以下、図面を参照しながら、本発明に係る半導体ウェハ加工用フィルム及びこのフィルムを用いた半導体チップの製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
図1は本発明の半導体ウェハ加工用フィルム10を示す断面図であり、図2は図1の半導体ウェハ加工用フィルム10の斜視図である。図1に示すように、本発明の半導体ウェハ加工用フィルム10は、基材1上に分離層2と接着剤層3がこの順で積層されている。また、図2に示すように接着剤層3は、貼付すべき半導体ウェハ4を覆う形状に個別化されて分離層2上に複数存在する。
半導体ウェハを覆う形状とは、例えば、図3に示すように、半導体ウェハ4の上から半導体ウェハ加工用フィルム10を覆った場合に、半導体ウェハ4が全て隠れるような形状をいう。上記形状は、円形状又は四角形状である場合が特に好ましい。半導体ウェハ4の形状と類似する円形状の接着剤層3を半導体ウェハ4に貼付することで、接着剤層3のロスを確実に抑えられる。但し、円形状の接着剤層3を形成する方法として挙げられるスクリーン印刷では接着剤層3の厚みが厚くなった場合に接着剤層3の厚みの均一性が難しい。そのため、厚みの均一性を図れる点を考慮すると、上記形状は四角形状が好ましく、四角形状の中でもダイコーターで作製可能な長方形、正方形が特に好ましい。
また上記形状は、半導体ウェハ4に接着剤層3を積層した場合に半導体ウェハ4に対する接着剤層3の最大はみ出し部の長さが50mm以下となる形状であることが好ましい。図3は、最大はみ出し部を示す図であり、図3に示すように、上記はみ出し部とは、例えば半導体ウェハ4に接着剤層3を積層した場合の平面視における半導体ウェハ4の外縁の任意の点Aと、点Aから接着剤層3の外縁に向けて点A上の接線と垂直な垂線をおろした場合における接着剤層3の外縁との交点Bとの距離dをいう。また最大はみ出し部とは、ある半導体ウェハ4と接着剤層3の組み合わせにおいて、距離dが最大となる長さをいう。形状が上記条件である場合、接着剤層3を切り落とす部分を少なくでき、接着剤層3のロスを確実に低減することができる。但し、接着剤層3と半導体ウェハ4のサイズがほぼ同等サイズの場合は、貼付時の位置ずれにより、接着剤層3が未貼合である部分が発生する可能性があり、貼付作業の効率が低下する。このため上記はみ出し部の最大値は、10〜50mmがより好ましい。
接着剤層3の間隔(図1及び2におけるf)は、1〜300mmであることが好ましい。分離層2上に接着剤層3が密に存在することで、基材1と分離層2のロスを抑えられる。但し、接着剤層3の間隔が狭すぎると、接着剤層3の間の境界が認識しにくくなり、逆に接着剤層3の間隔が100mm以上であると、基材1のロスが比較的多くなる。このため、接着剤層3の間隔は、50〜100mmである場合が特に好ましい。接着剤層3の間隔は全て等間隔であることが好ましいが、上記範囲内である限り間隔がそれぞれ異なっていてもよい。
接着剤層3は、基材1上に形成された分離層2に接着剤層3用のワニスを塗工し、乾燥することによって形成することが可能である。これ以外に塗工面を離形処理したPET基材等の塗工用フィルム基材に接着剤層3用のワニスを塗工し乾燥したのち、ラミネートによって分離層2と貼合わせた後、塗工用フィルム基材を剥離させて形成させることもできる。
接着剤層3の塗工方法としては、ダイコーター、マイクログラビア、ナイフコーター、スクリーン印刷等の方法が挙げられる。なお、半導体ウェハ4の研削(バックグラインド工程)において半導体ウェハ4の平坦性を保持させる必要があるため、塗工後の接着剤層3の厚みが均一であることが好ましい。本発明の半導体ウェハ加工用フィルム10は接着剤層3のロスを低減するため、上述したように分離層2上に接着剤層3が複数存在する。この場合の塗工方法としては、ダイコーターを用いて、ワニスの吐出圧力を制御しながら塗工することが更に好ましい。
接着剤層3は、E型粘度計による27℃における粘度が10Pa・s以上(好ましくは、10000Pa・s以下、さらには1000Pa・s以下)のワニスから得られることが好ましい。上記粘度のワニスを用いて塗工した場合、本発明のフィルムの分離層2などに施す離型処理時のワニスのはじきや、塗工時の樹脂ダレ、形状くずれなどを防ぐことができる。
