本発明者は、フィルムの幅方向端部に発生する剥離不良は、端部の乾燥が他の部分の乾燥より進行していることによると推察した。また、皮膜の形成も、流延ダイの吐出口の両端部付近に発生することから、流延ダイから流延された流延膜の端部の乾燥が他の部分の乾燥より進行していることによると推察した。これらのことから、本発明者は、前記皮膜の形成と前記剥離不良とは関連性があると推察した。そこで、この剥離不良や皮膜形成を抑制するために、流延ダイから吐出される流延膜の幅方向端部の溶媒濃度を高める方法が適用できると考えた。具体的には、例えば、特許文献1のような、流延ダイの吐出口の両端部外側から、溶剤を流す方法が適用できると考えた。
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、流延ダイの吐出口の両端部付近に、ドープに基づく皮膜が形成されることを抑制することに着目してなされた方法である。よって、本発明者の検討によれば、この方法を単に用いても、流延ダイ周囲の環境変化の影響等を受けやすく、実際には、剥離不良を充分に抑制できない場合があった。
本発明者は、流延ダイ周囲の環境変化の影響に着目し、皮膜形成やフィルムの剥離不良を抑制できる条件を鋭意検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。
以下、本発明の樹脂フィルムの製造方法に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、透明性樹脂を溶媒に溶解した樹脂溶液(ドープ)を、走行する支持体上に流延ダイから流延して流延膜(ウェブ)を形成する流延工程と、前記流延膜を前記支持体から剥離する剥離工程と、剥離した流延膜を乾燥させる乾燥工程とを備えており、いわゆる溶液流延製膜法による製造方法である。例えば、図1に示すような溶液流延製膜法による樹脂フィルムの製造装置によって行われる。なお、樹脂フィルムの製造装置としては、図1に示すものに限定されず、他の構成のものであってもよい。
そして、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、前記流延工程において、前記流延ダイの吐出口から前記樹脂溶液を吐出して、前記支持体上に流延するとともに、前記流延ダイの吐出口の長手方向両端部から前記透明性樹脂を溶解可能な溶剤を流下させ、下記式(1)を満たすものである。
−5 < T2 − T1 < 5 (1)
式中、T1は、前記溶剤が前記吐出口から流下された直後の前記溶剤の温度[℃]を示し、T2は、前記溶剤が前記支持体に到達した時点の前記溶剤の温度[℃]を示す。
なお、T1及びT2は、赤外線サーモグラフィ等の非接触の温度検出装置を用いて測定することができる。なお、前記流延ダイの吐出口の長手方向両端部から吐出された溶剤は、前記流延ダイの吐出口から吐出された、リボン状の樹脂溶液(流延リボン)に徐々に浸透する。赤外線サーモグラフィ等の非接触の温度検出装置は、表面の温度を測定できるので、赤外線サーモグラフィ等の非接触の温度検出装置を用いて測定することによって、流延リボンに浸透してしまう前の流延リボン上に残存している溶剤の温度を測定することができる。
図1は、無端ベルト支持体11を使用した溶液流延法による樹脂フィルムの製造装置1の基本的な構成を示す概略図である。樹脂フィルムの製造装置1は、無端ベルト支持体11、流延ダイ20、剥離ローラ13、乾燥装置14、及び巻取装置15等を備える。前記流延ダイ20は、透明性樹脂を溶媒に溶解した樹脂溶液(ドープ)16をリボン状に吐出して、前記無端ベルト支持体11の表面上に流延する。前記無端ベルト支持体11は、一対の駆動ローラ及び従動ローラによって駆動可能に支持され、流延ダイ20から流延された樹脂溶液16からなる流延膜(ウェブ)を形成し、搬送しながら、前記剥離ローラ13で剥離可能な程度まで乾燥させる。そして、前記剥離ローラ13は、乾燥された流延膜を前記無端ベルト支持体11から剥離する。剥離された流延膜は、前記乾燥装置14によってさらに乾燥され、乾燥された流延膜を樹脂フィルムとして前記巻取装置15に巻き取る。
前記無端ベルト支持体11は、図1に示すように、表面が鏡面の、無限に走行する金属製の無端ベルトである。前記ベルトとしては、流延膜の剥離性の点から、例えば、ステンレス鋼等からなるベルトが好ましく用いられる。前記流延ダイ20によって流延する流延膜の幅は、無端ベルト支持体11の幅を有効活用する観点から、無端ベルト支持体11の幅に対して、80〜99%とすることが好ましい。そして、最終的に1500〜4000mmの幅の樹脂フィルムを得るためには、無端ベルト支持体11の幅は、1800〜4500mmであることが好ましい。また、無端ベルト支持体の代わりに、表面が鏡面の、回転する金属製のドラム(無端ドラム支持体)を用いてもよい。
図2は、流延ダイ20の周辺を示す概略斜視図である。図3は、無端ベルト支持体11の走行方向下流側から見た流延ダイ20の側面図である。図4は、図3の切断面線VI−VIから見た流延ダイ20の断面図である。
前記流延ダイ20は、図2〜4に示すように、流延ダイ本体21とドープ供給管22と側板23と溶剤供給管24とを備えている。前記ドープ供給管22は、図4に示すように、前記流延ダイ本体21の上端部に接続され、流延ダイ本体21内にドープ16を供給する。前記流延ダイ本体21は、図4に示すように、ドープ16を前記無端ベルト支持体11に安定して流延させるためのマニホールド部21aと、ドープ16を吐出することによりドープ16を前記無端ベルト支持体11に流延させるための吐出口21bとを備える。前記側板23は、流延ダイ本体21の長手方向(無端ベルト支持体11の搬送方向に略直交する方向)の両側端に備えられる。流延ダイ本体21の長手方向の両側端に備えられる前記側板23間の距離は、図3に示すように、流延ダイ本体21の吐出口21bの長手方向の長さ、すなわち、リボン状の樹脂溶液16の幅方向の長さを規定する。前記溶剤供給管24は、前記側板23の、前記無端ベルト支持体11の走行方向下流側、すなわち、前記ドープ16の進行方向下流側側面上に設置され、前記透明性樹脂を溶解可能な溶剤35を前記側板23内に供給する。そして、前記溶剤供給管24には、溶剤の流通方向下流側から、順に、流量検出装置31と送液装置32とバルブ33と溶剤貯留槽34とが接続されている。前記溶剤貯留槽34は、前記透明性樹脂を溶解可能な溶剤35を貯留する。前記バルブ33は、開放することによって、前記溶剤貯留槽34に貯留された溶剤35を前記溶剤供給管24中への流通を開始させる。前記送液装置32は、前記溶剤供給管24中の溶剤35を、前記側板23内に向かって送液する。前記流量検出装置31は、前記溶剤供給管24中を流通する溶剤35の流量を検出する。そして、その検出結果に基づいて、前記送液装置32の出力を制御してもよい。そうすることによって、図3に示すように、前記側板23内に供給された溶剤35は、前記側板23内を流通し、前記吐出口21bの長手方向両端部から流下させる。すなわち、前記流延膜16の両端部上に、前記溶剤35が載るように流下させる。
その際、前記流延ダイ20の周辺の環境を、上記式(1)を満たすような環境とする。そうすることによって、フィルム(流延膜)の剥離不良を抑制し、レタデーションや配向等が均一な光学特性に優れた樹脂フィルムを安定して製造することができる。
