以下、この発明を実施するための形態(以下、単に「実施の形態」という)について添付の図面を参照しながら説明する。
[第1の実施形態]
図1は、この発明の第1の実施形態に係る画像形成装置1(及び定着装置4)を示すものである。
画像形成装置1は、図示していない筐体の内部に、画像情報に基づく未定着のトナー像を形成するとともにそのトナー像を最終的に用紙等の記録媒体9に転写する作像装置2と、記録媒体9を収容するとともに作像装置2に搬送して供給する給紙装置3と、作像装置2で転写されたトナー像を記録媒体9に定着する定着装置4等を装備している。図中の矢付き一点鎖線は、記録媒体9の主な搬送経路を示す。
作像装置2は、例えば公知の電子写真方式等を利用してトナー像を形成して転写することができるものである。具体的には、矢印方向に回転する感光ドラム12を備えており、感光ドラム12の周囲に、感光ドラム12の表面(像保持面)を帯電させる帯電装置13と、感光ドラム12の帯電された表面に画像情報(信号)に基づく光を照射して電位差のある静電潜像を形成する露光装置14と、その感光ドラム12上の静電潜像を現像剤としてのトナーにより現像してトナー像にする現像装置15と、そのトナー像を給紙装置3から供給される記録媒体9に転写する転写装置16と、転写後の感光ドラム12の表面に残留するトナー等を除去して清掃する清掃装置17が主に配置されている。
例えば、感光ドラム12としては、円筒状の基体に有機感光材料からなる光導電性層(感光層)を有する像保持面を形成したものである。帯電装置13としては、感光ドラム12の表面に接触して回転する帯電ロールに所定の帯電電圧を印加して帯電を行う接触帯電方式のものが使用される。露光装置14としては、LED(発光ダイオード)式記録ヘッド、半導体レーザ走査装置等で構成されるものが使用される。露光装置14には、画像形成装置1に装備又は接続(有線や無線で接続)される画像読取装置又は記憶媒体読取装置や、コンピュータ等の画像作成元となる外部機器から入力される画像情報を図示しない画像処理装置で所要の処理をした後に得られる画像信号が入力されるようになっている。
また、現像装置15としては、所定の色のトナーを含む現像剤(一成分現像剤、二成分現像剤など)が帯電した状態で、現像電圧が印加される現像ロール15aを介して感光ドラム12の表面に供給されるものが使用される。転写装置16としては、感光ドラム12の表面に接触して回転する転写ロールに所定の転写電圧を印加して転写を行う接触方式のものが使用される。
給紙装置3は、作像装置2に供給すべき複数枚の所定サイズ等の記録媒体9を積み重ねた状態で収容する収容カセット31と、この収容カセット31に収容される記録媒体9を1枚ずつ送り出して搬送する送出装置32とを主に備えている。収容カセット31は、必要により複数装備される。また、給紙装置3は、記録媒体9を収容カセット31から作像装置2の転写部(感光ドラム12と転写装置16との間)まで搬送するための複数の搬送ロール対33,34,…や搬送案内材等で構成される給紙用の用紙搬送路と接続されている。用紙搬送ロール対34は、搬送される記録媒体9の先端部を一時的に停止させた後、所定の給紙タイミングが到来した時点で駆動して送り出すための搬送時期調整ロール対として構成されている。用紙搬送路は、作像装置2と定着装置4の間などにも設置されている。
定着装置4は、筐体40の内部に、加熱手段によって表面温度が所定の温度に保たれるよう加熱されるとともに矢印方向に回転する加熱ロール41と、加熱ロール41の回転軸方向Aにほぼ沿う表面部分に接触して回転する無端状の定着ベルト42と、定着ベルト42の裏面側から接触してそのベルト表面を加熱ロール41に押し当てて定着対象物(トナー像が転写された記録媒体9)を通過させる圧接部(定着処理部)NPを形成する押当て部材43等を配置したものである。図1中の符合39は、定着後の記録媒体9を排出搬送する排出ロール対である。なお、定着装置4の詳細については後述する。
この画像形成装置1による画像形成は、次のようにして行われる。
まず、作像装置2において、感光ドラム12が回転し始め、その回転する感光ドラム12の表面が帯電装置13により所定の帯電電位に帯電された後、帯電された感光ドラム12の表面に露光装置14から画像信号に基づく光が照射されて所定の潜像電位からなる静電潜像が形成される。続いて、その静電潜像が感光ドラム12の回転に伴って移動して現像装置15を通過する際に、現像装置15の現像ロール15aから供給されるトナーが潜像部分に静電的に付着することでトナー像として現像される。しかる後、感光ドラム12上のトナー像が、転写装置16と対向する転写位置において、給紙装置3から送り出されて搬送される記録媒体9に静電的に転写される。トナー像の転写が終了した後の感光ドラム12は、その表面が清掃装置17によって清掃される。
次いで、作像装置2において未定着のトナー像が形成された記録媒体9は、定着装置4に搬送され、加熱ロール41と定着ベルト42との間の圧接部NPに導入される。これにより、定着装置4では、記録媒体9が圧接部NPに挟まれた状態で搬送されて通過し、その際に未定着のトナー像が加圧下で加熱されて記録媒体9に定着される。定着後の記録媒体9は、定着装置4から排出された後に排出ロール対39等により搬送されて図示しない排出収容部に送られる。これにより、記録媒体9の片面にトナーで構成される画像が形成される。
画像形成装置1は、画像を形成する対象物となる記録媒体9として、記録用の用紙、厚紙、透明性シート、はがき等のシート状物の他に、封筒に代表されるような袋形態になっている封筒状物を使用することもできる。封筒状物の記録媒体9は、給紙装置3の収容カセット31に収容して画像形成時に給紙用の用紙搬送路を通して作像装置2の転写位置に搬送されるか、あるいは、図1に示すように手差し収容台35に収容して画像形成時に送出装置36により給紙用の用紙搬送路に合流させて作像装置2の転写位置に搬送される。
次に、定着装置4の詳細について説明する。
定着装置4は、図2から図7等に示すように、前記した加熱ロール41、定着ベルト42及び押当て部材43に加えて、押当て部材43を(定着ベルト42を介して)加熱ロール41に押し付ける圧力を押当て部材43に付与する加圧機構45と、押当て部材43の状態を変更する変更機構46と、変更機構46による状態の切り替えを行う切替え機構47を備えている。図3及び図4において二点鎖線で示す符号88は、切替え機構47を構成する操作レバーである。
加熱ロール41は、定着対象となる記録媒体9の最大搬送幅よりも大きい寸法の長さを有する金属製の円筒基材と、この円筒基材の表面に弾性層と離型層をこの順で形成したものである。加熱ロール41の円筒内部には、加熱ロール41を所要の温度に加熱する図示しない加熱機器が配置されている。加熱ロール41は、その両端部において固定フレーム53に回転自在に支持されている。
