以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。
本実施形態に係る加熱装置は、発熱体と、断熱材からなり当該発熱体を保持する基部と、を備えた加熱装置である。図1は、加熱装置の一例について、その外観を示す斜視図である。図2は、図1に示す加熱装置を構成する部材を側面視で示す説明図である。図3は、図1に示す加熱装置を構成する部材を平面視で示す説明図である。図4は、加熱装置の断面を模式的に示す説明図である。
図1〜図4に示すように、加熱装置は、発熱体Bと、断熱材からなり当該発熱体Bを保持する板状の基部A1と、断熱材からなり当該基部A1と積層される板状の蓋部A2と、を備えている。
この例において、発熱体Bは、電熱コイルから構成されている。また、基部A1及び蓋部A2は、シリカ微粒子を含む断熱材から構成されている。なお、この断熱材は、補強繊維をさらに含むこともできる。この断熱材については、後に詳しく説明する。
基部A1は、発熱体Bを収容する溝部1を有している。この溝部1は、発熱体Bに対応した形状で形成され、この例では、電熱コイルに対応して細長く延びる貫通溝穴として形成されている。図1〜図4に示す例では、直線状に延びる複数の溝部1が、所定の間隔で並列に形成されている。
溝部1は、基部A1の一方側の表面に開口する収容部1aと、当該基部A1の他方側の表面に開口する放熱部1bと、を有している。基部A1の一方側の表面における収容部1aの開口は、加熱装置の組み立てにおいて発熱体Bを挿入可能な大きさ及び形状で形成されている。この収容部1aには、電熱コイルのコイルピッチを保持するための凹部1cが形成されている。
また、基部A1には、隣り合う溝部1にそれぞれ嵌め込まれた電熱コイルのリード端子を案内して接続させるための連絡凹部1dが形成されている。図3には、この連絡凹部1dに電熱コイルのリード端子及びリード端子接続用スリーブ2が収容されている様子が示されている。
一方、図2及び図3に示すように、基部A1の他方側の表面における放熱部1bの開口は、収容部1aの開口より小さく、発熱体Bが通過できない大きさ及び形状で形成されている。このため、発熱体Bは、溝部1の収容部1aに安定して保持される。
図4に示すように、蓋部A2は、基部A1の収容部1aの開口を塞ぐように、当該基部A1に積層される。すなわち、加熱装置は、基部A1の溝部1に発熱体Bを収容し、次いで、当該基部A1と蓋部A2とを貼り合わせることにより組み立てられる。基部A1と蓋部A2とは、例えば、ボルト及びナット等の締付け具で一体化することができ、図1及び図3に示す例では、基部A1にボルト挿入孔3が形成されている。加熱装置による加熱は、発熱体Bを発熱させ、その熱を溝部1の放熱部1bの開口から外部に放出することにより行う。
なお、上述の例では、電熱コイルが嵌め込まれる収容部1aの内面に当該電熱コイルのコイル部分を受け入れる凹部1cを設け、これによりコイルピッチを保持するようにしているが、これに限られない。
すなわち、例えば、凹部1cを省略し、電熱コイル径に合う幅に形成した収容部1aの内面に耐火モルタル等の接着材料を塗布した状態で電熱コイルを嵌め込み、当該接着材料で当該電熱コイルを保持することもできる。この場合、接着剤の塗布は、収容部1aの内面の全体でもよいし、一部でもよい。
また、例えば、収容部1aの幅を電熱コイル径より僅かに小さく形成しておき、当該収容部1aに嵌め込まれた当該電熱コイルの弾性力と、基部A1を構成する断熱材の弾性力と、によって当該電熱コイルを保持することもできる。
また、収容部1aの内面を波形形状や凹凸形状(例えば鋸歯形状)に形成し、これらの形状によって電熱コイルを保持することもできる。この場合、電熱コイルの保持力が得られれば、コイルピッチの多少の狂いは許容される。また、上述した電熱コイルを保持する手段は適宜に組み合わせてもよい。
加熱装置は、基部A1を構成する断熱材の表面近傍に形成される溝部1に発熱体Bを収容してなるものであれば特に限られず、例えば、発熱体Bを用いたパネルヒータとして好ましく実現することができる。
発熱体Bは、加熱装置による加熱を実現する程度に発熱するものであれば特に限られず、例えば、鉄−クロム−アルミニウム系又はニッケル−クロム系の金属発熱体が挙げられる。また、このような金属発熱体としては、コイル形状や波形状のものが挙げられる。また、発熱体Bをシース(パイプ)に入れ、その間を絶縁物で充填した、いわゆるシーズヒータを使用することもできる。
図5は、加熱装置の他の例について、その断面を模式的に示す説明図である。図5に示す加熱装置は、発熱体Bと、断熱材からなり当該発熱体Bを収容する溝部1を有する板状の基部A1と、断熱材からなり当該基部A1と積層される板状の蓋部A2と、を備えている。
上述の図1〜図4に示す例において、溝部1は、基部A1の一方側及び他方側の表面に開口する貫通溝穴として形成されていたが、図5に示す例において、溝部1は、基部A1の一方側の表面のみに開口する有底の溝穴として形成されている。発熱体Bは、この溝部1の開口から基部A1に嵌め込まれ、当該溝部1に保持される。発熱体Bを収容した溝部1の開口を塞ぐように、基部A1に蓋部A2が積層されることにより、加熱装置が組み立てられる。
この加熱装置において、発熱体Bからの熱は、溝部1の底部を含む基部A1の表面部4を介して放出される。したがって、表面部4の厚みtが小さいほど、放熱効率が高くなるため好ましい。
このような加熱装置(例えば、電熱コイル埋設型パネルヒータ)によれば、表面部4が面状発熱体となるため、上述の図1〜図4に示した加熱装置(例えば、電熱コイル開放型パネルヒータ)に比べて昇温特性は低下するものの、昇温後は輻射効率が高くなる。
図6は、加熱装置のさらに他の例について、その外観を示す斜視図である。図6に示す加熱装置は、発熱体Bと、断熱材からなり当該発熱体Bを収容する溝部を有する円筒状の基部A1と、断熱材からなり当該基部A1の径方向外側に積層される円筒状の外層部A2と、を備えている。この例においても、発熱体Bは、電熱コイルから構成されている。そして、基部A1の内周面には、螺旋状の溝部が形成され、当該溝部に発熱体Bが収容されている。
図7は、加熱装置のさらに他の例について、その外観を示す斜視図である。図7に示す加熱装置は、発熱体Bと、断熱材からなり当該発熱体Bを保持する半円筒状の基部A1と、を備えている。
