本発明を、添付図面に示す実施形態に基づいて説明する。なお、本発明の基本的な構成は、先に発明した図10の回転工具と同様である。そのため、図10の回転工具の構造についてまず詳述し、その後に、本発明でさらに改良を加えた特徴的な構成について、図1〜図9に基づいて順に詳述する。
図10に示す回転工具は、インパクトモードとドリルドライバーモードとを自在に切り替えることのできるマルチインパクト回転工具である。また、このマルチインパクト回転工具は遊星減速機構を3段に備えており、そのうち2段目と3段目の遊星減速機構については、外部操作によって減速状態と非減速状態が切り替え可能になっている。
つまり、上記マルチインパクト回転工具は、ハンマ61及びアンビル91からなるインパクト機構6を用いたインパクトモードと、インパクト機構6にインパクト動作を行わせずに出力軸9を回転させるドリルドライバーモードとの切替を行う切替手段を、変速操作部14を外部操作することで切替可能としている。
また、上記マルチインパクト回転工具は、モータ13の出力を多段式減速機構部により減速したうえで駆動軸8に伝え、駆動軸8からインパクト機構6を介して(又はインパクト機構6を介さずに)出力軸9に出力を与えるものである。以下、駆動軸8に対してモータ13が位置する側を「入力側」、その逆側を「出力側」として述べる。
上記マルチインパクト回転工具の本体外殻を成すハウジング1はグリップ部11を有し、グリップ部11の根元部に、モータ13の動作スイッチであるトリガスイッチ12を配設している。
上記インパクト機構6は、駆動軸8と、ハンマ61と、アンビル91と、ハンマ61をアンビル91側に付勢する付勢ばね63と、付勢ばね63を後端側で受けるばね受け64と、で構成されている。
さらに具体的に述べると、上記インパクト機構6では、駆動軸8の外周に設けた溝状のカムとハンマ61の内周に設けた溝状のカムとに鋼球65を係合させて、駆動軸8の回転と共にハンマ61を回転可能としている。そして、回転時にはハンマ61の出力側に延設された突部62がアンビル91に係合してアンビル91及び出力軸9を回転させ、出力軸9側のトルクが増したときに、ハンマ61が駆動軸8に対して回転しながら、カムのリードに従い付勢ばね63に抗して後退するように設けている。
ここで、突部62がアンビル91を乗り越えると、付勢ばね63の付勢によってハンマ61はカムのリードに従って前進し、突部62によってアンビル91に対して回転方向の打撃を加える。
また、減速機構を成す1段目の減速部2は、常に減速状態で動作する遊星減速機構であり、2段目の減速部3と3段目の減速部5が、減速状態と非減速状態が切り替え可能な遊星減速機構である。そのため、以下においては、2段目の減速部3を「入力側変速部3」といい、3段目の減速部5を「出力側変速部5」という。上記変速部3,5の状態を切り替えることで、両変速部3,5の一方のみを減速状態にした高速モード及び中速モードと、両方の変速部3,5を減速状態にした低速モードと、の3速モードに変速可能である。
上記減速部2は、モータ13によって回転する入力軸132に固着された第1サンギア21と、第1リングギア23と、上記第1サンギア21及び第1リングギア23に噛み合う第1プラネットギア22と、で構成される。上記第1リングギア23はモータ取付台131に固定されており、減速部2は常にモータ13からの回転を減速するように動作する。
第1プラネットギア22には第1伝達軸24が固着されており、この第1伝達軸24を通じて、第1キャリア25に減速された回転が伝達される。そして、上記第1キャリア25の駆動軸8側には、入力側変速部3の第2サンギア31が一体に形成されている。
上記入力側変速部3は、減速部2の第1サンギア21と同心で配設された上記第2サンギア31と、軸方向に沿ってスライド自在に配置された第2リングギア33と、上記第2サンギア31及び第2リングギア33に噛み合う第2プラネットギア32と、で構成される。第2プラネットギア32には、第2キャリア35に対してトルクを伝達する第2伝達軸34が固着されている。第2キャリア35は、軸受15を介して、入力軸132に対して回転自在に支持されている。