加熱ロール41は、その両端部がベアリング式の軸受け54を介して支持フレーム53に取り付けられており、そのロールの一端部に取り付けられたギア55に対して画像形成装置1本体側に配置された回転駆動装置からの回転動力が伝達されることにより所要の速度で回転駆動する。また、加熱ロール41は、そのロール表面の温度が図示しない温度検知器により検知され、その検知情報に基づいて前記した加熱機器の加熱動作が制御されることにより所要の温度に保たれるようになっている。
固定フレーム53は、加熱ロール41と定着ベルト42の間の圧接部NPを挟んで記録媒体9の導入側となる部位53aの内面側に第一軸56が設けられているとともに、その圧接部NPを挟んで記録媒体9の排出側となる部位53bに加圧機構45と組み合わせて使用されるばね支持面部57が形成されている。ばね支持面部57は、支持フレーム53の内側に折り曲げられて形成されている。固定フレーム53は、定着装置4の筐体40に固定された状態で取り付けられる。
定着ベルト42は、加熱ロール42の長さ(軸方向の寸法)とほぼ同じ寸法の幅を有する円筒状のベルトである。この定着ベルト42としては、ポリイミド等の合成樹脂にて薄肉の円筒状に形成されるベルト基材の表面に、フッ素系樹脂等からなる離型層を形成したものが使用される。
押当て部材43は、図4に示すように、定着ベルト42の幅とほぼ同じ長さを有する細長い形状のヘッド部材61及びパッド部材62で構成されている。ヘッド部材61は、合成樹脂、金属等で構成される非弾性部材で形成されるものである。実施の形態1におけるヘッド部材61は、圧接部NPの記録媒体排出側に位置して定着ベルト42を加熱ロール41の表面に圧接させる突出部61aと、圧接部NPの記録媒体導入側に位置してパッド部材62を保持するパッド保持部61bとを有する形状で形成されている。パッド部材62は、ゴム材料等で構成される弾性部材で形成されるものである。実施の形態1におけるパッド部材62は、シリコンゴムを用いて細長い板状(無荷重状態での断面形状:長方形)の形態となるよう形成されている(図7等参照)。
定着ベルト42と押当て部材43は、押当て支持材63により支持されている。押当て支持材63は、図6等に示すように、定着ベルト42の両端部及び内周面の一部を回転し得るように案内して支持する側面ガイド板64と、押当て部材43(のヘッド部材62)の裏面に接触して支持する支持板65とで主に構成されている。支持板65は2つ使用されており、その各支持板の両端部が後述する揺動保持板(80)に形成される取付け孔(82)に嵌め込まれた状態で保持されている。
加圧機構45は、固定フレーム53の一部に対して揺動自在に取り付けられる一対の加圧揺動フレーム71A、71Bと、加圧揺動フレーム71A、71Bに配分して設置されてその揺動フレーム71を加熱ロール41と接近する方向に揺動させる圧力を発揮する2つの圧縮コイルばね73、74とで主に構成されている。
一対の加圧揺動フレーム71A、71Bは、固定フレーム53の記録媒体の導入側となる部位53aから当該記録媒体の排出側となる部位53bに至るまでの間で、加熱ロール41側から離れる方向に迂回するように一度曲がった形状で形成されている。
加圧揺動フレーム71A、71Bは、その圧接部NPを挟んで記録媒体の導入側となる揺動支点側端部71Aa,72Baが先の曲がった鉤形状で形成されており、その端部71Aa,72Baを固定フレーム53の第一軸56に取り付けた状態で加熱ロール41と接近及び離間する状態となるように矢印C,Dの方向に揺動する。また、加圧揺動フレーム71A、71Bは、その記録媒体の排出側となる端部71Ab,72Bbに、2つの圧縮ばね73、74の一端が接してそのばね力を及ぼすばね押付け面部72が形成されている。ばね押付け面部72は、内側に折り曲げられるとともに、固定フレーム53のばね支持面部57と対向し合う状態で形成されている。
圧縮コイルばね73、74は、ばね定数が大きい第一圧縮コイルばね73と、ばね定数が第一圧縮コイルばね73よりも小さい第二圧縮コイルばね74である。実施の形態1では、コイルばね73,74として、その自由長が互いに同じものを用いている。ただし、圧縮ばね73,74の自由長やばね定数等の条件については適宜設定することができる。
また、圧縮コイルばね73、74は、加圧揺動フレーム71のばね押付け面部72を加熱ロール41と接近する方向Cに揺動するように押し付けることが可能な状態で設置されている。また、圧縮コイルばね73、74は、固定フレーム53における第一軸56からの離間距離Mが異なる位置に配分して設置されている。実施の形態1では、第一コイル圧縮ばね73を第一軸56からの距離M1が遠い側の位置に設置し、第二圧縮ばね74を第一軸56からの距離M2(<M1)が近い側の位置に配置している。
さらに、圧縮コイルばね73、74は、図5等に示すように、その一端部からコイル巻き空間内に挿し入れるとともに、その他端部から突出する長さ(コイルばねの自由長よりも長い寸法)を有する支柱75により取り付けられている。支柱75は、その支柱本体の上部にコイルばねの外径よりも大径のフランジ部75aが形成されている一方で、その支柱本体の下部に支柱本体よりも小径のネジ部75bが形成されている。実施の形態1では、第一コイル圧縮ばね73の支柱75(の本体部)の長さを第二圧縮ばね74の支柱75の長さよりも長いものを使用している。図5、図6等において符号78は加圧揺動フレーム71のばね押圧面部72に形成した支柱通し孔(コイルばねの外径よりも小さい孔径の孔)、符号79は固定フレーム53のばね支持面部57に形成した支柱取付け孔57cにそれぞれ嵌め入れた支柱のネジ部77bを固定するためのナットである。
加圧機構45は、圧縮コイルばね73、74を、固定フレーム53のばね支持面部57に固定された支柱の突出部75aと加圧揺動フレーム71のばね押付け面部72との間に挟んだ状態で保持し、所定の圧縮量で圧縮させた状態にしている。このときの圧縮コイルばねの圧縮量(P)は、圧縮コイルばねの自由長(L)から、ばね押付け面部72と支柱フランジ部75aとの距離Eを除して得られる値にほぼ相当する(P=L−E)。支柱のフランジ部75aの位置は、支柱77がばね押付け面部72に固定されているので一定の位置に保たれている。
加圧機構45は、圧縮コイルばね73、74が、そのときの圧縮量とばね定数に応じて発揮される各圧縮コイルばね73、74のばね力F1,F2により加圧揺動フレーム71A,71Bのばね押付け面部72を固定フレーム53のばね支持面部57に接近する方向に押す。これにより、加圧揺動フレーム71A,71Bの全体が、加熱ロール41と接近させる方向に揺動(矢印Cの方向に揺動)させられる。そして、このように加圧揺動フレーム71A,71Bが矢印Cの方向に揺動することにより発生する圧力(押付け力)を、後述する変更機構46の構造部分にも該当する部分を介して、最終的に押当て部材43に対し伝達させて付与するという仕組みになっている。
