JP5655598B2 - 高張力厚鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は,海洋構造物用や建築構造部材用として用いられる円形鋼管の素材として好適な、高張力厚鋼板に係り、とくに温間プレスベンドあるいは温間ロールベンドによって成形される厚肉大径鋼管の素材として好適な、温間加工後の材質劣化が少ない、温間加工性に優れた高張力厚鋼板およびその製造方法に関する。
近年、建築構造物の高層化、柱間隔の長スパン化に伴い、使用される鋼材の高強度化および厚肉化が強く要求されるようになっている。例えば、主に、建築構造物の柱材として用いられる円形鋼管では、従来、外径:600〜800mmで肉厚:20〜40mmの大きさの鋼管が中心であったが、最近では、外径:800mm以上で肉厚:40mm超の大きさの太径で厚肉の鋼管が要求されるようになっている。また、従来は、引張強さ:490MPa級以下の比較的低強度の円形鋼管が要求されていたが、最近では、引張強さ:570MPa級以上の高強度を有する円形鋼管の要求が高くなっている。また、さらに最近では、円形鋼管は、意匠性が重視される建築構造物への需要が高まっている。
厚肉太径の鋼管は、通常、プレスベンドまたはロールベンドによる成形により製造されることが多い。プレスベンドまたはロールベンドは、成形の簡便さから、通常、冷間で行う。しかし、使用する素材(鋼材)の厚肉化および高強度化に伴い、冷間成形では、使用する成形装置への負荷荷重が増大し、成形そのものが不可能になるという問題がある。また、冷間成形は、成形に際して生じる鋼材の加工硬化により、塑性変形能の低下や靱性低下など、成形品の著しい材質劣化を伴うという問題もある。そのため、成形時の素材(鋼材)の変形抵抗を減少したり、加工硬化を少なくするために,素材(鋼材)を、熱間域あるいは温間域で成形することが考えられている。
例えば、特許文献1には、厚肉鋼管丸柱の製造方法が記載されている。特許文献1に記載された技術は、重量%で、C:0.06〜0.17%、Si:0.06〜0.5%、Mn:0.5〜1.6%、Mo:0.1〜0.25%、Ti:0.01〜0.02%、B:0.0005〜0.002%、Al:0.07%以下、N:0.004%以下を含有し、さらにNb:0.005〜0.05%、V:0.01〜0.1%から選ばれた1種または2種を含有する鋼を圧延し、その鋼板を900〜1000℃に加熱し、Ar変態点以上の温度域で曲げ加工を終了する厚肉鋼管丸柱の製造方法である。特許文献1に記載された技術によれば、大きな製造設備を必要とすることなく、高強度で低降伏比を有し、均一な材質を有する厚肉鋼管丸柱を製造できるとしている。
また、特許文献2には、厚肉建築用鋼管柱の製造方法が記載されている。特許文献2に記載された技術は、重量%で、C:0.05〜0.25%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.5〜2.0%、sol.Al:0.005〜0.10%、Mo:0.05〜0.25%を含有する鋼板を、Ac以上Ac以下の二相領域の温度範囲に加熱し、Ar以上の温度域で板端部から開始し、板中央部にて加工を終了し、空冷する鋼管柱の製造方法である。特許文献2に記載された技術によれば、大きな製造設備を必要とすることなく、また靭性および溶接性を損なうことなく、板厚各部において、高強度で低降伏比を有する建築用厚肉鋼管丸柱を製造できるとしている。
また、特許文献3には、温間加工後の材質特性に優れた高張力鋼の製造方法が記載されている。特許文献3に記載された技術は、重量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.6%以下、Mn:0.5〜2.0%、sol.Al:0.005〜0.08%、更にNb、V、Ti、Cu、Cr、Ni、Mo、Bのうちから選ばれた1種または2種以上を含有する鋼に、900℃以下の累積圧下率を少なくとも30%以上とした熱間圧延を施し、或いはさらに熱間圧延後に加速冷却を施したのち、さらに、750〜400℃、好ましくはAc〜400℃、に加熱し、直ちにまたは放冷し750〜400℃、望ましくはAc〜400℃で熱間加工を行う、高張力鋼の製造方法である。これにより、温間加工後の材質特性が向上するとしている。
特開平9-279244号公報 特開平8−283850号公報 特開昭62−54018号公報
例えば、引張強さ:570MPa以上を有するような、高張力鋼管においては、高強度と優れた溶接性とを両立させる必要があり、素材となる鋼板の製造時にTMCP技術を適用することが望まれている。しかし、特許文献1に記載された技術では、鋼板をγ域まで再加熱して曲げ加工し、鋼管丸柱とするため、素材となる鋼板の製造時の制御圧延や加速冷却などのTMCP技術による効果が失われてしまうという問題がある。γ域まで再加熱して鋼板を加工する場合には、使用する鋼板を、空冷ままで高強度が確保できる高成分系の鋼板とする必要があり、そのため鋼管での靭性や溶接性が劣化するという問題がある。
また、(α+γ)二相域あるいはα域の、熱間或いは温間で加工する特許文献2、3に記載された技術では、加工温度がわずかに変化しただけでも、得られる加工品の材質が大きく変化する。そのため、材質が、鋼管毎あるいは同一鋼管でも試験片採取位置毎に、大きくばらつくことになる。例えば,加工温度が高すぎると強度が低下する。一方、加工温度が低すぎると強度が高くなりすぎ、さらには加工硬化による延靱性の低下、降伏比の増加などが問題になる場合がある。このため、特許文献2、3に記載された熱間或いは温間での加工技術では、大量生産において安定して製品特性を確保することが難しいという問題があった。
