図1は、実施形態に係る通信装置で行われる制御の例を説明する図である。図1は、通信装置が通信先の基地局から信号Sを受信する場合の例を示す。通信装置は、アンテナA1とA2を備えており、アンテナA1の利得はG1、アンテナA2の利得はG2であるものとする。また、基地局からアンテナA1までの伝搬経路の状況を表す伝搬係数はH1であり、基地局からアンテナA2までの伝搬経路の状況を表す伝搬係数はH2であるものとする。通信装置は、基地局から受信する信号Sの他に、ノイズも受信してしまう。通信装置で受信されるノイズは、外部雑音(I)と内部雑音(N)の2つに分けられる。内部雑音Nは、通信装置に含まれているCentral Processing Unit(CPU)、メモリなどの動作によって発生するノイズである。外部雑音は、通信装置が受信した信号のうち通信装置で受信しようしている信号S以外の信号である。そこで、通信装置は、外部雑音の電力と内部雑音の電力の合計に対する信号Sの電力の比率(SINR)が大きくなるように調整を行って、通信装置の受信性能を改善する。
通信装置は、アンテナA1の利得がk倍にされたときのSINR(SINR1)を、アンテナA2の利得がk倍にされたときのSINR(SINR2)から差し引いた値に正比例する関数を第1の評価関数として保持する。kは、実装に応じて設定され、1より大きな任意の値をとりうる。ここで、第1の評価関数の値はSINR2−SINR1に正比例しているので、第1の評価関数の値が正であることは、アンテナA2の利得をk倍にする方が、アンテナA1の利得をk倍にするよりも通信装置の受信性能を改善できることを意味する。一方、第1の評価関数の値が負であることは、アンテナA1の利得をk倍にする方が、アンテナA2の利得をk倍にするよりも通信装置の受信性能を改善できることを意味する。
さらに、第1の評価関数は、アンテナA1を介した干渉電力、アンテナA2を介した干渉電力、および、アンテナA1の受信信号とアンテナA2の受信信号の相関値から求められる値である。第1の評価関数の計算値を、評価値と記載することがある。干渉電力や相関値は、測定することができるので、第1の評価関数の値(評価値)は、測定可能な値から実験的に求めることができる。従って、通信装置は、実験的に求めた値を使って得られた第1の評価関数の値により、アンテナA1とアンテナA2のいずれの利得が通信装置の受信性能に大きな影響を及ぼすかを判定できる。通信装置は、影響が大きい方のアンテナの利得を調整するために用いられる整合回路のインピーダンスを調整することにより、通信装置の受信性能を改善する。
また、通信装置は、アンテナA1とA2の間の結合量を低減することにより、アンテナA1の受信信号とアンテナA2の受信信号の相関値を小さくする結合低減回路を備えることもできる。この場合、通信装置は、第2の評価関数も保持している。第2の評価関数は、SINR1から、アンテナA1の受信信号とアンテナA2の受信信号の相関値が1/k倍にされたときのSINR(SINR3)を差し引いた値に正比例する関数である。第2の評価関数が正の値をとると、アンテナA1の利得をk倍にする方が、相関値を1/k倍にするよりも受信性能を改善できることを意味する。一方、第2の評価関数が負の値をとると、アンテナA1の利得をk倍にするよりも、相関値を1/k倍にする方が受信性能を改善できることを意味する。また、第2の評価関数も、第1の評価関数と同様に、干渉電力や相関値など、実際に測定可能な値から求めることができる。
このように、通信装置は、第1の評価関数や第2の評価関数を用いることにより、受信性能に与える影響が大きな回路を特定することができる。ここで、第1および第2の評価関数のいずれも、測定により求められない値を含まないため、通信装置は、干渉電力や相関値などの実測値を用いて、受信性能に与える影響の大きさを各回路について評価することができる。さらに、通信装置は、受信性能を改善できるように、受信性能に与える影響が大きな回路を優先的に調整する。このため、通信装置は、受信性能を効率的に改善することができる。
<第1の実施形態>
図2は、第1の実施形態に係る通信装置10の例を示す。通信装置10は、アンテナA1、A2、整合回路12(12a、12b)、結合低減回路13、整合回路制御部21(21a、21b)、相関算出部31、干渉電力算出部32(32a、32b)、選択部33を備える。整合回路12は、アンテナの利得の調整に用いられる。整合回路12aのインピーダンスを調整することにより、アンテナA1の利得が変更されるものとする。また、整合回路12bのインピーダンスを調整することにより、アンテナA2の利得が変更されるものとする。結合低減回路13は、アンテナA1とアンテナA2の結合量を小さくするために用いられる。以下の説明では、2つのアンテナを備える通信装置10の一方のアンテナから出力された信号を、他方のアンテナが受信したことにより他方のアンテナを介して観測される電力のことを結合電力と記載する。なお、結合量は、結合電力に限られず、例えば、アンテナA1から送信された信号が別のアンテナA2に吸収された場合、アンテナA2で観測された信号の強度を「結合量」とすることもできる。
相関算出部31は、アンテナA1が受信した受信信号と、アンテナA2が受信した受信信号の相関値を算出する。相関算出部31は、算出した相関値を選択部33に出力する。干渉電力算出部32aは、アンテナA1の受信電力と、アンテナA1を介して受信された信号Sの強度から、アンテナA1を介して受信した干渉電力の強度を算出する。干渉電力算出部32bは、アンテナA2の受信電力と、アンテナA2を介して受信された信号Sの強度から、アンテナA2を介して受信した干渉電力の強度を算出する。干渉電力算出部32a、32bは、いずれも、算出した干渉電力の強度を選択部33に出力する。
選択部33は、相関算出部31から入力された相関値、干渉電力算出部32aから入力された干渉電力、および、干渉電力算出部32bから入力された干渉電力を用いて、第1の評価関数の値を求める。さらに、選択部33は、算出結果に基づいて整合回路12aと整合回路12bのうちでSINRへの影響が大きい回路を特定し、特定した回路を優先的に調整する対象として選択する。例えば、第1の評価関数は、アンテナA1の利得をk倍にしたときのSINRの予測値(SINR1)と、アンテナA2の利得をk倍にしたときのSINRの予測値(SINR2)の差に正比例する関数である。以下の説明では、kは、1より大きな値であるものとする。選択部33は、SINR1>SINR2の場合は、アンテナA1の利得を変更することによってSINRを改善できる可能性が高いと判定し、整合回路12aを優先的に処理する回路として選択する。一方、SINR1<SINR2の場合、選択部33は、アンテナA2の利得を変更することによってSINRを改善できる可能性が高いと判定し、整合回路12bを優先的に処理する回路として選択する。選択部33は、整合回路12aを調整する際は、整合回路制御部21aに整合回路12aの利得を大きくすることを要求する。一方、整合回路12bを調整する場合、選択部33は、整合回路制御部21bに対して、整合回路12bの利得を大きくすることを要求する。
