以下、本発明を図面に示す実施形態により説明する。
説明の便宜上、本実施形態のミシンの上糸つかみ装置(以下、単に、上糸つかみ装置と記す。)を備えたミシンについて図1から図3により先に説明する。
図1から図3は本発明に係るミシンの上糸つかみ装置を備えたミシンを示すものであり、図1は要部の一部切断外観図、図2は釜近傍の要部の拡大図、図3は図1の要部の構成を示すブロック図である。
本実施形態のミシンは、ベッド部の先端部が略筒状に形成されるとともに、後述するX軸方向の幅が他の部位よりも狭く設定されたシリンダベッドミシンの基本構成を備えているものである。
図1に示すように、本実施形態のミシン1は、ベッド部2と、ベッド部2の図1の右側に示す後部に設けられた上方に向かって突設された連結胴部3と、この連結胴部3の上部から図1の左側に示す前方に向けてベッド部2と平行に延在するように延出して設けられたアーム部4とを有する全体としてほぼコ字状に形成されている。
ここで、説明の便宜上、後述する縫い針Nの上下動方向をZ軸方向とし、これと直交する方向であってベッド部2およびアーム部4の長手方向をY軸方向とし、Z軸方向およびY軸方向の双方に直交する方向をX軸方向とする。
また、ミシン1を水平面上に設置した場合に、Z軸方向における+側を上、−側を下とし、X軸方向における+側を左、−側を右、Y軸方向における+側を前、−側を後として以下に説明する。
前記ミシン1は、アーム部4の先端部に設けられ、ミシンモータ5の駆動力により上下方向に往復動する縫い針Nと、アーム部4の上部に設けられ、縫い針Nに上糸Tを供給するための図示しない上糸供給源と、この上糸供給源と縫い針Nとの間で上糸Tを所定の荷重で挟持してその送り方向の移動に抵抗力を発生させる糸調子装置6と、この糸調子装置6と縫い針Nとの間で所定のタイミングで天秤7により上糸Tの引き上げを行う天秤装置と、ベッド部2の上面に設けられ、縫い針Nの先端部を挿通させる針穴8a(図2)が設けられた針板8と、ベッド部2の内部であって針板8の下方に設けられ、下降した縫い針Nから上糸ループTLをすくい取るとともに、この上糸ループTLに図示しない下糸を挿通させる垂直半回転釜を備えた釜機構9と、針板8と釜機構9の間において縫い針Nの1針目の上昇時に上糸Tの糸端部TAの挟持を行うミシンの上糸つかみ装置10((以下、単に、上糸つかみ装置10と記す。)と、ベッド部2の内部に設けられ、縫製後に上糸Tおよび下糸を切断する図示しない糸切り装置と、各部の動作の制御を司る制御手段11(図3)とを有している。
前記縫い針Nは、図1の下方に示す先端より少し上方に糸通し穴Na(目穴:図2)が形成されており、この糸通し穴Naに上糸Tが挿通されるようになっている。また、縫い針Nの図1の上方に示す基端部は、図示しない針留めを介して針棒12の下端部に着脱自在に取り付けられている。この針棒12は、アーム部4の図1の左側に示す自由端側に配置されており、針棒12の下端部は、アーム部4の自由端側の下面から、ベッド部2の針落ち位置、詳しくは、針板8の針穴8aに向かって突出するように配設されている。また、針棒12は、図示しない針棒駆動機構に接続されており、この針棒駆動機構は、下端部に縫い針Nが取り付けられた針棒12を、ミシンモータ5の駆動力によって回転駆動される図示しないミシン主軸の回転に連動して、所定の周期で、かつ、所定のストロークをもって上下方向に往復動することができるよう形成されている。
前記ミシンモータ5には、その回転位相角度を検出するためのエンコーダ13(図3)が併設されており、縫い針Nが上死点に位置したときを0°として現在のミシンモータ5の出力軸が0〜360°のいずれの角度位置にあるかを制御手段11に出力する。
前記天秤7は、上糸Tが挿通される図示しないガイド穴が設けられ、上糸Tが挿通された状態で上下動を行うことにより、その上昇時に縫い針Nの糸通し穴Naに挿通された上糸Tの引き上げを行うようになっている。また、天秤装置は、天秤7を縫い針Nと同じ周期で上下動させるが、天秤7が上死点に位置するタイミングは、縫い針Nが上死点に位置する時点よりも少し遅れるように設定されている。
図2に示すように、釜機構9は、揺動運動(正回転方向への半回転運動および逆回転方向への半回転運動を交互に繰り返す往復半回転運動)を行い、周方向に沿って突出した剣先15により上糸ループTLを捕捉する中釜16と、中釜16を回転自在に支持する大釜17と、大釜17の上部に設けられた上糸ガイド板18と、連結胴部4に配置側から大釜17に向かってベッド部2の長手方向に平行に延出されて図示しないドライバーを介して中釜16に揺動駆動力を付与する釜軸19(図1に一部のみ図示)とを有している。そして、釜軸19は、ミシンモータ5から分岐された駆動力が揺動駆動力に変換されて伝達されるようになっており、縫い針Nの上下方向への往復運動と中釜16の揺動運動とについて所定の位相差で同期が図られている。なお、上糸ガイド板18は、上糸Tの中釜16のレース面に対する接触や、中釜16と大釜17との摺動面(大釜17のレース面と中釜16のレース面との接触面)への侵入を防止するための板状の部材である。
図3に示すように、制御手段11は、詳細には図示しないが、各種演算処理を行うCPU(MPUであってもよい。)と、制御、判断などの各種処理用の各種プログラムが記憶、格納されたROMと、各種処理におけるワークメモリとして使用されるRAMとを有している。また、データを書き換えるなどの必要に応じて不揮発性メモリが設けられる。そして、制御手段11には、システムバスおよび駆動回路などを介してミシンモータ5、エンコーダ13、後述する駆動手段27の駆動源としての糸つかみ用モータ58、糸切り装置の糸切りモータ20、後述する移動位置検出手段56の第1の状態センサ66および第2の状態センサ67、縫製の開始と停止を入力するためのスタート/ストップスイッチ21、図示しない操作パネルなどや電源スイッチなどが接続されている。
前記制御手段11は、ミシンモータ5の出力軸に設けられているエンコーダ13から入力されるパルス信号に基づき、ミシンモータ5の回転角度を認識することができる。
また、制御手段11は、第1の状態センサ66、第2の状態センサ67から入力される検出信号に基づき、後述する上糸挟持手段26(以下、単に、挟持手段26と記す。)の各移動位置、本実施形態においては初期位置、挟持位置および解放位置の3つの位置を確認することができる。
