以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に述べるトンネル磁気抵抗効果素子では、その強磁性自由層の磁化反転(スイッチング)を、トンネル磁気抵抗効果素子中を流れるスピン偏極した電流のスピンが強磁性自由層の磁気モーメントにトルクを与えることにより行う。このスピン偏極した電流は、トンネル磁気抵抗効果素子に電流を流すこと自体で発生する。したがって、トンネル磁気抵抗効果素子に外部から電流を流すことによりスピントランスファートルク磁化反転が実現する。以下では、スピントランスファートルク磁化反転の起こる電流密度の閾値をJcと定義した。
[実施例1]
図1は、本発明によるトンネル磁気抵抗効果素子の一例を示す断面模式図である。本実施例のトンネル磁気抵抗効果素子は、スパッタリング法を用いて作製した。このトンネル磁気抵抗効果素子は、電極400側から、配向制御膜300、強磁性固定層301、第一の障壁層3021、第二の障壁層3022、第三の障壁層3023、強磁性自由層303、保護膜304、電極401がこの順に形成され、適当な温度で熱処理することによりTMR比とJcが最適化される。
ここで、強磁性固定層301と強磁性自由層303について、以下に述べる構成1−2から構成1−5を用いることが可能である。
構成1−2は、図1における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。
構成1−3は、図1における強磁性自由層303が、第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。
構成1−4は、図1における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合し、強磁性自由層303が第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。
構成1−5は、図1における強磁性固定層301に反強磁性層を隣接し、強磁性固定層301の磁化方向を一方向に固定し、トンネル磁気抵抗効果素子における動作を安定にした構成である。また、構成1−5における強磁性自由層303が、第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合していてもよい。
本実施例のトンネル磁気抵抗効果素子は、上記した構成を組み合わせてもよい。そのいくつかの例を、以下に説明する。
図2に示すトンネル磁気抵抗効果素子は、図1における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層3011、非磁性層3012、第二の強磁性固定層3013により形成され、第一の強磁性固定層3011に反強磁性層500が隣接している例である。ここで、第一の強磁性固定層3011と第二の強磁性固定層3013の磁化方向は互いに反平行に結合している。
図3に示すトンネル磁気抵抗効果素子は、図2における強磁性自由層303が第一の強磁性自由層3031、非磁性層3032、第二の強磁性自由層3033により形成され、第一の強磁性自由層3031と第二の強磁性自由層3033の磁化方向は互いに反平行に結合している例である。
図4に示すトンネル磁気抵抗効果素子は、電極400側から、配向制御膜300、強磁性自由層303、第一の障壁層3021、第二の障壁層3022、第三の障壁層3023、強磁性固定層301、保護膜304、電極401がこの順に形成される。強磁性固定層301と強磁性自由層303について、以下に述べる構成4−2から構成4−6を用いることが可能である。
構成4−2は、図4における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。
構成4−3は、図4における強磁性自由層303が、第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。
構成4−4は、図4における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合し、強磁性自由層303が第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。
構成4−5は、図4における強磁性固定層301に反強磁性層500を隣接し、強磁性固定層301の磁化方向を一方向に固定し、トンネル磁気抵抗効果素子における動作を安定にした構成である。また、構成4−5において、強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合していてもよい。さらに、構成4−5において、強磁性自由層303が、第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合していてもよい。