接着剤層3の厚みは、接着剤層3が半導体チップと回路基板との間を十分に充填できる厚みであることが好ましい。通常、接着剤層の厚みが、突起電極の高さと回路基板の配線の高さとの和に相当する厚みであれば、半導体チップと回路基板との間を十分に充填できる。また、半導体チップの突起電極が埋め込まれた状態では、突起電極の高さよりも厚みが大きい場合、上記条件を満たす。
接着剤層3としては、少なくとも熱硬化性樹脂と、高分子量成分と、架橋反応を開始させるための化合物からなる樹脂組成物と、樹脂組成物と屈折率差が±0.06の範囲のフィラーとを含んだワニスから成るものを使用できる。熱硬化性樹脂は、熱により三次元的に架橋することによって硬化する。高分子量成分は室温では固体であり、分離層2のフィルム形成性を向上させると共に、加熱によって軟化する。架橋反応を開始させるための開始剤は固体もしくは液状であり、架橋反応を起こすための加熱時に熱硬化性樹脂と反応または熱硬化性樹脂の反応を促進する一方、室温から、貼付温度までの作業温度では反応しない、もしくは反応速度が遅く、フリップチップ接続時の接着性が十分に発現される程度まで反応性を保持した状態を維持させることができる。フィラーは樹脂組成物の未硬化時の凝集力を高くすると共に、硬化後の線膨張係数を低減させる。
接着剤層3及び後述する分離層2に使用される熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、トリアジン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、シアノアクリレート樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、フラン樹脂、レゾルシノール樹脂、キシレン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、シロキサン変性エポキシ樹脂、シロキサン変性ポリアミドイミド樹脂、アクリレート樹脂等が挙げられる。これらは単独又は二種以上の混合物として使用することができる。分離層2と接着剤層3に使用される熱硬化性樹脂は同種であっても、別種であっても構わないが、好ましくは反応機構、保存性、反応温度が同種の熱硬化性樹脂であることが好ましい。
高分子量成分としては、室温で固体状態となり、加熱によって軟化するポリマーであって、重量平均分子量で1万以上のポリマーであることが好ましい。このような高分子量成分として、例えば、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリブタジエン、アクリロニトリルブタジエン共重合体(NBR)、アクリロニトリルブタジエンゴムスチレン樹脂(ABS)、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、アクリル酸共重合体等が挙げられる。これらは単独又は二種以上を併用して使用することができる。また、これらの高分子量成分には熱硬化性樹脂との反応する官能基を側鎖もしくは末端に有することもできる。このような官能基としては、エポキシ基、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基、カルボキシル基、アミン等が挙げられる。これらの官能基は反応時に解裂する保護基や立体障害で反応性を抑制したキャッピングが施されていても良い。
架橋反応を開始させるための化合物としては、熱硬化性樹脂の高反応性と保存安定性を両立させるための潜在性を有する化合物であることが好ましい。潜在性は、例えばマイクロカプセルによる保護、分解温度と保存温度の差を広げること、融点を有し保存時は固体で官能時に融解することにより反応性を発現するものであって保存温度と融解温度の差を広げること、反応温度で解裂する保護基を導入し保存時は安定とする、等の方法によって発現することができる。マイクロカプセル型硬化剤は例えば、硬化剤を核としてポリウレタン、ポリスチレン、ゼラチン及びポリイソシアネート等の高分子物質や、ケイ酸カルシウム、ゼオライトなどの無機物、及びニッケルや銅などの金属薄膜などの被膜により実質的に覆われており、平均粒径が10μm以下、好ましくは5μm以下のものである。前述の架橋反応を開始させるための化合物は熱硬化性樹脂の反応機構に最適な化合物を選択することができる。例えば、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合、重合促進にイミダゾールやアミン系の化合物を選択することができる。付加反応で架橋が進行する場合にはトリフェニルフォスフィンやDBU等の重合触媒を使用することができる。この他にも、接着剤樹脂組成物は三次元架橋性樹脂と反応する成分としてフェノール系、イミダゾール系、ヒドラジド系、チオール系、ベンゾオキサジン、三フッ化ホウ素−アミン錯体、スルホニウム塩、アミンイミド、ポリアミンの塩、ジシアンジアミド、有機過酸化物系の化合物を含んでも良い。また、これらの硬化剤の可使時間を長くするためポリウレタン系、ポリエステル系の高分子物質等で被覆してマイクロカプセル化してもよい。
