JP5276871B2 - 溶接熱影響部の靭性に優れた低降伏比厚鋼板 - Google Patents
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フェライトの分率が5〜50面積%で、フェライトの平均円相当直径が100μm以下であり、且つ硬質相の平均硬さがHV150〜400であって、下記(1)、(2)式で規定される関係を夫々満足する点に要旨を有するものである。
但し、[Ti]および[N]は、夫々TiおよびNの含有量(質量%)を示す。
2.0≦1000×([Ca]+2×[S]+3×[O])≦13.0 …(2)
但し、[Ca],[S]および[O]は、夫々Ca,SおよびOの含有量(質量%)を
示す。
但し、[Ti]および[N]は、夫々TiおよびNの含有量(質量%)を示す。
但し、[Ca],[S]および[O]は、夫々Ca,SおよびOの含有量(質量%)を示す。
本発明において、全組織に占めるフェライトの分率が小さすぎる、即ち、軟質相の割合が小さくなると降伏比が高くなるため好ましくない。よって本発明では、フェライトの分率の下限を5面積%と定めた。好ましくは20面積%以上である。一方、全組織に占めるフェライトの分率が大きすぎると、高強度を確保できず、また母材靭性も低下するため好ましくない。よって本発明では、フェライトの分率の上限を50面積%と定めた。好ましくは40面積%以下である。尚、上記フェライトの分率は、後述する実施例に示す方法で求めたものである。
フェライトの平均円相当直径が大きすぎると、母材靭性が劣化するため好ましくない。よって本発明では、フェライトの平均円相当直径の上限を100μmと定めた。好ましくは40μm以下である。本発明は、上記フェライトの平均円相当直径の下限値を定めるものではないが、その下限は、おおよそ10μmとなる。尚、上記フェライトの平均円相当直径は、後述する実施例に示す方法で求めたものである。
硬質相の平均硬さ(以下、単に「硬さ」ということがある)が小さすぎると、降伏比が高くなるため好ましくない。よって本発明では、硬質相の硬さの下限をHV150と定めた。好ましくはHV220以上である。一方、硬質相の硬さが大きすぎても、降伏比が高くなると共に靭性が低下するため好ましくない。よって本発明では、硬質相の硬さの上限をHV400と定めた。好ましくはHV300以下、より好ましくはHV250以下である。硬質相は、ベイナイト、マルテンサイト、パーライトのうちの1種または2種以上で構成されている。尚、上記硬質相の硬さは、後述する実施例に示す方法で求めたものである。
Cは鋼板(溶接母材)の強度を確保するために必要な元素であり、所望の強度を確保するためには0.03%以上含有させる必要がある。しかしながら、Cを過剰に含有させると、HAZ靭性が却って低下することになる。こうしたことから、その上限は0.150%とする必要がある。尚、C含有量の好ましい下限は0.05%であり、好ましい上限は0.08%である。
Siは鋼板の強度を確保するために有効な元素であり、必要により含有される。しかしながら、過剰に含まれると、鋼材(母材)に島状マルテンサイト相(M−A相)が多量に析出し、HAZ靭性が劣化する。こうしたことから、その上限を0.50%とした。尚、Si量の好ましい下限は0.1%であり、好ましい上限は0.4%である。
Mnは焼入れ性を向上させて鋼板強度を確保する上で有効な元素であり、こうした効果を発揮させるためには、Mnを1.0%以上含有させる必要がある。しかしながら、Mnを過剰に含有させると、鋼板のHAZ靭性が劣化するので上限を2.0%とする。Mn量の好ましい下限は1.3%であり、好ましい上限は1.8%である。
Pは不可避的に混入してくる不純物であり、母材やHAZの靭性に悪影響を及ぼすのでできるだけ少ない方が好ましい。こうした観点から、Pは0.015%以下に抑制する。P量の好ましい上限は0.01%である。
Sは、鋳造時の鋼板凝固時に鋼板中にCaSを形成し、溶接後にCaS上にMnSを形成させて、HAZ部におけるフェライト形成に有効に働く元素である。こうした効果はその含有量が増加するにつれて増大するが、0.005%よりも過剰に含まれると、母材やHAZの靭性が劣化する。尚、Sによる上記効果を発揮させるためには、0.0005%以上含有させることが好ましく、また好ましい上限は0.0020%、より好ましい上限は0.0010%である。この様にS量を低減するには、脱硫時間を比較的長く(例えば25分以上)すればよい。
Alは、脱酸剤として有効な元素であると共に、鋼板のミクロ組織微細化による母材靭性向上効果も発揮する。こうした効果を発揮させるためには、Al量を0.005%以上とする必要がある。しかしながら、Alが過剰に含まれると、鋼板(母材)に島状マルテンサイト相(M−A相)が多量に析出してHAZ靭性が劣化する。こうしたことから、その上限を0.06%とした。尚、Al量の好ましい下限は0.01%(より好ましくは0.02%)であり、好ましい上限は0.04%である。
Tiは、窒化物を形成し、大入熱溶接時に旧オーステナイト粒の粗大化を抑制し、HAZ靭性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Ti量を0.008%以上とする必要がある。しかしながら、Tiを過剰に含有させると粗大な介在物が析出し、却ってHAZ靭性が劣化するので、その上限を0.030%とする。尚、Ti含有量の好ましい下限は0.01%であり、好ましい上限は0.025%である。
