以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
図1は、本発明の一実施形態である燃料電池システム10を搭載した燃料電池車両の、システム構成を示す図である。燃料電池システム10は、燃料電池車両に搭載される車載電源システムとして機能するものであり、反応ガス(燃料ガス、酸化剤ガス)の供給を受けて発電する燃料電池スタック20と、酸化剤ガスとしての空気を燃料電池スタック20に供給するための酸化剤ガス供給系30(酸化剤ガス供給手段)と、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池スタック20に供給するための燃料ガス供給系40(燃料ガス供給手段)と、電力の充放電を制御するための電力系50と、システム全体を統括制御するコントローラ60(制御手段)とを備えている。
燃料電池スタック20は、多数のセルを直列に積層してなる固体高分子電解質型セルスタックである。燃料電池スタック20では、アノード極において(1)式の酸化反応が生じ、カソード極において(2)式の還元反応が生じる。燃料電池スタック20全体としては(3)式の起電反応が生じる。
H2 → 2H++2e- …(1)
(1/2)O2+2H++2e- → H2O …(2)
H2+(1/2)O2 → H2O …(3)
燃料電池スタック20には、燃料電池スタック20の出力端子電圧(スタック電圧Vc)を検出するための電圧センサ71、及び出力電流(スタック電流)を検出するための電流センサ72が取り付けられている。
酸化剤ガス供給系30は、燃料電池スタック20のカソード極に供給される酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス通路33と、燃料電池スタック20から排出される酸化オフガスが流れる酸化オフガス通路34とを有している。酸化剤ガス通路33には、フィルタ31を介して大気中から酸化剤ガスを取り込むエアコンプレッサ32と、エアコンプレッサ32により加圧される酸化剤ガスを加湿するための加湿器35と、燃料電池スタック20への酸化剤ガス供給を遮断するための遮断弁A1とが設けられている。酸化オフガス通路34には、燃料電池スタック20からの酸化オフガス排出を遮断するための遮断弁A2と、酸化剤ガス供給圧を調整するための背圧調整弁A3と、酸化剤ガス(ドライガス)と酸化オフガス(ウェットガス)との間で水分交換するための加湿器35とが設けられている。
燃料ガス供給系40は、燃料ガス供給源41と、燃料ガス供給源41から燃料電池スタック20のアノード極に供給される燃料ガスが流れる燃料ガス通路43と、燃料電池スタック20から排出される燃料オフガスを燃料ガス通路43に帰還させるための循環通路44と、循環通路44内の燃料オフガスを燃料ガス通路43に圧送する循環ポンプ45と、循環通路44に分岐接続される排気排水通路46とを有している。
燃料ガス供給源41は、例えば、高圧水素タンクや水素吸蔵合金などで構成され、高圧(例えば、35MPa乃至70MPa)の水素ガスを貯留する。遮断弁H1を開くと、燃料ガス供給源41から燃料ガス通路43に燃料ガスが流出する。燃料ガスは、レギュレータH2やインジェクタ42により、例えば、200kPa程度まで減圧されて、燃料電池スタック20に供給される。
尚、燃料ガス供給源41は、炭化水素系の燃料から水素リッチな改質ガスを生成する改質器と、この改質器で生成した改質ガスを高圧状態にして蓄圧する高圧ガスタンクとから構成してもよい。
燃料ガス通路43には、燃料ガス供給源41からの燃料ガスの供給を遮断又は許容するための遮断弁H1と、燃料ガスの圧力を調整するレギュレータH2と、燃料電池スタック20への燃料ガス供給量を制御するインジェクタ42と、燃料電池スタック20への燃料ガス供給を遮断するための遮断弁H3と、圧力センサ74とが設けられている。