第2リングギア33は、軸方向に沿ってスライドすることで、モータ13側の位置である入力側位置と、駆動軸8側の位置である出力側位置と、の二つの位置に切り替え自在となっている。上記の二位置間での切り替え作業は、変速操作部14を成す入力側変速ハンドル141を外部操作し、変速ばね(図示せず)を介して第2リングギア33を軸方向に沿ってスライドすることで行う。
図10には、第2リングギア33が出力側位置にあるときを示している。このとき、第2キャリア35に形成された外歯351に第2リングギア33が相対回転不能に噛み合い、非減速状態となっている。
これに対して、入力側変速ハンドル141を入力側に移動させたときには、第2リングギア33が入力側位置に移動し、第2キャリア35の外歯351と第2リングギア33の噛み合いが解除されるとともに、第2リングギア33の軸方向に延設された係合部331が、第1リングギア23の係合部231に対して回転不能に係合する。両係合部231,331の係合により、第2リングギア33は第1リングギア23に保持されて回転不能となる。これにより、入力側変速部3は減速状態となる。
さらに、上記第2リングギア33の出力側には保持用ピン16が設けてある。この保持用ピン16によって、第2リングギア33を出力側位置に移動させた際の位置決めと、第2リングギア33の出力側への脱落防止を図っている。
また、第2キャリア35から、出力側に向けてピン状のトルク伝達部材41が軸方向に沿って複数突設されている。トルク伝達部材41には、伝達キャリア42が軸方向にスライド自在に配置されている。
上記伝達キャリア42は、モータ13側の位置である入力側位置と、駆動軸8側の位置である出力側位置の二つの位置に、軸方向に沿ってスライド自在となっている。伝達キャリア42には、上記いずれの位置であっても第2キャリア35からのトルクがトルク伝達部材41を通じて伝達される。上記伝達キャリア42のスライド移動は、変速操作部14を成す出力側変速ハンドル142を外部操作することで、変速ばね(図示せず)を介して行われる。
上記伝達キャリア42の出力側には、出力側変速部5の第3サンギア51が一体に形成されている。
上記第3サンギア51は、伝達キャリア42が出力側位置にある状態において、出力側変速部5の第3プラネットギア52に噛み合う。そして、伝達キャリア42が入力側位置に移動すると、第3プラネットギア52との噛み合いを解除する。そのため、出力側変速部5は、伝達キャリア42の移動に伴って減速と非減速の切り替えを行う。
上記第3プラネットギア52は、第3サンギア51に噛み合う大径ギア部521と、大径ギア部521よりも小径であって第3リングギア53に噛み合う小径ギア部522と、からなる段付プラネットギアとなっている。つまり、出力側変速部5は、2K−H型遊星減速機構の中でIV型遊星と呼ばれる減速機構となっている。
上記第3プラネットギア52は、小径ギア部522と大径ギア部521とが同心で且つ相対回転不能な2段の外歯を備えた歯車である。第3プラネットギア52の自転中心には、第3キャリア55に駆動を伝達する第3伝達軸54を装着させている。
また、出力側変速部5の出力側には、クラッチ機構7を配設している。第3リングギア53には、クラッチ山71を出力側に突設している。上記クラッチ機構7は、クラッチ山71の間に位置した鋼球72をクラッチばね74がスラスト板73を介して付勢するものであり、設定値を越えたトルクがかかるとクラッチ山71が鋼球72を出力側に押し返し、第3リングギア53を空転させるように機能する。なお、符号75はクラッチ調節ねじである。
第3リングギア53の入力側には保持用ピン16が設けてあり、クラッチ機構7の鋼球72に押されて第3リングギア53が入力側にずれることを防止している。
上記出力側変速部5の第3キャリア55の出力側には、円筒形状の中間出力軸56を固着させており、第3キャリア55からのトルクは中間出力軸56にまで伝達される。上記中間出力軸56の前端には、駆動軸8の後端を相対回転不能に係合させており、さらに駆動軸8に対してまでトルクが伝達される構造となっている。なお、上記第3キャリア55と中間出力軸56とは一体に成形してあってもよい。
