近年、高輝度放電ランプ、特に高圧メタルハライドランプは、高効率、長寿命、高出力、高演色性等の特性を有するため、車載用ヘッドライトや室内照明として用いられるようになってきた。
一般に、高圧メタルハライドランプは、メタルハライド、Hg、希ガス等を充填した放電容器を有している。また、高圧メタルハライドランプは、放電容器を囲み、放電容器を熱的に遮断する外管を有している。また、外管は、放電容器の破損を防止し、有害な紫外線を遮蔽する作用も有している。さらに、外管は、ランプ基材に固定されており、ランプ基材には、2つの電流供給部材(ピン)が固定されている。また、外管と放電容器の間の空間は、熱を遮断するために真空になっており、そのため、ランプ基材には、上記空間を真空にするための排気管が固定されている。通常、外管およびランプ基材には、ホウ珪酸ガラス、セラミックス等の低膨張材料(熱膨張係数が40〜60×10-7/℃)が使用されており、電流供給部材および排気管にはコバール等の金属材料が使用されている。
外管内を真空に保つためには、外管とランプ基材を気密に封着する必要がある。外管とランプ基材を封着する方法には、バーナー等で加熱して、外管とランプ基材を融着する方法、ガラス粉末等を含有する封着材料により外管とランプ基材を封着する方法があるが、近年では、気密信頼性を確保するために、後者の方法が採用されつつある。特に、高輝度放電ランプ等の製造工程を簡略化するために、リング状の封着タブレットをランプ基材上に固定し、外管とランプ基材を封着する方法が検討されている。
図1は、高圧メタルハライドランプ1の断面概念図を示している。図1から明らかなように、封着材料4を介して、外管2とランプ基材5が封着されている。また、電流供給部材3は、ランプ基材5に挿入されて、封着材料4によりランプ基材5に固定されている。さらに、排気管6は、ランプ基材5に挿入されて、封着材料4によりランプ基材5に固定されている。なお、外管2の内部には、放電容器(図示せず)が配置されている。
高輝度放電ランプに使用する封着材料には、次のような特性が要求される。
(1)外管およびランプ基材の熱膨張係数と整合していること、つまり低膨張であること。
(2)外管およびランプ基材の耐熱温度以下で封着できること、具体的には600℃以下の温度で良好に流動すること。
(3)耐失透性に優れること、具体的には600℃以下の温度で失透し難いこと。
(4)PbO等の環境負荷物質を極力含有しないこと。
従来の鉛ホウ酸系ガラスは、低膨張のチタン酸鉛固溶体と適合性が良く、ガラス粉末にチタン酸鉛固溶体を添加すれば、封着材料の熱膨張係数を70×10-7/℃未満、更には40〜60×10-7/℃にすることができる(例えば、特許文献1参照)。この封着材料を用いて、外管とランプ基材を封着すれば、外管やランプ基材に不当な応力が残留し難く、高輝度放電ランプ内の気密信頼性を確保することができる。しかし、既述の通り、鉛ホウ酸系ガラスは、ガラス組成中のPbOの含有量が多いため、近年の環境的要請を満たすことができず、同様にして、チタン酸鉛固溶体は、PbOを主成分として含有しているため、近年の環境的要請を満たすことができない。
また、特許文献2に記載のビスマス系ガラスは、熱的安定性が乏しく、低膨張の耐火性フィラー粉末と適合性が悪いことから、ビスマス系ガラスに耐火性フィラー粉末を多く添加できないため、封着材料の熱膨張係数を70×10-7/℃未満、更には40〜60×10-7/℃にすることが困難である。よって、特許文献2に記載の封着材料を用いて、外管とランプ基材を封着すると、封着材料の熱膨張係数が大きくなるため、外管およびランプ基材に不当な応力が残留し、結果として、外管およびランプ基材にクラックが発生し、高輝度放電ランプ内の気密信頼性を確保することができない。
そこで、本発明は、近年の環境的要請を満たしつつ、熱膨張係数が小さく、また耐失透性に優れ、しかも600℃以下の温度で良好に流動する封着材料を得ることを技術的課題とし、具体的には、高輝度放電ランプに使用される外管とランプ基材の封着に好適な封着材料を得ることを技術的課題とする。
