以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
図1は、本発明の第一実施形態である燃料電池システム10を搭載した燃料電池車両の、システム構成を示す図である。燃料電池システム10は、燃料電池車両に搭載される車載電源システムとして機能するものであり、反応ガス(燃料ガス、酸化剤ガス)の供給を受けて発電する燃料電池スタック20と、酸化剤ガスとしての空気を燃料電池スタック20に供給するための酸化剤ガス供給系30と、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池スタック20に供給するための燃料ガス供給系40と、電力の充放電を制御するための電力系50と、システム全体を統括制御するコントローラ60(制御装置)とを備えている。
燃料電池スタック20は、多数のセルを直列に積層してなる固体高分子電解質型セルスタックである。各セルは、水素イオンを選択的に輸送するための高分子電解質膜の両側面を、多孔質材料から成る一対の電極によって挟持した構成となっている。一対の電極のそれぞれは、白金系の金属触媒を担持するカーボン粉末を主成分とし、高分子電解質膜に接する触媒層と、触媒層の表面に形成され、通気性と電子導電性とを併せ持つガス拡散層とを有している。このように構成された燃料電池スタック20では、アノード極において(1)式の酸化反応が生じ、カソード極において(2)式の還元反応が生じる。燃料電池スタック20全体としては(3)式の起電反応が生じる。
H2 → 2H++2e- …(1)
(1/2)O2+2H++2e- → H2O …(2)
H2+(1/2)O2 → H2O …(3)
燃料電池スタック20には、燃料電池スタック20の発電電圧を検出するための電圧センサ71、及び発電電流を検出するための電流センサ72が取り付けられている。尚、電圧センサ71は、燃料電池スタック20の出力端子間電圧を測定するように取り付けられている。コントローラ60は、電圧センサ71によって測定された出力端子間電圧を、燃料電池スタック20を構成するセルの個数で除することにより、単セル当たりの発電電圧Eを把握する。
酸化剤ガス供給系30は、燃料電池スタック20のカソード極に供給される酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス通路33と、燃料電池スタック20から排出される酸化オフガスが流れる酸化オフガス通路34とを有している。酸化剤ガス通路33には、フィルタ31を介して大気中から酸化剤ガスを取り込むエアコンプレッサ32と、燃料電池スタック20への酸化剤ガス供給を遮断するための遮断弁A1とが設けられている。酸化オフガス通路34には、燃料電池スタック20からの酸化オフガス排出を遮断するための遮断弁A2と、酸化剤ガス供給圧を調整するための背圧調整弁A3とが設けられている。
燃料ガス供給系40は、燃料ガス供給源41と、燃料ガス供給源41から燃料電池スタック20のアノード極に供給される燃料ガスが流れる燃料ガス通路43と、燃料電池スタック20から排出される燃料オフガスを燃料ガス通路43に帰還させるための循環通路44と、循環通路44内の燃料オフガスを燃料ガス通路43に圧送する循環ポンプ45と、循環通路44に分岐接続される排気排水通路46とを有している。
燃料ガス供給源41は、例えば、高圧水素タンクや水素吸蔵合金などで構成され、高圧(例えば、35MPa乃至70MPa)の水素ガスを貯留する。遮断弁H1を開くと、燃料ガス供給源41から燃料ガス通路43に燃料ガスが流出する。燃料ガスは、レギュレータH2やインジェクタ42により、例えば、200kPa程度まで減圧されて、燃料電池スタック20に供給される。
尚、燃料ガス供給源41は、炭化水素系の燃料から水素リッチな改質ガスを生成する改質器と、この改質器で生成した改質ガスを高圧状態にして蓄圧する高圧ガスタンクとから構成してもよい。
燃料ガス通路43には、燃料ガス供給源41からの燃料ガスの供給を遮断又は許容するための遮断弁H1と、燃料ガスの圧力を調整するレギュレータH2と、燃料電池スタック20への燃料ガス供給量を制御するインジェクタ42と、燃料電池スタック20への燃料ガス供給を遮断するための遮断弁H3と、圧力センサ74とが設けられている。