また、制御手段11は、スタート/ストップスイッチ21から縫製開始信号が入力されると、確認、認識したミシンモータ5の回転角度や移動位置検出手段56の動作位置検出に応じて、駆動手段27の駆動源としての糸つかみ用モータ58の駆動を制御することができる。
つぎに、本発明に係る上糸つかみ装置の実施形態について説明する。
図4から図6は発明に係る上糸つかみ装置の実施形態を示すものであり、図4は要部の斜視図、図5は図4の要部の分解斜視図、図6は図5の要部の拡大分解斜視図である。
本実施形態の上糸つかみ装置10は、縫い始めの縫い目S(図28参照)を確実に形成、すなわち縫い始めの上糸Tの糸端部TAが生地C(図25参照)から抜脱することを防止するために、縫い始めの1針目の縫い針Nに挿通されている上糸Tの糸端部TAを針板8の下方で、かつ、縫い針Nの上下動経路NL(図2)から離間した位置で捕捉し挟持するとともに、その後予め設定された針数を針落ちした後、挟持した上糸Tの糸端部TAを解放するものである。
図4および図5に示すように、本実施形態の上糸つかみ装置10は、上糸Tの糸端部TAを捕捉し挟持するための相対的に接離可能にされた第1挟持部24および第2挟持部25を具備する挟持手段26と、この挟持手段26を駆動するための駆動手段27とを有している。この駆動手段27は、さらに、移動手段28と、関連動作手段29とを備えている。また、本実施形態の上糸つかみ装置10は、糸払い手段30を有している。
前記移動手段28は、挟持手段26を縫い針Nの上下動経路NL上に位置する初期位置(図7〜図10)と、この初期位置から縫い針Nの上下動経路NL(Z軸方向に平行であって、上死点における縫い針Nの先端位置から下死点における縫い針Nの先端位置を結ぶ経路)に対して後方(連結胴部側)に離間した挟持位置(図13、図14)と、この挟持位置よりさらに後方(連結胴部側)に離間した解放位置(図15、図16)とに移動させることを可能とするとともに、縫い始めに初期位置から挟持位置に移動させ、予め設定された針数の針落ちの間停止した後に、挟持位置から解放位置に移動させるようになっている。
前記関連動作手段29は、挟持手段26が初期位置に位置するときに、第2挟持部25を縫い針Nの上下動経路NLより連結胴部側の位置に配置するとともに第1挟持部24を縫い針Nの上下動経路NLを挟んで挟持部31と対向する位置に配置し、挟持手段26が初期位置から挟持位置に移動したときに、第1挟持部24と第2挟持部25を接近する方向に移動させて上糸Tの糸端部TAの挟持を行わせ、挟持手段26を解放位置に移動させたときに、第2挟持部25を第1挟持部24から離間させて挟持した上糸Tの糸端部TAを解放させるように、第1挟持部24および第2挟持部25を移動手段28の移動に機械的に連動させるようになっている。
すなわち、本実施形態の駆動手段27は、挟持手段26が初期位置と挟持位置と解放位置との3位置を選択的に取り得るように動作させることができるように構成されている。
なお、駆動手段27としては、移動手段28および関連動作手段29のかわりに、第1のアクチュエータの駆動力により挟持手段26の全体を初期位置、挟持位置および解放位置の3位置(初期位置および挟持位置の2位置の場合もある。)を選択的に取り得るように移動させる構成と、第2のアクチュエータの駆動力により第1挟持部24と第2挟持部25とを相対的に接離動作させる構成とを併せて用いてもよい。
前記糸払い手段30は、少なくとも挟持手段26が挟持位置に移動して上糸Tを捕捉し挟持したときに、挟持手段26による上糸Tの挟持箇所から垂れ下がる上糸Tの糸端部TAを上糸ループTLの引き上げ経路から離間するように糸払いするためのものであり、挟持手段26の動作に機械的に連動するようになっている。
図4および図5に示すように、本実施形態の挟持手段26は、第1挟持部24を具備する第1挟持部材31と、第2挟持部25を具備する第2挟持部材32とを有している。これらの各部材31、32は、いずれもその全体形状が長尺板状であり、これらは第2挟持部材32を上として重ね合わされ、いずれもその長手方向をY軸方向に平行に向けられた状態でY軸方向(前後方向)に沿って双方が滑動可能に関連動作手段29に支持されている。
以下、挟持手段26の各部の説明において方向を示す言葉が使用される場合には、特にことわりがない限り、挟持手段26が関連動作手段29に支持された状態における方向を示しているものとする。
前記図5および図6に示すように、第1挟持部材31は、Y軸方向+側に位置する先端部に糸捕捉部33が設けられている。この糸捕捉部33は、針板Pの針穴Paを貫通した縫い針Nの糸通し穴Naが内部を通過可能な枠状、本実施形態においては前後方向に沿って長い平面矩形状に形成されている。そして、糸捕捉部33の内面のうちのY軸方向+側に位置する前内面により、上糸Tを挟持する際に用いられる第1挟持部24が形成されている。すなわち、第1挟持部24は、糸捕捉部33の一部を形成している。また、第1挟持部材31のX軸方向−側に位置する外側面の先端側には、後述する糸払い手段30の平面ほぼ矩形状をなす糸払い本体83を取り付けるための糸払い本体用取付板部34がX軸方向−側に向かって突出するように延出形成されており、そのほぼ中央部には上下方向に貫通するねじ穴35が形成されている。また、糸払い本体用取付板部34のX軸方向−側に位置する外側面のY軸方向−側に位置する後端側には、ストッパ36がZ軸方向−側である下方に向かって延出形成されている。
本実施形態の糸捕捉部33のX軸方向両側に位置する2つの内側面は、第2挟持部材32の第2挟持部25の前後方向の移動を案内する案内ガイドとしても機能するように形成されている。
なお、糸捕捉部33の形状としては、設計コンセプトなどの必要に応じて、平面矩形状以外の形状、例えばY軸方向−側をほぼ円弧状あるいは半円状としてもよく、特に、本実施形態の平面矩形状に限定されるものではない。
