以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳細に説明する。
<吐出不良の原因について>
はじめに、吐出不良の原因について考察する。図1は吐出不良の原因を模式的に示したノズル部の拡大図である。図1において符号1はノズル、2はノズル1内に充填されたインク、3はメニスカス(気液界面)を表している。同図(a)はノズル1内のインク2中に気泡4が混入している様子を示している。ノズル1は図示せぬ圧力室と連通しており、圧力室には圧力発生手段としての圧電素子(ピエゾアクチュエータ)が設けられている。圧電素子を駆動して圧力室の容積を変化させることにより、ノズル1から液滴が吐出される。このとき、ノズル1内に気泡4が存在すると、気泡4によって圧力が吸収されたり、液の流れが妨げられたりするため、吐出不良となる。
図1(b)はノズル1の内壁面に異物5が付着している様子を示している。ノズル内部に異物5が付着している場合、この異物5によって液の流れが妨げられ、飛翔曲がりなどの吐出不良の原因となる。
図1(c)はノズル1の外部においてノズル穴近傍に異物6が付着している場合を示している。ノズル外部のノズル近傍に異物6が付着している場合、この異物6に液が接触することでメニスカスの軸対称性が崩れ、飛翔曲がりなどの吐出不良の原因となる。
異物6の付着に代えて、ノズル面1Aにおけるノズル近傍の部分的な撥液性の低下(例えば、撥液膜の剥がれ)などの場合も、この図1(c)と同様である。なお、異物5,6としては、例えば、インク成分の凝集物、乾燥物、紙粉、ホコリ、インクミスト、ヘッド製造プロセスで意図せず残留した残渣などがある。
<異常ノズルの検出方法>
図1で示したように吐出不良の原因は、(a)、(b)で説明したノズル内部要因と、(c)で説明したノズル外部要因とに大別される。ノズル内に気泡4や異物5が存在する場合(ノズル内部要因の異常ノズル)は、吐出力を低下させると、当該ノズル内部要因による吐出不良が助長される。すなわち、圧電素子の変位量を小さくしたり、ヘッド共振周波数からずれた周波数で圧力変動を与えたりするなどの方法で、吐出速度を低下させる駆動を行うことにより、気泡4や異物5の影響が吐出結果に一層顕著に反映される。その結果、不吐が助長され、或いは、飛翔曲がりの曲がり量が増幅されたりする。
その一方、ノズル外部に異物6や撥液性不良などがあるときは、ノズル1の穴からインクを溢れさせ(インクを盛り上げて)、ノズル外部の異物6や撥液性不良部分にインクを接触させることによって、当該ノズル外部要因による吐出不良が助長される。
本実施形態では、吐出不良を検知する際には、描画記録用の駆動波形とは別に、吐出不良を助長する波形の駆動信号を用いてテストパターンの描画を行い、その印字結果を測定する。つまり、通常の描画時における吐出用の駆動波形を用いて圧電素子を駆動した場合には、吐出不良として発現しない(検知できない)レベルの気泡4や異物5,6等の状況であったとしても、吐出不良を助長・増幅させる検知用波形を用いることで、検知可能な不良として発現させることができる。これにより、描画記録用の駆動波形では未だ吐出不良として認識できない初期段階レベルの吐出不良を早期に検知することができる。
以下、具体的な波形例を説明する。
(描画記録時の駆動波形について)
図2は、通常の描画記録時における吐出用の駆動波形(以下「記録用波形」という。)の例である。ここでは、説明を簡単にするために、いわゆる引き−押し(pull-push)型の駆動波形を例示する。ただし、本発明の実施に際しては、駆動波形の形態は特に限定されず、引き押し引き(pull-push-pull)波形その他の各種の駆動波形を用いることができる。
図2に示した記録用波形10の駆動信号は、圧力室の容積を定常状態に維持する基準電位を出力する第1信号要素10aと、この定常状態から圧力室を広げる方向に圧電素子を駆動する第2信号要素(引き波形部)10bと、圧力室を広げた状態で維持する第3信号要素10cと、圧力室を押し縮める方向に圧電素子を駆動する第4信号要素(押し波形部)10dと、を有している。
すなわち、第1信号要素10aは基準電位を維持する波形部であり、第2信号要素10bは、基準電位から電位を下げる立ち下がり波形部である。第3信号要素10cは第2信号要素10bで下降した電位を維持する波形部、第4信号要素10dは第3信号要素10cの電位を基準電位まで上昇させる立ち上がり波形部である。
この引き押し波形のパルス間隔は、ヘッド共振周期(ヘルムホルツ固有振動周期)Tcと一致させることが好ましく、パルス幅Tpは、ヘッド共振周期(ヘルムホルツ固有振動周期)TCの自然数分の1とすることが望ましい。ヘッド共振周期とは、インク流路系、インク(音響要素)、圧電素子の寸法、材料、物性値等から定まる振動系全体の固有周期をいう。
(ノズル内部要因の不良検知に好適な異常ノズル検知用波形の例)
異常ノズルを検知する際には、図2で説明した記録用波形とは異なる特別な波形(「異常ノズル検知用波形」という。)を用い、吐出不良を助長・増幅させて、検出感度、精度を向上させる。
ノズル内部要因の異常ノズルを検知するのに好適な異常ノズル検知用波形の例を図3〜図6に示す。
図3は、図2の記録用波形と比較して電位差Vpp(電圧波形の最大値と最小値の差)が小さくなっている。記録用波形の電位差よりも10%以上減少させることが好ましく、15%〜25%の範囲で減少させることがより好ましい。
図4は、図2の記録用波形と比較してパルス幅Tpが変更されている。記録用波形のパルス幅に対し、10%以上増加又は減少させることが好ましく、20%〜50%の範囲で増減させることがより好ましい。
インクジェットヘッドは、その流路構造や使用する液体の物性などから、安定して吐出させることができるパルス幅がある。記録用波形のパルス幅はこの安定吐出可能なパルス幅に定められている。一方、異常ノズル検知用波形では、吐出力を弱めるため、パルス幅を変更したものを使用する。
図5は、図2の記録用波形と比較して、パルス波形の傾き(第4信号要素10dの立ち上がりの傾き)が変更されている。記録用波形の傾きに対し、20%以上傾きを増加又は減少させることが好ましく、50%〜200%の範囲で増減させることがより好ましい。
図6は、吐出パルス12の前に、その吐出力を弱める波形の信号(プレパルス)を印加する例である。ヘッド共振周波数を1/Tcとしたとき、吐出パルス12の前(Tc/2)×nに、電位差の小さいパルス(このパルスの印加だけではノズルから吐出させることができない程度の弱いパルス)を印加する(ただし、nは自然数)。
このプレパルス14は、基準電位から電位を下げる波形部(第5信号要素14a)と、当該第5信号要素14aで下降した電位を維持する第6信号要素14bと、当該第6信号要素14bの電位を基準電位まで上昇させる第7信号要素と、を有している。プレパルス14の印加によって発生する振動波によって、これに続く吐出パルス12の引き込み(第1信号要素10aによる引き込み動作)が阻害され、当該吐出パルス12による吐出力が低減される。すなわち、プレパルス14の印加により、ノズル内のメニスカスは一旦ノズル内に引き込まれ、次に、ノズル外に盛り上がるように押し出される。この振動が残ってさらにもう一度メニスカスが引き込まれ、押し出されるタイミングで、次の吐出パルス12の引き込み信号要素(10a)が加わる。このため、プレパルス14の残存振動の盛り上がり動作に重なる引き込み信号要素(10a)の引き動作が阻害され、吐出力が弱まる。なお、図3〜図6で説明した構成を適宜組み合わせることもできる。
(ノズル外部要因の不良検知に好適な異常ノズル検知用波形の例)
次に、ノズル外部要因の異常ノズルを検知するのに好適な異常ノズル検知用波形の例を図7〜図11に示す。
図7は、図2の記録用波形と比較して電位差Vpp(電圧波形の最大値と最小値の差)が大きくなっている。記録用波形の電位差よりも10%以上増加させることが好ましい。
図8は、吐出パルス20の引き込み信号要素(符号10b)前に、圧力室を収縮させ、ノズルからインクを盛り上げる(インクを膨出させる)ための信号要素(符号10e)とその電位を維持する信号要素10fを加えた例である。
この信号要素10e,10fによって、吐出前にインクがノズルから盛り上がり、ノズル外の異物6等にインクが接触し得る。
図9は、図8の波形に加えて、更に、時間間隔n×Tcで吐出パルス20を印加するものである。図9の構成によれば、1つ前の吐出パルス20の印加によって発生する残存振動で、次の吐出前の圧力室収縮用信号要素(10e)によってノズルからインクを更に盛り上げることができる。振動周期Tcの整数倍のタイミングで押し出し動作を追加することにより、振動を増幅させることができる。
図10は、吐出パルス20の前に、電位差の小さいプレパルス22を印加するものである。このプレパルス22は、吐出パルス20の手前「n×Tc」のタイミングで印加される。プレパルス22は、基準電位から電位を上げて圧力室を収縮させる押し込み信号要素(第8信号要素)22aと、当該第8信号要素22aで上昇させた電位を維持する第9信号要素22bと、当該第9信号要素22bの電位を基準電位まで戻す第10信号要素22cと、を有している。プレパルス22単独の印加のみでは、ノズルからインクを吐出させることができない。
このようなプレパルス22の印加によって発生する振動波によって、これに続く吐出パルス20による振動と共振させることにより、すなわち、プレパルスの残存振動により、ノズルからの盛り上がりを増幅させることができる。
図11は、吐出パルス20の前に、単独では正常に吐出されない(例えば、吐出速度が4m/s以下の吐出となる)第1パルス24を印加し、この第1パルス24でインクを溢れさせた後、後続の第2パルス(符号20)で吐出を行うものである。なお、第1パルス24の電位差Vaは第2パルス20の電位差よりも小さい値に調整される。
また、ノズルからインクを盛り上げ、かつ吐出速度が描画波形よりも遅い波形を用いる態様も可能である。図7〜図11で例示した「インクを溢れさせる波形」の電圧を調整し、吐出力を低下させ、かつ盛り上がりを発生させる波形を得ることが可能である。
これにより、ノズル内部・外部要因の吐出不良を助長・増幅させて検出することが可能である。
図3〜図11で説明したように、描画記録用の駆動波形とは異なる特別の波形(異常ノズル検知用波形)を用いてテストパターン(「テストチャート」ともいう。)を打滴し、このテストチャートの印字結果から異常ノズルの有無を検知する。
この異常ノズル検知用は、記録用波形に比べて、ノズルにおける異常の具合を増幅することができる。したがって、記録用波形を用いた描画記録時に記録不良が発生する前の段階で早期に異常検出が可能である。また、低解像度検出器での検出が可能であるとともに、高速検出、高感度検出が可能である。
また、ノズル内部要因とノズル外部要因の両方の故障原因に対応して、複数種類の異常ノズル検知用波形を用い、異常ノズルを検知することにより、それぞれの故障原因による吐出不良を高感度で検出することが可能である。
(用紙上におけるテストパターンの描画位置について)
本実施形態によるテストパターンは、用紙上のどの位置に形成してもよいが、複数枚の印刷を実行しながら異常ノズルの検知を実施する場合には、印刷目的の画像(実画像)を描画する画像形成領域(「描画エリア」或いは「画像部」という)の外側の余白部分(「非描画エリア」或いは「非画像部」という。)にテストパターンを形成することが好ましい。
図12に示すように、用紙40上における画像形成領域(描画エリア)42にテストパターンの全部又は一部を記録することも可能であるが、その分、用紙が無駄になり、実効印刷速度(スループット)も低下する。これに対し、画像形成領域42には、目的の画像(「所望の画像」に相当)を描画しつつ、その外側の余白部分(「非画像形成領域」)44A,44B,46A,46Bにテストパターンの全部又は一部を記録することにより、用紙の無駄を削減でき、スループットも向上する。なお、画像形成領域42に目的の画像を描画記録した後は、裁断線48に沿って裁断され、周囲の非画像部を除去して当該画像形成領域42の画像部が製品印刷物として残される。
特に、画像形成領域42の全幅に対応するノズル列を有するページワイドヘッド(フルライン型ヘッド)を用いたシングルパス方式の描画を行うインクジェット印刷装置の場合、用紙40の先端側の余白部分(44A)及び後端側の余白部分(44B)の少なくとも一方にテストパターンの全部又は一部を記録することが好ましい。
目的の画像を描画するための印刷ジョブ(JOB)の開始前、又は印刷ジョブの実行途中で、用紙40の非画像部(44A,44B等)に異常ノズル検知用波形を用いてテストチャートを形成し、このテストチャートの印字結果から異常ノズル検知を行うことができる。そして、異常ノズルが検知されたときには、当該異常ノズルの使用を止めて残りの正常ノズルのみで良好な画像出力ができるように画像データを修正し、当該修正後の画像データに基づき、目的の画像の印刷を継続することができる。こうして、記録用波形の駆動信号を用いた画像部の描画記録で不具合が発生するまでの間に、早めに異常ノズルを発見してこれに対処し、連続記録(連続印刷)を可能とする。すなわち、画像部の描画について実際に不具合が発生する前に、吐出不良となりそうな異常ノズルを早期に検知して、これを不吐化処理し、その不吐化による影響を残りのノズルで補うように画像データを補正する。このため、連続記録中に発生する不具合に対して、損紙の発生やスループット低下を回避して、印刷を継続することができる。
図12では、矩形用紙の長辺を用紙搬送方向に直交させた用紙の向きで用紙を搬送する例(用紙の短辺と平行な方向に用紙を搬送する例)を示したが、用紙の向きはこれに限らない。例えば、図12において用紙を90度回転させ、用紙の短辺を用紙搬送方向に直交させた用紙の向きで搬送してもよい。
<異常ノズル検知用波形を用いる場合の問題点について>
上述した異常ノズル検知用波形を用いる方法では、あえて吐出性を悪化させる波形を検出波形に用い、事前に吐出性を悪化させているため、描画部にその影響が出て、即時に不良ノズル化する可能性がある。この場合、補正が間に合わず、結果的に損紙を減らすことはできないことも予想される。このような課題に対し、次のような手段を講じて課題を解決する。すなわち、異常ノズル検知用吐出が行われた後、実際の描画記録を行う前に、吐出性能を一時的に回復させる回復手段を設ける。
<回復手段の例1:回復用波形の信号を印加する形態>
図3〜図11で説明した異常ノズル検知用波形の印加による吐出の後、画像部の描画前に、回復用波形の駆動信号を印加することで、吐出性能を回復させることができる。図13(a)は、比較のために、一般的な記録用波形(描画用波形)例を示した。ここでは、図2と同様に矩形波による連続吐出を例示した。矩形波のプル−プッシュで1回(1滴)の吐出が行われるため、図13(a)は3発の連続発射の例である。なお、連射数はこれに限らない。また、各パルスが等間隔である必要はなく、各パルスの電位差が全て等しい必要もない。
なお、図13(a)に例示した波形は、3パルスを含む1波長(周期T0)のうち、1パルスのみを使用すると小ドットが得られ、2パルスを使用すると2滴による中ドット、3パルスを使用すると3滴による大ドットが得られる。
図13(a)の波形の変形例として、図13(b)を示す。図13(b)に示すように、図13(a)で示した記録用吐出の波形の後方に、残響抑制のための波形要素部(符号52)を追加してもよい。
図14は、回復用波形の信号の第1例である。図14は、回復の効果を増大させることを意図して特別に工夫された回復用波形(専用波形)である。図13(a)と比較すると明らかなように、図14の回復用波形は、通常の描画波形に比べて電位差Vppが大きい波形となっている。
図3〜図11で説明した異常ノズル検知用波形の印加による吐出の後、画像部の描画前に、非画像部(余白部分)の領域にて、図14に示す回復用波形の駆動信号を印加し、当該非画像部に回復用の打滴(連射)を行う。この回復用の打滴は、通常の描画用波形に比べて、電位差Vppが大きい波形を印加し、吐出エネルギー(吐出速度)を向上させることにより、異常ノズル検知用波形の印加によって不良が助長されたノズル周辺のインクを強い吐出エネルギーで吹き飛ばし、吐出性を一時的に回復させる効果がある。
