JP5426270B2 - 金属銅微粒子の製造方法 - Google Patents

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本発明は、金属銅微粒子を製造する方法に関する。特には、本発明は、塩基性炭酸銅を出発原料として、中間原料の無水ギ酸銅を作製し、該無水ギ酸銅から金属銅微粒子を製造する方法に関する。
金属の微粒子は、それを構成する金属の特性を利用して、配線材料、磁気材料、センサ材料、触媒などの各方面で幅広く使用されている。近年、これらの金属の微粒子に関して、その粒径が、かかる微粒子を利用する最終製品の性能に対しても、大きな影響を与えることが見出されてきた。その観点から、最終製品の高機能化ならびに小型化を目的として、粒径の極めて細かい微粒子、より具体的には、平均粒子径が、サブミクロンあるいは、ナノメートルのスケールである、金属ナノ粒子が作製されるに至っている。
平均粒子径が、サブミクロンあるいは、ナノメートルのスケールである金属微粒子においては、かかる微粒子表面に表出する金属元素は、微細なステップ状の格子段差で構成される球状表面に位置するため、例えば、表面上における移動能が格段に大きくなるなどの、特有の性質(ナノサイズ効果)を示す。この様な金属ナノ粒子とすることにより初めて現れる特性を利用することで、派生する製品の高性能化および新しい機能の付与の可能性を目標として、近年、金属ナノ粒子の新たな用途開発が益々盛んになってきている。中でも、熱伝導率や電気伝導度の高い銅の微粒子化に関しては、例えば電子機器の小型化に大きく寄与することができることから、多くの検討がなされている。
平均粒子径がナノメートル・スケールの微細な銅微粒子の製造方法として、ガス中蒸発法(気相法)により銅微粒子を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1)。このガス中蒸発法(気相法)を利用すると、銅の蒸気圧を制御することによって、目的とする平均粒子径がナノメートル・スケールの微細な銅微粒子を高い制御性、再現性で調製することが可能である。ガス中蒸発法(気相法)により作製される、平均粒子径がナノメートル・スケールの微細な銅微粒子は、その表面を各種の分散剤分子で被覆して、該分散剤分子を利用することで、各種の分散溶媒中に均一に分散した分散液とされている。
ガス中蒸発法(気相法)に代えて、液相中の反応を介して、銅化合物から、平均粒子径がナノメートル・スケールの金属銅微粒子を作製する方法が多数提案されている。
例えば、銅前駆体化合物を、炭素数が3〜20のアミン系化合物と混合し、均一な混合物を調製した後、還元剤を添加し、その後、加熱することで、該還元剤の作用によって、銅イオン種を金属銅に還元し、該アミン系化合物で表面が被覆された金属銅微粒子を作製する方法が提案されている(特許文献2)。銅前駆体化合物として、塩化銅、硝酸銅、硫酸銅、酢酸銅、アセチルアセトナト銅、炭酸銅、銅シクロヘキサンブチレート、ステアリン酸銅、過塩素酸銅、エチレンジアミン銅、水酸化銅などが利用され、また、還元剤として、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、ヒドラジン(N24)、ソジウムハイドロホスフェート、グルコース、アスコルビン酸、タンニン酸、ジメチルホルムアミド、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド、ソジウムボロハイドライド(NaBH4)、リチウムボロハイドライド(LiBH4)及びギ酸の利用が提案されている。
また、塩化銅、硝酸銅、硫酸銅、酢酸銅、アセチルアセテトナト銅のうち一つの銅塩に、炭素数10〜18の脂肪酸を作用させ、該脂肪酸銅に変換し、さらに、一次脂肪族アミンを作用させ、脂肪酸銅アミン錯体を形成し、その後、加熱することで、該還元剤の作用によって、銅イオン種を金属銅に還元し、一次脂肪族アミで表面が被覆された金属銅微粒子を作製する方法も提案されている(特許文献3)。更に、脂肪酸銅アミン錯体を形成した後、還元剤を添加し、その後、加熱することで、該還元剤の作用によって、銅イオン種を金属銅に還元し、一次脂肪族アミンで表面が被覆された金属銅微粒子を作製する形態も開示されている(特許文献3)。
更には、ギ酸銅アミン錯体の熱分解法により、銅微粒子を製造する方法も提案されている(特許文献4)。具体的には、予め、下記の一般式(1):
Figure 0005426270
(式中、Cuは、2価の銅、
1およびR2は、それぞれ、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を示す。)で示されるギ酸銅アミン錯体を作製し、該ギ酸銅アミン錯体を加熱処理することで、ギ酸配位子を二酸化炭素に酸化し、一方、銅イオン種を金属銅に還元し、脂肪族アミンで表面が被覆された金属銅微粒子を作製する方法が開示されている(特許文献4)。前記のギ酸銅アミン錯体の熱分解反応は、例えば、下記の反応式で表記されることも記載されている。
Figure 0005426270
なお、一般式(1)中、−NH21、−NH22で表記される、アミン配位子として、1級アミン配位子に加えて、2級アミン配位子を利用できることも開示されている。一般式(1)で示されるギ酸銅アミン錯体は、無水ギ酸銅を脂肪族アミン中に溶解することで調製されている。
加えて、金属銅に、ギ酸と酸化剤を作用させ、無水ギ酸銅を作製し、次いで、作製された無水ギ酸銅を脂肪族アミン中に溶解することで、下記の一般式(1):
Figure 0005426270
(式中、Cuは、2価の銅、
1およびR2は、それぞれ、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を示す。)で示されるギ酸銅アミン錯体を作製する方法も提案されている(特許文献5)。例えば、無水ギ酸銅を製造する反応の一例として、下記の反応が例示されている。
Figure 0005426270
更に、作製されたギ酸銅アミン錯体を加熱処理することで、ギ酸配位子を二酸化炭素に酸化し、一方、銅イオン種を金属銅に還元し、脂肪族アミンで表面が被覆された金属銅微粒子を作製する方法が開示されている(特許文献5)。
特許第2561537号公報 特開2008−057041号公報 特開2008−095195号公報 特開2008−013466号公報 特開2008−031104号公報
上述するように、液相中の反応を介して、銅化合物から、平均粒子径がナノメートル・スケールの金属銅微粒子を作製する方法が多数提案されている。なかでも、脂肪族アミンで表面が被覆された金属銅微粒子を作製する方法として、該脂肪族アミンを含む前記のギ酸銅アミン錯体の熱分解法により、銅微粒子を製造する方法は有力な方法である。すなわち、ギ酸銅アミン錯体の熱分解温度は、ギ酸銅の熱分解温度よりも相当に低いという性質を利用することで、200℃よりも低い加熱温度、例えば、120℃程度の加熱温度で、脂肪族アミンで表面が被覆された金属銅微粒子の作製を可能とする利点を有している。
原料のギ酸銅アミン錯体自体、当該アミンとして、表面の被覆に利用する脂肪族アミンを使用し、また、反応溶液を形成する溶媒にも、同じ脂肪族アミンを使用することで、目的の脂肪族アミンで表面が被覆された金属銅微粒子を確実に作製できている。特に、ギ酸銅アミン錯体自体の分解還元反応を利用するため、使用するギ酸銅アミン錯体の分解温度以上に加熱することで、金属銅原子の生成を確実に行うことを可能としている。
作製される金属銅微粒子の平均粒子径は、脂肪族アミン溶媒中に溶解される、ギ酸銅脂肪族アミン錯体の濃度と、加熱温度によって決定される。従って、この二つの条件を一定に制御することで、作製される金属銅微粒子の平均粒子径を再現性よく制御できている。実際には、ギ酸銅脂肪族アミン錯体の分解反応は、吸熱反応であるため、加熱した際、反応溶液の温度は、ギ酸銅脂肪族アミン錯体の分解温度に固定化される。その結果、金属銅原子の生成速度は、実質的に、反応溶液中に溶解されているギ酸銅脂肪族アミン錯体の濃度にのみ依存する。この特徴を利用することで、作製される金属銅微粒子(一次粒子)の平均粒子径を再現性よく制御できている。
その際、ギ酸銅脂肪族アミン錯体を、脂肪族アミン溶媒中に溶解しているため、生成する金属銅原子から形成される金属銅微粒子(一次粒子)の平均粒子径を、20nm以上とすることは、実質的に不可能となっている。また、反応溶液中に溶解するギ酸銅脂肪族アミン錯体の濃度を一定に選択した上で、形成される金属銅微粒子(一次粒子)の平均粒子径を目的とする範囲で調整することも、実質的に不可能となっている。
ギ酸銅を出発原料として使用し、液相中における分解還元反応を利用して、反応溶液中に溶解するギ酸銅アミン錯体の濃度を一定に選択した上で、形成される金属銅微粒子(一次粒子)の平均粒子径を目的とする範囲で調整することが可能な、新たな金属銅微粒子の作製方法の開発が望まれる。
本発明は、前記の課題を解決するものである。すなわち、本発明の目的は、ギ酸銅を原料として使用し、液相中における分解還元反応を利用して、一次粒子の平均粒子径がナノメートル・スケールの金属銅微粒子を作製する際、反応溶液中に溶解させるギ酸銅の錯体の濃度、加熱温度の条件以外に、金属銅原子の生成速度を調整する手段を追加することで、形成される金属銅微粒子の平均粒子径(一次粒子)を目的とする範囲で調整することを可能とした、新たな金属銅微粒子の作製方法を提供することにある。
本発明者らは、前記の課題を解決すべく、ギ酸銅を出発原料として使用し、液相中において、新たな反応機構の分解還元反応を設計することを試みた。
まず、原料として、無水ギ酸銅の粉末を採用する際、無水ギ酸銅の粉末を簡便に調製する方法として、非プロトン性極性有機溶媒中において、粉末状の塩基性炭酸銅に、過剰量のギ酸を作用させることで、反応溶液中で無水ギ酸銅の析出物を形成する手法を着想した。反応溶液中から、この無水ギ酸銅の析出物を回収し、該無水ギ酸銅の析出物に残余する液体成分を減圧蒸留などの手段を利用して蒸散させることによって、除去することで、無水ギ酸銅の乾燥粉末を簡便に調製できることを確認した。
次に、粉末状の無水ギ酸銅を反応溶液中に均一に溶解する手段について、検討を行った。
粉末状の無水ギ酸銅に対して、60℃以上90℃未満の範囲に選択する温度に加熱しつつ、沸点が130℃以上、300℃以下の二座配位子として機能するアミノアルコールを作用させると、無水ギ酸銅のアミノアルコール錯体を形成し、当該アミノアルコールの液相中に溶解することを見出した。その際、無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、二座配位子として機能するアミノアルコールを、例えば、1.3モル量以上、2モル量以下の量で使用する場合にも、無水ギ酸銅のアミノアルコール錯体を形成し、当該アミノアルコールの液相中に溶解することが確認された。さらに、無水ギ酸銅のアミノアルコール錯体が当該アミノアルコールの液相中に溶解してなる溶液は、前記の加熱温度において、沸点が130℃以上、250℃以下の非極性有機溶媒を使用して、希釈することによって、無水ギ酸銅のアミノアルコール錯体、該アミノアルコールと、非極性有機溶媒とで構成される混合液を調製することが可能であることも確認された。
無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、二座配位子として機能するアミノアルコールを、1.3モル量以上、2モル量以下の量で使用する場合、形成される混合液中では、無水ギ酸銅1分子に、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体と、無水ギ酸銅1分子に、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体が共存している。
次いで、85℃以上90℃以下の範囲に選択する温度に加熱しつつ、無水ギ酸銅のアミノアルコール錯体とアミノアルコールを含有している混合液に、無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノカルボン酸を、0.05モル量以上0.5モル量以下の範囲となる量、沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンを、0.05モル量以上0.15モル量以下の範囲となる量で添加すると、該混合液中に溶解した溶液となることを確認した。
さらに、90℃以上120℃以下の範囲に選択する温度で加熱を継続すると、作製された溶液中において、前記脂肪族モノカルボン酸と、脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンの存在下において、分解還元反応が開始することを見出した。その結果、該反応溶液中において、前記還元反応で生成する銅原子から、平均粒子径10nm〜50nmの金属銅微粒子が形成され、その際、形成される平均粒子径10nm〜50nmの金属銅微粒子の表面には、前記脂肪族モノアミンまたは脂肪族モノカルボン酸からなる被覆層が形成されていることを見出した。すなわち、平均粒子径10nm〜50nmの単一の球状金属銅微粒子の表面に、前記脂肪族モノアミン、脂肪族ジアミンまたは脂肪族モノカルボン酸からなる被覆層が形成され、複数の一次粒子が凝集した凝集体の形成が防止されていることが確認されている。
特に、形成される金属銅微粒子の平均粒子径は、前記脂肪族モノカルボン酸と、脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンの添加量にも依存しており、前記脂肪族モノカルボン酸と、脂肪族モノアミンまたは脂肪族ジアミンの添加量を調節することで、形成される金属銅微粒子の平均粒子径を、目的とする範囲で調整することを可能であることも見出した。加えて、この脂肪族モノカルボン酸と、脂肪族モノアミンまたは脂肪族ジアミンの存在下において、進行する分解還元反応に関して、その反応機構を考察した結果、添加される脂肪族モノカルボン酸が、該分解還元反応を誘起する上で、必須の役割を有しており、また、分解還元反応の進行によって、脂肪族モノカルボン酸は消費されないことを見出した。一方、脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンは、生成する金属銅原子が凝集した凝集体の表面に配位して、表面被覆層を形成することで、該凝集体を核として、さらに金属銅原子の集積がする進行する現象を抑制する役割を有することも見出された。
以上の一連の知見に基づき、本発明者らは、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明にかかる金属銅微粒子の製造方法は、
表面に被覆剤分子からなる被覆層を有する、平均粒子径10nm〜50nmの金属銅微粒子を製造する方法であって、
該金属銅微粒子の製造方法は、
液相中において、無水ギ酸銅を原料として、該無水ギ酸銅中に含まれる銅カチオンを、銅原子に還元し、該銅原子から金属銅微粒子を形成する方法であり、
該方法は、
(工程1)
無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、
沸点が130℃以上、300℃以下の二座配位子として機能するアミノアルコールを、アミノ窒素原子の総和が1.3モル量以上2モル量以下の範囲となる量を用いて、
無水ギ酸銅と前記アミノアルコールとを混合し、60℃以上90℃未満の範囲に選択する温度に加熱し、無水ギ酸銅を該アミノアルコール中に溶解してなる溶液を調製し、
該溶液中において形成される、無水ギ酸銅と前記二座配位子として機能するアミノアルコールとからなる錯体を含んでなる溶液とする工程と、
(工程2)
工程1で調製される、前記無水ギ酸銅と二座配位子として機能するアミノアルコールとからなる錯体を含んでなる溶液に対して、該溶液の液量1容当たり、
沸点が130℃以上、250℃以下の非極性有機溶媒を、1/4容〜2容の範囲に選択される液量を混合して、混合液を調製する工程と、
(工程3)
工程2で調製される混合液を、85℃以上90℃以下の範囲に選択する温度に加熱し、
無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、
沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノカルボン酸を、0.05モル量以上0.5モル量以下の範囲となる量、
沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンを、0.05モル量以上0.15モル量以下の範囲となる量、
に選択して、選択された添加モル量の脂肪族モノカルボン酸と、脂肪族モノアミンまたは脂肪族ジアミンを添加し、
前記混合液中に溶解してなる反応溶液を調製する工程と、
(工程4)
工程3で調製される反応溶液を、90℃以上120℃以下の範囲に選択する温度に加熱し、
前記脂肪族モノカルボン酸と、脂肪族モノアミンまたは脂肪族ジアミンの存在下において、二価の銅カチオン種を銅原子へと還元する反応を行い、
前記還元反応で生成する銅原子から、平均粒子径10nm〜50nmの金属銅微粒子を形成し、同時に、
形成される平均粒子径10nm〜50nmの金属銅微粒子の表面に、前記脂肪族モノアミン、一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンまたは脂肪族モノカルボン酸からなる被覆層を形成する工程と
を有する
ことを特徴とする金属銅微粒子の製造方法である。
その際、原料として使用する、前記無水ギ酸銅は、
非プロトン性極性有機溶媒中において、塩基性炭酸銅に対して、過剰量のギ酸を作用させて、反応溶液中で無水ギ酸銅の析出物を形成し、
反応溶液中から該無水ギ酸銅の析出物を回収し、
回収される該無水ギ酸銅の析出物に残余する液体成分を蒸散させることによって、除去することで作製される、粉末状の無水ギ酸銅であることが好ましい。
また、前記沸点が130℃以上、300℃以下の二座配位子として機能するアミノアルコールは、
該アミノアルコールのアミノ窒素原子上に、アルキル基が1または2置換してなる、N−アルキル置換アミノアルコールであることが好ましい。
例えば、前記沸点が130℃以上、300℃以下の二座配位子として機能するアミノアルコールは、
炭素数1〜4のアルキル基の群から選択されるアルキルエタノールアミン、炭素数2〜4の直鎖アルキル基とイソプロピル基からなる群から選択されるN,N−ジアルキル−N−エタノールアミン、1−ジエチルアミノ−2−プロパノール、N−(1−メチルヘプチル)エタノールアミン、N−ベンジル−エタノールアミンからなる群から選択することができる。
さらには、前記沸点が130℃以上、300℃以下の二座配位子として機能するアミノアルコールは、
2−(メチルアミノ)エタノール、2−(エチルアミノ)エタノール、2−(ブチルアミノ)エタノール、2−ジエチルアミノエタノール、2−(ジブチルアミノ)エタノール、1−ジエチルアミノ−2−プロパノールからなる群から選択することができる。
一方、前記沸点が130℃以上、250℃以下の非極性有機溶媒は、
沸点が130℃以上、250℃以下の炭化水素系溶剤であることが好ましい。
例えば、前記沸点が130℃以上、250℃以下の炭化水素系溶剤は、
沸点が130℃以上、250℃以下の芳香族炭化水素系溶剤と脂環式炭化水素系溶剤からなる群より選択することが望ましい。
また、前記沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノカルボン酸は、
炭素数8〜22の直鎖アルカン酸、炭素数8〜22の直鎖アルケン酸、炭素数8〜22の分枝状アルカン酸からなる群から選択することができる。
一方、沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノアミンは、
炭素数8〜24の直鎖アルキル鎖を有するモノアルキルアミンと、炭素数8〜24の分枝状アルキル鎖を有するモノアルキルアミンからなる群から選択することができる。
具体的には、前記無水ギ酸銅は、
示性式Cu(HCOO)2で表される無水ギ酸銅、または、示性式Cu(HCOO)2に対し、残余する水分量が、nH2O(0≦n<1)で表される、ギ酸銅であることが望ましい。さらには、前記無水ギ酸銅は、
示性式Cu(HCOO)2で表される無水ギ酸銅、または、示性式Cu(HCOO)2に対し、残余する水分量が、nH2O(0≦n<0.3)で表される、ギ酸銅であることがより望ましい。
上述する構成を具える、本発明にかかる金属銅微粒子の製造方法においては、
