JP5339253B2 - X線応力測定方法 - Google Patents
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Description
また、研削加工された鋼材などでは、研削の際に工具によって加えられた特定方向への強い変形などに起因して、3軸応力が残留することが知られている(例えば、非特許文献1など)。3軸応力は、被検物の表面(x−y平面)に沿った成分(x軸、y軸方向の成分)と、該表面に対して垂直方向(z軸方向)の成分とを持った、3次元方向の応力を同時に含む応力状態である。
X線照射によって3軸応力を測定する方法(X線3軸応力測定法)の別方式の技術は、デール(Dolle)らによって提案されている。
従来のエリアディテクタ方式の3軸応力測定法では、例えば、回折環の中心角を1度間隔に解析すると、回折環全体からは合計360個の格子ひずみが得られるので、6個の3軸応力成分の決定に対して十分なデータが得られる。
尚、現場での測定や実用性を考慮すると、試料の設定の影響を受けやすくなる回折データの絶対値の使用をなるべく避け、相対的な変化を利用することが望ましい。この点から、以下の説明では、平面応力測定法(sin2 Ψ法)のような、回折データの相対的変化を通した3軸応力測定法について述べる。
〔式(1)〕
ここで、dは格子面間隔、θはブラッグ角、λはX線の波長、nは回折次数である。以下、n=1を用いる。
回折X線は、照射点(X線照射の標的となる測定点)を頂点とする円錐の側面を形成するように発生するため、入射X線に対して垂直にエリアディテクタを置くと、ほぼ円形の回折環が測定される。
デールらの測定方法では、回折環の一端の回折強度分布測定を通してθを決定し、応力計算に用いる。
これに対して、従来のエリアディテクタ方式の3軸応力測定法では、図8のように最初に回折環半径Rが得られ、次いで次式(2)を用いてブラッグ角θ(単位:ラジアン)を得る。
〔式(2)〕
ここで、CL は、X線照射点と検出器との距離である。
〔式(3)〕
ここで、Δdは、格子面間隔dの変化量、即ち、無ひずみ時のdの値をd0 としたときに、Δd=d−d0 である。
また、Δθは、ブラッグ角θの変化量、即ち、無ひずみ時のθの値をθ0 としたときに、Δθ=θ−θ0 である。
〔式(4)〕
〔式(5)〕
ここで、Eは縦弾性定数、vはポアソン比である(いずれも回折弾性定数)。
〔式(6)〕
ここで、
ηは、ブラッグ角θの補角〔(π/2)−θ〕であり、
Ψ0 は、測定点における被検物表面に対する法線と入射ビームとのなす角であり、
φ0 は、被検物表面への入射ビームの投影とx軸とのなす角である。
εα :中心角α方向のひずみ、
επ+α :εα に対して中心角がπだけ異なる方向のひずみ、
ε−α :中心角−α方向のひずみ、
επ−α :ε−α に対して中心角がπだけ異なる方向のひずみ
について考え、これらを用いて次式(7)で表されるa1 〜a3 を求める。
〔式(7)〕
〔式(8)〕
ここで、ΦおよびΨは、それぞれ、次式(9)のとおりである。
〔式(9)〕
〔式(10)〕
〔式(11)〕
上記式(10)を上記式(11)へ代入して整理すると、φ0 =0°のとき次式(12)が得られる。
〔式(12)〕
上記式(12)から、全てのせん断応力成分(τxy 、τxz 、τyz )と、x軸z軸の応力関係式(σx−σz )とが得られる。
〔式(13)〕
ここで、Φは、εα によって求められた上記式(7)のa3 を、cos2 αに対して直線近似したときの傾きであり、測定により得ることができる。
既に、上記式(12)によって、上記式(13)の右辺の(σx −σz )とτxz が判明しているので、上記式(13)とΦとから、(σy−σz )が決定できる。
〔式(14)〕
ここで、Xは、次式(15)のように表される。
〔式(15)〕
上記式(15)のとおり、Xは、ここまでに判明した応力成分と既知数だけからなり、計算により値が確定する。従って、得られたXを上記式(14)に代入すると、Eおよびvは既知であるから、σz が判明する。
