〈第1実施形態〉
以下、図1から図9を参照して本発明の第1実施形態について説明する。ここに、図1は、複合機1の外観構成を示す斜視図である。図2は、プリンタ部2の主要構成を示す部分拡大断面図である。図3は、プリンタ部2の主要構成を示す平面図であり、主としてプリンタ部2の略中央から装置背面側の構成が示されている。図4は、キャリッジ38の速度特性(速度の変移)を示すグラフ図である。図5は、プリンタ部2の制御部100の主要構成を示すブロック図である。図6は、図5におけるASIC107の構成を詳細に示すブロック図である。図7は、図6におけるPID演算部124の構成を詳細に示すブロック図である。図8は、キャリッジ38の加速制御中においてPID演算部124で行われる演算処理の手順の一例を示すフローチャートである。図9は、制御部100によって加速制御されたキャリッジ38の速度特性(速度の変移)を示すグラフ図である。
[複合機1]
複合機1は、プリンタ部2とスキャナ部3とを一体的に備えた多機能装置(MFP:Multi Function Product)であり、プリント機能、スキャン機能、コピー機能、ファクシミリ機能等を有する。図1に示されるように、複合機1は概ね直方体に形成されており、その下部がプリンタ部2であり、上部がスキャナ部3である。なお、プリンタ部2が、本発明のインクジェット記録方式の画像記録装置に相当し、スキャナ部3が、本発明の画像読取装置に相当する。
複合機1のプリンタ部2は、所定の印刷データに基づいて、記録用紙(本発明の被記録媒体の一例)に画像や文書を記録するものである。プリンタ部2は、正面に開口9が形成されている。給紙トレイ20及び排紙トレイ21は、開口9の内側に上下2段に設けられている。給紙トレイ20に収容された記録用紙がプリンタ部2の内部へ給送されて、その記録用紙に所望の画像が記録される。その後、画像記録済みの記録用紙が排紙トレイ21へ排出される。
スキャナ部3は、所謂フラットベッドスキャナとして構成されている。複合機1の天板としての原稿カバー30がスキャナ部3の上部に開閉自在に設けられている。原稿カバー30の下側に、図示しないプラテンガラス及び複数のCISイメージセンサ(本発明の画像読取素子の一例)が設けられている。複数のCISイメージセンサは、複合機1の奥行き方向(配列方向)へ一列に配列された状態で図示しないキャリッジに搭載されている。このキャリッジは、プラテンガラスの裏面に沿って上記配列方向と直交する方向(移動方向)へ移動可能に構成されている。上記キャリッジが上記移動方向へ移動される過程において、プラテンガラスに載置された原稿の画像がCISイメージセンサによって読み取られる。
図1に示されるように、複合機1の正面上部には、プリンタ部2やスキャナ部3を操作するための操作パネル4が設けられている。操作パネル4は、各種操作ボタンや液晶表示部から構成されている。複合機1は、操作パネル4からの操作指示に基づいて動作する。複合機1が外部のコンピュータに接続されている場合には、該コンピュータからプリンタドライバ又はスキャナドライバを介して送信される指示に基づいても複合機1が動作する。
[プリンタ部2]
図2に示されるように、複合機1の底側に給紙トレイ20が設けられている。給紙トレイ20の上側に給紙ローラ25が設けられている。プリンタ部2の図示しないフレームに基軸29が支持されている。この基軸29に給紙アーム26の基端が回動可能に支持されている。給紙ローラ25は、給紙アーム26の先端に回転可能に軸支されている。基軸29には、給紙ローラ25を回転駆動させるためのLFモータ95(図5参照)が連結されている。給紙アーム26には、基軸29から入力されたLFモータ95の回転駆動力を給紙ローラ25に伝達するギヤ駆動機構27が設けられている。LFモータ95の回転駆動力は、基軸29、ギヤ駆動機構27を介して給紙ローラ25に伝達される。これにより、給紙ローラ25が回転駆動される。
給紙ローラ25が給紙トレイ20上の記録用紙に圧接された状態で回転駆動されると、給紙ローラ25のローラ面と記録用紙との間の摩擦力により、最上位置の記録用紙が給紙トレイ20の奥側(図2の右側)へ送り出される。記録用紙は、その先端が傾斜板22に当接して上方へ案内される。傾斜板22から用紙搬送路23が延出されている。具体的には、用紙搬送路23は、傾斜板22から上方へ向けられ、そして、複合機1の正面側(図2の左側)へ曲げられてから、複合機1の背面側から正面側へと延ばされて、画像記録ユニット24の下部を通って、排紙トレイ21まで延設されている。したがって、給紙トレイ20に収容された記録用紙は、用紙搬送路23により下方から上方へUターンするように案内されて画像記録ユニット24に至り、画像記録ユニット24により画像記録が行われた後、排紙トレイ21に排出される。
図2に示されるように、用紙搬送路23には、画像記録ユニット24が配置されている。画像記録ユニット24は、インクジェット記録方式の記録ヘッド39(本発明の記録ヘッドの一例)と、この記録ヘッド39を搭載するキャリッジ38(本発明の被駆動体の一例)とを備えている。キャリッジ38は、記録用紙の搬送方向と直交する方向(図2の紙面に垂直な方向)へスライド可能に支持されている。