特に、図1に示すように、素材である鋼板の板端部から板中央部に向けて、成形を進めて鋼管とする、プレスベンドによる造管の場合には、鋼板温度が徐々に低下することが避けられない。加工開始から完了までに長時間を要する厚肉大径鋼管の場合には、造管加工中の温度低下量は、例えば600℃で加工を開始して完了温度が約400℃になるなど、最大200℃程度にまで達する。そのため、熱間または温間成形後の製品(鋼管)材質を、一定範囲内に管理することは極めて困難であった。また、ロールベンドによる造管の場合にも、板端部の温度低下や鋼管毎の成形温度のばらつきは避けられず、得られる製品(鋼管)の材質ばらつきが大きな問題となることがあった。
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、400〜600℃の温間加工(温間成形)によって、降伏強さ:500MPa以上620MPa以下、引張強さ:570MPa以上、降伏比90%以下で、シャルピー衝撃試験の破面遷移温度vTrs:−20℃以下と靭性に優れ、かつ溶接性に優れた円形鋼管を工業的に容易にかつ安定して大量生産することができる、温間加工後の材質低下の小さい、板厚40mm以上の高張力厚鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。なお、ここでいう「材質低下」とは、降伏強さの低下と温度の上昇、引張強さの低下、降伏比の上昇、シャルピー衝撃試験の破面遷移温度の上昇をいうものとする。
本発明者らは、上記した目的を達成するために、温間加工(温間成形)後の材質低下に及ぼす各種要因の影響について、鋭意研究した。その結果、鋼板の組成を、Mo,V,Nbを必須含有させた組成とし、さらに、鋼板の組織を、ベイナイト相を主体とし、さらに、Mo,V,Nb等の析出物を最適な状態に制御したミクロ組織とすることにより、温間加工(温間成形)後の材質低下を抑制することができるという知見を得た。また、所定範囲のMo,V,Nbの含有は、析出強化による強度上昇が期待でき、これにより、温間加工(温間成形)温度に加熱されることに伴う強度低下を補償できる。しかし、過度の析出強化は脆化を伴う。そのため、本発明者らは、析出強化に伴う脆化を抑えるために、析出強化能が適正範囲内となるように、Mo,V,Nbの含有量を調整することが必要であることに想到した。すなわち、Mo,V,Nbの含有量を、次(1)式で定義される特定な関係式
0.40 ≦(Mo+4.9V+5.8Nb)≦ 0.80 ‥‥(1)
(ここで、Mo、V、Nb:各元素の含有量(質量%))
を満足するように、調整すると、析出強化に伴う脆化を抑えることができることを知見した。また、Mo析出物(炭化物)は、温間加工(温間成形)後の強度確保に大きく寄与するが、しかし、Mo析出物(炭化物)には、Vが固溶して、Mo析出物(炭化物)の安定性を大きく変動させるため、温間加工後に、安定して所望の高強度を確保することが難しくなる場合があることに想到した。そして、温間加工後に、強度の低下を抑え、安定して所望の高強度と所望の靭性を確保するためには、上記した(1)式に加えて、さらに、Mo、Vの含有量を次(2)式で定義される特定な関係式
4.0 ≦ Mo/V ≦ 16.0 ‥‥(2)
(ここで、Mo、V、Nb:各元素の含有量(質量%))
を満足するように調整することが必要であることを見出した。
本発明はかかる知見に基づき,さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち本発明の要旨は次のとおりである。
(1)質量%で、C:0.06〜0.10%、Si:0.03〜0.35%、Mn:1.0〜1.6%、P:0.015%以下、S:0.003%以下、Al:0.005〜0.060%、N:0.0040%以下、Mo:0.20〜0.50%、Nb:0.005〜0.030%、V:0.015〜0.080%を含み、かつ、Mo、Nb、Vを、次(1)式および次(2)式
0.40 ≦(Mo+4.9V+5.8Nb)≦ 0.80 ‥‥(1)
4.0 ≦ Mo/V ≦ 16.0 ‥‥(2)
(ここで、Mo、V、Nb:各元素の含有量(質量%))
を満足するように、含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる組成を有し、鋼板表裏面から5mm以内の表層部を除く領域が、面積率で80%以上のベイナイト相と、前記ベイナイト相以外の残部がフェライトおよびパーライトからなり、該ベイナイト相内の方位差15゜以上の大角境界で囲まれた領域の公称粒径が4〜40μmである組織を有し、温間加工後の特性に優れることを特徴とする引張強さが570MPa以上である高張力厚鋼板。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.005〜0.020%を含有する組成とすることを特徴とする高張力厚鋼板。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.10〜0.50%、Ni:0.10〜0.60%、Cr:0.10〜0.60%、B:0.0003〜0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする高張力厚鋼板。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.0050%,REM:0.0010〜0.0050%のうち1種または2種を含有することを特徴とする高張力厚鋼板。
(5)鋼素材を、加熱したのち、熱間圧延を行い厚鋼板とする熱間圧延工程と、該熱間圧延工程終了後の厚鋼板に、加速冷却を行う加速冷却工程とを施す、厚鋼板の製造方法において、前記鋼素材を、質量%で、C:0.06〜0.10%、Si:0.03〜0.35%、Mn:1.0〜1.6%、P:0.015%以下、S:0.003%以下、Al:0.005〜0.060%、N:0.0040%以下、Mo:0.20〜0.50%、Nb:0.005〜0.030%、V:0.015〜0.080%を含み、かつ、Mo、Nb、Vを、次(1)式および次(2)式