このようなσz は、回折環全体から得られる360個のデータの1つ1つからσz が得られるが、ばらつきの影響を考慮して、それらの平均値を採用することが好ましい。
σz と、既に得られている応力関係式(σx −σz )と(σy −σz)とから、σx とσy が判明し、その結果、6個の3軸応力成分(σx 、σy、σz 、τxy 、τyz 、τxz )がすべて判明する。
しかしながら、本発明者が、従来のエリアディテクタ方式による3軸応力測定方法を、詳細に検討したところ、測定精度が不十分な場合があることが新たに判明した。本発明者の研究によれば、上記した従来の方法では、σy 成分についての測定精度がとりわけ低いことがわかった。その原因は、ポアソン効果のために、φ0 =0°および180°方向だけから測定した回折環の半径変化にσyの作用が反映され難く、それによって測定感度が低くなることであると考えられる。
(1)被検物にX線を照射して得られる回折環に基いて被検物内に存在する応力を測定するX線応力測定方法であって、
被検物表面の測定点に対して、下記(A)で規定される4つの入射方向s1、s2、s3、s4にてX線を照射し、それぞれに回折環を得、
該入射方向s1、s3の回折環の組からは、x軸、z軸方向の応力の関係式(σx −σz )と、せん断応力τyz とを少なくとも求め、
該入射方向s2、s4の回折環の組からは、y軸、z軸方向の応力の関係式(σy −σz )と、せん断応力τxzとを少なくとも求め、
該入射方向s1、s3の回折環の組、および、該入射方向s2、s4の回折環の組のうちの一方または両方から、せん断応力τxy を求め、
以上によって得られた応力の関係式およびせん断応力からz軸方向の応力σz を求め、これらをもって、6個の3軸応力成分σx 、σy 、σz 、τxy、τyz 、τxz を得ることを特徴とする、X線応力測定方法。
(A)測定点における被検物表面の法線から所定の入射角度Ψ0 だけ傾いて測定点へ向かう4つの入射方向s1、s2、s3、s4であって、これらの入射方向は、測定点において直交するxy座標を被検物表面に規定し、これらの入射方向を被検物表面に投影したときに、入射方向s1とs3の投影がx軸に一致しかつ互いに対向し、入射方向s2とs4の投影がy軸に一致しかつ互いに対向するような位置関係にある、前記4つの入射方向s1、s2、s3、s4。
(2)せん断応力τxy を、入射方向s1とs3の回折環のペア、および、入射方向s2とs4の回折環のペアの両方からそれぞれに得られたせん断応力τxyのうちのいずれか一方の値、または、両方の値の平均値とする、上記(1)記載のX線応力測定方法。
(3)被検物が、多結晶性の物質からなる車輪またはコロであるか、多結晶性の物質からなるレールである、上記(1)または(2)記載のX線応力測定方法。
(4)被検物にX線を照射して得られる回折環に基いて被検物内に存在する応力を測定するX線応力測定方法であって、
被検物表面の測定点に対して、下記(B)で規定される3つの入射方向t1、t2、t3にてX線を照射し、それぞれに回折環を得、
入射方向t1の回折環からは、せん断応力τxz 、τyzを求め、
入射方向t2の回折環からは、x軸、z軸方向の応力の関係式(σx −σz )と、せん断応力τxy とを求め、かつ、
入射方向t3の回折環からは、x軸、z軸方向の応力の関係式(σy −σz )と、せん断応力τxy とを求め、
以上によって得られたせん断応力および応力の関係式からz軸方向の応力σz を求め、これらをもって、6個の3軸応力成分σx 、σy 、σz 、τxy、τyz 、τxz を得ることを特徴とする、X線応力測定方法。
(B)測定点における被検物表面の法線に沿って測定点へ向かう入射方向t1と、該法線から所定の入射角度Ψ0 だけ傾いて測定点へ向かう2つの入射方向t2、t3とからなる3つの入射方向t1、t2、t3であって、入射方向t2、t3は、測定点において直交するxy座標を被検物表面に規定し、これらの入射方向を被検物表面に投影したときに、入射方向t2の投影がx軸に一致し、入射方向t3の投影がy軸に一致するような位置関係にある、前記3つの入射方向t1、t2、t3。