本発明者は、鋭意努力の結果、ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を含有する封着材料において、ガラス粉末を35〜75体積%、耐火性フィラー粉末を25〜65体積%に規制するとともに、封着材料の熱膨張係数を65×10−7/℃未満に規制し、更に、ガラス粉末のガラス組成範囲を、質量%で、Bi2O3 55〜85%、B2O3 5〜20%、ZnO 1〜15%、SiO2 1〜7%(但し、1%は含まない)に規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の封着材料は、ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を含有する封着材料において、(1)体積%で、ガラス粉末35〜75%、耐火性フィラー粉末25〜65%を含有し、(2)30〜300℃の温度範囲の熱膨張係数が65×10−7/℃未満であり、(3)ガラス粉末が、ガラス組成として、質量%で、Bi2O3 55〜85%、B2O3 5〜20%、ZnO 1〜15%、SiO2 1〜7%(但し、1%は含まない)を含有することを特徴とする。ここで、本発明でいう「熱膨張係数」は、30〜300℃の温度範囲において、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置で測定した値を指す。
本発明の封着材料は、30〜300℃の温度範囲の熱膨張係数が60×10−7/℃未満であることが好ましい。
本発明の封着材料は、30〜300℃の温度範囲の熱膨張係数が55×10-7/℃未満であることが好ましい。
本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末が、実質的にZnOおよび/またはP2O5を含まないことが好ましい。ここで、「実質的にZnOを含まない」とは、耐火性フィラー粉末の構成成分中において、ZnOの含有量が1質量%以下(好ましくは1000ppm以下)の場合を指す。また、「実質的にP2O5を含まない」とは、耐火性フィラー粉末の構成成分中において、P2O5の含有量が1質量%以下(好ましくは1000ppm以下)の場合を指す。
本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末が、コーディエライトであることが好ましい。
本発明の封着材料は、ガラス粉末が、ガラス組成として、更に、BaOを1〜10質量%含有し、且つモル比でZnO/BaOの値が3より大きいことが好ましい。
本発明の封着材料は、ガラス粉末が、ガラス組成として、質量%で、Bi2O3 60〜77%未満、B2O3 6〜15%、ZnO 5〜15%、BaO 1〜9%、CuO 0〜5%、Fe2O3 0〜2%、SiO2 1〜5%(但し、1%は含まない)、Al2O3 0〜5%含有し、且つモル比でZnO/BaOの値が3より大きいことが好ましい。
本発明の封着材料は、非結晶性であることが好ましい。ここで、「非結晶性」とは、示差熱分析(DTA)装置の測定で600℃までに結晶化ピークが発現しないものを指す。ここで、DTAは、大気中で行い、昇温速度10℃/分で室温から測定を開始する。
本発明の封着材料は、実質的にPbOを含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm以下の場合を指す。
本発明の封着材料は、軟化点が570℃以下であることが好ましい。ここで、「軟化点」とは、マクロ型DTA装置で測定した値を指す。ここで、DTAは、大気中で行い、昇温速度10℃/分とし、室温から測定を開始する。
本発明の封着材料は、30〜300℃の温度範囲において30〜65×10−7/℃の熱膨張係数を有する材料の封着に用いることが好ましい。
本発明の封着材料は、ランプの封着に用いることが好ましい。
本発明の封着タブレットは、封着材料を所定形状に焼結させた封着タブレットであって、封着材料が上記の封着材料であることが好ましい。封着タブレットを用いると、高輝度放電ランプ等の製造工程を簡略化することができる。なお、本発明において、封着タブレットの形状は、特に限定されないが、高輝度放電ランプ等のランプ基材への固定を想定すれば、リング状が好ましい。
本発明の封着材料において、ガラス粉末のガラス組成範囲を上記のように限定した理由は下記の通りである。なお、以下の%表示は、特に断りがある場合を除き、質量%を指す。