この例において、発熱体Bは、単線の発熱金属線(例えば、二ケイ化モリブデン(MoSi2)から構成されている。そして、基部A1の内周面には、ステープル5によって発熱体Bが取り付けられ、保持されている。半円筒状の加熱装置は、他の半円筒状の加熱装置と組み合わせられ、全体として円筒状の加熱装置を構成することができる。
次に、加熱装置に使用される断熱材について詳しく説明する。まず、この断熱材の製造方法(以下、「本方法」という。)について説明する。本方法は、平均粒径50nm以下のシリカ微粒子を含む乾式加圧成形体を相対湿度70%以上で養生する、断熱材の製造方法である。なお、ここでは乾式加圧成形体が補強繊維をさらに含む例について説明する。
図8は、本方法の一例に含まれる主な工程を示す説明図である。図8に示す例において、本方法は、乾式加圧成形体を準備する準備工程S1と、当該乾式加圧成形体を高湿養生する養生工程S2と、養生後の当該乾式加圧成形体を乾燥させる乾燥工程S3と、を含む。
準備工程S1においては、シリカ微粒子と補強繊維とを含む断熱材原料を準備する。シリカ微粒子は、平均粒径が50nm以下のものであれば特に限られず、任意の1種を単独で又は2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。
すなわち、シリカ微粒子としては、例えば、気相法で製造された乾式シリカ微粒子(無水シリカ微粒子)や湿式法で製造された湿式シリカ微粒子を使用することができ、中でも乾式シリカ微粒子を好ましく使用することができる。具体的に、例えば、気相法で製造されたフュームドシリカ微粒子を好ましく使用することができ、中でも親水性フュームドシリカ微粒子を好ましく使用することができる。
シリカ微粒子の平均粒径は、より具体的には、例えば、5nm以上、50nm以下とすることができる。シリカ微粒子のシリカ(SiO2)含有量は、例えば、95重量%以上であることが好ましい。シリカ微粒子の25℃における熱伝導率は、例えば、0.01W/(m・K)以下であることが好ましい。シリカ微粒子のBET法による比表面積は、例えば、50m2/g以上であることが好ましく、より具体的には、例えば、50m2/g以上、400m2/g以下とすることができ、より好ましくは100m2/g以上、300m2/g以下とすることができる。
補強繊維としては、断熱材を補強できるものであれば特に限られず、無機繊維及び有機繊維の一方又は両方を使用することができる。
無機繊維としては、補強繊維として使用できるものであれば特に限られず、任意の1種を単独で又は2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。具体的に、無機繊維としては、例えば、シリカ−アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維、ガラス繊維、ロックウール、バサルト繊維からなる群より選択される1種以上を使用することができる。なお、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維は、生体溶解性の無機繊維である。すなわち、無機繊維としては、非生体溶解性無機繊維及び生体溶解性無機繊維の一方又は両方を使用することができる。
無機繊維の400℃における熱伝導率は、例えば、0.08W/(m・K)以下であることが好ましく、0.04W/(m・K)以下であることがより好ましい。このような低熱伝導性の無機繊維としては、例えば、シリカ−アルミナ繊維やシリカ繊維等のシリカ系繊維を好ましく使用することができる。
無機繊維の繊維長は、例えば、1mm以上、10mm以下であることが好ましく、1mm以上、7mm以下であることがより好ましく、3mm以上、5mm以下であることが特に好ましい。繊維長が1mm未満である場合には、無機繊維を適切に配向させることができないことがあり、その結果、断熱材の機械的強度が不足することがある。繊維長が10mmを超える場合には、成形時の粉体流動性が損なわれて成形性が低下すると共に、密度ムラにより加工性が低下することがある。
無機繊維の平均繊維径は、例えば、15μm以下であることが好ましく、より具体的には、例えば、5μm以上、15μm以下であることが好ましい。平均繊維径が15μmを超える場合には、無機繊維が折れやすくなることがあり、その結果、断熱材の強度が不足することがある。したがって、無機繊維としては、例えば、繊維長が1mm以上、10mm以下であって、且つ平均繊維径が15μm以下であるものを好ましく使用することができる。
有機繊維としては、補強繊維として使用できるものであれば特に限られず、任意の1種を単独で又は2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。具体的に、有機繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリオレフィン繊維からなる群より選択される1種以上を使用することができる。
有機繊維の繊維長は、例えば、1mm以上、10mm以下であることが好ましく、2mm以上、7mm以下であることがより好ましく、3mm以上、5mm以下であることが特に好ましい。繊維長が1mm未満である場合には、有機繊維を適切に配向させることができないことがあり、その結果、断熱材の機械的強度が不足することがある。繊維長が10mmを超える場合には、成形時の粉体流動性が損なわれて成形性が低下すると共に、密度ムラにより加工性が低下することがある。
有機繊維の平均繊維径は、例えば、15μm以下であることが好ましく、より具体的には、例えば、5μm以上、15μm以下であることが好ましい。平均繊維径が15μmを超える場合には、有機繊維が折れやすくなることがあり、その結果、断熱材の強度が不足することがある。したがって、有機繊維としては、例えば、繊維長が1mm以上、10mm以下であって、且つ平均繊維径が15μm以下であるものを好ましく使用することができる。
乾式加圧成形体は、上述したようなシリカ微粒子と補強繊維とを乾式で混合することにより乾式混合物を作製し、次いで、当該乾式混合物を乾式で加圧成形することにより作製することができる。