整合回路制御部21aは、予め決められた値ずつ、整合回路12aのコイルのインダクタンスやコンデンサの容量を変更しながら、整合回路12aから出力される信号の電力を測定する。整合回路制御部21aは、インダクタンスやコンデンサの容量の変化量に対応付けて、整合回路12aから出力される信号の電力を記録する。整合回路制御部21aは、コイルとコンデンサを、記録した電力の中で最も大きな値が得られたときの条件に設定する。整合回路制御部21aは、コイルやコンデンサを調整する前の値が信号の電力の最大値である場合は、その旨を選択部33に通知する。整合回路制御部21bは、整合回路12bを処理対象として整合回路制御部21aと同様の処理を行う。
図3は、第1の実施形態に係る通信装置10のハードウェア構成の例を示す。通信装置10は、アンテナA1、A2、整合回路12a、12b、結合低減回路13、Radio Frequency(RF)回路20、ベースバンド(BB、Base-band)信号処理回路30、および、メモリ1を備える。RF回路20は、整合回路制御部21aおよび整合回路制御部21bとして動作し、選択部33で選択された回路の調整を行う。また、RF回路20は、通信装置10と基地局の間で送受信される信号の変調、復調などの処理も行う。相関算出部31、干渉電力算出部32a、32b、選択部33は、ベースバンド信号処理回路30により実現される。ベースバンド信号処理回路30では、さらに、ベースバンド信号の処理なども行われる。メモリ1は、RF回路20やベースバンド信号処理回路30の処理に用いられるデータ等を記憶する。
次に、SINRの計算式と選択部33で用いられる第1の評価関数について説明する。まず、SINRをアンテナAi(iは1もしくは2)の利得の関数として表す。アンテナAiの受信信号をvi、入力信号をsとすると、viは以下のように表される。
ここで、xi=GiHi、mi=GiIi+Niである。また、GiはアンテナAiの利得、Hiは通信装置10と通信している基地局からアンテナAiまでの伝搬経路の状態を表す伝搬係数、IiはアンテナAiが受信する外部雑音、NiはアンテナAiの内部雑音である。アンテナ間では内部雑音の平均値が同じで、外部雑音の平均値も同じであるとすると、以下の式が成り立つ。
ここで、PIは外部干渉電力、PNは内部雑音電力を表す。従って、行列Zを(3)とすると、式(2a)と(2b)を用いて、式(4)のように表せる。
さらに、式(5)を用いると、入力信号sの平均電力が1であれば、SINRは式(6)のように表せる。
式(6)において、アンテナ間での干渉信号の相関は、受信信号のアンテナ間の相関と等しいと仮定すると、SINRは、アンテナの利得と相関値rの関数として式(7)のように表せる。
さらに、SINR1とSINR2の大小関係を、通信装置10で測定される干渉電力と相関値を用いて求めるために、SINR2−SINR1に比例する値である第1の評価関数を導く。SINR1の計算式を式(8)、SINR2の計算式を式(9)に示す。なお、式(8)、(9)では、見やすくするために、kの2乗をaと記載している。
すると、SINR2−SINR1は式(10)のように表せる。
SINR1とSINR2のいずれも正の値であるため、式(8)と式(9)の分母はいずれも正の値である。そこで、式(10)を通分したときの分子は、式(11)のように表現できる。
従って、式(12)に示す関係が成り立つ。
アンテナA1とアンテナA2の干渉電力は、式(13)で表され、アンテナA1の受信信号とアンテナA2の受信信号の相関値は式(14)で表される。
さらに、kは1以上の値であり、a=k2であるため、(a−1)は正の値である。また、式(2b)より、PNも正の値をとる。そこで、式(12)〜(14)と、PN×(a−1)が正であることより、式(15)の関係が得られる。
選択部33は式(15)の右辺を第1の評価関数として用いる。ここで、第1の評価関数はY1、Y2、r、PN、kで表されている。Y1は干渉電力算出部32aで算出され、Y2は干渉電力算出部32bで算出される。rは相関算出部31で算出される。またkは任意に設定される定数である。さらにPNは、内部雑音の電力であるため、通信装置10に応じて決定される定数であり、実験的に求められる。従って、選択部33は、PNの値を予め保持していれば、第1の評価関数の値を求めることができる。
SINR2−SINR1の値が正である場合、選択部33は、アンテナA2の利得を変更する方がSINRの改善に有利であると判定する。また、SINR2−SINR1=0であれば、アンテナA1の利得がSINRに与える影響の大きさと、アンテナA2の利得がSINRに与える影響の大きさは同じである。従って、式(16)が成り立つ場合、選択部33は、整合回路制御部21bに対し、整合回路12bの利得の調整を要求する。
一方、式(17)が成り立つ場合、SINR2−SINR1は負である。このため、選択部33は、アンテナA1の利得を変更する方がSINRの改善に有利であると判定して、整合回路制御部21aに対し、整合回路12aの利得の調整を要求する。
以下、選択部33での選択結果に応じて行われる整合回路12の調整の方法の例について説明する。ここでは、式(16)が成り立ち、アンテナA2の利得が調整される場合を例とする。整合回路制御部21bは、整合回路12bに含まれている可変コイルのインダクタンスや、可変コンデンサの容量を変更し、整合回路12bから出力される信号の電力を測定する。ここでは、説明を分かりやすくするために、整合回路12b中の可変素子として、可変コイルが1つ含まれている場合を例とする。
整合回路制御部21bは、予め設定された変化量の範囲内で整合回路12bの可変コイルのインダクタンスを調整し、調整量と対応付けて信号の電力の測定結果を、図4(a)に示すように記憶することができる。図4(a)には、整合回路12bの可変コイルのインダクタンスを、現在の設定値から−5nHから+15nHまで5nHごとに変更したときに整合回路12bから出力される信号の電力の値が、調整量と対応付けて記録されている。例えば、調整前の整合回路12bからはGb0の電力の信号が出力されているが、可変コイルのインダクタンスを5nH小さくすると、整合回路12bから出力される信号の電力はGb1になる。