(5)せん断応力τxy を、入射方向t2とt3の回折環からそれぞれに得られたせん断応力τxy の平均値とする、上記(4)記載のX線応力測定方法。
(6)当該X線応力測定方法を実施するに際し、先に、被検物表面の測定点に対して上記入射方向t1でのX線の照射を行ない、その回折環から求められるせん断応力τxz またはせん断応力τyz に基いて、被検物内部の応力の状態を判断する、上記(5)記載のX線応力測定方法。
上記したように、その原因は、ポアソン効果のために、φ0 =0°およびφ0 =180°の方向からのX線照射による回折環の半径変化にσy の作用が反映され難く、よって測定感度が低くなるからであると考えられる。
このとき、単に測定を多方向から行うというだけなく、少なくとも(σx −σz)、τyz については、入射方向a1、a3による回折環の組から得たものを用い、また、少なくとも(σy−σz )、τxz については、入射方向a2、a4による回折環の組から得たものを用い、これらを用いて新たな応力と関係式のセットσz 、(σx −σz)、(σy −σz )、τxy 、τxz 、τyzを構成し、ここから、6個の3軸応力成分σx 、σy 、σz 、τxy 、τyz、τxz を求めている。
その結果、10-7 〜10-6 の桁で四捨五入したひずみデータに対しては実用範囲内の応力計算結果を与え、さらに、10-5の桁で四捨五入したデータに対しても誤差が10%台に留まり、従来の方法よりも誤差が少なくなることが判明した。
この3つの入射方向とは、上記(B)のとおり、測定点における被検物表面の法線に沿って測定点へ向かう入射方向t1(以下、垂直入射方向とも呼び、その方向からの入射を垂直入射とも呼ぶ)と、該法線から所定の入射角度Ψ0 だけ傾いて測定点へ向かう2つの入射方向t2(φ0 =0°の方向)、t3(φ0 =90°の方向)である。
その結果、3個の回折環から全3軸応力成分が決定できると共に、第一の態様を上回る測定精度が得られ、とりわけσy の測定精度が向上することが判明した。
X線の垂直入射だけによって被検物内部の応力の状態を判断するという手法は、簡略的であり、かつ、X線応力測定ではもっぱら斜め照射を行っていた従来の方法とは全く異なるものであるが、レールなどにおける転動接触によって生じる独特の応力に対しては、その状態を大まかに判定する方法として格別なる意義をもつ。
よって、例えば、鉄道レールの長い区間に対して、X線の垂直照射を先に行って内部応力の概要的な判断を行ない、再検査を要する部位を見つけ出してから、その部分に対してX線の斜め照射を行ない、詳細な3軸応力測定を行うことも可能となる。
また、鉄道レールでは、せん断応力τxz を測定することで、レールの初期の劣化の状態、および、き裂発生を検出でき、レールの検査方法の基準として有効である。
本発明の第一の態様は、少なくとも、次の操作を有する。
先ず、図1(a)に示すように、被検物表面の測定点に対して、上記(A)で規定される4つの入射方向s1、s2、s3、s4にてX線を照射し、それぞれに回折環を得る。
ここで、4つの入射方向s1、s2、s3、s4は、これらを被検物表面に投影したとき、測定点において直交する被検物表面上のxy座標に対して、入射方向s1、s3の投影がx軸に一致しかつ互いに対向する方向であり、入射方向s2、s4の投影がy軸に一致しかつ互いに対向する方向である。即ち、入射方向s1を規準方向としてφ0 =0°の方向としたとき、入射方向s3はφ0 =180°の方向であり、これらs1、s3に対して、入射方向s2をφ0=90°の方向としたとき、入射方向s4はφ0 =270°の方向である。
入射方向s1、s3の回折環の組から、応力のセットを求める計算手法それ自体は、従来のエリアディテクタ方式の3軸応力測定法と同様である。
