以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。本実施形態では、本発明に係る車両制動力制御装置を、停止ショック低減制御とABS制御とを行う車両用ブレーキ制御装置に適用する。なお、図面の説明において同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
まず、図1を用いて、実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置1の構成について説明する。図1は、実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置1の構成を示す図である。
車両用ブレーキ制御装置1は、この装置が搭載されている車両(図示せず)の運転者がブレーキをかけたときに、ABS制御及び停止ショック低減制御により車両の制動力を制御するものである。特に、車両用ブレーキ制御装置1は、車両が悪路を走行中にその車体速(車速)が所定の閾値未満になったときに、ABS制御を路面状態が悪路であることに基づく悪路制御から路面状態が良路であることに基づく良路制御に切り替える。このために、車両用ブレーキ制御装置1は、車輪速センサ11a〜11dと、加速度センサ12と、マスタシリンダ圧センサ14と、ブレーキ制御用電子制御装置(以下「ブレーキ制御用ECU」という)15と、ブレーキアクチュエータ16a〜16dとを備えている。
車輪速センサ11a〜11dは、車両の各車輪(図示せず)にそれぞれ設けられ、対応する車輪の回転速度を検出する。そして、車輪速センサ11a〜11dは、検出した回転速度を示す車輪速信号をブレーキ制御用ECU15に出力する。
加速度センサ12は、車両の所定の箇所に設けられ、車両の加速度を検出する。そして、加速度センサ12は、検出した加速度を示す加速度信号をブレーキ制御用ECU15に出力する。
マスタシリンダ圧センサ14は、マスタシリンダ(図示せず)に設けられ、そのマスタシリンダ内の液圧を検出する。そして、マスタシリンダ圧センサ14は、検出した液圧を示す液圧信号をブレーキ制御用ECU15に出力する。
ブレーキ制御用ECU15は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などから構成される。このブレーキ制御用ECU15は、車輪速センサ11a〜11dから入力された車輪速信号と、加速度センサ12から入力された加速度信号と、マスタシリンダ圧センサ14から入力された液圧信号とに基づいて車両の制動力、すなわち各車輪に対応するホイールシリンダ(図示せず)の液圧(ホイールシリンダ圧)を決定する。そして、ブレーキ制御用ECU15は、ホイールシリンダ圧を決定した圧(目標ホイールシリンダ圧)にするための制御信号をブレーキアクチュエータ16a〜16dに出力する。
このために、ブレーキ制御用ECU15は、ABS制御部(ABS制御手段)15aと、停止ショック低減制御部(停止時制御手段)15bと、調停部15cとを備えている。車輪速センサ11a〜11dからの車輪速信号、加速度センサ12からの加速度信号、及びマスタシリンダ圧センサ14からの液圧信号は、それぞれABS制御部15aと停止ショック低減制御部15bとの双方に入力される。ブレーキ制御用ECU15は、入力された各車輪速信号に基づいて四輪それぞれの車輪速を算出し、それら車輪速から車体速を算出する。また、ブレーキ制御用ECU15は、加速度信号に基づいて減速度を算出する。
ABS制御部15aは、ブレーキ制御用ECU15により算出された車輪速及び減速度と、マスタシリンダ圧センサ14からの液圧信号とに基づいてホイールシリンダ圧を決定する。ABS制御部15aは、まず走行中の路面の状態を判定し、その判定結果に基づいて目標スリップ率を切り替える。このために、ABS制御部15aは、所定の路面状態(悪路及び良路)に対応する目標スリップ率を予め保持している。ここで、悪路用の目標スリップ率は、良路用の目標スリップ率よりも高い値である。なお、スリップ率は、(車体速−車輪速)/車体速×100(%)という式で表される。
