本発明は、内燃機関の排気通路に設けられるパティキュレートフィルタの異常を判定する技術に関する。
近年、車両などに搭載される内燃機関では、パティキュレートフィルタの異常を判定する技術が種々提案されている。フィルタの異常を判定する技術としては、フィルタ再生開始から所定時間後のフィルタ上流の排気圧力と、その時の機関運転状態により定められる基準圧力とを比較してフィルタ異常を判定する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
また、フィルタの異常を判定する技術としては、フィルタ再生直後のフィルタ前後差圧と正常時の差圧とを比較してフィルタの異常を判定する技術も知られている(例えば、特許文献2を参照)。
特公平3−38406号公報
特開平6−323127号公報
特開平6−123216号公報
特開平6−330730号公報
特開平7−180528号公報
特開2001−207828号公報
特開平5−98941号公報
特開平8−121150号公報
ところで、微量のパティキュレート(以下、PMと記す)がフィルタをすり抜けるような軽微な異常が発生した場合は、フィルタ上流の排気圧力やフィルタ前後差圧が僅かに変化するが、PM捕集量の変化に依るものと区別することが困難である。
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は排気中のPMを捕集するフィルタの異常判定方法において、微量のPMがフィルタをすり抜けるような軽微な異常であっても精度良く検出することができる技術を提供することにある。
本発明の特徴は、パティキュレートの捕集と酸化を行うパティキュレートフィルタ、言い換えれば酸化能を有する触媒が担持されたパティキュレートフィルタの異常判定方法において、パティキュレートフィルタから流出する排気の温度挙動に基づいてフィルタの異常を判定する点にある。
本願発明者は、上記した課題を解決すべく種々の実験及び検討を行った結果、PMがパティキュレートフィルタをすり抜けるような異常が発生した場合に、パティキュレートフィルタから流出する排気の温度(以下、流出排気温度と記す)が特異な挙動を示すことを見出した。
例えば、パティキュレートフィルタが正常な場合はパティキュレートフィルタへ流入する排気の温度(以下、流入排気温度と記す)の変化に対して流出排気温度の変化が応答遅
れを生じ且つその変化幅も小さいのに対し、パティキュレートフィルタが異常な場合は流入排気温度の変化に対する流出排気温度の応答遅れが短縮され且つその変化幅が大きくなる。すなわち、パティキュレートフィルタが異常な場合は、流出排気温度の挙動が流入排気温度の挙動に近似する。
上記した挙動が現れるメカニズムについては解明できていないが、おおよそ以下のようなメカニズムに依ると推察される。
正常なパティキュレートフィルタに排気が流れる際には、パティキュレートフィルタと排気との間で熱交換が行われるとともに、PMや炭化水素等の酸化反応熱が排気へ伝導される。
パティキュレートフィルタの一部が破損等してPMのすり抜けが発生した場合は、破損部位の流通抵抗が他の部位より低くなる(すなわち、破損部位の圧力が他の部位より低くなる)ため、排気の流れが破損部位に集中する。排気の流れが破損部位に集中すると、排気の流速が高くなるため、上記の熱交換率及び熱伝導率が低下すると考えられる。
更に、破損部位のPM捕集量が正常時より少なくなると予想される。破損部位のPM捕集量が少なくなると、破損部位で発生する酸化反応熱が減少するため、排気がパティキュレートフィルタを流れる際に受ける熱量が減少する。
従って、パティキュレートフィルタにおいてPMがすり抜けるような異常が発生した場合には、パティキュレートフィルタ内において排気が授受する熱量が減少する。その結果、パティキュレートフィルタの異常時には、流出排気温度の挙動が流入排気温度の挙動に近似すると推察される。
そこで、本発明では、パティキュレートフィルタの流入排気温度に対する流出排気温度の変化軌跡を検出し、その変化軌跡に基づいてパティキュレートフィルタの異常を判定するようにした。
その際の具体的な判定方法としては、(1)流入排気温度の変化開始から流出排気温度の変化開始までの応答遅れ時間が所定時間未満であるときにパティキュレートフィルタが異常であると判定する方法、(2)流入排気温度の変化幅と流出排気温度の変化幅の相対差が所定量未満であるときにパティキュレートフィルタが異常であると判定する方法、(3)流入排気温度の変化速度に対する流出排気温度の変化速度が所定の比率を超えたときにパティキュレートフィルタが異常であると判定する方法、(4)上記(1)〜(3)の少なくとも二つの要件が成立したときにパティキュレートフィルタが異常であると判定する方法、等を例示することができる。
本発明の判定方法によれば、パティキュレートにおいてPMのすり抜けが発生した場合に、流出排気温度の特異な挙動を検出することができる。
更に、本発明の判定方法は、流入排気温度に対する流出排気温度の変化の軌跡を検出するため、変化の全体をパラメータとして判定を行うことができる。その結果、流入排気温度や流出排気温度が機関燃焼状態の乱れ等によって一時的に変動する場合や上記した特異な挙動の現れ方が極めて小さくなる場合等であっても、誤判定され難くい。
尚、パティキュレートフィルタの一部が破損等してPMのすり抜けが発生した場合に、破損部位を流れる排気の流速が高くなるほど上記の熱交換率及び熱伝導率が低下すると考えられる。このため、本発明の異常判定は、内燃機関の吸入空気量が所定量以上であると
きに実行されるようにしてもよい。
破損部位の流速が高くなる他の要件としては、破損部位と他の部位との圧力差が考えられる。すなわち、破損部位に対する他の部位の圧力が高くなるほど、破損部位の流速が高くなる。他の部位の圧力はPM捕集が多くなるほど高くなるため、PM捕集量が所定量以上であることを条件に異常判定が行われるようにしてもよい。
また、本発明に係る異常判定は、パティキュレートフィルタがPMを連続酸化可能な状態(すなわち、パティキュレートフィルタに担持された触媒がPMを連続酸化可能な状態)にあるときに実行されるようにしてもよい。
触媒がPM連続酸化可能状態にないときはパティキュレートフィルタにおける酸化反応熱の発生量が少なくなるため、正常時に排気が授受する熱量と異常時に排気が授受する熱量との差が小さくなる。
これに対し、触媒がPM連続酸化可能状態にあるときはパティキュレートフィルタにおける酸化反応熱の発生量が多くなるため、正常時に排気が授受する熱量と異常時に排気が授受する熱量との差が大きくなる。
