重心位置にて発生させるために各車輪11〜14に配分して発生させる各駆動力を演算する。更に、この第2実施形態における駆動力及び上下力演算部43は、車体挙動制御指令値演算部42から出力された各指令値によって表される目標ロールモーメントMx、目標ピッチモーメントMy、目標ヨーモーメントMz及び目標ヒーブ力Fzを車両Veの重心位置にて発生させるために左前輪11におけるサスペンション機構15のアクチュエータ15bが発生する上下力を演算する。すなわち、この第2実施形態における駆動力及び上下力演算部43は、目標前後駆動力Fx、目標ロールモーメントMx、目標ピッチモーメントMy、目標ヨーモーメントMz及び目標ヒーブ力Fzを用いた下記式3に従って、左前輪11におけるインホイールモータ21が発生する左前駆動力Fxfl、右前輪12におけるインホイールモータ22が発生する右前駆動力Fxfr、左後輪13におけるインホイールモータ19が発生する左後駆動力Fxrl及び右後輪14におけるインホイールモータ20が発生する右後駆動力Fxrrを演算するとともに、左前輪11におけるサスペンション機構15のアクチュエータ15bが発生する左前上下力Fzflを演算する。
ただし、前記式3中におけるθfは、図7に示すように、左右前輪11のサスペンション機構15,16(特に、サスペンション機構16)の瞬間回転中心Cfと左右前輪11,12の接地点とを結ぶ線と水平線との間の角度を表す。尚、以下の説明においては、この角度θfを瞬間回転角θfと称呼する。
そして、この第2実施形態においては、例えば、図7に示すように、左右前輪11,12側の左前駆動力Fxfl、右前駆動力Fxfrと左右後輪13,14側の左後駆動力Fxrl、右後駆動力Fxrrとの間に前後方向における駆動力差ΔFが生じた場合、発生した駆動力差ΔFの分力としてサスペンション機構15〜18の反力である上下方向(鉛直方向)に作用する上下力(=ΔF×tanθf及びΔF×tanθr)を発生させることができる。更に、左前輪11におけるサスペンション機構15においては、図7に示すように、アクチュエータ15bが車両Veの上下方向に作用する上下力(=左前上下力Fzfl)を発生させることができる。従って、前記式3に従って決定される左前駆動力Fxfl、右前駆動力Fxfr、左後駆動力Fxrl及び右後駆動力Fxrrをそれぞれ発生させるとともに、左前上下力Fzflを発生させることにより、車体Boに対して車両Veの重心Cg回りに前記演算された目標ロールモーメントMx、目標ピッチモーメントMy、目標ヨーモーメントMz及び目標ヒーブ力Fzを同時に発生させることができ、車体Bo(車両Ve)の挙動をを制御することができる。
尚、図7においては、例えば、左右前輪11,12側がそれぞれ発生する駆動力Fxfl,Fxfrに比して左右後輪13,14側がそれぞれ発生する駆動力Fxrl,Fxrrが大きい場合を示しており、その結果、左右前輪11,12側に発生する駆動力差ΔFが相対的に車両Veの後方に作用する制動力として発生し、左右後輪13,14側に発生する駆動力差ΔFが相対的に車両Veの前方に作用する駆動力として発生する状況を示している。従って、逆に、左右後輪13,14側がそれぞれ発生する駆動力Fxrl,Fxrrに比して左右前輪11,12側がそれぞれ発生する駆動力Fxfl,Fxfrが大きい場合には、左右前輪11,12側に発生する駆動力差ΔFが相対的に車両Veの前方に作用する駆動力として発生し、左右後輪13,14側に発生する駆動力差ΔFが相対的に車両Veの後方に作用する制動力として発生することは言うまでもない。
そして、第2実施形態においては、駆動力及び上下力演算部43は、前記式3に従って演算された左前駆動力Fxfl、右前駆動力Fxfr、左後駆動力Fxrl及び右後駆動力Fxrrをモータトルク演算部44に出力する一方で、左前上下力Fzflを出力部45に出力する。
第2実施形態におけるモータトルク指令値演算部44は、駆動力及び上下力演算部43によって演算された左前駆動力Fxfl、右前駆動力Fxfr、左後駆動力Fxrl及び右後駆動力Fxrrに対応して各インホイールモータ19〜22が発生すべきモータトルクを演算する。すなわち、モータトルク指令値演算部44は、左右後輪13,14にて発生する左後駆動力Fxrl及び右後駆動力Fxrrについては、上記第1実施形態と同様にして、モータトルクTrl及びモータトルクTrrを演算する。そして、モータトルク指令値演算部44は、図7に示すように、駆動力及び上下力演算部43から供給された左前駆動力Fxflに対して左前輪11のタイヤ半径R(又は図示しない減速機のギア比)を乗算し、インホイールモータ21が発生するモータトルクTflを演算する。又、同様にして、モータトルク指令値演算部44は、駆動力及び上下力演算部43から供給された右前駆動力Fxfrに対して右前輪12のタイヤ半径R(又は図示しない減速機のギア比)を乗算し、インホイールモータ22が発生するモータトルクTfrを演算する。そして、モータトルク指令値演算部44は、演算したモータトルクTfl,Tfr,Trl,Trrを出力部45に出力する。
