〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る反射防止物品を示す図(概念斜視図)である。この反射防止物品1は、全体形状がフィルム形状により形成された反射防止物品である。この実施形態に係る画像表示装置では、この反射防止物品1が画像表示パネルの表側面に貼り付けられて保持され、この反射防止物品1により日光、電燈光等の外来光の画面における反射を低減して視認性を向上する。尚、反射防止物品は、その形状を平坦なフィルム形状とする場合に限らず、平坦なシート形状、平板形状(相対的に厚みの薄い順に、フィルム、シート、板と呼称する)とすることもでき、又、平坦な形状に代えて、湾曲形状、立体形状を呈したフィルム形状、シート形状、板形状とすることもでき、更には各種レンズ、各種プリズム等の立体形状のものを用途に応じて適宜採用することができる。
ここで反射防止物品1は、透明フィルムによる基材2の表面に多数の微小突起を密接配置して作製される。尚、本明細書においては、密接配置された複数の微小突起を総称して微小突起群とも言うものとする。ここで基材2は、例えばTAC(Triacetylcellulose)、等のセルロース(纖維素)系樹脂、PMMA(ポリメチルメタクリレート)等のアクリル系樹脂、PET(Polyethylene terephthalate)等のポリエステル系樹脂、PP(ポリプロピレン)等のポリオレフィン系樹脂、PVC(ポリ塩化ビニル)等のビニル系樹脂、PC(Polycarbonate)等の各種透明樹脂フィルムを適用することができる。尚、上述したように反射防止物品の形状はフィルム形状に限らず、種々の形状を採用可能であることにより、基材2は、反射防止物品の形状に応じて、これらの材料の他に、例えばソーダ硝子、カリ硝子、鉛ガラス等の硝子、PLZT等のセラミックス、石英、螢石等の各種透明無機材料等を適用することができる。
反射防止物品1は、基材2上に、微小突起群からなる微細な凹凸形状の受容層となる未硬化状態の紫外線硬化性樹脂からなる層(この層を、以下、紫外線硬化樹脂層4、或いは受容層4と言う)を形成し、受容層4の表面に賦形用金型の賦形面を接触させた状態で該受容層4を硬化させることにより、基材2の表面に微小突起が密接して配置される。反射防止物品1は、この微小突起による凹凸形状により厚み方向に徐々に屈折率が変化するように作製され、モスアイ構造の原理により広い波長範囲で入射光の反射を低減する。尚、本明細書においては、以下において、多峰性の微小突起、単峰性の微小突起に係る各頂点を形成する各凸部を、適宜、峰と呼ぶものとする。
尚、これにより反射防止物品1に作製される微小突起は、隣接する微小突起の間隔dが、反射防止を図る電磁波の波長帯域の最短波長Λmin以下(d≦Λmin)となるよう密接して配置される。この実施形態では、画像表示パネルに配置して視認性を向上させることを主目的とするため、この最短波長は、個人差、視聴条件を加味した可視光領域の最短波長(380nm)に設定され、間隔dは、ばらつきを考慮して100〜300nmとされる。又、この間隔dに係る隣接する微小突起は、いわゆる隣り合う微小突起であり、基材2側の付け根部分である微小突起の裾の部分が接している突起である。反射防止物品1では微小突起が密接して配置されることにより、微小突起間の谷の部位を順次辿るようにして線分を作成すると、平面視において、各微小突起を囲む多角形状領域を多数連結してなる網目状模様が作製されることになる。尚、本明細書においては、このような網目状の模様を構成する線分を「網目状分割線」と言う。間隔dに係る隣接する微小突起は、この網目状分割線を構成する一部の線分を共有する突起である。
尚、微小突起に関しては、より詳細には以下のように定義される。モスアイ構造による反射防止では、透明基材表面とこれに隣接する媒質との界面における有効屈折率を、厚み方向に連続的に変化させて反射防止を図るものであることから、微小突起に関しては一定の条件を満足することが必要である。この条件のうちの1つである突起の間隔に関して、例えば特開昭50−70040号公報、特許第4632589号公報等に開示のように、微小突起が一定周期で規則正しく配置されている場合、隣接する微小突起の間隔dは、突起配列の周期P(d=P)となる。これにより可視光線帯域の最長波長をλmax、最短波長をλminとした場合に、最低限、可視光線帯域の最長波長において反射防止効果を奏し得る必要最小限の条件は、Λmin=λmaxであるため、P≦λmaxとなり、可視光線帯域の全波長に対して反射防止効果を奏し得る必要十分の条件は、Λmin=λminであるため、P≦λminとなる。
尚、波長λmax、λminは、観察条件、光の強度(輝度)、個人差等にも依存して多少幅を持ち得るが、標準的には、λmax=780nm及びλmin=380nmとされる。これらにより可視光線帯域の全波長に対する反射防止効果をより確実に奏し得る好ましい条件は、d≦300nmであり、より好ましい条件は、斜め方向(基材2表面の法線に対して45度以上に角度をなす方向)から見た場合の白濁感を低減させる点から、d≦200nmとなる。尚、反射防止効果の発現及び反射率の等方性(低角度依存性)の確保等の理由から、周期dの下限値は、通常、d≧50nm、好ましくは、d≧100nmとされる。これに対して突起の高さHは、十分な反射防止効果を発現させる観点より、H≧0.2×λmax=156nm(λmax=780nmとして)とされる。
しかしながら、本発明の反射防止物品のように、微小突起が不規則に配置されている場合には、隣接する微小突起間の間隔dはばらつきを有することになる。より具体的には、図2に示すように、基材の表面又は裏面の法線方向から見て平面視した場合に、微小突起が一定周期で規則正しく配列されていない場合、突起の繰り返し周期Pによっては隣接突起間の間隔dは規定し得ず、又、隣接突起の概念すら疑念が生じることになる。そこでこのような場合、以下のように算定される。
(1) 即ち、先ず、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)又は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて突起の面内配列(突起配列の平面視形状)を検出する。尚、図2は、実際に原子間力顕微鏡により求められた拡大写真である。
(2) 続いてこの求められた面内配列から各突起の高さの極大点(以下、単に「極大点」とも言う)を検出する。尚、極大点を求める方法としては、(a)平面視形状の拡大写真上に於ける平面座標とこれと対応する断面形状から求めた高さデータとを逐次対比して極大点を求める方法、(b)AFMで得られた基材上の平面座標における高さ分布データを2次元画像化してなる平面視拡大写真の画像処理によって極大点を求める方法等、種々の手法を適用することができる。図2はAFMによる拡大写真(画像濃度が高さに対応する)であり、図3は、図2に示した拡大写真に係る画像データの処理による極大点の検出結果を示す図であり、この図において黒点により示す個所がそれぞれ各微細突起の極大点である。尚、この処理では4.5×4.5画素のガウシアン特性によるローパスフィルタにより事前に画像データを処理し、これによりノイズによる極大点の誤検出を防止した。又、8画素×8画素による最大値検出用のフィルタを順次スキャンすることにより1nm(=1画素)単位で極大点を求めた。
(3) 次に検出した極大点を母点とするドロネー図(Delaunary Diagram)を作成する。ここでドロネー図とは、各極大点を母点としてボロノイ分割を行った場合に、ボロノイ領域が隣接する母点同士を隣接母点と定義し、各隣接母点同士を線分で結んで得られる3角形の集合体からなる網状図形である。各3角形は、ドロネー3角形と呼ばれ、各3角形の辺(隣接母点同士を結ぶ線分)は、ドロネー線と呼ばれる。図4は、図3から求められるドロネー図(白色の線分により表される図である)を図3による原画像と重ね合わせた図である。ドロネー図は、ボロノイ図(Voronoi diagram)と双対の関係に有る。又、ボロノイ分割とは、図11に示す通り、各微細突起の極大点pである各隣接母点間を結ぶ線分(ドロネー線)の垂直2等分線であるボロノイ分割線b同士によって画成される閉多角形の集合体からなる網状図形で平面を分割することを言う。ボロノイ分割により得られる網状図形がボロノイ図であり、各閉領域がボロノイ領域である。又、各ボロノイ分割線の起点であり、同時に各ボロノイ領域を構成している多角形の頂点ともなっている点を、ボロノイ分岐点と言うものとする。