一方、入射方向s2(φ0 =90°の方向)、s4(φ0 =270°の方向)の回折環の組から、応力のセットを求める手法についても、基本的には、従来の方法と同様であるが、この場合、上記式(10)に対応する式として、次式(16)が上記式(5)〜(7)より得られる。
〔式(16)〕
上記式(16)を、上記式(11)のb1 〜b4 に代入して応力成分を求めると、次式(17)のように、τyz 、(σy −σz )、τxz 、τxy が得られる。
〔式(17)〕
また、従来の方法と同様に、上記式(13)、(14)によって、(σx −σz)、(σy −σz )、τxz が決定でき、また、τxy も決定できる。
本発明では、ここで、それぞれの応力のセットに含まれる応力のうち、少なくとも(σx −σz )、τyz については、入射方向s1、s3の回折環の組から得られた応力を採用し、少なくとも(σy −σz)、τxz については、入射方向s2、s4の回折環の組から得られた応力を採用し、これらを組み合わせて〔(σx−σz )、(σy −σz )、σz 、τxy 、τyz、τxz 〕を構成し、そこから、6個の3軸応力成分σx 、σy 、σz、τxy 、τyz 、τxz を求める。
これによって、本発明において新たに加えた入射方向s2、s4の回折環の組から得た応力(σy −σz )、τxz が計算に用いられ、測定精度が向上する。
また、この時点までで得られている応力成分を用いて、回折環上の1つ1つの点から、σz が決定される。回折環の全周360°から360個のσzが得られるので、平均値を求め、信頼性を向上させることが好ましい。
本発明の第二の態様では、図1(b)に示すように、被検物表面の測定点に対して、上記(B)で規定される3つの入射方向t1、t2、t3にてX線を照射し、それぞれに回折環を得る。入射方向t1をφ0 =0°または180°の方向とするとき、入射方向t3はφ0 =90°または270°の方向であるが、それらの組合せは、入射方向t1をφ0 =0°の方向とし、t3をφ0 =90°の方向とする組合せと等価である。
X線を垂直入射させる場合(Ψ0 =0の場合)、上記式(10)中の2つの式は、それぞれ、次式(18)の2つの式のようになる。
〔式(18)〕
上記式より、せん断応力τxz 、τyz が、次式(19)のように得られる。
〔式(19)〕
τxz が得られると、Ψ0 ≠0のときが、即ち、t2の方向の斜め照射において、上記式(10)の第一式からσx −σzが次式(20)のように得られる(Ψ0 は、45°であるときが最も高精度であり、0°、90°に近くなると、精度が低下する)。
〔式(20)〕
〔式(21)〕
〔式(22)〕
τxy については、上記式(22)の2つの式の計算精度は等価であり、上記のいずれを用いてもよいが、両者を平均することで信頼性が向上する。
以上の結果から、本発明の第一の態様と同様に、上記式(14)を用いてσz が決定できる。また、σz が得られると、(σx−σz )と(σy −σz )の値から、σx とσyが直ちに判明し、6個の3軸応力成分σx 、σy 、σz 、τxy 、τyz、τxz が得られる。
本発明の第二の態様では、図1(b)からも明らかなとおり、3方向の回折環測定を行っており、上述の第一の態様よりも回折環測定が1方向少ないという利点がある。
下記式(23)のように、σy (一例として、100MPa)のみが作用するときの回折環全周におけるεαの分布、および、それに対するφ0 の影響を、図2(a)のグラフ図に示す。計算条件は後述のシミュレーションと同様である(X線入射角度Ψ0 を30°とし、第二の態様ではΨ0 =0°の場合を含む)。
〔式(23)〕
図2(a)のグラフに示すとおり、εα の変化幅は、φ0 =90°で大きく、φ0 =0°のときの約8.2倍を示している。また、φ0=0°では、φ0 =90°よりやや複雑な変化を呈している。
よって、σy を測定する場合は、φ0 =90°のひずみ分布を用いる方が有利であることが分かる。
〔式(24)〕