図5および図6に示すように、第1挟持部材31のY軸方向−側に位置する後端には、前後方向に沿って長い平面矩形状の貫通穴43が形成されている。この貫通穴43は、図5に示すように、後述する関連動作手段29の引張りばね44が配置され、その伸縮を行う動作領域を形成している。この貫通穴43の前端部に引張りばね44の一端部が連結されている。また、第1挟持部材31のY軸方向中間部やや後寄りの位置には、X軸方向−側に向かって延設されたブラケット部45が設けられ、その先端部には下方に向かって延出された丸棒状の係合ピン46がその先端を下方に向けて固定装備されている。そして、第1挟持部材31は、係合ピン46を介して関連動作手段29による前後方向の移動力が入力されるように形成されている。
図5に示すように、第2挟持部材32は、前側部48と後側部49とに二分割されており、これらが連結体50により連結されることで一体の略長尺板形状に形成されている。そして、前側部48の前端部には第2挟持部25が設けられており、この第2挟持部25は、糸捕捉部33の一部を構成している第1挟持部24に対して接離可能な挟持面25aと、第1挟持部24に対する当接時に第1挟持部24の下方を通過して第1挟持部材31の先端面より前方に突出する屈曲部25bとを有している。
したがって、第1挟持部材31と第2挟持部材32との相対的な接近動作により、第1挟持部材31の糸捕捉部33に上方から挿通された上糸Tを、第1挟持部24と第2挟持部25の挟持面25aとにより挟持することができるように形成されている。また、挟持された上糸Tは、挟持面25aの下端部から前方に向かって延設された屈曲部25bにより、前方に向かって折り曲げられ、上糸Tを前方から下方にしなう状態とすることができるようになっている。その結果、上糸Tの糸端部TAは、屈曲部25bにより、より前方に位置した状態で垂れ下がることとなるので、その下方に位置する釜機構9の中釜16よりも前方に位置がずらされて、中釜16への接触や巻き込みを防止することができるように形成されている。
なお、第1挟持部24および第2挟持部25の挟持面25aとしては、第1挟持部24と第2挟持部25の挟持面25aとが上糸Tを介して当接することのできる形状、例えば平面円弧状などの湾曲に形成してもよい。
前記後側部49は、前後方向に沿って貫通穴51が形成され、第2挟持部材32と第1挟持部材31とが重ね合わされた状態で関連動作手段29に支持された場合に、貫通穴51は前述した第1挟持部材31の貫通穴43と重合し、これらの内側に関連動作手段29の引張りばね44が配置され、その伸縮を行う動作領域を形成するようになっている。この貫通穴51の後端部に引張りばね44の他端部が連結されている。
したがって、第2挟持部材32は第1挟持部材31と引張りばね44を介して連結された状態となり、第1挟持部材31の第1挟持部24と第2挟持部材32の第2挟持部25とは、常時互いに接近し当接する方向に付勢力が付与されるようになっている。
前記第2挟持部材32の後側部49のY軸方向の中間部にはX軸方向+側に向かって延設されたブラケット部52が設けられ、その先端部には下方に向かって延出された丸棒状の係合ピン53ががその先端を下方に向けて固定装備されている。そして、第2挟持部材32には、係合ピン53を介して関連動作手段29による前後方向の移動力が入力されるようになっている。
前記移動手段28は、挟持手段26の第1挟持部24および第2挟持部25に対して、縫製開始前に予め縫い針Nの上下動経路NLの下方である初期位置に移動させ、縫製開始後であって1針目の縫い針Nが生地から引き抜かれたときに縫い針Nの上下動経路NLに対して初期位置よりも後方となる挟持位置に移動させ、予め設定された回数の針落ちが行われると(例えば2〜3針)縫い針Nの上下動経路NLに対して挟持位置よりも後方となる解放位置に移動させるという3つの位置への移動を行うものである。
そのため、移動手段28は、関連動作手段29に支持された挟持手段26をY軸方向に沿って往復駆動するY軸移動機構55と、挟持手段26が初期位置、挟持位置および解放位置のいずれの位置にあるか否かを検出する移動位置検出手段56(図9)と、移動位置検出手段56の検出に基づいてY軸移動機構55の動作制御を行う移動位置決め制御手段とを備えている。
前記Y軸移動機構55は、図5に示すように、駆動手段27の駆動源としての回転駆動力を出力する糸つかみ用モータ58と、糸つかみ用モータ58の出力軸に自らの揺動中心位置が連結された主動リンク体59と、関連動作手段29の相対位置調節リンク体60にY軸方向の移動力を付与する従動リンク体61と、主動リンク体59から従動リンク体61へ駆動力を伝達する伝達リンク体62とを備えている。
前記糸つかみ用モータ58としては、例えばステッピングモータが用いられており、制御手段11の動作制御により正逆方向について任意の回転角度量で駆動されるようになっている。
前記主動リンク体59は、その一端部が糸つかみ用モータ58の出力軸に固定連結され、その他端部が伝達リンク体62の一端部に回動可能に連結されている。
前記従動リンク体61は、その一端部が関連動作手段29の後述するガイド板63に軸支され、その他端部が伝達リンク体62の他端部に回動可能に連結されている。また、略くの字形の従動リンク体61には関連動作手段29の相対位置調節リンク体60にY軸方向に沿った移動力を付与するための係合突起64が設けられている。
前記伝達リンク体62は、ほぼY軸方向に沿うように配設され、糸つかみ用モータ58の駆動による主動リンク体59の揺動とともに従動リンク体61を揺動させるように形成されている。
これらの構成により、糸つかみ用モータ58が駆動すると主動リンク体59の揺動とともに従動リンク体61が揺動し、係合突起64を介して関連動作手段29の相対位置調節リンク体60がY軸方向に沿って移動を行うように形成されている。
前記移動位置検出手段56は、発光素子と受光素子とを有し、これらの間の遮蔽物の存在の有無を検出する第1および第2の状態センサ66、67と、前述したY軸移動機構55の伝達リンク体62に設けられ、第1および第2の遮蔽領域68、69を有する遮蔽板70とを備えている(図9)。
前記第1および第2の状態センサ66、67は、遮蔽板70の移動線上に沿って並んで配置されているとともに、第1の状態センサ47が後側に配置される。これにより、各状態センサ66、67はほぼY軸方向に沿って並んだ状態となる。各状態センサ66、67の受光素子は、遮蔽物有りの状態をON状態とし、遮蔽物なしの状態をOFF状態とし、各状態が識別可能な信号を制御手段11に出力するようになっている。