ここで、本実施例のトンネル磁気抵抗素子の典型的作製方法について用いて述べる。まず強磁性固定層301(3011,3013)について述べる。強磁性固定層にはCo,Fe,Niの少なくとも一つの元素とBを含む材料を用いることが望ましく、その例を表1に示した。強磁性固定層の材料は具体的には、第一の障壁層3021、第二の障壁層3022、第三の障壁層3033に用いる材料により選択される。次に、強磁性自由層303の材料について述べる。強磁性自由層303(3031,3033)は、強磁性固定層301(3011,3013)と同様にCo,Fe,Niの少なくとも一つの元素とBを含む材料を用いることが望ましく、表1に示した材料が選択されるが、具体的には、第一の障壁層3021、第二の障壁層3022、第三の障壁層3033に用いる材料により選択される。
次に障壁層(3021,3022,3023)の材料選択について述べる。表2の左欄に示したような材料を用いることが望ましい。このうち第一の障壁層3021と第三の障壁層3023にMgO、第二の障壁層3022にZnOを用いた場合に効率的な共鳴トンネル効果が期待される。第一の障壁層3021と第三の障壁層3023にMgOを用いた場合、MgOに接する強磁性固定層と強磁性自由層には体心立方格子のCoFeBを用いることがもっとも望ましく、さらにMgOとCoFeBの(001)結晶配向を選択することにより良好な共鳴トンネル効果が得られる。これは、(001)配向したMgO障壁内では、トンネル電流中のスピンの選択性が大きいためである。
本実施例のシリーズでは反強磁性層500としてMnIrを用いたが、MnPt,CrMnPt,CrMnIrやMnFeなどの反強磁性膜を用いてもよい。
配向制御膜300は、その直上に隣接する材料によって選択される。例えば配向制御膜300上に、CoFeBが選択される場合、5nm以下を用いることが望ましいが、CuN、TaNなどの非結晶材料を用いてもよい。また、配向制御膜300上に、反強磁性層500があり、それが面心立方格子(Fcc)の(111)配向膜である場合、配向制御膜300としてTa/NiFeなどの2層膜構成を適用してもよい。この場合、NiFeが、反強磁性膜500のFcc(111)結晶方位を優先的に成長させる役割を果たす。
このように形成したトンネル磁気抵抗効果膜は、フォトリソグラフィーとイオンミリングを用いることによって、0.1μm×0.15μmの面積をもつトンネル磁気抵抗効果素子に形成される。また、適当な温度において熱処理を行うことにより、高TMR比と低Jcの最適化が行われるが、強磁性固定層、強磁性自由層にCoFeBを、障壁層にMgOを用いた場合は特に350℃以上の熱処理が望ましい。熱処理は、上記トンネル磁気抵抗効果膜を製膜した後に実施してもよいし、微細加工を施したあとに行ってもかまわない。
次に、上記共鳴トンネル磁気抵抗効果素子における高TMR比と低電流(電圧)の原理について説明する。図9は、本実施例のシリーズで示した共鳴トンネル磁気抵抗効果素子における第一の障壁層3021、第二の障壁層3022、第三の障壁層3023の部分で形成される絶縁特性を示す。図9は、横軸を各障壁層の膜厚とし、縦軸にエネルギーギャップ(Eg(1)、Eg(2)、Eg(3))を表した模式図である。本実施例のシリーズでは、Eg(1),Eg(3)>Eg(2)であることが特徴であり、各障壁層に用いる材料として表2に示す材料を選択することが望ましい。例えば、第一の障壁層、第三の障壁層にMgO、第二の障壁層にZnOなどが選択可能である。
このようなエネルギー状態が形成されることにより、共鳴トンネル磁気抵抗効果素子の電極400と電極401の間に発生する電流−印加電圧の関係は図11のようになり、Eg(2)に相当する電圧(この電圧を共鳴準位電圧と呼ぶ)において、電流が局所的に大きくなる。障壁層が一層の従来構造(例えば、図1の構成において第二の障壁層3022及び第三の障壁層3023が無いトンネル磁気抵抗効果素子)では、このような特定の電圧における電流の急峻な増大は観測されることがない。この電流の増大は、共鳴トンネルによるものである。共鳴トンネルは、電極400と電極401の間に流れる電流が共鳴を起こし電流の透過率が増大するためにおきる現象である。このとき、図12Aに示すように、Eg(2)に相当する電圧においてTMR比の顕著な増大が生じる。そのTMR比は、500%を超えることが期待され、従来の値に比べ一桁以上の改善が期待される。このTMR比の増大は、共鳴準位において、流れる電子のスピンの方向選択性が増大するためである。従って、本実施例のトンネル磁気抵抗効果素子に印加する電圧は、Eg(2)に相当する電圧とする。
図12Bは、TMR比とスピントランスファートルク磁化反転における閾値電流密度Jcの関係を示す図である。従来のTMR比100%の素子では、Jcは2×106(A/cm2)であるのに対して、500%以上のTMR比では、2×106(A/cm2)より小さいJcが実現できる。
[実施例2]
図5から図8に、実施例2のトンネル磁気抵抗効果素子のシリーズを示す。ここに示す実施例2のシリーズは、実施例1のシリーズで示した3層の障壁層を用いる構成に代えて、異なる2層の障壁層材料3021,3022を用いる構成である。