レギュレータH2は、その上流側圧力(一次圧)を、予め設定した二次圧に調圧する装置であり、例えば、一次圧を減圧する機械式の減圧弁などで構成される。機械式の減圧弁は、背圧室と調圧室とがダイアフラムを隔てて形成された筺体を有し、背圧室内の背圧により調圧室内で一次圧を所定の圧力に減圧して二次圧とする構成を有する。インジェクタ42の上流側にレギュレータH2を配置することにより、インジェクタ42の上流側圧力を効果的に低減させることができる。このため、インジェクタ42の機械的構造(弁体、筺体、流路、駆動装置等)の設計自由度を高めることができる。また、インジェクタ42の上流側圧力を低減させることができるので、インジェクタ42の上流側圧力と下流側圧力との差圧の増大に起因してインジェクタ42の弁体が移動し難くなることを抑制することができる。従って、インジェクタ42の下流側圧力の可変調圧幅を広げることができるとともに、インジェクタ42の応答性の低下を抑制することができる。
インジェクタ42は、弁体を電磁駆動力で直接的に所定の駆動周期で駆動して弁座から離隔させることによりガス流量やガス圧を調整することが可能な電磁駆動式の開閉弁である。インジェクタ42は、燃料ガス等の気体燃料を噴射する噴射孔を有する弁座を備えるとともに、その気体燃料を噴射孔まで供給案内するノズルボディと、このノズルボディに対して軸線方向(気体流れ方向)に移動可能に収容保持され噴射孔を開閉する弁体とを備えている。
本実施形態においては、インジェクタ42の弁体は電磁駆動装置であるソレノイドにより駆動され、このソレノイドに給電されるパルス状励磁電流のオン・オフにより、噴射孔の開口面積を2段階に切り替えることができる。コントローラ60から出力される制御信号によってインジェクタ42のガス噴射時間及びガス噴射時期が制御されることにより、燃料ガスの流量及び圧力が高精度に制御される。インジェクタ42は、弁(弁体及び弁座)を電磁駆動力で直接開閉駆動するものであり、その駆動周期が高応答の領域まで制御可能であるため、高い応答性を有する。インジェクタ42は、その下流に要求されるガス流量を供給するために、インジェクタ42のガス流路に設けられた弁体の開口面積(開度)及び開放時間の少なくとも一方を変更することにより、下流側に供給されるガス流量(又は水素モル濃度)を調整する。
循環通路44には、燃料電池スタック20からの燃料オフガス排出を遮断するための遮断弁H4と、循環通路44から分岐する排気排水通路46とが接続されている。排気排水通路46には、排気排水弁H5が配設されている。排気排水弁H5は、コントローラ60からの指令によって作動することにより、循環通路44内の不純物を含む燃料オフガスと水分とを外部に排出する。排気排水弁H5の開弁により、循環通路44内の燃料オフガス中の不純物の濃度が下がり、循環系内を循環する燃料オフガス中の水素濃度を上げることができる。
排気排水弁H5を介して排出される燃料オフガスは、酸化オフガス通路34を流れる酸化オフガスと混合され、希釈器(図示せず)によって希釈される。循環ポンプ45は、循環系内の燃料オフガスをモータ駆動により燃料電池スタック20に循環供給する。
電力系50は、DC/DCコンバータ51、バッテリ52、トラクションインバータ53、トラクションモータ54、及び補機類55を備えている。燃料電池システム10は、DC/DCコンバータ51とトラクションインバータ53とが並列に燃料電池スタック20に接続するパラレルハイブリッドシステムとして構成されている。DC/DCコンバータ51は、バッテリ52から供給される直流電圧を昇圧してトラクションインバータ53に出力する機能と、燃料電池スタック20が発電した直流電力、又は回生制動によりトラクションモータ54が回収した回生電力を降圧してバッテリ52に充電する機能とを有する。DC/DCコンバータ51のこれらの機能により、バッテリ52の充放電が制御される。また、DC/DCコンバータ51による電圧変換制御により、燃料電池スタック20の運転ポイント(出力電圧、出力電流)が制御される。