具体的に、例えば、シリカ微粒子の乾燥粉体と補強繊維の乾燥粉体とを含む断熱材原料を、所定の混合装置を使用して乾式混合し、次いで、得られた乾式混合物を所定の成形型に充填し乾式プレス成形することにより、乾式加圧成形体を作製する。なお、混合及び成形を乾式で行うことにより、湿式の場合に比べて、原料や成形体の管理が容易であり、また、製造に要する時間を効果的に短縮することができる。
乾式加圧成形体は、例えば、50〜98質量%のシリカ微粒子と2〜20質量%の補強繊維とを含むことができ、65〜80質量%のシリカ微粒子と5〜18質量%の補強繊維とを含むことができる。補強繊維の含有量が2質量%未満の場合には、断熱材の強度が不足することがある。補強繊維の含有量が20質量%を超える場合には、成形時の粉体流動性が損なわれて成形性が低下すると共に、密度ムラにより加工性が低下することがある。
また、乾式加圧成形体は、シリカ微粒子及び補強繊維のみを含む場合には、例えば、80〜98質量%のシリカ微粒子と2〜20質量%の補強繊維とを合計が100質量%となるように含むことができ、好ましくは82〜98質量%のシリカ微粒子と2〜18質量%の補強繊維とを合計が100質量%となるように含むことができ、より好ましくは85〜97質量%のシリカ微粒子と3〜15質量%の補強繊維とを合計が100質量%となるように含むことができる。補強繊維の含有量が2質量%未満の場合には、断熱材の強度が不足することがある。補強繊維の含有量が20質量%を超える場合には、成形時の粉体流動性が損なわれて成形性が低下すると共に、密度ムラにより加工性が低下することがある。
また、乾式加圧成形体は、結合剤を含まないものとすることができる。すなわち、本方法においては、後述する養生処理によって断熱材の強度を効果的に向上させることができるため、結合剤を使用する必要がない。この場合、乾式加圧成形体は、水ガラス接着剤等の無機結合剤や、樹脂等の有機結合剤といった、従来使用されていた結合剤を実質的に含有しない。したがって、結合剤の使用に伴う従来の問題を確実に回避することができる。また、この場合、乾式加圧成形は、特に制限はないが、例えば、5℃以上、60℃以下の温度で行うことができる。
また、乾式加圧成形体は、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ金属水酸化物の一方又は両方を含むこともできる。アルカリ土類金属水酸化物は、強塩基として使用することができるものであれば特に限られず、任意の1種を単独で又は2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。具体的に、アルカリ土類金属水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム及び水酸化バリウムからなる群より選択される1種以上を使用することができ、中でも水酸化カルシウムを好ましく使用することができる。
アルカリ金属水酸化物は、強塩基として使用することができるものであれば特に限られず、任意の1種を単独で又は2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。具体的に、アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウムからなる群より選択される1種以上を使用することができる。
乾式加圧成形体は、例えば、シリカ微粒子と補強繊維とを含む断熱材原料100重量部に対して、0.1〜10重量部のアルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ金属水酸化物の一方又は両方を含むことができる。すなわち、この場合、乾式加圧成形体は、0.1〜10重量部のアルカリ土類金属水酸化物又はアルカリ金属水酸化物を含むことができ、また、アルカリ土類金属水酸化物とアルカリ金属水酸化物とを合計で0.2〜20重量部含むこともできる。アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ金属水酸化物の一方又は両方の含有量は、さらに、例えば、1〜7重量部とすることができ、2〜5重量部とすることもできる。
そして、乾式加圧成形体は、シリカ微粒子の乾燥粉体と、補強繊維の乾燥粉体と、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ金属水酸化物の一方又は両方の乾燥粉体と、を乾式混合し、次いで、得られた乾式混合物を乾式加圧成形することにより作製することができる。
また、乾式加圧成形体は、さらに他の成分を含むこともできる。すなわち、乾式加圧成形体は、例えば、輻射散乱材を含むこともできる。輻射散乱材は、輻射による伝熱を低減することのできるものであれば特に限られず、任意の1種を単独で又は2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。
具体的に、輻射散乱材としては、例えば、炭化珪素、ジルコニア及びチタニアからなる群より選択される1種以上を使用することができる。また、輻射散乱材は、例えば、平均粒径が50μm以下、より具体的には1〜50μmであることが好ましく、また、1μm以上の波長の光に対する比屈折率が1.25以上であることが好ましい。
輻射散乱材を使用する場合、乾式加圧成形体は、例えば、50〜93質量%のシリカ微粒子と、2〜20質量%の補強繊維と、5〜40質量%の輻射散乱材と、を含むことができ、より好ましくは65〜80質量%のシリカ微粒子と、5〜18質量%の補強繊維と、15〜30質量%の輻射散乱材と、を含むことができる。
続く養生工程S2においては、準備工程S1で準備された乾式加圧成形体を、相対湿度70%以上という高湿度で養生する。養生における相対湿度は、例えば、75%以上とすることができ、80%以上とすることができ、85%以上とすることもできる。さらに、養生は、85%より高い相対湿度で行うこともできる。
養生は、乾式加圧成形体を上述のような高湿度の環境下で所定時間保持することにより行う。具体的に、例えば、温度及び湿度が所定値に設定された恒温恒湿器の内部や、到達温度が所定値に設定されたオートクレーブの内部に乾式加圧成形体を載置し、所定時間放置することにより、当該乾式加圧成形体を高湿養生することができる。
