JP5075438B2 - Cu−Ni−Sn−P系銅合金板材およびその製造法 - Google Patents
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Description
本発明は、この合金系において、強度、曲げ加工性と耐応力緩和特性を同時に高レベルに改善した銅合金板材を提供することを目的とする。
I{420}/I0{420}>1.0 ……(1)
1.5≦I{220}/I0{220}≦3.5 ……(2)
ただし、ある温度域での圧延率ε(%)は、当該温度域で行う連続する圧延パスのうち、最初の圧延パスに供する前の板厚をt0(mm)、最後の圧延パス終了後の板厚をt1(mm)とするとき、下記(3)式によって定まる。
ε=(t0−t1)/t0×100 ……(3)
Cu−Ni−Sn−P系銅合金の板面(圧延面)からのX線回折パターンは、一般に{111}、{200}、{220}、{311}の4つの結晶面の回折ピークで構成され、他の結晶面からのX線回折強度はこれらの結晶面からのものに比べ非常に小さい。{420}面の回折強度についても、通常の製造工程で得られたCu−Ni−Sn−P系銅合金の板材では無視される程度に弱くなる。ところが、発明者らの詳細な検討によれば、後述する製造条件に従うと{420}を主方位成分とする集合組織を持つCu−Ni−Sn−P系銅合金板材が得られることがわかった。そして発明者らは、この集合組織が強く発達しているほど、曲げ加工性の改善に有利となることを見出した。その曲げ加工性改善のメカニズムについて、現時点では以下のように考えている。
I{420}/I0{420}>1.0 ……(1)
I{420}/I0{420}>1.5 ……(1)’
ここで、I{420}は当該銅合金板材の板面における{420}結晶面のX線回折強度、I0{420}は純銅標準粉末の{420}結晶面のX線回折強度である。面心立方晶のX線回折パターンでは{420}面の反射は生じるが{210}面の反射は生じないので、{210}面の結晶配向は{420}面の反射によって評価される。
1.5≦I{220}/I0{220}≦3.5 ……(2)
2.0≦I{220}/I0{220}≦3.0 ……(2)’
ここで、I{220}は当該銅合金板材の板面における{220}結晶面のX線回折強度、I0{220}は純銅標準粉末の{220}結晶面のX線回折強度である。
前述のように、平均結晶粒径が小さいほど曲げ加工性の向上に有利であるが、小さすぎると耐応力緩和特性が悪くなりやすい。種々検討の結果、最終的に平均結晶粒径が5μm以上の値、好ましくは10μmを超える値であれば、車載用コネクターの用途でも満足できるレベルの耐応力緩和特性を確保しやすく、好適である。ただし、あまり平均結晶粒径が大きくなりすぎると曲げ部表面の肌荒を起こりやすく、曲げ加工性の低下を招く場合があるので、40μm以下の範囲とする。10〜30μmの範囲に調整することがより好ましい。最終的な平均結晶粒径は、再結晶焼鈍後の段階における結晶粒径によってほぼ決まってくる。したがって、平均結晶粒径のコントロールは後述の再結晶焼鈍条件によって行うことができる。
本発明ではCu−Ni−Sn−P系銅合金を採用する。Cu−Ni−Sn−Pの4元系基本成分にZn、Fe、その他の合金元素を添加した銅合金も、本明細書では包括的にCu−Ni−Sn−P系銅合金と称している。
電気・電子部品の更なる小型化、薄肉化に対応するには、素材である銅合金板材の引張強さは600MPa以上であることが好ましく、650MPa以上であることが一層好ましい。曲げ加工性はLD、TDいずれにおいても90°W曲げ試験における最小曲げ半径Rと板厚tの比R/tが1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることが一層好ましい。さらに、曲げ加工品の形状・寸法精度を向上させるために、LDのノッチング後の曲げ加工性はR/tが0であることが好ましい。ノッチング後の曲げ加工性は後述実施例で示す方法が採用される。なお、「LDの曲げ加工性」とはLDが長手方向となるように切り出した曲げ加工試験片で評価される曲げ加工性であり、その試験における曲げ軸はTDである。同様に「TDの曲げ加工性」とはTDが長手方向となるように切り出した曲げ加工試験片で評価される曲げ加工性であり、その試験における曲げ軸はLDである。