ここでいう「一時的に」とは、不良ノズルとして検知されたノズルについて、少なくとも当該不良ノズルの不吐出化処理を伴う不吐出補正が有効に実施されるまで期間内に、損紙にならない程度に吐出性を回復させ、画像品質を保つことができればよい、という趣旨から、不良ノズルを完全に正常化させることまでは要求されないという意味である。すなわち、用紙外にヘッドを退避させて行う本格的なメンテナンス(ヘッド加圧、ノズル吸引、ワイピングなど)による回復処理とは異なり、不吐出補正が有効に作用するまでの一時的な期間で吐出性が担保されればよいという趣旨である。
良好な回復効果が見込まれる電位差Vpp(電圧の最大値と最小値の差)の条件として、好ましくは、記録用波形(図13(a)の電位差の1.1倍以上1.6倍以下、より好ましくは、1.2倍以上1.5倍以下である。電位差を大きくし過ぎると、ミストやサテライトが増加するため、かえって吐出性を悪化させる場合がある。吐出性を著しく悪化させない範囲で電位差の上限が設定される。なお、電位差の上限は、吐出性以外の設計により決まっている場合がある。その場合は、当該設計で定まる上限を超えないことが必要である。
図15は、回復用波形の信号の第2例である。図15における回復用波形は、図13(a)における波長(周期T0)を等分するタイミングでパルスを印加する波形となっている(電位差については同等)。すなわち、図15の波形における吐出パルスの間隔(T2)は、図13(a)の波長(周期T0)を2等分する間隔となっている(T2=T0/2)。このように、記録用波形(図13(a))の波長を等分するタイミングでパルスを印加するような波形(回復用波形)を用いることにより、回復吐出動作における見かけの吐出周波数を2倍にし、周波数特性の安定な領域で吐出を行うことができる。安定した吐出を続けることで、吐出性を回復させることができる。
図15で例示した波形に限らず、記録用波形の波長(周期T0)を整数N(ただし、N≧2)で割った間隔でパルスを印加する波形を回復用波形として用いることができる。
なお、吐出周波数によって吐出の安定性が変化する現象は、流体的な相互作用(クロストーク)が主な原因と考えられる。すなわち、ノズルから液滴を吐出すると、ノズル内のメニスカスが揺れることになるが、その揺れの周期(メニスカスの振動の周期)に対して、十分に長い吐出周期となる低周波駆動であれば、吐出による揺れが収まってから、次の吐出を行うことができる。つまり、メニスカス振動の減衰時間よりも長い吐出インターバルを確保できる低周波数の低周波数の領域は、メニスカスの残留振動の影響がなく、安定した吐出が可能である。
また、ヘッド内の他のノズルからの圧力波が伝わって、メニスカスを盛り上げたり、凹ませたりする現象も発生し得るが、このメニスカスが変動しているときに、吐出指令を行うと、タイミングによっては吐出性が悪くなる。近隣のノズルからの圧力波が到達する前に吐出を行う(高周波吐出させる)ときには、そのような問題が無く、安定な吐出が可能である。
<回復手段の例2:回復用画像データにしたがって吐出を行う形態>
図14〜図15では、回復吐出時における駆動信号の波形を変更する例を述べたが、回復用の画像データにしたがって吐出を行うことによっても回復効果が得られる。
図16に回復用の画像データ(ドット配置データ)の第1例を示す。図16における小さな四角い点56は、ヘッド(不図示)によって記録されるドットの位置(対応するノズルを吐出させる位置)を表している。ここでは、図16の右から左に向かって描画が進められていくものとする。例えば、ページワイドヘッド(不図示)のノズル列を図16の縦方向に沿って配置し、該ヘッドに対して用紙を図16の左から右へ(描画方向と反対向き)搬送しながら打滴を行う。なお、用紙を固定してページワイドヘッドを図16の右から左へ(描画方向に沿って)移動させながら打滴を行ってもよく、また、用紙とページワイドヘッドの両方を移動させても構わない。
図16は、カバレッジ(被覆率)5%の画像である。全てのノズルについて回復用の吐出の機会を付与しつつ、同時吐出させるノズル数を減らしてクロストークの影響を低減し、安定した吐出を行う観点から、カバレッジが10%以下のパターンが好ましい。
図17は、回復用の画像データの第2例を示す。ヘッド内部の流路構造などに起因して、そのヘッドが安定吐出できる条件は様々である。例えば、ある特定のヘッドに関しては、同一共通流路内のノズル(ノズルに対応した圧力室のインク供給口が同じ共通流路に接続され、その同一共通流路からインクが分配供給されるノズルグループに属するノズル)の同時駆動率が10%以下の場合に安定した吐出が可能となる特性を有する。
また、1つノズルから散発的に(吐出インターバルを十分に長くして)吐出を行うよりも、同じノズルからある程度短い時間間隔で(例えば、数kHzのサイクルで)連続吐出させる方が、そのノズルの回復効果は高くなる。
このような事情から、図17のように、各ノズルから所定発数の連続吐出を行うラインパターンを描画する形態もある。一例として、1200dpiの記録解像度を持つページワイドヘッドにおいて、描画方向と直交する用紙幅方向(x方向)について適度な間隔をあけて、描画方向に沿って、75dpiでライン62を描く画像データを用いる。各ノズルに対応したライン62の発数は、例えば、50発程度であり、吐出周波数は25.276kHz(ライン長さ約1mm)である。これらの条件は一例に過ぎず、用紙上の描画領域を侵食しない範囲で適切な条件に設定される。
図17において、複数のライン62が縦方向に並んだラインパターンのブロック64は、同時吐出(同時駆動)されたノズル群によって描かれるものである。同一共通流路内ノズルの同時駆動率は10%以下に抑えられている。図17では、描画方向に位置を変えて16段のラインパターンブロック64を描画する例を示したが、ラインパターンブロックの段数はこれに限定されない。図17の画像データにしたがい、吐出に使用するノズル群を変えながら、各ラインパターンブロック64を形成し、すべてのノズルについて回復用の吐出を行う。
<回復手段の例3:ノズル面洗浄動作を実施する形態>
また、別の実施形態として、ノズル面(液滴吐出面)に付着した付着液を回収するための手段(ノズル面清掃手段)を備えたヘッドを用い、異常ノズル検知用波形による吐出後に、ノズル面の清掃動作を実施することで、回復効果を得るという構成も可能である。
図18はノズル面清掃手段を備えたヘッドの構成例を示す断面図である。このヘッド200は、インク吐出面(図18における下面、以下、ノズル面といい、符号「201」で示す)に、インク滴を吐出するためのノズル202(インク吐出口)が複数設けられている。図18では、記録素子単位となる1チャンネル分の液滴吐出素子(1つのノズル202に対応したインク室ユニット)の構成を拡大して示した。
なお、ノズル202が形成されているノズルプレート201Pのインク吐出面(ノズル面201)には、当該ノズル面201に付着した液を回収しやすいように、撥液膜が全体に亘って形成され、更には、ノズル面201が平坦面となっている。
ノズル202は、ノズル流路203を介して圧力室204と連通している。圧力室204は供給口206(個別供給路)を介してインク供給用の共通流路208と連通している。共通流路208は後述するインクタンク(図22の符号223)と連通しており、該インクタンク223から供給されるインクは共通流路208を介して各圧力室204に分配供給される。
圧力室204の一部の面(図18において天面)を構成する振動板210には、個別電極211を備えたアクチュエータ212が接合されている。本例の振動板210は、アクチュエータ212の下部電極に相当する共通電極213として機能するニッケル(Ni)導電層付きのシリコン(Si)から成り、各圧力室204に対応して配置されるアクチュエータ212の共通電極を兼ねる。なお、樹脂などの非導電性材料によって振動板を形成する態様も可能であり、この場合は、振動板部材の表面に金属などの導電材料による共通電極層が形成される。また、ステンレス鋼(SUS)など、金属(導電性材料)によって共通電極を兼ねる振動板を構成してもよい。
個別電極211と共通電極213間に駆動電圧を印加することによってアクチュエータ212が変形して圧力室204の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル202からインクが吐出される。なお、アクチュエータ212には、チタン酸ジルコン酸鉛やチタン酸バリウムなどの圧電体を用いた圧電素子が好適に用いられる。インク吐出後、アクチュエータ212の変位が元に戻る際に、共通流路208から供給口206を通って新しいインクが圧力室204に再充填される。
画像データに応じて各ノズル202に対応したアクチュエータ212の駆動を制御することにより、ノズル202からインク滴を吐出させることができる。用紙を一定の速度で搬送しながら、その搬送速度に合わせて各ノズル202のインク吐出タイミングを制御することによって、用紙上に所望の画像を記録することができる。
また、このヘッド200は、圧力室204からノズル202に繋がるノズル流路203を挟んで、共通流路208の反対側(図18において左側)には、ノズル流路203から余剰液を回収するための共通戻し流路220が設けられている。各ノズル202のノズル流路203は、個別戻し流路221を介して共通戻し流路220に接続されており、吐出に使用されない余剰インクは、ノズル流路203から個別戻し流路221を介して共通戻し流路220に回収される。この共通戻し流路220は、後述するインク戻し管路(図22の符号226)を介してインク戻り部の戻りタンク(図22の符号224)に接続されている。
更に、図18に示したヘッド200のノズル面201には、ノズル202の近傍に回収孔230が形成されている。この回収孔230は、ヘッド200内に形成されている回収液室232に連通しており、回収液室232は、後述する回収流路(図22の符号243)を介して回収装置(図22の符号240)に接続されている。ノズル面201に付着した付着液は、回収孔230からノズル面201に溢れ出させた回収液(以下、「洗浄液」という場合もある。)と合一させて、回収液とともに回収孔230から回収液室232に収容され(図18参照)、回収流路243を介して回収装置240の貯留タンク(図22の符号241)へ送られる。
図19は、ノズル202と回収孔230の配列パターンの一例である。図19の例では、ノズル202が2列に配置され、これらノズル列の列間に、回収孔230が2列で配置されている。各ノズル202から最も近い回収孔230までの距離dNは、どのノズル202についても一定の値以下となっている。図19では、ノズル202と最隣接回収孔230との距離dNがどのノズル202についても一定となる対称的な配置形態である。
ここでは、2列ノズルと2列回収孔を示したが、この配列パターンを繰り返し単位として、周期的に或いは対称的に、配列が繰り返される多数列の構成も可能である。なお、図18は、図19における18−18線に沿って切断した断面図となっている。
(ノズル202と回収孔230の配列パターンのバリエーションについて)
ノズル202と回収孔230の配列パターンは図19の例に限定されず、様々な形態が可能である。図20、図21にその一部を例示する。図20(a)は、ノズル202が一定の間隔PNZで一列に並んだノズル列に対して、回収孔230を一定間隔Pr(ただし、Pr=2×PNZ)で、ノズル列と平行に一列に並べて配列パターンとなっている。
図20(b)は、2列のノズル列に対して、その列間に1列の回収孔列が形成されている例である。図20(b)はノズル列間のノズル間距離が1400μm未満の場合の好適な配列パターンである。ノズル列間のノズル間距離が1400μm以上となる場合は、図19で説明したパターンが好適である。
このようにノズル間距離と回収孔230の配置を規定している理由は、以下のとおりである。ノズル202は、通常、用紙(被記録媒体)から0.7mm〜1.0mm程度離して設置されることが多い。ノズル面201に付着している液滴サイズが直径2000μm以上になると、その液滴が用紙に接触し、用紙を汚してしまうおそれがある。
このため、回収孔230から洗浄液を溢れさせる(濡れ広がらせる)範囲は、回収孔230の中心から1000μm未満(半径1000μm未満の円内)であることが好ましい。
さらに、ノズル面201に付着している付着液と結合(合一)して液が増量することを考慮して、回収孔230の中心から700μm程度まで溢れさせるように制御することが、より好ましい。このような条件を満たすよう、ノズル202と回収孔230の配置関係(相対的な位置関係)が設計される。
図21(a)〜(d)には、ノズル202がマトリクス状に配列された場合の回収孔230の配列パターンを例示した。図21(a)は、1列のノズル202に対して、1列の回収孔230が配置されている。図21(b)は、1列のノズル202に対して、図21(a)よりも数が少ない一列の回収孔230が配置されている。図21(c)は、1列のノズル202に対して、ノズル202と同数の回収孔230がノズル202の極近くに配置されている。図21(d)は、図21(c)に類似する変形例であり、ノズル202列に近接して配置される一列の回収孔230列の位置が、ノズル202列に対して交互に反対方向に配置されるような配列パターンとなっている。
(回収装置の説明)
図22は、ヘッド200のインク循環系222と回収装置240の構成を示している。なお、インク循環系222と回収装置240は、インク色別の各ヘッド(ここでは、CMYKの4色に対応した色別の4本のヘッド)にそれぞれ対応して設けられている。各ヘッドに対応したインク循環系と回収装置の構成は同一であるため、ここでは、1つのヘッド200に関するインク循環系222と回収装置240を示した。
図22に示すように、インク循環系222は、インクの供給源としてインクを貯留しているインク供給部(以下、「インクタンク」という。)223と、ヘッド200から回収したインクを一時的に貯留するインク戻り部(以下、「戻りタンク」という。)224を備えている。インクタンク223とヘッド200は、インク供給路225を介して接続されており、このインク供給路225を通じてインクタンク223からヘッド200内の共通流路208へインクが供給されるようになっている。また、戻りタンク224とヘッド200はインク戻し路226を介して接続されており、このインク戻し路226を通じてヘッド200内の共通戻し流路220から戻りタンク224へインクが戻されるようになっている。
戻りタンク224に戻った(回収された)インクは、当該戻りタンク224とインクタンク223とをつなぐ連絡路227を通じて、インクタンク223へ戻るようになっている。インクタンク223、インク供給路225、ヘッド200内の内部流路(共通流路208、共通戻し流路220)、インク戻し路226、戻りタンク224、連絡路227を含んで、インク循環路が構成されている。なお、同図に示す矢印R1がインク供給方向を示し、矢印R2がインクの戻し方向である。また、インク循環系222にはインクに循環のための循環流を生じさせる循環流発生装置(ポンプなど(図示省略))が配設されている。
(回収装置について)
ヘッド200には、回収装置240が設けられている。この回収装置240は、ノズル面201に形成された回収孔230から洗浄液をノズル面201に溢れさせ、且つ、溢れ出た洗浄液をノズル面201に付着した付着インクと共に回収する装置である。
図22に示すように、回収装置240は、洗浄液を貯留する貯留タンク241と、この貯留タンク241に貯留された洗浄液に圧力を作用させるシリンジポンプ242と、ヘッド200内の回収液室232(図18参照)と貯留タンク241とを接続する回収流路243と、回収流路243の途中に設けられるバルブ244と、シリンジポンプ242及びバルブ244等を制御する制御部300と、を備えている。
貯留タンク241の上部には、第1接続口241Aと第2接続口241Bが設けられ、下部には第3接続口241Cが設けられている。第1接続口241Aにはシリンジポンプ242が接続されており、第2接続口241Bには回収流路243が接続されている。第3接続口241Cには回収液供給路245が接続されている。この回収液供給路245の途中には、制御部300によって制御されるバルブ246が設けられている。バルブ246は、貯留タンク241と回収タンク247との間で回収液(洗浄液)を交換する交換動作の際に開弁し、それ以外のときは、閉弁するように制御部300によって制御されている。なお、貯留タンク241は、各接続口241A〜Cに各部材(242,243,245)が接続されているため、実質的には密閉状態となっている。