その一方で、ABS制御部15aは、各車輪の実際のスリップ率(以下「実スリップ率」という)を上記の式で算出する。そして、ABS制御部15aは、実スリップ率と目標スリップ率とを比較し、各車輪がロック状態になる可能性があるか否かを判定する。ここで、ある車輪がロック状態になる可能性が高いと判定された場合、ABS制御部15aは、実スリップ率が目標スリップ率になるように目標ホイールシリンダ圧を設定し、その目標ホイールシリンダ圧に対応する信号を調停部15cに出力する。また、ABS制御部15aは、ロック状態にならないと判定した車輪に対応するホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧センサ14からの信号に基づくホイールシリンダ圧にするための信号を調停部15cに出力する。
なお、路面状態の判定は、ブレーキ制御用ECU15により算出された車輪速に基づいて行われる。具体的には、算出された車輪速から更に車輪加速度を算出し、その車輪加速度の変化量(振幅)が所定値よりも大きく且つ車輪加速度の極大値から極小値への変化が所定時間よりも短い時間内に発生している(車輪加速度の変動周波数が所定値よりも低い)場合に、ABS制御部15aは、車両が悪路を走行中であると判定する。これに対し、車輪加速度の変化量が所定値以内か車輪加速度の変動周波数が所定値以上である場合、ABS制御部15aは、車両が良路を走行中であると判定する。
車両が悪路を走行している場合は車輪加速度の変化量が大きいため、車輪減速度(負の車輪加速度)が低下しやすくなり、結果として車両の制動力が低下する。そのため、ABS制御部15aは、悪路を走行中であると判定した場合に、良路を走行中の場合と比較して目標スリップ率を高く設定する。スリップ率は上記の式で表されるから、目標スリップ率を高く設定して実スリップ率を増大させるように制御するには、車体速と車輪速との差を大きくする必要がある。これを実現するためには、ホイールシリンダ圧を増大させて車輪速を低減させる必要がある。すなわち、目標スリップ率を高く設定することによって、良路制御時よりホイールシリンダ圧が増大する。
これに対して、良路制御において、目標スリップ率を低く設定して実スリップ率を低減させるように制御するには、車体速と車輪速との差を小さくする必要がある。これを実現するためには、ホイールシリンダ圧を低減させて車輪速を増大させる必要がある。すなわち、目標スリップ率を低く設定することによって、悪路制御時よりホイールシリンダ圧が低減する。
ABS制御部15aは、走行中の路面状態が悪路であると判定した場合に、目標スリップ率を悪路走行時のものに設定し、設定された目標スリップ率(悪路用の目標スリップ率)に基づいて目標ホイールシリンダ圧を決定する(悪路制御)。一方、ABS制御部15aが路面状態を良路と判定した場合、このABS制御部15aは、目標スリップ率を良路走行時のものに設定し、設定された目標スリップ率(良路用の目標スリップ率)に基づいて目標ホイールシリンダ圧を決定する(良路制御)。
ABS制御部15aは、通常は、判定した路面状態に基づいて良路制御又は悪路制御を行う。しかし、ABS制御中に、算出された減速度(正の値)が所定の閾値G0より大きく(負の加速度が所定の閾値よりも小さく)且つ算出された車体速が所定の閾値V0未満になった場合(停止ショック低減制御の開始条件が成立した場合)、ABS制御部15aは、路面状態にかかわらず良路制御を実行する。したがって、停止ショック低減制御の開始条件が成立した際にABS制御部15aが悪路制御を実行中であった場合、このABS制御部15aは、制御モードを悪路制御から良路制御に切り替える(低い目標スリップ率を設定する)。
次いで、ABS制御部15aは、停止時のショックを低減するために、切り替えられた良路用の目標スリップ率(低い目標スリップ率)に基づいて目標ホイールシリンダ圧を決定し、ホイールシリンダ圧をその目標ホイールシリンダ圧まで低減させるための減圧信号を調停部15cに出力する。そして、車体速が0になった時(車両が停止した時)に、ABS制御部15aは、車両の制動力をマスタシリンダ圧に応じたものに戻すために、ホイールシリンダ圧を一定勾配で増大させるための増圧信号を出力する。
