JP5842358B2 - 非調質低降伏比高張力厚鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
従来、低降伏比を有する550MPa級以上の高張力鋼材は、二相域加熱処理や焼戻処理などの熱処理を施して製造されるのが一般的であった。しかし、熱処理を施すことは、工程が複雑となり製造工期が長期化して、製造コストが高騰するという問題を残していた。このため、上記した二相域加熱処理や焼戻処理を省略した非調質低降伏比高張力鋼材の検討が進められてきた。
図1に、地震による引張・圧縮繰り返し変形を受けた場合に、プレスコラム(冷間成形角形鋼管)や円形鋼管を用いた柱と通しダイアフラムの接合部(十字継手)が破壊する状況を模式的に示す。接合部が引張・圧縮繰り返し変形を受けると、通常、溶接部3の溶接止端部で延性亀裂が発生し、該延性亀裂が柱1の板厚中央に向かって伝播(進展)して最終破断に至る。なお、2はダイアフラムで、4は当金である。
最近の建築構造物では、柱、梁等を、冷間曲げ加工によって成形された円形鋼管やプレスコラムを使用して構成することが多くなっている。冷間曲げ加工によって成形された円形鋼管やプレスコラム(鋼材)では、冷間曲げ加工によって鋼板表層付近が著しく硬化し、鋼板を無加工のまま使用する場合と比べて、表層付近の延性・靭性が低下した状態となっている。このため、このような冷間曲げ加工によって成形された鋼材を使用して、柱−梁接合部や柱−ダイアフラム接合部などのT継手や十字継手を形成すると、地震等による引張・圧縮繰り返し変形で表層に塑性変形が集中した場合、早期に破断する危険性が高く、期待するような部材性能を発揮できない可能性がある。
しかし、特許文献1〜6に記載された技術は、いずれも、全厚引張試験片または板厚1/4tや1/2t位置での丸棒引張試験片により評価される機械的特性(引張特性、延性、靭性)を所望の特性とすることを目的としてなされた技術であり、鋼板表層付近での特性については全く考慮されておらず、上記した要望には対処できないという問題があった。
冷間曲げ加工による塑性歪は、鋼板の表裏面で最大となり、板厚中央付近の中立点ではゼロとなる。このため、冷間曲げによる加工硬化は鋼板表層部で最も顕著となる。そこで、本発明者らは、冷間曲げ加工後の表層部で所望の延性・靭性を確保するためには、冷間曲げ加工前の板厚方向硬さ分布を制御し、まず、表層部付近の硬さを低下することが肝要であると考えた。その際、板厚中央部の硬さをそのままにして表層部の硬さを低下すれば、鋼板全厚での強度が低下してしまう。鋼板として所望の高強度を確保するためには、板厚中央部で一定以上の硬さ(強度)を確保することが必要となることに思い至った。
(1)鋼板の、少なくとも表層部(表面および裏面から板厚方向に1〜5mmの領域)ミクロ組織をフェライトおよび硬質相からなる複相組織とすること。
(2)鋼板表層部の平均硬さが225HV以下を満足すること。
(3)鋼板表層部と板厚中央部の硬度差が60HV以下であること。
(4)鋼板表層部の平均フェライト粒径が4.0〜18.0μmの範囲を満足すること。
(1)質量%で、C:0.05〜0.16%、Si:0.05〜0.45%、Mn:1.2〜1.8%、P:0.020%以下、S:0.005%以下、Al:0.05%以下、Nb:0.005〜0.025%、N:0.0040%以下、Ti:0.005〜0.020%を含み、TiとNを、Ti含有量とN含有量との比、Ti/Nが2.5以上を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、少なくとも、鋼板表面から板厚方向に1mm〜5mmの表層部でフェライトと、硬質相としてパーライト、ベイナイト、マルテンサイトのうち1種または2種以上からなるミクロ組織とを有し、鋼板表面から板厚方向に1mm〜5mmの表層部における該フェライトの平均結晶粒径が4.0〜18.0μmであり、鋼板表面から板厚方向に1mm〜5mmの表層部の平均硬さが225HV以下で、該表層部と板厚中央位置を中心に±2mmの範囲である板厚中央部との硬度差が60HV以下である板厚方向硬さ分布を示し、冷間加工後の表層部延性・靭性に優れることを特徴とする降伏強さ:385MPa以上、引張強さ:550MPa以上、降伏比:80%以下である非調質低降伏比高張力厚鋼板。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えて、さらに質量%で、Ca:0.0005〜0.0050%、REM:0.0010〜0.0050%、Mg:0.0010〜0.0050%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする非調質低降伏比高張力厚鋼板。