従って、正常時における流出排気温度の挙動と異常時における流出排気温度の挙動との差は、触媒がPM連続酸化可能状態にない場合よりPM連続酸化可能状態にある場合の方が明確に現れ易いと言える。
上記知見によれば、触媒がPM連続酸化可能状態にあるときに異常判定が実行されるようにすれば、判定精度を高めることが可能になる上、触媒の劣化(触媒の酸化能の劣化)も判定することが可能となる。
次に、本願発明者は上記した流出排気温度の特異な挙動について種々の条件下で実験及び検討を行った結果、内燃機関が減速運転状態にあるとき、すなわち流入排気温度が低下するときに、流出排気温度の特異な挙動が顕著に現れることを見出した。
そこで、本発明に係る異常判定は、内燃機関が減速運転状態にある時に実行されるようにしてもよい。内燃機関が減速運転状態にあるときに異常判定が行われると、流出排気温度の特異な挙動が顕著に現れるため、判定精度の向上を図ることが可能となる。更に、流入排気温度や流出排気温度の検出に用いられる温度センサとして、汎用性の高い温度センサを用いることができる。
尚、流入排気温度及び流出排気温度の変化軌跡を検出する期間が過剰に短くなると判定精度が低下する可能性があるため、内燃機関が減速運転後に一定時間以上のアイドル運転を行った場合に限り、減速開始以前からアイドル運転時間が一定時間以上となるまでの期間に異常判定が実行されるようにしてもよい。
また、本発明において内燃機関が減速運転状態にあるときに異常判定を実行する場合は、EGRを停止し、およびまたは吸気絞り弁の開度を増大させるようにしてもよい。
尚、ここでいうEGRとは、パティキュレートフィルタ上流の排気通路から吸気通路へ排気を再循環させること、パティキュレートフィルタ下流の排気通路から吸気通路へ排気を再循環させること、及び可変動弁機構により燃焼室内の残留排気を増加させること等を含む。
前述したように、パティキュレートフィルタの一部が破損等してPMのすり抜けが発生した場合は、破損部位を流れる排気の流速が上昇することにより排気が授受する熱量が減少すると考えられる。このため、破損部位を流れる排気の流速が高められれば、排気が授受する熱量が一層減少し、流出排気温度の特異な挙動が一層顕著に現れる。更に、パティキュレートフィルタへ流入する排気の温度が低いほど、言い換えればパティキュレートフィルタと流入排気温度の差が大きくなるほど、流出排気温度の特異な挙動が顕著に現れると考えられる。
従って、異常判定実行時にEGRが停止およびまたは吸気絞り弁の開度が増大させられると、パティキュレートフィルタへ流入する排気の流量及び流速が増加するため、破損部位を流れる排気の流速を高めることが可能になるとともに流入排気温度が低下し易くなる。その結果、判定精度の一層の向上が図られることになる。
また、破損部位を流れる排気の流速が高められるとともに排気の温度が低下させられると、流出排気温度の低下度合いが顕著に高くなるため、流入排気温度及び流出排気温度の変化軌跡を検出する期間が短縮されても誤判定し難くなる。その結果、異常判定の実行頻度を高めることが可能となる。
次に、本発明の異常判定は、減速運転時の流出排気温度の低下度合いに基づいて行われるようにしてもよい。
パティキュレートフィルタが正常な場合は減速運転時における流出排気温度の低下度合いが僅かであるが、パティキュレートフィルタが異常な場合は減速運転時における流出排気温度の低下度合いが顕著に高くなる。
従って、減速運転開始以前の流出排気温度と減速運転後の流出排気温度の差(低下温度)が閾値を超えたときには、パティキュレートフィルタが異常であると判定することができる。
次に、本願発明者は減速運転時における流出排気温度の挙動について更なる実験及び検証を行った結果、パティキュレートフィルタが正常な場合はPM捕集量が比較的多い時とPM捕集量が比較的少ない時の温度低下量が略同量であるのに対し、パティキュレートフィルタが異常な場合は両者の温度低下量に明確な差違が現れることも見出した。
従って、PM捕集量が比較的多い時の温度低下量とPM捕集量が比較的少ない時の温度低下量との差が閾値を超えた場合には、パティキュレートフィルタが異常であると判定することも可能である。
PM捕集量が比較的多い時期としては、パティキュレートフィルタのPM再生処理が実行される直前を例示することができる。PM捕集量が比較的少ない時期としては、パティキュレートフィルタのPM再生処理が実行された直後を例示することができる。
上記した種々の異常判定方法において、パティキュレートフィルタのPM捕集量を推定し、推定されたPM捕集量に応じて判定基準を変更するようにしてもよい。
パティキュレートフィルタが正常である場合は、PM捕集量が多くなるほど排気の流速が低下するとともに酸化反応熱の熱量が増加する。このため、パティキュレートフィルタが正常である場合は、PM捕集量が多くなるほど排気が授受する熱量が増加する。
これに対し、パティキュレートフィルタが異常である場合は、PM捕集量が多くなるほ
どパティキュレートフィルタの破損部位を流れる排気の流速が上昇するため、パティキュレートフィルタにおいて排気が授受する熱量が減少する。逆に、PM捕集量が少なくなるほど破損部位を流れる排気の流速が上昇し難いため、パティキュレートフィルタにおいて排気が授受する熱量が減少し難い。
従って、PM捕集量が多いときはPM捕集量が少ないときに比して流出排気温度の特異な挙動が顕著に現れる。そこで、PM捕集量が多いときはPM捕集量が少ないときより判定基準を高めることにより異常判定の精度を高めることができる。逆に、PM捕集量が少ないときはPM捕集量が多いときより判定基準を下げることにより、パティキュレートフィルタの異常を判定し易くなる。
また、本発明に係る異常判定方法は、パティキュレートフィルタ前後の差圧をパラメータとした異常判定方法と組み合わせることもできる。この場合、流出排気温度の挙動に基づく異常判定とパティキュレートフィルタ前後差圧に基づく異常判定によって二重の異常判定が行われることになるため、誤判定の発生を抑制し易くなる。
尚、内燃機関が減速運転状態にあるときは流出排気温度の挙動に基づく異常判定が行われ、内燃機関が高負荷・高回転運転状態にあるときはパティキュレートフィルタ前後差圧に基づく異常判定が行われるようにしても良い。
この場合、減速運転領域に加えて高回転・高負荷運転領域においてもパティキュレートフィルタの異常を判定することができるため、異常判定可能な運転領域が拡大するとともに、異常判定の実行頻度を高めることが可能となる。