以上のような本発明の銅合金板材は、例えば以下のような製造工程により作ることができる。
「溶解・鋳造→熱間圧延→冷間圧延→再結晶焼鈍→(時効処理)→仕上げ冷間圧延→(低温焼鈍)」
ただし、後述のように、いくつかの工程での製造条件を工夫することが重要である。なお、上記工程中には記載していないが、熱間圧延後には必要に応じて面削が行われ、各熱処理後には必要に応じて酸洗、研磨、あるいはさらに脱脂が行われる。以下、各工程について説明する。
一般的な銅合金の溶製方法に従うことができる。連続鋳造、半連続鋳造等により鋳片を製造すればよい。
通常、Cu−Ni−Sn−P系銅合金の熱間圧延は、圧延途中に析出物を生成させないようにするため、700℃以上、あるいは750℃以上の高温域で圧延し、圧延終了後に急冷する手法で行われる。しかしながら、このような常識的な熱間圧延条件では本発明の特異な集合組織を有する銅合金板材を製造することは困難である。すなわち、発明者らの調査によると、このような熱間圧延条件を採用した場合は、後工程の条件を広範囲に変化させても{420}を主方位方向に持つ銅合金板材を再現性良く製造できる条件を見つけることはできなかった。そこで発明者らは更なる詳細な検討を行った。その結果、950℃〜700℃の温度域で最初の圧延パスを実施し、かつ700℃未満〜400℃の温度域で圧延率40%以上の圧延を行うという熱間圧延条件を見出すに至った。
ε=(t0−t1)/t0×100 ……(3)
例えば950〜700℃の間で行う最初の圧延パスに供する鋳片の板厚が120mmであり、700℃以上の温度域で圧延を実施して(途中、炉に戻して再加熱しても構わない)、700℃以上の温度で実施された最後の圧延パス終了時に板厚が30mmになっており、引き続いて圧延を継続して、熱間圧延の最終パスを700℃未満〜400℃の範囲で行い、最終的に板厚10mmの熱間圧延材を得たとする。この場合、950℃〜700℃の温度域で行われた圧延の圧延率は(3)式により、(120−30)/120×100=75(%)である。また、700℃未満〜400℃の温度域での圧延率は同じく(3)式により、(30−10)/30×100=66.7(%)である。
上記熱延板を圧延するに際し、再結晶焼鈍前に行う冷間圧延では圧延率を85%以上とすることが重要であり、90%以上とすることがより好ましい。このような高い圧延率で加工された材料に対し、次工程で再結晶焼鈍を施すことにより、{420}を主方位成分とする再結晶集合組織の形成が可能になる。特に再結晶集合組織は再結晶前の冷間圧延率に大きく依存する。具体的には、{420}を主方位成分とする結晶配向は、冷間圧延率が60%以下ではほとんど生成せず、約60〜80%の領域では冷間圧延率の増加に伴って漸増し、冷間圧延率が約80%を超えると急激な増加に転じる。{420}方位が十分に優勢な結晶配向を得るには85%以上の冷間圧延率を確保する必要があり、更に90%以上が望ましい。なお、冷間圧延率の上限はミルパワー等により必然的に制約を受けるので、特に規定する必要はないが、エッジ割れなどを防止する観点から概ね98%以下で良好な結果が得られやすい。
従来の再結晶焼鈍は「再結晶化」を主目的とするが、本発明では更に「{420}を主方位成分とする再結晶集合組織の形成」をも重要な目的とする。この再結晶焼鈍は、600〜750℃の炉温で行う。温度が低すぎると再結晶が不完全や再結晶粒が小さすぎる。温度が高すぎると結晶粒が粗大化してしまう。これらいずれの場合も、{420}方位の生成に不利となり、最終的に曲げ加工性の優れた高強度材を得ることが困難となる。
