以下に説明する好ましい実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、当業者は、本発明が、以下に説明される実施形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。
図1は、本発明に従う電動パワーステアリング装置の概略構成例を示す。図1の例において、電動パワーステアリング装置10は、車両の操舵系20(ステアリング系とも言う。)の操舵トルクTを検出するトルク検出部41と、操舵系20にアシストトルク(補助トルクとも言う。)を付与する電動モータ43と、操舵トルクTを参照して、電動モータ43のモータ電流を制御するモータ制御部42と、を備えている。モータ制御部42は、操舵トルクTを参照するとともに、車速検出部107で検出される車速を参照することができるが、モータ制御部42は、車速検出部107からの車速を参照しなくてもよい。なお、電動パワーステアリング装置10は、車速検出部107を備える代わりに車速検出部107からの車速を利用しているが、電動パワーステアリング装置10は、車速検出部107を備えてもよい。
電動パワーステアリング装置10又はモータ制御部42は、例えば、操舵トルクTが第1の所定トルク以上であるか否かを判断し、操舵トルクTが第1の所定トルク以上である場合、同一操舵トルクに対するモータ電流を大きくすることができる。モータ制御部42の具体的な動作については、後述するが、操舵トルクTが大きくなった時に、モータ電流を大きくして、大きくされたアシストトルクで運転者の操舵をアシストすることができる。このように、操舵トルクT又は運転者の負担に応じてアシストトルクが設定されるので、電動パワーステアリング装置10によれば、運転者に与える違和感を少なくすることができる。
図1の例において、電動パワーステアリング装置10は、車両のステアリングハンドル(例えばステアリングホイール)21から車両の転舵車輪(例えば前輪)29,29に至るステアリング系20にアシストトルクを与えるアシストトルク機構40(補助トルク機構とも言う。)を備えている。また、電動パワーステアリング装置10は、転舵機構として例えばラックアンドピニオン機構25を備えている。
図1の例において、操舵系20は、ステアリングハンドル21にステアリングシャフト22(ステアリングコラムとも言う。)及び自在軸継手23,23を介して回転軸24(ピニオン軸とも言う。)を連結し、回転軸24にラックアンドピニオン機構25を介してラック軸26を連結し、回転軸26(ラック軸とも言う。)の両端に左右のタイロッド27,27及びナックル28,28を介して左右の転舵車輪29,29を連結したものである。ラックアンドピニオン機構25は、ピニオン軸24に有したピニオン31と、ラック軸26に有したラック32とを備える。
ステアリング系20によれば、運転者がステアリングハンドル21を操舵することで、その操舵トルクによりラックアンドピニオン機構25を介して、転舵車輪29,29を転舵することができる。
図1の例において、補助トルク機構40は、ステアリングハンドル21を操舵することによってステアリング系20に発生する操舵トルクTを操舵トルクセンサ等のトルク検出部41で検出し、この検出信号(トルク信号とも言う。)に基づきモータ制御部42で制御信号を発生し、この制御信号に基づき操舵トルクTに応じたアシストトルクを電動モータ43で発生し、減速機構44(例えばウォームギヤ機構)を介してアシストトルクを回転軸24に伝達し、さらに、アシストトルクを回転軸24からステアリング系20のラックアンドピニオン機構25に伝達するようにした機構である。
好ましくは、補助トルク機構40は、車速センサ、電子制御ユニット(ECU)等の車速検出部107において検出され、車両が前進することによって車両に発生する車速Vを利用し、この車速信号とトルク信号との双方に基づきモータ制御部42で制御信号を発生することができる。これにより、アシストトルクは、操舵トルクT及び車速Vに応じた値を示すことになる。また、後述するように、さらに好ましくは、アシストトルクは、操舵トルクT及び車速Vとともに、例えば電動モータ43のロータの回転角(回転信号)等によって決定又は補正されている。
なお、アシストトルクがステアリング系20に与えられる箇所によって、電動パワーステアリング装置10は、ピニオンアシスト型、ラックアシスト型、コラムアシスト型等に分類することができる。図1の電動パワーステアリング装置10は、ピニオンアシスト型を示しているが、電動パワーステアリング装置10は、ラックアシスト型、コラムアシスト型等に適用してもよい。