変更機構46は、押当て部材43のうち少なくとも定着ベルト43を介して加熱ロール41に所要の圧力で接触する部分(ヘッド部61の突出部61a及びパッド部62)を通常時の設定位置(第一の位置)と、その通常時の設定位置から圧接部NPにおける定着対象物である未定着トナー像を保持する記録媒体9の通過方向Bの下流側の位置に設定される変更時の設定位置(第二の位置)との間で変位させる機能を有する構造部分である。また、変更機構46は、押当て部材43の接触部分が通常時の設定位置から変更時の設定位置に変位させるときには、その押当て部材43が加圧機構45から付与される所要の圧力を減少又は解除(無効に)させる機能を有する構造部分でもある。
実施の形態1における変更機構46は、前述したように加圧機構45の一部(圧力を押当て部材43に伝達させる構造部分)を兼ねる構成になっている。変更機構46においては、まず押当て部材43を、加圧機構45における加圧揺動フレーム71の一部に揺動自在に取り付けられる揺動保持板80に保持している。
揺動保持板80は、図5、図6等に示すように、押付け部材43の長手方向における両端に隣り合う状態で配置されるほぼ長方形状の板部材である。揺動保持板80は、その定着対象物の通過方向Bの上流側となる端部80aに設けた第二軸81を、加圧揺動フレーム71の中央部よりも第一軸56が存在する端部71b寄りの部分に形成された軸受け孔78に回転自在に嵌め入れ、これにより揺動フレーム71に対して揺動自在な状態に取り付けられている。また、揺動保持板80は、その中央部に形成した取付け孔82に押付け部材43の支持板65の端部を嵌め入れ、これにより押付け部材43を保持している。したがって、揺動保持板80は、その軸81を支点として矢印G,Hの方向に揺動する状態になり、その保持している押当て部材43の少なくとも接触部分(ヘッド部材61及びパッド部材62)を圧接部NPにおいて定着対象物の通過方向Bの下流側及び上流側に変位させることを可能にしている。
この変更機構46においては、前記した通常時の設定位置について、揺動保持板80に保持されているときの押当て部材43のヘッド部材61及びパッド部材62の双方が定着ベルト42を介して加熱ロール41に接触するときの位置を設定している。また、前記した変更時の設定位置については、次の2つの位置を設定している。1つは、揺動保持板80を矢印Hの方向に揺動させて押当て部材43を定着対象物の通過方向Bの下流側に変位させることにより、押当て部材43のパッド部材62のみが定着ベルト42を介して加熱ロール41に接触するときの位置(変更時の第一設定位置)である。もう1つは、揺動保持板80を矢印Hの方向に更に揺動させて押当て部材43を定着対象物の通過方向Bの下流側に更に変位させることにより、押当て部材43のヘッド部材61及びパッド部材62の双方が定着ベルト42を介して加熱ロール41に接触しないときの位置(変更時の第二設定位置:前記「第二の位置」に相当する。)である。
また、この変更機構46は、揺動保持板80を前記した第二軸81を支点として矢印G,Hの方向に揺動させるために、揺動保持板80の定着対象物の通過方向Bの下流側となる端部80bに、カムが接触することによりカムの作用を受けるカム受け材83を設け、また、そのカム受け材83に接触する変更カム84を加圧機構45の加圧揺動フレーム71のほぼ中央部に設けている。変更カム84は、変更機構46としての機能に加えて、加圧機構45から付与される圧力の状態を変更して揺動保持板80に伝達するという機能も有している。
カム受け材83は、揺動保持板80の前記した端部80bにおいて圧接部NPよりも定着対象物の通過方向Bの下流側にずれた位置に軸85を外側に突出させた状態で設け、その軸85に円盤状の回転体を回転自在に取り付けたものである。カム受け材(回転体)83は、加圧揺動フレーム71の曲げ部分をくぐってフレーム71の外側の位置で変更カム84と接触できる状態に配置されている。
変更カム84は、加圧揺動フレーム71の一部に回転自在に取り付けられているとともに、揺動保持板80のカム受け83に接触する状態で設置されている。実施の形態1における変更カム84は、加圧揺動フレーム71A,71Bの曲げ部分の圧接部NPよりも定着対象物の通過方向Bの下流側に少しずれた部分に回転自在に取り付ける連結軸86に対し、各揺動フレーム71A,71Bの外側の位置でそれぞれ固定された状態に取り付けられる。連結軸86は、加圧揺動フレーム71の上記部分に設けた軸取付け孔79に軸受け87を介して回転自在に取り付けられる。
また、変更カム84は、揺動保持体80におけるカム受け材83と接触するときの接触点との距離(カム連結軸86からの離間距離)Kを調整するための3つのカム面、すなわち第一カム面84a、第二カム面84b及び第三カム面84cを有している(図4)。変更カム84は、この3つのカム面のいずれか1つがカム受け材83と接触した状態におかれる。
第一カム面84aは、3つのカム面のうち連結軸86から最も離れた位置(K1:カム半径)に存在するように形成される面であり、前記した押当て部材43の接触部分を通常時の設定位置に配置させるときのカム面として使用される。第一カム面84aは、カム半径が最大値となる部分を有する大径部の外周面として形成されている。第二カム面84bは、第一カム面84aよりもカム連結軸86に近い位置(K2<K1)に存在するように形成される面であり、前記した押当て部材43の接触部分を変更時の第一設定位置に押当て部材43を配置させるときのカム面として使用される。第二カム面84bは、カム半径が中間の値となる部分を有する中径部の外周面として形成されている。第三カム面84cは、第二カム面84bよりもカム連結軸86に近い位置(K3<K2)に存在するように形成される面であり、前記した押当て部材43の接触部分を変更時の第二設定位置に配置させるときのカム面として使用される。第三カム面84cは、例えば、カム半径が最小の値となる部分を有する小径部の外周面として形成されている。
切替え機構47は、変更機構46により押当て部材43の(定着ベルト43を介しての)加熱ロール41との接触部分が通常時の設定位置にあるときの通常時の状態(前記第一の位置にあるときの状態)と、その接触部分が変更時の第一設定位置にあるときの変更時の第一状態と、その接触部分が変更時の第二設定位置にあるときの変形時の第二状態(前記第二の位置にあるときの状態)のいずれかに切り替えることができる機能を有するものである。
この実施の形態1における切替え機構47は、2つの変更カム84を固定する連結軸86と、連結軸86の一端部86aに固定して取り付けられる操作レバー88とで構成されている。操作レバー88は、図4に示すように、連結軸86の一端部86aを中心にして所要の角度だけ傾けるような状態に揺動させることができ、この揺動操作により連結軸86に固定された変更カム84をその3つのカム面84a〜cのいずれかがカム受け材83とそれぞれ接触する状態に切り替える機能を有している。
