JP5687946B2 - 靭性に優れた高強度厚鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、建築構造物や橋梁などの大型構造物に好適に用いられ、引張り強度が570MPa以上の高強度厚鋼板(以下、「570MPa級厚鋼板」と称する場合がある。)に関するものであり、殊に靭性のばらつきを低減した高強度厚鋼板に関するものである。
建築、造船、橋梁等の分野で使用される厚鋼板は、構造物の大型化により、引張り強度:570MPaクラスの高強度厚鋼板の適用が広がっている。その一方で、強度確保を目的とした合金元素添加においては、炭素当量Ceq等の成分的制約があり、こうした制約の下で、鋼板強度を高い水準にする必要がある。こうしたことから、少量の添加で強度を大きく改善できるNb、V等のいわゆるマイクロアロイ元素は、費用対効果の点で優れており、これらマイクロアロイ元素を最大限に活用する方策が望まれている。
しかしながら、上記マイクロアロイ元素の添加は、鋼板の強度向上には有効であるものの、オーステナイト再結晶温度を上昇させる傾向があり、その結果、結晶粒の粗大化を招き、鋼板の靭性を低下させるという欠点がある。こうしたことから、マイクロアロイ元素を有用に利用しつつ、強度および靭性のいずれも良好にできるような技術の確立が望まれている。尚、ここでの「強度」とは、上記「引張り強度」は勿論のこと、「降伏点」をも含む趣旨である。
570MPa級厚鋼板において、高い強度と共に良好な靭性を確保する技術は、これまでにも様々提案されている。例えば、特許文献1には、化学成分組成を適切に規定すると共に、旧オーステナイト結晶粒径のアスペクト比を適切に制御することによって、音響異方性の低減と共に、強度および靭性を良好にする技術が提案されている。また、特許文献2には、化学成分組成を適切に規定すると共に、製造条件を厳密に制御することによって、組織の微細化を図り、鋼材の強度や靭性等の諸特性を改善する技術が提案されている。
一方、特許文献3、4等には、C含有量を0.06%程度以下に低減した成分系において、Mo、Nb、Vといった炭化物形成元素を添加することによって、鋼板の溶接性(HAZ靭性、耐溶接割れ性)を確保すると共に、優れた溶接母材(鋼板)の特性(強度や靭性)を発揮することのできる技術が提案されている。
これらの技術では、基本的に鋼板の強度は優れており、靭性の平均値は優れているのであるが、この特性においてばらつきが生じることがある。特に、靭性においては、平均値はもちろんスペックを満足するが、場合によっては、靭性ばらつきのうち最小値がスペックに対して余裕がないことがある。このような靭性値を確保しつつ特性のばらつきを低減できることが必要となる。
一方、鋼板の特性を改善する技術として、特許文献5には、所定の化学成分組成からなる鋼素材を、1100〜1350℃に再加熱後、1000℃以上における歪速度を0.05〜3/秒、累積圧下量15%以上とする熱間加工を施すことによって、センターポロシチィー等の鋳造欠陥を低減し、板厚方向の延性を良好にする技術も提案されている。この技術は、鋼板の組織を改善するという観点からなされたものではないが、鋼板の信頼性を改善するという観点からすれば、有用な技術である。
特開2006−283126号公報 特開2007−321230号公報 特許第3863413号公報 特許第4220871号公報 特開2010−106298号公報
本発明は、こうした状況の下でなされたものであって、その目的は、平均値のみならず最小値も優れた靭性を有する高強度厚鋼板を提供することにある。
上記課題を解決した本発明の高強度厚鋼板は、C:0.01〜0.07%(質量%の意味。以下、化学成分組成について同じ。)、Si:0.5%以下(0%を含まない)、Mn:1〜1.7%、P:0.015%以下(0%を含まない)、S:0.006%以下(0%を含まない)、Cr:0.8〜2%、V:0.1%以下(0%を含まない)、Nb:0.005〜0.05%、B:0.005%以下(0%を含まない)、Ti:0.005〜0.02%、Al:0.2%以下(0%を含まない)、Ca:0.0035%以下(0%を含まない)、およびN:0.003〜0.006%、を夫々含有し、残部が鉄および不可避不純物であり、鋼組織の90面積%以上がベイナイトであり、且つ、旧オーステナイト粒の平均円相当直径が5μm以上、95μm以下であると共に、旧オーステナイト粒の最大円相当直径が150μm以下であることを特徴とする。