(4) 次に、各ドロネー線の線分長の度数分布、即ち、隣接する極大点間の距離(以下、「隣接突起間距離」とも言う)の度数分布を求める。図6は、図4のドロネー図から作成した度数分布のヒストグラムである。尚、図2、図10に示すように、突起の頂部に溝状等の凹部が存在したり、或は、頂部が複数の峰に***している場合は、求めた度数分布から、このような突起の頂部に凹部が存在する微細構造、頂部が複数の峰に***している微細構造に起因するデータを除去し、突起本体自体のデータのみを選別して度数分布を作成する。
具体的には、突起の頂部に凹部が存在する微細構造、頂部が複数の峰に***している多峰性の微小突起に係る微細構造においては、このような微細構造を備えてい無い単峰性の微小突起の場合の数値範囲から、隣接極大点間距離が明らかに大きく異なることになる。これによりこの特徴を利用して対応するデータを除去することにより突起本体自体のデータのみを選別して度数分布を検出する。より具体的には、例えば図2に示すような微小突起(群)の平面視の拡大写真から、5〜20個程度の互いに隣接する単峰性の微小突起を選んで、その隣接極大点間距離の値を標本抽出し、この標本抽出して求められる数値範囲から明らかに外れる値(通常、標本抽出して求められる隣接極大点間距離平均値に対して、値が1/2以下のデータ)を除外して度数分布を検出する。図6の例では、隣接極大点間距離が56nm以下のデータ(矢印Aにより示す左端の小山)を除外する。尚、図6は、このような除外する処理を行う前の度数分布を示すものである。因みに上述の極大点検用のフィルタの設定により、このような除外する処理を実行してもよい。
(5) このようにして求めた隣接突起間距離dの度数分布から平均値dAVG及び標準偏差σを求める。ここでこのようにして得られる度数分布を正規分布とみなして平均値dAVG及び標準偏差σを求めると、図6の例では、平均値dAVG=158nm、標準偏差σ=38nmとなった。これにより隣接突起間距離dの最大値を、dmax=dAVG+2σとし、この例ではdmax=234nmとなる。
尚、同様の手法を適用して突起の高さを定義する。この場合、上述の(2)により求められる極大点から、特定の基準位置からの各極大点位置の相対的な高度差を取得してヒストグラム化する。図7は、このようにして求められる突起付け根位置を基準(高さ0)とした突起高さHの度数分布のヒストグラムを示す図である。このヒストグラムによる度数分布から突起高さの平均値HAVG、標準偏差σを求める。ここでこの図7の例では、平均値HAVG=178nm、標準偏差σ=30nmである。これによりこの例では、突起の高さは、平均値HAVG=178nmとなる。尚、図7に示す突起高さHのヒストグラムにおいて、多峰性の微小突起の場合は、頂点を複数有していることにより、1つの突起に対してこれら複数のデータが混在することになる。そこでこの場合は、麓部が同一の微小突起に属するそれぞれ複数の頂点の中から高さの最も高い頂点を、当該微小突起の突起高さとして採用して度数分布を求める。
尚、上述した突起の高さを測る際の基準位置は、隣接する微小突起の間の谷底(高さの極小点)を高さ0の基準とする。但し、係る谷底の高さ自体が場所によって異なる場合(例えば、図19について後述するように、谷底の高さが微小突起の隣接突起間距離に比べて大きな周期でウネリを有する場合等)は、(1)先ず、基材2の表面又は裏面から測った各谷底の高さの平均値を、該平均値が收束するに足る面積の中で算出する。(2)次いで、該平均値の高さを持ち、基材2の表面又は裏面と平行な面を基準面として考える。(3)その後、該基準面を改めて高さ0として、該基準面からの各微小突起の高さを算出する。
突起が不規則に配置されている場合には、このようにして求められる隣接突起間距離の最大値dmax=dAVG+2σ、突起の高さの平均値HAVGが、規則正しく配置されている場合の上述の条件を満足することが必要であることが判った。具体的には、反射防止効果を発現する微小突起間距離の条件は、dmax≦Λminとなる。最低限、可視光線帯域の最長波長において反射防止効果を奏し得る必要最短限の条件は、Λmin=λmaxであるため、dmax≦λmaxとなり、可視光線帯域の全波長に対して反射防止効果を奏し得る必要十分の条件は、Λmin=λminであるため、dmax≦λminとなる。そして、可視光線帯域の全波長に対する反射防止効果をより確実に奏し得る好ましい条件は、dmax≦300nmであり、更に好ましい条件は、dmax≦200nmである。又、反射防止効果の発現及び反射率の等方性(低角度依存性)の確保等の理由から、通常、dmax≧50nmであり、好ましくは、dmax≧100nmとされる。又、突起高さについては、十分な反射防止効果を発現する為には、HAVG≧0.2×λmax=156nm(λmax=780nmとして)とされる。
因みに、図2〜図6の例により説明するとdmax=234nm<λmax=780nmとなり、dmax≦λmaxの条件を満足して十分に反射防止効果を奏し得ることが判る。又、可視光線帯域の最短波長λminが380nmであることから、可視光線の全波長帯域において反射防止効果を発現する十分条件dmax≦λminも満たすことが判る。又、平均突起高さHAVG=178nmであることにより、平均突起高さHAVG≧0.2×λmax=156nmとなり(可視光波長帯域の最長波長λmax=780nmとして)、十分な反射防止効果を実現するための突起の高さに関する条件も満足していることが判る。尚、標準偏差σ=30nmであることから、HAVG−σ=148nm<0.2×λmax=156nmとの関係式が成立することから、統計学上、全突起の50%以上、84%以下が、突起の高さに係る条件(178nm以上)の条件を満足していることが判る。尚、AFM及びSEMによる観察結果、並びに微小突起の高さ分布の解析結果から、多峰性の微小突起は相対的に高さの低い微小突起よりも高さの高い微小突起でより多く生じる傾向にあることが判明した。
図7は、この反射防止物品1の製造工程を示す図である。この製造工程10は、樹脂供給工程において、ダイ12により帯状フィルム形態の基材2に微小突起形状の受容層4を構成する未硬化で液状の紫外線硬化性樹脂を塗布する。尚、紫外線硬化性樹脂の塗布については、ダイ12による場合に限らず、各種の手法を適用することができる。続いてこの製造工程10は、押圧ローラ14により、反射防止物品の賦型用金型であるロール版13の周側面に基材2を加圧押圧し、これにより基材2に未硬化で液状のアクリレート系紫外線硬化性樹脂を密着させると共に、ロール版13の周側面に作製された微小な凹凸形状の凹部に紫外線硬化性樹脂を充分に充填する。この製造工程は、この状態で、紫外線の照射により紫外線硬化性樹脂を硬化させ、これにより基材2の表面に微小突起群を作製する。この製造工程は、続いて剥離ローラ15を介してロール版13から、硬化した紫外線硬化性樹脂と一体に基材2を剥離する。製造工程10は、必要に応じてこの基材2に粘着層等を作製した後、所望の大きさに切断して反射防止物品1を作製する。これにより反射防止物品1は、ロール材による長尺の基材2に、賦型用金型であるロール版13の周側面に作製された微小形状を順次賦型して、効率良く大量生産される。
図8は、ロール版13の構成を示す斜視図である。ロール版13は、円筒形状の金属材料である母材の周側面に、陽極酸化処理、エッチング処理の繰り返しにより、微細な凹凸形状が作製され、この微細な凹凸形状が上述したように基材2に賦型される。このため母材は、少なくとも周側面に純度の高いアルミニウム層が設けられた円柱形状又は円筒形状の部材が適用される。より具体的に、この実施形態では、母材に中空のステンレスパイプが適用され、直接に又は各種の中間層を介して、純度の高いアルミニウム層が設けられる。尚、ステンレスパイプに代えて、銅やアルミニウム等のパイプ材等を適用してもよい。ロール版13は、陽極酸化処理とエッチング処理との繰り返しにより、母材の周側面に微細穴が密に作製され、この微細穴を掘り進めると共に、開口部に近付くに従ってより大きな径となるようにこの微細穴の穴径を徐々に拡大して凹凸形状が作製される。これによりロール版13は、深さ方向に徐々に穴径が小さくなる多数の微細穴が密に作製され、反射防止物品1には、この微細穴に対応して、頂部に近付くに従って徐々に径が小さくなる微小突起により微細な凹凸形状が作製される。その際に、アルミニウム層の純度(不純物量)や結晶粒径、陽極酸化処理及び/又はエッチング処理等の諸条件を適宜調整することによって、微小突起の平面視上の配置を本発明特有の微小突起の配置とする。
〔陽極酸化処理、エッチング処理〕