バッテリ52は、余剰電力の貯蔵源、回生制動時の回生エネルギー貯蔵源、燃料電池車両の加速又は減速に伴う負荷変動時のエネルギーバッファとして機能する。バッテリ52としては、例えば、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、リチウム二次電池等の二次電池が好適である。バッテリ52には、SOC(State of charge)を検出するためのSOCセンサ73が取り付けられている。
トラクションインバータ53は、例えば、パルス幅変調方式で駆動されるPWMインバータであり、コントローラ60からの制御指令に従って、燃料電池スタック20又はバッテリ52から出力される直流電圧を三相交流電圧に変換して、トラクションモータ54の回転トルクを制御する。トラクションモータ54は、例えば、三相交流モータであり、燃料電池車両の動力源を構成する。
補機類55は、燃料電池システム10内の各部に配置されている各モータ(例えば、ポンプ類などの動力源)や、これらのモータを駆動するためのインバータ類、更には各種の車載補機類(例えば、エアコンプレッサ、インジェクタ、冷却水循環ポンプ、ラジエータなど)を総称するものである。
コントローラ60は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インタフェースを備えるコンピュータシステムであり、燃料電池システム10の各部を制御する。例えば、コントローラ60は、イグニッションスイッチIGの状態がONになったことを検知すると、燃料電池システム10の運転を開始し、アクセルセンサから出力されるアクセル開度信号ACCや、車速センサから出力される車速信号VVなどを基に、負荷からの要求電力を求める。すなわち、コントローラ60は、要求電力を検知する要求電力検知手段としての機能を備えている。負荷からの要求電力とは、車両走行電力と補機電力との合計値である。
ここで、補機電力とは、加湿器、エアコンプレッサ、水素ポンプ、冷却水循環ポンプ等の補機で消費される電力のことである。すなわち、本実施形態の燃料電池システム10においては、燃料電池車両の動力源であるトラクションモータ54及び上記補機が、燃料電池システム10から電力の供給を受ける負荷に相当する。
そして、コントローラ60は、燃料電池スタック20とバッテリ52とのそれぞれの出力電力の配分を決定し、燃料電池スタック20の発電電力FPが目標電力に一致するように、酸化剤ガス供給系30及び燃料ガス供給系40を制御するとともに、DC/DCコンバータ51を制御して、燃料電池スタック20の出力電圧を調整することにより、燃料電池スタック20の運転ポイント(出力電圧、出力電流)を制御する。更に、コントローラ60は、アクセル開度に応じた目標トルクが得られるように、例えば、スイッチング指令として、U相、V相、及びW相の各交流電圧指令値をトラクションインバータ53に出力し、トラクションモータ54の出力トルク、及び回転数を制御する。
本実施形態の燃料電池システム10では、上記のように、負荷からの要求電力RPの変化に応じて、燃料電池システム10から負荷に供給(出力)する電力が変化するように、コントローラ60による制御が行われる。要求電力RP、燃料電池スタック20の発電電力FP、及び、燃料電池システム10から実際に負荷に供給されるシステム電力SPの時間変化を、図2及び図3を参照しながら説明する。
図2は、バッテリ52のSOCが、その目標値である目標蓄電量TSOC(第一蓄電量)である50%よりも少ない状況において、負荷からの要求電力RPが変化した際の発電電力FP、及び、システム電力SPの時間変化を示すグラフである。図2では、時刻t1において要求電力RPがW0からW1に増加した後、時刻t2において要求電力RPがW1からW0に減少した場合の時間変化を示している。
時刻t1において要求電力RPがW0からW1に増加すると、コントローラ60は、燃料電池スタック20の発電電力FPをW1まで直ちに増加させる。すなわち、要求電力RPを全て発電電力FPで賄うように、燃料電池システム10の電力出力が制御される。このため、時刻t1から時刻t2にかけては、発電電力FPとシステム電力SPとが等しくなっている。
