本発明では分子量分布が広く、精製が容易なPPE樹脂の酸化カップリング重合の方法及びそれにより得られる熱硬化性PPE共重合体からなる低誘電損失樹脂及びそれを含む樹脂組成物について検討した。以上の性能を満たす新規熱硬化性PPE共重合体は、従来の変成ポリフェニレンエーテルに比べて飛躍的に優れた誘電特性、易溶解性、高耐熱性を示すと推定される。
本発明により得られるPPE共重合体は、一般式(1)で示される第1のフェノール誘導体を含む反応形であって、該反応系は大のフェノール誘導体及びその重合体の両溶媒である大の溶媒及び該第1の溶媒に対して混じりあわない第2の溶媒を含む不均一形であって、重合触媒の存在下で前記フェノール誘導体を酸化カップリング重合重合して、一般式(2)で示される繰り返し単位を有する樹脂を得る製造方法である。
本発明により得られるPPE共重合体としては、一般式(1)で示される第1のフェノール誘導体と一般式(4)で示される第2のフェノール誘導体を含む反応系であって、該反応系は第及び第2のフェノール誘導体の重合体の良溶媒である第1の溶媒及び第1の溶媒に対して混じり合わない第2の溶媒を含む反応系内に含む不均一系であって、重合触媒の存在下で、前記第1のフェノール誘導体及び第2のフェノール誘導体を酸化カップリング重合によってランダム共重合が起こり、一般式(5)で示される繰り返し単位を有する樹脂を得る方法である。
なお、式(4)で示される第2のフェノール誘導体及びランダム共重合により得られる式(5)で示される繰り返し単位を有する共重合体のうち、R8及びR9の少なくとも1つは不飽和結合を有する炭素数2−9の炭化水素基を有することで、熱硬化性のPPE共重合体を得ることができる。
樹脂の構造及び分子量等の物理特性を電子部品等への適用場所に応じて適宜変化させることが可能である。このうち、樹脂の溶解性及び高耐熱性を得るためには、樹脂の側鎖に熱架橋基を有する熱硬化性共重合体とすることが、より望ましい。
本発明におけるPPEの製造法の特徴として、重合溶媒は重合開始の段階から、樹脂の良溶媒及びその良溶媒に対して互いに混じりあわない第2の溶媒を加え、不均一系による酸化カップリング重合によって樹脂を得ることにある。また、重合反応の段階で樹脂中に含まれる金属触媒を第2の溶媒相に溶解させることで、金属触媒と樹脂が分離して精製がより容易になると考えられる。
また、誘電損失を低く抑えるために、PPEの分子量分布(Mw/Mn;Mw:重量平均分子量、Mn;数平均分子量)を狭くすることが望ましい。具体的には、分子量分布を10以下(Mw/Mn≦10)の樹脂、さらには分子量分布が5以下((Mw/Mn≦5))の樹脂とすることが望ましい。分子量分布の狭いPPEを得る酸化カップリング重合の方法として、銅とジアミンの二核錯体を触媒として用いる方法が挙げられる。
モノマーおよび重合によって生成した樹脂は良溶媒相に溶解していると考えられるため、重合は良溶媒相で進行すると推定できる。一方、銅とジアミンの二核錯体は、第2の溶媒相に溶解することで、触媒相とモノマー相を分離させることができる。また、触媒としての両親媒性物質として、式(3)で示されるジアミンを添加することにより、不均一相同士の混和を促し、重合反応が起こりやすくなると考えられる。
(式中、R3,R4,R6,R7は同一又は異なって、水素、炭素数1から6の直鎖状または分岐状アルキル基を表し、全てが同時に水素ではない。R5は炭素数2から5の直鎖状またはメチル分岐を持つアルキレン基である)
また、脱水剤を系内に加えることで、反応の平衡が生成物側に有利になるため、重合反応がより促進されるようになる。特に、貧溶媒または非溶媒として水を用いた場合、触媒を溶解することにより、脱水剤添加時に水相の触媒が脱水剤に取り込まれて脱水剤が触媒の担体のような作用を示す。このとき、脱水剤による水和によって触媒溶液は有機相と担体の界面を形成し、その界面で反応が進行するため、金属触媒と樹脂の分離は維持される。さらに脱水剤の効果によって反応の平衡が生成物側に有利になるため、脱水剤を添加することで重合反応がより促進されるようになると考えられる。
本発明において得られた樹脂について、既知の精製処理を行うことにより、樹脂内の不純物が除去され、より一層の低誘電損失化が見込まれる。本発明による合成方法では、樹脂の溶解している良溶媒相と重合触媒の溶解している第2成分相が分離しており、従来の重合方法と比較して銅触媒のコンタミネーションは起こりにくくなると考えられる。本発明は、精製処理の方法によって権利が制限されるものではない。
また、本発明における低誘電損失樹脂を得るために、従来の一般的な精製手法を用いることができる。代表的な溶剤としてはハロゲン系化合物、芳香族炭化水素系化合物などがあるが、特にこれに限定せず用いることができる。ハロゲン系化合物としてはジクロロメタン、クロロホルム、四塩化メチル等がある。また芳香族炭化水素系ではトルエン、キシレン等がある。これらの溶剤に共重合体は溶解あるいは均一分散させてワニスを作製することができる。
上記に挙げた溶媒のうち、PPE樹脂はハロゲン系溶剤に可溶であることが知られているが、環境への負荷や溶剤の毒性などを考慮したときに、ハロゲン系溶剤は炭化水素系溶剤と比較してより負荷が高いと考えられている。そのため、ハロゲンを含まない非ハロゲン系溶剤によっても取扱い性の高い樹脂とすることがより望ましい。
本発明において得られた低誘電損失樹脂は、沸点が150℃以下の非ハロゲン系有機溶剤に室温で少なくとも10重量%以上、より好ましくは20重量%以上溶解可能であることが好ましい。従って、沸点150℃以下の非ハロゲン系有機溶剤と、該有機溶剤に溶解した上記低誘電損失樹脂を含む樹脂組成物が提供される。この樹脂組成物は、必要に応じて着色剤、ラジカル架橋反応触媒、架橋剤等の成分を含んでもよい。
ワニス作製にあたっては、上記溶剤に本発明の共重合体を所定量溶解あるいは均一分散させ、さらに必要に応じて第二成分、第三成分を加えることが可能である。また熱硬化物の架橋反応を促進するため、架橋反応触媒ないしは促進剤を添加することができる。不飽和結合を架橋させる架橋反応触媒としては、カチオンまたはラジカル活性種が挙げられる。その他必要に応じて、フィラー等の充填剤、着色剤、難燃剤、接着付与剤、カップリング剤、消泡剤、レベリング剤、イオントラッパー、重合禁止剤、酸化防止剤、粘度調整剤等を添加することができる。
実際に多層配線基板に本発明の樹脂を適用するには、有機溶剤に溶解してワニスを調整し、これをガラスクロスなどの繊維基材に含浸し、乾燥し、プリプレグを作成する。本発明の樹脂は加熱により硬化する熱硬化性樹脂であり、硬化させる前には溶剤に可溶で、ワニスを調整することが可能であり、又それを用いてプリプレグを作ることが出来る。プリプレグは、ガラスクロス等の基材にワニスを含浸し、乾燥して用いる。これを公知の方法で、配線層と積層して多層配線基板を作る。
本発明は前記架橋成分に誘電率が異なる種々の絶縁材料を分散した絶縁層を有する電気部品を包含する。このような構成にすることによって、絶縁層の誘電正接の増加を抑制しつつ、誘電率を容易に調整することができる。本発明の樹脂組成物ではブレンドする高分子量体の種類,添加量にて1GHzにおける誘電率を2.3〜3.0程度の範囲で調整することができる。更に絶縁層に1GHzにおける誘電率が1.0〜2.2の低誘電率絶縁体を分散した高周波用電気部品では、絶縁層の誘電率を1.5〜2.2程度に調整することが可能である。
本発明のPPE共重合体を用いることにより、低誘電損失の特性を維持しながら、耐熱性に優れ、さらに非ハロゲン系で、沸点が150℃以下の有機溶剤に可溶な樹脂組成物を得ることができる。これを絶縁層のマトリックス樹脂に用いた配線基板はエポキシ樹脂等の従来品と同じ加工性、成形性で製造でき、かつ電気特性は従来のエポキシ樹脂に比べて誘電損失の極めて低い性能を有している。また、はんだ耐熱性に代表される熱的性質も従来のエポキシ配線基板と同等か、それ以上の特性を有していることが確認できた。