本発明の高強度厚鋼板は、必要に応じて、更に、(a)Mo:0.5%以下(0%を含まない)、(b)Ni:0.5%以下(0%を含まない)および/またはCu:0.5%以下(0%を含まない)を含有することも有用であり、含有させる元素の種類に応じて厚厚鋼板の特性が更に改善される。
本発明によれば、化学成分組成と共に製造条件を適切に制御して、鋼材の組織および旧オーステナイト粒の形態を適切に制御することによって、高強度を確保しつつ、靭性のばらつきを低減することのできる高強度厚鋼板が実現でき、こうした厚鋼板は、建築構造物や橋梁などの大型構造物の素材として極めて有用である。
本発明者らは、Cr,V,Nb,B等の元素の積極添加を図って鋼板の強度を向上させると共に、これらの元素を添加することによる靭性低下を改善するという観点から、検討した。その結果、熱間圧延に先立って、所定の温度で加熱した後、10%以上の圧下率で圧下するような処理(圧下処理)を施してやれば、熱間圧延後のオーステナイト結晶粒の微細均一化が図れ、平均値のみならず最小値も優れた靭性を有する高強度厚鋼板が実現できることを見出し、本発明を完成した。
上記のような圧下処理(この処理を、以下では「BD処理」と呼ぶことがある)自体は、他の目的で行われていることは、知られている(上記特許文献5)。本発明では、このようなBD処理を靭性改善手段として応用することによって、その後行なわれる熱間圧延時にオーステナイト結晶粒の一部が粗大することが防止され(熱間圧延後のオーステナイト結晶粒の微細均一化が図れ)、最終的に、平均値のみならず最小値も優れた靭性を有する高強度厚鋼板が得られたのである。特に、Nb等の再結晶温度を上昇させる効果の大きい元素を含んだ厚鋼板の場合には、化学成分組成や熱間圧延条件を制御するだけでは、強度を確保したまま靭性のばらつきの最小値の底上げ効果は困難で、上記のようなBD処理は必須の要件となる。
本発明の厚鋼板は最終的に、ベイナイトを主体とする組織となるのであるが、熱間圧延後のオーステナイト結晶粒の微細均一化が図られる結果として、旧オーステナイト粒の平均円相当直径が5μm以上、95μm以下であると共に、旧オーステナイト粒の最大円相当直径が150μm以下であるという要件を満足するものとなる。
尚、旧オーステナイト粒(「旧γ粒」と記載するときがある)とは、一般に組織がオーステナイトの状態から冷却されると、相変態が生じてフェライトやマルテンサイト等の別組織になるのであるが、この変態前のオーステナイト粒を、変態後の鋼板よりみる立場から指す用語が「旧オーステナイト粒」である。また、「平均円相当直径」とは、旧γ粒を同一面積の円に換算したときの直径(円相当直径)の平均値を意味し、「最大円相当直径」は、上記のようにして換算したときの直径(円相当直径)の最大値である。
[旧γ粒の平均円相当直径が5μm以上、95μm以下]
本発明の厚鋼板は、旧γ粒の平均円相当直径が5μm以上、95μm以下の要件を満足するものである。平均円相当直径が5μm未満になると、組織の作り込みの際にフェライト変態が促進され、フェライト分率が多くなり、ベイナイトを主体(90面積%以上)とする組織が得られない。即ち、旧γ粒の平均円相当直径が5μm未満となる様な鋼板では、ベイナイトを主体とする組織が得られない。また、旧γ粒の平均円相当直径が95μmよりも大きくなると、最終的な組織のサイズが粗大化し、靭性が低下することになる。尚、この平均円相当直径の好ましい下限は10μm以上(より好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上、更に好ましくは40μm以上、特に好ましくは50μm以上)であり、好ましい上限は80μm以下(より好ましくは70μm以下)である。