0.40 ≦(Mo+4.9V+5.8Nb)≦ 0.80 ‥‥(1)
4.0 ≦ Mo/V ≦ 16.0 ‥‥(2)
(ここで、Mo、V、Nb:各元素の含有量(質量%))
を満足するように、含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる組成を有する鋼素材とし、前記熱延工程が、加熱温度:1050〜1200℃に加熱したのち、950℃以下での累積圧下量が30〜60%で、圧延終了温度:900℃以下Ar変態点以上とする熱間圧延を行う工程であり、前記加速冷却工程が、熱間圧延終了後、Ar変態点以上の温度から600℃以下の温度まで、700〜600℃の平均冷却速度で2℃/s以上の加速冷却を行う工程であり、鋼板表裏面から5mm以内の表層部を除く領域が、面積率で80%以上のベイナイト相と、前記ベイナイト相以外の残部がフェライトおよびパーライトからなり、該ベイナイト内の方位差15゜以上の大角境界で囲まれた領域の公称粒径が4〜40μmである組織を有し、温間加工後の特性に優れ、引張強さ:570MPa以上の厚鋼板とすることを特徴とする高張力厚鋼板の製造方法。
(6)(5)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.005〜0.020%を含有する組成とすることを特徴とする高張力厚鋼板の製造方法。
(7)(5)または(6)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.10〜0.50%、Ni:0.10〜0.60%、Cr:0.10〜0.60%、B:0.0003〜0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする高張力厚鋼板の製造方法。
(8)(5)ないし(7)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.0050%,REM:0.0010〜0.0050%のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする高張力厚鋼板の製造方法。
(9)(5)ないし(8)のいずれかにおいて、前記加速冷却工程の後に、焼戻温度:500〜650℃に焼き戻す焼戻工程を施すことを特徴とする高張力厚鋼板の製造方法。
本発明によれば、温間成形後の材質低下を小さく抑制できる、板厚40mm以上、引張強さが570MPa以上の厚鋼板を、安定して製造でき、産業上格段の効果を奏する。そして、本発明になる厚鋼板を素材として温間成形することにより、降伏強さ:500〜620MPa、引張強さ:570MPa以上、降伏比:90%以下で、シャルピー衝撃試験の破面遷移温度vTrs:−20℃以下と、低降伏比、高強度、高靭性で溶接性に優れた円形鋼管を、容易にしかも材質ばらつきが少なく、安定して大量生産することができ、産業上格段の効果を奏する。また本発明によれば、鋼構造物の大型化、安全性向上、施工効率の向上等に寄与するという効果もある。
プレスベンド(プレス曲げ)による円形鋼管の製造方法の一例を模式的に示す説明図である。
本発明になる鋼板は、温間成形により、降伏強さYS:500〜620MPa、引張強さTS:570MPa以上、降伏比:90%以下で、シャルピー衝撃試験の破面遷移温度vTrs:−20℃以下と、低降伏比、高強度、高靭性で、かつ溶接性に優れた円形鋼管を得ることができる、板厚40mm以上の高張力厚鋼板である。
まず、本発明鋼板の組成限定理由について説明する。なお、以下、とくに断らない限り、質量%は単に%と記す。
C:0.06〜0.10%
Cは、固溶して鋼の強度を増加させるとともに、Mo,V,Nb等の炭化物形成元素と結合して炭化物を形成し、析出強化により鋼の強度増加に寄与する元素である。構造用鋼材として所望の高強度を確保するために、本発明では、Cは0.06%以上の含有を必要とする。一方、0.10%を超える含有は、母材靭性および溶接熱影響部(HAZ)靭性を著しく低下させるとともに、溶接割れを誘起し、耐溶接割れ性を低下させるなどの悪影響を及ぼす。このため、Cは0.06〜0.10%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.06〜0.08%である。
Si:0.03〜0.35%
Siは,脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を確保するためには、少なくとも0.03%の含有を必要とする。一方、0.35%を超えて含有すると,母材靭性およびHAZ靱性を低下させる。このため、Siは0.03〜0.35%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.05〜0.25%である。
Mn:1.0〜1.6%
Mnは、固溶して、あるいは焼入れ性の増加を介して、鋼の強度を増加させる作用を有する安価な元素である。本発明では,他のより高価な元素の含有を最小限にして、所望の強度(引張強さ:570MPa以上)を確保するために、Mnは1.0%以上の含有を必要とする。一方,1.6%を超えて含有すると、凝固時の中央偏析部への濃化が著しくなり、スラブ欠陥を増加させるなどの問題がある。また、1.6%を超えるMnの多量含有は、さらに、母材靭性およびHAZ靱性の著しい低下を招く。このため、Mnは1.0〜1.6%の範囲に限定した。
P:0.015%以下
Pは、旧γ粒界等に偏析し、鋼の靱性を低下させる元素であり、とくにマルテンサイト相やベイナイト相を有する鋼材の靱性への悪影響が大きい。このため、本発明ではPは、できるだけ低減することが望ましいが、 0.015%程度以下まで低減すれば、上記した悪影響は許容できる範囲となる。このため、Pは0.015%以下に限定した。
