以下、添付図面を参照して本発明のキックダウン制御装置の好適な実施形態を詳細に説明する。本実施形態のキックダウン制御装置は、後述するように、電子制御ユニットから主に構成され、特に高出力の駆動源(エンジン)を備える車両に適用される。
図1は、本発明の一実施形態におけるキックダウン制御装置を備える車両の概略的なブロック図である。図1に示すように、本実施形態の車両は、動力源であるエンジン(駆動源)1と、エンジン1の回転出力を入力して設定された速度比で変速して出力する自動変速機2と、車両の各部に設けられたセンサと、各センサの出力が入力され、これらの検出データに基づいて車両全体の作動を制御する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)10とを備える。
エンジン1の出力は自動変速機2を介して図示しない駆動輪に伝達される。また、自動変速機2は、図示を省略するが、流体継手であるトルクコンバータと、複数の係合要素(クラッチ)を備えた多段変速歯車機構から構成されている。なお、本発明のキックダウン制御装置は、多段変速歯車機構を含む自動変速機に限らず、無段変速機構を含むものにも適用可能である。
センサとしては、例えば、エンジン回転数センサ101と、アクセルペダル開度センサ102と、車速センサ103と、スロットル開度センサ104と、変速段センサ105が含まれる。エンジン回転数センサ101は、エンジン1の出力軸であるクランクシャフトの回転数Neを検出する。アクセルペダル開度センサ102は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に応じたアクセルペダル開度APATを検出する。車速センサ103は車両の車速Nvを検出する。スロットル開度センサ104は、エンジン1のスロットル弁1Aの開度すなわちスロットル開度THを検出する。変速段センサ105は、自動変速機2において現在設定されている変速段を検出する。これらセンサにより検出された検出データは電子制御ユニット10に出力される。
なお、本実施形態では、キックダウン制御に関わるセンサのみを図示するが、車両には、自動変速機2の多段変速歯車機構の入出力軸の回転数を検出する各回転数センサや、自動変速機2のための図示しない油圧制御装置の作動油の温度を検出する油温センサ、作動油の油圧を検出する油圧センサ等が含まれる。また、現在の変速段は、変速段センサ105を設けることなく、電子制御ユニット10から自動変速機2への変速指示に基づいて決定(検出)されてもよい。
また、本実施形態の車両は、例えば、図示しないステアリング(ハンドル)の近傍に設けられたパドルスイッチ20と、運転者によりシフトレバーを介して操作されるシフト装置30とを備える。
パドルスイッチ20は、手動変速モードでシフトダウンを指示するための−(マイナス)パドルスイッチ21と、手動変速モードでシフトアップを指示するための+(プラス)パドルスイッチ22とから構成される。これらパドルスイッチ21、22の操作信号は電子制御ユニット10に出力され、車両の走行状態等に応じて自動変速機2のアップシフトまたはダウンシフトが行われる。なお、本実施形態では、例えば、シフトレバーのポジションがDレンジまたはSレンジにおいて自動変速モードが設定されているときに、運転者によりいずれかのパドルスイッチ21、22が操作されると、自動変速モードから手動変速モードにモードが切り替えられる。
シフト装置30におけるシフトレバー(図示せず)のポジションには、図1に示すように、例えば、P(パーキング)、R(後進走行)、N(ニュートラル)、D(自動変速モード(ノーマルモード)での前進走行)、S(スポーツモードでの前進走行)などがある。シフト装置30の近傍には、モード切替スイッチ31と、シフトレバーポジションセンサ32とが設けられる。シフトレバーポジションセンサ32は、運転者によって操作されるシフトレバーのポジションを検出する。