記録ヘッド39は、キャリッジ38の底面に配置されており、記録ヘッド39のノズルがキャリッジ38の下面に露出されている。複合機1の内部に配置されたインクカートリッジ(不図示)から各色のインクが記録ヘッド39へ供給される。キャリッジ38の下面に対向してプラテン42が設けられている。キャリッジ38が往復移動される間に、記録ヘッド39のノズルから各色インクが微小なインク滴として選択的に吐出されると、プラテン42上を搬送される記録用紙に画像が記録される。
図3に示されるように、用紙搬送路23の上側において一対のガイドレール43,44が配置されている。これらガイドレール43,44は、記録用紙の搬送方向(図3の上側から下側方向)に所定距離を隔てられて対向しており、且つ記録用紙の搬送方向と直交する方向(図3の左右方向)に延設されている。ガイドレール43,44は、プリンタ部2の筐体内に設けられ、プリンタ部2を構成するフレームの一部を構成している。
ガイドレール43は、記録用紙の搬送方向上流側に配設されている。このガイドレール43は、用紙搬送路23の幅方向(図3の左右方向)の長さがキャリッジ38の往復移動範囲より長い平板状のものである。また、ガイドレール44は、記録用紙の搬送方向下流側に配設されている。このガイドレール44は、用紙搬送路23の幅方向の長さがガイドレール43とほぼ同じ長さの平板状のものである。キャリッジ38は、各ガイドレール43,44を跨ぐようにして配設されている。具体的には、キャリッジ38の搬送方向上流側の端部がガイドレール43に載置され、キャリッジ38の搬送方向下流側の端部がガイドレール44に載置されており、各ガイドレール43,44の延出方向に摺動可能に配設されている。
ガイドレール44の搬送方向上流側の縁部45は、上方へ向かって略直角に曲折されている。ガイドレール43,44に担持されたキャリッジ38は、縁部45をローラ対等の挟持部材により摺動可能に挟持している。これにより、キャリッジ38は、記録用紙の搬送方向に対して位置決めされ、且つ、記録用紙の搬送方向と直交する方向に摺動することができる。つまり、キャリッジ38は、ガイドレール43,44上に摺動自在に担持され、ガイドレール44の縁部45を基準として、記録用紙の搬送方向と直交する方向へ往復移動する。
ガイドレール44の上面には、図3に示されるように、ベルト駆動機構46が配設されている。ベルト駆動機構46は、駆動プーリ47と、従動プーリ48と、無端環状のベルト49とを有する。
駆動プーリ47及び従動プーリ48は、用紙搬送路23の幅方向の両端付近にそれぞれ設けられている。駆動プーリ47と従動プーリ48との間に、無端環状のベルト49が張架されている。駆動プーリ47の軸に、キャリッジ38を移動させるためのCRモータ96(本発明の電動機の一例、図5参照)が連結されている。このCRモータ96は、フィードバック制御に適合するよう製作されたサーボモータである。CRモータ96が回転駆動されると、その回転駆動力が駆動プーリ47に伝達される。そして、駆動プーリ47の回転によってベルト49が周運動する。なお、ベルト49は無端環状のもののほか、有端のベルトの両端部をキャリッジ38に固着するものも採用され得る。
キャリッジ38は、その下面側においてベルト49に連結されている。したがって、ベルト49の周運動に基づいて、キャリッジ38が縁部45を基準としてガイドレール43,44上を摺動する。このようなキャリッジ38に記録ヘッド39が搭載されて、記録ヘッド39が、用紙搬送路23の幅方向を往復移動される。
図3に示されるように、ガイドレール44には、エンコーダストリップ50が配設されている。エンコーダストリップ50は、透明な樹脂からなる帯状のものである。エンコーダストリップ50には、遮光部と透光部とが等ピッチで配置されたパターンが記されている。ガイドレール44の幅方向(キャリッジ38の移動方向)の両端には、その上面から起立する一対の支持リブ33,34が設けられている。エンコーダストリップ50は、その両端部が支持リブ33,34に係止されて、縁部45に沿って架設されている。なお、エンコーダストリップ50はバネなどによって張力が付与されている。
キャリッジ38の上面において、エンコーダストリップ50に対応する位置には、透過型センサである光学センサ35が設けられている。光学センサ35は、位置検出用の第1のフォトセンサ(不図示)と、原点検出用の第2のフォトセンサ(不図示)とからなる。第1のフォトセンサは、キャリッジ38の移動方向へ僅かに位置をずらして配置された2つの発光素子(例えばLED)と、これらの発光素子に対応して配置された2つの受光素子(例えばフォトトランジスタ)とにより構成されている。また、第2のフォトセンサは、1つの発光素子と1つの受光素子とにより構成されている。各フォトセンサが備える発光素子及び受光素子の間に、エンコーダストリップ50が配置されている。このように光学センサ35及びエンコーダストリップ50が配設されることによって、キャリッジ38の位置を検出するためのリニアエンコーダが構成される。
本第1実施形態では、エンコーダストリップ50のパターンを光学センサ35が読み取ることにより、キャリッジ38の位置情報を示す検出信号が得られる。この検出信号は、後述する制御部100(本発明の駆動制御装置の一例、図5参照)のASIC107に入力(フィードバック)されて、キャリッジ38の位置情報が認識される。また、制御部100では、入力された上記位置情報からキャリッジ38の実際の速度や加速度、移動方向が求められる。これら位置情報、実速度、加速度、移動方向などのフィードバックデータに基づいてCRモータ96(図5参照)がPID制御(フィードバック制御)により駆動される。