代表的なポリフェニレンエーテルとしては2,6−ジメチルフェノールの重合体(ポリー2,6−ジメチルフェノール)が挙げられる。この樹脂の誘電特性は優れた値を示すが、熱可塑性樹脂で融点が200℃付近であり、これを用いた配線基板は部品実装におけるリフロー工程(最高260℃付近)で絶縁層の変形、流動が起き、耐熱的に問題がある。また配線基板として機械的強度(強靭性)が必要であり、分子量は5千以上、より好ましくは1万以上であることが望ましい。それより分子量が低いと、樹脂の十分な強度を得ることが難しくなる。しかし2,6−ジメチルフェノールの重合体は分子量が1万以上になると溶剤に溶けにくくなり、クロロホルム(ハロゲン系溶剤)や熱トルエン(50℃以上)等の扱いが困難な溶剤を用いなければならず、従来の基板作製に一般的に用いられている非ハロゲン系で、かつ沸点が150℃以下の有機溶剤の適用は困難である。一方で、側鎖が短いため高周波による側鎖の振動を受けにくいので、優れた誘電損失を示す。そのため、側鎖の短い重合体又は共重合体であるほど誘電損失が低くなる傾向を示す。
本発明により得られるPPE重合体〔一般式(2)〕又はPPE共重合体〔一般式(5)について、重合体におけるにおけるR’、R1、R2が共重合体におけるR’,R1,R2,R8,R9は同一または異なっており、水素あるいは炭素数1−9の炭化水素基である。これらは、水素および飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基を含む官能基であり、耐熱性、溶解性に優れた材料を提供することができる。特にRを芳香族系炭化水素基などの剛直な官能基で修飾することで、末端基の分極および振動が抑制され、より一層の誘電損失特性向上が期待される。
飽和炭化水素基を含む官能基の具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基等の炭素数1−9の様々な炭化水素基がある。特にメチル基を含む(2,6−ジメチルフェニルエーテル)骨格は、高周波による側鎖の振動を受けにくく、優れた誘電特性を示す。そのため、低誘電損失樹脂として用いる際に、(2,6−ジメチルフェニルエーテル)骨格を含む共重合体とすることで、誘電損失の低い樹脂とすることができる。
不飽和炭化水素を含む官能基の具体的な例としては、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基等の炭素数2〜9の様々な炭化水素基で不飽和結合を有する置換基である。これらの不飽和結合は熱により架橋反応が起き、配線基板の耐熱性向上に寄与する、すなわち配線基板において部品実装時のリフロー工程(最高260℃付近)で絶縁層の変形、流動を抑制できる。またメチル基に比べて分子鎖を長くした置換基を導入することで、溶剤に対する溶解性も向上できる。
不飽和基を含む繰り返し単位の例として、(2,6−ジメチルフェニルエーテル)と共重合させる化合物の例としては、(2−ビニル−6−メチルフェニルエーテル)、(2−ビニル−6−スチリルフェニルエーテル)、(2−アリル−6−メチルフェニルエーテル)、(2−アリル−6−フェニルフェニルエーテル)、(2−アリル−6−スチリルフェニルエーテル)、(2,6−ジビニルフェニルエーテル)、(2,6−ジアリルフェニルエーテル)、(2,6−ジイソプロペニルフェニルエーテル)、(2,6−ジブテニルフェニルエーテル)、(2,6−ジイソブテニルフェニルエーテル)、(2,6−ジペンテニルフェニルエーテル)、(2,6−ジイソペンテニルフェニルエーテル)、(2,6−ジノネニルフェニルエーテル)、(2,6−ジスチリルエーテル)、(2,6−ジスチリルメチルエーテル)、(2―メチル−6−スチリルエーテル)、(2−メチル−6−ジスチリルメチルエーテル)等が挙げられる。樹脂の溶解性及び高耐熱性を得るためには、樹脂の側鎖に熱架橋基を有する熱硬化性共重合体とすることがより望ましい。
また、芳香族炭化水素を含む具体的な例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ベンジル基、フェネチル基、スチリル基、スチリルメチル基等がある。これらの芳香族炭化水素基の導入により、共重合体の耐熱性が向上し、かつ置換基の効果で溶剤に対する溶解性も向上する。
一方、かさ高い官能基を有するフェニルエーテル部位の共重合比が高くなると、樹脂側鎖の振動によって誘電損失特性への影響が大きくなる可能性がある。誘電損失特性に優れた樹脂を得るには、(2,6−ジメチルフェニルエーテル)との共重合体とすることが望ましく、かさ高い官能基を持つフェニルエーテルの共重合比は30モル%以下、より好ましくは15モル%以下とすることが望ましい。但し、かさ高い官能基の機能を得るためには、5モル%以上とするのが好ましい。
また、本発明におけるPPEの製造方法の特徴として、重合溶媒は重合開始の段階から、樹脂の良溶媒および、良溶媒に対して互いに混じり合わない第2の溶媒を加え、不均一系による酸化カップリング重合によって樹脂を得ることにある。また、重合反応の段階で樹脂中に含まれる金属触媒を第2の溶媒相に溶解させることで、精製時の金属成分の除去が容易になる。また、第2の溶媒をPPEの貧溶媒とすることで、金属触媒と樹脂が分離して精製がより容易になると考えられる。具体的な重合溶媒の例として、良溶媒の例としてトルエンが、第2の溶媒の例として水がそれぞれ挙げられる。本発明において溶媒の種類によって権利が制限されることはない。
反応系に加える両親媒性添加剤、即ち二核錯体の具体的な例としては、例えばN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’−トリメチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N−メチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルエチレンジアミン、N,N,N’−トリエチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N,N−ジメチル−N’−エチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチル−N−エチルエチレンジアミン、N−n−プロピルエチレンジアミン、N,N’−n−プロピルエチレンジアミン、N−i−プロピルエチレンジアミン、N,N’−i−プロピルエチレンジアミン、N−n−ブチルエチレンジアミン、N,N’−n−ブチルエチレンジアミン、N−i−ブチルエチレンジアミン、N,N’−i−ブチルエチレンジアミン、N−t−ブチルエチレンジアミン、N,N’−t−ブチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’−トリメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N’−ジメチル−1,3−ジアミノプロパン、N−メチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノ−1−メチルプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノ−2−メチルプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−ジアミノブタン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,5−ジアミノペンタン等が挙げられる。
本発明にとって好ましいジアミン化合物は2つの窒素原子をつなぐアルキレン基の炭素数が2または3のものである。これらのジアミン化合物の両親媒性添加剤使用量は特に限定されないが、使用される第2の溶媒の体積量に対して1/2倍量〜10倍量の範囲で用いることが望ましい。また、両親媒性添加剤と二核錯体の配位子が、配位子交換を起こすことで錯体触媒の性能が変化する可能性があるため、両者は同一の物質を用いることが望ましい。