図2(b)は、τxz に対するεα である。φ0 =90°でのεα の変化幅は、φ0 =0°のときの約1.75倍となり、τxz を測定するときはφ0 =90°のひずみ分布を用いるべきであると言える。
尚、図2(b)に示されるように、垂直入射(Ψ0 =0°)の場合には、φ0 =0°のときの2.0倍、また、φ0 =90°のときの1.15倍のひずみ変化となり測定に有利であることが分かる。
〔式(25)〕
図2(c)に示すように、τxz の場合と類似した傾向が見られ、φ0 =0°でのεαは、φ0 =90°でのεα の約1.75倍大きいことが分かる。よって、τyz に対する逆解析にはφ0=0°の条件を用いることが望ましい。
垂直入射の場合に最も感度が高くなる点もτxz と同様(φ0 =90°方向の2.0倍、φ0=0°方向の1.15倍)である。
尚、本発明の応力測定方法は、3軸応力を求めるステップを有するので、X線3軸応力測定方法と呼ぶことができるが、当然に、1軸、2軸の応力測定に利用してもよい。
鉄道のレールなど、転動接触を受ける物品の内部に生じる応力は特殊であり、とりわけ、せん断応力τxz 、τyz の性質は特異である。
転動接触疲労の初期亀裂は、せん断応力τxz によって発生する。そして、せん断応力は、車輪の通過により負から正へ変化する。これに対して、他の応力成分は、車輪の通過によっても符号が変らない。
また、せん断応力τxz が最大となるのは、接触面ではなく内部である。これに対して、他の応力成分は接触面で最大となる。
このような転動接触を受ける物品に対して、従来公知の応力測定法によって平面応力を測定したのでは、3軸応力状態かつ擬静水圧状態のときσx −σz =0、σx −σz=0である。即ち、σx 、σy 、σz が、顕著な値を有していても、平面応力を測定するだけの方法ではゼロ応力を与えてしまい、応力が無く危険は無いと誤解して判断してしまう可能性がある。
これに対して、本発明の方法をレールや車輪などの表面に適用すれば、正しい残留応力がより高い精度にて求められる。
この垂直入射だけを行ない、それによって得られる回折環からせん断応力τxz を求め、被検物の内部応力を評価する方法は、本発明の第二の態様の一部としてだけでなく、それだけで独立したX線応力測定方法とみなすことも可能である。
照射に用いられるX線は、従来公知のX線応力測定法に用いられる特性X線であってよく、例えば、Crターゲットを有するX線管球によるCrKα特性X線などが挙げられる。
イメージングプレートは、上記特許文献1に記載されたとおり、X線エネルギーをいったん蓄積した後に、光による励起によって蛍光を発生する光輝尽性発光現象を利用して回折環の全体画像を撮像する放射線画像センサであって、例えば、BaFBr:Eu2+ などの輝尽性蛍光体の微結晶を、プラスチックフィルムの表面に塗布して形成され、X線が入射すると輝尽性蛍光体中にこのX線エネルギーが蓄積される。
イメージングプレートの中心部には、図1に示すように、通常、X線照射管が貫通する貫通孔が形成されており、そこから測定点に向かって特性X線を照射し、回折環となって戻ってきた反射X線を、その周囲で受光する構成となっている。
イメージングプレートとその中央に位置するコリメーターとの組は、1組だけを用意し、必要な入射方向へと配置位置を変えて、即ち、1組で多方向の測定を兼用して、測定を行うように構成してもよいし、第一の態様の4方向、第二の態様の3方向に対して、必要な全ての照射方向の分だけの組を用意してもよいし、また、これらの中間的な構成として、兼用可能な配置位置だけを兼用する構成としてもよい。
Ψ0 は、45°が最も好ましく、他のΨ0 の場合には、Ψ0 =45°の場合に対して(sin2Ψ0 )倍の測定感度(精度)となる。Ψ0 <45°では、Ψ0 が0°に近いほど、X線吸収の影響が少なく、良好な回折環が得られる。45°<Ψ0では、Ψ0 が90°に近ずくと、X線浸入深さを浅くできるため、表面部の測定に適する。
本実施例では、本発明による応力測定法(第一の態様、第二の態様)の検証のため、シミュレーションを行った結果を示す。当該シミュレーションは、実際の被検物とX線とを用いたものではないが、充分に一実施例として示すことができるものである。