(8)(4)ないし(7)のいずれかにおいて、前記組成に加えて、さらに質量%で、Cu:0.05〜0.30%、Ni:0.05〜0.30%、Cr:0.05〜0.50%、Mo:0.04〜0.40%、V:0.01〜0.06%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする非調質低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
C:0.05〜0.16%
Cは、鋼の強度を増加させ、構造用鋼材として必要な強度を確保するのに有用な元素である。さらにCは、硬質相の体積率を増加させ、降伏比を低下させる作用を有する。このような効果を得るためには0.05%以上の含有を必要とする。一方、0.16%を超える含有は、溶接性と靭性を顕著に低下させる。このため、Cは0.05〜0.16%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.06〜0.15%である。
Siは、脱酸剤として作用するとともに,鋼中に固溶し鋼材の強度を増加させる。このような効果を得るためには0.05%以上の含有を必要とする。一方、0.45%を超える含有は、母材の靱性を低下させるとともに,溶接熱影響部(HAZ)靱性を顕著に低下させる。このため、Siは0.05〜0.45%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.05〜0.35%である。
Mnは、固溶して鋼の強度を増加させる作用を有する元素で安価であり、高価な他の合金元素の含有を最小限に抑える本発明では、所望の高強度(引張強さ:550MPa以上)を確保するために、1.2%以上の含有を必要とする。一方、1.8%を超える含有は、母材の靱性およびHAZ靱性を著しく低下させる。このため、Mnは1.2〜1.8%の範囲に限定した。なお、好ましくは1.2〜1.6%である。
Pは、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であるが、靱性、とくに溶接部の靱性を低下させる元素であり、本発明ではできるだけ低減することが望ましいが、過度の低減は、精錬コストを高騰させ経済的に不利となるため、0.005%程度以上とすることが好ましい。一方、0.020%を超えて含有すると、上記した悪影響が顕著となるため、Pは0.020%以下に限定した。なお、好ましくは0.015%以下である。
Sは、鋼中ではMnS等の硫化物系介在物として存在し、母材および溶接部の靱性を劣化させるとともに、鋳片中央偏析部などに多量に偏在して鋳片等における欠陥を発生しやすくする。このような傾向は0.005%を超える含有で顕著となる。このため、Sは0.005%以下に限定した。好ましくは0.003%以下である。なお、過度のS低減は、精錬コストを高騰させ、経済的に不利となるため、Sは0.001%程度以上とすることが望ましい。
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、高張力鋼の溶鋼脱酸プロセスにおいては、脱酸剤として、もっとも汎用的に使われる。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましいが、0.05%を超える含有は,母材の靱性が低下するとともに,溶接時に溶接金属に混入して溶接金属部靱性を低下させる。このため,Alは0.05%以下に限定した。なお、好ましくは0.010〜0.045%である。
Nbは、焼入性を高めるとともに、制御圧延の効果を高めミクロ組織を微細化する作用を介して、母材強度を増加させる元素であり,高強度化のために有用な元素である。このような効果を得るためには,0.005%以上含有することが必要となる。一方、0.025%を超える含有は、母材やHAZの靭性を低下させる。このため、Nbは0.005〜0.025%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.007〜0.020%である。
Nは、鋼中に固溶している場合には、冷間加工後に歪時効を起こし靭性を劣化させるため、本発明ではできるだけ低減することが望ましい。0.0040%を超えて含有すると、靭性の劣化が著しくなる。このため、Nは0.0040%以下に限定した。
