しかしながら、火花放電によって火花放電経路上に位置する絶縁体が削られてしまう現象(いわゆる、チャンネリング)が生じるところ、上記特許文献1に記載の技術によれば、キャビティ部の内周面が湾曲(屈曲)形状となるため、当該湾曲(屈曲)形状の部位において絶縁体が削られやすくなってしまう。さらに、火花放電経路のうち絶縁体が削られた部位を通る経路は他の経路よりも短くなるため、その経路に集中して火花放電が生じてしまい、チャンネリングの局所的な集中を招いてしまう。その結果、絶縁体が筋状に深く削られることとなってしまい、接地電極のうち外周側に位置する部位と中心電極とを結ぶような溝がキャビティ部の内周面に形成されてしまうおそれがある。この溝に沿って火花放電を生じさせ、プラズマを発生させたとしても、接地電極の存在等によりプラズマがキャビティ部の外部へと噴出しにくくなってしまう。すなわち、上記特許文献1に記載の技術によれば、初期段階において優れた着火性を実現できるものの、使用に伴い着火性が急激に低下してしまうおそれがある。
一方で、上記特許文献2に記載の技術のように、キャビティ部の軸方向長さを比較的大きくすれば、中心電極と接地電極との間の距離が比較的大きなものとなってしまう。そのため、火花放電に必要な放電電圧が増大してしまうこととなり、中心電極や絶縁体が急速に消耗してしまう。その結果、着火性が急速に低下してしまうとともに、長期間に亘っての火花放電が難しくなってしまうおそれがある。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、長期間に亘って優れた着火性を維持することができるプラズマジェット点火プラグ及び点火システムを提供することにある。
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
構成1.本構成のプラズマジェット点火プラグは、軸線方向に延びる軸孔を有する筒状の絶縁体と、
先端が前記絶縁体の先端よりも前記軸線方向後端側に位置するようにして前記軸孔内に挿設される棒状の中心電極と、
前記絶縁体の先端よりも先端側に配設される接地電極とを備え、
前記絶縁体は、前記軸孔の内周面及び前記中心電極の先端面により形成され、先端側に向けて開口するキャビティ部を有するとともに、
前記接地電極が、前記キャビティ部を外部と連通させる貫通孔を有してなるプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記中心電極の先端部には、前記軸線方向先端側に向けて縮径するテーパ部が形成されるとともに、
前記テーパ部の先端の外径が、前記貫通孔の内径よりも小さくされ、
前記キャビティ部の内径は前記軸線方向に亘って略一定であり、前記キャビティ部の内径をDC(mm)とし、前記キャビティ部の軸線方向の長さをLC(mm)としたとき、
0.5≦LC/DC<1.0
を満たすことを特徴とする。
尚、キャビティ部を形成する軸孔の内周面が軸線に対して±5°まで傾いていてもよい。また、キャビティ部の形状は厳密な円柱状でなくても(例えば、先端側に向かって先細り形状であっても)よい。尚、キャビティ部を形成する軸孔の内周面が軸線に対して傾いている場合、「キャビティ部の内径」とあるのは、軸線方向に沿ったキャビティ部の平均内径をいう。
上記構成1によれば、キャビティ部の内径DCと、キャビティ部の軸線方向の長さLCとについて、0.5≦LC/DC<1.0を満たすように構成されている。すなわち、キャビティ部は、軸直交方向長さが比較的大きくなる形状をなしている。そのため、キャビティ部の軸方向長さを比較的大きくした場合と比較して、中心電極と接地電極との間の距離を小さくすることができ、火花放電に必要な放電電圧を抑制することができる。その結果、中心電極の消耗をより緩やかなものとすることができ、より長期間に亘って火花放電ひいてはプラズマを発生させることができる。
一方で、キャビティ部の軸直交方向長さを大きくした場合には、プラズマの噴出速度の減少を招いてしまうおそれがあるが、上記構成1によれば、中心電極の先端部にはテーパ部が設けられるとともに、当該テーパ部の先端の外径が、接地電極の貫通孔の内径よりも小さくされている。従って、初期段階において、テーパ部の先端と前記貫通孔との間で気中における火花放電(気中放電)を積極的に生じさせることができ、ひいては周囲に広がりを抑制するものがない状態でプラズマを発生させることができる。その結果、より大きなプラズマを生成することができ、初期段階において十分な着火性を実現することができる。
また、初期段階において気中放電を積極的に生じさせることで、絶縁体の表面を沿った火花放電(沿面放電)が極力抑制されることとなる。そのため、キャビティ部の内径が略一定であることと相俟って、絶縁体の消耗やチャンネリングの発生をより確実に防止することができる。
加えて、上述の通り、絶縁体の消耗抑制が図られることから、キャビティ部の径方向への広がりが抑制されることとなり、ひいては、中心電極(テーパ部)が消耗した段階において、キャビティ部の形状を軸方向長さが比較的大きなものとすることができる。従って、中心電極の消耗に伴いプラズマの噴出速度を増大させることができ、中心電極の消耗が進んだ段階においても優れた着火性を実現することができる。
以上のように、上記構成1によれば、初期段階における中心電極の消耗を抑制することでプラズマをより長期間に亘って発生させることができるとともに、初期段階だけでなく中心電極の消耗が進んだ段階においても優れた着火性を実現することができる。すなわち、上記構成1によれば、非常に長期間に亘って優れた着火性を維持することができる。
構成2.本構成のプラズマジェット点火プラグは、上記構成1において、前記貫通孔の内周面から前記中心電極の先端部までの最短距離をSD1(mm)とし、