定着装置4においては、前記した通常時の状態は、記録媒体9としてシート状物である用紙(封筒状物以外のもの)を使用して画像形成(定着工程を含む)を行うとき(後述する「通常モード」を選択したときに相当する。図10、図11等を参照。)に適用する。また、変更時の第一状態は、記録媒体9として封筒状物を使用して画像形成を行うとき(後述の「封筒モード」を選択したときに相当する。図13a参照)に適用する。さらに、変更時の第二状態は、記録媒体9が定着装置4の圧接部NPに挟まった状態で詰まる現象(ジャム現象)が発生した際、その詰まった記録媒体9を定着装置4から取り除く作業を行うとき(後述する「ジャム除去モード」を選択したときに相当する。図13b、図14等を参照。)に適用する。
また、定着装置4においては、図8から図11等に示すように、切替え機構47により変更時の第二状態(ジャム除去モード)から通常時の状態(通常モード)に切り替えるときに、押当て部材43の接触部分(ヘッド部材61及びパッド部材62)を、変更時の第二設定位置から通常時の設定位置に至るまでの間に定着ベルト73を介して加熱ロール41に接触しない状態に保ち、通常時の設定位置に至ったときに通常時の状態に移行させる調整機構48が設けられている。
調整機構48は、変更機構46の変更カム84がその小径部における第三カム面84cから大径部における第一カム面84aに移行する方向E2に回転する過程で変更カム84の力を受けて変位するカム受け材83の軸85に接触してカム受け材83の変位を阻止する状態に保ち、かつ、押当て部材43の接触部分が通常時の設定位置に至ったときにカム受け材83の軸85の変位を阻止する状態を解除する調整部材としての調整カム90を有する。
調整カム90は、カム受け材83の軸85に対してカムの作用を及ぼすカム作用部90aとそのカムの作用を及ぼさないカム非作用部90bを備えた形状のものである。カム作用部90aは、カム受け材83の軸85が接触して変更カム84から受けるカムの作用による変位を阻止する作用を及ぼすための部位であり、例えば所要の径を有する円盤状の形状として形成されている。カム非作用部90bは、カム作用部90aによるカム受け材83の軸85の変位を阻止する作用を解除するための部位であり、例えば、カム作用部90aの外周部の一部をカム受け材83の軸85と接触しない程度に湾曲状に切除して窪んだ形状として形成されている。
カム作用部90aのカム半径は、押当て部材43の接触部分が変更時の第二状態から通常時の状態に切り替えられる過程において、押当て部材43の接触部分の加熱ロール41に対する状態の要求内容(本実施の形態では「接触しない状態」にする構成)に応じて設定される。一方、カム非作用部90bは、押当て部材43の接触部分が通常時の設定位置に至ったときにカム受け材83の軸85に接触しない状態に保つことが可能な形状に設定される。
実施の形態1では、カム作用部90aのカム半径について、押当て部材43の接触部分が変更時の第二設定位置(変更時の第二状態。ジャム除去モードの選択時)に存在しているときにはカム作用部90aがカム受け材の軸85に接触せずに所要の隙間Sをあけた状態に保つことでき、かつ、押当て部材43の接触部分が通常時の設定位置に至る前の過程に存在しているときには、変更カム84の作用により押されて変位する途上のカム受け材の軸85がカム作用部90aに接触するとともにその接触した後にはその軸85を変更カム84に押されても変位させずに位置を固定した状態に保つことができる値に設定している。このときのカム作用部90aがカム受け材の軸85と接触した後に固定しておく位置は、押当て部材43の接触部分が(定着ベルト42を介して)加熱ロール41に接触しない状態に保つことが可能な位置である。
このような調整カム90は、固定フレーム53のカム取付け面部58に設ける固定軸91に回転自在に取り付けられる。カム取付け面部58は、固定カム53の一部に、変更カム84よりもカム受け材83側の部位に間隔をあけて対向した状態で存在する面として形成されている。
また、調整カム90は、図10や図12等に示すように、そのカム90の回転と連動して動く突出板92を有している。
突出板92は、その根元部分が固定軸91に回転自在に取り付けられているとともに、その先端部が固定軸91の直径方向にほぼ沿って突出する板状の形状に形成されている。また、突出板92は、調整カム90の回転と連動して固定軸91の周りを回転するように連結された構造になっており、後述する可動突出板(74)の作用により調整カム90のカム非作用部90bをカム受け材83の軸85と対向させた位置に回転させて移動させることができるようにカム非作用部90bと所要の位置関係で配置されている。なお、突出板92は、調整カム90と一体となる形態で形成するように構成してもよい。
さらに、突出板91は、後述する可動突出板(94)の作用を受けないときには調整カム90のカム非作用部90bがカム受け材83の軸85と対向しない位置に移動する方向E1に調整カム90を回転させる力を付与するコイルばね93が取り付けられている。実施の形態1では、コイルばね93として、図12等に示すように、コイル部(巻き本体部)を固定軸91に嵌め、その一端部を突出板91の一部に引っ掛け、その他端部をカム取付け面部58の一部に設けるばね止め部59に取り付ける鶴巻ばねを使用している。
また、調整機構48は、図10や図12等に示すように、変更機構47における変更カム84の回転と連動して動くとともに前記突出板92と接触し得る可動突出板94を有している。この可動突出板94は、調整カム90と併設する突出板92に接触し、カム受け材83の軸85にカム作用部90aが接触している状態の調整カム90を、そのカム非作用部90bがカム受け材83の軸85と対向する位置まで回転させるように可動するものである。
可動突出板94は、その根元部分94bが変更機構47における連結軸86に固定された状態で取り付けられているとともに、その先端部が連結軸86の直径方向にほぼ沿って突出する板状の形状に形成されている。また、可動突出板94は、変更カム84がその第三カム面84cから第一カム面84aに移行する方向E2に回転する過程で、連結軸86を介して変更カム84と連動して回転し、その途上で突出板92に接触して調整カム90を回転させる。このときの可動突出板94は、調整カム90のカム非作用部90bがカム受け材83の軸85と対向する位置に移動させる量(角度)だけ調整カム90を回転させるように設定されている。なお、可動突出板94は、変更カム84と一体となる形態で形成するように構成してもよい。
次に、この定着装置4の動作について説明する。
はじめに、記録媒体9として封筒状物以外の用紙を使用して画像形成を行う場合(通常モード)の動作について説明する。
定着装置4では、通常モードが選択されると、図4、図10、図17等に示すように、切替え機構47の操作レバー88を操作して変更カム84がその第一カム面84aで揺動保持板80のカム受け材83と接触する状態に保持される。