フィラーとしては、結晶性を有するものであっても、非結晶性を有するものであってもよい。後述するように接着剤層3にフィラーを添加することによって凝集力を向上させられるため、分離層2との凝集力差を容易に設けられる。また、フィラーによって接着剤層3を硬化した後の線膨張係数を小さくすることができる。線膨張係数が小さいと、熱変形が抑制される。よって、半導体ウェハ4から製造された半導体チップが回路基板に搭載された後も、半導体チップの突起電極と回路基板の配線との電気的接続の信頼性を向上させることができる。
フィラーの屈折率は、樹脂組成物の屈折率との差が±0.1以内であることが好ましく、±0.06以内であることが更に好ましい。屈折率差が大きい場合、フィラーの配合によって接着剤層3の透過率が低下し、半導体ウェハ4に貼付した際の認識作業が行えなくなる。なお、樹脂組成物の屈折率はアッベ屈折計を用い、ナトリウムD線(589nm)を光源として測定することができる。フィラーの屈折率は光学顕微鏡と屈折率既知の屈折率試薬を使用し、ベッケ法で測定することができる。
フィラーとしては、化学組成が単一の化合物として表されるものであっても、複数の組成からなる化合物として表されるフィラーであっても良い。単一の化合物として表されるフィラーの例としては、シリカ、アルミナ、チタニア、マグネシア等の酸化物フィラー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物フィラー、硫酸バリウム、硫酸ナトリウム等の硫酸化物フィラー等が挙げられる。複数の組成からなる化合物として表されるフィラーの例として、亜鉛、アルミニウム、アンチモン、イッテルビウム、イットリウム、インジウム、エルビウム、オスミウム、カドミウム、カルシウム、カリウム、銀、クロム、コバルト、サマリウム、ジスプロシウム、ジルコニウム、錫、セリウム、タングステン、ストロンチウム、タンタル、チタン、鉄、銅、ナトリウム、ニオブ、ニッケル、バナジウム、ハフニウム、パラジウム、バリウム、ビスマス、プラセオジム、ベリリウム、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ユウロピウム、ランタン、リン、ルテチウム、ルテニウム、ロジウム、ボロン等金属元素を含む酸化物が挙げられる。これらは混合して複合酸化物として用いることもできる。
フィラーの平均粒径は、15μm以下かつ最大粒径が40μm以下のものが好ましく、より好ましくは平均粒径5μm以下、さらに好ましくは平均粒径3μm以下であり、平均粒径3μm以下かつ最大粒径20μm以下が最も好ましい。平均粒径が15μmより大きい場合は半導体チップの突起電極と回路基板の電極間に複合酸化物粒子がかみこみ、特に低圧で実装する場合や突起電極の材質がニッケル等の硬質である場合には埋め込まれなくなるため、電気的接続の妨げとなって好ましくない。また、最大粒径が40μm以上の場合は半導体チップと回路基板の間の距離よりも大きくなる可能性が発生し、実装時の加圧で半導体チップの回路又は基板の回路を傷つける原因となるため、好ましくない。
また、フィラーの比重は、5以下のものが好ましく、比重2〜5のものがより好ましく、比重2〜3.5のものがさらに好ましい。比重が2以下の複合酸化物粒子に関しては特に好ましくない理由はないが、比重が5より大きい場合は接着樹脂組成物のワニスに添加した場合、比重差がおおきことによってワニス中での沈降が発生する原因となり、複合酸化物粒子が均一に分散した樹脂組成物が得られなくなるため、好ましくない。
上記複合酸化物は、2種類以上の金属を原料として含み、原料金属が単独で酸化物となったときの構造とは異なる構造を有する化合物であることが好ましい。特に好ましくはアルミニウム、マグネシウムまたはチタンから選ばれる少なくとも1種類の金属元素と、他の元素の2種類以上を原料に含む酸化物の化合物からなる複合酸化物粒子である。このような複合酸化物としてはホウ酸アルミニウム、コージェライト、フォルスライト、ムライト、などが挙げられる。