一方、遮蔽板70は、第1および第2の状態センサ66、67の双方に対して発光素子−受光素子間を通過するように伝達リンク体62に固定支持されている。そして、第1の遮蔽領域68は、挟持手段26が初期位置にあるときには第1の状態センサ66と第2の状態センサ67の間に位置し、挟持位置にあるときには第1の状態センサ66を遮蔽する位置にあり、解放位置にあるときには依然として第1の状態センサ66を遮蔽する位置にあるようにそのY軸方向位置およびY軸方向長さが設定されている。
前記第2の遮蔽領域69は、挟持手段26が初期位置または挟持位置にあるときにはいずれの場合も第2の状態センサ67よりもよりも前方に位置し、解放位置にあるときに初めて第2の状態センサ67を遮蔽する位置となるようにそのY軸方向位置が設定されている。
したがって、制御手段11では、挟持手段26が初期位置にあることを第1および第2の状態センサ66、67の双方がOFF状態であることから判別でき、挟持手段26が挟持位置にあることを第1の状態センサがON状態かつ第2の状態センサ67がOFF状態であることから判別でき、挟持手段26が解放位置にあることを第1および第2の状態センサ66、67の双方がON状態であることから判別できるようになっている。
前記移動位置決め制御手段は、実際には、制御手段11の制御により実現する。このように、移動位置決め制御手段は、ミシン全体の動作制御を行う制御手段11の機能の一部を借りて実現してもよいし、独立した制御手段により実現させてもよい。
前記移動位置決め制御手段としての制御手段11は、予め、挟持手段26を初期位置から挟持位置へ移動させるための糸つかみ用モータ58の回転角度量および挟持位置から解放位置へ移動させる回転角度量を記憶しており、挟持手段26を第2および解放位置に位置決めする際には記憶角度位置を参照して糸つかみ用モータ58の動作制御を行う。
なお、初期位置については、制御手段11が、ミシン1への電源投入時において移動位置検出手段56を利用して初期位置制御部としての制御(イニシャライズ動作処理)を行い、糸つかみ用モータ58を駆動して第1および第2の状態センサ66、67の双方がOFF状態となる位置を検索し、その位置で待機するように構成されている。
また、縫製開始後の1針目においてミシンモータ5のエンコーダ13により出力軸角度が例えば245°であることを検出すると、縫い針Nが生地Cから上方に抜けたことを認識して挟持手段26を挟持位置に位置決めする上糸保持制御部としての制御を行う。
なお、本実施形態のミシン1では、ミシンモータ5の出力軸について縫い針Nの上死点位置を0°とした場合に、245°まで回転すると縫い針Nが下死点を通過して針板8の上方に抜けるように設定されている。さらに、エンコーダ13の出力により、縫製開始後の所定数の針落ちを検出すると挟持手段26を解放位置に位置決めする上糸解放制御部としての制御を行うようになっている。ここで、エンコーダ13の出力による針数の認識は、例えば、エンコーダ13による180°を示す信号出力回数を計数することにより行われる。
図5に示すように、関連動作手段29は、第2挟持部材32と第1挟持部材31とをそれぞれY軸方向に沿って往復可能に支持するガイド手段としてのガイド板63と、第2挟持部25と第1挟持部24とが互いに接近する方向に第2挟持部材32と第1挟持部材31との間に常時張力を付与する張力付勢手段としての引張りばね44と、自らの揺動による姿勢変化に応じて第2挟持部25と第1挟持部24とを接離させることを可能として第2挟持部材32と第1挟持部材31のそれぞれに係合するとともに、移動手段28による挟持手段26の各移動位置への移動力が入力される相対位置調節リンク体60と、挟持手段26が初期位置にあるときに、相対位置調節リンク体60に当接して第2挟持部25と第1挟持部24とを離間させる方向に揺動せしめる第1の当接部材72と、挟持手段26が解放位置にあるときに、相対位置調節リンク体60に当接して第2挟持部25と第1挟持部24とを離間させる方向に揺動せしめる第2の当接部材73とを有している。
前記ガイド板63は、ベッド部2の上部であって針板8の後方に固定されている。
以下、関連動作手段29の各部の説明において方向を示す言葉が使用される場合には、特にことわりがない限り、ガイド板63がベッド部2に固定された状態における方向を示しているものとする。
前記ガイド板63の上面にはそのX軸方向における中間位置にY軸方向に沿ったガイド溝75が設けられている。このガイド溝75には、挟持手段26の第1挟持部材31および第2挟持部材32が長手方向を揃えて重ね合わされた状態で格納され、さらにその上からは押さえ板76が第1挟持部材31および第2挟持部材32がガイド溝75から外れ落ちないように蓋をしている。これにより、第1挟持部材31および第2挟持部材32はガイド溝75に案内されて各々Y軸方向に沿って滑動することが可能となる。
但し、前述したように、第1挟持部材31と第2挟持部材32とは引張りばね44を介して連結されているので、外力が加わらない限り、各部材31、32は第1挟持部24と第2挟持部25とを当接させた状態を維持することとなる。
前記ガイド板63のガイド溝75を挟んで両側には、それぞれ貫通穴77、78が設けられている。一方の貫通穴77は、第1挟持部材31に設けられた係合ピン46が上方から嵌挿され、他方の貫通穴78には第2挟持部材32の係合ピン53が嵌挿される。また、各貫通穴77、78は、いずれも、挟持手段26の初期位置から解放位置までの移動およびこれにともなう第1挟持部材31および第2挟持部材32の相対的な移動において各係合ピン46、53に各穴77、78の前端部および後端部がいずれも接触しないようにそのY軸方向長さが設定されている。また、各貫通穴77、78に挿通された各係合ピン46、53はその先端部がガイド板63の下面側から幾分突出し、個別に相対位置調節リンク体60に係合されている。
前記相対位置調節リンク体60は、その長手方向に沿って並んだ配置で、第1挟持部材31との回動係合部79と、第2挟持部材32との回動係合部80と、これらの間に位置する移動手段28との回動係合部81とが設けられている。