図3に示されるように、記録用紙が通過しない範囲、すなわち記録ヘッド39(図2参照)による画像記録領域の外側には、メンテナンス機構51が配設されている。具体的には、メンテナンス機構51は、図3においてプラテン42の右端部に配置されている。メンテナンス機構51は、記録ヘッド39のノズル内のインクの乾燥を防止したり、ノズルから気泡や異物を吸引除去するものである。本第1実施形態では、キャリッジ38の待機位置(ホームポジション)はメンテナンス機構51の直上に設定されている。したがって、画像記録を行わない場合は、キャリッジ38は、画像記録指示が入力されるまで上記待機位置で待機している。
図2に示されるように、画像記録ユニット24の上流側には、搬送ローラ87とピンチローラ88とを有する一対の搬送ローラ対89が設けられている。画像記録ユニット24の下流側には、排紙ローラ90と該排紙ローラ90の上方に設けられた拍車91とを有する一対の排出ローラ対92が設けられている。搬送ローラ87の軸に、複数のギヤからなるギヤ駆動機構85(図5参照)が連結されている。LFモータ95(図5参照)の回転駆動力は、ギヤ駆動機構85を介して搬送ローラ87の軸に伝達される。これにより、搬送ローラ87が所定の回転速度で回転されて、記録用紙が用紙搬送路23中を搬送される。搬送ローラ87と排紙ローラ90とはギヤなどの伝達機構により連結されており、該伝達機構を介して搬送ローラ87から駆動力が排紙ローラ90に伝達される。これにより、搬送ローラ87と排紙ローラ90とが同期駆動される。
搬送ローラ87の回転軸にエンコーダディスク52が設けられている。エンコーダディスク52の周縁には、遮光部と透光部とが等ピッチで交互に配置されたパターンが記されている。エンコーダディスク52の周縁に対応する位置に光学センサ15(図5参照)が配設されている。光学センサ15の発光素子と受光素子との間にエンコーダディスク52の周縁が配置されている。エンコーダディスク52と光学センサ15とによって、搬送ローラ87の回転位置を検出するためのロータリーエンコーダが構成される。本第1実施形態では、搬送ローラ87とともに回転するエンコーダディスク52のパターンは、光学センサ15によって読み取られる。エンコーダディスク52のパターンを光学センサ15が読み取ることにより、搬送ローラ87の回転位置情報を示す検出信号が得られる。
本第1実施形態では、複合機1に画像記録指示が入力されて、記録用紙における記録領域の先端が記録ヘッド39の下方に到達すると、CRモータ96(図5参照)が制御部100によって駆動制御される。これにより、キャリッジ38は、図3の右端部に設定された待機位置からスライドを開始して、記録用紙の搬送方向と直交する方向(図3の左右方向)へ往復移動する。
図4に、キャリッジ38が往復移動する際の理想的な速度特性(速度変移)が示されている。この速度特性は、所謂、キャリッジ38の目標速度の変移を示すプロファイルであって、ある時間においてキャリッジ38が到達すべき目標速度が示されている。図4の速度特性によれば、キャリッジ38は、CRモータ96が正回転方向へ回転されることによって待機位置で静止していた状態から動き出して、区間t1において往方向(図3の左方向)へ加速駆動され、区間t2において所定速度に達すると定速駆動される。そして、待機位置とは反対側の端部に近づくと、区間t3において減速駆動される。続いて、CRモータ96が逆回転方向へ回転されることによって、キャリッジ38は、区間t4において復方向(図3の右方向)へ加速駆動され、区間t5において所定速度に達すると定速駆動される。そして、待機位置に近づくと、区間t6において減速駆動される。その後は、必要に応じて、区間t1〜t6の動作が繰り返される。
しかしながら、キャリッジ38の実際の速度特性は、CRモータ96(図5参照)のコギングトルクやCRモータ96の出力軸の偏心、或いは駆動プーリ47の軸の偏心、ガイドレール43,44の摺動抵抗のバラツキなどの外乱要素の影響を受けて変動する。例えば、コギングトルクによるトルク変動が周期的に生じることによって、キャリッジ38の速度特性も周期的に変動する。本第1実施形態では、後述する制御部100(図5参照)によってCRモータ96が駆動制御されることにより、上記外乱要素の影響が最小限に抑えられ、キャリッジ38の速度変動を殆ど生じないようにすることができる。なお、制御部100による駆動制御の詳細については後述する。
[制御部100]
次に、図5を参照して、プリンタ部2に設けられた制御部100の主要構成について説明する。
制御部100は、プリンタ部2の全体動作を制御するものであり、記録ヘッド39の吐出制御のほか、CRモータ96及びLFモータ95の駆動制御を行う。図5に示されるように、制御部100は、主として、各種演算を行うCPU101と、ROM102と、RAM103と、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)107と、インターフェース(I/F)108と、CRモータドライバ110と、LFモータドライバ111と、ヘッド駆動回路113とがバス105などで接続されて構成されている。
インターフェース108は、図示しないホストコンピュータから出力される印刷データなどの信号を受信するためのものである。