また、上記伝達キャリア42の内周には、連結軸43の入力側端部が固着されており、伝達キャリア42と連結軸43と第3サンギア31とが一体回転するようになっている。上記連結軸43の出力側端部は、上記中間出力軸56の内周に対して回転自在に挿通されている。上記連結軸43は、伝達キャリア42のスライド移動に伴って、第3サンギア31と共にスライド移動する。つまり、上記伝達キャリア42と連結軸43とで、第3サンギア31に連結されて一体に回転及びスライドする移動部材40を形成している。
連結軸43の出力側端部の外周面には、中間軸直結部431を形成している。この中間軸直結部431が、中間出力軸56の内周入力側に設けた直結用係合部561に対して、回転不能に係合可能となっている。ただし、中間軸直結部431と直結用係合部561との係合は、伝達キャリア42が出力側位置から入力側位置に移動して第3サンギア51が第3プラネットギア52との噛み合いを解除した状態でのみ、行われる。
中間軸直結部431と直結用係合部561とが係合することで、伝達キャリア42は出力側変速部5を介さず、中間出力軸56に対して直接トルクを伝達する。なお、上記係合状態では、出力側変速部5が非減速状態で、且つトルクを伝達しない非使用状態になっており、クラッチ機構7は無効化されている。
出力側変速ハンドル142の外部操作により、伝達キャリア42が図10に示す出力側位置に戻ると、中間軸直結部431と直結用係合部561との係合が解除される。このとき、第3サンギア51は第3プラネットギア52に噛み合い、出力側変速部5が減速状態となるとともに、クラッチ機構7が有効になる。
なお、伝達キャリア42がスライド移動する空間Sには、入力側および出力側の端部位置に、保持板17を設けてある。このうち入力側の保持板17は、入力側変速部3が有する第2キャリア35の脱落を防止するためのキャリア拘束部材10を成すものである。上記第2リングギア33の出力側にある保持用ピン16は、保持板17の位置決めを行っている。また、出力側の保持板17は、出力側変速部5が有する第3プラネットギア52の脱落を防止するためのものである。
また、中間出力軸56からトルクを伝達される駆動軸8は、軸方向両端が開口するように形成した貫通孔内に、回転自在且つ軸方向にスライド自在となるように、切替ピン45を配置している。上記切替ピン45の出力側端部には、モード切り替えを行うための連結部材44から成る切替手段を、回転自在に且つ軸方向に移動不能に設けている。
上記連結部材44は、駆動軸8の上記貫通孔に形成した駆動軸側係合部81と、アンビル91に形成したアンビル側係合部92とに対して、回転不能に且つ軸方向にスライド自在に係合可能となっている。なお、上記両係合部81,92自体は、直接的には互いに干渉せず相対回転するものであるが、連結部材44が介在したときには、一体に回転するように連結される。
つまり、駆動軸側係合部81とアンビル側係合部92の両方に連結部材44が係合すると、両係合部81、92が連結部材44により相対回転不能に保持され、これにより駆動軸8とアンビル91が連結される。そして、連結部材44が両係合部81,92の一方との係合を解除すると、再び相対回転可能な状態に戻る構造である。
切替ピン45の入力側端部は、連結軸43の内周に圧入されている。そのため、切替ピン45は連結軸43を介して伝達キャリア42と共に回転し、且つ伝達キャリア42のスライドに伴って共にスライドするものとなっている。
そして、上記切替ピン45のスライドによって、連結部材44は、アンビル側係合部92に係合せずに駆動軸側係合部81にのみ係合する状態と、駆動軸側係合部81及びアンビル側係合部92の両方に係合する状態と、に切り替わる。
連結部材44が駆動軸側係合部81にのみ係合する状態では、両係合部81,92が相対回転可能であり、駆動軸8に伝達されたトルクがインパクト機構6を介してアンビル91及び出力軸9に伝わるインパクトモードとなる。また、連結部材44が両係合部81,92に係合する状態では、駆動軸8とアンビル91が相対回転不能に連結され、インパクト機構6を介さずに駆動軸8のトルクがアンビル91及び出力軸9に直接伝わるドリルドライバーモードとなる。
図10に示す状態は、入力側変速ハンドル141と出力側変速ハンドル142を共に出力側にスライド操作した状態である。このとき、入力側変速部3では第2リングギア33が出力側位置にあり、非減速状態となる。また、出力側変速部5では伝達キャリア42が出力側位置にあり、減速状態になるとともに、連結部材44は両係合部81,92に係合するので、ドリルドライバーモードとなる。