モード切替スイッチ31は、運転者の操作により、ノーマルモード(低出力モード)とスポーツモード(高出力モード)とを切り替えるためのスイッチである。モード切替スイッチ31が押下されると、押下信号が電子制御ユニット10に出力される。なお、このモード切替スイッチ31が設けられている場合には、シフト装置30にSレンジが設けられなくてもよい。
電子制御ユニット10は、図1に示すように、出力特性切替手段11と、キックダウン判定手段12と、タイマ13と、メモリ14と、シフト制御手段15と、出力制限手段16とを備える。
出力特性切替手段11は、運転者によるモード切替スイッチ31の押下操作、あるいはシフト装置30のシフトレバーのDレンジとSレンジとの間の切替操作により、アクセルペダル開度センサ102により検出されるアクセルペダル開度APAT(アクセルペダルの操作量)に対するエンジン1の出力特性(トルクマップ)を切り替えるとともに、自動変速機2の変速特性(シフトマップ)を切り替える。すなわち、出力特性切替手段11は、メモリ14に記憶された複数のトルクマップおよびシフトマップから、運転者により設定されたモードに対応するマップを選択して設定する。この結果、選択されたトルクマップに基づいてエンジン1の出力が制御されるとともに、選択されたシフトマップに基づいて自動変速機2による変速動作が行われる。
キックダウン判定手段12は、所定の条件下で、運転者によりキックダウン操作が行われたことを判定する。すなわち、キックダウン判定手段12は、アクセルペダル開度センサ102により検出されるアクセルペダル開度APATおよび車速センサ103により検出される車速Nvに基づいて、キックダウン動作を行うべきか否かを判定する。
タイマ13は、所定時間を計時するものであり、本実施形態では、後述するように、エンジン1の出力トルクを制限する時間(制限タイマ)と、この制限後に目標トルクまで復帰させるまでに許容される時間(制限終了タイマ)とを計時する。
なお、目標トルクは、アクセルペダル開度センサ102により検出されるアクセルペダル開度APATと、出力特性切替手段11により設定されているトルクマップとに基づいて、電子制御ユニット10により決定されるものである。
メモリ14は、上述のように、各モードに対応して複数のトルクマップおよびシフトマップを記憶するとともに、各センサ101〜105、31や、モード切替スイッチ31の押下信号、パドルスイッチ20の操作信号等を一時的に記憶する。
シフト制御手段15は、キックダウン判定手段12によりキックダウンを行うべきであると判定された場合には、自動変速機2に対して、現在設定されているギヤ段(変速段)からその判定結果に基づいて設定される目標ギヤ段へダウンシフトを行わせる。
出力制限手段16は、所定の条件下において、キックダウン判定手段12によりキックダウンを行うべきであると判定された場合に、エンジン1の出力トルクを所定トルク(所定出力、すなわち制限トルク)に制限する。出力制限手段16によりエンジン1の出力トルクが制限されると、電子制御ユニット10は、エンジン1のスロットル弁1Aの開度(スロットル開度TH)を小さくするように制御することにより、スロットル弁1Aから供給される空気吸入量を下げるように制御する。この吸入空気量に応じてエンジン1に供給される燃料(ガソリン)の量が制御されるため、結果としてエンジン1の出力トルクが制限される。なお、いわゆるディーゼルエンジンを搭載している車両の場合には、供給される燃料(軽油)の量を直接制御することにより、エンジン1の出力トルクが制限されればよい。
エンジン1の出力トルクを制限するための所定の条件は、図6のフローチャートを用いて後述するように、現在の走行モードがノーマルモードであること、車速Nvが所定車速以下であること、手動変速(マニュアル)モードではなく、自動変速モードであること、この状態においてキックダウン判定手段12によりキックダウンを行うべきと判定されていること、自動変速機2がNe要求値(シフトチェンジの際に要求されるエンジン1の回転数Ne)を出力することにより、Ne要求フラグが立っていることを含む。なお、所定車速としては、例えば60km/時のように、車両が市街地等を走行していると想定される車速の閾値であればよい。