ROM102には、CPU101がプリンタ部2の各種動作を制御するためのプログラムのほか、CRモータ96のPID制御に必要な積分ゲイン及び微分ゲインが記憶されている。ここで、PID制御とは、目標速度と実速度との偏差(速度差)に比例ゲインを乗じて入力値を変化させる比例動作(P動作)と、上記偏差の累積値に積分ゲインを乗じて入力値を変化させる積分動作(I動作)と、上記偏差の変化(つまり偏差の微分)に微分ゲインを乗じて入力値を変化させる微分動作(D動作)とを組み合わせた制御方法のことをいう。上記した比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲインは、一般に、PID定数と呼ばれている。本第1実施形態では、PID制御に用いられるPID定数(比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲイン)がROM102に格納されている。なお、比例ゲインのうち、停止状態のキャリッジ38を加速制御する際に用いられる第1比例ゲイン(本発明の第1増幅率の一例)及び第2比例ゲイン(本発明の第2増幅率の一例)は、後述するPID演算部124(本発明の第1生成手段の一例、図6参照)の内部メモリ142(本発明の記憶手段の一例、図7参照)に格納されている。
RAM103は、CPU101が上述の各種プログラムを実行する際に用いる各種データを一時的に記録する記憶領域、或いは所定の演算処理を行うための作業領域として使用される。
EEPROM104には、電源オフ後も保持すべきデータや設定、フラグ等が格納される。本第1実施形態では、キャリッジ38が往復移動する際に到達すべき目標速度を定めるプロファイル、具体的には、図4に示される速度特性が記憶されている。
ASIC107は、光学センサ35からのパルス信号のカウントや演算を行うゲートアレイとして構成されている。ASIC107の詳細な構成については後述する。
CPU101は、図示しないホストコンピュータからインターフェース108を介して受信された印刷データを、RAM103の所定の記憶領域に格納するとともに、予めROM102に記憶されている制御プログラムに従って、LFモータ95を駆動するために必要な各種制御信号を出力する演算制御動作と、画像データを加工して、この画像データに基づいて実際に画像記録を行う印刷データを展開し、これに基づいて記録ヘッド39を駆動するための制御信号を出力する処理を行う。また、ASIC107からの制御信号により、CRモータ96の動きに同期させてヘッド駆動回路113にヘッド駆動信号を送ったり、CRモータ96の動きに合わせてLFモータドライバ111を介してLFモータ95を回転させるなどの、各部分の動作を統括する役割も担う。
ヘッド駆動回路113は、入力された画像データから得られた印刷データに基づいて、記録用紙上の画像記録箇所が記録ヘッド39の下方に到達したときに、記録ヘッド39に備えられたピエゾ素子(不図示)に電圧を印加して、記録用紙へ向けてインクを吐出させるものである。
LFモータ95は、DCモータである。搬送ローラ87の回転軸に取り付けられたエンコーダディスク52と光学センサ15(図5照)とにより構成されたロータリーエンコーダによってLFモータ95の回転位置が検出され、その検出結果はASIC107に入力される。その検出結果に基づいてASIC107内で搬送ローラ87による記録用紙の搬送量が所定量となるようにLFモータ95を精度よく制御するためのPWM信号を生成し、そのPWM信号をLFモータドライバ111に入力する。LFモータドライバ111は、入力されたPWM信号に応じた電流をLFモータ95に出力するものである。この出力された電流がLFモータ95に流れることにより、搬送ローラ87が所望の通りに駆動される。
LFモータ95の回転により、搬送ローラ87および排紙ローラ90にギヤなどの伝達機構を介して駆動力が伝達されて記録用紙の搬送が行なわれる。搬送された記録用紙は、用紙搬送路23に配置された図示しないシートセンサによって搬送位置が検出され、この検出信号がCPU101に送られる。この信号を受けて、CPU101は、記録用紙の状態を判断して、ASIC107、LFモータドライバ111を介してLFモータ95を駆動若しくは停止させる。
ASIC107は、CPU101の制御の下で、CRモータドライバ110に駆動制御信号を出力する。CRモータドライバ110は、駆動制御信号に応じた駆動電流をCRモータ96に出力する。駆動電流を受けたCRモータ96は、キャリッジ38を移動させ、光学センサ35によってキャリッジ38の位置が検出されて、その位置情報がASIC107にフィードバックされる。
[ASIC107]
ここで、図6を参照して、ASIC107の構成について詳細に説明する。なお、図6ではLFモータ95に関する制御系統が省略されており、以下の説明でもLFモータ95に関する制御は省略されている。
ASIC107は、エッジ検出部121と、キャリッジ位置管理部122と、エンコーダ周期測定部123と、PID演算部124と、PWM生成部125とを有する。これらの各部は、トランジスタやコンデンサなどの素子を集積させて各部が有する後述する固有機能を実現するように回路設計されたハードロジック回路である。なお、PWM生成部125及びCRモータドライバ110によって、本発明の第1制御手段、第2制御手段が具現化される。