大入熱溶接HAZにおいて靭性を高位に確保するためには、旧オーステナイト粒内にTiNを微細析出させて旧オーステナイト粒の粗大化を防止することが有効である。こうした効果を発揮させるためには、N量を0.0050%以上とする必要がある。しかしながら、N量が過剰になり0.010%を超えると、粗大なTiNが析出してHAZ靭性が低下する。こうしたことから、その上限を0.010%とした。尚、N量の好ましい下限は0.006%であり、好ましい上限は0.009%(より好ましくは0.008%)である。
Caは硫化物の形態を制御してHAZ靭性の向上に寄与する元素である。こうした効果を発揮させるためには、0.0010%以上含有させる必要がある。しかし、0.0035%を超えて過剰に含有させると、HAZ靭性が却って劣化する。尚、Ca量の好ましい下限は0.0015%(より好ましくは0.0020%)であり、好ましい上限は0.003%である。
Oは、不可避的不純物として含有され、鋼中では酸化物として存在する。しかしながら、その含有量が0.003%を超えると粗大なCaOが生成してHAZ靭性が劣化する。こうしたことから、O含有量の上限を0.003%とする。O含有量の好ましい上限は0.0020%であり、より好ましくは0.0015%以下である。
Bは、超大入熱HAZのボンド部付近ではBNを核とした粒内フェライトを生成させると共に、固溶Nの固定作用も有し、HAZ靭性改善に有効な元素であり、必要によって含有される。しかしながら、B量が過剰になると、ボンド部の組織が粗大ベイナイト組織となるためHAZ靭性を却って劣化させてしまう。こうしたことから、Bを含有させるときには、その上限を0.0035%とするのがよい。より好ましい範囲は、0.0010〜0.0025%である。
Cu、NiおよびCrは、いずれも焼入れ性を高めて強度を向上させるのに有効な元素であり、必要によって含有される。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、HAZ靭性が却って低下するので、CuおよびNiについては2.0%以下(より好ましくは1%以下)、Crについては1.50%以下(より好ましくは1%以下)とするのがよい。上記効果を発揮させるための好ましい下限は、いずれも0.20%(より好ましくは0.40%)である。
Moは、焼入れ性を向上させ強度確保に有効であり、焼戻し脆性を防止するために適宜利用される。こうした効果はその含有量が増加するにつれて増大するが、Mo量が過剰になるとHAZ靭性が劣化するので、0.5%以下とするのが好ましい。より好ましくは0.30%以下である。
NbおよびVは、焼入れ性を向上させて母材強度を向上させる効果を発揮する。またVは焼戻し軟化抵抗を高くする効果もある。しかしながら、多量に含有されるとHAZ靭性が劣化するため、Nbで0.035%以下(より好ましくは0.030%以下)、Vで0.10%以下(より好ましくは0.05%以下)とするのが良い。尚、これらの効果を有効に発揮させるための含有量は、Nbで0.005%以上、Vで0.01%以上である。
Mgは、MgOを形成して、HAZにおけるオーステナイト粒の粗大化を抑制することによって、HAZ靭性を向上させる効果を有するため、必要によって含有される。しかしながらMg量が過剰になると、介在物が粗大化してHAZ靭性が劣化するため、0.005%以下(より好ましくは0.0035%以下)にするのが良い。
を含まない)]
ZrおよびHfは、Tiと同様、Nと窒化物を形成し、溶接時におけるHAZのオーステナイト粒を微細化し、HAZ靭性改善に有効な元素である。しかし、過剰に含有されるとHAZ靭性を却って低下させる。このため、これらの元素を含有するときには、Zrは0.1%以下、Hfは0.05%以下とする。
まない)]
CoおよびWは、焼入れ性を向上させ母材強度を高める効果を有するので、必要により含有される。しかし、過剰に含有するとHAZ靭性が劣化するため、上限をいずれも2.5%とする。
REM(希土類元素)は、鋼材中に不可避的に混入してくる介在物(酸化物や硫化物等)の形状を微細化・球状化することによって、HAZの靭性向上に寄与する元素であり、必要によって含有される。こうした効果は、その含有量が増加するにつれて増大するが、REMの含有量が過剰になると、介在物が粗大化してHAZ靭性が劣化するため、0.010%以下に抑えることが好ましい。尚、本発明において、REMとは、ランタノイド元素(LaからLnまでの15元素)およびSc(スカンジウム)とY(イットリウム)を含む意味である。
Ar3(℃)=910−230×[C]+25×[Si]−74×[Mn]−56×[Cu]−16×[Ni]−9×[Cr]−5×[Mo]−1620×[Nb]
…(3)
各鋼板のt(tは板厚を示す。以下同じ)/4位置から採取した2cm角の試験片TD面を鏡面研磨した後、ナイタール腐食液(2%硝酸−エタノール溶液)でエッチング後、光学顕微鏡によって組織を観察し(倍率100倍、n数=10)、JIS G 0551規定の比較法の手法に基づきフェライト粒径(平均値)を算出して、フェライトの平均円相当直径とした。フェライトの分率(面積%)は、画像解析ソフト(Micromedia製Image Pro Plus)を用いて求めた。