また、本発明に係る異常判定方法は、減速運転後の流出排気温度を推定演算し、その推定演算値と実際の流出排気温度を比較することによって異常判定を行うようにしてもよい。
その場合、推定演算値と実際の流出排気温度との差が閾値を超えていなければパティキュレートフィルタが正常であると判定され、前記の差が閾値を超えていればパティキュレートフィルタが異常であると判定されるようにすればよい。
このような異常判定方法によれば、容易且つ短時間に異常判定を行うことが可能となる。
本発明によれば、パティキュレートフィルタの流出排気温度の挙動をパラメータとすることにより、微量のPMがパティキュレートフィルタをすり抜けるような軽微な異常であっても、精度良く異常の発生を判定することができる。
以下、本発明の具体的な実施の形態について図面に基づいて説明する。
図1は本発明を適用する内燃機関の概略構成を示す図である。図1において内燃機関1は圧縮着火式のディーゼルエンジンである。
内燃機関1には吸気通路2と排気通路3が接続されている。吸気通路2には吸気絞り弁4とエアフローメータ12が設けられている。排気通路3には、パティキュレートフィルタ5が配置されている。
パティキュレートフィルタ5は、ウォールフロー型の担体を有し、排気中の粒子状物質
(PM)を捕集することができるように構成されている。パティキュレートフィルタ5の担体には酸化能を有する触媒が担持され、捕集したPMや排気中のPMを酸化することが可能になっている。
パティキュレートフィルタ5より上流の排気通路3には前段触媒6が配置されている。パティキュレートフィルタ5と前段触媒6との間の排気通路3には、上流側排気温度センサ7が配置されている。パティキュレートフィルタ5より下流の排気通路3には下流側排気温度センサ8が配置されている。尚、また、前段触媒6は本発明の必須の構成要素ではないためパティキュレートフィルタ5の上流に配置されていなくとも構わない。
吸気絞り弁4より下流の吸気通路2と前段触媒6より上流の排気通路3の間には、EGR通路9が架設されている。EGR通路9の途中にはEGR弁10が設けられている。尚、排気通路3に遠心過給器のタービンハウジングが配設される場合には、該タービンハウジングより上流の排気通路3にEGR通路9が接続されるものとする。
このように構成された内燃機関1には電子制御ユニット(ECU)11が併設されている。ECU11は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM等から構成される算術論理演算回路である。
ECU11は、上記の上流側排気温度センサ7、下流側排気温度センサ8、及びエアフローメータ12に加え、アクセルポジションセンサ11等の各種センサと電気的に接続されている。また、ECU11は、吸気絞り弁4及びEGR弁10と電気的に接続され、各々の開度を制御可能となっている。
ECU11は、燃料噴射制御等の既知の制御に加え、本発明の要旨となるフィルタ異常判定制御を実行する。以下、フィルタ異常判定制御について述べる。
本発明のフィルタ異常判定制御は、下流側排気温度センサ8の出力信号値(流出排気温度)をパラメータとして、PMがパティキュレートフィルタ5をすり抜けるような異常、例えば、パティキュレートフィルタ5内の通路壁面にクラックや孔が生じる異常を検出するための制御である。
本願発明者は、パティキュレートフィルタ5の好適な異常判定方法を模索する過程で鋭意実験及び検証を行った結果、PMがすり抜けるような異常がパティキュレートフィルタ5に発生した場合は、内燃機関1の減速運転期間からアイドル運転期間にかけて流出排気温度が正常時とは異なる特異な挙動を示すことを見出した。
図2は、正常なパティキュレートフィルタ5とPMがすり抜けるような異常が発生したパティキュレートフィルタ5との各々について、同一条件下で流入排気温度と流出排気温度を計測した結果を示す図である。
図2において、図中の点線はパティキュレートフィルタ5が正常であるときの流入排気温度及び流出排気温度を示し、図中の実線はパティキュレートフィルタ5にPMがすり抜けるような異常が発生した場合の流入排気温度及び流出排気温度を示している。
尚、異常が発生したパティキュレートフィルタ5としては、正常なパティキュレートフィルタ内の通路壁面に微小な孔を開けたものを用いた。
図2の計測結果によれば、パティキュレートフィルタ5が正常である場合は、流入排気温度の変化に対して流出排気温度の変化が応答遅れを生じ且つその変化幅も小さい。
これに対し、パティキュレートフィルタ5が異常である場合は、内燃機関1が減速運転に続いてアイドル運転を行ったとき、特に減速運転後のアイドル運転状態が比較的長く継続されたときに、流入排気温度の低下に対する流出排気温度の応答遅れが短縮され且つその変化幅が大きくなっている。
つまり、パティキュレートフィルタ5が正常である場合は流入排気温度の低下に対して流出排気温度が殆ど低下しないが、パティキュレートフィルタ5が異常である場合は流入排気温度の低下に追従して流出排気温度も大幅に低下する。
更に、本願発明者は、上記の特異な挙動について様々な条件で実験及び検証を行った結果、以下の特性を見出した。すなわち、上記の特異な挙動は、(1)パティキュレートフィルタ5に担持された触媒がPM酸連続化可能状態にないときよりPM連続酸化可能状態にあるときの方が顕著に現れる、(2)パティキュレートフィルタ5に流入する排気流量が多くなるほど顕著に現れる、(3)パティキュレートフィルタ5のPM捕集量が多くなるほど顕著に現れる。
このような流出排気温度の挙動及び特性について具体的なメカニズムは解明されていないが、おおよそ以下のようなメカニズムに依ると推察される。
パティキュレートフィルタ5が正常である場合は、パティキュレートフィルタ5内において、該パティキュレートフィルタ5の熱が排気へ伝導されるとともに、PM、炭化水素(HC)、或いは一酸化炭素(CO)等が触媒作用によって酸化される際に発生する熱(酸化反応熱)が排気へ伝導される。
このため、パティキュレートフィルタ5が正常である場合は、流入排気温度が低下しても流出排気温度が低下し難いと考えられる。
一方、パティキュレートフィルタ5の一部が破損等してPMのすり抜けが発生した場合は、破損部位の流通抵抗が他の部位より低くなる(すなわち、破損部位の圧力が他の部位より低くなる)ため、排気の流れが破損部位に集中する。排気の流れが破損部位に集中すると、排気の流速が高くなるため、上記の熱伝導率が低下する。