これにより、加圧機構45においては、変更カム84の連結軸86がカム受け材83と最も離れた位置に移動した状態になるので、その変更カム84が取り付けられた加圧揺動フレーム71が第一軸56を支点として加熱ロール51から離れる矢印Dの方向に揺動した状態になる。このときの揺動フレーム71のばね押付け面部72は、固定フレーム53のばね支持面部57から離れる方向に移動して所定の距離(S1)をおいた状態に保たれる。また、このときの揺動フレーム71のばね押付け面部72と各支柱75のフランジ部75aとの距離が、通常モード用の距離になる。この通常モード用の距離は、第一圧縮コイルばね73の自由長L1と第二圧縮コイルばね74の自由長L2のいずれよりも小さい値に設定されている。したがって、2つの圧縮コイルばね73、74はいずれも圧縮された状態に保持される。
通常モードでは、第一圧縮コイルばね73と第二圧縮コイルばね74とがその各圧縮量及びばね定数に応じたばね力F1a,F2a(=圧縮量×ばね定数)を発揮することで、そのばね力F1a,F2aによりばね押付け面部72を固定フレーム53のばね支持面部57に近づける方向に押し続ける。このため、加圧揺動フレーム71が、加熱ロール41と接近する側(矢印C)に揺動する状態に保たれる。この際、加圧揺動フレーム71には、第一軸56を支点、ばね押付け面部72を力点、変更カム84を作用点とする「てこの原理」が働くこととなるので、揺動フレーム71からは前記ばね力F1a,F2aがてこの原理で増強された強い力を作用点の変更カム84に伝達することになる。
この結果、加圧揺動フレーム71が変更カム84及びカム受け材83を介して揺動保持板80を加熱ロール41に近づける方向に押すため、その揺動保持板80に押付け支持材63の支持板65を介して支持された押付け部材43が、通常モードの定着時に要求される高い圧力Xで加熱ロール41にむけて押し付けられる。この際、固定フレーム53に取り付けられて固定された状態にある加熱ロール41では上記圧力Xに対する反作用としての反力が生じる。これにより、その反力と加圧機構45による荷重(押付け力)とがつりあうこととになり、加圧揺動フレーム71が静止した状態になる。
また、通常モードでは、加圧揺動フレーム71が、変更機構46の一部でもある変更カム84を介して揺動保持板80を加熱ロール41に近づける方向Cに揺動させる状態に保つことになる。これにより、変更機構46の一部である揺動保持板80が軸81を支点として矢印Gの方向に揺動する状態に維持されるので、押付け部材43が圧接部NPにおける定着対象物の通過方向Bの上流側に移動する状態におかれ、最終的に、その押当て部材43の接触部分であるヘッド部材61(の突出部61a)及びパッド部材62の双方が定着ベルト43を加熱ロール41にむけて押し付けられた状態に保たれる(図10、図17c参照)。
このときの押当て部材43のヘッド部材61及びパッド部材62の双方が加熱ロール41に接触して停止した状態になるときの位置が、前記した通常時の設定位置になる。また、この際、調整機構48は、図10等に示すように、可動突出板94が調整カム90の突出板92に接触して突出板92を押し続けた状態となり、調整カム90がカム非作用部90bをカム受け材83の軸85と対向させた状態となるよう設定されている。また、このときの突出板92は鶴巻ばねのコイルばね93を縮める方向に回転することでコイルばね93に所要のばね力が蓄積されるよう設定されている。
以上により、通常モードでは、定着装置4の圧接部NPに対して前記した定着用の高い圧力Xが押付け部材43を通して加えられる状態になるとともに、その圧接部NPが押付け部材43のヘッド部材61(の突出部64a)及びパッド部材65の双方の押し付けによって形成されることになる。また、通常モード選択時における加熱ロール41の圧接部NPにかかる圧力(分布)は、圧接部NPの定着対象物の通過方向B上流側に配置されているパッド部材62がおよぼす圧力に比べて、その通過方向Bの下流側に配置されているヘッド部材61がおよぼす圧力のほうが大きくなる。
そして、通常モードの選択時には、定着対象物である未定着トナー像を保持するシート状の記録媒体9が定着装置4の圧接部NPに導入されると、まず圧接部NPにおける定着対象物の通過方向Bの上流側に配置されている弾性部材のパッド部材62が(定着ベルト42を介して)その記録媒体9を回転する加熱ロール41に押し付ける。続いて、圧接部NPにおける定着対象物の通過方向Bの下流側に配置されている非弾性部材のヘッド部材61(の突出部61a)が(定着ベルト42を介して)その記録媒体9を加熱ロール41に押し付ける。このように通常モードでは、シート状の記録媒体9がその通過方向Bにおいて異なる圧力分布を示す圧接部NPを通過させられる定着処理が行われる。
次に、記録媒体9として封筒に代表される封筒状物を使用して画像形成を行う場合(封筒モード)の動作について説明する。
定着装置4では、封筒モードが選択されると、図13aに示すように、切替え機構47の操作レバー88を操作して変更カム84がその第二カム面84bで揺動保持板80のカム受け材83と接触する状態に保持される。
これにより、加圧機構45においては、変更カム84の連結軸86が定着モードの選択時よりもカム受け材83に近づいた位置に移動した状態になるので、このとき加圧揺動フレーム71が加熱ロール41に近づく矢印Cの方向に揺動することになる。この結果、その加圧揺動フレーム71のばね押付け面部72が、固定フレーム53のばね支持面部57に近づく方向に移動して所定の距離をおいた位置で保持される。
このときの押付け面部72と2つの圧縮コイルばね73、74の各支柱のフランジ部75aとの距離が、封筒モード用の距離になる。この封筒モード用の圧縮コイルばね73側の距離は、第一圧縮ばね73の自由長L1よりも大きい値に設定する一方で、その圧縮コイルばね74側の距離E2bは第二圧縮ばね74の自由長L2よりも小さい値に設定されている。また、第一圧縮コイルばね73は第二圧縮コイルばね74よりも第一軸56から遠い側の位置に設置されているので、第一圧縮コイルばね73側の距離が第二圧縮コイルばね74側の距離よりも大きくなる。したがって、加圧機構45では、第一圧縮ばね73が自由長(L1)となって全く圧縮されない状態になる一方で、第二圧縮ばね74が第一押付け状態のときより少し伸張するが少し圧縮された状態に保持される。
封筒モードでは、加圧機構45における第二圧縮コイルばね74のみが、その圧縮量及びばね定数に応じたばね力F2b(=圧縮量×ばね定数)を発揮することで、そのばね力F2bによりばね押付け面部72をばね支持面部57に近づける方向に押し続ける。このため、加圧揺動フレーム71は、加熱ロール41と接近する側(矢印Cの方向)に揺動する状態に保たれる。この際、加圧揺動フレーム71には通常モード時の場合と同様に「てこの原理」が働くが、第二圧縮コイルばね74によるばね力F2bのみがてこの原理で増強されただけで通常モード時の力よりも弱い力が、作用点の変更カム84に伝達される。また、ばね力F2b自体も、第二圧縮コイルばね74が通常モードのときよりも伸張して圧縮量が減らされた状態にあるため、弱くなっている。