前記工程3で調製される反応溶液中に含有される銅濃度は、
1.0mol/L〜2.4mol/Lの範囲に選択されている条件を採用することが好ましい。
さらには、少なくとも、前記工程3と工程4において、液温の加熱は、
該加熱時の昇温速度を、毎分0.1℃〜2.0℃の範囲に選択して行う形態を採用することが望ましい。
本発明にかかる金属銅微粒子の製造方法では、原料の無水ギ酸銅を溶解する際、無水ギ酸銅に二座配位子として機能するアミノアルコールが配位した錯体として、該アミノアルコールとともに、非極性有機溶媒中に希釈してなる混合液に、脂肪族モノカルボン酸と脂肪族モノアミンを添加し、その存在下、90℃以上120℃以下の範囲に選択する温度に加熱することで、分解還元反応を起こさせ、形成される平均粒子径10nm〜50nmの金属銅微粒子の表面に、前記脂肪族モノアミンまたは脂肪族モノカルボン酸からなる被覆層を形成することを可能としている。特に、前記分解還元反応の進行速度を、脂肪族モノカルボン酸の添加量によって調整し、さらに、形成される金属銅原子の凝集体の平均径を、脂肪族モノアミンの添加量によって調整するという技術的特徴を具えている。
前記の技術的特徴に付随して、本発明にかかる金属銅微粒子の製造方法は、下記の利点を有している。
工業的に入手しやすく、安価な塩基性炭酸銅を出発原料として、原料の無水ギ酸銅の乾燥粉末を調製した上で、120℃以下という比較的低い温度で、少なくとも80%の高い収率で、反応溶液中の銅濃度が1.0mol/L〜2.4mol/Lの高い濃度で、少ない分散剤使用量で、平均粒子径10nm〜50nmの金属銅微粒子を有機溶媒中で製造することを可能としている。
加えて、商業的な実施を行う際、本発明にかかる金属銅微粒子の製造方法は、下記の経済的な利点を有している。
・原料の無水ギ酸銅の作製する際、安価で工業的に入手が容易な塩基性炭酸銅を出発原料として使用することができるので、原料コストを抑制することができる。
・工業的には、一般的な反応装置で実施可能な、120℃以下という比較的低い温度での反応によって、金属銅微粒子を製造することができるので、設備コストの削減も期待できる。
・反応溶液中から、作製された金属銅微粒子を分離、回収する際、極性溶媒を利用する沈降法を利用できるため、金属銅微粒子の単離精製に限外濾過装置や遠心分離装置は不要であり、設備コストを抑制することができる。
・原料の無水ギ酸銅の溶解に、アミノアルコールを使用することにより、非極性有機溶媒を希釈溶媒に用いて、反応溶液を調製でき、その結果、反応溶液を均一性が向上する。そのため、脂肪族モノアミンを利用する、アミン錯体を経由する従来の方法よりも、安定した品質の金属銅微粒子が高い収率で得られる。
以下に、本発明にかかる金属銅微粒子の製造方法を詳しく説明する。
まず、本発明にかかる金属銅微粒子の製造方法においては、原料として使用する無水ギ酸銅には、出発原料として、塩基性炭酸銅とギ酸を用いて調製される粉末状の無水ギ酸銅が好適に利用される。
例えば、原料として使用する、無水ギ酸銅は、
非プロトン性極性有機溶媒中において、塩基性炭酸銅に対して、過剰量のギ酸を作用させて、反応溶液中で無水ギ酸銅の析出物を形成し、
反応溶液中から該無水ギ酸銅の析出物を回収し、
回収される該無水ギ酸銅の析出物に残余する液体成分を蒸散させることによって、除去することで作製される、粉末状の無水ギ酸銅であることが好ましい。
その際、出発原料の塩基性炭酸銅は、通常、CuCO3・Cu(OH)2(式量221.11)で示される形態である。なお、塩基性炭酸銅には、2CuCO3・Cu(OH)2(式量344.67)で示される形態も存在する。本発明では、硫酸銅(II)と炭酸ナトリウムの溶液から調製される、CuCO3・Cu(OH)2(式量221.11)を、通常、利用する。
一方、ギ酸(HCOOH)は、若干の水を含有しているため、水と相溶性を示す、非プロトン性極性有機溶媒中に溶解した溶液を調製した上で、塩基性炭酸銅(CuCO3・Cu(OH)2)に作用させる。非水極性有機溶媒中に溶解させると、含有されている水は、該非プロトン性極性有機溶媒中に溶解し、溶媒和され、ギ酸(HCOOH)は、相当の比率で、カルボキシル基間の水素結合によって、二量体を形成した状態で溶解している。水と相溶性を示す、非プロトン性極性有機溶媒としては、アセトン(沸点:56.1〜56.5℃)、アセトニトリル(沸点:81.6℃)などが好適に利用される。
塩基性炭酸銅(CuCO3・Cu(OH)2)とギ酸(HCOOH)との反応は、全体としては、形式上、下記の反応式で表記される。
CuCO3・Cu(OH)2 + 4HCOOH
→ [(HCOO-2Cu2+2 + 3H2O + CO2

結晶水を有するギ酸銅は、他の結晶水を有するカルボン酸銅、例えば、酢酸銅(II)の2水和物(Cu2(CH3COO)4・2H2O)と同様に、ギ酸アニオン(HCOO-)は、二座配位子として機能し、2つの銅カチオン種の間を、4つのギ酸アニオン(HCOO-)が橋掛けをおこなっている構造を有していると推定される。結晶水を含まない、無水ギ酸銅においても、その固体では、銅カチオン種の間をギ酸アニオン(HCOO-)が橋掛けした構造を有していると推定される。すなわち、無水ギ酸銅は、Cu2(HCOO)4と表記できる構造となっていると推定される。その状態では、非プロトン性極性有機溶媒による溶媒和によって、分散することが困難となり、微細な粉末として、析出し、沈降する。
微細な粉末は、水を含む溶媒成分(液体成分)を含浸しているため、含浸している液体成分を蒸散させることで、無水ギ酸銅の乾燥粉末が得られる。この液体成分の蒸散除去を実施する際、水と相溶性を示す、非プロトン性極性有機溶媒のうち、沸点が100℃以下、好ましくは、50℃〜90℃の範囲であるものを利用することで、上記の反応で生成する水分の除去が容易となる。前記液体成分の蒸散除去は、減圧留去、真空乾燥、あるいは、熱風乾燥などの手段を適用することで実施することが好ましい。すなわち、Cu2(HCOO)4・2H2Oの形状を有する、ギ酸銅の2水和物から、その結晶水を除去し、Cu2(HCOO)4と表記できる構造の無水ギ酸銅へと変換可能な手段を採用することが好ましい。
一方、出発原料の塩基性炭酸銅は、例えば、硫酸銅(II)と炭酸ナトリウムの溶液から作製された場合、ナトリウム・カチオン種が不純物として、混入している可能性がある。その場合、ギ酸ナトリウムが生成するが、水を含む非プロトン性極性有機溶媒中に溶解するため、無水ギ酸銅の析出物を回収する際、濾過など、固液分離を行う過程で、液相に溶解した状態で除去される。結果的に、上記の反応条件において、出発原料として、塩基性炭酸銅とギ酸を用いて調製される粉末状の無水ギ酸銅は、ナトリウム・カチオン種などの不純物金属カチオンを実質的に含有していないものとなる。
上記の反応を行う際、塩基性炭酸銅に対して、過剰量のギ酸を作用させる。具体的には、上記の反応式で示される、塩基性炭酸銅(CuCO3・Cu(OH)2)1分子当たり、ギ酸(HCOOH)4分子の化学量論的な等量比に対して、ギ酸(HCOOH)の使用量を4.1分子〜5分子の範囲、好ましくは、4.2分子〜4.5分子の範囲に選択する。一方、使用されるギ酸(HCOOH)の量に応じて、非プロトン性極性有機溶媒の使用量を決定する。具体的には、使用されるギ酸(HCOOH)1容に対して、非プロトン性極性有機溶媒の量は、少なくとも、3容以上となる範囲、好ましくは、3.1容〜5容の範囲に選択することが望ましい。
上記の範囲に非プロトン性極性有機溶媒の量を選択することによって、ギ酸(HCOOH)中に含まれる水分、反応によって生成する水分子を、該非プロトン性極性有機溶媒中に速やかに溶解・希釈することが可能である。すなわち、ギ酸銅の析出物を回収する際、濾過など、固液分離を行う過程で、無水ギ酸銅の析出物に含浸して残余する液体成分中に含まれる水分量を低い範囲とすることが可能となる。例えば、使用されるギ酸(HCOOH)1容に対して、非プロトン性極性有機溶媒の量が、3容の場合でも、残余する液体成分中に含まれる水分量は、残余する液体成分の9容量%以下となる。最終的に残余している液体成分を、上記の減圧留去など手法で蒸散除去した後、無水ギ酸銅の乾燥済粉体中に残余する水分量(吸着水分量)は、多くとも、示性式Cu(HCOO)2に対し、残余する水分量が、nH2O(0≦n<0.3)で表される範囲、通常、nH2O(0≦n<0.1)で表される範囲に留めることが可能である。
本発明にかかる金属銅微粒子の製造方法では、まず、
工程1において、無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、
沸点が130℃以上、300℃以下の二座配位子として機能するアミノアルコールを、アミノ窒素原子の総和が1.3モル量以上2モル量以下の範囲となる量を用いて、
無水ギ酸銅と前記アミノアルコールとを混合し、60℃以上90℃未満の範囲に選択する温度に加熱し、無水ギ酸銅を該アミノアルコール中に溶解してなる溶液を調製し、
該溶液中において形成される、無水ギ酸銅と前記二座配位子として機能するアミノアルコールとからなる錯体を含んでなる溶液とする。
例えば、無水ギ酸銅:(HCOO)2Cu(II)を、二座配位子として機能するアミノアルコール、例えば、N,N−ジエチルアミノエタノール:(C2H5)2N-C2H4OH中に溶解させると、まず、無水ギ酸銅:(HCOO)2Cu(II)1分子に、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体を形成して、溶解が進む。すなわち、Cu2(HCOO)4と表記できる構造の無水ギ酸銅に、アミノアルコール2分子が溶媒和した状態となる。例えば、[Cu2(HCOO)4]に、N,N−ジエチルアミノエタノール:(C2H5)2N-C2H4OH2分子が溶媒和し、[Cu2(HCOO)4]・2(C2H5)2N-C2H4OHの形状に変換される。その後、溶媒和しているアミノアルコールが、二座配位子として配位する形状に変化する。すなわち、溶媒和の状態、例えば、[Cu2(HCOO)4]・2(C2H5)2N-C2H4OHの形状から、無水ギ酸銅:(HCOO)2Cu(II)1分子に、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体、例えば、(HCOO)2Cu(II):[(C2H5)2N-C2H4OH]へと変換される。
(i-1) [Cu2(HCOO)4]+2(C2H5)2N-C2H4OH → [Cu2(HCOO)4]・2(C2H5)2N-C2H4OH
(i-2) [Cu2(HCOO)4]・2(C2H5)2N-C2H4OH → 2(HCOO)2Cu(II):[(C2H5)2N-C2H4OH]

溶媒和による溶解と、その後の錯体の形成は、前記の二つの素過程を経由して進行する。後半の素過程(i-2):Cu2(HCOO)4と表記できる構造の無水ギ酸銅に、アミノアルコール2分子が溶媒和した状態から、無水ギ酸銅:(HCOO)2Cu(II)1分子に、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体への変換は、吸熱過程であるので、加熱することで、促進される。また、後半の素過程(i-2)は、液相中での配位子の交換過程であるため、アミノアルコールが形成する液相が存在している状況下で進行する。
この二つの素過程からなる錯体形成過程は、全体として、下記のような錯体形成反応として、表記できる。
(i) (HCOO)2Cu(II)+(C2H5)2N-C2H4OH
→ (HCOO)2Cu(II):[(C2H5)2N-C2H4OH]
この無水ギ酸銅:(HCOO)2Cu(II)1分子に、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体では、銅カチオン(Cu2+)は、6つの配位座を有しており、そのうち、隣接する2つの配位座を、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子のアミノ基とヒドロキシル基が占めている。ギ酸アニオン(HCOO-)は、二座配位子として機能し、残る4つの配位座を、2つのギ酸アニオン(HCOO-)が占めている。
液相中に溶解している、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体に、さらに、二座配位子として機能するアミノアルコール、例えば、N,N−ジエチルアミノエタノール:(C2H5)2N-C2H4OHが作用すると、配位子の再配置が起こり、無水ギ酸銅:(HCOO)2Cu(II)1分子に、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体に変換される。
(ii) (HCOO)2Cu(II):[(C2H5)2N-C2H4OH]+(C2H5)2N-C2H4OH
→ (HCOO)2Cu(II):[(C2H5)2N-C2H4OH]2
この段階で形成される、無水ギ酸銅:(HCOO)2Cu(II)1分子に、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体では、銅カチオン(Cu2+)は、6つの配位座を有しており、そのうち、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子は、そのアミノ基とヒドロキシル基を利用して、それぞれ隣接する2つの配位座を占めている。一方、ギ酸アニオン(HCOO-)は、一座配位子として機能し、残された2つの配位座を、2つのギ酸アニオン(HCOO-)が占めている。
実際には、前記の二種の錯体の形成は段階的に進行するため、該二種の錯体の存在比率は、液相中に存在する二座配位子として機能するアミノアルコールの量に依存している。すなわち、工程1では、二座配位子として機能するアミノアルコールは、溶媒としても利用されているため、上記の錯体形成に利用される二座配位子として機能するアミノアルコールは、その一部である。従って、無水ギ酸銅:(HCOO)2Cu(II)1分子に対して、二座配位子として機能するアミノアルコールが2分子以下の量である場合、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体が形成された後、その一部が二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体に変換される。
工程1では、無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、
沸点が130℃以上、300℃以下の二座配位子として機能するアミノアルコールを、アミノ窒素原子の総和が1.3モル量以上2モル量以下の範囲となる量、好ましくは、1.5モル量以上2モル量以下の範囲となる量を用いている。その際、無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、二座配位子として機能するアミノアルコールを、アミノ窒素原子の総和が、1.3モル量より少ない、例えば、1.1モル量の比率で使用する条件では、工程1では、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体が形成した後、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体への変換は、実質的に進行しない。また、アミノアルコールが溶媒和した状態から、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体への変換も、完全には進行しない。すなわち、アミノアルコールが溶媒和した状態で溶解しているものと、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体とが共存している状態となる。無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、二座配位子として機能するアミノアルコールを、アミノ窒素原子の総和が1.5モル量の比率で使用する条件になると、アミノアルコールが溶媒和した状態から、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体への変換が、ほぼ完了する。
さらに、無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、二座配位子として機能するアミノアルコールを、アミノ窒素原子の総和が2モル量の比率で使用する条件では、工程1においても、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体が形成した後、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体への変換も、相当の比率で進行する。
上記の二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体を形成する過程は、吸熱反応であるため、60℃以上90℃未満の範囲に選択する温度に加熱することでその進行を図る。すなわち、配位子の配位座を変更する過程は、熱的に励起された配位子が、元の配位座における配位結合を解き、新たな配位座における、配位結合を形成する素過程を経由する。その前半の素過程は、吸熱反応であるため、熱的な励起が必要である。また、溶媒として機能する該アミノアルコールも、配位に利用するアミノ窒素原子とヒドロキシル基の相対的な立体配置が、所謂、「cis−配置」に相当することで、二座配位子となる。この「cis−配置」の比率を増すためにも、前記の温度に加熱する必要がある。
勿論、前記の温度に加熱することで、二座配位子として機能するアミノアルコール自体の流動性を高めることで、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体と、溶媒として機能する該アミノアルコールが、均一に混合されている状態となる。
工程1では、無水ギ酸銅の乾燥粉末に、二座配位子として機能するアミノアルコールを作用させて、少なくとも、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体に変換することで、無水ギ酸銅と前記二座配位子として機能するアミノアルコールとからなる錯体を含んでなる溶液を調製する。
次いで、工程2では、
工程1で調製される、前記無水ギ酸銅と二座配位子として機能するアミノアルコールとからなる錯体を含んでなる溶液に対して、該溶液の液量1容当たり、
沸点が130℃以上、250℃以下の非極性有機溶媒を、1/4容〜2容の範囲に選択される液量を混合して、混合液を調製する。非極性有機溶媒の使用量を前記の範囲に選択することで、最終的に作製される反応溶液中に含有される銅の濃度を、1.0mol/L〜2.4mol/Lという高い濃度範囲とすることができる。
作製される混合液では、前記非極性有機溶媒中に、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体、二座配位子として機能するアミノアルコールが溶解している状態となる。
工程1では、二座配位子として機能するアミノアルコールは、溶媒としても機能する必要があったが、工程2では、溶媒としての機能は不要となるため、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体に、二座配位子として機能するアミノアルコールが作用して、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体へと変換する反応が促進される。
実際には、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体から、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体への変換過程は、例えば、上記の(ii)で示される、平衡過程である。従って、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体/二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体の比率は、非極性有機溶媒中に溶解するアミノアルコールの濃度に依存する。
すなわち、無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、二座配位子として機能するアミノアルコールを、アミノ窒素原子の総和が1.3モル量の比率で使用する条件でも、工程2の段階では、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体のうち、一部分(<1/10)は、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体へと変換可能となる。