また、誘電損失を低く抑えるために、PPEの分子量分布は狭くなることが望ましい。具体的には、分子量分布が10以下(Mw/Mn≦10)の樹脂、さらには分子量分布が5以下(Mw/Mn≦5)の樹脂とすることが望ましい。分子量分布の狭いPPEを得る酸化カップリング重合の方法として、銅とジアミンの二核錯体を触媒として用いた方法が挙げられる。二座配位アミンの一つである、テトラメチルエチレンジアミン(以降TMEDAと略記)から合成されるジ−μ−ヒドロキソビス[(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]二塩化物(銅−TMEDA錯体)は、銅イオンに2つのTMEDAが配位した二核錯体で、本合成法に適した物質の例である。配位子がかさ高いため、C−Oカップリングが優先的に進行しやすく、分子量分布の抑制に効果を示すと考えられる。また、水への溶解性が高く、水中でも錯体は安定に存在できる。
モノマーおよび重合によって生成した樹脂は良溶媒相に溶解していると考えられるため、重合はトルエン相で進行すると推定できる。一方、銅−TMEDA錯体はトルエンに不溶だが、水に易溶であるため、銅−TMEDA錯体は水相に溶解していると考えられる。また、TMEDAはトルエン相、水相ともに混和が可能な両親媒性物質として適した物質であり、不均一相同士の混和を促し、重合反応が起こりやすくなったと考えられる。
また、酸化カップリング重合は重縮合反応であるため、生成物として水が生じる。そのため、重合前に加える水の量が多くなると逆反応が起こりやすくなるため、重合速度が低くなると考えられる。そのため、触媒の添加量および水の量を調整することにより、重縮合反応の重合速度を自由に制御できると考えられる。従来の酸化カップリング重合では分子量のコントロールが困難であったが、本発明のPPEの製造方法では、分子量のコントロールを容易に行うことができる。本製造方法は、酸化カップリングにより得られるPPEであれば特に制限なく適用することが可能である。
一方、高分子量の樹脂を得るためには重合反応の効率をより高める必要がある。このとき、重合系内に脱水剤を加えることで重縮合反応により生成する水が除去されるため、反応の平衡が生成物側に有利になり、重縮合反応がより促進されるようになる。
特に、貧溶媒として水を用いた場合、触媒を水相に溶解することで、十分な量の脱水剤を添加したときに重合触媒水溶液が脱水剤に取り込まれ、脱水剤と水溶液の構造体を形成する。このとき、触媒は構造体に内包されるため、脱水剤が触媒の担体のような作用を示す。重合は有機相と構造体の不均一相界面で反応が進行するため、金属触媒と樹脂の分離は維持される。
さらに脱水剤の効果によって反応の平衡が生成物側に有利になるため、脱水剤を添加することで重合反応がより促進されるようになると考えられる。反応系に加える脱水剤として、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等の無機塩やモレキュラーシーブス、ゼオライト等が挙げられる。このうち、硫酸ナトリウムは精製時に用いるメタノール溶媒中に可溶であるため、重合の担体および脱水剤として特に適していると考えられる。本製造方法は、酸化カップリングにより得られるPPEであれば特に制限なく適用することが可能である。
ワニス作製にあたっては、上記溶剤に本発明の共重合体を所定量溶解あるいは均一分散させ、さらに必要に応じて第二成分、第三成分を加えることが可能である。また不飽和結合を含む共重合体を用いる場合、熱硬化物とする際に架橋反応を促進するため、架橋反応触媒もしくは架橋剤等を添加することができる。添加量は特に制限はないが共重合体100重量部に対して0.01〜5重量部、より好ましくは0.01〜1重量部程度、さらに好ましくは0.01〜0.5重量部程度とすることが望ましい。
本発明における樹脂は構造の中にランダム共重合による不飽和炭化水素基を含むため、既報の樹脂組成物と比較して効率よく硬化が進行する。そのため、架橋反応触媒や架橋剤の添加量は少量でも十分に硬化することが可能である。
また、触媒添加量が多すぎると誘電損失が増加し、電気特性に悪影響を及ぼすものもある。また添加量がすくないと促進効果が十分でなくなるが、特にビニル基やアリル基を側鎖に持つ樹脂は少量の添加物で架橋反応の促進に効果があった。上記添加物の効果により、架橋反応触媒は低温で架橋反応を進行させ、架橋剤によって架橋密度が上昇する。その結果、耐熱性に優れた絶縁材料を得ることができる。
不飽和結合の架橋反応触媒としては、カチオンまたはラジカル活性種を以下に示す。カチオン触媒としてはBF4―、PF6―、AsF6―、SbF6―を対アニオンとするジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩及び脂肪族スルホニウム塩が挙げられる。ラジカル触媒としてはベンゾイン及びベンゾインメチルに代表されるベンゾイン系化合物、アセトフェノン及び2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンに代表されるアセトフェノン系化合物、チオキサントン及び2,4−ジエチルチオキサントンに代表されるチオキサントン系化合物、4,4’−ジアジドカルコン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノン及び4,4’−ジアジドベンゾフェノンに代表されるビスアジド化合物、アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビスプロパン、m,m’−アゾキシスチレン、ヒドラジン等のアゾ化合物、2,5−ジメチル−2,5−(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物が挙げられる。
また、架橋剤の例としては1,3,5−トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルアミン、トリアリルシアヌレート、多官能スチレン等が挙げられる。特に、多官能スチレンはPPEとの相溶性が高く、低誘電損失特性を示す材料であることから、複合化量が多くなっても優れた誘電特性を示す樹脂組成物となる。
その他必要に応じて、フィラー等の充填剤、着色剤、難燃剤、接着付与剤、カップリング剤、消泡剤、レベリング剤、イオントラッパー、重合禁止剤、酸化防止剤、粘度調整剤等を添加することができる。
ここで配線基板の製造方法としては二仕様に分けることができる。ひとつは得られたワニスを補強材に含浸塗工して、プリプレグを作製する方法である.さらにもうひとつは銅箔等に直接塗り、絶縁層としては補強材のない樹脂のみの基板である。本発明では特に限定はないが、多くの実装部品を搭載するリジッド基板の場合は補強材を用いることが多い。またフレキシブル基板ないしはビルドアップ基板を構成するときは補強材を用いないことが多い。
補強材としては現在配線基板として一般に適用されている織布、不織布、不織紙、フィルム等を用いることができる。代表的なものとしてはEガラス、Sガラス、Dガラス、シリカガラス、Aガラス等の無機酸化物、ポリイミド、ポリアラミド等の有機物等が挙げられる。本発明では絶縁層に高分子量体を分散させることによって、絶縁層に強度,伸び,導体配線への接着力,フィルム形成能を付与することができる。これによって多層配線板の作成に必要なプリプレグ,導体箔とプリプレグを積層して硬化した導体箔付き積層板(以下、積層板と略す)の作製が可能となるほか、薄膜形成プロセスによる高密度多層配線基板の作成も可能となる。
前記高分子量体の数平均分子量は1,000以上であることが好ましく、樹脂溶解性の観点からより好ましくは1,000から60,000、低誘電損失性能の観点からより好ましくは10,000から50,000、さらに好ましくは15,000から30,000である。分子量が小さい場合は、機械強度の改善が不十分になる場合があり、また分子量が大きすぎる場合は樹脂組成物をワニス化した際に粘度が高くなり、混合攪拌,成膜が困難になる。そのため、用途に適した分子量の樹脂を適宜選択することが重要となる。
高分子量体の例としては、ブタジエン,イソプレン,スチレン,エチルスチレン,ジビニルベンゼン,N−ビニルフェニルマレイミド,アクリル酸エステル,アクリロニトリルから選ばれるモノマーの単独或いは共重合体,置換基を有していてもよいポリフェニレンオキサイド,環状ポリオレフィン,ポリシロキサン,ポリエーテルイミド等が挙げられる。中でもポリフェニレンオキサイド,環状ポリオレフィンは高強度で誘電正接性が低いので好ましい。