前記貫通孔の内周面から前記軸孔の内周面に沿った前記中心電極までの最短距離をSD2(mm)としたとき、
0.3≦SD1≦0.7のとき、1.1×SD1<SD2を満たし、
0.7<SD1≦1.0のとき、1.2×SD1<SD2を満たし、
1.0<SD1≦1.2のとき、1.3×SD1<SD2を満たし、
1.2<SD1≦1.3のとき、1.4×SD1<SD2を満たすことを特徴とする。
上記構成2によれば、前記最短距離SD1(つまり、気中放電が生じる際における放電経路の長さ)に対して、最短距離SD2(つまり、沿面放電が生じる際における放電経路の長さ)が十分に大きくなるように構成されている。このため、初期段階において、より一層確実に気中放電を生じさせることができ、その結果、上記構成1の作用効果をより確実に発揮させることができる。
尚、前記最短距離SD1を0.3mm未満とした場合には、生成されるプラズマの大きさが比較的小さくなってしまい、初期段階における着火性が若干低下してしまうおそれがある。一方で、最短距離SD1を1.3mmよりも大きくすると、より確実に気中放電を生じさせるためには、前記最短距離SD2を過度に増大させる(つまり、テーパ部の軸方向長さを過度に増大させる)必要が生じてしまう。そのため、振動に対する中心電極の強度低下や、中心電極と絶縁体(軸孔)との接触面積の減少に伴う中心電極の熱引き悪化が生じてしまうおそれがある。これらの点を鑑みて、最短距離SD1は0.3mm以上1.3mm以下とすることが好ましい。
構成3.本構成のプラズマジェット点火プラグは、上記構成1又は2において、前記絶縁体の先端面と前記接地電極の前記絶縁体側の面との間に形成され、前記軸線側に向けて開口する環状の凹部を有し、
前記軸線に沿った前記凹部の開口の長さをLG(mm)とし、
前記絶縁体の先端面に沿った、前記凹部の開口から前記凹部の奥部までの最短距離をDG(mm)としたとき、
0.05≦LG≦0.5、及び、DG≧1.1×LGを満たすことを特徴とする。
上記構成3によれば、絶縁体の先端面と接地電極との間には、長さが0.05mm以上と十分に大きな開口を有する凹部が設けられている。すなわち、中心電極と接地電極の貫通孔との間において軸孔の内周面に沿って沿面放電が生じる際の放電経路上に、比較的大きな隙間が形成されている。従って、初期段階において、前記放電経路上での沿面放電の発生をより確実に防止することができる。
また、絶縁体の先端面に沿った、凹部の開口からその奥部までの最短距離DG(凹部の幅)は、開口の長さLGよりも十分に大きくなるように設定されている。そのため、中心電極及び凹部の奥部の間における沿面放電をより確実に防止することができる。
以上のように、上記構成3によれば、初期段階において、沿面放電を効果的に抑制することができ、気中放電をより一層確実に生じさせることができる。これにより、初期段階における着火性の更なる向上を図ることができる。
構成4.本構成のプラズマジェット点火プラグは、上記構成1乃至3のいずれかにおいて、前記軸線を含む断面において、
前記貫通孔の内周面と前記中心電極の先端部とを結ぶ線分のうち最短の線分と、前記軸線に直交する直線とのなす角度を15°以上としたことを特徴とする。
上記構成4によれば、前記最短の線分と軸線に直交する直線とのなす角度が15°以上とされている。すなわち、気中放電の生じる方向(プラズマの噴出する方向)が、軸線と直交する方向に接近しないように構成されている。従って、プラズマを貫通孔から勢いよく噴出させることができ、フレームの噴出長さを一層増大させることができる。その結果、一層優れた着火性を実現することができる。
構成5.本構成のプラズマジェット点火プラグは、上記構成1乃至4のいずれかにおいて、前記軸線を含む断面において、
前記中心電極のテーパ部と、前記キャビティ部の内周面とのなす角度を10°以上としたことを特徴とする。
上記構成5によれば、キャビティ部に燃料等の液体が入り込んだ際において、テーパ部と軸孔の内周面との間で前記液体が保持されてしまうといった事態を十分に抑制することができる。そのため、前記液体を介しての沿面放電の発生を抑制することができ、ひいては初期段階において気中放電をより一層確実に発生させることができる。
尚、テーパ部とキャビティ部の内周面のなす角度が大きいほど、液体の保持力を弱めることができる。従って、前記角度を15°以上とすることがより好ましく、20°以上とすることがより一層好ましい。
構成6.本構成のプラズマジェット点火プラグは、上記構成1乃至5のいずれかにおいて、前記接地電極の厚さを0.3mm以上1.0mm以下としたことを特徴とする。
上記構成6によれば、プラズマジェット点火プラグの最も先端側に配置される接地電極について、その厚さが1.0mm以下とされている。そのため、接地電極における熱引きの悪化をより確実に防止することができ、接地電極の耐消耗性を向上させることができる。
一方で、接地電極の厚さは0.3mm以上とされている。従って、火花放電に対する消耗代を十分に確保することができ、一層長期間に亘っての火花放電及びプラズマ生成が可能となる。
構成7.本構成のプラズマジェット点火プラグは、上記構成1乃至6のいずれかにおいて、前記中心電極のうち少なくとも先端部が、タングステン(W)又はW合金から形成されるとともに、
前記接地電極のうち少なくとも前記貫通孔を形成する部位が、イリジウム(Ir)合金又は白金(Pt)合金から形成されることを特徴とする。
上記構成7によれば、中心電極のうち少なくとも先端部が、W又はW合金から形成されており、接地電極のうち少なくとも貫通孔を形成する部位が、Ir合金又はPt合金から形成されている。従って、火花放電に対する両電極の耐久性を向上させることができ、より長期間に亘って火花放電ひいてはプラズマを発生させることができる。