レギュレータH2は、その上流側圧力(一次圧)を、予め設定した二次圧に調圧する装置であり、例えば、一次圧を減圧する機械式の減圧弁などで構成される。機械式の減圧弁は、背圧室と調圧室とがダイアフラムを隔てて形成された筺体を有し、背圧室内の背圧により調圧室内で一次圧を所定の圧力に減圧して二次圧とする構成を有する。インジェクタ42の上流側にレギュレータH2を配置することにより、インジェクタ42の上流側圧力を効果的に低減させることができる。このため、インジェクタ42の機械的構造(弁体、筺体、流路、駆動装置等)の設計自由度を高めることができる。また、インジェクタ42の上流側圧力を低減させることができるので、インジェクタ42の上流側圧力と下流側圧力との差圧の増大に起因してインジェクタ42の弁体が移動し難くなることを抑制することができる。従って、インジェクタ42の下流側圧力の可変調圧幅を広げることができるとともに、インジェクタ42の応答性の低下を抑制することができる。
インジェクタ42は、弁体を電磁駆動力で直接的に所定の駆動周期で駆動して弁座から離隔させることによりガス流量やガス圧を調整することが可能な電磁駆動式の開閉弁である。インジェクタ42は、燃料ガス等の気体燃料を噴射する噴射孔を有する弁座を備えるとともに、その気体燃料を噴射孔まで供給案内するノズルボディと、このノズルボディに対して軸線方向(気体流れ方向)に移動可能に収容保持され噴射孔を開閉する弁体とを備えている。
本実施形態においては、インジェクタ42の弁体は電磁駆動装置であるソレノイドにより駆動され、このソレノイドに給電されるパルス状励磁電流のオン・オフにより、噴射孔の開口面積を2段階に切り替えることができる。コントローラ60から出力される制御信号によってインジェクタ42のガス噴射時間及びガス噴射時期が制御されることにより、燃料ガスの流量及び圧力が高精度に制御される。インジェクタ42は、弁(弁体及び弁座)を電磁駆動力で直接開閉駆動するものであり、その駆動周期が高応答の領域まで制御可能であるため、高い応答性を有する。インジェクタ42は、その下流に要求されるガス流量を供給するために、インジェクタ42のガス流路に設けられた弁体の開口面積(開度)及び開放時間の少なくとも一方を変更することにより、下流側に供給されるガス流量(又は水素モル濃度)を調整する。
循環通路44には、燃料電池スタック20からの燃料オフガス排出を遮断するための遮断弁H4と、循環通路44から分岐する排気排水通路46とが接続されている。排気排水通路46には、排気排水弁H5が配設されている。排気排水弁H5は、コントローラ60からの指令によって作動することにより、循環通路44内の不純物を含む燃料オフガスと水分とを外部に排出する。排気排水弁H5の開弁により、循環通路44内の燃料オフガス中の不純物の濃度が下がり、循環系内を循環する燃料オフガス中の水素濃度を上げることができる。
排気排水弁H5を介して排出される燃料オフガスは、酸化オフガス通路34を流れる酸化オフガスと混合され、希釈器(図示せず)によって希釈される。循環ポンプ45は、循環系内の燃料オフガスをモータ駆動により燃料電池スタック20に循環供給する。
電力系50は、DC/DCコンバータ51、バッテリ52、トラクションインバータ53、トラクションモータ54、及び補機類55を備えている。燃料電池システム10は、DC/DCコンバータ51とトラクションインバータ53とが並列に燃料電池スタック20に接続するパラレルハイブリッドシステムとして構成されている。DC/DCコンバータ51は、バッテリ52から供給される直流電圧を昇圧してトラクションインバータ53に出力する機能と、燃料電池スタック20が発電した直流電力、又は回生制動によりトラクションモータ54が回収した回生電力を降圧してバッテリ52に充電する機能とを有する。DC/DCコンバータ51のこれらの機能により、バッテリ52の充放電が制御される。また、DC/DCコンバータ51による電圧変換制御により、燃料電池スタック20の運転ポイント(発電電圧、発電電流)が制御される。