また、溶液流延製膜法により樹脂フィルムを製造すると、流延ダイの吐出口の両端部付近に、ドープに基づく皮膜が形成されることがあった。そして、この皮膜は、ドープの溶媒が乾燥することによって形成されるものであり、樹脂フィルムの製造により、徐々に成長するものであった。そして、この皮膜は、流延するドープの流れを乱し、樹脂フィルムの製造を阻害するという問題があった。さらに、流延ダイから離脱した皮膜が、樹脂フィルム等を損傷させるという問題もあった。本実施形態によれば、フィルムの剥離不良を抑制するだけではなく、この皮膜形成も抑制できる。また、この皮膜形成は、フィルムの剥離性と相関があると考えられる。よって、本実施形態において、フィルムの剥離不良を抑制できるのは、流延ダイの吐出口の長手方向両端部付近に皮膜が形成されることを抑制できることにもよると考えられる。
一方、吐出口から吐出されてから、支持体に到達するまでの、前記溶剤の温度変化が大きすぎると、前記溶剤が、流延膜の支持体からの剥離性を向上させる効果が低くなり、流延膜の剥離不良は発生する傾向があった。具体的には、T1がT2と比較して高すぎる場合、前記吐出口から吐出された溶剤、すなわち、前記流延リボン上の溶剤の表面に、大気中の水分が析出する傾向があり、これが原因で、流延膜の剥離不良が発生する傾向があった。また、T2がT1と比較して高すぎる場合、前記溶剤が揮発しすぎて、前記溶剤を前記流延膜に流下させることにより、前記流延膜の支持体からの剥離性を向上させるという上記効果を充分に発揮させることができない傾向があり、これが原因で、流延膜の剥離不良が発生する傾向があった。
また、T1とT2との関係は、前記流延ダイ20の周辺の環境によって変化する。具体的には、例えば、溶剤の種類、周囲の温度、吐出口から吐出された流延リボンの温度、溶剤の流下速度、溶剤の流下流量、前記吐出口から、前記吐出口から吐出された樹脂溶液が前記支持体に到達する箇所までの距離、前記吐出口から吐出された樹脂溶液や溶剤に吹き付ける風の有無やその風量、前記吐出口から吐出された溶剤を加温又は冷却させること等によって変化する。前記溶剤を加温する方法としては、例えば、前記吐出口から吐出された溶剤が前記支持体に到達するまでの間に、前記溶剤にヒータを埋め込み、そのヒータ上を溶剤が流れるようにして、前記溶剤を加熱させる方法や、前記吐出口から吐出された溶剤に、赤外線や温風をあてる方法等が挙げられる。また、前記溶剤を冷却する方法としては、例えば、前記吐出口から吐出された溶剤に、冷風をあてる方法等が挙げられる。
また、T1及びT2は、上記関係を満たしていればよいが、T1及びT2は、それぞれ15〜30℃であることが好ましい。T1及びT2が低すぎたり、高すぎたりすると、前記溶剤と前記流延膜との温度差が大きくなり、この温度差によって、前記流延膜のいずれか一方の表面が収縮し、端部が折れやすくなる傾向がある。
また、前記流延ダイ20の周辺の環境を、下記式(2)を満たすような環境とすることが好ましく、下記式(3)を満たすような環境とすることがより好ましい。そうすることによって、フィルム(流延膜)の剥離不良をより抑制することができる。
10−7 < W2 / W1 < 10−5 (2)
3×10−7 < W2 / W1 < 10−6 (3)
式中、W1は、前記溶剤の供給量[ml]を示し、W2は、前記溶剤の損失量[ml]を示す。
W1に対して、W2が少なすぎると、溶剤の揮発性が低すぎ、前記支持体上等でも蒸発しにくくなり、フィルムの剥離不良が発生する傾向がある。また、W1に対して、W2が多すぎると、溶剤が蒸発しすぎて、溶剤がフィルムの剥離不良を抑制することができない傾向がある。
また、W1とW2との関係は、前記流延ダイ20の周辺の環境によって変化する。具体的には、例えば、流延ダイの吐出口の両端部付近に形成される皮膜の存在、溶剤内に存在する不純物による阻害、溶剤の種類、周囲の温度、吐出口から吐出された流延リボンの温度、溶剤の流下速度、溶剤の流下流量、前記吐出口から、前記吐出口から吐出された樹脂溶液が前記支持体に到達する箇所までの距離、前記吐出口から吐出された樹脂溶液や溶剤に吹き付ける風の有無やその風量、前記吐出口から吐出された溶剤を加温又は冷却させること等によって変化する。なお、W1は、前記送液装置32の出力によって変化する。前記溶剤を加温又は冷却する方法としては、上記と同様の方法が挙げられる。
なお、W1は、前記溶剤の流下量である。また、W2は、前記支持体上に到達した溶剤の量を計測し、W1と、前記支持体上に到達した溶剤の量との差分を算出することによって、求められる。前記支持体上に到達した溶剤の量は、前記吐出口から吐出された溶剤が前記支持体に到達するまでの間の溶剤から揮発したガス濃度を単位時間毎に測定し、前記流路を前記溶剤が流通するのにかかる時間分積算することによって、算出することができる。
前記吐出口21bは、図4に示すように、前記流延ダイ本体21の前記無端ベルト支持体11側の稜線上に形成されている。この稜線は、図3に示すように、前記無端ベルト支持体11の走行方向に略直交する方向に延びている。そして、前記吐出口21bと前記無端ベルト支持体11との間隔Aは、200〜5000μmであることが好ましい。間隔Aが狭すぎると、流延ダイ20と無端ベルト支持体11とが接触するおそれがある。また、間隔Aが広すぎると、流延リボンが風等の外的な要因の影響を受けやすい傾向がある。
前記ドープ供給管22は、図3に示すように、3本に分岐して、流延ダイ本体21に接続されているが、この本数に限定されず、1本でも、3本以外の複数本であってもよい。なお、ドープ供給管22の本数は、ドープ16を流延ダイ本体21に安定して供給する点から2〜4本程度が好ましい。
また、ドープ供給管22が複数本の場合、隣り合うドープ供給管22の、流延ダイ本体21への接続位置の中心間距離(ピッチ)Cは、ドープ16の安定供給の観点から、前記吐出口21bの幅(流延リボンの幅)Bに対して、10〜25%程度であることが好ましい。また、隣り合うドープ供給管22の間隔Cは、全て同等であることが好ましい。
また、ドープ供給管22は、図2〜4に示すように、分岐後、直角に曲がったり、曲率半径の小さい等の急激に曲がっているのではなく、滑らかに曲がっていることが好ましい。急激に曲がっていると、ドープの流れによどみができ、コンタミが発生しやすくなる傾向がある。
また、前記マニホールド部21aの下端部と前記吐出口21bとの間は、スリット21cが形成されている。前記吐出口21bの幅(スリットの幅)Dは、製造する樹脂フィルムの厚さに応じて調整させることができ、例えば、100〜1000μm程度に調整することが好ましい。幅Dが狭すぎると、ドープ16の送液圧力が高くなるとともに、ドープ16に微小な異物が混入した場合に、前記スリット21cで異物が詰まり、流延膜に筋状の欠損が発生するおそれがある。また、幅Dが広すぎると、薄い樹脂フィルムを製造することが困難になる傾向がある。
そして、吐出口21bの幅(スリットの幅)Dに対する、スリット(前記マニホールド部21aの下端部と前記吐出口21bとの間)の距離Eの比(E/D)は、100〜400程度であることが好ましい。前記E/Dが小さすぎると、ドープ16がスリットを通過する時間が短くなりすぎ、ドープ16の吐出量(流延量)の制御が困難になる傾向がある。また、前記E/Dが大きすぎると、ドープ16がスリットを通過する時間が長くなりすぎ、ドープにコンタミが発生しやすくなる傾向がある。
また、前記流延ダイ20は、図2〜4に示す形状のものに限定されず、前記流延ダイ20の周囲の環境が上記式(1)を満たすような環境であればよく、一般的な流延ダイを用いることができる。
そして、無端ベルト支持体11上に形成された流延膜(ウェブ)を、剥離ローラ13、乾燥装置14及び巻取装置15等による剥離工程や乾燥工程によって、樹脂フィルムを製造することができる。後述の工程は、特に限定なく、一般的な工程であれば採用できる。具体的には、例えば、以下のような工程である。なお、本発明は、以下の工程に限定されるものではない。