すなわち、パティキュレートフィルタ5の一部が破損した場合には、パティキュレートフィルタ5へ流入した排気の大部分が破損部位を高速で流れるため、パティキュレートフィルタ5における排気の受熱量が減少する。
更に、破損部位近傍のPM捕集量が正常時より少なくなるため、酸化反応熱の発生量が減少する。破損部位近傍の酸化反応熱量が減少すると、上記した流速の上昇と相俟って排気の受熱量が一層低下する。
従って、パティキュレートフィルタ5においてPMがすり抜けるような異常が発生した場合には、流入排気温度の低下に追従して流出排気温度も低下すると考えられる。
尚、パティキュレートフィルタ5の破損部位を流れる排気の流速は、パティキュレートフィルタ5へ流入する排気流量が多くなるほど、およびまたは、破損部位と他の部位との流通抵抗差が大きくなるほど高くなる。
パティキュレートフィルタ5へ流入する排気流量は内燃機関1の吸入空気量に比例して多くなる。破損部位と他の部位との流通抵抗差はパティキュレートフィルタ5のPM捕集
量が多くなるほど大きくなる。
依って、内燃機関1の吸入空気量が多く、およびまたはパティキュレートフィルタ5のPM捕集量が多くなるほど、流出排気温度の低下度合いが顕著になると考えられる。
以上述べた流出排気温度の挙動及び特性によれば、内燃機関1が減速運転後に一定時間以上のアイドル運転を継続する場合に、減速運転開始からアイドル運転時間が一定時間に達するまでの期間(以下、減速アイドル期間と記す)における流出排気温度の挙動を検出し、その挙動をパラメータとしてパティキュレートフィルタ5の異常を判定することが可能となる。
以下、異常判定制御の具体的な実施例について説明する。
先ず、減速アイドル期間における流入排気温度と流出排気温度の相対関係に基づいてパティキュレートフィルタ5の異常を判定する例について述べる。
前述したように、パティキュレートフィルタ5の正常時と異常時とでは、減速アイドル期間における流入排気温度の低下量と流出排気温度の低下量との相対関係が異なる。
パティキュレートフィルタ5が正常である場合は、減速アイドル期間において流入排気温度が低下するのに対し流出排気温度が殆ど変化しない。つまり、減速アイドル期間において流入排気温度の低下量に対する流出排気温度の低下量が十分に少なくなる。
一方、パティキュレートフィルタ5が異常である場合は、減速アイドル期間において流入排気温度が低下するのに追従して流出排気温度も低下する。つまり、減速アイドル期間において、流入排気温度の低下量に対する流出排気温度の低下量が増加する。
従って、パティキュレートフィルタ5が異常である場合は、図3に示すように、減速アイドル期間における流入排気温度と流出排気温度の相対差が正常時に比して大きくなる。
そこで、減速アイドル期間における流入排気温度と流出排気温度の相対差を演算し、その相対差が閾値より大きくなった場合にはパティキュレートフィルタ5が異常であると判定することができる。
ところで、パティキュレートフィルタ5の異常が軽微である場合(PMのすり抜け量が少ない場合)や、パティキュレートフィルタ5のPM捕集量が少ない場合は、流出排気温度の低下量が少なくなる可能性がある。更に、流入排気温度及び流出排気温度は、上流側排気温度センサ7及び下流側排気温度センサ8の応答遅れ、排気の応答遅れ、或いは内燃機関1の燃焼状態の乱れ等の種々の要因により変則的に変化する可能性もある。
このため、減速アイドル期間の一時期における流入排気温度と流出排気温度の相対差がパラメータとして用いられると、誤判定が誘発される可能性がある。
これに対し、本実施例では、減速アイドル期間中の流入排気温度と流出排気温度の軌跡より両者の相対差を積算し、その積算値が閾値より大きければパティキュレートフィルタ5が異常であると判定するようにした。すなわち、図4中の斜線部の面積を演算し、その面積が閾値より大きければパティキュレートフィルタ5が異常であると判定するようにした。
このように流入排気温度と流出排気温度の軌跡に基づいて異常判定が行われると、異常時の流出排気温度の低下量が少ない場合や、流入排気温度及び流出排気温度の一時的な変動等が生じた場合であっても、誤判定が起こり難くなる。
以下、本実施例の異常判定制御について図5に基づいて説明する。図5は、実施例1における異常判定制御ルーチンを示すフローチャート図である。この異常判定制御は、ECU11のROMに予め記憶されているルーチンであり、ECU11によって実行される。
異常判定制御ルーチンにおいて、ECU11は、先ずS101において流入排気温度:Tinが所定温度以上であるか否かを判別する。前記所定温度は、パティキュレートフィルタ5の触媒がPM連続酸化可能状態となる温度範囲の最低温度に相当する。
前記S101において流入排気温度:Tinが所定温度以上であると判定された場合には、ECU11はS102へ進み、減速フラグの値が“1”であるか否かを判別する。
減速フラグは、RAM等に設定された記憶領域であり、機関回転数が所定回転数以上であり且つアクセル開度が全閉となるとき、言い換えれば減速フューエルカット条件が成立したときに“1”が記憶され、減速フューエルカット条件が成立しないときには“0”が記憶される。
前記S102において減速フラグの値が“1”であると判定された場合には、ECU11はS103へ進む。S103では、ECU11はEGR弁10を閉弁させるとともに吸気絞り弁4を全開に制御する。この場合、内燃機関1の吸入空気量が増加し、それに伴ってパティキュレートフィルタ5へ流入する排気流量も増加する。
S104では、上流側排気温度センサ7の出力信号(流入排気温度:Tin)と下流側排気温度センサ8の出力信号(流出排気温度:Tout)を入力する。
S105では、ECU11は、前記S104で入力された流入排気温度:Tinと流出排気温度:Toutの相対差:△T(=Tin−Tout)を演算する。
S106では、ECU11は、該S106の前回の実行時に算出された積算値:Σ△Toldに前記S105で算出された相対差:△Tを加算して新たな積算値:Σ△Tを算出す
る。尚、前回の積算値:Σ△Toldのデフォルト値は“0”である。
S107では、ECU11はアイドルフラグの値が“1”であるか否かを判別する。
アイドルフラグは、RAM等に設定された記憶領域であり、機関回転数が所定回転数未満であり且つアクセル開度が全閉となるときに“1”が記憶され、機関回転数が所定回転数以上又はアクセル開度が全閉ではないときに“0”が記憶される。
前記S107においてアイドルフラグの値が“0”であると判定された場合、すなわち内燃機関1が未だに減速運転を継続している場合若しくは内燃機関1が減速運転途中から加速運転や定常運転へ移行した場合は、ECU11は前記したS102以降の処理を再度実行する。