図5に示した本実施例のトンネル磁気抵抗効果素子は、図1に示したトンネル磁気抵抗効果素子から第三の障壁層3023を除いたものに相当する。同様に、図6、図7、図8に示した本実施例のトンネル磁気抵抗効果素子は、図2、図3、図4に示したトンネル磁気抵抗効果素子から第三の障壁層3023を除いたものに相当する。
本実施例のシリーズにおいても、各層を構成する具体的材料の選択は実施例1と同様である。一方、障壁層部分で形成されるエネルギー状態は、図10に示すとおりであり、この場合も実施例1のシリーズと同様に図11、図12A、12Bで説明した現象及び素子としての効果が得られる。
[実施例3]
図13は、本発明によるトンネル磁気抵抗効果素子の他の例を示す断面模式図である。本実施例のトンネル磁気抵抗効果素子は、スパッタリング法を用いて作製した。このトンネル磁気抵抗効果素子は、電極400側から、配向制御膜300、強磁性固定層301、障壁層302、強磁性自由層303、量子井戸形成層600、保護膜304、電極401がこの順に形成され、適当な温度で熱処理することによりTMR比とJcが最適化される。
ここで、強磁性固定層301と強磁性自由層303について、以下に示す構成3−2から構成3−16の構成を用いることが可能であり、これらを実施例3のシリーズとする。
構成3−2は、図13における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。
構成3−3は、図13における強磁性自由層303が、第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。量子井戸形成層600は、第二の強磁性自由層に隣接して積層している。
構成3−4は、図13における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合し、強磁性自由層303が第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。量子井戸形成層600は、第二の強磁性自由層3033に隣接して積層している。
構成3−5は、図13における強磁性固定層301に反強磁性層を隣接し、強磁性固定層301の磁化方向を一方向に固定し、トンネル磁気抵抗効果素子における動作を安定にする構成である。
構成3−6は、構成3−5における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層に反強磁性層が隣接している構成である。第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合している。
構成3−7は、構成3−5における強磁性自由層303が、第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。量子井戸形成層600は、第二の強磁性自由層に隣接して積層している。
本実施例のトンネル磁気抵抗効果素子は、上記した構成を組み合わせてもよい。そのいくつかの例を、以下に説明する。
図14に示すトンネル磁気抵抗効果素子は、構成3−5における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層3011、非磁性層3012、第二の強磁性固定層3013により形成され、第一の強磁性固定層3011に反強磁性層500が隣接している。ここで、第一の強磁性固定層3011と第二の強磁性固定層3013の磁化方向は互いに反平行に結合している。さらに、強磁性自由層303が第一の強磁性自由層3031、非磁性層3032、第二の強磁性自由層3033により形成され、第一の強磁性自由層3031と第二の強磁性自由層3033の磁化方向は互いに反平行に結合している。また、量子井戸形成層600は、第二の強磁性自由層3033に隣接して積層している。
図15に示すトンネル磁気抵抗効果素子は、電極400側から、配向制御膜300、量子井戸形成層600、強磁性自由層303、障壁層302、強磁性固定層301、保護膜304、電極401がこの順に形成される。このトンネル磁気抵抗効果素子の膜構成に関し、以下に述べる変形例が可能である。
構成3−8は、図15における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。
構成3−9は、図15における強磁性自由層303が、第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。量子井戸形成層600は、第一の強磁性自由層に隣接して積層している。
構成3−10は、図15における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合し、強磁性自由層303が第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。量子井戸形成層600は、第一の強磁性自由層に隣接して積層している。
構成3−11は、図15における強磁性固定層301に反強磁性層を隣接し、強磁性固定層301の磁化方向を一方向に固定し、トンネル磁気抵抗効果素子における動作を安定にした構成である。