養生を行う温度は、当該養生の効果が得られる範囲で任意に設定することができる。具体的に、養生温度は、例えば、40℃以上とすることができ、60℃以上とすることが好ましく、80℃以上とすることがより好ましく、90℃以上とすることが特に好ましい。養生温度を高めることによって、効果が得られるまでの養生時間を短縮することができる。養生温度の上限は特に限られないが、例えば、95℃以下とすることができる。なお、乾式加圧成形体がアルカリ土類金属水酸化物を含有する場合、養生温度は、100℃以下又は100℃未満とすることが好ましいことがある。また、養生温度は、例えば、40℃未満とすることもできる。
また、養生は、加圧条件下で行うこともできる。この場合、養生温度は、養生の効果が得られる範囲で任意に設定することができる。具体的に、加圧条件下での養生温度は、例えば、100〜200℃とすることができ、120〜170℃とすることもできる。こうした加圧条件下で養生を行うことにより、効果が得られるまでの養生時間を短縮することが期待される。
養生を行う時間は、当該養生の効果が得られる範囲で任意に設定することができる。具体的に、養生時間は、例えば、2時間以上とすることができ、6時間以上とすることが好ましい。養生時間を長くすることによって、養生の効果を高めることができる。
より具体的に、乾式加圧成形体がアルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ金属水酸化物のいずれも含まない場合には、養生時間は、長いことが好ましい。また、乾式加圧成形体が比較的少ない量(例えば、シリカ微粒子と補強繊維とを含む断熱材原料100重量部に対して、0.1〜2重量部)のアルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ金属水酸化物の一方又は両方を含む場合には、養生時間は、6時間以上、100時間以下とすることが好ましい。また、乾式加圧成形体が比較的多い量(例えば、シリカ微粒子と補強繊維とを含む断熱材原料100重量部に対して、2重量部を超え、20重量部以下)のアルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ金属水酸化物の一方又は両方を含む場合には、養生時間は、12時間以下とすることが好ましく、6時間以下とすることがより好ましい。
なお、養生の条件は、上述の例に限られず、当該養生の効果が得られる範囲で任意に設定することができる。すなわち、養生条件は、例えば、本方法により製造される断熱材の強度(例えば、圧縮強度)や熱伝導率が、後述するような所定の範囲となるよう適宜調節することができる。また、例えば、養生時間は、上記の例に限られず、温度や湿度等の他の養生条件に応じて適宜決定することができる。
続く乾燥工程S3においては、養生工程S2において養生された乾式加圧成形体を乾燥させる。すなわち、乾燥工程S3においては、養生時に乾式加圧成形体に浸み込んだ、蒸気に由来する水分を除去する。乾燥の方法は、乾式加圧成形体から不要な水分を除去できる方法であれば特に限られない。すなわち、例えば、乾式加圧成形体を100℃以上の温度で保持することにより、当該乾式加圧成形体を効率よく乾燥させることができる。
本方法においては、こうして、最終的に、養生及び乾燥後の乾式加圧成形体を、断熱材として得る。本方法によれば、優れた断熱性能と強度とを兼ね備えた断熱材を製造することができる。すなわち、本方法によれば、密度を高めることなく、断熱材の強度を効果的に向上させることができる。また、本方法によれば、結合剤を使用することなく、十分な強度を備えた断熱材を製造することができる。
図9は、本方法における高湿養生によって断熱材の強度が向上する機構についての説明図である。ここでは、図9に示すように、乾式加圧成形体に含まれるシリカ微粒子のうち、隣接する2つのシリカ微粒子P1,P2に着目して説明する。高湿養生によって断熱材の強度が向上する機構としては、次のようなことが考えられる。
すなわち、まず、養生前の乾式加圧成形体に含まれるシリカ微粒子P1,P2間には、図9Aに示すように、極めて微細な空隙V(例えば、数nm程度の超微細孔)が形成されている。次に、この乾式加圧成形体を高湿度雰囲気下に保持する養生を開始すると、図9Bに示すように、水蒸気の毛管凝縮によって、シリカ微粒子P1,P2間に凝縮した水を主成分とする液体からなる架橋構造Sが形成される。
さらに、乾式加圧成形体を高湿度雰囲気下で保持し続けると、図9Cに矢印で示すように、シリカ微粒子P1,P2からシリカが溶出し、当該シリカ微粒子P1,P2間に当該溶出したシリカを含む架橋構造Sが形成される。なお、シリカの溶出反応としては、次のようなケイ酸塩反応が考えられる:「SiO2+2H2O→H4SiO4→H++H3SiO4 −」。
そして、養生後の乾式加圧成形体を乾燥することにより、シリカ微粒子P1,P2間に形成された架橋構造Sが硬化される。このような架橋構造Sの形成によって断熱材の強度を効果的に高めることができる。なお、シリカ微粒子と補強繊維との間にも同様の架橋構造が形成される。
また、乾式加圧成形体がアルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ金属水酸化物の一方又は両方を含有する場合には、上述のような強度向上を促進することができ、養生時間を効果的に短縮することができる。これは、アルカリ土類金属水酸化物又はアルカリ金属水酸化物の存在により、乾式加圧成形体内部において、シリカ微粒子P1,P2からのシリカ溶出に適した塩基性の高い環境が形成されるためと考えられる。
すなわち、アルカリ土類金属水酸化物又はアルカリ金属水酸化物といった強塩基の使用によって、養生におけるシリカ微粒子P1,P2からのシリカの溶出が促進され、その結果、短時間で断熱材の強度向上を達成できると考えられる。なお、この場合、シリカ微粒子P1,P2間には、シリカに加えてアルカリ土類金属及びアルカリ金属の一方又は両方を含有する架橋構造Sが形成されることとなる。
加熱装置に使用される断熱材(以下、「本断熱材」という。)は、このような本方法により好ましく製造することができる。本断熱材は、比較的低い密度で、十分な強度を備えることができる。すなわち、本断熱材は、例えば、平均粒径50nm以下のシリカ微粒子と補強繊維とを含み、嵩密度が190〜600kg/m3であり、圧縮強度が0.65MPa以上である断熱材とすることができる。