また、非特許文献1に記載されたエリアディテクタ方式の3軸応力測定法(即ち、従来技術の説明において、式(1)〜式(15)を用いて3軸応力成分決定の原理を説明した3軸応力測定法、以下「従来法」と呼ぶ)による結果も示し、本発明の第一の態様、第二の態様と比較する。
先ず、次式(21)のような、単純な応力成分を仮定した。
〔式(21)〕
材料 :鋼(フェライト)
ヤング率 :206.0(GPa)
ポアソン比 :0.28
回折面のミラー指数(hkl) :211
応力の無い状態での回折角度 :156.4(度)
X線入射角度(法線との間の角度)Ψ0 :30.0(度)、 0.0(度)
材料とディテクタとの間の距離 :100.0(mm)
計算に用いたひずみεα の数 :360
角度αの間隔(インターバル) :1.0(度)
図3は、順解析計算により得られた(入射ビームの方位(φ0 =0°、および、Ψ0 =30°)でのX線照射に対するεα分布を示すグラフ図である。同図には、ひずみを、10-7 の桁(破線で示したグラフ線)、10-6 の桁(実線で示したグラフ線)、10-5の桁(一点鎖線で示したグラフ線)でそれぞれ四捨五入した場合の結果を示している。本シミュレーションでは、このように四捨五入する桁を変えることで、実際の測定で想定される測定誤差の混入を簡便的に模擬した。
得られた応力計算結果を、図4(a)〜(c)のグラフ図に示す。黒色の棒グラフが第一の態様、破線の棒グラフが第二の態様を表している。また、同グラフ図には、従来法による応力測定結果をも、網掛の棒グラフで示している。
図4(a)は、10-7 の桁で四捨五入したデータに対する応力計算結果を示し、図4(b)は、10-6 の桁で四捨五入したデータに対する応力計算結果を示し、図4(c)は、10-5の桁で四捨五入したデータに対する応力計算結果を示している。
図4(a)に示す比較的高精度な10-7 の桁で四捨五入したひずみデータ(以下、10-7 データと呼ぶ)を用いた場合は、入射ビームの方位がφ0=0°、180である従来法が0.02〜0.36%の誤差範囲、本発明の方法の第一の態様が0.0〜0.05%、本発明の方法の第二の態様が0.09〜0.47%となり、3種類の方法は共に、実使用上、充分に高精度であることが分かる。
次に、図4(b)に示す10-6 の桁で四捨五入したデータ(以下、10-6 データ)に対する応力計算結果では、従来法が0.19〜3.5%の誤差範囲、本発明の方法の第一の態様が0.19〜0.65%の誤差範囲、本発明の方法の第二の態様が0.83〜3.8%の誤差範囲となっており、本発明の方法の第一の態様の測定精度が充分に高いことがわかった。
また、図4(c)に示す、10-5 の桁で四捨五入したデータ(以下、10-5 データ)に対する応力計算結果では、従来法が0.6〜46.0%の誤差範囲、本発明の方法の第一の態様が0.56〜2.7%の誤差範囲、本発明の方法の第二の態様が1.8〜16.0%の誤差範囲となった。10-5データでは、従来法によるσy の誤差が顕著になっている。第二法は全ての応力成分において比較的高精度である。
従来法の測定精度が低い理由は、X線入射方向と直交する方位に関係する応力成分において、ポアソン効果による感度低下が起きたためであると考えられる。これに対して本発明の第一のまたは第二の態様では、φ0 =90°の回折データを使用しているため、比較的良好な精度が得られたと考えられる。
なお、どの計算結果においても、本発明の第一の態様が、最も高精度の結果を示しているが、応力決定精度は、初期値や計算条件によってある程度変動する。
本実施例では、在来線で使用され保守により交換されたレールを被検物として用い、
従来法、本発明の方法の第一、第二の態様を適用して、それぞれの測定精度を比較した。
被検物のレールは、JIS E 1101に規定された60kg普通レールの一部分である。その標準的な化学成分および機械的性質は、次のとおりである。