Ti:0.005〜0.020%
Tiは、Nとの親和力が強い元素であり、凝固時にTiNとして析出し、鋼中の固溶Nを減少させ、冷間加工後のNの歪時効による靭性劣化を低減する作用を有する。また、Tiは、HAZの組織改善を介して、HAZ靭性の向上にも寄与する。このような効果を得るためには、0.005%以上の含有を必要とする。一方、0.020%を超えて含有すると、TiN粒子が粗大化し、上記した効果が期待できなくなる。このため、Tiは0.005〜0.020%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.007〜0.015%である。
本発明では、N含有量に見合う量のTiを含有させ、固溶NをTiNとして固定する。このため、Ti含有量とN含有量との比、Ti/Nが2.5以上を満足するように、Ti含有量を調整する。Ti/Nが2.5未満では、N含有量に比べてTi含有量が少なすぎ、多くのNが固溶Nとして残存して、HAZ靭性が低下、溶接部からの脆性破壊発生により部材変形性能が低下する場合がある。このため、Ti/Nを2.5以上に限定した。なお好ましくは、3.0〜5.0の範囲である。
Cu、Ni、Cr、Mo、Vはいずれも、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、必要に応じて選択して含有できる。
Cuは,固溶強化や焼入性向上を介して、鋼板の強度を増加させ、厚鋼板の高強度化に寄与する。このような効果を得るためには、0.05%以上含有することが好ましいが、0.30%を超える含有は,合金コストの増加や熱間脆性による表面性状の劣化を招く。このため、含有する場合には、Cuは0.05〜0.30%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.05〜0.20%である。
Ca、REM、Mgはいずれも、硫化物の形態制御を介して母材の靭性向上および延性向上に寄与する。また、微細な硫化物粒子を鋼中に分散させた場合には、フェライト変態核として作用することによってHAZ靱性の向上にも寄与する。これらの効果を得るためには、Caでは少なくとも0.0005%、REMおよびMgではそれぞれ少なくとも0.010%を含有することが好ましいが、Ca、REM、Mgをいずれも0.0050%を超えて含有すると、過剰な介在物が生成し、逆に靱性が低下する場合がある。このため、含有する場合には、Caは0.0005〜0.0050%、REMおよびMgはそれぞれ、0.0010〜0.0050%の範囲に限定することが好ましい。
本発明厚鋼板は、上記した組成を有し、さらに、少なくとも鋼板表面から板厚方向に1〜5mmの領域である表層部が、フェライトと、硬質相としてパーライト、ベイナイト、マルテンサイトのうち1種または2種以上からなるミクロ組織で、鋼板表面から板厚方向に1mm〜5mmの表層部における該フェライトの平均結晶粒径が4.0〜18.0μmであるミクロ組織を有する。
少なくとも表層部を、好ましくは最表層を除く板厚全域を、軟質相であるフェライトと硬質相を組み合わせた複相組織とすることにより、優れた延性と所望の高強度、さらに低降伏比とを両立させることができる。とくに、優れた延性と低降伏比とを両立させるためには、軟質相であるフェライトは面積率で10%以上とすることが好ましい。軟質相であるフェライトが面積率で10%未満では、とくに低降伏比を実現することができなくなる。なお、所望の高強度(引張強さ:550MPa以上)を確保するためには、フェライトは70%以下とすることが望ましい。
さらに、本発明厚鋼板では、鋼板表面から板厚方向に1mm〜5mmの表層部におけるフェライトの平均結晶粒径を4.0〜18.0μmとする。
上記したような板厚方向硬さ分布とすることにより、冷間曲げ加工等を施される建築構造部材用として、必要な性能(例えば、塑性変形能、脆性破壊防止能等)を確保できる。
本発明厚鋼板の製造方法では、上記した組成の鋼素材に、熱間圧延を施し厚鋼板とする圧延工程と、該圧延工程に引続き、該厚鋼板に途中冷却停止を含む第一段冷却と第二段冷却とからなる二段階の加速冷却を行う冷却工程とを施す。
本発明で使用する鋼素材の製造方法は、特に限定する必要はなく、常用の溶製方法、鋳造方法がいずれも適用できるが、上記した組成の溶鋼を、転炉、電気炉、真空溶解炉等で溶製し,脱酸処理や脱ガスプロセスを経て,連続鋳造法などで鋼素材(スラブ)とすることが好ましい。