各鋼板のt/4位置から採取した2cm角の試験片TD面を鏡面研磨した後、ナイタール腐食液(2%硝酸−エタノール溶液)でエッチング後、JIS Z 2244規定の手法で、硬質相のビッカース硬さ試験機を用いて測定した。硬質相は、上述の通りベイナイト、マルテンサイト、パーライトのうちの1種または2種以上で構成されており、光学顕微鏡でフェライト以外の部分として認識する事ができる。ただし、それらを個別に測定する事は微細すぎて困難であるため、2種以上存在する場合はそれらを全て含んだ形で硬質相の平均硬さを測定した。測定は室温で、荷重は10gで試験し、各鋼種の5点測定(最大最小はカウントせず3点平均)で平均硬さを算出した。
鋼板のt/4からJIS Z 2201 4号試験片を採取し、JIS Z 2241の要領で引張試験を行ない、引張強度(TS)を測定し、また降伏比を求めた。本発明では、引張強度(TS):440MPa以上、かつ降伏比:80%以下を合格とした。
t/4位置で、試験片の長手方向が鋼板の圧延方向(L方向となる様に、JIS Z 2242に規定するVノッチ標準試験片(サイズ:10mm×10mm×55mm)を採取し、−15℃でシャルピー衝撃試験を行い、−15℃におけるVシャルピー衝撃値(vE-15)を測定した。このときVシャルピー衝撃値(vE-15)が150J以上を合格とした。
エレクトロスラグ溶接(30kJ/mm)を行ったときの熱サイクルを模擬したHAZ靭性評価法として、加熱温度:1400℃で30秒保持、その後冷却が800〜500℃の冷却時間(Tc):500秒の熱サイクルで各供試鋼板を熱処理した後、温度−15℃におけるシャルピー吸収エネルギー(Vノッチ)を測定した。なお試験片としては、板厚t/4位置から採取したサイズ10mm×10mm×55mmの棒状で、中央部片面に深さ;2mmのVノッチを形成したものを使用した。このときVシャルピー衝撃値(vE−15)が150J以上を合格とした。
秒保持、Tc=120秒)を施したものについても、上記と同様にしてVシャルピー衝撃値(vE−15)を測定した。このときのVシャルピー衝撃値(vE−15)も、150J以上を合格とした。これらの結果を表4〜6に併記する。
Claims (8)
- C:0.03〜0.150%(質量%の意味。以下同じ。)、
Si:0.50%以下(0%を含む)、
Mn:1.0〜2.0%、
P:0.015%以下(0%を含まない)、
S:0.005%以下(0%を含まない)、
Al:0.005〜0.06%、
Ti:0.008〜0.030%、
N:0.0050〜0.010%、
Ca:0.0010〜0.0035%、
O:0.003%以下(0%を含まない)、および
B:0.0010〜0.0035%
を夫々含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなると共に、
フェライトの分率が5〜50面積%で、フェライトの平均円相当直径が100μm以下であり、且つ硬質相の平均硬さがHV150〜400であって、
下記(1)、(2)式で規定される関係を夫々満足することを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた低降伏比厚鋼板。
1.0≦[Ti]/[N]≦2.5 …(1)
但し、[Ti]および[N]は、夫々TiおよびNの含有量(質量%)を示す。
2.0≦1000×([Ca]+2×[S]+3×[O])≦13.0 …(2)
但し、[Ca],[S]および[O]は、夫々Ca,SおよびOの含有量(質量%)を示す。 - Cu:2.0%以下(0%を含まない)、Ni:2.0%以下(0%を含まない)およびCr:1.50%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有するものである請求項1に記載の厚鋼板。
- Mo:0.5%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1または2に記載の厚鋼板。
- Nb:0.035%以下(0%を含まない)および/またはV:0.10%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の厚鋼板。
- Mg:0.005%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の厚鋼板。
- Zr:0.1%以下(0%を含まない)および/またはHf:0.05%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜5のいずれかに記載の厚鋼板。
- Co:2.5%以下(0%を含まない)および/またはW:2.5%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜6のいずれかに記載の厚鋼板。
- REM:0.010%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜7のいずれかに記載の厚鋼板。
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