電動パワーステアリング装置10によれば、ステアリング系20の操舵トルクに電動モータ43のアシストトルクを加えた複合トルクにより、ラック軸26で転舵車輪29,29を転舵することができる。
電動モータ43は、例えばブラシレスモータであり、ブラシレスモータは、レゾルバ等の回転センサを内蔵している。この回転センサは、ブラシレスモータにおけるロータの回転角(モータ回転信号とも言う。)を検出するものである。
モータ制御部42は、例えば、電源回路、モータ電流を検出する電流センサ、入力インターフェース回路、マイクロプロセッサ、出力インターフェース回路、FETブリッジ回路等によって構成される。入力インターフェース回路は、例えば、外部からトルク信号、車速信号、モータ回転信号等を取り込むことができる。マイクロプロセッサは、例えば、入力インターフェース回路によって取り込んだトルク信号、車速信号等に基づいて、電動モータ43をベクトル制御することができる。出力インターフェース回路は、例えば、マイクロプロセッサの出力信号をFETブリッジ回路への駆動信号に変換することができる。FETブリッジ回路は、例えば、電動モータ43(ブラシレスモータ)に駆動電流(3相交流電流)を通電するスイッチング素子によって構成される。
このようなモータ制御部42は、概して、トルク検出部41によって検出された操舵トルクT(トルク信号)と、車速検出部107によって検出された車速(車速信号)と、回転センサによって検出されたロータの回転角(回転信号)等に基づいて、目標電流値を設定する。モータ制御部42は、電流センサによって検出されたモータ電流が目標電流値に一致するように、電動モータ43を駆動することができる。モータ制御部42が電流センサを有しない場合、モータ制御部42は、目標電流値をモータ電流とみなして、目標電流値を制御してもよい。なお、モータ電流を検出する電流センサを電動モータ43側に取り付け、モータ制御部42は、電動モータ43からモータ電流を取り込んでもよい。また、ブラシレスモータにおけるロータの回転角等のモータ回転信号を検出するモータ回転角度検出部の一部又は全部は、電動モータ43の外部も設けられてもよい。
図2は、操舵トルクT及び車速Vとモータ電流との関係、即ち操舵トルクT及び車速Vの双方に基づいて目標電流値を決定できるベースマップの1例を示す。図2の例において、例えば6本の曲線が示され、6本の曲線の各々は、車速に対応している。車速が0[km/h]を示し、車両が停止している時には、同一操舵トルクに対して目標電流値又はモータ電流が最大となる一方、車速が最高車速[km/h]を示している時には、同一操舵トルクに対して目標電流値又はモータ電流が最小となる。車速が大きい時に目標電流値又はモータ電流を小さくすることによって、高速領域では、アシストトルクが小さくなり、急激な操舵を抑制することができる。なお、最高車速は、車両の重量、大きさ等の車両特性に依存し、車両の種類に応じて設定することができ、車両が実際に走行可能な最高車速でもよく、ベースマップで設定されている最高車速でもよい。
また、図2の例において、ベースマップは、例えば6本の曲線を含んでいるが、ベースマップに含まれる曲線の数は、2本でもよく、3本から5本でもよく、7本以上でもよい。さらに、ベースマップが含む曲線は、1本又は複数の例えば直線に変更してもよく、ベースマップは、車速毎に決められた特性を有していればよい。図2の例において、ベースマップは、操舵トルク及び車速と目標電流値(又はモータ電流)との関係を記述し、操舵トルクが大きいほど目標電流値が大きくなり、且つ車速が小さいほど目標電流値が大きくなっている。図1のモータ制御部42は、ベースマップ内の操舵トルク及び車速の双方を参照することで、目標電流値を決定することができる。具体的には、図2で示されるような特性を数式で表し、その数式に操舵トルク及び車速を代入して、目標電流値を算出又は決定してもよく、或いは、図2で示されるような特性をテーブルで表し、そのテーブルから、操舵トルク及び車速に対応する目標電流値を抽出又は決定してもよい。
なお、ベースマップは、操舵トルク及び車速とモータ電流との関係を示しているが、車速の代わりに、車両の走行状態を表す走行パラメータ、例えばエンジン回転数を用いて、ベースマップを構築してもよく、或いは、車速等の走行パラメータを省略して、操舵トルクとモータ電流との関係を示すベースマップを構築してもよい。
図3(a)は、操舵トルクTが時間とともに変化する時の時間的な変化例を示す。図3(a)の例において、図1のモータ制御部42は、操舵トルクTが第1の所定トルク(例えば4[N・m])以上であるか否かを判断し、例えば時刻t1からt2までの間、及び時刻t3から時刻t4までの間、第1の所定トルク以上である操舵トルクTがトルク検出部41によって検出された場合、モータ制御部42は、同一操舵トルクに対するモータ電流を大きくすることができる。