炭素(C) :0.63〜0.75(重量%)
ケイ素(Si) :0.15〜0.30(重量%)
マンガン(Mn):0.70〜1.10(重量%)
リン(P) :0.030(重量%)未満
イオウ(S) :0.025(重量%)未満
引張り強さ :800(MPa)以上
試料のレールは、車輪による転動接触疲労によって踏面(車輪との接触面)近傍に金属組織の塑性流動が形成され、X線応力測定を行うと3軸残留応力が観察される。
本実施例では、実験装置にセット可能なようにレールの頭頂部を、〔レール表面から深さ10mm、もとのレールの長手方向に10mm〕の寸法を有する試料となるよう切断した後に、踏面の中心点についてX線測定を行った。
主なX線条件は、次のとおりである。
特性X線 :CrKα
回折面のミラー指数(hkl) :αFe−211
X線管の電圧 :30(kV)
X線管の電流 :10(mA)
コリメーターの直径 :1(mm)
試料に対するX線の入射角度Ψ0 :30(度)
Fe粉末に対するX線の入射角度 :0(度)
試料とディテクタとの間の距離 :100(mm)
Fe粉末とディテクタとの間の距離:43(mm)
回折環画像を構成する各画素は、設計上、一辺100μmの正方形であり、縦横共に約1000画素(合計100万画素)である。各画素の輝度分解能は8bitである。
回折環画像の処理方法は、従来法と同様である。
試料座標系は、レールの踏面中央のX線照射点を原点とし、レールの長手側(走行方向)をx軸(φ0 =0°)に設定した。
図5(a)〜(e)に、測定された回折環画像の例を示す。いずれも内側の回折環が基準材(焼鈍した鋼)の211回折であり、その次がレール試料の211回折である。さらにその外側の弱い回折は基準材の220回折である。
測定した回折環画像から、半径方向に関する回折強度分布を求めた。
次に、レール試料の回折について、半価幅中点法によってピーク位置を決定し、次いでa1 線図を求めた。その一例を、図6のグラフ図に示す。
図7に示すとおり、せん断応力については、ほぼ、いずれの測定方法ともに、同様の一致した傾向を示している。一方、垂直応力、とくに、σy および(σy −σz )に関しては、従来法の結果が、本発明の測定方法の結果と異なる傾向を示している。
これに対して、本発明の測定方法の第一、第二の態様では、φ0 =90°方向の回折環データを用いることで、こうした影響を低減している。
本発明の測定方法の第一、第二の態様による応力値の差は、比較的小さい結果となったが、両者は互いにX線侵入深さの異なる回折データを用いており、各測定結果は応力状態によっては厳密には一致しない場合があり得ると考えられる。即ち、第一の態様では、4種類の入射角Ψ0 は皆同一であるが、第二の態様では、一部にΨ0 =0°のデータを用いている。そのため、Ψ0 =0における実験誤差の影響と共に、Ψ0 によるX線侵入深さの相違によって材料内の測定範囲が異なる。
このように、各態様の使用に対しては、回折環の測定精度や応力勾配の程度に応じて適切な選択が必要である。
従来法では2方向からの回折環を用い、第一の態様では4方向、第二の態様では3方向からの回折環をそれぞれ用いている。よって、格子ひずみεαの精度が高い場合には、測定量の少ない従来法が実用上有効である。
しかし、格子ひずみの精度が10-6 データより低下する場合は、ポアソン効果の影響によってX線入射方向と直交する方向に作用する応力成分σy に誤差が現れやすい傾向が認められた。この影響を回避するためには、φ0=90°方向の測定データを用いる本発明の第一、第二の態様を適用する必要がある。
また、第二の態様では、垂直入射による測定だけを先行して単独で行うことによって、被検物全体の内部応力の概要、精密検査が必要な箇所を、簡単な装置構成かつ簡単な演算内容にて知ることができる。
このような場合に対して回折法による応力は、巨視的な平均応力(マクロ応力)と上述の微視的な相互作用応力(ミクロ応力)の和からなる相応力となる。よって、鋼材のX線応力測定においては潜在的に3軸応力解析の必要性が少なくない可能性が考えられる。特に、結晶粒が微細化する場合には、X線侵入深さ範囲において3軸応力の影響が現れやすいとされている。