Bi2O3は、ガラスの軟化点を低くするための主要成分であり、その含有量は55〜85%、好ましくは60〜77%未満、より好ましくは64〜77%未満、更に好ましくは69〜77%未満、特に好ましくは71〜76%である。Bi2O3の含有量が55%より少ないと、ガラスの軟化点が高くなり過ぎて、600℃以下の温度で流動し難くなる。一方、Bi2O3の含有量が77%以上であると、ガラスの熱的安定性が低下しやすくなるとともに、ガラスの原料コストが高騰する。更に、Bi2O3の含有量が85%以上であると、ガラスの熱膨張係数が上昇しやすくなる。
B2O3は、ガラス形成成分として必須であり、その含有量は5〜20%、好ましくは6〜15%、より好ましくは7〜13%である。B2O3の含有量が5%より少ないと、ガラスネットワークが十分に形成されないため、ガラスが失透しやすくなる。一方、B2O3の含有量が20%より多いと、ガラスの粘性が高くなる傾向があり、600℃以下の温度で流動し難くなる。
ZnOは、ガラスの失透を抑制するとともに、ガラスの粘性の上昇を抑制する効果があり、その含有量は1〜15%、好ましくは3〜15%、より好ましくは5〜15%、更に好ましくは7〜13%である。ZnOの含有量が1%より少ないと、ガラスの失透を抑制する効果が得られにくくなるとともに、ガラスの熱膨張係数が上昇しやすくなり、しかもガラスの粘性が高くなる傾向があり、600℃以下の温度で流動し難くなる。一方、ZnOの含有量が15%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下しやすくなる。
SiO2は、封着材料を焼成する際に、ガラスの表面に結晶が析出する事態を抑制するとともに、ガラスの耐水性を向上させ、更にはガラスの熱膨張係数を低下させる成分であり、その含有量は1〜7%(但し、1%は含まない)、好ましくは1〜7%(但し、1%は含まない)、より好ましくは1〜5%(但し、1%は含まない)、更に好ましくは1.1〜4%である。SiO2の含有量が7%より多いと、ガラスの軟化点が高くなり、600℃以下の温度で流動し難くなる。
本発明の封着材料において、ガラス粉末のガラス組成中に上記成分以外にも下記の成分を含有させても良い。
BaOは、溶融時にガラスの失透を抑制する効果がある成分であり、その含有量は0〜10%が好ましく、1〜7%がより好ましく、1〜5%が更に好ましい。特に、BaOの含有量を1〜7%とすれば、ガラスの粘性の上昇を抑制しながら、ガラスの熱的安定性を向上させることができる。BaOの含有量が10%より多いと、ガラス転移点が高くなり、600℃以下の温度で流動し難くなるとともに、ガラスの熱膨張係数が高くなりやすい。
モル比ZnO/BaOは、ガラスの熱膨張係数およびガラスの粘性に影響を及ぼす成分比率であり、その値は3より大きいことが好ましく、3.5以上がより好ましく、4以上が更に好ましく、10以上が特に好ましい。モル比ZnO/BaOの値が3以下であると、ガラスの熱膨張係数が上昇しやすくなる。モル比ZnO/BaOの値は、特に上限はないが、ガラスの熱的安定性を考慮すれば、40以下にするのが好ましく、30以下にするのがより好ましい。
CuOは、ガラスの失透を抑制する効果がある成分であり、その含有量は0〜5%が好ましく、0〜3%がより好ましく、0.1〜2.5%が更に好ましい。CuOの含有量が5%より多いと、他の成分とのバランスを欠き、逆に結晶の析出速度が大きくなって、すなわち失透傾向が増大して、ガラスの流動性が悪くなる傾向がある。
Fe2O3は、溶融時にガラスの失透を抑制する成分であり、その含有量は0〜2%が好ましく、0〜1%がより好ましく、0.1〜0.7%が更に好ましい。Fe2O3の含有量が2%より多いと、溶融時にガラスが分相しやすくなる。
Al2O3は、封着材料を焼成する際に、ガラスの表面に結晶が析出する事態を抑制するとともに、ガラスの耐水性を向上させ、更にはガラスの熱膨張係数を低下させる成分であり、それらの含有量は0〜5%が好ましく、0〜3%がより好ましい。Al2O3の含有量が5%より多いと、ガラスの軟化点が高くなり、600℃以下の温度で流動し難くなる。