貯留タンク241と回収タンク247とをつなぐ回収液供給路245は、回収タンク247の上部に接続され、当該回収液供給路245の一端は、回収タンク247の内部に引き入れられている。回収液供給路245の途中のバルブ246と回収タンク247との間には、双方向式のポンプ248が設けられている。ポンプ248は制御部300によって制御される。ポンプ248の駆動方向を切り替えることにより、貯留タンク241から回収タンク247側への回収液の流れ(矢印x1)と、回収タンク247から貯留タンク241側への回収液の流れとを切り替えられるようになっている。また、回収タンク247の上部には、大気と連通する大気連通口249が形成されている。
ヘッド200と貯留タンク241の間をつなぐ回収流路243は、一端がヘッド200に接続されてヘッド200内の回収液室232(図18参照)及び回収孔230につながり、他端が第2接続口241Bを通り抜けて貯留タンク241の内部(同タンク内の液層中)に配置されている。この回収流路243上に設けられたバルブ244は、回収動作及び交換動作を行う際に開弁し、それ以外のときは、閉弁するように制御部300によって制御されている。なお、回収動作とは、回収流路243を通じて回収孔230から回収液を溢れさせ、且つ溢れ出た回収液を回収する一連の動作を指す。
シリンジポンプ242は、制御部300によって制御され、貯留タンク241の上部に形成された空気層Gの圧力を増減できるようになっている。具体的には、シリンジポンプ242の内部空間を拡縮することで、この内部空間に連通している空気層Gの圧力も増減するようになっている。シリンジポンプ242の内部空間を縮小させて空気層Gの圧力を上昇させると(図22において、白抜き矢印によってシリンジの押し込み方向を示した)、貯留タンク241に貯留された回収液の液面が圧力上昇した空気層Gによって押圧され、押圧された回収液が回収流路243を通じてヘッド200に送られ、回収孔230からノズル面201へ溢れる。なお、図中の黒矢印はインクの流れを示し、白矢印は空気の流れを示している。
逆に、シリンジポンプ242の内部空間を拡大させて空気層Gの圧力を減少させると、貯留タンク241に貯留された回収液の液面が負圧によって引っ張られ、ヘッド200内の回収液が回収流路243を通じて貯留タンク241に回収される。このとき、ノズル面201に溢れ出ていた回収液が回収孔230を通じて回収される。
制御部300は、シリンジポンプ242を制御して空気層Gに作用させる圧力を制御している。この空気層Gに作用させる圧力は、回収液をノズル面201に溢れさせる場合、溢れ出た回収液が回収孔230に隣接するノズル202に到達しない所定の量(所定値)となるように設定されている。また、ノズル面201に溢れ出た回収液を回収するときは、ノズル面201上の回収液を確実に回収できるように回収力(吸引力)を設定している。なお、これらの所定値は、設計値や環境に応じて変化するため、予め複数回の実験をして好適な範囲を求めておくことが好ましい。
また、制御部300は、回収動作の回数又は、回収液の粘度を測定するセンサー(図示省略)からの測定値に応じて、シリンジポンプ242を制御して空気層Gに作用させる圧力を所定値から変動させている。
貯留タンク241に貯留される回収液は、ノズル面201に付着した付着インクを溶解又は分散可能な液体であることが好ましく、本実施形態では、付着インクを溶解できる液体を用いている。なお、付着インクを回収液として使用してもよい。また、回収液の色は、付着液と同色、又は透明であることが好ましい。また、回収液は、回収孔230から溢れさせたときに落下したり、回収時にちぎれて回収残りが生じないように、表面張力が40mN/m以下、10mN/m以上のものを用いることが好ましく、35mN/m以下、25mN/m以上のものを用いることがさらに好ましい。
(回収動作の説明)
図23(a)は、ノズル面201にインクミストなどが付着している様子を示した模式図である。同図において、黒点が付着インクを表す。描画記録や異常ノズル検知用の吐出が実施されると、ヘッド200のノズル面201には、インクミストなどが付着する。付着インクは、ノズル202や回収孔230の周囲に不規則に付着し、その付着液滴サイズも様々である。
このような付着インクを除去するために、まず、回収孔230から回収液を溢れさせる(図23(b))。すなわち、図22で説明した回収流路243のバルブ244を開け、シリンジポンプ242を駆動(ポンプ内部空間を縮小させる方向に駆動)することにより、ヘッド200の回収孔230から所定量の回収液がノズル面201に溢れ出るように貯留タンク241の空気層Gの圧力を上昇させる。
回収孔230から溢れた回収液は、図23(b)に示すように、回収孔230を中心として半径方向に広がり、ノズル面上の付着インクと表面張力で結合して一体となる(接触した液同士が合一する)。
次に、シリンジポンプ242の内部空間を拡大させる方向に駆動し、貯留タンク241の空気層Gの圧力を減少させる。これにより、貯留タンク241を介して回収流路243内の回収液に負圧が作用し、ノズル面201に溢れ出ていた回収液が上記一体となった付着インクと共に回収孔230からヘッド200内に取り込まれ、貯留タンク241側に回収される(図23(c)参照)。
その後、回収流路243のバルブ244を閉じる。図22の制御部300は、上記の回収動作を実施する信号(バルブ244の開弁信号、シリンジポンプ242の駆動指令信号、バルブ244の閉弁信号等)を送信し、バルブ244、シリンジポンプ242は、制御部300からの信号に応じて動作する。
このようなノズル面清掃手段によれば、回収孔230から回収液を溢れさせ、溢れ出た回収液と付着インクとを一緒に回収孔230から回収するため、回収液を回収孔から溢れさせずに付着インクを回収するものと比べた場合、ノズル面201上のより広い範囲に亘って付着液を回収することができる。また、ノズル面201に付着した付着液を回収するのに払拭動作(いわゆるワイピング動作)を要するものと比べた場合、記録動作を中断することなく、付着インクを回収することができる。その結果、本例によるノズル面清掃手段は、生産性を落とすことなく、安定した画像品質を維持できる。
(他の作用効果について)
また、シリンジポンプ242で生じさせる圧力を貯留タンク241の空気層Gを介して回収液に伝達するため、回収液に直接圧力を伝達するよりも、回収液に作用させる圧力を微調整しやすい。なお、回収装置240は、回収液と共に付着液を回収するため、回収液は付着液と混ざって粘度が上昇し、回収孔230から溢れにくくなることも想定されるが、制御部300が回収液の粘度に応じて、シリンジポンプ242を制御して回収液に作用させる圧力を変動させることにより、常時所定量の回収液をノズル面201に溢れさせることができる。
また、本例のノズル面201には、撥液膜が全体に亘って形成されていることから、回収孔230から溢れ出た回収液と、これに結合した付着液とを残さずに回収することができる。さらに、本例では、ノズル面201が全体に亘って平滑に形成されていることから、回収孔230から溢れ出た回収液がノズル面201を略均一に広がり、所定範囲内の付着液を確実に回収することができる。そして、付着インクが粘度上昇していても、回収液が付着インクを溶解又は分散させるため、回収液とともに付着インクを確実に回収することができる。
回収液として、付着インクと同色又は透明の液体を用いることにより、ノズル面清掃後、ノズル202から吐出する液滴の色を保持することができる。
(ノズル202が付着インクによって覆われている場合の回収動作の効果について)
図24(a)に示すように、ノズル202を付着インクが覆っている場合であっても、回収孔230から回収液を溢れさせて、付着インクと回収液を結合させた後、回収孔230から回収液を回収することで、ノズル202を覆っていた付着インクが回収液とともに回収される(図24(b)参照)。
(貯留タンク241と回収タンク247との間の回収液の交換動作について)
次に、図22で示した貯留タンク241と回収タンク247との間で行う回収液の交換動作について説明する。ノズル面201に付着した付着インクの回収動作(ノズル面の清掃動作)を所定回数実施した場合、又は、回収液の粘度を測定するセンサー(図示省略)が所定値となった場合、制御部300は、ポンプ248を作動させて貯留タンク241内及び回収流路243内の回収液を、回収液供給路245を通じて空状態の回収タンク247へ送って回収させる。
回収液が回収タンク247へ回収されると、制御部300は、図示しないディスプレイに回収完了を報せる表示を出す。その後、ユーザーは、回収液を回収した回収タンク247をインクジェット記録装置から取り外して新品の回収タンク247と交換する。回収タンク247が交換されると、制御部300は、ポンプ248を作動させて、回収タンク247内の新しい回収液を、回収液供給路245を通じて貯留タンク241へ供給する。このようにして、貯留タンク241と回収タンク247との間で回収液の交換が行われる。
なお、本実施形態では、交換動作の際に制御部300がバルブ244を開弁させるようになっているが、本発明はこの構成に限らず、回収動作以外のときは、制御部300によってバルブ244が閉弁するように構成してもよい。この場合には、実質的に密閉状態の貯留タンク241内を大気開放した方が回収液の回収効率が上がるため、例えば、貯留タンク241の上部に開閉可能な大気開放部(図示省略)などを設けてもよい。
<ノズル面清掃手段の変形例1>
本実施形態の回収動作では、回収液をノズル面201に溢れさせ、溢れ出た回収液と共に回収液に結合した付着液を回収する動作を行うが、本発明の実施に際しては、これに限らず、回収液をノズル面201に溢れさせる前に、回収孔230内を負圧にしてノズル面201上に付着した付着インクを回収する動作を行ってもよい。このような動作を追加することで、次のような利点がある。
例えば、付着インクが回収動作をする前に既に回収孔230を覆っており、その状態で回収孔230から回収液を溢れさせると、回収孔230周囲の液量が多くなりすぎて回収液及び付着液がノズル面201から零れ落ちる虞がある場合において、回収孔230から回収液をノズル面(液滴吐出面)201に溢れさせる前に回収孔230に負圧を作用させて回収孔230を覆う付着インクを回収してから、回収液をノズル面201に溢れさせれば、常時所定量の回収液をノズル面201に溢れさせることができる。また、回収液が零れ落ちるのも抑制できる。
<ノズル面清掃手段の変形例2>
図22では、シリンジポンプ242による圧力調整を、貯留タンク241内の空気を介して行う構成としたが、本発明の実施に際しては、これに限らず、シリンジポンプ242による圧力調整を、貯留タンク241内の回収液を介して行う構成としてもよい。
<ノズル面清掃手段の変形例3>
図22では、シリンジポンプ242を貯留タンク241に取り付けた例を説明したが、かかる構成に代えて、回収流路243上のバルブ244よりもヘッド200側にシリンジポンプ242を配置し、第1接続口241Aを大気開放する構成を採用してもよい(図示省略)。
このような形態の場合、回収孔230から回収液を溢れさせるとき、すなわち、シリンジポンプ242で回収流路243内の回収液に正圧を作用させるときは、バルブ244を閉弁させる。また、シリンジポンプ242で回収流路243内の回収液に負圧を作用させるときには、バルブ244を開弁するようになっている。
<ノズル面清掃手段の変形例4>
図22におけるシリンジポンプ242に代えて、貯留タンク241を上下動させる昇降装置を設け、貯留タンク241とヘッド200の高低差(水頭差)によって、回収流路243内の回収液の加圧/減圧を行う構成も可能である(図示省略)。この形態の場合、貯留タンク241の第1接続口241Aは大気開放される。また、回収流路243上のバルブ238は、回収液の交換動作時のみ閉弁するように制御される。
<ノズル面清掃手段の変形例5>
図22における、シリンジポンプ242、バルブ244、ポンプ248を省略し、これらに代えて、回収液供給路245のバルブ246よりも回収タンク247側に、回収液供給路245を変形させるチューブポンプを設ける構成を採用することができる(図示省略)。この形態の場合、貯留タンク241の第1接続口241Aは閉塞され、貯留タンク241は実質密閉状態となっている。
チューブポンプはローラを備え、回収液供給路245の一部が巻き掛けられるように配置されている。このローラは、制御部300に制御されたモータを駆動源にして回転する。ローラが回収液供給路245(チューブ)を押し潰し、これを変形させながら回転することにより、回収液供給路245内の回収液に一方向の流れを生じさせる。かかる構成において、バルブ246は回収装置が回収動作を実施するときに開弁し、それ以外のときは閉弁するように制御部300によって制御される。
回収動作時には、まず、チューブポンプは所定量の回収液がノズル面201に溢れるように、回収液供給路245を押し潰しながら正回転して、回収液に回収孔230への流れを生じさせる。このとき、チューブポンプによる回収液の流れは、貯留タンク241を介して回収流路243に伝達されるため、チューブポンプによる圧力変動(脈動)などが抑制される。なお、この変形例5に係る形態においても、チューブポンプによって与えられる圧力によって回収液がノズル面201から溢れる量を予め実験などで求めおくものとする。
回収孔230から溢れ出た回収液は、図23(b)、図24(a)で説明したように、回収孔230を中心として半径方向に広がり、ノズル面201上の付着インクと表面張力で結合して一体となる。
その後、チューブポンプは回収液供給路245を押し潰しながら逆回転を始める。これにより、回収流路243内の回収液の圧力が減少し、回収流路243内の回収液に負圧が作用して、ノズル面201上に溢れていた回収液が付着インクと共に回収孔230から回収流路243内に回収される(図23(c)、図24(b)参照)。
上述したノズル面清掃手段は、ヘッドをメンテナンス位置に移動させることなく、ヘッドを印字位置(用紙と対面した位置)に置いたまま、ノズル面の清掃を行うことができる。このため、連続印刷の用紙間、或いは、用紙の余白部の期間中にノズル面を清掃することができる。
このようなノズル面洗浄を行った後に、画像部(図12の符号42)の描画を実施することにより、生産性を落とすことなく、損紙を削減することができる。
<インクジェット記録装置の構成例>
次に、上記の不吐検出技術及び回復技術を適用したインクジェット記録装置の構成例について説明する。図25は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の構成図である。このインクジェット記録装置100は、インク打滴部108の圧胴126cに保持された記録媒体114(便宜上「用紙」と呼ぶ場合がある。)に直接的に複数色のインクを打滴して所望のカラー画像を形成する圧胴直描方式のインクジェット記録装置であり、インク及び処理液(ここでは凝集処理液)を用いて、記録媒体114上に画像形成を行う2液反応(凝集)方式が適用されたオンデマンドタイプの画像形成装置である。
インクジェット記録装置100は、主として、記録媒体114を供給する給紙部102と、記録媒体114に対して浸透抑制剤を付与する浸透抑制剤付与部104と、記録媒体114に処理液を付与する処理液付与部106と、記録媒体114にインクを打滴するインク打滴部108と、記録媒体114上に形成された画像を定着させる定着部110と、画像が形成された記録媒体114を搬送して排出する排紙部112を備えて構成される。
給紙部102には、枚葉紙の記録媒体114を積載する給紙台120が設けられている。給紙台120に積載された記録媒体114は上から順に1枚ずつフィーダボード122に送り出され、渡し胴124aを介して、浸透抑制剤付与部104の圧胴(浸透抑制剤ドラム)126aに受け渡される。