[旧γ粒の最大円相当直径が150μm以下]
本発明の厚鋼板は、旧γ粒の最大円相当直径が150μm以下の要件を満足するものである。この要件は、最低限必要とされる靭性値を確保するために必要な要件であり、この最大円相当直径が150μmを超えると、最低限必要とされる靭性値を確保できなくなる。尚、この最大円相当直径の好ましい上限は130μm以下(より好ましくは100μm以下)である。
本発明の高強度厚鋼板の組織は、90面積%以上がベイナイトである。ベイナイト分率を90面積%以上とすることによって、鋼板の強度(特に、降伏点)を確保することが可能となる。ベイナイト分率は好ましくは95面積%以上であり、より好ましくは97面積%以上であり、特に100面積%であることが好ましい。ベイナイト組織以外の組織として、一部にマルテンサイトとオーステナイトよりなる混合組織(MA組織)、フェライト、パーライト等を含んでいても良い。
次に、本発明の高強度厚鋼板の化学成分組成について説明する。本発明では、その化学成分組成(C,Si,Mn,P,S,Cr,V,Nb,B,Ti,Al,CaおよびN)を適切に調整することも重要な要件である。これらの成分による作用および範囲設定理由は下記の通りである。
[C:0.01〜0.07%]
Cは、鋼板の強度を確保する上で重要な元素である。こうした効果を発揮させるためにはC含有量は0.01%以上とする必要がある。しかしながら、C含有量が過剰になって0.07%を超えると、強度が上昇し、またマルテンサイトが生成しやすくなるため却って靭性が低下することになる。C含有量は好ましい下限は0.02%以上(より好ましくは0.03%以上)であり、好ましい上限は0.06%以下(より好ましくは0.05%以下)である。
[Si:0.5%以下(0%を含まない)]
Siは、鋼板の強度を確保する上で重要な元素である。しかしながら、Si含有量が過剰になって0.5%を超えると、硬質のMA組織(マルテンサイトとオーステナイトからなる混合組織)の生成が促進され、靭性に悪影響を及ぼすことになる。Si含有量の好ましい上限は0.45%以下(より好ましくは0.4%以下)である。尚、上記効果を発揮させるためのSi含有量の好ましい下限は0.05%以上(より好ましくは0.1%以上)である。
[Mn:1〜1.7%]
Mnは、焼入れ性を改善しフェライト生成を抑制し、強度を確保する上で必要な元素である。Mn含有量が1%未満であると、強度が不足することになる。一方、Mn含有量が1.7%を超えて過剰になると、強度上昇による靭性低下を招くことになる。Mn含有量の好ましい下限は1.1%以上(より好ましくは1.2%以上)であり、好ましい上限は1.6%以下(より好ましくは1.5%以下)である。
[P:0.015%以下(0%を含まない)]
Pは、粒界破壊の原因となる不純物元素であり、その量が過剰になると靭性が劣化するため、P含有量は0.015%以下に抑制する必要がある。P含有量は、好ましくは0.01%以下(より好ましくは0.008%以下)である。尚、Pは鋼材に不可避的に含まれる不純物であり、その量を0%にすることは、工業生産上、困難である。
[S:0.006%以下(0%を含まない)]
Sは、Pと同様に粒界破壊の原因となる不純物元素であり、その量が過剰になると靭性が劣化するため、S含有量は0.006%以下に抑制する必要がある。S含有量は、好ましくは0.005%以下(より好ましくは0.003%以下)である。尚、Sは鋼材に不可避的に含まれる不純物であり、その量を0%にすることは、工業生産上、困難である。
[Cr:0.8〜2%]
Crは、フェライト生成を抑制し、強度と靭性のバランスを確保する上で必要な元素である。Cr含有量が0.8%よりも少なくなると、強度が不足することになる。しかしながら、Cr含有量が2%を超えて過剰になると、強度上昇による靭性低下を招くことになる。Cr含有量の好ましい下限は1%以上(より好ましくは1.2%以上)であり、好ましい上限は1.8%以下(より好ましくは1.6%以下)である。
[V:0.1%以下(0%を含まない)]