エッジ検出部121は、光学センサ35で発生したエンコーダ信号ENC1及びENC2の信号のエッジ(立ち上がり)を検出するとともに、その検出タイミングで基準パルスを生成するものである。生成された基準パルスは、キャリッジ位置管理部122及びエンコーダ周期測定部123に出力される。また、エッジ検出部121は、2種類のエンコーダ信号ENC1,ENC2の位相差からキャリッジ38の進行方向を求め、その方向をフラグとする方向フラグ信号をキャリッジ位置管理部122へ出力する。
キャリッジ位置管理部122は、エッジ検出部121から入力された方向フラグ信号と基準パルスとに基づいて、パルス信号をインクリメントして、キャリッジ38の待機位置(図3の右端)からの位置を求める。これにより、キャリッジ38の走行位置が検出される。なお、ここで検出されたキャリッジ38の位置はCPU101にフィードバックされる。
エンコーダ周期測定部123は、キャリッジ38の速度を求めるものである。詳細には、エンコーダ周期測定部123は、図示しない基準タイマーによって与えられた一定時間内において、エッジ検出部121から出力された基準パルスをカウントすることにより、キャリッジ38の速度を求める。求められた速度情報は、PID演算部124に出力される。
PID演算部124は、キャリッジ38の速度制御のためのPID制御の演算を行い、PWM生成部125に出力するための制御信号を生成する。PID演算部124には、ROM102に記憶されている積分ゲインと微分ゲインがCPU101により与えられる。このPID演算部124では、エンコーダ周期測定部123から入力された速度情報と、CPU101から入力された積分ゲイン及び微分ゲインとに基づいてPID制御のための各種演算や、制御信号の生成が行われる。
PWM生成部125は、PID演算部124からの制御信号、及びCPU101に応じたPWM(Pulse Width Modulation・パルス幅変調)信号を生成する。このPWM生成部125では、PID演算部124からの制御信号に基づいて、所定のデューティ比(ON時間とOFF時間の比で、一定の周期に対するON時間の割合で表されたもの)が求められる。そして、このデューティ比を有するPWM信号が生成される。生成されたPWM信号は、CRモータドライバ110へ出力される。PWM信号を受けたCRモータドライバ110は、PWM信号に応じた駆動電流をCRモータ96に与えて該CRモータ96を回転させる。CRモータ96の回転駆動力は、ベルト駆動機構46を介してキャリッジ38に伝達される。これにより、キャリッジ38が所定方向へ所定速度で移動する。
ここで、図7を参照して、PID演算部124の構成について詳細に説明する。
PID演算部124は、PID出力部141と、内部メモリ142と、ゲイン選択部144と、速度比較部145(本発明の第1判定手段の一例)とにより構成されている。なお、PID出力部141、ゲイン選択部144及び速度比較部145は、いずれも、トランジスタやコンデンサなどの素子を集積させて各部が有する後述する固有機能を実現するように回路設計されたハードロジック回路である。
内部メモリ142は、PID制御のうち、比例動作(P動作)に用いる比例ゲインの一部を記憶するものであり、例えば、RAMなどの半導体メモリで構成されている。この内部メモリ142には、キャリッジ38の加速制御に用いられる第1比例ゲイン及び第2比例ゲインの2つのゲインが格納されている。第2比例ゲインは、第1比例ゲインよりも大きな値のものが採用されている。要するに、キャリッジ38の加速制御において、数値の異なる2つのゲインが用いられる。本第1実施形態では、加速領域(図4の区間t1)において、加速が開始された初期段階では第1比例ゲインで比例動作が行われ、所定の切替タイミング以降は第2比例ゲインで比例動作が行われる。なお、第1比例ゲイン及び第2比例ゲインそれぞれの数値は、キャリッジ38の駆動に関与するCRモータ96やベルト駆動機構46などの各部材固有の特性等を考慮して決定される要素である。
なお、本第1実施形態では、第1比例ゲイン及び第2比例ゲインがPID演算部124の内部メモリ142に記憶されることとしたが、第1比例ゲイン及び第2比例ゲインをROM102に記憶しておき、ROM102から必要に応じて第1比例ゲイン又は第2比例ゲインを読み出すようにしてもかまわない。
速度比較部145は、キャリッジ38の目標速度と実速度との偏差(速度差)と予め定められた基準値とを比較して、上記偏差が上記基準値(本発明の所定の閾値に相当)以下であるかどうかを判定する。具体的には、CPU101から入力された目標速度とエンコーダ周期測定部123から入力された実際の速度との偏差を求め、求められた偏差が上記基準値以下であるかどうかを判定する。本第1実施形態では、上記基準値は、例えば、目標速度に対して略零と評価できる程度に小さい値に設定されている。具体的には、上記基準値は、キャリッジ38の定速制御区間で必要な速度に対して概ね10%、より好ましくは5%の値に設定されている。これにより、速度比較部145において、実質的に、上記偏差が略零であるか否かを判定することが可能となる。なお、判定された結果は、判定結果を電流値に置き換えた信号sig1としてゲイン選択部144へ出力される。ここで、信号sig1は、上記偏差が上記基準値以下であるとする判定結果を示す信号である。