実際に多層配線基板に本発明の樹脂を適用するには、有機溶剤に溶解してワニスを調整し、これをガラスクロスなどの繊維基材に含浸し、乾燥し、プリプレグを作成する。上記式(1)、式(2)、式(4)及び/又は式(5)のR1、R2、R8、R9が不飽和結合を持たない場合、熱可塑性樹脂である多層配線基板用低誘電損失樹脂が提供される。
上記式(1)、式(2)、式(4)及び/又は式(5)のR1、R2、R8、R9の少なくとも1つが不飽和結合を有する場合、熱硬化性樹脂である多層配線基板用低誘電損失樹脂が提供される。この熱硬化性樹脂は、硬化させる前には溶剤に可溶で、ワニスを調整することが可能であり、又それを用いてプリプレグを作ることが出来る。プリプレグは、ガラスクロス等の基材にワニスを含浸し、乾燥して用いる。これを公知の方法で、配線層と積層して多層配線基板を作る。
本発明は前記架橋成分に誘電率が異なる種々の絶縁材料を分散した絶縁層を有する電気部品を包含する。このような構成にすることによって、絶縁層の誘電正接の増加を抑制しつつ、誘電率を容易に調整することができる。本発明の樹脂組成物ではブレンドする高分子量体の種類,添加量にて1GHzにおける誘電率を2.3〜3.0程度の範囲で調整することができる。更に絶縁層に1GHzにおける誘電率が1.0〜2.2の低誘電率絶縁体を分散した高周波用電気部品では、絶縁層の誘電率を1.5〜2.2程度に調整することが可能である。絶縁層の誘電率を低減することにより、電気信号の一層の高速伝送が可能となる。これは電気信号の伝送速度が誘電率の平方根の逆数と比例関係にあるためであり、絶縁層の誘電率が低いほど伝送速度は高くなる。
前記低誘電率絶縁体としては低誘電率樹脂粒子,中空樹脂粒子,中空ガラスバルーン,空隙(空気)が好ましく、その粒子サイズは絶縁層の強度,絶縁信頼性の観点から、平均粒径0.2〜100μm、より好ましくは0.2〜60μmであることが好ましい。
低誘電率樹脂粒子の例としてはポリテトラフルオロエチレン粒子,ポリスチレン−ジビニルベンゼン架橋粒子等が挙げられ、中空粒子としては中空スチレン−ジビニルベンゼン架橋粒子,シリカバルーン,ガラスバルーン,シラスバルーン等が挙げられる。低誘電率絶縁層は高速伝送性が要求される半導体装置の封止樹脂及びチップ間を電気的に接続するMCM基板等の配線,高周波用チップインダクタ等の回路の形成に適している。
一方、本発明では絶縁層中に1GHzにおける誘電率が3.0〜10.0の高誘電率絶縁体を分散することによって誘電正接の増大を抑制しつつ、誘電率が3.1〜20の高誘電率絶縁層を有する高周波用電気部品を作成することができる。絶縁層の誘電率を高くすることによって回路の小型化,コンデンサの高容量化が可能となり高周波用電気部品の小型化等に寄与できる。
高誘電率,低誘電正接絶縁層はキャパシタ,共振回路用インダクタ,フィルター,アンテナ等の形成に適している。
本発明に用いる高誘電率絶縁体としては、セラミック粒子または絶縁処理施した金属粒子が挙げられる。具体的には、シリカ,アルミナ,ジルコニア,セラミックス粒子例えばMgSiO4,Al2O3,MgTiO3,ZnTiO3,ZnTiO4,TiO2,CaTiO3,SrTiO3,SrZrO3,BaTi2O5,BaTi4O9,Ba2Ti9O20,Ba(Ti,Sn)9O20,ZrTiO4,(Zr,Sn)TiO4,BaNd2Ti5O14,BaSmTiO14,Bi2O3−BaO−Nd2O3−TiO2系,La2Ti2O7,BaTiO3,Ba(Ti,Zr)O3系,(Ba,Sr)TiO3系等の高誘電率絶縁体を挙げることができる。
同様に絶縁処理を施した金属微粒子例えば金,銀,パラジウム,銅,ニッケル,鉄,コバルト,亜鉛,Mn−Mg−Zn系,Ni−Zn系,Mn−Zn系,カルボニル鉄,Fe−Si系,Fe−Al−Si系,Fe−Ni系等を挙げることができる。
高誘電率絶縁体の粒子は破砕,造粒法または熱分解性金属化合物を噴霧,熱処理して金属微粒子を製造する噴霧熱分解法(特公昭63−31522号公報,特開平6−172802号公報,特開平6−279816号公報)等で作製される。噴霧熱分解法では出発材料である金属化合物、例えばカルボン酸塩,リン酸塩,硫酸塩等と、形成された金属と反応してセラミック化するホウ酸,珪酸,リン酸あるいは、酸化後にセラミック化する各種金属塩を混合して噴霧熱分解処理することによって表面に絶縁層を有する金属粒子を形成することができる。
高誘電率絶縁体の平均粒径は0.2〜100μm程度が好ましく、絶縁層の強度,絶縁信頼性の観点から、平均粒径0.2〜60μmが一層好ましい。粒径が小さくなると樹脂組成物の混練が困難となり、大きすぎると分散が不均一となり、絶縁破壊の起点となり、絶縁信頼性の低下を招く場合がある。高誘電率粒子の形状は、球形,破砕,ウイスカ状のいずれでもよい。以下、本発明を実施例、比較例により詳細に説明する。
(実施例1)(共重合体1の合成)
攪拌子を入れた2口フラスコに、ジ−μ−ヒドロキソビス[(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]二塩化物:0.464g(1.0mmol)、水:2ml、テトラメチルエチレンジアミン:1mlを加えて攪拌した。攪拌停止後、2,6−ジメチルフェノール:9.90g(81.0mmol)、2−アリル−6−メチルフェノール:1.34g(9.0mmol)をトルエン:50mlに溶解した溶液をフラスコに静かに加え、40℃、50ml/minの酸素雰囲気下500〜800rpmで攪拌した。酸素雰囲気下で6時間攪拌した。
反応終了後、大過剰の塩酸/メタノールに沈殿させ、メタノールで洗浄後、トルエンに溶解させ、不溶物を濾別した。再びトルエンに溶解後、大過剰の塩酸/メタノールに再沈殿させ、メタノールで洗浄後、120℃/2時間、150℃/30分真空乾燥して白色の固形物を得た。固形物の分子量および分子量分布は、Mn=28,000,Mw/Mn=2.2であった。
(実施例2)(共重合体2の合成)
攪拌子を入れた2口フラスコに、ジ−μ−ヒドロキソビス[(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]二塩化物:0.464g(1.0mmol)、水:3ml、テトラメチルエチレンジアミン:1mlを加えて攪拌した。攪拌停止後、2,6−ジメチルフェノール:9.90g(81.0mmol)、2−アリル−6−メチルフェノール:1.34g(9.0mmol)をトルエン:50mlに溶解した溶液をフラスコに静かに加え、40℃、50ml/minの酸素雰囲気下500〜800rpmで攪拌した。
酸素雰囲気下で6時間攪拌した。反応終了後、大過剰の塩酸/メタノールに沈殿させ、メタノールで洗浄後、トルエンに溶解させ、不溶物を濾別した。再びトルエンに溶解後、大過剰の塩酸/メタノールに再沈殿させ、メタノールで洗浄後、120℃/2時間、150℃/30分真空乾燥して白色の固形物を得た。固形物の分子量および分子量分布は、Mn=21,000,Mw/Mn=2.1であった。
(実施例3)(共重合体3の合成)
攪拌子を入れた2口フラスコに、ジ−μ−ヒドロキソビス[(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]二塩化物:0.464g(1.0mmol)、水:4ml、テトラメチルエチレンジアミン:1mlを加えて攪拌した。攪拌停止後、2,6−ジメチルフェノール:9.90g(81.0mmol)、2−アリル−6−メチルフェノール:1.34g(9.0mmol)をトルエン:50mlに溶解した溶液をフラスコに静かに加え、40℃、50ml/minの酸素雰囲気下500〜800rpmで攪拌した。酸素雰囲気下で6時間攪拌した。
反応終了後、大過剰の塩酸/メタノールに沈殿させ、メタノールで洗浄後、トルエンに溶解させ、不溶物を濾別した。再びトルエンに溶解後、大過剰の塩酸/メタノールに再沈殿させ、メタノールで洗浄後、120℃/2時間、150℃/30分真空乾燥して白色の固形物を得た。固形物の分子量および分子量分布は、Mn=15,000,Mw/Mn=1.7であった。
(実施例4)(共重合体4の合成)