圧胴126aの表面(周面)には、記録媒体114の先端を保持する保持爪115a,115b(グリッパ)が形成されている。渡し胴124aから圧胴126aに受け渡された記録媒体114は、保持爪115a,115bによって先端を保持されながら圧胴126aの表面に密着した状態(即ち、圧胴126a上に巻きつけられた状態)で圧胴126aの回転方向(図25において反時計回り方向)に搬送される。後述する他の圧胴126b〜126dについても同様な構成が適用される。また、渡し胴124aの表面(周面)には、記録媒体114の先端を圧胴126aの保持爪115a,115bに受け渡す部材116が形成されている。後述する他の渡し胴124b〜124dについても同様な構成が適用される。
〔浸透抑制剤付与部〕
浸透抑制剤付与部104には、圧胴126aの回転方向(図25において反時計回り方向)の上流側から順に、圧胴126aの表面に対向する位置に、用紙予熱ユニット128、浸透抑制剤吐出ヘッド130、及び浸透抑制剤乾燥ユニット132がそれぞれ設けられている。
用紙予熱ユニット128及び浸透抑制剤乾燥ユニット132には、それぞれ所定の範囲で温度や風量を制御可能な熱風乾燥器が設けられる。圧胴126aに保持された記録媒体114が、用紙予熱ユニット128や浸透抑制剤乾燥ユニット132に対向する位置を通過する際、熱風乾燥器によって加熱された空気(熱風)が記録媒体114の表面に向かって吹き付けられる構成となっている。
浸透抑制剤吐出ヘッド130は、圧胴126aに保持される記録媒体114に対して浸透抑制剤を含有した溶液(以下、単に「浸透抑制剤」ともいう。)を吐出する。本例では、記録媒体114の表面に対して浸透抑制剤を付与する手段として、打滴方式を適用したが、これに限定されず、例えば、ローラ塗布方式、スプレー方式、などの各種方式を適用することも可能である。
浸透抑制剤は、後述する処理液及びインク液に含まれる溶媒(及び親溶媒的な有機溶剤)の記録媒体114への浸透を抑制する。浸透抑制剤としては、樹脂粒子を溶液中に分散(または溶解)させたものを用いる。浸透抑制剤の溶液としては、例えば、有機溶剤または水を用いる。浸透抑制剤の有機溶剤としては、メチルエチルケトン、石油類、等が好適に用いられる。
用紙予熱ユニット128は、記録媒体114の温度Tm1を、浸透抑制剤の樹脂粒子の最低造膜温度Tf1よりも高くする。温度Tm1の調整方法には、圧胴126aの内部に設置したヒータ等の発熱体を用いて記録媒体114を下面から加熱する方法、記録媒体114の上面に熱風を当てて加熱する方法などがあり、本例では赤外線ヒータ等を用いて記録媒体114の上面から加熱する方法を用いている。これらの方法を組み合わせてもよい。
浸透抑制剤の付与方法には、打滴、スプレー塗布、ローラ塗布等が好適に用いられる。打滴の場合には、後述するインク液の打滴箇所及びその周辺のみに、選択的に浸透抑制剤を付与することができるので、好適である。また、カールが発生し難い記録媒体114の場合には、浸透抑制剤の付与を省略してもよい。
浸透抑制剤付与部104に続いて処理液付与部106が設けられている。浸透抑制剤付与部104の圧胴(浸透抑制剤ドラム)126aと処理液付与部106の圧胴(処理液ドラム)126bとの間には、これらに対接するようにして渡し胴124bが設けられている。これにより、浸透抑制剤付与部104の圧胴126aに保持された記録媒体114は、浸透抑制剤が付与された後、渡し胴124bを介して処理液付与部106の圧胴126bに受け渡される。
〔処理液付与部〕
処理液付与部106には、圧胴126bの回転方向(図25において反時計回り方向)の上流側から順に、圧胴126bの表面に対向する位置に、用紙予熱ユニット134、処理液吐出ヘッド136、及び処理液乾燥ユニット138がそれぞれ設けられている。
用紙予熱ユニット134は、浸透抑制剤付与部104の用紙予熱ユニット128と同一構成が適用されるため、ここでは説明を省略する。もちろん、異なる構成が適用されてもよい。
処理液吐出ヘッド136は、圧胴126bに保持される記録媒体114に対して処理液を打滴するものであり、インク打滴部108の各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kと同一構成が適用される。
本例で用いられる処理液は、インク打滴部108に配置される各インク打滴ヘッド140M、140K、140C、140Yから記録媒体114に向かって吐出されるインクに含有される色材を凝集させる作用を有する酸性液である。
処理液乾燥ユニット138には、所定の範囲で温度や風量を制御可能な熱風乾燥器が設けられており、圧胴126bに保持された記録媒体114が処理液乾燥ユニット138の熱風乾燥器に対向する位置を通過する際、熱風乾燥器によって加熱された空気(熱風)が記録媒体114上の処理液に吹き付けられる構成となっている。
熱風乾燥器の温度や風量は、圧胴126bの回転方向上流側に配置される処理液吐出ヘッド136により記録媒体114上に付与された処理液を乾燥させて、記録媒体114の表面上に固体状又は半固溶状の凝集処理剤層(処理液が乾燥した薄膜層)が形成されるような値に設定される。
ここでいう「固体状または半固溶状の凝集処理剤層」とは、以下に定義する含水率が0〜70%の範囲のものを言うものとする。
また、「凝集処理剤」は、固体状又は半固溶状のものだけでなく、それ以外の液体状のものも含む広い概念で用いるものとし、特に、含溶媒率を70%以上として液体状にした凝集処理剤を「凝集処理液」と称する。
記録媒体114上の処理液(凝集処理剤層)の含溶媒率を変化させたときの色材移動についての評価実験によれば、処理液付与後に、処理液の含溶媒率が70%以下となるまで処理液を乾燥させたときには色材移動が目立たなくなり、更に50%以下まで処理液を乾燥させると目視による色材移動の確認ができないほど良好なレベルとなり、画像劣化の防止に有効であることが確認された。
このように記録媒体114上の処理液の含溶媒率が70%以下(好ましくは50%以下)となるまで乾燥を行って、記録媒体114上に固体状又は半固溶状の凝集処理剤層を形成することにより、色材移動による画像劣化を防止することができる。
〔インク打滴部〕
処理液付与部106に続いてインク打滴部108が設けられている。処理液付与部106の圧胴(処理液ドラム)126bとインク打滴部108の圧胴126cとの間には、これらに対接するようにして渡し胴124cが設けられている。これにより、処理液付与部106の圧胴126bに保持された記録媒体114は、処理液が付与されて固体状又は半固溶状の凝集処理剤層が形成された後に、渡し胴124cを介してインク打滴部108の圧胴(描画ドラム)126cに受け渡される。
インク打滴部108には、圧胴126cの回転方向(図25において反時計回り方向)の上流側から順に、圧胴126cの表面に対向する位置に、CMYKの4色のインクにそれぞれ対応したインク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kが並んで設けられており、更に、その下流側に溶媒乾燥ユニット142a、142bが設けられている。
各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kは、上述した処理液吐出ヘッド136と同様に、液体を吐出する方式の記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)が適用される。即ち、各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kは、それぞれ対応する色インクの液滴を圧胴126cに保持された記録媒体114に向かって吐出する。
インク貯蔵/装填部(不図示)は、各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kにそれぞれ供給するインクを各々貯蔵するインクタンクを含んで構成される。各インクタンクは所要の流路を介してそれぞれ対応するヘッドと連通されており、各インク打滴ヘッドに対してそれぞれ対応するインクを供給する。インク貯蔵/装填部は、タンク内の液体残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
インク貯蔵/装填部の各インクタンクから各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kにインクが供給され、画像信号に応じて各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kから記録媒体114に対してそれぞれ対応する色インクが打滴される。
各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kは、それぞれ圧胴126cに保持される記録媒体114における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有し、そのインク吐出面には画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズル(図25中不図示)が複数配列されたフルライン型のヘッドとなっている(図26参照)。各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kが圧胴126cの回転方向(記録媒体114の搬送方向)と直交する方向に延在するように設置される。
記録媒体114の画像形成領域の全幅をカバーするノズル列を有するフルラインヘッドがインク色毎に設けられる構成によれば、圧胴126cによって記録媒体114を一定の速度で搬送し、この搬送方向(副走査方向)について、記録媒体114と各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kを相対的に移動させる動作を1回行うだけで(即ち1回の副走査で)、記録媒体114の画像形成領域に画像を記録することができる。かかるフルライン型(ページワイド)ヘッドによるシングルパス方式の画像形成は、記録媒体の搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に往復動作するシリアル(シャトル)型ヘッドによるマルチパス方式を適用する場合に比べて高速印字が可能であり、プリント生産性を向上させることができる。
本例のインクジェット記録装置100は、例えば最大菊半サイズの記録媒体(記録用紙)までの記録が可能であり、圧胴(描画ドラム)126cとして、例えば記録媒体幅720mmに対応した直径810mmのドラムが用いられる。また、各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kのインク吐出体積は例えば2plであり、記録密度は主走査方向(記録媒体114の幅方向)及び副走査方向(記録媒体114の搬送方向)ともに例えば1200dpiである。
また、本例では、CMYKの4色の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて、R(赤)、G(緑)、B(青)インク、淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
また、図には示されていないが、予備吐出や吸引動作などのヘッドメンテナンスは、ヘッドを圧胴126c(描画ドラム)の直上の画像記録位置(描画位置)から所定のメンテナンス位置(たとえば、圧胴126c軸方向のドラム外の位置)へ退避させた状態で実行するように構成されている。
溶媒乾燥ユニット142a、142bは、上述した用紙予熱ユニット128、134や浸透抑制剤乾燥ユニット132、処理液乾燥ユニット138と同様に、所定の範囲で温度や風量を制御可能な熱風乾燥器を含んで構成される。記録媒体114の表面上に形成された固体状又は半固溶状の凝集処理剤層上にインク液滴が打滴されると、記録媒体114上にはインク凝集体(色材凝集体)が形成されるとともに、色材と分離されたインク溶媒が広がり、凝集処理剤が溶解した液体層が形成される。このようにして記録媒体114上に残った溶媒成分(液体成分)は、記録媒体114のカールだけでなく、画像劣化を招く要因となる。そこで、本例では、各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kからそれぞれ対応する色インクが記録媒体114上に打滴された後、溶媒乾燥ユニット142a、142bの熱風乾燥器によって、溶媒成分を蒸発させ、乾燥を行っている。
インク打滴部108に続いて定着部110が設けられている。インク打滴部108の圧胴(描画ドラム)126cと定着部110の圧胴(定着ドラム)126dとの間には、これらに対接するように渡し胴124dが設けられている。これにより、インク打滴部108の圧胴126cに保持された記録媒体114は、各色インクが付与された後に、渡し胴124dを介して定着部110の圧胴126dに受け渡される。
〔定着部〕
定着部110には、圧胴126dの回転方向(図25において反時計回り方向)の上流側から順に、圧胴126dの表面に対向する位置に、インク打滴部108による印字結果を読み取るインライン検出部144、加熱ローラ148a、148bがそれぞれ設けられている。
インライン検出部144は、出力画像を読み取る読取手段であり、インク打滴部108の印字結果(各インク打滴ヘッド140C、140M、140Y、140Kの打滴結果)を撮像するためのイメージセンサを含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能したり、色情報を取得する測色手段として機能する。
本例では、記録媒体114の画像記録領域又は非画像領域(いわゆる余白部)にラインパターンや濃度パターン、或いはこれらの組合せなどによるテストパターンを形成し、インライン検出部144によってこのテストパターンを読み取り、その読取結果に基づいて、色情報の取得(測色)や濃度むらの検出、各ノズルについて吐出異常の有無の判定など、インライン検出が行われるように構成されている。
加熱ローラ148a、148bは、所定の範囲(例えば100℃〜180℃)で温度制御可能なローラであり、加熱ローラ148a、148bと圧胴126dとの間に挟みこまれた記録媒体114を加熱加圧しながら、記録媒体114上に形成された画像を定着させる。加熱ローラ148a、148bの加熱温度は、処理液又はインクに含有されているポリマー微粒子のガラス転移点温度などに応じて設定することが好ましい。
なお、高沸点溶媒及び熱可塑性樹脂粒子を含んだインクに代えて、UV露光にて重合硬化可能なモノマー成分を含有していてもよい。この場合、インクジェット記録装置100は、ヒートローラによる熱圧定着部の代わりに、記録媒体114上のインクにUV光を露光するUV露光部を備える。このように、UV硬化性樹脂などの活性光線硬化性樹脂を含んだインクを用いる場合には、加熱定着の定着ローラに代えて、UVランプや紫外線LD(レーザダイオード)アレイなど、活性光線を照射する手段が設けられる。
〔排紙部〕
定着部110に続いて排紙部112が設けられている。排紙部112には、画像が定着された記録媒体114を受ける排紙胴150と、該記録媒体114を積載する排紙台152と、排紙胴150に設けられたスプロケットと排紙台152の上方に設けられたスプロケットとの間に掛け渡され、複数の排紙用グリッパを備えた排紙用チェーン154とが設けられている。排紙用チェーン154による用紙搬送機構の詳細は図示しないが、印刷後の記録媒体114は無端状の排紙用チェーン154間に渡されたバー(不図示)のグリッパーによって用紙先端部が保持され、排紙用チェーン154の回転によって排紙台152の上方に運ばれてくる。
<ヘッドの構造>
次に、ヘッドの構造について説明する。各ヘッド130、136、140C、140M、140Y、140Kの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号250によってヘッドを示すものとする。
図26(a) はヘッド250の構造例を示す平面透視図であり、図26(b) はその一部の拡大図である。また、図27はヘッド250の他の構造例を示す平面透視図、図28は記録素子単位となる1チャンネル分の液滴吐出素子(1つのノズル251に対応したインク室ユニット)の立体的構成を示す断面図(図26中のA−A線に沿う断面図)である。