ここで、出力制限手段16は、キックダウン判定手段12によるキックダウン判定に伴うダウンシフト後の変速段(ギヤ段)と、エンジン回転数センサ101により検出される現在のエンジン1の出力回転数Neとに基づいて、この所定トルクを算出すればよい。
次に、図2のタイミングチャートを用いて、本実施形態におけるキックダウン時のトルク制限処理を概略的に説明する。図2は、キックダウン(1速段のキックダウン)動作時におけるエンジン1の出力トルク制限処理のタイミングチャートである。
運転者がアクセルペダルを大きく踏み込むと、キックダウン判定手段12は、車速Nvおよびアクセルペダル開度APATに基づいてキックダウン動作を行うべきであると判定し、これに応じて、自動変速機2は、現在の変速段(例えば4速段)から目標変速段(例えば3速段)へのダウンシフトを行うためのエンジン回転数Neの要求値を出力する。Ne要求値を受け付けると、電子制御ユニット10はNe要求フラグをONする。
このとき、上述の所定の条件が成立したことに応じて、出力制限手段16は、キックダウン時におけるエンジン1の出力トルクの制限を行うことを決定すると、キックダウン制限要求フラグをONするともに、リミット中フラグをONする。また、タイム13は、制限タイマに第1の所定時間(制限タイマによる制限制御区間)T1を設定(セット)するとともに、制限終了タイマに第2の所定時間(制限終了タイマによる制限制御戻し区間)T2を設定(セット)する。
さらに、出力制限手段16は、キックダウン要求フラグがONすると、目標トルクから制限トルクまで段階的に出力トルクを減少させる。これにより、高出力のエンジン1を搭載した車両が例えば市街地を走行中に運転者がキックダウン動作を行った場合であっても、急激な加速とならず、このような状況における車両の乗り心地を向上することができる。
なお、図2に示すように、出力トルクの制限を行う最初の段階では、現在のトルクから出力制限手段16により設定された制限トルクまでいきなりトルクダウンをさせることなく、所定値ずつ徐々に制限トルクまで降下させていくように制御されている。これにより、キックダウン制御の開始直後に車両が急激に減速してしまい、運転者の操作性やいわゆる乗り味が悪くなることを効果的に防止することができる。
キックダウン制限要求フラグがOFFされると、タイマ13は、第1の所定時間T1だけ計時する。そして、タイマ13が第1の所定時間T1を計時し終えると、タイマ13は、続いて、第2の所定時間(制限終了タイマによる制限制御戻し区間)T2を計時する。タイマ13が第2の所定時間を計時している間、出力制限手段16は、現在の制限トルクに所定値ずつ徐々に加算していく。
本実施形態では、トルク制限の制御を終了する制限制御戻しパターンとして、2つのパターンが設けられている。1つ目のパターン(A)では、タイマ13が第2の所定時間T2を計時し終える前に制限トルクが目標トルクに達すると(トルク制限加算がなされる制限制御戻し区間(A)が終わると)、リミット中フラグがOFFされ(図2の実線(A)参照)、出力トルクの制限が終了する。また、2つ目のパターン(B)では、制限トルクが目標トルクに達する前にタイマ13が制限終了タイマとしての第2の所定時間T2を計時し終えると、リミット中フラグがOFFされ(図2の点線(B)参照)、出力制限手段16は現在の制限トルクから目標トルクに出力トルクを増加させ、出力トルクの制限が終了する。
次に、図3を参照して、4速段で走行中にキックダウン動作があり、2速段までダウンシフトする場合について説明する。図3は、本実施形態における4速段から2速段へのキックダウン(2速段のキックダウン)動作時のトルク制限処理を示すタイミングチャートである。
図2のタイミングチャートと同様に、運転者が4速段にて例えば40km/時で走行中にアクセルペダルを大きく踏み込むと、アクセルペダル開度APATが増加し、それに応じて実トルク(タイミングチャートでは中段付近の太線で示す)が急激に上昇する。これにより、キックダウン判定手段12はキックダウン動作であると判定し、ここでは、4速段から2速段へのダウンシフトを選択する。