攪拌子を入れた2口フラスコに、ジ−μ−ヒドロキソビス[(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]二塩化物:0.464g(1.0mmol)、水:4ml、テトラメチルエチレンジアミン:1mlを加えて攪拌した。攪拌停止後、2,6−ジメチルフェノール:9.35g(76.5mmol)、2−アリル−6−メチルフェノール:2.01g(13.5mmol)をトルエン:50mlに溶解した溶液をフラスコに静かに加え、40℃、50ml/minの酸素雰囲気下500〜800rpmで攪拌した。酸素雰囲気下で6時間攪拌した。反応終了後、大過剰の塩酸/メタノールに沈殿させ、メタノールで洗浄後、トルエンに溶解させ、不溶物を濾別した。再びトルエンに溶解後、大過剰の塩酸/メタノールに再沈殿させ、メタノールで洗浄後、120℃/2時間、150℃/30分真空乾燥して白色の固形物を得た。固形物の分子量および分子量分布は、Mn=28,000,Mw/Mn=2.2であった。
(実施例5)(共重合体4の合成)
攪拌子を入れた2口フラスコに、ジ−μ−ヒドロキソビス[(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]二塩化物:0.464g(1.0mmol)、水:1ml、テトラメチルエチレンジアミン:1mlを加えて攪拌し、更に硫酸マグネシウム:6.00g(49.8mmol)を加えて攪拌した。硫酸マグネシウムの色が均一になった後に攪拌を停止し、2,6−ジメチルフェノール:9.90g(81.0mmol)、2−アリル−6−メチルフェノール:1.34g(9.0mmol)をトルエン:70mlに溶解した溶液をフラスコに静かに加え、40℃、50ml/minの酸素雰囲気下500〜800rpmで攪拌した。
酸素雰囲気下で3時間攪拌した。反応終了後、大過剰の塩酸/メタノールに沈殿させ、メタノールで洗浄後、トルエンに溶解させ、不溶物を濾別した。再びトルエンに溶解後、大過剰の塩酸/メタノールに再沈殿させ、メタノールで洗浄後、120℃/2時間、150℃/30分真空乾燥して白色の固形物を得た。固形物の分子量および分子量分布は、Mn=55,000,Mw/Mn=2.8であった。
(実施例6)(共重合体5の合成)
攪拌子を入れた2口フラスコに、ジ−μ−ヒドロキソビス[(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]二塩化物:0.464g(1.0mmol)、水:2ml、テトラメチルエチレンジアミン:1mlを加えて攪拌した。攪拌停止後、2,6−ジメチルフェノール:9.90g(81.0mmol)、2,6−ビス(3−メチル−2−ブテニル)フェノール:2.07g(9.0mmol)をトルエン:50mlに溶解した溶液をフラスコに静かに加え、40℃、50ml/minの酸素雰囲気下500〜800rpmで攪拌した。
酸素雰囲気下で6時間攪拌した。反応終了後、大過剰の塩酸/メタノールに沈殿させて洗浄後、トルエンに溶解させ、不溶物を濾別した。再びトルエンに溶解後、大過剰の塩酸/メタノールに再沈殿させ、メタノールで洗浄後、120℃/2時間、140℃/30分真空乾燥して白色の固形物を得た。固形物の分子量および分子量分布は、Mn=26,000,Mw/Mn=2.5であった。
(比較例1)
2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテルの重合体として、アルドリッチ社製の市販品を用いた。固形物の分子量および分子量分布は、Mn=27,000,Mw/Mn=2.7であった。
(比較例2)
攪拌子を入れた2口フラスコに塩化銅(I)0.400g(3.80mmol)、ニトロベンゼン100ml、硫酸マグネシウム2.4g(20mmol)、ピリジン:20ml(0.248mol)を加え、50ml/minの酸素雰囲気下500〜800rpmで攪拌した。2,6−ジメチルフェノール4.98g(27.0mmol)、2−アリル−6−メチルフェノール:0.45g(3.0mmol)を加え、25℃、酸素雰囲気下で60分攪拌した。反応終了後、大過剰の塩酸/メタノールに沈殿させ、メタノールで数回洗浄後、トルエンに溶解させ、不溶物を濾別した。再びトルエンに溶解後、大過剰の塩酸/メタノールに再沈殿させ、メタノールで数回洗浄後、110℃/6時間真空乾燥して白色の固形物を得た。固形物の分子量および分子量分布は、Mn=36,000,Mw/Mn=42.3であった。
(比誘電率及び誘電正接の測定)
空洞共振法(アジレントテクノロジー社製8722ES型ネットワークアナライザー、関東電子応用開発製空洞共振器)によって10GHzで測定した。
(ガラス転移温度)
熱・応力・歪測定装置(TMA/SS:SEIKO EXSTAR6000TMA/SS6100)を用い、貯蔵弾性率E’、弾性損失tanδを測定した。樹脂のtanδのピーク位置を転移温度とした。測定昇温速度は5℃/分とした。
(はんだ耐熱性)
JIS規格C6481に順じ、25×25mm角の両面銅張積層板を260℃のはんだ浴に120秒間浮かべ、取り出した試料の膨れ、はがれ、変形、反りなどを調べた。
硬化物特性は、実施例1〜4、比較例1、2に関して、それぞれ厚さ1mmのスペーサを用いて、プレスで加圧、加熱成形することにより樹脂板硬化物を得た。成形条件は2MPaの圧力で、260℃/60分加熱(昇温10℃/min)とした。
基板特性は、実施例1〜4、比較例1、2に関して、上記共重合体100gを表1に示す溶剤に溶解して、固形分量30重量%のワニスを作製し、Eガラスクロス(日東紡、厚さ50μm)に含浸塗工し、120℃、10分で溶剤を除去して、プリプレグを得た。得られたプリプレグを3枚重ね、その上下に銅箔(日本電解、厚さ18μm)を置き、プレスで加圧、加熱成形することにより銅張積層板を得た。成形条件は2MPaの圧力で260℃/60分(昇温10℃/min)とした。
(分子量・分子量分布の測定)
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC,カラム:Shodex K−804L(カラム温度40℃)、ポンプ:SHIMADZU LC−10AT、UV検出器:SHIMADZU SPD−10A、溶離液:クロロホルム(流量1ml/min)、標準物質:ポリスチレン)によって行った。
(高周波プラズマ発光分析(ICP)測定)
ICP発光分析装置(セイコー電子SV1500)を用いて測定を行った。サンプルの重量を500mg正確に秤量した後、サンプルに発煙硝酸を20ml加え、12時間攪拌し、メスフラスコにろ過した発煙硝酸を分取し、超純水を加えて50mlの硝酸溶液とした。ICP発光分析装置により、元素のモル濃度(mol/l)を測定した。(測定元素:Cu+、Cu2+(リファレンス:Y+))
実施例1〜6及び比較例1、2の樹脂組成及び硬化物及び基板の特性を表1に示す。従来の合成法で調製したアリル基を側鎖に含むPPE共重合体(比較例2)は誘電損失が市販のPPE樹脂(比較例1)よりも大きいが、本発明品はいずれも比較例2の性能を上回る性能を示した。特に、実施例1〜5は市販PPE樹脂とほぼ同等あるいはそれ以下の誘電損失を示した。
また、熱硬化性樹脂であるため、ガラス転移温度以上の加熱を行っても樹脂の変形は起こりにくく、耐熱性に優れた樹脂となった。この結果から、本合成方法によって得た樹脂が誘電損失特性に優れた熱硬化性樹脂材料となると考えられる。また、実施例6の樹脂は、熱可塑性PPE樹脂と比較してガラス転移温度が高く、耐熱性に優れた樹脂となった。
実施例1〜6により得た樹脂は、従来の合成法である比較例2の樹脂と比較して分子量分布が狭くなった。これは、配位子がかさ高く、銅の二核錯体である銅−TMEDA錯体を触媒として用いることにより、C−Oカップリングが優先的に進行しやすくなり、分子量分布の抑制に効果を示したためと考えられる。また、実施例1〜4および6の結果から、触媒は水への安定性が高いため、脱水剤の添加を行わずに樹脂の合成が可能となった。
一方、実施例5の結果から、十分な量の脱水剤を水相に添加することにより、重合触媒水溶液が脱水剤に取り込まれて担持触媒のような構造体を形成した。重合は有機相と構造体の不均一相界面で進行するため、金属触媒と樹脂の分離は維持された。さらに脱水剤の効果によって反応の平衡が生成物側に有利になるため、脱水剤を添加することで重合反応がより促進されるようになった。