なお、ABS制御部15aが悪路制御から良路制御に切り替える条件である車体速の閾値V0とは、車両が停止する直前の低い速度である。同様に、減速度の閾値G0とは、減速度がゼロになった時(車両停止時)に停止ショックが発生するおそれがあり、その停止ショックを抑制する必要が生じる程の高い減速度である。これら二つの閾値は、停止ショック低減制御の開始条件の閾値であり、停止ショック低減制御部15bでも用いられる。
停止ショック低減制御部15bは、ブレーキ制御用ECU15により算出された車体速及び減速度と、マスタシリンダ圧センサ14からの液圧信号とに基づいてホイールシリンダ圧を制御する。
具体的には、停止ショック低減制御部15bは、まず、算出された減速度(正の値)が所定の閾値G0より大きく且つ算出された車体速が所定の閾値V0未満である場合に、停止時のショックを低減するために、ホイールシリンダ圧を下げるための減圧信号を調停部15cに出力する。そして、車体速が0になった時(車両が停止した時)に、停止ショック低減制御部15bは、車両の制動力をマスタシリンダ圧に応じたものに戻すために、ホイールシリンダ圧を一定勾配で増大させるための増圧信号を調停部15cに出力する。すなわち、停止ショック低減制御部15bは、車体速が閾値未満になった場合に車両の制動力を低減させ、車両が停止した時にその制動力を増大させる。
調停部15cは、ABS制御部15aから入力された信号(増圧信号又は減圧信号)と、停止ショック低減制御部15bから入力された信号(増圧信号又は減圧信号)に基づいて目標ホイールシリンダ圧を決定し、ホイールシリンダ圧を目標ホイールシリンダ圧にするための制御信号をブレーキアクチュエータ16a〜16dに出力する。具体的には、信号がABS制御部15a又は停止ショック低減制御部15bのいずれかからのみ入力された場合、調停部15cは、その信号をそのまま制御信号として出力する。また、ABS制御部15a及び停止ショック低減制御部15bの双方から信号が入力された場合、調停部15cは、ABS制御部15aから入力された信号を制御信号として出力する。これは、ABS制御による安全性を重視するためである。
ブレーキアクチュエータ16a〜16dは、各ホイールシリンダ(図示せず)にそれぞれ設けられている。ブレーキアクチュエータ16a〜16dは、ブレーキ制御用ECU15から入力された制御信号に基づいて、マスタシリンダから入力された液圧を対応するホイールシリンダへ出力するブレーキ圧に変換する。このために、ブレーキアクチュエータ16a〜16dは、調圧弁とこの調圧弁の開度を変えるためのモータなどを備えている。そして、ブレーキアクチュエータ16a〜16dは、調停部15cからの制御信号に基づいてモータを回転駆動させて調圧弁を作動させ、その調整弁の開度を調整することで、各ホイールシリンダ圧を変化させる。
次に、図2を参照して、悪路を走行中の車両の運転者が走行中にブレーキペダルを踏んで自車両を停止させようとする場合の車両用ブレーキ制御装置1の処理について説明する。図2は、図1に示す車両用ブレーキ制御装置1の処理を示すフローチャートである。
この場合、車両用ブレーキ制御装置1では、常に又は一定間隔で、車輪速センサ11a〜11dが車輪速を検出し、加速度センサ12が加速度を検出し、マスタシリンダ圧センサ14がマスタシリンダ圧を検出する。そして、これら各センサからの信号がブレーキ制御用ECU15に入力される。
ブレーキ制御用ECU15では、まず、加速度センサ12から入力された加速度信号に基づいて減速度が算出され、その減速度(正の値)が所定の閾値G0より大きいか否かが判定される(ステップS11)。そして、減速度が閾値G0より大きいと判定された場合は(ステップS11;YES)、車輪速センサ11a〜11dから入力された車輪速信号に基づいて車体速が算出され、その車体速が所定の閾値V0未満であるか否かが判定される(ステップS12)。ここで、車体速が所定の閾値V0未満である場合は(ステップS12;YES)、ホイールシリンダ圧を低減する制御(停止ショックを低減するための制御)が行われるが、ABS制御部15aによるABS制御が行われているか否かで、ABS制御部15a及び停止ショック低減制御部15bのうちどちらからの信号をブレーキアクチュエータ16a〜16dへの制御信号として出力するかが異なる(ステップS13)。