まず、形成された流延膜(ウェブ)を無端ベルト支持体11で搬送しながら、ドープ中の溶媒を乾燥させる。前記乾燥は、例えば、無端ベルト支持体11を加熱したり、加熱風をウェブに吹き付けることによって行う。その際、ウェブの温度が、ドープの溶液によっても異なるが、溶媒の蒸発時間に伴う搬送速度、微粒子の分散度合、生産性等を考慮して、−5℃〜70℃の範囲が好ましく、0℃〜60℃の範囲がより好ましい。ウェブの温度は、高いほど溶媒の乾燥速度を早くできるので好ましいが、高すぎると、発泡したり、平面性が劣化する傾向がある。
前記無端ベルト支持体11を加熱する場合、例えば、前記無端ベルト支持体11上のウェブを赤外線ヒータで加熱する方法、前記無端ベルト支持体11の表面及び裏面を赤外線ヒータで加熱する方法、前記無端ベルト支持体11の裏面に加熱風を吹き付けて加熱する方法等が挙げられ、必要に応じて適宜選択することが可能である。
また、加熱風を吹き付ける場合、その加熱風の風圧は、溶媒蒸発の均一性、微粒子の分散度合等を考慮し、50〜5000Paであることが好ましい。加熱風の温度は、一定の温度で乾燥してもよいし、無端ベルト支持体11の走行方向で数段階の温度に分けて供給してもよい。
前記無端ベルト支持体11の上にドープを流延した後、前記無端ベルト支持体11からウェブを剥離するまでの間での時間は、作製する樹脂フィルムの膜厚、使用する溶媒によっても異なるが、前記無端ベルト支持体11からの剥離性を考慮し、0.5〜5分間の範囲であることが好ましい。
前記無端ベルト支持体11の走行速度は、例えば、50〜300m/分程度であることが好ましい。また、前記流延ダイ20から吐出されるドープの流速に対する、前記無端ベルト支持体11の走行速度の比(ドラフト比)は、0.5〜2程度であることが好ましい。前記ドラフト比がこの範囲内であると、安定して流延膜を形成させることができる。例えば、ドラフト比が大きすぎると、流延膜が幅方向に縮小されるネックインという現象を発生させる傾向があり、そうなると、広幅の樹脂フィルムを形成できなくなる。
前記剥離ロール13は、無端ベルト支持体11のドープ16が流延される側の表面近傍に配置されており、前記無端ベルト支持体11と前記剥離ローラ13との距離は、1〜100mmであることが好ましい。前記剥離ローラ13を支点として、乾燥された流延膜(ウェブ)に張力をかけて引っ張ることによって、乾燥された流延膜(ウェブ)がフィルムとして剥離される。前記無端ベルト支持体11からフィルムを剥離する際に、剥離張力及びその後の搬送張力によってフィルムは、フィルムの搬送方向(Machine Direction:MD方向)に延伸する。このため、前記無端ベルト支持体11からフィルムを剥離する際の剥離張力及び搬送張力は、50〜400N/mにすることが好ましい。
また、フィルムを前記無端ベルト支持体11から剥離する時のフィルムの残留溶媒率は、前記無端ベルト支持体11からの剥離性、剥離時の残留溶媒率、剥離後の搬送性、搬送・乾燥後にできあがる樹脂フィルムの物理特性等を考慮し、30〜200質量%であることが好ましい。なお、フィルムの残留溶媒率は、下記式(I)で定義される。
残留溶媒率(質量%)={(M1−M2)/M2}×100 (I)
ここで、M1は、フィルムの任意時点での質量を示し、M2は、M1を測定したフィルムを115℃で1時間乾燥させた後の質量を示す。
前記乾燥装置14は、複数の搬送ローラを備え、そのローラ間をフィルムを搬送させる間にフィルムを乾燥させる。その際、加熱空気、赤外線等を単独で用いて乾燥してもよいし、加熱空気と赤外線とを併用して乾燥してもよい。簡便さの点から加熱空気を用いることが好ましい。乾燥温度としては、フィルムの残留溶媒量により、好適温度が異なるが、乾燥時間、収縮むら、伸縮量の安定性等を考慮し、30〜180℃の範囲で残留溶媒率により適宜選択して決めればよい。また、一定の温度で乾燥してもよいし、2〜4段階の温度に分けて、数段階の温度に分けて乾燥してもよい。また、乾燥装置14内を搬送される間に、フィルムを、MD方向に延伸させることもできる。
前記乾燥装置14での乾燥処理後のフィルムの残留溶媒率は、乾燥工程の負荷、保存時の寸法安定性伸縮率等を考慮し、0.001〜5質量%であることが好ましい。なお、本実施形態では、乾燥工程で徐々に溶媒が除去され、全残留溶媒量が15質量%以下となったフィルムを樹脂フィルムと言う。
巻取装置15は、前記乾燥装置14で、所定の残留溶媒率となった樹脂フィルムを必要量の長さに巻き芯に巻き取る。なお、巻き取る際の温度は、巻き取り後の収縮による擦り傷、巻き緩み等を防止するために室温まで冷却することが好ましい。使用する巻き取り機は、特に限定なく使用でき、一般的に使用されているものでよい。具体的には、例えば、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等を適用した巻き取り機を用いて巻き取ることができる。
なお、樹脂フィルムの製造装置は、上記の構成のものに限定されず、例えば、延伸装置等を別途備えていてもよい。延伸装置としては、例えば、無端ベルト支持体11から剥離されたフィルムを、フィルムの搬送方向と直交する方向(Transverse Direction:TD方向)に延伸させる延伸装置等が挙げられる。
以下、本実施形態で使用する樹脂溶液(ドープ)の組成について説明する。
本実施形態で使用する樹脂溶液は、透明性樹脂を溶媒に溶解させたものである。
前記透明性樹脂は、溶液流延製膜法等によって基板状に成形したときに透明性を有する樹脂であればよく、特に制限されないが、溶液流延製膜法等による製造が容易であること、ハードコート層等の他の機能層との接着性に優れていること、光学的に等方性であること等が好ましい。なお、ここで透明性とは、可視光の透過率が60%以上であることであり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。
前記透明性樹脂としては、具体的には、例えば、セルロースジアセテート樹脂、セルローストリアセテート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂等のセルロースエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリメチルメタクリレート樹脂等のアクリル系樹脂;ポリスルホン(ポリエーテルスルホンも含む)系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、セロファン、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、シンジオタクティックポリスチレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂等のビニル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルケトンイミド樹脂;ポリアミド系樹脂;フッ素系樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、セルロースエステル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンを含む)系樹脂が好ましい。さらに、セルロースエステル系樹脂が好ましく、セルロースエステル系樹脂の中でも、セルロースアセテート樹脂、セルロースプロピオネート樹脂、セルロースブチレート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルローストリアセテート樹脂が好ましく、セルローストリアセテート樹脂が特に好ましい。また、前記透明性樹脂は、上記例示した透明性樹脂を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