次に、整合回路制御部21bは、素子の設定を変更する前の信号の電力と、素子の設定を変更したときに得られた信号の電力の測定結果を比較し、信号の電力が最大になったときの設定を採用して整合回路12bを調整する。例えば、図4(a)に示す例では、可変コイルのインダクタンスが整合回路12bの設定の変更前よりも5nH大きくされた場合に、信号の電力がGb2となったとする。さらに、Gb2は、Gb0〜Gb4の中では最大の値である。すると、整合回路制御部21bは、整合回路12bのコイルのインダクタンスを5nH大きくして、調整を終了する。ここで、整合回路制御部21bは、整合回路12bの調整を行うことによりアンテナA2から受信される信号強度を大きくしているので、アンテナA2の利得を大きくしていることになる。
一方、図4(b)に示すように、整合回路制御部21bが整合回路12bの設定を変更しても、整合回路12bから出力される信号の電力を設定の変更前の値(Gb0)よりも大きくすることができなかったとする。すると、整合回路制御部21bは、整合回路12bの設定を変更せずに、選択部33に対し、整合回路12bの調整によっては信号の電力を大きくできないことを通知する。例えば、整合回路制御部21bは、選択部33に対し、整合回路12bの調整により信号の電力が大きくならないことを示す信号を出力することができる。
選択部33は、整合回路12bの調整では信号の電力の強度が大きくならないことを、整合回路制御部21bから通知されると、整合回路制御部21aに対して、整合回路12aを調整することを要求する。整合回路制御部21aは、整合回路制御部21bと同様の手順により、整合回路12aに含まれている可変コイルの値を変更し、整合回路12aから出力される信号の電力を測定する。ここでは、図4(c)に示すような結果が得られたとする。すると、整合回路制御部21aは、最大値であるGa3が得られたときの設定にするために、可変コイルのインダクタンスを10nH大きな値にする。なお、整合回路12aの調整によって、アンテナA1の利得が変更されることになる。
式(17)が成り立つ場合、整合回路制御部21aは、選択部33からの要求に応じて、整合回路12aに含まれている可変素子の設定を変更し、得られた信号の電圧を設定の変化量と対応付けて記憶する。例えば、整合回路制御部21aは、整合回路12aの調整により、図4(c)のテーブルを生成することができる。整合回路制御部21aは、信号の電圧が最も大きい場合の設定に可変素子を設定する。また、信号の電圧が設定の変更前よりも大きくできない場合は、整合回路制御部21bと同様に、選択部33に通知を行う。この場合、選択部33からの要求に応じて、整合回路制御部21bが整合回路12bの調整を行う。
なお、整合回路制御部21a、21bのいずれについても、整合回路12a、12bに含まれている素子の調整範囲は実装に応じて任意に設定され、また、調整範囲の設定がされていなくても良いものとする。調整範囲が設定されていない場合、整合回路制御部21aは、整合回路12aについて、可変素子が取り得る全ての値について整合回路12aの出力を求め、出力された電力が最大となった条件に整合回路12aを設定する。整合回路制御部21bも、調整範囲が設定されていない場合は、同様に、整合回路12bが取り得る全ての設定から、整合回路12bの出力信号の電力が最大となったときの設定を採用する。さらに、整合回路制御部21aは整合回路12aに含まれている全ての可変素子についての設定を変更することができ、整合回路制御部21bは整合回路12b中の全ての可変素子について設定を変更できるものとする。
図5は、第1の実施形態で行われる動作の例を説明するフローチャートである。選択部33は、第1の評価関数の値を求める(ステップS1)。第1の評価関数の計算値が負である場合、SINR2−SINR1は負であるため、選択部33は、整合回路12aの調整を優先することを決定する(ステップS2でYes)。選択部33は、整合回路制御部21aに整合回路12aの調整を要求する。整合回路制御部21aは、整合回路12aから出力されている信号の電圧をVaとして記憶する(ステップS3)。さらに、整合回路制御部21aは、整合回路12aに含まれている可変素子の設定を変更することにより、整合回路12aのインピーダンスを変更し、整合回路12aから出力される信号の電圧が最大になるように可変素子の設定を変更する(ステップS4)。整合回路制御部21aは、整合回路12aから出力される信号の電圧がVaよりも高いかを判定する(ステップS5)。整合回路12aから出力される信号の電圧がVaよりも高い場合、回路の調整は終了する(ステップS5でYes)。しかし、整合回路12aから出力される信号の電圧がVa以下の場合、整合回路制御部21aは整合回路12aの調整では通信装置10の受信性能が改善されないことを選択部33に通知する。すると、選択部33は、整合回路制御部21bに整合回路12bの調整を要求する。整合回路制御部21bは、整合回路12bの可変素子の設定を変更しながら整合回路12bから出力される信号の電圧を測定し、整合回路12bの信号の電圧が最大になるように整合回路12bを調整する(ステップS6)。
第1の評価関数の計算値が0以上である場合、SINR2−SINR1は0以上であるため、選択部33は、整合回路12bの調整を優先することを決定し、整合回路制御部21bに整合回路12bの調整を要求する(ステップS2でNo)。整合回路制御部21bは、整合回路12bから出力されている信号の電圧をVbとして記憶する(ステップS7)。さらに、整合回路制御部21bは、整合回路12b中の可変素子の設定を変更することにより、整合回路12bから出力される信号の電圧を最大にする(ステップS8)。整合回路制御部21bは、整合回路12bから出力される信号の電圧がVbよりも高いかを判定する(ステップS9)。整合回路12bから出力される信号の電圧がVbよりも高い場合、回路の調整は終了する(ステップS9でYes)。整合回路12bから出力される信号の電圧がVb以下の場合、整合回路制御部21bは整合回路12bの調整では通信装置10の受信性能が改善されないことを選択部33に通知する。すると、選択部33は、整合回路制御部21aに整合回路12aの調整を要求する。整合回路制御部21aは、整合回路12aの可変素子の設定を変更することにより、整合回路12aから出力される信号の電圧が最大になるように調整する(ステップS9でNo、ステップS10)。