また、上記基準値は、上記以外の方法で決められた値に設定されていてもよい。例えば、上記基準値は、キャリッジ38の目標速度と実速度との偏差(速度差)を目標速度で除した値(偏差の割合)に対して設けられた比であってもよい。つまり、上記基準値は、偏差に対する具体的な数値ではなく、目標速度に対する所定の比(割合)として定められていてもよい。この場合、速度比較部145は、上記基準値と上記目標速度に対する上記偏差の比とを比較して、上記偏差が上記基準値以下であるかどうかを判定する。
ゲイン選択部144は、キャリッジ38の加速制御において、速度比較部145から入力された信号sig1の有無にしたがって、内部メモリ142から第1比例ゲイン或いは第2比例ゲインのいずれか一つを選択する機能を有する。キャリッジ38の加速制御中において、ゲイン選択部144に上記信号sig1が入力されると、内部メモリ142から第2比例ゲインを読み出して、該第2比例ゲインをPID出力部141へ出力する。一方、ゲイン選択部144に上記信号sig1が入力されていない場合は、内部メモリ142から第1比例ゲインを読み出して、該第1比例ゲインをPID出力部141へ出力する。なお、キャリッジ38の加速制御以外の制御を行う際は、CPU101がROM102から必要な比例ゲインを読み出してPID出力部141へ出力する。また、比例ゲイン以外のゲイン(積分ゲイン、微分ゲイン)については、キャリッジ38の制御状態にかかわらず、CPU101がROM102から読み出してPID出力部141へ出力する。
PID出力部141は、エンコーダ周期測定部123から入力されたキャリッジ38の実際の移動速度(実速度)と、CPU101から入力された目標速度との偏差を求める。そして、CPU101又はゲイン選択部144から入力されたPID定数(比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲイン)を用いてPID制御の演算を行い、上記求められた偏差に応じた制御信号を生成して、該制御信号をPWM生成部125へ出力する。
以下、図8のフローチャート及び図9のグラフ図を参照しながら、キャリッジ38の加速制御中にPID演算部124で行われる演算処理の手順とともに、キャリッジ38の加速制御方法の一例について説明する。なお、当該演算処理は、後述するようにキャリッジ38の移動制御の準備が整った後に実行される。この演算処理は、図8中のステップS1から開始される。なお、図9において、破線は目標速度プロファイルであり、実線はキャリッジ38の速度特性である。また、区間t10は加速制御領域を示し、区間t20は定速制御領域を示す。
外部のホストコンピュータなどから印刷データとともに印刷指示がインターフェース108を介して複合機1に入力されると、メンテナンス機構51(図3参照)による記録ヘッド39のメンテナンス、記録用紙の頭出し搬送、待機位置から記録開始位置へのキャリッジ38の移動が行われて、キャリッジ38の移動制御の準備が整う。なお、上記記録開始位置とは、実際に記録用紙上に記録を行う画像記録領域の端部位置ではなく、その端部位置よりも、キャリッジ38が停止状態から所定速度に到達するまでに要する助走距離だけ後退した位置のことをいう。キャリッジ38が上記記録開始位置に配置されると、制御部100のASIC107及びCRモータドライバ110などによってCRモータ96の駆動制御が開始される。これにより、停止状態にあるキャリッジ38の移動制御が開始される。以下、キャリッジ38の加速制御中において、PID演算部124で行われる演算処理について詳細に説明する。
上記記録開始位置では、キャリッジ38は停止状態にある。停止状態のキャリッジ38に対して移動を開始した加速制御の初期段階では、ゲイン選択部144は、内部メモリ142から第1比例ゲインを読み出して、PID出力部141へ出力する(S1)。
PID出力部141では、ゲイン選択部144から入力された第1比例ゲイン、CPU101から入力された積分ゲイン及び微分ゲインを用いて、目標速度と実速度との偏差に応じた第1制御信号(本発明の第1制御値の一例)を生成して、PWM生成部125へ出力する(S2)。なお、PWM生成部125は、入力された第1制御信号に応じたデューティ比を有するPWM制御信号を生成してCRモータドライバ110に出力し、CRモータドライバ110はPWM制御信号に応じた駆動電流をCRモータ96に出力する。このとき、CRモータ96からキャリッジ38に伝達される駆動力がキャリッジ38に作用する静止摩擦力より大きくなると、キャリッジ38が動き出して加速される。
キャリッジ38の加速制御中は、速度比較部145において、CPU101から入力された目標速度とエンコーダ周期測定部123から入力された実速度との偏差が上記基準値以下であるか否かが判定される(S3)。なお、図9に示されるように、加速制御開始直後は上記偏差は略零であるが、本第1実施形態では、加速制御開始後から上記偏差が上記基準値を超えるまでの時間Δtが経過するまでは、ステップS3の判定処理を行わないようにしている。
ステップS3において、上記偏差が上記基準値以下であると判定されると(S3:Yes)、速度比較部145は、信号sig1をゲイン選択部144に出力する(S4)。この信号sig1を受けたゲイン選択部144は、内部メモリ142から第1比例ゲインよりも大きい第2比例ゲインを読み出して、PID出力部141へ出力する(S5)。PID出力部141では、第2比例ゲイン、CPU101から入力された積分ゲイン及び微分ゲインを用いて、偏差に応じた第2制御信号(本発明の第2制御値の一例)を生成して、PWM生成部125へ出力する(S6)。なお、PWM生成部125は、入力された第2制御信号に応じたデューティ比を有するPWM制御信号を生成してCRモータドライバ110に出力し、CRモータドライバ110はPWM制御信号に応じた駆動電流をCRモータ96に出力する。