S:0.003%以下
Sは、Mnと結合してMnSを形成する。S含有量が多くなると熱間圧延で伸長した粗大なMnSが増加する。粗大なMnSが増加すると、特に、板厚方向(Z方向)のシャルピー試験吸収エネルギーが低下し、板厚方向の靭性が低下する。このため、Sはできるだけ低減することが望ましいが、0.003%以下程度まで低減すれば、このような悪影響は許容できる程度までになる。このようなことから、Sは0.003%以下に限定した。
Al:0.005〜0.060%
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、高張力鋼の溶鋼脱酸プロセスにおいて、最も汎用的に使われる元素である。また、Alは、鋼中のNをAlNとして固定し、Nによる靭性低下や割れ発生を防止する作用も有する。このような効果を得るためには、0.005%以上の含有を必要とする。一方、0.060%を超える含有は、母材の靱性を低下させるとともに,溶接時に溶接金属に混入して靱性を低下させる。このため、Alは0.005〜0.060%の範囲に限定した。なお,好ましくは,0.010〜0.045%である。
N:0.0040%以下
Nは、鋼中に固溶して、母材靭性およびHAZ靭性を低下させる作用を有する元素であり、本発明では、できるだけ低減することが望ましい。0.0040%を超えて多量に含有すると、上記した靭性の低下が著しくなる。このため、Nは0.0040%以下に限定した。
Mo:0.20〜0.50%
Moは、鋼中でCと結合し、Mo炭化物を形成して析出強化により、温間成形時の成形温度上昇による軟化を抑制する作用を有する元素であり、本発明において重要な元素である。またMoは、焼入れ性を向上させる元素であり、γ→α変態を抑制して、ベイナイト相を主体とする組織を形成する作用をも有し、さらに該組織中に島状マルテンサイトを形成させ、降伏比の低下にも寄与する。これらの効果を発現するためには、0.20%以上の含有を必要とする。一方、0.50%を超える含有は、HAZ靭性や耐溶接割れ性を低下させる。このため、Moは0.20〜0.50%の範囲に限定した。
Nb:0.005〜0.030%
Nbは、微細な炭化物を形成し析出強化によって温間成形時の成形温度上昇による軟化を抑制する作用を有する元素であり、本発明において重要な元素のひとつである。また、Nbは、オーステナイトの再結晶を抑制する作用を有し、制御圧延による、微細結晶粒の形成を助長する作用を有する。このような効果を得るためには、0.005%以上の含有を必要とする。一方、0.030%を超える多量の含有は、HAZ靱性の著しい低下を招く。このため、Nbは0.010〜0.030%の範囲に限定した。なお、好ましくは,0.008〜0.025%である。
V:0.015〜0.080%
Vは、Nbと同様に、炭化物を形成し析出強化によって温間成形時の成形温度上昇による軟化を抑制する作用を有する元素であり、本発明において重要な元素のひとつである。また、Vは、Mo炭化物中に固溶して、Mo炭化物の安定性を高め、温間成形中のMo炭化物の粗大化を抑制する作用を有する。このような効果を得るためには、0.015%以上の含有を必要とする。一方、0.080%を超える含有は、母材靭性およびHAZ靱性の著しい低下を招く。このため、Vは0.015〜0.080%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.040〜0.060%である。
本発明では、Mo、Nb、Vを、上記した範囲内で、かつ次(1)式、次(2)式を満足するように、調整して含有する。
0.40 ≦(Mo+4.9V+5.8Nb)≦ 0.80 ‥‥(1)
4.0 ≦ Mo/V ≦ 16.0 ‥‥(2)
(ここで、Mo、V、Nb:各元素の含有量(質量%))
Mo,V,Nbは、いずれも、上記したように析出物(炭化物)を形成し、析出強化を介して、温間成形後の鋼材(鋼管)強度と靭性に大きな影響を及ぼす。析出物(炭化物)を形成することにより、析出強化による強度の上昇が期待でき、温間成形温度に加熱されることに伴う強度低下を補償できる。しかし、析出強化による強度増加が多大となると、鋼材が脆化する。このため、本発明では、各元素の析出強化能の合計が適正範囲内となるように調整する。
本発明では、Mo,V,Nbの含有量を、上記した各元素の含有範囲内でかつ、次(1)式で定義される特定な関係式
0.40 ≦(Mo+4.9V+5.8Nb)≦ 0.80 ‥‥(1)
(ここで、Mo、V、Nb:各元素の含有量(質量%))
を満足するように調整する。これにより、温間成形温度に加熱されることに伴う強度低下を補償できるとともに、析出強化に伴う脆化を抑えることができる。各元素の析出強化能は、Nbが最も大きく、次にVが、そして、Moが最も小さい。各元素の析出強化能の合計である(Mo+4.9V+5.8Nb)が、0.40未満では析出物の量が十分でなく、析出強化が不足し、温間成形温度の上昇に伴う強度低下が大きくなりすぎる。一方、(Mo+4.9V+5.8Nb)が0.80を超えると、析出物の量が過剰となり、析出強化が大きくなりすぎて脆化し、母材靭性の低下や降伏比の増加が著しくなる。そのため、(Mo+4.9V+5.8Nb)を0.40〜0.80の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.50〜0.70である。
さらに、本発明の鋼素材では、Mo、Vが、上記した各元素の含有範囲内で、かつ上記した(1)式を満足するとともに、さらに、次(2)式で定義される特定な関係式
4.0 ≦ Mo/V ≦ 16.0 ‥‥(2)
(ここで、Mo、V、Nb:各元素の含有量(質量%))