構成3−12は、構成3−11における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。
構成3−13は、構成3−11における強磁性自由層303が、第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。量子井戸形成層600は、第一の強磁性自由層に隣接して積層している。
構成3−14は、構成3−11における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合し、強磁性自由層303が第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。量子井戸形成層600は、第一の強磁性自由層に隣接して積層している。
ここで、実施例3のシリーズに示したトンネル磁気抵抗素子の典型的作製方法について述べる。
まず、強磁性固定層301(3011,3013)について述べる。強磁性固定層には、Co、Fe、Niの少なくとも一つの元素とBを含む材料を用いることが望ましく、その例は上記表1に示したとおりである。強磁性固定層の材料は具体的には、障壁層302に用いる材料により選択される。次に、強磁性自由層303の材料について述べる。強磁性自由層303(3031,3033)は、強磁性固定層301(3011,3013)と同様にCo,Fe,Niの少なくとも一つの元素とBを含む材料を用いることが望ましく、表1に示した材料から選択されるが、具体的には、障壁層302に用いる材料により選択される。
次に、障壁層302の材料選択について述べる。本実施例においても表2の左欄に示したような材料を用いることが望ましい。障壁層302にMgOを用いた場合、MgOに接する強磁性固定層と強磁性自由層には体心立方格子のCoFeBを用いることがもっとも望ましく、さらにMgOとCoFeBの(001)結晶配向を選択することにより、良好な共鳴トンネル効果が得られる。これは、(001)配向したMgO障壁内では、トンネル電流中のスピンの選択性が大きいためである。
本実施例のシリーズでは反強磁性層500としてMnIrを用いたが、MnPt,CrMnPt,CrMnIrやMnFeなどの反強磁性膜を用いてもよい。
配向制御膜300は、その直上に隣接する材料によって選択される。例えば配向制御膜300上に、CoFeBが選択される場合、5nm以下とすることが望ましいが、CuN,TaNなどの非結晶材料を用いてもよい。また、配向制御膜300上に、反強磁性層500があり、それが面心立方格子(Fcc)の(111)配向膜である場合、配向制御膜300としてTa/NiFeなどの2層膜構成を適用してもよい。この場合、NiFeが、反強磁性膜500のFcc(111)結晶方位を優先的に成長させる役割を果たす。
本実施例において共鳴トンネル効果を発現する起源となるのは量子井戸形成層600である。量子井戸形成層600は、Cr,Ru,Cu,MgO,ZnOなどの材料からなる層や、それらの多層構造が適用される。例えば、強磁性固定層301や強磁性自由層303にCoFeBを用いた場合、CrやMgO/Crを量子井戸形成層600に用いることが望ましい。ここで、CoFeBや、CoFeなどを強磁性固定層301、強磁性自由層303に適用したときに、FeのCoに対する組成比Fe/Coが、0.5以上(つまりFe組成が大きい)の場合、量子井戸形成層600にCrを用いることが好まれる。一方、Fe/Coが0.5より小さい場合は量子井戸形成層600にCuを使用することが好ましい。
このように形成したトンネル磁気抵抗効果膜は、フォトリソグラフィーとイオンミリングを用いることによって、0.1μm×0.15μmの面積をもつトンネル磁気抵抗効果素子に形成される。また、適当な温度において熱処理を行うことにより、高TMR比と低Jcの最適化が行われる。熱処理は、上記トンネル磁気抵抗効果膜を製膜した後に実施してもよいし、微細加工を施したあとに行ってもかまわない。
次に、上記共鳴トンネル磁気抵抗効果素子における高TMR比と低電流(電圧)の原理について説明する。
図23は、本実施例のシリーズで示した共鳴トンネル磁気抵抗効果素子の障壁層302と強磁性自由層303(あるいは強磁性固定層301)と量子井戸形成層600によって形成されるエネルギー状態を示す図である。本実施例のシリーズでは、量子井戸形成層においてエネルギー状態が離散的になることが特徴である。例えば、V1,V2,V3のように3状態が形成される。このようなエネルギー状態が形成されることにより、共鳴トンネル磁気抵抗効果素子の電極400と電極401の間に発生する電流−印加電圧の関係は図25のようになり、V1,V2,V3に相当する共鳴準位電圧において、電流が局所的に大きくなる。量子井戸形成層のない従来構造、例えば、電極400、配向制御膜300、強磁性固定層301、障壁層302、強磁性自由層303、保護膜304、電極401がこの順に積層されたトンネル磁気抵抗効果素子では、このような特定の電圧における電流の急峻な増大は観測されることがない。この電流の増大は、共鳴トンネルによるものである。共鳴トンネルは、電極400と電極401の間に流れる電流が共鳴を起こし、電流の透過率が増大するためにおきる現象である。