次に、前記セルロースエステル系樹脂について説明する。
セルロースエステル系樹脂の数平均分子量は、30000〜200000であることが、樹脂フィルムに成型した場合の機械的強度が強く、かつ、溶液流延製膜法において適度なドープ粘度となる点で好ましい。また、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が、1〜5の範囲内であることが好ましく、1.4〜3.0の範囲内であることがより好ましい。
また、セルロースエステル系樹脂等の樹脂の平均分子量及び分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーを用い測定できる。よって、これらを用いて数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を算出し、その比を計算することができる。
セルロースエステル系樹脂は、炭素数が2〜4のアシル基を置換基として有しているものが好ましい。その置換度としては、例えば、アセチル基の置換度をX、プロピオニル基又はブチリル基の置換度をYとした時、XとYとの合計値が2.2以上2.95以下であって、Xが0より大きく2.95以下であることが好ましい。
また、アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。これらのセルロースエステル系樹脂は、公知の方法で合成することができる。アシル基の置換度の測定方法は、ASTM−D817−96の規定に準じて測定することができる。
前記セルロースエステル系樹脂の原料であるセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ(針葉樹由来、広葉樹由来)、ケナフ等を挙げることができる。また、それらから得られたセルロースエステル系樹脂はそれぞれ任意の割合で混合使用することができるが、綿花リンターを50質量%以上使用することが好ましい。これらのセルロースエステル系樹脂は、アシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いてセルロース原料と反応させて得ることができる。
本実施形態で使用される溶媒は、前記透明性樹脂に対する良溶媒を含有する溶媒を用いることができる。前記良溶媒は、使用する透明性樹脂によって異なる。例えばセルロースエステル系樹脂の場合、セルロースエステルのアシル基置換度によって、良溶媒と貧溶媒とが変わり、例えばアセトンを溶媒として用いる時には、セルロースエステルの酢酸エステル(アセチル基置換度2.4)、セルロースアセテートプロピオネートでは良溶媒になり、セルロースの酢酸エステル(アセチル基置換度2.8)では貧溶媒となる。したがって、使用する透明性樹脂により、良溶媒及び貧溶媒が異なってくるので、一例としてセルロースエステル系樹脂の場合について説明する。
セルロースエステル系樹脂に対する良溶媒としては、例えば、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、ジオキソラン誘導体、シクロヘキサノン、蟻酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等が挙げられる。これらの中でも、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物、ジオキソラン誘導体、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン等が好ましい。これらの良溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、ドープには、透明性樹脂が析出してこない範囲で、貧溶媒を含有させてもよい。セルロースエステル系樹脂に対する貧溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等の炭素原子数1〜8のアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸プロピル、モノクロルベンゼン、ベンゼン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。これらの貧溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、本実施形態で使用される樹脂溶液は、本発明の効果を阻害しない範囲で、前記透明性樹脂、及び前記溶媒以外の他の成分(添加剤)を含有してもよい。前記添加剤としては、例えば、微粒子、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定化剤、導電性物質、難燃剤、滑剤、及びマット剤等が挙げられる。
前記微粒子は、使用目的に応じて適宜選択される。その使用目的としては、具体的には、例えば、透明性樹脂中に含有することによって、可視光を散乱させる場合や、すべり性を付与させる場合等が挙げられ、透明性樹脂中に前記微粒子を含有することによって、可視光の散乱及びすべり性の向上の両方を改善しうる。また、いずれを目的とした場合であっても、フィルムの透明性を損なわない程度に、前記微粒子の粒径や含有量を調整する必要がある。前記微粒子としては、酸化珪素等の無機微粒子であってもよいし、アクリル系樹脂等の有機微粒子であってもよい。
前記無機微粒子としては、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等の微粒子が挙げられる。この中でも、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム等の微粒子が好ましく用いられる。
また、前記有機微粒子としては、ポリメチルメタクリレート樹脂等のアクリル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、メラミン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、及びポリフッ化エチレン系樹脂等からなる微粒子が挙げられる。この中でも、架橋ポリスチレン粒子、ポリメチルメタクリレート系粒子のアクリル系樹脂微粒子等が好ましい。
また、前記微粒子は、上記例示した微粒子を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
前記微粒子の平均粒子径としては、0.1〜10μmであることが好ましく、0.3〜5μmであることがより好ましい。微粒子の平均粒子径が小さすぎると、微粒子による機能性を充分に発揮できない傾向がある。また、大きすぎると、微粒子による機能性を充分に発揮できないだけでなく、樹脂フィルムの透光性も低下する傾向がある。なお、微粒子の平均粒子径は、樹脂フィルムの断面をTEM観察することによっても測定できるが、レーザ回折式粒度分布測定装置等を用いて測定することもできる。
前記微粒子の含有量は、前記透明性樹脂に対して0.01〜35質量%であることが好ましく、0.05〜30質量%であることがより好ましい。微粒子の含有量が少なすぎると、微粒子による機能性を充分に発揮できない傾向がある。また、多すぎると、樹脂フィルムの透光性が低下する傾向がある。