これに対し、図示はしないが、例えば入力側変速ハンドル141だけを入力側にスライドさせると、入力側変速部3が減速状態に切り替わり、全ての遊星減速機構が減速状態の最低速モードとなる。なお、このとき伝達キャリア42は出力側位置にあるので、ドリルドライバーモードである。
さらに、同じく図示はしないが、さらに出力側変速ハンドル142を入力側にスライドさせると、伝達キャリア42の入力側位置へのスライド移動によって出力側変速部5が非減速状態に切り替わり、さらに連結部材44が駆動軸側係合部81にのみ係合するインパクトモードに切り替わる。
上記マルチインパクト回転工具においては、入力側変速部3が出力側変速部5より小さな減速比となるように設定しているので、ドリルドライバーHighモード(図10に示すモード)よりも、インパクトモードのほうが高速モードとなる。逆に、入力側変速部3が出力側変速部5より大きな減速比となるように設定すれば、ドリルドライバーHighモードよりも、インパクトモードのほうが低速モードとなる。
以上、図10に示す回転工具の構成について述べた。以下においては、この回転工具にさらに改良を加えた本発明の回転工具について述べる。なお、図10に示す回転工具と同様の構成については図面中の符号や詳しい説明を一部省略し、この回転工具とは相違する特徴的な構成(改良部分)についてのみ、以下に詳述する。
図1〜図3には、本発明の実施形態における第1例の回転工具を示している。第1例の回転工具は、図10の回転工具と同様のマルチインパクト回転工具であって、図1には、図10と同様のドリルドライバーHighモードにある場合を示している。図2には、ドリルドライバーLowモードにある場合を示し、図3には、インパクトモードにある場合を示している。
図1に示すドリルドライバーHighモードは、入力側変速ハンドル141と出力側変速ハンドル142が共に出力側位置にあり、入力側変速部3が非減速状態、出力側変速部5が減速状態となったドリルドライバーモードである。図2に示すドリルドライバーLowモードは、入力側変速ハンドル141が入力側位置、出力側変速ハンドル142が出力側位置にあり、入力側変速部3と出力側変速部5が共に減速状態となったドリルドライバーモードである。図3に示すインパクトモードは、入力側変速ハンドル141と出力側変速ハンドル142が共に入力側位置にあり、入力側変速部3が減速状態、出力側変速部5が非減速状態となったインパクトモードである。
そして、第1例の回転工具にあっては、入力側変速部3を構成する第2キャリア35の軸方向の位置を拘束するキャリア拘束部材10として、図10の回転工具のように空間Sの外周側を軸方向に仕切るように保持板17を配置するのではなく、入力軸132の先端部に、C字状の輪部材である止め具101を取付固定している。入力軸132の出力側の先端部外周面には、周方向沿って凹溝を形成しており、該凹溝内に嵌合させることで止め具101を入力軸132に固定させている。
入力軸132は、入力側変速部3の第2キャリア35よりも出力側にまでその先端部が突出するように設けてあり、該先端部に装着した上記止め具101のC字状をなす入力側端面が、第2キャリア35の出力側端面に係止することで、第2キャリア35の出力側(空間S側)への脱落を防止している。
さらに、伝達キャリア42の内周に固着される連結軸43には、入力軸132と軸方向に対向する部分に、該入力軸132の先端部と止め具101とが没入可能な凹所432を設けている。該凹所432は、止め具101よりも僅かに大径の断面円形状を有している。
上記構成を具備することにより、第1例の回転工具では、止め具101から成るキャリア拘束部材10の配置箇所を、入力側変速部3の第2キャリア35と伝達キャリア42との互いの当接面352,421によって軸方向に挟まれる領域を除いた部分に配置してある。
そのため、伝達キャリア42が入力側にスライド移動し、図3に示すインパクトモードに切り替わると、入力軸132の先端部と止め具101とが連結軸43の凹所432に没入し、入力側変速部3の第2キャリア35と伝達キャリア42とが互いの当接面352,421で密着するようになっている。