バッテリ52は、余剰電力の貯蔵源、回生制動時の回生エネルギー貯蔵源、燃料電池車両の加速又は減速に伴う負荷変動時のエネルギーバッファとして機能する。バッテリ52としては、例えば、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、リチウム二次電池等の二次電池が好適である。バッテリ52には、SOC(State of charge:蓄電量)を検出するためのSOCセンサ73が取り付けられている。
トラクションインバータ53は、例えば、パルス幅変調方式で駆動されるPWMインバータであり、コントローラ60からの制御指令に従って、燃料電池スタック20又はバッテリ52から出力される直流電圧を三相交流電圧に変換して、トラクションモータ54の回転トルクを制御する。トラクションモータ54は、例えば、三相交流モータであり、燃料電池車両の動力源を構成する。
補機類55は、燃料電池システム10内の各部に配置されている各モータ(例えば、ポンプ類などの動力源)や、これらのモータを駆動するためのインバータ類、更には各種の車載補機類(例えば、エアコンプレッサ、インジェクタ、冷却水循環ポンプ、ラジエータなど)を総称するものである。
コントローラ60は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インタフェースを備えるコンピュータシステムであり、燃料電池システム10の各部を制御する。例えば、コントローラ60は、イグニッションスイッチIGの状態がONになったことを検知すると、燃料電池システム10の運転を開始し、アクセルセンサから出力されるアクセル開度信号ACCや、車速センサから出力される車速信号VVなどを基に、システム全体の要求電力を求める。システム全体の要求電力は、車両走行電力と補機電力との合計値である。
ここで、補機電力には、車載補機類(加湿器、エアコンプレッサ、水素ポンプ、及び冷却水循環ポンプ等)で消費される電力、車両走行に必要な装置(変速機、車輪制御装置、操舵装置、及び懸架装置等)で消費される電力、乗員空間内に配設される装置(空調装置、照明器具、及びオーディオ等)で消費される電力などが含まれる。
そして、コントローラ60は、燃料電池スタック20とバッテリ52とのそれぞれの出力電力の配分を決定し、燃料電池スタック20の発電量が目標電力に一致するように、酸化剤ガス供給系30及び燃料ガス供給系40を制御するとともに、DC/DCコンバータ51を制御して、燃料電池スタック20の発電電圧を調整することにより、燃料電池スタック20の運転ポイント(発電電圧、発電電流)を制御する。更に、コントローラ60は、アクセル開度に応じた目標トルクが得られるように、例えば、スイッチング指令として、U相、V相、及びW相の各交流電圧指令値をトラクションインバータ53に出力し、トラクションモータ54の出力トルク、及び回転数を制御する。
本実施形態の燃料電池システム10では、コントローラ60が、アクセル開度信号ACCに基づいて間欠運転モードとすべきか通常運転モードとすべきかを決定する。間欠運転モードとは、アクセル開度信号ACCがOFFのとき、すなわち、アクセル開度が0の時に実行される運転モードであって、燃料電池スタック20からトラクションモータ54に対する電力供給を停止し、バッテリ52のみによってトラクションモータ54を駆動するモードである。
通常運転モードとは、アクセル開度信号ACCがONのとき、すなわち、アクセル開度が0よりも大きい時に実行される運転モードであって、燃料電池スタック20からトラクションモータ54に対する電力供給を行い、その電力を用いてトラクションモータ54を駆動するモードである。なお、通常運転モードにおいては、バッテリ52からトラクションモータ54への電力供給を併用しても構わない。
図2を参照しながら、間欠運転モードについて更に説明する。図2は、燃料電池システム10において、間欠運転モードにおける発電電圧Eの変化を示したグラフである。図2において時刻t0は、アクセル開度信号ACCが0となり、通常運転モードから間欠運転モードに切り替えられた時刻を示している。
