以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
図1を参照して、本実施の形態に係る制御装置を搭載した車両について説明する。この車両に搭載されたパワートレーン100のエンジン200の出力は、トルクコンバータ300および前後進切換装置400を介して、ベルト式あるいはチェーン式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)500に入力される。無段変速機500の出力は、減速歯車600および差動歯車装置700に伝達され、左右の駆動輪800へ分配される。パワートレーン100は、後述するECU(Electronic Control Unit)900により制御される。ECU900が、特許請求の範囲における制御装置に対応する。
トルクコンバータ300は、エンジン200のクランク軸に連結されたポンプ翼車302と、タービン軸304を介して前後進切換装置400に連結されたタービン翼車306とから構成されている。ポンプ翼車302およびタービン翼車306の間にはロックアップクラッチ308が設けられている。ロックアップクラッチ308は、係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切換えられることにより、係合または解放されるようになっている。
ロックアップクラッチ308が完全係合させられることにより、ポンプ翼車302およびタービン翼車306は一体的に回転させられる。ポンプ翼車302には、無段変速機500を変速制御したり、ベルト挟圧力を発生させたり、各部に潤滑油を供給したりするための油圧を発生する機械式のオイルポンプ310が設けられている。
前後進切換装置400は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置から構成されている。トルクコンバータ300のタービン軸304はサンギヤ402に連結されている。無段変速機500の入力軸502はキャリア404に連結されている。キャリア404とサンギヤ402とはフォワードクラッチ406を介して連結されている。リングギヤ408は、リバースブレーキ410を介してハウジングに固定される。フォワードクラッチ406およびリバースブレーキ410は油圧シリンダによって摩擦係合させられる。フォワードクラッチ406の入力回転数は、タービン軸304の回転数、すなわちタービン回転数NTと同じである。
フォワードクラッチ406が係合させられるとともに、リバースブレーキ410が解放されることにより、前後進切換装置400は前進用係合状態となる。この状態で、前進方向の駆動力が無段変速機500に伝達される。リバースブレーキ410が係合させられるとともにフォワードクラッチ406が解放されることにより、前後進切換装置400は後進用係合状態となる。この状態で、入力軸502はタービン軸304に対して逆方向へ回転させられる。これにより、後進方向の駆動力が無段変速機500に伝達される。フォワードクラッチ406およびリバースブレーキ410が共に解放されると、前後進切換装置400は動力伝達を遮断するニュートラル状態になる。
無段変速機500は、入力軸502に設けられたプライマリプーリ504と、出力軸506に設けられたセカンダリプーリ508と、これらのプーリに巻き掛けられた伝動ベルト510とから構成される。各プーリと伝動ベルト510との間の摩擦力を利用して、動力伝達が行われる。
プライマリプーリ504は、入力軸502の軸方向に移動可能な可動プーリ512と、入力軸502に対して固定された固定プーリ(固定シーブとも呼ばれる)514とから構成される。同様に、セカンダリプーリ508は、出力軸506の軸方向に移動可能な可動プーリ522と、出力軸506に対して固定された固定プーリ524とから構成される。
プライマリプーリ504の可動プーリ512が入力軸502の軸方向に移動することによりプライマリプーリ504の溝幅が変化し、セカンダリプーリ508の可動プーリ522が出力軸506の軸方向に移動することによりセカンダリプーリ508の溝幅が変化する。
プライマリプーリ504ならびにセカンダリプーリ508の溝幅が変化することにより、変速比GR(=プライマリプーリ回転数NIN/セカンダリプーリ回転数NOUT)が連続的に変化させられる。
周知のように、可動プーリ512および可動プーリ522は、それらの背面に供給された油圧に応じて移動する。
図2に示すように、ECU900には、エンジン回転数センサ902、タービン回転数センサ904、車速センサ906、スロットル開度センサ908、冷却水温センサ910、油温センサ912、アクセル開度センサ914、フットブレーキスイッチ916、ポジションセンサ918、プライマリプーリ回転数センサ922およびセカンダリプーリ回転数センサ924が接続されている。