第2実施形態における出力部45は、駆動力及び上下力演算部43によって演算された左前上下力Fzflと、モータトルク指令値演算部44によって演算されたモータトルクTfl,Tfr,Trl,Trrを取得する。そして、出力部45は、サスペンション機構15のアクチュエータ15b及び各インホイールモータ19〜22を統合制御するために、左前上下力Fzflに対応する駆動信号を図示省略の駆動回路を介してサスペンション機構15のアクチュエータ15bに出力し、モータトルクTfl,Tfr,Trl,Trrに対応する駆動信号をインバータ23に出力する。これにより、左前輪11におけるサスペンション機構15のアクチュエータ15bは左前上下力Fzflを発生して車体Boに入力する。又、インバータ23は、上記第1実施形態と同様に、インホイールモータ19にモータトルクTrlを発生させインホイールモータ20にモータトルクTrrを発生させるとともに、インホイールモータ21にモータトルクTflを発生させインホイールモータ22にモータトルクTFrを発生させる。これにより、各車輪11〜14にてそれぞれ左前駆動力Fxfl、右前駆動力Fxfr、左後駆動力Fxrl及び右後駆動力Fxrrが発生し、各サスペンション機構15〜18はそれぞれ反力としての上下力を車体Boに入力する。
その結果、車両Veを運転者による操作状態に応じて適切に走行させることができるとともに、車体Bo(車両Ve)における挙動、すなわち、ロール挙動、ピッチ挙動、ヒーブ挙動及びヨー挙動を同時に制御することができる。
以上の説明からも理解できるように、上記第2実施形態によれば、車両Veにおける左右前輪11,12にインホイールモータ21,22が設けられ、左右後輪13,14にインホイールモータ19,20が設けられて、更に、左前輪11におけるサスペンション機構15がアクチュエータ15aを有することにより、インホイールモータ19〜22とサスペンション機構15のアクチュエータ15bとを統合して制御することによって、ロール挙動及びヨー挙動に加えて互いに連成するピッチ挙動とヒーブ挙動とを同時にかつ独立して制御することができる。従って、車両Veを適切に走行させることができるとともに、車体Boにおけるロール挙動、ピッチ挙動、ヒーブ挙動及びヨー挙動の4つの挙動を同時に制御することができる。
本発明の実施にあたっては、上記各実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上記第1実施形態及びその変形例においては、駆動輪である左右後輪13,14に動力発生機構であるインホイールモータ19,20を設け、上記第2実施形態においては、駆動輪である各車輪11〜14のそれぞれに動力発生機構であるインホイールモータ19〜22を設けるように実施した。この場合、各車輪11〜14のうち、駆動輪を構成する車輪のそれぞれにおいて、独立的に駆動力を発生させることが可能であれば、それぞれの駆動輪に動力発生機構を組み込むことに限定することなく如何なる構成を採用してもよい。
具体的には、動力発生機構が各車輪11〜14のうちの駆動輪を回転可能に支持するそれぞれの車軸(バネ下部材)に対して所定の回転力を独立的に付与することにより、駆動輪に駆動力を発生させる構成を採用することが可能である。ただし、このように変更した構成を採用する場合には、上記各実施形態及び変形例にて説明した瞬間回転角θf,θrは、駆動輪を支持する車軸の中心点及び各サスペンション機構15〜18の瞬間回転中心Cf、Crを結ぶ線分と水平線とによってなされる角度となる。そして、この瞬間回転角θf及び瞬間回転角θrを用いた前記式1〜式3に従って左前上下力Fzfl及び右前上下力Fzfrを演算し、又、左前駆動力Fxfl、右前駆動力Fxfr、左後駆動力Fxrl及び右後駆動力Fxrrを演算することにより、上記各実施形態及び変形例と同様の効果が得られる。
又、上記第2実施形態においては、駆動力及び上下力配分演算部43が演算した左前駆動力Fxfl、右前駆動力Fxfr、左後駆動力Fxrlおよび右後駆動力Fxrrをそれぞれ独立して制御するように実施した。この場合、車両Veの前後方向運動に影響を与えない、言い換えれば、車両Veに加減速度を生じさせないように、左右前輪11,12側と左右後輪13,14側とで発生させる駆動力(又は制動力)を互いに逆方向であり、かつ、その絶対値を同一として実施することも可能である。これにより、上記第2実施形態と同様の効果を得ることができるとともに、前後方向における無用な駆動力差が生じることを抑制することができて車両Veを走行させるために必要な前後駆動力Fxが低減することを効果的に防止することができる。
更に、上記第2実施形態においては、駆動力及び上下力配分演算部43が左前駆動力Fxfl、右前駆動力Fxfr、左後駆動力Fxrlおよび右後駆動力Fxrrをそれぞれ演算するように実施した。この場合、例えば、駆動力及び上下力配分演算部43が、左右前輪11,12が協働して発生させる前輪側の駆動力と左右後輪13,14が協働して発生させる後輪側の駆動力をそれぞれ演算するように実施することも可能である。これによっても、上記第2実施形態と同様の効果を得ることができる。