図26に示したように、本例のヘッド250は、インク吐出口であるノズル251と、各ノズル251に対応する圧力室252等からなる複数のインク室ユニット(液滴吐出素子)253をマトリクス状に2次元配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙送り方向と直交する方向)に沿って並ぶように投影(正射影)される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
記録媒体114の送り方向(矢印S方向;副走査方向)と略直交する方向(矢印M方向;主走査方向)に記録媒体114の描画領域の全幅Wmに対応する長さ以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図26(a)の構成に代えて、図27(a)に示すように、複数のノズル251が2次元に配列された短尺のヘッドモジュール250’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録媒体114の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成する態様や、図27(b)に示すように、ヘッドモジュール250”を一列に並べて繋ぎ合わせる態様もある。
各ノズル251に対応して設けられている圧力室252は、その平面形状が概略正方形となっており(図26(a)、(b) 参照)、対角線上の両隅部の一方にノズル251への流出口が設けられ、他方に供給インクの流入口(供給口)254が設けられている。なお、圧力室252の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。 図28に示すように、ヘッド250は、ノズル251が形成されたノズルプレート251Aと、圧力室252や共通流路255等の流路が形成された流路板252P等を積層接合した構造から成る。ノズルプレート251Aは、ヘッド250のノズル面(インク吐出面)250Aを構成し、各圧力室252にそれぞれ連通する複数のノズル251が2次元的に形成されている。
流路板252Pは、圧力室252の側壁部を構成するとともに、共通流路255から圧力室252にインクを導く個別供給路の絞り部(最狭窄部)としての供給口254を形成する流路形成部材である。なお、説明の便宜上、図28では簡略的に図示しているが、流路板252Pは一枚又は複数の基板を積層した構造である。
ノズルプレート251A及び流路板252Pは、シリコンを材料として半導体製造プロセスによって所要の形状に加工することが可能である。
共通流路255はインク供給源たるインクタンク(不図示)と連通しており、インクタンクから供給されるインクは共通流路255を介して各圧力室252に供給される。
圧力室252の一部の面(図28において天面)を構成する振動板256には、個別電極257を備えたピエゾアクチュエータ258が接合されている。本例の振動板256は、ピエゾアクチュエータ258の下部電極に相当する共通電極259として機能するニッケル(Ni)導電層付きのシリコン(Si)から成り、各圧力室252に対応して配置されるピエゾアクチュエータ258の共通電極を兼ねる。なお、樹脂などの非導電性材料によって振動板を形成する態様も可能であり、この場合は、振動板部材の表面に金属などの導電材料による共通電極層が形成される。また、ステンレス鋼(SUS)など、金属(導電性材料)によって共通電極を兼ねる振動板を構成してもよい。
個別電極257に駆動電圧を印加することによってピエゾアクチュエータ258が変形して圧力室252の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル251からインクが吐出される。インク吐出後、ピエゾアクチュエータ258が元の状態に戻る際、共通流路255から供給口254を通って新しいインクが圧力室252に再充填される。
かかる構造を有するインク室ユニット253を図26(b)に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。かかるマトリクス配列において、副走査方向の隣接ノズル間隔をLsとするとき、主走査方向については実質的に各ノズル251が一定のピッチP=Ls/tanθで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。
また、本発明の実施に際してヘッド250におけるノズル251の配列形態は図示の例に限定されず、様々なノズル配置構造を適用できる。例えば、図26で説明したマトリクス配列に代えて、一列の直線配列、V字状のノズル配列、V字状配列を繰り返し単位とするジグザク状(W字状など)のような折れ線状のノズル配列なども可能である。
なお、インクジェットヘッドにおける各ノズルから液滴を吐出させるための吐出用の圧力(吐出エネルギー)を発生させる手段は、ピエゾアクチュエータ(圧電素子)に限らず、サーマル方式(ヒータの加熱による膜沸騰の圧力を利用してインクを吐出させる方式)におけるヒータ(加熱素子)や他の方式による各種アクチュエータなど様々な圧力発生素子(エネルギー発生素子)を適用し得る。ヘッドの吐出方式に応じて、相応のエネルギー発生素子が流路構造体に設けられる。
図29は、ヘッド250内の流路構造を示した平面図である。図示のように、ヘッド250は、本流路320、321、支流路322、インク導入口(基幹供給口)324〜2327などからなるインク供給用の流路構造を備えている。図29における支流路322が図28の符号255で示した共通流路に相当している。
図29のように、支流路322は角度θの方向に沿って並ぶ各圧力室252の配置と同列に、複数列設けられ、上下の本流路320、321と連結されている。したがって、支流路322は本流路320、321の間に梯子状に掛け渡されるようにして配置される。また、各支流路322には、各圧力室252の供給口254が接続されている。すなわち、図29において角度θの方向に沿って並ぶノズル列のグループ(ここでは6ノズルを例示)毎に支流路322が設けられている。同一の支流路322に接続されているノズル同士(本例では6つのノズル)を同時に吐出させると、クロストークの影響を受ける可能性があるため、テストパターンの印字の際には、同じ支流路322からインクの供給を受けるノズル同士は、同時に駆動しないように、制御することが望ましい。また、回復用吐出を行う場合には、同一の流路に属するノズル群(ここでは、同一の支流路322に供給口254を介して直接接続されているノズル251のグループ)の同時駆動率を10%以下とすることが望ましい。図29では、図示の便宜上、同一支流路322に接続されるノズルの数を減らして描いているが、実際のヘッドでは、数十個(例えば20個〜50個程度)のノズルが同じ流路に接続されている場合がある。
ヘッド内流路の構造は、図29の例に限定されない。図30に他の例を示す。図30中、図29の例と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
クロストークは吐出の際の残響音波の伝播により、他のノズルの吐出に影響を与えることであるため、厳密に言えば接続されている全流路が影響する。ただし、その影響度はノズルと各流路間の抵抗に依存する。したがって、同じ支流路322内のノズル群同士のクロストークが影響度が高いものとなる。
なお、図18で説明したヘッド200のように、インク供給側の共通流路208の他に、共通戻し流路220を有している場合、供給側の流路(208)のみならず、戻り側の流路(220)についてもクロストークを媒介する流路となり得る。つまり、本発明における「同一流路」とは、発明実施の観点からは、「供給側の流路のみ」、「戻り側(回収側)の流路のみ」、若しくは、「供給側の流路かつ戻り側の流路の両方」の場合があり得る。
図26〜図30で説明したヘッド250に代えて、図18で説明したヘッド200を用いることもできる。
<制御系の説明>
図31は、インクジェット記録装置100のシステム構成を示すブロック図である。図31に示すように、インクジェット記録装置100は、通信インターフェース170、システムコントローラ172、画像メモリ174、ROM175、モータドライバ176、ヒータドライバ178、プリント制御部180、画像バッファメモリ182、ヘッドドライバ184等を備えている。
通信インターフェース170は、ホストコンピュータ186から送られてくる画像データを受信するインターフェース部(画像入力手段)である。通信インターフェース170にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。
ホストコンピュータ186から送出された画像データは通信インターフェース170を介してインクジェット記録装置100に取り込まれ、一旦画像メモリ174に記憶される。画像メモリ174は、通信インターフェース170を介して入力された画像を格納する記憶手段であり、システムコントローラ172を通じてデータの読み書きが行われる。画像メモリ174は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
システムコントローラ172は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置100の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。すなわち、システムコントローラ172は、通信インターフェース170、画像メモリ174、モータドライバ176、ヒータドライバ178等の各部を制御し、ホストコンピュータ186との間の通信制御、画像メモリ174及びROM175の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ188やヒータ189を制御する制御信号を生成する。
また、システムコントローラ172は、インライン検出部144から読み込んだテストチャートの読取データから着弾位置誤差のデータや濃度分布を示すデータ(濃度データ)を生成する演算処理を行う着弾誤差測定演算部172Aと、測定された着弾位置誤差の情報や濃度情報から濃度補正係数を算出する濃度補正係数算出部172Bとを含んで構成される。なお、着弾誤差測定演算部172A及び濃度補正係数算出部172Bの処理機能はASICやソフトウエア又は適宜の組み合わせによって実現可能である。
濃度補正係数算出部172Bにおいて求められた濃度補正係数のデータは、濃度補正係数記憶部190に記憶される。
ROM175には、システムコントローラ172のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データ(テストチャートを打滴するためのデータ、異常ノズル検知用の波形データ、描画記録用の波形データ、異常ノズル情報などを含む)が格納されている。ROM175は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。また、このROM175の記憶領域を活用することで、ROM175を濃度補正係数記憶部190として兼用する構成も可能である。
画像メモリ174は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
モータドライバ176は、システムコントローラ172からの指示に従って搬送系のモータ188を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ178は、システムコントローラ172からの指示に従って後乾燥部142等のヒータ189を駆動するドライバである。
プリント制御部180は、システムコントローラ172の制御に従い、画像メモリ174内の画像データ(多値の入力画像のデータ) から打滴制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理手段として機能するとともに、生成したインク吐出データをヘッドドライバ184に供給してヘッド250の吐出駆動を制御する駆動制御手段として機能する。
すなわち、プリント制御部180は、濃度データ生成部180Aと、補正処理部180Bと、インク吐出データ生成部180Cと、駆動波形生成部180Dとを含んで構成される。これら各機能ブロック(180A〜180D)は、ASICやソフトウエア又は適宜の組み合わせによって実現可能である。
濃度データ生成部180Aは、入力画像のデータからインク色別の初期の濃度データを生成する信号処理手段であり、濃度変換処理(UCR処理や色変換を含む)及び必要な場合には画素数変換処理を行う。
補正処理部180Bは、濃度補正係数記憶部190に格納されている濃度補正係数を用いて濃度補正の演算を行う処理手段であり、ムラ補正処理を行う。この補正処理部180Bは後述する第1補正方法及び第2補正方法の各方法による処理を行う。
インク吐出データ生成部180Cは、補正処理部180Bで生成された補正後の画像データ(濃度データ)から2値又は多値のドットデータに変換するハーフトーニング処理手段を含む信号処理手段であり、2値(多値)化処理を行う。ハーフトーン処理の手段としては、誤差拡散法、ディザ法、閾値マトリクス法、濃度パターン法など、各種公知の手段を適用できる。ハーフトーン処理は、一般に、M値(M≧3)の階調画像データをN値(N<M)の階調画像データに変換する。最も単純な例では、2値(ドットのオン/オフ)のドット画像データに変換するが、ハーフトーン処理において、ドットサイズの種類(例えば、大ドット、中ドット、小ドットなどの3種類)に対応した多値の量子化を行うことも可能である。
インク吐出データ生成部180Cで生成されたインク吐出データはヘッドドライバ184に与えられ、ヘッド250のインク吐出動作が制御される。
駆動波形生成部180Dは、ヘッド250の各ノズル251に対応したアクチュエータ258(図28参照)を駆動するための駆動信号波形を生成する手段であり、該駆動波形生成部180Dで生成された信号(駆動波形)は、ヘッドドライバ184に供給される。なお、駆動波形生成部180Dから出力される信号は、デジタル波形データであってもよいし、アナログ電圧信号であってもよい。
駆動波形生成部180Dは、記録用波形の駆動信号と、異常ノズル検知用波形の駆動信号とを選択的に生成する。各種波形データは予めROM175に格納され、必要に応じて使用する波形データが選択的に出力される。
プリント制御部180には画像バッファメモリ182が備えられており、プリント制御部180における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ182に一時的に格納される。なお、図31において画像バッファメモリ182はプリント制御部180に付随する態様で示されているが、画像メモリ174と兼用することも可能である。また、プリント制御部180とシステムコントローラ172とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
画像入力から印字出力までの処理の流れを概説すると、印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース170を介して外部から入力され、画像メモリ174に蓄えられる。この段階では、例えば、RGBの多値の画像データが画像メモリ174に記憶される。
インクジェット記録装置100では、インク(色材)による微細なドットの打滴密度やドットサイズを変えることによって、人の目に疑似的な連続階調の画像を形成するため、入力されたデジタル画像の階調(画像の濃淡)をできるだけ忠実に再現するようなドットパターンに変換する必要がある。そのため、画像メモリ174に蓄えられた元画像(RGB)のデータは、システムコントローラ172を介してプリント制御部180に送られ、該プリント制御部180の濃度データ生成部180A、補正処理部180B、インク吐出データ生成部180Cを経てインク色ごとのドットデータに変換される。
すなわち、プリント制御部180は、入力されたRGB画像データをK,C,M,Yの4色のドットデータに変換する処理を行う。こうして、プリント制御部180で生成されたドットデータは、画像バッファメモリ182に蓄えられる。この色別ドットデータは、ヘッド250のノズルからインクを吐出するためのCMYK打滴データに変換され、印字されるインク吐出データが確定する。