このように、通信装置10は、第1の評価関数を用いることにより、整合回路12aと整合回路12bのいずれが受信性能に大きな影響を及ぼすかを特定することができる。また、第1の評価関数は、実験的に求められない値を含まないため、通信装置10は、干渉電力や相関値などの実測値を用いて、受信性能に与える影響の大きさを各回路について評価することができる。さらに、通信装置10は、受信性能を改善できるように、特定した回路を優先的に調整する。このため、通信装置10は、受信性能を効率的に改善することができる。
<第2の実施形態>
図6は、第2の実施形態に係る通信装置40の構成の例を示す。第2の実施形態では、整合回路12aと結合低減回路43に可変素子が含まれている場合を例として説明する。ここで、アンテナA1の利得はアンテナA2の利得以上の値であっても良く、また、アンテナA1の利得の方がアンテナA2の利得よりも小さくても良いものとする。
通信装置40は、選択部41、結合低減回路制御部42、結合低減回路43、アンテナA1、アンテナA2、整合回路12(12a、12b)、整合回路制御部21a、相関算出部31、干渉電力算出部32(32a、32b)を備える。アンテナA1、アンテナA2、整合回路12a、12b、整合回路制御部21a、相関算出部31、干渉電力算出部32a、32bの動作は、第1の実施形態と同様である。結合低減回路制御部42は、RF回路20によって実現される。また、選択部41は、BB信号処理回路30によって実現されるものとする。
結合低減回路43は、可変素子を備えており、アンテナA1とアンテナA2の結合量を小さくする。結合低減回路制御部42は、結合低減回路43のリアクタンスを調整することにより、アンテナA1とアンテナA2の結合量を変更することができる。アンテナA1とアンテナA2の結合量が大きくなると、アンテナA1で受信する受信電力の値とアンテナA2で受信する受信信号の相関が大きくなる。そこで、結合低減回路制御部42は、選択部41からの要求に応じて、相関値が小さくなるように結合低減回路43に含まれている可変素子の設定を変更する。
選択部41は、相関算出部31から入力された相関値、干渉電力算出部32aから入力された干渉電力、および、干渉電力算出部32bから入力された干渉電力を用いて、第2の評価関数の値を求める。第2の評価関数は、アンテナA1の利得をk倍にしたときのSINRの予測値(SINR1)と、アンテナA1とA2の受信信号の相関値を1/k倍にしたときのSINRの予測値(SINR3)の差に正比例する関数である。以下の説明でも、kは1より大きな値であるものとする。第2の評価関数の導出方法と具体例については後述する。選択部41は、第2の評価関数の値がSINR1>SINR3であることを示す場合は、アンテナA1の利得を変更することによって受信性能を改善できる可能性が高いと判定し、整合回路12aを優先的に調整する回路として選択する。一方、評価関数の値がSINR1<SINR3であることを意味する場合、選択部41は、相関値を小さくすることによって受信性能を改善できる可能性が高いと判定し、結合低減回路43を優先的に調整する回路として選択する。
選択部41は、整合回路12aを優先的に調整する回路として選択すると、整合回路制御部21aに整合回路12aの利得を大きくすることを要求する。一方、結合低減回路43を優先的に調整する対象として選択した場合、選択部41は、結合低減回路制御部42bに対して、結合低減回路43でアンテナA1とアンテナA2の結合量を小さくすることを要求する。
次に、選択部41で用いられる第2の評価関数の導出方法と第2の評価関数の具体例について説明する。SINR1は先に述べた式(8)のとおりである。また、SINR3は、式(7)から次式のように表すことができる。なお、以下でも、適宜、計算式中ではkの2乗をaと記載している。
従って、式(8)と式(18)より、式(19)が得られる。
SINR1とSINR3のいずれも正の値であるため、式(8)と式(18)の分母はいずれも正の値である。そこで、式(19)を通分したときの分子Aは、式(20)のように表現できる。
式(20)をさらに変形すると、以下のようになる。
ここで、kが1より大きいこととa=k2であることから、(a−1)は正の値である。また、アンテナA1の利得の絶対値の2乗も正の値である。さらに、PNも式(2b)から正の値をとるといえる。従って、式(21)より式(22)が得られる。
式(22)に式(13)を代入すると、式(23)が得られる。
選択部41は式(23)の右辺を第2の評価関数として用いる。ここで、Y1は干渉電力算出部32aで算出され、Y2は干渉電力算出部32bで算出される。rは相関算出部31で算出される。またkは任意に設定される定数である。さらにPNは、内部雑音の電力であるため、通信装置40ごとに決定される定数であり、実験的に求められる。従って、選択部41は、PNの値を予め保持していれば、第2の評価関数の値を求めることができる。
SINR1−SINR3が正である場合、選択部41は、アンテナA1の利得を大きくする方が、相関値を小さくするよりもSINRの改善に有利であると判定する。また、SINR1−SINR3=0である場合は、アンテナA1の利得をk倍に調整することがSINRに及ぼす影響の大きさと、相関値を1/k倍に調整することがSINRに及ぼす影響の大きさは同じであると予測できる。そこで、式(24)が成り立つ場合、選択部41は、整合回路制御部21aに対し、整合回路12aの利得の調整を要求する。
一方、式(25)が成り立つ場合、SINR1−SINR3は負である。このため、選択部41は、相関値を小さくする方がアンテナA1の利得を大きくするよりもSINRを改善しやすいと判定して、結合低減回路制御部42に対し、結合低減回路43の結合量を減少させるように調整することを要求する。
式(24)が成り立ち、アンテナA1の利得が調整される場合に整合回路制御部21aで行われる処理は、第1の実施形態で式(17)が成り立つ場合と同様である。整合回路12aの出力信号の電圧が大きくすることができないことを、整合回路制御部21aから通知されると、選択部41は、結合低減回路制御部42に結合低減回路43の調整を要求する。結合低減回路制御部42は、結合低減回路43に含まれている可変素子を用いて結合低減回路43のインピーダンスを変更すると共に、アンテナA1とアンテナA2の受信信号の相関値を相関算出部31から取得する。結合低減回路制御部42は、可変素子の設定と対応付けて図7に示すように、得られた相関値を記録する。なお、図7の例では、1つの可変コンデンサの容量が変更された場合の例を示しているが、結合低減回路43は可変コイルを備えることができ、また、可変コンデンサと可変コイルの両方を備えることもできる。また、結合低減回路制御部42によって調整される可変コイルの数、および、可変コンデンサの数は、実装に応じて任意に変更されるものとする。結合低減回路制御部42は、結合低減回路43に含まれる可変素子の各々を、相関値が最も小さくなったときの値に設定する。例えば、図7の例では、Cor2が相関値の最小値であるので、結合低減回路制御部42は、結合低減回路43の可変コンデンサの容量を0.5pF小さくする。