Cu−Ni−Sn−P系銅合金は、Cu−Ni−Si系合金、Cu−Ti系合金などの析出強化型銅合金とは異なり、Ni−P系析出物は主に耐応力緩和特性の向上に利用される。このNi−P系析出物は微細に析出しやすいので、再結晶焼鈍の冷却途中にかなりの微細析出物が発生する。このため、必ずしも時効処理を行う必要はないが、強度レベルと導電率の更なる向上を図るためには、時効処理を施すことが効果的である。時効処理を施す場合は、当該合金の導電性と強度の向上に有効な条件の中で、あまり温度を上げすぎないようにする。時効処理温度が高くなりすぎると再結晶焼鈍によって発達させた{420}を優先方位とする結晶配向が弱められ、結果的に十分な曲げ加工性改善効果が得られない場合がある。具体的には材料の保持温度を375〜500℃の範囲として行うことが望ましく、400〜460℃の範囲が一層好ましい。時効処理時間は概ね1〜10時間程度の範囲で良好な結果が得られる。
この仕上げ冷間圧延は強度レベルの向上に必要な工程である。冷間圧延率が低すぎると、加工硬化不足により十分な強度が得られにくい。ただし、冷間圧延率の増大に伴い{220}を主方位成分とする圧延集合組織が発達していく。圧延率が高すぎると{220}方位の圧延集合組織が相対的に優勢となりすぎ、強度と曲げ加工性が高レベルで両立された結晶配向が実現できない。発明者らの詳細な研究の結果、仕上げ冷間圧延は30〜80%の範囲で行うことが望ましい。それによって、前記(1)式と(2)式を満たす結晶配向を維持することができる。
最終的な板厚としては概ね0.05〜1.0mmが適用され、0.08〜0.5mmとすることが一層好ましい。
仕上げ冷間圧延後には、板条材の残留応力の低減による曲げ加工性の向上、空孔やすべり面上の転位の低減による耐応力緩和特性向上を目的として、低温焼鈍を施すことができる。加熱温度は材温が150〜450℃となるように設定することが望ましい。これにより強度低下をほとんど伴わずに曲げ加工性と耐応力緩和特性を向上させることができる。また、導電率を上昇させる効果もある。この加熱温度が高すぎると短時間で軟化し、バッチ式でも連続式でも特性のバラツキが生じやすくなる。逆に加熱温度が低すぎると上記特性の改善効果が十分に得られない。上記温度での保持時間は5秒以上確保することが望ましく、通常1時間以内の範囲で良好な結果が得られる。
また、一部の比較例(No.21、22、24、25)について、通常の製造方法として、熱間圧延後、再結晶焼鈍前の冷間圧延において、板厚を50%減少した時点で550℃×3時間の中間焼鈍を施した。
供試材の板面(圧延面)を研磨したのちエッチングし、その面を光学顕微鏡で観察し、平均結晶粒径をJIS H0501の切断法で測定した。
供試材の表面(圧延面)を#1500耐水ペーパーで研磨仕上げとした試料を準備し、X線回折装置(XRD)を用いて、Mo−Kα線、管電圧20kV、管電流2mAの条件で、前記研磨仕上げ面について{420}面および{220}面の反射回折面強度を測定した。一方、上記と同じX線回折装置を用いて、上記と同じ測定条件で純銅標準粉末の{420}面および{220}面のX線回折強度を測定した。これらの測定値を用いて前記(1)式中に示されるX線回折強度比I{420}/I0{420}と、(2)式中に示されるX線回折強度比I{220}/I0{220}を求めた。
JIS H0505に従って各供試材の導電率を測定した。
〔引張強さ〕
各供試材からTDの引張試験片(JIS 5号)を採取し、n=3でJIS Z2241に準拠した引張試験行い、n=3の平均値によって引張強さを求めた。
各供試材から長手方向がTDの曲げ試験片(幅10mm)を採取し、試験片の長手方向における中央部の表面応力が0.2%耐力の80%の大きさとなるようにアーチ曲げした状態で固定した。上記表面応力は次式により定まる。
表面応力(MPa)=6Etδ/L0 2
ただし、
E:弾性係数(MPa)
t:試料の厚さ(mm)
δ:試料のたわみ高さ(mm)
この状態の試験片を大気中150℃の温度で1000時間保持した後の曲げ癖から次式を用いて応力緩和率を算出した。
応力緩和率(%)=(L1−L2)/(L1−L0)×100
ただし、
L0:治具の長さ、すなわち試験中に固定されている試料端間の水平距離(mm)
L1:試験開始時の試料長さ(mm)
L2:試験後の試料端間の水平距離(mm)
この応力緩和率が5%以下のものは、車載用コネクターとして高い耐久性を有すると評価され、合格と判定した。