すなわち、第1挟持部材31との回動係合部79は、相対位置調節リンク体60の長手方向に沿った長穴状の貫通穴であり、係合ピン46が挿通されている。第2挟持部材32との回動係合部80は、円形貫通穴であり、係合ピン53が挿通されている。移動手段28との回動係合部81は、相対位置調節リンク体60の長手方向に沿った長穴状の貫通穴であり、係合突起64が挿通されている。
前記糸払い手段30は、図6に示すように、糸払い本体83とこの糸払い本体83を作動させるための糸払い作動部材84を有している。
前記糸払い本体83は、前後方向に長い平板状の糸払いアーム85と、この糸払いアーム85のY軸方向−側に位置する後端からX軸方向−側に向かってほぼ直角に延出された平板状の入力アーム86とにより全体としてベルクランク状に形成されている。さらに、糸払いアーム85の先端部には、X軸方向+側に向かって延出された爪部85aが形成されており、全体としてフック状をなすように形成されている。そして、爪部85aと糸払いアーム85とのX軸方向+側に位置するそれぞれの側面の接続部である爪部85aの付け根には、糸払い本体83による糸捕捉部としての凹部85bが形成されている。また、糸払いアーム85と入力アーム86との接続部分には、上下方向に貫通する挿通穴87が形成されており、この挿通穴87には、糸払い本体83を支持するための支持ピンとして機能する取付用段ねじ88が下方から挿通されている。
前記取付用段ねじ88は、糸払い本体用取付板部34のねじ穴35に螺着されており、糸払い本体83は、取付用段ねじ88を中心として回動自在にされている。さらに、取付用段ねじ88には付勢手段としてのねじりコイルばね89が取り付けられている。このねじりコイルばね89は、糸払い本体83の下面側に配置されており、一端が糸払い本体用取付板部34に形成されたストッパ36のY軸方向−側に位置する後端面に掛けられ、他端が糸払い本体83の駆動アームのY軸方向+側に位置する前側面に掛けられている(図10)。
前記糸払い本体83は、ねじりコイルばね89の付勢力(ばね力)により、常時は、入力アーム86のY軸方向−側に位置する後端面がストッパ36に当接されており、Z軸方向+側である上から見て反時計方向への最大回転位置が規制され、糸払いアーム85が取付用段ねじ88を中心として、上から見て水平面に沿って時計方向(図10の反時計方向)への回転のみを許容するように構成されている。この状態において、糸払いアーム85は、糸捕捉部33のX軸方向−側に位置する側方において糸捕捉部33に対してほぼ平行に配置されており、糸捕捉部33から離間した位置を保持している。また、糸払いアーム85の爪部85aは、糸捕捉部33の先端よりY軸方向+側に配置されており、糸払い本体83が取付用段ねじ88を中心として上から見て時計方向へ回転した場合、糸払いアーム85が糸捕捉部33の直下を横切るように構成されている。
前記糸払い作動部材84は、ガイド板63のY軸方向+側に位置する先端面の中央部からX軸方向−側寄りにおいてY軸方向+側に突出する棒状に形成されている。また、糸払い作動部材84の先端は、糸払い本体83の入力アーム86のY軸方向−側に位置する側面のX軸方向−側に位置する先端側の部位と対向する位置に配置されている。勿論、糸払い作動部材84は、ストッパ36と干渉しない位置に配置されている。
なお、糸払い作動部材84は、ガイド板63に限らず、ベッド部2などの他の固定部位に配置してもよい。
また、糸払い作動部材84は、挟持手段26が初期位置から挟持位置に到達する途中で、先端が入力アーム86に当接して糸払い本体83の回転を開始させ、挟持手段26が挟持位置を越えて解放位置に到達したときには、糸払い本体83の回転が終了するように構成されている。この糸払い本体83を回転させる回転角度としては、第1挟持部24と第2挟持部25とによる上糸Tの挟持箇所から垂れ下がる上糸Tの糸端部TAを上糸ループTLの引き上げ経路から離間させることができる角度とするように構成されている。
そこで、糸払い作動部材84としては、Y軸方向+側の先端の位置をY軸方向に沿って調節可能な構成としてもよい。例えば、糸払い作動部材84の基端部にねじ部を形成し、このねじ部をガイド板63あるいは他の固定部位に設けたねじ穴に螺入させるときの螺入量を変化させる構成を挙げることができる。このような構成とすることにより、部品の精度を緩めコスト低減が図れるとともに、糸払い本体83の回動タイミングおよび開き角度を詳細に調整でき、上糸Tの太さや強度に対して細かな設定を可能として糸切れを防ぎ、一層の縫製品質の向上を図ることができる。
その他の構成については、従来の上糸つかみ装置を備えたミシンと同様に形成されているので、その詳しい説明については省略する。
つぎに、前述した構成からなる本実施形態の作用について説明する。
図7から図16は本発明に係る上糸つかみ装置の実施形態における動作を説明する説明図であり、図7は糸つかみ装置の上糸挟持手段が初期位置に位置した状態の要部の正面図、図8は図7の上糸挟持手段の要部の部分拡大図、図9は図7の上糸つかみ装置の要部の下面図、図10は図9の要部の部分拡大図、図11は上糸つかみ装置の上糸挟持手段が初期位置と挟持位置との途中位置で糸払い手段が作動を開始する位置に到達した動作状態を示す説明図、図12は図11の要部の下面図、図13は上糸つかみ装置の上糸挟持手段が挟持位置に位置した動作状態の要部の説明図、図14は図13の要部の下面図、図15は上糸つかみ装置の上糸挟持手段が解放位置に位置した動作状態の要部の説明図、図16は図15の要部の下面図である。なお、図7から図16においては要部にのみ符号を付してある。
図7から図10に示すように、本実施形態のミシン1の電源スイッチがON操作されると、制御手段11は、イニシャライズ動作を実行して、挟持手段26を初期位置に位置決めする。したがって、挟持手段26は、縫い針Nの上下動経路NL上に位置し、第1挟持部24は縫い針Nの上下動経路NLの前方に位置し、第2挟持部25は直線Mより後方に位置している。この挟持手段26が初期位置に位置決めされた状態において、糸払い手段30は、糸払い作動部材84の先端が糸払い本体83の入力アーム86からY軸方向−側に離間されており、ねじりコイルばね89の付勢力により、糸払いアーム85がストッパ36に当接されている。これにより、糸払いアーム85は、その長手方向をほぼ前後方向に向けて位置決めされており、糸払いアーム85が、糸捕捉部33のX軸方向−側に位置する側方において糸捕捉部に対してほぼ平行に配置されており、糸払い本体83は、糸捕捉部33から離間した位置を保持している。なお、挟持手段26が初期位置に位置決めされたことは、制御手段11が第1および第2の状態センサ66、67からのOFF信号を受けて判断する。