式(25)が成り立つ場合も、結合低減回路制御部42は、選択部41からの要求に応じて、結合低減回路43に含まれている可変素子の設定を変更し、得られた信号の相関値を設定の変化量と対応付けて記憶する。結合低減回路制御部42は、信号の電圧が最も大きい場合の設定に可変素子を設定する。また、信号の電圧が設定の変更前よりも大きくできない場合は、整合回路制御部21aと同様に、選択部41に通知を行う。この場合、選択部41からの要求に応じて、整合回路制御部21aが整合回路12aの調整を行う。
図8は、第2の実施形態で行われる動作の例を説明するフローチャートである。選択部41は、第2の評価関数の値を求める(ステップS21)。第2の評価関数の計算値が0以上である場合、SINR1−SINR3は0以上であるため、選択部33は、整合回路12aの調整を優先することを決定する(ステップS22でYes)。ステップS23〜S25の処理は、図5を参照しながら説明したステップS3〜S5と同様である。ステップS25で整合回路12aから出力される信号の電圧がVa以下の場合、整合回路制御部21aは整合回路12aの調整では通信装置40の受信性能が改善されないことを選択部41に通知する(ステップS25でNo)。すると、選択部41は、結合低減回路制御部42に結合低減回路43の調整を要求する。結合低減回路制御部42は、アンテナA1の受信信号とアンテナA2の受信信号の相関値が最小になるように結合低減回路43を調整する(ステップS26)。
第2の評価関数の計算値が負である場合、SINR1−SINR3は負であるため、選択部41は、結合低減回路43の調整を優先することを決定し、結合低減回路制御部42に結合低減回路43の調整を要求する(ステップS22でNo)。結合低減回路制御部42は、結合低減回路43の調整を行う前の相関値をCor0として記憶する(ステップS27)。さらに、結合低減回路制御部42は、結合低減回路43中の可変素子の設定を変更することにより、アンテナA1の受信信号とアンテナA2の受信信号の相関値を最小にする(ステップS28)。結合低減回路制御部42は、相関値がCor0よりも低いかを判定する(ステップS29)。相関値がCor0よりも低い場合、回路の調整は終了する(ステップS29でYes)。相関値がCor0以上の場合、結合低減回路制御部42は、結合低減回路43の調整では通信装置10の受信性能が改善されないことを選択部41に通知する。すると、選択部41は、整合回路制御部21aに整合回路12aの調整を要求する。整合回路制御部21aは、整合回路12aの可変素子の設定を変更することにより、整合回路12aから出力される信号の電圧が最大になるように調整する(ステップS29でNo、ステップS30)。
以上で述べたように、通信装置40は、第2の評価関数を用いることにより、整合回路12aと結合低減回路43のいずれが受信性能に大きな影響を及ぼすかを特定することができる。また、第2の評価関数は、実験的に求められない値を含まないため、通信装置40は、干渉電力や相関値などの実測値を用いて、受信性能に与える影響の大きさを各回路について評価することができる。通信装置40は、受信性能への影響が大きい回路を優先的に調整することにより、受信性能を効率的に改善することができる。
<第3の実施形態>
図9は、第3の実施形態に係る通信装置50の構成の例を示す。第3の実施形態では、整合回路12a、整合回路12b、結合低減回路43に可変素子が含まれている場合を例として説明する。通信装置50は、整合回路12a、整合回路12b、結合低減回路43を調整することにより、受信性能を改善するものとする。
通信装置50は、選択部51、アンテナA1、アンテナA2、整合回路12(12a、12b)、整合回路制御部21(21a、21b)、相関算出部31、干渉電力算出部32(32a、32b)、結合低減回路制御部42、結合低減回路43を備える。アンテナA1、アンテナA2、整合回路12a、12b、整合回路制御部21a、21b、相関算出部31、干渉電力算出部32a、32bの動作は、第1もしくは第2の実施形態と同様である。また、結合低減回路制御部42、結合低減回路43の動作は第2の実施形態と同様である。選択部51は、BB信号処理回路30によって実現されるものとする。
選択部51は、第1〜第3の評価関数を保持している。選択部51は、第1〜第3の評価関数の値に応じて、整合回路12a、整合回路12b、結合低減回路43について、優先的に調整を行う順序を決定する。第1の評価関数は式(15)の右辺、第2の評価関数は式(23)の右辺である。また、第3の評価関数は、アンテナA2の利得をk倍にしたときのSINR(SINR2)と、アンテナA1とアンテナA2の受信信号の相関値を1/k倍にしたときのSINR(SINR3)の差に正比例する関数であり、式(26)の右辺で表される。なお、第3の評価関数は、第2の評価関数の導出方法においてSINR1をSINR2に置き換えて演算を行うことにより導かれる。また、以下の説明においても、kは1以上の値である。
第1〜第3の評価関数のいずれも、相関算出部31から入力された相関値、干渉電力算出部32aから入力された干渉電力、および、干渉電力算出部32bから入力された干渉電力を用いて算出され得る。
図10は、選択部51で行われる判定の例を説明するフローチャートである。なお、図10は処理の例であり、例えば、最初に行われる判定は、第1〜第3の評価関数のいずれを用いた判定でも良い。
選択部51は、第1の評価関数の値(E)を計算し、得られた値が0以上であるかを判定する(ステップS41、S42)。第1の評価関数の値が負である場合、アンテナA1の利得をk倍にするとアンテナA2の利得をk倍にするよりも受信性能が改善されるため、選択部51は、整合回路12aを整合回路12bよりも優先的に調整することにする(ステップS42でNo)。すると次に、選択部51は、第2の評価関数の値(F1)を計算し、得られた値が0以上であるかを判定する(ステップS43、S44)。第2の評価関数の値が負である場合、アンテナA1の利得をk倍にしても、相関値を1/k倍にするよりも受信性能が改善されないため、選択部51は、結合低減回路43の調整を整合回路12aの調整よりも優先する。従って、選択部51は、結合低減回路43、整合回路12a、整合回路12bの順に調整を行うことを決定する(ステップS44でNo、S45)。