なお、ステップS3において、上記偏差が上記基準値以下ではないと判定されると(S3:No)、信号sig1はゲイン選択部144に出力されない。したがって、上記偏差が上記基準値以下であると判定されるまで、上述のステップS2及びS3の手順で各処理が繰り返される。
このように、図9に示されるように、上記偏差が上記基準値以下であると判定されるまでの区間t11(本発明の第1区間の一例)は、比較的数値の小さい第1比例ゲインを用いてCRモータ96がPID制御されるため、仮にキャリッジ38に作用する静止摩擦力の影響でキャリッジ38が動き出さないことによって上記偏差が大きくなったとしても、第1制御信号が過大とならない。そのため、目標速度に対して実速度が大きくオーバーしない。したがって、区間t11においては、キャリッジ38の実速度が目標速度に対して振動的に変動せず、CRモータ96の制御が安定する。
また、上記偏差が上記基準値以下であると判定された後から定速制御が開始されるまでの区間t12(本発明の第2区間の一例)は、第1比例ゲインよりも大きい第2比例ゲインを用いてCRモータ96がPID制御されるため、キャリッジ38は、CRモータ96の出力軸の偏心やコギングトルクなどの外乱要素の影響を受けず、安定して駆動する。また、上記偏差が上記基準値以下になった時点で第2制御信号による制御が開始されるため、区間t11から区間t12への移行時に微小な速度変動が生じるものの、キャリッジ38の実速度は大きく振動的に変動しない。
CPU101によって、光学センサ35からの信号に基づいてキャリッジ38が実際に記録用紙上に記録を行う画像記録領域の端部位置(所定位置)に到達したと判定されると、その判定結果がCPU101からPID出力部141に入力される。PID出力部141では、上記判定結果の有無に基づいて、キャリッジ38が端部位置に到達したかどうかを判定する(S7)。PID出力部141は、上記判定結果を受信すると(S7:Yes)、ゲイン選択部144から入力される比例ゲインを用いずに、CPU101から入力される定速制御に対応したPID定数(比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲイン)を用いて、上記偏差に応じた制御信号を生成して、PWM生成部125へ出力する。これにより、キャリッジ38の加速制御が終了して、定速制御に切り換えられる。なお、キャリッジ38の減速制御は、定速制御と同じように、CPU101から入力される減速制御に対応したPID定数を用いて、上記偏差に応じた制御信号を生成して、PWM生成部125へ出力することにより行われる。
なお、ステップS7において、キャリッジ38が画像記録領域の端部位置に到達していないと判定された場合は(S7:No)、上述のステップS5及びS6の手順の処理が繰り返される。
上述の第1実施形態では、PID演算部124を構成するPID出力部141、ゲイン選択部144及び速度比較部145はハードロジック回路であることとしたが、例えば、各部の固有機能を実現可能なプログラムにしたがってCPU101が演算処理をすることによって、図8に示されるフローチャートの各手順の処理を行ってもよい。
また、上述の第1実施形態では、EEPROM104に予め記憶された目標速度のプロファイル(図4参照)を用いることとしたが、キャリッジ38を移動制御する度に作成された目標速度のプロファイルを用いてもよい。例えば、記録ヘッド39に対するメンテナンスが終了した後に、予めROM102に記憶されたテストプログラムにしたがってキャリッジ38を1往復移動させ、その際に、光学センサ35によって得られたキャリッジ38の位置、速度、加速度などのデータに基づいて目標速度のプロファイルを作成することが考えられる。なお、このようにして作成されたプロファイルを、RAM103若しくはEEPROM104に一時的に記憶してもよい。
〈第2実施形態〉
以下、図10及び図11を参照して本発明の第2実施形態について説明する。本第2実施形態が上述の第1実施形態と相違するところは、第2実施形態に係るPID演算部154に制御信号補償部148(本発明の第2生成手段の一例)が設けられている点にあり、その他の構成は、第1実施形態と共通する。したがって、以下においては、上述の第1実施形態における構成要素と共通する構成要素については、第1実施形態で用いた符号と同じ符号で示すことにより、その詳細な説明を省略する。ここに、図10は、第2実施形態に係るPID演算部154の構成を詳細に示すブロック図である。図11は、PID演算部154を有する制御部100によって加速制御されたキャリッジ38の速度特性(速度の変移)を示すグラフ図である。
以下、PID演算部154の制御信号補償部148及びこれを設けたことによる作用効果について説明する。