本断熱材の嵩密度は、例えば、190〜450kg/m3とすることもでき、190〜300kg/m3とすることもできる。本断熱材の圧縮強度は、例えば、0.7MPa以上とすることもでき、0.75MPa以上とすることもできる。なお、圧縮強度は、所定の圧縮試験装置、例えば、市販の万能試験装置(テンシロン RTC−1150A、株式会社オリエンテック)を用いて測定することができる。具体的に、例えば、寸法30mm×30mm×15mmに加工した試験片のプレス面(30mm×30mm)に対して垂直方向に荷重を負荷し、当該試験片が破壊したときの荷重(MPa)を圧縮強度として得る。この圧縮強度は、本断熱材が板状である場合、その厚さ方向における圧縮強度(すなわち、長手方向に延びる面積の最も大きな一対の面を圧縮した時の破断強度)として評価することができる。
本断熱材は、例えば、50〜98質量%のシリカ微粒子と2〜20質量%の補強繊維とを含むことができ、65〜80質量%のシリカ微粒子と5〜18質量%の補強繊維とを含むことができる。補強繊維の含有量が2質量%未満の場合には、本断熱材の強度が不足することがある。補強繊維の含有量が20質量%を超える場合には、成形時の粉体流動性が損なわれて成形性が低下すると共に、密度ムラにより加工性が低下することがある。
また、本断熱材は、シリカ微粒子及び補強繊維のみを含む場合には、例えば、80〜98質量%のシリカ微粒子と2〜20質量%の補強繊維とを合計が100質量%となるように含むことができ、好ましくは82〜98質量%のシリカ微粒子と2〜18質量%の補強繊維とを合計が100質量%となるように含むことができ、より好ましくは85〜97質量%のシリカ微粒子と3〜15質量%の補強繊維とを合計が100質量%となるように含むことができる。補強繊維の含有量が2質量%未満の場合には、断熱材の強度が不足することがある。補強繊維の含有量が20質量%を超える場合には、成形時の粉体流動性が損なわれて成形性が低下すると共に、密度ムラにより加工性が低下することがある。
また、本断熱材は、結合剤を含まないものとすることができる。すなわち、本断熱材は、上述のとおり、養生によって十分な強度を達成できるため、結合剤を使用する必要がない。この場合、本断熱材は、水ガラス接着剤等の無機結合剤や、樹脂等の有機結合剤といった、従来使用されていた結合剤を実質的に含有しない。したがって、結合剤の使用に伴う従来の問題を確実に回避することができる。
また、本断熱材は、シリカ微粒子及び補強繊維以外に、アルカリ土類金属及びアルカリ金属の一方又は両方を含むことができる。すなわち、本断熱材は、養生で使用されたアルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ金属水酸化物の一方又は両方に由来する金属を含むことができる。
具体的に、本断熱材は、例えば、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群より選択される1種以上を含むことができ、中でもカルシウムを含むことが好ましい。また、本断熱材は、例えば、ナトリウム、カリウム及びリチウムからなる群より選択される1種以上を含むことができる。
本断熱材は、例えば、シリカ微粒子と補強繊維とを含む断熱材原料100重量部に対して、0.1〜10重量部のアルカリ土類金属及びアルカリ金属の一方又は両方を含むことができる。すなわち、この場合、本断熱材は、例えば、0.1〜10重量部のアルカリ土類金属又はアルカリ金属を含むことができ、また、アルカリ土類金属とアルカリ金属とを合計で0.2〜20重量部含むことができる。アルカリ土類金属及びアルカリ金属の一方又は両方の含有量は、さらに、例えば、1〜7重量部とすることができ、2〜5重量部とすることもできる。
また、本断熱材は、さらに他の成分を含むこともできる。すなわち、本断熱材は、例えば、輻射散乱材を含むこともできる。輻射散乱材は、輻射による伝熱を低減することのできるものであれば特に限られず、任意の1種を単独で又は2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。
具体的に、輻射散乱材としては、例えば、炭化珪素、ジルコニア及びチタニアからなる群より選択される1種以上を使用することができる。また、輻射散乱材は、例えば、平均粒径が50μm以下、より具体的には1〜50μmであることが好ましく、また、1μm以上の波長の光に対する比屈折率が1.25以上であることが好ましい。
輻射散乱材を使用する場合、本断熱材は、例えば、50〜93質量%のシリカ微粒子と、2〜20質量%の補強繊維と、5〜40質量%の輻射散乱材と、を含むことができ、より好ましくは65〜80質量%のシリカ微粒子と、5〜18質量%の補強繊維と、15〜30質量%の輻射散乱材と、を含むことができる。
また、本断熱材は、優れた断熱性能を備えることができる。すなわち、本断熱材は、従来のように密度を高めることなく十分な強度を達成しているため、固体伝熱の増加による断熱性能の低下を効果的に回避することができている。具体的に、本断熱材は、600℃における熱伝導率が0.05W/(m・K)以下である断熱材とすることができる。本断熱材の600℃における熱伝導率は、好ましくは0.04W/(m・K)以下とすることもできる。
なお、本断熱材は、平均粒径50nm以下のシリカ微粒子の一次粒子が、分子間力等により会合して二次粒子を形成し、当該二次粒子が補強繊維間に散在した構造を有している。そして、本断熱材は、シリカ微粒子の使用によって、その内部に、空気分子の平均自由行程よりも小さいナノポア構造を保持することで、低温域から高温域までの幅広い温度範囲で優れた断熱性能を発揮することができる。
また、本断熱材は、高湿養生で形成された特有の構造を有するものとすることができる。すなわち、本断熱材は、例えば、平均粒径50nm以下のシリカ微粒子と補強繊維とを含み、当該シリカ微粒子間にシリカを含む架橋構造が形成されている断熱材とすることができる。この架橋構造は、上述したように、水蒸気の毛管凝縮により形成され、シリカ微粒子から溶出したシリカを含むものである。
