JP5181269B2 - 上下免震機構 - Google Patents
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Description
そのため、上下動に効果的な免震構造として空気バネや皿バネを用いる上下免震装置が考えられており、特許文献1には皿バネによる上下免震装置と水平免震装置とを併用した3次元免震装置についての開示がある。
また、いずれにしても上下動の変位振幅は水平動に比較すると桁違いに小さいのであるが、微小振幅で大きな負担力をもつような有効なダンパー(減衰装置)は実用化されていないことから、微小な上下動に対してダンパーを効果的に作動させてエネルギーを有効に吸収するためには鉛直剛性を小さくして上下動の変位振幅を大きくする必要がある。しかし、過度に鉛直剛性を小さくすると「ふかふかバネ」の状態となって常時の使い勝手や居住性が大きく損なわれ、好ましくない。
上記事情に鑑み、本発明は上記のような性能を備える有効適切な上下免震機構を提供することを目的とする。
また、可動部材を変位自在に支持する傾斜滑り支承における摩擦係数を適切に設定することにより、その摩擦抵抗力により履歴吸収エネルギーが生じて滑り支承自体がダンパー(減衰装置)として機能し、したがって他に格別の減衰要素を必要とすることなく優れた減衰効果が得られるし、滑り支承における傾斜角と摩擦係数の設定により減衰特性を自由にかつ広範に設定することができる。
さらに、摩擦係数が充分に小さい水平滑り支承により上部構造体を水平変位自在に支持したり、あるいは下部構造体(すなわち上下免震機構の全体)を基盤に対して水平免震機構により支持することにより全体として3次元免震機構を構成でき、上下免震効果のみならず水平免震効果も得られる。
また、下面側の水平滑り支承5における摩擦係数μ2は可及的に小さくして(実質的にゼロにして)、上部構造体1を可動部材3とともに水平各方向に滑らかに摺動させることが好ましく、それにより本実施形態の上下免震機構は上下方向のみならず水平方向に対する免震効果も得られて実質的に3次元免震機構として機能するものとなる。
なお、図示例ではバネ要素6をコイルバネのように示しているが、所望のバネ剛性を有するものであればバネ要素6の形態や素材は適宜で良い。いずれにしても、バネ要素6は水平方向に伸縮するだけで可動部材3に対する回転が生じることはないので、可動部材3に対する連結はクレビスやボールジョイント等の複雑な接合機構を用いることなく単に固定するだけで良い。
すなわち、図示例の場合には、上部構造体1と下部構造体2とが接近するように相対変位した際(つまり、上部構造体1が下方に変位して下部構造体2との間の距離が狭まる場合)には、各可動部材3はバネ要素6に抗してそれを圧縮しつつ互いに接近するように内側に押し込まれる。逆に、上部構造体1と下部構造体2とが離反するように相対変位した際(つまり、上部構造体1が上方に変位して下部構造体2との間の距離が拡がる場合)には、バネ要素6の弾性付勢力によって各可動部材3は互いに離反するように外側に押し出される。
そして、傾斜面の傾斜角θと摩擦係数μ1により、どの程度の変位から滑り始めて免震効果を発揮させるかを任意に設定できるし、後述する手法によりそのときの減衰定数の値を定式化することができる。
なお、以下の検討においては、可動部材3の上部の傾斜面の傾斜角度をθ、傾斜滑り支承での摩擦係数をμとする。下部の水平滑り支承での摩擦係数は充分小さく無視できるものとする。また、鉛直荷重をP、したがって片側の鉛直方向加力をP/2、傾斜面の抗力(傾斜面に垂直な方向に作用)をN、バネ反力をf、バネ要素6のバネ剛性をk、鉛直方向変位をδz、可動部材3の水平方向変位(伸縮量)をδx、自重をPoとする。