その際、内燃機関1が減速運転を継続していればS102において減速フラグの値が“1”であると判定される。一方、内燃機関1が減速運転途中から加速運転や定常運転へ移行していればS102において減速フラグの値が“0”であると判定される。S102において減速フラグの値が“0”であると判定されると、ECU11は後述するS113の
処理を実行した後に本ルーチンの実行を終了する。
前記S107においてアイドルフラグの値が“1”であると判定された場合、言い換えれば、内燃機関1が減速運転からアイドル運転へ移行した場合は、ECU11はS108においてアイドルカウンタを起動させる。尚、前記アイドルカウンタは、アイドル運転時間を計時するカウンタである。
S109では、ECU11は、前記アイドルカウンタの計時時間(アイドル運転時間)が一定時間:tidl以上であるか否か、すなわちアイドル運転時間が一定時間以上継続さ
れたか否かを判別する。
前記S109においてアイドルカウンタの計時時間が一定時間:tidl未満であると判
定された場合は、ECU11は前記のS103以降の処理を繰り返し実行する。
その際、内燃機関1がアイドル運転状態から非アイドル運転状態へ移行(内燃機関1が一定時間以上のアイドル運転を継続せずに他の運転状態へ移行)していると、S107においてアイドルフラグの値が“0”であると判定され、次いでS102において減速フラグの値が“0”であると判定される。S102において減速フラグの値が“0”であると判定されると、ECU11はS113において積算値:Σ△Toldをデフォルト(=0)
にリセットするとともにアイドルカウンタの計時時間をリセットして本ルーチンの実行を終了する。
一方、S109においてアイドルカウンタの計時時間が一定時間:tidl以上であると
判定された場合は、ECU11はS110へ進み、S106で算出された積算値:Σ△Tが閾値:Tsより大きいか否かを判別する。前記した閾値:Tsは、パティキュレートフィルタ5の正常時に積算値:Σ△Tが取り得る値の最大値に相当する値であり、予め実験的に求められている。
前記S110において積算値:Σ△Tが閾値:Tsより大きいと判定された場合は、ECU11はパティキュレートフィルタ5が異常であるとみなし、S111において故障フラグに“1”を記憶させる。
前記S110において積算値:Σ△Tが閾値:Tsより大きくないと判定された場合は、ECU11はパティキュレートフィルタ5が正常であるとみなし、S112において故障フラグに“0”を記憶させる。
ECU11は、前記S111又はS112の処理を実行し終えると、S113へ進み、積算値:Σ△Toldをデフォルト(=0)にリセットするとともにアイドルカウンタの計
時時間をリセットして本ルーチンの実行を終了する。
本実施例の異常判定方法によれば、パティキュレートフィルタ5の異常時に特有の流出排気温度の挙動を検出することが可能となるため、パティキュレートフィルタ5の異常を精度良く判定することが可能となる。また、パティキュレートフィルタ5に担持された触媒がPM連続酸化可能状態にあるときに異常判定制御が実行されると、触媒の酸化機能の劣化を検出することも可能である。
更に、本実施例の異常判定方法は、流入排気温度と流出排気温度の変化軌跡をパラメータとするため、パティキュレートフィルタ5のPM捕集量が少ない場合であっても精度良く異常判定を行うことができる。
次に、減速アイドル期間における流出排気温度の低下度合いに基づいてパティキュレートフィルタ5の異常を判定する例について述べる。
図6は減速アイドル期間における流出排気温度の挙動を示す図である。図6中の点線はパティキュレートフィルタ5が正常であるときの流出排気温度を示し、図6中の実線はパティキュレートフィルタ5が異常であるときの流出排気温度を示している。
パティキュレートフィルタ5が正常である場合は、減速アイドル期間における流出排気温度の低下量が僅かとなる。これに対し、パティキュレートフィルタ5が異常である場合は、減速アイドル期間における流出排気温度の低下量が増加している。つまり、パティキュレートフィルタ5の正常時と異常時では、流出排気温度の低下量が異なる。
そこで、本実施例では、減速アイドル期間開始時の流出排気温度と減速アイドル期間終了時の流出排気温度の差(温度低下量)を演算し、その差が閾値より大きくなった場合はパティキュレートフィルタ5が異常であると判定するようにした。
尚、パティキュレートフィルタ5の異常が軽微である場合やパティキュレートフィルタ5のPM捕集量が少ない場合には、流出排気温度の低下量が少なくなる可能性があるため、パティキュレートフィルタ5に担持された触媒がPM連続酸化可能状態にあり且つ減速アイドル期間開始時の吸入空気量が所定量以上であることを条件に異常判定が行われるようにした。
以下、本実施例の異常判定制御について図7に基づいて説明する。図7は、実施例2における異常判定制御ルーチンを示すフローチャート図である。
異常判定制御ルーチンでは、ECU11は先ずS201において上流側排気温度センサ7の出力信号(流入排気温度):Tinとエアフローメータ12の出力信号(吸入空気量):Gaを入力する。
S202では、ECU11は、前記S201で入力された流入排気温度:Tinが所定温度以上であるか否かを判別する。前記所定温度は、パティキュレートフィルタ5の触媒がPM連続酸化可能状態となる温度範囲の最低温度に相当する。
前記S202において流入排気温度:Tinが所定温度未満であると判定された場合は、ECU11はパティキュレートフィルタ5がPM連続酸化可能状態にないとみなし、本ルーチンの実行を終了する。
前記S202において流入排気温度:Tinが所定温度以上であると判定された場合は、ECU11はパティキュレートフィルタ5がPM連続酸化可能状態にあるとみなしてS203へ進む。
S203では、ECU11は前記S201で入力された吸入空気量:Gaが所定量:Gas以上であるか否かを判別する。所定量:Gasは、パティキュレートフィルタ5におけるPMのすり抜け量が微量であり且つPM捕集量が微量があっても流出排気温度が正常時とは異なる挙動を示すように定められた値であり、予め実験的に求められている。
前記S203において吸入空気量:Gaが所定量:Gas未満であると判定された場合は、ECU11は本ルーチンの実行を終了する。一方、前記S203において吸入空気量:Gaが所定量:Gas以上であると判定された場合は、ECU11はS204へ進む。