上述したように、停止状態のキャリッジ38には静止摩擦力が作用するため、キャリッジ38に伝達される駆動力が静止摩擦力よりも大きくなるまでは、キャリッジ38は動き出さない。とりわけ、第1実施形態のように、区間t11において数値の比較的小さい第1比例ゲインを用いてCRモータ96を制御すると、図9に示されるように、キャリッジ38が動き出すまでに時間を要する。本第2実施形態では、キャリッジ38の加速制御が開始されてから実際にキャリッジ38が動き出すまでの区間T13(本発明の第3区間の一例、図11参照)において、PID出力部141から入力された第1制御信号に対して予め定められた補助制御信号AUX(本発明の補助制御値の一例)を付加することによって第1制御信号から第3制御信号(本発明の第3制御値の一例)を生成している。
本第2実施形態では、補助制御信号AUXを、停止状態のキャリッジ38の静止摩擦力に対応する大きさの信号に、詳細には、補助制御信号AUXのみがPWM生成部125に入力されると仮定したときに、キャリッジ38に作用する静止摩擦力とキャリッジ38に伝達される駆動力とが等しくなるような大きさの信号としている。また、キャリッジ38の静止位置や環境に応じて静止摩擦力が異なる場合は、補助制御信号AUXの大きさを最も小さい静止摩擦力と等しいとみなされるような大きさの信号とする。すなわち、静止摩擦力の大きさと補助制御信号AUXによりキャリッジに38に伝達される駆動力が等しければ、補助制御信号AUXに基づいてキャリッジ38に伝達される駆動力とキャリッジ38に作用する静止摩擦力とが相殺されるし、静止摩擦力の大きさに対して補助制御信号AUXによりキャリッジ38に伝達される駆動力が小さい場合においても静止摩擦力の影響を緩和することができる。換言すれば、補助制御信号AUXを第1制御信号に加えることによって、静止摩擦の影響を軽減してキャリッジ38を駆動させることができる。つまり、停止状態のキャリッジ38は、キャリッジ38に伝達される駆動力がこのキャリッジ38に作用する静止摩擦力よりも大きくならなければ動き出さないが、補助制御信号AUXによりキャリッジ38に作用する静止摩擦力が緩和されているので、第1制御信号に補助制御信号AUXが加えられていない場合に比べ、キャリッジ38が動き始めるまでに要する時間を短縮させることができる。また、キャリッジ38の動き出しを早くできることで目標速度と実速度との偏差が大きくならず、第1制御信号が過大とならない。そのため、目標速度に対して実速度が大きくオーバーシュートしない。すなわち、キャリッジ38に作用する静止摩擦力の影響を軽減することができるので、キャリッジ38の動き出しが速くなり上記偏差が大きくなることないので、キャリッジ38の実速度が目標速度に対して振動的に変動することが防止され、CRモータ96の制御が安定する。つまり、目標速度に対する実速度の追従性が向上する。
キャリッジ38が動き出したか否かの判定は、CPU101によって行われる。具体的には、キャリッジ位置管理部122からCPU101にフィードバックされたキャリッジ38の位置情報に基づいてキャリッジ38が動き出したかどうかが判定される。なお、キャリッジ38の位置が変わるとエッジ検出部121から基準パルスが発生することを利用して、CPU101が上記基準パルスを直接監視することで、キャリッジ38の動き出しを判定してもかまわない。このように、キャリッジ38の動き出しを判定するCPU101は、本発明の第2判定手段に相当する。
CPU101によってキャリッジ38が動き出したことが判定されると、その判定結果は、電流値に置き換えた信号sig2として制御信号補償部148へ出力される。つまり、信号sig2は、キャリッジ38が動き出したことを示す信号である。制御信号補償部148では、キャリッジ38の加速制御において、信号sig2が入力されるまで、補助制御信号AUXをPID出力部141からの第1制御信号に加えて第3制御信号を生成する。そして、生成された第3制御信号がPWM生成部125へ出力される。なお、PWM生成部125は、入力された第3制御信号に応じたデューティ比を有するPWM制御信号を生成して、CRモータドライバ110から駆動電流をCRモータ96に出力させる。一方、信号sig2が。制御信号補償部148に入力されると、補助制御信号AUXは、第1制御信号に加えられない。つまり、加速制御中においては、区間T13のみにおいて、第1制御信号が第3制御信号に変換されるのであって、区間T13を除く区間においては、上述の第1実施形態と同じ加速制御が行われる。
このように、第2実施形態では、キャリッジ38が実際に動き出すまでの区間T13は、比較的数値の小さい第1比例ゲインで生成された第1制御信号を増幅して得られた第3制御信号でCRモータ96がPID制御されるため、キャリッジ38が早いタイミングで動き出す。つまり、キャリッジ38が動き出すまでの時間を短縮することができる。
なお、上述した第1実施形態及び第2実施形態では、本発明の被駆動体としてプリンタ部2のキャリッジ38を例にして説明したが、例えば、スキャナ部3においてCISイメージセンサを保持しつつ副走査方向へ移動するキャリッジの加速制御においても本発明は適用可能である。また、インクジェット記録方式の画像記録装置に限らず、感熱式で画像を記録する、所謂、サーマルプリンタにおいて記録用紙を搬送するための搬送ローラや、ADFと称される自動原稿送り装置において原稿を画像読取位置へ向けて搬送するための搬送ローラなどを加速制御する場合にも、本発明を適用することが可能である。もちろん、これらの被駆動体に限られず、モータの駆動対象である様々な被駆動体を加速制御する場合に、本発明を適用することができる。