このとき、車速Nvは60km/時以下であるとともに、走行モードがノーマルモード、アクセルペダルの操作(踏み込み)によるダウンシフト、すなわちパドルスイッチ20を用いた手動変速モードではなく、自動変速モードによるダウンシフトであるので、電子制御ユニット10はエンジン1の出力トルクを制限する処理を行う。
この場合、出力特性切替手段11によりノーマルモード(低出力モード)が選択されているので、シフト制御手段15は、キックダウン判定手段12によるキックダウンの判定に伴って非順次のダウンシフト、すなわち、2速段以上一度に変速するようなダウンシフトを禁止する。
シフト制御手段15によるダウンシフトのために、電子制御ユニット10は、まず、現在の実ギヤ段である4速段からの目標ギヤ段を3速段に設定し、図2のタイミングチャートで示したような処理を実行する。
すなわち、自動変速機2からNe要求値を受け付けて、Ne要求フラグがONされると、図2のタイミングチャートと同様に、キックダウン制限要求フラグおよびリミット中フラグがONされる。タイマ13は制限タイマおよび制限終了タイマを設定する。出力制限手段16は、キックダウン要求フラグがONすると、目標トルクから制限トルクまで段階的に出力トルクを減少させる。そして、電子制御ユニット10は、変速時のエンジン1の目標回転数Netを設定し、エンジン回転数センサ101により検出されたエンジン1の回転数Neが変速時目標回転数Netに到達するまで待機する。エンジン1の回転数Neが変速時目標回転数Netに到達すると、シフト制御手段15は、変速段を4速段から3速段へダウンシフトするように自動変速機2を制御し、タイマ13は、上述の第1の所定時間T1の計時を開始する。このとき、変速段が目標ギヤ段である3速段に移行すると、Ne要求フラグおよびキックダウン制限要求フラグがOFFにされる。
そして、しばらく3速段で車両が走行した後、タイマ13が第1の所定時間T1を計時し終える前に、電子制御ユニット10は、さらに変速段を現在の3速段から2速段にダウンシフトするために目標ギヤ段を2速段に設定し、エンジン回転数センサ101により検出されたエンジン1の回転数Neが2速段への変速時目標回転数Netに到達するまで待機する。これにより再度Ne要求フラグがONになり、その結果、キックダウン制限要求フラグが再びONになる。そして、エンジン1の回転数Neが変速時目標回転数Netに到達すると、シフト制御手段15は、変速段を3速段から2速段へダウンシフトするように自動変速機2を制御し、タイマ13は再度第1の所定時間T1の計時を開始する。このとき、変速段が目標ギヤ段である2速段に移行すると、Ne要求フラグおよびキックダウン制限要求フラグがOFFにされる。
図3に示した例では、最終的な目標ギヤ段が2速段であるため、タイマ13が第1の所定時間T1を計時し終えると、タイマ13は、続いて、第2の所定時間(制限終了タイマ)T2を計時する。タイマ13が第2の所定時間T2の計時を終了するか、目標トルクまで所定値ずつインクリメントされている制限トルクが目標トルクに達すると、出力制限手段16は出力トルクの制限を終了する。
本実施形態では、このように、車両が自動変速モードのノーマルモードで走行中の場合において、キックダウン判定手段12により2速段以上のダウンシフトを伴うキックダウン動作を行うべきと判定されると、シフト制御手段15は、非順次のダウンシフトを禁止して、キックダウン動作時に1速段毎のダウンシフトを行うようにしている。これにより、特にノーマルモード(低出力モード)におけるキックダウン制御時の変速動作の駆動力変化を緩やかにすることができ、運転者のドライバビリティをさらに向上させることができる。