一方、ステップS44で第2の評価関数の値が0以上である場合、選択部51は、整合回路12a、整合回路12b、結合低減回路43のうちで、整合回路12aの調整を最優先する(ステップS44でYes)。そこで、整合回路12aの次に優先的に調整する回路を、結合低減回路43と整合回路12bのいずれにするかを決定するために、選択部51は、第3の評価関数の値(F2)を計算する(ステップS46)。第3の評価関数の値(F2)が正である場合、アンテナA2の利得をk倍にすると、相関値を1/k倍にするよりも受信性能が改善される。このため、選択部51は、F2の値が0以上のときに整合回路12bの調整を結合低減回路43の調整よりも優先する。従って、選択部51は、整合回路12a、整合回路12b、結合低減回路43の順に調整を行うことを決定する(ステップS47でYes、S48)。第3の評価関数の値(F2)が負である場合、選択部51は、結合低減回路43の調整を、整合回路12bの調整よりも優先する。このため、選択部51は、整合回路12a、結合低減回路43、整合回路12bの順に調整を行うことを決定する(ステップS47でNo、S49)。
第1の評価関数の値が正である場合、アンテナA1の利得をk倍にしても、アンテナA2の利得をk倍にするよりも受信性能が改善されない。このため、選択部51は、第1の評価関数の値が0以上のとき、整合回路12bの調整を、整合回路12aの調整よりも優先する(ステップS42でYes)。次に、選択部51は、結合低減回路43と整合回路12bのいずれを優先的に調整するかを決定するために、第3の評価関数(F2)を計算する(ステップS50)。第3の評価関数の値(F2)が負である場合、相関値を1/k倍にすると、アンテナA2の利得をk倍にするよりも受信性能が改善されるため、選択部51は、結合低減回路43の調整を整合回路12bの調整をよりも優先する。従って、選択部51は、結合低減回路43、整合回路12b、整合回路12aの順に調整を行うことを決定する(ステップS51でNo、S52)。
一方、ステップS51で第3の評価関数の値が0以上である場合、選択部51は、整合回路12a、整合回路12b、結合低減回路43のうちで、整合回路12bの調整を最優先する(ステップS51でYes)。そこで、整合回路12bの次に優先的に調整する回路を決定するために、選択部51は、第2の評価関数の値(F1)を計算する(ステップS53)。第2の評価関数の値が正である場合、アンテナA1の利得をk倍すると、相関値を1/k倍にするよりも受信性能が改善される。このため、選択部51は、F1が0以上のとき整合回路12aの調整を結合低減回路43の調整よりも優先する。従って、選択部51は、整合回路12b、整合回路12a、結合低減回路43の順に調整を行うことを決定する(ステップS54でYes、S56)。一方、第2の評価関数の値が負である場合、相関値を1/k倍にすると、アンテナA1の利得をk倍するよりも受信性能が改善されるため、選択部51は、結合低減回路43の調整を整合回路12aの調整よりも優先する。従って、選択部51は、整合回路12b、結合低減回路43、整合回路12aの順に調整を行うことを決定する(ステップS54でNo、S55)。
選択部51は、優先度の高い順に回路の調整を行うために、最初に、最も優先度が高い回路の調整を要求する。最も優先度が高い回路の調整が終わったことが通知されると、選択部51は、2番目に優先する回路の調整を要求する。2番目に優先する回路の調整が終わったことを通知されてから、選択部51は、3番目に優先する回路の調整を要求する。全ての回路の調整が終わると、選択部51は処理を終了する。
例えば、図10のステップS48のように優先順位が整合回路12a、整合回路12b、結合低減回路43の順であるとする。このとき、選択部51は、まず、整合回路制御部21aに対して整合回路12aの調整を要求する。整合回路制御部21aは、第1および第2の実施形態で述べたように、整合回路12aに含まれている可変素子を調整することにより、整合回路12aから出力される信号の電力を最大値にする。なお、整合回路12aの設定を変更しないときに信号の電力が最大になる場合、整合回路制御部21aは、整合回路12aの可変素子の設定を変更しない。整合回路制御部21aは、調整が終了すると、調整の終了を選択部51に通知する。選択部51は、整合回路制御部21aからの通知を受けると、整合回路制御部21bに整合回路12bの調整を要求する。整合回路制御部21bは、整合回路制御部21aと同様の処理により整合回路12bを調整する。整合回路制御部21bは、調整が終わると選択部51に調整の終了を通知する。選択部51は、整合回路制御部21bからの通知を受けると、結合低減回路制御部42に、結合低減回路43の調整を要求する。結合低減回路制御部42は、第2の実施形態で説明した手順と同様の処理で結合低減回路43に含まれている可変素子の設定を変更し、相関値を最小にする。結合低減回路制御部42は、調整が終了すると、調整の終了を選択部51に通知する。選択部51は、処理対象の全ての回路で処理が終わったことを認識すると、処理を終了する。
第3の実施形態によると、実測可能な値を第1〜第3の評価関数に代入することにより得られた値に基づいて、複数の回路の処理の優先順位を決定することができる。このため、通信装置50は、効率的に受信性能を改善することができる。
<第4の実施形態>
第4の実施形態では、整合回路12a、整合回路12b、結合低減回路43に可変素子が含まれている通信装置50での調整方法の変形例を説明する。通信装置50は、第1〜第3の評価関数の値に応じて、調整する回路の組み合わせを特定する。
図11は、第4の実施形態での選択部51の動作の例を説明するフローチャートである。図11の例では、選択部51は、閾値T1を記憶しているものとする。閾値T1は実装に応じて、任意に設定されるものとする。また、図11は一例であり、例えば、ステップS62とS64の判定の順序は変更されても良い。さらに、調整の対象となる回路の選択を行うために、第2の評価関数が用いられるように変形される場合もある。
選択部51は、第1の評価関数の値(E)を求め、得られた値が−T1以下であるかを判定する(ステップS61、S62)。第1の評価関数の値が−T1以下の場合、選択部51は、整合回路12aを制御対象に選択し、整合回路12bと結合低減回路43は調整しないことを決定する(ステップS62でYes、ステップS63)。一方、第1の評価関数の値が−T1より大きい場合、選択部51は、第1の評価関数の値がT1より大きいかを判定する(ステップS64)。第1の評価関数の値がT1より大きい場合、選択部51は、整合回路12bを制御対象に選択し、整合回路12aと結合低減回路43は調整しないことを決定する(ステップS64でYes、ステップS65)。