エンジン回転数センサ902は、エンジン200の回転数(エンジン回転数)NEを検出する。タービン回転数センサ904は、タービン軸304の回転数(タービン回転数)NTを検出する。車速センサ906は、車速Vを検出する。スロットル開度センサ908は、電子スロットルバルブの開度θ(TH)を検出する。冷却水温センサ910は、エンジン200の冷却水温T(W)を検出する。油温センサ912は、無段変速機500などの油温T(C)を検出する。アクセル開度センサ914は、アクセルペダルの開度A(CC)を検出する。フットブレーキスイッチ916は、フットブレーキの操作の有無を検出する。ポジションセンサ918は、シフトポジションと対応する位置に設けられた接点がONであるかOFFであるかを判別することにより、シフトレバー920のポジションP(SH)を検出する。プライマリプーリ回転数センサ922は、プライマリプーリ504の回転数NINを検出する。セカンダリプーリ回転数センサ924は、セカンダリプーリ508の回転数NOUTを検出する。各センサの検出結果を表す信号が、ECU900に送信される。タービン回転数NTは、フォワードクラッチ406が係合された前進走行時にはプライマリプーリ回転数NINと一致する。車速Vは、セカンダリプーリ回転数NOUTと対応した値になる。したがって、車両が停車状態にあり、かつフォワードクラッチ406が係合された状態では、タービン回転数NTは0となる。
ECU900は、CPU(Central Processing Unit)、メモリおよび入出力インター
フェースなどを含む。CPUはメモリに記憶されたプログラムに従って信号処理を行なう。これにより、エンジン200の出力制御、無段変速機500の変速制御、ベルト挟圧力制御、フォワードクラッチ406の係合/解放制御およびリバースブレーキ410の係合/解放制御などを実行する。
エンジン200の出力制御は電子スロットルバルブ1000、燃料噴射装置1100、点火装置1200などによって行なわれる。無段変速機500の変速制御、ベルト挟圧力制御、フォワードクラッチ406の係合/解放制御およびリバースブレーキ410の係合/解放制御は、油圧制御回路2000によって行なわれる。
図3および図4を参照して、油圧制御回路2000の要部について説明する。なお、以下に説明する油圧制御回路2000は一例であって、これに限らない。
オイルポンプ310が発生した油圧は、ライン圧油路2002を介してプライマリレギュレータバルブ2100、LPM(Line Pressure Modulator)1バルブ2310、LPM2バルブ2320およびLPM3バルブ2330に供給される。
プライマリレギュレータバルブ2100には、SLTリニアソレノイドバルブ2200およびSLSリニアソレノイドバルブ2210のいずれか一方から選択的に制御圧が供給される。SLTリニアソレノイドバルブ2200の制御圧(出力油圧)およびSLSリニアソレノイドバルブ2210の制御圧(出力油圧)うち、プライマリレギュレータバルブ2100へ供給される制御圧は、コントロールバルブ2400により選択される。コントロールバルブ2400については、後で説明する。
プライマリレギュレータバルブ2100のスプールは、供給された制御圧に応じて上下に摺動する。これにより、オイルポンプ310で発生した油圧がプライマリレギュレータバルブ2100により調圧(調整)される。プライマリレギュレータバルブ2100により調圧された油圧がライン圧PLとして用いられる。本実施の形態においては、プライマリレギュレータバルブ2100に供給される制御圧が高いほど、ライン圧PLがより高くなる。なお、プライマリレギュレータバルブ2100に供給される制御圧が高いほど、ライン圧PLがより低くなるようにしてもよい。
SLTリニアソレノイドバルブ2200およびSLSリニアソレノイドバルブ2210には、LPM2バルブ2320から出力された油圧が供給される。LPM2バルブ2320から出力された油圧は、SLTリニアソレノイドバルブ2200およびSLSリニアソレノイドバルブ2210の他、SLPリニアソレノイドバルブ2220に供給される。
SLTリニアソレノイドバルブ2200、SLSリニアソレノイドバルブ2210およびSLPリニアソレノイドバルブ2220は、ECU900から送信されたデューティ信号(デューティ値)によって決まる電流値に応じて制御圧を発生させる電磁バルブである。