実施例1〜6、比較例2に示した共重合体(熱硬化前)は、いずれもトルエンに10wt%以上溶解した。側鎖にかさ高い熱硬化基を含むため、室温における親溶剤性が高まったためと推定される。特に、分子量の低い実施例2,3の樹脂は溶解性が高く、15〜30wt%溶解することができた。そのため、低粘度かつ高濃度のトルエン溶液を調製可能である。また、分子量の大きい実施例5の樹脂は、フィルム成型性に特に優れており、低誘電損失かつ高強度のフィルム材料として適用可能である。
基板特性を評価した結果、比較例1の樹脂は熱可塑性であるため、加熱によって変形が起こったが、実施例1〜6、比較例2では変形が見られなかった。また、実施例1〜4においては、比較例1と同等の誘電損失特性を示した。また、室温でトルエンに可溶であるため、不飽和脂肪酸を含む共重合体の比が増すことで樹脂のガラス転移温度Tgが低くなった。これは、アリル基の熱による安定性が高く、架橋反応性が低いためと予想される。また、側鎖にメチル基よりも長い側鎖が導入されるため、市販のPPE樹脂(比較例1)よりもガラス転移温度が低くなることが示唆される。
実施例2で調製した樹脂について、架橋反応触媒(2,5−ジメチル−2,5―(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3(日本油脂製、パーヘキシン25B))、架橋剤(1,3,5−トリアリルイソシアヌレート(日本化成製、TAIC))を0.1重量%添加した樹脂組成物とし、2MPaの圧力で、260℃/60分(昇温10℃/min)加熱した結果、樹脂組成物のガラス転移温度は220℃以上となり、比較例1のガラス転移温度(205℃)よりも高くなった。
また、貯蔵弾性率も300℃付近で上昇しないことから、架橋反応がより進行したことが示された。これは、樹脂の架橋密度が上昇したことによる効果と推定される。また、本発明において、きわめて少量の添加物で架橋促進効果が見られたことから、樹脂の構造的特異性による効果であると考えられる。
(実施例7)(不均一系によるPPEの合成)
攪拌子を入れた2口フラスコに、ジ−μ−ヒドロキソビス[(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]二塩化物:0.464g(1.0mmol)、水:2ml、テトラメチルエチレンジアミン:1mlを加えて攪拌した。攪拌停止後、2,6−ジメチルフェノール:11.0g(90.0mmol)をトルエン:50mlに溶解した溶液をフラスコに静かに加え、40℃、50ml/minの酸素雰囲気下500〜800rpmで攪拌した。酸素雰囲気下で6時間攪拌した。反応終了後、大過剰の塩酸/メタノールに沈殿させて洗浄後、トルエンに溶解させ、不溶物を濾別した。再びトルエンに溶解後、大過剰の塩酸/メタノールに再沈殿させ、メタノールで洗浄後、120℃/2時間、140℃/30分真空乾燥して白色の固形物を得た。固形物の分子量および分子量分布は、Mn=33,000,Mw/Mn=2.2であった。得られた樹脂の特性を表2に示す。
実施例7の結果から、不均一系で合成を行うことで市販のPPEと同等の性能を示した。これにより、重合体、共重合体に関係なく、重合は有機相と水相の不均一相界面で進行し、所定の重合体を得ることができた。また、本発明の合成方法により重合溶液中に含まれる金属触媒が水相に溶解し、従来の重合方法に比べて樹脂の精製効率を高めることができた。
以下、酸化カップリング重合によって、分子量分布の狭い樹脂を重合するための重合方法について説明する。
(実施例8)(共重合体の合成条件検討)
ジ−μ−ヒドロキソビス[(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]二塩化物、水、テトラメチルエチレンジアミンを所定量加えて攪拌した。攪拌停止後、2,6−ジメチルフェノール:9.90g(81.0mmol)、2−アリル−6−メチルフェノール:1.34g(9.0mmol)をトルエン:50mlに溶解した溶液をフラスコに静かに加え、40℃、50ml/minの酸素雰囲気下500〜800rpmで攪拌した。酸素雰囲気下で任意時間攪拌した。反応終了後、大過剰の塩酸/メタノールに沈殿させ、メタノールで洗浄後、トルエンに溶解させ、不溶物を濾別した。再びトルエンに溶解後、大過剰の塩酸/メタノールに再沈殿させ、メタノールで洗浄後、120℃/2時間、150℃/30分真空乾燥して白色の固形物を得た。銅−TMEDA錯体、水、TMEDA添加量のモル比、重合時間を表3に示した。
表4に銅−TMEDA錯体とトルエン溶媒、モノマーの量を一定として、水およびTMEDAを加えずに重合した条件(Run1)、水を加えてTMEDAを加えずに重合した条件(Run14)、水およびTMEDAを加えて重合した条件(Run4)について、分子量、分子量分布、ICPによるアリル化PPEの銅イオン濃度測定結果、10GHzにおける誘電損失測定結果を示した。いずれの条件においても、銅−ピリジン触媒で合成した樹脂と比較して分子量分布が低くなった。これは、かさ高いTMEDA配位子を有する銅の二核錯体を用いることで、アリル化PPE共重合体の分岐構造形成が抑制されたためと考えられる。
Run1は重合系に水を加えないで重合を行った。逆反応による阻害を受けず、共重合体の分子量は他の条件よりも大きくなった。しかし、共重合体の成長速度が速いため、重合度の制御が難しく、分子量の低い共重合体、特に数平均分子量が40,000以下の共重合体を再現性よく得ることが困難である。
一方、Run4はRun1の共重合体よりも分子量の低い共重合体となった。水の量を変化させることで重縮合の反応速度が制御されるため、比較的容易に低分子量の共重合体を得ることが可能となった。
Run14はRun4と同様の条件で、TMEDAを加えずに重合を行った。TMEDAを添加しない条件では重合速度が大幅に低下し、収率も低くなった。TMEDAは重合触媒を含む水相と樹脂成分を含むトルエン相の混和を促進させる両親媒性の添加剤であり、共重合体の不均一系酸化カップリング重合において、重合反応を促進させるために必要な物質であると考えられる。
ICP分析による銅イオン濃度測定結果および10GHzにおける誘電損失測定結果から、Run4は、他の樹脂と比較して樹脂中の銅含有量が低く、低誘電率・低誘電正接の樹脂となった。一方、Run1およびRun14は水相もしくは添加剤のTMEDAを加えなかったため、樹脂の溶解しているトルエン相に溶出した銅−TMEDA錯体が再沈殿で除去することができず、誘電損失が高くなったと考えられる。以上の結果から、不均一系でTMEDAを添加することによって、効率よく酸化カップリング重合を行うことが可能となった。
また、重合系内の水の量を調整することで、樹脂の重合速度を制御することができた。重合系に加える水の添加量のみ変化させた条件(Run1、Run2、Run3、Run4)について、共重合体の数平均分子量変化の比較(図1A)、分子量分布変化の比較(図1B)についてそれぞれ示した。
水の添加量が1mlの場合、分子量変化では水を添加しない場合との差は小さいが、添加量が2ml、4mlと増えるにつれて重合速度への影響が大きくなり、重合速度が低くなった。水の量が増えると逆反応が促進されたのに加え、水中に含まれる銅−TMEDA錯体の濃度が低下したため、重合速度が低くなったためと推定できる。また、水の添加量を増やし、重合速度を制御することで、主反応のC−Oカップリング反応が促進され、分子量分布が狭くなったと推定される。以上の点から、樹脂の重合速度を制御することで、PPE共重合体の樹脂の分子量を制御することができた。
一方、重合系内のTMEDAの量についても検討を行った。重合系に加えるTMEDAの添加量のみ変化させた条件(Run3、Run4、Run6、Run14)について、共重合体の数平均分子量変化の比較(図2A)、分子量分布変化の比較(図2B)についてそれぞれ示した。TMEDA添加量を増やすことで、共重合体の重合速度は高くなる傾向を示した。しかし、TMEDAの添加の有無によって、得られる共重合体の重合速度は大きく異なるものの、添加量による分子量および分子量分布の差は低いことから、TMEDAの添加量によって分子量を制御することは難しいと考えられる。