構成8.本構成の点火システムは、上記構成1乃至7のいずれかに記載のプラズマジェット点火プラグと、
前記プラズマジェット点火プラグに電力を供給し、前記キャビティ部内にプラズマを形成するプラズマ電源とを有する点火システムであって、
前記プラズマ電源の出力を10mJ以上120mJ以下としたことを特徴とする。
上記構成1乃至7のプラズマジェット点火プラグにおいては、気中放電を生じさせることで、より大きなプラズマを生成することができるため、プラズマ電源から点火プラグへと供給する電気エネルギーを比較的少なくしても、フレームの噴出長さを十分に大きなものとすることができる。従って、上記構成8のように、プラズマ電源の出力を10mJ以上120mJ以下と比較的小さくしても、十分な着火性を得ることができる。また、出力を比較的小さくすることで、中心電極等の消耗を効果的に抑制することができ、より一層長期間に亘っての火花放電等が可能となる。
尚、プラズマをより確実に生成すべく、プラズマ電源の出力を10mJ以上とすることが好ましい。
一方で、中心電極等の消耗をより確実に抑制するという観点からは、プラズマ電源の出力をより小さくすることが好ましい。従って、前記出力を10mJ以上80mJ以下とすることがより好ましく、前記出力を10mJ以上40mJ以下とすることがより一層好ましい。
構成9.本構成の点火システムは、上記構成8において、前記中心電極と前記接地電極との間に形成された間隙に電圧を印加する放電用電圧印加手段を備え、
前記プラズマ電源は、前記プラズマジェット点火プラグと前記放電用電圧印加手段との間に、前記プラズマジェット点火プラグと並列に接続されることを特徴とする。
上記構成9によれば、放電用電圧印加手段側に点火プラグと並列にプラズマ電源が設けられており、放電用電圧印加手段からの出力電圧により、プラズマ生成のための出力(すなわちプラズマ電源の出力)を得ることができる。従って、プラズマ電源側に別途の電源装置等を設ける必要がなくなり、装置の小型化や製造コストの抑制を図ることができる。
さらに、放電用電圧印加手段及びプラズマ電源のうちの一方から他方への電流流入を防止するためのダイオードを設ける場合があるが、上記構成9によれば、このようなダイオードを設ける必要がなくなる。従って、製造コストの更なる抑制を図ることができる。
また、ダイオードを設けることなく構成すれば、ダイオードの存在によってプラズマ電源から供給される電力の共振が抑制され、点火プラグへの投入エネルギーが低減してしまうという事態が発生しなくなる。従って、点火プラグへの投入エネルギーを増大させることができ、着火性をより一層向上させることができる。
尚、プラズマ電源としては、例えば、コンデンサを用いることができる。
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、プラズマジェット点火プラグ(以下、「点火プラグ」と称す)1を有する点火システム101の概略構成を示すブロック図である。点火システム101は、放電用電圧印加手段102、及び、プラズマ電源103等を備えている。
放電用電圧印加手段102は、例えば、CDI型の電源回路から構成されており、逆流防止用のダイオード104を介して、点火プラグ1に接続されている。当該放電用電圧印加手段101は、点火プラグ1に対して高電圧を印加することで、後述する点火プラグ1の中心電極5と接地電極27との間の間隙を絶縁破壊させて火花放電を生じさせる、いわゆるトリガー放電を行うためのものである。尚、トリガー放電のタイミング等は、図示しないECU(電子制御装置)によって制御されるようになっている。
前記プラズマ電源103は、点火プラグ1に供給するための電気エネルギーを蓄えておくためのコンデンサ105と、当該コンデンサ105に充電するための電源装置106とを備えている。前記コンデンサ105は、一端が接地される一方で、他端が逆流防止用のダイオード107を介して点火プラグ1に接続されており、充放電可能に構成されている。また、当該コンデンサ105の静電容量は、1回のプラズマ生成を行うために供給されるエネルギー量(すなわち、前記トリガー放電におけるエネルギー供給量とコンデンサ105からのエネルギー供給量との和)が、10mJ以上120mJ以下となるように構成されている。
次いで、前記点火プラグ1の構成について詳述する。図2は、点火プラグ1を示す一部破断正面図である。尚、図2では、点火プラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側を点火プラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
点火プラグ1は、筒状をなす絶縁体としての絶縁碍子2、これを保持する筒状の主体金具3などから構成されるものである。
絶縁碍子2は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれより細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、脚長部13は、主体金具3の内部に収容されている。そして、中胴部12と脚長部13との連接部にはテーパ状の段部14が形成されており、当該段部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って軸孔4が貫通形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿入、固定されている。当該中心電極5は、熱伝導性に優れる銅や銅合金等からなる内層5A、及び、ニッケル(Ni)を主成分とするNi合金〔例えば、インコネル(商標名)600や610等〕からなる外層5Bにより構成されている。さらに、中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、その先端面が絶縁碍子2の先端面に対して後端側へと没入している(尚、中心電極5の先端部の構成については後に詳述する)。