LPM1バルブ2310は、ライン圧PLを元圧として調圧された油圧を出力する。LPM1バルブ2310から出力された油圧は、セカンダリプーリ508の可動プーリ522に供給される。セカンダリプーリ508の可動プーリ522には、伝動ベルト510が滑りを生じないような油圧が供給される。すなわち、LPM1バルブ2310からの出力油圧に応じてベルト挟圧力が増減させられる。
LPM1バルブ2310には、軸方向へ移動可能なスプールおよびそのスプールを一方へ付勢するスプリングが設けられている。LPM1バルブ2310は、ECU900によりデューティ制御されるSLSリニアソレノイドバルブ2210の出力油圧をパイロット圧として、LPM1バルブ2310に導入されるライン圧PLを元圧として減圧された油圧を出力する。
LPM2バルブ2320は、ライン圧PLを元圧として減圧された油圧を出力する。前述したように、LPM2バルブ2320から出力された油圧は、SLTリニアソレノイドバルブ2200、SLSリニアソレノイドバルブ2210およびSLPリニアソレノイドバルブ2220に供給される。
LPM3バルブ2330は、ライン圧PLを元圧として調圧された油圧を出力する。LPM3バルブ2330には、軸方向へ移動可能なスプールおよびそのスプールを一方へ付勢するスプリングが設けられている。LPM3バルブ2330は、ECU900によりデューティ制御されるSLPリニアソレノイドバルブ2220の出力油圧をパイロット圧として、LPM3バルブ2330に導入されるライン圧PLを減圧する。すなわち、SLPリニアソレノイドバルブ2220により制御される油圧がLPM3バルブ2330から出力される。
LPM3バルブ2330から出力された油圧は、コントロールバルブ2400を介して、プライマリプーリ504の可動プーリ512に供給される。プライマリプーリ504の可動プーリ512に対する油圧の供給および排出を制御することにより、無段変速機500の変速比GRが制御される。
プライマリプーリ504の可動プーリ512に供給される油圧が増大すると、プライマリプーリ504の溝幅が狭くなる。そのため、変速比GRが低下する。すなわち無段変速機500がアップシフトする。
プライマリプーリ504の可動プーリ512に供給される油圧が減少すると、プライマリプーリ504の溝幅が広くなる。その結果、変速比GRが増大する。すなわち無段変速機500がダウンシフトする。
変速比GRは、たとえば、プライマリプーリ回転数NINがマップを用いて設定される目標回転数になるように制御される。目標回転数は、車速Vおよびアクセル開度ACCをパラメータとしたマップを用いて設定される。なお、変速比GRの制御方法はこれに限らない。
モジュレータバルブ2340は、LPM2バルブ2320から出力された油圧を元圧として減圧された油圧を出力する。モジュレータバルブ2340から出力された油圧は、SLソレノイドバルブ2500に供給される。
コントロールバルブ2400は、LPM2バルブ2320を用いてライン圧を減圧した油圧が供給される第1油路2510、SLTリニアソレノイドバルブ2200により制御される油圧が供給される第2油路2520、SLPリニアソレノイドバルブ2220により制御される油圧が供給される第3油路2530およびセカンダリプーリ508に油圧を供給する第4油路2540がそれぞれ接続された入力ポートを備える。第4油路2540上には、オリフィス2542が設けられる。
なお、プライマリプーリ504に油圧を供給しない油路であって、セカンダリプーリ508以外の機器に油圧を供給する油路を第4油路2540として用いるようにしてもよい。
さらに、コントロールバルブ2400は、後述するマニュアルバルブ2600を介してフォワードクラッチ406もしくはリバースブレーキ410に油圧を供給する第5油路2550およびプライマリプーリ504に油圧を供給する第6油路2560がそれぞれ接続された出力ポートを備える。
コントロールバルブ2400のスプールは、図3において(A)の状態(左側の状態)もしくは(B)の状態(右側の状態)のうちのいずれか一方の状態に切換えられる。
すなわち、コントロールバルブ2400は、第1油路2510と第5油路2550とを連通するとともに第2油路2520と第5油路2550とを遮断し、かつ第3油路2530と第6油路2560とを連通するとともに第4油路2540と第6油路2560とを遮断する(A)の状態、および第2油路2520と第5油路2550とを連通するとともに第1油路2510と第5油路2550とを遮断し、かつ第4油路2540と第6油路2560とを連通するとともに第3油路2530と第6油路2560とを遮断する(B)の状態を切換える。