また、無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、二座配位子として機能するアミノアルコールを、アミノ窒素原子の総和が1.5モル量の比率で使用する条件になると、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体のうち、相当部分(<1/2)は、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体へと変換可能となる。
さらに、無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、二座配位子として機能するアミノアルコールを、アミノ窒素原子の総和が2モル量の比率で使用する条件では、二座配位子として機能するアミノアルコール1分子が配位した錯体の大部分(<1)が、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体へと変換可能となる。この過程も、吸熱反応であるため、60℃以上90℃未満の範囲に選択する温度に加熱することでその進行を図る。
なお、無水ギ酸銅と前記二座配位子として機能するアミノアルコールとからなる錯体は、該アミノアルコールに対する、前記非極性有機溶媒の親和性を利用して、該非極性有機溶媒中に溶解している。
さらに、工程3では、工程2で調製される混合液を、85℃以上90℃以下の範囲に選択する温度に加熱し、
無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、
沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノカルボン酸を、0.05モル量以上0.5モル量以下の範囲となる量、好ましくは、0.07モル量以上0.2モル量以下の範囲となる量、
沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンを、0.05モル量以上0.15モル量以下の範囲となる量、好ましくは、0.07モル量以上0.13モル量以下の範囲となる量に選択して、選択された添加モル量の脂肪族モノカルボン酸と、脂肪族モノアミンまたは脂肪族ジアミンを添加し、
前記混合液中に溶解してなる反応溶液を調製する。
溶解された脂肪族モノカルボン酸:R−COOHは、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体、例えば、(HCOO)2Cu(II):[(C2H5)2N-C2H4OH]2に作用して、下記の配位子交換反応を起こす。
(iii) (HCOO-2Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2+R-COOH
→ (R-COO-)(HCOO-)Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2 + HCOOH

該二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体中では、ギ酸アニオン(HCOO-)は、一座配位子として機能しており、その一方と、脂肪族モノカルボン酸に由来する、脂肪族モノカルボン酸アニオン(R-COO-)が、一座配位子として交換する。その際、交換されるギ酸アニオン(HCOO-)には、脂肪族モノカルボン酸(R-COOH)から水素カチオン(H+)が供給される結果、ギ酸分子(HCOOH)として、離脱される。
本来、この種の配位子交換反応、あるいは、アニオン種の交換反応は、可逆的な反応である。離脱したギ酸分子(HCOOH)は、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体に作用して、配位子交換反応を引き起こすが、配位しているギ酸アニオン(HCOO-)と、ギ酸分子(HCOOH)に由来する、ギ酸アニオン(HCOO-)が交換されるため、実質的には、配位子交換の効果は発揮されない。結果的に、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体の一部において、2つのギ酸アニオン(HCOO-)の一方が、脂肪族モノカルボン酸に由来する、脂肪族モノカルボン酸アニオン(R-COO-)で交換されている状態となる。
加えて、上記の配位子交換反応によって、離脱したギ酸分子(HCOOH)は、相当部分は、二量体を形成した上で、前記非極性有機溶媒中に溶解する。ギ酸分子(HCOOH)の二量体は、水素カチオン(H+)の供給能は、ギ酸分子(HCOOH)モノマーと比較して、格段に劣るため、上記の配位子交換反応に関与しない。
混合液中には、一座配位子として機能する脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンも溶解されているが、二価の銅カチオン種:Cu2+に対しては、一座配位子として機能しているギ酸アニオン(HCOO-)の配位能よりも劣るため、配位子交換反応を起こすことはない。また、二価の銅カチオン種:Cu2+に対しては、二座配位子として配位しているアミノアルコール1分子を、一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンまたは脂肪族モノアミン2分子が交換する頻度も殆ど無視できる。
混合液中、無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、脂肪族モノカルボン酸:R−COOHは、0.05モル量以上0.5モル量以下の範囲、好ましくは、0.07モル量以上0.2モル量以下の範囲しか添加されていないため、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体の2つのギ酸アニオン(HCOO-)が同時に、脂肪族モノカルボン酸アニオン(R-COO-)に交換される頻度は、極めて低い。工程3においては、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体のうち、脂肪族モノカルボン酸:R−COOHの添加比率に応じて、2つのギ酸アニオン(HCOO-)の一方が、脂肪族モノカルボン酸アニオン(R-COO-)へと、配位子交換を受ける。
無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、脂肪族モノカルボン酸:R−COOHの添加量が、0.05モル量以上0.5モル量以下の範囲である場合、また、脂肪族モノカルボン酸:R−COOHの添加量が、0.07モル量以上0.2モル量以下の範囲である場合、0.07〜0.2の範囲で、前述の配位子交換が可能である。
上記の配位子交換反応によって、離脱したギ酸分子(HCOOH)は、相当部分は、二量体を形成した上で、前記非極性有機溶媒中に溶解する。
工程4では、工程3で調製される反応溶液を、90℃以上120℃以下の範囲、好ましくは、95℃以上120℃未満の範囲に選択する温度に加熱し、
前記脂肪族モノカルボン酸と、脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンの存在下において、二価の銅カチオン種を銅原子へと還元する反応を行う。
具体的には、上記(iii)に示す配位子交換反応で生成する錯体、例えば、(R-COO-)(HCOO-)Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2を、上記の温度で加熱すると、下記の分解還元反応が進行する。
(iv) (R-COO-)(HCOO-)Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2
→ {Cu:[(C2H5)2N-C2H4OH]2}+R-COOH+CO2

すなわち、ギ酸アニオン(HCOO-)の水素原子が、隣接する脂肪族モノカルボン酸アニオン(R-COO-)の−COO-のC=Oに転位する結果、カルボキシル基:−COOHに変換され、脂肪族モノカルボン酸(R-COOH)として、離脱する。その結果、過渡的中間体、例えば、(-COO-)Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2が生成されるが、(-COO-)からCu2+へと電子供与がなされ、酸化・還元反応が生じ、{Cu:[(C2H5)2N-C2H4OH]2}+CO2に分離する。
生成した二酸化炭素(CO2)は、気泡を形成して、混合液外に放出される。前記分解還元反応で生成する金属銅原子は、過渡的には、アミノアルコール2分子が配位した状態、例えば、{Cu:[(C2H5)2N-C2H4OH]2}であるが、凝集して、金属銅微粒子を形成する。
この凝集が進む段階で、アミノアルコール、例えば、(C2H5)2N-C2H4OHは、金属銅原子に対して、二座配位子として機能せず、そのアミノ窒素原子を利用する、一座配位子として、配位する状態となる。金属銅原子の凝集体の表面に対する、アミノ窒素原子を利用する、一座配位子としては、アミノアルコール、例えば、(C2H5)2N-C2H4OHと比較し、脂肪族モノアミン(R-NH2)の方は、より高い配位能を示す。
そのため、金属銅原子の凝集体の表面の大部分は、一座配位子として機能する、脂肪族モノアミン(R-NH2)または一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミン(例えば、H2N-R-NR’2)によって、被覆された状態となる。
一方、上記(iv)に示す分解還元反応に伴って、離脱された脂肪族モノカルボン酸:R−COOHは、上記(iii)に示す配位子交換反応に利用され、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体から、配位子交換反応で生成する錯体、例えば、(R-COO-)(HCOO-)Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2を生成させる。すなわち、脂肪族モノカルボン酸:R−COOHは、再利用される結果、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体の大半は、上記(iv)に示す分解還元反応によって、金属銅原子の生成に利用される。
二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体の濃度が減少すると、脂肪族モノカルボン酸:R−COOHは、配位子交換反応で生成する錯体、例えば、(R-COO-)(HCOO-)Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2にも作用する頻度が上昇する。具体的には、加熱温度が、ギ酸の沸点:100.7℃に達すると、下記の副次的な配位子交換反応の頻度が上昇する。
(v) (R-COO-)(HCOO-)Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2+R-COOH
→ (R-COO-)2Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2 + HCOOH↑

すなわち、反応副生物である、ギ酸分子(HCOOH)の蒸散が顕著に進行する結果、上記の(v)に示す配位子交換反応も起こる状況となる。該配位子交換反応の結果、脂肪族モノカルボン酸銅に、二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体、例えば、(R-COO-)2Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2が生成する。該脂肪族モノカルボン酸銅のアミノアルコール錯体、例えば、(R-COO-)2Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2は、通常、無水ギ酸銅のアミノアルコール錯体、例えば、(HCOO-2Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2と比較すると、分解還元反応が進行する温度は、高くなる。そのため、90℃以上120℃以下の範囲、好ましくは、95℃以上120℃未満の範囲に選択する温度に加熱する際、該脂肪族モノカルボン酸銅のアミノアルコール錯体、例えば、(R-COO-)2Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2は、分解還元反応を起こすことは無い。
また、無水ギ酸銅のアミノアルコール錯体、例えば、(HCOO-2Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2において、分解還元反応が進行する温度は、上記(iv)に示す分解還元反応が進行する温度よりも、高くなっている。結果的に、90℃以上120℃以下の範囲、好ましくは、95℃以上120℃未満の範囲に選択する温度に加熱する際、上記(iv)に示す分解還元反応が選択的に進行し、無水ギ酸銅のアミノアルコール錯体、例えば、(HCOO-2Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2は、分解還元反応ではなく、上記の(iii)に示す配位子交換反応によって、消費される。最終的に、反応溶液中に存在していた、無水ギ酸銅のアミノアルコール錯体、例えば、(HCOO-2Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2は、上記の(iii)に示す配位子交換反応によって全て消費され、上記(iv)に示す分解還元反応を介して、金属銅原子を生成するか、一部は、肪族モノカルボン酸銅のアミノアルコール錯体、例えば、(R-COO-)2Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2に変換され、残留する。
肪族モノカルボン酸銅のアミノアルコール錯体、例えば、(R-COO-)2Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2は、生成した金属銅原子との間で、下記の不均化反応を起こすことができる。
(vi) (R-COO-)2Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2+Cu
→ [(R-COO-)Cu+:Cu+-O-CO-R)]+2(C2H5)2N-C2H4OH

実際には、前記(vi)に示す不均化反応は、反応溶液中に生成する金属銅原子の凝集体の表面に、肪族モノカルボン酸銅のアミノアルコール錯体、例えば、(R-COO-)2Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2が付着した場合に起きる。金属銅原子の凝集体の表面は、上述するように、その殆どは、一座配位子として機能する、脂肪族モノアミン(R-NH2)、または一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミン(例えば、H2N-R-NR’2)によって、被覆された状態となっている。
脂肪族モノアミン(R-NH2)、または一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミン(例えば、H2N-R-NR’2)の添加量が不足している場合には、前記(vi)に示す不均化反応が、金属銅原子の凝集体の表面で起こる。その場合、金属銅原子の凝集体の表面に、一価の銅カチオンの肪族モノカルボン酸塩分子(R-COO-Cu+)が付着して、部分的に肪族モノカルボン酸銅(I)の被覆層が形成された状態となる。
従って、工程4において、上記(iv)に示す分解還元反応によって、金属銅原子が生成され、前記還元反応で生成する銅原子から、平均粒子径10nm〜50nmの金属銅微粒子を形成し、同時に、
形成される平均粒子径10nm〜50nmの金属銅微粒子の表面に、前記脂肪族モノアミン(R-NH2)または一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミン(例えば、H2N-R-NR’2)、あるいは脂肪族モノカルボン酸(R-COO-Cu+)からなる被覆層が形成される。
本発明においては、工程1では、無水ギ酸銅((HCOO)2Cu(II))の乾燥粉末を二座配位子として機能するアミノアルコールと混合して、60℃以上90℃未満の範囲に選択する温度に加熱し、無水ギ酸銅を該アミノアルコール中に溶解してなる溶液を調製する。従って、二座配位子として機能するアミノアルコールは、少なくとも、60℃以上に加熱した際、溶媒として機能する必要がある。すなわち、二座配位子として機能するアミノアルコールの融点は、少なくとも、60℃以下、通常、室温(25℃)において、液体であることが望ましい。
一方、上述するように、工程4において、反応溶液を90℃以上120℃以下の範囲、好ましくは、95℃以上120℃未満の範囲に選択する温度に加熱する際、反応溶液中に溶解している、二座配位子として機能するアミノアルコールが、急速に蒸散すると、反応溶液中に溶解しているアミノアルコール錯体を構成するアミノアルコールの解離が起こる。その解離を回避するため、二座配位子として機能するアミノアルコールの沸点は、130℃以上、300℃以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは、沸点が、140℃以上、300℃以下の範囲である、二座配位子として機能するアミノアルコールを用いる。
二座配位子として機能するアミノアルコールは、通常、アミノ窒素原子と、アルコール性ヒドロキシル基(−OH)の酸素原子を利用して、無水ギ酸銅((HCOO)2Cu(II))の二価の銅カチオン種に配位する。その際、アミノ窒素原子と、アルコール性ヒドロキシル基(−OH)の酸素原子の配位能に大きな差異があると、二座配位子でなく、一座配位子として機能する可能性が増す。具体的には、該アミノアルコールのアミノ基に、炭化水素基、例えば、アルキル基の置換がない、−NH2である場合、アルコール性ヒドロキシル基(−OH)の酸素原子と配位能に大きな差異がある。
従って、二座配位子として機能するアミノアルコールのアミノ窒素原子は、炭化水素基の置換、例えば、アルキル基の置換を有する、−NHR1、−NR12の形状であることが好ましい。すなわち、前記沸点が130℃以上、300℃以下の二座配位子として機能するアミノアルコールは、該アミノアルコールのアミノ窒素原子上に、アルキル基が1または2置換してなり、N−アルキル置換アミノアルコールであることが好ましい。
例えば、前記沸点が130℃以上、300℃以下の二座配位子として機能するアミノアルコールは、
炭素数1〜4のアルキル基の群から選択されるアルキルエタノールアミン(R1−NH−CH2CH2−OH)、炭素数2〜4の直鎖アルキル基とイソプロピル基からなる群から選択されるN,N−ジアルキル−N−エタノールアミン(R1−N(R2)−CH2CH2−OH)、1−ジエチルアミノ−2−プロパノール、N−(1−メチルヘプチル)エタノールアミン、N−ベンジル−エタノールアミンからなる群から選択することができる。
さらには、前記沸点が130℃以上、300℃以下の二座配位子として機能するアミノアルコールは、
2−(メチルアミノ)エタノール、2−(エチルアミノ)エタノール、2−(ブチルアミノ)エタノール、2−ジエチルアミノエタノール、2−(ジブチルアミノ)エタノール、1−ジエチルアミノ−2−プロパノールからなる群から選択することができる。
加えて、N−アルキル置換アミノ基:−NHR1、−NR12と、アルコール性ヒドロキシル基(−OH)が、隣接する2つの炭素原子上に存在しているアミノアルコールであることがより好ましい。
例えば、沸点が130℃以上、300℃以下の二座配位子として機能するアミノアルコールを、2−(ブチルアミノ)エタノール(沸点:195℃、融点:−3.5℃)、2−(エチルアミノ)エタノール(沸点:169℃、融点:−8.8℃)、2−(イソプロピルアミノ)エタノール(沸点:171℃)、2−(メチルアミノ)エタノール(沸点:160℃、融点:−4.5℃)、2−(ジメチルアミノ)エタノール(沸点:135℃)、2−ジエチルアミノエタノール(沸点:162℃、融点:−47℃)、N−(1−メチルへプチル)エタノールアミン(沸点:233℃)、1−ジエチルアミノ−2−プロパノール(沸点:159℃、融点:13.5℃)、2−(ジブチルアミノ)エタノール(沸点:229℃、融点:−75℃)、N−ベンジルエタノールアミン(沸点:280℃)からなる群から選択することができ、また、前記の群から選択される二種以上のアミノアルコールを併用することもできる。