ヘッドドライバ184は、プリント制御部180から与えられるインク吐出データ及び駆動波形の信号に基づき、印字内容に応じてヘッド250の各ノズル251に対応するアクチュエータ258を駆動するための駆動信号を出力する。ヘッドドライバ184にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
こうして、ヘッドドライバ184から出力された駆動信号がヘッド250に加えられることによって、該当するノズル251からインクが吐出される。記録媒体114の搬送速度に同期してヘッド250からのインク吐出を制御することにより、記録媒体114上に画像が形成される。
上記のように、プリント制御部180における所要の信号処理を経て生成されたインク吐出データ及び駆動信号波形に基づき、ヘッドドライバ184を介して各ノズルからのインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
インライン検出部144は、図25で説明したように、イメージセンサを含むブロックであり、記録媒体114に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつき、光学濃度など)を検出し、その検出結果をプリント制御部180及びシステムコントローラ172に提供する。
プリント制御部180は、必要に応じてインライン検出部144から得られる情報に基づいてヘッド250に対する各種補正を行うとともに、必要に応じて予備吐出や吸引、ワイピング等のクリーニング動作(ノズル回復動作)を実施する制御を行う。
図中のメンテナンス機構194は、インク受け、吸引キャップ、吸引ポンプ、ワイパーブレードなど、ヘッドメンテナンスに必要な部材を含んだものである。
また、ユーザインターフェースとしての操作部196は、オペレータ(ユーザ)が各種入力を行うための入力装置197と表示部(ディスプレイ)198を含んで構成される。入力装置197には、キーボード、マウス、タッチパネル、ボタンなど各種形態を採用し得る。オペレータは、入力装置197を操作することにより、印刷条件の入力、画質モードの選択、付属情報の入力・編集、情報の検索などを行うことができ、入力内容や検索結果など等の各種情報は表示部198の表示を通じて確認することができる。この表示部198はエラメッセージなどの警告を表示する手段としても機能する。
本実施形態のインクジェット記録装置100は、複数の画質モードを有しており、ユーザの選択操作により、または、プログラムによる自動選択により、画質モードが設定される。この設定された画質モードで要求される出力画質レベルに応じて、異常ノズルを判断する基準が変更される。要求品質が高いほど、判定基準は厳しい方向に設定される。
各画質モードの印刷条件並びに異常ノズル判定基準に関する情報はROM175に格納されている。
図31で説明した着弾誤差測定演算部172A、濃度補正係数算出部172B、濃度データ生成部180A、補正処理部180Bが担う処理機能の全て又は一部をホストコンピュータ186側に搭載する態様も可能である。図31の駆動波形生成部180Dが「記録用波形信号生成手段」及び「異常ノズル検知用波形生成手段」に相当する。また、システムコントローラ172及びプリント制御部180の組合せが「検知用吐出制御手段」、「補正制御手段」、「記録用吐出制御手段」、「回復用吐出制御手段」、及び「回復用パターン形成制御手段」に相当する。
また、図31のシステムコントローラ172は、図22の符号300で説明した制御部
として機能する。
<インライン検出部の構成例>
図32は、インライン検出部144の構成図である。インライン検出部144は、ラインCCD270(「画像読取手段」に相当)と、そのラインCCD270の受光面に画像を結像させるレンズ272、光路を折り曲げるミラー273とを一体とした読取センサ部274が、並列に配置され、記録媒体上の画像を夫々読み取る。ラインCCD270はRGB3色のカラーフィルタを備えた色別のフォトセル(画素)アレイを有し、RGBの色分解によりカラー画像の読み取りが可能である。例えば、RGB3ライン夫々のフォトセルアレイの隣には、1ライン中の偶数画素と奇数画素の電荷とを夫々、別々に転送するCCDアナログシフトレジスタを備える。
具体的には、画素ピッチ9.325μm、7600画素×RGB、素子長(フォトセルの配列方向のセンサ幅)70.87mmのNECエレクトロニクス株式会社のラインCCD「μPD8827A」(商品名)を用いることができる。
ラインCCD270は、フォトセルの配列方向と記録媒体が搬送されるドラムの軸が平行になる配置形態で、固定される。
レンズ272は搬送ドラム(図25の圧胴126d)上に巻かれた記録媒体上の画像を所定の縮小率で結像させる縮小光学系のレンズである。例えば、0.19倍に画像を縮小するレンズを採用した場合、記録媒体上の373mm幅がラインCCD270上に結像される。このとき、記録媒体上の読み取り解像度は518dpiとなる。
図32のようにラインCCD270と、レンズ272、ミラー273とを一体とした読取センサ部274を搬送ドラムの軸と平行に移動調整可能とし、2つの読取センサ部274の位置を調整して、夫々の読取センサ部274が読み取る画像が僅かに重なる配置とする。また、図32には示されていないが、検出のための照明手段として、例えば、キセノン蛍光ランプがブラケット275の裏面、記録媒体側に配置され、定期的に白色基準板が画像と照明の間に挿入され、白基準を測定する。その状態でランプを消灯して、黒基準レベルを測定する。
ラインCCD270の読み取り幅(一度に検査できる範囲)は、記録媒体における画像記録領域の幅との関係で多様な設計が可能である。レンズ性能と解像度の観点から、例えば、ラインCCD270の読み取り幅は、画像記録領域の幅(検査対象となり得る最大の幅)の1/2程度としている。
ラインCCD270によって得られた画像データは、A/Dコンバータ等によってデジタルデータに変換され一時的なメモリへ格納された後、システムコントローラ172を介して処理され、画像メモリ174へ格納される。
<オンライン吐出不良検知用パターンの形成例>
図33は、印刷中に異常ノズルを早期に検知するための検知用パターン(テストチャート)の形成例である。ここでは、記録媒体114における画像形成領域302の外側の余白部分(「非画像領域」)304に検知用パターン310を形成している。図33において縦方向の下向きが記録媒体搬送方向である。記録媒体114の搬送方向について用紙先端側の余白部分304に検知用パターン310を形成したが、用紙後端部の余白部分に検知用パターンを形成することもできる。
画像形成領域302は、目的の画像を描画する領域である。画像形成領域302に目的の画像を描画記録した後は、裁断線306に沿って裁断され、周囲の非画像部を除去して当該画像形成領域302の画像部が製品印刷物として残される。
検知用パターン310としては、例えば、ヘッド内の各ノズルについて独立した副走査方向ラインを形成できる、いわゆる「1オンnオフ」タイプのラインパターンが形成される。
1つのノズルから連続的に液滴を吐出しつつ、記録媒体114を搬送することにより、記録媒体114上には当該ノズルからの着弾インクによるドットが副走査方向にライン状に並んだドット列(ライン)が形成されるが、高記録密度のラインヘッドの場合、全てのノズルから同時に打滴すると隣接ノズルによるドット同士が部分的に重なり合うため、ノズル毎のラインを判別できなくなる。各ノズルで形成されるラインを個別に判別できるようにするため、同時吐出するノズル間の間隔を、少なくとも1ノズル、好ましくは3ノズル以上、あけてライン群を形成する。
本例では、1つのラインヘッドにおいて、実質的に主走査方向に沿って1列に並ぶノズル列(正射影によって得られる実質的なノズル列)を構成するノズルについて、その主走査方向の端から順番にノズル番号を付与したとき、ノズル番号を2以上の整数「A」で除算したときの剰余数「B」(B=0,1・・A−1)によって同時吐出するノズル群をグループ分けし、AN+0、AN+1、・・・AN+Bのノズル番号のグループごとに打滴タイミングを変えて、それぞれ各ノズルからの連続打滴によるライン群を形成する(ただし、Nは0以上の整数)。
これにより、各ラインブロック内で隣接ライン同士が重なり合わず、全ノズルについてそれぞれ独立したラインを形成できる。CMYKの各インク色に対応するヘッドについて、同じような検知パターンが形成される。
ただし、記録媒体114における非画像部304の領域には制限があるため、1枚の記録媒体114における非画像部304に全ヘッド全ノズル分のラインパターン(テストチャート)を形成できないことがある。このような場合は、複数枚の記録媒体114に分けてテストチャートが形成される。例えば、1枚の記録媒体114における非画像部304に形成できるテストチャートが全ノズルの1/8であるとすると、8枚の記録媒体114に分けて全ノズルの打滴結果をチェックすることになる。
また、異常ノズル検知用波形として、ノズル内部要因の増幅に適した波形と、ノズル外部要因の増幅に適した波形の2種類の波形を用いる場合には、更に2倍の16枚の記録媒体で全ヘッド全ノズルの要因別チェックが可能となる。そして、全ヘッドの全ノズルについて異常の有無を確認し、発見された異常ノズルに対する補正処理が行われるまでの間も画像部についての描画記録は継続することができる。
ただし、全ノズルの確認が一巡するまでに多くの枚数を要することになるため、ノズル内部要因の増幅に適した波形、又は、ノズル外部要因の増幅に適した波形のいずれか1種類の波形のみを用いる構成も可能である。また、ノズル内部要因の増幅に適した波形による検知とノズル外部要因の増幅に適した波形による検知の実施頻度を異ならせる構成も可能である。
<ムラ補正シーケンスのフローチャート(例1)>
図34は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置におけるムラ補正のシーケンスを示すフローチャートである。本例のムラ補正は、印刷ジョブによる連続印刷の開始前に、装置内のセンサ(インライン検出部144)によってテストチャートを測定して補正データを取得する事前補正の工程(ステップS11)と、連続印刷中にインライン検出部144でテストチャートを測定することで、連続印刷を実施しながら(印刷を中断することなく)、適応的に補正を行うオンライン補正の工程(ステップS20〜S38)とを組み合わせたものとなっている。
事前補正の工程(ステップS11)では、事前ムラ補正の処理と並行して事前吐出不良検知の処理が行われる。
図35に事前補正処理のフローチャートを示す。図35に示すように、事前補正処理では、まず、記録媒体(用紙)の画像部に描画用駆動波形を用いてオンライン吐出不良検知用ムラ補正パターンを描画する(ステップS101)。このオンライン吐出不良検知用ムラ補正パターンには、各ノズルの着弾位置ばらつき(着弾誤差)の測定に適したラインパターン、不吐ノズルの位置を特定するのに適したラインパターン、濃度ムラなどの測定に適した濃度パターンなどを含んでよい。1枚の記録媒体にこれらテストパターンを組み合わせて印字してもよいし、各テストパターンの要素を複数枚の記録媒体に分けて印字してもよい。
また、上記オンライン吐出不良検知用ムラ補正パターンの描画後に、図14〜図17で説明した回復用吐出や、図18〜図24で説明したノズル面清掃動作が行われる。
こうして出力されたムラ補正パターンの印字結果を装置内のインライン検出部144を利用して読み取り、濃度データや、各ノズルの着弾位置誤差を示す着弾誤差データ、不吐出ノズルの位置を特定した不吐出ノズルデータなど、画像補正等の処理に必要な各種データを生成する(ステップS102)。
このムラ補正パターンの測定結果を利用して、インクジェット記録装置100は、所定の補正方法を適用してムラ補正を行う(ステップS103)。ここでは、補正方法として、後述する第1補正方法又は第2補正方法のうち、いずれか1種類の補正方法を適用する。
また、上記ステップS101〜S103で示した事前ムラ補正と並行して、ステップS104〜S109に示す事前吐出不良検知が行われる。すなわち、用紙先端部若しくは画像部に、異常ノズル検知用波形でオンライン吐出不良検知用パターン(テストチャート)を形成し(ステップS104)、これをインライン検出部144により測定する(ステップS105)。なお、異常ノズル検知用波形は、1種類又は複数種類の波形が用いられる。ノズル内部・外部の異常原因に対応できる波形又は複数種類の波形を用いることが好ましい。
この測定結果から吐出不良ノズルを検知し(ステップS106)、特定した吐出不良ノズルを不吐出化処理する(ステップS107)。つまり、描画時の打滴に使用しないものとする。また、ヘッド中の不吐出ノズルの情報(不吐出ノズルデータ)を生成し(ステップS108)、これをメモリ等の記憶手段に保存する。
そして、これら不吐出ノズルに対応したムラ補正の処理を行う(ステップS109)。このときのムラ補正の方法は、ステップS103で採用する補正方法と同じ方法を採用することが可能である。また、ステップS103とは異なる補正方法を採用してもよい。
上記のような事前補正の工程(ステップS101〜109)によって取得された補正係数のデータ、並びに不吐出ノズルデータ、着弾誤差データは、インクジェット記録装置100内の記憶手段(好ましくは、不揮発性記憶手段、例えば、ROM175)に格納される。
なお、図35で説明した事前補正を実施するタイミングは特に限定されないが、例えば、数日に1回の頻度で、装置起ち上げ時などに行われる。
(第1補正方法について)
第1補正方法として、例えば、特開2006−347164号公報に開示された公知の補正手段を用いることができる。この方法は、着弾誤差による濃度ムラを是正することができる。同公報には、次の構成からなる画像記録装置(1)〜(8)が開示されている。
(1)複数の記録素子を有する記録ヘッドと、前記記録ヘッド及び被記録媒体のうち少なくとも一方を搬送して前記記録ヘッドと前記被記録媒体を相対移動させる搬送手段と、前記記録素子の記録特性を示す情報を取得する特性情報取得手段と、前記複数の記録素子のうち、その記録素子の記録特性に起因する濃度ムラを補正する補正対象記録素子を決定する決定手段と、前記複数の記録素子のうち、出力濃度の補正に用いるN個(ただし、Nは2以上の整数)の補正記録素子を設定する補正範囲設定手段と、前記補正対象記録素子の記録特性に起因する濃度ムラを算出し、同濃度ムラの空間周波数特性を表すパワースペクトルの低周波成分を低減する補正条件に基づいて前記N個の補正記録素子の濃度補正係数を決定する補正係数決定手段と、前記補正係数決定手段で決定された濃度補正係数を用いて出力濃度を補正する演算を行う補正処理手段と、前記補正処理手段による補正結果に基づいて前記記録素子の駆動を制御する駆動制御手段と、を備えたことを特徴とする画像記録装置。
(2)前記補正条件は、濃度ムラの空間周波数特性を表すパワースペクトルの周波数原点(f=0)における微分係数が略0となる条件であることを特徴とする(1)に記載の画像記録装置。
(3)前記補正条件は、空間周波数の直流成分の保存条件と、N−1次までの微分係数が略0となる条件より得られるN本の連立方程式で表されることを特徴とする(2)記載の画像記録装置。
(4)前記記録特性は、記録位置誤差であることを特徴とする(1)乃至(3)の何れか1項に記載の画像記録装置。
(5)前記記録素子の位置を特定するインデックスをiとし、記録素子iの記録位置をxiとするとき、記録素子iの濃度補正係数diは、次式
を用いて決定されることを特徴とする(4)記載の画像記録装置。
(6)前記記録素子の印字モデルを記憶する記憶手段を備え、
前記補正係数決定手段は、前記印字モデルに基づいて前記補正係数を決定することを特徴とする(1)又は(2)記載の画像記録装置。
(7)前記記録素子の記録状態に基づいて前記印字モデルを変更する変更手段を備えることを特徴とする(6)記載の画像記録装置。
(8)前記印字モデルは半球モデルであることを特徴とする(6)又は(7)記載の画像記録装置。
記録画像における濃度の不均一性(濃度ムラ)は、空間周波数特性(パワースペクトル)での強度で表すことができ、濃度ムラの視認性はパワースペクトルの低周波成分で評価できる。例えば、濃度補正データを用いた補正後のパワースペクトルの周波数原点(f=0)における微分係数が略0となる条件を用いて濃度補正係数を決めることで、周波数原点でのパワースペクトルの強度が最小となり、原点付近(すなわち、低周波領域)のパワースペクトルを小さく抑えることができる。これにより、精度のよいムラ補正を実現できる。