コントロールバルブ2400のスプールが図3において(A)の状態(左側の状態)にある場合、SLTリニアソレノイドバルブ2200からプライマリレギュレータバルブ2100へ制御圧が供給される。すなわち、SLTリニアソレノイドバルブ2200の制御圧に応じて、ライン圧PLが制御される。
コントロールバルブ2400のスプールが図3において(B)の状態(右側の状態)にある場合、SLSリニアソレノイドバルブ2210からプライマリレギュレータバルブ2100へ制御圧が供給される。すなわち、SLSリニアソレノイドバルブ2210の制御圧に応じて、ライン圧PLが制御される。
コントロールバルブ2400のスプールは、スプリングにより一方向へ付勢される。このスプリングの付勢力に対向するように、SLソレノイドバルブ2500から油圧が供給される。
SLソレノイドバルブ2500からコントロールバルブ2400に油圧が供給された場合、コントロールバルブ2400のスプールは図3において(B)の状態になる。
SLソレノイドバルブ2500からコントロールバルブ2400に油圧が供給されていない場合、コントロールバルブ2400のスプールは、スプリングの付勢力により図3において(A)の状態になる。
たとえば、シフトレバー920が「N」ポジションから「D」ポジションまたは「R」ポジションへ操作されるガレージシフトが行なわれた場合、すなわち、フォワードクラッチ406もしくはリバースブレーキ410を解放状態から係合状態にする場合、コントロールバルブ2400のスプールを図3において(A)の状態から(B)の状態に切換えるようにSLソレノイドバルブ2500が制御される。すなわち、油圧を出力するようにSLソレノイドバルブ2500がECU900により制御される。
また、無段変速機500がダウンシフトしないように制御されている状態において無段変速機500がダウンシフトした場合、コントロールバルブ2400のスプールを図3において(A)の状態から(B)の状態に切換えるようにSLソレノイドバルブ2500が制御される。すなわち、異常なダウンシフトが行なわれた場合、コントロールバルブ2400のスプールが(A)の状態から(B)の状態に切換えられる。
なお、無段変速機500をどのように制御するかはECU900が判断しているため、無段変速機500がダウンシフトしないように制御されている状態であるか否かはECU900の内部で判断される。ダウンシフトしたか否かは、プライマリプーリ回転数NINとセカンダリプーリ回転数NOUTとの比が変化したか否かにより判断される。なお、無段変速機500がダウンシフトしないように制御されている状態において無段変速機500がダウンシフトしたか否かを判断する方法はこれらに限らない。
ガレージシフトが行なわれた場合ならびに異常なダウンシフトが行なわれた場合の他、シフトレバー920が「D」ポジションである状態で車両が停止した(車速が「0」になった)という条件を含むニュートラル制御実行条件が成立した場合および車両の前進走行中にシフトレバー920が「R」ポジションへ操作された場合などに、コントロールバルブ2400のスプールが図3において(A)の状態から(B)の状態に切換えられる。
図4を参照して、マニュアルバルブ2600について説明する。マニュアルバルブ2600は、シフトレバー920の操作に従って機械的に切換えられる。これにより、フォワードクラッチ406およびリバースブレーキ410は係合させられたり、解放させられたりする。
シフトレバー920は、駐車用の「P」ポジション、後進走行用の「R」ポジション、動力伝達を遮断する「N」ポジション、前進走行用の「D」ポジションおよび「B」ポジションへ操作される。
「P」ポジションおよび「N」ポジションでは、フォワードクラッチ406およびリバースブレーキ410内の油圧は、マニュアルバルブ2600からドレンされる。これにより、フォワードクラッチ406およびリバースブレーキ410は解放される。
「R」ポジションでは、マニュアルバルブ2600からリバースブレーキ410に油圧が供給される。これによりリバースブレーキ410が係合させられる。一方、フォワードクラッチ406内の油圧がマニュアルバルブ2600からドレンされる。これによりフォワードクラッチ406が解放される。
「D」ポジションおよび「B」ポジションでは、マニュアルバルブ2600からフォワードクラッチ406に油圧が供給される。これによりフォワードクラッチ406が係合させられる。一方、リバースブレーキ410内の油圧がマニュアルバルブ2600からドレンされる。これによりリバースブレーキ410が解放される。
シフトレバー920が「D」ポジションである場合、目標回転数は、図5において斜線で示す領域内の値をとり得る。すなわち、変速比は、無段変速機500において設定された変速比のうち、最も高い変速比と最も低い変速比の間で変化し得る。