続いて、時刻t2において要求電力RPがW1からW0に減少すると、コントローラ60は、燃料電池スタック20の発電電力FPをW0まで減少させる。このとき、W0まで直ちに減少させるのではなく、発電電力FPの減少を抑制し、減少速度が緩やかになるように制御が行われる。このとき、発電電力FPには余剰分が発生するが、かかる余剰分はバッテリ52に蓄電される。その結果、燃料電池システム10から負荷に供給されるシステム電力SPは、W0まで直ちに減少している。
時刻t2においては、それまでの燃料電池スタック20の発電電力FPが大きかったため、高分子電解質膜のプロトン導電率が向上しており、燃料電池スタック20は高い発電効率で発電を行っている状態となっている。高分子電解質膜のプロトン導電率は、その後、燃料電池スタック20の発電電力FPを減少させても直ちには減少せず、一定の遅れをもって減少することが知られている。すなわち、燃料電池スタック20の発電電力FPを減少させる際は発電効率が高い。
そこで、本実施形態では上記のように、システム電力SPが減少する時刻t2以降においても、燃料電池スタック20における発電電力FPを直ちには減少させないことで、高い発電効率で発電を行っている状態を利用している。このときの発電電力FPの余剰分はバッテリ52に蓄電されるため、バッテリ52のSOCを目標蓄電量TSOCである50%に近づけることができる。尚、目標蓄電量TSOCは50%に限られるものではなく、バッテリ52の種類や構成などに応じて適宜設定されるものである。一般的には、40%から80%の範囲で設定される。
一方、時刻t1においては、それまでの燃料電池スタック20の発電電力FPが小さかったため、高分子電解質膜のプロトン導電率が低下しており、燃料電池スタック20は低い発電効率で発電を行っている状態となっている。高分子電解質膜のプロトン導電率は、その後、燃料電池スタック20の発電電力FPを増加させても直ちには増加せず、一定の遅れをもって増加することが知られている。すなわち、燃料電池スタック20の発電電力FPを増加させる際は発電効率が低い。
このため、時刻t1以降においては燃料電池スタック20の発電電力FPを直ちには増加させず、不足分をバッテリ52からの放電によって補う方が、燃料電池スタック20の発電効率の観点からは望ましい。しかしその場合、バッテリ52のSOCが更に減少することとなる。SOCが目標蓄電量TSOCである50%よりも少ない状況から更に減少すると、バッテリ52への負担が大きくなり、バッテリ52が短期間で劣化してしまう。そこで、本実施形態では図2のように、バッテリ52のSOCが目標蓄電量TSOC(第一蓄電量)である50%よりも少ない状況では、時刻t1において発電電力FPを直ちに増加させている。すなわち、バッテリ52のSOCの変動と、燃料電池スタック20の発電効率をいずれも考慮しながら、燃料電池スタック20の発電電力FPを制御している。
図3は、バッテリ52のSOCが目標蓄電量TSOC(第一蓄電量)である50%よりも多い状況において、負荷からの要求電力RPが変化した際の発電電力FP、及び、システム電力SPの時間変化を示すグラフである。図3では、時刻t3において要求電力RPがW0からW1に増加した後、時刻t4において要求電力RPがW1からW0に減少した場合の時間変化を示している。
図2の場合と異なり、時刻t3において要求電力RPがW0からW1に増加すると、コントローラ60は、燃料電池スタック20の発電電力FPをW1まで直ちに増加させず、発電電力FPの増加を抑制し、増加速度が緩やかになるように制御する。このとき、発電電力FPだけでは要求電力RPに満たないが、かかる不足分はバッテリ52からの放電によって補われる。その結果、燃料電池システム10から負荷に供給されるシステム電力SPは、W1まで直ちに増加している。