また、微粒子の形状は、特に限定されず、球状、平板状、針状等が挙げられ、球状であることが好ましい。
前記可塑剤としては、特に限定なく使用できるが、例えば、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等が挙げられる。前記可塑剤を含有させる場合、その含有量は、寸法安定性、加工性の点を考慮すると、セルロースエステル系樹脂に対して、1〜40質量%であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましく、4〜15質量%であることがさらに好ましい。可塑剤の含有量が少なすぎると、スリット加工や打ち抜き加工した際、滑らかな切断面を得ることができず、切り屑の発生が多くなる傾向がある。すなわち、可塑剤を含有させる効果が充分に発揮できない。
前記酸化防止剤としては、特に限定なく使用できるが、例えば、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられる。また、前記酸化防止剤を含有させる場合、酸化防止剤の含有量は、セルロースエステル樹脂に対して質量割合で1ppm〜1.0%であることが好ましく、10〜1000ppmであることがより好ましい。
本実施形態に係る製造方法によって製造された樹脂フィルムは、その高い寸法安定性から、偏光板又は液晶表示用部材等に使用することが可能であり、この場合、偏光板又は液晶等の劣化防止のため、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
前記紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、且つ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。具体的には380nmの透過率が10%未満であることが好ましく、特に5%未満であることがより好ましい。前記紫外線吸収剤としては、具体的には、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物(ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤)、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物(ベンゾフェノン系紫外線吸収剤)、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。これらの中では、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましい。前記紫外線吸収剤の含有量は、紫外線吸収剤としての効果、透明性等を考慮し、0.1質量%〜2.5質量%であることが好ましく、0.8質量%〜2.0質量%であることがより好ましい。
前記熱安定剤としては、例えば、カオリン、タルク、けい藻土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ等の無機微粒子、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩等が挙げられる。
前記導電性物質としては、特に限定はされないが、例えば、アニオン性高分子化合物等のイオン導電性物質、金属酸化物の微粒子等の導電性微粒子及び帯電防止剤等が挙げられる。前記導電性物質を含有させることによって、好ましいインピーダンスを有する樹脂フィルムを得ることができる。ここでイオン導電性物質とは、電気伝導性を示し、電気を運ぶ担体であるイオンを含有する物質のことである。
次にドープを調製する方法の一例として、透明性樹脂としてセルロースエステル系樹脂を用いた場合について説明する。
ドープを調製する時の、セルロースエステル系樹脂の溶解方法としては、特に限定なく、一般的な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせることによって、常圧における溶媒の沸点以上に加熱できることを利用し、常圧における沸点以上で溶媒にセルロースエステル系樹脂を溶解させることが、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止する点から好ましい。また、セルロースエステル系樹脂を貧溶媒と混合して湿潤又は膨潤させた後、さらに良溶媒を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
前記加圧は、窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、密閉容器に溶媒を加熱して、前記加熱によって溶媒の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。前記加熱は、外部から行うことが好ましく、例えば、ジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
セルロースエステル系樹脂を溶解させる時の溶媒の温度(加熱温度)は、高い方がセルロースエステルの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度を高くしようとすると、前記加圧によって容器内の圧力を高くしなければならず、生産性が悪化する。よって、前記加熱温度は、45〜120℃であることが好ましい。また、前記圧力は、設定温度で溶媒が沸騰しないような圧力に調整される。もしくは冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチル等の溶媒にセルロースエステル系樹脂を溶解させることができる。
次に、得られたセルロースエステル系樹脂の溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。前記濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生しやすいという問題がある。このため絶対濾過精度が0.008mm以下の濾過材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾過材がより好ましい。
濾過材の材質は、特に制限はなく、通常の濾過材を使用することができる。例えば、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾過材や、セルロース繊維やレーヨンを用いた濾紙、ステンレススティール等の金属製の濾過材が繊維の脱落等がなく好ましい。濾過により、原料のセルロースエステル系樹脂の溶液に含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。前記輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間に樹脂フィルムを置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が200個/cm2以下であることが好ましい。
濾過は、特に限定なく、通常の方法で行うことができるが、溶媒の常圧での沸点以上で、且つ加圧下で溶媒が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。前記温度としては、35〜60℃であることが好ましい。前記濾圧は、小さい方が好ましく、例えば、1.6MPa以下であることが好ましい。