このとき、図25に示すように、V1,V2,V3に相当する電圧においてTMR比の顕著な増大が生じる。そのTMR比は、500%以上が期待され、従来の値に比べ一桁以上の改善が期待される。このTMR比の増大は、共鳴準位において、流れる電子のスピンの方向選択性が増大するために生じる。従って、本実施例のトンネル磁気抵抗効果素子に印加する電圧は、V1,V2,V3のいずれかとする。
本実施例においても、図12Bに示したTMR比とスピントランスファートルク磁化反転における閾値電流密度Jcの関係のように、従来の素子のTMR比100%では、Jcは2×106(A/cm2)であるのに対して、500%以上のTMR比では、1×106(A/cm2)以下のJcが実現できる。
[実施例4]
図16から図18に、実施例4のトンネル磁気抵抗効果素子のシリーズを示す。ここに示す実施例4のシリーズは、前記実施例3のシリーズで示した図13から図15の構成において量子井戸形成層600が、障壁層302と隣接し、強磁性自由層303に接して形成される形態である。
図16に示した本実施例のトンネル磁気抵抗効果素子は、図13に示したトンネル磁気抵抗効果素子に対して、強磁性自由層303と量子井戸形成層600の積層順を逆にし、障壁層302と強磁性自由層303の間に量子井戸形成層600を形成したものに相当する。同様に、図17に示したトンネル磁気抵抗効果素子は、図14に示したトンネル磁気抵抗効果素子に対して、強磁性自由層303と量子井戸形成層600の積層順を逆にし、障壁層302と第一の強磁性自由層3031の間に量子井戸形成層600を形成したものに相当する。また、図18に示したトンネル磁気抵抗効果素子は、図15に示したトンネル磁気抵抗効果素子に対して、強磁性自由層303と量子井戸形成層600の積層順を逆にし、強磁性自由層303と障壁層302の間に量子井戸形成層600を形成したものに相当する。
そのほかに、前記実施例3のシリーズで示した構成3−2から構成3−14の構成において量子井戸形成層600が、障壁層と隣接して、強磁性自由層に接して形成される形態を用いることも可能である。これらの構成例を、実施例4のシリーズとする。
本実施例のシリーズにおいても、各層を構成する具体的材料の選択は実施例3で述べたのと同様である。一方、量子井戸形成層部分で形成されるエネルギー状態は図24に示すようになり、この場合も実施例3のシリーズと同様に図25、図26、図12Bに示した効果が得られる。
[実施例5]
図19は、本発明によるトンネル磁気抵抗効果素子の一例を示す断面模式図である。本実施例のトンネル磁気抵抗効果素子は、スパッタリング法を用いて作製した。このトンネル磁気抵抗効果素子は、電極400側から、配向制御膜300、量子井戸形成層600、強磁性固定層301、障壁層302、強磁性自由層303、保護膜304、電極401がこの順に形成され、量子井戸形成層600が強磁性固定層301に隣接していることが特徴である。本実施例においても、適当な温度で熱処理することによりTMR比とJcが最適化される。
ここで、強磁性固定層301と強磁性自由層303について、以下に示す構成5−2から構成5−8の構成を用いることが可能であり、これらを実施例5のシリーズとする。
構成5−2は、図19における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。量子井戸形成層600は、第一の強磁性固定層に隣接している。
構成5−3は、図19における強磁性自由層303が、第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。
構成5−4は、図19における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合し、強磁性自由層303が第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。量子井戸形成層600は、第一の強磁性固定層に隣接して積層している。
構成5−5は、図19に示したトンネル磁気抵抗効果素子において強磁性固定層301と強磁性自由層303の位置が入れ替わり、量子井戸形成層600が保護膜304側において強磁性固定層301に隣接している構成である。すなわち、電極400側から、配向制御膜300、強磁性自由層303、障壁層302、強磁性固定層301、量子井戸形成層600、保護膜304がこの順に形成される構成である。
構成5−6は、構成5−5における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合している。量子井戸形成層600は、第一の強磁性固定層に隣接している構成である。
構成5−7は、構成5−5における強磁性自由層303が、第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。