具体的には、例えば図2のベースマップ内の最高車速を表す車速V(6本の曲線のうちの1番下の曲線)から最高車速よりも小さい車速を表す車速V(6本の曲線のうちの下から2番目の曲線)に変更する時には、同一操舵トルクに対するモータ電流が大きり、このようなモータ電流が発生するように、車速V等の走行パラメータを例えば時刻t1で変更することができる。
例えば時刻t1が現在の時刻であることを仮定すると、モータ制御部42は、時刻t1での操舵トルク(現在操舵トルク)と同一のトルクで例えば図2のベースマップのような特性に基づき時刻t1直前に設定されていた以前の目標電流値(時刻t1での更新前の目標電流値)よりも、時刻t1での操舵トルク(現在操舵トルク)でその特性に基づき設定される現在の目標電流値(時刻t1での更新後の目標電流値)を大きくする。第1の所定トルク以上である操舵トルクTが発生して運転者の負担が大きい時には、同一操舵トルクに対するモータ電流を大きく設定することによって、アシストトルクが増大する。このように、操舵トルクT又は運転者の負担に応じてアシストトルクが設定されるので、運転者に与える違和感を少なくすることができる。
時刻T1からアシストトルクが増大し、運転者の負担が軽減されると、操舵トルクTの上昇が緩やかになり、次第に操舵トルクTが減少し始め、時刻t2で、操舵トルクTは、第1の所定トルク以上でなくなる。時刻t3で操舵トルクTが再び第1の所定トルク以上になると、図1のモータ制御部42は、再び、現在操舵トルク(例えば時刻t3での操舵トルクT)と同一のトルクで直前に設定されていた以前の目標電流値(時刻t3での更新前の目標電流値)よりも、現在操舵トルクで設定される現在の目標電流値(時刻t3での更新後の目標電流値)を大きくすることができる。
図3(a)の例において、図1のモータ制御部42は、操舵トルクTが第1の所定トルクよりも小さい第2の所定トルク(例えば2[N・m])未満であるか否かを判断することが好ましく、例えば時刻t5からt6までの間、第2の所定トルク未満である操舵トルクTがトルク検出部41によって検出された場合、モータ制御部42は、同一操舵トルクに対するモータ電流を小さくすることができる。なお、モータ制御部42は、操舵トルクTが第2の所定トルク未満であるか否かを判断しないで、例えば時刻t2又はt4から所定時間が経過した時に、同一操舵トルクに対するモータ電流を小さくしてもよい。
例えば時刻t5が現在の時刻であることを仮定すると、モータ制御部42は、時刻t5での操舵トルク(現在操舵トルク)と同一のトルクで例えば図2のベースマップのような特性に基づき時刻t5直前に設定されていた以前の目標電流値(時刻t5での更新前の目標電流値)よりも、時刻t5での操舵トルク(現在操舵トルク)でその特性に基づき設定される現在の目標電流値(時刻t5での更新後の目標電流値)を小さくする。第2の所定トルク未満である操舵トルクTが発生して運転者の負担が小さい時には、同一操舵トルクに対するモータ電流を小さく設定することによって、アシストトルクが減少する。このように、操舵トルクT又は運転者の負担に応じてアシストトルクが設定されるので、運転者に与える違和感を少なくすることができる。特に、操舵トルクTが第1の所定トルクと第2の所定トルクとの間に収まるように制御されるので、操舵トルクTが第1の所定トルクよりも大きくなる、又は操舵トルクTが第2の所定トルクよりも小さくなる期間があったとしても、操舵トルクTは、一定の範囲内に引き寄せされる。
図3(b)は、擬似車速V'又は内部制御車速が時間とともに変化する時の時間的な変化例を示す。例えば車速検出部41の故障時やCANの断線時等のように車速検出部41の異常が検出される時、図1のモータ制御部42は、操舵トルクTから擬似車速V'を求めることができる。車速検出部41によって検出される車速Vの代わりに擬似車速V'を用いることで、車速検出部41の異常が検出される時であっても、例えば図2のベースマップのような特性に基づき、モータ制御部42は、目標電流値又はモータ電流を求めることを継続することができる。特に、擬似車速V'を固定しないで、変化させることで、運転者に与える違和感を少なくすることができる。なお、後述するように、擬似車速V'は、目標電流値だけでなく、例えば慣性モーメントに係るイナーシャ補正、ダンピング係数に係るダンパー補等を生成する時に利用することができ、擬似車速V'は、車速Vと同様に、いわば内部制御車速として用いることができる。