Vも、Crと同様にフェライト生成を抑制し、強度と靭性のバランスを確保する上で必要な元素である。しかしながら、V含有量が0.1%を超えて過剰になると、強度上昇による靭性低下を招くことになる。V含有量の好ましい上限は0.08%以下(より好ましくは0.05%以下)である。尚、上記効果を発揮させるためのV含有量の好ましい下限は0.005%以上(より好ましくは0.01%以上)である。
[Nb:0.005〜0.05%]
Nbも、Crと同様にフェライト生成を抑制し、強度と靭性のバランスを確保する上で必要な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Nb含有量は0.005%以上とする必要がある。しかしながら、Nb含有量が0.05%を超えて過剰になると、強度上昇による靭性低下を招くことになる。Nb含有量の好ましい下限は0.007%以上(より好ましくは0.01%以上)であり、好ましい上限は0.040%以下(より好ましくは0.035%以下)である。
[B:0.005%以下(0%を含まない)]
Bも、Crと同様にフェライト生成を抑制し、強度と靭性のバランスを確保する上で必要な元素である。しかしながら、B含有量が0.005%を超えて過剰になると、強度上昇による靭性低下を招くことになる。B含有量の好ましい上限は0.004%以下(より好ましくは0.003%以下)である。尚、上記効果を発揮させるためのB含有量の好ましい下限は0.0005%以上(より好ましくは0.001%以上)である。
[Ti:0.005〜0.02%]
Tiは、Ti窒化物を形成して靭性を改善するのに有効な元素である。こうした効果を有効に発揮させるためには、Ti含有量は0.005%以上とする必要がある。しかしながら、Ti含有量が過剰になると、粗大な窒化物を形成し靭性の低下をもたらすので、0.02%以下とする必要がある。Ti含有量の好ましい下限は0.006%以上(より好ましくは0.008%以上)であり、好ましい上限は0.015%以下(より好ましくは0.01%以下)である。
[Al:0.2%以下(0%を含まない)]
AlはTiで固定されなかった固溶Nを固定する元素として有用である。しかしながら、Al含有量が0.2%を超えて過剰になると、靭性が低下する。Al含有量の好ましい下限は0.010%以上(より好ましくは0.020%以上)であり、好ましい上限は0.100%以下(より好ましくは0.070%以下)である。
[Ca:0.0035%以下(0%を含まない)]
Caは、MnSを微細分散化するという理由によって、MnSを無害化して靭性向上に有効な元素である。しかしながら、Ca含有量が過剰になると、却って靭性を低下させるので、0.0035%以下とする必要がある。こうした理由は確かではないが、粗大介在物を形成するためと考えられる。尚、このような効果を有効に発揮させるための好ましい下限は0.0005%以上(より好ましくは0.001%以上)であり、好ましい上限は0.003%以下(より好ましくは0.0025%以下)である。
[N:0.003〜0.006%]
Nは、Tiと共にTi窒化物を形成して靭性を改善に寄与する元素である。このような作用を有効に発揮させるため、N含有量は0.003%以上とする必要がある。しかしながら、N含有量が過剰になると、固溶Nbおよび固溶Bの量が少なくなって、NbおよびBによる効果が発揮されなくなるので、0.006%以下とする必要がある。N含有量の好ましい下限は0.0035%以上(より好ましくは0.0040%以上)であり、好ましい上限は0.0055%以下(より好ましくは0.0050%以下)である。
本発明で規定する含有元素は上記の通りであって、残部は鉄および不可避不純物であり、該不可避不純物として、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素(例えば、H、As、O等)の混入が許容され得る。また、本発明の厚鋼板は、必要に応じて以下の元素を含有していても良く、これらを含有させることによってその種類に応じて厚鋼板の特性が更に改善される。
[Mo:0.5%以下(0%を含まない)]