SrO、MgOおよびCaOは、溶融時にガラスの失透を抑制する効果がある成分であり、これらの成分の合量(SrO+MgO+CaO)は0〜10%とするのが好ましく、0〜7%とするのがより好ましい。SrO+MgO+CaOの含有量が10%より多いと、ガラス転移点が高くなる傾向がある。なお、SrO、MgOおよびCaOの含有量は、それぞれ0〜5%とするのが好ましい。SrO、MgOおよびCaOの含有量がそれぞれ5%より多いと、他の成分とのバランスを欠き、逆に結晶の析出速度が大きくなって、すなわち失透傾向が増大して、ガラスの流動性が悪くなる傾向がある。
CeO2は、ガラスの失透性を抑制するための成分であり、その含有量は0〜5%が好ましく、0〜3%がより好ましく、0〜1%が更に好ましい。CeO2の含有量が5%より多いと、ガラスの軟化点が上昇し、600℃以下の温度で流動し難くなる。
WO3は、ガラスの失透を抑制するための成分であり、その含有量は0〜5%が好ましく、0〜2%がより好ましい。ビスマス系ガラスの軟化点を下げるためには、主要成分のBi2O3の含有量を多くする必要があるが、Bi2O3の含有量を多くすると、焼成時にガラスが失透しやすくなる。特に、Bi2O3の含有量が70%以上であると、その傾向が顕著になる。そこで、WO3を適量添加すれば、Bi2O3の含有量が70%以上であっても、ガラスの失透を抑制することができる。一方、WO3の含有量が5%より多いと、他の成分とのバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が悪化する傾向がある。
Sb2O3は、ガラスの失透を抑制するための成分であり、その含有量は0〜5%が好ましく、0〜2%がより好ましい。ビスマス系ガラスの軟化点を下げるためには、主要成分のBi2O3の含有量を多くする必要があるが、Bi2O3の含有量を多くすると、焼成時にガラスが失透しやすくなる。特に、Bi2O3の含有量が70%以上であると、その傾向が顕著になる。そこで、WO3を適量添加すれば、Bi2O3の含有量が70%以上であっても、ガラスの失透を抑制することができる。一方、Sb2O3の含有量が5%より多いと、他の成分とのバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が悪化する傾向がある。
In2O3+Ga2O3は、ガラスの失透を抑制するための成分であり、焼成時にビスマス系ガラスに結晶が析出して、流動性が損なわれることを防止する目的で添加される成分である。In2O3+Ga2O3の含有量は0〜7%が好ましく、0〜5%がより好ましく、0〜3%が更に好ましい。ビスマス系ガラスの軟化点を下げるためには、主要成分のBi2O3の含有量を多くする必要があるが、Bi2O3の含有量を多くすると、焼成時にガラスが失透しやすくなる。特に、Bi2O3の含有量が70%以上であると、その傾向が顕著になる。そこで、In2O3+Ga2O3を適量添加すれば、Bi2O3の含有量が70%以上であっても、ガラスの失透を抑制することができる。一方、In2O3+Ga2O3の含有量が7%より多いと、他の成分とのバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が悪化する傾向がある。特に、ガラスの失透を抑制する目的から、In2O3の含有量を0〜3%に規制するのが好ましい。また、同様の理由でGa2O3の含有量を0〜3%に規制するのが好ましい。
Li2O、Na2O、K2OおよびCs2Oのアルカリ金属酸化物は、ガラスの軟化点を低くする成分であるが、溶融時にガラスの失透を促進する作用を有するため、これらの成分の合量は2%以下とするのが好ましい。
P2O5は、溶融時にガラスの失透を抑制する成分であるが、その含有量が多いと、溶融時にガラスが分相しやくなる。それ故、P2O5の含有量は1%以下とするのが好ましい。
MoO3+La2O3+Y2O3(MoO3、La2O3およびY2O3の合量)は、溶融時にガラスの分相を抑制する効果があるが、これらの成分の合量が多いと、ガラスの軟化点が高くなり、600℃以下の温度で流動し難くなる。それ故、これらの成分の合量は3%以下とするのが好ましい。