つまり、止め具101が邪魔になることもなく、伝達キャリア42を第2キャリア35に密着するまで入力側にスライドさせることのできる構造であるため、機構全体の軸方向の寸法は抑制しつつ、切り替えストロークを確保することが可能である。
加えて、第1例の回転工具では上記構成を具備することにより、止め具101から成るキャリア拘束部材10の配置箇所は、入力側変速部3の第2リングギア33が第2キャリア35を超えた出力側の位置にまでスライドしたときに接触する領域を除いた部分ともなっている。
そのため、図1に示すドリルドライバーHighモードにあるときには、止め具101が邪魔になることもなく、第2リングギア33はその出力側先端部がキャリア35の出力側端面を超える位置にまでスライド移動できる。これによっても、機構全体の軸方向の寸法は抑制しつつ、切り替えストロークが確保されることになる。
次に、本発明の実施形態における第2例の回転工具について、図4に基づいて説明する。図4は、ドリルドライバーHighモードを示している。なお、図10に示す回転工具や第1例の回転工具と同様の構成については詳しい説明を省略し、特徴的な構成についてのみ以下に詳述する。
第2例の回転工具にあっては、入力側変速部3が有する第2キャリア35の軸方向の位置を拘束するキャリア拘束部材10として、トルク伝達部材41の出力側端面に当接する円環板状のスラスト受け部102を配置している。なお、既述のようにトルク伝達部材41は、入力側変速部3の第2キャリア35と伝達キャリア42とを軸方向にスライド自在に連結させるためピン状部材であり、その入力側端部を第2キャリア35に固着させ、その出力側端部を、伝達キャリア42において軸方向に貫設した連結孔422内にスライド自在に貫通させている。
スラスト受け部102は、出力側変速部5が有する第3プラネットギア52の脱落を防止する保持板17を兼ねている。つまり、この仕切り板状のスラスト受け部102は、伝達キャリア42がスライド移動する空間S(第2キャリア35と第3プラネットギア52に挟まれる空間)の出力側端部に配置され、その円環状を成す滑らかな入力側端面にトルク伝達部材41の出力側端面を当接させ、同じく円環状を成す出力側端面に第3プラネットギア52の入力側端面を当接させている。トルク伝達部材41の出力側端面は、スラスト受け部102の入力側端面に対して円滑に摺動する。
第2例の回転工具では、上記構成を具備することにより、スラスト受け部102から成るキャリア拘束部材10の配置箇所を、入力側変速部3のキャリア35と伝達キャリア42との互いの当接面352,421によって軸方向に挟まれる領域と、入力側変速部3の第2リングギア33が第2キャリア35を超えた出力側の位置にまでスライドしたときに接触する領域と、を除く部分に配置してある。したがって、このスラスト受け部102が邪魔になることなく、伝達キャリア42は第2キャリア35に密着する位置までスライドすることができ、また、第2リングギア33は図4のように第2キャリア35を超える位置までスライドすることができる。そのため、機構全体の軸方向の寸法は抑制しつつ、切り替えストロークを確保することが可能である。
なお、図示はしないが、伝達キャリア42が入力側にスライド移動してインパクトモードに切り替わるとき、入力軸132の先端部が連結軸43の凹所432に没入し、入力側変速部3のキャリア35と伝達キャリア42との密着を可能にすることは勿論である。
また、上記スラスト受け部102の入力側端面に、トルク伝達部材41の先端が摺動可能に配置される円環状のガイド溝を形成してあってもよい。上記ガイド溝を形成してあれば、トルク伝達部材41の摺動はさらに円滑化される。
次に、本発明の実施形態における第3例の回転工具について、図5に基づいて説明する。図5は、ドリルドライバーHighモードを示している。なお、第3例の回転工具は第2例の回転工具を基本とするものであるため、第2例と同様の構成については詳しい説明を省略し、第2例とは異なる構成についてのみ以下に詳述する。