なお、無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、アミノアルコールを、アミノ窒素原子の総和が2モル量の比率を超えると、該アミノアルコールは、二座配位子ではなく、一座配位子として、無水ギ酸銅に該アミノアルコール2分子が配位し、ギ酸アニオン(HCOO-)は、二座配位子として機能し、残る4つの配位座を、2つのギ酸アニオン(HCOO-)が占めている状態のアミノアルコール錯体の比率が増大する。このアミノアルコール錯体では、ギ酸アニオン(HCOO-)は、二座配位子として機能しているため、上記(iii)に示す配位子交換反応は進行しない。すなわち、本発明に特徴的な上記(iv)に示す分解還元反応を引き起こすことが困難となる。
上記の工程2では、工程1で調製される、前記無水ギ酸銅と二座配位子として機能するアミノアルコールとからなる錯体を含んでなる溶液に対して、該溶液の液量1容当たり、
沸点が130℃以上、250℃以下の非極性有機溶媒を、1/4容〜2容の範囲に選択される液量を混合して、混合液を調製する。
その際、利用される沸点が130℃以上、250℃以下の非極性有機溶媒は、上記の二座配位子として機能するアミノアルコール、ならびに、工程3で添加される、沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノカルボン酸、沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンのいずれをも溶解可能である必要がある。さらには、工程4を終了した段階で、反応溶液を室温まで冷却した段階でも、該非極性有機溶媒は、液体であることが必要である。
従って、前記沸点が130℃以上、250℃以下の非極性有機溶媒は、室温(25℃)付近では、液体であり、その沸点が130℃以上、250℃以下の炭化水素系溶剤であることが好ましい。例えば、室温(25℃)付近で、液体であり、前記沸点が130℃以上、250℃以下の炭化水素系溶剤は、室温(25℃)付近では、液体であり、沸点が130℃以上、250℃以下の芳香族炭化水素系溶剤と脂環式炭化水素系溶剤からなる群より選択することが望ましい。前記の条件を満たす、芳香族炭化水素系溶剤と脂環式炭化水素系溶剤として、o−キシレン(融点:−25℃、沸点:144℃)、エチルシクロヘキサン(融点:−111℃、沸点:130−132℃)などを例示することができる。
工程2で調製される溶液の体積は、前記無水ギ酸銅と二座配位子として機能するアミノアルコールの体積を合計した値に相当する。該溶液の液量1容当たり、沸点が130℃以上、250℃以下の非極性有機溶媒を、1/4容〜2容の範囲で加えることで希釈し、液全体の流動性を増している。すなわち、工程4において、上記(iv)の分解還元反応において、生成する二酸化炭素を気泡として、反応溶液中から除去する必要があるため、液全体の流動性を増している。
一方、本発明では、工程4において、反応溶液中に含まれる銅濃度を、1.0mol/L〜2.4mol/Lの範囲に設定することが好ましい。この条件をも満たすためには、該溶液の液量1容当たり、沸点が130℃以上、250℃以下の非極性有機溶媒を、1/4容〜2容の範囲で加えることが好ましい。
工程3では、工程2で調製される混合液を、85℃以上90℃以下の範囲に選択する温度に加熱し、無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、
沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノカルボン酸を、0.05モル量以上0.5モル量以下の範囲、好ましくは、0.07モル量以上0.2モル量以下の範囲となる量、
沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンを、0.05モル量以上0.15モル量以下の範囲、好ましくは、0.07モル量以上0.13モル量以下の範囲となる量に選択して、選択された添加モル量の脂肪族モノカルボン酸と、脂肪族モノアミンまたは脂肪族ジアミンを添加し、
前記混合液中に溶解してなる反応溶液を調製する。
前記脂肪族モノアミンは、工程4において、生成される金属銅微粒子の表面を被覆する被覆層の形成に利用される。該金属銅微粒子の表面を被覆する被覆層を構成する脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンは、工程4の加熱温度、90℃以上120℃以下の範囲において、液相中に溶解している脂肪族モノアミンまたは脂肪族ジアミンと解離平衡状態となっている。
すなわち、使用される脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンの量が不足すると、金属銅微粒子の表面を脂肪族モノアミンからなる被覆層で完全に覆うことが困難となる。一方、使用される脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンの量が過剰となると、金属銅微粒子が目的とする粒子径に達しない段階で、該金属銅微粒子の表面を完全に被覆する脂肪族モノアミンまたは脂肪族ジアミンの被覆層が形成される。その状態では、金属銅微粒子の表面に、さらに、金属銅原子が付着し、粒子径を増大することが不可能となる。
この点を考慮すると、該溶液の液量1容当たり、沸点が130℃以上、250℃以下の非極性有機溶媒を、1/4容〜2容の範囲で加える場合、無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンを、0.05モル量以上0.15モル量以下の範囲、好ましくは、0.07モル量以上0.13モル量以下の範囲に選択する。
従って、銅原子が、20原子〜7原子当たりに、該脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンが1分子、好ましくは、銅原子が、15原子〜8原子当たりに、該脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンが1分子の比率で存在する状態となる。
一方、形成される銅ナノ粒子の平均粒子径が10nm〜50nmの範囲である場合、該銅ナノ粒子を形成する銅原子は、44×103原子〜5510×103原子の範囲となり、その表面に存在する銅原子の個数は、6×103原子〜150×103原子の範囲となる。従って、該銅ナノ粒子を形成する銅原子の総数と、その表面に存在する銅原子の個数の比率は、おおよそ、7:1〜40:1の範囲となる。該銅ナノ粒子の表面を被覆する被覆剤分子は、その表面に存在する銅原子1個に、1つの被覆剤分子が配位的に結合する状態を達成する必要がある。
従って、反応溶液中の脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンと無水ギ酸銅に含まれる銅原子の比率を上記の範囲に選択することで、該銅ナノ粒子の表面に、該脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンによる表面被覆分子層を形成することが可能となっている。
すなわち、反応溶液中に含有される銅濃度を、1.0mol/L〜2.4mol/Lの範囲に選択する場合でも、形成される銅ナノ粒子の粒子径が、10nm〜50nmの範囲に達すると、該銅ナノ粒子の表面に、該脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンによる表面被覆分子層が形成され、その後の粒子径の拡大を抑制する。その結果、形成される銅ナノ粒子の平均粒子径を10nm〜50nmの範囲に制御することが可能となっている。
前記モノカルボン酸は、上記(iv)の分解還元反応を行わせる、上記(iii)に示す配位子交換反応で生成する錯体、例えば、(R-COO-)(HCOO-)Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2の作製に利用される。従って、無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノカルボン酸を、0.05モル量以上0.5モル量以下の範囲となる量を用いることで、反応溶液中における、上記(iii)に示す配位子交換反応で生成する錯体、例えば、(R-COO-)(HCOO-)Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2の濃度を適正な範囲とする。
すなわち、反応溶液中における、上記(iii)に示す配位子交換反応で生成する錯体、例えば、(R-COO-)(HCOO-)Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2の濃度が高くなると、上記(iv)の分解還元反応によって、過渡的に生成する金属銅原子、例えば、{Cu:[(C2H5)2N-C2H4OH]2}の濃度が高くなり、形成される金属銅微粒子の肥大化を引き起こす要因となる。一方、反応溶液中における、上記(iii)に示す配位子交換反応で生成する錯体、例えば、(R-COO-)(HCOO-)Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2の濃度が低くなると、形成される金属銅微粒子の粒子径は目的の水準に達しない状態となる。
その点を考慮すると、該溶液の液量1容当たり、沸点が130℃以上、250℃以下の非極性有機溶媒を、1/4容〜2容の範囲で加える場合、無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノカルボン酸を、0.05モル量以上0.5モル量以下の範囲、好ましくは、0.07モル量以上0.2モル量以下の範囲に選択する。
また、該脂肪族モノカルボン酸、脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンは、工程4において、90℃以上120℃以下の範囲で加熱を続ける間に、反応溶液から蒸散することを抑制するため、沸点は、130℃以上、500℃以下の範囲となるものが利用されている。
例えば、前記沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノカルボン酸は、
炭素数8〜22の直鎖アルカン酸、炭素数8〜22の直鎖アルケン酸、炭素数8〜22の分枝状アルカン酸からなる群から選択することができる。
例えば、沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノアミンは、
炭素数8〜24の直鎖アルキル鎖を有するモノアルキルアミンと、炭素数8〜24の分枝状アルキル鎖を有するモノアルキルアミンからなる群から選択することができる。
また、沸点が130℃以上、500℃以下の一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンとして、例えば、末端アミノ基(−NH2)と他のアミノ基の間に、炭素数3以上の炭化水素鎖が存在する、(ジアルキルアミノ基)置換アルキルアミン(例えば、H2N-R-NR’2)、あるいは、(モノアルキルアミノ基)置換アルキルアミン(例えば、H2N-R-NHR’)が利用できる。具体的には、末端アミノ基(-NH2)と、他のアミノ基、すなわち、ジアルキルアミノ基(-NR’2)またはモノアルキルアミノ基(-NHR’)との間に、炭素数3以上の炭化水素鎖(-R-)が存在する場合、末端アミノ基(−NH2)を利用して、主に、一座配位子として機能する。その際、該脂肪族ジアミンを構成する、炭化水素鎖の炭素数の合計は、炭素数7〜23の範囲に選択することが好ましい。例えば、炭素数8〜24の直鎖アルキル鎖を有するモノアルキルアミンに対して、その−CH2−の一つを−NH−に置き換えた構造の、(モノアルキルアミノ基)置換アルキルアミンは、含まれるアミノ基(-NH2)を利用して、一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンとなる。また、炭素数8〜24の分枝状アルキル鎖を有するモノアルキルアミンに対して、その−CH2−の一つを−NH−に置き換えた構造の、(モノアルキルアミノ基)置換アルキルアミンは、含まれるアミノ基(-NH2)を利用して、一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンとなる。さらには、炭素数8〜24の分枝状アルキル鎖を有するモノアルキルアミンに対して、その>CH−の一つを>N−に置き換えた構造の、(ジアルキルアミノ基)置換アルキルアミンは、含まれるアミノ基(-NH2)を利用して、一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンとなる。
なお、本発明においては、一般に、一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンよりも、
脂肪族モノアミンを利用することが望ましい。すなわち、形成される金属銅微粒子に対する分散溶媒として機能する、非極性有機溶媒、例えば、炭化水素溶媒中においては、脂肪族モノアミンにより表面を被覆された金属銅微粒子は、好適な分散性を示す。それと比較すると、一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンにより表面を被覆された金属銅微粒子の示す分散性は、通常、同等か、僅かに劣る。その点を考慮すると、上記の炭素原子の窒素原子への置き換えに相当する、構造的な対応を有する、一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンよりも、脂肪族モノアミンを利用することが望ましい。
本発明では、工程4において、上記(iv)の分解還元反応を行わせる、上記(iii)に示す配位子交換反応で生成する錯体、例えば、(R-COO-)(HCOO-)Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2の濃度を適正な範囲に調整することで、反応溶液中に生成する金属銅原子の濃度、生成速度を調整し、得られる金属銅微粒子の粒子径を制御している。従って、反応溶液中に含有される銅濃度も、適正な範囲に調整する。具体的には、反応溶液中に含有される銅濃度は、1.0mol/L〜2.4mol/Lの範囲に選択する。
工程4において、反応溶液中には、上記(iii)に示す配位子交換反応で生成する錯体、例えば、(R-COO-)(HCOO-)Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2に加えて、無水ギ酸銅に二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体、例えば、(HCOO-2Cu2+:[(C2H5)2N-C2H4OH]2も多量に存在している。さらには、無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、アミノアルコールを、アミノ窒素原子の総和が2モル量の比率を超えると、該アミノアルコールは、二座配位子ではなく、一座配位子として、無水ギ酸銅に該アミノアルコール2分子が配位し、ギ酸アニオン(HCOO-)は、二座配位子として機能し、残る4つの配位座を、2つのギ酸アニオン(HCOO-)が占めている状態のアミノアルコール錯体の比率が増大する。このアミノアルコール錯体、例えば、(HCOO-Cu2+-OCOH):[(C2H5)2N-C2H4OH]2では、ギ酸アニオン(HCOO-)は、二座配位子として機能しているため、下記のような分解還元反応を起こす。
(vii) (HCOO-Cu2+-OCOH):[(C2H5)2N-C2H4OH]2
→ {Cu:[(C2H5)2N-C2H4OH]2}+H2↑+2CO2

前記(vii)で示す分解還元反応は、少なくとも、110℃以上、通常、120℃程度に加熱した際に進行する。その点を考慮すると、工程4における加熱温度は、90℃〜120℃の範囲、より好ましくは、95℃〜110℃の範囲に選択することが望ましい。
工程1〜工程3において、所定の加熱温度へと液温を昇温する速度は、毎分0.1℃〜2℃の範囲、通常、毎分0.5℃〜2℃の範囲に選択することが好ましい。すなわち、昇温速度を速くしすぎると、温度制御の遅れに起因して、しばしば、所定の加熱温度を超えた温度まで、加熱が進行する「オーバーヒート」状態となる。その状態を回避する上では、前記の昇温速度を選択することが好ましい。さらに、工程4では、加熱温度が、目標温度を超えると、前記(vii)で示す分解還元反応の進行が可能な温度領域となる。その状況を回避する上では、前記の昇温速度を選択することが好ましい。
工程4では、前記の加熱温度に維持して、上記(iii)に示す配位子交換反応と、(iv)の分解還元反応を同時並行的に行わせる。その際、反応溶液中に、平均粒子径10nm〜50nmの金属銅微粒子の生成が始まると、この金属銅微粒子表面において、プラズモン吸収が生じ、特徴的な発色が観測される。この特徴的な発色が認められた後、120分間以内に反応溶液中の無水ギ酸銅に二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体は、上記(iii)に示す配位子交換反応と、(iv)の分解還元反応によって、金属銅微粒子を生成して、消費される。実際には、この特徴的な発色が認められた後、5分間を経過した時点で、反応溶液中の無水ギ酸銅に二座配位子として機能するアミノアルコール2分子が配位した錯体の大半は、消費されている。なお、反応速度は、加熱温度に依存するため、前記の特徴的な発色が認められた後、少なくとも、5分間以上加熱を継続し、長くとも、120分間を超えない範囲に、加熱の終了点を設定する。
工程4において、反応溶液中に、酸素分子が残留していると、生成する金属銅原子の酸化を引き起こす。実際には、工程1〜工程3を実施する間、使用する溶媒中に溶解していた酸素分子は、その加熱過程の間に液中から気相へと移行している。後述する実施例で示すように、反応容器の上部が開放されているビーカーを使用する場合でも、上記の加熱温度では、気相から反応溶液中への酸素分子の溶解に起因する酸化は、無視できる程度である。さらには、反応溶液中には、上記(iii)に示す配位子交換反応による副生物であるギ酸(HCOOH)分子が二量体を形成して、相当の濃度で溶存している。反応溶液中に溶解する酸素原子は、ギ酸(HCOOH)分子の酸化も引き起こすため、実質的に生成する金属銅原子の酸化を引き起こすには至らない。
勿論、反応系外からの酸素分子の浸入を抑制する反応容器を使用することがより好ましい。(iv)の分解還元反応が開始すると、二酸化炭素の放出は進むため、反応容器は、密閉構造とできないが、反応系外との気体流通経路を制限することで、反応容器内は、実質的に、放出された二酸化炭素と、蒸散したギ酸(HCOOH)の蒸気を高い濃度で含む気相とすることが可能である。
従って、工程中、反応容器内に不活性ガスや非酸化性ガスを継続的に導入し、不活性ガスや非酸化性ガス雰囲気に維持する必要は無い。但し、加熱を開始する前に、反応容器内を不活性ガスや非酸化性ガスで置換する処理を行うことが望ましい。
以下に、具体例を示し、本発明をより具体的に説明する。これらの具体例は、本発明にかかる最良の実施形態の一例ではあるものの、本発明は、これら具体例に示す形態に限定されるものではない。
出発原料の塩基性炭酸銅から無水ギ酸銅を作製する工程の具体例を、参考例1〜4に示す。
(参考例1)
容量500mLのビーカーを用い、アセトン(分子量:58.08、沸点:57℃)150gに、ギ酸(分子量:46.03、濃度:95%)71.7gを添加し、均一な混合液を調製する。該混合液中に、塩基性炭酸銅(銅含有率:55.5%)75gを添加して、室温(25℃)で、パドル翼を用いて攪拌する。
60分間攪拌した後、定量濾紙(アドバンテック東洋社製、No.5C)を用いて、固形分を濾集する。その際、ビーカーや撹拌翼に付着した固形分も、アセトンで流して、前記定量濾紙上に固形分を回収する。
回収された固形分をステンレス製のバットに移し、重量変化がほとんどなくなるまで、風乾する。風乾後、固形分をバットに入れたまま、70℃の箱型乾燥機で60分間乾燥する。その結果、乾燥処理済みの固形分として、98gの青色粉末が回収された。