図9は、ロール版13の製造工程を示す図である。この製造工程は、電解溶出作用と、砥粒による擦過作用の複合による電解複合研磨法によって母材の周側面を超鏡面化する(電解研磨)。続いてこの工程は、母材の周側面にアルミニウムをスパッタリングし、純度の高いアルミニウム層を作製する。続いてこの工程は、陽極酸化工程A1、…、AN、エッチング工程E1、…、ENを交互に繰り返して母材を処理し、ロール版13を作製する。
この製造工程において、陽極酸化工程A1、…、ANでは、陽極酸化法により母材の周側面に微細な穴を作製し、更にこの作製した微細な穴を掘り進める。ここで陽極酸化工程では、例えば負極に炭素棒、ステンレス板材等を使用する場合のように、アルミニウムの陽極酸化に適用される各種の手法を広く適用することができる。又、溶解液についても、中性、酸性の各種溶解液を使用することができ、より具体的には、例えば硫酸水溶液、シュウ(蓚)酸水溶液、リン酸水溶液等を使用することができる。この製造工程A1、…、ANは、液温、印加する電圧、陽極酸化に供する時間等の管理により、微細な穴をそれぞれ目的とする深さ及び微小突起形状に対応する形状に作製する。
続くエッチング工程E1、…、ENは、金型をエッチング液に浸漬し、陽極酸化工程A1、…、ANにより作製、掘り進めた微細な穴の穴径をエッチングにより拡大し、深さ方向に向かって滑らか、且つ、徐々に穴径が小さくなるように、これら微細な穴を整形する。尚、エッチング液については、この種の処理に適用される各種エッチング液を広く適用することができ、より具体的には、例えば硫酸水溶液、シュウ酸水溶液、リン酸水溶液等を使用することができる。これらによりこの製造工程では、陽極酸化処理とエッチング処理とを交互にそれぞれ複数回実行することにより、賦型に供する微細穴を母材の周側面に作製する。尚、陽極酸化処理で用いたシュウ酸水溶液等の陽極酸化処理液自体を、電圧を印加することなく、母材に接触させればエッチング液としても機能する。従って、陽極酸化処理液とエッチング液とを同じ液とし、同液を入れた槽中に母材を浸漬したまま、順次、所定時間所定電圧を印加することで陽極酸化処理を、電圧無印加で所定時間浸漬することによってエッチング処理を行うことも出来る。
〔耐擦傷性の向上〕
ところでこの陽極酸化処理及びエッチング処理の交互の繰り返しにより微細穴を作製して反射防止物品を作製したところ、上述したように耐擦傷性に改善の余地が見られた。そこで反射防止物品を詳細に観察したところ、従来のこの種の反射防止物品のように、微小突起が、平面視において、格子状、又は略格子状に、一定周期で規則的に配置されている場合には、例えば他の物体が反射防止物品の表面に接触した場合に、反射防止物品と接触する物体が該反射防止物品の微小突起群に加わる力の方向、即ち作用線上に該微小突起が一定周期で存在する為、かかる同一作用線上の微小突起は連続して順次該物体から力を受ける。そのため、外力が最初に接触する微小突起を破壊するものであった場合、連続して該作用線上の微小突起が破壊されることになる。又、最初に破壊された微小突起の断片が順次作用線上の他の微小突起にも衝突し、且つ、該断片の数も雪崩的に増加する。そのため、その場合は、更に微小突起は破壊される。その結果、反射防止物品表面の微小突起群は局部的に一部の微小突起が破壊されると、広い範囲で微小突起の形状が一様に損なわれ、これにより反射防止機能が劣化し、又、接触個所に白濁、傷等が発生して外観不良が発生することが判った。一方、本実施形態に代表される本発明の如く、反射防止物品表面の微小突起群の平面視における配置が特定の非格子状(周期的配置ではない)となった場合であっても、前述の如く、隣接突起間距離の最大値dmaxを反射防止を図る波長帯域の最短波長Λmin以下、即ちdmax≦Λminとすることによって、格子状に(一定周期で)微小突起群が配置した反射防止物品と同等の反射防止性能を発現し得る。
以上より、上記の製造方法において、ロール版の製造条件を変更すると、耐擦傷性が改善され、且つ、十分な反射防止機能を発揮することができることが判った。
このように、十分な反射防止機能を保持した上で、耐擦傷性が改善された反射防止物品の表面形状をAFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)及びSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)により観察したところ、微小突起は、平面視において、全体としては非格子状に配置されていながら、所定割合以上の微小突起が、各微小突起の極大点pを母点とするボロノイ分割線bを形成して配置されていることが判った。(以下、本明細書においては、このような配置を「ボロノイ配置」とも言う。)尚、ここで微細形状の観察のために、種々の方式の顕微鏡が提供されているものの、微細構造を損なわないようにして反射防止物品の表面形状を観察する場合には、AFM及びSEMが適している。
このように、微小突起が平面視上において、非格子状に配置されている反射防止物品は、微小突起が格子状に配置されている反射防止物品に比して、微小突起群に加わる力の作用線上に、該微小突起が一定周期に存在し無い為、かかる同一作用線上の微小突起が連続して順次該物体から力を受けることが無い。そのため、外力が最初に接触する微小突起を破壊するものであった場合でも、連続して該作用線上の微小突起が破壊されることは無い。又、最初に破壊された微小突起の断片も、順次作用線上の微小突起に衝突し、該断片の数が雪崩的に増加することも無い。その結果、本発明の反射防止物品は、外力によって微小突起分の損傷が生じ難い。又、外力によって反射防止物品表面の微小突起群が局部的に破壊されても、かかる破壊は局部的に留まる。これにより、微小突起が平面視上特定の非格子状に配置されている本発明の反射防止物品は、微小突起が格子状に配置されている反射防止物品に比して、耐擦傷性は向上し、反射防止性能の低下、目視可能な傷の発生が起こり難い。又、外力により、微小突起が損傷した場合でも、その損傷個所の面積を低減することができる。微小突起群がボロノイ配置をなす場合に於いて、各ボロノイ分岐点を基点とするボロノイ分割線の平均本数が3以上4未満とした場合、斯かるボロノイ図形は典型的な2次元の周期格子である正方格子(当該ボロノイ分割線の平均本数=4)から異なった図形となり、当該ボロノイ図の母点に配置される微小突起群の配列も正方格子の周期的配列から異なったものとなる。其の為、上述の如くの外力による微小突起の破壊の低減、緩和効果も、より有効に奏せられる。特に、
3<各ボロノイ分岐点を基点とするボロノイ分割線の平均本数<4
となった場合は、更に当該ボロノイ図は六方格子(亀甲格子)とも異なる、より微小突起群の周期的配列を崩した配置となる為、微小突起群の耐擦傷性向上効果を奏する上でより好ましい。尚、ここで、谷部とは隣接する微小突起間に於ける高さの極小部(沢部分)を中心とし、微小突起群の平均突起高さの1/2以下の領域を意味する。
尚、反射防止物品において、微小突起をボロノイ配置に沿って配置するとともに、更に、隣接する各微小突起間の谷部上に各微小突起を囲んで形成される網目状分割線の少なくとも一部が当該ボロノイ分割線と一致することにより、十分な反射防止性能を維持したまま、優れた耐擦傷性を発揮することができるが、そのように配置された領域が充分に存在しない場合には、耐擦傷性向上効果を必ずしも十分に発揮できないことは言うまでもない。係る観点より、本発明においては、反射防止物品表面の20%以上、好ましくは、50%以上の領域において、網目状分割線がボロノイ分割線と一致するものとする。
ところで、上記において説明した微小突起の作製に供するロール版では、陽極酸化処理とエッチング処理との交互の繰り返しにより、穴径を拡大しながら微細穴を掘り進め、これにより微小突起の賦型に供する微細穴が作製される。多峰性の微小突起は、係る構造の頂部に対応する形状の凹部を備えた微***により作成されるものであり、このような微***は、極めて近接して作製された微細穴が、エッチング処理により、一体化して作製されると考えられる。これにより、微小突起を非格子状に配置し、且つ、その少なくとも一部をボロノイ配置による配置とするためには、陽極酸化により作製される微細穴の配置を適切にばらつかせることにより実現することができる。
この実施形態では、適度な大きさのばらつきを得ることができるように、陽極酸化処理における条件を設定し、これをもって微小突起の配置を制御して、微小突起が非格子状に配置され、且つ、その少なくとも一部がボロノイ配置にそって配置されている反射防止物品を生産する。