例えば、ノーマルモードで40km/時の車速Nvで走行中に、アクセルペダル開度APATが全開となるように運転者がアクセルペダルを踏み込むと、キックダウン判定手段12は、シフト制御手段15を介して4速段→3速段→2速段と順次にダウンシフトするように自動変速機2を制御する。これにより、シフト制御手段15は、まず、4速段から3速段へのダウンシフトを行い、出力制限手段16は、目標ギヤ段が設定された後にエンジン1の出力トルクの制限を行う。そして、シフト制御手段15は、3速段から2速段へのダウンシフトを行い、出力制限手段16は、エンジン1の出力トルクの制限を連続的に行う。このように中間段(3速段)を介したキックダウン動作を行うことにより、4速段から2速段に直接(非順次で)ダウンシフトする場合に比べ、立ち上がりGをおよそ1/2に低減させることができる。このように、変速する際の加速度(G)変化(駆動力変化)を緩やかにすることができるので、ノーマルモードで走行中においては市街地等において操作性を向上させることができる。
なお、運転者がスポーツモード(高出力モード)を選択している場合には、運転者がキックダウン時の扱い易さ(操作性)よりも速さ(加速性)を重視していると考えられる。そのため、本実施形態では、シフト制御手段15は、キックダウン判定手段12によるキックダウンの判定に伴って非順次(一度に2速段分以上)のダウンシフトを許可している。しかしながら、シフト制御手段15は、一度に2速段分のダウンシフトを許可するが、一度に3速段分のダウンシフトを禁止するように自動変速機2を制御してもよい。
図4は、各変速段に対する出力トルクの制限を概念的に示すグラフである。電子制御ユニット10では、アクセルペダル開度APAT、車速Nvおよびエンジン1の回転数Neに基づいて、出力特性切替手段11は、各変速段に対する出力トルク特性(各グラフの実線)をメモリ14に格納されている変速段に応じたトルクマップから選択し、キックダウン判定手段12によるキックダウンの判定時には、図4に示すように、出力制限手段16は、各変速段の出力特性に応じて、出力トルクの制限値(各グラフの点線)を設定すればよい。
なお、図4(a)は1速段(Lowギヤ)における出力特性、図4(b)は2速段(セカンドギヤ)における出力特性、図4(c)は3速段(サードギヤ)における出力特性、図4(d)は4速段(フォースギヤ)における出力特性をそれぞれ示している。図示のように、高変速段になるにつれて出力トルクに制限をかけるエンジン1の回転数Neおよび車速Nvが低くなるように設定されればよい。ここで、各図において、車速NvがV1〜V4の領域がトルクリミットを実施する車速領域である。
次に、本実施形態のキックダウン制御装置の動作を説明する。図5は、電子制御ユニット10により実行されるトルクリミット値(制限値)算出処理を示すフローチャートである。図6は、図5のトルクリミット値算出処理において実行されるキックダウン制限要求フラグ設定処理を示すフローチャートである。
このトルクリミット値算出処理は、電子制御ユニット10により実行されるコンピュータプログラムとして図示しないROM等の記憶手段またはメモリ14に格納されている。そして、トルクリミット値算出処理は、所定の時間間隔(インターバル)、例えば10m秒毎に実行される。
トルクリミット値算出処理では、まず、電子制御ユニット10は、キックダウン制限要求フラグ設定処理を実行する(ステップS101)。すなわち、図6に示すように、電子制御ユニット10は、現在の走行モードがノーマルモード(低出力モード)であるか否か(ステップS201)、車速Nvが所定車速(例えば、60km/時)以下であるか否か(ステップS202)、現在の変速モードがマニュアル(手動変速)モードではなく、自動変速モードであるか否か(ステップS203)を順次判断する。
ステップS201〜S203において、ノーマルモード、所定車速以下、自動変速モードであるとそれぞれ判断すると、キックダウン判定手段12は、現在の車速Nvおよびアクセルペダル開度APATに基づいて、キックダウンを実行すべきか否かを決定するキックダウン判定処理を実行する(ステップS204)。
ステップS204において、キックダウン判定手段12がキックダウンを実行すべきと判断すると、シフト制御手段15がキックダウンを実行するために自動変速機2に変速指示を行うことに応じて、電子制御ユニット10は、自動変速機2からNe要求値を受け付けてNe要求フラグがONに設定されているか否かを判断する(ステップS205)。