前記各添加剤を含有させる場合は、例えば、アルコールやメチレンクロライド、ジオキソランなどの有機溶媒に前記添加剤を溶解してからドープに添加するか、又は直接ドープ組成中に添加してもよい。また、無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、添加剤とセルロースエステル系樹脂とをデゾルバーやサンドミルを使用して、セルロースエステル系樹脂中に添加剤を分散したものをドープに添加することが好ましい。
得られたセルロースエステル系樹脂の溶液に前記微粒子を分散させる。分散させる方法は、特に限定なく、例えば、以下のようにして行うことができる。例えば、まず、分散用溶媒と微粒子を撹拌混合した後、分散機で分散を行う。これを微粒子分散液とする。この微粒子分散液を上記セルロースエステル系樹脂の溶液に加えて撹拌する。
前記分散用溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等の低級アルコール類が挙げられる。また、低級アルコール類に特に限定されないが、セルロースエステル系樹脂の溶液を調製する際に用いた溶媒と同様のものを用いることが好ましい。
前記分散機としては、特に限定なく使用でき、一般的な分散機を使用できる。分散機は、大きく分けてメディア分散機とメディアレス分散機に分けられるが、メディアレス分散機のほうかがヘイズが低くなる(透光性が高くなる)点から好ましい。前記メディア分散機としては、例えば、ボールミル、サンドミル、ダイノミル等が挙げられる。また、前記メディアレス分散機としては、超音波型、遠心型、高圧型等が挙げられ、高圧型分散装置が好ましい。前記高圧分散装置とは、微粒子と溶媒とを混合した組成物を、細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態など特殊な条件を作りだす装置である。前記高圧分散装置としては、例えば、Microfluidics Corporation社製の超高圧ホモジナイザ(商品名マイクロフルイダイザ)、ナノマイザ社製ナノマイザ等が挙げられ、他にマントンゴーリン型高圧分散装置等も挙げられる。また、マントンゴーリン型高圧分散装置としては、例えばイズミフードマシナリ製ホモジナイザ、三和機械株式会社製のUHN−01等が挙げられる。
また、流延ダイの吐出口の両端部から流下させる溶剤としては、前記樹脂溶液(ドープ)の溶媒と同様のものを用いることができる。具体的には、前記透明性樹脂に対する良溶媒を含有し、必要に応じて、貧溶媒を含有させてもよい。
以上のような、本実施形態に係る製造方法によれば、フィルムの剥離不良を抑制でき、よって、レタデーションや配向等の均一性が高い光学特性に優れた樹脂フィルムが得られる。また、本実施形態に係る製造方法によれば、ドープのコンタミの発生や吐出口の両端部付近の皮膜形成等を抑制することができ、異物の混入が抑制された透明性の高い樹脂フィルムが得られる。
なお、ここで得られる樹脂フィルムの幅は、大型の液晶表示装置への使用、偏光板加工時のフィルムの使用効率、生産効率の点から、1500〜2500mmであることが好ましい。
また、樹脂フィルムの膜厚は、液晶表示装置の薄型化、樹脂フィルムの生産安定化の観点等の点から、20〜70μmであることが好ましい。ここで膜厚とは、平均膜厚のことであり、株式会社ミツトヨ製の接触式膜厚計により、樹脂フィルムの幅方向に20〜200箇所、膜厚を測定し、その測定値の平均値を膜厚として示す。
(偏光板)
本実施形態に係る偏光板は、偏光素子と、前記偏光素子の表面上に配置された透明保護フィルムとを備え、前記透明保護フィルムが、前記樹脂フィルムである。前記偏光素子とは、入射光を偏光に変えて射出する光学素子である。
前記偏光板としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬して延伸することによって作製される偏光素子の少なくとも一方の表面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて、前記樹脂フィルム又は前記積層フィルムを貼り合わせたものが好ましい。また、前記偏光素子のもう一方の表面にも、前記樹脂フィルムを積層させてもよいし、別の偏光板用の透明保護フィルムを積層させてもよい。この偏光板用の透明保護フィルムとしては、例えば、市販のセルロースエステルフィルムとして、KC8UX2M、KC4UX、KC5UX、KC4UY、KC8UY、KC12UR、KC8UY−HA、KC8UX−RHA(以上、コニカミノルタオプト株式会社製)等が好ましく用いられる。あるいは、セルロースエステルフィルム以外の環状オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート等の樹脂フィルムを用いてもよい。この場合は、ケン化適性が低いため、適当な接着層を介して偏光板に接着加工することが好ましい。
前記偏光板は、上述のように、偏光素子の少なくとも一方の表面側に積層する保護フィルムとして、前記樹脂フィルムを使用したものである。その際、前記樹脂フィルムが位相差フィルムとして働く場合、樹脂フィルムの遅相軸が偏光素子の吸収軸に実質的に平行または直交するように配置されていることが好ましい。
また、前記偏光素子の具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール系偏光フィルムが挙げられる。ポリビニルアルコール系偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものとがある。前記ポリビニルアルコール系フィルムとしては、エチレンで変性された変性ポリビニルアルコール系フィルムが好ましく用いられる。
前記偏光素子は、例えば、以下のようにして得られる。まず、ポリビニルアルコール水溶液を用いて製膜する。得られたポリビニルアルコール系フィルムを一軸延伸させた後染色するか、染色した後一軸延伸する。そして、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を施す。
前記偏光素子の膜厚は、5〜40μmであることが好ましく、5〜30μmであることがより好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。
該偏光素子の表面上に、セルロ−スエステル系樹脂フィルムを張り合わせる場合、完全鹸化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせることが好ましい。また、セルロースエステル系樹脂フィルム以外の樹脂フィルムの場合は、適当な粘着層を介して偏光板に接着加工することが好ましい。
上述のような偏光板は、透明保護フィルムとして、本実施形態に係る樹脂フィルムを用いる。この樹脂フィルムは、レタデーションや配向等の均一性が高い光学特性に優れているので、得られた偏光板を、例えば、液晶表示装置に適用した際に、コントラストの向上等の、液晶表示装置の高画質化を実現できる。
(液晶表示装置)
本実施形態に係る液晶表示装置は、液晶セルと、前記液晶セルを挟むように配置された2枚の偏光板とを備え、前記2枚の偏光板のうち少なくとも一方が、前記偏光板である。なお、液晶セルとは、一対の電極間に液晶物質が充填されたものであり、この電極に電圧を印加することで、液晶の配向状態が変化され、透過光量が制御される。このような液晶表示装置は、偏光板用の透明保護フィルムとして、前記偏光板を用いる。そうすることによって、コントラスト等が向上された、高画質な液晶表示装置が得られる。