特開2006−347164号公報に開示された補正方法を用い、補正対象ノズル及びその周辺の補正範囲に含まれるノズルに対応する濃度補正係数を求める。ノズルの記録特性(着弾誤差など)に起因する濃度ムラを算出し、同濃度ムラの空間周波数特性を表すパワースペクトルの低周波成分を低減する補正条件に基づいて濃度補正データを算出する。当該濃度補正データを用いて、印刷用の入力画像データに対して画像データの補正を行う。
この画像データの補正処理は、ハーフトーニング処理(2値又は多値のドットデータに変換する処理)の手前段階の連続階調画像データに対して実施することが好ましい。
(第2補正方法について)
第2補正方法としては、特願2008−254809号の明細書に提案された補正方法を適用できる。第2補正方法では、不吐出ノズルを特定し、不吐出ノズル以外の周囲ノズルによって、その不吐出ノズルの濃度を補うように画像データを補正する補正係数を算出する。特願2008−254809号の明細書では、次の構成([1],[2])を提案している。
[1]所定の方向に配置された複数の記録素子を備えた記録ヘッドによって記録された濃度測定用テストチャートの画像を読み取って、各記録素子の記録濃度を示す濃度情報を取得する手段であって、前記記録素子の配列に沿う方向の読み取り解像度が前記記録素子の記録解像度よりも小さい濃度情報取得手段と、前記記録素子の不吐出の有無を示す不吐出情報を取得する不吐出情報取得手段と、前記不吐出取得手段によって取得した不吐出情報に基づいて、前記濃度情報取得手段によって取得した濃度情報を修正する濃度情報修正手段と、前記修正された濃度情報から濃度ムラ補正情報を算出する濃度ムラ補正情報算出手段と、前記不吐出情報に基づいて不吐出を補正する不吐出補正情報を算出する不吐出補正情報算出手段と、前記濃度ムラ補正情報と前記不吐出補正情報とを合算し画像データ補正情報を算出する画像データ補正情報算出手段と、を備える画像処理装置。
[2]前記濃度情報修正手段は、前記不吐出情報に基づいて不吐出の記録素子を特定し、該不吐出の記録素子に対応する濃度情報を修正前の濃度情報よりも高く修正する、[1]記載の画像処理装置。
なお、具体的な方法については、後述の図34〜図42で説明する。
図34のフローチャートの説明に戻り、ステップS11において事前補正の処理を行い、補正に必要なデータを取得後、適宜のタイミングで多数枚の連続印刷を行う印刷JOBが開始される(ステップS20)。印刷開始後は、第2補正方法に準じた補正方法によるオンライン補正が行われる。すなわち、印刷が開始されると、用紙先端部の非画像部に、異常ノズル検知用波形でオンライン吐出不良検知用パターン(テストチャート)を形成し(ステップS22)、画像部については通常の描画用駆動波形の駆動信号によって目的の画像が描画記録される(ステップS24)。
図36は、オンライン吐出不良検知用テストチャートの例を示す平面図である。図36に示すように、このテストチャートC1は、インク打滴ヘッド250を用いてy方向(副走査方向)に略平行な線状のパターン400をx方向(主走査方向)に所定の間隔で印字したものである。ここで、パターン400のx方向の間隔dは、インライン検出部144の解像度に応じて設定される。例えば、インク打滴ヘッド250のx方向の実質的なノズル密度Nを1200npi、インライン検出部144のx方向の読み取り解像度Rを400dpiとした場合、パターン400のx方向の間隔dは、d≧1/R=1/400[インチ]となる。
不吐出検出用テストチャートC1を作成する場合、具体的には、x方向にn(≧3(=N÷R=1200÷400))ノズルおきにインクを吐出させて1行分のパターン400Lを印字する。次に、インクを吐出させるノズルをx方向に1つずらしてnノズルおきに印字する。これをn回繰り返すことにより、すべてのノズルからの液体吐出によるパターン2400が印字される。これにより、すべてのノズルに対して、インライン検出部144の解像度で不吐出ノズルであるかどうかを判定することが可能なテストチャートC1を作成することができる。
テストチャートC1及び画像部の描画記録が完了した記録媒体114は、渡し胴124d及び圧胴126d等の搬送手段によって搬送され、インライン検出部144によってオンライン吐出不良検知用パターンの印字結果が読み取られる(ステップS26)。この読み取り情報を基に、吐出不良の有無が判定される(ステップS28)。
異常ノズルの判断基準に関する情報は、予めROM175等に記憶されており、画質モードに応じた判定基準値が設定される。例えば、飛翔曲がりによる着弾誤差の許容値や、ライン幅の許容値(吐出量の許容値)、濃度値など、1つ又は複数の評価項目に関する基準値が規定される。この基準値に従い異常ノズルの有無が判断され、異常ノズルが特定される。
ステップS28において、吐出不良(不吐出や飛翔曲がり)のノズルが存在しなければ、ステップS22に戻り、目的画像の印刷を継続しながら上記処理(ステップS22〜S28)を繰り返す。
その一方、ステップS28において、吐出不良のノズルが存在しているときは、当該異常ノズルの位置を特定し、この異常ノズルを画像部の描画時に使用しない不吐出ノズルとして取り扱うべく、不吐出ノズルを示す不吐出ノズルデータを更新する(ステップS30)。そして、次の記録媒体114の非画像部に、上記吐出不良に対応したムラ補正パターンを作成する(ステップS32)。このムラ補正パターンは、上記特定された異常ノズルからの打滴を禁止して(吐出を止めて)、残りの正常ノズルのみで濃度測定用のパターンを印字したものである。
非画像部においてムラ補正パターンを描画した場合の当該記録媒体114の画像部についての描画記録は、ステップS28で異常ノズルとして検出されたノズルも使用して(吐出させ)、かつ、通常の記録用波形の駆動信号を用いて行われる(ステップS32)。つまり、1枚前の印刷時と同じ条件で描画が続けられる。
図37は、濃度測定用テストチャート(ムラ補正パターン)の例を示す平面図である。図37に示すように、濃度測定用テストチャートC2は、x方向に濃度が一定で、y方向に濃度が段階的に変化する濃度パターンを印字したものである。この濃度測定用テストチャートC2の画像をインライン検出部144によって読み取ることにより、インライン検出部144のノズル列方向の画素位置(測定濃度位置)に対応する濃度データを得ることができる。なお、記録媒体114の余白領域の制約から、複数枚の記録媒体114に分けてテストチャートC2を形成してもよい。
ムラ補正パターン(テストチャートC2)及び画像部の描画記録が完了した記録媒体114は、渡し胴124d及び圧胴126d等の搬送手段によって搬送され、インライン検出部144によって、当該テストチャートC2の印字結果が読み取られる(図34のステップS36)。この読み取り情報からデータが得られ、主走査方向の濃度分布を表す濃度データが得られる。
そして、この測定結果を基に画像データが補正される(ステップS38)。
図38は、ステップS38における画像データの補正処理のフローチャートである。
濃度測定用チャートの濃度を測定した結果から、ノズル列方向(主走査方向;x方向という。)の濃度分布を示す濃度データを取得する(ステップS116)。次に、不吐出ノズルデータに基づいてノズル列方向の濃度データを修正する(ステップS118)。
図39は、図38のステップS118の濃度データの修正処理の詳細を説明するための図である。
まず、不吐出ノズルとして特定されたノズルに対して、x方向に隣り合うノズル対して不吐出濃度補正値(m1)を設定する(ステップS180)。ここで、不吐出濃度補正値(m1)は、予め実験的に定められてインクジェット記録装置100に保持された値であり、m1≧1(一例でm1=1.4〜1.6)である。なお、不吐出ノズルの両隣のノズル以外のノズルに対するm1の値は1.0である。そして、図39のm1’に示すように、ローパスフィルタ(LPF)又は移動平均演算により不吐出濃度補正値の値がx方向に平滑化(スムージング)される(ステップS182)。
次に、ノズル位置(ノズル番号)に対応する不吐出納所補正値m1’がインライン検出部144の画素位置(測定濃度位置)ごとの測定濃度修正値m1”に変換される(ステップS184)。図39に示す例では、説明の便宜上、ヘッド250のx方向のノズル密度1200npi、インライン検出部144のx方向の読み取り解像度400dpiとした。この場合、不吐出濃度補正値(m1’)を3(=1200÷400)ノズル単位で平均化することにより、測定濃度修正値が得られる。
次に、ステップS184において求めた測定濃度修正値m”により、下記の(式1)に従って、濃度データ(測定濃度値)を修正する(ステップS186)。
(修正された測定濃度値)=(測定濃度値)×(測定濃度修正値) …(式1)
図39に示す例では、測定濃度修正値は、不吐出ノズルを含む測定濃度位置及びその近傍の測定濃度位置では1.0より大きい値に設定され、当該測定濃度位置における測定濃度値は修正により高くなるようになっている。
次に、図38のステップS120に進み、ステップS118において修正された、インライン検出部144の測定濃度位置ごとの濃度データに基づいて、濃度ムラ補正値(シェーディングムラ補正値)を算出する(ステップS120)。
図40は、図38のステップS120の濃度ムラ補正値の算出処理の詳細を説明するための図である。
図40に示すように、まず、インライン検出部144の画素位置(測定濃度位置)とノズル位置との対応関係を示す解像度変換曲線に従って、ステップS118において修正された測定濃度位置ごとの測定濃度値がノズル位置ごとの濃度データに変換される(ステップS200)。
次に、ステップS200により得られたノズル位置ごとの濃度データD1と目標濃度値D0との差分が算出される(ステップS202)。
次に、画素値と濃度値との対応関係を示す画素値−濃度値曲線に従って、ステップS202において算出された濃度値の差分が画素値の差分に変換される(ステップS204)。この画素値の差分は、ノズル位置ごとの濃度ムラ補正値として画像バッファメモリ182に記憶される(ステップS206)。
次に、図38のステップS122に進み、不吐出ノズルデータを用いて、濃度ムラ補正値を不吐出補正値で補正する(ステップS122)。即ち、図41に示すように、不吐出ノズルの両隣のノズルに不吐出補正値(m2)が設定される。ここで、不吐出補正値(m2)は、予め実験的に定められてインクジェット記録装置100に保持された値であり、m2≧1.0(一例でm2=1.4〜1.6)である。なお、不吐出ノズルの両隣のノズル以外のノズルに対するm2の値は1.0である。そして、下記の(式2)により濃度ムラ補正値が補正される。なお、下記の(式2)では、濃度ムラ補正値に不吐出補正値を乗算しているが、加算するようにしてもよい。
(修正された濃度ムラ補正値)=(濃度ムラ補正値)×(不吐出補正値)…(式2)
次に、濃度ムラ補正値を用いて、入力された画像データを補正して出力用画像データを生成する(図38のステップS124)。こうして得られた補正後の出力画像データに基づいて、次の描画プロセスで記録媒体上に画像が描画される。
すなわち、図34のステップS38後は、ステップS40において、印刷ジョブが完了したか否かを判定し、未完了であれば、ステップS22に戻って、次の記録媒体114への描画を行う。ステップS38で画像データを補正した後の画像部の描画に際しては、先の吐出不良検知において異常ノズルと認定されたノズルは使用せずに(不吐化して)、他の正常ノズルのみで記録が行われる。
こうして、印刷ジョブが完了するまで上記の処理(ステップS22〜S40)が繰り返される。ステップS40にて印刷ジョブの完了が確認されたら、印刷を終了する(ステップS42)。
上述のとおり、連続印刷中に、画像部の描画記録を実施しながら、非画像部においてテストチャートの形成と当該テストチャートの読み取りを行い、その読み取り結果からオンライン補正が行われる。
本実施形態によれば、不吐出ノズルの存在に起因する濃度ムラの補正を行う際に、濃度測定用テストチャートの読み取りに使用するインライン検出部144の解像度によらず、正確な濃度補正を行うことができる。また、インライン検出部144の解像度を低くすることができるので、濃度ムラ補正に関するデータ量を減らして処理を軽くすることができる。また、インライン検出部144として低解像度で安価なものを用いることができるので、装置のコストを下げることができる。
[他の補正方法]
次に、他の補正方法について説明する。なお、以下の説明において、図34〜図41で説明した実施形態と同様の構成については説明を省略する。
図42は、図38のステップS118の濃度データの補正処理の詳細を示す図である。
図42に示すように、本実施形態では、濃度データの補正を行う際に、まず、解像度変換曲線に基づいて、不吐出ノズルデータの不吐出ノズルの位置を、インライン検出部144の測定濃度位置に変換する(ステップS180)。
次に、図34のステップS30において更新取得した不吐出ノズルデータに基づいて、インライン検出部144の測定濃度位置における不吐出ノズルの本数が求められ、不吐出発生本数テーブルT1に格納される(ステップS182)。図42に示す例では、ヘッド250のx方向のノズル密度1200npi、インライン検出部144のx方向の読み取り解像度400dpiとしているため、不吐出発生本数テーブルT1の各測定濃度位置における不吐出発生本数データとして0から3の値が保存される。
次に、不吐出発生本数データに基づいて、ノズル列方向の濃度データが下記の(式3)により修正される(ステップS184、S186)。
(修正された測定濃度値)=(測定濃度値)×(測定濃度修正値) …(式3)
ここで、測定濃度修正値は、実験的に決められたパラメータであり、インクジェット記録装置100のROM175に予め格納されている。図42に示す例では、測定濃度位置における不吐出ノズル数が多いほど、また、測定濃度値が大きいほど、測定濃度修正値が大きくなっている。即ち、ステップS186では、当該位置における不吐出ノズル数が多いほど、また、測定濃度値が大きいほど、当該位置における修正後の測定濃度値(濃度データ)が大きくなるように修正される。
本実施形態によれば、図38〜図41で説明した実施形態と同様、不吐出ノズルの存在に起因する濃度ムラの補正を行う際に、濃度測定用テストチャートの読み取りに使用するインライン検出部144の解像度によらず、正確な濃度補正を行うことができる。
[異常ノズルが多く検出された場合の対処]
図34のステップS28〜S30で説明した工程において、異常ノズルとして検知されたノズル数が所定の規定値を超えた場合には、使用者(ユーザ)に対して警告を行うことが好ましい。例えば、表示部198に警告メッセージを表示し、ヘッドメンテナンスの必要性等についてユーザに注意を喚起する。
或いは、上記の警告に代えて、又はこれと併せて、自動的にヘッドメンテナンスを実行する制御を行う態様も好ましい。この場合は、ヘッドをメンテナンス位置に移動する必要があるため、印刷を中断し、メンテナンス部において、加圧パージ、インク吸引、空吐出、ノズル面のワイピングなどのメンテナンス動作が実施される。
<ムラ補正シーケンスのフローチャートの例2>
図43は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置におけるムラ補正のシーケンスの第2例を示すフローチャートである。図43中、図34で説明したフローチャートと同一又は類似の工程には同一のステップ番号を付し、その説明は省略する。
図43に示したムラ補正シーケンスは、図34におけるインライン検出部を利用した事前補正に代えて、オフラインで事前補正を行うものとなっている。すなわち、図43に示すムラ補正は、印刷ジョブによる連続印刷の開始前に、オフラインでテストチャートを測定して補正データを取得する事前補正(オフライン補正)の工程(ステップS12〜S16)と、連続印刷中に装置内のセンサ(インライン検出部144)でテストチャートを測定することで、連続印刷を実施しながら(印刷を中断することなく)、適応的に補正を行うオンライン補正の工程(ステップS20〜S40)とを組み合わせたものとなっている。