S204では、ECU11は下流側排気温度センサ8の出力信号を入力し、その出力信号を減速アイドル期間開始時の流出排気温度:Tout1としてRAMに記憶させる。
S205では、ECU11は減速フラグの値が“1”であるか否かを判別する。このS205において減速フラグの値が“0”であると判定された場合はECU11は本ルーチンの実行を終了する。一方、前記S205において減速フラグの値が“1”であると判定された場合は、ECU11はS206へ進む。
S206では、ECU11は、減速アイドル期間中の吸入空気量(言い換えれば減速アイドル期間中にパティキュレートフィルタ5へ流入する排気流量)を増加させるべく、EGR弁10を閉弁させるとともに吸気絞り弁4を全開に制御する。
S207では、ECU11はアイドルフラグの値が“1”であるか否かを判別する。このS207においてアイドルフラグの値が“0”であると判定された場合はECU11は前記S205以降の処理を再度実行する。
前記S207においてアイドルフラグの値が“1”であると判定された場合は、ECU11はS208へ進む。S208ではECU11はアイドルカウンタを起動させる。
S209では、ECU11は前記アイドルカウンタの計時時間(アイドル運転時間)が一定時間:tidl以上であるか否かを判別する。
前記S209においてアイドルカウンタの計時時間が一定時間:tidl未満であると判
定された場合は、ECU11は前記のS207以降の処理を繰り返し実行する。
前記S209においてアイドルカウンタの計時時間が一定時間:tidl以上であると判
定された場合は、ECU11はS210へ進む。S210では、ECU11は下流側排気温度センサ8の出力信号を入力し、その出力信号を減速アイドル期間終了時の流出排気温度:Tout2として記憶する。
S211では、ECU11は減速アイドル期間開始時の流出排気温度:Tout1から減
速アイドル期間終了時の流出排気温度:Tout2を減算して温度低下量:△Tout(=Tout1−Tout2)を演算する。
S212では、ECU11は前記S211で算出された温度低下量:△Toutが閾値:
△Tjより大きいか否かを判別する。前記した閾値:△Tjはパティキュレートフィルタ5の正常時に温度低下量:△Toutが取り得る値の最大値に相当する値であり、予め実験的
に求められている。
前記S212において温度低下量:△Toutが閾値:△Tjより大きいと判定された場合は、ECU11はパティキュレートフィルタ5が異常であるとみなし、S213において故障フラグに“1”を記憶させる。
前記S212において温度低下量:△Toutが閾値:△Tjより大きくないと判定された場合は、ECU11はパティキュレートフィルタ5が正常であるとみなし、S214において故障フラグに“0”を記憶させる。
本実施例の異常判定方法によれば、減速アイドル期間における流出排気温度の低下量に
基づいて、パティキュレートフィルタ5の異常時に特有な流出排気温度の挙動を検出することが可能となる。このため、前述した実施例1に比して簡略なロジックで異常判定を行うことができる。
次に、減速アイドル期間終了時における流出排気温度を推定演算し、その推定値と実測値との差に基づいてパティキュレートフィルタ5の異常を判定する例について述べる。
減速アイドル期間終了時の流出排気温度を推定演算する方法としては、上流側排気温度センサ7から下流側排気温度センサ8へ至る排気系の熱収支をモデル化し、そのモデルを用いて流出排気温度を推定演算する方法を例示することができる。
前記モデルは、上流側排気温度センサ7からパティキュレートフィルタ5に至る排気系の熱収支をモデル化した第1モデルと、パティキュレートフィルタ5内における熱の収支をモデル化した第2モデルと、パティキュレートフィルタ5から下流側排気温度センサ8に至る排気系の熱収支をモデル化した第3モデルに分割することができる。
第1モデルは、パティキュレートフィルタ5の入口において排気が持つ熱エネルギ(以下、フィルタ流入熱エネルギと記す)を演算するモデルである。この第1モデルは、上流側排気温度センサ7からパティキュレートフィルタ5へ至る排気通路3の定圧モル比熱と、上流側排気温度センサ7を通過する排気の温度と、上流側排気温度センサ7を通過する排気流量と、フィルタ流入熱エネルギとの関係を模式化したモデルである。
第2モデルは、パティキュレートフィルタ5の出口において排気が持つ熱エネルギ(以下、フィルタ流出熱エネルギと記す)を演算するモデルである。この第2モデルは、フィルタ流入熱エネルギと、パティキュレートフィルタ5の熱伝達率と、パティキュレートフィルタ5の定容モル比熱と、パティキュレートフィルタ5に担持された触媒の温度(触媒床温)と、触媒の質量と、排気中の還元成分(炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)等)が酸化される際に発生する熱エネルギ(触媒がPM連続酸化可能状態にあるときはPMが酸化される際に発生する熱エネルギも含める)と、フィルタ流出熱エネルギとの関係を模式化したモデルである。
第3モデルは、下流側排気温度センサ8を通過する際に排気が持っている熱エネルギ(以下、センサ通過熱エネルギと記す)を演算するモデルである。この第3モデルは、フィルタ流出熱エネルギと、パティキュレートフィルタ5から下流側排気温度センサ8へ至る排気通路3の放熱係数と、パティキュレートフィルタ5から下流側排気温度センサ8へ至る排気通路3の定圧モル比熱と、下流側排気温度センサ8を通過する排気流量と、大気温度と、センサ通過熱エネルギとの関係を模式化したモデルである。
上記した第1〜第3モデルが順次演算されると、パティキュレートフィルタ5が正常である場合の減速アイドル期間終了時における流出排気温度が推定される。このようにして推定された流出排気温度(以下、推定流出排気温度と記す)は、減速アイドル期間終了時における下流側排気温度センサ8の出力信号(以下、実測流出排気温度と記す)と比較される。
前述したように、パティキュレートフィルタ5が正常である場合は減速アイドル期間において流出排気温度が殆ど低下しないのに対し、パティキュレートフィルタ5が異常である場合は減速アイドル期間において流出排気温度が大幅に低下する。
従って、推定流出排気温度に対して実測流出排気温度が所定温度以上低くなると、パテ
ィキュレートフィルタ5が異常であると判定することが可能である。
以下、本実施例の異常判定制御について図8に基づいて説明する。図8は、実施例3における異常判定制御ルーチンを示すフローチャート図である。