例えば時刻t0で、車速検出部41の異常が検出されると、モータ制御部42は、擬似車速V'又は内部制御車速を例えば最高車速(例えば180[km/h])に設定することができる。内部制御車速を最高車速に設定することにより、アシストトルクが小さくなり、急激な操舵を抑制することができる。図3(b)で示される時刻t0から時刻t6まで、操舵トルクTは、例えば図3(a)で示されるように変化する。例えば時刻t1からt2までの間、第1の所定トルク以上である操舵トルクTがトルク検出部41によって検出された場合、モータ制御部42は、擬似車速V'を小さくすることによって、同一操舵トルクに対するモータ電流を大きくすることができる。図3(b)の例において、時刻t1からt2までの間、擬似車速V'又は内部制御車速を最高車速から徐々に直線的に減少させることができる。なお、このように内部制御車速が低速へ除変することが、運転者に与える違和感を少なくする点で好ましいので、時刻t1からt2までの間、内部制御車速は、直線的にではなく、例えば階段状に、又は曲線的に、徐々に変化させてもよい。
例えば時刻t2からt3までの間、第2の所定トルク以上であり、且つ第1の所定トルク未満である操舵トルクTがトルク検出部41によって検出された場合、擬似車速V'又は内部制御車速を一定に保つことができる。図3(b)の例において、時刻t2からt3までの間、内部制御車速は、時刻t2での内部制御車速を維持する。例えば時刻t3からt4までの間、第1の所定トルク以上である操舵トルクTが再びトルク検出部41によって検出された場合、内部制御車速は、時刻t2又は時刻t3での内部制御車速から徐々に減少させることができる。例えば時刻t4からt5までの間、第2の所定トルク以上であり、且つ第1の所定トルク未満である操舵トルクTがトルク検出部41によって検出された場合、内部制御車速は、時刻t4での内部制御車速を維持する。
例えば時刻t5からt6までの間、第2の所定トルク未満である操舵トルクTがトルク検出部41によって検出された場合、擬似車速V'又は内部制御車速を徐々に増加させることができる。図3(b)の例において、時刻t1からt2までの間及び時刻t3からt4までの間における内部制御車速の減少率又は傾きは、時刻t5からt6までの間における内部制御車速の増加率又は傾きよりも小さい。操舵トルクTが第1の所定トルク以上である場合、擬似車速V'を緩やかに減少させて、同一操舵トルクに対するモータ電流を緩やかに大きくすることができる。擬似車速V'の急激な減少を抑制して、車両をより安全に走行させることができる。
なお、第1の所定のトルク及び第2の所定トルクは、車両特性だけでなく、例えば電動モータ43の性能、減速機構44の設定等の伝達特性にも依存し、車両及び電動パワーステアリング装置10の種類に応じて設定することができる。
図4は、内部制御車速状態の遷移例を示す。図4又は図3(a)及び図3(b)で示されるように、操舵トルクTが例えば0から第2の所定トルクまでの間に属する場合、内部制御車速は、高速へ除変することができる。なお、例えば図3(a)の時刻t0において、操舵トルクTは第2の所定トルク未満であるので、内部制御車速を増加させることができるが、時刻t0で、内部制御車速が既に最高車速に到達しているので、このような場合、内部制御車速は、最高車速まで増加させられる。
次に、例えば、操舵トルクTが大きくなり、操舵トルクTが例えば第2の所定トルクから第1の所定トルクまでの間に属する場合、内部制御車速は、高速側への除変を停止することができる。次に、例えば、操舵トルクTがさらに大きくなり、操舵トルクTが例えば第1の所定トルク以上である場合、内部制御車速は、低速へ除変することができる。なお、例えば図3(a)の時刻t4以降においても、仮に、操舵トルクTが第1の所定トルク以上であり続ける場合、内部制御車速を例えば0(停止車速)に到達するまで、さらに減少させることができる。
図5は、図1で示されるモータ制御部42の動作例を表すフローチャートを示す。図5の例において、例えばイグニッションキーがオンされて、電動パワーステアリング装置10が起動する。モータ制御部42は、トルク検出部41で検出される操舵トルクTを例えば所定のタイミングで入力する(ステップS1)。
モータ制御部42は、例えば時刻t(N)で入力した操舵トルクT(N)が正常な値であるか否かを判断する(ステップS2)。トルク検出部41は、例えば、トルク検出部41それ自身の故障を検出することができ、トルク検出部41の例えばセンサ部が故障した時には、トルク検出部41が故障していることを表す故障信号をモータ制御部42に送信することができる。或いは、モータ制御部42は、トルク検出部41が正常に動作する時の操舵トルクTの有効範囲を記憶又は算出し、操舵トルクTがその有効範囲内に存在するか否かを判断することができる。例えば時刻t(N)で入力した操舵トルクT(N)が正常な値である場合、モータ制御部42は、後述のステップS4を実施することができる。なお、操舵トルクTが正常な値であるか否かを判断する手法は、例えば特開2009−264812号公報に開示又は教授される手法を採用することができる。