図10は、頂点を複数有する多峰性の微小突起の説明に供する断面図(図10(a))、斜視図(図10(b)、平面図(図10(c))である。尚、この図10は、理解を容易にするために模式的に示す図であり、図10(a)は、連続する微小突起の頂点を結ぶ折れ線により断面を取って示す図である。この図10(b)及び(c)において、xy方向は、基材2の面内方向であり、z方向は微小突起の高さ方向である。反射防止物品1において、多くの微小突起5は、基材2より離れて頂点に向かうに従って徐々に断面積(高さ方向に直交する面(図10においてXY平面と平行な面)で切断した場合の断面積)が小さくなって、頂点が1つにより作製される。しかしながら中には、複数の微小突起が結合したかのように、先端部分に溝gが形成され、頂点が溝gで区画されて2つになったもの(5A)、頂点が溝gで区画されて3つになったもの(5B)、更には頂点が溝gで区画されて4つ以上のもの(図示略)が存在した。尚、単峰性の微小突起5の形状は、概略、回転放物面の様な頂部の丸い形状、或いは円錐の様な頂点の尖った形状で近似することができる。一方、多峰性の微小突起5A、5Bの形状は、概略、単峰性の微小突起5の頂部近傍に放射状に溝状の凹部を切り込んで、頂部を複数の峰に分割したような形状で近似される。なお多峰性の微小突起は、上述したように、極めて近接して作製された微細穴が、一体化して作製される微細穴より作成され、またこのような一体化に係る近接した微細穴は陽極酸化処理によるアルミニウム材の化学的な処理により作成されることにより、頂部に形成された放射状の溝により、頂部が、各頂点に係る峰に分割された形状により作成される。多峰性突起の微小突起5A、5Bの形状は、或いは、複数の峰を含み高さ方向(図10ではZ軸方向)を含む仮想的切断面で切断した場合の縦断面形状が、極大点を複数個含み各極大点近傍が上に凸の曲線になる代数曲線Z=a2X2+a4X4+・・+a2nX2n+・・で近似されるような形状である。尚、ここで、nは自然数、a1、a2、・・は適宜の係数である。
本発明の反射防止物品は、かかる多峰性の微小突起を含む微小突起群によっても、又、良好な耐擦傷性を発現し得る。即ち、このような頂点を複数有する多峰性の微小突起は、単峰性の微小突起に比して、頂点近傍の寸法に対する裾の部分の太さが相対的に太くなる。これにより、多峰性の微小突起は、単峰性の微小突起に比して機械的強度が優れていると言える。これにより頂点を複数有する多峰性の微小突起が存在する場合、反射防止物品では、単峰性の微小突起のみによる場合に比して耐擦傷性が向上するものと考えられる。更に、具体的に反射防止物品に外力が加わった場合、単峰性の微小突起のみの場合に比して、外力をより多くの頂点で分散して受ける為、各頂点に加わる外力を低減し、微小突起が損傷し難いようにすることができ、これにより反射防止機能の局所的な劣化を低減し、更に外観不良の発生を低減することができる。又、仮に微小突起が損傷した場合でも、その損傷個所の面積を低減することができる。更に、多峰性の微小突起の多くは、最高峰高さ(麓が同じ微小突起に属する最も高い峰の高さ)が突起高さの平均値HAVG以上の微小突起に生じる為、外力を先ず各峰部分が受止めて犠牲的に損傷することによって、該微小突起の峰より低い本体部分、及び該多峰性の微小突起よりも高さの低い微小突起の損耗を防ぐ。これによっても反射防止機能の局所的な劣化を低減し、更に外観不良の発生を低減することができる。
尚、上述した図2〜図6に係る測定結果は、本実施形態に係る反射防止物品の測定結果であり、図5に示す度数分布においては、隣接突起間距離d(横軸の値)について、20nm及び40nmの短距離の極大値と120nm及び164nmの長距離の極大値との2種類の極大値が存在する。これらの極大値のうちの長距離の極大値は、微小突起本体(頂部よりも下の中腹から麓にかけての部分)の配列に対応し、一方、短距離の極大値は頂部近傍に存在する複数の頂点(峰)に対応する。これにより極大点間距離の度数分布によっても、多峰性の微小突起の存在を見て取ることができる。
尚、多峰性の微小突起は、その存在により耐擦傷性を向上できるものの、充分に存在しない場合には、この耐擦傷性を向上する効果を十分に発揮できないことは言うまでもない。係る観点より、本発明においては、表面に存在する全微小突起中における多峰性の微小突起の個数の比率は10%以上とする。特に多峰性の微小突起による耐擦傷性を向上する効果を十分に奏する為には、該多峰性の微小突起の比率は30%以上、好ましくは50%以上とする。
更にこのような多峰性の微小突起5A、5Bを含む微小突起群(5、5A、5B、・・)を有する反射防止物品を詳細に検討したところ、各微小突起の高さが種々に異なることが判った(図6、図10(a)参照)。尚、ここで各微小突起の高さとは、上述したように、麓(付け根)部を共有するある特定の微小突起について、その頂部に存在する最高高さを有する峰(最高峰)の高さを言う。図10(a)の微小突起5の如くの単峰性の微小突起の場合は、頂部における唯一の峰(極大点)の高さが該微小突起の突起高さとなる。又、図10(a)の微小突起5A、5Bのような多峰性の微小突起の場合は、頂部に在る麓部を共有する複数の峰のうちの最高峰の高さをもって該微小突起の高さとする。このように微小突起の高さが種々に異なる場合には、例えば物体の接触により高さの高い微小突起の形状が損なわれた場合でも、高さの低い微小突起においては、形状が維持されることになる。これによっても反射防止物品では、反射防止機能の局所的な劣化を低減し、更には外観不良の発生を低減することができ、その結果、耐擦傷性を向上することができる。
又、反射防止物品表面の微小突起群と物体との間に塵埃が付着すると、当該物品が反射防止物品に対して相対的に摺動した際に、該塵埃が研磨剤として機能して微小突起(群)の磨耗、損傷が促進されることになる。この場合に、微小突起群を構成する各微小突起間に高低差が有ると、塵埃は高さの高い微小突起に強く接触し、これを損傷させる。一方で高さの低い微小突起との接触は弱まり、高さの低い微小突起については損傷が軽減され、無傷若しくは軽微な傷で残存した高さの低い微小突起によって反射防止性能が維持される。
又、これに加えて、各微小突起の高さに分布(高低差)の有る微小突起群は、反射防止性能が広帯域化され、白色光のような多波長の混在する光、或は、広帯域スペクトルを持つ光に対して、全スペクトル帯域で低反射率を実現するのに有利である。これは、かかる微小突起群によって良好な反射防止性能を発現し得る波長帯域が、隣接突起間距離dの他に、突起高さにも依存する為である。
又、この場合には、多数の微小突起のうちの高さの高い微小突起のみが、例えば反射防止物品1と対向するように配置された各種の部材表面と接触することになる。これにより高さが同一の微小突起のみによる場合に比して格段的に滑りを良くすることができ、製造工程等における反射防止物品の取り扱いを容易とすることができる。尚、このように滑りを良くする観点から、ばらつきは、標準偏差により規定した場合に、10nm以上必要であるものの、50nmより大きくなると、このばらつきによる表面のざらつき感が感じられるようになる。従ってこの高さのばらつきは、10nm以上、50nm以下であることが好ましい。
又、このように多峰性の微小突起が混在する場合には、単峰性の微小突起のみによる場合に比して反射防止の性能を向上することができる。即ち、図2、図10、及び図19等に示すような多峰性の微小突起5A、5B等は、隣接突起間距離が同じ場合であっても、又、突起高さが同じ場合であっても、単峰性の微小突起と比べて、より光の反射率が低減することになる。その理由は、多峰性の微小突起5A、5B等は、頂部より下(中腹及び麓)の形状が同じ単峰性の微小突起よりも、頂部近傍における有効屈折率の高さ方向の変化率が小さくなる為である。
即ち、図10において、z=0を高さH=0とおき、高さ方向(Z軸方向)に直交する仮想的切断面Z=zで微小突起5、5A等を切断したと仮定した場合の面Z=zにおける微小突起と周辺の媒質(通常は空気)との屈折率の平均値として得られる有効屈折率nefは、切断面Z=zにおける周辺媒質(ここでは空気とする)の屈折率をnA=1、微小突起5、5A、・・の構成材料の屈折率をnM>1とし、又、周辺媒質(空気)の断面積の合計値をSA(z)、微小突起5、5A、・・の断面積の合計値をSM(z)としたとき、
nef(z)=1×SA(z)/(SA(z)+SM(z))+nM×SM(z)/(SA(z)+SM(z))(式1)