また、この架橋構造は、アルカリ土類金属及びアルカリ金属の一方又は両方を含むこともできる。すなわち、この場合、架橋構造は、上述したように、養生時に使用されたアルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ金属水酸化物の一方又は両方に由来する、アルカリ土類金属及びアルカリ金属の一方又は両方を含む。
また、本断熱材は、ケイ酸カルシウムを含むことができる。すなわち、例えば、本断熱材が、水酸化カルシウムを添加した高湿養生を経て製造された場合には、当該本断熱材の内部において、シリカ微粒子から溶出したシリカ成分と当該水酸化カルシウムとの化学反応により、ケイ酸カルシウムが生成され得る。このため、本断熱材は、シリカ微粒子間に形成された架橋構造又はその他の部分に、高湿養生により生成されたケイ酸カルシウムを含み得る。
このように、本断熱材は、比較的低い密度で、優れた断熱性能と高い強度を兼ね備えることができる。したがって、本断熱材は、例えば、加工を要する一般工業炉用断熱材や、燃料電池の改質器用の断熱材として好ましく利用することができる。
加熱装置の基部として使用される本断熱材は、任意の形状の成形体として製造することができる。すなわち、板状の本断熱材を製造する場合には、例えば、シリカ微粒子と補強繊維とを含む乾式混合物を板状の成形型に充填して乾式プレス成形し、得られた板状の乾式加圧成形体を上述のように高湿度で養生する。
また、円筒状の本断熱材を製造する場合には、例えば、まず、板状又はブロック状の本断熱材を成形し、次いで、当該板状又はブロック状の本断熱材から円筒状の本断熱材を切り出す。
また、例えば、シリカ微粒子と補強繊維とを含む乾式混合物を、円筒状の成形型の内周面又は外周面に所定の圧力で押し付けて、円筒状の乾式加圧成形体を作製し、得られた円筒状の乾式加圧成形体を上述のように高湿度で養生することによっても、円筒状の本断熱材を製造することができる。
また、例えば、円筒状の成形型の中空部に、より径の小さい円筒状の中子を配置し、当該成形型と中子との間で、シリカ微粒子と補強繊維とを含む乾式混合物を加圧して円筒状の乾式加圧成形体を作製し、得られた円筒状の乾式加圧成形体を上述のように高湿度で養生することによっても、円筒状の本断熱材を製造することができる。
なお、基部を構成する本断熱材の形状は、上述の板状や円筒状に限られず、任意の形状に成形することができる。また、溝部は、予め製造された本断熱材に形成することができ、又は本断熱材の製造時に形成することもできる。
本発明に係る加熱装置は、その基部を構成する断熱材が、シリカ微粒子に基づく極めて低い熱伝導性を有し、且つ当該断熱材は、高湿養生により高められた十分な強度を有するため、例えば、原子力施設における加熱炉等、各種工業用加熱炉や実験炉などの加熱に好ましく使用することができる。
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
[断熱材の製造]平均1次粒子径が約13nmで、熱伝導率(25℃)が0.01W/(m・K)の無水シリカ微粒子(親水性フュームドシリカ微粒子)と、平均繊維径10μm、平均繊維長3mmの耐熱性ガラス繊維と、を含む乾式加圧成形体を作製した。
すなわち、90質量%のシリカ微粒子及び10質量%のガラス繊維を含む断熱材原料100重量部と、0、1、3、5又は10重量部の水酸化カルシウム(試薬1級、和光純薬工業株式会社)と、を混合装置に投入し、乾式混合した。
そして、得られた乾式混合粉体から、乾式プレス成形により、100mm×150mm×厚さ15mmの板状の乾式成形体を作製した。具体的に、まず、乾式混合粉体を、所定の脱気機構が付属した成形型に適量充填した。そして、所望の嵩密度が得られるように、乾式プレス成形を行った。すなわち、乾式プレス成形においては、乾式成形体の嵩密度が250kg/m3となるようにプレス圧を調節した。成形後は、乾式加圧成形体を速やかに成形型から取り出した。
次に、乾式成形体を、温度80℃、相対湿度90%の恒温恒湿器内で3〜400時間保持することにより、又は温度170℃のオートクレーブ内で6時間保持することにより、高湿養生を行った。そして、養生後の乾式成形体を105℃で乾燥し、断熱材を得た。
[圧縮強度の評価]各断熱材の圧縮強度を、万能試験装置(テンシロン RTC−1150A、株式会社オリエンテック)を用いて測定した。すなわち、寸法30mm×30mm×15mmに加工した試験片のプレス面(30mm×30mm)に対して垂直方向に荷重を負荷し、当該試験片が破壊したときの荷重を圧縮強度(MPa)とした。
図10には、各断熱材の製造条件と圧縮強度とを対応させて示す。養生された断熱材の圧縮強度は、養生されていない断熱材の圧縮強度(0.25MPa)に比べて、顕著に増加した。
すなわち、水酸化カルシウムを添加せず(0重量部)、80℃、90RH%で養生した場合には、養生時間が増加するに従って圧縮強度が向上した。具体的に、圧縮強度は、3時間の養生により0.40MPaまで増加し、400時間の養生により1.08MPaに達した。
また、水酸化カルシウムを添加せず、オートクレーブで養生した場合(0重量部、A/C)には、6時間養生された断熱材の圧縮強度は、0.97MPaであった。なお、図10には示していないが、水酸化カルシウムを添加せず、120℃又は200℃のオートクレーブで養生した場合にも、6時間の養生によって、同様の圧縮強度の増加が確認された。
また、水酸化カルシウムを添加した場合には、水酸化カルシウムを添加しない場合に比べて、より短時間で圧縮強度を高めることができた。また、水酸化カルシウムの添加量の増加に伴って、より短時間で圧縮強度を高めることができる傾向が確認された。
すなわち、1重量部の水酸化カルシウムを添加して、80℃、90RH%で養生した場合には、圧縮強度は、3時間の養生により0.83MPaまで増加し、48時間の養生により1.13MPaに達した。
3重量部の水酸化カルシウムを添加して、80℃、90RH%で養生した場合には、圧縮強度は、3時間の養生により0.89MPaまで増加し、6時間の養生により1.03MPaに達した。
5重量部の水酸化カルシウムを添加して、80℃、90RH%で養生した場合には、圧縮強度は、3時間の養生により0.91MPaまで増加し、6時間の養生により1.08MPaに達した。
10重量部の水酸化カルシウムを添加して、80℃、90RH%で養生した場合には、圧縮強度は、3時間の養生により0.93MPaに達した。