例えば時刻t(N)で入力した操舵トルクT(N)が正常な値でない場合、即ち、トルク検出部41に異常が発生した時には、モータ制御部42は、トルク検出部41の故障を運転者に報知することができる(ステップS3)。車両が例えば警告ランプを有する場合、モータ制御部42は、警告ランプを点灯させてトルク検出部41又は電動パワーステアリング装置10の故障を運転者に報知することができる。異常が発生した時には、モータ制御部42は、目標電流値又はモータ電流を例えば0に設定し、電動パワーステアリング装置10は、アシストトルクを発生させない。
ステップS2において、例えば時刻t(N)で入力した操舵トルクT(N)が正常な値である場合、モータ制御部42は、車速検出部107で検出される車速Vも例えば所定のタイミングで入力する(ステップS4)。モータ制御部42は、例えば時刻t(N)又は時刻t(N)と同期する時刻t(N')で入力した車速V(N)が正常な値であるか否かを判断する(ステップS5)。
車速検出部107は、例えば、車速検出部107それ自身の故障を検出することができ、車速検出部107の例えばセンサ部が故障した時には、車速検出部107が故障していることを表す故障信号をモータ制御部42に送信することができる。或いは、モータ制御部42は、車速検出部107が正常に動作する時の車速Vの有効範囲を記憶又は算出し、車速Vがその有効範囲内に存在するか否かを判断することができる。例えば時刻t(N)で入力した車速V(N)が正常な値である場合、モータ制御部42は、後述のステップS6を実施することができる一方、車速V(N)が正常な値でない場合、モータ制御部42は、後述のステップS8を実施することができる。図5の例において、モータ制御部42は、例えばステップS1及びステップS4を同時に実行することができ、例えばステップS2及びステップS5を並列して処理してもよい。なお、車速Vが正常な値であるか否かを判断する手法は、例えば特開2002−331954号公報に開示又は教授される手法を採用することができる。
例えばステップS5において、例えば時刻t(N)で入力した車速V(N)が正常な値である場合、モータ制御部42は、車速V(N)に依存する例えば図2で示されるような特性又は数式を決定する(ステップS6)。ここで、車速V(N)が、例えば図2のベースマップ内の例えば6本の曲線のうちの上から2番目の曲線に対応する車速である時、モータ制御部42は、上から2番目のその曲線を採用する。或いは、車速V(N)が、例えば図2のベースマップ内の例えば下から2番目の曲線に対応する車速である時、モータ制御部42は、下から2番目のその曲線を採用する。例えば図2のベースマップでは、車速車速V(N)が大きい時に、同一操舵トルクに対して目標電流値又はモータ電流が小さく設定されている。
ステップS6において、車速V(N)に依存する特性又は数式として、例えば図2のベースマップ内の下から2番目の曲線が決定される場合、モータ制御部42は、下から2番目のその曲線上の例えば時刻t(N)で入力した操舵トルクT(N)で、目標電流値(N)を決定する(ステップS7)。このように、モータ制御部42は、操舵トルク及び車速と目標電流値との関係として、車速V(N)に対応する例えば図2のベースマップで示される下から2番目の曲線を参照又は選択する。モータ制御部42は、参照又は選択している曲線(又は車速V(N))上で操舵トルクT(N)を参照又は選択し、参照又は選択している操舵トルクT(N)に対応する目標電流値(N)を決定又は更新することができる。目標電流値(N)が決定又は更新されると、モータ電流が目標電流値(N)に一致するように、モータ制御部42は、電動モータ43を駆動するとともに、例えばステップS2を実行する。
ステップS2において、例えば時刻t(N+1)で入力した操舵トルクT(N+1)が正常な値である場合、又は例えば時刻t(N+1)で操舵トルクT(N+1)を入力する時、モータ制御部42は、例えば時刻t(N+1)で車速V(N+1)を同時に入力する(ステップS4)。モータ制御部42は、例えば時刻t(N+1)で入力した車速V(N+1)が正常な値であるか否かを判断する(ステップS5)。