既述の通り、本発明に係るガラス粉末は、環境的要請から、ガラス組成として、実質的にPbOを含有しないことが好ましい。また、ビスマス系ガラスにおいて、ガラス組成中にPbOを含有させると、ガラス中にPb2+が拡散して、電気絶縁性が低下するおそれがある。
なお、本発明に係るガラス粉末は、ガラス組成として、上記成分以外にも、他の成分を10%まで添加させることが可能である。
上記ガラス組成範囲において、各成分の好適な含有範囲を適宜選択し、更に好ましいガラス組成範囲とすることは、可能である。その中でも、ガラス組成範囲として、Bi2O3 60〜77%未満、B2O3 6〜15%、ZnO 5〜15%、BaO 1〜9%、CuO 0〜5%、Fe2O3 0〜2%、SiO2 1〜5%(但し、1%は含まない)、Al2O3 0〜5%含有し、且つモル比でZnO/BaOの値が3より大きいことがより好ましい。このようにすれば、ガラスの熱膨張係数を確実に低下させることができる。
本発明の封着材料において、30〜300℃の温度範囲の熱膨張係数は65×10−7/℃未満、好ましくは60×10−7/℃未満、より好ましくは55×10−7/℃未満である。熱膨張係数が65×10−7/℃以上であると、ホウ珪酸ガラス等の熱膨張係数に整合せず、封着後にホウ珪酸ガラス等および封着部位(封着層)に不当な応力が残留し、結果として、これらにクラック等が発生しやすくなり、高輝度放電ランプ等の気密信頼性を維持し難くなる。封着材料の熱膨張係数の下限値は、特に限定されないが、一般的にガラスの熱膨張係数が小さ過ぎると、ガラスの軟化点が上昇しやすくなるとともに、耐火性フィラー粉末の含有量が多過ぎると、封着材料の流動性が乏しくなるため、封着材料の熱膨張係数は35×10−7/℃以上に設定するのが目安になる。
本発明の封着材料は、非晶質であることが好ましい。このようにすれば、600℃以下の焼成でガラスの表面に結晶が析出し難く、つまりガラスが流動する前に、ガラスが失透し難く、所望の流動性を確保しやすくなる。また、封着材料が非晶質であると、封着強度が高まり、高輝度放電ランプ等の気密信頼性を確保しやすくなる。
本発明の封着材料において、ガラス粉末と耐火性フィラー粉末の混合割合は、ガラス粉末35〜75体積%、耐火性フィラー粉末25〜65体積%であり、ガラス粉末37〜64体積%、耐火性フィラー粉末36〜63体積%が好ましく、ガラス粉末40〜60体積%、耐火性フィラー粉末40〜60体積%がより好ましい。両者の割合をこのように規定した理由は、耐火性フィラー粉末が25体積%より少ないと、封着材料の熱膨張係数を70×10-7/℃未満に規制し難くなり、その結果、被封着物の熱膨張係数に整合し難くなり、残留応力により封着部位および被封着物が破壊しやすくなる。一方、耐火性フィラー粉末が65体積%より多いと、相対的にガラス粉末の含有量が少なくなるため、封着材料の流動性が悪くなり、高輝度放電ランプ等の気密信頼性を維持し難くなる。
耐火性フィラー粉末は、熱膨張係数が低く、機械的強度が高いことが要求される。耐火性フィラー粉末として、ウイレマイト、ジルコン、酸化スズ、コーディエライト、β−ユークリプタイト、チタン酸アルミニウム、セルシアン、石英ガラス、アルミナ、ムライト、β−スポジュメン、アルミナ−シリカ系セラミックス、タングステン酸ジルコニウムおよびNZP型結晶(例えば [AB2(MO4)3]の基本構造をもつ結晶物、
A:Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cu、Ni、Mn等
B:Zr、Ti、Sn、Nb、Al、Sc、Y等
M:Si、W、Mo等)
若しくはこれらの固溶体が使用可能である。
耐火性フィラー粉末には、ガラス粉末に添加しても熱的安定性を低下させない程度に反応性が低いことが要求される。このような観点から、耐火性フィラー粉末は、実質的にZnOおよび/またはP2O5を含まないことが好ましい。封着材料が耐火性フィラー粉末を含有している場合、封着材料の焼成時に、耐火性フィラー粉末の一部、つまり耐火性フィラーの表層部分がガラス中に溶解することに起因して、耐火性フィラー粉末の溶解成分が結晶核として作用し、ガラス表面の失透を促進するおそれがある。ビスマス系ガラスは、ガラス組成中のZnOやP2O5の含有量が増加すると、ガラスの熱的安定性が低下するため、耐火性フィラー粉末の構成成分中に、実質的にZnOおよび/またはP2O5を含まないようにすれば、焼成中にガラス表面に結晶が析出する事態を防止しやすくなる。