構成5−8は、構成5−5における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合し、強磁性自由層303が第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。量子井戸形成層600は、第一の強磁性固定層に隣接して積層している。
ここで、実施例5のシリーズに示したトンネル磁気抵抗素子の典型的作製方法について用いて述べる。
まず、強磁性固定層301(第一の強磁性固定層、第二の強磁性固定層)について述べる。強磁性固定層には、Co,Fe,Niの少なくとも一つの元素とBを含む材料を用いることが望ましく、その例を表1に示した。強磁性固定層の材料は具体的には、障壁層302に用いる材料により選択される。次に、強磁性自由層303の材料について述べる。強磁性自由層303(第一の強磁性自由層、第二の強磁性自由層)は、強磁性固定層と同様にCo,Fe,Niの少なくとも一つの元素とBを含む材料を用いることが望ましく、表1に示した材料が選択されるが、具体的には、障壁層302に用いる材料により選択される。
次に、障壁層302の材料選択について述べる。本実施例においても表2の左欄に示したような材料を用いることが望ましい。障壁層302にMgOを用いた場合、MgOに接する強磁性固定層と強磁性自由層には体心立方格子のCoFeBを用いることがもっとも望ましく、さらにMgOとCoFeBの(001)結晶配向を選択することにより良好な共鳴トンネル効果が得られる。これは、(001)配向したMgO障壁内では、トンネル電流中のスピンの選択性が大きいためである。
配向制御膜300は、その直上に隣接する材料によって選択される。例えば配向制御膜300上に、CoFeBが選択される場合、5nm以下とするのが望ましいが、CuN,TaNなどの非結晶材料を用いてもよい。
本実施例5において共鳴トンネル効果を発現する起源となるのは量子井戸形成層600である。量子井戸形成層600として用いられる材料は、Cr,Ru,Cu,MgO,ZnOなどの材料やそれらの多層構造が適用される。例えば、強磁性固定層301や強磁性自由層303にCoFeBを用いた場合CrやMgO/Crを量子井戸形成層600に用いることが望ましい。ここで、CoFeBや、CoFeなどを強磁性固定層301、強磁性自由層303に適用したときに、FeのCoに対する組成比Fe/Coが、0.5以上(つまりFe組成が大きい)の場合、量子井戸形成層600にCrを用いることが好まれる。一方、Fe/Coが0.5より小さい場合は量子井戸形成層600にCuを使用することが好ましい。
このように形成したトンネル磁気抵抗効果膜は、フォトリソグラフィーとイオンミリングを用いることによって、0.1μm×0.15μmの面積をもつトンネル磁気抵抗効果素子に形成される。また、適当な温度において熱処理を行うことにより、高TMR比と低Jcの最適化が行われる。熱処理は、上記トンネル磁気抵抗効果膜を製膜した後に実施してもよいし、微細加工を施したあとに行ってもかまわない。
本実施例のシリーズにおいても、各層を構成する具体的材料の選択は実施例3と同様である。本実施例のシリーズにおいても、各層を構成する具体的材料の選択は実施例3と同様である。一方、量子井戸形成層部分で形成されるエネルギー状態は図23に示すとおりであり、この場合も実施例3のシリーズと同様に図25、図26、図12Bに示した効果が得られる。
[実施例6]
図20は、本発明によるトンネル磁気抵抗効果素子の一例を示す断面模式図である。本実施例のトンネル磁気抵抗効果素子は、スパッタリング法を用いて作製した。このトンネル磁気抵抗効果素子は、電極400側から、配向制御膜300、強磁性固定層301、量子井戸形成層600、障壁層302、強磁性自由層303、保護膜304、電極401がこの順に形成され、量子井戸形成層600が、障壁層302と隣接して、強磁性固定層301に接して形成されていることが特徴である。本実施例においても適当な温度で熱処理することによりTMR比とJcが最適化される。
ここで、強磁性固定層301と強磁性自由層303について、以下に示す図21と構成6−2から構成6−14の構成を用いることが可能であり、これらを実施例6のシリーズとする。
構成6−2は、図20における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。量子井戸形成層600は、第二の強磁性固定層に隣接する。
構成6−3は、図20における強磁性自由層303が、第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。
構成6−4は、図20における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合し、強磁性自由層303が第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。量子井戸形成層600は、第二の強磁性固定層に隣接して積層している。
構成6−5は、図20における強磁性固定層301に反強磁性層を隣接し、強磁性固定層301の磁化方向を一方向に固定し、トンネル磁気抵抗効果素子における動作を安定にした構成である。