また、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で端子電極6が挿入、固定されている。
さらに、軸孔4の中心電極5と端子電極6との間には、円柱状のガラスシール層9が配設されており、当該ガラスシール層9を介して中心電極5と端子電極6とがそれぞれ電気的に接続されている。
加えて、前記主体金具3は、低炭素鋼等の金属により筒状に形成されており、その外周面には点火プラグ1を燃焼装置(例えば、内燃機関や燃料電池改質器等)の取付孔に取付けるためのねじ部(雄ねじ部)15が形成されている。また、ねじ部15の後端側の外周面には座部16が形成され、ねじ部15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、主体金具3を前記燃焼装置に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部19が設けられるとともに、後端部において絶縁碍子2を保持するための加締め部20が設けられている。併せて、主体金具3の先端部外周には、軸線CL1方向先端側に向けて突出するように形成された環状の係合部21が形成されており、当該係合部21に対して後述する接地電極27が接合されるようになっている。
また、主体金具3の内周面には、絶縁碍子2を係止するためのテーパ状の段部22が設けられている。そして、絶縁碍子2は、主体金具3の後端側から先端側に向かって挿入され、自身の段部14が主体金具3の段部22に係止された状態で、主体金具3の後端側の開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって固定されている。尚、絶縁碍子2及び主体金具3双方の段部14,22間には、円環状の板パッキン23が介在されている。これにより、燃焼室内の気密性を保持し、絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材24,25が介在され、リング部材24,25間にはタルク(滑石)26の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン23、リング部材24,25及びタルク26を介して絶縁碍子2を保持している。
また、主体金具3の先端部には、Niを主成分とするNi合金により形成されるとともに、円板状をなす接地電極27が接合されている。当該接地電極27は、前記主体金具3の係合部21に係合された状態で、自身の外周部分が前記係合部21に対して溶接されることで接合されている。また、接地電極27は、絶縁碍子2の先端面に対して面接触するとともに、自身の中央部分に板厚方向に貫通する円柱状の貫通孔28を有している。そして、前記軸孔4の内周面と中心電極5の先端面とにより形成され、先端側に向けて開口するキャビティ部31が、前記貫通孔28を介して外部へと連通されるようになっている。尚、キャビティ部31は、中心電極5の先端を通り軸線CL1に直交する平面と、軸孔4の内周面とにより形成された円柱状の空間をいう。また、本実施形態においては、前記貫通孔28と軸孔4とが同軸上に位置する(つまり、貫通孔28の中心が前記軸線CL1上に位置する)ように接地電極27が接合されている。加えて、キャビティ部31の内径は軸線CL1方向に亘って略一定とされている。
尚、キャビティ部31の形状は厳密な円柱状でなくてもよい。従って、例えば、キャビティ部31が軸線CL1方向先端側に向かって先細り形状をなし、キャビティ部31を形成する軸孔4の内周面が軸線CL1に対して±5°まで傾いていてもよい。この場合において、後述するキャビティ部31の内径DCは、軸線CL1方向に沿ったキャビティ部31の複数箇所(例えば、キャビティ部31のうち、最も先端側の部分や最も後端側の部分)における内径の平均値をいう。
加えて、本実施形態においては、図3に示すように、中心電極5の先端部に、軸線CL1方向先端側に向けて縮径するテーパ部51が形成されている。当該テーパ部51は、その先端が比較的小径とされており、当該先端の外径が前記貫通孔28の内径よりも小さくされている。
さらに、軸孔4内における中心電極5の先端部の配設位置が調節されることで、前記キャビティ部31は、軸線CL1方向に沿った長さよりも径方向に沿った長さ(軸直交長さ)がより大きくなるように構成されている。すなわち、キャビティ部31の内径をDC(mm)とし、前記キャビティ部31の軸線CL1方向の長さ(軸線CL1に沿った軸孔4の開口から中心電極5の先端までの距離)をLC(mm)としたとき、0.5≦LC/DC<1.0を満たすように構成されている。尚、本実施形態では、前記内径DCが比較的小さなもの(例えば、1.2mm以下)とされている。
加えて、貫通孔28の内周面から中心電極5の先端部(テーパ部51)までの最短距離SD1(mm)は、プラズマをより効率よく生成し、十分な着火性を得るべく、0.3mm以上1.3mm以下(本実施形態では、0.7mm<SD1≦1.0)とされている。また、前記テーパ部51は、前記最短距離SD1の大きさに対応して、その後端の軸線CL1方向に沿った位置が設定されている。すなわち、前記貫通孔28の内周面から軸孔4の内周面に沿った中心電極5(テーパ部51後端)までの最短距離をSD2(mm)としたとき、1.2×SD1<SD2を満たすように設定されている。また、本実施形態では、軸孔4の先端からテーパ部51の後端までの軸線CL1方向に沿った長さが、キャビティ部31の内径よりも大きくなるように前記最短距離SD2が設定されている。