第3例の回転工具にあっては、キャリア拘束部材10を成すスラスト受け部102を、円環薄板状の保持板17と、トルク伝達部材41と一体に回転する円環状の回転盤103と、で形成している。保持板17と回転盤103とは、互いの対向面が摺動自在となるように密着配置させており、保持板17は、その出力側端面に第3プラネットギア52の入力側端面を当接させて脱落を防止している。また、回転盤103はその入力側端面に円形の凹溝を形成し、該凹溝内に、円柱状のトルク伝達部材41の出力側先端部を嵌合させている。
回転盤103は、保持板17に対して周方向に摺接しながら、トルク伝達部材41や伝達キャリア42と一体に回転駆動される。上記回転盤103を有するスラスト受け部102にあっては、円滑な回転を確保しながらトルク伝達部材41を介して第2キャリア35の脱落を防止することができる。また、伝達キャリア42の倒れ込みも効果的に防止することができる。
なお、第3例では第1例の場合等に比べて入力軸132を短く形成し、さらに第2キャリア35等の内径を大きく形成することで、機構全体の一層の軽量化を図っている。上記軽量化は、第1例のような留め具101をキャリア拘束部材10として用いない構成であることから可能となる。
次に、本発明の実施形態における第4例の回転工具について、図6に基づいて説明する。図6は、ドリルドライバーHighモードを示している。なお、第4例の回転工具は第3例と同様、第2例の回転工具を基本とするものである。そのため、第2例と同様の構成については詳しい説明を省略し、第2例とは異なる構成についてのみ以下に詳述する。
第4例の回転工具にあっては、キャリア拘束部材10を成すスラスト受け部102を、円環薄板状の保持板17と、保持板17に密着固定したベアリング104と、で形成している。ベアリング104は円環状のスラストベアリングであり、その入力側端面にトルク伝達部材41の出力側端面が押圧されるように配置している。ベアリング104としてはコロ軸受けを用いることが好ましい。
上記ベアリング104を有するスラスト受け部102にあっては、円滑な回転を確保しながらトルク伝達部材41を介して第2キャリア35の脱落を防止することができる。また、伝達キャリア42の倒れ込みも効果的に防止することができる。
なお、上記ベアリング104と第3例の回転盤103を組み合わせてスラスト受け部102を形成してもよい。この場合、例えば、回転盤103と保持板17との間にベアリング104を挟持する配置となる。
次に、本発明の実施形態における第5例の回転工具について、図7、図8に基づいて説明する。図7はドリルドライバーHighモードを示し、図8は、インパクトモードを示している。なお、図10に示す回転工具や第1例の回転工具と同様の構成については詳しい説明を省略し、特徴的な構成についてのみ以下に詳述する。
第5例の回転工具にあっては、第2キャリア35の脱落を防止するキャリア拘束部材10として、伝達キャリア42や連結軸43がスライド移動する空間Sの軸中心部に、圧縮コイルばねから成る弾性部材105を配置している。
第5例では、第1例と同様に、入力軸132の先端部を第2キャリア35よりも出力側にまで突出するように設けており、連結軸43の入力軸132先端と対向する部分には、該入力軸132の先端部が没入可能な凹所432を設けている。凹所432は、コイル状の弾性部材105よりも僅かに大径の断面円形状を有している。
そして、コイル状の弾性部材105の入力側端部を、入力軸132の第2キャリア35からの突出部分に嵌合させ、該弾性部材105の出力側端部を、連結軸43の凹所432内に嵌入させて配置している。
したがって、伝達キャリア42が入力側にスライド移動し、図8に示すインパクトモードに切り替わると、弾性部材105が軸方向に圧縮されるとともに入力軸132の先端部は連結軸43の凹所432に没入し、入力側変速部3のキャリア35と伝達キャリア42とが互いの当接面352,421で密着する。このとき、最大の圧縮状態にある弾性部材105はその全体が凹所432内に没入される。なお、インパクトモードにおいて伝達キャリア42は弾性部材105により出力側へと付勢力を受けるが、伝達キャリア42は変速ばね(図示せず)により拘束されるので、その位置は問題なく保持される。