ステップS205において、Ne要求フラグがONに設定されていると判断すると、電子制御ユニット10は、キックダウン要求フラグをONに設定し(ステップS206)、このキックダウン制限要求フラグ設定処理を終了する。
一方、ステップS201〜S205のいずれかにおいて否定的な判断がなされると、電子制御ユニット10は、キックダウン要求フラグをOFFに設定し(ステップS207)、このキックダウン制限要求フラグ設定処理を終了する。
図5のフローチャートに戻って、出力制限手段16は、エンジン1の回転数Neおよびシフト制御手段15により設定された目標ギヤ段(目標変速段)に応じたリミットトルク(制限トルク)TRQLMTKDBSを算出する(ステップS102)。
次いで、電子制御ユニット10は、ステップS101のキックダウン制限要求フラグ設定処理においてキックダウン制限要求フラグがONに設定されているか否かを判断する(ステップS103)。
キックダウン制限要求フラグがONに設定されていると判断すると、タイマ13は、制限タイマとして第1の所定時間T1をセットするとともに(ステップS104)、制限終了タイマとして第2の所定時間T2をセットする(ステップS105)。
そして、出力制限手段16は、トルク制限開始時の制限トルクまでの設定トルクtrqlmtkdとして、TRQLMTKDの前回算出時の値から所定値を減算(デクリメント)した値を設定し(ステップS106)、このように算出されたtrqlmtkdとステップS102において算出されたTRQLMTKDBSとを比較し、その値の大きい方をTRQLMTKDとして設定する(ステップS107)。
次いで、電子制御ユニット10(出力制限手段16)は、リミット中フラグをONに設定し(ステップS108)、このトルクリミット値算出処理を終了する。
ここで、このトルクリミット値算出処理のステップS103において初めてキックダウン要求フラグがONに設定されていると判断した場合には、電子制御ユニット10は、その前のトルクリミット値算出処理の実行時に、キックダウン制限要求フラグがOFF(ステップS103でNo)、リミット中フラグがOFF(ステップS109でNo)と判断して、ステップS118においてTRQLMTKDに設定したその時点の目標トルクをステップS106におけるTRQLMTKDの前回値として利用している。
また、図2および図3のタイミングチャートで説明したように、変速段が現在の変速段から目標変速段に移行するまで、電子制御ユニット10は、ステップS104〜S108の処理を繰り返して実行し、出力制限手段16は、現在の出力トルク(目標トルク)から制限トルクまで所定値ずつ段階的に出力トルクを減少させる。
なお、自動変速機2において目標変速段へのダウンシフトが終了すると、電子制御ユニット10によりNe要求フラグがOFFされる。これにより、ステップS101において実行されるキックダウン制限要求フラグ設定処理では、Ne要求フラグがONではないと判断して(ステップS205において「NO」)、電子制御ユニット10は、キックダウン要求フラグをOFFに設定する(ステップS207)。
そして、キックダウン制限処理を実行した後、ステップS103において、キックダウン制限要求フラグがONではないと判断すると、出力制限手段16は、リミット中フラグがONに設定されているか否かを判断する(ステップS109)。キックダウン制限処理の実行中においては、ステップS108においてリミット中フラグがONに設定されているので、処理フローはステップS110に移行し、電子制御ユニット10は、タイマ13が第1の所定時間T1を計時し終えたか否かを判断する(ステップS110)。