尚、前記最短距離SD1の大きさを変更する場合には、次のようにして前記最短距離SD2を設定することが好ましい。すなわち、最短距離SD1を0.3mm以上0.7以下とした場合には、1.1×SD1<SD2を満たすように、最短距離SD1を1.0mm超1.2mm以下とした場合には、1.3×SD1<SD2を満たすように、最短距離SD1を1.2mm超1.3mm以下とした場合には、1.4×SD1<SD2を満たすように最短距離SD2を設定することが好ましい。
加えて、前記絶縁碍子2の先端面と前記接地電極27の絶縁碍子2側の面との間には、軸線CL1(キャビティ部31)側に向けて開口し、軸線CL1を中心として環状をなす凹部32が形成されている。当該凹部32は、軸線CL1に沿った開口の長さLG(mm)が、0.05mm以上0.5mm以下に設定されている。また、凹部32は、絶縁碍子2の先端面に沿ったその開口から奥部までの最短距離DG(mm)が、前記開口の長さLGよりも十分に大きくなるように、その幅が設定されている。具体的には、DG≧1.1×LGを満たすように凹部32の幅が設定されている。
さらに、中心電極5と接地電極27との間で気中放電が生じる際において、両電極5,27が最も接近した間隙において放電が生じやすいところ、放電の向きを軸線CL1方向により近づけるべく、貫通孔28の内周面と中心電極5の先端部との相対位置関係が調節されている。すなわち、軸線CL1を含む断面において、貫通孔28の内周面と中心電極5の先端部とを結ぶ線分のうち最短の線分と、軸線CL1に直交する直線とのなす角のうち軸孔4の内周面側に形成される角の角度θ1が15°以上となるように貫通孔28と中心電極5との相対位置関係が調節されている。
また、前記軸線CL1に対してテーパ部51の外側面を十分に傾けた形状とすべく、軸線CL1を含む断面において、テーパ部51とキャビティ部31(軸孔4)の内周面とのなす角のうち軸線CL1方向先端側に形成される角の角度θ2が10°以上とされている。
加えて、接地電極27(凹部32が形成されている部位を除く)の厚さTSは、前記凹部32の開口の長さLGよりも大きくされるとともに、0.3mm以上1.0mm以下とされている。
以上詳述したように、本実施形態によれば、キャビティ部31の内径DCと、キャビティ部31の軸線方向の長さLCとについて、0.5≦LC/DC<1.0を満たすように構成されている。そのため、キャビティ部31の軸方向長さを比較的大きくした場合と比較して、中心電極5と接地電極27との間の距離を小さくすることができ、火花放電に必要な放電電圧を抑制することができる。その結果、中心電極5の消耗をより緩やかなものとすることができ、より長期間に亘って火花放電ひいてはプラズマを発生させることができる。
一方で、キャビティ部31の軸直交方向長さを大きくした場合には、プラズマの噴出速度の減少を招いてしまうおそれがあるが、本実施形態によれば、中心電極5の先端部にはテーパ部51が設けられるとともに、当該テーパ部51の先端の外径が、貫通孔28の内径よりも小さくされている。従って、初期段階において、テーパ部51の先端と貫通孔28との間で気中放電を積極的に生じさせることができ、ひいては周囲に広がりを抑制するものがない状態でプラズマを発生させることができる。その結果、より大きなプラズマを生成することができ、初期段階において十分な着火性を実現することができる。
また、初期段階において気中放電を積極的に生じさせることで、絶縁碍子2の表面を沿った沿面放電が極力抑制されることとなる。そのため、キャビティ部31の内径が略一定であることと相俟って、絶縁碍子2の消耗やチャンネリングの発生をより確実に防止することができる。
加えて、絶縁碍子2の消耗抑制が図られることから、キャビティ部31の径方向への広がりが抑制されることとなり、ひいては、中心電極5(テーパ部51)の消耗時において、キャビティ部31の形状を軸方向長さが比較的大きなものとすることができる。従って、中心電極5の消耗に伴いプラズマの噴出速度を増大させることができ、中心電極5の消耗が進んだ段階においても優れた着火性を実現することができる。
以上のように、本実施形態によれば、初期段階における中心電極5の消耗を抑制することでプラズマをより長期間に亘って生成することができるとともに、初期段階だけでなく中心電極5の消耗が進んだ段階においても優れた着火性を実現することができる。すなわち、本実施形態によれば、非常に長期間に亘って優れた着火性を維持することができる。
また、前記最短距離SD1に対して、最短距離SD2が十分に大きくなるように構成されている。このため、初期段階において、より一層確実に気中放電を生じさせることができる。
加えて、絶縁碍子2の先端面と接地電極27との間には、長さLGが0.05mm以上で幅DGが長さLGの1.1倍以上の凹部32が設けられている。従って、初期段階における沿面放電の発生をより一層確実に防止することができる。
さらに、前記角度θ1が15°以上とされており、気中放電の生じる方向(プラズマの噴出する方向)が、軸線CL1方向により接近するように構成されている。従って、プラズマを貫通孔28から勢いよく噴出させることができ、フレームの噴出長さを一層増大させることができる。その結果、一層優れた着火性を実現することができる。
併せて、角度θ2が10°以上とされているため、キャビティ部31に燃料等の液体が入り込んだ際において、テーパ部51と軸孔4の内周面との間で前記液体が保持されてしまうといった事態を十分に抑制することができる。これにより、前記液体を介しての沿面放電の発生を抑制することができ、ひいては初期段階において気中放電をより一層確実に発生させることができる。
また、接地電極27は、その厚さが0.3mm以上1.0mm以下とされており、接地電極27の耐久性を十分に確保することができる。