異常判定制御ルーチンのS301〜S303では、ECU11は、前述した実施例2における異常判定制御ルーチンのS201〜S202と同様の処理を実行する。
S304では、ECU11は減速フラグの値が“1”であるか否かを判別する。このS304において減速フラグの値が“0”であると判定された場合はECU11は本ルーチンの実行を終了する。一方、前記S304において減速フラグの値が“1”であると判定された場合は、ECU11はS305へ進む。
S305では、ECU11はEGR弁10を閉弁させるとともに吸気絞り弁4を全開に制御する。
S306では、ECU11はアイドルフラグの値が“1”であるか否かを判別する。このS306においてアイドルフラグの値が“0”であると判定された場合はECU11は前記S304以降の処理を再度実行する。
前記S306においてアイドルフラグの値が“1”であると判定された場合は、ECU11はS307へ進む。S307ではECU11はアイドルカウンタを起動させる。
S308では、ECU11は前記アイドルカウンタの計時時間(アイドル運転時間)が一定時間:tidl以上であるか否かを判別する。
前記S308においてアイドルカウンタの計時時間が一定時間:tidl未満であると判
定された場合は、ECU11は前記のS306以降の処理を繰り返し実行する。
前記S308においてアイドルカウンタの計時時間が一定時間:tidl以上であると判
定された場合は、ECU11はS309へ進む。S309では、ECU11は前述したモデルに従って減速アイドル期間終了時の推定流出排気温度:Toutcを演算する。
S310では、ECU11は下流側排気温度センサ8の出力信号を入力し、その出力信号を減速アイドル期間終了時の実測流出排気温度:ToutaとしてRAMに記憶させる。
S311では、ECU11は前記した推定流出排気温度:Toutcから実測流出排気温度:Toutaを減算して温度差:△Tdを算出する。
S312では、ECU11は前記温度差:△Tdが閾値:△Tdjより大きいか否かを判
別する。前記した閾値:△Tdjはパティキュレートフィルタ5の正常時における推定流出排気温度:Toutcの誤差の範囲に基づいて定められる値であり、予め実験的に求められている。
前記S312において前記温度差:△Tdが閾値:△Tdjより大きいと判定された場合
は、ECU11はパティキュレートフィルタ5が異常であるとみなし、S313において故障フラグに“1”を記憶させる。
前記S312において前記温度差:△Tdが閾値:△Tdjより大きくないと判定された
場合は、ECU11はパティキュレートフィルタ5が正常であるとみなし、S314にお
いて故障フラグに“0”を記憶させる。
本実施例の異常判定方法によれば、減速アイドル期間終了時の流出排気温度をパラメータとしてパティキュレートフィルタ5の異常判定を行うことができる。
前述した実施例2では減速アイドル期間中における流出排気温度の低下量に基づいてパティキュレートフィルタ5の異常を判定する例について述べたが、本実施例ではPM捕集量が少ないときの低下量とPM捕集量が多いときの低下量との相対差に基づいてパティキュレートフィルタ5の異常を判定する例について述べる。
本願発明者はパティキュレートフィルタ5に異常が発生した場合の流出排気温度の特異な挙動についてPM捕集量との相関を検証した結果、以下のような特性を導き出した。
図9は、正常なパティキュレートフィルタと異常なパティキュレートフィルタの各々について、PM捕集前とPM捕集後における流出排気温度の測定結果を示す図である。PM捕集前の流出排気温度は、パティキュレートフィルタのPM捕集能力を強制的に再生させる処理(PM再生処理)の実行直後に測定したものである。PM捕集後の流出排気温度は、PM再生処理実行直前に測定されたものである。
図9中の実線と点線は、正常なパティキュレートフィルタのPM捕集前とPM捕集後における流出排気温度を示している。図9中の一点鎖線は異常なパティキュレートフィルタのPM捕集後における流出排気温度を示し、図6中の二点鎖線は異常なパティキュレートフィルタのPM捕集前における流出排気温度を示している。
パティキュレートフィルタが正常な場合は、PM捕集前とPM捕集後の流出排気温度が略同一の挙動を示しており、減速アイドル期間における低下量も殆ど変わらない。
これに対し、パティキュレートフィルタが異常な場合は、PM捕集前とPM捕集後の流出排気温度が全く異なる挙動を示しており、減速アイドル期間における低下量も明確に異なっている。
すなわち、パティキュレートフィルタが異常な場合は、PM捕集前の流出排気温度に対してPM捕集後の流出排気温度が低くなり、且つ減速アイドル期間における流出排気温度の低下量もPM捕集前に対してPM捕集後の方が多くなる。
これは、パティキュレートフィルタが異常な場合は、PM捕集量が多くなるほどパティキュレートフィルタにおいて排気が授受する熱量が少なくなることが原因であると考えられる。
このような流出排気温度の特性を鑑みると、PM捕集前における流出排気温度の低下量とPM捕集後における流出排気温度の低下量との比較、或いはPM捕集前における流出排気温度とPM捕集後における流出排気温度との比較により、パティキュレートフィルタ5の異常を判定すること可能である。
すなわち、PM捕集前における流出排気温度の低下量とPM捕集後における流出排気温度の低下量との相対差が閾値を超え場合、若しくはPM捕集前における流出排気温度とPM捕集後における流出排気温度との相対温度差が閾値を超えた場合に、パティキュレートフィルタ5が異常であると判定することができる。
以下、PM捕集前における流出排気温度の低下量とPM捕集後における流出排気温度の低下量との相対差に基づく異常判定方法について具体的に述べる。
図10は、実施例4における異常判定制御ルーチンを示すフローチャート図である。この異常判定制御ルーチンでは、ECU11は先ずS401においてPM再生処理実行条件が成立しているか否かを判別する。
前記のPM再生処理実行条件は、パティキュレートフィルタ5のPM捕集量が所定値を超えていることである。尚、PM捕集量は、内燃機関1の積算吸入空気量、積算燃料噴射量、或いは積算運転時間等をパラメータとする既知の推定方法により推定される。
前記S401においてPM再生処理実行条件が不成立である場合は、ECU11は本ルーチンの実行を終了する。
前記S401においてPM再生処理実行条件が成立している場合は、ECU11は、S402においてPM再生処理待機フラグの値を“1”に変更する。上記PM再生処理待機フラグは、予めRAM等に設定された記憶領域であり、PM再生処理実行条件が成立した時に“1”が記憶され、PM捕集後における流出排気温度の低下量が算出された時に“0”が記憶される。