この結果、加圧揺動フレーム71が、通常モード時の場合と同様に揺動保持板80を加熱ロール41に近づける方向に押すものの、変更カム84に伝達される力が通常モード時よりも弱いので、その揺動保持板80に支持されている押付け部材43は、通常の定着時に要求される高い圧力Xよりも低い圧力Y(<X)で加熱ロール41にむけて押し付けられることになる。封筒モード時における加熱ロール41の圧接部NPにかかる圧力(分布)は、パッド部材62がおよぼす圧力のみの低い圧力となる。これは、通常モード時にかかる圧力Xの大きさに比べて小さい圧力である。また、パッド部材62が弾性部材であるため、圧接部NPではパッド部材62側に弾性変形しやすい状態になる。
また、この封筒モードでも、通常モードの選択時の場合と同様に、加圧機構45としての加圧揺動フレーム71が変更カム84を介して揺動保持板80を加熱ロール41に近づける方向に揺動させる状態に保つことになる。
しかし、この場合は、加圧揺動フレーム71が揺動保持板80を押す力が通常モード時のときよりも弱く、しかも押付け部材43の加熱ロール41を押し付ける力も弱いため、押付け部材43が矢印で示す方向に回転する加熱ロール41と従動回転する定着ベルト42との摩擦力で発生する力などを受ける。これにより、揺動保持板80が、軸81を支点として矢印Hの方向に揺動する状態に維持される。この結果、押付け部材43が圧接部NPにおいて定着対象物の通過方向Bの下流側にずれた位置に変位した状態に保持されるので、その押付け部材43のヘッド部材61(の突出部61a)が加熱ロール41から離れる方向に移動して加熱ロール41を押し付けない状態になり、その一方でパッド部材62のみが加熱ロール41と対向する位置に移動して定着ベルト42を加熱ロール41にむけて押し付ける状態になる(変更される)。
このときの押当て部材43の接触部分であるパッド部材62が加熱ロール41と接触して停止した状態になるときの位置が、前記した変更時の第一設定位置になる。また、この際、調整機構48は、図13aに示すように、可動突出板94が調整カム90の突出板92から離れた状態となり、また、カム受け材83の軸85が揺動保持板80の揺動により調整カム90から離れた方向に変位する。これによって、調整カム90は、コイルばね93のばね力を受けて矢印J1の方向に回転させられて、そのカム非作用部90bがカム受け材83の軸85に対向した状態となってカム作用部90aを軸85に接触させない状態となるよう設定されている。
以上により、封筒モードでは、定着装置4の圧接部NPに対して前記した封筒モード用の低い圧力Yが押付け部材43を通して加えられた状態になるとともに、その圧接部NPが押付け部材43の弾性部材からなるパッド部材62のみの押し付けにより形成されることになる。
そして、封筒モード選択時には、定着対象物である未定着トナー像を保持する封筒状の記録媒体9が圧接部NPに導入されると、低い圧力Yがかけられた弾性を有するパッド部材62だけが(定着ベルト42を介して)その記録媒体9を加熱ロール41に押し付ける。このように封筒モードでは、封筒状の記録媒体9に対する定着処理が、通常モード時よりも低い加圧下であって、しかも圧接部NPが記録媒体9の通過状況に合わせて弾性変形するのに加えて、その通過状況に合わせて加圧揺動フレーム71も固定フレーム53に対して必要な量だけ揺動することにより、全体として互いに(力学的に)つりあった状態になるという環境下で行われる。また、封筒モードでは、加圧機構45の圧縮コイルばね73,74が通常モード時に比べて更に強制的に圧縮された状態になることがない。この結果、封筒モード時には、封筒状の記録媒体9(の特に通過方向Bの上流側となる端部領域)に皺が発生することがなく、良好な定着が可能になる。
次に、記録媒体9が定着装置4の圧接部NPに挟まって詰まるジャム現象が発生した際、その詰まった記録媒体9を定着装置4から取り除く作業を行う場合(ジャム除去モード)の動作について説明する。
定着装置4では、ジャム除去モードが選択されると、図13b、図14等に示すように、切替え機構47の操作レバー88を操作して変更カム84がその第三カム面84cで揺動保持板80のカム受け材83と接触する状態に保持される。
これにより、加圧機構45においては、変更カム84の連結軸86が封筒モードの選択時よりも更にカム受け材83に近づいた位置に移動した状態になるので、このとき加圧揺動フレーム71が加熱ロール41に近づく矢印Cの方向に更に揺動することになる。この結果、その加圧揺動フレーム71のばね押付け面部72が、固定フレーム53のばね支持面部57と突き当たった状態になる。
このときの加圧揺動フレーム71のばね押付け面部72と各支柱75のフランジ部75aとの距離が、ジャム除去モード用の距離になる。この除去モード用の圧縮ばね73側の距離は第一圧縮ばね73の自由長L1よりも大きい値に設定する一方で、除去モード用の圧縮ばね74側の距離は第二圧縮ばね74の自由長L2よりも小さい値(ただし封筒モード時の距離E2bより大きい値)に設定されている。このため、加圧機構45では、封筒モードのときとほぼ同様に、第一圧縮ばね73が自由長となってまったく圧縮されない状態となり、第二圧縮ばね74が封筒モードのときより少し伸張するものの僅かながら圧縮された状態になる。また、これに加えて、加圧揺動フレーム71は、そのばね押付け面部72が固定フレーム53のばね支持面57に突き当たることで、加熱ロール51に接近する側(矢印C方向)にそれ以上揺動しない状態になる。
この結果、加圧機構45における第二圧縮コイルばね74のみが、その圧縮量及びばね定数に応じたばね力F2cを発揮して、ばね押付け面部72を固定フレーム53のばね支持面部57に近づける方向に押し続ける。しかし、この場合は、ばね押付け面部76がばね支持面部57と突き当たった状態にあるため、加圧揺動フレーム71,72は、第二圧縮コイルばね74のばね力F2cを受けても、その突き当たった位置から更に加熱ロール51と接近する側(矢印Cの方向)に揺動することが阻止される。
一方、ジャム除去モードでは、加圧揺動フレーム71が加熱ロール41と接近する側への揺動が阻止された状態にあるとき、変更カム84が揺動保持板80を加熱ロール51に近づける方向に揺動させる力を及ぼさない状態になる。また、第三カム面84cと連結軸86との距離が封筒モード時よりも小さい値に設定されていることにより、揺動保持板80が封筒モードのときよりも矢印Hの方向に更に揺動する。このため、押付け部材43のヘッド部材61及びパッド部材62は、定着対象物の通過方向Bの下流側に変位させられ、最終的に加熱ロール41の表面から少し離れて隙間を発生させる状態になる(図13c参照)。