を満足するように調整する。これにより、Mo炭化物の安定性を高め、温間成形中のMo炭化物の粗大化を抑えことができ、温間成形温度に加熱されることに伴う強度低下を安定して補償できるとともに、多大の析出強化に伴う鋼材の脆化を抑制することができる。
上記した効果は、適量のVを、Mo炭化物中に固溶させることにより達成できる。Mo炭化物中のV濃度は、Mo含有量とV含有量の比、Mo/V、に依存する。Mo/Vが、16.0を超えると、Mo炭化物中のV濃度が少なすぎて、上記した効果が期待できない。一方、Mo/Vが、4.0未満では、Mo炭化物中のV濃度が過剰となり、過剰な析出強化に伴う脆化が大きくなる。このため、Mo/Vは4.0〜16.0の範囲に限定した。なお好ましくは、5.0〜12.0の範囲である。
上記した成分組成が基本の組成であるが、本発明では、必要に応じて、選択元素として、Ti:0.005〜0.020%、および/または、Cu:0.10〜0.50%、Ni:0.10〜0.60%、Cr:0.10〜0.60%、B:0.0003〜0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.0005〜0.0050%,REM:0.0010〜0.0050%のうちから選ばれた1種または2種、を含有することができる。
Ti:0.005〜0.020%
Tiは、溶接熱影響部HAZの靭性向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有できる。Tiは、Nとの親和力が強く、凝固時にTiNとして析出する。微細に析出したTiNは、とくにHAZでのオーステナイト粒の粗大化を抑制するとともに、フェライト変態核として、HAZの高靱性化に寄与する。このような効果を得るためには、0.005%以上のTi含有を必要とする。一方,0.020%を超える含有は、TiN粒子の粗大化を招くとともに、TiN中にNbを固溶してNbの析出強化能を損ねる。このため、含有する場合には、Tiは0.005〜0.020%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは、0.008〜0.015%である。
Cu:0.10〜0.50%、Ni:0.10〜0.60%、Cr:0.10〜0.60%、B:0.0003〜0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上
Cu、Ni、Cr、Bはいずれも、鋼の強度を増加させる、高強度化のために有用な元素であり、必要に応じて選択して1種または2種以上を含有できる。
Cuは、固溶強化や焼入性の向上を介して、鋼の強度を増加させる元素である。このような効果を得るためには、0.10%以上含有することが必要となるが、0.50%を超える含有は、材料(合金)コストの増加や熱間脆性による表面性状の劣化を招く。このため、含有する場合には、Cuは0.10〜0.50%の範囲に限定することが好ましい。
Niは,靱性をほとんど劣化させることなく、鋼の強度を増加させる元素である。しかも、NiはHAZ靱性への悪影響も小さい。このような効果を得るためには、0.10%以上の含有を必要とする。一方、0.60%を超える多量の含有は、Niが高価であるため、材料(合金)コストの高騰を招く。このため、含有する場合には、Niは0.10〜0.60%の範囲に限定することが好ましい。
Crは、焼入性の向上を介して、鋼の強度を増加させる元素である。このような効果を得るためには,0.10%以上含有することが必要となるが、0.60%を超える多量の含有は,材料(合金)コストの高騰を招く。このため、含有する場合には、Crは0.10〜0.60%の範囲に限定することが好ましい。
Bは,微量の含有で焼入れ性を向上させ、焼入れ性の向上を介して、鋼の強度を増加させる作用を有する元素である。また、Bは、TiNが固溶するような高温に晒される溶接ボンド部近傍のHAZで、BNを形成して、フェライト変態核として作用するとともに、固溶Nを低減して、HAZ靱性を向上させる。このような効果を発現させるためには、0.0003%以上の含有を必要とする。一方、0.0030%を超える含有は、母材靭性およびHAZ靱性の低下を招くとともに、母材の降伏強さを著しく上昇させて、所望の低降伏比を確保することが困難になる。このため、含有する場合には、Bは0.0005〜0.0030%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは、 0.0007〜0.0020%である。
Ca:0.0005〜0.0050%、REM:0.0010〜0.0050%のうちから選ばれた1種または2種
Ca、REMはいずれも、硫化物の形態制御を介して母材の靭性および延性の向上に寄与する元素であり、また、微細な硫化物粒子を鋼中に分散させた場合には、フェライト変態核として作用し、HAZ靱性の向上に寄与する元素であり、必要に応じて選択して含有できる。これらの効果を発揮させるには、Caでは少なくとも0.0005%,REMでは少なくとも0.010%含有することが必要であるが、いずれも0.0050%を超えて過剰に含有すると、過剰量の介在物が生成し、逆に靱性が低下する場合がある。このため、含有する場合には、Caは0.0005〜0.0050%、REMは0.0010〜0.0050%の範囲に限定することが好ましい。
なお、本発明では、上記した成分を上記した範囲で含み、さらに、下記式で定義される炭素当量Ceq
Ceq=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
を0.47%以下に調整することが好ましい。Ceqが0.47%を超えて大きくなると、溶接割れ性が高くなり、溶接性が低下する。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避不純物からなる。不可避不純物としては、O:0.0050%以下が許容できる。