ABS制御部15aによるABS制御が実行されている場合は(ステップS13;YES)、調停部15cによって、ABS制御部15aからの減圧信号が制御信号としてブレーキアクチュエータ16a〜16dに出力される。すなわち、ABS制御部15aからの減圧信号によってホイールシリンダ圧低減制御が行われる。具体的には、まず、ABS制御部15aが悪路制御を実行中か否かが判定される(ステップS14)。ここで、ABS制御部15aが悪路制御を実行中であれば(ステップS14;YES)、ABS制御部15aの制御モードが悪路制御から良路制御に切り替えられる(低い目標スリップ率が設定される)(ステップS15)。上述したように、目標スリップ率を低くすることによって目標ホイールシリンダ圧が低くなるので、このように切り替えたことで、ホイールシリンダ圧を低減するための減圧信号がABS制御部15aから調停部15cに出力される。これに対し、ABS制御部15aが良路制御を実行中であれば(ステップS14;NO)、ABS制御部15aの実行モードは良路制御のまま維持される(低い目標スリップ率が維持される)(ステップS16)。
その後、ABS制御部15aによって、良路用の目標スリップ率(低い目標スリップ率)に基づいて、ホイールシリンダ圧を低減させるための減圧信号が調停部15cに出力される。そして、調停部15cによりその減圧信号に基づく制御信号がブレーキアクチュエータ16a〜16dに出力される。これにより各ホイールシリンダの調整弁が開かれるので、ホイールシリンダ圧が低減し(車両の制動力が低減し)、その結果、車両の減速度(正の値)が低減する(ステップS17)。特に、この場合は、悪路制御実行時でも良路制御に切り替えられるので、目標スリップ率がより低く設定され、それに従って目標ホイールシリンダ圧もより低く設定される。その結果、ホイールシリンダ圧がより低減され、車両の減速度がより小さくなる。
その後、ABS制御部15aにおいて、算出された車体速に基づいて車両が停止したか否かが判定される(ステップS18)。ここで、車両が停止したと判定された場合は(ステップS18;YES)、ABS制御部15aにより、ホイールシリンダ圧を増大させるための増圧信号が調停部15cに出力され、調停部15cによりその増圧信号に基づく制御信号がブレーキアクチュエータ16a〜16dに出力される。これにより各ホイールシリンダの調整弁が閉じられるので、各輪のホイールシリンダ圧は運転者のブレーキ操作に応じた圧力まで戻る(ステップS19)。その結果、車両を停止させ続けるのに必要な制動力が確保される。一方、車両がまだ停止していないと判定された場合には(ステップS18;NO)、ABS制御部15aによるホイールシリンダ圧低減制御(ステップS17)が繰り返し実行される。
一方、上記ステップS13において、ABS制御部15aによるABS制御が行われていない場合は(ステップS13;NO)、停止ショック低減制御部15bにより、ホイールシリンダ圧を低減させるための減圧信号が調停部15cに出力され、調停部15cによりその減圧信号に基づく制御信号がブレーキアクチュエータ16a〜16dに出力される。これにより各ホイールシリンダの調整弁が開かれるので、ホイールシリンダ圧が低減し、その結果、車両の減速度(正の値)が低減する(ステップS20)。
その後、停止ショック低減制御部15bにおいて、算出された車体速に基づいて車両が停止したか否かが判定される(ステップS21)。ここで、車両が停止したと判定された場合は(ステップS21;YES)、停止ショック低減制御部15bにより、ホイールシリンダ圧を増大させるための増圧信号が調停部15cに出力され、調停部15cによりその増圧信号に基づく制御信号がブレーキアクチュエータ16a〜16dに出力される。これにより各ホイールシリンダの調整弁が閉じられるので、各輪のホイールシリンダ圧は運転者のブレーキ操作に応じた圧力まで戻る(ステップS22)。その結果、車両を停止させ続けるのに必要な制動力が確保される。一方、車両がまだ停止していないと判定された場合には(ステップS21;NO)、停止ショック低減制御部15bによるホイールシリンダ圧低減制御(ステップS20)が繰り返し実行される。