なお、無段変速機500の入力軸回転数は無段変速機500の変速比に応じて定まり、変速比は可動プーリ512の位置に応じて定まるため、本実施の形態において、無段変速機500の入力軸回転数、変速比および可動プーリ512の位置は、実質的に同義であるものとして取り扱うことができる。よって、無段変速機500の入力軸502を、変速比または可動プーリ512の位置と置き換えて本発明を適用してもよい。一例として、無段変速機500の入力軸502の目標回転数の代わりに、目標変速比または可動プーリ512の目標位置を定めるようにしてもよい。
以下、図6を参照して、プライマリプーリ504の可動プーリ512の移動速度に基づく目標油圧の補正(以下、オーバーライド補正とも記載する)について説明する。一例として、オーバーライド補正はECU900により実行される。
オーバーライド補正は、プライマリプーリ504の可動プーリ512に供給される作動油がオリフィスなどを通過する際に生じ得る圧力降下等を補填して相殺するために、可動プーリ512の目標油圧にオーバーライド補正圧を加算する補正である。なお、オーバーライド補正圧は負の値となる場合もあり得る。一例として、プライマリプーリ504の可動プーリ512の移動速度が負の値である場合、オーバーライド補正圧を負の値としてもよい。この場合、結果として目標油圧が低減される。
なお、本実施の形態においては、一例として、プライマリプーリ504の溝幅が狭くなる方向へ可動プーリ512が移動するときの速度を正の値とし、プライマリプーリ504の溝幅が広くなる方向へ可動プーリ512が移動するときの速度を負の値とするが、これに限定されるものではなく、逆であってもよい。
プライマリプーリ504の可動プーリ512の移動速度を求めるにあたり、ブロックB1で示すように、無段変速機500の変速比から可動プーリ512の位置が求められる。上述したように、無段変速機500の変速比は可動プーリ512の位置に応じて定まることから、たとえば、無段変速機500の変速比と可動プーリ512の位置との関係を示したマップを予め作成しておくことにより、無段変速機500の変速比から可動プーリ512の位置が求められる。
その後、ブロックB2で示すように、求められた可動プーリ512の位置から可動プーリ512の移動速度が算出される。一例として、求められた可動プーリ512の位置を微分することにより可動プーリ512の移動速度が算出されるが、移動速度の算出方法はこれに限定されない。
さらにその後、ブロックB3で示すように、算出された移動速度に応じて、目標油圧のオーバーライド補正圧が算出される。一例として、開発者により予め作成された、移動速度とオーバーライド補正圧との2次元マップから、オーバーライド補正圧が算出される。一例として、図7に示すように、可動プーリ512の移動速度が大きいほど大きくなるようにオーバーライド補正圧が算出されるが、これに限定されるものではない。
図6に戻って、算出されたオーバーライド補正圧が目標油圧に加算されることにより目標油圧が補正され、指示油圧が定められる。よって、可動プーリ512の移動速度が大きいほど大きくなるように、可動プーリ512に供給される油圧が補正される。これにより、可動プーリ512の移動速度が大きいために、作動油の流速が速く、その結果、油圧の降下量が大きい場合において、油圧の降下分を補うことができる。
図8を参照して、オーバーライド補正圧が目標油圧に加算される運転状態について説明する。
本実施の形態においては、一例として、無段変速機500の変速比が大幅にかつ急速に変化する運転状態に限定して、オーバーライド補正圧が目標油圧に加算される。具体的には、可動プーリ512の位置の目標変化幅が所定の第1しきい値よりも大きいという第1条件が満たされ、かつ、可動プーリ512の移動速度(より具体的には目標移動速度)が所定の第2しきい値よりも大きいという第2条件が満たされると、オーバーライド補正が実行され、オーバーライド補正圧が目標油圧に加算される。
上記の第1条件および第2条件のうちの少なくともいずれもが満たされない場合は、オーバーライド補正が制限される。一例として、オーバーライド補正が実行されず、目標油圧がそのまま指示油圧として用いられる。
可動プーリ512の位置の目標変化幅が大きく、かつ、可動プーリ512の移動速度が大きい場合、すなわち、変速比が早急に変化することが予想される場合に限定してオーバーライド補正を実行することにより、変速比を早急に変化させる必要がない場合において、可動プーリ512に供給される油圧がオーバーライド補正によって過剰になることを避けることができる。よって、オーバーライド補正による油圧の不安定化を防ぐことができる。