例えばステップS5において、例えば時刻t(N+1)で入力した車速V(N+1)が正常な値でない場合、即ち、車速検出部107に異常が発生した時には、モータ制御部42は、例えば時刻t(N+1)で入力した操舵トルクT(N+1)が第1の所定トルク以上であるか否かを判断する(ステップS8)。なお、電動パワーステアリング装置10が起動した後、車速Vが正常な値でないことを最初に判断した時に、モータ制御部42は、擬似車速V'を最高車速に初期設定することが好ましい。擬似車速V'が最高車速に初期設定されることにより、アシストトルクの発生が抑制されて、車両をより安全に走行させることができる。
例えばステップS8において、例えば時刻t(N+1)で入力した操舵トルクT(N+1)が第1の所定トルク以上である場合、モータ制御部42は、例えば図2(b)の時刻t1からt2までの間で示されるような減少率又は傾きで、擬似車速V'を減少させ、又は、例えば時刻t(N)での擬似車速V'(N)又は初期設定される最高車速を例えば時刻t(N+1)での擬似車速V'(N+1)に変更又は更新する(ステップS9)。モータ制御部42は、変更又は更新された例えば時刻t(N+1)での擬似車速V'(N+1)を例えば時刻t(N+1)での車速V(N+1)として用いることができる(ステップS9)。
次に、モータ制御部42は、時刻t(N+1)での車速V(N+1)として、時刻t(N+1)での擬似車速V'(N+1)に依存する例えば図2で示されるような特性又は数式を決定する(ステップS6)。ここで、擬似車速V'(N)又は初期設定される最高車速が、例えば図2のベースマップ内の例えば6本の曲線のうちの1番下の曲線に対応する車速であり、且つ擬似車速V'(N+1)が、例えば図2のベースマップ内の例えば6本の曲線のうちの下から2番目の曲線に対応する車速である時、モータ制御部42は、1番下の曲線から下から2番目の曲線に変更して、下から2番目の曲線を採用する。このように、モータ制御部42は、例えば時刻t(N+1)で入力した操舵トルクT(N+1)(=現在操舵トルク)と同一のトルクと関連付けられる以前の擬似車速V'(N)又は初期設定される最高車速よりも、現在操舵トルクと関連付けられる現在の擬似車速V'(N+1)を小さく設定することができる。
ところで、例えばステップS8において、例えば時刻t(N+2)で入力した操舵トルクT(N+2)が第1の所定トルク以上でない場合、モータ制御部42は、例えば時刻t(N+2)で入力した操舵トルクT(N+2)が第2の所定トルク未満であるか否かを判断する(ステップS10)。
例えばステップS10において、例えば時刻t(N+2)で入力した操舵トルクT(N+2)が第2の所定トルク未満である場合、モータ制御部42は、例えば図2(b)の時刻t5からt6までの間で示されるような増加率又は傾きで、擬似車速V'を増加させ、又は、例えば時刻t(N+1)での擬似車速V'(N+1)を例えば時刻t(N+2)での擬似車速V'(N+2)に変更又は更新する(ステップS11)。ここで、擬似車速V'(N+1)が、例えば図2のベースマップ内の例えば6本の曲線のうちの下から3番目の曲線に対応する車速であり、且つ擬似車速V'(N+2)が、例えば図2のベースマップ内の例えば6本の曲線のうちの1番下の曲線に対応する車速である時、モータ制御部42は、下から3番目の曲線から1番下の曲線に変更して、1番下の曲線を採用する。このように、モータ制御部42は、例えば時刻t(N+2)で入力した操舵トルクT(N+2)(=現在操舵トルク)と同一のトルクと関連付けられる以前の擬似車速V'(N+1)よりも、現在操舵トルクと関連付けられる現在の擬似車速V'(N+2)を大きく設定することができる。
ここで、第1の所定トルク以上である操舵トルクTが現在操舵トルクとして検出された場合における以前の擬似車速V'と現在の擬似車速V'との差(例えば上述のV'(N)とV'(N+1)との差)は、第2の所定トルク未満である操舵トルクTが現在操舵トルクとして検出された場合における以前の擬似車速と現在の擬似車速との差(例えば上述のV'(N+1)とV'(N+2)との差)よりも小さく設定することができる。これにより、操舵トルクTが第1の所定トルク以上である場合、擬似車速V'を緩やかに減少させて、同一操舵トルクに対する目標電流値を緩やかに大きくすることができる。
或いは、例えばステップS10において、例えば時刻t(N+2)で入力した操舵トルクT(N+2)が第2の所定トルク未満でない場合、モータ制御部42は、例えば図2(b)の時刻t2からt3までの間で示されるような一定値又は傾きで、擬似車速V'を更新する、又は、例えば時刻t(N+1)での擬似車速V'(N+1)を例えば時刻t(N+2)での擬似車速V'(N+2)として採用し又は更新する(ステップS12)。ここで、擬似車速V'(N+1)及び擬似車速V'(N+2)が、例えば図2のベースマップ内の例えば6本の曲線のうちの下から3番目の曲線に対応する車速である時、モータ制御部42は、そのまま下から3番目の曲線を採用する。このように、モータ制御部42は、例えば時刻t(N+2)で入力した操舵トルクT(N+2)(=現在操舵トルク)と同一のトルクと関連付けられる以前の擬似車速V'(N+1)を、現在操舵トルクと関連付けられる現在の擬似車速V'(N+2)に設定することができる。