構成6−6は、構成6−5における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層に反強磁性層が隣接している構成である。ここで、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合している。量子井戸形成層600は、第二の強磁性固定層に隣接する。
構成6−7は、構成6−5における強磁性自由層303が、第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。
図21に示したトンネル磁気抵抗効果素子は、構成6−5における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層3011、非磁性層3012、第二の強磁性固定層3013により形成され、第一の強磁性固定層3011に反強磁性層500が隣接している。ここで、第一の強磁性固定層3011と第二の強磁性固定層3013の磁化方向は互いに反平行に結合している。さらに、強磁性自由層303が第一の強磁性自由層3031、非磁性層3032、第二の強磁性自由層3033により形成され、第一の強磁性自由層3031と第二の強磁性自由層3033の磁化方向は互いに反平行に結合している。また、量子井戸形成層600は、第二の強磁性固定層3013に隣接して積層している。
図22に示すトンネル磁気抵抗効果素子は、電極400側から、配向制御膜300、強磁性自由層303、障壁層302、強磁性固定層301、量子井戸形成層600、保護膜304、電極401がこの順に形成される。
構成6−8は、図22における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。量子井戸形成層600は、第一の強磁性固定層3011に隣接する。
構成6−9は、図22における強磁性自由層303が、第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。
構成6−10は、図22における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合し、強磁性自由層303が第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。量子井戸形成層600は、第一の強磁性固定層に隣接して積層している。
構成6−11は、図22における強磁性固定層301に反強磁性層を隣接し、強磁性固定層301の磁化方向を一方向に固定し、トンネル磁気抵抗効果素子における動作を安定にした構成である。
構成6−12は、構成6−11における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合している。量子井戸形成層600は、第一の強磁性固定層に隣接している構成である。
構成6−13は、構成6−11における強磁性自由層303が、第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。
構成6−14は、構成6−11における強磁性固定層301が、第一の強磁性固定層、非磁性層、第二の強磁性固定層により形成され、第一の強磁性固定層と第二の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行に結合し、強磁性自由層303が第一の強磁性自由層、非磁性層、第二の強磁性自由層により形成され、第一の強磁性自由層と第二の強磁性自由層の磁化方向は互いに反平行に結合している構成である。量子井戸形成層600は、第一の強磁性固定層に隣接して積層している。
ここで、実施例6のシリーズに示したトンネル磁気抵抗素子の典型的作製方法について用いて述べる。
まず強磁性固定層301(3011,3013)について述べる。強磁性固定層には、Co,Fe,Niの少なくとも一つの元素とBを含む材料を用いることが望ましく、その例を表1に示した。強磁性固定層の材料は具体的には、障壁層302に用いる材料により選択される。次に、強磁性自由層303の材料について述べる。強磁性自由層303(3031,3033)は、強磁性固定層301(3011,3013)と同様にCo,Fe,Niの少なくとも一つの元素とBを含む材料を用いることが望ましく、表1に示した材料が選択されるが、具体的には、障壁層302に用いる材料により選択される。
次に、障壁層302の材料選択について述べる。本実施例においても表2の左欄に示したような材料を用いることが望ましい。障壁層302にMgOを用いた場合、MgOに接する強磁性固定層と強磁性自由層には体心立方格子のCoFeBを用いることが最も望ましく、さらにMgOとCoFeBの(001)結晶配向を選択することにより良好な共鳴トンネル効果が得られる。これは、(001)配向したMgO障壁内では、トンネル電流中のスピンの選択性が大きいためである。
本実施例のシリーズでは反強磁性層500としてMnIrを用いたが、MnPt,CrMnPt,CrMnIrやMnFeなどの反強磁性膜を用いてもよい。