時刻t3においては、それまでの燃料電池スタック20の発電電力FPが小さかったため、高分子電解質膜のプロトン導電率が低下しており、燃料電池スタック20は低い発電効率で発電を行っている状態となっている。高分子電解質膜のプロトン導電率は、その後、燃料電池スタック20の発電電力FPを増加させても直ちには増加せず、一定の遅れをもって増加することが知られている。すなわち、燃料電池スタック20の発電電力FPを増加させる際は発電効率が低い。
そこで、本実施形態では上記のように、システム電力SPが増加する時刻t3以降においても、燃料電池スタック20における発電電力FPを直ちには増加させないことで、発電効率が低い状態における発電を抑制している。このときの発電電力FPの不足分はバッテリ52の放電によって補われるため、バッテリ52のSOCが減少し、SOCを目標蓄電量TSOCである50%に近づけることができる。
一方、時刻t4において要求電力RPがW1からW0に減少すると、コントローラ60は、燃料電池スタック20の発電電力FPをW0まで直ちに減少させる。すなわち、発電電力FPの余剰分が発生しないように、燃料電池システム10の電力出力が制御される。
時刻t4においては、それまでの燃料電池スタック20の発電電力FPが大きかったため、高分子電解質膜のプロトン導電率が向上しており、燃料電池スタック20は高い発電効率で発電を行っている状態となっている。高分子電解質膜のプロトン導電率は、その後、燃料電池スタック20の発電電力FPを減少させても直ちには減少せず、一定の遅れをもって減少することが知られている。すなわち、燃料電池スタック20の発電電力FPを減少させる際は発電効率が高い。
このため、時刻t4以降においては燃料電池スタック20の発電電力FPを直ちには減少させず、余剰分をバッテリ52に蓄電する方が、燃料電池スタック20の発電効率の観点からは望ましい。しかしその場合、バッテリ52のSOCが更に増加することとなる。SOCが目標蓄電量TSOCである50%よりも多い状況から更に増加すると、バッテリ52への負担が大きくなり、バッテリ52が短期間で劣化してしまう。そこで、本実施形態では図3のように、バッテリ52のSOCが目標蓄電量TSOC(第一蓄電量)である50%よりも多い状況では、時刻t4において発電電力FPを直ちに減少させている。すなわち、バッテリ52のSOCの変動と、燃料電池スタック20の発電効率をいずれも考慮しながら、燃料電池スタック20の発電電力FPを制御している。
以上において説明したように、本実施形態に係る燃料電池システム10では、負荷からの要求電力RPの増加時においては燃料電池スタック20からの発電電力FPの増加を抑制する一方、要求電力RPの減少時においては燃料電池スタック20からの発電電力FPの減少を抑制する。これにより、燃料電池システム10の運転効率を向上させている。一方、本実施形態に係る燃料電池システム10では、負荷からの要求電力RPの増加時における発電電力FPの増加の抑制、及び、要求電力RPの減少時における発電電力FPの減少の抑制を、常に行うのではなく、バッテリ52のSOCに基づいて行う。発電電力FPの変化に伴ってバッテリ52のSOCが目標蓄電量TSOCである50%に近づくように制御するため、上記制御は、SOCの変動幅を抑制する蓄電量調整制御を構成している。
本実施形態では、上記蓄電量調整制御によってSOCの変動幅が抑制することによって、バッテリ52への負担を低減し、バッテリ52の劣化を抑制している。また、SOCの変動幅を抑制することによって、バッテリ52の容量が小さくて済み、バッテリ52を小型化することができるという利点もある。
更に、上記蓄電量調整制御によって、バッテリ52のSOCが0%又は100%に到達してしまうことが抑制される。このため、上記のような発電電力FPの増加を抑制する制御、及び、発電電力FPの減少を抑制する制御が、常に実行可能な状態となっている。
続いて、図4、図5、及び図6を参照しながら、以上に説明した蓄電量調整制御の具体的な内容について、更に詳しく説明する。図4は、コントローラ60が行う内容を示す制御ブロック図であって、要求電力RP及びSOCに基づいて発電電力FPを制御する処理を示している。