間欠運転モードにおいては、燃料電池スタック20に対する燃料ガスの供給及び酸化剤ガスの供給が停止された状態となる。しかし、燃料電池スタック20の内部には燃料ガスが残留しているため、燃料電池スタック20の発電電圧Eは時刻t0において直ちには低下しない。発電電圧Eは、時刻t0からしばらくの間一定に維持された後、発電やクロスリーク等の影響によって次第に低下する。
発電電圧Eは、時間の経過と共にその低下速度が増加する。発電電圧Eが低下して下限電圧値ELとなった時点(時刻t1)で、コントローラ60はエアコンプレッサ32等に制御信号を送り、燃料電池スタック20に対する酸化剤ガスの供給を一時的に再開する。このとき、燃料電池スタック20のカソード極における酸素不足が解消することにより、発電電圧Eが上昇する。
発電電圧Eが上昇して上限電圧値EHになると、コントローラ60は酸化剤ガスの供給を停止する。時刻t0以降と同様に、発電電圧Eはしばらくの間一定に維持された後、クロスリーク等の影響によって次第に低下する。発電電圧Eが低下して下限電圧値ELとなった時点(時刻t2)で、コントローラ60はエアコンプレッサ32等に制御信号を送り、燃料電池スタック20に対する酸化剤ガスの供給を一時的に再開する。
このように、間欠運転モードにおいては、発電電圧Eを上限電圧値EHと下限電圧値ELとの間の範囲に維持しながら、燃料電池スタック20に対する酸化剤ガス供給の停止及び再開が繰り返される。尚、供給の停止及び再開を繰り返すのは、酸化剤ガス供給に限られず、燃料ガス供給であってもよい。いずれにしても、間欠運転モードにおける燃料ガスの消費量は低減されるため、燃料電池システム10全体における運転効率は向上することとなる。
燃料電池システム10の運転効率を更に向上させるため、間欠運転モードにおいて燃料電池スタック20で生じた電力はバッテリ52に供給され、蓄電される。このとき、バッテリ52に対して供給される電力が大きいほど発電電圧Eは小さくなり、バッテリ52に対して供給される電力が小さいほど発電電圧Eは大きくなる。
間欠運転モードにおいては、燃料電池スタック20の発電電圧Eが大きい程、発電効率が高くなることが知られている。すなわち、発電効率の向上という観点からは、発電電圧Eは大きい方が望ましい。
一方、発電電圧Eが大きい状態が継続すると、燃料電池スタック20に含まれる白金系の金属触媒がイオン化して溶出し、カソード極の触媒層が劣化してしまうことが知られている。このため、触媒層の性能維持の観点からは、発電電圧Eは小さい方が望ましい。このように、間欠運転時においては、発電効率の向上と触媒層の性能維持とは、トレードオフの関係にあるということができる。
以下に説明するように、本実施形態に係る燃料電池システム10では、SOCセンサ73が検知したSOCに基づいて上限電圧値EH及び下限電圧値ELを変更することで、発電効率の向上と触媒層の性能維持との両立を図っている。
図3を参照しながら、上限電圧値EH及び下限電圧値ELを変更する処理の流れを説明する。図3は、燃料電池システム10において行われる、電圧制御の処理の流れを示したフローチャートである。図3に示した一連の処理は、コントローラ60に入力されるアクセル開度信号ACCがONからOFFに切り替わった時点で、コントローラ60によって実行されるものである。
アクセル開度信号ACCがONからOFFに切り替わると、コントローラ60は、燃料電池車両を走行させるために必要な電力が小さい(要求電力が所定値以下である)と判断する。このため、ステップS101において通常運転モードから間欠運転モードに切り替える。具体的には、燃料電池スタック20に対する燃料ガスの供給及び酸化剤ガスの供給をいずれも停止した上で、発電電圧Eを上限電圧値EHと下限電圧値ELとの間の範囲(許容電圧範囲)に維持しながら、燃料電池スタック20に対する酸化剤ガス供給の停止及び再開を繰り返す。尚、発電電圧Eを上記許容電圧範囲に維持しながら酸化剤ガス供給の停止及び再開を繰り返す処理は、図3に示した処理の流れとは並行に実行される別の処理ルーチンとして、コントローラ60により行われる。
ステップS101に続くステップS102では、SOCセンサ73が検出したバッテリ52のSOCが、蓄電閾値TH1を下回っているか否かが判断される。SOCが蓄電閾値TH1を下回っている場合にはステップS103に移行し、発電電圧Eの上限電圧値EH及び下限電圧値ELをいずれも比較的低い値に設定する。すなわち、上限電圧値EHを0.85Vに設定し、下限電圧値ELを0.80Vに設定する。