Moは、Crと同様にフェライト生成を抑制し、強度と靭性のバランスを確保する上で有用な元素である。しかしながら、Mo含有量が0.5%を超えて過剰になると、強度上昇による靭性低下を招くことになる。Mo含有量の好ましい上限は0.45%以下(より好ましくは0.40%以下)である。尚、上記効果を発揮させるためのMo含有量の好ましい下限は0.05%以上(より好ましくは0.1%以上)である。
[Ni:0.5%以下(0%を含まない)および/またはCu:0.5%以下(0%を含まない)]
NiおよびCuは、いずれも鋼材の高強度化に有効な元素である。しかしながら、過剰に含有されると、強度の過大な上昇を招き、靭性に悪影響を及ぼすことになる。また、コストの観点からも、必要最小限で含有させることが好ましい。こうした観点から、いずれも0.5%以下とすることが好ましい。より好ましくは、いずれも0.4%以下である。尚、上記の効果を有効に発揮させるための好ましい下限は、いずれも0.05%以上(より好ましくは0.1%以上)である。
本発明の厚鋼板を製造するには、上記のような化学成分組成を満たす鋼素材(鋳造後の鋼素材)を、1000〜1300℃の温度範囲に加熱し、10%以上の圧下率で圧下(BD処理)し、次いで600℃以下まで冷却した後、920〜1200℃の温度範囲に再加熱して熱間圧延を開始し、700℃以上の仕上げ圧延温度で熱間圧延を終了し、1〜20℃/秒の冷却速度でベイナイト変態開始温度以下まで冷却する必要がある。この製造方法における各条件の範囲設定理由は下記の通りである。
[BD処理での加熱温度:1000〜1300℃]
鋼中のNb(0.005%以上)やB(0.005%以下)を固溶させてBD処理による効果(旧γ均一化効果)を十分に発揮させるためには、加熱温度は1000℃以上とする必要がある。しかしながら、この加熱温度が1300℃を超えると、初期のオーステナイト組織が粗大化し過ぎるため、こうしたオーステナイト組織を圧延して再結晶させてもオーステナイ組織を十分に微細化することが困難となり、最終的に微細な旧γ組織が得られなくなる。
[BD処理での圧下率:10%以上]
BD処理での圧下率を10%以上(より好ましくは20%以上)とすることによって
(歪みを導入することによって)、熱間圧延前の組織の均一微細化が図れ、その後の熱間圧延によっても、一部の結晶粒が粗大化するのが防止され(旧γ粒の最大円相当直径が150μm以下となる)、靭性のばらつきが小さい鋼板が得られる。このときの圧下率の上限については、その後の圧延工程で所定の圧下率を確保するという観点からすれば、50%以下(より好ましくは40%以下)であることが好ましい。尚、上記圧下率とは、下記(1)式で表される量を意味し、上記の温度範囲内で複数回の圧下が行われるときには、合計した量(累積圧下率)を意味する(圧延時における圧下率についても同様)。
圧下率=(h1−h2)/h1×100(%) …(1)
但し、h1:圧下前板厚、h2:圧下後板厚
[BD処理後に600℃以下まで冷却]
BD処理後には、γから低温変態相への相変態を利用し圧延前組織を微細化するという観点から600℃以下まで冷却する必要がある。この温度が600℃よりも高くなると、相変態を十分に活用できず圧延前組織が十分微細とはならない。冷却については、管理項目を追加しないように放冷とするが、特に冷却速度を制限するものではない。
[圧延での加熱温度、および粗圧延温度:920〜1200℃、仕上げ圧延温度:700℃以上]
変態後の組織(ベイナイト組織)の微細化を図るためには、オーステナイト組織を圧延して再結晶させることが有効である。そして、オーステナイトの再結晶(再結晶が開始する最低温度)は、鋼材の化学成分組成に左右されるが、本発明で規定する化学成分組成であれば、通常920℃以上である(粗圧延温度)。こうした温度範囲で圧延をするためには、鋼材の加熱温度を920℃以上(好ましくは950℃以上)とする必要がある。しかしながら、加熱温度が高過ぎると、圧延前オーステナイト組織自体が粗大して変態後の組織の微細化が図れなくなるので、1200℃以下(好ましくは1180℃以下)とする必要がある。また、仕上げ圧延温度は、900℃以下であることが好ましいが、700℃を下回ると、フェライト生成が促進され、ベイナイト量が不足する傾向を示す。