コントローラ60は、図4に示したように、要求電力RP、バッテリ52のSOC、SOCの目標値である目標蓄電量TSOCに基づいて、発電電力FPの制御指令値である発電電力指令値SFPを決定する。コントローラ60は、発電電力FPが発電電力指令値SFPに一致するように、燃料ガスの流量やDC/DCコンバータ51等の制御を行う。
図4において制御ブロックCT1は、要求電力RPとSOCとの入力を受け、発電電力FPをどのように変化させるのかを決定するものである。制御ブロックCT1は、発電電力指令値SFPの仮値として、仮指令値SFP0を出力する。制御ブロックCT1の具体的な処理については、後に説明する。
バッテリ52のSOCには、その目標値として目標蓄電量TSOC(第一蓄電量)が設定されている。コントローラ60はSOCと目標蓄電量TSOCとの偏差を算出し(符号SM2)、PID制御ブロックP1に入力する。PID制御ブロックP1は、上記偏差を0にするために、発電電力指令値SFPに対して必要な加算分を通常のPIDにて算出する制御ブロックである。
例えば、目標蓄電量TSOCよりもSOCが下回っている場合、PID制御ブロックP1ではこの不足分を補うために必要な発電電力指令値SFPへの加算分が算出され、コントローラ60は、かかる加算分を仮指令値SFP0に加算する(符号SM1)。その結果、発電電力指令値SFPがその分増加し、発電電力FPもそれに伴い増加するため、増加した電力によってSOCの不足分が補われ、SOCは目標蓄電量TSOCに近づくこととなる。尚、PID制御ブロックP1の内部処理は積分項(I)を含むため、SOCと目標蓄電量TSOCとの間に定常的な偏差が生じることが抑制されている。
すなわち、コントローラ60は、SOCが目標蓄電量TSOCに収束するように、SOCと目標蓄電量TSOCとの偏差をフィードバックしながら発電電力FPを制御している。これにより、負荷からの要求電力RPの変動が少ない状況においてもバッテリ52のSOCが目標蓄電量TSOCに収束するように制御し、SOCの変動幅を更に抑制している。
続いて図5を参照しながら、制御ブロックCT1の具体的な処理について説明する。図5は、コントローラ60が行う内容を示す制御ブロック図であって、図4に示した制御ブロックCT1の内部で行われる具体的な処理を示している。先に述べたように、制御ブロックCT1は、要求電力RPとSOCとの入力を受け、発電電力FPをどのように変化させるのかを決定する制御ブロックである。コントローラ60は、制御ブロックCT1が出力した仮指令値SFP0に対し、PID制御ブロックP1が算出した加算分を加えることにより、発電電力指令値SFPを算出する。
制御ブロックCT1における基本的な処理は、入力された要求電力RPと現在の仮指令値SFP0との偏差を算出し(符号SM3)、これにゲイン(ゲインPG又はゲインMG)を掛けて、出力すべき仮指令値SFP0を算出するというものである。ただし、サチュレータPST、MSTを備えることよって、要求電力RPと仮指令値SFP0との偏差がプラスの時とマイナスの時とで、それぞれ異なるゲイン(それぞれ、ゲインPG、ゲインMG)を掛ける点が特徴的である。
サチュレータPSTは、上記偏差がプラスの時、すなわち、要求電力RPが仮指令値SFP0よりも大きいときのみ信号を通過させ、それ以外の時は0を出力する制御ブロックである。また、サチュレータMSTは、上記偏差がマイナスの時、すなわち、要求電力RPが仮指令値SFP0よりも小さいときのみ信号を通過させ、それ以外の時は0を出力する制御ブロックである。このため、要求電力RPが仮指令値SFP0よりも大きいときは、両者の偏差に対してゲインPGが掛けられ、要求電力RPが仮指令値SFP0よりも小さいときは、両者の偏差に対してゲインMGが掛けられる。
ここで、ゲインPG及びゲインMGは、いずれも固定値ではなく、バッテリ52のSOCによりその値が変更される。具体的には、図6に示したゲインマップを参照しながら、その値が決定されるものである。