加えて、点火プラグ1は、気中放電を生じさせることでより大きなプラズマを形成することができるため、着火性を向上させるために、点火プラグへと供給する電気エネルギーを過度に増大させる必要がない。従って、本実施形態のように、プラズマ電源103から点火プラグ1へと供給する電気エネルギーを比較的少なくすることができ、その結果、十分な着火性を実現しつつ、中心電極5等の消耗を効果的に抑制することができる。
次いで、従来のプラズマジェット点火プラグにおいて、キャビティ部の内径DC(mm)に対するキャビティ部の軸線CL1方向に沿った長さLC(mm)の割合(LC/DC)が変化することによる影響を調査すべく、着火性評価試験を行った。すなわち、図4(b)に示すように、中心電極5S2の先端部を円柱状に形成した従来のプラズマジェット点火プラグにおいて、キャビティ部の軸線CL1方向に沿った長さLCを0.5mm、0.7mm、又は、1.0mmとした上で、内径DCを変更することにより前記LC/DCを種々変更した点火プラグのサンプル(従来品サンプル)を作製した。次いで、作製した従来品サンプルをそれぞれ排気量1.5L、4気筒エンジンに取付けた上で、吸気圧−320mmHgにてエンジンを回転数1600rpmで動作させた。そして、空燃比を増大(燃料を薄く)させつつ、各空燃比ごとにエンジントルクの変動率を測定し、エンジントルクの変動率が5%を上回ったときの空燃比を限界空燃比として特定した。尚、限界空燃比が大きいほど、初期状態における着火性に優れることを意味する。
図5に、LC/DCと限界空燃比との関係を表すグラフを示す。尚、図5においては、長さLCを0.5mmとしたサンプルの試験結果を丸印でプロットし、長さLCを0.7mmとしたサンプルの試験結果を三角でプロットし、長さLCを1.0mmとしたサンプルの試験結果を四角でプロットした。また、従来品サンプルの試験結果については、黒塗りにて試験結果をプロットした。
図5に示すように、LC/DCを1.0未満とした従来品サンプルは、限界空燃比が著しく低下してしまい、初期状態における着火性に劣ってしまうことが分かった。これは、LC/DCを1.0未満としたことで、プラズマが径方向へと広がりやすくなり、軸線方向に沿ったフレームの噴出速度が低下してしまったためであると考えられる。
次に、長さLCを0.5mm、0.7mm、又は、1.0mmとしつつ、従来の点火プラグにおいて限界空燃比が著しく低下した際のLD/LCとなるようにキャビティ部の形状を設定した一方で、中心電極の先端部にテーパ部を設けた実施例に係るプラズマジェット点火プラグのサンプル(発明品サンプル)を作製し、上述の着火性評価試験を行った。図5に、発明品サンプルにおける試験結果を白抜きにて示す。
図5に示すように、LC/DCを従来品サンプルにおいて限界空燃比が著しく低下した値としたにも関わらず、発明品サンプルは優れた着火性を有することが明らかとなった。これは、中心電極の先端部にテーパ部を設けたことで、テーパ部と接地電極との間における気中放電が生じやすくなり、その結果、より大きなプラズマが生成されたためであると考えられる。
以上の試験結果より、LC/DC≦1.0とされ、初期状態における着火性の低下が懸念されるプラズマジェット点火プラグにおいては、中心電極の先端部にテーパ部を設けることが、初期状態における着火性を向上させるという点で有意であるといえる。
尚、0.5>LC/DCとした場合、実施例に係る点火プラグは、従来技術に係る点火プラグに比べて優れた着火性を有していたものの、所望の着火性を得ることができないおそれがあることが確認された。従って、初期状態における優れた着火性をより確実に実現するために、0.5≦LC/DCとすることが好ましいといえる。
次に、中心電極と接地電極との間における軸孔の内周面を沿った沿面放電よりもテーパ部と貫通孔との間における気中放電がより生じやすくなるときの、前記最短距離SD1,SD2の関係を特定するために以下の試験を行った。
まず、図4(a)に示すような、先端部に円柱状の凸部PTを設けた中心電極5S1を有してなるサンプル(気中放電用サンプル)と、図4(b)に示すような、先端部を円柱状に形成した中心電極5S2を有してなるサンプル(沿面放電用サンプル)とについて、それぞれギャップ長GD1,GD2を種々変更したものを複数作製した。尚、気中放電用サンプルは、電圧を印加した際に、電界強度が比較的高く、接地電極に最も接近する前記凸部PTと接地電極27との間にて気中放電が生じやすいものである。また、沿面放電用サンプルは、電圧を印加した際に、中心電極と接地電極との間において軸孔の内周面を沿って沿面放電が生じやすいものである。各サンプルを所定のチャンバーに取付けた上で、チャンバー圧を0.4MPaとして、気中放電用サンプルは気中放電が生じた際の放電電圧を、沿面放電用サンプルは沿面放電が生じた際の放電電圧をそれぞれ測定した。図6に、両サンプルについて、ギャップ長と放電電圧との関係を表すグラフを示す。尚、図6においては、気中放電用サンプルの放電電圧を丸印でプロットし、沿面放電用サンプルの放電電圧を三角でプロットした。また、各サンプルともに絶縁碍子と接地電極との間に凹部を設けないこととした。
また、図6に基づき、同一の放電電圧を印加した場合において、気中放電用サンプルで気中放電が生じるギャップ長GD1の最大値と、沿面放電用サンプルで沿面放電が生じるギャップ長GD2の最大値とを、各放電電圧ごとに特定した。例えば、放電電圧を10.8kVとした場合、気中放電用サンプルにて気中放電が発生するギャップ長GD1の最大値は1.0mmであり、沿面放電用サンプルにて沿面放電が発生するギャップ長GD2の最大値は1.2mmである。次いで、各放電電圧ごとに、ギャップ長GD2の最大値をギャップ長GD1の最大値にて除算し、得られた商を小数点第2位にて切り上げてなる数値αを求めた。ある放電電圧において求められた前記数値αをその放電電圧におけるギャップ長GD1の最大値に乗じた値は、その放電電圧におけるギャップ長GD2の最大値以上となる。換言すれば、所定の放電電圧における前記数値αをその放電電圧におけるギャップ長GD1の最大値に対して乗じて得た値よりも、ギャップ長さGD2を大きくすれば、前記放電電圧を印加した際に、沿面放電よりも気中放電がより生じやすくなることを意味する。図7に、各ギャップ長GD1の最大値に対して算出した前記数値αを示す。