該乾燥処理済みの青色粉末は、無水ギ酸銅であることを、下記の分析により確認した。
該乾燥処理済みの青色粉末をアルミ皿に10mg秤量して、示差熱熱重量分析計によって、大気中、毎分10℃の昇温速度で600℃まで加熱したときの熱量変化と重量変化を測定する。
一方、無水ギ酸銅の評品として、市販のギ酸銅4水和物(和光純薬工業製)を110℃で乾燥して得られた無水ギ酸銅を用いて、前記と同じ測定条件で、熱量変化と重量変化を測定する。
乾燥処理済みの青色粉末において測定される熱分解挙動は、前記無水ギ酸銅の評品において測定される熱分解挙動と誤差範囲で一致していた。
無水ギ酸銅は、600℃で黒色の酸化第二銅に変化する。乾燥処理済みの青色粉末に関しても、600℃まで加熱した結果、黒色の酸化第二銅に変化しており、測定前後の重量変化率が、無水ギ酸銅から酸化第二銅への変換に因ると仮定して、銅含有率を算出した。その結果、乾燥処理済みの青色粉末中の銅含有率は42.0%であると、算出された。この算出された銅含有率は、無水ギ酸銅中の銅含有率の理論値:41.4%と良い一致を示している。
以上の示差熱熱重量分析結果から、回収された、乾燥処理済みの青色粉末は、無水ギ酸銅であることが確認される。
(参考例2)
容量3000mLのビーカーを用い、アセトン(分子量:58.08、沸点:57℃)900gに、ギ酸(分子量:46.03、濃度:95%)430.2gを添加し、均一な混合液を調製する。該混合液中に、塩基性炭酸銅(銅含有率:55.5%)450gを添加して、室温(25℃)で、パドル翼を用いて攪拌する。
60分間攪拌した後、定量濾紙(アドバンテック東洋社製、No.5C)を用いて、固形分を濾集する。その際、ビーカーや撹拌翼に付着した固形分も、アセトンで流して、前記定量濾紙上に固形分を回収する。
回収された固形分をステンレス製のバットに移し、重量変化がほとんどなくなるまで、風乾する。風乾後、固形分をバットに入れたまま、70℃の箱型乾燥機で120分間乾燥する。その結果、乾燥処理済みの固形分として、600gの青色粉末が回収された。
該乾燥処理済みの青色粉末は、無水ギ酸銅であることを、参考例1に記載の示差熱熱重量分析と同じ評価を行うことにより確認した。
乾燥処理済みの青色粉末において測定される熱分解挙動は、上記無水ギ酸銅の評品において測定される熱分解挙動と誤差範囲で一致していた。
乾燥処理済みの青色粉末に関しても、600℃まで加熱した結果、黒色の酸化第二銅に変化しており、測定前後の重量変化率が、無水ギ酸銅から酸化第二銅への変換に因ると仮定して、銅含有率を算出した。その結果、乾燥処理済みの青色粉末中の銅含有率は41.4%であると、算出された。この算出された銅含有率は、無水ギ酸銅中の銅含有率の理論値:41.4%と一致している。
以上の示差熱熱重量分析結果から、回収された、乾燥処理済みの青色粉末は、無水ギ酸銅であることが確認される。仕込み量に対する無水ギ酸銅の収率は、銅換算で99.5%であった。
(参考例3)
アセトン(分子量:58.08、沸点:57℃)150.00gとギ酸(分子量:46.03、濃度:95%)61.05g(1.26mol)を秤量し、攪拌子を具備した容量500mLのビーカーに入れ、室温で攪拌して、混合液を調製する。該混合液を40℃に設定したホットスターラー上で攪拌しながら、塩基性炭酸銅(銅含有率:55.5%)68.70g(銅換算:0.60mol)を添加する。40℃で、60分間攪拌混合し、反応を行う。
反応後、ビーカー内容物を容量500mLのナス型フラスコに移す。その際、ビーカーや撹拌翼に付着した固形分も、アセトンで流して、該ナス型フラスコに回収する。該ナス型フラスコを、ロータリーエバポレーターにセットする。その状態で、40℃浴中にて減圧蒸留を行い、アセトンを留去する。次いで、浴温を80℃にセットして、減圧蒸留で、残余している溶媒成分、ならびに、水分を留去する。冷却して、大気圧開放後、乾燥処理済みの青色粉末を回収する。回収された乾燥処理済みの青色粉末は、94.75gであった。
該乾燥処理済みの青色粉末は、無水ギ酸銅であることを、参考例1に記載の示差熱熱重量分析と同じ評価を行うことにより確認した。
乾燥処理済みの青色粉末において測定される熱分解挙動は、上記無水ギ酸銅の評品において測定される熱分解挙動とほぼ一致していた。
乾燥処理済みの青色粉末に関しても、600℃まで加熱した結果、黒色の酸化第二銅に変化しており、測定前後の重量変化率が、無水ギ酸銅から酸化第二銅への変換に因ると仮定して、銅含有率を算出した。その結果、乾燥処理済みの青色粉末中の銅含有率は40.0%であると、算出された。この算出された銅含有率は、無水ギ酸銅中の銅含有率の理論値:41.4%よりも僅かに低い。
以上の示差熱熱重量分析結果から、回収された、乾燥処理済みの青色粉末は、無水ギ酸銅であると判断される。仕込み量に対する無水ギ酸銅の収率は、銅換算で99.4%であった。
(参考例4)
アセトニトリル(分子量:41.05、沸点:81.6℃)30.00gとギ酸(分子量:46.03、濃度:95%)12.21g(0.25mol)を秤量し、容量200mLのナス型フラスコに入れ、室温で攪拌して、混合液を調製する。該混合液に、塩基性炭酸銅(銅含有率:55.5%)13.74g(銅換算:0.12mol)を添加する。
その後、容量200mLのナス型フラスコをロータリーエバポレーターにセットして、大気圧下、40℃浴中で60分間回転攪拌して、反応を行う。40℃浴中で、減圧蒸留し、アセトニトリルを留去する。次いで、浴温を80℃にセットして、減圧蒸留で、残余している溶媒成分、ならびに、水分を留去する。冷却して、大気圧開放後、乾燥処理済みの青色粉末を回収する。回収された乾燥処理済みの青色粉末は、18.73gであった。
該乾燥処理済みの青色粉末は、無水ギ酸銅であることを、参考例1に記載の示差熱熱重量分析と同じ評価を行うことにより確認した。
乾燥処理済みの青色粉末において測定される熱分解挙動は、上記無水ギ酸銅の評品において測定される熱分解挙動と誤差範囲で一致していた。
乾燥処理済みの青色粉末に関しても、600℃まで加熱した結果、黒色の酸化第二銅に変化しており、測定前後の重量変化率が、無水ギ酸銅から酸化第二銅への変換に因ると仮定して、銅含有率を算出した。その結果、乾燥処理済みの青色粉末中の銅含有率は41.0%であると、算出された。この算出された銅含有率は、無水ギ酸銅中の銅含有率の理論値:41.4%と良い一致を示している。
上記参考例2に記載する方法に従って作製される無水ギ酸銅を中間原料として、銅微粒子を作製する工程の具体例を、実施例1〜3に示す。実施例1〜3においては、まず、中間原料の無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール2分子を作用させ、2−(ジエチルアミノ)エタノールがそれぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体を作製している。また、実施例1〜3においては、銅微粒子の作製時、反応溶液中に含有される銅の量は、約1.5mol−Cu/Lに選択されている。
(実施例1)
本実施例1では、参考例2に記載する方法で作製した無水ギ酸銅(銅含有率:41.4%)を中間原料として使用している。
粉末状の無水ギ酸銅(銅含有率:41.4%)121g(0.79mol)を秤量し、温度計と攪拌装置を具備した容量1000mLの四つ口フラスコに入れる。該四つ口フラスコに、2−(ジエチルアミノ)エタノール(分子量:117.19、沸点:162.1℃)178g(1.52mol)を添加する。マントルヒーターを用いて毎分0.5℃の昇温速度で加熱しながら、液を攪拌する。液温上昇に従い、粉末状の無水ギ酸銅の溶解が進む。すなわち、無水ギ酸銅と2−(ジエチルアミノ)エタノールとから、錯体が形成される結果、溶解は進み、該錯体と2−(ジエチルアミノ)エタノールの均一な溶液が形成される。
粉末状の無水ギ酸銅が殆ど溶解した時点で、スワクリーン150(丸善石油化学社製、炭素数9のシクロヘキサン混合物、分子量:126.24、初留点:145℃以上)178gを添加する。前記均一な溶液の液量と、添加されるスワクリーン150の液量の比率は、1容:0.8容となっている。該溶媒を添加後も、攪拌混合しつつ、毎分0.5℃の昇温速度で加熱する。この混合液中では、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール2分子がそれぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体が形成される。
液温が90℃に達した時点で、オレイン酸(沸点:286℃;分子量282.46)33.4g(0.12mol)とオレイルアミン(沸点:164℃〜168℃ 4mmHg;分子量267.49)10.3g(0.04mol)の混合物を添加する。添加されたオレイン酸とオレイルアミンが混合液中に溶解した後、液温が96℃に到達した時点で反応溶液は褐色を呈した。すなわち、添加されたオレイン酸が、無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール錯体に作用し、オレイン酸によって、一方のギ酸イオンと配位子置換が進行する結果、生成する錯体に起因して、前記の呈色が進む。
昇温を継続すると、前記の呈色に引き続き、微細な泡を発しながら、次第に、金属銅光沢を有する暗赤褐色溶液へと変化する。さらに10分間加熱を継続した後、加熱を停止し、自然冷却した。反応溶液の最大到達温度は、104℃であった。
なお、反応溶液中の銅濃度は、およそ9.6質量%であり、およそ1.5mol−Cu/Lと計算される。なお、反応溶液の液量は、530mLであった。
液温が50℃以下になった後、反応溶液に、メタノール200gとアセトン300gを添加して混合する。メタノールとアセトンの添加によって、反応溶液中に均一に分散していた固体成分の沈降が開始し、数分間の静置で固液分離した状態となる。上澄み液をデカンテーションで除去した後、メタノールを加えて、固液分離する操作を数回繰り返す。上澄み液を除去した沈澱物にヘプタンを添加して攪拌し、沈澱物を再分散させる。
再分散液を75℃まで加熱して、残留するアセトンとメタノールを留去する。室温まで放冷後、孔径0.5μmのPTFE製メンブランフィルターを用いて、粗大粒子を除去し、微細な粒子が均一に分散している濾液を回収する。回収した濾液について、粒度分布測定装置ナノトラックUPA−150(日機装(株)社製)を用いて、分散している微粒子の粒子径分布を測定する。その測定結果から、10nm〜40nmに分布を有する平均粒子径25nmの銅微粒子が分散していることが確認された。
金属銅微粒子の収率は、無水ギ酸銅の使用量W0(g)、無水ギ酸銅に含まれる銅含有率M0(%)、回収した濾液量WP(g)、および濾液中に含まれる銅含有率MP(%)を用いて、次式から算定した結果、80%であった。
収率(%)=100×(WP×MP)/(W0×M0)
(実施例2)
本実施例2においては、上記実施例1で使用している、オレイルアミン10.3g(0.04mol)に代えて、オクチルアミン(沸点:188℃;分子量129.25)5.1g(0.04mol)を使用している。それ以外の反応条件は、実施例1に記載される条件と同じである。
従って、調製される混合液中では、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール2分子がそれぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体が形成される。
液温が90℃に達した時点で、オレイン酸(分子量282.46)33.4g(0.12mol)とオクチルアミン(分子量129.25)5.1g(0.04mol)の混合物を添加する。添加されたオレイン酸とオクチルアミンが混合液中に溶解した後、液温が96℃に到達した時点で反応溶液は褐色を呈した。すなわち、添加されたオレイン酸が、無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール錯体に作用し、オレイン酸によって、一方のギ酸イオンと配位子置換が進行する結果、生成する錯体に起因して、前記の呈色が進む。
昇温を継続すると、前記の呈色に引き続き、微細な泡を発しながら、次第に、金属銅光沢を有する暗赤褐色溶液へと変化する。さらに10分間加熱を継続した後、加熱を停止し、自然冷却した。反応溶液の最大到達温度は、105℃であった。
なお、反応溶液中の銅濃度は、およそ9.7質量%であり、およそ1.5mol−Cu/Lと計算される。なお、反応溶液の液量は、530mLであった。
最終的に、回収した濾液について、粒度分布測定装置ナノトラックUPA−150(日機装(株)社製)を用いて、分散している微粒子の粒子径分布を測定する。その測定結果から、10nm〜40nmに分布を有する平均粒子径20nmの銅微粒子が分散していることが確認された。
金属銅微粒子の収率は、無水ギ酸銅の使用量W0(g)、無水ギ酸銅に含まれる銅含有率M0(%)、回収した濾液量WP(g)、および濾液中に含まれる銅含有率MP(%)を用いて、次式から算定した結果、80%であった。
収率(%)=100×(WP×MP)/(W0×M0)
(実施例3)
本実施例3においては、上記実施例1で使用している、オレイン酸33.4g(0.12mol)とオレイルアミン10.3g(0.04mol)の混合物に代えて、オレイン酸22.3g(0.08mol)とオクチルアミン5.1g(0.04mol)の混合物を使用している。それ以外の反応条件は、実施例1に記載される条件と同じである。すなわち、無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール錯体に作用させる、オレイン酸の量を2/3にしている。
従って、調製される混合液中では、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール2分子がそれぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体が形成される。
液温が90℃に達した時点で、オレイン酸22.3g(0.08mol)とオクチルアミン5.1g(0.04mol)の混合物を添加する。添加されたオレイン酸とオクチルアミンが混合液中に溶解した後、液温が96℃に到達した時点で反応溶液は褐色を呈した。すなわち、添加されたオレイン酸が、無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール錯体に作用し、オレイン酸によって、一方のギ酸イオンと配位子置換が進行する結果、生成する錯体に起因して、前記の呈色が進む。
昇温を継続すると、前記の呈色に引き続き、微細な泡を発しながら、次第に、金属銅光沢を有する暗赤褐色溶液へと変化する。さらに10分間加熱を継続した後、加熱を停止し、自然冷却した。反応溶液の最大到達温度は、106℃であった。
なお、反応溶液中の銅濃度は、およそ9.9質量%であり、およそ1.5mol−Cu/Lと計算される。なお、反応溶液の液量は、520mLであった。
最終的に、回収した濾液について、粒度分布測定装置ナノトラックUPA−150(日機装(株)社製)を用いて、分散している微粒子の粒子径分布を測定する。その測定結果から、10nm〜40nmに分布を有する平均粒子径19nmの銅微粒子が分散していることが確認された。
金属銅微粒子の収率は、無水ギ酸銅の使用量W0(g)、無水ギ酸銅に含まれる銅含有率M0(%)、回収した濾液量WP(g)、および濾液中に含まれる銅含有率MP(%)を用いて、次式から算定した結果、80%であった。
収率(%)=100×(WP×MP)/(W0×M0)
上記参考例2に記載する方法に従って作製される無水ギ酸銅を中間原料として、銅微粒子を作製する工程の具体例を、参考例5に示す。実施例4においては、中間原料の無水ギ酸銅1モル量当たり、2−(ジエチルアミノ)エタノール1.1モル量を使用している。従って、まず、中間原料の無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール1分子が、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が二座配位子として配位している錯体を作製している。また、実施例4においても、銅微粒子の作製時、反応溶液中に含有される銅の量は、約1.8mol−Cu/Lに選択されている。
(実施例4)
本実施例4においては、上記実施例2で使用している、2−(ジエチルアミノ)エタノール178g(1.52mol)に代えて、2−(ジエチルアミノ)エタノール120.5g(1.03mol)を使用している。それ以外の反応条件は、実施例1に記載される条件と同じである。すなわち、無水ギ酸銅の溶解に使用される、2−(ジエチルアミノ)エタノールの量を、無水ギ酸銅1モル当たり、2−(ジエチルアミノ)エタノールが1.03/0.79≒1.3モルに選択している。
粉末状の無水ギ酸銅(銅含有率:41.4%)121g(0.79mol)を秤量し、温度計と攪拌装置を具備した容量1000mLの四つ口フラスコに入れる。該四つ口フラスコに、2−(ジエチルアミノ)エタノール120.5g(1.03mol)を添加する。マントルヒーターを用いて毎分0.5℃の昇温速度で加熱しながら、液を攪拌する。液温上昇に従い、粉末状の無水ギ酸銅の溶解が進む。すなわち、無水ギ酸銅に2−(ジエチルアミノ)エタノールが溶媒和し、錯体が形成される結果、溶解は進み、該錯体と2−(ジエチルアミノ)エタノールの均一な溶液が形成される。
粉末状の無水ギ酸銅が殆ど溶解した時点で、スワクリーン150(丸善石油化学社製、炭素数9のシクロヘキサン混合物、分子量:126.24、初留点:145℃以上)178gを添加する。前記均一な溶液の液量と、添加されるスワクリーン150の液量の比率は、1容:1.06容となっている。該溶媒を添加後も、攪拌混合しつつ、毎分0.5℃の昇温速度で加熱する。
調製される混合液中に形成されている錯体においては、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール1分子が二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が二座配位子として配位している錯体が大部分であり、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール2分子がそれぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体が一部含まれている。
液温が90℃に達した時点で、オレイン酸(分子量282.46)33.4g(0.12mol)とオクチルアミン(分子量129.25)5.1g(0.04mol)の混合物を添加する。添加されたオレイン酸とオクチルアミンが混合液中に溶解した後、液温が96℃に到達した時点で反応溶液は褐色を呈した。すなわち、添加されたオクチルアミンが、上記無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール錯体の大部分を占める、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール1分子が二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が二座配位子として配位している錯体に作用し、無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール+オクチルアミン錯体への変換が進行する結果、生成する錯体に起因して、前記の呈色が進む。この無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール+オクチルアミン錯体は、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール1分子が一座配位子として配位し、オクチルアミンが一座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が二座配位子として配位している錯体となっている。
昇温を継続すると、前記の呈色に引き続き、微細な泡を発しながら、次第に、金属銅光沢を有する暗赤褐色溶液へと変化する。さらに10分間加熱を継続した後、加熱を停止し、自然冷却した。反応溶液の最大到達温度は、103℃であった。