[熱間圧延後の冷却速度:1〜20℃/秒]
熱間圧延後の冷却速度については、CCT曲線(連続冷却変態曲線)のフラット部で変態させるためには、その冷却速度を1〜20℃/秒の範囲とする必要がある。この平均冷却速度が1℃/秒未満となると生産性が低下するばかりか、フェライト生成が促進されることになる。一方、冷却速度が20℃/秒を超えると、マルテンサイト組織の生成が促進され、鋼板の強度が上昇し過ぎることになる。尚、この冷却速度の好ましい下限は、2℃/秒以上(より好ましくは3℃/秒以上)であり、好ましい上限は、15℃/秒以下(より好ましくは12℃/秒以下)である。また、冷却停止温度は少なくともベイナイト変態開始温度以下(例えば、450℃以下)まで冷却する必要があるが、室温まで冷却を行っても良い。
上記のような製造方法によって、組織および旧γ粒を適切に調整した厚鋼板が得られるのであるが、必要によって、500℃以上、Ac1変態点以下の温度範囲で焼き戻し処理を行うことも有効であり、こうした処理を行うことによって、熱間圧延および冷却時に導入された可動転位が低減され、降伏点YPの安定化(ばらつきの低減)が図れることになる。
本発明は厚鋼板に関するものであり、該分野において厚鋼板とは、JISで定義されるように、一般に板厚が3.0mm以上であるものを指す。しかし、本発明で対象とする厚鋼板の板厚は、好ましくは60mm以上、より好ましくは80mm以上、100mm以下程度を想定したものである。即ち、本発明では、板厚の大きい鋼板であっても、良好な靭性と高い強度を示すものとなる。こうして得られる本発明の厚鋼板は、例えば橋梁や高層建造物、船舶、タンクなどの構造物の材料として使用できる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
下記表1に示す化学成分組成の鋼材を用いて溶製し、鋳造してスラブとした後、下記表2に示す条件(BD処理の有無、粗圧延前の加熱温度、粗圧延時の総圧下率、仕上げ圧延温度、仕上げ厚さ、圧延後の冷却速度、焼き戻し温度)で製造して各種高強度厚鋼板を製造した。尚、このときのBD処理は、1250℃まで上温し、圧下率10%で圧下を行った。
Figure 0005687946
Figure 0005687946
得られた各鋼板について、以下の要領に従って、組織(ベイナイト分率、旧γ粒の平均円相当直径、旧γ粒の最大円相当直径)、鋼板強度(降伏点YP、引張強度TS)、靭性[−5℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギーの平均値(vE-5ave)および最小値(vE-5min)]を測定した。
[ベイナイト分率]
各鋼板のt/4位置(t:板厚)の圧延方向に平行な断面を鏡面研磨した試験片を、2%ナイタール液でエッチングを行い、観察視野:200μm×150μmの範囲を、光学顕微鏡を用いて400倍で10視野を写真撮影した。これら10視野について、Media Cybernetics社製「Image−Pro Plus」を用いて画像解析を行い、ベイナイト分率(面積%)を測定した。この際、フェライト、パーライトおよびマルテンサイトとオーステナイトよりなる混合組織(MA組織)以外のラス状組織はベイナイトとみなした。
[旧γ粒の平均円相当直径、旧γ粒の最大円相当直径]
各鋼板のt/4位置(t:板厚)の圧延方向に平行な断面を鏡面研磨した試験片を、2%ナイタール液でエッチングを行い、観察視野:200μm×150μmの範囲を、光学顕微鏡を用いて100倍で5視野を写真撮影した。これら5視野について、Media Cybernetics社製「Image−Pro Plus」を用いて画像解析を行い、組織中の旧γ粒の平均円相当直径および最大円相当直径を測定した。
[鋼板強度の測定]
得られた各鋼板のt/4位置(t:板厚)から、圧延方向に直角にJIS Z22014号試験片を採取し、JIS Z2241に従って引張試験を行い(各3回)、降伏点YPおよび引張強度TSを測定した。降伏点YP≧500MPa、引張強度TS:570〜720MPaのものを、鋼板強度に優れると評価した。