図2に示すように、鉛直方向に摩擦抵抗を受けながら載荷されてバネ反力が増す方向(可動部材3どうしが接近する方向)に水平変位する場合には、上記各諸元の関係から(1)式が導かれる。
また、上下振動する場合の「荷重と変形の履歴特性」は、図4(a)に示しているようなループ状を呈する。すなわち、
・自重Poによる変位δoが生じている状態から、(1)式にぶつかるまでは変位は変わらず荷重が増加する。
・さらに荷重Pが増えると、(1)式の線上を移動する。
・荷重Pが減少に転ずると、変位が変わらず(2)式に達する。なお、(2)式に至る前 に荷重が増すと、Y軸に平行に(1)式に向かう。
・さらに荷重Pが減ると、(2)式の線上を原点に向けて移動する。
・荷重Pが増加に転じると、変位が変わらず(1)式に達する。
・さらに荷重Pが増えると、(1)式の線上を移動する(以下、繰り返し)。
この場合、摩擦が無いときの鉛直方向の初期剛性K、自重Poによる初期変位δo、振幅a、各振動数ωで上下振動している場合の履歴吸収エネルギーWは次式となる。
図5から、振幅が大きくなると減衰が小さくなる傾向はあるが、傾斜滑り支承における摩擦係数μを通常の滑り支承と同等にμ=0.05〜0.1程度に設定することで減衰定数heqを0.1〜0.2程度とすることができることが分かる。すなわち、格別の減衰装置を設置しない通常の構造減衰の場合には減衰定数は0.01程度しかないが、本機構によればそれに比較して上下振動を抑制するための充分な減衰性能を付与できることが分かる。
また、減衰定数heqの式にバネ剛性kを含まないことから、減衰定数heqはバネ剛性kによらないことがわかる。
(1)複雑かつ高価な直動機構(リニアガイド)等のメカニズムやオイルダンパー等の減衰装置を使用せず、単なる滑り支承を水平に対してわずかに傾斜配置することのみでその摩擦力により減衰力が得られ、鉛直荷重が大きい場合にも充分に対応できる。そのため、単純な構成でローコストでありながら高性能な上下免震機構を実現することができる。
(2)滑り支承に所定の摩擦係数をもつため、微小振動に対しては滑らず免震効果を発揮しない。このため、常時の歩行や車の移動によって敏感に揺れてしまう所謂「ふかふかバネ」状態にはならない。勿論、大地震時には滑りを生じて摩擦抵抗力を減衰に利用することで応答を充分に低減でき、上下免震機構として有効に機能する。
(3)一般的に、上下動による鉛直方向変位は全ての支承位置でほぼ同一となる。常時荷重(軸力)による支承の鉛直変位が均等になるように(不同沈下しないように)支承内のバネ要素6のバネ剛性kを設定しておけば、応力振幅比ΔP/Poも同一になる。この場合、滑り始めるときの応力振幅比ΔP/Poは次式で決定されるから、バネ剛性kによらず、摩擦係数μ、傾斜角θが一定であれば変わらない。そこで、全ての支承において傾斜面の摩擦係数μと傾斜角θを同じにすれば同時に滑り始め、同一の上下振動をさせることができる。
(5)傾斜面の摩擦係数μと傾斜角θにより、上下動免震の効果を発揮し始める(滑り始める)時の応力振幅比を任意に設定できる。
なお、応力振幅比ΔP/Poが小さい場合から効果的にするためには摩擦係数μを小さくして傾斜角θを大きくすれば良いが、その場合は応力振幅比ΔP/Poが大きくなったときの減衰定数heqが小さくなってしまう。したがって、上下動が問題となる応力振幅比ΔP/Poの下限を滑り始めとなるように設定することで、これより大きな地震動に対する上下振動を大幅に低減することができる。
また、応力振幅比ΔP/Poが増大するとこれに反比例するように減衰定数heqが減少し、応答低減効果も低下するが、いずれにしても等価な減衰定数heqを0.1程度以上には容易に確保することができる。つまり、一般的な構造物における上下振動に対する減衰定数は0.01程度しかないことを考慮すると、それに比べて10倍以上もの減衰性能を確保でき、大幅な応答低減効果が得られる。