ステップS102において、SOCが蓄電閾値TH1以上である場合には、ステップS107に移行する。ステップS107では、SOCが、蓄電閾値TH1よりも大きな蓄電閾値TH2を下回っているか否かが判断される。SOCが蓄電閾値TH2を下回っている場合にはステップS108に移行する。ステップS108では、ステップS103における設定値よりもそれぞれ大きな値となるよう、上限電圧値EH及び下限電圧値ELを設定する。すなわち、上限電圧値EHを0.90Vに設定し、下限電圧値ELを0.85Vに設定する。
ステップS107において、SOCが蓄電閾値TH2以上である場合には、ステップS110に移行する。ステップS110では、ステップS108における設定値よりもそれぞれ大きな値となるよう、上限電圧値EH及び下限電圧値ELを設定する。すなわち、上限電圧値EHを0.95Vに設定し、下限電圧値ELを0.90Vに設定する。
ステップS103、ステップS108、及びステップS110のいずれかにおいて上限電圧値EH及び下限電圧値ELを設定した後は、ステップS104に移行する。ステップS104では、コントローラ60に入力されるアクセル開度信号ACCがONとなっているか否かが判断される。アクセル開度信号ACCがOFFのままであればステップS102に戻り、SOCに基づく上限電圧値EH及び下限電圧値ELの設定が繰り返される。
アクセル開度信号ACCがONとなっていれば、コントローラ60は、燃料電池車両を走行させるために必要な電力が大きい(要求電力が所定値を超える)と判断し、間欠運転モードを終了して通常運転モードに切り替える(ステップS105)。
以上のように、燃料電池システム10では、アクセル開度信号ACCがOFFとなり負荷からの要求電力が所定値以下の状態において間欠運転を行う。間欠運転を行うことによって、燃料電池スタック20における燃料ガスの消費量が抑制され、燃料電池システム10の運転効率を高めている。
コントローラ60は、発電電圧Eが上限電圧値EHと下限電圧値ELとの間となるように維持しながら、上記間欠運転を行う。その結果、発電電圧Eは上限電圧値EHを超えることがない為、発電電圧Eが大きい状態で維持されることによる触媒層の性能劣化が抑制される。
SOCが増加して蓄電閾値TH1、蓄電閾値TH2を超えた場合には、上限電圧値EH及び下限電圧値ELをいずれも上昇させる電圧範囲変更処理を行う。SOCが増加した場合は、バッテリ52に対して更なる蓄電を行う余裕が少ない状況ということができる。このため、上限電圧値EHを上昇させることによって燃料電池スタック20の発電量を低下させ、蓄電可能な範囲で発電を行いながら、発電効率の高い運転を行うことができる。
更に、上限電圧値EHを上昇させるだけでなく、下限電圧値ELも合わせて上昇させ、上限電圧値EHと下限電圧値ELとの差(許容電圧範囲の幅)が拡大しないようにしている。このため、上限電圧値EHの上昇に伴って発電電圧Eの変動幅が拡大してしまうことがない為、発電電圧Eが変動することによる触媒層の性能劣化が抑制されている。
尚、図3から明らかなように、上限電圧値EH及び下限電圧値ELが上昇してそれぞれ0.90V、0.85Vになった後、SOCが低下して蓄電閾値TH1を下回った場合には、上限電圧値EH及び下限電圧値ELはいずれも下降する。このように、SOCによって上限電圧値EH及び下限電圧値ELは共に変動するが、両者の差(許容電圧範囲の幅)は常に一定に維持されている。
続いて、本発明の第二実施形態に係る燃料電池システム10aについて説明する。燃料電池システム10aでは、上限電圧値EH及び下限電圧値ELを変更する処理の流れの一部のみが燃料電池システム10と異なっており、その他は燃料電池システム10と共通している。このため、以下では、燃料電池システム10との相違点のみを説明し、他の共通事項については説明を省略する。