[靭性(シャルピー衝撃吸収エネルギー)の測定]
得られた各鋼板のt/4位置(t:板厚)から、シャルピー衝撃試験片(JIS Z2201の4号試験片)を夫々3本ずつ採取し、−5℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギー(vE-5)を測定し、その平均値(vE-5ave)および最小値(vE-5min)が200J以上のものを、靭性に優れると評価した。
上記の測定結果を、下記表3に示す。
Figure 0005687946
この結果から、次のように考察できる。試験No.1〜15は、成分組成および製造条件ともに本発明の要件を満たしているため、強度(降伏点YPおよび引張強度TS)と共に靭性(vE-5aveおよびvE-5min)に優れた厚鋼板が得られている。
一方、試験No.16〜24は、成分組成および製造条件の少なくともいずれかが本発明の要件を満たさなかった例である。
試験No.16は、Cr含有量が多いので、強度(引張強度TS)が高くなり過ぎて、靭性(vE-5aveおよびvE-5min)が劣化している。試験No.17は、Cr含有量が少なくなっており、フェライト変態を抑制できず(ベイナイト分率が低い)、鋼板強度(降伏点YP)が低下している。
試験No.18は、Mo含有量が多くなっており、強度(引張強度TS)が高くなり過ぎて、靭性(vE-5aveおよびvE-5min)が劣化している。試験No.19は、V含有量が多くなっており、強度(引張強度TS)が高くなり過ぎて、靭性(vE-5aveおよびvE-5min)が劣化している。
試験No.20は、Nb含有量が多くなっており、強度(引張強度TS)が高くなり過ぎて、靭性(vE-5aveおよびvE-5min)が劣化している。試験No.21は、Nb含有量が少なくなっており、フェライト変態を抑制できず(ベイナイト分率が低い)、鋼板強度(降伏点YPおよび引張強度TS)が低下している。
試験No.22は、B含有量が多くなっており、強度(引張強度TS)が高くなり過ぎて、靭性(vE-5aveおよびvE-5min)が劣化している。試験No.23は、鋼種Aを用いて、熱間圧延前にBD処理を施さなかった例であり、旧γ粒の最大円相当直径が大きくなっており、靭性の最小値(vE-5min)が200J以上を確保できていない。
試験No.24は、鋼種Aを用いて、粗圧延温度を900℃とした例であり、旧γ粒の平均円相当直径および最大円相当直径が大きくなっており、靭性(vE-5aveおよびvE-5min)が劣化している。

Claims (3)

  1. C :0.01〜0.07%(質量%の意味。以下、化学成分組成について同じ。)、
    Si:0.5%以下(0%を含まない)、
    Mn:1〜1.7%、
    P :0.015%以下(0%を含まない)、
    S :0.006%以下(0%を含まない)、
    Cr:0.8〜2%、
    V :0.005〜0.1%、
    Nb:0.005〜0.05%、
    B :0.0005〜0.005%、
    Ti:0.005〜0.02%、
    Al:0.2%以下(0%を含まない)、
    Ca:0.0035%以下(0%を含まない)、および
    N :0.003〜0.006%、
    を夫々含有し、残部が鉄および不可避不純物であり、
    鋼組織の90面積%以上がベイナイトであり、
    且つ、旧オーステナイト粒の平均円相当直径が5μm以上、95μm以下であると共に、旧オーステナイト粒の最大円相当直径が150μm以下であることを特徴とする靭性に優れた高強度厚鋼板。
  2. 更に、Mo:0.5%以下(0%を含まない)を含有する請求項1に記載の高強度厚鋼板。
  3. 更に、Ni:0.5%以下(0%を含まない)および/またはCu:0.5%以下(0%を含まない)を含有する請求項1または2に記載の高強度厚鋼板。
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