本発明で示した方法は、このような場合に対して比較的実用的な評価方法となる。
Claims (6)
- 被検物にX線を照射して得られる回折環に基いて被検物内に存在する応力を測定するX線応力測定方法であって、
被検物表面の測定点に対して、下記(A)で規定される4つの入射方向s1、s2、s3、s4にてX線を照射し、それぞれに回折環を得、
該入射方向s1、s3の回折環の組からは、x軸、z軸方向の応力の関係式(σx −σz )と、剪断応力τyz とを少なくとも求め、
該入射方向s2、s4の回折環の組からは、y軸、z軸方向の応力の関係式(σy −σz )と、剪断応力τxzとを少なくとも求め、
該入射方向s1、s3の回折環の組、および、該入射方向s2、s4の回折環の組のうちの一方または両方から、剪断応力τxy を求め、
以上によって得られた応力の関係式および剪断応力からz軸方向の応力σz を求め、これらをもって、6個の3軸応力成分σx 、σy 、σz 、τxy、τyz 、τxz を得ることを特徴とする、X線応力測定方法。
(A)測定点における被検物表面の法線から所定の入射角度Ψ0 だけ傾いて測定点へ向かう4つの入射方向s1、s2、s3、s4であって、これらの入射方向は、測定点において直交するxy座標を被検物表面に規定し、これらの入射方向を被検物表面に投影したときに、入射方向s1とs3の投影がx軸に一致しかつ互いに対向し、入射方向s2とs4の投影がy軸に一致しかつ互いに対向するような位置関係にある、前記4つの入射方向s1、s2、s3、s4。 - 剪断応力τxy を、入射方向s1とs3の回折環のペア、および、入射方向s2とs4の回折環のペアの両方からそれぞれに得られた剪断応力τxy のうちのいずれか一方の値、または、両方の値の平均値とする、請求項1記載のX線応力測定方法。
- 被検物が、多結晶性の物質からなる車輪またはコロであるか、多結晶性の物質からなるレールである、請求項1または2記載のX線応力測定方法。
- 被検物にX線を照射して得られる回折環に基いて被検物内に存在する応力を測定するX線応力測定方法であって、
被検物表面の測定点に対して、下記(B)で規定される3つの入射方向t1、t2、t3にてX線を照射し、それぞれに回折環を得、
入射方向t1の回折環からは、剪断応力τxz 、τyzを求め、
入射方向t2の回折環からは、x軸、z軸方向の応力の関係式(σx −σz )と、剪断応力τxy とを求め、かつ、
入射方向t3の回折環からは、x軸、z軸方向の応力の関係式(σy −σz )と、剪断応力τxy とを求め、
以上によって得られた剪断応力および応力の関係式からz軸方向の応力σz を求め、これらをもって、6個の3軸応力成分σx 、σy 、σz 、τxy、τyz 、τxz を得ることを特徴とする、X線応力測定方法。
(B)測定点における被検物表面の法線に沿って測定点へ向かう入射方向t1と、該法線から所定の入射角度Ψ0 だけ傾いて測定点へ向かう2つの入射方向t2、t3とからなる3つの入射方向t1、t2、t3であって、入射方向t2、t3は、測定点において直交するxy座標を被検物表面に規定し、これらの入射方向を被検物表面に投影したときに、入射方向t2の投影がx軸に一致し、入射方向t3の投影がy軸に一致するような位置関係にある、前記3つの入射方向t1、t2、t3。 - 剪断応力τxy を、入射方向t2とt3の回折環からそれぞれに得られた剪断応力τxy の平均値とする、請求項4記載のX線応力測定方法。
- 当該X線応力測定方法を実施するに際し、先に、被検物表面の測定点に対して上記入射方向t1でのX線の照射を行ない、その回折環から求められる剪断応力τxz または剪断応力τyz に基いて、被検物内部の応力の状態を判断する、請求項5記載のX線応力測定方法。
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