加熱温度:1050〜1200℃
加熱温度が1050℃未満では、得られる厚鋼板の強度が低下しやすく、一方、1200℃を超えると、組織が粗大化して得られる厚鋼板の靱性が低下したり、焼入性が増加しすぎて、得られる厚鋼板の表層硬さが増加しやすくなる。このため、鋼素材の加熱温度は1050℃〜1200℃の範囲に限定した。なお、好ましくは1080℃〜1150℃である。
本発明では、得られる厚鋼板のミクロ組織を適度に微細化するため、表面温度で950℃以下の温度域で制御圧延を行う。該温度域での累積圧下量が30%未満では,組織が粗大化し、また焼入性が増加しすぎて、得られる厚鋼板において所望の靭性、表層硬さを確保できなくなる。このため、表面温度で950℃以下の温度域での累積圧下量を30%以上に限定した。なお、好ましくは35%以上である。
圧延終了温度が表面温度で900℃を超えると,組織が粗大化し、焼入性が増加しすぎて、得られる厚鋼板において所望の靭性、表層硬さを確保できなくなる。一方、圧延終了温度が表面温度でAr3変態点未満では、圧延中あるいは圧延直後にフェライトが生成し、粗大化して、表層部の靱性が低下する。このため,圧延終了温度は表面温度で900℃以下Ar3温度以上に限定した。なお、好ましくは880〜780℃である。
Ar3変態点(℃)=900−332C+6Si−77Mn−20Cu−50Ni−18Cr−68Mo
(ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo:各元素の含有量(質量%))
なお、上記式で記載された元素が含有されない場合には、当該元素を零として計算するものとする。
第一段冷却は、表面温度でAr3変態点以上の温度から冷却を開始し、板厚方向平均冷却速度で2℃/s以上の冷却速度で加速冷却し、表面温度が(Ar3変態点−100℃)以下400℃以上、好ましくはかつ表面と板厚中央位置との温度差が150℃以上、となる時点で、加速冷却を停止する冷却とする。
第一段冷却の開始温度が、Ar3変態点未満では、加速冷却開始前にフェライトが生成し、粗大化するため、表層部のフェライト粒の微細化が達成できなくなる。このため、第一段冷却の開始温度をAr3変態点以上に限定した。
第一段冷却の冷却速度:板厚1/4t位置の平均冷却速度で2℃/s以上
冷却速度が2℃/s未満では、冷却が遅く、冷却中に粗く靭性の低いフェライト粒が生成する場合がある。このため、第一段冷却の冷却速度を、板厚1/4t位置の平均冷却速度で2℃/s以上に限定した。なお、第一段冷却の冷却速度の上限はとくに限定する必要はなく、板厚、冷却装置の能力によってほぼ決定され、板厚:60mmでは概ね5℃/s程度以上となる。ここでいう「板厚1/4t位置の平均冷却速度」とは、板厚1/4t位置における加速冷却開始から終了までの平均の冷却速度をいう。
本発明における第一段冷却では、表層部とそれより内部との温度差が大きくなるように冷却し、第一段冷却停止後の復熱で、表層部にフェライトを生成させる。これにより、表層部の硬さを低減でき、板厚中央部との硬さの差を小さくできる。冷却を停止する温度が、表面温度で(Ar3変態点−100℃)を超える温度では、その後の復熱温度が高すぎて、表層部におけるフェライト生成が不十分となる。一方、冷却を停止する温度が400℃未満では、表層部の温度が低温となりすぎて、冷却中に相変態がほぼ完了してしまい、表層部はベイナイトやマルテンサイトなどの硬質相主体となってしまう。
また、本発明では、第一段冷却を、上記した1回の加速冷却からなる冷却に代えて、加速冷却を、冷却停止とその後の復熱とを挟んで、複数回繰り返す冷却としてもよい。加速冷却を複数回に分割することにより、表層と内部との温度差を、過度に大きくすることなく、目的の温度まで冷却することが可能となる。これにより、冷却温度制御の選択肢が拡大でき、冷却温度制御の精度を向上させることができる。
第一段冷却を構成する1回以上の加速冷却のうち、第1回冷却の開始温度は、表面温度でAr3変態点以上とすることが好ましい。第1回冷却の開始温度がAr3変態点未満では、加速冷却開始前にフェライトが生成し、粗大化するため、表層部の靭性が低下する。このため、最初の加速冷却(第1回冷却)の開始温度を表面温度でAr3変態点以上に限定することが好ましい。