上記構成を具備する第5例の回転工具では、弾性部材105から成るキャリア拘束部材10の配置箇所を、入力側変速部3のキャリア35と伝達キャリア42との互いの当接面352,421によって軸方向に挟まれる領域と、入力側変速部3の第2リングギア33が第2キャリア35を超えた出力側の位置にまでスライドしたときに接触する領域と、を除く部分に配置してある。したがって、弾性部材105が邪魔になることなく、伝達キャリア42は第2キャリア35と密着する位置(図8参照)までスライドすることができる。また、第2リングギア33は第2キャリア35を超える位置(図7参照)までスライドすることができる。そのため、機構全体の軸方向の寸法は抑制しつつ、切り替えストロークを確保することが可能である。
次に、本発明の実施形態における第6例の回転工具について、図9に基づいて説明する。図9はインパクトモードを示している。なお、なお、第6例の回転工具は第1例の回転工具を基本とするものであるため、第1例と同様の構成については詳しい説明を省略し、第1例とは異なる構成についてのみ以下に詳述する。
第6例の回転工具にあっては、伝達キャリア42に、入力側変速部3の第2キャリア35と当接する位置にまでスライドしてインパクトモードに切り替わったときに該第2キャリア35の外歯351と噛み合う噛合部423を設けている。噛合部423は、伝達キャリア42の外周部分から入力側に向けて歯状に突設されたものであり、インパクトモード以外では第2キャリア35の外歯351と噛み合わない構造にしている。
つまり、第2キャリア35の外歯351は、ドリルドライバーHighモードのときには出力側にスライドされた第2リングギア33に対して相対回転不能に噛み合い、インパクトモードにあるときには入力側にスライドされた伝達キャリア42の噛合部423に対して相対回転不能に噛み合う。そのため、インパクトモードにあるときには、インパクト機構6で生じる打撃によっても伝達キャリア42にガタツキを生じることがなくなり、伝達ロスが低減される。
また、伝達キャリア42の外周部分には、入力側に向けて突出するオーバーラップ部424を設けている。このオーバーラップ部424は、入力側変速部3の第2キャリア35と伝達キャリア42とが密着するインパクトモードにあるとき、第2キャリア35の外周側の少なくとも一部を覆うように形成している。このオーバーラップ部424が設けてあることで、伝達キャリア42の外周面に凹溝状の変速ばね係合部425を形成するための寸法を確保したうえで、伝達キャリア42の他部分においては軸方向の厚みを極力薄く形成することができる。そのため、機構全体の軸方向の寸法をさらに抑制することが可能となっている。
なお、第6例にて特徴的に具備する上記構成を、第2〜第5例の回転工具においてさらに採用してもよいことは勿論である。
以上、第1例〜第6例の回転工具について説明した。いずれの回転工具においても、入力側変速部3および出力側変速部5を、軸方向に直列接続させて内蔵しており、入力側変速部3のさらに入力側には、常に減速状態で動作する減速部2を、軸方向に直列接続させている。上記減速部2は、モータ13からのトルクを直接受ける回転数の速い減速段であり、これを変速することのない減速段としたことで、モード切替時に歯車の破損等の不具合が生じることを防止している。
また、いずれの回転工具においても、インパクト機構6を用いたインパクトモードと、インパクト機構6を機能させずに入力軸132の回転駆動を出力軸9にまで伝達するドリルドライバーモードとを有し、伝達キャリア42や連結軸43から成る移動部材40の軸方向のスライドに伴ってインパクトモードとドリルドライバーモードを切り替える切替手段を備えている。そのため、移動部材40のスライド移動によって減速比を変更すると同時にモード切替を行うことができ、機構全体の大型化が抑制されるとともに、使用者にとっては減速比変更とモード切替を別々の作業として行う必要がなく、ハンドル操作の負担が軽減される等の利点がある。なお、設ける変速段の数は二つに限定されず、三つ以上設けてインパクトモードを2速以上とすることや、ドリルドライバーモードを3速以上としてもよい。
以上、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記各例の実施形態に限定されるものではなく、本発明の意図する範囲内であれば、各例において適宜の設計変更を行うことや、各例の構成を適宜組み合わせて適用することが可能である。