次に、図3及び4を用いて、図1に示す車両用ブレーキ制御装置1を用いた場合、及び従来の車両用ブレーキ制御装置を用いた場合のそれぞれにおける左右後輪のホイールシリンダ圧の時間変化を比較する。ここで、従来の車両用ブレーキ制御装置は、車体速が所定の閾値V0になっても悪路制御から良路制御への切替が行われないものである。
図3及び4は、それぞれ、車両が悪路を走行中にその車両の運転者がブレーキペダルを踏んでから車両停止後所定時間が経過するまでの、ABS制御作動中の左右後輪に対応するホイールシリンダ圧の時間変化を示すグラフである。図3及び4は、車両用ブレーキ制御装置1及び従来の車両用ブレーキ制御装置にそれぞれ対応する。双方のグラフにおいて、縦軸はホイールシリンダ圧(MPa)であり、横軸は、運転者がブレーキペダルを踏んでからの経過時間(秒)である。また、時間t0(秒)は車体速が所定の閾値V0未満になった時を表し、時間t1(秒)はホイールシリンダ圧が実際に低減し始める時を表し、時間t2(秒)は車両が停止した時を表す。なお、図3及び4では左右後輪のホイールシリンダ圧についてのみ示しているが、左右前輪のホイールシリンダ圧についても同様に考えられる。
車両用ブレーキ制御装置1及び従来の車両用ブレーキ制御装置のどちらの場合でも、運転者がブレーキペダルを踏んでから時間t0(秒)が経過するまで、左右後輪のホイールシリンダ圧は一定勾配で上昇している。図3及び4に示す例では、右後輪よりも左後輪の方がロック状態になる可能性が高いため、時間t0(秒)が経過するまでの間、左後輪の目標ホイールシリンダ圧PTL(P2TL)が右後輪の目標ホイールシリンダ圧PTR(P2TR)よりも低いように設定されている。そのため、左後輪の実際のホイールシリンダ圧(以下「実ホイールシリンダ圧」という)PRL(P2RL)は、右後輪の実ホイールシリンダ圧PRR(P2RR)よりも低い。
しかし、車体速が所定の閾値V0未満になったt0(秒)を経過すると、車両用ブレーキ制御装置1が悪路制御から良路制御に切り替えるので、車両用ブレーキ制御装置1と従来の車両用ブレーキ制御装置とでホイールシリンダ圧の時間変化が相違するようになる。
車両用ブレーキ制御装置1を用いた場合は、ABS制御部15aが悪路制御から良路制御に切り替え、その後、良路用の目標スリップ率(低い目標スリップ率)に従って目標ホイールシリンダ圧が決定される。そのため、右後輪の目標ホイールシリンダ圧PTR及び左後輪の目標ホイールシリンダ圧PTLが相当程度低減する。その結果、時間t0(秒)から少し経過した時間t1(秒)以降、左右後輪の実ホイールシリンダ圧PRL及びPRRが相当程度低減される。このように車両の減速度が低減されると、車両が停止して減速度がゼロになる際の減速度の変化も小さくなるので、その車両の乗員が受ける停止ショックが抑制される。その後、車両が停止すると、すなわち時間t2(秒)が経過すると、左右後輪のホイールシリンダ圧が最終的に一致するように、それら各輪のホイールシリンダ圧が一定勾配で増大するように制御される。
なお、図3に示す例では、右後輪の目標ホイールシリンダ圧PTRと左後輪の目標ホイールシリンダ圧PTLとを一致させるように制御しているが、左右後輪の目標ホイールシリンダ圧を一致させなくてもよい。例えば、図3の例において、右後輪の目標ホイールシリンダ圧PTRの減圧量と左後輪の目標ホイールシリンダ圧PTLの減圧量とを同じにし、右後輪の目標ホイールシリンダ圧PTRが相対的に高い状態を維持してもよい。
これに対して、従来の車両用ブレーキ制御装置を用いた場合は、悪路制御から良路制御への切替が行われないので、目標スリップ率が図3に示す例と比較して高く維持され続ける。そのため、停止ショックを低減するために左右後輪の目標ホイールシリンダ圧P2TL及びP2TRは共に低減こそするが、その低減の程度は緩やかである。その結果、時間t1(秒)以降も、左右後輪の実ホイールシリンダ圧PRL及びPRRが相対的に高い状態が続く。そのため、車両の減速度はあまり低減せず、その車両の乗員が停止ショックを受けるおそれが生ずる。その後、車両が停止すると(時間t2(秒)が経過すると)、左右後輪のホイールシリンダ圧が最終的に一致するように、それら各輪のホイールシリンダ圧がそれぞれ一定勾配で増大するように制御される。