このときの押当て部材43の接触部分であるヘッド部材61及びパッド部材62が加熱ロール41から離れて停止した状態になるときの位置が、前記した変更時の第二設定位置になる。またこの際、調整機構48は、図12bや図13bに示すように、可動突出板94が調整カム90の突出板92から離れた状態となり、また、カム受け材83の軸85が揺動保持板80の更なる揺動により調整カム90から離れた方向に更に変位することで、調整カム90がコイルばね93のばね力を受けて矢印J2の方向に回転させられてカム非作用部90bがカム受け材83の軸85と対向しない位置に移動するとともに、その調整カム90がカム受け材83の軸85から隙間をあけて完全に離れた状態となるよう設定されている(図13a参照)。
以上により、ジャム除去モードでは、押付け体62に対して押付け機構7からの圧力が一定以上及ばない状態になるとともに、その押付け体62が加熱ロール51との間で隙間を発生させる状態に変位させることが可能な状態になる。
そして、このジャム除去モード時には、圧接部NPに定着対象の記録媒体9が挟まれて詰まった状態になっても、その記録媒体9の一部をユーザが手で掴んで記録媒体の排出側に引っ張ると、揺動保持板80が矢印Hの方向に少し揺動して押付け部材43が加熱ロール41と少し離間した状態になる。これにより、その詰まった記録媒体9は、圧接部NPから容易に引き出されて除去される。
また、この定着装置4は、ジャム除去モードから通常モードに切り替えるときに、次のように動作する。
まず、切替え機構48の操作レバー88を操作することにより、図15の「モード切替過程1」に示すように、ジャム除去モード時の状態にある変更カム84を矢印E1の方向に回転させ、変更カム84のカム受け材83と接触する面を第三カム面84cから第一カム面84aにむけて移行し始める。
この変更カム84の回転により連結軸86がカム受け材83から離れ始める状態になるので、加圧揺動フレーム71が第一軸56を中心に矢印Dの方向に揺動し始める。一方、加圧揺動フレーム71の揺動により、そのばね押付け面部72が固定フレーム53のばね支持面部57から離れる状態となるので、圧縮コイルばね73,74が圧縮された状態となり始めるとともにその圧縮量に応じたばね力F1c,F2cを発生し始める。このばね力F1c,F2cにより加圧揺動フレーム71が第一軸56を中心に矢印Cの方向に揺動させられる状態にも保たれるので、このときの加圧揺動フレーム71が矢印Cの方向に揺動しようとする力が変更カム84及びカム受け材83を介して揺動保持板80に伝達される。
この結果、揺動保持板80は、第二軸81を中心に矢印Gの方向に揺動し得る状態におかれるので、押当て部材43の接触部分であるパッド部材62が変更時の第二設定位置から定着対象物の通過方向Bの上流側に少し変位し始め、これによりパッド部材62が定着ベルト42を介して加熱ロール41に接近した状態になり始める(例えば変更時の第一設定位置に存在する)。しかし、揺動保持板80が矢印Gの方向に所要の量だけ揺動すると、図15a等に示すように、カム受け材83の軸85が調整機構48の調整カム90(のカム作用部90a)と接触した状態となる。
したがって、カム受け材83の軸85が調整カム90と接触した後は、その軸85は、揺動保持板80が加圧揺動フレーム71から圧力を受けて矢印Gの方向に揺動しようとしても、固定軸91に取り付けられて位置が固定された調整カム90によりそれ以上の変位が阻止される。このため、図15cに拡大して示すように、押当て部材43のパッド部材62が加熱ロール41と隙間をあけて接触しない状態に保持される。ちなみに、この段階では、可動突出板94は、調整カム90の突出板92に接近した状態になるだけで、接触しない状態にある。
続いて、操作レバー88を更に操作し続けることにより、図16の「モード切替過程2」に示すように、変更カム84を矢印E1の方向に更に回転させて、変更カム84の第一カム面84aをカム受け材83と接触させる直前まで移行させる。
この変更カム84の更なる回転により連結軸86がカム受け材83から更に離れ始める状態になるので、加圧揺動フレーム71が第一軸56を中心に矢印Dの方向に更に揺動した状態になる。この加圧揺動フレーム71の更なる揺動により、そのばね押付け面部72が固定フレーム53のばね支持面部57から更に離れる状態となるので、圧縮コイルばね73,74が更に圧縮された状態となり始めるとともにその増加した圧縮量に応じたばね力F1d,F2dを発生する。この増強されたばね力F1d,F2dにより加圧揺動フレーム71が第一軸56を中心に矢印Cの方向に更に揺動させられる状態にも保たれ、このときの加圧揺動フレーム71が矢印Cの方向に揺動しようとする力が変更カム84及びカム受け材83を介して揺動保持板80にも伝達される。
しかし、この過程2においても、カム受け材83の軸85が調整機構48の調整カム90と接触した状態にあるので、その軸85は、揺動保持板80が加圧揺動フレーム71から圧力を受けて矢印Gの方向に揺動しようとしても、調整カム90によりそれ以上の変位が阻止され続ける。また、図16cに拡大して示すように、押当て部材43のパッド部材62も、前記した過程1の場合と同様に、加熱ロール41と隙間をあけて接触しない状態に保持される。なお、この過程2の段階では、可動突出板94は、連結軸86を介して変更カム84の更なる回転に連動して回転するので調整カム90の突出板92に接近して接触した状態になる。
最後に、可動突出板94が調整カム90の突出板92に接触した後に、操作レバー88を操作して変更カム84を矢印E1の方向にまた更に回転させ、変更カム84の第一カム面84aをカム受け材83と接触させる状態まで移行させるようにする。
これにより、図17に示すように、矢印E1の方向に回転する可動突出板94が突出板92を矢印J1の方向に回転させるように変位させ、その突出板92の回転に連動して調整カム90が矢印J1の方向に回転する。この結果、カム作用部90aがカム受け材83の軸85と接触していた調整カム90は、そのカム非作用部90bをカム受け材83の軸85と対向させた状態になる。この際、カム非作用部90bは軸85とわずかな隙間をあけて接触しない状態に保たれる。この際、コイルばね93は、調整カム90の矢印J1の方向への回転により縮んでばね力が蓄積された状態になる。
そして、調整カム90のカム作用部90aがカム受け材83の軸85との接触から開放され、そのカム非作用部90bが軸85と対向する状態になる段階においては、軸85が調整カム90による変位の阻止状態から解除され、変位可能な状態になる。この結果、加圧揺動フレーム71が2つの圧縮された状態にある圧縮コイルばね73,74のばね力F1,F2を受けて矢印Cの方向に揺動するとともに、この揺動により揺動保持板80も矢印Gの方向に揺動する。