(7)支承内に可動部材3どうしを連結するバネ要素6があるため、そのバネ剛性kにより揺れが収まると原位置に復元するので、残留変形が小さくなる。
(8)滑りを生じた後の鉛直剛性はバネ要素6のバネ剛性kで決定されるが、従来の免震より大幅に低下させることができるので、上下動に対して長周期化し、地震応答が大きく低減される。
(9)傾斜滑り支承4による上下方向の免震のみならず、水平滑り支承5による水平方向の免震効果も同時に得られるので、全体として3次元免震機構となる。
図7(a)は全体の天地を逆に構成したものである。すなわち、可動部材3の上部を水平面として水平滑り支承5により上部構造体1の底面に対して水平変位自在に支持し、可動部材3の下部を傾斜面として傾斜滑り支承4により下部構造体2の上面に対して水平変位自在に支持したものである。この場合は上部側の水平滑り支承5における摩擦係数μ1を可及的に小さくし、下部側の傾斜滑り支承4における摩擦係数μ2を所望の減衰を得るように設定することにより、上記実施形態と同様の効果が得られる。
2 下部構造体
3 可動部材
4 傾斜滑り支承
5 水平滑り支承
6 バネ要素
7 基盤
8 水平免震機構
Claims (3)
- 上部構造体と下部構造体の間に生じる上下方向の相対振動に対して免震効果を得る上下免震機構であって、
上部または下部のいずれか一方が水平に対して傾斜する傾斜面とされ、他方が水平面とされた略楔状の可動部材を少なくとも1対用いて、双方の可動部材の一端どうしを対向させた状態で対称配置して上部構造体と下部構造体との間に介装し、
各可動部材の傾斜面を傾斜滑り支承により上部構造体または下部構造体に対して水平方向に変位自在に支持するとともに、各可動部材の水平面を水平滑り支承により下部構造体または上部構造体に対して水平方向に変位自在に支持することにより、上部構造体と下部構造体との間に上下方向の相対変位が生じた際に双方の可動部材を傾斜滑り支承および水平滑り支承により案内して互いに離接するように逆向きの水平方向に変位可能とし、
かつ、双方の可動部材の一端どうしをバネ要素により連結してなることを特徴とする上下免震機構。 - 請求項1記載の上下免震機構であって、
傾斜滑り支承における摩擦抵抗力によって上部構造体と下部構造体との間の上下方向の相対振動に対する減衰力を得るように傾斜滑り支承における摩擦係数を設定し、
かつ、水平滑り支承における摩擦係数を傾斜滑り支承における摩擦係数よりも小さく設定して、該水平滑り支承によって上部構造体を下部構造体に対して水平各方向に相対変位自在に支持してなることを特徴とする上下免震機構。 - 上部構造体と下部構造体の間に生じる上下方向の相対振動に対して免震効果を得る上下免震機構であって、
上部および下部の双方が水平に対して互いに逆方向に同角度傾斜する傾斜面とされた略楔状の可動部材を少なくとも1対用いて、双方の可動部材の一端どうしを対向させた状態で対称配置して上部構造体と下部構造体との間に介装し、
各可動部材の上下の傾斜面をそれぞれ傾斜滑り支承により上部構造体および下部構造体に対して水平方向に変位自在に支持することにより、上部構造体と下部構造体との間に上下方向の相対変位が生じた際に双方の可動部材を上下の傾斜滑り支承により案内して互いに離接するように逆向きの水平方向に変位可能とし、
かつ、双方の可動部材の一端どうしをバネ要素により連結し、
傾斜滑り支承における摩擦抵抗力によって上部構造体と下部構造体との間の上下方向の相対振動に対する減衰力を得るように傾斜滑り支承における摩擦係数を設定し、
かつ、下部構造体とそれを支持する基盤との間に、下部構造体を基盤に対して水平各方向に相対変位自在に支持する水平免震機構を介装してなることを特徴とする上下免震機構。
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