複合酸化物粒子の線膨張係数は、0℃から700℃以下の温度範囲で7×10−6/℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは3×10−6/℃以下である。熱膨張係数が大きい場合は樹脂組成物の熱膨張係数を下げるために複合酸化物粒子を多量に添加する必要があるため、好ましくない。
接着剤層3の室温状態における弾性率は、1GPa以上が好ましい。半導体ウェハ4の研削時において、接着剤層3が半導体ウェハ4を保持できるように、高弾性化しなければならない。室温状態の弾性率が1GPaよりも小さい場合、伸びや変形の発生によって半導体ウェハ4の平坦性を保持することが困難になる。また、半導体ウェハ4の切断時においても、ブレードによる切断またはステルスダイシング後に半導体ウェハ4の表面から剥がれることなく、密着していなければならない。更に、半導体ウェハ加工用フィルム10の伸び発生によるバリの抑制や、分断時に半導体ウェハ4に追従して分断されなければならない。この観点からも、室温状態の弾性率は1GPa以上が好ましい。ここで、接着剤層3に上述したフィラーが含まれていると、接着剤層3の高弾性化、バリの抑制、分断性の向上が図れる点で、望ましい。
また、接着剤層3の濁度測定による透過率は10%以上であることが好ましい。半導体ウェハ4の切断時に半導体ウェハ4のスクライブラインの認識、もしくはフリップチップ実装工程で半導体チップ回路面に形成された位置あわせパターンが接着剤層3を透過して観察できなければならいためである。
透過率の測定方法の一例として、日本電色株式会社製濁度計NDH2000を用いた、積分球式光電光度法が挙げられる。例えば、膜厚50μmの帝人デュポン製PETフィルム(ピューレックス、全光線透過率90.45、ヘイズ4.47)を基準物質として校正した後、PET基材に25μm厚で回路接続用接着剤を塗工し、これを測定する。また、他の基材に回路接続用接着剤を塗工した場合には、これをPET基材に転写して同様に測定する。測定結果からは濁度、全光線透過率、拡散透過率及び並行透過率を求めることができる。
可視光並行透過率は日立製U−3310形分光光度計で測定することもできる。例えば、膜厚50μmの帝人デュポン製PETフィルム(ピューレックス、555nm透過率86.03%)を基準物質としてベースライン補正測定を行った後、PET基材に25μm厚で回路接続用接着剤を塗工もしくは他の基材から転写し、400nm〜800nmの可視光領域の透過率を測定することが出来る。フリップチップボンダーで使用されるハロゲン光源とライトガイドの波長相対強度において550nm〜600nmが最も強いことから、本発明においては555nmの透過率をもって可視光並行透過率の比較を行うことができる。
接着剤層3は、さらに導電粒子を分散させることが好ましい。この場合、突起電極の高さのバラツキによる悪影響を低減することができる。また、回路基板がガラス基板等のように圧縮に対して変形し難い場合においても接続を維持することができる。さらに、接着剤層3を異方導電性の接着剤層とすることができる。
基材1として選択し得るポリマーの例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、アイオノマーなどのα−オレフィンの単独重合体または共重合体あるいはこれらの混合物、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のエンジニアリングプラスチック、ポリウレタン、スチレン−エチレン−ブテン若しくはペンテン系共重合体、ポリアミド−ポリオール共重合体等の熱可塑性エラストマー、およびこれらの混合物を列挙することができる。
次に分離層2について説明する。分離層2は、基材1と接着剤層3の間に設けられることにより、半導体ウェハ4に半導体ウェハ加工用フィルム10を貼付後、基材1を剥離する際に、分離層2と基材1の界面はく離、分離層2の凝集破壊、及び分離層2と接着剤層3の界面はく離のいずれか単独もしくはこれらが混合した状態を生じさせる。この結果、接着剤層3が半導体ウェハ4から剥がれることなく基材1を剥離することができる。