まず、燃料電池システム10aが上記相違点を有することにより解決される課題について、図4を参照しながら説明する。図4は、先に説明した燃料電池システム10において、間欠運転モードにおける発電電圧Eの変化の一例を示したグラフである。図4において、時刻t4より前の段階では、上限電圧値EHが0.85V、下限電圧値ELが0.80Vに設定された状態(図3のステップS103)で、間欠運転モードが実行されている。このため、発電電圧Eは0.80Vから0.85Vまでの間で変動している。
時刻t4では、SOCが増加したことに伴って、上限電圧値EHが0.90V、下限電圧値ELが0.85Vと、それぞれ上昇するように設定が変更されている(図3のステップS108)。このため、時刻t4以降は、発電電圧Eは0.85Vから0.90Vまでの間で変動している。
時刻t4の直前においては、発電電圧Eは変更前の下限電圧値ELまで低下している。また、時刻t4においては、上限電圧値EHが0.90Vに上昇しているが、それと同時に燃料電池スタック20に対する酸化剤ガスの供給が一時的に再開されたため、発電電圧Eは変更後の上限電圧値EH(0.90V)まで急上昇している。
このように、燃料電池システム10では上限電圧値EH及び下限電圧値ELを変更するタイミングに何ら制約が無いため、発電電圧Eが変更前の下限電圧値EL(0.80V)から変更後の上限電圧値EH(0.90V)まで一気に上昇してしまうことが起こりうる。しかし、発電電圧Eの変動幅が大きいと触媒層の性能劣化が促進されてしまため、上記のようなタイミングにおいて上限電圧値EH及び下限電圧値ELを上昇させることは望ましくない。燃料電池システム10aでは、上限電圧値EH及び下限電圧値ELを上昇させるタイミングに関して制約を設けることにより、発電電圧Eの急上昇を防止している。
以下、図5を参照しながら、燃料電池システム10aにおいて上限電圧値EH及び下限電圧値ELを変更する処理の流れを説明する。図5は、燃料電池システム10aにおいて行われる、電圧制御の処理の流れを示したフローチャートである。図5に示した一連の処理は、コントローラ60に入力されるアクセル開度信号ACCがONからOFFに切り替わった時点で、コントローラ60によって実行されるものである。
アクセル開度信号ACCがONからOFFに切り替わると、コントローラ60は、燃料電池車両を走行させるために必要な電力が小さい(要求電力が所定値以下である)と判断する。このため、ステップS201において通常運転モードから間欠運転モードに切り替える。具体的には、燃料電池スタック20に対する燃料ガスの供給及び酸化剤ガスの供給をいずれも停止した上で、発電電圧Eを上限電圧値EHと下限電圧値ELとの間の範囲(許容電圧範囲)に維持しながら、燃料電池スタック20に対する酸化剤ガス供給の停止及び再開を繰り返す。尚、発電電圧Eを上記許容電圧範囲に維持しながら酸化剤ガス供給の停止及び再開を繰り返す処理は、図5に示した処理の流れとは並行に実行される別の処理ルーチンとして、コントローラ60により行われる。
ステップS201に続くステップS202では、SOCセンサ73が検出したバッテリ52のSOCが、蓄電閾値TH1を下回っているか否かが判断される。SOCが蓄電閾値TH1を下回っている場合にはステップS203に移行し、発電電圧Eの上限電圧値EH及び下限電圧値ELをいずれも比較的低い値に設定する。すなわち、上限電圧値EHを0.85Vに設定し、下限電圧値ELを0.80Vに設定する。
ステップS202において、SOCが蓄電閾値TH1以上である場合には、ステップS206に移行する。ステップS206において、コントローラ60は、上昇許可条件が成立しているかどうかを判断する。上昇許可条件とは、上限電圧値EH及び下限電圧値ELの上昇を許可するために必要な条件であり、発電電圧Eが上限電圧値EHの近傍にあることを確認、又は推定された際に成立する条件として設定されるものである。
本実施形態においては、上昇許可条件として、上限電圧値EHと発電電圧Eとの差(ΔV)が10mVよりも小さいという条件を設定している。ΔVが10mV以上である場合には上昇許可条件が成立せず、ステップS203に移行する。この場合、SOCが蓄電閾値TH1以上であっても、上限電圧値EH及び下限電圧値ELを上昇させる処理(ステップS208)は行われない。