配向制御膜300は、その直上に隣接する材料によって選択される。例えば配向制御膜300上に、CoFeBが選択される場合、5nm以下とすることが望ましいが、CuN,TaNなどの非結晶材料を用いてもよい。また、配向制御膜300上に、反強磁性層500があり、それが面心立方格子(Fcc)の(111)配向膜である場合、配向制御膜300としてTa/NiFeなどの2層膜構成を適用してもよい。この場合、NiFeが、反強磁性膜500のFcc(111)結晶方位を優先的に成長させる役割を果たす。
本実施例において共鳴トンネル効果を発現する起源となるのは量子井戸形成層600である。量子井戸形成層600として用いられる材料は、Cr,Ru,Cu,MgO,ZnOなどの材料やそれらの多層構造が適用される。例えば、強磁性固定層301や強磁性自由層303にCoFeBを用いた場合CrやMgO/Crを量子井戸形成層600に用いることが望ましい。ここで、CoFeBや、CoFeなどを強磁性固定層301、強磁性自由層303に適用したときに、FeのCoに対する組成比Fe/Coが、0.5以上(つまりFe組成が大きい)の場合、量子井戸形成層600にCrを用いることが好まれる。一方、Fe/Coが0.5より小さい場合は量子井戸形成層600にCuを使用することが好ましい。
このように形成したトンネル磁気抵抗効果膜は、フォトリソグラフィーとイオンミリングを用いることによって、0.1μm×0.15μmの面積をもつトンネル磁気抵抗効果素子に形成される。また、適当な温度において熱処理を行うことにより、高TMR比と低Jcの最適化が行われる。熱処理は、上記トンネル磁気抵抗効果膜を製膜した後に実施してもよいし、微細加工を施したあとに行ってもかまわない。
本実施例のシリーズにおいても、各層を構成する具体的材料の選択は実施例3と同様である。一方、量子井戸形成層部分で形成されるエネルギー状態は図24に示すとおりであり、この場合も実施例3のシリーズと同様に図25、図26、図12Bに示した効果が得られる。
[実施例7]
図27と図28は、本発明による磁気メモリセルの構成例を示す断面模式図である。この磁気メモリセルは、メモリセルとして実施例1から6に示したトンネル磁気抵抗効果素子200を搭載している。
C−MOS100は、2つのn型半導体101,102と一つのp型半導体103からなる。n型半導体101にドレインとなる電極121が電気的に接続され、電極141,147を介してグラウンドに接続されている。n型半導体102には、ソースとなる電極122が電気的に接続されている。ゲート電極123のON/OFFにより、ソース電極122とドレイン電極121の間の電流のON/OFFを制御する。上記ソース電極122に電極145,144、143,142,400が積層され、電極400にトンネル磁気抵抗効果素子の配向制御膜300が接続されている。
ビット線401は上記トンネル磁気抵抗効果素子200の保護膜304に接続されている。本実施例の磁気メモリセルでは、トンネル磁気抵抗効果素子200に流れる電流、いわゆるスピントランスファートルクによりトンネル磁気抵抗効果素子200の強磁性自由層の磁化方向を回転し磁気的情報を記録する。スピントランスファートルクは空間的な外部磁界ではなく、主としてトンネル磁気抵抗効果素子中を流れるスピン偏極した電流のスピンがトンネル磁気抵抗効果素子の強磁性自由層の磁気モーメントにトルクを与える原理である。このスピン偏極した電流は、トンネル磁気抵抗効果素子に電流を流すこと自身で発生するメカニズムをもつ。したがって、トンネル磁気抵抗効果素子に外部から電流を供給する手段を備え、その手段から電流を流すことによりスピントランスファートルク磁化反転は実現される。本実施例では、ビット線401と電極147の間に電流が流れることによりトンネル磁気抵抗効果素子200中の強磁性自由層にスピントランスファートルクが作用する。スピントランスファートルクにより書込みを行った場合、書込み時の電力は電流磁界を用いた場合に比べ百分の一程度まで低減可能である。
図29は、上記磁気メモリセルを配置した磁気ランダムアクセスメモリの構成例を示す図である。ゲート電極123とビット線401がメモリセル700に電気的に接続されている。本発明の磁気メモリは超高速・低消費電力で動作が可能であり、ギガビット級の高密度磁気ランダムアクセスメモリを実現可能である。
100…トランジスタ、200…共鳴トンネル磁気抵抗効果素子、101…第一のn型半導体、102…第二のn型半導体、103…p型半導体、122…ソース電極、401…ビット線、121…ドレイン電極、123…ゲート電極、141…電極配線、142…電極配線、143…電極配線、144…電極配線、145…電極配線、300…配向制御膜、301…強磁性固定層、3011…第一の強磁性固定層、3012…非磁性層、3013…第二の強磁性固定層、302…障壁層、3021…第一の障壁層、3022…第二の障壁層、3023…第三の障壁層、303…強磁性自由層、3031…第一の強磁性自由層、3032…非磁性層、3033…強磁性自由層、304…保護膜、400,401…電極、500…反強磁性層、600…量子井戸形成層、700…磁気メモリセル