耐火性フィラー粉末としては、環境的要請から、実質的にPbOを含有しない耐火性フィラー粉末を使用するのが好ましい。
耐火性フィラー粉末として、コーディエライトは、ビスマス系ガラスの失透を抑制する効果が高く、低膨張であり、更には機械的強度に優れているため、特に好ましい。
また、耐火性フィラー粉末は、アルミナ、酸化亜鉛、ジルコン、チタニア、ジルコニア等で被覆すると、ガラス粉末と耐火性フィラー粉末との間での反応を調整することができる。
本発明の封着材料において、軟化点は570℃以下が好ましく、550℃以下がより好ましい。封着材料の軟化点が570℃より高いと、600℃以下の焼成で封着材料が流動し難くなり、所望の封着強度を確保できないおそれが生じる。
本発明の封着材料は、30〜65×10−7/℃の熱膨張係数(30〜300℃の温度範囲)を有する材料の封着に用いることが好ましく、35〜60×10−7/℃の熱膨張係数を有する材料の封着に用いることがより好ましい。具体的には、本発明の封着材料は、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス等のガラス材料、コバール等の金属材料、窒化アルミ等のセラミック材料等の封着に好適に使用することができる。本発明の封着材料は、熱膨張係数が70×10−7/℃未満に規制されているため、これらの材料と熱膨張係数が整合しやすく、封着後に、被封着物および封着部位に不当な応力が残留しにくく、結果として、これらにクラックが生じにくく、気密信頼性を損ない難い。被封着物の熱膨張係数が、30×10−7/℃より小さいと、封着材料と被封着物の熱膨張係数が整合せず、封着後に、被封着物および封着部位に不当な応力が残留しやすくなる。また、被封着物の熱膨張係数が、65×10−7/℃より大きいと、封着材料と被封着物の熱膨張係数が整合せず、封着後に、被封着物および封着部位に不当な応力が残留しやすくなる。
本発明の封着材料は、ランプの封着に用いることが好ましく、高輝度放電ランプの封着に用いることがより好ましく、高圧メタルハライドランプの封着に用いることが更に好ましい。本発明の封着材料を用いて、ランプを封着すると、製造工程を簡略化できるとともに、気密信頼性を確保することができる。
本発明の封着材料は、30〜300℃の温度範囲の熱膨張係数が65×10−7/℃未満であるため、ホウ珪酸ガラス等の熱膨張係数に整合させることができる。また、本発明の封着材料は、ガラス粉末が低融点であるため、600℃以下の温度で良好に流動するとともに、耐失透性に優れるため、600℃以下の温度で失透し難い。さらに、本発明の封着材料は、PbOを実質的に含有しない態様にすることができるため、近年の環境的要請を満たすことができる。したがって、本発明の封着材料は、封着材料に求められる既述の特性(1)〜(4)を満たすことができるため、高輝度放電ランプの外管とランプ基材の封着に好適である。なお、本発明の封着材料は、上記特性を有するため、電流供給部材とランプ基材の封着、排気管とランプ基材の封着にも好適である。
高輝度放電ランプ等の製造工程において、封着材料は、ビークルと混合し、ペースト状にして被封着物に塗布されたり、タブレットに加工して、被封着物に固定されたりする。
ガラスペーストの塗布は、スクリーン印刷機やディスペンサー等の塗布機で行われる。ガラスペーストは、所望の封着パターンを正確に形成するために、適正な粘度に規制する必要がある。また、ガラスペーストは、塗布後、速やかに乾燥し、グレーズ工程で有機樹脂が良好に分解することも要求される。このような事情から、ビークルは、一般的に、揮発しやすい有機溶媒に、低温で分解しやすい有機樹脂を溶かしたものが使用される。
有機樹脂は、ペーストの粘度を調整する成分であり、その添加量は、封着材料100質量%に対し、1〜20質量%であることが好ましい。有機樹脂として、アクリル樹脂、エチルセルロ−ス、ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレンカーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。特に、アクリル樹脂、ニトロセルロースは、熱分解性が良好であるため、好ましい。