ついで、制御手段11は、スタート/ストップスイッチ21からの縫製開始信号を受けると、移動位置検出手段56により初期位置の検出を行う。そして、第1および第2の状態センサ66、67からの信号をがいずれもOFF状態であることが検出されると、ミシンモータ5の駆動を開始する。これにより、縫い針Nは針板8の針穴8aを貫通し、閉状態とされた糸捕捉部33の内部でかつ第1挟持部24と第2挟持部25との間を上糸Tが通過する。さらに、その下方において、縫い針Nの脇の上糸ループTLが駆動する釜機構9の剣先15に捕捉される。そして、中釜16の回転と上糸ガイド板18とにより上糸ループTLは広げられるが、その際、第2挟持部25の先端部が充分に後方に位置するため、上糸ガイド板18による上糸ループTLの拡大を遮らない。したがって、後方に位置する中釜16のレース面22への上糸Tの接触は防止される。この時、糸払い本体83は、糸捕捉部33から離間した位置を保持している。
ついで、ミシンモータ5のエンコーダ13から、1針目の縫い針Nが生地Cから抜け出し、天秤7が上死点に達したか否かがエンコーダ信号の検出角度から判断され、このエンコーダ13の出力が天秤7が上死点に達したことを示すと、制御手段11は、移動手段28の糸つかみ用モータ58に挟持位置へ挟持手段26を移動させるよう駆動を開始する動作制御を行う。すなわち、予め設定されている初期位置から挟持位置までの移動量に応じた回転角度量の記憶を参照し、これに応じて糸つかみ用モータ58を駆動する。
これにより、挟持手段26は初期位置から挟持位置に向かって移動を開始する。この時、関連動作手段29の相対位置調節リンク体60は引張りばね44の付勢力によりX軸方向に沿うように揺動を開始するので、第1挟持部24は後方に移動し、第2挟持部25は前方に移動する。
前記天秤7が上死点に達してから第1挟持部24と第2挟持部25により上糸Tの糸端部TAを挟持させるのは、天秤7の上死点では上糸Tに対する天秤7の引き上げが完了しているため針穴8aより下方にある、上糸Tは最も短い状態にあり、この時に第1挟持部24と第2挟持部25により上糸Tを挟持すると、挟持された部分から端部までの上糸Tの長さである「糸端長さ」を最も短くすることができるからである。
ついで、図11および図12に示すように、挟持手段26が初期位置から挟持位置に向かって移動する途中において、第1挟持部24の後方への移動により、糸払い手段30の糸払い作動部材84の先端が糸払い本体83の入力アーム86のY軸方向−側に位置する側面に当接する。そして、第1挟持部24の挟持位置に向かう後方へのさらなる移動により、入力アーム86が糸払い作動部材84に押されるので、糸払い本体83は、ねじりコイルばね89の付勢力に抗して取付用段ねじ88を中心として図12の反時計方向(上方から見ると時計方向)、すなわち、糸払いアーム85の先端側が糸捕捉部33に向かうように水平面に沿って回転を開始する。したがって、第1挟持部24と第2挟持部25とが上糸Tを挟持するときの動作に連動して糸払い本体83が作動する。
ついで、予め設定された回転角度量分の糸つかみ用モータ58の駆動が行われ停止されると、図13および図14に示すように、挟持手段26が挟持位置に到達するとともに、第1挟持部24は後方に移動し、第2挟持部25は前方に移動し、互いに接近するとともに第1挟持部24と第2挟持部25の挟持面25aが当接する。これにより、これらの間に挿通されていた上糸Tの糸端部TAが挟持される。なお、実際には、挟持手段26が挟持位置に到達する途中で第1挟持部24と第2挟持部25の挟持面25aが当接される。なお、挟持手段26が挟持位置に到達して位置決めされたことは、制御手段11が第1の状態センサ66のON信号と第2の状態センサ67からのOFF信号を受けて検出する。また、挟持位置への移動は縫い針Nの針先が針板8の上方にある間に完了する。
この時、糸払い手段30は、取付用段ねじ88を中心として糸払いアーム85の先端側が糸捕捉部33に向かうように回転するので、図13に示すように、糸払いアーム85は第1挟持部24と第2挟持部25とによる上糸Tの挟持部分と、釜Kとを結ぶ糸経路Vを横切る軌道を取る。また、糸払い本体83の爪部85aは、縫い針Nの上下動経路NLを横切らずに通過するため、縫い針Nと干渉しない。
その結果、糸払い手段30は、挟持手段26による上糸Tの挟持箇所から垂れ下がる上糸Tの糸端部TAを糸捕捉部33の直下において糸払いアーム85の凹部85bで捕捉して引っ掛けてX軸方向−側で、かつY軸方向−側に糸払いする。この糸払いにより、1針目で第1挟持部24と第2挟持部25との間に挟持した上糸Tの糸捕捉部33を通過した部分である糸端部TAのうちの糸払い本体83より下方に位置する垂れ下がった糸端部TAは、2針目の上糸ループTLの引き上げ経路から離間するように移動する。この糸払いは、糸払い本体83より下方に位置する糸端部TAを釜Kの剣先Kaの通過経路に掛かからないように釜Kから離間するように移動することにもなる。
なお、糸払い手段30により、上糸Tの糸端部TAがX軸方向−側で、かつY軸方向−側に移動されているので、仮に2針目の上糸ループTLに引き上げられたとしても、上糸Tの糸端部TAの先端Ta側が生地裏の縫い目Sに縫い込まれることはない。
ついで、制御手段11は、予め設定されている針数の針落ち(例えば、2回の針落ち)が行われると、予め設定されている挟持位置から解放位置までの移動量に応じた回転角度量の記憶を参照し、これに応じて糸つかみ用モータ58を駆動する。
これにより、挟持手段26は挟持位置から解放位置に向かって移動を開始する。そして、挟持手段26が解放位置に接近する途中で、関連動作手段29の相対位置調節リンク体60の摺接部60aが第2の当接部材73に摺接する。そして、さらに挟持手段26の移動が継続されると、相対位置調節リンク体60は引張りばね44の付勢力に抗して揺動し、第2挟持部25が第1挟持部24より大きく後方に移動する。したがって、上糸Tの糸端部TAの挟持状態が解除され、上糸Tの糸端部TAは挟持手段26から解放されつつ、挟持手段26は解放位置に到達する。なお、挟持手段26が解放位置に到達して位置決めされたことは、制御手段11が第1および第2の状態センサ66、67からのそれぞれのON信号を受けて検出する。