で表される。ここで、0≦z≦HPEAK MAXであり、HPEAK MAXは当該微小突起の最高峰の高さである。これは、周辺媒質の屈折率nA及び微小突起構成材料の屈折率nMを、各々周辺媒質の合計断面積SA(z)及び微小突起の合計断面積の合計値SM(z)で比例配分した値となる。
ここで、単峰性の微小突起5を基準にして考えたときに、多峰性の微小突起5A、5B、・・は、頂部近傍が複数の峰に***している。そのため、頂部近傍を切断する仮想的切断面Z=zにおいて、多峰性の微小突起5A、5B、・・は、単峰性の微小突起5、・・に比べて相対的に低屈折率である周辺媒質の合計断面積SA(z)の比率が、相対的に高屈折率である微小突起の合計断面積SM(z)の比率に比べて、より増大することになる。
その結果、仮想的切断面Z=zにおける有効屈折率nef(z)は、多峰性の微小突起5A、5B、・・の方が単峰性の微小突起5、・・に比べて、より周辺媒質の屈折率nAに近くなる。面Z=zにおける多峰性の微小突起の有効屈折率と周辺媒質の屈折率との差を|nef(z)−nA(z)|multi、単峰性の微小突起の有効屈折率と周辺媒質の屈折率との差を|nef(z)−nA(z)|monoとすると、
|nef(z)−nA(z)|multi<|nef(z)−nA(z)|mono(式2)
となる。ここでnA(z)=1とすると、
|nef(z)−1|multi<|nef(z)−1|mono(式2A)
となる。
これにより頂部近傍において、多峰性の微小突起を含む微小突起群(各微小突起間に周辺媒質を含む)については、単峰性の微小突起のみからなる突起群に比べて、その有効屈折率と周辺媒質(空気)の屈折率との差、より詳しくは、微小突起の高さ方向の単位距離当たりの屈折率の変化率をより低減化すること、換言すれば、屈折率の高さ方向変化の連続性をより高めること、が可能になることがわかる。
一般に、隣接する屈折率n0の媒質と屈折率n1の媒質との界面に光が入射する場合に、該界面における光の反射率Rは、入射角=0として、
R=(n1−n0)2/(n1+n0)2(式3)
となる。この式より界面両側の媒質の屈折率差n1−n0が小さいほど界面での光の反射率Rは減少し、(n1−n0)が値0に近づけばRも値0に近づくことになる。
(式2)、(式2A)及び(式3)より、多峰性の微小突起5A、5B、・・を含む微小突起群(各微小突起間に周辺媒質を含む)については、単峰性の微小突起5、・・のみからなる突起群に比べて光の反射率が低減する。
尚、単峰性の微小突起5のみからなる微小突起群を用いても、隣接突起間距離の最大値dmaxを反射防止を図る電磁波の波長帯域の最短波長λmin以下の十分小さな値にすることによって、十分な反射防止効果を発現することは可能である。但し、その場合、隣接峰間の距離と隣接微小突起間距離とが同一となる為、隣接微小突起間が接触、一体複合化する現象(いわゆるスティッキング)が発生し易くなる。スティッキングを生じると、実質上の隣接突起間距離dは一体複合化した微小突起数の分だけ増加する。
例えば、d=200nmの微小突起が4個スティッキングすると、実質上、スティッキングして一体化した突起の大きさは、d=4×200nm=800nm>可視光線帯域の最長波長(780nm)となり、これにより局所的に反射防止効果を損なうことになる。
一方、多峰性の微小突起5A、5B、・・からなる微小突起群の場合、頂部近傍の各峰間の隣接突起間距離dPEAKは、麓から中腹にかけての微小突起本体部の隣接突起間距離dBASEよりも小さくなり(dPEAK<dBASE)、通常、dPEAK=dBASE/4〜dBASE/2程度である。その為、各峰間の隣接突起間距離dPEAK≪λminとすることで十分な反射防止性能を得ることができる。但し、多峰性の微小突起の各峰部は、麓部の幅に対する峰部の高さの比が小さく、単峰性の微小突起の麓部の幅に対する頂点の高さの比の1/2〜1/10程度である。従って、同じ外力に対して、多峰性微小突起の峰部は単峰性の微小突起に比べての変形し難い。且つ、多峰性微小突起の本体部自体は峰部よりも隣接突起間距離は大であり、且つ、強度も大である。その為、結局、多峰性の微小突起からなる微小突起群は、単峰性の微小突起からなる突起群に比べて、スティッキングの生じ難さと低反射率とを容易に両立させることができる。
又、前記の通り可視光の反射防止用途の他に、若しくは、可視光環境下であっても当該反射防止材料が設置、使用される環境条件に応じて、想定する反射防止波長に応じたモスアイ構造を形成し、高さ分布を持たせる事により、前記の通り、従来のものより耐擦性があり、且つ、プロセス要件等で低硬度の材料を使用した場合においても互いのスティッキングを防止し、光学的必要性能を合わせ持つ反射防止材料を作製する事が可能となる。例えば、380nm前後の紫外領域について反射防止性能を得たい場合は微小突起の高さが約50nmでも可能であり、同様に700nm前後の赤外領域については約150nm〜実用上を考慮し400nmであれば可能である。尚、前記の通り微小突起の配置ピッチについては高さについて飽和するような製作条件を見出し、反射防止物品の反射率を効果的に操作する事が可能である。更に、微小突起の頂部構造についても、従来の単峰から改良を加える事で高さと反射率を両立し、且つ、物理的にスティッキングを起こしにくく、効果的に反射率を低減する事が可能となっている。
尚、多峰性の微小突起と単峰性の微小突起とを混在させるには、上記において説明した水平面上の配置の制御と同様に、陽極酸化により作製される微細穴の間隔をばらつかせることにより実現することができる。又、微細穴の高さのばらつきは、ロール版に作製される微細穴の深さのばらつきによるものであり、このような微細穴の深さのばらつきについても、陽極酸化処理におけるばらつきに起因するものと言える。
ここで陽極酸化処理における印加電圧(化成電圧)と微細穴の間隔とは比例関係にあり、更に一定範囲より印加電圧が逸脱するとばらつきが大きくなる。これにより濃度0.01M〜0.03Mの硫酸、シュウ酸、リン酸の水溶液を使用して、電圧15V(第1工程)〜35V(第2工程:第1工程に対して約2.3倍)の印加電圧により、頂点が複数の微小突起と単峰性の微小突起とが混在し、且つ、微小突起の高さH及び隣接突起間距離dがばらついた反射防止物品を生産用のロール版を作製することができる。尚、印加電圧が変動すると、微細穴の間隔のばらつきが大きくなることにより、例えば直流電源によりバイアスした交流電源を使用して印加用電圧を生成する場合等、印加電圧を意図的に変動させてもよい。又、電圧変動率の大きな電源を使用して陽極酸化処理を実行してもよい。
図12は、図4のドロネー図と双対するボロノイ図であり、図3による原画像にボロノイ分割線(白色の線分により表される図である)を重ね合わせた一例を示す参考図である。図である。(尚、分割線については、実施例の3次元測定値を使用した分割であり、かつ、一部の前記の多峰性の各頂点をそれぞれ分割としたが、これは、測定値の解釈によって若干の分割の違いを生じているものであり、図からも明らかなように前記で述べた平面重心とをよく近似するものである。又、図示範囲外も含めた全領域に於いて、全谷部上の網状分割線の20%以上がボロノイ分割線と一致するものであった。なおこの一致の判定は、ボロノイ分割腺の線分毎に、対応する網状分割腺との距離、傾きの差異を求め、この距離及び傾きの差異を判定基準値で判定して実行した。またこの判定基準値は、距離については8画素であり、傾きについては0.5度であり、一連の処理における検出限界を考慮して設定したものである。
図12に其の一部を図示したボロノイ図に於いて、図示の範囲外も含めた合計373個の多角形について、各ボロノイ分岐点を起点とするボロノイ分割線の平均本数を計算したところ3.05個であり、
3<ボロノイ分割線の平均本数<4
の条件を満たすものであった。この図の解析結果から、ロール版の製造条件を特定の条件範囲に変更した場合、反射防止物品の表面状の、少なくとも20%以上の領域において、上記において説明した隣接微小突起間の網目状分割線が、ボロノイ分割線bと一致するように、微小突起が配置されていることが判明した。尚、この図12は、水温20℃、濃度0.02Mのシュウ酸水溶液を適用し、印加電圧40Vにより120秒、陽極酸化処理を実行したものである。またエッチング処理には、第1工程に同上陽極酸化液、第2工程に水温20℃、濃度1.0Mのリン酸水溶液を適用した。陽極酸化処理とエッチング処理との回数は、それぞれ3(〜5)回である。
以上の構成によれば、反射防止物品において、微小突起を、平面視上、非格子状に配置し、且つ、少なくとも微小突起の一部を、ボロノイ配置に沿って配置する反射防止物品とすることにより、従来に比して、反射防止性能を維持したままで、耐擦傷性を向上することができる。