図7に示すように、ギャップ長GD1の最大値が0.3mm以上0.7mm以下であった場合には、各ギャップ長さGD1の最大値に対して1.1を乗じることで、沿面放電が生じる際のギャップ長GD2の最大値よりも大きな値が得られることが分かった。また、前記ギャップ長GD1の最大値が0.7mm超1.0mm以下である場合には、当該最大値に1.2を乗じることで、前記ギャップ長GD1の最大値が1.0mm超1.2mm以下である場合には、当該最大値に1.3を乗じることで、前記ギャップ長GD1の最大値が1.3mm超である場合には、当該最大値に1.4を乗じることで、沿面放電が生じる際のギャップ長GD2の最大値よりも大きな値が得られることが明らかとなった。
以上の試験結果を鑑みて、中心電極の先端部にテーパ部を設けた場合において、沿面放電よりも気中放電をより生じやすくするためには、前記最短距離SD1及び最短距離SD2について、0.3≦SD1≦0.7のとき、1.1×SD1<SD2を満たし、0.7<SD1≦1.0のとき、1.2×SD1<SD2を満たし、1.0<SD1≦1.2のとき、1.3×SD1<SD2を満たし、1.2<SD1≦1.3のとき、1.4×SD1<SD2を満たすことが好ましいといえる。また、上記関係式を満たすことで、初期状態における着火性をより一層向上させることができるといえる。
尚、図6に示すように、ギャップ長GD1が1.3mm超であった場合には、沿面放電よりも気中放電を生じやすくするためには、ギャップ長GD2を過度に増大させる必要が生じると考えられる(例えば、放電電圧を14kVとした場合、ギャップ長GD2を2.5mm以上にする必要が生じる)。この場合には、テーパ部が軸方向に沿って過度に長いものとなり、結果として、中心電極における熱引きの悪化や振動に対する中心電極の強度低下等を招いてしまうおそれがある。従って、前記最短距離SD1は、1.3mm以下とすることが好ましいといえる。
次いで、SD2/SD1を1.1又は1.4とした上で、前記凹部を設けるとともに、当該凹部の開口の長さLGを種々変更した点火プラグのサンプルを作製した。そして、各サンプルを所定のチャンバーに取付けた上で、チャンバー圧を0.4Mpaとして放電電圧を複数回印加し、気中放電が発生した割合(気中放電率)を測定した。
さらに、SD2/SD1を1.1〜1.4とした上で、凹部を設けなかったサンプルにおいて噴出されたフレームを側面視した際の当該フレームの面積S0に対する、凹部を設けるとともに凹部の開口の長さLGを種々変更した各サンプルにおけるフレームの面積SFの比率(SF/S0;以下、フレーム面積比率と称す)を求めた。
図8に、長さLGと気中放電率及びフレーム面積比率との関係を表すグラフを示す。尚、図8においては、SD2/SD1を1.1としたサンプルの気中放電率を丸印でプロットし、SD2/SD1を1.4としたサンプルの気中放電率を三角でプロットした。また、フレーム面積比率を四角でプロットした。尚、凹部の幅DGは、各サンプルともに1.0mmと十分に大きなものとした。
図8に示すように、凹部の開口の長さLGを0.05mm以上としたサンプルは、気中放電の割合が非常に増大することが確認された。これは、次の理由によるものと考えられる。すなわち、長さLGを0.05mm以上と十分に大きくしたことで、接地電極の貫通孔と中心電極との間における軸孔の内周面を沿ったルート上に比較的大きな空間(隙間)が形成されることとなる。そのため、気中放電に必要な放電電圧は沿面放電に必要な放電電圧よりも大きいところ、前記ルートで沿面放電が生じる際には前記空間の分だけ放電電圧が増大することとなる。その結果、沿面放電が生じにくくなり、気中放電が生じやすくなったと考えられる。
また、フレーム面積比率に着目してみると、凹部を設けることで、噴出されるフレームをより大きくでき得ることが分かった。これは、凹部を設けたことで、フレームの熱が接地電極によって引かれてしまうことをより確実に抑制できたためである考えられる。
一方で、凹部の開口の長さLGが0.5mmを超えるサンプルは、噴出されるフレームが比較的小さくなってしまうことが分かった。これは、凹部の開口を過度に広げたことで、フレームが当該凹部への入り込んでしまい、貫通孔から噴出しにくくなってしまったためであると考えられる。
以上の試験結果より、気中放電をより発生させやすくするとともに、噴出されるフレームをより大きくし、着火性のより一層の向上を図るという観点からは、絶縁碍子と接地電極との間に凹部を設けるとともに、当該凹部の開口の長さLGを0.05mm以上0.5mm以下とすることが好ましいといえる。また、気中放電を一層発生させやすくし、噴出されるフレームを一層大きくするためには、前記長さLGを0.15mm以上とすることがより好ましいといえる。
尚、凹部の幅が過度に小さいと、絶縁碍子の表面に沿って中心電極と凹部の奥部との間で沿面放電が生じてしまい、着火性が不十分となってしまうおそれがある。この点を鑑みるに、図7に示すように、前記ギャップ長GD1の最大値を0.7mm以下とした場合において、沿面放電を抑制するためには、ギャップ長さGD2(沿面距離)を前記ギャップ長GD1の1.1倍以上とすればよい。従って、凹部の開口の長さLGが前記ギャップ長GD1に相当するところ、長さLGを0.5mm以下とした場合には、凹部の幅(絶縁碍子の表面に沿った軸孔の先端と凹部の奥部との間の最短距離DG)を長さLGの1.1倍以上とすれば、中心電極と凹部の奥部との間における沿面放電を抑制できるといえる。このため、着火性の低下を防止するという点から、前記最短距離DG(mm)については、DG≧1.1×LGを満たすように構成することが好ましいといえる。