前記挟持手段26が解放位置に到達すると、図15および図16に示すように、糸払い手段30は、取付用段ねじ88を中心として糸払いアーム85の先端側が糸捕捉部33に向かうようにさらに回転し、挟持手段26による上糸Tの挟持箇所から垂れ下がる上糸Tの糸端部TAを糸捕捉部33の直下において糸払いアーム85の凹部85bで引っ掛けてX軸方向−側で、かつY軸方向−側にさらに糸払いして糸払いを完了する(縫い針Nの上下動経路NLからさらに遠ざかる)。
なお、本実施形態の上糸つかみ装置10においては、挟持手段26の初期位置と挟持位置との途中位置から解放位置までの間で糸払い手段30を作動させる構成としたが、これは、挟持位置において上糸Tがあばれることなく安定して挟持することを優先したためであり、上糸Tの挟持に支障がない範囲、例えば初期位置と挟持位置との途中位置から挟持位置までの間で糸払い手段30の動作を完了するように形成してもよい。
また、挟持位置としては、第1挟持部24と第2挟持部25とが上下動経路NLの側方に離間、すなわち、第1挟持部24および第2挟持部25が縫い針Nの上下動経路NLから外れ、縫い針Nと干渉しない位置であればよい。
さらに、初期位置から挟持位置へ移動する途中で上糸Tの糸端部TAの挟持を行うようにしてもよい。
前記挟持手段26が解放位置に移動して位置決めされる場合、第1挟持部24と第2挟持部25とが上糸Tを解放可能な距離だけ離間すればよい。
なお、解放位置については、第1挟持部24および第2挟持部25が縫い針Nの上下動経路NLから外れ、縫い針Nと干渉しない位置であればよいが、縫製において必要となる他の機構に干渉しないように、挟持位置よりも後方に設定される。
なお、上糸つかみ装置10としては、解放位置を個別に設けずに、挟持位置と同一の位置、すなわち、挟持位置で上糸Tの糸端部TAの挟持と解放との両者を行うように構成してもよい。
このように、本実施形態の上糸つかみ装置10によれば、挟持手段26が上糸Tを捕捉し挟持したときに、挟持手段26による上糸Tの挟持箇所から垂れ下がる上糸Tの糸端部TAを上糸ループTLの引き上げ経路から離間するように糸払いする糸払い手段30が設けられているから、挟持している上糸Tの糸端部TAの先端Ta側が生地裏の縫い目Sに縫い込まれて糸捕捉部33を通るループWが形成されるのを確実かつ容易に回避することができる。
したがって、本実施形態の上糸つかみ装置10によれば、生地ずれ、糸切れ、装置の動作不良などが発生するのを容易かつ確実に防止することができるとともに、高い縫製品質を確実に確保することができる。
また、本実施形態の上糸つかみ装置10によれば、縫い始めにおける上糸Tの糸通し穴Naから先端Taまでの長さである「挿通長さ」が変化するような縫製条件であっても、糸つかみ装置10が使用可能となるので、縫製品質の向上、縫始め高速化(生産性)が維持・具現できるという副次的効果を奏する。
さらに、本実施形態の上糸つかみ装置10によれば、「挿通長さ」にかかわらず、糸つかみ装置10を使用できるため、「挿通長さ」に影響する糸取りばねの調整や、糸道部品(ゲージ)交換をせずにすむので生産性が向上するという副次的効果も奏する。
また、本実施形態の上糸つかみ装置10によれば、糸払い手段30が水平面に沿って可動にされるとともに、常時は付勢手段としてのねじりコイルばね89の付勢力によって挟持手段26の糸捕捉部33から離間した位置を保持する糸払い本体83と、糸払い本体83に接離される糸払い作動部材84を有しており、糸払い作動部材84を糸払い本体83に当接させることにより、糸払い本体83を作動させて糸払いするように形成されているから、糸払い作動部材84を糸払い本体83に当接させるという簡単な動作により、上糸Tを捕捉して糸払い動作をより確実に実行することができる。
さらに、本実施形態の上糸つかみ装置10によれば、糸払い本体83が第1挟持部材31に設けられており、糸払い作動部材84が駆動手段27に設けられており、第1挟持部24と第2挟持部25とが上糸Tを挟持するときの動作に連動して糸払い本体83が作動するように形成されているから、糸払い手段30を作動させるために個別の駆動源を必要としないので、糸払い手段30の構成を簡単なものとすることができるし、第1挟持部材31の動作のばらつきや部品精度にかかわらず確実に糸払いを行うことができる。
さらにまた、本実施形態の上糸つかみ装置10によれば、糸払い本体83が第1挟持部材31に設けられており、糸払い作動部材84が駆動手段27に設けられており、糸払い本体83が第1挟持部24と第2挟持部25とが上糸Tを挟持するときの動作に連動して作動するように形成されているから、上糸Tを払う位置を、常に一定の位置(タイミング)とすることができる。
図17から図24は、本発明に係るミシンの上糸つかみ装置の他の実施形態を示すものである。なお、前述した第1実施形態の上糸つかみ装置と同一の構成については要部にのみ図面中に同一の符号を付しその詳しい説明は省略する。また、図17から図24においては要部にのみ符号を付してある。
本実施形態の上糸つかみ装置10Aは、糸払い手段30Aの糸払い本体83Aを駆動手段29に設けるとともに、糸払い作動部材84Aを第1挟持部材31に設け、糸払い本体83Aを第1挟持部24と第2挟持部25とが上糸Tを挟持するときの動作に連動して作動するように形成したものである。
すなわち、図17および図18に示すように、第1挟持部材31のX軸方向−側に位置する外側面のうちの糸捕捉部33の形成位置のY軸方向−側の部分には、糸払い作動部材84Aが延出形成されている。この糸払い作動部材84Aは、第1挟持部材31からX軸方向−側に向かって突出するように延出形成された平面ほぼ矩形状をなす基体部84Aaと、この基体部84AaのX軸方向−側に位置する先端からZ軸方向−側である下方に向かって延出形成された平板状の駆動部84Abとを有している。そして、駆動部84AbのX軸方向−側に位置する後端が糸払い本体83Aの糸払いアーム85Aの入力アーム86aに接離するようになっている。