分離層2は、少なくとも熱硬化性樹脂と、高分子量成分と、架橋反応を開始させるための化合物からなる樹脂組成物を含む。熱硬化性樹脂は、熱により三次元的に架橋することによって硬化する。高分子量成分は室温では固体であり、分離層のフィルム形成性を向上させると共に、加熱によって軟化する。架橋反応を開始させるための開始剤は固体もしくは液状であり、架橋反応を起こすための加熱時に熱硬化性樹脂と反応または熱硬化性樹脂の反応を促進する一方、室温から、貼付温度までの作業温度では反応しない、もしくは反応速度が遅く、フリップチップ接続時の接着性が十分に発現される程度まで反応性を保持
した状態を維持させることができる。
分離層2の厚みは、1μm以上5μm以下であることが好ましい。半導体ウェハ4の回路面に接着剤層3を貼付し、上述したように、分離層2の破壊を伴って基材1が剥離された後、接着剤層3を透過して半導体ウェハ4の回路面のスクライブラインまたはアライメントマークを認識させる必要がある。この時、分離層2が厚すぎると、破壊後の凹凸が乱反射の原因となって認識性が低下するため、好ましくない。一方、分離層2が薄すぎる場合の不具合は特に無いが、均一な塗工状態を確保するため、分離層の厚みは1μm以上3μm以下が更に好ましい。
分離層2は、例えば、基材1に分離層2用樹脂組成物を塗工し、乾燥することで形成できる。このほか、塗工面を離形処理したPET基材等の塗工用フィルム基材に分離層2用樹脂組成物を塗工し乾燥したのち、ラミネートによって基材1に転写して形成させることも可能である。また接着剤層3の塗工面を離形処理したPET基材等の塗工用フィルム基材に分離層2用樹脂組成物を塗工し乾燥したのち、分離層2側を基材1に接するようにラミネートし、離形処理したPETを剥離することによって形成することもできる。
分離層2及び接着剤層3は、カップリング剤等の添加剤を含んでもよい。これにより、フリップチップ実装時において半導体チップと回路基板との接着性を向上させることができる。
接着剤層3の凝集力は、分離層2の凝集力より大きい(分離層<接着剤層)ことが好ましい。この場合、半導体ウェハ加工用フィルム10を半導体ウェハ4に貼付後、基材1のみを剥離する際に、接着剤層3のうち分離層2側の一部又は厚み方向全体が抜き取られることがない。このため、この半導体ウェハ加工用フィルム10を用いて半導体チップを製造した場合、得られた半導体チップは接着剤が十分に充てんされ、この半導体チップを回路基板にフリップチップ実装する際に、半導体チップと回路基板との接続信頼性を確保できる。
分離層2と接着剤層3の凝集力差は、例えば配合成分の量、種類を変更することによって分離層<接着剤層とすることができる。例えば、高分子量成分の分子量を分離層<接着剤層とすること、樹脂組成物中に含ませる液状成分の量を分離層>接着剤層とすること、接着剤層3にフィラーを含有させることによって達成することができる。
分離層2と接着剤層3に凝集力の差を設けるための設計時の測定手法として、分離層2および接着剤層3の凝集力比較は、分離層2を形成させるための樹脂組成物と、接着剤層3を形成させるための組成物それぞれを離形処理が施された塗工用フィルム基材に塗工後乾燥し、それぞれ単独の層で形成したフィルム作製後、引っ張り試験機で引っ張り測定を行うことができる。また、分離層を形成させるための樹脂組成物と、接着剤層を形成させるための組成物それぞれを離形処理が施された塗工用フィルム基材に塗工後乾燥し、作製したフィルムを粘弾性測定装置を用い、引っ張りモードで周波数を加えて室温の弾性率を測定することによっても比較することができる。周波数は相対評価のため、比較対象間で同一であれば良く、任意の周波数を選択することができる。
上記以外の凝集力の測定方法として、前記作製したフィルムをずり粘弾性測定装置を用い、ずりモードで周波数を加えて室温の弾性率を測定することによっても比較できる。周波数は相対評価のため、比較対象間で同一であれば良く、任意の周波数を選択することができる。また、基材1上に分離層2、接着剤層3の順に積層体とした後、接着剤層3を半導体ウェハ4に貼付け、基材フィルムを引き剥がすこと、または接着剤層を両面テープで適当な基材表面に固定した後、基材フィルムを引き剥がす。引き剥がした後、基材フィルム上に残った樹脂の厚みをマイクロメータ等の厚みを計測する装置で計測し、基材フィルムに塗工した際の分離層の厚みと同等もしくはこれ以下であれば凝集力の関係が分離層<接着剤層であり、基材フィルム上に残った樹脂の厚みが当初の分離層の厚みよりも厚くなった場合は凝集力の関係が分離層=接着剤層、または分離層>接着剤層であると判定することができる。