ΔVが10mVよりも小さい場合には上昇許可条件が成立するため、ステップS207に移行する。ステップS207では、SOCが、蓄電閾値TH1よりも大きな蓄電閾値TH2を下回っているか否かが判断される。SOCが蓄電閾値TH2を下回っている場合にはステップS208に移行する。ステップS208では、ステップS203における設定値よりもそれぞれ大きな値となるよう、上限電圧値EH及び下限電圧値ELを設定する。すなわち、上限電圧値EHを0.90Vに設定し、下限電圧値ELを0.85Vに設定する。
ステップS207において、SOCが蓄電閾値TH2以上である場合には、ステップS209に移行する。ステップS209において、コントローラ60は、上昇許可条件が成立しているかどうかを再度判断する。ステップS209における上昇許可条件は、ステップS206における上昇許可条件と異なる条件としてもよいが、本実施形態では、ステップS206における上昇許可条件と同一の条件としている。
すなわち、ステップS209においても、上限電圧値EHと発電電圧Eとの差(ΔV)が10mVよりも小さいか否かが判断される。ΔVが10mV以上である場合には上昇許可条件が成立せず、ステップS208に移行する。この場合、SOCが蓄電閾値TH2以上であっても、上限電圧値EH及び下限電圧値ELを上昇させる処理(ステップS210)は行われない。
ΔVが10mVよりも小さい場合には上昇許可条件が成立するため、ステップS210に移行する。ステップS210では、ステップS208における設定値よりもそれぞれ大きな値となるよう、上限電圧値EH及び下限電圧値ELを設定する。すなわち、上限電圧値EHを0.95Vに設定し、下限電圧値ELを0.90Vに設定する。
ステップS203、ステップS208、及びステップS210のいずれかにおいて上限電圧値EH及び下限電圧値ELを設定した後は、ステップS204に移行する。ステップS204では、コントローラ60に入力されるアクセル開度信号ACCがONとなっているか否かが判断される。アクセル開度信号ACCがOFFのままであればステップS202に戻り、SOCに基づく上限電圧値EH及び下限電圧値ELの設定が繰り返される。
アクセル開度信号ACCがONとなっていれば、コントローラ60は、燃料電池車両を走行させるために必要な電力が大きい(要求電力が所定値を超える)と判断し、間欠運転モードを終了して通常運転モードに切り替える(ステップS205)。
以上のように、燃料電池システム10aにおいては、ステップS202においてSOCが蓄電閾値TH1以上であっても、上限電圧値EHと発電電圧Eとの差(ΔV)が10mV以上である場合には、上限電圧値EH及び下限電圧値ELを上昇させる処理(ステップS208)は行われない。同様に、ステップS207においてSOCが蓄電閾値TH2以上であっても、上限電圧値EHと発電電圧Eとの差(ΔV)が10mV以上である場合には、上限電圧値EH及び下限電圧値ELを上昇させる処理(ステップS210)は行われない。
その結果、上限電圧値EH及び下限電圧値ELを上昇させる処理は、発電電圧Eが比較的大きく、上昇前の上限電圧値EHの近傍(ΔVが10mV未満)である場合にのみ行われることとなる。従って、図4の時刻t4に示したようなタイミングで上限電圧値EH及び下限電圧値ELが変更され、発電電圧Eが大きく上昇してしまうことが防止される。
このときの発電電圧Eの変化の一例を、図6を参照しながら説明する。図6は、燃料電池システム10aにおいて、間欠運転モードにおける発電電圧Eの変化の一例を示したグラフである。図6においては、時刻t7より前の段階では、上限電圧値EHが0.85V、下限電圧値ELが0.80Vに設定された状態(図5のステップS203)で、間欠運転モードが実行されている。このため、発電電圧Eは0.80Vから0.85Vまでの間で変動している。
時刻t7では、SOCが増加して蓄電閾値TH1を上回っている。しかし、この時点においては発電電圧Eが下限電圧値ELに近く、ΔVが10mV以上となっているため、時刻t7においては上限電圧値EH及び下限電圧値ELは変更されず、それぞれ0.85V、0.80Vのままで維持されている。