冷却速度が2℃/s未満では、冷却が遅く、冷却中に粗く靭性の低いフェライト粒が生成する場合がある。このため、第一段冷却の冷却速度を、板厚1/4t位置の平均冷却速度で2℃/s以上に限定した。なお、第一段冷却の冷却速度の上限はとくに限定する必要はなく、板厚、冷却装置の能力によってほぼ決定され、板厚:60mmでは概ね5℃/s程度以上となる。ここでいう「板厚1/4t位置の平均冷却速度」とは、板厚1/4t位置における加速冷却開始から終了までの平均の冷却速度をいう。図7で示せば、A点からB点までの平均の冷却速度をいう。A点は、板厚1/4t位置における温度が表面の冷却開始温度に等しくなった時点であり、B点は、第一段冷却における最後の加速冷却を停止した時点である。
第一段冷却における複数回の加速冷却において、表層部が400℃未満となると、冷却中に、ベイナイト、マルテンサイト変態が生じて、表層部が硬質化する。このため、すべての加速冷却の冷却停止温度を400℃以上に限定した。
冷却停止温度が表面温度で(Ar3変態点−100℃)以下400℃以上となる加速冷却:少なくとも1回
第一段冷却では、表層部と内部との温度差がある程度生じるように冷却し、冷却停止後の復熱により、表層部にフェライトを生成させる。第一段冷却での複数回の加速冷却すべてにおいて、冷却停止温度が表面温度で(Ar3変態点−100℃)を超える温度では、その後の復熱時に、鋼板温度が高くなりすぎて、表層部でのフェライト生成が不十分となる。このため、複数回の加速冷却のうち、少なくとも1回を、冷却停止温度が(Ar3変態点−100℃)以下となる加速冷却とした。
本発明では、復熱中あるいは復熱後に、とくに第一段冷却と第二段冷却の間の冷却途中停止中の復熱後に、フェライトを生成させるため、復熱後の鋼板温度、すなわち第二段冷却の冷却開始温度が、フェライト生成量という組織制御の観点から重要な因子となる。
また、表面と板厚中央の温度差は、板厚方向のフェライト生成量の差を生じる原因となる。第二段冷却開始時点での、表面と板厚中央の温度差が60℃を超えると、表層部と板厚中央部とのミクロ組織さが大きくなりすぎ、大きな硬度差を生じる場合がある。板厚方向の硬度差が大きすぎると、地震などの変形時に部材としての変形性能が低下する。
本発明の第二段冷却では、表面温度が(Ar3変態点+10℃)以下650℃以上、表面と板厚中央の温度差が60℃以下に復熱したのち、冷却を開始する。第二段冷却では、板厚1/4t位置で2℃/s以上の平均冷却速度で、該第二段冷却を停止した後の復熱で表面温度が600℃以下400℃以上になる冷却停止温度まで加速冷却する。
所望の高強度、低降伏比を実現できる。
第二段冷却の冷却速度:板厚1/4t位置の平均冷却速度で2℃/s以上
未変態部分を硬質相とするために、第二段冷却では、2℃/s以上、好ましくは8℃/s以上で冷却する。冷却速度が2℃/s未満では、硬質相への変態量が低下し、所望の高強度、低降伏比を実現できなくなる。
第二段冷却の冷却停止温度が、第二段冷却の冷却停止後の復熱で表面温度が600℃超えとなるような温度では、硬質相への変態量が低下したり、自己焼戻しによって強度が低下し、所望の高強度を確保できなくなる。一方、復熱で表面温度が400℃未満となるような冷却停止温度では、硬質相硬さが高くなりすぎて靱性が低下する。このため、第二段冷却の冷却停止温度は、冷却を停止した後の復熱で表面温度が600℃以下400℃以上になるような温度に限定した。復熱後の温度は、加速冷却停止時の板厚1/2t位置の温度に依存するので各種伝熱計算による1/2t位置の冷却停止温度から予想することができる。
第二段冷却を構成する複数回の加速冷却のうち、第1回冷却は、表面温度が(Ar3変態点+10℃)以下650℃以上、表面と板厚中央の温度差が60℃以下に復熱したのち、冷却を開始することが好ましい。
このようなことから、第二段冷却の第1回冷却の開始は、表面温度で(Ar3変態点+10℃)(より好ましくはAr3変態点)以下650℃以上、表面と板厚中央の温度差が60℃以下となった時点とすることが好ましい。
板厚1/4t位置の平均冷却速度で、冷却速度が2℃/s未満では、冷却が遅く、冷却中に粗く靭性の低いフェライト粒が生成する場合があり、ベイナイト、マルテンサイト等の硬質相の生成量が低下し、所望の高強度と低降伏比を確保できなくなる。このため、第二段冷却の冷却速度を、板厚1/4t位置の平均冷却速度で2℃/s以上に限定した。なお、好ましくは8℃/s以上である。第二段冷却の冷却速度の上限はとくに限定する必要はなく、板厚、冷却装置の能力によってほぼ決定される。なお、ここでいう「板厚1/4t位置の平均冷却速度」とは、板厚1/4t位置における加速冷却開始から終了までの平均の冷却速度をいう。図7で示せば、C点からD点までの平均の冷却速度をいう。C点は、板厚1/4t位置における温度が表面の冷却開始温度に等しくなった時点であり、D点は、第二段冷却における最後の加速冷却を停止した時点である。