上記無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール+オクチルアミン錯体の熱分解反応が進行する過程は、吸熱過程であり、その結果、反応溶液の温度は、103℃に留まっている。すなわち、上記の構造を有する、無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール+オクチルアミン錯体の熱分解が進行していることを示している。
なお、反応溶液中の銅濃度は、およそ11.6質量%であり、およそ1.7mol−Cu/Lと計算される。なお、反応溶液の液量は、470mLであった。
液温が50℃以下になった後、反応溶液に、メタノール200mlとアセトン300mlを添加して混合する。メタノールとアセトンの添加によって、反応溶液中に均一に分散していた固体成分の沈降が開始し、数分間の静置で固液分離した状態となる。上澄み液をデカンテーションで除去した後、メタノールを加えて、固液分離する操作を数回繰り返す。上澄み液を除去した沈澱物にヘプタンを添加して攪拌し、沈澱物を再分散させる。
再分散液を75℃まで加熱して、残留するアセトンとメタノールを留去する。室温まで放冷後、孔径0.5μmのPTFE製メンブランフィルターを用いて、粗大粒子を除去し、微細な粒子が均一に分散している濾液を回収する。回収した濾液について、粒度分布測定装置ナノトラックUPA−150(日機装(株)社製)を用いて、分散している微粒子の粒子径分布を測定する。その測定結果から、10nm〜40nmに分布を有する平均粒子径15nmの銅微粒子が分散していることが確認された。
金属銅微粒子の収率は、無水ギ酸銅の使用量W0(g)、無水ギ酸銅に含まれる銅含有率M0(%)、回収した濾液量WP(g)、および濾液中に含まれる銅含有率MP(%)を用いて、次式から算定した結果、80%であった。
収率(%)=100×(WP×MP)/(W0×M0)
上記参考例2に記載する方法に従って作製される無水ギ酸銅を中間原料として、銅微粒子を作製する工程の他の具体例を、実施例5に示す。実施例5おいては、まず、2−(メチルアミノ)エタノールと1−(ジエチルアミノ)−2−プロパールの混合液中に、中間原料の無水ギ酸銅を溶解している。その結果、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(メチルアミノ)エタノールと1−(ジエチルアミノ)−2−プロパールが、それぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体を作製している。また、実施例5においても、銅微粒子の作製時、反応溶液中に含有される銅の量は、約1.8mol−Cu/Lに選択されている。
(実施例5)
2−(メチルアミノ)エタノール(分子量:75.11、沸点:159.6℃)7.51g(0.10mol)と1−(ジエチルアミノ)−2−プロパール(分子量:131.22、沸点:158.5℃)26.24g(0.20mol)を秤量し、容量300mLのビーカーに入れる。攪拌子と温度計を設置して、ホットスターラー上で攪拌して、混合液とする。この混合液中に、ホットスターラー上で攪拌しながら、参考例2に記載する方法で作製した、無水ギ酸銅粉末23.04g(銅含量:9.54g≒0.15mol)を添加する。加熱攪拌することにより、無水ギ酸銅粉末が溶解し、無水ギ酸銅と、2−(メチルアミノ)エタノールと1−(ジエチルアミノ)−2−プロパールとからなる錯体となり、均一な溶液となる。この均一な溶液に、スワクリーン150を11.04g添加して加熱攪拌を継続する。前記均一な溶液の液量と、添加されるスワクリーン150の液量の比率は、1容:0.26容となっている。
従って、調製される混合液中では、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(メチルアミノ)エタノールと1−(ジエチルアミノ)−2−プロパールの合計2分子がそれぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体が形成される。
液温が90℃に到達した時点で、前記溶液に、オレイン酸(分子量:282.46)7.06g(0.025mol)とオクチルアミン(分子量:129.25)6.46g(0.050mol)との混合物を添加する。オレイン酸とオクチルアミンの混合物が溶解し、その後、液温が110〜120℃に到達した時点で、反応溶液は褐色を呈する。
加熱を継続すると、前記の呈色に引き続き、微細な泡を発しながら、次第に、金属銅光沢を有する暗赤褐色溶液へと変化する。さらに10分間加熱を継続した後、加熱を停止し、自然冷却した。反応溶液の最大到達温度は、117℃であった。
なお、反応溶液中の銅濃度は、およそ11.7質量%であり、およそ1.8mol−Cu/Lと推算される。なお、反応溶液の液量は、80mLであった。
液温が50℃以下になった後、反応溶液に、メタノール30gを添加して混合する。メタノールの添加によって、反応溶液中に均一に分散していた固体成分の沈降が開始し、数分間の静置で固液分離した状態となる。静置で分離する、上澄み液を吸引除去する。メタノールを加えて、固液分離する操作と、上澄み液の吸引除去を、さらに3回繰り返す。その後、アセトン30gを添加して、静置で分離する上澄み液を除去する。上澄み液を除去した沈澱物にヘプタン30gを添加して攪拌し、沈澱物を再分散させる。該再分散液を、容量200mLのナス型フラスコに移し、ロータリーエバポレーターにセットして、30℃浴中で減圧蒸留する。
減圧蒸留の間に、再分散液中に残留するアセトンとメタノールが留去される。分散溶媒ヘプタンに再分散されている液から、孔径0.5μmのPTFE製メンブランフィルターで粗大粒子を除去し、微細な粒子が均一に分散している濾液を回収する。回収した濾液について、粒度分布測定装置ナノトラックUPA−150(日機装(株)社製)を用いて、分散している微粒子の粒子径分布を測定する。その測定結果から、10nm〜40nmに分布を有する平均粒子径27nmの銅微粒子が分散していることが確認された。
金属銅微粒子の収率は、無水ギ酸銅の使用量W0(g)、無水ギ酸銅に含まれる銅含有率M0(%)、回収した濾液量WP(g)、および濾液中に含まれる銅含有率MP(%)を用いて、次式から算定した結果、83%であった。
収率(%)=100×(WP×MP)/(W0×M0)
上記参考例2に記載する方法に従って作製される無水ギ酸銅を中間原料として、金属銅粒子の作製を試みた例を、比較例1に示す。比較例1においては、まず、中間原料の無水ギ酸銅1分子に対して、オレイルアミン2分子を作用させ、2分子のオレイルアミンが、それぞれ、一座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が二座配位子として配位している錯体を作製している。また、比較例1においては、熱分解反応時、反応溶液中に含有される銅の量は、約1.4mol−Cu/Lに選択されている。
(実施例6)
本実施例6においては、上記実施例2で使用している、2−(ジエチルアミノ)エタノール178g(1.52mol)に代えて、2−(メチルアミノ)エタノール118.4g(1.58mol)を使用し、スワクリーン150の使用量を320gに変更している。また、1000mLの四つ口フラスコに代えて、2000mLの四つ口フラスコを使用している。それ以外の反応条件は、実施例1に記載される条件と同じである。すなわち、無水ギ酸銅の溶解に使用される、2−(メチルアミノ)エタノールの量を、無水ギ酸銅1モル当たり、2−(メチルアミノ)エタノールを1.58/0.79≒2.0モルに選択し、無水ギ酸銅と2−(メチルアミノ)エタノールからなる溶液1容当たり、スワクリーン150を2容に選択している。
粉末状の無水ギ酸銅(銅含有率:41.4%)121g(0.79mol)を秤量し、温度計と攪拌装置を具備した容量2000mLの四つ口フラスコに入れる。該四つ口フラスコに、2−(メチルアミノ)エタノール118.4g(1.58mol)を添加する。マントルヒーターを用いて毎分0.5℃の昇温速度で加熱しながら、液を攪拌する。液温上昇に従い、粉末状の無水ギ酸銅の溶解が進む。すなわち、無水ギ酸銅に2−(メチルアミノ)エタノールが溶媒和し、錯体が形成される結果、溶解は進み、該錯体と2−(メチルアミノ)エタノールの均一な溶液が形成される。
粉末状の無水ギ酸銅が殆ど溶解した時点で、スワクリーン150(丸善石油化学社製、炭素数9のシクロヘキサン混合物、分子量:126.24、初留点:145℃以上)320gを添加する。前記均一な溶液の液量と、添加されるスワクリーン150の液量の比率は、1容:2容となっている。該溶媒を添加後も、攪拌混合しつつ、毎分0.5℃の昇温速度で加熱する。
調製される混合液中に形成されている錯体においては、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(メチルアミノ)エタノール1分子が二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が二座配位子として配位している錯体が大部分であり、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(メチルアミノ)エタノール2分子がそれぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体が一部含まれている。
液温が90℃に達した時点で、オレイン酸(分子量282.46)33.4g(0.12mol)とオクチルアミン(分子量129.25)5.1g(0.04mol)の混合物を添加する。添加されたオレイン酸とオクチルアミンが混合液中に溶解した後、液温が96℃に到達した時点で反応溶液は褐色を呈した。すなわち、添加されたオクチルアミンが、上記無水ギ酸銅の2−(メチルアミノ)エタノール錯体の大部分を占める、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(メチルアミノ)エタノール1分子が二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が二座配位子として配位している錯体に作用し、無水ギ酸銅の2−(メチルアミノ)エタノール+オクチルアミン錯体への変換が進行する結果、生成する錯体に起因して、前記の呈色が進む。この無水ギ酸銅の2−(メチルアミノ)エタノール+オクチルアミン錯体は、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(メチルアミノ)エタノール1分子が一座配位子として配位し、オクチルアミンが一座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が二座配位子として配位している錯体となっている。
昇温を継続すると、前記の呈色に引き続き、微細な泡を発しながら、次第に、金属銅光沢を有する暗赤褐色溶液へと変化する。さらに10分間加熱を継続した後、加熱を停止し、自然冷却した。反応溶液の最大到達温度は、103℃であった。
上記無水ギ酸銅の2−(メチルアミノ)エタノール+オクチルアミン錯体の熱分解反応が進行する過程は、吸熱過程であり、その結果、反応溶液の温度は、103℃に留まっている。すなわち、上記の構造を有する、無水ギ酸銅の2−(メチルアミノ)エタノール+オクチルアミン錯体の熱分解が進行していることを示している。
なお、反応溶液中の銅濃度は、およそ8.4質量%であり、およそ1.3mol−Cu/Lと計算される。なお、反応溶液の液量は、610mLであった。
液温が50℃以下になった後、反応溶液に、メタノール400mlとアセトン600mlを添加して混合する。メタノールとアセトンの添加によって、反応溶液中に均一に分散していた固体成分の沈降が開始し、数分間の静置で固液分離した状態となる。上澄み液をデカンテーションで除去した後、メタノールを加えて、固液分離する操作を数回繰り返す。上澄み液を除去した沈澱物にヘプタンを添加して攪拌し、沈澱物を再分散させる。
再分散液を75℃まで加熱して、残留するアセトンとメタノールを留去する。室温まで放冷後、孔径0.5μmのPTFE製メンブランフィルターを用いて、粗大粒子を除去し、微細な粒子が均一に分散している濾液を回収する。回収した濾液について、粒度分布測定装置ナノトラックUPA−150(日機装(株)社製)を用いて、分散している微粒子の粒子径分布を測定する。その測定結果から、10nm〜40nmに分布を有する平均粒子径15nmの銅微粒子が分散していることが確認された。
(実施例7)
本実施例7においては、上記実施例6で使用している、2−(メチルアミノ)エタノール118.4g(1.58mol)に代えて、2−(ジブメチルアミノ)エタノール273.1g(1.58mol)を使用している。それ以外の反応条件は、実施例6に記載される条件と同じである。すなわち、無水ギ酸銅の溶解に使用される、2−(ジブチルアミノ)エタノールの量を、無水ギ酸銅1モル当たり、2−(ジブチルアミノ)エタノールを1.58/0.79≒2.0モルに選択し、反応溶液中に含有される銅濃度を1.0mol/Lに選択している。
粉末状の無水ギ酸銅(銅含有率:41.4%)121g(0.79mol)を秤量し、温度計と攪拌装置を具備した容量2000mLの四つ口フラスコに入れる。該四つ口フラスコに、2−(ジブチルアミノ)エタノール273.1g(1.58mol)を添加する。マントルヒーターを用いて毎分0.5℃の昇温速度で加熱しながら、液を攪拌する。液温上昇に従い、粉末状の無水ギ酸銅の溶解が進む。すなわち、無水ギ酸銅に2−(ジブチルアミノ)エタノールが溶媒和し、錯体が形成される結果、溶解は進み、該錯体と2−(ジブチルアミノ)エタノールの均一な溶液が形成される。
粉末状の無水ギ酸銅が殆ど溶解した時点で、スワクリーン150(丸善石油化学社製、炭素数9のシクロヘキサン混合物、分子量:126.24、初留点:145℃以上)320gを添加する。前記均一な溶液の液量と、添加されるスワクリーン150の液量の比率は、1容:1容となっている。該溶媒を添加後も、攪拌混合しつつ、毎分0.5℃の昇温速度で加熱する。
調製される混合液中に形成されている錯体においては、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジブチルアミノ)エタノール1分子が二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が二座配位子として配位している錯体が大部分であり、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジブチルアミノ)エタノール2分子がそれぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体が一部含まれている。
液温が90℃に達した時点で、オレイン酸(分子量282.46)33.4g(0.12mol)とオクチルアミン(分子量129.25)5.1g(0.04mol)の混合物を添加する。添加されたオレイン酸とオクチルアミンが混合液中に溶解した後、液温が96℃に到達した時点で反応溶液は褐色を呈した。すなわち、添加されたオクチルアミンが、上記無水ギ酸銅の2−(ジブチルアミノ)エタノール錯体の大部分を占める、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジブチルアミノ)エタノール1分子が二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が二座配位子として配位している錯体に作用し、無水ギ酸銅の2−(ジブチルアミノ)エタノール+オクチルアミン錯体への変換が進行する結果、生成する錯体に起因して、前記の呈色が進む。この無水ギ酸銅の2−(ジブチルアミノ)エタノール+オクチルアミン錯体は、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジブチルアミノ)エタノール1分子が一座配位子として配位し、オクチルアミンが一座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が二座配位子として配位している錯体となっている。
昇温を継続すると、前記の呈色に引き続き、微細な泡を発しながら、次第に、金属銅光沢を有する暗赤褐色溶液へと変化する。さらに10分間加熱を継続した後、加熱を停止し、自然冷却した。反応溶液の最大到達温度は、103℃であった。
上記無水ギ酸銅の2−(ジブチルアミノ)エタノール+オクチルアミン錯体の熱分解反応が進行する過程は、吸熱過程であり、その結果、反応溶液の温度は、103℃に留まっている。すなわち、上記の構造を有する、無水ギ酸銅の2−(ジブチルアミノ)エタノール+オクチルアミン錯体の熱分解が進行していることを示している。
なお、反応溶液中の銅濃度は、およそ6.7質量%であり、およそ1.0mol−Cu/Lと計算される。なお、反応溶液の液量は、770mLであった。
液温が50℃以下になった後、反応溶液に、メタノール400mlとアセトン600mlを添加して混合する。メタノールとアセトンの添加によって、反応溶液中に均一に分散していた固体成分の沈降が開始し、数分間の静置で固液分離した状態となる。上澄み液をデカンテーションで除去した後、メタノールを加えて、固液分離する操作を数回繰り返す。上澄み液を除去した沈澱物にヘプタンを添加して攪拌し、沈澱物を再分散させる。
再分散液を75℃まで加熱して、残留するアセトンとメタノールを留去する。室温まで放冷後、孔径0.5μmのPTFE製メンブランフィルターを用いて、粗大粒子を除去し、微細な粒子が均一に分散している濾液を回収する。回収した濾液について、粒度分布測定装置ナノトラックUPA−150(日機装(株)社製)を用いて、分散している微粒子の粒子径分布を測定する。その測定結果から、10nm〜40nmに分布を有する平均粒子径15nmの銅微粒子が分散していることが確認された。
(実施例8)
本実施例8においては、上記実施例4で使用している、スワクリーン150の量を42gに代えた以外の反応条件は、実施例4に記載される条件と同じである。すなわち、反応溶液中に含有される銅濃度が2.4mol/Lに選択されている。
粉末状の無水ギ酸銅(銅含有率:41.4%)121g(0.79mol)を秤量し、温度計と攪拌装置を具備した容量1000mLの四つ口フラスコに入れる。該四つ口フラスコに、2−(ジエチルアミノ)エタノール120.5g(1.03mol)を添加する。マントルヒーターを用いて毎分0.5℃の昇温速度で加熱しながら、液を攪拌する。液温上昇に従い、粉末状の無水ギ酸銅の溶解が進む。すなわち、無水ギ酸銅に2−(ジエチルアミノ)エタノールが溶媒和し、錯体が形成される結果、溶解は進み、該錯体と2−(ジエチルアミノ)エタノールの均一な溶液が形成される。
粉末状の無水ギ酸銅が殆ど溶解した時点で、スワクリーン150(丸善石油化学社製、炭素数9のシクロヘキサン混合物、分子量:126.24、初留点:145℃以上)42gを添加する。前記均一な溶液の液量と、添加されるスワクリーン150の液量の比率は、1容:1/4容となっている。該溶媒を添加後も、攪拌混合しつつ、毎分0.5℃の昇温速度で加熱する。
調製される混合液中に形成されている錯体においては、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール1分子が二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が二座配位子として配位している錯体が大部分であり、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール2分子がそれぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体が一部含まれている。
液温が90℃に達した時点で、オレイン酸(分子量282.46)33.4g(0.12mol)とオクチルアミン(分子量129.25)5.1g(0.04mol)の混合物を添加する。添加されたオレイン酸とオクチルアミンが混合液中に溶解した後、液温が96℃に到達した時点で反応溶液は褐色を呈した。すなわち、添加されたオクチルアミンが、上記無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール錯体の大部分を占める、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール1分子が二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が二座配位子として配位している錯体に作用し、無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール+オクチルアミン錯体への変換が進行する結果、生成する錯体に起因して、前記の呈色が進む。この無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール+オクチルアミン錯体は、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール1分子が一座配位子として配位し、オクチルアミンが一座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が二座配位子として配位している錯体となっている。