次いで、前記角度θ1を種々変更した点火プラグのサンプルを作製し、各サンプルについて、上述の着火性評価試験を行った。図9に、当該試験の試験結果を示す。
図9に示すように、角度θ1を15°以上としたサンプルは、角度θ1を15°未満としたサンプルと比較して、着火性が顕著に向上することが明らかとなった。これは、θ1を15°以上としたことで、火花放電の向きを軸線CL1方向により近づけることができ、ひいてはフレームを貫通孔からスムーズに外部へと噴出することができたためであると考えられる。
以上の試験結果より、着火性の更なる向上を図るべく、角度θ1を15°以上とすることが好ましいといえる。
次に、前記角度θ2を種々変更した点火プラグのサンプルを作製し、各サンプルについてブリッジ確認試験を行った。ブリッジ確認試験の概要は次の通りである。すなわち、振り子と、当該振り子を支持し鉛直方向に沿って延びる支持台とを備える試験機を用意し、サンプルのキャビティ部を着色した水で満たした上で、各サンプルを前記振り子の先端部に取付けた。そして、振り子角度を15°として振り子を自由落下させ、サンプルを前記支持台に衝突させることによりキャビティ部内の水を振り落とし、その後、キャビティ部内の軸孔とテーパ部との間における水のブリッジの有無を確認した。ここで、ブリッジが確認されなかったサンプルは、キャビティ部内に燃料等が入り込んだ場合であっても、軸孔とテーパ部との間でブリッジが生じにくく、ひいては沿面放電をより確実に抑制できるとして「○」の評価を下すこととした。一方で、ブリッジが確認されたサンプルは、キャビティ部内に燃料等が入り込んだ場合に、沿面放電が若干発生しやすいとして「△」の評価を下すこととした。表1に、ブリッジ確認試験の試験結果を示す。
表1に示すように、角度θ2を10°以上としたサンプルは、ブリッジが確認されず、キャビティ部に燃料等が入り込んだ場合であっても、沿面放電をより確実に抑制できることが明らかとなった。これは、角度θ2を10°以上としたことで、軸孔とテーパ部との間における液体の保持力が十分に低下したためであると考えられる。
以上の試験結果より、キャビティ部への燃料等の侵入に伴う沿面放電の発生を防止すべく、前記角度θ2を10°以上とすることが好ましいといえる。
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
(a)上記実施形態において、プラズマ電源103は、コンデンサ105と電源装置106とを備えているが、図10に示すように、点火プラグ1と放電用電圧印加手段102との間において点火プラグ1と並列に接続されたコンデンサ111によりプラズマ電源を構成してもよい。この場合には、放電用電圧印加手段102からの出力電圧により、プラズマ生成のための出力を得る(すなわち、コンデンサ111を充電する)ことができる。従って、電源装置106を設ける必要がなくなり、装置の小型化や製造コストの抑制を図ることができる。
加えて、上記実施形態では、放電用電圧印加手段102及びプラズマ電源103のうちの一方から他方への電流流入を防止するためのダイオード104,107が設けられているが、このようなダイオードを設ける必要がなくなる。従って、製造コストの更なる抑制を図ることができる。
また、ダイオードを設けることなく構成することで、ダイオードの存在によってプラズマ電源から供給される電力の共振が抑制され、点火プラグ1への投入電力が低減してしまうという事態が発生しなくなる。従って、点火プラグ1への投入電力を増大させることができ、着火性をより一層向上させることができる。
(b)上記実施形態において、中心電極5(外層5B)の先端部はNi合金により形成されているが、例えば、タングステン(W)又はW合金からなる電極チップを中心電極5の先端部に接合することで、中心電極5のうち少なくとも先端部をW又はW合金により形成することとしてもよい。この場合には、中心電極5の先端部の耐消耗性を向上させることができ、より一層長期間に亘って火花放電等が可能となる。
(c)上記実施形態において、接地電極27はNi合金により形成されているが、接地電極のうち少なくとも貫通孔28を形成する部位をイリジウム合金又は白金合金により形成することとしてもよい。この場合には、接地電極27のうち貫通孔28を形成する部位、すなわち、火花放電等に伴う消耗が特に懸念される部位の耐消耗性を十分に向上させることができる。
(d)上記実施形態では、絶縁碍子2の先端面に対して接地電極27が接触するように構成されているが、絶縁碍子2の先端面と接地電極27とを接触させることなく、両者の間の若干の間隙を設けることとしてもよい。但し、接地電極27の耐熱性を鑑みれば、接地電極27を絶縁碍子2に接触させることが好ましい。
(e)上記実施形態において、中心電極5の先端部は平坦状をなしているが、例えば、外側に凸の湾曲面状をなすこととしてもよい。
(f)上記実施形態では、貫通孔28と軸孔4とが同軸上に位置する(貫通孔28の中心が軸線CL1上に位置する)ように構成されているが、貫通孔28の中心が軸線CL1から若干ずれるようにして構成することとしてもよい。
(g)上記実施形態では、工具係合部19は断面六角形状とされているが、工具係合部19の形状に関しては、このような形状に限定されるものではない。例えば、Bi−HEX(変形12角)形状〔ISO22977:2005(E)〕等とされていてもよい。