有機溶媒は、封着材料をペースト化するための成分であり、その添加量は、封着材料100質量%に対し、5〜30質量%であることが好ましい。有機溶媒として、N、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、α−ターピネオール、高級アルコール、γ−ブチルラクトン(γ−BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3−メトキシ−3−メチルブタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン等が使用可能である。特に、α−ターピネオールは、高粘性であり、有機樹脂等の溶解性も良好であるため、好ましい。
封着タブレットは、以下のように複数回の熱処理工程を別途独立に経て、製造される。まず、封着材料に有機樹脂や有機溶剤を添加し、スラリーを形成する。その後、このスラリーをスプレードライヤー等の造粒装置に投入し、顆粒を作製する。その際、顆粒は、有機溶剤が揮発する程度の温度(100〜200℃程度)で熱処理される。さらに、作製された顆粒は、所定の寸法に設計された金型に投入され、リング状に乾式プレス成型され、プレス体が作製される。次に、ベルト炉等の熱処理炉にて、このプレス体に残存するバインダーを分解揮発させるとともに、ガラス粉末の軟化点程度の温度で焼結し、封着タブレットが作製される。また、熱処理炉での焼結は、複数回行われる場合がある。焼結を複数回行うと、封着タブレットの強度が向上し、封着タブレットの欠損、破壊等を防止することができる。
有機樹脂は、粉末同士を結合し、顆粒化するための成分であり、その添加量は、封着材料100質量%に対し、0〜20質量%であることが好ましい。有機樹脂として、アクリル樹脂、エチルセルロ−ス、ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレンカーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。特に、アクリル樹脂は、熱分解性が良好であるため、好ましい。
封着材料を顆粒化する際に、有機溶媒を添加すれば、スプレードライヤー等で顆粒化しやすくなるとともに、顆粒の粒度を調整しやすくなる。有機溶媒の添加量は、封着材料100質量%に対し、5〜35質量%であることが好ましい。有機溶媒として、N、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、α−ターピネオール、高級アルコール、γ−ブチルラクトン(γ−BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3−メトキシ−3−メチルブタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン等が使用可能である。特に、トルエンは、有機樹脂等の溶解性も良好であり、150℃程度で良好に揮発するため、好ましい。
本発明の封着材料は、有機ELディスプレイの封着に用いることが好ましい。このようにすれば、有機ELディスプレイ内の気密性を確保することができ、その結果、有機発光層等の経時劣化を防ぐことができ、有機ELディスプレイの長寿命化を図ることができる。有機ELディスプレイは、有機発光層やTFT等が熱劣化しやすいため、低温で封着する必要がある。このような事情から、有機ELディスプレイでは、構成部材の熱劣化を抑制するために、レーザー光等で封着材料を局所加熱し、ガラス基板同士を封着している。本発明の封着材料において、ガラス組成として、CuO+Fe2O3(CuOとFe2O3の合量)の含有量を0.1%以上とすれば、レーザー光等を吸収しやすく、本用途に好適に使用することができる。また、本発明の封着材料は、600℃以下の温度域で良好に流動するため、レーザー光等の局所加熱でガラス基板同士を強固に封着することができる。