昇温を継続すると、前記の呈色に引き続き、微細な泡を発しながら、次第に、金属銅光沢を有する暗赤褐色溶液へと変化する。さらに10分間加熱を継続した後、加熱を停止し、自然冷却した。反応溶液の最大到達温度は、103℃であった。
上記無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール+オクチルアミン錯体の熱分解反応が進行する過程は、吸熱過程であり、その結果、反応溶液の温度は、103℃に留まっている。すなわち、上記の構造を有する、無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール+オクチルアミン錯体の熱分解が進行していることを示している。
なお、反応溶液中の銅濃度は、およそ15.6質量%であり、およそ2.4mol−Cu/Lと計算される。なお、反応溶液の液量は、330mLであった。
液温が50℃以下になった後、反応溶液に、メタノール200mlとアセトン300mlを添加して混合する。メタノールとアセトンの添加によって、反応溶液中に均一に分散していた固体成分の沈降が開始し、数分間の静置で固液分離した状態となる。上澄み液をデカンテーションで除去した後、メタノールを加えて、固液分離する操作を数回繰り返す。上澄み液を除去した沈澱物にヘプタンを添加して攪拌し、沈澱物を再分散させる。
再分散液を75℃まで加熱して、残留するアセトンとメタノールを留去する。室温まで放冷後、孔径0.5μmのPTFE製メンブランフィルターを用いて、粗大粒子を除去し、微細な粒子が均一に分散している濾液を回収する。回収した濾液について、粒度分布測定装置ナノトラックUPA−150(日機装(株)社製)を用いて、分散している微粒子の粒子径分布を測定する。その測定結果から、10nm〜40nmに分布を有する平均粒子径15nmの銅微粒子が分散していることが確認された。
(実施例9)
本実施例9においては、上記実施例1で使用している、オレイルアミン10.3g(0.04mol)に代えて、ジブチルアミノプロピルアミン(沸点:238℃;分子量186.34)7.3g(0.04mol)を使用している。それ以外の反応条件は、実施例1に記載される条件と同じである。
なお、該ジブチルアミノプロピルアミンは、1,3−ジアミン型のアルキルアミンであり、末端アミノ基(−NH2)を利用して、主に、一座配位子として機能できる。従って、オレイルアミンと同様に、ジブチルアミノプロピルアミンも、末端アミノ基(−NH2)を利用して、金属銅原子上に配位的な結合が可能である。
従って、実施例1と同じく、実施例9でも、調製される混合液中では、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール2分子がそれぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体が形成される。
液温が90℃に達した時点で、オレイン酸(分子量282.46)33.4g(0.12mol)とジブチルアミノプロピルアミン(分子量186.34)7.3g(0.04mol)の混合物を添加する。添加されたオレイン酸とジブチルアミノプロピルアミンが混合液中に溶解した後、液温が96℃に到達した時点で反応溶液は褐色を呈した。すなわち、添加されたオレイン酸が、無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール錯体に作用し、オレイン酸によって、一方のギ酸イオンと配位子置換が進行する結果、生成する錯体に起因して、前記の呈色が進む。
昇温を継続すると、前記の呈色に引き続き、微細な泡を発しながら、次第に、金属銅光沢を有する暗赤褐色溶液へと変化する。さらに10分間加熱を継続した後、加熱を停止し、自然冷却した。反応溶液の最大到達温度は、105℃であった。
なお、反応溶液中の銅濃度は、およそ9.7質量%であり、およそ1.5mol−Cu/Lと計算される。なお、反応溶液の液量は、530mLであった。
最終的に、回収した濾液について、粒度分布測定装置ナノトラックUPA−150(日機装(株)社製)を用いて、分散している微粒子の粒子径分布を測定する。その測定結果から、10nm〜40nmに分布を有する平均粒子径25nmの銅微粒子が分散していることが確認された。
上記の結果を、実施例1の結果と比較すると、反応溶液中における還元反応の機構は実質的に同じであると、判断される。
金属銅微粒子の収率は、無水ギ酸銅の使用量W0(g)、無水ギ酸銅に含まれる銅含有率M0(%)、回収した濾液量WP(g)、および濾液中に含まれる銅含有率MP(%)を用いて、次式から算定した結果、72%であった。
収率(%)=100×(WP×MP)/(W0×M0)
(比較例1)
参考例2の方法で作製した無水ギ酸銅粉末(銅含有率:41.4%)12.1g(0.08mol)を秤量し、容量100mLの四つ口フラスコに入れる。該容量100mLの四つ口フラスコ中に、オレイルアミン(分子量267.49)42.2g(0.16mol)を添加する。該四つ口フラスコは、温度計と攪拌装置を装着しており、マントルヒーターを用いて、毎分0.5℃の昇温速度で加熱しながら、攪拌を行う。加熱に伴って、無水ギ酸銅粉末は、液相のオレイルアミン中に徐々に溶解する。その間、過渡的にゲル状物質の生成が確認される。液温上昇に従い、無水ギ酸銅とオレイルアミンとからなる錯体が形成され、均一な溶液となる。
オレイルアミンは、一座配位子であるため、無水ギ酸銅1分子当たり、オレイルアミン1分子が、一座配位子として配位している錯体、すなわち、[Cu2(HCOO)4]・2H2N-Rの形状の錯体として、溶媒のオレイルアミン中に溶解する。その後、[Cu2(HCOO)4]・2H2N-Rの形状の錯体に、オレイルアミンがさらに作用して、無水ギ酸銅1分子当たり、オレイルアミン2分子が、それぞれ、一座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が二座配位子として配位している錯体へと変換されていると、推定される。
加熱を継続すると、液温が100℃に達すると、熱分解が開始し、気泡が生成し、「沸騰状態」となる。液温が110℃に到達した時点で、反応溶液は褐色を呈した後、大量の気泡が発生する。その結果、反応溶液は、金属銅光沢を有する暗赤褐色溶液へと変化する。一方、液全体の粘性が増し、消泡性が低下して、液の一部はフラスコ外へと溢れ出した。
また、フラスコ内壁には、金属銅が鏡面状に析出する。フラスコの内壁面が、核生成点として機能し、金属銅の皮膜層が形成されたと、推定される。
110〜120℃で10分間加熱した後、加熱を停止し、冷却する。冷却後、フラスコ内に残った反応生成物にメタノールを添加すると、粘凋なゲル状物質がフラスコ内壁に付着した。このゲル状物質は、メタノールとアセトンで数回繰り返し洗浄しても、フラスコ内壁から溶解・離脱しなかった。
従って、均一に分散可能な金属銅微粒子の作製はなされていないと判断される。
上記参考例2に記載する方法に従って作製される無水ギ酸銅を中間原料として、金属銅粒子の作製を試みた他の例を、比較例2に示す。比較例2においても、まず、中間原料の無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール2分子を作用させ、2分子の2−(ジエチルアミノ)エタノールが、それぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体を作製している。また、比較例2においては、熱分解反応時、反応溶液中に含有される銅の量は、約1.6mol−Cu/Lに選択されている。
(比較例2)
参考例2の方法で作製した無水ギ酸銅粉末(銅含有率:41.4%)12.1g(0.08mol)を秤量し、容量100mLの四つ口フラスコに入れる。該容量100mLの四つ口フラスコ中に、2−(ジエチルアミノ)エタノール(分子量:117.19、沸点:162.1℃)17.8g(0.15mol)を添加する。該四つ口フラスコは、温度計と攪拌装置を装着しており、マントルヒーターを用いて、毎分0.5℃の昇温速度で加熱しながら、攪拌を行う。加熱に伴って、無水ギ酸銅粉末は、液相の2−(ジエチルアミノ)エタノール中に徐々に溶解する。すなわち、無水ギ酸銅と2−(ジエチルアミノ)エタノールとから、錯体が形成される結果、溶解は進み、該錯体と2−(ジエチルアミノ)エタノールの均一な溶液が形成される。
粉末状の無水ギ酸銅が殆ど溶解した時点で、スワクリーン150(丸善石油化学社製、炭素数9のシクロヘキサン混合物、分子量:126.24、初留点:145℃以上)17.8gを添加する。前記均一な溶液の液量と、添加されるスワクリーン150の液量の比率は、1容:0.8容となっている。該溶媒を添加後も、攪拌混合しつつ、毎分0.5℃の昇温速度で加熱する。
この混合液中でも、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール2分子がそれぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体が形成される。
液温が100℃付近に達すると、反応溶液中に気泡が発生し始める。液温が、110〜120℃に達すると、反応溶液全体が褐色を呈する。その後、反応溶液は、金属銅光沢を有する暗赤褐色溶液へと変化する。さらに10分間加熱を継続した後、加熱を停止し、自然冷却した。
冷却した反応溶液中には、粒子径が5μm程度の銅粉が沈澱している。一方、液相中には、微細な銅微粒子の分散は見出されていない。すなわち、微細な銅微粒子が凝集して、銅粉を構成しており、その結果、液相中に分散可能な、微細な銅微粒子は残余していない。
すなわち、反応溶液中に、微細な銅微粒子の表面を被覆し、分散剤として機能する、脂肪酸、アルキルアミンが存在していないため、形成された微細な銅微粒子は沈降し、凝集体粒子を構成していると、推察される。
上記参考例2に記載する方法に従って作製される無水ギ酸銅を中間原料として、金属銅粒子の作製を試みた他の例を、比較例3に示す。比較例3においても、まず、中間原料の無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール2分子を作用させ、2分子の2−(ジエチルアミノ)エタノールが、それぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体を作製している。また、比較例3においては、熱分解反応時、反応溶液中に含有される銅の量は、約1.5mol−Cu/Lに選択されている。
(比較例3)
粉末状の無水ギ酸銅(銅含有率:41.4%)121g(0.79mol)を秤量し、温度計と攪拌装置を具備した容量1000mLの四つ口フラスコに入れる。該四つ口フラスコに、2−(ジエチルアミノ)エタノール(分子量:117.19、沸点:162.1℃)178g(1.52mol)を添加する。マントルヒーターを用いて毎分0.5℃の昇温速度で加熱しながら、液を攪拌する。液温上昇に従い、粉末状の無水ギ酸銅の溶解が進む。すなわち、無水ギ酸銅と2−(ジエチルアミノ)エタノールとから、錯体が形成される結果、溶解は進み、該錯体と2−(ジエチルアミノ)エタノールの均一な溶液が形成される。
粉末状の無水ギ酸銅が殆ど溶解した時点で、スワクリーン150(丸善石油化学社製、炭素数9のシクロヘキサン混合物、分子量:126.24、初留点:145℃以上)178gを添加する。前記均一な溶液の液量と、添加されるスワクリーン150の液量の比率は、1容:0.8容となっている。該溶媒を添加後も、攪拌混合しつつ、毎分0.5℃の昇温速度で加熱する。
この混合液中でも、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール2分子がそれぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体が形成される。
液温が90℃に達した時点で、オレイン酸(分子量282.46)33.4g(0.12mol)を添加する。添加されたオレイン酸が混合液中に溶解した後、反応溶液は褐色を呈した。すなわち、添加されたオレイン酸が、無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール錯体に作用し、オレイン酸によって、一方のギ酸イオンと配位子置換が進行する結果、生成する錯体に起因して、前記の呈色が進む。
液温が105℃に達すると、前記の呈色に引き続き、微細な泡を発しながら、次第に、金属銅光沢を有する暗赤褐色溶液へと変化する。さらに10分間加熱を継続した後、加熱を停止し、自然冷却した。反応溶液の最大到達温度は、110℃であった。
なお、反応溶液中の銅濃度は、およそ9.6質量%であり、およそ1.5mol−Cu/Lと計算される。なお、反応溶液の液量は、520mLであった。
液温が50℃以下になった後、反応溶液に、メタノール200gとアセトン300gを添加して混合する。メタノールとアセトンの添加によって、反応溶液中に均一に分散していた固体成分の沈降が開始し、数分間の静置で固液分離した状態となる。上澄み液をデカンテーションで除去した後、メタノールを加えて、固液分離する操作を数回繰り返す。上澄み液を除去した沈澱物にヘプタンを添加して攪拌し、沈澱物を再分散させる。
再分散液を75℃まで加熱して、残留するアセトンとメタノールを留去する。室温まで放冷後、孔径0.5μmのPTFE製メンブランフィルターを用いて、粗大粒子を除去し、微細な粒子が均一に分散している濾液を回収する。回収した濾液について、粒度分布測定装置ナノトラックUPA−150(日機装(株)社製)を用いて、分散している微粒子の粒子径分布を測定する。その測定結果から、10nm〜40nmに分布を有する平均粒子径20nmの銅微粒子が分散していることが確認された。
金属銅微粒子の収率は、無水ギ酸銅の使用量W0(g)、無水ギ酸銅に含まれる銅含有率M0(%)、回収した濾液量WP(g)、および濾液中に含まれる銅含有率MP(%)を用いて、次式から算定した結果、65%であった。
収率(%)=100×(WP×MP)/(W0×M0)
上記参考例2に記載する方法に従って作製される無水ギ酸銅を中間原料として、金属銅粒子の作製を試みた他の例を、比較例4に示す。比較例4おいては、まず、2−(メチルアミノ)エタノールと1−(ジエチルアミノ)−2−プロパールの混合液中に、中間原料の無水ギ酸銅を溶解している。その結果、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(メチルアミノ)エタノールと1−(ジエチルアミノ)−2−プロパールが、それぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体を作製している。また、比較例4においては、銅微粒子の作製時、反応溶液中に含有される銅の量は、約1.4mol−Cu/Lに選択されている。
(比較例4)
2−(メチルアミノ)エタノール(分子量:75.11、沸点:159.6℃)7.51g(0.10mol)と1−(ジエチルアミノ)−2−プロパール(分子量:131.22、沸点:158.5℃)26.24g(0.20mol)を秤量し、容量300mLのビーカーに入れる。攪拌子と温度計を設置して、ホットスターラー上で攪拌して、混合液とする。この混合液中に、ホットスターラー上で攪拌しながら、参考例2に記載する方法で作製した、無水ギ酸銅粉末15.36g(銅含量:6.36g≒0.10mol)を添加する。加熱攪拌することにより、無水ギ酸銅粉末が溶解し、無水ギ酸銅と、2−(メチルアミノ)エタノールと1−(ジエチルアミノ)−2−プロパールとからなる錯体となり、均一な溶液となる。この均一な溶液に、スワクリーン150を7.36g添加して加熱攪拌を継続する。前記均一な溶液の液量と、添加されるスワクリーン150の液量の比率は、1容:0.2容となっている。
従って、調製される混合液中では、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(メチルアミノ)エタノールと1−(ジエチルアミノ)−2−プロパールの合計2分子がそれぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体が形成される。
液温が100℃に到達した時点で、前記溶液に、オレイン酸(分子量:282.46)7.06g(0.025mol)を添加する。反応溶液の温度は93℃まで低下したが、90℃未満にはならなかった。すなわち、添加されたオレイン酸が、無水ギ酸銅の錯体に作用し、オレイン酸によって、一方のギ酸イオンと配位子置換が進行する結果、液温の低下が生じたと推定される。
加熱を続け、液温が101℃に達した時点でオクチルアミン(分子量:129.25)6.46g(0.050mol)を添加する。その後、液温が104℃に到達した時点で、反応溶液は褐色を呈する。
加熱を継続すると、前記の呈色に引き続き、微細な泡を発しながら、次第に、金属銅光沢を有する暗赤褐色溶液へと変化する。さらに10分間加熱を継続した後、加熱を停止し、自然冷却した。反応溶液の最大到達温度は、114℃であった。
なお、反応溶液中の銅濃度は、およそ9.8質量%であり、およそ1.4mol−Cu/Lと推算される。なお、反応溶液の液量は、70mLであった。
液温が50℃以下になった後、反応溶液に、メタノール30gを添加して混合する。メタノールの添加によって、反応溶液中に均一に分散していた固体成分の沈降が開始し、数分間の静置で固液分離した状態となる。静置で分離する、上澄み液を吸引除去する。メタノールを加えて、固液分離する操作と、上澄み液の吸引除去を、さらに3回繰り返す。その後、アセトン30gを添加して、静置で分離する上澄み液を除去する。上澄み液を除去した沈澱物にヘプタン30gを添加して攪拌し、沈澱物を再分散させる。該再分散液を、容量200mLのナス型フラスコに移し、ロータリーエバポレーターにセットして、30℃浴中で減圧蒸留する。
減圧蒸留の間に、再分散液中に残留するアセトンとメタノールが留去される。分散溶媒ヘプタンに再分散されている液から、孔径0.5μmのPTFE製メンブランフィルターで粗大粒子を除去し、微細な粒子が均一に分散している濾液を回収する。回収した濾液について、粒度分布測定装置ナノトラックUPA−150(日機装(株)社製)を用いて、分散している微粒子の粒子径分布を測定する。その測定結果から、10nm〜40nmに分布を有する平均粒子径27nmの銅微粒子が分散していることが確認された。
金属銅微粒子の収率は、無水ギ酸銅の使用量W0(g)、無水ギ酸銅に含まれる銅含有率M0(%)、回収した濾液量WP(g)、および濾液中に含まれる銅含有率MP(%)を用いて、次式から算定した結果、68%であった。
収率(%)=100×(WP×MP)/(W0×M0)
ギ酸銅の調製の際、副生する水分子を含む反応溶媒を除去し、無水ギ酸銅を回収する操作を実施せず、副生する水分子を含む反応溶媒中に混合されているギ酸銅を中間原料として、金属銅粒子の作製を試みた他の例を、比較例5に示す。
中間原料として使用したギ酸銅は、副生する水分子が、配位子として、配位していると推定され、結晶水を含むギ酸銅に相当していると、推断される。
(比較例5)
アセトン(分子量:58.08、沸点:57℃)30.00gとギ酸(分子量:46.03、濃度:95%)12.21g(0.25mol)を秤量し、攪拌子を具備した容量200mLのビーカーに入れ、室温で攪拌して、混合液を調製する。該混合液に、塩基性炭酸銅(銅含有率:55.5%)13.74g(銅換算:0.12mol)を添加する。
室温で、前記混合液を60分間攪拌する。次いで、ホットスターラーの設定温度を100℃にして30分間加熱する。その加熱の間、液温は、用いた溶媒アセトンの沸点、57℃となっていた。
すなわち、前記加熱を施す間、溶媒アセトンの蒸散に伴う気化熱のため、液温は、溶媒アセトンの沸点、57℃よりも上昇することはなかった。溶媒アセトンの蒸散が進行する結果、混合液中において、相対的に、ギ酸中に含まれていた水と反応によって副生する水分子の含有比率が上昇する。