本発明厚鋼板は、上記した組成を有し、さらに鋼板表裏面から5mmの範囲の表層部を除いた領域が、面積率で80%以上のベイナイト相を主相とし、該ベイナイト内の方位差15゜以上の大角境界で囲まれた領域の公称粒径が4〜40μmである組織を有する。
鋼板表裏面から5mm以内の表層部を除く領域:面積率で80%以上のベイナイト相を主相とする組織
本発明では、鋼板表裏面から5mm以内の表層部を除く領域の組織を、ベイナイト相を主相とする組織とする。なお、鋼板表裏面から5mmの範囲の表層部は、内部と熱履歴が大きく異なり、上記したと同様の組織に制御することが難しいため除外した。
ここでいう「主相」は、当該相が、面積率で80%以上である場合をいうが、100%である単相(ベイナイト単相)としてもよい。単相でない場合には、主相以外の第二相としては、フェライト、パーライト、マルテンサイト等が例示できる。第二相の含有量は、合計で面積率で20%未満とすることが、所定の靭性、延性、強度を確保するうえで好ましい。ベイナイト相は、ラスやブロックなどの微細な下部組織で構成され、マルテンサイトに比べれば粗いセメンタイトを含む。そのため、ベイナイト相は、温間成形中の組織変化が小さく、厚鋼板の組織をベイナイト相を主相とする組織とすることにより、温間成形による材質低下が少ない厚鋼板とすることができる。
一般に、引張強さ570MPa級厚鋼板では、上記したベイナイト相以外に、フェライト相、パーライト、マルテンサイト相など複数の相で構成された組織とすることが考えられる。しかし、フェライト相は、温間成形中に粒内にサブグレイン(亜結晶)が形成され、温間成形中の、降伏強さと降伏比の上昇量が、ベイナイト相等の他の組織に比べて大きく、また、それに伴う靱性の低下量も大きくなる。また、パーライト相は、温間成形によりセメンタイトのラメラーが崩れて分断されるため、引張強さの減少量が大きくなる。さらに、マルテンサイト相は極めて微細な炭化物を含む組織であるため、温間成形中に、炭化物が粗大化しやすく、降伏強さ,引張強さとも急激に低下しやすい。このようなことから、本発明の高張力厚鋼板では、ベイナイト相を主相とする組織とすることにした。
方位差15゜以上の大角境界で囲まれた領域の公称粒径:4〜40μm
ベイナイト相では,旧γ粒界,パケット境界,ブロック境界などの方位差15゜以上の大角境界が存在する。温間成形中には、大角境界から再結晶粒が生成したり,大角境界上の析出物が粗大化したりしやすい。このため,大角境界が多く存在するほど材質低下が起きやすくなる。このため、本発明では、大角境界で囲まれた領域の公称粒径を4〜40μmの範囲に限定した。なお、ここでいう「大角境界」は、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction)法を用いて、旧γ粒界、パケット境界、ブロック境界等を挟む境界の方位差を測定して、方位差が15゜以上である境界をいう。また、EBSD法を用いて得られた各境界をマッピングして図示した境界マップ図から、方位差15゜以上の大角境界で囲まれた領域の大きさ(面積)を、画像解析等によって求め、その平均面積の平方根を公称粒径とした。
大角境界で囲まれた領域の公称粒径が4μm未満では、大角境界の密度が高く、温間成形中の材質低下が大きくなる。一方、40μmを超えて大きくなると、靱性が低下する。このため、大角境界で囲まれた領域の公称粒径を4μm以上40μm以下の範囲に限定した。
つぎに、本発明厚鋼板の好ましい製造方法について説明する。
本発明では、鋼素材を、加熱したのち、熱間圧延を行い厚鋼板とする熱間圧延工程と、該熱間圧延工程終了後の厚鋼板に、加速冷却を行う加速冷却工程とを施す。とくに、断らない限り、製造方法において用いる、温度および冷却速度は、板厚方向平均値を用いるものとする。
鋼素材の製造方法はとくに限定する必要はないが、上記した組成を有する鋼素材を、転炉等の常用の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の常用の鋳造方法で、鋼素材(スラブ)とすることが好ましい。
得られた鋼素材(スラブ)は、加熱温度:1050〜1200℃に再加熱されたのち、熱延工程を施される。
加熱温度:1050〜1200℃
加熱温度が1050℃未満では、V、Nb等の析出物(炭化物)形成元素が十分に固溶されず、これらの元素の効果が十分に発揮されない場合があるうえ、変形抵抗が増大して圧延機の負荷が大きくなる。一方、加熱温度が1200℃を超えると、加熱時にオーステナイト粒が粗大化し、圧延後のミクロ組織が粗大になるため、母材靭性が低下する。このようなことから、鋼素材の加熱温度は 1050〜1200℃の範囲とすることが好ましい。
加熱温度:1050〜1200℃に加熱された鋼素材は、950℃以下での累積圧下量が30〜60%で、圧延終了温度:900℃以下Ar変態点以上とする熱間圧延を行う熱延工程を施される。
950℃以下での累積圧下量:30〜60%
本発明では、ミクロ組織を適度に微細化するため、950℃以下で制御圧延を行う。950℃以下の累積圧下量が30%未満では制御圧延の効果が十分でなく、組織が粗大化して靱性が低下したり、焼入性が必要以上に増加して表層が硬化しすぎる場合がある。一方、950℃以下の累積圧下量が60%を超えると、ベイナイトパケット・ブロックが顕著に微細化され、温間加工による材質変化を助長する大角境界が過剰になる。このため、950℃以下での累積圧下量は30〜60%の範囲に限定することが好ましい。
圧延終了温度:900℃以下Ar変態点以上