〔第2実施形態〕
ところで上述の実施形態では、各微小突起の平面視上の座標が、各微小突起の頂点と重心とでほぼ等しいものとして、各微小突起の頂点を母点としてボロノイ分割線を求めた。そこでこの実施形態では、各微小突起の重心を実際に母点に適用してボロノイ分割腺を求め、各微小突起を囲んで形成される網目状分割線が、各微小突起の平面視上の重心点を母点とするボロノイ分割線と一致することを確認した。
図13は、このボロノイ分割腺の検討に供した処理手順を示すフローチャートである。この処理手順は、コンピュータにおいてこの処理に供するプログラムの実行により行われる。この処理では始めに、処理に供するデータをコンピュータに入力する(ステップSP1)。ここでこの実施形態では、図2について上述したxy座標値、対応するz座標値を備えてなる各画素の情報を入力する。なおこのz座標値は、AFMにより検出された各画素に係る高さ方向の座標値である。
続いてこの処理では、領域分割処理を実行する(ステップSP2)。ここで領域分割処理は、入力されたxy座標値を備えてなる高さデータを、各微小突起に分類することにより、このxy座標値による2次元画像を各微小突起に分割する処理である。
続いてこの処理では、このようにして分類された各微小突起に係る座標値から、平面視に係る重心座標を検出する(ステップSP3)。
図14は、領域分割処理を詳細に示すフローチャートである。領域分割処理では、始めに並べ替え処理を実行する(ステップSP11)。ここで並べ替え処理は、入力データを高さの高い順にソーティングする処理である。この実施の形態では、各画素分を表すデータ構造の要素であるx座標値、y座標値、z座標値に、それぞれ属性、極大値フラグを設定して各画素のデータとし、この各画素のデータを降順にソートして画素リストを作成する。なおここで属性は、各画素の分類結果を示す情報であり、未設定、仮置き、領域境界、クラスIDの4状態である。また極大値フラグは、頂点検出の処理に供するフラグである。これら属性及び極大値フラグは、当初、初期値に設定される。
続いて領域分割処理は、反復処理(SP12〜SP13の処理)を繰り返し実行することにより、画素リストに登録された各画素のデータを、順次、高さの高い順に選択して分類する。具体的に、この反復処理において、処理対象の画素のデータを選択し、この画素のデータの属性が「仮置き」か否か判定する(ステップSP14)。ここで「仮置き」は、それまでの他の画素データの処理において、今回の処理対象の画素データが、谷又は多峰性突起の溝に係る画素である可能性を有している場合に設定される属性である。
ここで処理対象の画素が「仮置き」である場合、この画素の属性を境界領域に設定することにより当該画素を微小突起間の境界(谷である)に設定し(ステップSP15)、次の画素に処理を切り替える。これとは逆に「仮置き」で無い場合、当該画素に隣接する近傍8画素に、既にクラスタIDが設定された画素(反復処理の実行対象となった画素である)が存在するか否か判定する(ステップSP16)。ここで既にクラスタIDが設定された近傍画素が存在しない場合、当該画素を極大値として「極大値フラグ」をtrueに設定し、属性を、(既に設定されたクラスの個数+1)のクラスタIDに設定し(ステップSP17)、次の画素に処理を切り替える。また既にクラスタIDの設定された近傍画素が存在する場合、そのクラスタIDが設定された近傍画素(クラスタリングされた近傍画素)の数が1つかどうかを判定する(ステップSP18)。
ここで当該画素数が1つの場合、さらに当該画素に隣接する近傍8画素に、属性が「仮置き」に設定された画素が存在するか否か判定し(ステップSP19)、「仮置き」に設定された画素が存在しない場合、クラスタIDが設定されてなる画素のクラスタIDを、当該処理対象画素の属性に設定する(ステップSP20)、これにより処理対象画素を検出された近傍画素の微小突起に分類し、次の画素に処理を切り替える。
これに対してクラスタIDの設定された近傍画素の数が1つであって、隣接する近傍8画素に、属性が「仮置き」に設定された画素が存在する場合、この画素の属性を境界領域に設定し(ステップSP21)、次の画素に処理を切り替える。
また既にクラスタIDの設定された近傍画素が2つ以上存在する場合、この画素の属性を境界領域に設定し(ステップSP22)、さらに当該画素に隣接する近傍8画素に、属性が「仮置き」に設定された画素が存在するか否か判定し(ステップSP23)、「仮置き」に設定された画素が存在しない場合、次の画素に処理を切り替える。
これに対してクラスタIDの設定された近傍画素が2つ以上存在することによりこの画素の属性を境界領域に設定し(ステップSP22)、さらに当該画素に隣接する近傍8画素に、属性が「仮置き」に設定された画素が存在する場合、近傍8画素に、属性が未設定でありかつ斜面に位置している画素がないかどうかを判定し(ステップSP24)、このような画素が存在しない場合、次の画素に処理を切り替える。これに対してこのような画素が存在する場合、仮置き設定処理を実行する(ステップSP25)。
この仮置き設定処理において、この近傍8画素のZ座標値から、これら近傍8画素のXYZ座標値により求められる曲面の法線方向を算出し、この法線方向による法線をXY平面に投影することにより、当該処理対象画素から谷の方向を求める。また近傍8画素のうちで、このようにして求めた谷の方向の画素の属性を「仮置き」に設定する。
この一連の処理により、図15に示すように、この実施形態では、高さの高い画素から順に、隣接8画素の属性の設定を参考にして順次属性を設定して境界Sを検出する。なおこの図15において、(a)及び(e)は、微細突起を平面視した図であり、(b)、(c)及び(d)は、側方より見た図である。この実施形態では、高さの高い画素から順に、隣接8画素の属性の設定を参考にして順次属性を設定することにより、始めに頂点P1係る画素が処理対象に設定されて属性がクラスID=1に設定される(図15(a)及び(b))。続いて図15(c)に示すように、この頂点P1の近傍画素が順次処理対象画素に設定されてクラスID=1が設定され、その後、頂点P2に係る画素が処理対象に設定されて属性がクラスID=2に設定される(図15(c))。またさらにこれら頂点P1及びP2にかかる突起の画素が順次処理対象に設定されて、それぞれクラスID=1又はID=2にクラスタリングされ、境界Sが検出されることになる(図15(d)及び(e))。これによりそれぞれz座標値を備えてなる画素が、微小突起毎のクラスタIDにより分類される。
この一連の処理では、重心算出処理において、次式により示すように、このようにしてクラスタIDにより分類された各画素のx座標値、Y座標値を、それぞれクラスタID毎に平均値化し、重心の座標(x座標及びy座標を検出する。なおここでnは各クラスタIDの画素数である。
図16は、この一連の処理により検出された境界、重心点を、第1実施形態で検出した頂点と共に示す図である。この図16によれば、ほぼ頂点と重心とが一致することが判る。なおこの図16において、黒色の丸点は、頂点であり、黒色の四角形状の点は、重心である。この実施形態では、このようにして検出した重心点を母点に設定して第1実施形態と同様にしてボロノイ分割腺を求めた。この場合、頂点を母点とした場合とほぼ同一にボロノイ分割腺が求められること、さらには各微小突起を囲んで形成される網目状分割線が、各微小突起の平面視上の重心点を母点とするボロノイ分割線と一致することを確認できた。
またこのようにしてクラスタリングしてなる領域毎に、分岐点数を計測した。図17は、この分岐点数の度数分布を示す図である。この度数分布の計測結果によれば、分岐点の数は、6個が最も多いものの、度数分布の中心は6個より少ない側に偏っており、これによりこの分岐点数によっても、微小突起は、平面視上、非格子状に配置されていてことが判る。
以上の構成によれば、微小突起の頂点に代えて実際に重心を母点に適用してボロノイ分割腺を求めるようにしても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
〔第3実施形態〕
図18は、第3の実施形態に係る陽極酸化処理及びエッチング処理の説明に供する図である。この実施形態では、この図18に係る構成が異なる点を除いて上述の実施形態と同一に構成され、これにより一段と確実に多峰性微小突起、環状微小突起群等を作製する。