各供試材から長手方向がLDの曲げ試験片およびTDの曲げ試験片(いずれも幅10mm)を採取し、JIS H3110に準拠した90°W曲げ試験を行った。試験後の試験片について曲げ加工部の表面および断面を光学顕微鏡にて100倍の倍率で観察することにより、割れが発生しない最小曲げ半径Rを求め、これを供試材の板厚tで除することによりLD、TDそれぞれのR/t値を求めた。各供試材のLD、TDともn=3で実施し、n=3のうち最も悪い結果となった試験片の成績を採用してR/t値を表示した。このR/t値がLD、TDとも0.5以下であるものを合格と判定した。
各供試材から長手方向がLDの短冊形試料(幅10mm)を採取し、図2に示す断面形状のノッチ形成治具(凸部先端のフラット面の幅0.1mm、両側面角度45°)を用いて、図3に示すように10kNの荷重を付与することにより試料幅いっぱいにノッチを形成した。ノッチの方向(すなわち溝に対して平行な方向)は、試料の長手方向に対して直角方向である。このようにして準備したノッチ付き曲げ試験片のノッチ深さを実測したところ、図4に模式的に示すノッチ深さδは板厚tの1/4〜1/6程度であった。
試験後の試験片について曲げ加工部の表面および断面を光学顕微鏡にて100倍の倍率で観察することにより、割れの有無を判断し、割れが認められないものを「〇」、割れが認められたものを「×」と表示した。なお、曲げ加工部で破断したものは「破」と表示した。各供試材のn=3で実施し、n=3のうち最も悪い結果となった試験片の成績を採用して「○」、「×」、「破」の評価を行い、これが○評価のものを合格と判定した。
Claims (8)
- 質量%で、Ni:0.1〜5%、Sn:0.1〜5%、P:0.01〜0.5%、残部Cuおよび不可避的不純物の組成を有し、下記(1)式および(2)式を満たす結晶配向を有し、平均結晶粒径が5〜40μmである銅合金板材。
I{420}/I0{420}>1.0 ……(1)
1.5≦I{220}/I 0 {220}≦3.5 ……(2)
ここで、I{420}は当該銅合金板材の板面における{420}結晶面のX線回折強度、I0{420}は純銅標準粉末の{420}結晶面のX線回折強度、I{220}は当該銅合金板材の板面における{220}結晶面のX線回折強度、I 0 {220}は純銅標準粉末の{220}結晶面のX線回折強度である。 - さらに、Fe:3%以下、Zn:5%以下、Mg:1%以下、Si:1%以下、Co:2%以下の1種以上を含有する組成を有する請求項1に記載の銅合金板材。
- さらに、Cr、B、Zr、Ti、Mn、Vの1種以上を合計3%以下の範囲で含有する組成を有する請求項1または2に記載の銅合金板材。
- 組成調整された銅合金材料に対し、熱間圧延、冷間圧延、再結晶焼鈍を施した後、時効処理を施すかまたは施さないで、その後、仕上げ冷間圧延を施す工程を利用し、前記再結晶焼鈍の後には再結晶温度以上の熱履歴を付与しない手法で銅合金板材を製造するに際し、熱間圧延工程において、950℃〜700℃の温度域で最初の圧延パスを実施し、700℃未満〜400℃の温度域で圧延率40%以上の圧延を行うこと、仕上げ冷間圧延を30〜80%の圧延率で行うこと、および再結晶焼鈍工程において、到達温度を600〜750℃の範囲とし、再結晶焼鈍後の平均結晶粒径が5〜40μmとなるように、600〜750℃域の保持時間および到達温度を設定して熱処理を実施することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金板材の製造法。
- 熱間圧延工程において、950℃〜700℃の温度域で圧延率60%以上の圧延を行い、700℃未満〜400℃の温度域で圧延率40%以上の圧延を行う請求項4に記載の銅合金板材の製造法。
- 再結晶焼鈍前の冷間圧延の圧延率を85%以上とする請求項4または5に記載の銅合金板材の製造法。
- 時効処理を実施する場合、その保持温度を375〜500℃とする請求項4〜6のいずれかに記載の銅合金板材の製造法。
- 仕上げ冷間圧延後に150〜450℃の低温焼鈍を施す請求項4〜7のいずれかに記載の銅合金板材の製造法。
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