なお、オーバーライド補正圧の絶対値を低減することにより、オーバーライド補正を制限するようにしてもよい。また、上記の第1条件および第2条件のうちの少なくともいずれか一方が満たされた場合にオーバーライド補正圧を目標油圧に加算し、第1条件および第2条件のいずれもが満たされない場合にオーバーライド補正を制限するようにしてもよい。
本実施の形態において、可動プーリ512の位置の目標変化幅は、図8に示す目標位置と動的な目標位置との差として求められる。目標位置は、図5を用いて説明した無段変速機500の入力軸502の目標回転数から定められる。目標回転数が定められると、定められた目標回転数と出力軸506の実回転数とから目標変速比が定まる。前述したように、無段変速機500の変速比は可動プーリ512の位置に応じて定まるため、目標変速比を実現する可動プーリ512の位置が目標位置として定められる。なお、目標位置の代わりに、目標変速比または目標回転数を用いて目標変化幅を算出するようにしてもよい。すなわち、可動プーリ512の位置の代わりに、無段変速機500の入力軸502の回転数または変速比を用いて本願発明を実施してもよい。
動的な目標位置は、目標位置の変化に対して遅れて変化するようにECU900により算出される。一例として、変化した目標位置に対する一次遅れ、あるいは二次遅れの位置が動的な目標位置として算出される。
第2条件における可動プーリ512の移動速度は、動的な目標位置の変化速度である。動的な目標位置の変化速度は可動プーリ512の実際の移動速度とは異なり、可動プーリ512の移動速度の目標値、すなわち目標移動速度と言える。一例として、算出された動的な目標位置を微分することにより、可動プーリ512の目標移動速度が算出される。
目標位置から算出される動的な目標位置を利用することにより、可動プーリ512の実際の位置や移動速度を検出せずとも、オーバーライド補正を実行するか否かを判断できる。よって、機器類の作動遅れや無駄時間を考慮してオーバーライド補正を先立って実行できる。
なお、動的な目標位置の代わりに、変速比等から算出された可動プーリ512の実際の位置を用いたり、可動プーリ512の位置を予測するためのモデル(関数)を用いて得られる位置を利用してもよい。また、目標移動速度の代わりに可動プーリ512の実際の移動速度を用いたり、可動プーリ512の位置を予測するためのモデル(関数)を用いて得られた位置から移動速度を算出してもよい。
図8に示すように、オーバーライド補正の開始後、オーバーライド補正は、変速が終了する前、すなわち、可動プーリ512が目標位置に到達する前に終了される。一例として、目標位置と実際の位置との差の変化率(減少率)より、可動プーリ512が目標位置に到達するまでに要する時間を予測し、予測時間が、零よりも大きい所定の時間を下回ると、オーバーライド補正が終了される。
変速が完了する前にオーバーライド補正を終了することにより、変速の終期において、可動プーリ512の動作遅れに起因する誤った補正がなされることを避けることができる。そのため、油圧の不安定化を防ぐことができる。
オーバーライド補正の終了後、オーバーライド補正圧は、所定の減少率で減少され、最終的には零にされる。なお、加算されていたオーバーライド補正圧が大きいほど減少率を小さく、あるいは大きくするようにしてもよい。
図9を参照して、ECU900が実行する処理について説明する。以下に説明する処理は、ソフトウェアにより実現してもよく、ハードウェアにより実現してもよく、ソフトウェアとハードウェアとの協働により実現してもよい。
ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、可動プーリ512の位置の目標変化幅が所定の第1しきい値よりも大きいという第1条件が満たされ、かつ、可動プーリ512の移動速度が所定の第2しきい値よりも大きいという第2条件が満たされたか否かが判断される。
第1条件および第2条件の両方が満たされると(S100にてYES)、S102にて、オーバーライド補正が実行され、オーバーライド補正圧が目標油圧に加算される。
オーバーライド補正の実行後、変速が終了するまでの時間、要するに、可動プーリ512が目標位置に到達するまでの時間、変速比が目標変速比に到達するまでの時間あるいは入力軸502の回転数が目標回転数に到達するまでの時間が所定の時間を下回ると(S104にてYES)、S106にて、オーバーライド補正が終了される。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。