ここでこの実施形態では、下記の第1から第5の工程を順次実行して賦型処理に供する微細穴を作製してロール版を作製する。なお陽極酸化処理における印加電圧と、微細穴のピッチとの関係は比例関係であるが、実際上、処理に供するアルミニウムの粒界等により微細穴のピッチにはばらつきが生じる。しかし、図18においては、このばらつきが存在しないものとして、微細穴が規則正しい配列により作製されるものとして説明する。また図18(a)〜図18(e)において、左側の図は、ロール版13の表面の拡大図を示し、右側の図は、左側の図におけるa−a断面図を示す。また各工程には、図9の対応する工程に付した符号と同一の符号を付して説明する。
(第1の工程)
図18(a)に示すように、まず、賦型用金型の表面のアルミニウム層に、電圧V1を印加して陽極酸化工程A1を実行した後に、エッチング工程E1を実行し、微細穴f1を形成する。ここで、陽極酸化工程A1は、アルミニウムのフラット面に後続する陽極酸化処理のきっかけを作製するものである。なお、この場合、エッチング工程を適宜省略してもよい。
(第2の工程)
次に、電圧V1よりも高い電圧V2(V2>V1)を印加して陽極酸化工程A2を実行した後に、エッチング工程E2を実行する。これにより、陽極酸化工程A2では、図18(b)に示すように、先の陽極酸化工程A1により形成された微細穴f1のうち、陽極酸化工A2に対応する間隔の微細穴f1を更に掘り下げる。 本実施形態では、陽極酸化工程A2によって、先の陽極酸化工程A1で形成された微細穴f1を二つ置きに掘り進める処理が行われる。従って、賦型用金型の表面には、二つ置きに広くかつ深く掘り下げられた微細穴f2が形成され、ロール版13の表面には、微細穴f1と微細穴f2とが混在する状態となる。
(第3の工程)
続いて、電圧V2よりも高い電圧V3(V3>V2)を印加して陽極酸化工程A3を実行した後に、エッチング工程E3を実行する。この工程では、ピッチの異なる微細穴を作製する。具体的には、印加する電圧を、電圧V2から電圧V3へ徐々に上昇させ、この印加電圧の上昇を離散的(段階的)に実行すると、微小突起の高さ分布(微細穴の深さ分布)を離散的に作製することができ、この印加電圧の上昇を連続的に実行すると、微小突起の高さ分布を正規分布に設定することができる。そのため、本実施形態では、陽極酸化工程A3における印加電圧の印加時間、エッチング工程の処理時間を上述の第1の工程、第2の工程よりも長く設定することにより、図18(c)に示すように、最初の陽極酸化工程A1において形成された微細穴f1が二つ、一つに纏まるように広くかつ深く掘り進められ、また、その一つに纏められた微細穴f3の底面が略平坦に形成される(平坦微細穴形成工程)。ここで、略平坦とは、微細穴の底面が平坦な状態だけでなく、その底面が大きい曲率半径で湾曲している状態をも含む状態をいう。
(第4の工程)
続いて、電圧V3よりも高い電圧V4(V4>V3)を印加して陽極酸化工程A4を実行した後に、エッチング工程E4を実行する。この工程では、目的とする突起間間隔によるピッチにより微細穴を作成する。この陽極酸化工程A4においても、印加電圧は、電圧V3から電圧V4へ徐々に上昇させる。これにより、上記第3の工程により掘り進められた微細穴f3の一部が更に掘り進められ、その結果、図18(d)に示すように、微細穴f4となり、この微細穴f4が高さの高い単峰性の微小突起を形成する。
(第5の工程)
続いて、印加電圧を上記第1の工程における電圧V1に変更して陽極酸化工程A5を実行した後に、エッチング工程E5を実行する。この工程では、陽極酸化工程A3において形成された微細穴f3であって、第4の工程の陽極酸化工程A4の影響を受けていない微細穴f3の底面に、図18(e)に示すように、微細穴を複数個形成し、多峰性の微小突起に対応する微細穴f5を形成する(多峰突起用微細穴形成工程)。ここで、印加する電圧V1の大きさを調整することによって、微細穴f5の底面に形成される微細穴の数を増減したり、その微細穴の間隔を調整したりすることができる。
以上より、賦型用金型の表面には、高さの異なる微小突起を形成する微細穴f1、f2、f4や、多峰性の微小突起を形成する微細穴f5が形成される。ここで、この一連の工程では、第1の工程及び第2の工程により作製された深さの異なる微細穴f1、f2を、第3の工程で掘り進めて底面の略平坦な微細穴f3を作製し、第4の工程において、この微細穴f3を掘り進めて単峰性の微小突起に係る微細穴f4を作製し、また、第5の工程において、この微細穴f3の底面を加工して多峰性の微小突起に係る微細穴f5を作製している。ここで、第1の工程から第4の工程に係る陽極酸化工程の印加時間、処理時間、エッチング工程の処理時間等を制御して、各工程で作製される微細穴の深さを制御することにより、微小突起の高さの分布や、多峰性の微小突起の高さの分布を制御することができる。なお、上述の第1の工程〜第5の工程は、必要に応じて回数を省略したり、繰り返したり、工程を一体化したりすることができる。
この第3の実施形態によれば、より具体的構成により多峰性微小突起等の作製に供するロール版を作製することができる。
〔他の実施形態〕
以上、本発明の実施に好適な具体的な構成を詳述したが、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述の実施形態の構成を種々に変更し、更には従来構成と組み合わせることができる。
即ち、上述の実施形態では、陽極酸化処理とエッチング処理との繰り返し回数をそれぞれ3(〜5)回に設定する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、繰り返し回数をこれ以外の回数に設定してもよく、又、このように複数回処理を繰り返して、最後の処理を陽極酸化処理とする場合にも広く適用することができる。
又、上述の実施形態では、反射防止物品を液晶表示パネル、電場発光表示パネル、プラズマ表示パネル等の各種画像表示パネルの表側面に配置して視認性を向上する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば液晶表示パネルの裏面側に配置してバックライトから液晶表示パネルへの入射光の反射損失を低減させる場合(入射光利用効率を増大させる場合)にも広く適用することができる。尚、ここで画像表示パネルの表面側とは、該画像表示パネルの画像光の出光面であり、画像観察者側の面でもある。又、画像表示パネルの裏面側とは、該画像表示パネルの表面の反対側面であり、バックライト(背面光源)を用いる透過型画像表示裝置の場合は、該バックライトからの照明光の入光面でもある。
又、上述の実施形態では、賦型用樹脂にアクリレート系の紫外線硬化性樹脂を適用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、エポキシ系、ポリエステル系等の各種紫外線硬化性樹脂、或いはアクリレート系、エポキシ系、ポリエステル系等の電子線硬化性樹脂、ウレタン系、エポキシ系、ポリシロキサン系等の熱硬化性樹脂等の各種材料及び各種硬化形態の賦型用樹脂を使用する場合にも広く適用することができ、更には例えば加熱した熱可塑性の樹脂を押圧して賦型する場合等にも広く適用することができる。
又、上述の実施形態では、図1に図示の如く、基材2の一方の面上に受容層4(紫外線硬化性樹脂層)を積層してなる積層体の該受容層4上に微小突起群を賦形し、該受容層4を硬化せしめて反射防止物品1を形成している。層構成としては2層の積層体となる。但し、本発明は、かかる形態のみに限定される訳では無い。本発明の反射防止物品1は、図示は略すが、基材2の一方の面上に、他の層を介さずに直接、微小突起群を賦形した単層構成であってもよい。或いは、基材2の一方の面に1層以上の中間層(層間の密着性、塗工適性、表面平滑性等の基材表面性能を向上させる層。プライマー層、アンカー層等とも呼稱される。)を介して受容層4を形成し、該受容層表面に微小突起群を賦形した3層以上の積層体であってもよい。
更に、上述の実施形態では、図1に図示の通り、基材2の一方の面上にのみ(直接或いは他の層を介して)微小突起群を形成しているが、本発明はかかる実施形態には限定され無い。基材2の両面上に(直接或いは他の層を介して)各々微小突起群を形成した構成であってもよい。又、図示は略すが、図1等に図示した通り、本発明の反射防止物品1において、基材2の微小突起群形成面とは反対側の面(図1においては基材2の下側面)に各種接着剤層を形成し、更に該接着剤層表面に離型フィルム(離型紙)を剥離可能に積層してなる接着加工品の形態とすることも出来る。かかる形態においては、離型フィルムを剥離除去して接着剤層を露出せしめ、該接着剤層により所望の物品の所望の表面上に本発明の反射防止物品1を貼り合わせ、積層することが出来、簡便に所望の物品に反射防止性能を付与することができる。接着剤としては、粘着剤(感圧接着剤)、2液硬化型接着剤、紫外線硬化型接着剤、熱硬化型接着剤、熱熔融型接着剤等の公知の接着形態のものが各種使用出来る。