圧延終了温度が900℃を超えて高温になると、組織が粗大化して、靱性が低下したり,焼入性が必要以上に増加して表層が硬化しすぎる場合がある。一方、圧延終了温度がAr変態点未満では、圧延中あるいは圧延直後にフェライトが生成し、粗大化して、靱性が低下する場合がある。このため、圧延終了温度は、900℃以下Ar変態点以上に限定することが好ましい。
なお、Ar変態点は、次式で算出する値を用いるものとする。
Ar(℃)=900−332C+6Si−77Mn−20Cu−50Ni−18Cr−68Mo
(ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo:各元素の含有量(質量%))
上記した式を計算するうえでは、含有しない元素は零として計算するものとする。
熱間圧延終了後、厚鋼板は、加速冷却工程を施される。
加速冷却工程は、熱間圧延終了後、Ar変態点以上の温度から600℃以下の温度まで、700〜600℃の平均冷却速度で2℃/s以上の加速冷却を行う工程とする。本発明では、熱間圧延終了後に、ベイナイト相を主としたミクロ組織を得るために、加速冷却を行うことが好ましい。
加速冷却の平均冷却速度:2℃/s以上
加速冷却の冷却速度が、700〜600℃の平均冷却速度で2℃/s未満では、フェライトが多量に析出するため、所望のミクロ組織を確保することが難しくなる。このため、加速冷却の冷却速度を、700〜600℃の平均冷却速度で2℃/s以上に限定することが好ましい。なお、加速冷却の冷却速度の上限はとくに規定する必要はないが、マルテンサイトの生成を抑える観点から、50℃/s以下とすることが好ましい。
加速冷却の冷却停止温度:600℃以下
加速冷却の冷却停止温度が、600℃超えと高温になると、フェライトおよびパーライトが多量に生成し、所望のミクロ組織を確保することが難しくなる。このため、加速冷却の冷却停止温度は600℃以下に限定することが好ましい。なお、加速冷却の冷却停止温度の下限は、とくに規定する必要はないが、冷却温度が比較的速い場合には400℃とすることが好ましい。冷却速度が速い場合に冷却停止温度が400℃未満となると、マルテンサイトが生成し、所望のミクロ組織を確保できにくくなる。このようなことから、加速冷却の冷却停止温度は600℃以下に限定することが好ましい。なお、加速冷却停止後は、放冷することが好ましい。
また、本発明では、加速冷却工程終了後、さらに強度と靭性のバランスを調整するため、必要に応じて、焼戻温度:500〜650℃に焼き戻す焼戻工程を施しても良い。
焼戻温度:500〜650℃
焼戻温度が500℃未満では、所望の焼戻し効果を確保できない。一方、650℃を超えると、析出物が粗大化し、強度が低下するため、上記したMo,V,Nbによる強度上昇効果を確保できなくなる。このため、焼戻温度は500〜650℃の範囲の温度に限定することが好ましい。
以下、実施例に基づき、さらに本発明について説明する。
表1に示す組成を有する鋼素材(スラブ)に、表2に示す条件の熱延工程、加速冷却工程を施し、板厚:80mmの厚鋼板を製造した。
得られた厚鋼板から、試験片を採取し、組織観察、引張試験およびシャルピー衝撃試験を実施した。試験方法は、次のとおりとした。
(1)組織観察
得られた厚鋼板から、組織観察用試験片を採取し、圧延方向断面(L断面)を研磨し、ナイタール液で腐食して、光学顕微鏡(倍率:400倍)および走査型電子顕微鏡(倍率:2000倍)で組織を観察し、撮像して、画像解析装置を用いて、組織の種類、分率を測定した。また、EBSD法で組織を観察し、境界を挟んでの方位差を測定し、方位差15゜以上の大角境界を決定し、該方位差15゜以上の大角境界で囲まれる領域の平均面積を画像解析によって測定し、その平方根を公称粒径とした。
(2)引張試験
得られた厚鋼板の板厚:1/4t位置から、長さ方向が圧延方向に一致するように、JIS4号引張試験片(丸棒試験片)を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して、引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS、伸びEl、降伏比YR)を求めた。
(3)シャルピー衝撃試験
得られた厚鋼板の板厚:1/4t位置から、長さ方向が圧延方向に一致するように、Vノッチ試験片を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠して、シャルピー衝撃試験を実施し、破面遷移温度vTrs(℃)を求めた。
ついで、得られた厚鋼板について、温間成形後の機械的特性を調査した。
(4)温間加工後の引張試験、衝撃試験
得られた厚鋼板から、曲げ加工用試験材(大きさ:圧延方向100×幅方向1500mm)を採取した。得られた試験材を、加熱温度:400℃、500℃、600℃に加熱したのち、該加熱された試験材に曲げ方向が圧延方向に垂直になるように温間プレス曲げ加工を施した。曲げ半径RはR=500mmとした。曲げ加工後、加工部の外表面側1/4t位置から、試験片長さ方向が圧延方向に一致するように、JIS4号丸棒引張試験片、Vノッチ試験片を採取して、JIS Z 2241の規定に準拠して、引張試験を、またJIS Z 2242の規定に準拠して、シャルピー衝撃試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS、伸びEl、降伏比YR)および破面遷移温度vTrs(℃)を求め、温間成形性を評価した。
得られた結果を表3に示す。
Figure 0005655598
Figure 0005655598
Figure 0005655598
本発明例はいずれも、400〜600℃で温間成形を施した後に、降伏強さ:500〜620MPa、引張強さ:570MPa以上,降伏比:90%以下の引張特性と、vTrs:−20℃以下の靭性を保持している。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、400〜600℃の温間成形を施すと、強度、靭性が大きく変動し、降伏強さ:500〜620MPa、引張強さ:570MPa以上,降伏比:90%以下の引張特性と、vTrs:−20℃以下の靭性のうちのいずれかを確保できていない。