図6は、SOCとゲインPGとの関係を規定したゲインマップPGMと、SOCとゲインMGとの関係を規定したゲインマップMGMとを表す図である。図6に示したように、ゲインマップPGMは、SOCが目標蓄電量TSOCである50%以下の時は、その値が一定のG0となっている。一方、SOCが目標蓄電量TSOCである50%を超えると、SOCが高くなるに伴って、その値が徐々に減少するように設定されている。
一方、ゲインマップMGMは、SOCが目標蓄電量TSOCである50%以上の時は、その値が一定のG0となっている。一方、SOCが目標蓄電量TSOCである50%を下回ると、SOCが低くなるに伴って、その値が徐々に減少するように設定されている。
本実施形態に係る燃料電池システム10においては、コントローラ60においてゲインマップPGM及びゲインマップMGMが上記のように設定されている結果、既に説明した蓄電量調整制御が行われ、要求電力RPの変化に応じた発電電力FPの変化が図2及び図3に示したようなものとなっている。
すなわち、要求電力RPが上昇すると、要求電力RPと仮指令値SFP0との偏差がプラスになる。このとき、当該偏差に対して掛けられるゲインPGは、SOCが目標蓄電量TSOCよりも小さい場合には高い値(G0)となるため、仮指令値SFP0は直ちに増加することとなる。その結果、発電電力FPは直ちに増加する(図2の時刻t1から時刻t2)。一方、ゲインPGは、SOCが目標蓄電量TSOCよりも大きい場合には、SOCが高い程その値が減少するため、仮指令値SFP0の増加が抑制される。その結果、発電電力FPの増加が抑制され、発電電力FPの増加速度は緩やかになる(図3の時刻t3から時刻t4)。
また、要求電力RPが減少すると、要求電力RPと仮指令値SFP0との偏差がマイナスになる。このとき、当該偏差に対して掛けられるゲインMGは、SOCが目標蓄電量TSOCよりも大きい場合には高い値(G0)となるため、仮指令値SFP0は直ちに減少することとなる。その結果、発電電力FPは直ちに減少する(図3の時刻t4以降)。一方、ゲインMGは、SOCが目標蓄電量TSOCよりも小さい場合には、SOCが低い程その値が減少するため、仮指令値SFP0の減少が抑制される。その結果、発電電力FPの減少が抑制され、発電電力FPの減少速度は緩やかになる(図2の時刻t2以降)。
このように、本実施形態では、SOCに応じてゲインが変化するように設定されたゲインマップPGM、MGMを有することにより、図2及び図3に示したような蓄電量調整制御を実現している。
ゲインマップPGMによれば、バッテリ52のSOCと目標蓄電量TSOCとの差が大きいほど(SOCが大きいほど)、要求電力RPが増加した際における発電電力FPの増加の抑制量が大きくなるように制御するため、要求電力RPに対する不足分を補うためにバッテリ52から放電される電力が大きくなる。このため、SOCの減少量が大きくなり、SOCを目標蓄電量TSOCにより近づけることができる。
また、ゲインマップMGMによれば、目標蓄電量TSOCとバッテリ52のSOCとの差が大きいほど(SOCが小さいほど)、要求電力RPが減少した際における発電電力FPの減少の抑制量が大きくなるように制御するため、バッテリ52に蓄電される余剰電力が大きくなる。このため、SOCの増加量が大きくなり、SOCを目標蓄電量TSOCにより近づけることができる。
再び図5に戻って説明を続けると、制御ブロックCT1では、要求電力RPと仮指令値SFP0との偏差に対してゲイン(PG又はMG)を掛けた後、積分処理(符号ITG)を行うことによって仮指令値SFP0を算出している。積分処理を行うことにより、仮指令値SFP0が急激に変動することが抑制される。その結果、発電電力FPの変動も抑制されるため、上記積分処理は、発電電力FPの変動を抑制する平準化処理に該当する。
平準化処理によって発電電力FPの変動が抑制され、スタック電圧Vcの変動が抑制される。すなわち、本実施形態に係る燃料電池システム10においては、上記蓄電量調整制御によってバッテリ52の劣化を抑制しながら、燃料電池スタック20の発電性能の劣化も抑制している。