次に、半導体ウェハ加工用フィルム10を用いた半導体チップの製造方法を説明する。具体的な手順としては、突起電極が形成された半導体ウェハ4の電極面に半導体ウェハ加工用フィルム10を貼付し、半導体ウェハ4を半導体ウェハ加工用フィルムが貼付した状態で切断することにより、接着剤層3が付着した半導体チップを得ることができる。さらに本実施形態では、この製造方法で得られた半導体チップをそのまま回路基板にフリップチップ実装することができる。
半導体ウェハ加工用フィルム10を貼付すべき半導体ウェハ4は、切断することによって半導体チップが得られるものである。半導体ウェハ4は突起電極を有しており、この突起電極は、金ワイヤを用いて形成される金スタッドバンプ、金属ボールを半導体チップの電極に熱圧着や超音波併用熱圧着機によって固定したもの、及びめっきや蒸着によって形成されたものでもよい。突起電極は単一の金属で構成されている必要はなく、金、銀、銅、ニッケル、インジウム、パラジウム、スズ、ビスマス等複数の金属成分を含んでいてもよいし、これらの金属層が積層された形をしていてもよい。
本発明の製造方法により得られた半導体チップを実装する回路基板には、配線パターンが形成されているものを利用することができる。配線パターンは、エポキシ樹脂やベンゾトリアジン骨格を有する樹脂をガラスクロスや不織布に含浸して形成した基板、ビルドアップ層を有する基板、ポリイミド、ガラス、セラミックスなどの絶縁基板表面に形成された銅などの金属層の不要な部分をエッチング除去して形成することもでき、絶縁基板表面にめっきによって形成することもでき、また蒸着などによって形成することもできる。また、配線パターンは単一の金属で形成されている必要はなく、金、銀、銅、ニッケル、インジウム、パラジウム、スズ、ビスマス等複数の金属成分を含んでいてもよいし、これらの金属層が積層された形をしていてもよい。
半導体ウェハ加工用フィルム10は、その接着剤層3が半導体ウェハ4の突起電極が形成された回路面へ押圧されることで半導体ウェハ4に貼付される。半導体ウェハ加工用フィルム10を半導体ウェハ4に貼付する際には、半導体ウェハ4の回路面の凹凸に追従し、エアボイドの咬み込み無く接着剤層3と半導体ウェハ4の界面を密着させなければならない。このため、接着剤層3及び分離層2の硬化反応が始まらない程度に加熱して接着剤層3の粘度を低下させる必要がある。
上記加熱温度としては、接着剤層3の熱硬化性樹脂の反応が開始しない温度よりも低いことが望ましく、常温よりも高いことが望ましい。また、接着剤層3の熱収縮によって半導体ウェハ4の反りを発生させることを防止する観点から、低温での貼付することが望ましい。望ましい貼付温度として30〜90℃であって、更に望ましくは40〜80℃であり、より望ましくは50〜70℃である。
接着剤層3は、上記貼付温度において粘度が低下する。このときの粘度としては10000Pa・s以下1000Pa・s以上であることが望ましい。上記粘度が10000Pa・s以上であると半導体ウェハ4の凹凸に追従して界面を密着させるために加圧等を行わなければならず、汎用性に乏しいため、好ましくない。一方、上記粘度が1000Pa・s以下である場合、貼付する時に半導体ウェハ4の側面から接着剤層3がはみ出し、接着剤量をより慎重に制御しなければならなくなる。
ここで、接着剤層3及び分離層2の硬化反応が始まらない程度の温度として、例えば80℃程度で上記貼付工程が行われた場合、長くても10分間、その温度が維持される。このため、上記のように80℃で10分加熱後の分離層2及び接着剤層3の反応率は、示差走査熱分析(DSC)での測定において10%以下であることが好ましい。さらに、5%以下が好ましく、反応率3%以下がより好ましい。上記貼付工程において、80℃で10分間加熱しても分離層2及び接着剤層3の反応が進行しない場合、貼付後も未硬化状態を維持し、半導体ウェハ4の切断後の半導体チップを回路基板に実装時に高接続信頼性を維持できる。一方、80℃で10分間加熱後に上記反応率が10%を超える場合には分離層2及び接着剤層3の三次元架橋が進行してしまい、フリップチップ接続での信頼性が低下しやすくなる。