本実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置1によれば、悪路を走行中の車両が停止状態に移行するときにABS制御部15aによる悪路制御が作動していても、ABS制御が悪路制御から良路制御に切り替えられるので、悪路制御を継続したときよりも制動力を低減できる。例えば、図4に示すように、従来の車両用ブレーキ制御装置を用いた場合は、左右後輪のホイールシリンダ圧が比較的高い水準で推移するが、車両用ブレーキ制御装置1を用いた場合は、図3に示すように、左右後輪のホイールシリンダ圧が相当程度低減される。その結果、車両が停止する直前の減速度を低くして、車両停止時の停止ショックを抑制することが可能になる。
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で以下のような様々な変形が可能である。
上記実施形態では、ABS制御部15a自身が良路制御を行うか悪路制御を行うかを判断したが、ブレーキ制御用ECU15の他の部分、例えば調停部15cが車輪速信号及び加速度信号に基づいてABS制御部15aに良路制御又は悪路制御を行うように指示してもよい。
また、上記実施形態では、車両の減速度が所定の閾値G0より大きくなり且つ車体速が所定の閾値V0未満になった場合、すなわち、ホイールシリンダ圧低減制御を開始する条件を満たした場合に、ABS制御部15a及び停止ショック低減制御部15bの双方が作動することがある。そして、これら双方が作動した場合には、調停部15cがABS制御部15aからの信号を制御信号として選択する。しかし、その条件を満たした場合の制御はこれに限定されない。例えば、その条件を満たした場合に、まず、ブレーキ制御用ECU15が、ABS制御部15aによるABS制御が実行されているか否かを検査する。そして、ABS制御実行中であれば、ABS制御部15aのみがホイールシリンダ圧低減制御を行い、ABS制御が行われていなければ、停止ショック低減制御部15bのみがホイールシリンダ圧低減制御を行うようにしてもよい。
また、上記実施形態では、ABS制御部15aが良路走行時の目標スリップ率と悪路走行時の目標スリップ率を予め保持しているが、どのように目標スリップ率を設定し保持するかは限定されない。例えば、単に良路か悪路かではなく、路面状況に基づいて多段階に目標スリップ率を設定し、停止ショック低減制御の開始条件を満たしたときにより低い目標スリップ率に変更するようにABS制御部15aを構成してもよい。
また、上記実施形態では、ABS制御部15aが走行中の路面の状態に基づいて目標スリップ率を設定しているが、目標スリップ率を設定する基準はこれに限定されない。例えば、車両の減速度に基づいて目標スリップ率を設定してもよい。具体的には、車両の減速度が大きい場合には目標スリップ率を高く設定し、車両の減速度が小さい場合には目標スリップ率を低く設定する。この変形例によれば、車両が停止状態に移行した際にその車両の減速度が大きくても、ABS制御部15aが高い目標スリップ率から低い目標スリップ率に切り替えることで目標スリップ率を低く設定するので、ホイールシリンダ圧を低減させることができる。なお、このように目標スリップ率を設定する際には、路面のμ−S特性が考慮される。
また、上記実施形態では、停止ショック低減制御開始条件が満たされた場合に、悪路用の目標スリップ率から良路用の目標スリップ率に切り替える構成としたが、良路用の目標スリップ率よりも低い目標スリップ率に切り替える構成としてもよい。この変形例によれば、車両が停止状態に移行して停止ショック低減制御開始条件が満たされた際に目標スリップ率がより低く設定されるので、ホイールシリンダ圧をより低減させることができる。
1…車両用ブレーキ制御装置(車両制動力制御装置)、11a〜11d…車輪速センサ、12…加速度センサ、14…マスタシリンダ圧センサ、15…ブレーキ制御用ECU、15a…ABS制御部(ABS制御手段)、15b…停止ショック低減制御部(停止時制御手段)、15c…調停部、16a〜16d…ブレーキアクチュエータ