したがって、このときの揺動保持板80に保持されている押当て部材43は、図17cに拡大して示すように、その接触部であるヘッド部材61及びパッド部材62が定着対象物の通過方向Bの上流側に変位し、最終的に定着ベルト42を介して加熱ロール41に接触する位置(通常時の設定位置)に戻される。しかも、押当て部材43は、加圧機構45により通常モードの選択時に必要とされる所要の圧力が加圧揺動フレーム71を通して付与される。
このように、押当て部材43のパッド部材62は、ジャム除去モードから通常モードに切り替える段階において、加圧機構45からの圧力が付与されて加熱ロール41に定着ベルト42を介して接触した状態のままで圧接部NPにおける定着対象物の通過方向Bの上流側に変位することがない。つまり、パッド部材62は、加熱ロール41から離間した状態で通常時の設定位置に達する直前まで変位させられ、その通常時の設定位置に至った時点で加熱ロール41に定着ベルト42を介して接触した状態になる。
これに対し、例えば図18に示すように、変位機構48を有していない定着装置4においてジャム除去モードから通常モードに切り替えたときには、次のような現象が起こる。なお、図18に示す定着装置は、調整機構48を備えていない点以外は実施の形態1に係る定着装置4と同じ構成のものとする。
すなわち、変更カム84が矢印E1の方向に回転して、そのカム受け材83と接触する面を第三カム面84cから第一カム面84aにむけて移行し始めると、連結軸86がカム受け材83から遠ざかることにより、加圧揺動フレーム71が矢印Dの方向に揺動するとともに2つの圧縮コイルばね73,74からのばね力を受けて矢印Cの方向にも揺動する状態におかれる。これにより、揺動保持板80が加圧揺動フレーム71からの圧力をそのまま受けて矢印Gの方向に揺動するので、その揺動保持板80に保持されている押当て部材43のパッド部材62等も変更時の第二設定位置から圧接部NPにおける定着対象物の通過方向Bの上流側に設定される通常時の設定位置にむけて変位するとともに、定着ベルト42を介して加熱ロール41に接触した状態になる。
しかし、この場合、押当て部材43のパッド部材62は、ジャム除去モードから通常モードに切り替える段階において、加圧機構45からの圧力が付与された状態で加熱ロール41に定着ベルト42を介して接触するとともに、その加圧下で接触した状態のままで圧接部NPにおける定着対象物の通過方向Bの上流側に変位することになる。
このため、ジャム除去モードの選択時においてヘッド部の突出部61aよりも加熱ロール41側にむけて突出した状態にある弾性部材のパッド部材62の一部(定着対象物の通過方向Bの下流側となる角部)62aが、図19aに示すように、ヘッド部材の突出部61aに乗り上げるように変形した状態になる。また、このような乗り上げ現象を起こしたパッド部材62においては、図19bに示すように、その乗り上げた部分が変形(変質)した部分62bとして存在してしまい、その後の通常モード等の定着時における圧接部NPに変形した部分62bが存在することで圧接部NPの圧力分布が変化し、このことに起因して定着結果も異なってしまうことがある。また、乗り上げ現象を起こしたパッド部材62は、図19cに示すように、その乗り上げた部分62aの一部がちぎれて欠損した部分62cとなる場合もあり、その欠損部分62cの存在により前記したように圧接部NPの圧力分布が変化し、そのときの定着結果も異なってしまうこともある。
この点、実施の形態1に係る定着装置4及びそれを用いた画像形成装置1では、ジャム除去モードから通常モードに切り替えることを行っても、調整機構48の機能により押当て部材43のパッド部材62の一部がヘッド部材61の上に乗り上げることが発生することがない。この結果、押当て部材43におけるパッド部材62が変形したり損傷することがなくなるので、かかる変形又は損傷に起因した定着不良が生じることを防止することができる。
また、この定着装置4等においては、封筒モードから通常モードに切り替える場合にも、調整機構48の機能により押当て部材43のパッド部材62の一部がヘッド部材61の上に乗り上げることを防止することが可能になる。ちなみに、通常モードからジャム除去モードに切り替えるときには、変更カム84が回転してその第三カム面84cがカム受け材83に接触するに至る過程で、揺動保持板80が矢印Hの方向に揺動してカム受け材83の軸85が調整カム90のカム非動作部90bから脱出して離間した状態になると、調整カム90は、コイルばね93の蓄積されたばね力により矢印J2の方向に回転し、そのカム非動作部90bがカム受け材83の軸85と対峙しない位置に移動するようになっている。
[他の実施の形態]
実施の形態1では、調整機構48として、変更時の第二状態(ジャム除去モード)から通常時の状態(通常モード)に切り替えられる過程で、押当て部材43の接触部分が加熱ロール41に接触しない状態に保たれるように調整カム90(のカム作用部90aのカム半径)を設定した場合を例示したが、この他にも、その過程において押当て部材43の接触部分が通常モード時に要求される圧力よりも減圧された状態で加熱ロール41に接触する状態に保たれるように調整カム90を設定してもよい。この場合において減圧する割合は、ジャム除去モードから通常モードに切り替えられるときに、押当て部材43のパッド部材62の一部がヘッド部材61に乗り上げることがない程度に減らした圧力であればよい。ちなみに、実施の形態1では通常時の設定位置を「第一の位置」、変更時の第二設定位置を「第二の位置」としたが、第一の位置及び第二の位置の設定内容は前記したような作用効果が得られる範囲内で他の構成に変更しても構わない。
また、調整機構48として、調整カム90を接触させる対象について揺動保持板80に設けたカム受け材83(の軸85)を採用した場合を例示したが、その接触させる対象については、例えば、揺動保持板80の一部に形成したカム受け材83以外の接触部(軸などを含む)を採用することも可能である。
また、押当て部材43として、ヘッド部材61とパッド部材62の2種類のものが定着ベルト42を介して加熱ロール41に接触する構成のものを例示したが、この構成に限定されず、例えば、ヘッド部材61とパッド部材62のいずれか一方のみで構成された押当て部材を適用することも可能である。
また、加圧機構45として、1つ又は3つ以上の圧縮コイルばねを適用しても構わない。加圧機構45は、圧縮コイルばねに代えて、例えば、板状の圧縮ばね等のばねを適用して構成することも可能である。
さらに、定着装置4については、加熱ロール41に代えて加熱手段を有しない定着ロールを適用し、また、押当て部材43として加熱手段を有する押当て加熱部材を適用して構成することも可能である。押当て加熱部材の加熱手段として、例えば、電磁誘導式の加熱手段を適用する場合には定着ベルト42として導電層を有する無端ベルトを使用すればよい。
この他、画像形成装置1における作像装置2としては、複数色のトナー像を形成して記録媒体9にそれぞれ転写して多色像を形成する形式の作像装置を適用したものでもよい。作像装置2における転写方式には、直接転写方式に代えて、公知の中間転写方式などを採用することも可能である。