表3の合成条件によって得られた共重合体(Run1〜Run13)について、重合開始時に添加した水の添加量と銅−TMEDA触媒のモル比を縦軸として、重合停止後の共重合体の数平均分子量変化および分子量分布変化の比較(図3A)を示した。また、水の添加量とトルエンの添加量の体積比を縦軸として、10GHzにおける誘電率および誘電正接の比較(図3B)を示した。
図3Aから、水の添加量と銅−TMEDA触媒のモル比によって、数平均分子量との間に直線関係が示された。この結果から、樹脂の分子量は、水の添加量と銅−TMEDA触媒の量によって制御することが可能であると考えられる。また、重合反応速度を低くすることにより、分子量分布もより狭まり、2.0付近に収束した。これは、重縮合反応において分岐状成などの副反応が抑えられた、理想的な重合条件となったためであると考えられる。
図3Bから、水とトルエンのうち、水の体積比が増すと、樹脂の誘電損失がより低くなることが示された。これは、水相における重合触媒の濃度が低くなることで、重合触媒のトルエン相への溶出が抑制されるため、再沈殿によって得られた共重合体に含まれる銅イオン濃度が低くなったためと推定される。そのため、低誘電損失の共重合体を得る為には、水の添加量を増やすことが有効であると推定される。
以上の結果から、水、トルエン、銅−TMEDA触媒の添加量を精査することで、条件に合った共重合体の合成が可能であると考えられる。
また、表3の合成条件によって得られた共重合体(Run1〜Run14)の測定データを表5に示した。
以下、各電子部品に要求される要求特性に基づいて本発明の電子部品について説明する。
(1)半導体装置
従来、高周波用半導体素子は、高周波動作の障害となる配線間静電容量を低減するために、図4に記載のように空気層を絶縁層とするハーメチックシール型の気密パッケージにて製造されてきた。本発明では所定の配合比とした架橋成分,低誘電率絶縁体粒子,必要により高分子量体,難燃剤及び第二の架橋成分,離型剤,着色剤等を含有する低誘電率かつ低誘電正接な樹脂組成物を有機溶媒中あるいは無溶剤状態で混合分散し、該低誘電率,低誘電正接樹脂組成物で半導体チップを被覆し、必要により乾燥し、硬化することによって、低誘電率,低誘電正接樹脂層で絶縁,保護された半導体装置を作製する。
該低誘電率,低誘電正接樹脂組成物の硬化は120℃〜240℃の加熱で行うことができる。図5に本発明の高周波用半導体装置の一例を示すがその形状は特に限定されるものではない。本発明によれば安価なモールド成型法より、伝送速度が高く、誘電損失が小さい高効率な高周波用半導体装置を作製することができる。本発明の低誘電率,低誘電正接な絶縁層の形成方法としては、トランスファープレス,ポッティング等があり、半導体装置の形状に応じて適宜選択される。半導体装置の形態は特に限定されないが例えば、テープキャリア型パッケージ,半導体チップが配線基板上にベアチップ実装された半導体装置などを例として挙げることができる。
(2)多層基板
本発明による熱硬化性樹脂は、従来の熱硬化性樹脂組成物に比べて誘電正接が低い。従って本架橋成分を絶縁層に使用した配線基板は誘電損失が少ない高周波特性の優れた配線基板となる。以下、多層配線基板の作成方法について説明する。本発明において、多層配線基板の出発材となるプリプレグ或いは絶縁層付導体箔は、所定の配合比とした架橋成分,高分子量体,必要により低誘電率絶縁体粒子又は高誘電率絶縁体粒子,難燃剤及び第二の架橋成分,着色剤等を配合した低誘電正接樹脂組成物を溶剤中で混練してスラリー化した後にガラスクロス,不織布,導体箔等の基材に塗布,乾燥して作成する。プリプレグは積層板のコア材,積層板と積層板或いは導体箔との接着層兼絶縁層として使用できる。
一方、絶縁層付導体箔はラミネート,プレスによってコア材表面に導体層を形成する際に使用される。本発明のコア材とは、絶縁層付導体箔を担持し、補強する基材であり、ガラスクロス,不織布,フィルム材,セラミック基板,ガラス基板,エポキシ等の汎用樹脂板,汎用積層板等を例としてあげることができる。スラリー化に使用する溶剤は、配合する架橋成分,高分子量体,難燃剤等の溶媒であることが好ましく、その例としてはジメチルホルムアミド,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,ジオキサン,テトラヒドロフラン,トルエン,クロロホルム等を上げることができる。
プリプレグ,絶縁層付導体箔の乾燥条件(Bステージ化)は用いた溶媒,塗布した樹脂層の厚さによって調整する。例えばトルエンを用いて、乾燥膜厚約50μmの絶縁層を形成する場合には80〜130℃で30〜90分乾燥するとよい。必要に応じて好ましい絶縁層の厚さは50〜300μmであり、その用途や要求特性(配線パターンサイズ,直流抵抗)によって調整する。
以下、多層配線基板の作成例を示す。図6に第一の例を示す。図6(A);所定の厚さのプリプレグ10と導体箔11を重ねる。使用する導体箔は金,銀,銅,アルミニウム等導電率の良好な物の中から任意に選択する。その表面形状はプリプレグとの接着力を高くする必要がある場合には凹凸の大きな箔を用い、高周波特性を一層向上する必要がある場合には比較的平滑な表面を有する箔を用いる。導体箔の厚さは9〜35μm程度のものがエッチング加工性の観点から好ましい。
図6(B);プリプレグと導体箔を圧着しながら加熱するプレス加工によって接着,硬化し、表面に導体層を有する積層板13が得られる。加熱条件は120〜240℃,1.0〜10MPa,1〜3時間とすることが好ましい。また、プレス加工の温度,圧力は上記範囲内で多段階としてもよい。本発明で得られる積層板は絶縁層の誘電正接が非常に低いことに起因して優れた高周波伝送特性を示す。
次いで両面配線基板の作成例を説明する。図6(C);先に作成した積層板の所定の位置にドリル加工によってスルーホール14を形成する。図6(D);めっきによってスルーホール内にめっき膜15を形成して、表裏の導体箔を電気的に接続する。図6(E);両面の導体箔をパターンニングして導体配線16を形成する。
次いで多層配線基板の作成例を図7により説明する。図7(A);所定の厚さのプリプレグと導体箔を用いて積層板13を作成する。図7(B);積層板の両面に導体配線16を形成する。図7(C);パターン形成後の積層板に所定の厚さのプリプレグ10と導体箔11を重ね合わせる。図7(D);加熱加圧して外層に導体箔を形成する。図7(E);所定の位置にドリル加工によってスルーホール14を形成する。図7(F);スルーホール内にめっき膜15を形成し、層間を電気的に接続する。図7(G);外層の導体箔にパターンニングを施し、導体配線16を形成する。
次いで絶縁層付銅箔を用いた多層配線基板の作成例を図8により説明する。図8(A);導体箔11に本発明の樹脂組成物のワニスを塗布,乾燥して未硬化の絶縁層17を有する絶縁層付導体箔18を作成する。図8(B);リード端子19と絶縁層付導体箔18を重ねる。図8(C);プレス加工によってリード端子19と絶縁層付導体箔18を接着し、積層板13を形成する。予めコア材の表面をカップリング処理或いは粗化処理することによってコア材と絶縁層の接着性を向上させることができる。図8(D);積層板13の導体箔18をパターンニングして導体配線16を形成する。図8(E);配線形成された積層板13に絶縁層付導体箔を重ねる。図8(F);プレス加工によって積層板13と絶縁層付導体箔を接着する。図8(G);所定の位置にスルーホール14を形成する。図8(H);スルーホール14にめっき膜15を形成する。図8(I);外層の導体箔11をパターンニングして導体配線16を形成する。
次いでスクリーン印刷による多層基板の作成例を図9により説明する。図9(A);積層板13の導体箔をパターンニングし、導体配線16する。図9(B);本発明の樹脂組成物のワニスをスクリーン印刷によって塗布,乾燥して絶縁層17を形成する。このとき、スクリーン印刷によって部分的に誘電率の異なる樹脂組成物を塗布し、異なる誘電率を有する絶縁層を絶縁層17と同一面内に形成することができる。図9(C);絶縁層17に導体箔11を重ね合わせ、プレス加工によって接着する。図9(D);所定の位置にスルーホール14を形成する。図9(E);スルーホール内にめっき膜15を形成する。図9(F);外層の導体箔11をパターンニングして導体配線16を形成する。