タイマ13が第1の所定時間T1を計時し終えていないと判断した場合には、タイマ13は、第1の所定時間T1をカウントダウンした後(ステップS111)、電子制御ユニット10は、ステップS105に移行し、ステップS110においてタイマ13が第1の所定時間T1を計時し終えたと判断するまで、ステップS105〜S108、S101〜103およびS109〜S111の処理を繰り返す。これにより、タイマ13は、このトルクリミット値算出処理の実行タイミングで第1の所定時間T1をカウントダウンする(ステップS111)。なお、ステップS107において減算して算出されたtrqlmtkdがステップS102において算出されたTRQLMTKDBSよりも小さくなった後は、TRQLMTKDとしてTRQLMTKDBSが設定され続け、所定の制限トルクTRQLMTKDBSにてトルク制限が実行されることになる。
一方、ステップS110において、タイマ13が第1の所定時間T1を計時し終えたと判断した場合には、出力制限手段16は、トルク制限終了時までの制限トルクの設定トルクtrqlmtkdとして、TRQLMTKDの前回算出時の値から所定値を加算(インクリメント)した値を設定し(ステップS112)、このように算出されたtrqlmtkdと電子制御ユニット10により現在設定されるべき目標トルクとを比較し、その値の小さい方をTRQLMTKDとして設定する(ステップS113)。
次いで、電子制御ユニット10は、ステップS113において設定されたTRQLMTKDが目標トルクに到達したか否かを判断する(ステップS114)。TRQLMTKDが目標トルクに到達したと判断した場合には、電子制御ユニット10(出力制限手段16)は、リミット中フラグをOFFに設定し(ステップS115)、このトルクリミット値算出処理を終了する。
一方、TRQLMTKDが目標トルクに到達していないと判断した場合には、電子制御ユニット10は、タイマ13が第2の所定時間T2を計時し終えたか否かを判断する(ステップS116)。タイマ13が第2の所定時間T2を計時し終えたと判断した場合には、電子制御ユニット10は、リミット中フラグをOFFに設定し(ステップS115)、このトルクリミット値算出処理を終了する。一方、タイマ13が第2の所定時間T2を計時し終えていないと判断した場合には、タイマ13は、第2の所定時間T2をカウントダウンした後(ステップS117)、電子制御ユニット10は、そのままこのトルクリミット値算出処理を終了する。
TRQLMTKDが目標トルクに到達せず、タイマ13が第2の所定時間T2を計時し終えない場合には、いずれかの条件が満たされるまで、タイマ13がこのトルクリミット値算出処理の実行タイミングで第2の所定時間T2をカウントダウンしつつ(ステップS117)、電子制御ユニット10は、ステップS112〜S113の処理を繰り返して実行し、出力制限手段16は、現在の出力トルク(制限トルク)から目標トルクに向かって所定値ずつ段階的にtrqlmtkdを増加させる。
このように、TRQLMTKDが目標トルクに到達するか、タイマ13が第2の所定時間T2を計時し終えることに応じて、リミット中フラグがOFFに設定されることにより、ステップS109において、電子制御ユニット10は、リミット中フラグがONに設定されていないと判断して、最終的にTRQLMTKDに現在の目標トルクを設定し(ステップS118)、トルク制限を解除して、このトルクリミット値算出処理を終了する。
なお、ステップS106において、TRQLMTKDの前回算出値から減算される所定値と、ステップS112において、TRQLMTKDの前回算出値に加算される所定値とは、同一の値(例えば、0.1kgf/cm2)であってもよく、異なる値であってもよい。
以上説明したように、本発明のキックダウン制御装置(電子制御ユニット10により主に実現される)では、出力特性切替手段11が、モード切替スイッチ31の押下信号やシフトレバーポジションセンサ32の検出結果に基づいて、ノーマルモード(低出力モード)とスポーツモード(高出力モード)との間で、アクセルペダル開度APAT(アクセルペダルの操作量)に対するエンジン1の出力特性を切り替え、キックダウン判定手段12は、アクセルペダル開度APATおよび車両の車速Nvに基づいて、車両の走行中にキックダウンを行うか否かを判定し、シフト制御手段15が、キックダウン判定手段12がキックダウンを行うと判定した場合に、自動変速機2にダウンシフトを行わせ、出力制限手段16が、少なくともノーマルモードが選択されかつキックダウン判定手段12によりキックダウンを行うと判定されたことを条件として、エンジン1の出力特性を所定出力に(あるいは、エンジン1の出力特性を所定の制限出力だけ低減するように)制限することとした。