第二段冷却の最終冷却が、冷却停止後の復熱で表面温度が600℃を超える冷却では、硬質相の生成量が少なく、さらに自己焼戻による強度低下により、所望の高強度を確保できなくなる。一方、最終冷却が、冷却停止後の復熱で表面温度が400℃未満となる冷却では、硬質相の硬さ高くなりすぎて、所望の延性、靭性を確保できなくなる。このようなことから、第二段冷却の最終冷却を、冷却停止後の復熱で表面温度が600℃以下400℃以上になるような冷却停止温度まで加速冷却する冷却とすることが好ましい。
以下、実施例に基づいてさらに本発明について説明する。
表1に示す組成を有する鋼素材に、表2に示す圧延工程、冷却工程を施し、板厚:40mmの厚鋼板とした。なお、冷却工程は、第一段冷却と、冷却停止−復熱を経て、第二段冷却とからなる加速冷却とした。各工程における、鋼板温度は、赤外線放射温度計で表面温度を測定し、これに基づき、必要に応じて、板厚1/4t位置の温度、板厚中央温度を種々の伝熱計算法を用いて算出した。
(1)組織観察
得られた厚鋼板から組織観察用試験片を採取し、L方向断面を研磨、ナイタール腐食して、表面から板厚方向に1〜5mmの領域である表層部と、板厚中央位置から±2mmの領域である板厚中央部について、光学顕微鏡(倍率:400倍)または走査型電子顕微鏡(倍率:2000倍)を用いて、ミクロ組織を各3視野以上観察し、撮像して画像解析により、組織の種類、およびフェライトの組織分率(面積率)を求めた。また、表層部については、フェライトの公称粒径を求めた。フェライトの公称粒径は、結晶粒の平均面積を求め、得られた結晶粒の平均面積の平方根をその厚鋼板のフェライト公称粒径(平均結晶粒径)とした。
得られた厚鋼板から硬さ測定用試験片を採取し、ビッカース硬さ計を用いて、JIS Z 2244の規定に準拠して、板厚方向断面について、硬さ測定を行った。測定位置は、鋼板表面および裏面から板厚方向に1〜5mmの領域(表層部)、および板厚中央位置から±2mmの領域(板厚中央部)とし、各領域で板厚方向に1mmピッチで、4点以上測定した。試験荷重(試験力)は1kg(9.8kN)とした。得られた硬さHVを算術平均し、その領域での平均硬さHVとした。
得られた厚鋼板から、引張方向がL方向となるように、JIS Z 2201の規定に準拠して、JIS5号全厚引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して、引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS)を求めた。また、得られた測定値から、降伏比YR(=YS/TS×100%)を算出した。
得られた厚鋼板の板厚1/4t位置および表面下1mm(試験片中央位置が表面下6mm)位置から、JIS Z 2242に準拠して、Vノッチ衝撃試験片を採取し、シャルピー衝撃試験を実施し、破面遷移温度vTrs(℃)を求めた。なお、vTrsが、−40℃以下である場合を靭性に優れるとした。
ついで、得られた厚鋼板を用いて、冷間プレス加工により、角形鋼管(プレスコラム)を作製した。なお、角形鋼管(プレスコラム)の断面寸法は、500×500mmとし、シーム(継目)溶接は両面各1層のサブマージアーク溶接とした。そして、図3に示すように、得られた角形鋼管(プレスコラム)(長さ3250mm)1a、1a各々に、SN490鋼板製通しダイアフラム(板厚40mm)2aを炭酸ガス溶接で溶接し、ついで、2枚のダイアフラム2a、2a間に4面BOX柱3aを配して炭酸ガス溶接し、コラム曲げ試験の試験体とした。なお、4面BOX柱の強度と剛性をプレスコラムに比べて十分高くすることにより,試験中にプレスコラム以外で塑性変形が生じないようにした。図4に試験体におけるプレスコラム1a、ダイアフラム2a、4面BOX柱3aの溶接部近傍を拡大して示す。
(5)コラム曲げ試験
得られた試験体の両端部を支持し、図5に示すように、試験体中央部に上下方向に正負の荷重を繰り返し負荷する、3点繰り返し曲げ試験(コラム曲げ試験)を実施した。荷重Pと変形量(回転角)θを測定し、図6に示すような荷重(モーメント,M)−変形量(回転角,θ)ヒステリシス曲線を作成した。