一方、水酸化カルシウムを添加して、オートクレーブで養生した場合(1〜10重量部、A/C)には、80℃、90RH%で養生した場合に比べて、圧縮強度の増加の程度は低かった。
[電子顕微鏡観察]図11には、水酸化カルシウムを添加せず且つ養生することなく製造された断熱材(図11A及びB)と、3重量部の水酸化カルシウムを添加し且つ80℃、90RH%で24時間養生して製造された断熱材(図11C及びD)と、のそれぞれを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果の一例を示す。
図11Aに示すように、水酸化カルシウムを添加せず且つ養生していない断熱材の表面には、凹凸が明確に観察されたのに対し、図11Cに示すように、水酸化カルシウムを添加し且つ養生した断熱材の表面は、比較的平坦となっていた。これは、図11Aに示す断熱材においては、各々のシリカ微粒子が単に凝集しているだけであるのに対し、図11Cに示す断熱材においては、シリカ微粒子から溶出したシリカ成分によってシリカ微粒子間に架橋構造が形成され、その結果、内部構造が緻密化されたためと考えられた。
また、図11Bに示すように、水酸化カルシウムを添加せず且つ養生していない断熱材の表面においては、シリカ微粒子の境界がぼやけて観察されたのに対し、図11Dに示すように、水酸化カルシウムを添加し且つ養生した断熱材の表面においては、シリカ微粒子の境界が明瞭に観察された。これは、図11Dに示す断熱材においては、シリカ微粒子から溶出したシリカ成分によってシリカ微粒子間に架橋構造が形成された結果、導電性が高められ、電子線をより高い感度で検出できたためと考えられた。
[X線回折]水酸化カルシウムが3、5又は10重量部添加され、80℃、90RH%で0〜24時間養生され又はオートクレーブで6時間養生された断熱材の各々について、X線回折(XRD)により、養生時間の増加に伴う、水酸化カルシウムの含有量及びケイ酸カルシウムの形成量の変化を解析した。
図12には、水酸化カルシウムを3重量部添加して製造された断熱材のXRD測定結果の一例を示す。図12A,Bは、養生していない断熱材、図12C,Dは24時間養生した断熱材の測定結果をそれぞれ示す。図12A〜Dに示すように、養生によって、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)のピークが消失し、新たにケイ酸カルシウム(CSH)のピークが現れた。
図13には、各断熱材について、養生時間と、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)及びケイ酸カルシウム(CSH)のXRDピーク値と、圧縮強度と、を対応付けて示す。図13Aは水酸化カルシウムが3重量部添加された断熱材、図13Bは水酸化カルシウムが5重量部添加された断熱材、図13Cは水酸化カルシウムが10重量部添加された断熱材についての結果をそれぞれ示す。
図13A〜Cに示すように、養生時間の増加に伴って、水酸化カルシウムの含有量が減少し、これに伴い圧縮強度が増加する傾向が見られた。すなわち、水酸化カルシウムの消費量が増加するにつれて、断熱材の圧縮強度が増加する傾向が見られた。
また、養生時間の増加に伴って、ケイ酸カルシウムの新たな生成により、ケイ酸カルシウムの含有量が増加した。ただし、水酸化カルシウムが消費し尽くされた後は、ケイ酸カルシウムの含有量は増加するものの、圧縮強度は低下する傾向が見られた。
すなわち、ケイ酸カルシウムの含有量と、断熱材の圧縮強度の増加と、の間には必ずしも相関は認められず、むしろケイ酸カルシウムの含有量が増加するにつれて圧縮強度が低下する傾向が見られた。
[断熱材の製造]上述の実施例1で使用したシリカ微粒子及びガラス繊維に加え、平均粒子径3μmの炭化珪素をさらに含む乾式加圧成形体を作製した。
すなわち、75質量%のシリカ微粒子、5質量%のガラス繊維及び20質量%の炭化珪素を含む断熱材原料100重量部と、0、3、5又は10重量部の水酸化カルシウムと、を混合装置に投入し、乾式混合した。
得られた乾式混合粉体から、乾式プレス成形により、100mm×150mm×厚さ15mmの板状の乾式成形体を作製した。乾式プレス成形においては、乾式成形体の嵩密度が240、260、280又は300kg/m3となるようにプレス圧を調節した。
次に、水酸化カルシウムを含む乾式成形体を、温度80℃、相対湿度90%の恒温恒湿器内で8時間保持することにより高湿養生を行った。そして、養生後の乾式成形体を105℃で乾燥し、断熱材を得た。また、水酸化カルシウムを含まない乾式加圧成形体については養生を行わなかった。
[圧縮強度及び熱伝導率の評価]各断熱材の圧縮強度を上述の実施例1と同様に測定した。また、各断熱材の200、400又は600℃における熱伝導率を周期加熱法にて測定した。すなわち、試験体内に温度波を伝播させ、その伝播時間から熱拡散率を測定した。そして、この熱拡散率と、別途測定した比熱及び密度と、から熱伝導率を算出した。なお、温度波としては、温度振幅が約4℃、周期が約1時間である温度の波を使用した。また、試験体内の二つの地点を温度波が通過するのに要する時間を伝播時間とした。
図14には、水酸化カルシウムの添加量、嵩密度、圧縮強度及び熱伝導率を対応させて示す。なお、嵩密度は、重量と体積から算出した。すなわち、試験体の実寸法から体積を算出し、当該試験体の重量を当該体積で除した値を当該試験体の嵩密度とした。
図14に示すように、水酸化カルシウムを添加した養生により、断熱材の圧縮強度が増加することが示された。また、嵩密度を一定にした場合の圧縮強度は、水酸化カルシウムの添加量が3重量部である場合に最も高かった。また、養生の有無によって熱伝導率に大きな変化は見られなかった。
[断熱材の製造]上述の実施例2と同様に、シリカ微粒子と、ガラス繊維と、炭化珪素と、を含む乾式加圧成形体を作製した。すなわち、75質量%のシリカ微粒子、5質量%のガラス繊維及び20質量%の炭化珪素を含む断熱材原料100重量部と、0又は3重量部の水酸化カルシウムと、を混合装置に投入し、乾式混合した。
得られた乾式混合粉体から、乾式プレス成形により、100mm×150mm×厚さ15mmの板状の乾式成形体を作製した。乾式プレス成形においては、乾式成形体の嵩密度が240、260、280又は300kg/m3となるようにプレス圧を調節した。