以上、本発明に係る実施形態が詳細に説明されたが、上記した説明は、全ての局面において例示であって、本発明がこれらに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得ると解される。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
(ドープの調製)
まず、メチレンクロライド300質量部及びエタノール52質量部を入れた溶解タンクに、透明性樹脂としてセルロースアセテートプロピオネート樹脂(アセチル基置換度:1.2、プロピオニル基置換度:1.2、総アシル基置換度:2.4)100質量部を添加し、さらに、トリフェニルホスフェート5質量部及びエチルフタリルエチルグリコール5質量部、シリカ粒子(1次粒径:12nm)0.2質量部を添加した。そして、液温が80℃になるまで昇温させた後、3時間攪拌した。そうすることによって、セルロースアセテートプロピオネート樹脂溶液が得られた。その後、攪拌を終了し、液温が43℃になるまで放置した。そして、得られた樹脂溶液を、濾過精度0.005mmの濾紙を使用して濾過した。濾過後の樹脂溶液を一晩放置することにより、樹脂溶液中の気泡を脱泡させた。このようにして得られた樹脂溶液を、ドープとして使用して、以下のように、樹脂フィルムを製造した。
(樹脂フィルムの製造)
まず、得られたドープの温度を35℃に、無端ベルト支持体の温度を25℃に調整した。そして、図1に示すような樹脂フィルムの製造装置を用い、流延ダイから搬送速度60m/分の、ステンレス鋼製かつ超鏡面に研磨したエンドレスベルトからなる無端ベルト支持体にドープを流延した。その際、流延ダイの吐出口両端部から、メチレンクロライド95質量%及びメタノール5質量%の混合溶媒を溶剤として流下した。そして、前記吐出口から吐出された溶剤が前記支持体に到達するまでの間に、前記溶剤にヒータを埋め込み、そのヒータ上を溶剤が流れるようにして、前記溶剤を加熱させることによって、流延ダイの吐出口両端部から流下される溶剤の温度、供給量及び損失量が表1に示す温度、供給量及び損失量となるように調整した。そして、無端ベルト支持体からウェブをフィルムとして剥離し、剥離したフィルムを延伸装置(テンター)を用いて、フィルムの両端をクリップで把持しながら、TD方向に15%延伸した。その後、延伸したフィルムを巻取装置で巻き取ることによって、ロール状に巻き取られた樹脂フィルムが得られた。
[実施例2]
流延ダイの吐出口両端部から流下させる溶剤として、メチレンクロライド95質量%及びメタノール5質量%の混合溶媒の代わりに、メチレンクロライド80質量%及びメタノール20質量%の混合溶媒を用い、前記吐出口から吐出された樹脂溶液や溶剤に吹き付ける風の風量を調整することによって、流延ダイの吐出口両端部から流下される溶剤の温度、供給量及び損失量が表1に示す温度、供給量及び損失量となるように調整したこと以外、実施例1と同様である。
[実施例3]
流延ダイの吐出口両端部から流下させる溶剤として、メチレンクロライド95質量%及びメタノール5質量%の混合溶媒の代わりに、メチレンクロライド80質量%、メタノール5質量%及びシクロヘキサン15質量%の混合溶媒を用い、前記吐出口から、前記吐出口から吐出された樹脂溶液が前記支持体に到達する箇所までの距離を調整することによって、流延ダイの吐出口両端部から流下される溶剤の温度、供給量及び損失量が表1に示す温度、供給量及び損失量となるように調整したこと以外、実施例1と同様である。
[実施例4]
流延ダイの吐出口両端部から流下させる溶剤として、メチレンクロライド95質量%及びメタノール5質量%の混合溶媒の代わりに、メチレンクロライドを用い、前記吐出口から吐出された溶剤に、温風をあてることによって、流延ダイの吐出口両端部から流下される溶剤の温度、供給量及び損失量が表1に示す温度、供給量及び損失量となるように調整したこと以外、実施例1と同様である。
[比較例1]
前記吐出口から、前記吐出口から吐出された樹脂溶液が前記支持体に到達する箇所までの距離を調整することによって、流延ダイの吐出口両端部から流下される溶剤の温度、供給量及び損失量が表1に示す温度、供給量及び損失量となるように調整したこと以外、実施例1と同様である。
[比較例2]
前記吐出口から吐出された溶剤に、温風をあてることによって、流延ダイの吐出口両端部から流下される溶剤の温度、供給量及び損失量が表1に示す温度、供給量及び損失量となるように調整したこと以外、実施例2と同様である。
[比較例3]
前記吐出口から吐出された溶剤が前記支持体に到達するまでの間に、前記溶剤にヒータを埋め込み、そのヒータ上を溶剤が流れるようにして、前記溶剤を加熱させることによって、流延ダイの吐出口両端部から流下される溶剤の温度、供給量及び損失量が表1に示す温度、供給量及び損失量となるように調整したこと以外、実施例3と同様である。
[比較例4]
前記吐出口から吐出された樹脂溶液や溶剤に吹き付ける風の風量を調整することによって、流延ダイの吐出口両端部から流下される溶剤の温度、供給量及び損失量が表1に示す温度、供給量及び損失量となるように調整したこと以外、実施例4と同様である。
上記のようにして得られた樹脂フィルム(実施例1〜4、比較例1〜4)を、以下の評価を行い、その結果を表1に示す。
(異物数)
得られた樹脂フィルムを、2枚の偏光板を直交(クロスニコル)状態にしたものの間に配置して、一方の偏光板側から光を当てて、他方の偏光板側を透過型顕微鏡を用いて50倍の倍率で観察した。その際、面積25cm2の範囲における、偏光クロスニコル状態で認識される大きさが50μm以上の異物の個数を数え、1cm2当たりの個数に換算した値を異物数とした。
そして、その異物数が、0.15個以下であれば、「◎」と評価し、0.15個を超え0.20個以下であれば、「○」と評価し、0.20個を超え0.25個以下であれば、「△」と評価し、0.25個を超え0.35個以下であれば、「×」と評価し、0.35個を超えれば、「××」と評価した。
なお、ここで異物は、偏光クロスニコル状態で認識される異物であり、偏光クロスニコル状態では、暗視野中で、異物の箇所のみ光って観察されるので、容易にその個数を測定することができる。
(透明性)
得られた樹脂フィルムのヘイズを、JIS K7105−1981に準じて測定した。具体的には、得られた樹脂フィルムの幅方向に等間隔で10個のサンプル切り出し、切り出したサンプルのヘイズを、ヘイズメータ(日本電色工業株式会社製のNDH)を用いて測定した。この測定されたヘイズの平均値を透明性の指標として評価した。ヘイズが、0.1以下であれば、「◎」と評価し、0.1を超え0.2以下であれば、「○」と評価し、0.2を超え0.5以下であれば、「△」と評価し、0.5個を超え1.0以下であれば、「×」と評価し、0.1を超えれば、「××」と評価した。
(光学特性)
上記透明性の評価で用いた10個のサンプルの面内方向レタデーションRo及び遅相軸の角度θを自動複屈折率測定装置(王子計測機器株式会社製のKOBRA−21ADH)を用いて測定した。
具体的には、まず、自動複屈折率計KOBRA−21ADH(王子計測機器株式会社製)を用いて、温度23℃、湿度55%RHの環境下で、波長590nmで、各サンプルの、遅相軸の角度θ、遅相軸方向の屈折率Nx、及び進相軸方向の屈折率Nyを測定した。次に、株式会社ミツトヨ製の接触式膜厚計を用いて、樹脂フィルムの膜厚dを測定した。そして、得られた各測定値から、下記式(4)を用いて、各サンプルの面内方向レタデーションRoを算出した。
Ro=(Nx−Ny)×d (4)