加熱硬化前の50℃〜90℃における分離層2及び接着剤層3の粘度としては、100000Pa・s以下であることが望ましい。この粘度は、1000Pa・s〜100000Pa・sであることがより好ましく、3000Pa・s〜50000Pa・sであることがより好ましい。粘度が100000Pa・s以上であると半導体ウェハ4への貼付が不十分となり、後続する半導体ウェハ4の研削工程で、均等に研削できなくなるため好ましくない。一方、上記粘度が1000Pa・s未満の場合、半導体ウェハ4への貼付時に分離層2及び接着剤層3内の樹脂が流れきってしまい、目的の厚みを保持するのが困難になることがある。
なお、加熱硬化前の分離層2及び接着剤層3の粘度は、市販の動的粘弾性測定装置を用いて測定することが可能であり、測定は全自動で行なわれる。所定の温度に加熱した恒温槽内で、試料を2枚の平行プレートにはさみ、片方のプレートに微小な正弦波状のひねり歪みを付加した時、他方のプレートに発生する応力と歪から弾性率および粘度を算出する。一般に測定周波数は0.5〜10Hzであり、高分子材料は粘弾性体として挙動するため、弾性成分に由来する貯蔵弾性率G’と粘性成分に由来する損失弾性率G”が得られる。この二つの値から複素弾性率G*が式(1)で与えられる。さらに粘度をη(Pa・s)、測定周波数をf(Hz)、複素弾性率G*(Pa)とすると、粘度は式(2)で与えられる。
複数弾性率G*={(G’)2+(G”)2}1/2 (1)
粘度η=G*/2πf (2)
半導体ウェハ4の突起電極側に半導体ウェハ加工用フィルム10を貼付けた後、市販のバックグラインディング装置を用いて半導体ウェハ4を研削する(バックグラインド工程)。接着剤層3は、常温において固体であり、バックグラインド工程において半導体ウェハ4の平坦性を保持させる機能を担う。半導体ウェハ4を研削した後は、半導体ウェハ4に貼付している半導体ウェハ加工用フィルム10の基材1を剥離する。
基材1を剥離した後、半導体ウェハ4を市販のダイシング装置を用いて切断し、チップ化する。これは、ブレードによる切断であっても良く、レーザー加工での分割でも構わない。ダイシング時に用いるダイシングテープとして、市販のダイシングテープを含む基材フィルムの表面に粘着層を有するダイシングテープを適用する。ダイシング後には、半導体ウェハ4が個片化された接着剤付着の半導体チップが得られる。これを回路基板上に実装する。
得られた半導体チップを回路基板に実装するに当たって、半導体チップと回路基板の位置あわせを行う。具体的には、半導体チップの回路面に貼付した半導体ウェハ加工用フィルム10の接着剤層3を透過して半導体チップの回路面に形成された位置合わせマークを識別できる事が好ましい。位置合わせマークは通常のフリップチップボンダーに搭載されたチップ認識用の装置で識別することができる。この認識装置は通常ハロゲンランプを有するハロゲン光源、ライトガイド、照射装置、CCDカメラから構成される。CCDカメラで取り込んだ画像は画像処理装置によってあらかじめ登録された位置合わせようの画像パターンとの整合性が判断され、位置合わせ作業が行われる。
半導体チップと回路基板が接続される際には、本発明の半導体ウェハ加工用フィルム10の接着剤層3と分離層2の一部が接着剤として用いられ、加熱加圧されることで硬化する。このときの硬化反応率が低い場合には加熱後の接続が保持されなくなるため、好ましくない。硬化反応率は80%以上となることが望ましい。また、硬化反応率が90%以上になるように加熱処理することがより好ましい。なお、180℃で20秒間加熱した際、硬化反応率が80%以上になるような接着剤を用いれば、通常の加熱加圧による接続条件の範囲で接続後の電気的接続が保持できる硬化状態を得ることができるため、180℃で20秒間加熱時の反応率を持って材料の反応性良否を判定できる。
本実施形態中の熱硬化性樹脂の反応率はDSCによる測定方法を用いることができる。DSCは測定温度範囲内で、発熱、吸熱のない標準試料との温度差を打ち消すように熱量を供給または除去するゼロ位法を測定原理とするものであり、測定装置が市販されており、全自動で測定を行なうことができる。エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂の硬化反応は発熱反応であり、一定の昇温速度で試料を加熱していくと、試料が反応し反応熱が発生する。その発熱量をチャートに出力し、ベースラインを基準として発熱曲線とベースラインで囲まれた領域の面積を発熱量とする。測定は室温から硬化反応が完了する温度を充分カバーする範囲で行なう。例えば、エポキシ樹脂の場合、室温から250℃まで5〜20℃/分の昇温速度で測定し、上記した発熱量を求める。熱硬化性樹脂の反応率は次のようにして求める。まず、未硬化試料の全発熱量を測定し、これをA(J/g)とする。次に、測定試料の発熱量を測定し、これをBとする。測定試料の硬化度C(%)は次の式(3)で与えられる。