尚、前記PM再生処理待機フラグが“1”であるときは別途のPM再生処理実行ルーチンにおいてPM再生処理の実行が禁止され、PM再生処理待機フラグが“0”であるときは前記PM再生処理実行ルーチンにおいてPM再生処理の実行が許可されるものとする。
S403では、ECU11はPM捕集後における流出排気温度の低下量(PM捕集後低下量):△Tout1を演算する。この演算方法は、前述した実施例2における異常判定制
御ルーチンのS201〜S211と同様である。
S404では、ECU11は、PM再生処理待機フラグの値を“0”へ書き換える。この場合、別途のPM再生処理実行ルーチンにおいてPM再生処理が実行される。
S405では、ECU11は、PM再生処理の実行が終了したか否かを判別する。このS405においてPM再生処理の実行が終了していないと判定された場合は、ECU11はPM再生処理の実行が完了するまで該S405を繰り返し実行する。
前記S405においてPM再生処理の実行が完了したと判定された場合は、ECU11はS406へ進む。S406ではECU11はPM捕集前における流出排気温度の低下量(PM捕集前低下量):△Tout2を演算する。この演算方法も前述した実施例2におけ
る異常判定制御ルーチンのS201〜S211と同様である。
S407では、ECU11は、前記S406において算出されたPM捕集前低下量:△Tout2から前記S403で算出されたPM捕集後低下量:△Tout1を減算して、両者の相対差:△Toutdを算出する。
S408では、ECU11は、前記S407において算出された相対差:△Toutdが
閾値:△Toutdjより大きいか否かを判別する。前記閾値:△Toutdjは、パティキュレートフィルタ5の正常時に相対差:△Toutdが取り得る値の最大値に相当する値であ
り、予め実験的に求められている。
前記S408において前記相対差:△Toutdが前記閾値:△Toutdjより大きいと判
定された場合は、ECU11はパティキュレートフィルタ5が異常であるとみなし、S409において故障フラグに“1”を記憶させる。
前記S408において前記相対差:△Toutdが前記閾値:△Toutdjより大きくないと判定された場合は、ECU11はパティキュレートフィルタ5が正常であるとみなし、S410において故障フラグに“0”を記憶させる。
本実施例の異常判定方法によれば、PM捕集前低下量とPM捕集後低下量との相対差に基づいてパティキュレートフィルタ5の異常を判定するため、判定精度を向上させることができる。
前述した実施例1〜3では、異常判定の基準となる閾値(実施例1の閾値:Ts、実施例2の閾値:△Tj、実施例3の閾値:△Tdj)が固定値とされているが、パティキュレートフィルタ5のPM捕集量に応じて増減される可変値としてもよい。
パティキュレートフィルタ5が異常な場合における流出排気温度の特異な挙動は、PM捕集量が多くなるほど顕著に現れる。逆に、パティキュレートフィルタ5が異常な場合における流出排気温度の特異な挙動は、PM捕集量が少なくなるほど現れ難くなる。
従って、PM捕集量が少ないときはPM捕集量が多いときに比して判定基準が低くされる(すなわち、閾値の値を小さくする)するようにしてもよい。
このように判定基準が可変にされると、PM捕集量が少ない状況下であってもパティキュレートフィルタ5の異常を判定することが可能になるとともに、PM捕集量が多い状況下での誤判定の発生を抑制することが可能となる。
前述した実施例1〜3では、パティキュレートフィルタ5のPM捕集量を考慮せずに異常判定が行われる例について述べたが、PM捕集量が所定量以上であることを条件に異常判定が実行されるようにしてもよい。
パティキュレートフィルタ5が異常な場合における流出排気温度の特異な挙動はPM捕集量が少ない時より多い時の方が顕著に現れるため、PM捕集量が所定量以上であることを条件に異常判定制御が実行されれば、判定精度を高めることが可能となる。
前述した実施例1〜4では、減速アイドル期間における流出排気温度の挙動に基づいてパティキュレートフィルタ5の異常を判定する例について述べたが、パティキュレートフィルタ5の前後差圧をパラメータとした既知の異常判定方法と実施例1〜4の何れか一の異常判定方法とを組み合わせるようにしてもよい。
パティキュレートフィルタ5にPMがすり抜けるような異常が発生した場合は、パティキュレートフィルタ5が正常な場合に比して前後差圧が小さくなる。このため、前後差圧が所定値を下回った場合にはパティキュレートフィルタ5が異常であると判定することができる。
但し、パティキュレートフィルタ5の前後差圧はパティキュレートフィルタ5へ流入する排気流量が少ないときには生じ難いため、前後差圧に基づく異常判定方法は排気流量が多くなる高回転・高負荷運転領域に実行されることが好ましい。
これに対し、前述した実施例1〜4の異常判定方法は、減速運転領域及びアイドル運転領域において実行されることで判定精度を高めている。
従って、前述した実施例1〜4の何れか一の異常判定方法と前後差圧に基づく異常判定方法が組み合わせられると、減速・アイドル運転領域に加え、高回転・高負荷運転領域においても精度の高い異常判定を行うことができるため、判定の頻度を高めることが可能となる。
また、各々の異常判定方法においてパティキュレートフィルタ5が異常であると判定された場合に限り、パティキュレートフィルタ5の異常判定が確定されるようにすれば、判定精度を一層高めることも可能となる。
本発明を適用する内燃機関の概略構成を示す図
パティキュレートフィルタの流入排気温度と流出排気温度を測定した結果を示す図
減速アイドル期間における流入排気温度と流出排気温度の相対差を表す図
減速アイドル期間における流入排気温度と流出排気温度の積算相対差を表す図
実施例1における異常判定制御ルーチンを示すフローチャート図
減速アイドル期間における流出排気温度の低下量を表す図
実施例2における異常判定制御ルーチンを示すフローチャート図
実施例3における異常判定制御ルーチンを示すフローチャート図
PM捕集前の流出排気温度とPM捕集後の流出排気温度を測定した結果を示す図
実施例4における異常判定制御ルーチンを示すフローチャート図
符号の説明
1・・・・・内燃機関
3・・・・・排気通路
4・・・・・吸気絞り弁
5・・・・・パティキュレートフィルタ
7・・・・・上流側排気温度センサ
8・・・・・下流側排気温度センサ
9・・・・・EGR通路
10・・・・EGR弁
11・・・・ECU