第1の評価関数の値が−T1よりは大きいが、T1以下である場合、選択部51は、整合回路12aと整合回路12bのいずれも、通信装置50の受信性能に与える影響が極端に大きくはないと判定する。そこで、選択部51は、さらに、第3の評価関数を計算し、得られた値を−T1と比較する(ステップS64でNo、ステップS66、S67)。第3の評価関数の値が−T1未満である場合、選択部51は、結合低減回路43が受信性能に与える影響が大きいと判定する。そこで、選択部51は、結合低減回路43を制御対象に選択し、整合回路12aと整合回路12bは調整しないことを決定する(ステップS67でYes,ステップS68)。一方、第3の評価関数の値が−T1以上である場合、選択部51は、いずれの回路が受信性能に及ぼす影響も、他の回路と比較して極端に大きくはないと判定する。そこで、選択部51は、整合回路12a、整合回路12b、結合低減回路43の全てを制御対象に選択する(ステップS67でNo、ステップS69)。
制御対象に選択した回路の組み合わせに応じて、選択部51は、整合回路制御部21a、整合回路制御部21b、結合低減回路制御部42に対して、回路の調整を要求する。整合回路制御部21a、整合回路制御部21b、結合低減回路制御部42の動作は、第3の実施形態と同様である。選択部51は、調整対象に選択された回路の全てが調整されたことを認識すると処理を終了する。
このように、評価関数を用いて受信性能に与える影響が大きい回路の組み合わせを選択することにより、調整対象の回路の数を絞ることができる。調整対象の回路の数が減少すると、調整にかかる時間や処理の量が減少するため、効率的に通信装置50の受信性能が改善される。
<第5の実施形態>
第5の実施形態では、MIMO受信を行っている場合に、MIMOの伝送特性を表す経験式を利用して、調整する回路を選択する通信装置50について説明する。第5の実施形態では、干渉電力算出部32a、32bは、信号電力の値も算出する。すなわち、干渉電力算出部32aは、アンテナA1を介して受信した信号の電力も算出する。同様に、干渉電力算出部32bは、アンテナA2を介して受信した信号の電力も算出する。干渉電力算出部32が信号電力の算出をする際には、式(27)の演算を行う。
干渉電力算出部32a、32bは、信号電力の値を選択部51に出力する。選択部51は、信号電力の値を用いて、利得の比Bを求める。利得の比Bの計算式を式(28)に示す。
また、選択部51は、利得の比の値を用いて、利得差Xを式(29)から計算するものとする。
次に、MIMOの伝送特性を表す経験式について説明する。図12は、MIMOの固有値と伝送特性の例を示す図である。基地局が2本のアンテナを用いて通信装置50へのデータを送信している場合、伝搬路行列は式(30)のとおりであり、伝搬路は図12(a)のように表される。
式(30)の伝搬路行列から図12(b)に示すように、第1固有値(λ1)と第2固有値(λ2)が得られたとする。この場合、伝搬路係数の総電力は変化しないので、式(31)に示すように、伝搬路係数の総電力が2つの固有値で表されるパスの総電力となる。
伝搬路行列が式(30)で表される場合、MIMOのチャネル容量Cは、式(32)で表される。式(32)において、S/Nは、SINRである。
式(32)より、第1固有値と第2固有値の値が等しい場合は伝送容量は大きな値をとるが、2つの固有値の差が大きくなるにつれて伝送容量は小さくなるといえる。
図13に、第1固有値の大きさとアンテナ間での受信信号の相関値の関係の例を示す。図13は、レイリーフェージング環境において、伝搬路の平均総電力が4である場合の第1固有値と相関値の関係のシミュレーション結果である。図13に示すように、アンテナ間での受信信号の相関値が大きい場合、第1固有値の平均電力が大きくなる。式(31)に示すように、伝搬路の総電力は一定であるので、第1固有値の平均電力が大きくなると、第2固有値の大きさは小さくなる。図13の横軸はアンテナ間の相関値の2乗値であるので、第1固有値の平均電力は相関値の2乗に比例していることが図13から読み取れる。図13には、アンテナ間の利得が異なる場合についてのシミュレーション結果が表されている。図13の凡例において、Eの文字とEの文字の後に続く数字は10の乗数を表すものとする。例えば、−2.00E+01は、−20を表す。
図14は、第1固有値の大きさとアンテナ間の利得差の関係の例を示す。図14も、レイリーフェージング環境において、伝搬路の平均総電力が4である場合のシミュレーション結果である。図14の横軸は、式(33)に示すアンテナ間の利得差Xの関数Gである。
図14の横軸の値GとXの関係を分かりやすくするために、Gの値の算出に用いるXの値を横軸に併記する。アンテナ間の利得の差が大きくなるほど、第1固有値の平均電力の値が大きくなっている。また、第1固有値の平均電力は、Gの値に対して直線的に変化する。図14には、アンテナ間の受信信号の相関値が様々な値の場合についてのシミュレーション結果が示されている。
図13と図14を用いると、伝搬路の平均総電力が4である場合のMIMOの第1固有値の平均電力の値Zは、式(34)で表現できる。以下、式(34)を特性関数と記載することがある。
前述のとおり、第1固有値と第2固有値の差が大きくなると、チャネル容量が小さくなり、通信効率が悪化する傾向がある。従って、第1固有値の平均電力が大きいほど、通信効率の改善のために回路の調整量が大きくなる可能性がある。また、第1固有値の平均電力が大きいほど、受信特性を大きく改善することが求められるため、調整を行う対象となる回路の数が多くなることも望ましい。そこで、選択部51は、回路の調整を行う前に特性関数を用いて第1固有値の値を求め、第1固有値が閾値以上である場合、整合回路12a、整合回路12b、結合低減回路43の全てを調整することを決定する。一方、選択部51は、第1固有値の値が閾値未満であれば、整合回路12a、整合回路12b、結合低減回路43のうちの一部の回路を調整対象とすることを決定する。例えば、選択部51は、第1固有値の値が閾値以下の場合、整合回路12aと整合回路12bを調整対象とすることができる。ここで、選択部51は、MIMOのチャネル容量の劣化が起こりやすくなる第1固有値の値を、閾値として用いることができる。
図15は、MIMOのチャネル容量とSINRの関係の例である。閾値の求め方の例を、図15を参照しながら説明する。図15は、第1固有値の値が様々な値をとるケースについて、SINRの値を変動させてチャネル容量をシミュレーションした結果である。なお、図15でも、レイリーフェージング環境において、伝搬路の平均総電力が4である場合についてシミュレーションしている。図15の結果から、第1固有値の値が3.5から3.7に変化しても、チャネル容量の劣化は顕著ではないといえる。しかし、第1固有値の値が3.7を超えると、チャネル容量の劣化が大きくなっている。そこで、例えば、図15のシミュレーション結果を用いて、閾値を3.5から4までの間の値に設定することができる。