Claims (9)

  1. 質量%で、
    C:0.06〜0.10%、 Si:0.03〜0.35%、
    Mn:1.0〜1.6%、 P:0.015%以下、
    S:0.003%以下、 Al:0.005〜0.060%、
    N:0.0040%以下、 Mo:0.20〜0.50%、
    Nb:0.005〜0.030%、 V:0.015〜0.080%
    を含み、かつ、Mo、Nb、Vを、下記(1)式および下記(2)式を満足するように、含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる組成を有し,
    鋼板表裏面から5mm以内の表層部を除く領域が、面積率で80%以上のベイナイト相と、前記ベイナイト相以外の残部がフェライトおよびパーライトからなり、該ベイナイト内の方位差15゜以上の大角境界で囲まれた領域の公称粒径が4〜40μmである組織を有し、温間加工後の特性に優れることを特徴とする引張強さ:570MPa以上の高張力厚鋼板。

    0.40 ≦(Mo+4.9V+5.8Nb)≦ 0.80 ‥‥(1)
    4.0 ≦ Mo/V ≦ 16.0 ‥‥(2)
    ここで、Mo、V、Nb:各元素の含有量(質量%)
  2. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.005〜0.020%を含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載の高張力厚鋼板。
  3. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.10〜0.50%、Ni:0.10〜0.60%、Cr:0.10〜0.60%、B:0.0003〜0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の高張力厚鋼板。
  4. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.0050%,REM:0.0010〜0.0050%のうち1種または2種を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の高張力厚鋼板。
  5. 鋼素材を、加熱したのち、熱間圧延を行い厚鋼板とする熱間圧延工程と、該熱間圧延工程終了後の厚鋼板に、加速冷却を行う加速冷却工程とを施す、厚鋼板の製造方法において、
    前記鋼素材を、質量%で、
    C:0.06〜0.10%、 Si:0.03〜0.35%、
    Mn:1.0〜1.6%、 P:0.015%以下、
    S:0.003%以下、 Al:0.005〜0.060%、
    N:0.0040%以下、 Mo:0.20〜0.50%、
    Nb:0.005〜0.030%、 V:0.015〜0.080%
    を含み、かつ、Mo、Nb、Vを、下記(1)式および下記(2)式を満足するように、含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる組成を有する鋼素材とし、
    前記熱延工程が、加熱温度:1050〜1200℃に加熱したのち、950℃以下での累積圧下量が30〜60%で、圧延終了温度:900℃以下Ar変態点以上とする熱間圧延を行う工程であり、
    前記加速冷却工程が、熱間圧延終了後、Ar変態点以上の温度から600℃以下の温度まで、700〜600℃の平均冷却速度で2℃/s以上の加速冷却を行う工程であり、
    鋼板表裏面から5mm以内の表層部を除く領域が、面積率で80%以上のベイナイト相と、前記ベイナイト相以外の残部がフェライトおよびパーライトからなり、該ベイナイト内の方位差15゜以上の大角境界で囲まれた領域の公称粒径が4〜40μmである組織を有し、温間加工後の特性に優れ、引張強さ:570MPa以上の厚鋼板とすることを特徴とする高張力厚鋼板の製造方法。

    0.40 ≦(Mo+4.9V+5.8Nb)≦ 0.80 ‥‥(1)
    4.0 ≦ Mo/V ≦ 16.0 ‥‥(2)
    ここで、Mo、V、Nb:各元素の含有量(質量%)
  6. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.005〜0.020%を含有する組成とすることを特徴とする請求項5に記載の高張力厚鋼板の製造方法。
  7. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.10〜0.50%、Ni:0.10〜0.60%、Cr:0.10〜0.60%、B:0.0003〜0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項5または6に記載の高張力厚鋼板の製造方法。
  8. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.0050%,REM:0.0010〜0.0050%のうち1種または2種を含有することを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の高張力厚鋼板の製造方法。
  9. 前記加速冷却工程の後に、焼戻温度:500〜650℃に焼き戻す焼戻工程を施すことを特徴とする請求項5ないし8のいずれかに記載の高張力厚鋼板の製造方法。
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