これにより、高出力のエンジン1を搭載した車両においてキックダウン制御によるダウンシフト発生時に、例えば市街地を走行中などの低速走行時の場合には、エンジン1の駆動トルクを制限することにより、急激な加速とならず、車両の操作性(乗り心地)を向上させることができる。また、スポーツモードの場合には、このような駆動トルクの制限を禁止することにより、キックダウン時の扱い易さ(操作性)よりも速さ(加速性)を重視するなどの運転者のニーズに対応することができる。
また、本発明のキックダウン制御装置では、キックダウン制御時において低減させるべき所定出力は、キックダウン判定手段12によるキックダウン判定に伴うダウンシフト後の変速段(例えば3速段、すなわち目標ギヤ段)と、現在のエンジン1の回転数Neとに基づいて算出されればよい。これにより、エンジン1の回転数Neの増加やシフトダウンの目標変速段(例えば2速段)に基づいて、エンジン1の出力を運転性の良い状態に抑制することができる。なお、このようなキックダウン制御時の所定出力(制限出力)は、上述の実施形態にようなキックダウン判定に伴うダウンシフトの変速段(目標ギヤ段)に基づいて算出されるのではなく、このキックダウン判定に伴うダウンシフト前の変速段(現在の変速段)に基づいて算出されてもよい。
また、本発明のキックダウン制御装置では、出力特性切替手段11によりスポーツモードが選択されている場合には、シフト制御手段15は、キックダウン判定手段12によるキックダウンの判定に伴って非順次のダウンシフト(すなわち、2速段以上を一度にダウンシフトするようなシフトチェンジ)を許可するが、出力特性切替手段11によりノーマルモードが選択されている場合には、シフト制御手段15は、キックダウン判定手段12によるキックダウンの判定に伴って非順次のダウンシフトを禁止すればよい。これにより、ノーマルモードにおけるキックダウン動作時には、変速時におけるエンジン1の駆動力変化を緩やかにすることができるので、さらに運転性を向上させることができる。
以上、本発明のキックダウン制御装置の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明したが、本発明は、これらの構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲、明細書および図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお、直接明細書および図面に記載のない形状・構造・機能を有するものであっても、本発明の作用・効果を奏する以上、本発明の技術的思想の範囲内である。すなわち、キックダウン制御装置を構成する電子制御ユニット10を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
なお、上述の実施形態では、自動変速機2が複数の係合要素(クラッチ)を備えた多段変速歯車機構から構成される場合について説明したが、本発明では、自動変速機2は、多段変速歯車機構を含むものに限らず、無段変速機構を含むものであってもよい。この場合、キックダウン判定手段12によるキックダウン動作の判定に伴って、シフト制御手段15は、現在の変速比から目標となるより低い変速比に変速制御を行うようにすればよい。また、ノーマルモードにおけるキックダウン動作時であれば、現在の変速比から目標変速比まで2段階のダウンシフトを行うようにしてもよい。
また、上述の実施形態では、ノーマルモードとスポーツモードの間の切替は、モード切替スイッチ31の押下またはシフト装置30のSレンジへのシフトポジションの変更により行われるように説明したが、本発明では、モード切替スイッチ31およびシフト装置30のSレンジの一方のみが存在するような構成であってもよい。