η=Σθpl/θp
θp=(Pp/2)L2/(3・E・I)+Pp/2/(G・Aw)
ここで、Pp:全塑性時荷重(N)=Mp/L,
L:コラムの片持ち長さ(ダイアフラムからコラム端支持点までの距離,3250mm)
E:ヤング率205000(MPa),G:剪断剛性率79000(MPa),
Mp:コラムの全塑性モーメント
r:コラム角部内面の曲げ半径,R=r+t
Aw:剪断面積(mm2)
得られた結果を表3に併記した。
表1に示す鋼No.A〜No.Eの組成を有する鋼素材に、表4に示す圧延工程、冷却工程を施し、板厚:40mmの厚鋼板とした。なお、冷却工程は、第一段冷却と、冷却停止−復熱を経て、第二段冷却とからなる加速冷却とする。そして、第一段冷却を、間に冷却停止とその後の復熱とを含んだ1回以上の加速冷却からなる冷却とし、および、第二段冷却を間に冷却停止とその後の復熱とを含んだ1回以上の加速冷却からなる冷却とした。なお、実施例1と同様に、各工程における鋼板温度は、赤外線放射温度計で表面温度を測定し、これに基づき、必要に応じて、板厚1/4t位置の温度、板厚中央温度を種々の伝熱計算法を用いて算出した。
得られた結果を表4に示す。
また、実施例1と同様に、得られた厚鋼板を用いて、冷間プレス加工により、角形鋼管(プレスコラム)を作製した。なお、角形鋼管(プレスコラム)の断面寸法は、500×500mmとし、シーム(継目)溶接は両面各1層のサブマージアーク溶接とした。
そして、実施例1と同様に、得られた試験体の両端部を支持し、図5に示すように、試験体中央部に上下方向に正負の荷重を繰り返し負荷する、3点繰り返し曲げ試験(コラム曲げ試験)を実施した。
得られた結果を表5に併記した。
1a プレスコラム
2 ダイアフラム
2a ダイアフラム(通しダイアフラム)
3a 4面BOX柱
4a コラム/ダイアフラム溶接部
5a ダイアフラム4面BOX柱溶接部
4 当金
Claims (9)
- 質量%で、
C:0.05〜0.16%, Si:0.05〜0.45%、
Mn:1.2〜1.8%、 P:0.020%以下、
S:0.005%以下、 Al:0.05%以下、
Nb:0.005〜0.025%、 N:0.0040%以下、
Ti:0.005〜0.020%
を含み、TiとNを、Ti含有量とN含有量との比、Ti/Nが2.5以上を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、
少なくとも、鋼板表面から板厚方向に1mm〜5mmの表層部でフェライトと、硬質相としてパーライト、ベイナイト、マルテンサイトのうち1種または2種以上からなるミクロ組織とを有し、鋼板表面から板厚方向に1mm〜5mmの表層部における該フェライトの平均結晶粒径が4.0〜18.0μmであり、
鋼板表面から板厚方向に1mm〜5mmの表層部の平均硬さが225HV以下で、該表層部と板厚中央位置を中心に±2mmの範囲である板厚中央部との硬度差が60HV以下である板厚方向硬さ分布を示し、
冷間加工後の表層部延性・靭性に優れることを特徴とする降伏強さ:385MPa以上、引張強さ:550MPa以上、降伏比:80%以下である非調質低降伏比高張力厚鋼板。 - 前記組成に加えて、さらに質量%で、Cu:0.05〜0.30%、Ni:0.05〜0.30%、Cr:0.05〜0.50%、Mo:0.04〜0.40%、V:0.01〜0.06%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載の非調質低降伏比高張力厚鋼板。
- 前記組成に加えて、さらに質量%で、Ca:0.0005〜0.0050%、REM:0.0010〜0.0050%、Mg:0.0010〜0.0050%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の非調質低降伏比高張力厚鋼板。
- 鋼素材に、熱間圧延を施し厚鋼板とする圧延工程と、該圧延工程に引続き、該厚鋼板に途中冷却停止を含む第一段冷却と第二段冷却とからなる二段階の加速冷却を行う冷却工程と、を施す非調質厚鋼板の製造方法において、
前記鋼素材を、質量%で、
C:0.05〜0.16%, Si:0.05〜0.45%、
Mn:1.2〜1.8%、 P:0.020%以下、
S:0.005%以下、 Al:0.05%以下、
Nb:0.005〜0.025%、 N:0.0040%以下、
Ti:0.005〜0.020%