前記糸払い本体83Aは、ガイド板63に形成された糸払い本体取付部91の下面に取り付けられている。この糸払い本体取付部91は、ガイド板63のY軸方向+側に位置する先端面の中央部からX軸方向−側寄りにおいてY軸方向+側に突出するように延出された取付基部91aを有しており、この取付基部91aの下面のY軸方向+側に位置する先端には、ほぼ直方体状のストッパ92が下方に向かって延出形成されている。そして、取付基部91aのほぼ中央部には、厚さ方向に貫通するねじ穴93が形成されている。
前記糸払い本体83Aは、前後方向に長い平板状の糸払いアーム85Aと、この糸払いアーム85AのY軸方向−側に位置する後端からX軸方向+側に向かってほぼ直角に延出された平板状の入力アーム86Aとにより全体としてベルクランク状に形成されている。さらに、糸払いアーム85Aの先端部には、X軸方向+側に向かって延出された爪部85Aaが形成されており、全体としてフック状をなすように形成されている。そして、爪部85Aaと糸払いアーム85AとのX軸方向+側に位置するそれぞれの側面の接続部である爪部85Aaの付け根には、糸払い本体83Aによる糸捕捉部としての凹部85Abが形成されている。また、糸払いアーム85Aと入力アーム86Aとの接続部分には、上下方向に貫通する挿通穴87Aが形成されており、この挿通穴87Aには、糸払い本体83Aを支持するための支持ピンとして機能する取付用段ねじ88Aが下方から挿通されている。
前記取付用段ねじ88Aは、糸払い本体用取付板部91のねじ穴93に螺着されており、糸払い本体83Aは、取付用段ねじ88Aを中心として回動自在にされている。さらに、取付用段ねじ88aには付勢手段としてのねじりコイルばね89Aが取り付けられている。このねじりコイルばね89Aは、糸払い本体83Aの下面側に配置されており、一端が入力アーム86AのY軸方向−側に位置する後端に掛けられ、他端が糸払い本体取付部91の取付基部91aの下面に立設されたピン状のばね掛部94(図18)の外周に掛けられている。
前記糸払い本体83Aは、ねじりコイルばね89Aの付勢力(ばね力)により、常時は、糸払いアーム85AのX軸方向−側に位置する右側面がストッパ92に当接されており、Z軸方向+側である上から見て反時計方向への最大回転位置が規制され、糸払いアーム85Aが取付用段ねじ88Aを中心として上から見て水平面に沿って時計方向(図18の反時計方向)への回転のみを許容するように構成されている。この状態において、糸払いアーム85Aは、糸捕捉部33のX軸方向−側に位置する側方において糸捕捉部33に対してほぼ平行に配置されており、糸捕捉部33から離間した位置を保持している。また、糸払いアーム85の爪部85aは、ほぼ糸捕捉部33の先端のX軸方向に沿った延長線上に配置されており、糸払い本体83Aが取付用段ねじ88Aを中心として上から見て時計方向へ回転した場合、糸払いアーム85Aが糸捕捉部33の直下を横切るように構成されている。
前記糸払い作動部材84A、挟持手段26が初期位置から挟持位置に到達する途中で、先端が入力アーム86Aに当接して糸払い本体83Aの回転を開始させ、挟持手段26が挟持位置を越えて解放位置に到達したときには、糸払い本体83Aの回転が終了するように構成されている。
また、糸払い作動部材84Aは、第1挟持部材31に限らず、ベッド部2などの他の固定部位に配置してもよい。
さらに、糸払い作動部材84Aとしては、Y軸方向−側に対する突出量を著性可能なねじ部材とし、入力アーム86Aとの当接位置を変更可能にする構成としてもよい。このような構成によれば、部品の精度を緩めコスト低減が図れるとともに、糸払い本体83Aの回動タイミングおよび開き角度を詳細に調整でき、上糸Tの太さや強度に対して細かな設定を可能として糸切れを防ぎ、一層の縫製品質の向上を図ることができる。
その他の構成については、前述した第1実施形態の上糸つかみ装置10と同様に構成されているので、その詳しい説明については省略する。
本実施形態の上糸つかみ装置10Aは、前述した第1実施形態の上糸つかみ装置10と同様に動作する。
すなわち、本実施形態の上糸つかみ装置10Aの糸払い手段30Aは、図19および図20に示すように、挟持手段26が初期位置から挟持位置に到達する途中で、糸払い作動部材84Aの後端が入力アーム86Aに当接する。そして、第1挟持部24の挟持位置に向かう後方へのさらなる移動により、入力アーム86Aが糸払い作動部材84Aに押されるので、糸払い本体83Aは、ねじりコイルばね89Aの付勢力に抗して取付用段ねじ88Aを中心として図20の反時計方向(上方から見ると時計方向)、すなわち、糸払いアーム85Aの先端側が糸捕捉部33に向かうように水平面に沿って回転を開始する。
ついで、糸払い手段30Aは、挟持手段26が初期位置から挟持位置に位置決めされると、図21および図22に示すように、取付用段ねじ88Aを中心として糸払いアーム85Aの先端側が糸捕捉部33に向かうように回転して、挟持手段26による上糸Tの挟持箇所から垂れ下がる上糸Tの糸端部TAを糸捕捉部33の直下において糸払いアーム85Aの凹部85Aaで捕捉して引っ掛けてX軸方向−側で、かつY軸方向−側に糸払いする。
ついで、糸払い手段30Aは、挟持手段26が挟持位置から解放位置に位置決めされると、図23および図24に示すように、取付用段ねじ88Aを中心として糸払いアーム85Aの先端側が糸捕捉部33に向かうようにさらに回転して糸払いを完了する。
このような構成からなる本実施形態の上糸つかみ装置10Aによれば、糸払い本体83Aが駆動手段27、詳しくはガイド板63に設けられており、糸払い作動部材84Aが第1挟持部材31に設けられており、糸払い本体83が第1挟持部24と第2挟持部25とが上糸Tを挟持するときの動作に連動して作動するように形成されているから、前述した実施形態の上糸つかみ装置10と同様の効果を奏することができるとともに、上糸Tの経路に対して糸払いの経路を固定化(安定化)することができ、また、払った上糸Tの荷重を固定されたガイド板63により受けることができるので、上糸Tが太糸などであっても安定した糸払いを確実に行うことができる。
なお、本発明のミシンの上糸つかみ装置の糸払い手段は、従来の種々のミシンの上糸つかみ装置に用いることができる。
また、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。