次に、水酸化カルシウムを含有する乾式成形体を、温度80℃、相対湿度90%の恒温恒湿器内で0〜24時間保持することにより高湿養生を行った。そして、養生後の乾式成形体を105℃で乾燥し、断熱材を得た。また、水酸化カルシウムを含まない乾式加圧成形体については養生を行わなかった。
[圧縮強度の評価]各断熱材の圧縮強度を上述の実施例1と同様に測定した。図15には、水酸化カルシウムの添加量、養生時間、嵩密度及び圧縮強度を対応させて示す。
図15に示すように、養生した断熱材の圧縮強度(水酸化カルシウム3重量部添加、養生1〜24時間)は、養生しない場合(水酸化カルシウム添加なし又は3重量部添加、養生0時間)に比べて、顕著に増加した。
また、3重量部の水酸化カルシウムを添加した場合には、養生時間を増加させることで、圧縮強度が増加する傾向が見られた。なお、3重量部の水酸化カルシウムを添加し且つ養生しない場合には、水酸化カルシウムを添加せず養生しない場合よりも圧縮強度が低下した。
[断熱材の製造]上述の実施例2と同様に、シリカ微粒子と、ガラス繊維と、炭化珪素と、を含む乾式加圧成形体を作製した。すなわち、75質量%のシリカ微粒子、5質量%のガラス繊維及び20質量%の炭化珪素を含む断熱材原料100重量部と、3重量部の水酸化カルシウムと、を混合装置に投入し、乾式混合した。
得られた乾式混合粉体から、乾式プレス成形により、100mm×150mm×厚さ15mmの板状の乾式成形体を作製した。乾式プレス成形においては、乾式成形体の嵩密度が240、260又は280kg/m3となるようにプレス圧を調節した。
次に、乾式成形体を、温度40、60又は80℃、相対湿度90%の恒温恒湿器内で24時間保持することにより高湿養生を行った。そして、養生後の乾式成形体を105℃で乾燥し、断熱材を得た。また、水酸化カルシウムを添加せず且つ養生をすることなく製造された断熱材も準備した。
[圧縮強度の評価]各断熱材の圧縮強度を上述の実施例1と同様に測定した。図16には、養生温度、嵩密度及び圧縮強度を対応させて示す。図16に示すように、40℃以上の温度で養生することにより、圧縮強度が顕著に増加した。また、養生温度が高いほど、圧縮強度はより顕著に増加した。
[電子顕微鏡観察]図17には、水酸化カルシウムを添加せず養生することにより製造された断熱材(図17A)と、3重量部の水酸化カルシウムを添加し且つ40℃、90RH%で24時間養生することにより製造された断熱材(図17B)と、のそれぞれを走査型電子顕微鏡で観察した結果の一例を示す。
図17A及びBに示すように、水酸化カルシウムを添加せず養生した断熱材の表面(図17A)に比べて、水酸化カルシウムを添加して養生した断熱材の表面(図17B)は、より平滑化されていた。これは、図17Bに示す断熱材においては、水酸化カルシウムの添加によってシリカ微粒子からのシリカ成分の溶出が促進され、その結果、内部構造がより緻密化されたためと考えられた。
[断熱材の製造]上述の実施例2と同様に、シリカ微粒子と、ガラス繊維と、炭化珪素と、を含む乾式加圧成形体を作製した。すなわち、75質量%のシリカ微粒子、5質量%のガラス繊維及び20質量%の炭化珪素を含む断熱材原料100重量部と、0又は3重量部の水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムと、を混合装置に投入し、乾式混合した。
得られた乾式混合粉体から、乾式プレス成形により、100mm×150mm×厚さ15mmの板状の乾式成形体を作製した。乾式プレス成形においては、乾式成形体の嵩密度が240、260又は280kg/m3となるようにプレス圧を調節した。
次に、乾式成形体を、温度80℃、相対湿度90%の恒温恒湿器内で24時間保持することにより高湿養生を行った。そして、養生後の乾式成形体を105℃で乾燥し、断熱材を得た。また、水酸化物を添加せず且つ養生することなく製造された断熱材も準備した。
[圧縮強度の評価]各断熱材の圧縮強度を上述の実施例1と同様に測定した。図18には、添加した水酸化物の種類、嵩密度及び圧縮強度を対応させて示す。
図18に示すように、水酸化物を添加することなく養生することにより圧縮強度が顕著に増加し、水酸化カルシウムを添加して養生することにより、圧縮強度がより顕著に増加した。また、水酸化マグネシウムを添加して養生することによっても、水酸化物を添加せず且つ養生しない場合に比べて圧縮強度が増加した。
上述の実施例と同様にして、シリカ微粒子と、ガラス繊維と、炭化珪素と、を含む板状の乾式加圧成形体を作製し、当該乾式加圧成形体を高湿養生することにより、板状の断熱材を得た。
次いで、この断熱材を用いて、図1〜図4に示すような加熱装置を製造した。すなわち、板状の断熱材に、収容部1aと放熱部1bとを有する貫通溝穴からなる複数の溝部1を所定の間隔で並列に形成することにより、基部A1を作製した。
そして、電熱コイルからなる発熱体Bを基部A1の収容部1aに嵌め込み、さらに、当該収容部1aの開口を塞ぐように、他の板状の断熱材からなる蓋部A2を当該基部A1に積層した。基部A1と蓋部A2とは、ボルト及びナットにより締め付けて一体化した。こうして本発明に係る加熱装置を製造した。
一方、同様の溝部1を形成した高湿養生を行っていない板状の乾式加圧成形体を基部A1として用い、当該溝部1に電熱コイルからなる発熱体Bを嵌め込み、さらに他の板状の乾式加圧成形体を蓋部A2として用いて、同様に対照装置を製造した。
しかしながら、この対照装置を製造する過程では、基部A1として用いた乾式加圧成形体の一部において、亀裂の形成又は破損が見られた。さらに、この対照装置のハンドリング性を確認するために、当該対照装置の両端を手で掴んで持ち上げたところ、亀裂の形成又は端部の欠けが見られた。これは、本来的に強度が低いシリカ微粒子の乾式加圧成形体に、さらに溝部1が形成されることにより、当該乾式加圧成形体の強度が低下したためと考えられた。
これに対し、本発明に係る加熱装置を製造する過程及びハンドリング性の確認では、基部A1として用いた断熱材においては、何らの不具合も生じなかった。すなわち、本発明に係る断熱材は、その製造過程における高湿養生によって強度が向上しているため、シリカ微粒子に基づく低熱伝導性を維持しつつ、十分な強度を有するものであり、加熱装置に好ましく使用できるものであった。