を含み、TiとNを、Ti含有量とN含有量との比、Ti/Nが2.5以上を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材とし、
前記熱間圧延の加熱温度を1050〜1200℃とし、
前記熱間圧延を、表面温度で950℃以下の温度域での累積圧下量が30%以上で、圧延終了温度が表面温度で900℃以下Ar3変態点以上となる圧延とし、
前記第一段冷却が、表面温度でAr3変態点以上の温度から冷却を開始し、板厚1/4t位置の平均冷却速度で2℃/s以上の冷却速度で加速冷却し、表面温度が(Ar3変態点−100℃)以下400℃以上となる時点で、加速冷却を停止する冷却とし、
冷却停止後、復熱し、表面温度が(Ar3変態点+10℃)以下650℃以上、表面と板厚中央の温度差が60℃以下となる時点で、前記第二段冷却を開始し、
該第二段冷却を、板厚1/4t位置の平均冷却速度で2℃/s以上の冷却速度で、該第二段冷却を停止した後の復熱で表面温度が600℃以下400℃以上になるような冷却停止温度まで加速冷却する冷却とすることによって、
少なくとも、鋼板表面から板厚方向に1mm〜5mmの表層部でフェライトと、硬質相としてパーライト、ベイナイト、マルテンサイトのうち1種または2種以上からなるミクロ組織とを有し、鋼板表面から板厚方向に1mm〜5mmの表層部における該フェライトの平均結晶粒径が4.0〜18.0μmであり、
鋼板表面から板厚方向に1mm〜5mmの表層部の平均硬さが225HV以下で、該表層部と板厚中央位置を中心に±2mmの範囲である板厚中央部との硬度差が60HV以下である板厚方向硬さ分布を示し、
冷間加工後の表層部延性・靭性に優れる前記厚鋼板を得る
ことを特徴とする降伏強さ:385MPa以上、引張強さ:550MPa以上、降伏比:80%以下である非調質低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。 - 前記第一段冷却に代えて、第一段冷却を、表面温度でAr3変態点以上の温度から冷却を開始し、板厚1/4t位置の平均冷却速度で2℃/s以上の冷却速度で、冷却停止温度が表面温度で400℃以上となる加速冷却を、冷却停止とその後の復熱とを挟んで、複数回繰り返す冷却とし、前記複数回の加速冷却が、冷却停止温度が表面温度で(Ar3変態点−100℃)以下400℃以上となる加速冷却を少なくとも1回含むことを特徴とする請求項4に記載の非調質低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
- 前記第二段冷却に代えて、第二段冷却を、板厚1/4t位置の平均冷却速度で2℃/s以上の冷却速度で加速冷却する冷却を、冷却停止とその後の復熱とを挟んで、複数回繰り返す冷却とし、前記複数回の加速冷却のうち、冷却停止後の復熱で表面温度が600℃以下400℃以上になるような冷却停止温度まで冷却する加速冷却を最終冷却とすることを特徴とする請求項4または5に記載の非調質低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
- 前記冷却工程に引続き、400℃以上700℃以下の温度で焼戻しを行う焼戻工程を施すことを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載の非調質低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
- 前記組成に加えて、さらに質量%で、Cu:0.05〜0.30%、Ni:0.05〜0.30%、Cr:0.05〜0.50%、Mo:0.04〜0.40%、V:0.01〜0.06%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項4ないし7のいずれかに記載の非調質低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
- 前記組成に加えて、さらに質量%で、Ca:0.0005〜0.0050%、REM:0.0010〜0.0050%、Mg:0.0010〜0.0050%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項4ないし8のいずれかに記載の非調質低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
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