図16は、第5の実施形態における選択部51の動作の例を説明するフローチャートである。選択部51は、利得差Xと相関値rを用いて特性関数Zの値を求め、得られた値を予め記憶している閾値と比較する(ステップS81)。なお、ここで、利得差は、それぞれのアンテナの利得と、式(28)、(29)を用いて、選択部51が計算するものとする。特性関数の値が閾値未満である場合、選択部51は、整合回路12aと整合回路12bを調整対象の回路として選択する(ステップS81でNo、ステップS82)。さらに、選択部51は、第1の評価関数の値を求め、第1の評価関数の値Eが0以上の場合、整合回路12bを優先的に調整する回路として選択する(ステップS83、ステップS84でYes、ステップS85)。一方、第1の評価関数の値Eが負である場合、選択部51は、整合回路12aを優先的に調整する回路として選択する(ステップS83、ステップS84でNo、ステップS86)。特性関数の値が閾値以上である場合、選択部51は、整合回路12a、整合回路12b、結合低減回路43を調整対象の回路として選択する(ステップS81でYes、ステップS87)。すると、選択部51は、第1〜第3の評価関数を用いて、整合回路12a、整合回路12b、結合低減回路43について、調整の優先順位を決定する(ステップS88)。ステップS88の手順は、図10を参照しながら説明した手順と同様である。
このように、通信装置50でMIMO通信が行われている場合、チャネル容量に応じて受信特性の調整量を予測した上で、調整対象の回路が選択されるため、効率的に調整対象の回路が選択される。さらに、通信装置50では、選択された調整対象の回路の中での優先順位は、第1〜第3の評価関数に基づいて決定される。このことは、通信装置50において実験的に求められる値により、受信特性への影響の大きな回路が特定され、受信特性への影響が大きな回路を優先的に調整できることを意味する。
<その他>
なお、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、様々に変形可能である。以下にその例をいくつか述べる。
第1〜第4の実施形態にかかる方法は、通信装置10、40、50においてMIMOによる通信が行われている場合だけでなく、ダイバーシティなど、複数のアンテナを行う通信が行われる任意の場合に適用可能である。
いずれの実施形態においても、第1の評価関数の値が0になった場合は、整合回路12aの調整が行われるように設定しても良い。また同様に、第2もしくは第3の評価関数の値が0である場合は、結合低減回路43が調整されても良いものとする。
上記の例では、整合回路制御部21a、21b、結合低減回路制御部42は、制御対象とする回路に含まれている可変素子が一定の調整範囲内の値をとる場合の全てについて回路を調整した結果に基づいて調整を行っている。しかし、これは一例であり、他の方法により調整が行われることもある。例えば、整合回路12aが容量をΔCずつ変更可能な可変コンデンサを備えているとする。整合回路制御部21aは、可変コンデンサの容量を、5ΔCずつ変更しながら整合回路12aからの出力信号の電圧を測定し、出力信号の電圧が高くなった場合に、可変コンデンサの容量の変更量を小さくしながら出力信号を測定することができる。整合回路制御部21bや結合低減回路制御部42も同様に、制御対象の回路に含まれている可変素子を所定の幅で変更することにより変更による効果が得られたかを観察し、望ましい効果があった領域については可変素子を微調整することができる。
図17は、整合回路制御部の動作の変形例を説明するフローチャートである。図17の例では、整合回路制御部21は、選択部33から調整の要求を受けると、現在設定されている値と、現在の設定値よりも1段階大きな値もしくは1段階小さな値と比較した結果に基づいて、設定を変更するかを決定する。例えば、整合回路12に含まれている可変コンデンサに設定可能な容量は、c1、c2、・・・、cnという不連続なn個の値であるとする。図17において、mは1〜nまでの値である。通信装置10に電源が投入されると、整合回路制御部21は、m=1に設定することにより、整合回路12に含まれている可変コンデンサの容量をc1にする(ステップS91)。選択部33から調整の要求を受けると、整合回路制御部21は、整合回路12からの現在の出力の電力pmを測定する(ステップS92)。その後、整合回路制御部21は、mがn未満であるかを判定する(ステップS93)。mがn未満である場合、整合回路制御部21は、可変コンデンサの設定値を1段階大きな値cm+1に設定し、整合回路12からの出力pm+1を測定する(ステップS93でYes、ステップS94、S95)。電力pmがpm+1より小さい場合、整合回路制御部21は、可変コンデンサの値を調整後の値とし、mの値を1つインクリメントする(ステップS96でYes、ステップS97)。電力pmがpm+1以上の場合、整合回路制御部21は、可変コンデンサの値を調整前の値に戻す(ステップS96でNo、ステップS98)。ステップS97もしくはS98の処理の後、整合回路制御部21は、選択部33から新たに調整を要求されるまで待機する。
mがnである場合、整合回路制御部21は、可変コンデンサの設定値を、1段階小さな値cm−1に設定し、整合回路12からの出力pm−1を測定する(ステップS93でNo、ステップS99、S100)。電力pmがpm−1より小さい場合、整合回路制御部21は、可変コンデンサの値を調整後の値とし、mの値を1つデクリメントする(ステップS101でYes、ステップS102)。電力pmがpm−1以上の場合、整合回路制御部21は、可変コンデンサの値を調整前の値に戻す(ステップS101でNo、ステップS103)。ステップS102もしくはS103の処理の後も、整合回路制御部21は、選択部33から新たに調整を要求されるまで待機する。
なお、図17は、通信装置10の場合を例として説明したが、通信装置40や通信装置50で図17に示す処理が行われても良いものとする。さらに、通信装置40や通信装置50においては、結合低減回路制御部42が図17と同様の手法を用いて、結合低減回路43に含まれている可変コンデンサを調整することもできる。また、図17は調整対象が可変コンデンサである場合を例としたが、調整対象が可変コイルである場合も、同様に処理されることがあるものとする。