その後、燃料電池スタック20に対する酸化剤ガスの供給が一時的に再開されたことにより、時刻t7の後において発電電圧Eが上限電圧値EHまで上昇している。このとき、ΔVは10mVよりも小さい。従って、ステップS206における判断はYとなり、ステップS208に移行している。その結果、時刻t8において、上限電圧値EH及び下限電圧値ELが上昇し、それぞれ0.90V、0.85Vとなっている。時刻t8以降は、発電電圧Eは0.85Vから0.90Vまでの間で変動している。このように、燃料電池システム10aにおいては、発電電圧Eが変更前の下限電圧値EL(0.80V)から変更後の上限電圧値EH(0.90V)まで一気に上昇してしまうことを防止している。
以上のように燃料電池システム10aでは、電圧センサ71により検出された発電電圧Eと上限電圧値EHとを直接比較し、上限電圧値EHと発電電圧Eとの差(ΔV)が10mVよりも小さいという条件を上昇許可条件としている。しかし、上昇許可条件は、このように発電電圧Eと上限電圧値EHとを直接比較して判断するような条件に限られるものではない。
上昇許可条件の他の例について説明する。図4で、時刻t4以前における発電電圧Eの時間変化をみれば明らかなように、上限電圧値EH及び下限電圧値ELの上昇を許可すべきでない期間(発電電圧Eが、上限電圧値EHである0.85Vの近傍に無い期間)においては、発電電圧Eの時間変化率の絶対値は大きくなっている。このため、上昇許可条件として、電圧センサ71により検出された発電電圧Eの時間変化率をコントローラ60において定期的に算出しながら、当該時間変化率の絶対値が所定値以下であるかどうかを判断することとしてもよい。
更に、上昇許可条件の他の例について説明する。図2等に示したように、間欠運転モードにおいて、燃料電池スタック20に対する酸化剤ガス供給が再開された時点以降(例えば時刻t1から時刻t2までの期間)における発電電圧Eの時間変化は、毎回同様の時間変化であるため、ある程度予測が可能なものである。従って、電圧センサ71により検出された発電電圧Eを直接参照せず、酸化剤ガス供給を再開してから経過した時間に対して上昇許可条件を設定することができる。
すなわち、間欠運転モードで、燃料電池スタック20に対して酸化剤ガスの供給を再開した時点以降において、発電電圧Eが上限電圧値EHの近傍であると推定されるような期間を上昇許可期間として設定し、当該上昇許可期間内においてのみ、上昇許可条件が成立したものとして、上限電圧値EH及び下限電圧値ELの上昇を許可することとしてもよい。上昇許可期間の一例としては、燃料電池スタック20に対して酸化剤ガスの供給を再開した時点から予め設定された所定時間が経過した時点(例えば図6の時刻ts)を始期とし、時刻tsから更に別の所定時間が経過した時点(例えば図6の時刻te)を終期とするような期間が挙げられる。
上昇許可期間の始期及び終期は、上記のように酸化剤ガスの供給を再開した時点(図6の時刻t1)を基準とした固定時間として予め設定しておいてもよいが、当該時点以前における発電電圧Eの時間変化(例えば、図6の時刻t6から時刻t7までの期間における時間変化)に基づいて、酸化剤ガスの供給を再開する毎に毎回コントローラ60が設定することとしてもよい。
上昇可能期間を上記のように設定するためには、コントローラ60が、酸化剤ガスの供給を再開した時点から発電電圧Eの変動幅が許容変動幅に収まるまで(例えば、1秒間の変動が5mV以内となるまで)に要した第一時間taと、酸化剤ガスの供給を停止した時点から上限電圧値EHと発電電圧Eとの差(ΔV)が設定値(例えば0.01V)を超えるまでに要した第二時間tbとを、酸化剤ガスの供給及び停止を行う毎にメモリーに記憶する構成とすればよい。
上記のような構成とすれば、例えば図6の時刻t6からt7までの期間においてメモリーに記憶された第一時間taと第二時間tbとに基づいて、時刻t7以降における上昇可能期間を設定することができる。すなわち、酸化剤ガスの供給を再開した時刻t7から第一時間taが経過した時点を上昇可能期間の始期とし、その後、式として設定された時点以降において最初に酸化剤ガスの供給を再開した時刻から第二時間tbが経過した時点を、上昇可能期間の終期とすることができる。
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。