又、図示は略すが、図1等に図示の通り本発明の反射防止物品1において、微小突起群形成面上に剥離可能な保護フィルムを仮接着した状態で保管、搬送、売買、後加工若しくは施工を行い、而かる後に適時、該保護フィルムを剥離除去する形態とすることもできる。かかる形態においては、保管、搬送等の間に微小突起群が損傷若しくは汚染して反射防止性能が低下を防止することができる。
又、上述の実施形態では、図1、図10(a)に示すように、各隣接微小突起間の谷底(高さの極小点)を連ねた面は高さが一定な平面であったが、本発明はこれに限らず、図19に示すように、各微小突起間の谷底を連ねた包絡面が、可視光線帯域の最長波長λmax以上の周期D(即ち、D>λmaxである)でうねった構成としてもよい。又、該周期的なうねりは、基材2の表裏面に平行なXY平面(図10、図19参照)における1方向(例えばX方向)のみでこれと直交する方向(例えばY方向)には一定高さであってもよいし、或いはXY平面における2方向(X方向及びY方向)共にうねりを有していてもよい。D>λmaxを満たす周期Dでうねった凹凸面6が多数の微小突起に重畳することによって、微小突起群で完全に反射防止し切れずに残った反射光を散乱し、殘留反射光、とくに鏡面反射光を更に視認し難くし、以って、反射防止効果を一段と向上させることができる。
尚、かかる凹凸面6の周期Dが前面に渡って一定では無く分布を有する場合は、該凹凸面について凸部間距離の度数分布を求め、その平均値をDAVG、標準偏差をΣとしたときの、
DMIN=DAVG―2Σ
として定義する最小隣接突起間距離を以って周期Dの代わりとして設計する。即ち、微小突起群の殘留反射光の散乱効果を十分奏し得る条件は、
DMIN>λmax
である。通常、D又はDMINは1〜200μm、好ましくは10〜100μmとされる。各微小突起の谷底を連ねた包絡面形が、D(又はDMIN)>λmax、なる凹凸面6を呈する樣な微小突起群を形成する具体的な製造方法の一例を挙げると以下の通りである。即ち、ロール版13の製造工程において、円筒(又は円柱)形状の母材の表面にサンドブラスト又はマット(つや消し)メッキによって凹凸面6の凹凸形状に対応する凹凸形状を賦形する。次いで、該凹凸形状の面上に、直接或いは必要に応じて適宜の中間層を形成した後、アルミニウ層を積層する。その後、該凹凸形状表面に対応した表面形状を賦形されたアルミニウム層に上述の実施形態と同様にして陽極酸化処理及びエッチング処理を施して微小突起5、5A、5Bを含む微小突起群を形成する。
又、上述の実施形態では、ロール版を使用した賦型処理によりフィルム形状による反射防止物品を生産する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、反射防止物品の形状に係る透明基材の形状に応じて、例えば平板、特定の曲面形状による賦型用金型を使用した枚葉の処理により反射防止物品を作成する場合等、賦型処理に係る工程、金型は、反射防止物品の形状に係る透明基材の形状に応じて適宜変更することができる。
又、上述の実施形態では、画像表示パネルの表側面、或いは、照明光の入射面にフィルム形状による反射防止物品を配置する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、種々の用途に適用することができる。具体的には、画像表示パネルの画面上に間隙を介して設置されるタッチパネル、各種の窓材、各種光学フィルタ等による表面側部材の裏面(画像表示パネル側)に配置する用途に適用することができる。尚、この場合には、画像表示パネルと表面側部材との間の光の干渉によるニュートンリング等の干渉縞の発生の防止、画像表示パネルの出光面と表面側部材の入光面側との間の多重反射によるゴースト像の防止、更には画面から出光されてこれら表面側部材に入光する画像光について、反射損失の低減等の効果を奏することができる。
或いは、本発明の反射防止物品は、タッチパネルを構成する透明電極として、フィルム或いは板状の透明基材上に本発明特定の微小突起群を形成し、更に該微小突起群上にITO(酸化インジウム錫)等の透明導電膜を形成したものを用いることが出来る。この場合には、該タッチパネル電極とこれと隣接する対向電極又は各種部材との間での光反射を防止して、干渉縞、ゴースト像等の発生を低減させる効果を奏することが出来る。
又、店舗のショウウインドウや商品展示箱、美術館の展示物の展示窓や展示箱等に使用する硝子板表面(外界側)、或いは表面及び裏面(商品又は展示物側面)の両面に配置するようにしてもよい。尚、この場合、該硝子板表面の光反射防止による商品、美術品等の顧客や観客に対する視認性を向上することができる。
又、眼鏡、望遠鏡、写真機、ビデオカメラ、銃砲の照準鏡(狙撃用スコープ)、双眼鏡、潜望鏡等の各種光学機器に用いるレンズ又はプリズムの表面に配置する場合にも広く適用することができる。この場合、レンズ又はプリズム表面の光反射防止による視認性を向上することができる。又、更に書籍の印刷部(文字、写真、図等)表面に配置する場合にも適用して、文字等の表面の光反射を防止し、文字等の視認性向上することができる。又、看板、ポスター、其の他各種店頭、街頭、外壁等における各種表示(道案内、地図、或いは禁煙、入口、非常口、立入禁止等)の表面に配置して、これらの視認性を向上することができる。又、更に白熱電球、発光ダイオード、螢光燈、水銀燈、EL(電場発光)等を用いた照明器具の窓材(場合によっては、拡散板、集光レンズ、光学フィルタ等も兼ねる)の入光面側に配置するようにして、窓材入光面の光反射を防止し、光源光の反射損失を低減し、光利用効率を向上することができる。又、更に時計、其の他各種計測機器の表示窓表面(表示観察者側)に配置して、これら表示窓表面の光反射を防止し、視認性を向上することができる。
又、更に、自動車、鉄道車両、船舶、航空機等の乗物の操縦室(運転室、操舵室)の窓の室内側、室外側、或は、その両側の表面に配置して窓における室内外光を反射防止して、操縦者(運転者、操舵者)の外界視認性を向上することができる。又、更に、防犯等の監視、銃砲の照準、天体観測等に用いる暗視装置のレンズ若しくは窓材表面に配置して、夜間、暗闇での視認性を向上することができる。
又、更に、住宅、店舗、事務所、学校、病院等の建築物の窓、扉、間仕切、壁面等を構成する透明基板(窓硝子等)の表面(室内側、室外側、あいはその両側)の表面に配置して、外界の視認性、或は、採光効率を向上することができる。又、更に、温室、農業用ビニールハウスの透明シート、若しくは透明板(窓材)の表面に配置して、太陽光の採光効率を向上することができる。更に、又、太陽電池表面に配置して、太陽光の利用効率(発電効率)を向上することができる。
又、更に、上述の実施形態においては、反射防止を図る電磁波の波長帯域を、専ら、可視光線帯域(の全域又は一部帯域)としたが、本発明はこれに限らず、反射防止を図る電磁波の波長帯域を赤外線、紫外線等の可視光線以外の波長帯域に設定してもよい。その場合は前記の各条件式中において、電磁波の波長帯域の最短波長Λminを、それぞれ、赤外線、紫外線等の波長帯域に於ける反射防止効果を希望する最短波長に設定すればよい。例えば、最短波長Λminが850nmの赤外線帯域の反射防止を希望する場合は、隣接突起間距離d(若しくはその最大値dmax)を850nm以下、例えば、d(dmax)=800nmと設計すればよい。尚、この場合は、可視光線帯域(380〜780nm)においては反射防止効果は期待し得ず、専ら波長850nm以上の赤外線に対しての反射防止効果を奏する反射防止物品が得られる。
以上例示の各種実施形態において、硝子板等の透明基板の表面、裏面、或いは表裏両面に本発明のフィルム状の反射防止物品を配置する場合、該透明基板の全面にわたって配置、被覆する以外に、一部分の領域にのみ配置することも出来る。かかる例としては、例えば、1枚の窓硝子について、其の中央部分の正方形領域において、室内側表面にのみフィルム状の反射防止物品を粘着剤で貼着し、その他領域には反射防止物品を貼着し無い場合を挙げることが出来る。透明基板の一部分の領域にのみ反射防止物品を配置する形態の場合は、特別な表示や衝突防止柵等の設置無しでも、該透明基板の存在を視認し易くして、人が該透明基板に衝突、負傷する危険性を低減する効果、及び室内(屋内)の覗き見防止と該透明基板の(該反射防止物品の配置領域における)透視性とが両立出来ると言う効果を奏し得る。