図6は、図1で示されるモータ制御部42の具体的構成例を示す。図6の例において、モータ制御部42は、擬似車速生成部200、切換部210及び異常検出部201を有することが好ましく、モータ制御部42は、例えば特開2010−47238号公報で開示されるような微分処理部102、位相補正部103、イナーシャ補正部104、ダンパー補正部105、目標電流設定部108、加算演算部109、減算演算部110、偏差演算部111、PI設定部112、非干渉化制御部113、演算部114、dq−3相変換部115、モータ駆動部116、モータ電流検出部118,119、及び3相−dq変換部120をさらに有している。図6の例において、擬似車速生成部200は、操舵トルクTに基づき、例えば図3(b)で示すような擬似車速V'を生成させることができる。切換部210は、車速Vの異常が検出される状態で、車速Vから擬似車速V'に切り換えることができる。なお、車速検出部107は、例えば電子制御ユニット(ECU)で構成され、そのECUは、例えばCAN等の車載ネットワーク202を介してモータ制御部42に接続されている。モータ制御部42又は異常検出部201は、車速検出部107からの車速Vを有線及び無線を含む任意の方式で受け取ることができる。
図6の例において、異常検出部201は、車速Vが異常であるか否か、具体的には、車速検出部107で検出される車速Vが正常な値であるか否かを判断し、この時、車速検出部107(ECU)は、車載ネットワーク202を介して、例えばエンジン回転数を異常検出部201に送ることができる。加えて、異常検出部201は、車速検出部107(ECU)又は車速検出部107とは異なる他の電子制御ユニット(ECU)203から、シフトポジション、ギア比等のパラメータを受け取ることができる。また、電子制御ユニット203は、車速検出部107を含む形式としてもよい。なお、車速検出部107は、電子制御ユニットではなく、車速センサで構成されてもよい。異常検出部201は、車速検出部107(ECU、車速センサ等)それ自身の故障を車速検出部107から受け取ることができ、或いは、例えばエンジン回転数、シフトポジション、ギア比等のパラメータを利用して車速検出部107が正常に動作する時の車速Vの有効範囲を判断することができ、或いは、車載ネットワーク202の断線(車速検出部107からの車速Vの不受信等)を識別することができる。車速検出部107の故障時、車載ネットワーク202の断線時等の要因によって車速Vが正常な値でない場合、異常検出部201は、車速Vが異常であると判断し、切換部210が車速検出部107からの車速Vの代わりに擬似車速生成部200からの擬似車速V'を出力するように、切換部210を指示する。車速Vの異常が検出される状態で、切換部210からの擬似車速V'は、例えば目標電流設定部108、イナーシャ補正部104、ダンパー補正部105等で内部制御車速Vとして入力され、例えば目標電流設定部108は、擬似車速V'に基づき例えば図2で示すようなベースマップで求まる目標電流値を生成することができる。車速Vの異常が検出されない状態では、内部制御車速Vは、車速検出部107からの車速Vである。
図6の例において、モータ回転角検出部130は、ブラシレスモータ43においてアウタステータに対するインナロータの角度(回転角)θを算出し、この角度θに対応する信号をdq−3相変換部115と3相−dq変換部120に出力する。さらに、モータ回転角検出部130は、ブラシレスモータ43においてアウタステータに対するインナロータの回転角速度ωを算出し、この回転角速度ωに対応する信号を、微分処理部102とダンパー補正部105と非干渉化制御部113に出力する。
図6の例において、位相補正部103は、操舵トルク検出部41(操舵トルクセンサ41)から入力した操舵トルク信号Tを、車速検出部107から入力した車速信号V(又は、車速Vの異常が検出される状態では擬似車速生成部200からの擬似車速信号V')に基づいて位相補正をして、その補正操舵トルク信号T'を目標電流設定部108に出力する。イナーシャ補正部104は、操舵トルク検出部41から入力した操舵トルク信号Tと、車速検出部107から入力した車速信号V(又は、車速Vの異常が検出される状態では擬似車速生成部200からの擬似車速信号V')と、回転角速度ωに対応する信号を微分処理部102(微分演算部102)で微分することにより得られた角加速度(つまり、回転角速度ωの時間微分値)に対応する信号とから、慣性モーメントに係るイナーシャ補正をするためのイナーシャ補正信号diを生成し、このイナーシャ補正信号diを加算演算部109に出力する。ダンパー補正部105は、操舵トルク検出部41から入力した操舵トルク信号Tと、車速検出部107から入力した車速信号V(又は、車速Vの異常が検出される状態では擬似車速生成部200からの擬似車速信号V')と、回転角速度ωに対応する信号とから、ダンピング係数に係るダンパー補正をするためのダンパー補正信号ddを生成し、このダンパー補正信号ddを減算演算部110に出力する。