有機ELディスプレイの封着に用いる場合、封着材料の30〜300℃の温度範囲の熱膨張係数は65×10−7/℃未満が好ましく、60×10−7/℃未満がより好ましい。一般的に、有機ELディスプレイは、ガラス基板として、無アルカリガラス基板(40×10−7/℃以下)が使用される。封着材料の熱膨張係数を65×10−7/℃未満に規制すれば、無アルカリガラス基板の熱膨張係数に整合しやすくなり、封着部位に不当な応力が残留し難くなる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
表1〜4は、本発明の実施例(試料No.1〜21)、本発明の比較例(試料No.22〜24)を示している。
表1〜4に記載の各試料は次のようにして調製した。
まず、表中に示したガラス組成となるように各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて1000〜1200℃で2時間溶融した。次に、溶融ガラスの一部をTMAおよび密度測定用試料としてステンレス製の金型に流し出し、その他の溶融ガラスは、水冷ローラーにより、薄片状に成形した。最後に、薄片状のガラスをボールミルにて粉砕後、目開き105メッシュの篩いを通過させて、平均粒子径D50が10μmの各ガラス粉末試料を得た。
耐火性フィラー粉末として、平均粒子径D50が10μmのコーディエライト粉末(表中ではCDRと表記)、ジルコン粉末、酸化スズ粉末(表中ではSnO2と表記)、タングステン酸ジルコニウム(表中ではZWと表記)、ウイレマイト粉末を使用した。
以上の試料を用いて、熱膨張係数、密度、ガラス転移点、軟化点、流動径および耐失透性を評価した。
熱膨張係数は、各試料を焼結させた後、5φ×20mmに加工して、TMA装置により30〜300℃の温度範囲で測定した。同様にして、ガラス転移点は、各試料を焼結させた後、5φ×20mmに加工して、TMA装置により測定した。
密度は、周知のアルキメデス法により測定した。
軟化点は、各粉末試料を用いて、DTA装置により求めた。
流動径は、封着材料の真比重に相当する重量の粉末を金型により外径20mmのボタン状に乾式プレスし、そのボタン試料を流気式熱処理炉に投入した後に空気中で10℃/分の速度で昇温し、560℃で10分間保持し、その後10℃/分の速度で室温まで降温し、得られた焼成ボタンの直径を測定することで評価した。なお、流動径が18mm以上であると、流動性が良好であることを意味している。
耐失透性は、次のようにして評価した。まず、各試料とビークル(アクリル樹脂含有のα−ターピネオール)を三本ロールミルで均一に混錬し、ペースト化した後、各試料の被封着物であるホウ珪酸ガラス基板(縦40×横40×2.8mm厚、熱膨張係数50×10-7/℃)の端部に線状(長さ40×幅3×1.5mm厚)に塗布し、乾燥オーブンで150℃10分間乾燥した。次に、室温から10℃/分で昇温し、基板を560℃10分間焼成した後、室温まで10℃/分で降温した。最後に、得られた焼成体の表面を観察して、表面に結晶が認められなかったものを「○」とし、表面に結晶が僅かに認められたものを「△」とし、表面全体に結晶が認められたものを「×」とした。
表1〜4から明らかなように、試料No.1〜21は、熱膨張係数が43.1〜59.0×10-7/℃であり、ホウ珪酸ガラスの熱膨張係数に整合していた。なお、上記耐失透性の評価において、ホウ珪酸ガラス基板に残留する応力値は適切であり、ホウ珪酸ガラス基板にクラックは発生していなかった。また、試料No.1〜21は、軟化点が503〜569℃、流動径が18mm以上であり、更には耐失透性も良好であった。以上の結果から明らかなように、試料No.1〜21は、ホウ珪酸ガラス基板(熱膨張係数40〜60×10-7/℃)等の封着に好適な封着材料であり、高輝度放電ランプ等の外管とランプ基材の封着に好適であることが分かる。
表3から明らかなように、本発明の比較例に係る試料No.22は、30〜300℃の温度範囲における熱膨張係数が70×10-7/℃より大きく、被封着物が低膨張である場合に、被封着物の熱膨張係数に整合せず、封着材料として使用し難いと考えられる。また、本発明の比較例に係る試料No.23、24は、ZnOの含有量が多いため、耐失透性の評価が不良であった。以上の結果から明らかなように、試料No.22〜24は、高輝度放電ランプ等の外管とランプ基材の封着に不適であることが分かる。