図43に示すように、まず、オフライン測定用のテストチャートを出力し(ステップS12)、その印刷結果をオフラインスキャナ(不図示)によって詳細に測定する(ステップS14)。ここでいうテストチャートには、各ノズルの着弾位置ばらつき(着弾誤差)の測定に適したラインパターン、不吐ノズルの位置を特定するのに適したラインパターン、濃度ムラなどの測定に適した濃度パターンなどが含まれる。オフライン測定の場合は、記録媒体114の記録面全体(画像形成領域及び非画像領域)にテストパターンを形成することができる。
1枚の記録媒体にこれらテストパターンを組み合わせて印字してもよいし、各テストパターンの要素を複数枚の記録媒体に分けて印字してもよい。こうして出力されたテストチャートの印字結果をフラットベットスキャナなどの画像読取装置を利用して読み取り、各ノズルの着弾位置誤差を示す着弾誤差データや、不吐出ノズルの位置を特定した不吐出ノズルデータなど、画像補正等の処理に必要な各種データを生成する。なお、オフラインスキャナは、装置内のインライン検出部144よりも高解像度(高分解能)のものを使用することが望ましい。
こうして得られた各種データは、通信インターフェースや外部記憶媒体(リムーバブルメディア)等を介して、インクジェット記録装置100に入力される。
このオフライン測定結果を利用して、インクジェット記録装置100では、既述した着弾誤差による濃度ムラを是正する第1補正方法と、不吐出ノズルによる濃度ムラを是正する第2補正方法との2種類の補正方法を適用する。
こうして第1補正方法、第2補正方法の各方法で算出された補正係数のデータ、並びに不吐出ノズルデータ、着弾誤差データは、インクジェット記録装置100内の記憶手段(好ましくは、不揮発性記憶手段、例えば、ROM175)に格納される。
なお、オフラインの測定を実施するタイミングは特に限定されないが、例えば、数日に1回の頻度で、装置起ち上げ時などに行われる。また、オフライン測定用のテストチャートを形成する際には、記録用波形の駆動信号を用いることが可能であるし、異常ノズル検知用波形の駆動信号を用いても良く、両方の波形を用いて詳細に測定を行うことも可能である。ただし、着弾位置誤差を測定するためのテストチャートについては、記録用波形の駆動信号を用いることが好ましい。
図43のフローチャートにおけるステップS20以降の工程(ステップS20〜S42)は図38と同様であるため説明を省略する。
<ヘッド毎の駆動波形信号の微調整について>
CMYKの各ヘッド(又は、ヘッドモジュール)は、個々の特性により、それぞれ同じ駆動信号を与えた場合でも吐出される滴量や吐出速度が異なる場合がある。このため、ヘッド毎(又はヘッドモジュール毎)に波形の微調整を行う態様も好ましい。
例えば、異常ノズル検知用波形をヘッド毎に補正するための補正パラメータをROM175等に格納しておき、この補正パラメータを用いて各ヘッドに印加する駆動信号の波形を補正して良い。また、この補正パラメータを描画(記録)波形用の補正パラメータとして共通に用いて良い。
具体な方法の例として、予め装置出荷時などに描画用(記録用)波形でテストパターンを描画し、画像の濃度(もしくはドット径)の測定結果から、各ヘッドの補正パラメータ(例えば、波形の電圧倍率)を決定しておく。この補正パラメータの情報は、ROM175などに記憶され、吐出駆動時の波形補正に利用される。また、当該補正パラメータは異常ノズル検知用波形の補正にも適用される。
<記録媒体について>
「記録媒体」は、ノズルから吐出された液滴によるドットが記録される媒体の総称であり、印字媒体、被記録媒体、被画像形成媒体、受像媒体、被吐出媒体など様々な用語で呼ばれるものが含まれる。本発明の実施に際して、記録媒体の材質や形状等は、特に限定されず、連続用紙、カット紙、シール用紙、OHPシート等の樹脂シート、フイルム、布、配線パターン等が形成されるプリント基板、ゴムシート、その他材質や形状を問わず、様々な媒体に適用できる。
<ヘッドと用紙を相対移動させる手段について>
上述の実施形態では、停止したヘッドに対して記録媒体を搬送する構成を例示したが、本発明の実施に際しては、停止した記録媒体(被描画媒体)に対してヘッドを移動させる構成も可能であり、ヘッドと記録媒体を両方移動させる構成も可能である。なお、シングルパス方式のフルライン型の記録ヘッドは、通常、記録媒体の送り方向(搬送方向)と直交する方向に沿って配置されるが、搬送方向と直交する方向に対して、ある所定の角度を持たせた斜め方向に沿ってヘッドを配置する態様もあり得る。
<他の装置への応用例>
上記の実施形態では、グラフィック印刷用のインクジェット記録装置への適用を例に説明したが、本発明の適用範囲はこの例に限定されない。例えば、電子回路の配線パターンを描画する配線描画装置、各種デバイスの製造装置、吐出用の機能性液体として樹脂液を用いるレジスト印刷装置、カラーフィルタ製造装置、マテリアルデポジション用の材料を用いて微細構造物を形成する微細構造物形成装置など、液状機能性材料を用いて様々な形状やパターンを得るインクジェットシステムにも広く適用できる。
<付記>
本明細書では、不吐出補正技術並びにノズル面清掃技術に関して、以下の発明態様も開示する。
(発明16):発明1乃至14のいずれか1項において、前記異常ノズル検知手段として、前記異常ノズル検知用波形の駆動信号の印加による前記異常検知用の吐出結果を光学的に検出する光学センサが用いられることを特徴とするインクジェット記録装置。
光学センサの一例として、記録媒体上に形成されたパターン等の描画結果を読み取る画像読取手段を用いることができる。また、画像読取手段に代えて、飛翔中の液滴を捉える光学センサを用いることもできる。光学センサは、当該インクジェット記録装置の内部に設置されるものに限らず、装置と別体に構成されるスキャナなど外部装置とする態様も可能である。この場合、当該外部装置を含んだインクジェットシステム全体が「インンクジェット記録装置」と解釈される。更に、複数の光学センサを備える態様も可能である。例えば、読み取り解像度が異なる複数のセンサを備えることができる。
(発明17):発明16において、前記光学センサは、前記インクジェットヘッドによる描画後の記録媒体を搬送する搬送手段に対向して配置され、当該搬送手段によって搬送中の記録媒体の記録面を読み取る画像読取手段であることを特徴とするインクジェット記録装置。
かかる態様によれば、目的の画像を描画記録している印刷プロセス中に(描画を停止させることなく)、記録媒体上のテストパターンを読み取ることができ、その読み取り結果を補正に反映することができる。このように、描画中に異常ノズルの検知とその検知結果を反映した補正処理が可能なため、記録品質を維持しつつ、スループットが向上する。
(発明18):発明17において、前記目的の画像を前記記録媒体に描画記録する前に、前記光学センサによる事前検知とその検知結果を利用した事前補正が行われ、前記目的の画像の描画記録中に前記光学センサによる検知とその検知結果を利用した補正が行われることを特徴とするインクジェット記録装置。
かかる態様によれば、光学センサを用いて、描画記録前の事前補正と、目的画像の描画記録中のオンライン検出及び補正を両方行うことができる。事前補正により、高精度な検知と補正が可能であり、また、描画記録中の検知及び補正によって、連続記録中に発生し得る吐出異常にも対処することができる。
(発明19):発明18において、前記事前検知では、前記異常ノズル検知用波形として複数種類の波形を用い、前記目的画像の描画記録中の検知では、前記異常ノズル検知用波形として1種類の波形を用いることを特徴とするインクジェット記録装置。
記録媒体の非画像領域(余白部)に異常ノズル検知用のテストパターンを形成する場合には、余白領域の制限から、全ノズルを評価するためには複数枚の記録媒体を要する場合がある。このように、複数枚に分かれたテストパターンで全ノズルの異常の有無を評価する場合に、さらに複数種類の異常ノズル検知用波形を使用すると、全ノズルについて各波形種類での組合せが一巡するまでに要する記録媒体の枚数が増大することが考えられる。
描画記録中の検知において、1種類の波形のみを用いることにより、検知用パターンが一巡するまでに要する枚数を少なくすることができ、損紙の発生量を削減できる。
(発明20):発明16又は17において、前記搬送手段に対向して配置される前記光学センサに加え、当該光学センサとは異なる検出性能を有する第2の光学センサを備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
目標とする出力画像の品質やスループットなど、目的に応じて、使用する光学センサを選択的に変更することができる。使用する光学センサを自動的に切り換える切り換え制御手段を設ける態様の他、ユーザーの手動(マニュアル)操作などによってセンサを変更してもよい。
(発明21):発明20において、前記第2の光学センサは、前記搬送手段に対向して配置される前記光学センサと比較して分解能が異なることを特徴とするインクジェット記録装置。
例えば、装置内に設置する第1の光学センサと、装置外部に設置する第2の光学センサとについて、第2の光学センサを第1の光学センサよりも高分解能なものとする。
(発明22):発明20又は21において、前記第2の光学センサは、オフラインで記録媒体上の記録面を読み取るオフライン画像読取手段であり、前記目的の画像を前記記録媒体に描画記録する前に、当該第2の光学センサによる事前検知とその検知結果を利用した事前補正が行われ、目的の画像の描画記録中に前記光学センサによる検知とその検知結果を利用した補正が行われることを特徴とするインクジェット記録装置。
かかる態様によれば、第2の光学センサによる事前補正(オフライン検出及び補正)と、目的画像の描画記録中のオンライン検出及び補正を両方行うことができる。事前補正により、高精度な検知と補正が可能であり、また、描画記録中の検知及び補正によって、連続記録中に発生し得る吐出異常にも対処することができる。
(発明23):発明20に係るインクジェット記録装置は、発明19において、前記事前検知では、前記異常ノズル検知用波形として複数種類の波形を用い、前記目的画像の描画記録中の検知では、前記異常ノズル検知用波形として1種類の波形を用いることを特徴とする。
描画記録中の検知において、1種類の波形のみを用いることにより、検知用パターンが一巡するまでに要する枚数を少なくすることができ、損紙の発生量を削減できる。
(発明24):発明16乃至24のいずれか1項において、前記光学センサから得られる情報に対して、吐出異常であるか否かを判断する基準を定めた情報を格納した情報記憶手段を備え、前記基準に従い、吐出異常を示す異常ノズルが特定されることを特徴とするインクジェット記録装置。
異常ノズル検知用波形の駆動信号の印加によって、吐出不良が助長、増幅されるため、これを検出して得た情報(センサ出力信号など)を規定の基準と比較することで、描画画像上に画像欠陥が発生する前の段階で異常ノズルの有無を判別することができる。
(発明25):発明24おいて、複数の画質モードを有し、設定される画質モードによって前記基準を変更する制御手段を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
かかる態様によれば、要求される画質に応じて、スループットや信頼性を変更することができる。
(発明26):発明1乃至25のいずれか1項において、前記異常ノズルと判断された数に基づき、警告を出力する警告出力手段を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
異常ノズルとして検知されたノズル数が非常に多くなると、これらを不吐化処理する影響を他のノズルで十分に補うことができない場合も想定される。したがって、予め一定の判定基準値をメモリ等に記憶させておき、異常ノズル数が基準値を超えた場合には、使用者(ユーザ)に警告を提示する制御を行う態様も好ましい。
(発明27):発明1乃至26のいずれか1項において、前記異常ノズルと判断された数に基づき、前記インクジェットヘッドのメンテナンス動作を行わせる制御を行うメンテナンス制御手段を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
異常ノズル数が一定量を超えた場合には、自動的にヘッドメンテナンスを実行する制御を行う態様が好ましい。例えば、メンテナンス動作として、加圧パージ、インク吸引、空吐出、ノズル面のワイピングのうち少なくとも一つを行うための制御手段及びメンテナンス機構を設ける。これにより、異常ノズルが多くなり過ぎた場合の描画不良を防止することができる。
(発明28):複数のノズルが配列されるとともに各ノズルに対応した複数の圧力発生素子が設けられているインクジェットヘッドと、記録媒体を搬送する搬送手段と、前記インクジェットヘッドによって前記記録媒体上に目的の画像を描画記録する際に前記圧力発生素子に与えられる記録用波形の駆動信号を発生させる記録用波形信号生成手段と、前記インクジェットヘッドの異常ノズルを検知するための吐出を行う際に前記記録用波形よりも吐出速度を低下させる波形からなる第1の異常ノズル検知用波形の駆動信号を発生させる第1の異常ノズル検知用波形信号生成手段と、前記インクジェットヘッドの異常ノズルを検知するための吐出を行う際に前記記録用波形よりも前記ノズルからの液の盛り上がり量が大きくなる波形からなる第2の異常ノズル検知用波形の駆動信号を発生させる第2の異常ノズル検知用波形信号生成手段と、前記第1の異常ノズル検知用波形又は前記第2の異常ノズル検知用波形の駆動信号を前記圧力発生素子に印加して前記ノズルから異常検知用の吐出を行わせる検知用吐出制御手段と、前記異常検知用の吐出結果から吐出異常を示す異常ノズルを特定する異常ノズル検知手段と、を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
本発明によれば、ノズル内部の異常、及びノズル外部の異常に対して、それぞれの不良を助長、増幅して効果的に検出することができる。このため、高精度な検知が可能であり、低解像度のセンサによって検知することが可能となる。
(発明29):複数のノズルが配列されるとともに各ノズルに対応した複数の圧力発生素子が設けられているインクジェットヘッドによって記録媒体上に目的の画像を描画記録する際に前記圧力発生素子に与える記録用波形の駆動信号とは別に、前記インクジェットヘッドの異常ノズルを検知するための吐出を行う際に前記記録用波形よりも吐出速度を低下させる波形からなる第1の異常ノズル検知用波形の駆動信号を発生させる第1の異常ノズル検知用波形信号生成工程と、前記インクジェットヘッドの異常ノズルを検知するための吐出を行う際に前記記録用波形よりも前記ノズルからの液の盛り上がり量が大きくなる波形からなる第2の異常ノズル検知用波形の駆動信号を発生させる第2の異常ノズル検知用波形信号生成工程と、前記第1の異常ノズル検知用波形又は前記第2の異常ノズル検知用波形の駆動信号を前記圧力発生素子に印加して前記ノズルから異常検知用の吐出を行わせる検知用吐出制御工程と、前記異常検知用の吐出結果から吐出異常を示す異常ノズルを特定する異常ノズル検知工程と、を備えることを特徴とする異常ノズル検知方法。
(発明30):発明9又は10において、前記回収手段は、前記回収液を貯留する液体貯留部と、前記液体貯留部と前記回収孔とを連結する回収流路と、前記液体貯留部に貯留された前記回収液へ作用させる圧力を増減させる圧力増減手段と、を有するインクジェット記録装置。
(発明31):発明9又は10において、前記回収手段は、前記回収液を貯留する液体貯留部と、前記液体貯留部と前記回収孔とを連結する回収流路と、前記回収流路内の前記回収液へ作用させる圧力を増減させる圧力増減手段と、を有する。
(発明32):発明30又は31において、前記圧力増減手段は、前記回収液の粘度に応じて、前記回収液に作用させる圧力を変動させるインクジェット記録装置。
(発明33):発明9乃至32のいずれか1項において、前記圧力増減手段は、前記回収孔から前記回収液を前記液滴吐出面に溢れさせる前に、前記回収孔に負圧を作用させるインクジェット記録装置。
(発明34):発明9、10、30乃至33のいずれか1項において、前記回収液が、前記付着液を溶解又は分散する液体であるインクジェット記録装置。
(発明35):発明9、10、30乃至34のいずれか1項において、前記回収液の色が、前記付着液と同色、又は透明であるインクジェット記録装置。