図6の例において、目標電流設定部108は、補正操舵トルク信号T'と車速信号V(又は、車速Vの異常が検出される状態では擬似車速生成部200からの擬似車速信号V')とに基づき、2相目標電流Id1,Iq1を算出して出力する。目標電流Id1,Iq1は、ブラシレスモータ43のインナロータ上の永久磁石が作り出す回転磁束と同期した回転座標系において、永久磁石と同一方向のd軸及びこれに直交したq軸にそれぞれ対応するものである。これらの目標電流Id1,Iq1を、それぞれ「d軸目標電流Id1」及び「q軸目標電流Iq1」ということにする。
加算演算部109は、目標電流Id1,Iq1にイナーシャ補正信号di(イナーシャ補正電流di)を加算し、その加算値、つまりイナーシャ補正後目標電流Id2,Iq2を出力する。減算演算部110は、イナーシャ補正後目標電流Id2,Iq2からダンパー補正信号dd(ダンパー補正電流dd)を減算し、その減算値、つまりダンパー補正後目標電流Id3,Iq3を出力する。このダンパー補正後目標電流Id3,Iq3、をそれぞれ「d軸最終目標電流Id*」,「q軸最終目標電流Iq*」と言うことにする。偏差演算部111は、d軸及びq軸最終目標電流Id*,Iq*から、3相−dq変換部120から入力したd軸及びq軸の検出電流Id,Iqをそれぞれ減算し、その減算値、つまり偏差DId,DIqをPI設定部112に出力する。
図6の例において、PI設定部112は、偏差DId,DIqを用いた演算の実行により、d軸及びq軸の検出電流Id,Iqがd軸及びq軸最終目標電流に追従するように、d軸及びq軸の目標電圧Vd,Vqをそれぞれ算出する。非干渉化制御部113及び演算部114は、d軸及びq軸の目標電圧Vd,Vqを、d軸及びq軸の補正目標電圧Vd',Vq'に補正して、dq−3相変換部115に出力する。詳しく述べると、非干渉化制御部113は、3相−dq変換部120から入力したd軸及びq軸の検出電流Id,Iq、及びモータ回転角検出部130から入力したインナロータの回転角速度ωに基づいて、d軸及びq軸の目標電圧Vd,Vqのための非干渉化制御補正値を算出する。演算部114は、d軸及びq軸の目標電圧Vd,Vqから、非干渉化制御補正値をそれぞれ減算することにより、d軸及びq軸の補正目標電圧Vd',Vq'を算出して、dq−3相変換部115に出力する。
図6の例において、dq−3相変換部115は、d軸及びq軸の補正目標電圧Vd',Vq'を、3相目標電圧Vu*,Vv*,Vw*に変換して、モータ駆動部116に出力する。モータ駆動部116は、図示せぬPWM電圧発生部及びインバータ回路を含む。PWM電圧発生部は、3相目標電圧Vu*,Vv*,Vw*に対応した、PWM制御電圧信号UU,VU,WUを生成し、インバータ回路に出力する。インバータ回路は、PWM制御電圧信号UU,VU,WUに対応した、3相の交流駆動電流Iu,Iv,Iwを発生し、これらを3相の駆動電流路117を介してブラシレスモータ43にそれぞれ供給する。3相の交流駆動電流Iu,Iv,Iwは、それぞれブラシレスモータ43をPWM駆動するための正弦波電流である。
図6の例において、3相の駆動電流路117のうちの2つには、モータ電流検出部118,119が設けられている。各モータ電流検出部118,119は、ブラシレスモータ43に供給される3相の駆動電流Iu,Iv,Iwのうちの、2つの駆動電流Iu,Iwを検出して、3相−dq変換部120に出力する。3相−dq変換部120は、検出駆動電流Iu,Iwに基づいて、残りの駆動電流Ivを算出する。さらに、3相−dq変換部120は、これらの3相検出駆動電流Iu,Iv,Iwを、2相のd軸及びq軸の検出電流Id,Iqに変換する。
なお、図6には、説明の便宜上、それぞれ1組の加算演算部109と減算演算部110と偏差演算部111とPI設定部112と演算部114が示されている。実際には、これらの回路要素の組は、2つの目標電流Id1,Id2のそれぞれについても、個別に設けられる。
本発明は、上述の例示的な実施形態に限定されず、また、当業者は、上述の例示的な実施形態を特許請求の範囲に含まれる範囲まで、容易に変更することができるであろう。