本発明では、前述の例に限らず、種々の配線基板を形成することができる。例えば、配線形成を施した複数の積層板をプリプレグを介して一括積層し、高多層化することや、レーザー加工またはドライエッチング加工によって形成されるブラインドビアホールによって層間を電気的に接続するビルドアップ多層配線基板も作成できる。多層配線基板の作製にあたっては、各絶縁層の誘電率,誘電正接は任意に選択でき、異なる特性の絶縁層を混載して、低誘電損失,高速伝送,小型化,低価格化等の目的に応じて組み合わせることができる。
本発明の低誘電正接樹脂組成物を絶縁層として用いることによって誘電損失が小さく高周波特性に優れた高周波用電子部品を得ることができる。更に前述のような多層配線基板の作成方法により導体配線内に素子パターンを組み込むことによって種々の機能を有する高性能な高周波用電気部品が得られる。一例としては、キャパシタ,インダクタ,アンテナの少なくとも一つの機能を有する多層配線基板が作製できる。
次いで、本発明の多層配線基板をアンテナに適用した例を示す。図10は、本発明のアンテナ素子一体型高周波回路モジュールの要部断面構造を示す断面図である。本実施例は、5GHz帯の円偏波の信号を送受信するためのアンテナ素子一体型高周波回路モジュールである。
図10に示すように、本実施例のアンテナ素子一体型高周波回路モジュールは、矩形の基板18,MMICを用いて構成した高周波回路モジュール20、並びにディスクリート部品21で構成される。高周波回路モジュール20は、図示しないがガラスセラミクスを用いた多層基板により作製したパッケージに、GaAs半導体を用いて作製したMMICチップが積層されて構成される。MMICチップは、スイッチ、低雑音増幅器、電力増幅器、ミキサ、逓倍器などを構成する。これらのMMICチップ間を接続する配線などはガラスセラミクスのパッケージ内に設けられており、また、MMICチップは、ワイヤボンディングでパッケージ内に設けられた配線と接続されている。また、バンドパスフィルタ,フェーズロックループ(PLL)モジュール,水晶発振器は、ディスクリート部品21で構成される。
基板18は、銅箔からなる3層の導体層と、2層の誘電体層(22,23)から形成されており、各導体層は、上から順に、アンテナ素子24,接地電極25,配線26として使用され、配線26がクロスする部分はジャンパー配線29によって接続される。アンテナ素子一体化高周波回路モジュールは外部接続端子19により外部と接続される。
第3の導体層には、複数の配線26、即ち、高周波回路モジュール20への電源供給線,高周波回路モジュール20とディスクリート部品21および外部回路をつなぐための配線、並びにアンテナ素子24と高周波回路モジュール20を接続するための配線などが形成される。アンテナ素子24と、配線26の一部はビアホール27によって接続される。また、配線26と同じ導体層に形成されたパターンの一部と接地電極25とは、ビアホール28により電気的接続されて、前記配線26と同じ導体層に形成されたパターンの一部は接地電極25と同電位になるように構成される。
本実施例において、基板18を構成する誘電体層22の厚さと、誘電体層23の厚さとは異なっている。アンテナに必要とされる帯域や利得などによって、誘電体層22の厚さは適宜変化させる。また、誘電体層23の厚さも、アンテナ素子一体型高周波回路モジュールの全体の厚さ、あるいは、配線26の幅が所望の値になるように、適宜変化させる。本実施例で使用する誘電体層は本発明の低誘電損失樹脂を使用しており、低誘電正接であり伝送損失を小さくすることができる。
また本実施例で基板18は、3層の導体層と2層の誘電体層により構成されているが、誘電体層22と誘電体層23は電気的特性を変化させることができる。特に、誘電体層22と誘電体層23は比誘電率を変化させ、誘電体層23の比誘電率を大きくすることが有効である。
本実施例において、誘電体層23上に銅箔を用いて4分の1波長の配線を形成する場合、その長さは誘電体層23の比誘電率によって変化し、比誘電率が大きいほど配線パターンとしての長さは短くなる。したがって、本実施例では、4分の1波長の配線パターンを短くして、アンテナ素子一体型高周波回路モジュールを小型化するために、比誘電率の大きな誘電体層23を用いている。一方、アンテナの電気的特性は、一般に誘電体層22の比誘電率が小さいほうが良くなるため、誘電体層22は誘電体層23よりも比誘電率の小さいものを用いている。
このように、本実施の形態では、基板18を比誘電率が異なる誘電体層22と誘電体層23を用いて構成することにより、アンテナの特性が良く、かつ小型のアンテナ素子一体型高周波回路モジュールを実現することができる。なお誘電体層の誘電率は、ガラスバルーンや高誘電率絶縁体を樹脂相に充填することで操作することができる。低誘電率材料には本発明により得たPPE共重合体を使用しており、伝送損失を小さくすることができる。また、酸化物高誘電体粒子を樹脂層に充填し、高誘電体層とすることもできる。充填物の種類や充填量を制御することで自由に誘電体層の誘電率を操作することができ、回路基板の設計を簡略化できる。
以下、本発明と他の電子部品用材料を組み合わせた電子部品の実施例を示す。表6に本発明に用いた樹脂組成物の組成及びその特性を示す。表中の組成比は重量比を表す。以下に実施例で使用した試薬の名称、ワニスの調製方法及び樹脂の電子材料として必要な性能の評価方法を説明する。なお、高分子量体として、実施例2の条件で合成した共重合ポリマーを例に挙げたが、これによって本発明の範囲が限定されるものではない。
(難燃剤);ヒシガード:日本化学工業製,赤燐粒子(ヒシガードTP−A10),平均粒径20μm
(低誘電率絶縁体);Z−36:東海工業製,硼珪酸ガラスバルーン(平均粒径56μm)
(高誘電率絶縁体);Ba−Ti系:1GHzにおける誘電率が70、密度=5.5g/cm3、平均粒子1.5μmのチタン酸バリウム系の無機フィラー
(ワニスの調製方法)
所定量の組成とした樹脂組成物をトルエンで混合,分散することによって樹脂組成物のワニスを作製した。
(比誘電率及び誘電正接の測定)
空洞共振法(アジレントテクノロジー製8722ES型ネットワークアナライザー、関東電子応用開発製空洞共振器)によって10GHzで測定した。
(難燃性)
難燃性はサンプルサイズ70×3×1.5mm3の試料を用いてUL−94規格に従って評価した。
(実施例9)
実施例9は実施例2に難燃剤として赤燐粒子を添加した樹脂組成物の例である。難燃剤を添加することによって樹脂組成物が難燃化でき、電気部品の安全性が向上する。
(実施例10,11)
実施例10,11は実施例2に低誘電率絶縁体としてガラスバルーン(Z36)を添加した例である。Z36の添加量の増加に伴い誘電率は2.0まで低下した。本樹脂組成物を絶縁層に用いた電気部品は誘電損失が小さく、高速伝送性が高くなる。
(実施例12,13)
実施例12,13は実施例2に高誘電率絶縁体としてセラミック粒子(Ba−Ti系)を添加した例である。Ba−Ti系の含有率が増すにつれて誘電率は11.1に増加した。本樹脂組成物を絶縁層に用いた電気部品は誘電損失が小さく、小型の高周波用電気部品となる。
(実施例14)
実施例14は実施例2に示される低誘電損失樹脂を含み、低誘電率,低誘電正接な硬化物を形成する液状樹脂組成物である。液状の樹脂組成物は、常温且つ低圧での注型が可能である。また、本発明の樹脂組成物から作成した絶縁層を有する高周波用電子部品は低誘電率,低誘電正接であることから高速伝送,低誘電損失な高周波用電子部品となる。
1…基材、2…凹部、3…半導体チップ、4…カバー、5…シール材、6…端子、7…ワイヤー配線、8…低誘電率絶縁層、9…リードフレーム、10…プリプレグ、11…導体箔、13…積層板、14…スルーホール、15…めっき膜、16…導体配線、17…絶縁層、18…外部接続端子、19…基板、20…高周波回路モジュール、21…ディスクリート部品、22,23…誘電体層、24…アンテナ素子、25…接地電極、26…配線、27,28…ビアホール、29…ジャンパー配線。