尚、平準化処理の方法は上記のような積分処理に限られず、種々の方法を採用することができる。例えば、要求電力RPを直接制御ブロックCT1に入力するのではなく、移動平均処理を行ってから制御ブロックCT1に入力してもよい。
続いて、SOCが低下し、バッテリ52の出力性能が低下した場合において行われる燃料電池システム10の制御について説明する。バッテリ52のSOCが低下している状況においては、バッテリ52の放電によって負荷に供給することのできる電力が少ない。このため、これまでに説明した蓄電量調整制御を適切に行うことができず、燃料電池システム10からの電力出力(システム電力SP)が低下してしまう可能性がある。また、発電電力FPの変動を抑制する平準化処理を行う場合においても、平準化した発電電力FPと要求電力RPとの差をバッテリ52の放電によって補うことができず、平準化処理を適切に行うことができない可能性がある。
このため、本実施形態に係る燃料電池システム10は、蓄電量調整制御及び平準化処理の実行及び停止を切り換えるスイッチSW1を備えている。図7は、燃料電池システム10において行われる制御を示す制御ブロック図である。図7で明らかなように、スイッチSW1がONの状態では、コントローラ60が行う制御は図4及び図5の制御ブロック図で示されたものと同じとなり、既に説明したような蓄電量調整制御及び平準化処理がいずれも実行される。
一方、図7においてスイッチSW1がOFFの状態では、蓄電量調整制御及び平準化処理がいずれも実行されない。この場合、発電電力指令値SFPは、要求電力RPとPID制御ブロックP1の出力値とを加算(符号SM6)したものとなる。このため、燃料電池スタック20の発電効率の低下、及び、スタック電圧Vcの変動をいずれも抑制せず、バッテリ52のSOCの回復が優先された状態となる。
図7に示したスイッチSW1の切り替えについて、図8を参照しながら説明する。図8は、コントローラ60が行う制御を示すフローチャートであって、コントローラ60がSOCに基づいてスイッチSW1を切り換える制御の内容を示している。図8に示した一連の処理は、燃料電池システム10の運転中において、所定時間が経過するごとにコントローラ60によって繰り返し実行されるものである。
まず、ステップS01では、バッテリ52のSOCが低下しているかどうかが判断される。具体的には、目標蓄電量TSOC(本実施形態では50%)よりもさらに低い値である下限蓄電量LSOC(例えば20%)をコントローラ60が記憶しており、SOCがこの下限蓄電量LSOC以上であるかどうかが判断される。
SOCが下限蓄電量LSOC以上である場合、コントローラ60は、蓄電量調整制御及び平準化処理を実行可能と判断し、スイッチSW1をONに切り替える(ステップS02)。一方、SOCが下限蓄電量LSOCを下回っている場合、コントローラ60は、蓄電量調整制御及び平準化処理を実行不可能と判断し、スイッチSW1をOFFに切り替える(ステップS03)。
図10に示した制御は、燃料電池システム10の運転中において常に繰り返し実行されているため、SOCが下限蓄電量LSOC以上となれば、その時点でスイッチSW1はONに切り替えられる。また、SOCが下限蓄電量LSOCを下回れば、その時点でスイッチSW1はOFFに切り替えられる。
以上のような制御が行われる結果、本実施形態に係る燃料電池システム10においては、コントローラ60は、SOCが目標蓄電量TSOCよりも少ない所定の下限蓄電量LSOC(第二蓄電量)を下回っている場合には、蓄電量調整制御を行わない。これにより、蓄電装置の蓄電量が低下している状況においては蓄電量調整制御及び平準化処理をいずれも行わず、発電電力FPによって燃料電池システム10からの出力を維持することができる。
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。