C(%)=((A−B)/A)×100 (3)
また、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合には、可視レーザー励起のラマン分光計や近赤外レーザー励起のラマン分光計等で測定したエポキシ基のラマンスペクトルのピーク強度や面積強度を用いて反応硬化率を評価することもできる(例えば、特開2000−178522公報参照)。
本発明における半導体チップの製造方法は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、半導体ウェハ加工用フィルム10を半導体ウェハ4に貼付後、半導体ウェハ4を切断する前に、半導体ウェハ加工用フィルム10の基材1を剥離しているが、基材1が貼付した状態の半導体ウェハ4を、基材1が貼付した面と反対側から切断して半導体チップ化し、得られた半導体チップに接着剤が付着したままピックアップされることで基材1から接着剤層3を剥離してもよい。また同様に、基材1が貼付した状態の半導体ウェハ4を、基材1が接着している側から切断して半導体チップを得た後、基材1を剥離してもよい。
以下、実施例により本発明を詳しく説明する。
(実施例1)
三次元架橋性樹脂としてエポキシ樹脂NC7000(日本化薬株式会社製、商品名)15重量部、三次元架橋性樹脂と反応する硬化剤としてフェノールアラルキル樹脂XLC−LL(三井化学株式会社製、商品名)15重量部、分子量100万以下、Tg40℃以下、かつ三次元架橋製樹脂と反応可能な官能基を側鎖に少なくとも1カ所含む共重合性樹脂としてエポキシ基含有アクリルゴムHTR−860P−3(ナガセケムテックス株式会社製、商品名、重量平均分子量30万)20重量部、マイクロカプセル型硬化剤としてHX−3941HP(旭化成株式会社製、商品名)50重量部及びシランカップリング剤SH6040(東レ・ダウコーニングシリコーン製、商品名)を用い、トルエンと酢酸エチルの混合溶媒中に溶解した。一方、粉砕し、大粒径を除去するための5μmの分級処理を行った平均粒径1μmのコージェライト粒子(2MgO・2Al2O3・5SiO2、比重2.4、線膨張係数1.5×10−6/℃、屈折率1.57)100重量部を混ぜ、撹拌して分散することで、接着剤層形成用のワニスを得た。このときのワニスの粘度は約25Pa・sであった。
この接着剤層形成用ワニスを幅350mmの表面に離型処理が施された基材(PETフィルム)上に320mm×320mmの正方形に、且つ間のピッチが100mmとなるようにダイコーターを用いて間欠状に塗工を行った。その後、熱風循環式乾燥機で乾燥させて、基材上に厚み50μm、320mm×320mmの正方形パターンの接着剤層を有する半導体ウェハ加工用フィルムを得た。また、接着剤層にはじき、樹脂のダレ、形状くずれがないことを確認した。
作製した半導体ウェハ加工用フィルムを多数の半導体素子を有する半導体ウェハ(直径12インチ、約30cm)上に載せて、温度80℃、圧力0.2MPaのラミネーターを用いて貼合した。貼合後、半導体ウェハサイズに合わせて半導体ウェハ加工用フィルムを切り落とし、接着剤層付き半導体ウェハを得た。この際、接着剤層のロスは約30%であった。
(比較例1)
実施例1記載の接着剤層の組成で樹脂組成物とフィラーからなるワニスを作製した。作製したワニスを幅350mmの表面に離型処理が施された基材(PETフィルム)上にコンマコーターを用いて幅320mmで塗工した。その後、熱風循環式乾燥機で乾燥させて、基材上に厚み50μm、幅320mm、長さ30mのロール状の半導体ウェハ加工用フィルムを得た。また、接着剤層にはじき、樹脂のダレ、形状くずれがないことを確認した。
作製した半導体ウェハ加工用フィルムを多数の半導体素子を有する半導体ウェハ(直径12インチ、約30cm)に載せて、温度80℃、圧力0.2MPaのラミネーターを用いて貼合した。貼合後、半導体ウェハのサイズに合わせて半導体ウェハ加工用フィルムを切り落とし、接着剤層付き半導体ウェハを得た。この際、接着剤層のロスは約45%であった。