この混合液に、N−メチルエタノールアミン(分子量:75.11、沸点:159.6℃)45.07g(0.60mol)とN,N−ジエチルアミノイソプロパール(分子量:131.22、沸点:158.5℃)157.46g(1.20mol)を添加する。その際、液温は上記の57℃より低下し、混合液は、青緑色を呈した。攪拌しながらホットスターラーの設定温度を150℃にすると、混合液の液温が上昇するとともに、混合液中にゲル状物質が生成する。液温が57℃を超え、75℃に達する段階に至ると、混合液は、ほとんど流動性を失っている。加熱を継続すると、流動性は僅かに改善するが、均一溶液にはならなかった。
すなわち、混合液中に残留するアセトンが蒸散して失われると、液温は、溶媒アセトンの沸点、57℃を超え、上昇する。混合液中においては、水分子と、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジエチルアミノイソプロパールを含んでなる混合溶媒中において、配位している水分子と、前記アミノアルコールとの配位子交換が進行する。その結果、ギ酸銅1分子に対して、2分子のアミノアルコールが、それぞれ、そのアミノ窒素原子を利用して、一座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が二座配位子として配位している錯体が形成されていると、推測される。
形成される錯体は、一座配位子のアミノアルコールのヒドロキシル基を利用して、他のアミノアルコールと水素結合型の相互作用を行うことが可能である。そのため、形成される錯体分子が複数、分子間相互作用を介して、凝集すると、ゲル状の凝集物が生成すると、推断される。
加熱攪拌を継続し、液温が100℃に到達した時点でオレイン酸(分子量:282.46)8.83g(0.031mol)とオクチルアミン(分子量:129.25)8.08g(0.063mol)を添加する。
さらに加熱を続けると、液温が100〜110℃に到達した時点で混合液は流動性を回復し、緑帯黒褐色を呈した。加熱攪拌を継続すると、混合液は次第に茶色から黒色へと変化した。120℃まで加熱したが、混合液は黒色を帯びたままであり、金属銅光沢を示さなかった。
すなわち、混合液中には、水とギ酸が含まれているが、水の沸点100℃、ギ酸の沸点100.7℃より高い107℃に達すると、水とギ酸の共沸混合物を形成する。その結果、混合液中に含まれるギ酸は、共沸によって、蒸散する。
一方、添加されたオレイン酸を触媒として、残余する水分子とギ酸銅のアミノアルコール錯体から、酸化銅(II)が生成される。
(HCOO-)2Cu2+(NR1R2-CH2CH(R3)-OH)2 +H2O
→ CuO + 2NR1R2-CH2CH(R3)-OH +2HCOOH↑
生成する酸化銅(II)は、微細な微粒子を構成する。
結果的に、ギ酸銅のアミノアルコール錯体は、酸化銅(II)へと変換され、凝集し、微粒子として、液中に分散した状態となっていると、推断される。酸化銅(II)の微粒子の表面には、オクチルアミンの被覆層が形成され、液相を構成するアミノアルコール中に分散していると、推定される。
ギ酸銅のアミノアルコール錯体の分解還元温度は、110℃よりも高いため、水とギ酸の共沸混合物の沸点近傍の温度においては、分解還元反応は開始していない。一方、上述する酸化銅(II)への変換反応は、110℃以下の温度で進行するため、液温が、110℃に達する時点では、ギ酸銅のアミノアルコール錯体は、混合液中に残余していないと、推断される。そのため、ギ酸銅のアミノアルコール錯体の分解還元反応による、金属銅の生成が観測されていないと、判断される。
上記参考例2に記載する方法に従って作製される無水ギ酸銅を中間原料として、金属銅粒子の作製を試みた他の例を、比較例6に示す。比較例6においても、まず、中間原料の無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール2分子を作用させ、2分子の2−(ジエチルアミノ)エタノールが、それぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体を作製している。また、比較例6においては、熱分解反応時、反応溶液中に含有される銅の量は、約1.2mol−Cu/Lに選択されている。
(比較例6)
粉末状の無水ギ酸銅(銅含有率:41.4%)121g(0.79mol)を秤量し、温度計と攪拌装置を具備した容量1000mLの四つ口フラスコに入れる。該四つ口フラスコに、2−(ジエチルアミノ)エタノール(分子量:117.19、沸点:162.1℃)178g(1.52mol)を添加する。マントルヒーターを用いて毎分0.5℃の昇温速度で加熱しながら、液を攪拌する。液温上昇に従い、粉末状の無水ギ酸銅の溶解が進む。すなわち、無水ギ酸銅と2−(ジエチルアミノ)エタノールとから、錯体が形成される結果、溶解は進み、該錯体と2−(ジエチルアミノ)エタノールの均一な溶液が形成される。
粉末状の無水ギ酸銅が殆ど溶解した時点で、スワクリーン150(丸善石油化学社製、炭素数9のシクロヘキサン混合物、分子量:126.24、初留点:145℃以上)178gを添加する。前記均一な溶液の液量と、添加されるスワクリーン150の液量の比率は、1容:0.8容となっている。該溶媒を添加後も、攪拌混合しつつ、毎分0.5℃の昇温速度で加熱する。
従って、調製される混合液中では、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノールの2分子が、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体が形成される。
液温が90℃に達した時点で、オレイン酸(分子量282.46)113g(0.4mol)とオクチルアミン(分子量125.29)50g(0.4mol)の混合液を添加する。添加されたオレイン酸とオクチルアミンが混合液中に溶解した後、反応溶液は褐色を呈した。すなわち、添加されたオレイン酸とオクチルアミンが、無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール錯体に作用し、オレイン酸によって、一方のギ酸イオンと配位子置換が進行する結果、生成する錯体に起因して、前記の呈色が進む。なお、前記の配位子置換反応で生成するギ酸の量は多いため、反応溶液中には、相当量のギ酸は溶解した状態となっている。
加熱を継続して液温が100℃に達すると、熱分解が開始し、気泡が生成し、「沸騰状態」となる。液温が105℃に到達した時点で、反応溶液は褐色を呈した後、大量の気泡が発生する。その結果、反応溶液は、金属銅光沢を有する暗赤褐色溶液へと変化する。一方、反応溶液の消泡性が低下して、反応溶液の多くがフラスコ外へと溢れ出し、多くの反応生成物を廃棄するに至った。
なお、反応溶液中には、相当量のギ酸は溶解した状態となっているため、そのギ酸が還元剤として機能する還元反応の寄与も相当な比率となっていると、推定される。
10分間加熱した後、加熱を停止し、冷却する。冷却後、フラスコ内に残った反応生成物にメタノールを添加すると、粘凋なゲル状物質がフラスコ内壁に付着した。このゲル状物質は、メタノールとアセトンで数回繰り返し洗浄しても、フラスコ内壁から溶解・離脱しなかった。
従って、均一に分散可能な金属銅微粒子の作製はなされていないと判断される。
なお、反応溶液中の銅濃度は、およそ7.8質量%で、およそ1.2mol−Cu/Lである。
オレイン酸とオクチルアミンの添加量が多いため、反応溶液中に占める比率が高く、全体の流動性を低下させる要因となっている。一方、反応性は、増しているため、還元反応によって発生する気泡の密度は増している。結果的に、発生する気泡相互が一体化して、大きな気泡となり、反応溶液の上面で消泡するという過程が十分に機能しなくなる。この反応溶液の消泡性が低下は、希釈溶媒のスワクリーン150の液量に対する、オレイン酸とオクチルアミンの添加量の合計の比率が高くなり過ぎたことに起因している。
上記参考例2に記載する方法に従って作製される無水ギ酸銅を中間原料として、銅微粒子を作製する工程の具体例を、比較例7に示す。比較例7においては、まず、中間原料の無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール1分子を作用させ、2−(ジエチルアミノ)エタノールが、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が二座配位子として配位している錯体を作製している。また、比較例7においては、銅微粒子の作製時、反応溶液中に含有される銅の量は、約1.8mol−Cu/Lに選択されている。
(比較例7)
本比較例7においては、上記実施例2で使用している、2−(ジエチルアミノ)エタノール102g(0.87mol)に代えて、2−(ジエチルアミノ)エタノール93g(0.79mol)を使用している。それ以外の反応条件は、実施例1に記載される条件と同じである。
粉末状の無水ギ酸銅(銅含有率:41.4%)121g(0.79mol)を秤量し、温度計と攪拌装置を具備した容量1000mLの四つ口フラスコに入れる。該四つ口フラスコに、2−(ジエチルアミノ)エタノール93g(0.79mol)を添加する。マントルヒーターを用いて毎分0.5℃の昇温速度で加熱しながら、液を攪拌する。液温上昇に従い、粉末状の無水ギ酸銅の溶解が進む。すなわち、無水ギ酸銅と2−(ジエチルアミノ)エタノールとから、錯体が形成される結果、溶解は進み、該錯体と2−(ジエチルアミノ)エタノールの均一な溶液が形成される。
粉末状の無水ギ酸銅が殆ど溶解した時点で、スワクリーン150(丸善石油化学社製、炭素数9のシクロヘキサン混合物、分子量:126.24、初留点:145℃以上)178gを添加する。前記均一な溶液の液量と、添加されるスワクリーン150の液量の比率は、1容:1.25容となっている。該溶媒を添加後も、攪拌混合しつつ、毎分0.5℃の昇温速度で加熱する。
調製される混合液中に形成されている錯体においては、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール1分子が二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が二座配位子として配位している錯体が大部分であり、無水ギ酸銅1分子に対して、2−(ジエチルアミノ)エタノール2分子がそれぞれ、二座配位子として配位し、2つのギ酸アニオン種(HCOO-)が一座配位子として配位している錯体が一部含まれている。
液温が90℃に達した時点で、オレイン酸(分子量282.46)33.4g(0.12mol)とオクチルアミン(分子量129.25)5.1g(0.04mol)の混合物を添加する。添加されたオレイン酸とオクチルアミンが混合液中に溶解した後、液温が96℃に到達した時点で反応溶液は褐色を呈した。すなわち、添加されたオクチルアミンが、上記無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール錯体に作用し、無水ギ酸銅の2−(ジエチルアミノ)エタノール+オクチルアミン錯体への変換が進行する結果、生成する錯体に起因して、前記の呈色が進む。
昇温を継続すると、前記の呈色に引き続き、微細な泡を発しながら、次第に、金属銅光沢を有する暗赤褐色溶液へと変化する。さらに10分間加熱を継続した後、加熱を停止し、自然冷却した。反応溶液の最大到達温度は、101℃であった。
なお、反応溶液中の銅濃度は、およそ11.6質量%で、およそ1.8mol−Cu/Lである。なお、反応溶液の液量は、440mLであった。
液温が50℃以下になった後、反応溶液に、メタノール200mlとアセトン300mlを添加して混合する。メタノールとアセトンの添加によって、反応溶液中に均一に分散していた固体成分の沈降が開始し、数分間の静置で固液分離した状態となる。上澄み液をデカンテーションで除去した後、メタノールを加えて、固液分離する操作を数回繰り返す。上澄み液を除去した沈澱物にヘプタンを添加して攪拌し、沈澱物を再分散させる。
再分散液を75℃まで加熱して、残留するアセトンとメタノールを留去する。室温まで放冷後、孔径0.5μmのPTFE製メンブランフィルターを用いて、粗大粒子を除去し、微細な粒子が均一に分散している濾液を回収する。回収した濾液について、粒度分布測定装置ナノトラックUPA−150(日機装(株)社製)を用いて、分散している微粒子の粒子径分布を測定する。その測定結果から、10nm〜40nmに分布を有する平均粒子径15nmの銅微粒子が分散していることが確認された。
金属銅微粒子の収率は、無水ギ酸銅の使用量W0(g)、無水ギ酸銅に含まれる銅含有率M0(%)、回収した濾液量WP(g)、および濾液中に含まれる銅含有率MP(%)を用いて、次式から算定した結果、62%であった。
収率(%)=100×(WP×MP)/(W0×M0)
本発明にかかる金属銅微粒子の製造方法は、表面に被覆剤分子による被覆層が形成され、分散性に優れた金属銅微粒子の作製に好適に利用できる。

Claims (12)

  1. 表面に被覆剤分子からなる被覆層を有する、平均粒子径10nm〜50nmの金属銅微
    粒子を製造する方法であって、
    該金属銅微粒子の製造方法は、
    液相中において、無水ギ酸銅を原料として、該無水ギ酸銅中に含まれる銅カチオンを、
    銅原子に還元し、該銅原子から金属銅微粒子を形成する方法であり、
    該方法は、
    (工程1)
    無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、
    沸点が130℃以上、300℃以下の二座配位子として機能するアミノアルコールを、アミノ窒素原子の総和が1.3モル量以上2モル量以下の範囲となる量を用いて、
    無水ギ酸銅と前記アミノアルコールとを混合し、60℃以上90℃未満の範囲に選択する温度に加熱し、無水ギ酸銅を該アミノアルコール中に溶解してなる溶液を調製し、
    該溶液中において形成される、無水ギ酸銅と前記二座配位子として機能するアミノアルコールとからなる錯体を含んでなる溶液とする工程と、
    (工程2)
    工程1で調製される、前記無水ギ酸銅と二座配位子として機能するアミノアルコールとからなる錯体を含んでなる溶液に対して、該溶液の液量1容当たり、
    沸点が130℃以上、250℃以下の非極性有機溶媒を、1/4容〜2容の範囲に選択される液量を混合して、混合液を調製する工程と、
    (工程3)
    工程2で調製される混合液を、85℃以上90℃以下の範囲に選択する温度に加熱し、
    無水ギ酸銅に含まれる銅原子1モル量当たり、
    沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノカルボン酸を、0.05モル量以上0.5モル量以下の範囲となる量、
    沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノアミンまたは一座配位子として機能可能な脂肪族ジアミンを、0.05モル量以上0.15モル量以下の範囲となる量、
    に選択して、選択された添加モル量の脂肪族モノカルボン酸と、脂肪族モノアミンまたは脂肪族ジアミンを添加し、
    前記混合液中に溶解してなる反応溶液を調製する工程と、
    (工程4)
    工程3で調製される反応溶液を、90℃以上120℃以下の範囲に選択する温度に加熱し、
    前記脂肪族モノカルボン酸と、脂肪族モノアミンまたは脂肪族ジアミンの存在下において、二価の銅カチオン種を銅原子へと還元する反応を行い、
    前記還元反応で生成する銅原子から、平均粒子径10nm〜50nmの金属銅微粒子を形成し、同時に、
    形成される平均粒子径10nm〜50nmの金属銅微粒子の表面に、前記脂肪族モノアミン、脂肪族ジアミンまたは脂肪族モノカルボン酸からなる被覆層を形成する工程と
    を有し、
    前記工程3で調製される反応溶液中に含有される銅濃度は、
    1.0mol/L〜2.4mol/Lの範囲に選択されている
    ことを特徴とする金属銅微粒子の製造方法
  2. 前記無水ギ酸銅は、
    非プロトン性極性有機溶媒中において、塩基性炭酸銅に対して、過剰量のギ酸を作用させて、反応溶液中で無水ギ酸銅の析出物を形成し、
    反応溶液中から該無水ギ酸銅の析出物を回収し、
    回収される該無水ギ酸銅の析出物に残余する液体成分を蒸散させることによって、除去することで作製される、粉末状の無水ギ酸銅である
    ことを特徴とする、請求項1に記載の金属銅微粒子の製造方法。
  3. 前記沸点が130℃以上、300℃以下の二座配位子として機能するアミノアルコールは、
    該アミノアルコールのアミノ窒素原子上に、アルキル基が1または2置換してなる、N−アルキル置換アミノアルコールである
    ことを特徴とする、請求項1または2に記載の金属銅微粒子の製造方法。
  4. 前記沸点が130℃以上、300℃以下の二座配位子として機能するアミノアルコールは、
    炭素数1〜4のアルキル基の群から選択されるアルキルエタノールアミン、炭素数2〜4の直鎖アルキル基とイソプロピル基からなる群から選択されるN,N−ジアルキル−N−エタノールアミン、1−ジエチルアミノ−2−プロパノール、N−(1−メチルヘプチル)エタノールアミン、N−ベンジル−エタノールアミンからなる群から選択される
    ことを特徴とする、請求項1または2に記載の金属銅微粒子の製造方法。
  5. 前記沸点が130℃以上、300℃以下の二座配位子として機能するアミノアルコールは、
    2−(メチルアミノ)エタノール、2−(エチルアミノ)エタノール、2−(ブチルアミノ)エタノール、2−ジエチルアミノエタノール、2−(ジブチルアミノ)エタノール、1−ジエチルアミノ−2−プロパノールからなる群から選択される
    ことを特徴とする、請求項1または2に記載の金属銅微粒子の製造方法。
  6. 前記沸点が130℃以上、250℃以下の非極性有機溶媒は、
    沸点が130℃以上、250℃以下の炭化水素系溶剤である
    ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属銅微粒子の製造方法。
  7. 前記沸点が130℃以上、250℃以下の炭化水素系溶剤は、
    沸点が130℃以上、250℃以下の芳香族炭化水素系溶剤と脂環式炭化水素系溶剤からなる群より選択される
    ことを特徴とする、請求項6に記載の金属銅微粒子の製造方法。
  8. 前記沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノカルボン酸は、
    炭素数8〜22の直鎖アルカン酸、炭素数8〜22の直鎖アルケン酸、炭素数8〜22の分枝状アルカン酸からなる群から選択される
    ことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の金属銅微粒子の製造方法。
  9. 沸点が130℃以上、500℃以下の脂肪族モノアミンは、
    炭素数8〜24の直鎖アルキル鎖を有するモノアルキルアミンと、炭素数8〜24の分枝状アルキル鎖を有するモノアルキルアミンからなる群から選択される
    ことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の金属銅微粒子の製造方法。
  10. 前記無水ギ酸銅は、
    示性式Cu(HCOO)2で表される無水ギ酸銅、または、示性式Cu(HCOO)2に対し、残余する水分量が、nH2O(0≦n<1)で表される、ギ酸銅である
    ことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の金属銅微粒子の製造方法。
  11. 前記無水ギ酸銅は、
    示性式Cu(HCOO)2で表される無水ギ酸銅、または、示性式Cu(HCOO)2に対し、残余する水分量が、nH2O(0≦n<0.3)で表される、ギ酸銅である
    ことを特徴とする、請求項10に記載の金属銅微粒子の製造方法。
  12. 少なくとも、前記工程3と工程4において、液温の加熱は、
    該加熱時の昇温速度を、毎分0.1℃〜2.0℃の範囲に選択して行う
    ことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に金属銅微粒子の製造方法。
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