式中、Nxは、樹脂フィルムの遅相軸方向の屈折率を示し、Nyは、進相軸方向の屈折率を示し、dは、フィルムの膜厚(nm)を示す。
まず、得られた各サンプルの面内方向レタデーションRoの内の最大値Romaxと最小値Rominとの差が、1.0以下であれば、「◎」と評価し、1.0を超え2.0以下であれば、「○」と評価し、2.0を超え4.0以下であれば、「△」と評価し、4.0を超え5.0以下であれば、「×」と評価し、5.0を超えれば、「××」と評価した。
次に、得られた各サンプルの遅相軸の角度θの内の最大値θmaxと最小値θminとの差が、0.2以下であれば、「◎」と評価し、0.2を超え0.3以下であれば、「○」と評価し、0.3を超え0.4以下であれば、「△」と評価し、0.4を超え0.5以下であれば、「×」と評価し、0.5を超えれば、「××」と評価した。
(剥離性)
支持体上から流延膜を剥離した後に、支持体上に流延膜が残存しているか否かを目視で確認し、流延膜の残存を確認できなければ、「○」と評価し、流延膜の残存が確認されれば、「×」と評価した。
(皮膜形成)
上記のように樹脂フィルムを形成させた後に、前記流延ダイの表面に皮膜が形成されているか否かを目視で観察した。そして、皮膜の形成が確認できなければ、「○」と評価し、皮膜の形成が確認されれば、「×」と評価した。
上記各評価の評価結果を表1に示す。
表1からわかるように、T2−T1が−0.5を超え0.5未満となるようなT1,T2である場合(実施例1〜4)は、上記の関係を満たさないようなT1,T2である場合(比較例1〜4)より、剥離性に優れているだけではなく、異物が少なく、透明性に優れ、レタデーション等の均一な光学特性に優れた樹脂フィルムが得られた。さらに、実施例1〜4に係る場合、樹脂フィルムを製造しても、流延ダイに皮膜が形成されることが抑制された。このことから、実施例1〜4に係る樹脂フィルムは、皮膜形成による不具合の発生が抑制されると考えられる。また、この皮膜形成の抑制が、剥離性の向上に寄与していると考えられる。
また、W2/W1が10−7を超え10−5未満となるようなW1,W2である場合(実施例2〜4)は、上記の関係を満たさないようなW1,W2である場合(実施例1)より、さらに、透明性に優れ、場合によっては、異物がより少なく、光学特性により優れた樹脂フィルムが得られた。
本明細書は、上記のように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
本発明の一局面は、透明性樹脂を含有する樹脂溶液を、走行する支持体上に流延ダイから流延して流延膜を形成する流延工程と、前記流延膜を前記支持体から剥離する剥離工程と、剥離した流延膜を乾燥させる乾燥工程とを備え、前記流延工程において、前記流延ダイの吐出口から前記樹脂溶液を吐出して、前記支持体上に流延するとともに、前記流延ダイの吐出口の長手方向両端部から前記透明性樹脂を溶解可能な溶剤を流下させ、下記式(1)を満たすことを特徴とする樹脂フィルムの製造方法である。
−5 < T2 − T1 < 5 (1)
(式中、T1は、前記溶剤が前記吐出口から流下された直後の前記溶剤の温度[℃]を示し、T2は、前記溶剤が前記支持体に到達した時点の前記溶剤の温度[℃]を示す。)
上記の構成によれば、流延ダイの吐出口の長手方向両端部付近に皮膜が形成されることを抑制し、さらに、フィルムの剥離不良を抑制し、光学特性に優れた樹脂フィルムを安定して製造することができる樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。
このことは、以下のことによると考えられる。
まず、流延ダイの吐出口の長手方向両端部から、樹脂フィルムを構成する透明性樹脂を溶解可能な溶剤を流下させることによって、支持体上で前記溶剤の少なくとも一部が流延膜に浸透し、流延膜の幅方向端部の溶媒濃度を高めることができると考えられる。すなわち、流延ダイから流延された流延膜の端部の乾燥が他の部分の乾燥より進行することを抑制できると考えられる。よって、流延ダイの吐出口の長手方向両端部付近に皮膜が形成されることを抑制できると考えられる。
さらに、流延ダイの周囲の環境を、流延ダイの吐出口の長手方向両端部から吐出された直後の溶剤の温度と、支持体に到達した時点の溶媒の温度との差が、上記のように小さくなるように調整することによって、流延ダイの吐出口の長手方向両端部から吐出された溶剤の蒸発を充分に制御できると考えられる。具体的には、溶剤が支持体に到達する前に蒸発により減容しすぎることを抑制することができる。よって、流延膜の幅方向端部の溶媒濃度を充分に高めることができ、フィルムの幅方向端部の剥離不良を充分に抑制できると考えられる。よって、剥離不良に基づくレタデーションや配向等の不均一性の発生を充分に抑制できる。さらに、剥離不良が発生することによって行う支持体の洗浄を減らすことができ、樹脂フィルムを安定して製造することができる。
また、前記樹脂フィルムの製造方法においては、下記式(2)を満たすことが好ましい。
10−7 < W2 / W1 < 10−5 (2)
(式中、W1は、前記溶剤の供給量[ml]を示し、W2は、前記溶剤の損失量[ml]を示す。)
上記の構成によれば、フィルムの剥離不良をより抑制することができる。このことは、流延ダイの吐出口の長手方向両端部から吐出された溶剤の蒸発をより制御できるためと考えられる。よって、流延膜の幅方向端部の溶媒濃度をより高めることができるためと考えられる。
また、前記樹脂フィルムの製造方法においては、前記透明性樹脂が、セルロースエステル系樹脂であり、前記溶剤が、メチレンクロライドを含むことが好ましい。
上記の構成によれば、皮膜形成やフィルムの剥離不良をより抑制することができる。このことは、吐出口から流下させた溶剤が、支持体上で流延膜に好適に浸透し、流延膜の幅方向端部の溶媒濃度をより高めることができるためと考えられる。さらに、剥離不良に基づくレタデーションや配向等の不均一性の発生を充分に抑制されるだけではなく、透明性樹脂が、セルロースエステル系樹脂であるので、透明性にも充分に優れた樹脂フィルムが得られる。
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂フィルムの製造方法によって得られたことを特徴とする樹脂フィルムである。
上記の構成によれば、レタデーションや配向等の均一性が高い光学特性に優れた樹脂フィルムを提供することができる。このことは、流延ダイの吐出口の長手方向両端部付近に形成される皮膜による、ドープの流れの乱れの発生を抑制でき、製造時に発生しうる剥離不良に基づくレタデーションや配向等の不均一性の発生を充分に抑制されているためであると考えられる。
また、本発明の他の一局面は、偏光素子と、前記偏光素子の表面上に配置された透明保護フィルムとを備える偏光板であって、前記透明保護フィルムが、前記樹脂フィルムであることを特徴とする偏光板である。
上記の構成によれば、偏光板の保護フィルムとして、レタデーションや配向等の均一性が高い光学特性に優れた樹脂フィルムが適用されているので、例えば、液晶表示装置に適用した際に、コントラストの向上等の、液晶表示装置の高画質化を実現できる偏光板を提供することができる。
また、本発明の他の一局面は、液晶セルと、前記液晶セルを挟むように配置された2枚の偏光板とを備える液晶表示装置であって、前記2枚の偏光板のうち少なくとも一方が、前記偏光板であることを特徴とする液晶表示装置である。
上記の構成によれば、レタデーションや配向等の均一性が高い光学特性に優れた樹脂フィルムを備えた偏光板を用いるので、コントラスト等が向上された、高画質な液晶表示装置を提供することができる。